説明

基板用の保持治具

【課題】既存のロボット装置によるハンドリングに支障を来たすことが少なく、自動化により基板製造の円滑化、迅速化、容易化を図ることのできる基板用の保持治具を提供する。
【解決手段】相互に着脱自在に密嵌する内リングと外リング2を備え、内リングと外リング2の間に、半導体ウェーハWを取り外し可能に粘着保持する可撓性の粘着保持層4の周縁部を挟持させる保持治具であり、内リング、外リング2、及び粘着保持層4に耐熱性を付与し、外リング2の外周面3下端部に、既存のロボット装置によりハンドリング可能なフレームフランジ10を一体成形し、フレームフランジ10の前部周縁、後部周縁、及び両側部周縁をそれぞれ切り欠いて直線辺11・12・13を形成し、フレームフランジ10の前部周縁両側には、直線辺11を挟む左右一対の位置決め溝14・15をそれぞれ形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等からなる基板用の保持治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハの製造工程においては、薄く脆い半導体ウェーハの加工や搬送の便宜を図る観点から、ダイシングフレーム等からなる基板用の保持治具が使用され、この保持治具に薄い半導体ウェーハが着脱自在に保持されている(特許文献1、2、3、4参照)。
この種の基板用の保持治具は、図示しないが、例えば相互に嵌合する内リングと外リングとを備え、これら内リングと外リングとの間に、半導体ウェーハを着脱自在に粘着保持する粘着保持層の周縁部が挟持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010‐186971号公報
【特許文献2】特開2010‐186972号公報
【特許文献3】特開2009‐54803号公報
【特許文献4】特開2005‐116588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来における基板用の保持治具は、以上のように構成され、内リングと外リングとの嵌合を解除すれば、使用済みの粘着保持層を容易に交換することができるものの、外リングが単なるリング形で持ち代が非常に少ないので、専用のロボット装置のハンドによる把持が困難であり、ハンドリングに支障を来たすおそれがある。その結果、半導体製造時の自動化をさらに向上させることができず、半導体製造の遅延化や煩雑化を招くという問題がある。
【0005】
係る問題を解消する手法としては、持ち代が少なくても確実に把持できるロボット装置を設計開発するという方法が考えられる。しかしながら、ロボット装置を新たに設計開発し、導入するとなると、既に使用しているロボット装置が無駄になり、新規の設備導入やコスト上昇という大きな問題が新たに生じることとなる。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、既存のロボット装置によるハンドリングに支障を来たすことが少なく、自動化により基板製造の円滑化、迅速化、容易化を図ることのできる基板用の保持治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、相互に着脱自在に嵌合する内リングと外リングとを備え、これら内リングと外リングとの間に、基板を取り外し可能に粘着保持する可撓性の粘着保持層の周縁部を挟持させる治具であって、
内リング、外リング、及び粘着保持層に耐熱性をそれぞれ付与し、
外リングの外周面に、既存のロボット装置によりハンドリング可能なフレームフランジを一体形成し、このフレームフランジの前部、後部、及び両側部をそれぞれ切り欠いて直線辺を形成し、フレームフランジの前部両側には、直線辺を挟む位置決め溝をそれぞれ形成したことを特徴としている。
【0008】
なお、内リングの外周面と外リングの内周面のいずれか一方に凹部を、他方には凸部をそれぞれ形成し、これら凹部と凸部とを粘着保持層の周縁部を介して嵌め合わせることができる。
また、内リングと外リングとを耐熱性の材料によりそれぞれ成形し、内リング、外リング、及び粘着保持層に250℃以上の耐熱性をそれぞれ付与することができる。
【0009】
また、外リングを基板収納容器の容器本体内に収納可能な大きさに形成し、フレームフランジの両側部を容器本体の左右一対の支持片に支持させることが可能である。
さらに、一対の位置決め溝の形状を互いに異なる開口幅の平面略V字形とし、少なくともいずれか一方の位置決め溝を基板用加工装置の位置決めピンに嵌合することが可能である。
【0010】
ここで、特許請求の範囲における内リングと外リングとは、同一の材料で形成しても良いし、異なる材料で形成しても良い。これら内リングと外リングとは、完全なリング形でも良いし、略リング形と認められる類似の形でも良い。粘着保持層は、透明、不透明、半透明のいずれでも良く、内リングの開口した表面あるいは裏面を被覆する。また、基板には、φ200、300、450mmの半導体ウェーハ(シリコンウェーハ)や液晶基板等が含まれる。
【0011】
基板用の保持治具は、少なくとも半導体ウェーハの製造工程、具体的には、バックグラインド工程、ハンダリフロー工程、ダイシング工程等で使用することができる。この保持治具は基板収納容器の容器本体に収納できることが好ましいが、この場合の容器本体は、トップオープンタイプ、フロントオープンタイプ、ボトムオープンタイプのいずれでも良く、しかも、容器に収納されるカセットが含まれる。
【0012】
本発明によれば、保持治具に粘着保持された基板を搬送したい場合には、既存のロボット装置に保持治具のフレームフランジを支持させれば、基板を所定の箇所に搬送することができる。この際、外リングの外周面から突き出たフレームフランジやその複数の直線辺をロボット装置に支持させるので、ロボット装置が掴みやすくなり、保持治具の強固な支持が期待できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、既存のロボット装置によるハンドリングに支障を来たすことが少なく、自動化により基板製造の円滑化、迅速化、容易化を図ることができるという効果がある。
【0014】
また、請求項2記載の発明によれば、粘着保持層の周縁部を挟む内リングや外リングが外れ、脱落するのを簡易な構成で防止することができる。また、凹部と凸部とに粘着保持層の周縁部が緊張状態に咬合されるので、粘着保持層の弛緩を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る基板用の保持治具の実施形態における使用状態を模式的に示す平面説明図である。
【図2】本発明に係る基板用の保持治具の実施形態における使用状態を模式的に示す断面説明図である。
【図3】本発明に係る基板用の保持治具の実施形態における内リングと外リングとの嵌合状態を模式的に示す平面説明図である。
【図4】本発明に係る基板用の保持治具の実施形態における外リングを模式的に示す平面説明図である。
【図5】図4の正面図である。
【図6】図4の背面図である。
【図7】図4の側面図である。
【図8】図4の他の側面図である。
【図9】本発明に係る基板用の保持治具の実施形態における外リングの一方の位置決め溝を模式的に示す要部平面説明図である。
【図10】本発明に係る基板用の保持治具の第2の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図11】本発明に係る基板用の保持治具の第2の実施形態における使用状態を模式的に示す断面説明図である。
【図12】本発明に係る基板用の保持治具の第3の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における基板用の保持治具は、図1ないし図9に示すように、相互に嵌合する別体の内リング1と外リング2とを備え、これら内リング1と外リング2との間に、薄く脆い半導体ウェーハWを取り外し可能に保持する粘着保持層4の周縁部5を挟持させる保持治具であり、外リング2に、既存のロボット装置によりハンドリング可能なフレームフランジ10を一体化するようにしている。
【0017】
内リング1、外リング2、及び粘着保持層4は、保持治具がハンダリフロー工程のハンダリフロー装置で高温の環境下に晒される関係上、少なくとも250℃以上の耐熱性がそれぞれ付与される。
【0018】
内リング1は、図2や図3に示すように、所定の成形材料により半導体ウェーハWよりも拡径の平面リング形に射出成形され、外リング2と同じ高さ(例えば、9mm程度)に揃えて形成されており、外側から拡径の外リング2が着脱自在に隙間なく密嵌される。この内リング1の所定の成形材料としては、特に限定されるものではないが、例えば耐熱性、耐湿性、高周波特性等に優れる液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルイミド(PEI)、耐熱性を有する特殊なナイロン(PA)、熱硬化ポリエステル、エポキシ樹脂等があげられる。内リング1は、半導体ウェーハWがφ200mmタイプの場合、φ230mm、厚さ5mm程度の大きさを有する。
【0019】
外リング2は、図1ないし図4等に示すように、所定の成形材料により内リング1よりも拡径の平面リング形に射出成形され、内リング1の外周面に着脱自在に密嵌する。この外リング2の所定の成形材料としては、特に限定されるものではないが、例えば耐熱性、耐湿性、高周波特性等に優れる液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルイミド(PEI)、耐熱性を有する特殊なナイロン(PA)、熱硬化ポリエステル、エポキシ樹脂等が該当する。外リング2は、半導体ウェーハWがφ200mmタイプの場合、φ250mm、厚さ5mm程度の大きさを有する。
【0020】
粘着保持層4は、図1や図2に示すように、所定の材料により可撓性、自己粘着性、光透過性等を有する平面円形の薄膜に形成され、内リング1の外周面と外リング2の内周面との間に着脱自在に挟持されることにより、内リング1の開口した表面を緊張状態で被覆してその露出した表面に半導体ウェーハWを水平に粘着保持する。この粘着保持層4の所定の材料としては、特に限定されるものではないが、例えば耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気特性等に優れるシリコーン系のエラストマー等があげられる。
【0021】
フレームフランジ10は、図1ないし図9に示すように、2mm程度の厚さを有する平坦な平面略リング形に形成され、外リング2の外周面3の下端部に一体成形されており、図示しない既存のロボット装置の持ち代としてハンドリングされる。このフレームフランジ10は、外リング2と共に射出成形される関係上、外リング2と同様の成形材料により成形され、半導体ウェーハWがφ200mmタイプの場合、φ296mm、前後の長さ276mm、左右の長さ276mm程度の大きさとされる。
【0022】
フレームフランジ10の前部周縁、後部周縁、及び両側部周縁は、それぞれ周方向に直線的に切り欠かれることにより、ロボット装置のハンドリングや位置決めに資する直線辺11・12・13に形成される。また、フレームフランジ10の前部周縁両側には、直線辺11を左右から挟む左右一対の位置決め溝14・15がそれぞれ凹み形成され、この一対の位置決め溝14・15の形状が相互に開口幅の異なる平面略V字形とされており、この一対の位置決め溝14・15のうち、狭い開口の位置決め溝15が各種半導体加工装置の位置決めピン20に嵌合するよう機能する。
【0023】
左側の位置決め溝14は、例えば120°の角度で広く拡開し、直線辺11寄りの斜辺が直線辺11の端部に傾斜した面取り辺16を介して一体接続される。これに対し、右側の位置決め溝15は、図9に示すように、例えば60°の角度で狭く拡開し、直線辺11側の斜辺が直線辺11の端部に傾斜した面取り辺16を介して一体接続される。各面取り辺16は、フレームフランジ10の直線辺11から150°の角度で徐々に傾斜する。
【0024】
なお、フレームフランジ10と一体の外リング2は図示しない基板収納容器の容器本体内に収納可能な大きさに形成され、フレームフランジ10の両側部は容器本体の相対向する左右一対の支持片に支持されることが汎用性向上の観点から好ましい。
【0025】
上記構成において、半導体の製造工程で薄い半導体ウェーハWに各種の加工や処理を施したい場合には、組み立てた保持治具の粘着保持層4の表面に薄い半導体ウェーハWを押圧して粘着保持させ、所定の半導体加工装置の位置決めピン20にフレームフランジ10の位置決め溝15を嵌合すれば、脆く反りやすい半導体ウェーハWの剛性を確保しながら、バックグラインド工程、ハンダリフロー工程、ダイシング工程等で半導体ウェーハWに各種の加工や処理を施すことができる。
【0026】
この際、内リング1、外リング2、及び粘着保持層4が予め耐熱性を有しているので、ハンダリフローの作業時に、耐熱性を有する別の保持治具に半導体ウェーハWを移し替える必要がない。また、使用して汚れた粘着保持層4を交換したい場合には、内リング1と外リング2との嵌合を解除すれば、粘着保持層4を端から徐々に剥離する場合よりも、速やかに粘着保持層4を交換することができる。
【0027】
次に、保持治具に粘着保持させた半導体ウェーハWを搬送したい場合には、ロボット装置のハンドに保持治具のフレームフランジ10を把持させれば、半導体ウェーハWを所定の箇所に搬送することができる。この際、外リング2の湾曲した外周面3から外方向に長く突き出たフレームフランジ10やその複数の直線辺11・12・13をロボット装置のハンドに把持させれば、保持治具をハンドが掴みやすくなり、確実な把持が期待できる。
【0028】
上記構成によれば、外リング2の外周面3にフレームフランジ10を一体成形して持ち代を拡大するので、既に使用している専用のロボット装置のハンドによる把持が実に容易となり、ハンドリングに支障を来たすおそれが全くない。したがって、新規の大型設備を導入する必要がなく、コストの低減をも図ることができる。また、半導体製造時の自動化をさらに向上させることができ、半導体製造の遅延化や煩雑化を抑制防止することができる。
【0029】
また、基板収納容器の容器本体に半導体ウェーハWを保持治具と共に収納することができるので、半導体ウェーハWの汚染や破損を防止したり、搬送の便宜を図ることができる。さらに、一対の位置決め溝14・15の形状が相互に異なるので、保持治具の方向性や識別性を向上させ、作業時の誤認を防ぐことが可能となる。
【0030】
次に、図10、図11は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、内リング1の外周面と外リング2の内周面との間に粘着保持層4の周縁部5を着脱自在に挟持させ、内リング1の開口した裏面を粘着保持層4により緊張被覆してその表面に半導体ウェーハWを粘着保持したり、保持治具を上下逆にして粘着保持層4の露出した表面に半導体ウェーハWを粘着保持するようにしている。
【0031】
上記構成において、上下逆にした保持治具の粘着保持層4に半導体ウェーハWを粘着保持させ、この半導体ウェーハWに各種の加工や処理を施したい場合には図11に示すように、半導体加工装置のテーブル21の位置合わせ溝22に保持治具を嵌入してフレームフランジ10をテーブル21上に露出させ、かつテーブル21上に平坦な粘着保持層4を近接対向させれば、半導体ウェーハWの姿勢が安定し、半導体ウェーハWに各種の加工や処理を円滑に施すことができる。その他の部分については、上記実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0032】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、必要に応じ、保持治具の使用態様を自由に変更することができるのは明らかである。
【0033】
次に、図12は本発明の第3の実施形態を示すもので、この場合には、内リング1の外周面に凹部6を、外リング2の内周面には凸部7をそれぞれエンドレスのリング形に形成し、これら凹部6と凸部7とを粘着保持層4の周縁部5を介して嵌合させるようにしている。その他の部分については、上記実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0034】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、相互に対向する凹部6と凸部7との密嵌により、内リング1や外リング2の脱落を未然に防止することができるのは明白である。さらに、凹部6と凸部7とに粘着保持層4の周縁部5が屈曲して緊張状態に咬合されるので、粘着保持層4の抜けや弛緩の防止が期待できる。
【0035】
なお、内リング1の外周面や外リング2の内周面、フレームフランジ10の下面に鏡面加工を選択的に施して粘着保持層4の剥離等を容易にしても良い。また、外リング2やフレームフランジ10の少なくとも表裏いずれかの面に梨地シボ加工を選択的に施して意匠性や質感を向上させても良い。さらに、内リング1の外周面と外リング2の内周面のいずれか一方に凹部6を、他方には凸部7をそれぞれ対設し、これら凹部6と凸部7とを粘着保持層4の周縁部5を介して緊張密嵌し、内リング1や外リング2の脱落を防止するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る基板用の保持治具は、半導体や液晶製造等の分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 内リング
2 外リング
3 外周面
4 粘着保持層
5 周縁部
6 凹部
7 凸部
10 フレームフランジ
11 直線辺
12 直線辺
13 直線辺
14 位置決め溝
15 位置決め溝
16 面取り辺
20 位置決めピン
21 テーブル
22 位置合わせ溝
W 半導体ウェーハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に着脱自在に嵌合する内リングと外リングとを備え、これら内リングと外リングとの間に、基板を取り外し可能に粘着保持する可撓性の粘着保持層の周縁部を挟持させる基板用の保持治具であって、
内リング、外リング、及び粘着保持層に耐熱性をそれぞれ付与し、
外リングの外周面に、既存のロボット装置によりハンドリング可能なフレームフランジを一体形成し、このフレームフランジの前部、後部、及び両側部をそれぞれ切り欠いて直線辺を形成し、フレームフランジの前部両側には、直線辺を挟む位置決め溝をそれぞれ形成したことを特徴とする基板用の保持治具。
【請求項2】
内リングの外周面と外リングの内周面のいずれか一方に凹部を、他方には凸部をそれぞれ形成し、これら凹部と凸部とを粘着保持層の周縁部を介して嵌め合わせるようにした請求項1記載の基板用の保持治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−59749(P2012−59749A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198686(P2010−198686)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】