説明

基板プロセスシステム

真空における基板の取扱いのための基板プロセスシステムにおいて、プロセスモジュールの2つのリニアアセンブリは、一方が他方の上に重ねられ、かつ、少なくとも1つのリフトモジュールによって接続されるので、第1のセットから第2のセットへの搬送が可能になる。第1および第2のプロセスモジュールのセットを通る移動経路に沿って、リニア同期モータが設けられる。プロセスシステムに取付けられる、ローラと相互に作用するレールを有する基板搬送体は、リニア同期モータの引力によって垂直の位置で保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、ディスク形状の情報担体などの基板、特に磁気ハードディスクの取扱いおよび製造のためのシステムおよびプロセスに関する。より具体的には、この発明は、磁気保持および駆動装置を用いた、真空における基板のための搬送機構に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景および関連技術
真空中での基板の処理、たとえば、さまざまな層を用いたコーティングのためには、真空プロセスチャンバのリニアアセンブリを通して基板を搬送するという原則が十分に立証されている。真空チャンバという語は、大気圧に比べて減圧下にある真空プロセスシステムの少なくとも一区分を意味する。プロセスチャンバまたはプロセスモジュールという語は、基板の物理的または化学的な状態を変化させること、たとえば、加熱、冷却、洗浄、エッチング、ガスまたはその他の物質による処理、コーティングなどを目的とするプロセスシステムの一区分を意味する。
【0003】
US5,658,114は、たとえば、ディスク形状の基板のための真空プロセスシステムを示し、そこでは、第1のレベルのプロセスステーションの上に、第2のレベルのプロセスステーションが、重なる関係で位置決めされる。加工物は、搬送体に載置されて、一方のレベルのプロセスステーションの列に送り込まれ、一方の列の端で他方のレベルに持上げられ、それから他方の列のプロセスステーションを通って移動し、これにより、装置を通る搬送体のU字形状の経路ができる。この「垂直方向のU」の代わりに、横に並んだ2列のプロセスステーションにより水平方向の「U」も実現可能である。プロセスステーションには、とりわけ、コーティングステーション、加熱および/または冷却ステーション、取入および取出ロックが含まれていてもよい。
【0004】
このタイプの後続インラインプロセスの基本的な問題は、チャンバからチャンバへの真空対応の搬送である。基板は、典型的には搬送体によって保持される。簡単な手法では、搬送体は、機械的に駆動される一連のローラ上に配置される。大気中のモータユニットは、真空フィードスルーまたは磁気結合によって、真空中のローラに接続される。搬送体に加速力および減速力を与えるのは、搬送体のレールとローラとの間の摩擦のみである。この結果、搬送体の最大加速度の範囲は狭くなり、搬送時間は長くなる。さらに、駆動ローラの摩擦によって、真空チャンバに粒子が生じる。したがって、通常は重力によってのみ与えられる、ローラに対するレールの荷重が磁力によって大きくなるときがある。このため、摩擦の問題、加速度の制限および粒子の発生がより高いレベルになる。US6,919,001が示しているのは、この種のディスクコーティングシステムである。
【0005】
搬送のための別の手法は、大気中のチャンバ外を搬送経路に沿って機械的に移動する磁石によって、真空チャンバ内の搬送体を引張ることである。これによって、真空フィードスルーを回避し、搬送体に対する加速力を増大させることができるが、磁石で覆った回転磁化二重螺旋ロッドまたはベルトという複雑な機械的構成が必要となってしまう。さらに、搬送体の正確な位置決めが複雑となる。この機構の制御は、バックラッシュおよび磁力のヒステリシスを克服するものでなければならない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
この発明に従う解決策は、固定子のためのコイル、磁石および鉄ヨーク(Fe-yokes)の混成配置ならびに被駆動搬送体についての磁気抵抗の原理(永久磁石なし)に基づくリニア同期モータを使用することである。この発明を含むシステムが請求項1に記載され、磁気ハードディスクを製造するための方法が請求項12に記載されている。さらに、有用な実施例をそれぞれの従属クレームに見出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
詳細な説明
第1の好ましい実施例では、搬送システムは、真空チャンバ(7)内の、たとえば側壁に横方向に取付けられる搬送体(2)およびローラ(4、6)に固定されるレール(3、5)に依拠する。搬送体は垂直の向きで整列し、搬送体上にはローラはなく、レールのみがあり、搬送体の断面は非常に細くなっている。このため、プロセスチャンバ間において、20mmストローク未満の高速動作ゲートバルブのための細い移送スロットが可能となる。リニアモータの吸引力によって、搬送体のレール(3、5)がローラ(4、6)に押し付けられる。チャンバ中の下側の列のローラ(3)は、「ゴシックアーチ形」(凹形)の断面を有する。隣接する円形のレール(4)は、ゴシックアーチに嵌まり、搬送体の垂直方向の位置決めを行なう。上側の列のローラ(5)はわずかに凸状の形であり、隣接するレール(6)は矩形である。これによって、搬送体の向きが正確に垂直になる。
【0008】
さらに別の実施例では、搬送体は、真空チャンバに固く取り付けられたレールと相互に作用するローラを備えていてもよい。ローラおよびレールの設計は類似していてもよく、保持および移動機構は上述のように使用可能である。搬送体が少数しかない拡張基板プロセスシステムでは、ローラの真空対応ベアリングの数を減らしてもよい。
【0009】
鉄ヨーク(8)と磁石(9)とコイル(10)とを有するリニアモータの固定子部は、ステンレス鋼トラフ(11)内に大気中に取付けられ、搬送体(2)から数ミリメートルの距離に配置され、かつ、真空分離をもたらす。上述の実施例に従って、トラフは、好ましくは、プロセスチャンバの側壁に設けられるか、またはその側壁の一部を形成している。ステンレス鋼のような導電率の低いトラフの壁の材料は、同期モータの動作周波数および速度を高めるために、渦電流を低く保つ。搬送体(2)は、固定子ポール(8)の周期性に対して適切な距離のところに強磁性材料からなる部分(12)を備える。固定子によって生じる移動性の磁場は、搬送体の強磁性部を引付け、加速力および減速力を与える。プロセスモジュール間のゲートバルブ付近に、固定子ポールなしの移動長さが存在する。搬送体は、いかなる位置でも駆動力があるようにするために、移動経路に沿って、固定子ポールなしの長さより長い距離のところに2つの強磁性部を備える。
【0010】
上述の好ましい実施例には、以下の利点がある。高い加速力:最大加速度3gおよびプロセス位置間の搬送時間0.25秒未満を示している。電子制御および電磁力によって高速かつ正確な位置決めが可能となり、駆動ユニットには機械的な可動部分が存在せず、真空チャンバにフィードスルーを配置する必要はない。大気中の磁場は、真空内に力を生じさせる非磁性チャンバの壁を貫通している。駆動装置があるために、搬送体上に永久磁石を取り付けずに済む。このため、搬送体間に吸引力が生じず、搬送体の取扱いおよび洗浄が簡単になる。停電の場合に、搬送体が落下したり基板が落下したりすることはない。リニア駆動の固定子に導入された永久磁石によって、コイル電流を用いなくても搬送体が所定の位置に保持される。さらに、すべての搬送体の同期搬送またはおよびプロセスモジュールのサブグループにおける独立した搬送体の搬送が容易に実現可能となる。結果として、各プロセスモジュールに、搬送体を独立して位置決めすることができる。
【0011】
主として、提案された解決策を、さらなる実施例では、水平な平面に設けられたレール/ローラを有するプロセスチャンバの底部に設けることができる。ただし、レール/ロー
ラ上で基板搬送体が傾くのを回避するために、レールはある一定の距離をおいて設ける必要がある。プロセスチャンバを隔てるゲートバルブは、このより広い搬送体を得るために十分なスペースをとっておくようにする必要がある。
【0012】
搬送体は、真空装置内で往復運動を行ない、クリーンルームから真空への基板の搬入出は、単一のモジュールまたは隣接するモジュールにおける装置の端の位置でなされる。基板搬送体をプロセスモジュールの一方のリニアラインから他方のリニアラインに移動させるには、さらなる真空搬送機構が必要である。既存の解決策では通常、機械的に駆動されるスレッジを用いる。この結果、可動部品の質量および数が増大し、速度が制限され、粒子の発生のおそれが生じる。
【0013】
この発明に従う解決策では、プロセスモジュール(14)の2つのライン(15、16)は、一方が他方の上に重ねられ、リフトモジュール(17、18)によって端部で接続される。リフトモジュールでは、搬送体(2)のみが、上述のリニア駆動によって送出され、一方のラインのローラ経路から取出されて、他方のラインのローラ経路に配置される。
【0014】
リフトモジュール(17、18)における垂直方向の搬送は、回転直接駆動モータ(19)によって駆動される。このモータは、リフト把持ボックス(21)に接続されるレバー(20)を回転させる。その回転の間、運動の法則により把持ボックスは常に垂直に向けられている。把持ボックス(21)は、搬送体の強磁性部(12)に対する吸引力を与える磁石/鉄ヨークアレイ(22)と、リニア駆動の固定子のポール(8)に対する斥力を与える類似の磁石/鉄ヨークアレイ(23)とを含む。吸引力アレイ(22)および斥力アレイ(23)は、磁石(24)および鉄ヨーク(25)の組立品を含む。
【0015】
搬送体がリニア駆動によって所定の位置に至ると、一方の搬送ラインから他方の搬送ラインへの搬送体の移送が開始される。モータ(19)の回転によって、リフト把持ボックス(21)は搬送体に接近する。搬送体の強磁性部(12)に対する磁石アレイ(22)の吸引力は、磁石アレイ(23)の斥力によって過補償される。この力は、接近する磁石アレイ(23)に隣接するコイル(10)を通る電流によって調整され得る。そこで、リフト把持ボックスに固定されるヴァイトン(Viton)(または別のエラストマー)のリングが搬送体内の適切な深さに円滑に定着される。このため、金属接点なしで、リフト把持部上の搬送体の位置が適切に定められる。強磁性部(12)に隣接するコイル(10)に適切な電流を与えることにより、搬送体はリニア駆動の固定子から解放される。アレイ(22)の磁力によってリフト把持部に固定された搬送体は、ローラ経路から外れてレール(3、5)の平面に対して垂直に移動する。
【0016】
代替的に、リフト把持部に対向するリニアモータの後側から分路板に接近するようにしてもよい。この分路板は、強磁性ヨーク材料(たとえば、鉄)から構成されていてもよい。それによって、磁場のラインはリニアモータから離れてこの板に向かうので、搬送体を引付ける磁場は弱められる。さらなる実施例では、分路板はヨーク材料と永久磁石とを含む。このように、強磁性部(12)で覆われた領域以外の領域でさえも、リニアモータの磁場の過補償およびリニアモータと搬送体との間の正味の斥力が得られる。いずれによっても、リニア駆動の固定子からの搬送体の解放が非常にうまく制御されるようになる。
【0017】
図3に関して、モータ(19)を180°回転させると、搬送体は他方の搬送ラインまで持上げられる。接近される固定子のコイル(10)の電流を適切に管理することによって、ローラ(4、6)への接近が穏やかになる。強磁性部(12)に対する吸引力は減少し、かつ、磁石アレイ(23)に対する斥力は調整され、それが合わさって、レバー(20)にかかる力はわずかに反発するものとなる。そうすると、モータ(19)は、搬送体
レール(3、5)をローラ(4、6)上に穏やかに定着させることができる。搬送体(2)から把持部(21)を解放するため、強磁性部(12)に隣接するコイル(10)の逆転された電流によって、固定子に向かう搬送体に対する吸引力が増大する。磁石アレイ(23)に対する斥力によって支持されて、モータ(19)は、搬送体から把持部を取外すことができる。搬送体は、次のプロセスステーションのリニアモータによって搬送される準備ができており、リフト把持部は、他方のラインで待機している次の搬送体を引継ぐ準備ができている。磁石アレイ(22および23)の磁力は、鉄ヨーク(25)にコイルを追加することで支持および調整が可能となる。
【0018】
上述のリフトモジュールの利点は、次のとおりである。
−粒子の発生する危険性が低い。搬送体と把持部との間に金属接点がなく、搬送体および把持部は円滑に所定の位置に定着し、搬送体は磁力のみで保持される。
−簡単な機構。180°の回転のみで搬送するので、把持のために移動する機構がない。−加速させる質量が小さいため、高速に動作する。
−直接リニア駆動の概念に適合する。
−停電の場合に搬送体が落下することはない。保持力は、永久磁石によって与えられている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】真空におけるリニア駆動のための基板搬送体を示す図である。
【図2】リフトモジュールによって両端が接続されたプロセスステーションの2つの重なったライン/列を有する真空コーティング装置を示す図であり、左のリフトモジュールおよび第1のプロセスチャンバは開いた状態で示されている図である。
【図3】基板搬送体を一方のラインから他方のラインまで昇降させるためのリフトモジュールを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空における基板の取扱いのための基板プロセスシステムであって、
プロセスモジュール(14)の第1のリニアアセンブリと、
プロセスモジュール(14)の第1のセットの上に重ねられるプロセスモジュールの第2のリニアアセンブリと、
第1のセットから第2のセットへの搬送を可能にする少なくとも1つのリフトモジュール(18)と、
プロセスモジュールの第1および第2のセットを通る移動経路と、
前記移動経路に沿って設けられるリニア同期モータと、
レール(3、5)を有する少なくとも1つの基板搬送体(2)とを含み、垂直の向きにある前記搬送体は、前記移動経路に沿って移動可能であり、前記基板プロセスシステムはさらに、
プロセスモジュールに取付けられるローラの下側の列(4)とローラの上側の列(6)とを有する、前記基板搬送体のための搬送システムを含み、
前記ローラ(4、6)は、前記基板搬送体(2)のレール(3、5)と相互に作用し、前記リニア同期モータの引力は、搬送体を垂直の位置で保持する、基板プロセスシステム。
【請求項2】
前記プロセスモジュール間にゲートバルブが設けられる、請求項1に記載の基板プロセスシステム。
【請求項3】
前記ローラ(4、6)は、真空チャンバ(7)の側壁に取付けられる、先行する請求項の1つに記載の基板プロセスシステム。
【請求項4】
前記ローラの下側の列(3)のローラは「ゴシックアーチ形」の断面を有し、隣接するレール(4)は円形である、先行する請求項の1つに記載の基板プロセスシステム。
【請求項5】
前記ローラの上側の列のローラ(5)はわずかに凸状の形であり、隣接するレール(6)は矩形である、先行する請求項の1つに記載の基板プロセスシステム。
【請求項6】
前記リニア同期モータの固定子部は、鉄ヨーク(8)、磁石(9)およびコイル(10)の混成配置を有する、先行する請求項の1つに記載の基板プロセスシステム。
【請求項7】
前記基板搬送体は、間隔をおいて配置される少なくとも2つの強磁性材料の部分(12)を備える、先行する請求項の1つに記載の基板プロセスシステム。
【請求項8】
前記リニア同期モータの固定子部は、ステンレス鋼トラフ(11)内の大気中に取付けられる、先行する請求項の1つに記載の基板プロセスシステム。
【請求項9】
前記リフトモジュールは、回転直接駆動モータ(19)と、レバー(20)と、リフト把持ボックス(21)とを含む、先行する請求項の1つに記載の基板プロセスシステム。
【請求項10】
前記リフト把持ボックスは、磁石(24)および鉄ヨーク(25)の組立品を有する引力アレイ(22)と斥力アレイ(23)とを含む、請求項9に記載の基板プロセスシステム。
【請求項11】
真空プロセスシステムにおいて使用される搬送システムであって、
前記チャンバを通る移動経路に沿って設けられる、リニア同期モータを有する少なくとも1つの真空チャンバと、
前記真空チャンバの側壁に取付けられるローラの下側の列(4)およびローラの上側の列(6)と、
レール(3、5)を有する少なくとも1つの基板搬送体(2)とを含み、垂直の向きにある前記搬送体は、前記移動経路に沿って移動可能であり、
前記ローラは、前記基板搬送体のレールと相互に作用し、前記リニア同期モータの引力は、搬送体を垂直の位置で保持する、搬送システム。
【請求項12】
請求項1に従う基板プロセスシステムにおいて磁気ハードディスクを製造するための方法であって、
プロセスすべき基板を前記基板プロセスシステムに導入するステップと、
基板搬送体を用いて前記基板を保持するステップと、
少なくとも1つのプロセスモジュールを通る移動経路に沿って、前記搬送体および基板を移動させるステップと、
前記基板を少なくとも1つのプロセスモジュールにおいてプロセスするステップと、
プロセスの後に前記搬送体から前記基板を搬出するステップと、
前記基板プロセスシステムから前記基板を引き出すステップとを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−512810(P2008−512810A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530570(P2007−530570)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【国際出願番号】PCT/CH2005/000534
【国際公開番号】WO2006/026886
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(596013501)オー・ツェー・エリコン・バルザース・アクチェンゲゼルシャフト (55)
【氏名又は名称原語表記】OC Oerlikon Balzers AG
【Fターム(参考)】