説明

基板の成膜装置及び成膜方法、並びに光学素子

【課題】紫外線照射ランプを基板に近接した位置から照射でき、基板を効率的に、しかもむらなく洗浄することができるようになし、また紫外線照射ランプが蒸着源から基板までの経路と干渉しないようにする。
【解決手段】真空蒸着装置を構成するチャンバ1の内部に成膜される基板10が所定数装架されたドーム4が設けられ、このドーム4の下方位置に蒸着源ユニット5が設置されている。紫外線照射ランプ20とランプハウス21とからなるランプユニット22はドーム4に近接した紫外線照射位置と、ドーム4から離間した退避位置との間に往復変位可能になっており、紫外線照射ランプ20はライン状のものであり、その長さ寸法は、ドーム4において、各基板10が装架される基板装着孔7の配列幅寸法より長く、紫外線照射位置では、各基板10に対して僅かな隙間を介して対面する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス基板や半導体ウエハ等の基板の表面に成膜するための成膜装置及び成膜方法と、この成膜装置を用いて、また成膜方法によって光学ガラス基板の表面に光学的機能を有する薄膜を形成するようにして製造された光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、光学ガラス基板の表面に1または複数層の誘電体膜や金属膜等からなる薄膜を積層させて、透過光や反射光に位相差を生じさせ、または波長選択性を持たせ、さらにはミラーとして機能させる等、所望の光学機能を持たせた各種の光学素子が製造される。一方、半導体ウエハを製造するに際に、例えばシリコン基板に絶縁体膜及び導電膜等からなる薄膜が順次成膜される。そして、これらの薄膜は、一般に、真空蒸着、スパッタリングやイオンプレーティング等で形成される。即ち、基板を真空チャンバ内に設けて、この真空チャンバ内で膜素材を基板表面に付着乃至衝突させることにより成膜される。
【0003】
ここで、真空蒸着にしろ、またスパッタリングやイオンプレーティングにしろ、所定の基板に成膜するに当って、基板の成膜面が汚損されていると、この基板表面に形成した膜の密着力が低下することになる。特に、基板の表面に有機汚損物が付着していると、濡れ性が低下することになり、その結果、成膜時における基板への膜の密着性がわるくなり、安定した成膜が行われないことになる。従って、基板への成膜の前処理として、基板の洗浄が行われるが、洗浄後に基板を大気中に配置している間に、大気中に浮遊する有機物が付着する等、基板表面が再汚損するおそれがある。以上のことから、基板を真空蒸着装置等の真空化されるチャンバ内に導入した後であって、成膜直前の段階で、この基板を洗浄できるようにするのが望ましい。
【0004】
チャンバ内に導入した後では、洗浄液を用いて基板を洗浄することはできないので、洗浄液を使用しないドライ洗浄が行われる。基板のドライ洗浄は紫外線を照射して行う方式が一般的である。真空化されるチャンバ内で、紫外線照射ランプを用いたドライ洗浄を行う技術が、例えば特許文献1に示されている。この特許文献1によれば、真空チャンバ内に導入した基板に真空蒸着による成膜を行う前処理として、また成膜中でも、紫外線照射ランプからの紫外線を基板に照射することによって、この基板表面に付着している有機物が分解して除去される。
【特許文献1】特開昭63−223158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、真空蒸着が行われるチャンバ内では、基板は蒸着源に対面するように配設されており、この蒸着源からの蒸着物質を基板に確実に付着させるために、この蒸着物質の流れの経路に対する干渉物を配置してはならず、このために蒸着源と基板との間は開放された空間とする。従って、紫外線照射ランプを基板の近傍に配置することができないことになり、紫外線照射ランプは、必然的に基板から離れた位置に固定的に設けられる。紫外線照射ランプから照射される紫外線は、基板までの距離が長くなるに応じて減衰することになり、紫外線照射ランプの照射エネルギを有効に利用できない。また、照射エネルギは紫外線照射ランプの光軸中心位置が最大で、周辺部に向かうに応じて照射エネルギが減少するという分布を呈するので、基板の部位によっては照射エネルギ量が変化することになり、このために基板に洗浄むらが発生するという問題点もある。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、紫外線照射ランプを基板に近接した位置から照射でき、基板を効率的に、しかもむらなく洗浄することができるようになし、かつ紫外線照射ランプが蒸着源から基板までの経路と干渉しないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明は、密閉したチャンバ内に回転軸を臨ませて設け、この回転軸に基板を支持する支持部材を着脱可能に接続して、この基板表面に蒸着による成膜を行う成膜装置であって、前記チャンバ内に配設され、前記回転軸を回転駆動することにより前記基板を支持した支持部材を回転させる間に、前記基板の全面に紫外線を照射する紫外線照射ランプと、この紫外線照射ランプを、前記基板の成膜面に対面させる紫外線照射位置と、前記基板と蒸着源との間の空間を開放する退避位置とに変位させるランプ変位手段とを備える構成としたことをその特徴とするものである。
【0008】
また、基板の成膜方法に関する発明は、密閉したチャンバ内を真空状態にして、このチャンバ内に配設され、基板を保持する支持部材を回転させる間に、基板表面に蒸着により成膜を行うものであって、前記各基板が前記支持部材に装着された後であって、基板への成膜を行う前の段階で、前記支持部材に装着した前記基板に紫外線照射ランプを対面させて、前記支持部材を回転駆動する間に、この紫外線照射ランプから前記各基板表面に紫外線を照射することによりドライ洗浄を行い、このドライ洗浄の後に、前記紫外線照射ランプを前記支持部材から離間させて、この支持部材と蒸着源との間の空間を開放して、前記各基板表面に蒸着による成膜を行うことを特徴とするものである。
【0009】
紫外線照射ランプとしては、特に、基板が光学ガラス基板である場合には、例えば185nmの波長と254nmの波長との紫外線を出射する低圧水銀ランプや180nm以下の波長の紫外線を出射するエキシマランプ等が好適に用いられる。この紫外線照射ランプはランプ変位手段によって、紫外線照射位置と、退避位置とに変位可能な構成となっている。紫外線照射位置では、紫外線照射ランプから基板に対して、できるだけ近接した位置から紫外線を照射する。一方、紫外線照射ランプを退避位置に変位させたときには、蒸発源と基板との間の空間を開放する。
【0010】
基板は支持部材に支持させるが、支持部材は基板のサイズに応じたものを用いる。例えば、大判の基板の場合には、1枚のみを支持するようになし、また2〜4枚の基板を支持可能とした支持部材も用いることができる。さらに、小さいサイズの基板は同時に多数支持することができる。通常、チャンバ内では、基板を上部位置に配置し、蒸着源を下部に配置することになる。従って、基板はその成膜面を下方に向けて概略水平状態に保持される。また、支持部材を回転軸に連結し、この回転軸を回転させることによって、基板を回転駆動しながら成膜を行う。特に、小さいサイズの基板に成膜する場合において、支持部材をコンパクトなサイズでより多くの小基板を支持させるために、概略円錐形状の支持部材が用いられる。所謂ドーム方式である。ここで、ドームを構成する円錐面は直線的な斜面を有するものであっても良く、また斜面は多少湾曲した形状であっても良い。
【0011】
紫外線照射ランプはランプ変位手段により紫外線照射位置と退避位置との間に変位させるようにするが、紫外線照射位置では、支持部材により基板が水平方向に配置されている場合には、紫外線照射ランプは水平に保持させるようになし、ドーム方式の場合には、紫外線ランプをドームの傾斜角と一致させる。いずれにしろ、紫外線照射ランプは成膜される基板とほぼ平行な状態にしてドライ洗浄が行われる。そして、回転時に基板及び支持部材と干渉しないことを条件として、紫外線照射ランプをできるだけ基板に近接させるのが望ましい。
【0012】
ランプ変位手段を構成する全ての機構をチャンバ内に配置しても良いが、チャンバの内部は真空状態にされるので、少なくともその駆動手段はチャンバ外に設ける方が望ましい。例えば、ランプ変位手段を、紫外線照射ランプに連結した回動アームと、この回動アームを回動させるシリンダやモータ等からなる駆動手段とから構成して、回動アームはチャンバ内に配置し、駆動手段はチャンバ外に配置して、外部から回動アームに回動力を与える構成とすることができる。また、蒸着源から蒸着物質が紫外線照射ランプに付着しないように保護する保護手段を設ける構成とするのが望ましい。保護手段は蒸着源に近接する位置に設けた仕切板で構成することができ、この仕切板は例えば紫外線照射ランプが退避位置にあるときに作動位置に変位するように可動なものとして構成しても良く、また仕切板自体は固定的に保持して、紫外線照射ランプを退避位置に変位させたときに、蒸着物質が紫外線照射ランプに向けて飛行しないように仕切る構成とすることもできる。
【0013】
紫外線の照射は、チャンバ内を真空状態にする前の段階で行うことができる。この状態では、チャンバ内には空気が存在しており、空気中の酸素に紫外線が照射されると、化学的に活性な活性酸素となり、紫外線の作用で基板表面に付着している有機物が分解されたときに、この分解生成物が活性酸素の存在下で酸化反応して、COx,NOxやその他の低分子化合物となって、気体化して基板表面から遊離する。また、活性酸素をより豊富にするために、紫外線の照射と同時にオゾンを基板表面に供給するように構成しても良い。さらに、チャンバ内を真空状態にした後、また真空化している間に紫外線照射によるドライ洗浄を行うようにしても良い。この場合には、紫外線照射により分解されて、結合状態の安定性が失われた有機物は、この真空による吸引力の作用で基板表面から離脱して、排気されることになる。
【0014】
前述した成膜装置により、また成膜方法によって、つまりチャンバ内に配置して、成膜直前の段階で紫外線照射によるドライ洗浄を行った後に成膜される。基板表面の全体が極めて高い清浄度を有しており、濡れ性が良好となっているから、基板に形成した薄膜の膜厚が均一となり、かつ基板表面への薄膜の密着力を高くすることができる。特に、基板としての光学ガラス基板に誘電体膜や金属膜等の薄膜を1乃至複数層積層させる成膜工程の前処理として、紫外線照射によるドライ洗浄を行うことによって、光学ガラス基板の表面からほぼ完全に有機物を除去することができ、所望の光学的機能を発揮する高品質の光学素子を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
基板に近接した位置から紫外線を照射でき、かつ基板を支持させた支持部材の回転により基板の全面にわたって効率的に紫外線を照射することができて、基板に対する洗浄むらが発生することがなく、また成膜時には蒸着源から基板に向かう蒸着物質の経路に対して紫外線照射ランプが干渉することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。以下に示す実施の形態においては、基板としては光学ガラス基板であって、この光学ガラス基板の表面に真空蒸着により成膜を行うものとする。ただし、基板は半導体ウエハ等であっても良く、また成膜方式は真空蒸着に限定されるものではなく、例えばスパッタリング,イオンプレーティング等各種の成膜方式にも適用が可能である。
【0017】
まず、図1に真空蒸着装置の全体構成を示す。図中において、1はチャンバであり、このチャンバ1の内部は密閉空間となっており、真空ポンプ2を設けた排気管3が接続されている。チャンバ1の内部には、上部側の位置に支持部材としてのドーム4が設けられており、このドーム4の下方位置には蒸着源ユニット5が設置されている。ドーム4は、回転軸6の下端部に着脱可能に連結されており、この回転軸6はチャンバ1の天蓋部1aを貫通して延在されて、モータ等からなる回転駆動手段(図示せず)に連結して設けられている。
【0018】
ドーム4は、図2に示したように、下方に向けて拡開する円錐形状(または多角錐形状)となった斜面部を有する本体部4aに多数の基板装着孔7を形成したものから構成されている。これら各基板装着孔7には、図3に示したように、成膜が行われる基板10が装架されている。そして、ドーム4における頂点部分が回転軸6に着脱可能に連結される連結部4bとなっている。これによって、ドーム4には、各基板装着孔7にホルダ11により基板10を固定して設けて、チャンバ1内に導入して、回転軸6に連結される。また、基板10に成膜がなされると、ドーム4は回転軸6から分離されて、チャンバ1の外に搬出されることになる。
【0019】
ここで、成膜される基板10は光学ガラス基板であり、この基板10には誘電体多層膜を積層するものであり、この誘電体多層膜は低屈折率膜と、高屈折率膜とを交互に積層させたものとする。このために、蒸着源ユニット5としては、2種類の蒸着物質12A,12Bが設置される。この蒸着源ユニット5はるつぼ13を有し、このるつぼ13上には蒸着物質12A,12Bがそれぞれ設置されるハース14A,14Bが設けられている。従って、ハース14A,14Bを電子ビームにより加熱することによって、蒸着物質を溶融させてドーム4に向けて蒸発させて、このドーム4に装着した各基板10の表面に蒸気を析出させる。ただし、蒸着は蒸着物質12A,12Bが交互に行われるものであり、このためにハース14A,14Bの一方の上部を開放し、他方の上部を覆うカバー15を備えている。従って、ハース14A,14Bを回転させることによって、いずれかのハースを上部が開放された部位に移行させるように制御される。そして、蒸着の開始及び終了を制御するために、シャッタ17が設けられており、このシャッタ17は、るつぼ13におけるハース14A,14Bの配設位置の上部を覆う蒸着停止状態(図1に示した状態)と、この部位を開放する蒸着動作状態とに回動変位できるようになっている。
【0020】
真空蒸着装置において成膜される基板10としての光学ガラス基板は、真空蒸着を行う前の段階で基板10における成膜される表面が洗浄される。この洗浄は、基板10に付着している有機汚損物を除去して、その表面における濡れ性を向上させる、つまり接触角を小さくするためのものであり、紫外線を照射して行うドライ洗浄とする。
【0021】
図3乃至図5から明らかなように、紫外線照射ランプ20としては、例えば185nmの波長と254nmの波長との紫外線を出射する低圧水銀ランプや180nm以下の波長の紫外線を出射するエキシマランプ等が用いられ、この紫外線照射ランプ20はランプハウス21内に設けられており、これら紫外線照射ランプ20とランプハウス21とでランプユニット22が構成される。ランプハウス21は一側が開口し、他側は円弧状の反射面21aとなっており、これによって紫外線はランプハウス21の開口側から集中的に出射されるようになっている。
【0022】
ランプユニット22は、図1に実線で示したように、ドーム4に近接した紫外線照射位置と、同図に仮想線で示したように、ドーム4から離間し、しかも蒸着源ユニット5からドーム4までの間における蒸着物質12A,12Bによる蒸着領域を開放する退避位置との間に往復変位可能になっている。このために、図5からも明らかなように、ランプユニット22は回動アーム23に取り付けられている。回動アーム23の基端部はボス部23aとなっており、このボス部23aはチャンバ1の壁部1bに装着したブラケット24に設けた回動軸25に回動自在に連結されており、またこのボス部23aには作動指片26が連結して設けられている。
【0023】
チャンバ1の上方の位置には駆動手段27が設けられており、この駆動手段27のロッド27aは壁部1bを貫通してチャンバ1内に延在されており、その先端が作動指片26に接離可能となっている。ここで、駆動手段27は、ドーム4の形状に応じて、即ち常に同じドームが使用される場合はシリンダで構成するが、異なる円錐形状のドームが使用され、また水平な支持部材が回転軸6に接続される場合等には、支持部材に支持させたときの基板10の角度に応じて紫外線照射位置でのランプユニット22の角度が異なってくるので、例えば電動モータを用いた送りねじで構成するのが望ましい。これら回動アーム23,回動軸25,作動指片26及び駆動手段27によりランプ変位手段が構成される。なお、駆動手段27は回動アーム23及び作動指片26とは分離可能となっており、これによってメンテナンスに至便となるが、必ずしも分離可能な構成でなくても良い。
【0024】
駆動手段27のロッド27aを上昇させると、ランプユニット22は退避位置に配置され、このロッド27aを下降させると、このロッド27aの先端が作動指片26を押動して、回動アーム23が回動軸25を中心として上方に向けて回動させることになる。この駆動手段27の下降ストローク端位置になると、ランプユニット22がドーム4に最も接近することになる。紫外線照射ランプ20はライン状のものであり、その長さ寸法は、ドーム4において、図3に幅Dで示した基板装着孔7の配列幅寸法より長くなっている。しかも、図3及び図4に示したように、ランプハウス21の開放側側部がドーム4及びその基板装着孔7に取り付けた基板10に対して僅かな隙間を介して対面する紫外線照射位置に変位する。さらに、駆動手段27を上昇させて、ランプユニット22を退避位置に変位させると、蒸着源ユニット5とドーム4との間の空間は開放された状態となるが、このときにチャンバ1内に浮遊する蒸着物質がランプユニット22に付着しないようにするために、仕切板16が蒸着源ユニット5に設けられている。
【0025】
真空蒸着装置は以上のように構成されるものであって、次にこの真空蒸着装置を用いて基板10に成膜する方法について説明する。ここで、ドーム4はチャンバ1内に延在させた回転軸6に着脱可能に連結される。ドーム4にはチャンバ1の外で、各基板装着孔7にホルダ11に装架した基板10を装着し、このドーム4をチャンバ1内に搬入して、回転軸6に取り付けられる。このドーム4の導入時には、ランプユニット22は退避位置に配置する。また、蒸着源ユニット5におけるハース14A,14Bにはそれぞれ蒸着物質12A,12Bを設置しておく。
【0026】
チャンバ1の内部を密閉状態となし、排気管3に設けた真空ポンプ2を作動させて、このチャンバ1内を真空状態にする。そして、少なくとも蒸着物質12A,12Bを加熱して真空蒸着を開始する前の段階で、即ちチャンバ1内を密閉した後、真空ポンプ2を作動する前に、真空ポンプ2を作動させて、チャンバ1の内部を真空状態にする間に、若しくはチャンバ1の内部を真空にした後に、基板10のドライ洗浄が行われる。
【0027】
即ち、ランプ変位手段を構成する駆動手段27を作動させて、ロッド27aを下降させることによって、回動アーム23に連結した作動指片26を押し下げる。これによって、回動アーム23の先端に設けたランプユニット22が退避位置から紫外線照射位置に変位する。この状態で、ランプユニット22に設けた紫外線照射ランプ20から紫外線をドーム4に向けて照射すると共に、ドーム4を例えば図4に矢印で示した方向に回転駆動することにより基板10のドライ洗浄が行われる。
【0028】
このように、ランプユニット22が紫外線照射位置に配置されると、紫外線照射ランプ20とドーム4に装着した基板10とが、図4に間隔Gで示したように、極めて近接した位置となり、かつドーム4が回転しても、ランプユニット22とドーム4、基板10やホルダ11とは干渉しない位置関係となる。そして、紫外線照射ランプ20はライン状のものであり、ドーム4における基板装着孔7の配列幅の全長より長くなっている。従って、ドーム4を回転駆動することによって、ドーム4の各基板装着孔7に装着されている全ての基板10の全面にわたってほぼ均等に紫外線が照射され、部分的に光量にむらが生じることはない。また、紫外線照射ランプ20は基板10に近接しているので、紫外線を基板10に効率的に照射することができ、この紫外線の減衰が抑制され、最大限の紫外線照射エネルギが基板10の表面に作用し、もって基板10に付着している有機物等が除去される。
【0029】
ここで、チャンバ1内を密閉した後、真空ポンプ2を作動する前では、チャンバ1の内部には空気が存在している。従って、真空化の前段階で、ドーム4を回転させ、かつ紫外線照射ランプ20から紫外線を基板10に照射して、ドライ洗浄を行うようにすると、照射される紫外線の作用で基板10に付着している有機物が分解されると共に、基板10の表面部分の空間に存在している酸素が、紫外線のエネルギの作用によって、活性酸素に変化するので、有機物の分解と共に、活性酸素との反応により低分子の気体に変化して、基板10への再付着が防止される。なお、ランプユニット22にオゾン供給部材を設けておき、前述したドライ洗浄を行う際に、オゾンを供給することもできる。
【0030】
また、チャンバ1内を真空状態にした後に、ドーム4を回転させ、かつ紫外線照射ランプ20から紫外線を基板10に向けて照射してドライ洗浄を行うこともできる。このようにすると、紫外線を吸収し、または減衰させる気体が殆ど存在しない状態になるので、基板10に対して紫外線を有効に照射できる。しかも、この紫外線の照射により分解された有機物は基板10の表面から遊離して、排気管3に吸引されることになる。
【0031】
さらに、真空ポンプ2を駆動している間にドライ洗浄を行うこともできる。このようにチャンバ1内の真空化とドライ洗浄とをオーバーラップさせることにより処理の効率化が図られる。従って、全体の処理時間を延長することなく、ドライ洗浄時間を長くすることができる。
【0032】
以上のいずれかにより基板10に対するドライ洗浄が行われると、基板10の表面からは、有機汚損物がほぼ完全に除去されて、その表面全体が清浄化されることになり、蒸着時における濡れ性が向上する。しかも、チャンバ1に導入後に基板10の洗浄が行われることから、蒸着前に基板10の表面が再汚損されることはない。
【0033】
前述したドライ洗浄が終了すると、駆動手段27を駆動して、ロッド27aを上昇させる。これによって、先端にランプユニット22を装着した回動アーム23は自重により下方に向けて回動することになり、鉛直状態となった退避位置で停止する。そして、チャンバ1内が所定の真空圧に保たれた状態で、ドーム4を回転させながら、蒸着源ユニット5におけるるつぼ13によって、ハース14A,14Bを加熱して蒸着物質12A,12Bの蒸気を発生させることによって、基板10への真空蒸着が開始される。
【0034】
ここで、ハース14A,14Bはカバー15により交互に閉鎖されるようになっており、相互に異なる蒸着物質12Aまたは蒸着物質12Bからなる蒸着膜が基板10の表面に交互に形成される。前述したように、基板10の表面は極めて高い清浄度を保っているので、蒸着膜の密着性が高くなる。しかも、紫外線照射による洗浄を効率的に行うために、紫外線照射ランプ20を基板10に極めて近接した位置から照射しているにも拘らず、真空蒸着時には、蒸着源ユニット5とドーム4との間の空間は完全に開放されており、蒸気の基板10への付着が妨げられることはなく、ドーム4に装架された全ての基板10に対して均一で高精度な蒸着膜が形成され、高品質の光学素子、例えば波長板や波長選択部材等の光学素子を製造することができる。
【0035】
さらに、紫外線照射ランプ20が退避位置に配置されているときには、チャンバ1内では、蒸着源ユニット5からドーム4に至る空間に蒸気が生じているが、仕切板16によって、この蒸気が紫外線照射ランプ20及びランプハウス21からなるランプユニット22とその駆動手段である回動アーム23や回動軸25等に付着することはない。
【0036】
前述した実施の形態では、支持部材としてのドーム4に多数の基板10を装架した状態で、これらの基板10に対してドライ洗浄した上で、成膜を行うものとしたが、例えば図6に示したように、基板100が大判のものである場合には、1枚の基板100のみが支持部材101に装架される。そして、支持部材101は回転軸6に着脱可能に接続されることになる。
【0037】
この場合には、基板100は成膜面を下方に向けた状態で、水平状態に支持させるようにする。そして、ランプユニット102を構成する紫外線照射ランプ103は、回転軸6の回転中心軸Cからなる基板100の回転中心位置から角隅部までの距離に相当する長さを有するものとし、ランプ変位手段によって、退避位置と紫外線照射位置との間に変位させるが、退避位置では、前述した第1の実施の形態と同様、ランプユニットランプ102を鉛直状態となし、紫外線照射位置では、ランプユニット102を基板100と平行な水平状態とする。そして、このときには、紫外線照射ランプ103の一端は基板100における回転中心位置と対面し、他端は基板100の角隅部と対面できる長さを持たせるようにする。そして、ドライ洗浄を行う際には、回転軸6により支持部材101を回転駆動する間に、これと対面する紫外線照射ランプ103からの紫外線を基板100における成膜される面に照射する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】真空蒸着装置の全体構成図である。
【図2】図1の真空蒸着装置に用いられるドームの断面図である。
【図3】ドームと対面した状態にして示すランプユニットの断面図である。
【図4】図3のX−X位置において、ドームを円周方向に切断して示す部分切断端面図である。
【図5】ランプ変位手段の構成を示す外観斜視図である。
【図6】本発明の他の実施の形態における支持部材と対面した状態にして示すランプユニットの断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 チャンバ 2 真空ポンプ
3 排気管 4 ドーム
5 蒸着源ユニット 6 回転軸
7 基板装着孔 10,100 基板
11 ホルダ 16 仕切板
20,103 紫外線照射ランプ 21 ランプハウス
22,102 ランプユニット 23 回動アーム
25 回動軸 26 作動指片
27 駆動手段 101 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉したチャンバ内に回転軸を臨ませて設け、この回転軸に基板を支持する支持部材を着脱可能に接続して、この基板表面に蒸着による成膜を行う成膜装置において、
前記チャンバ内に配設され、前記回転軸を回転駆動することにより前記基板を支持した支持部材を回転させる間に、前記基板の全面に紫外線を照射する紫外線照射ランプと、
この紫外線照射ランプを、前記基板の成膜面に対面させる紫外線照射位置と、前記基板と蒸着源との間の空間を開放する退避位置とに変位させるランプ変位手段と
を備える構成としたことを特徴とする基板の成膜装置。
【請求項2】
前記支持部材は前記基板を複数装架可能なドームからなり、前記紫外線照射ランプは、前記紫外線照射位置では、前記ドームの回転中に前記基板の配列幅の全長に向けてライン状の紫外線を照射する構成としたことを特徴とする請求項1記載の基板の成膜装置。
【請求項3】
前記ランプ変位手段は、前記チャンバ内に設けられ、前記紫外線照射ランプに連結して設けた回動アームと、前記チャンバ外に設けられ、前記回動アームを回動させる駆動手段とから構成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の基板の成膜装置。
【請求項4】
前記ランプ変位手段により前記紫外線照射ランプが退避位置に変位したときに、蒸着物質がこの紫外線照射ランプに付着しないように保護する保護手段を設ける構成としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の基板の成膜装置。
【請求項5】
密閉したチャンバ内を真空状態にして、このチャンバ内に配設され、基板を保持する支持部材を回転させる間に、基板表面に蒸着により成膜を行う方法であって、
前記基板が前記支持部材に装着された後であって、基板への成膜を行う前の段階で、前記支持部材に装着した前記基板に紫外線照射ランプを対面させて、前記支持部材を回転駆動する間に、この紫外線照射ランプから前記各基板表面に紫外線を照射することによりドライ洗浄を行い、
このドライ洗浄の後に、前記紫外線照射ランプを前記支持部材から離間させて、この支持部材と蒸着源との間の空間を開放して、前記各基板表面に蒸着による成膜を行う
ことを特徴とする基板の成膜方法。
【請求項6】
前記支持部材は複数の基板が装架可能なドームであり、前記紫外線照射ランプはこのドームに装架された前記各基板の配列幅の全長に及ぶ長さを有するものであることを特徴とする請求項5記載の基板の成膜方法。
【請求項7】
前記基板に対するドライ洗浄は前記チャンバ内を真空状態にする前に行うことを特徴とする請求項5または請求項6記載の基板の成膜方法。
【請求項8】
前記基板に対するドライ洗浄は前記チャンバ内を真空状態にした後に行うことを特徴とする請求項5または請求項6記載の基板の成膜方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の装置を用いて、または請求項5乃至請求項8のいずれかに記載の方法により成膜される基板は光学ガラス基板であり、この光学ガラス基板の表面に光学的機能を有する1または複数層の薄膜を形成してなる光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−79249(P2009−79249A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248717(P2007−248717)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(591240353)フジノン佐野株式会社 (52)
【Fターム(参考)】