説明

基板の気相化学エッチング方法

【課題】光ディスクや基板等の立体形状の上面と外周面とを均一にエッチングすることが可能な基板のエッチング方法を提供する。
【解決手段】研削された外周面2bを有する基板2をエッチングガス雰囲気中に配置し、該エッチングガスを構成するガス分子の吸収端波長以上の光をプリズム3を介して基板2の上面2aに対して斜めに入射させて、前記光を基板2の上面2aと底面2cとの間で反射させつつ外周面2bまで伝搬させ、外周面2bを介して基板2内から外部へと出射される前記伝搬光により前記エッチングガスを解離して外周面2bに形成された凹凸をエッチングするとともに、前記凹凸における少なくとも角部に前記伝搬光に基づいた近接場光を発生させ、該近接場光により前記エッチングガスを解離して前記凹凸をエッチングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削された外周面を有する基板について、その上面と外周面とを均一に気相化学エッチングする上で好適な基板の気相化学エッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体や光学素子等の基板の表面を研磨するための方法として、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。CMPでは、円板状の定盤上に表面に研磨布が貼り付けられた研磨体を配置し、次に被研磨体を回転させ、研磨対象となる基板を回転させながら研磨体に押し付ける。そして、この研磨体上で、研磨対象としての基板を回転させる等の相対運動を行わせることにより、基板の表面の機械的研磨が行われる。このとき、研磨体と基板との間には研磨剤を供給することにより、当該研磨剤による化学的作用を発揮させることで、基板の表面の化学的研磨が実現される。この研磨剤は、一般に、酸化セリウムを主成分とするものが用いられている。CMPを利用することにより、例えば、10nm程度の径からなる凸部であれば大概除去することが可能となる。
【0003】
ところで特許文献1の開示技術によれば、研磨剤としていわゆるレアメタルとして知られる酸化セリウムを用いる必要がある。酸化セリウムは、その産出国が限られている等の理由により非常に高価なものであり、製造コストを低減させる観点からは、ナノスケール以上のサイズの凸部をCMPによることなく平坦化できるような方法の提案が望まれていた。また、この特許文献1の開示技術によれば、10nm以下の数nmのオーダの凸部、或いは1nm以下のオーダの凸部については好適に研磨することができないという問題点があった。特にかかる数ナノオーダでの研磨は、例えば、ハードディスクや光ディスク等のような、ナノオーダの凹凸が僅かに存在した場合に品質を大幅に低下させてしまう製品に応用する場合において特に強い要望があるため、これに応えることができる研磨方法が特に近年において望まれていた。
【0004】
このため、近接場光を利用したエッチング方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この近接場光を利用したエッチング方法では、エッチングガス雰囲気中においてエッチングガス分子の吸収端波長より長波長の光を基板に照射することにより、その基板の表面に形成されたナノスケールの凸部に近接場光を発生させ、その近接場光に基づき非断熱過程を経てエッチングガス分子を解離させることによって、そのナノスケールの凸部を選択的にエッチングすることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−129155号公報
【特許文献2】特開2009−94345号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大津元一、小林潔"ナノフォトニクスの基礎"オーム社、P141、P206〜P208(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献2に開示の技術によれば、近接場光はあくまで外部から照射する光に基づいて発生させることを前提としたものである。このため、例えば円盤状の光ディスクに対して引用文献2に開示の手法によりエッチングを行う場合には、光が照射される光ディスクの上面に形成された微小な凹凸を除去することができる反面、研削された側端面、更には側端面と上面、並びに側端面と底面との角を面取りすることにより形成されるチャンファー部等には、外部から光が到達しない場合もある。その結果、側端面やチャンファー部に形成された凹凸には近接場光を発生させることができず、ガス分子を解離させることによるエッチングを実現することができない。即ち、光ディスクや基板等のような立体形状の上面のみならず、外周面を始めとした各面に対しても同時に光を照射させることができないため、近接場光を発生させることができない結果、全ての面について同時に均一なエッチングを行うことができないという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、光ディスクや基板等のような立体形状の上面と外周面とを均一にエッチングすることが可能な基板のエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る基板の気相化学エッチング方法は、基板をエッチングガス雰囲気中に配置し、上記エッチングガスを構成するガス分子の吸収端波長以上の光を上記基板内に入射させ、上記入射された上記光を上記基板上面と基板底面との間で反射させ、上記反射される光が上記基板内から外部へと出射されることによる伝搬光に基づいて上記エッチングガスを解離させてその出射面に形成された凹凸をエッチングし、及び/又は当該伝搬光に基づいて上記凹凸における少なくとも角部に近接場光を発生させ、この発生させた近接場光に基づいて上記エッチングガスを解離させてエッチングすることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る基板の気相化学エッチング方法は、請求項1記載の発明において、側端面を有する基板をエッチングガス雰囲気中に配置し、上記基板内に入射された上記光を上記基板上面と基板底面との間で反射させつつ上記側端面まで導き、上記側端面を介して外部へと出射されることによる伝搬光に基づいて、その側端面に形成された凹凸をエッチングし、及び/又は当該伝搬光に基づいて上記凹凸における少なくとも角部に近接場光を発生させ、この発生させた近接場光に基づいて上記エッチングガスを解離させてエッチングすることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る基板の気相化学エッチング方法は、請求項1又は2記載の発明において、上記光をプリズムを介して上記基板上面に対して斜めに入射させることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る基板の気相化学エッチング方法は、請求項1〜3のうち何れか1項記載の発明において、光の回折限界以下のピッチで形成された上記凹凸を上記近接場光に基づいて上記エッチングガスを解離させてエッチングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上述した構成からなる本発明によれば、光ディスクや基板等のような立体形状の上面のみならず、外周面、底面を始めとした各面に対しても同時に近接場光を発生させることができ、全ての面について同時に均一なエッチングを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用したエッチング処理を行うための気相化学エッチング装置を示す図である。
【図2】本発明によるエッチング対象としての基板の拡大図である。
【図3】エッチングガスのガス分子の原子核間距離に対するポテンシャルエネルギーの関係について説明するための図である。
【図4】断熱過程及び非断熱過程のメカニズムについて説明するための図である。
【図5】外周面から外部へ出射された伝搬光に基づいて近接場光を発生させる場合について説明するための図である。
【図6】近接場光による気相化学エッチングのメカニズムについて説明するための図である。
【図7】基板の表面にガス分子が吸着したときのガス分子のポテンシャルエネルギーを説明するための図である。
【図8】断熱過程と非断熱過程の双方が同時に生じている場合について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した基板の気相化学エッチング方法を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る気相化学エッチング方法では、次に説明するような気相化学エッチング装置1を利用して後述のエッチング処理を行う。
【0017】
気相化学エッチング装置1は、図1に示すように、第1実施形態において、チャンバ11と、チャンバ11内に配設されたステージ13と、チャンバ11に接続されたガス供給管23と、チャンバ11外に配設された光源14とを備えている。
【0018】
ステージ13は、その上面に基板2が載置されるものである。なお、基板2の上面には、後述するプリズム3が載置される。ステージ13は、基板2の位置、向きを調整するための位置調整機構や、基板2を加熱するための加熱機構等が設けられていてもよく、これらを制御することにより、基板の表面をエッチング処理するときの反応速度をコントロールすることが可能となる。
【0019】
ガス供給管23からは、基板2の表面をエッチング処理するためのエッチングガスが供給される。エッチングガスとしては、例えば、Cl2(塩素)、BCl3(三塩化ホウ素)、CCl4(四塩化炭素)等の塩素系ガス、SiH4(モノシラン)、Si26(ジシラン)等のシラン系ガスが挙げられる。ガス供給管23からは、上述のエッチングガスと混合してN2、He、Ar等の不活性ガスが供給されていてもよい。
【0020】
光源14は、図示しない駆動電源による制御に基づき、所定の波長を有する光を射出するものである。光源14は、射出された光がチャンバ11の外面に設けられた窓15を透過してステージ13上の基板2に照射されるようにその位置が調整されている。光源14は、例えば、レーザーダイオード等から構成される。光源14は、基板2に照射される光の照射範囲を制御するため、偏光レンズ、集束レンズ等を有する光学系を備えていてもよい。光源14から射出される光の波長は後述する。
【0021】
また、気相化学エッチング装置1は、チャンバ11内の気体を吸引するポンプ16と、チャンバ11内の圧力を検出する圧力センサ17と、圧力センサ17により検出されたチャンバ内圧に基づいて開閉するバタフライバルブ18とを備えており、これらにより、チャンバ11内の内圧の自動制御が実現可能とされている。
【0022】
本発明を適用した気相化学エッチング方法による平坦化の対象となる基板2は、例えば、ガラス、アルミニウム、シリコンや、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:polymenthyl methacrylate)のようなプラスチック等から構成される。図2は、この基板2の拡大図を示している。基板2は、例えば、磁気ディスク用基板、光ディスク用基板等の記録媒体用基板として用いられるものであってもよく、上面2a、外周面2b、底面2cによって囲まれる立体形状で構成されている。このうち、少なくとも外周面2bは通常研削される。また、この基板2の上面2a上にはプリズム3が載置されるが、その形状は特に限定されるものではないが、少なくとも基板2の上面2aに対して斜めから光を入射することができる形状とされている必要がある。
【0023】
次に、本発明を適用した気相化学エッチング方法について説明する。先ずエッチング処理すべき基板2をステージ13に載置し、さらにその基板2の上面2aにプリズム3を載置する。次にチャンバ11内を密閉状態に保持し、所定圧力、所定温度に制御する。続いて、ガス供給管23からエッチングガスを供給する。なお、このプリズム3の代替として、例えば半球レンズを載置するようにしてもよい。いずれの場合においても、基板2に対して光を斜め方向から入射可能な程度に光路を偏光できる形状で構成されていれば、いかなるものに代替可能である。
【0024】
このエッチング工程では、エッチングガス雰囲気中において次に説明するような条件を満足する波長の伝搬光を光源14からプリズム3を介して基板2に照射する。図2に示すように、プリズム3を介して基板2の上面2aから斜め方向に入射された光は、上面2aと底面2cとの間で反射させつつ外周面2bまで導く。そして、この外周面2bを介して基板2内から外部へと出射される伝搬光に基づいてエッチングガスを解離させて当該外周面2b表面に形成された凹凸をエッチングする。また、これとともに、当該伝搬光に基づいて凹凸における少なくとも角部に近接場光を発生させ、この発生させた近接場光に基づいてエッチングガスを解離させてエッチングする。
【0025】
光源14から出射される伝搬光の波長は、エッチングガスのガス分子の吸収端波長より長波長とする。これは、基板2の表面から離れた気相中でのエッチングガスのガス分子が解離してしまうのを防止しつつ、光源14から射出された伝搬光を基板まで到達させるためである。
【0026】
図3は、エッチングガスのガス分子の原子核間距離に対するポテンシャルエネルギーの関係について示している。
【0027】
エッチングガスにより基板2の表面をエッチングする上では、エッチングガスのガス分子を構成する複数の原子を解離させてラジカルを生成する必要がある。このガス分子を構成する複数の原子を十分に引き離すためのエネルギーが解離エネルギーEbに相当する。
【0028】
ここで、光の照射によりガス分子を解離させるうえでは、断熱過程、非断熱過程の何れかを経ることになる。
【0029】
断熱過程とは、ガス分子の電子の基底準位と励起準位とのエネルギー差Ea以上の光エネルギーをもつ伝搬光を照射することにより、ガス分子の電子を基底準位から励起準位に直接励起させる過程をいう。電子が励起準位に励起されたガス分子は、図に示すような方向Pに解離させることが可能となる。
【0030】
非断熱過程(フォノン援用過程)とは、近接場光によりガス分子を振動準位へ励起させて、これにより、ガス分子を解離させる過程をいう。このとき、非断熱過程は、ガス分子が複数の振動準位を介して励起準位にまで多段階的に励起される過程S1と、解離エネルギーEb以上のエネルギー準位の振動準位まで直接又は多段階的に励起される過程S2との何れかに分類される。解離エネルギーEb以上のエネルギー準位又は励起準位まで励起されたガス分子は、解離させることが可能となる。
【0031】
断熱過程と非断熱過程とは、図4に示すような、原子同士の結合をバネで置き換えたモデルにより説明することができる。
【0032】
一般に、伝搬光の波長は分子の寸法に比べると遥かに大きいため、分子レベルでは、伝搬光の照射により空間的に一様な電場が発生するものと考えることができる。このとき、ガス分子中の複数の電子は、図4(a)に示すように、伝搬光の照射により同振幅、同位相で振動することになる。また、ガス分子中の原子核は電子と比べて重いため、この電子の振動には追従することがない。この結果、伝搬光の照射により、電子のみが振動して原子核が振動しないことになる。このような、ガス分子の励起過程に分子振動が関わらないものが断熱過程に相当する(非特許文献1参照。)。
【0033】
一方、近接場光はその空間的な電場勾配が物体表面から離れるにつれて急峻に低下するため、分子レベルでは、空間的に不均一な電場が発生するものと考えることができる。このとき、ガス分子中の複数の電子は、図4(b)に示すように、近接場光の照射により異なる振動をすることになる。また、この複数の電子の振動により、原子核も振動することになる。この結果、ガス分子を振動準位に励起させることが可能となる。これが非断熱過程に相当する。このような、ガス分子の励起過程に分子振動に関わるものが非断熱過程に相当する。
【0034】
本発明では、図5に示すように外周面2bから外部へ伝搬光が出射されるが、この伝搬光が外周面2bに形成された凸部4を通過する過程で当該凸部4の少なくとも角部において近接場光が発生する。ここで伝搬光を凸部4に照射することにより、近接場光が発生する角部とは、図6(a)に示すように凸部4の先端に相当する先鋭化部分43である。この先鋭化部分43において近接場光が選択的に発生すると、当該発生した近接場光によりエッチングガス分子51が解離されてラジカル52が生成される。このラジカル52は、近接場光が発生した先鋭化部分43近傍のみにおいて選択的に生成される。そして、この生成されたラジカル52は、これに最も近接する先鋭化部分43と選択的に反応することになる。その結果、図6(b)に示すように、先鋭化部分43がラジカル52の活性によりエッチングされることになる。そして先鋭化部分43がエッチングされると、この凸部42において更に先鋭化部分43'が形成されるが、これに対しても近接場光が選択的に発生し、エッチングガス分子51を解離させてラジカル52を先鋭化部分43'近傍において選択的に形成されることができる。その結果、この先鋭化部分43'は、ラジカル52と反応することによりエッチングされることになる。
【0035】
また、近接場光が発生する角部は、かかる先鋭化部分のみならず、凹部5、凸部4を構成するいかなる角部分をも含む。凹部5もここでいう角部に含まれ、図6(b)に示すように近接場光が発生し、この発生した近接場光に基づいて発生させたラジカル52により当該凹部5が平滑化されることになる。
【0036】
上述したように、基板2の外周面2bの局所領域における近接場光の発生と、エッチングガス分子51の解離によるラジカル活性、先鋭化部分43の反応が繰り返し実行されることにより、最終的には図6(c)に示すように、角部をエッチングすることにより表面を平滑化させ、表面粗さを低減させることが可能となる。
【0037】
なお、上述した近接場光によるエッチングは、外周面2bのみならず、上面2a又は底面2cにおいても同様に実現可能である。例えば、基板2内に入射した光は、上面2aと底面2cとを互いに反射しながら外周面2bへと導かれる過程で、図5に示すように上面2aからも少なからず光が出射する場合がある。この上面2aから外部へと出射した伝搬光が、上面2aに形成された凸部4を通過する過程で当該凸部4の少なくとも角部において近接場光が発生する。この発生した近接場光により、エッチングガス分子がラジカルに解離し、上述と同様のメカニズムで上面2aの平坦化を図ることが可能となる。同様に下面2cについても平坦化を図ることが可能となる。
【0038】
なお、本発明は、上述した非断熱過程に加えて、以下に説明する断熱過程に基づいて、ガス分子をラジカルに解離させるようにしてもよい。光源14からは、上述の通り、ガス分子の吸収端波長より長波長の光を照射しているので、気相中ではガス分子が解離しない。しかしながら、基板2における上面2a、外周面2b、底面2cの何れか1以上にガス分子が吸着した場合、図7に示すように、基板2とガス分子との相互作用によりガス分子にエネルギーが与えられ、ガス分子の励起準位が方向Qに示すように小さくなり、基底準位から励起準位までのエネルギー差が小さくなる。このため、基板2の表面においては、ガス分子の吸収端波長より長波長の伝搬光を照射していても、基板2の表面に吸着しているガス分子を断熱過程を経て解離させることが可能となる。
【0039】
このとき、基板2の露出部4の表面に吸着しているガス分子を断熱過程を経て解離させるうえでは、エッチングガスのガス分子の解離エネルギーをEbとしたときに、0.5×Eb以上の光エネルギーを有する波長の光を照射することが好ましい。これにより、基板2における上面2a、外周面2b、底面2cに吸着しているガス分子を断熱過程を経て解離させることが可能となる。ただし、この場合、基板2の表面において断熱過程を経て解離されるガス分子は確率的に僅かなものであるので、エッチング速度を増大させるうえでは、照射する伝搬光の光強度を増大させておく。また、基板2の表面に吸着しているガス分子を断熱過程を経て解離させるうえでは、エッチングガスの吸収端波長をλ1としたときに、(λ1+λ1/10)以下の波長の光を照射するようにすれば、エッチング速度を更に増大させることが可能となる。
【0040】
このような現象を実現するための波長の一例を挙げると、例えば、エッチングガスのガス分子としてCl2を用いる場合、Cl2のガス分子の吸収端波長が400nmであることから、これより長波長である403nm、408nm等の波長の伝搬光を照射すればよい。このような波長は、InGaNレーザ等から射出される。
【0041】
以上、本発明によれば、光ディスクや基板等のような立体形状の上面2aのみならず、外周面2b、底面2cを始めとした各面に対しても同時に近接場光を発生させることができ、全ての面について同時に均一なエッチングを行うことが可能となる。
【0042】
なお、本発明は、上面2a、外周面2b、底面2cの全ての面についてエッチングを行う場合に限定されるものではなく、外周面2bから出射した伝搬光に基づいて当該外周面2bのみをエッチングする形態としてもよいことは勿論である。また外周面2b以外でも、上面2a又は底面2cから出射した伝搬光に基づいて当該上面2a又は底面2cのみをエッチングする形態としてもよいことは勿論である。
【0043】
また、上述した実施の形態においては、断熱過程と非断熱過程がともに生じている場合について説明をしたが、これに限定されるものではなく、いずれか一方の過程が生じていればよいことは勿論である。
【0044】
但し、上述した断熱過程と非断熱過程の双方が同時に生じていることがより望ましい。その理由として、図8(a)に示すように、断熱過程により、当初の基板2の表面2dから全体的に深さ方向へ削り取ることができ、また図8(b)に示すように、非断熱過程により、その削り取られた表面2eに発生した微小な凹凸に近接場光を発生させてこれをエッチングすることが可能となる。その結果、深さ方向の研磨と、表面凹凸の除去の双方を同時に実現することが可能となる。
【0045】
更に本発明では、研削された側端面のみならず、側端面と上面、並びに側端面と底面との角を面取りすることにより得られるチャンファー部の凹凸も同様にエッチングすることができることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
1 気相化学エッチング装置
2 基板
2a 上面
2b 外周面
2c 底面
3 プリズム
4 凸部
11 チャンバ
13 ステージ
14 光源
15 窓
16 ポンプ
17 圧力センサ
18 バタフライバルブ
23 ガス供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板をエッチングガス雰囲気中に配置し、
上記エッチングガスを構成するガス分子の吸収端波長以上の光を上記基板内に入射させ、
上記入射された上記光を上記基板上面と基板底面との間で反射させ、
上記反射される光が上記基板内から外部へと出射されることによる伝搬光に基づいて上記エッチングガスを解離させてその出射面に形成された凹凸をエッチングし、
及び/又は当該伝搬光に基づいて上記凹凸における少なくとも角部に近接場光を発生させ、この発生させた近接場光に基づいて上記エッチングガスを解離させてエッチングすること
を特徴とする基板の気相化学エッチング方法。
【請求項2】
側端面を有する基板をエッチングガス雰囲気中に配置し、
上記基板内に入射された上記光を上記基板上面と基板底面との間で反射させつつ上記側端面まで導き、
上記側端面を介して外部へと出射されることによる伝搬光に基づいて、その側端面に形成された凹凸をエッチングし、
及び/又は当該伝搬光に基づいて上記凹凸における少なくとも角部に近接場光を発生させ、この発生させた近接場光に基づいて上記エッチングガスを解離させてエッチングすること
を特徴とする請求項1記載の基板の気相化学エッチング方法。
【請求項3】
上記光をプリズムを介して上記基板上面に対して斜めに入射させること
を特徴とする請求項1又は2記載の基板の気相化学エッチング方法。
【請求項4】
光の回折限界以下のピッチで形成された上記凹凸を上記近接場光に基づいて上記エッチングガスを解離させてエッチングすること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載の基板の気相化学エッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−160488(P2012−160488A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17139(P2011−17139)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(511026223)特定非営利活動法人ナノフォトニクス工学推進機構 (4)
【Fターム(参考)】