説明

基板上に剥離剤の層を施すための方法及び装置

本発明は、剥離剤を、基板に向けられた少なくとも1つのノズルを備えた真空室の内室内で気化させ、真空室内で移動する又は移動可能な基板上に剥離剤の層を施すための方法に関する。この場合、液状の剥離剤を、気化室の内室内に噴射して、気化させるようにした。また本発明は、真空室内で移動するか又は移動可能な基板に、剥離剤の層を施すための装置であって、前記真空室が少なくとも1つの金属蒸発装置を有しており、基板に向けられた少なくとも1つのノズルを備えた気化室が設けられており、剥離剤が供給管路を介して前記気化室の内室に供給可能である形式のものに関する。この場合、前記供給管路が噴射装置に接続されており、該噴射装置によって、液状の剥離剤が、気化させるために、気化室の内室内に噴射可能又は噴射され、それによって気化されるようになっていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空室内で移動する又は移動可能な基板上に剥離剤の層を施すための方法及び装置に関する。この場合、剥離剤を、基板に向けられた少なくとも1つのノズルを備えた真空室の内室内で気化させるか又は気化可能である。
【0002】
移動する又は移動可能な基板とは、一般的に帯状の基板である。このような帯状の基板に、成膜装置の真空室内で金属コーティングが施される。コーティングを実施する際に、基板は金属成膜装置に沿って移動せしめられ、この際に、ローラを介して繰り出しローラから巻き上げローラに繰り出されるか若しくは巻き付けられる。
【0003】
剥離剤としては、一般的に、エステル(Ether)、グリコール(Glykole)、過フッ化炭化水素(Fluorkohlenwasserstoffe)、及び炭化水素(Kohlenwasserstoff)が使用される。有利には、パーフルオロポリエーテルオイル(Perfluor-Polyether-Oel)が使用される。基板は、フリーストリップ(Freistreifen)と呼ばれる領域に、剥離剤を被着することによるマスキングを備えているので、この領域には金属のコーティングが施されない。
【0004】
剥離剤のための気化室の内部に、供給管路を介して同じ剥離剤が供給される。気化室は、基板に向けられたノズル又はノズル条片を備えており、このノズル条片を介して気化室は真空室に接続されている。
【0005】
フリーストリップを生ぜしめるために、剥離剤が低い真空下にある気化室の内室内で気化され、大抵の場合、基板のコーティングの直前の気化段階から、真空室内に存在する基板にノズルを介して施される。
【0006】
剥離剤を基板に施す際に、剥離剤の量を調整して、最適なマスキングが生ぜしられ、施すために必要な量だけの剥離剤が気化されるようになっている。
【0007】
例えばヨーロッパ公開特許第1035553号明細書によれば、オイルを気化させるために単数又は複数の加熱可能なブロック(オイルの沸点以下の温度に加熱される)を設けることが公知である。金属ブロックの質量が大きいということは、基板の走行速度が変化した場合に、気化しようとする剥離剤の温度を変化させることによってオイル量を調整することができないか、又は迅速に行うことができない、ということを意味する。
【0008】
基板コーティングの開始段階及び終了段階中に、不必要な剥離剤が真空室内に侵入して真空室が汚染されるのを避けるために弁を設け、この弁によって、ノズルストリップ(Duesenleiste)への剥離剤蒸気供給を遮断することが公知である。
【0009】
今日の剥離剤気化器においては、1つの浴槽内で大量の剥離剤が加熱され、そのうちの一部だけが装置の成膜作業中に気化され、これに対して気化されない残りの剥離剤は、揮発しにくい成分及び分解生成物によってそれ以上の使用が不可能となり、気化器の洗浄が必要となるまで、さらに使用される。その結果、剥離剤の使用時間中に、揮発しにくい成分並びに分解生成物の濃度が高くなることによって、剥離剤の特性が次第に変化する、という欠点ある。さらに、溜まった剥離剤を廃棄する必要があり、それに伴う費用がかかり、場合によっては環境を損なうことになる。
【0010】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における欠点を改善することができるような、剥離剤の層を、真空室内で移動するか又は移動可能な基板上に施すための方法及び装置を提供することである。
【0011】
この課題を解決した方法の手段は、請求項1に記載されている。
【0012】
剥離剤を、基板に向けられた少なくとも1つのノズルを備えた真空室の内室内で気化させ、真空室内で移動する又は移動可能な基板上に剥離剤の層を施すための本発明の方法によれば、液状の剥離剤を、気化室の内室内に噴射して、気化させるようにした。従来技術に対する相違点は、本発明によれば、剥離剤が金属ブロックを用いて及び/又は浴又はこれと類似のものから気化させて取り出すのではなく、むしろ所定量の剥離剤を気化室の内室内に噴射する噴射中に又は噴射直後に気化する、という点にある。金属ブロックの熱慣性の問題は、基本的に取り除かれる。また剥離剤浴が省かれたことによって、剥離剤特性が変化するという問題は、長時間に亘る蒸留によって解決される。また、コストの削減が得られる。何故ならば、剥離剤溜(Sumpf)を省いたことによって、剥離剤が浪費されることはないからである。
【0013】
本発明の有利な実施態様によれば、基板の所定の速度において、基板上の剥離剤の所定の層厚に相当する量の剥離剤を噴射するようにしたので、剥離剤の不必要な気化は避けられ、真空室内に気化される剥離剤は最小限にされるか又は少なくとも減少される。噴射することによって、基板のマスキング若しくは剥離剤被着の開始及び/又は終了を、遅滞なく又は最小限の遅れで実施することができる。何故ならば、比較的迅速に気化される少量の剥離剤だけが真空室の内室内に収容されているからである。マスキングの開始及び/又は終了を遅滞なく又は最小限の遅れで実施することができることによって、搬送部材(例えばローラ)を介した剥離剤の連行は行われず、従って被膜の品質劣化は避けられる。また、本発明に従って、気化させるために剥離剤を内室内に噴射することによって、移動された又は移動可能な基板の可変な速度において、施された剥離剤の量を良好に又は遅滞なく調整することができ、それによって一定の品質の製品が得られる。
【0014】
本発明の別の実施態様によれば、剥離剤を、供給管路を介して、有利には大気圧下にある貯蔵容器から供給するようにした。貯蔵容器が大気圧下にあれば、特に有利である。何故ならば、貯蔵容器の充填は、簡単な形式で特別な充填装置なしで行われる。
【0015】
大気圧よりも高い圧力下にある気化室に剥離剤を供給すれば、好都合である。それによって、圧力差に基づいて、気化された剥離剤を、真空室の内室から単数若しくは複数のノズルを介して気化室の内室から基板に搬送することができる。
【0016】
剥離剤の供給量の制御は、ポンプ、特に有利には容積ポンプによって行われる。
【0017】
本発明の別の有利な実施態様によれば、剥離剤の真空フラッシングが行われ、この場合、剥離剤は、真空室の内室内への噴射直後で、かつ完全に噴射後に気化する。特に気化中に、気化室の下に液状の剥離剤は存在しないか、又は少量だけ存在する。
【0018】
噴射した剥離剤を迅速かつ完全に気化させるために、気化室の壁部の少なくとも一部だけが、真空室内で剥離剤の沸騰温度よりも明らかに高い温度に維持される。前記室壁の温度を一定にすれば有利である。何故ならば、それによって剥離剤の気化をより簡単にコントロールできるからである。
【0019】
また、液状又はガス状の剥離剤に接触せしめられるその他の構成部材を、剥離剤の沸騰温度、例えば100℃より高い温度に加熱すれば、有利である。有利な形式で、ノズルも、この剥離剤の沸騰温度より高い温度に加熱される。
【0020】
剥離剤を気化室の内室内の加熱された気化器面に噴射することによって、内室に供給された剥離剤の量を、噴射時に迅速かつ完全に気化する作業を軽減することができる。気化器面が室壁とは無関係に加熱されるようになっていれば、特に有利である。何故ならば、気化器面の熱慣性は、室壁よりも小さく、ひいては温度の迅速な変化が得られるからである。気化されたオイルの量は、噴射されたオイルの量によって調整される。気化器プレートを別個に加熱すれば有利である。何故ならば、炉全体を例えば200℃に加熱すると、変形問題及び安全性に関する問題が発生するからである。
【0021】
本発明の別の実施態様におけるように、安全弁によって噴射すれば、供給管路内に、例えば大気圧と比較して僅かな過圧が維持され、この過圧によって供給管路内での剥離剤の吸込みは避けられる。有利な形式で、安全弁は加熱可能であるか、若しくは加熱される。また、安全弁は、少なくとも1bar(1バール)の対抗圧力を有しており、それによって、室が排気されると直ちに、オイルがポンプの傍らを通って室内に押し込まれる。
【0022】
本発明の別の実施態様によれば、ノズルの内室側の開口は、ラビリンスプレートによって、剥離剤が噴射される領域に対して遮蔽され、それによって、ノズルに均質な蒸気が供給され、噴射器が被膜によって覆われることはない。
【0023】
真空室が少なくとも1つの金属蒸発装置を有しており、基板に向けられた少なくとも1つのノズルを備えた気化室が設けられており、剥離剤が供給管路を介して前記気化室の内室に供給可能である形式の、真空室内で移動するか又は移動可能な基板に、剥離剤の層を施すための、本発明による装置の特徴は、前記供給管路が噴射装置に接続されており、該噴射装置によって、液状の剥離剤が、気化させるために、気化室の内室内に噴射可能であるか又は噴射されるようになっている点にある。
【0024】
本発明のその他の特徴、実施例及び利点が、以下に図示の実施例を用いて説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】真空室内で移動せしめられる又は移動可能な基板上に剥離剤の層を施すための本発明による装置の概略図である。
【0026】
図1に示した気化室11は、相応の壁部(図示せず)を備えた内室12を有していて、ノズル60を備えており、該ノズル60は、移動する帯状の基板80上に向けられている。ノズル60は、内室12側に開口を有していて、この開口を通って、気化された若しくは蒸気の形の剥離剤が基板80の領域に供給される。基板80は、正確に図示していない、金属蒸発装置を備えた成膜装置の真空室内に配置されたローラ70を介してガイドされ、この場合、ローラ70の回転方向は矢印で示されている。有利な形式で(これに限定されるものではないが)、コーティングつまり成膜はアルミニウムによって行われる。
【0027】
真空室11の内室12内に気化プレート15が配置されており、この気化プレート15は、例えば電圧源90によって加熱される加熱装置10によって加熱され得る。また、内室12の壁部も加熱され得る。有利な形式でノズル60は、測地学的に見て気化プレート15よりも高い位置に配置されている。
【0028】
気化室11は、供給管路20を介して、剥離剤のための貯蔵容器10に接続されている。剥離剤として、エステル(Ether)、グリコール(Glykole)、過フッ化炭化水素(Fluorkohlenwasserstoffe)、及び炭化水素(Kohlenwasserstoff)が使用される。有利には、パーフルオロポリエーテルオイル(Perfluor-Polyether-Oel)が使用される。剥離剤を気化室11内に供給するために、供給管路20内にポンプ30が配置されている。気化室11に供給しようとする剥離剤を精確に調量するために、ポンプ30は容積ポンプとして構成されている。気化室11の内室12と供給管路20との接続領域に、噴射装置40が設けられている。有利な形式で、この噴射装置40は安全弁として構成されている。気化室11への剥離剤の供給は、有利な形式で、雰囲気圧よりも高い圧力下で行われ、これによって、供給管路20内で剥離剤が蒸発することは避けられる。安全弁40は、測学的に見て気化プレート15の上で、かつノズル60の下に配置されている。
【0029】
本発明による装置の運転時に、噴射装置40を介して液状の剥離剤が気化されて気化室の内室内に噴射される。有利な形式で噴射は気化プレート15に向かって行われるか、又は少なくとも気化プレート15に向かう方向に行われる。
【0030】
気化室11内には例えば15mbarの比較的低い真空が維持され、これに対して、真空室内には、例えば10-3の典型的な高い真空が形成される。気化室11の内室12の壁部の少なくとも一部は、この真空内に存在する剥離剤の沸騰温度よりも著しく高い温度に維持される。有利な形式で、蒸発装置のすべての部分は、沸騰温度よりも熱い。そうでなければ、蒸発装置内の剥離剤は凝縮してしまうことになる。同様に気化プレート15は、真空内の剥離剤の沸騰温度よりも高い温度に維持される。
【0031】
ノズル60によって供給される剥離剤の均質性を高めるために、液状の剥離剤の気化が行われる内室12の領域の測地学的に上側に、ノズル60の内室側の開口をシールするためのラビリンスプレート50が設けられている。
【0032】
本発明による装置の運転中に、所定量の剥離剤が貯蔵容器10から、容積ポンプ30によって気化室11に供給され、弁40によって内室12内に噴射される。内室12の典型的な容積は、0.5〜5リットルの間の配置である。噴射される剥離剤の典型的な容積流は、0.2ml/分〜5ml/分である。
【0033】
噴射された量の剥離剤は、非常に迅速に、かつ十分完全に気化する。有利な形式で、噴射された量の剥離剤が直ちに、かつ完全に気化される真空フラッシング若しくはフラッシュ蒸発(Flashverdampfung)が行われる。次いで、基板80の領域にマスキングを施すために、ノズル60に剥離剤がガス状に供給される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離剤を、基板に向けられた少なくとも1つのノズルを備えた真空室の内室内で気化させ、真空室内で移動する又は移動可能な基板上に剥離剤の層を施すための方法において、
液状の剥離剤を、気化室の内室内に噴射して、気化させることを特徴とする、基板上に剥離剤の層を施すための方法。
【請求項2】
基板の所定の速度において、基板上の剥離剤の所定の層厚に相当する量の剥離剤を噴射する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
剥離剤を、供給管路を介して、有利には大気圧下にある貯蔵容器から供給する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
大気圧よりも高い圧力下にある気化室に剥離剤を供給する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
剥離剤の真空フラッシングを行う、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
剥離剤の噴射を、基板の運動開始時に開始し、かつ/または基板の運動終了時に終了させる、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
剥離剤の噴射量を、基板の速度に関連して変化させる、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
有利な形式で容積ポンプによって供給を行う、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
有利な形式で加熱可能な安全弁によって噴射を行う、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
内燃機関の運転段階中に内室を排気する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
内室及び/又はノズルの壁部を、剥離剤の沸騰温度よりも高い温度に加熱する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
運転段階中に、内室と真空室との間の気化室の圧力差を維持する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
剥離剤を、有利には内室の壁部とは無関係に加熱された、内室内の面に噴射する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
ノズルの内室側の開口を、ラビリンスプレートによって、剥離剤が噴射される領域に対して遮蔽する、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
真空室内で移動するか又は移動可能な基板に、剥離剤の層を施すための装置であって、前記真空室が少なくとも1つの金属蒸発装置を有しており、基板に向けられた少なくとも1つのノズルを備えた気化室が設けられており、剥離剤が供給管路を介して前記気化室の内室に供給可能である形式のものにおいて、
前記供給管路が噴射装置に接続されており、該噴射装置によって、液状の剥離剤が気化室の内室内に噴射可能又は噴射され、それによって液状の剥離剤が気化されるようになっていることを特徴とする、基板上に剥離剤の層を施すための装置。
【請求項16】
前記噴射装置が、有利には加熱可能な安全弁を有している、請求項15記載の装置。
【請求項17】
前記供給管路が、有利な形式で容積ポンプに接続されている、請求項16記載の装置。
【請求項18】
前記気化室の内室内に、有利には室壁とは無関係に加熱可能な気化面が配置されている、請求項15から17までのいずれか1項記載の装置。
【請求項19】
前記安全弁が、測地学的に見て、前記気化面の上側に配置されている、請求項15から18までのいずれか1項記載の装置。
【請求項20】
前記ノズルが、測地学的に見て、前記安全弁の上側に配置された、内室側の開口を有している、請求項15から19までのいずれか1項記載の装置。
【請求項21】
気化室の内室が、測地学的に見て、前記安全弁の上側に配置されており、また測地学的に見てノズルの内室側の開口の下側にラビリンスプレートが配置されている、請求項20記載の装置。
【請求項22】
前記供給管路が剥離剤のための貯蔵容器に接続されている、請求項15から21までのいずれか1項記載の装置。

【図1】
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【公表番号】特表2010−532426(P2010−532426A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513783(P2010−513783)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005428
【国際公開番号】WO2009/003701
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(502239900)ライボルト オプティクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (22)
【氏名又は名称原語表記】Leybold Optics GmbH
【住所又は居所原語表記】Siemensstrasse 88, D−63755 Alzenau, Germany
【Fターム(参考)】