説明

場合により水素化された低分子量ニトリルゴムを含有する加硫性ポリマー組成物

本発明は、非常に低分子量の場合により水素化されたニトリルゴムと、少なくとも1種の架橋剤と、場合により少なくとも1種のフィラーと、場合により1種またはそれ以上のさらなるゴム用助剤とを含む加硫性ポリマー組成物、このような加硫性ポリマー組成物の調製方法、さらにこのようなポリマー組成物の加硫方法、および結果として得られる、好ましくは造形品としての加硫物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも1種の非常に低分子量の場合により水素化されたニトリルゴムと、少なくとも1種の架橋剤と、場合により少なくとも1種のフィラーと、場合によりさらなるゴムコンパウンド用助剤とを含有する加硫性ポリマー組成物、このようなポリマー組成物を加硫する方法、およびこの加硫性ポリマー組成物を加硫することにより得ることができる加硫物に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルゴム(通称「NBR」)は水素化ニトリルゴム(通称「HNBR」)を製造するための出発物質として使用される。ニトリルゴムは、少なくとも1種の不飽和ニトリルと、少なくとも1種の共役ジエンと、場合によりさらなる共重合可能なコモノマーとの共重合体である。HNBRは、通常、NBRの選択的水素化により調製される。共重合されたジエン単位の水素化率は、通常、50〜100%の範囲にある。
【0003】
NBRおよびHNBRは魅力的な特性プロファイル有する特殊ゴムである。特にHNBRは、非常に優れた耐熱性、極めて高い耐オゾンおよび耐薬品性、ならびに極めて優れた耐油性を有している。このゴムの機械的性質が非常に高い(特に耐摩耗性が高い)ことを加味すると、HNBRもNBRも自動車産業(シール、ホース、軸受パッド)、石油産業(ステーター、ウェルヘッドシール、バルブプレート)、電気産業(ケーブル外被)、機械工学関連産業(車輪、ローラー)、および造船業(配管用シール材、継手)において幅広い用途に使用されてきたことは驚くに値しない。
【0004】
市販のグレードのHNBRの多くはムーニー粘度(ML(1+4)100℃)が55〜120の範囲にあり、これは数平均分子量M(測定方法:ポリスチレン換算によるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC))が約200000〜700000であることに相当する。分子量分布の幅に関する情報を与える多分散指数PDI(PDI≒M/M;ここでMは重量平均分子量であり、Mは数平均分子量である)は3を超える場合が多い。残存二重結合含有量は、通常は1〜18%(IR分光法により測定)の範囲にある。
【0005】
NBRおよびHNBRはムーニー粘度が比較的高いため加工には厳しい制限が伴う。多くの用途においては、分子量がより低く、したがってムーニー粘度がより低いNBRまたはHNBRグレード、特に液体のNBRまたはHNBRグレードが望ましい。こうすることにより加工性が確実に向上するであろう。
【0006】
特にHNBRに関しては、ポリマーの分子量を低下させる、すなわちHNBRの鎖長を分解により短縮する数多くの試みが過去になされてきた。その例を挙げると、例えばロールミルまたはスクリュー装置(欧州特許第0419952A号明細書)を用いて熱機械処理(素練りすなわち機械的な破壊)を施すことによって分子量を低下させることができる。しかしながら、この熱機械的な分解には、一部が酸化することによって分子にヒドロキシル基、ケト基、カルボキシル基、エステル基等の官能基が組み込まれ、さらにはポリマーの微細構造が実質的に変化してしまうという欠点がある。これによりポリマーの特性が不利に変化する。さらにこの種の手法は、その性質上、幅広い分子量分布を有するポリマーを生成させてしまう。
【0007】
現時点で入手可能なゴムと同等の微細構造を有すると同時に、ムーニー粘度が低く加工性が改善されている水素化ニトリルゴムを現在の技術で製造することは困難である。NBRを水素化してHNBRを製造すると原料ポリマーのムーニー粘度は増大する。このムーニー増大比(Mooney Increase Ratio)(MIR)は、ポリマーグレード、水素化率、および供給原料の性質に応じて通常は約2であるか2を超えることさえある。さらに、低粘度のHNBR供給原料を用いようとしても、NBR製造そのものに付随する制限によりその範囲が指定されてしまう。
【0008】
(特許文献1)、(特許文献2)、および(特許文献3)においては、低ムーニーHNBRに加えて上記低ムーニーHNBRを製造する方法が開示されている。この種の方法は、出発物質であるニトリルゴムをオレフィンメタセシスにより分解し、続いて水素化することを含むものである。出発物質であるニトリルゴムは、第1ステップにおいて、共オレフィン(co−olefin)およびオスミウム、ルテニウム、モリブデン、またはタングステン錯体をベースとする特定の触媒の任意的な存在下に反応に付され、第2ステップにおいて水素化される。得られる水素化ニトリルゴムの重量平均分子量(Mw)は典型的には30000〜250000の範囲にあり、ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)は3〜50の範囲にあり、多分散指数PDIは2.5未満であり、これは(特許文献2)に従う経路により得ることができる。
【0009】
(特許文献3)には、分子量(M)が25000〜200000g/molの範囲にあり、ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)が25未満であり、かつMWD(すなわち多分散指数PDI)が2.5未満であるニトリルゴムが開示されている。この分子量分布の狭い低分子量ニトリルゴムは、少なくとも1種の共オレフィンおよび少なくとも1種の周知のメタセシス触媒の存在下に調製される。(特許文献3)の実施例においては、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド(グラブスメタセシス触媒)が使用されており、メタセシス後に得られるNBRの分子量(Mw)は54000〜180000の範囲にある。ポリディスダーシティ(polydisdersity)指数は2.0〜2.5である。
【0010】
(特許文献4)においては、共オレフィンの非存在下にニトリルブタジエンゴムをメタセシスに付し、場合により、結果として得られたメタセシスされたNBRを次いで水素化することによって(水素化)ニトリルゴムポリマーを製造する方法が開示されている。結果として得られる場合により水素化されたニトリルゴムは、分子量Mが20000〜250000の範囲にあり、ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)が1〜50の範囲にあり、MWD(すなわち多分散指数PDI)が2.6未満である。(特許文献5)の実施例によれば、グラブス第2世代触媒が使用され、メタセシス後に得られるNBRの分子量Mは119000〜185000の範囲にあり、ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)は20または30であり、ポリディパーシティ(polydipersity)指数は2.4または2.5である。
【0011】
(特許文献6)には、基質であるNBRを同時にメタセシス反応および水素化反応に付すことによる、低分子量水素化ニトリルゴムの調製方法が開示されている。この反応は周知のメタセシス触媒の存在下に行われる。生成した水素化ニトリルゴムの分子量Mは20000〜250000の範囲にあり、ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)は1〜50の範囲にあり、MWD(すなわち多分散指数PDI)は2.6未満である。(特許文献6)においてはグラブス第2世代触媒が用いられており、得られるHNBRの分子量Mは178000であり、PDIは2.70である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第02/100905A号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/100941A号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2003/002613A号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願第2004/0123811A1号明細書
【特許文献5】米国特許出願第2004/0132891A1号明細書
【特許文献6】国際公開第2005/080456A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した文書には、分子量が非常に低い液体ニトリルゴムを含有する加硫性ポリマー組成物、その調製および使用は開示されていない。特に、分子量が非常に低いゴムの単離に有効な方法さえどの文書にも開示されていない。ゴムが低分子量であり、ゴムの粘着性が極端に高いことから、アルコール(メタノール、イソプロパノール、エタノール等)または水蒸気/水を用いた凝固等の標準的な単離技法を用いることは、生成物が損失したり最終仕上げが長時間に及ぶことになるため有利ではない。
【0014】
メタセシス触媒は、特に、国際公開第96/04289A号パンフレットおよび国際公開第97/06185A号パンフレットより周知である。これらは基本的に以下の構造:
【化1】

(式中、Mは、オスミウムまたはルテニウムであり、RおよびRは幅広い構造を有する有機基であり、XおよびXは、アニオン性配位子であり、LおよびLは、無電荷の電子供与体である)を有する。本文献におけるこの種のメタセシス触媒関する「アニオン性配位子」という慣用用語は、金属中心と別にして考えた場合に、閉じた電子殻によって常時負に帯電している配位子を表す際に使用される。
【0015】
ニトリルゴムのメタセシス反応は、典型的には、使用される触媒を失活させず、かつ反応にいかなる他の悪影響も与えない好適な溶媒中で実施される。好ましい溶媒としては、これらに限定されるものではないが、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、およびシクロヘキサンが挙げられる。好ましい溶媒の1つがクロロベンゼンである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、
(i)分子量Mが50000g/mol以下であり、かつ多分散指数PDIが2.0未満である少なくとも1種の場合により水素化されたニトリルゴムと、
(ii)少なくとも1種の架橋剤と
を含む加硫性ポリマー組成物に関する。
【0017】
さらに本発明は、上の成分(i)および(ii)を混合することを含む、この種の加硫性ポリマー組成物の調製方法に関する。本発明はまた、この種の加硫性組成物を好ましくは射出成形法により加硫することを含む加硫物の調製方法にも関する。さらに本発明は、この種の加硫性組成物をベースとする、好ましくは造形品の形態にある加硫物に関する。
【0018】
好ましい実施形態においては、加硫性ポリマー組成物は、
(i)分子量Mが50000g/mol以下であり、かつ多分散指数が2.0未満である少なくとも1種の場合により水素化されたニトリルゴムと、
(ii)少なくとも1種の架橋剤と、
(iii)少なくとも1種のフィラーと
を含む。
【0019】
さらなる好ましい実施形態においては、加硫性ポリマー組成物は、
(i)分子量Mが50000g/mol以下であり、かつ多分散指数が2.0未満である少なくとも1種の場合により水素化されたニトリルゴムと、
(ii)少なくとも1種の架橋剤と、
(iii)少なくとも1種のフィラーと、
(iv)1種またはそれ以上のさらなる助剤化合物と
をさらに含む。
【0020】
さらなる好ましい実施形態においては、加硫性ポリマー組成物は、
(i)分子量Mが50000g/molまでであり、かつ多分散指数が2.0未満である少なくとも1種の場合により水素化されたニトリルゴムと、
(ii)少なくとも1種の架橋剤と、
(iii)少なくとも1種のフィラーと、
(iv)助剤化合物としての少なくとも1種の加硫用共架橋剤(vulcanization coagent)、より好ましくは、アクリル酸亜鉛、ジアクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)、ブタンジオールジメタクリレートBDMA)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、およびトリアリルイソシアネート(TAIC)からなる群から選択されるものと
を含む。
【発明の効果】
【0021】
溶媒中、金属触媒錯体の存在下において出発物質であるニトリルゴムのメタセシス反応を行うことにより、分子量(M)が50000g/mol以下、好ましくは10000〜50000g/mol、より好ましくは12000〜40000g/molであり、多分散性(M/M)が2.0未満であるポリマーが得られ、このポリマーを機械的脱気装置と接触させる方法によってポリマーを溶媒から単離できることが見出されたことによって、本発明による加硫性ポリマー組成物がここで初めて入手可能になった。続いて水素化反応を行うことにより、分子量(M)が50000g/mol以下、好ましくは10000〜50000g/mol、より好ましくは12000〜40000g/molであり、多分散性(M/M)が2.0未満である水素化ニトリルゴムをさらに得ることが可能である。
【0022】
本明細書全体を通して述べる「M」は重量平均分子量を意味し、「M」は数平均分子量を意味する。数平均分子量Mおよび重量平均分子量Mの測定はDlN 55672−1に準拠してGPCにより行われる。本明細書を全体を通して述べるムーニー粘度(ML(1+4)100℃)に関しては、このムーニー粘度(ML(1+4)100℃)の測定はASTM標準D 1646に準拠して行われる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】分岐状の金型に50バールの充填圧力で充填された実施例46〜49の加硫された試料を例示する写真を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
加硫性ポリマー組成物:
ここで本発明による加硫性ポリマー組成物およびその成分について詳細に説明するが、これは例示を目的とするものであって限定を目的とするものではない。すべての範囲には、開示された最大および最小点の任意の組合せが包含されるとともに、その中の任意の中間範囲(本明細書に具体的に記載されていてもいなくてもよい)が包含される。
【0025】
本発明による加硫性組成物は有利な低粘度を与え、100℃の温度、1〜200s−1の範囲の剪断速度で測定された粘度が典型的には50000Pa・sまで、好ましくは10000Pa・s未満、より好ましくは1000Pa・s未満である。剪断速度および温度に依存するこのような粘度の測定は、レオメーター(MCR 301(Anton Paar、独国))を用いて、プレート/プレート構成(プレートの直径:25mm)で行われる。このように粘度が低いことを考慮すると、本発明による加硫性組成物は顕著な流動性を示し、容易な加工を可能にし、射出成形技法、特に液状樹脂射出成形法に理想的な適性を有する。この新規な加硫性ポリマー組成物を用いることにより、従来技術組成物でこれまで観測されているものよりも短い時間枠で複雑な設計の金型に管理しやすい圧力および温度で完全に充填することが可能になる。このことは特に、このような本発明による加硫性組成物が1種またはそれ以上のフィラーをさらに含む場合に顕著になる。本発明による加硫性組成物を用いると、フィラーの配合量をより高くしても、フィラー配合量がより低い場合により水素化されたより粘性の高いニトリルゴムをベースとする他の組成物に依然として匹敵する良好な加工挙動を維持できる可能性がある。
【0026】
この新規な加硫性ポリマー組成物に流動性改良剤を存在させることは必ずしも必要ではないことが判明した。さらに、本発明による加硫性組成物は、より粘度の高い場合により水素化されたニトリルゴムをベースとする市販の加硫性組成物に通常は必要とされる可塑剤を使用しなくてさえも、インプレイスガスケット(「IPG」)の製造および硬さがショアA40未満である軟質シール材の製造に理想的な適性を有している。
【0027】
本発明による加硫性ポリマー組成物を加硫することにより得られる加硫物は極めて優れた動的特性を示すとともに、酸化および熱劣化による老化に対する安定性および耐性が、実質的により高い粘度を有する場合により水素化されたニトリルゴムをベースとする他の周知の加硫物に匹敵する。極めて低い分子量を有する類似の市販シリコーンと比較すると、本発明の加硫性組成物は油および他の無極性媒体に対する耐性が改善されていることから、商業的に有利であることが明らかである。
【0028】
成分(i):場合により水素化されたニトリルゴム
分子量Mが50000g/molまでであり多分散指数が2.0未満である場合により水素化されたニトリルゴム(新規なポリマー組成物の成分(i))の特徴は、レオメーターMCR 301(AntonPaar、独国)を用いてプレート/プレート構成(プレートの直径:25mm)で剪断速度および温度に応じて測定される粘度で表すこともできる。場合により水素化されたニトリルゴムは、100℃の温度および1〜200s−1の範囲の剪断速度において、典型的には粘度が50000Pa・sまで、好ましくは10〜10000Pa・sの範囲、より好ましくは10〜1000Pa・sの範囲にあり、したがって、例えば実質的に粘度がより高い市販の水素化ニトリルゴムよりも約1000〜10000倍容易に流動する。後者はいわゆるムーニー粘度(ML(1+4)100℃)として測定される値が例えば約39である。
【0029】
分子量Mが50000g/molまでであり多分散指数が2.0未満である場合により水素化されたニトリルゴムは、
a)出発物質であるニトリルゴムを、均一触媒および場合により共オレフィンの存在下かつ溶媒の存在下におけるメタセシス反応により低分子量化し(このメタセシスは少なくとも1種の遷移金属錯体触媒の存在下に実施される)、このニトリルゴムを機械的脱気装置と接触させる処理によってゴムを溶媒から単離し、
b)水素化ニトリルゴムの場合はメタセシスステップa)の後または同時にさえ実施することができる水素化反応を行う
ことにより調製して得ることができる。
【0030】
本特許出願および発明においては、上または以下に一般用語または好ましい範囲で与えられる基の定義、変数、または説明はすべてあらゆる様式で互いに組み合わせることができる。すなわち、それぞれの範囲および好ましい範囲の組合せが包含される。
【0031】
本特許出願においてメタセシス触媒または一般式(I)の塩に関し使用される「置換された」という用語は、指定された基または原子上の水素原子が、各場合において指定された基のうちの1種で置き換えられていることを意味する。ただし、指定された原子は原子価が超過しておらず、かつ置換によって得られる化合物は安定なものである。
【0032】
触媒:
メタセシスステップa)において使用される触媒または触媒前駆体は、遷移金属カルベン錯体または反応条件下で遷移金属カルベンを形成する遷移金属錯体化合物またはアルキル化剤と併用される遷移金属塩である。これらの触媒はイオン性または非イオン性のいずれであってもよい。
【0033】
本発明の方法に使用することができる好適な触媒は、一般式(I)
【化2】

(式中、Mは、オスミウムまたはルテニウムであり、
R基は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれアルキル、好ましくはC〜C30アルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜C20シクロアルキル、アルケニル、好ましくはC〜C20アルケニル、アルキニル、好ましくはC〜C20アルキニル、アリール、好ましくはC〜C24アリール、カルボキシレート、好ましくはC〜C20カルボキシレート、アルコキシ、好ましくはC〜C20アルコキシ、アルケニルオキシ、好ましくはC〜C20アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、好ましくはC〜C20アルキニルオキシ、アリールオキシ、好ましくはC〜C24アリールオキシ、アルコキシカルボニル、好ましくはC〜C20アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、好ましくはC〜C30アルキルアミノ、アルキルチオ、好ましくはC〜C30アルキルチオ、アリールチオ、好ましくはC〜C24アリールチオ、アルキルスルホニル、好ましくはC〜C20アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル、好ましくはC〜C20アルキルスルフィニル基であり、それぞれ場合により1種またはそれ以上のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、またはヘテロアリール基で置換されていてもよく、
およびXは、同一であっても異なっていてもよい2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
Lは、同一であっても異なっていてもよい配位子、好ましくは無電荷の電子供与体を表す)の化合物である。
【0034】
一般式(I)の触媒において、XおよびXは同一であっても異なっていてもよい2個の配位子であり、好ましくはアニオン性配位子である。
【0035】
代表的な式(I)の各種触媒が、例えば、国際公開第96/04289A号パンフレットおよび国際公開第97/06185A号パンフレットより基本的に周知である。
【0036】
一般式(I)の両方の配位子Lは、特に好ましくは、同一または異なるトリアルキルホスフィン配位子であり、少なくとも1個のアルキル基は第2級アルキル基またはシクロアルキル基、好ましくはイソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、ネオペンチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである。
【0037】
特に好ましくは、一般式(I)の1個の配位子Lはトリアルキルホスフィン配位子であり、少なくとも1個のアルキル基は第2級アルキル基またはシクロアルキル基、好ましくはイソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、ネオペンチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである。
【0038】
本発明の触媒系に好ましく、一般式(I)に適合する2種の触媒が、構造(III)(グラブス(I)触媒)および(IV)(グラブス(II)触媒)であり、ここでCyはシクロヘキシルである。
【化3】

【0039】
本発明の方法に使用することができるさらに好適なメタセシス触媒は、一般式(V)
【化4】

(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
Yは、酸素(O)、硫黄(S)、N−R基、またはP−R基であり、ここでRは下記と同義であり、
およびXは、同一であっても異なっていてもよい配位子であり、
は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル基であり、それぞれ場合により1種またはそれ以上のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、またはヘテロアリール基で置換されていてもよく、
、R、R、およびRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、有機または無機基であり、
は、水素またはアルキル、アルケニル、アルキニル、もしくはアリール基であり、
Lは、式(I)と同義の配位子である)の触媒である。
【0040】
一般式(V)の触媒は基本的に周知である。この種類の触媒の代表的なものが、Hoveydaらによる米国特許出願第2002/0107138A1号明細書およびAngew Chem.Int.Ed.2003,42,4592に記載されている触媒ならびにGrelaによる国際公開第2004/035596号パンフレット、Eur.J.Org.Chem 2003,963〜966、およびAngew.Chem.Int.Ed.2002,41,4038、ならびにJ.Org.Chem.2004,69,6894〜96、およびChem.Eur.J 2004,10,777〜784に記載されている触媒である。触媒は市販されているかあるいは引用した参考文献に記載されている通りに調製することができる。
【0041】
本発明の方法に使用することができる特に好適な触媒は、一般式(VI)
【化5】

(式中、
M、L、X、X、R、R、R、R、およびRは、一般式(V)に関し与えられた一般的な意味、好ましい意味、および特に好ましい意味を有することができる)の触媒である。
【0042】
これらの触媒は、例えば米国特許出願第2002/0107138A1号明細書(Hoveydaら)より基本的に周知であり、当該明細書に示されている調製方法により得ることができる。
【0043】
特に好ましくは、一般式(VI)の触媒において、
Mは、ルテニウムであり、
およびXは、両方共ハロゲン、特に両方共塩素であり、
は、直鎖または分岐のC〜C12アルキル基であり、
、R、R、Rは、一般式(V)に関し与えられた一般的な意味および好ましい意味を有し、
Lは、一般式(V)に関し与えられた一般的な意味および好ましい意味を有する。
【0044】
その中でも非常に好ましくは、一般式(VI)の触媒において、
Mは、ルテニウムであり、
およびXは、両方共塩素であり、
は、イソプロピル基であり、
、R、R、Rは、すべて水素であり、
Lは、置換または無置換の式(IIa)または(IIb)
【化6】

(式中、
、R、R10、R11は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、直鎖または分岐のC〜C30アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C24アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、C〜C24アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C24アリールチオ、C〜C20アルキルスルホニル、C〜C20アルキルスルホネート、C〜C24アリールスルホネート、またはC〜C20アルキルスルフィニルである)のイミダゾリジン基である。
【0045】
本発明の触媒系用の一般構造式(VI)に適合する触媒として、式(VII)
【化7】

を有するものが特に好ましく、ここでMesは各場合において2,4,6−トリメチルフェニル基である。この触媒は文献で「ホベイダ(Hoveyda)触媒」とも称される。
【0046】
一般構造式(VI)に適合するさらに好適な触媒は、以下の式(VIII)、(IX)、(X)、(XI)、(XII)、(XIII)、(XIV)、および(XV)
【化8A】

【化8B】

を有するものであり、ここでMesは各場合において2,4,6−トリメチルフェニル基である。
【0047】
本発明の方法に用いることができるさらに好適な触媒は、一般式(XVI)
【化9】

(式中、
M、L、X、X、R、およびRは、式(V)に関し与えられた一般的な意味および好ましい意味を有し、
12は、同一であっても異なっていてもよく、式(V)のR、R、RおよびR基に関し与えられた一般的な意味および好ましい意味を有し(但し水素を除く)、
nは、0、1、2、または3である)の触媒である。
【0048】
これらの触媒は、例えば国際公開第2004/035596A号パンフレット(Grela)より基本的に周知であり、当該明細書に示されている調製方法に従い得ることができる。
【0049】
特に好ましくは、一般式(XVI)の触媒において、
Mは、ルテニウムであり、
およびXは、両方共ハロゲン、特に両方共塩素であり、
は、直鎖または分岐のC〜C12アルキル基であり、
12は、一般式(V)に関し与えられた一般的な意味を有し、
nは、0、1、2、または3であり、
は、水素であり、
Lは、一般式(V)に関し与えられた一般的な意味を有する。
【0050】
その中でも非常に好ましくは、一般式(XVI)の触媒において、
Mは、ルテニウムであり、
およびXは、両方共塩素であり、
は、イソプロピル基であり、
nは、0であり、
Lは、式(IIa)または(IIb)
【化10】

(式中、
、R、R10、R11は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、直鎖または分岐、環状または非環状のC〜C30アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C24アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、C〜C24アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C24アリールチオ、C〜C20アルキルスルホニル、C〜C20アルキルスルホネート、C〜C24アリールスルホネート、またはC〜C20アルキルスルフィニルである)の置換または無置換のイミダゾリジン基である。
【0051】
一般式(XVI)に適合する特に好適な触媒は、構造(XVII)
【化11】

を有するものであり、文献では「グレラ(Grela)触媒」とも称されている。
【0052】
一般式(XVI)に適合するさらに好適な触媒は、構造(XVIII)
【化12】

を有するものであり、ここでMesは各場合において2,4,6−トリメチルフェニル基である。
【0053】
代替的な実施形態においては、一般式(XIX)
【化13】

(式中、D、D、D、およびDは、以下の一般式(XX)
【化14】

(式中、
M、L、X、X、R、R、R、R、およびRは、一般式(V)に関し与えられた意味を有し、上述の好ましい意味を有することもできる)の構造を有し、それぞれメチレン基を介して式(XIX)のケイ素に結合している)のデンドリマー触媒を使用することが可能である。
【0054】
一般式(XX)のこの種の触媒は米国特許出願第2002/0107138A1号明細書より周知であり、当該明細書に記載されている情報に従い調製することができる。
【0055】
本発明の方法に使用することができるさらなる好適な触媒は、一般式(XXI〜XXIII)
【化15】

(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
およびXは、同一であっても異なっていてもよい配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
およびZは、同一であっても異なっていてもよい中性電子供与性配位子であり、
13およびR14は、それぞれ独立に、水素またはそれぞれ1種またはそれ以上のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、またはヘテロアリール基で場合により置換されていてもよい、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボキシレート、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、およびアルキルスルフィニル基からなる群から選択される置換基であり、
Lは、配位子である)の触媒である。
【0056】
一般式(XXI)〜(XXIII)の触媒は周知である。この種類の化合物の代表的なものが、Grubbsらによる国際公開第2003/011455A1号パンフレット、Grubbsらによる国際公開第2003/087167A2号パンフレット、Organometallics 2001,20,5314、およびAngew.Chem.Int.Ed.2002,41,4038に記載された触媒である。この触媒は市販されており、あるいは引用された参考文献に記載されているように調製することができる。
【0057】
およびZ
本発明の方法においては、ZおよびZは同一であっても異なっていてもよい配位子であり、中性電子供与性配位子である、一般式(XXI)、(XXII)、および(XXIII)の触媒が使用される。この種の配位子は通常は弱く配位している。典型的には、これらは場合により置換されている複素環式基を表す。これらは1〜4、好ましくは1〜3、最も好ましくは1もしくは2個のヘテロ原子を含む5もしくは6員環の単環式基、または2、3、4もしくは5個のこの種の5もしくは6員環単環式基から構成される二環もしくは多環構造を表していてもよく、ここで上述の基はいずれも、1種またはそれ以上のアルキル、好ましくはC〜C10アルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜Cシクロアルキル、アルコキシ、好ましくはC〜C10アルコキシ、ハロゲン、好ましくは塩素または臭素、アリール、好ましくはC〜C24アリールまたはヘテロアリール、好ましくはC〜C23ヘテロアリール基で場合により置換されており、これらの上述の置換基は今度は、好ましくはハロゲン、特に塩素または臭素、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、およびフェニルからなる群から選択される1種またはそれ以上の基で置換されていてもよい。
【0058】
およびZの例としては、これらに限定されるものではないが、含窒素複素環(ピリジン、ピリダジン、ビピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピラゾリジン、ピロリジン、ピペラジン、インダゾール、キノリン、プリン、アクリジン、ビスイミダゾール、ピコリルイミン、イミダゾリジン、ピロール等)が挙げられる。ZおよびZが一緒になって二座配位子を表し、それによって環状構造を形成していてもよい。
【0059】
特に好ましくは、本発明による方法は、一般式(XXI)中、
Mが、ルテニウムであり、
およびXが、両方共ハロゲン、特に両方共塩素であり、
およびZが、同一であっても異なっていてもよい、1〜4、好ましくは1〜3、最も好ましくは1もしくは2個のヘテロ原子を含む5もしくは6員環の単環式基、または2、3、4、もしくは5個のこの種の5もしくは6員環の単環式基から構成される二環もしくは多環構造を表し、上述の基はいずれも1種またはそれ以上のアルキル、好ましくはC〜C10アルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜Cシクロアルキル、アルコキシ、好ましくはC〜C10アルコキシ、ハロゲン、好ましくは塩素もしくは臭素、アリール、好ましくはC〜C24アリール、またはヘテロアリール、好ましくはC〜C23ヘテロアリール基で場合により置換されており、あるいはZおよびZが一緒になって二座配位子を表し、それによって環式構造を形成しており、
13およびR14が、同一であっても異なっていてもよい、それぞれC〜C30アルキルC〜C20シクロアルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C24アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、C〜C24アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C30アルキルアミノ、C〜C30アルキルチオ、C〜C24アリールチオ、C〜C20アルキルスルホニル、C〜C20アルキルスルフィニルであり、それぞれ1種またはそれ以上のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリールまたはヘテロアリール基で場合により置換されていてもよく、
Lが、置換または無置換の式(IIa)または(IIb)
【化16】

(式中、R、R、R10、R11は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、直鎖または分岐、環状または非環状のC〜C30アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C24アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、C〜C24アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C24アリールチオ、C〜C20アルキルスルホニル、C〜C20アルキルスルホネート、C〜C24アリールスルホネート、またはC〜C20アルキルスルフィニルである)のイミダゾリジン基である、触媒が使用される。
【0060】
一般構造式(XXI)に適合する特に好ましい触媒は、式(XXIV)
【化17】

(式中、
15、R16は、同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン、直鎖または分岐のC〜C20アルキル、C〜C20ヘテロアルキル、C〜C10ハロアルキル、C〜C10アルコキシ、C〜C24アリール、好ましくはフェニル、ホルミル、ニトロ、含窒素複素環、好ましくはピリジン、ピペリジン、およびピラジン、カルボキシ、アルキルカルボニル、ハロカルボニル、カルバモイル、チオカルボモイル(thiocarbomoyl)、カルバミド、チオホルミル、アミノ、トリアルキルシリル、およびトリアルコキシシリルを表す)のものである。
【0061】
上述のアルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、アルコキシ、フェニル、含窒素複素環、アルキルカルボニル、ハロカルボニル、カルバモイル、チオカルバモイル、およびアミノ基は、今度は、ハロゲン、好ましくはフッ素、塩素、または臭素、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、およびフェニルからなる群から選択される1種またはそれ以上の置換基で場合により置換されていてもよい。
【0062】
特に好ましい実施形態においては、触媒(XXIV)は、一般構造式(XXIVa)または(XXIVb)
【化18】

(式中、R15およびR16は、構造式(XXIV)と同義である)を有する。R15およびR16が両方共水素である場合、触媒(XXIV)は文献で「グラブスIII触媒」と称されるものである。
【0063】
本発明の方法に使用することができるメタセシス触媒は、一般式(XXV)
【化19】

(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
およびXは、同一であっても異なっていてもよいアニオン性配位子であり、
17基は、同一であっても異なっていてもよい有機基であり、
Imは、置換または無置換のイミダゾリジン基であり、
Anは、陰イオンである)の触媒を用いて調製することもできる。
【0064】
これらの触媒は基本的に周知である(例えば、Angew.Chem.Int.Ed.2004,43,6161〜6165参照)。
【0065】
本発明の方法に使用することができるさらなる好適な触媒は、一般式(XXVI)
【化20】

(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
18およびR19は、それぞれ互いに独立に、水素、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C24アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、C〜C24アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C20アルキルスルホニル、またはC〜C20アルキルスルフィニルであり、
は、アニオン性配位子であり、
は、単環または多環に拘わらず無電荷のπ結合配位子であり、
は、ホスフィン、スルホン化ホスフィン、フッ素化ホスフィン、アミノアルキル、アンモニオアルキル、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニルアルキル、ヒドロカルボニルアルキル、ヒドロキシアルキル、またはケトアルキル基を3個まで有する官能化ホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト、ホスホナイト、ホスフィンアミン、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、イミン、スルホキシド、チオエーテル、およびピリジンの群からの配位子であり、
は、非配位性陰イオンであり、
nは、0、1、2、3、4、または5である)の触媒である。
【0066】
本発明の方法に使用することができるさらなる好適な触媒は、一般式(XXVII)
【化21】

(式中、
は、モリブデンまたはタングステンであり、
20およびR21は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C24アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、C〜C24アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C20アルキルスルホニル、またはC〜C20アルキルスルフィニルであり、
22およびR23は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ置換またはハロゲン置換されたC〜C20アルキル、C〜C24アリール、C〜C30アラルキル基、またはそのシリコーン含有類縁体である)の触媒である。
【0067】
本発明の方法に使用することができるさらなる好適な触媒は、一般式(XXVIII)
【化22】

(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
およびXは、同一であっても異なっていてもよい、一般式(I)および(V)のXおよびXの意味をすべて想定することができるアニオン性配位子であり、
Lは、同一であっても異なっていてもよい、一般式(I)および(V)のLの一般的な意味および好ましい意味をすべて想定することができる配位子であり、
24およびR25は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素または置換もしくは無置換のアルキルである)の触媒である。
【0068】
上述の式(I)の触媒はすべて、NBRメタセシスの反応混合物中でそのまま使用してもよいし、あるいは固体支持体上に適用して固定してもよい。固相または支持体としては、まず第1に、メタセシスの反応混合物に対し不活性であり、第2に、触媒の活性を損なわない物質を使用することができる。触媒を固定するために、例えば、金属、ガラス、ポリマー、セラミック、球状有機ポリマー、または無機ゾルゲルを使用することが可能である。
【0069】
上述の方法はメタセシス反応の出発物質であるゴムとしてニトリルゴムを使用している。ニトリルゴム(「NBR」)としては、少なくとも1種の共役ジエン、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、および所望により、重合反応において共重合可能な1種またはそれ以上のさらなるモノマーの繰り返し単位を含む共重合体または三元共重合体を使用することが可能である。
【0070】
共役ジエンはいかなる性質のものであってもよい。(C〜C)共役ジエンを使用することが好ましい。1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン、またはこれらの混合物を使用することが特に好ましい。その中でも特に、1,3−ブタジエンおよびイソプレンまたはこれらの混合物を使用することが非常に好ましい。特に1,3−ブタジエンが好ましい。
【0071】
α,β−不飽和ニトリルとしては、任意の周知のα,β−不飽和ニトリル、好ましくは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、1−クロロアクリロニトリル、エタクリロニトリル、またはこれらの混合物等の(C〜C)α,β−不飽和ニトリルが好ましい。アクリロニトリルが特に好ましい。
【0072】
したがって、特に好ましいニトリルゴムは、アクリロニトリルおよび1,3−ブタジエンの共重合体またはアクリロニトリルおよび1,3−ブタジエンの水素化された共重合体である。
【0073】
共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルとは別に、当業者に周知の1種またはそれ以上のさらなる共重合可能なモノマー、例えば、α,β−不飽和モノカルボン酸、これらのエステル、α,β−不飽和ジカルボン酸、これらのモノ−オダー(oder)ジエステルに加えて、α,β−不飽和モノ−またはジカルボン酸のそれぞれの無水物またはアミドを使用することが可能である。
【0074】
α,β−不飽和モノカルボン酸として、アクリル酸およびメタクリル酸を使用することが好ましい。
【0075】
α,β−不飽和モノカルボン酸のエステル、特にアルキルエステルおよびアルコキシアルキルエステルも使用することができる。
【0076】
アルキルエステルとして、好ましくは、α,β−不飽和モノカルボン酸のC〜C18アルキルエステルが使用され、より好ましくは、アクリル酸またはメタクリル酸のC〜C18アルキルエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等)が使用される。
【0077】
アルコキシアルキルエステルとして、好ましくは、α,β−不飽和モノカルボン酸のC〜C18アルコキシアルキルエステル、より好ましくは、アクリル酸またはメタクリル酸のアルコキシアルキルエステル((メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル等)が使用される。
【0078】
アリールエステル、好ましくは、C〜C14アリール、より好ましくはC〜C10アリールエステル、最も好ましくは上述のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのアリールエステルを使用することも可能である。他の実施形態においては、シクロアルキルエステル、好ましくはC〜C12シクロアルキル−、より好ましくはC〜C12シクロアルキル、最も好ましくは上述のアクリル酸およびメタクリル酸のシクロアルキルエステルが使用される。
【0079】
シアノアルキルエステルを使用することも可能であり、特にシアノアルキル基中のC原子の数が2〜12個の範囲にあるアクリル酸シアノアルキルまたはメタクリル酸シアノアルキル、好ましくはアクリル酸α−シアノエチル、アクリル酸β−シアノエチル、またはメタクリル酸シアノブチルが使用される。
【0080】
他の実施形態においてはヒドロキシアルキルエステル、特にヒドロキシルアルキル基中のC原子の数が1〜12個の範囲にあるアクリル酸ヒドロキシアルキルおよびメタクリル酸ヒドロキシアルキル、好ましくはアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、またはアクリル酸3−ヒドロキシプロピルが使用される。
【0081】
フルオロベンジルエステル、特にアクリル酸フルオロベンジルまたはメタクリル酸フルオロベンジル、好ましくはアクリル酸トリフルオロエチルおよびメタクリル酸テトラフルオロプロピルを使用することも可能である。アクリル酸ジメチルアミノメチルやアクリル酸ジエチルアミノエチル等の、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルを含む置換されたアミノ基も使用することができる。
【0082】
α,β−不飽和カルボン酸の様々な他のエステル、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシメチル)アクリルアミド、またはウレタン(メタ)アクリレート等も使用することができる。
【0083】
上述のすべてのα,β−不飽和カルボン酸のエステルの混合物を使用することも可能である。
【0084】
さらにα,β−不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、およびメサコン酸を使用することもできる。
【0085】
他の実施形態においては、α,β−不飽和ジカルボン酸の無水物、好ましくは、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、および無水メサコン酸が使用される。
【0086】
さらなる実施形態においては、α,β−不飽和ジカルボン酸のモノ−またはジエステルを使用することができる。好適なアルキルエステルは、例えば、C〜C10アルキル、好ましくはエチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、オダー(oder)n−ヘキシルモノ−またはジエステルである。好適なアルコキシアルキルエステルは、例えば、C〜C12アルコキシアルキル、好ましくはC〜Cアルコキシアルキルのモノまたはジエステルである。好適なヒドロキシアルキルエステルは、例えば、C〜C12ヒドロキシアルキル、好ましくはC〜Cヒドロキシアルキルのモノまたはジエステルである。好適なシクロアルキルエステルは、例えば、C〜C12シクロアルキル、好ましくはC〜C12シクロアルキルのモノまたはジエステルである。好適なアルキルシクロアルキルエステルは、例えば、C〜C12アルキルシクロアルキル、好ましくはC〜C10アルキルシクロアルキルのモノまたはジエステルである。好適なアリールエステルは、例えば、C〜C14アリール、好ましくはC〜C10アリールのモノまたはジエステルである。
【0087】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルモノマーの例を明確に示すと、
・マレイン酸モノアルキルエステル、好ましくは、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、およびマレイン酸モノn−ブチル;
・マレイン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくは、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、およびマレイン酸モノシクロヘプチル;
・マレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくはマレイン酸モノメチルシクロペンチルおよびマレイン酸モノエチルシクロヘキシル;
・マレイン酸モノアリールエステル、好ましくは、マレイン酸モノフェニル;
・マレイン酸モノベンジルエステル、好ましくは、マレイン酸モノベンジル;
・フマル酸モノアルキルエステル、好ましくは、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、およびフマル酸モノn−ブチル;
・フマル酸モノシクロアルキルエステル、好ましくは、フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、およびフマル酸モノシクロヘプチル;
・フマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくは、フマル酸モノメチルシクロペンチルおよびフマル酸モノエチルシクロヘキシル;
・フマル酸モノアリールエステル、好ましくは、フマル酸モノフェニル;
・フマル酸モノベンジルエステル、好ましくは、フマル酸モノベンジル;
・シトラコン酸モノアルキル、好ましくは、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、およびシトラコン酸モノn−ブチル;
・シトラコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくは、シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、およびシトラコン酸モノシクロヘプチル;
・シトラコン酸モノアルキルシクロアルキル、好ましくは、シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、およびシトラコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・シトラコン酸モノアリール、好ましくは、シトラコン酸モノフェニル;
・シトラコン酸モノベンジル、好ましくは、シトラコン酸モノベンジル;
・イタコン酸モノアルキルエステル、好ましくは、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、およびイタコン酸モノn−ブチル;
・イタコン酸モノシクロアルキルエステル、好ましくは、イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、およびイタコン酸モノシクロヘプチル;
・イタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル、好ましくは、イタコン酸モノメチルシクロペンチルおよびイタコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・イタコン酸モノアリールエステル、好ましくは、イタコン酸モノフェニル;
・イタコン酸モノベンジルエステル、好ましくは、イタコン酸モノベンジル
が挙げられる。
【0088】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステルモノマーとしては、上に明示したモノエステルモノマーをベースとするジエステル類縁体を使用することができるが、酸素原子を介してC=O基に結合した2個の有機基は同一であっても異なっていてもよい。
【0089】
さらなるターモノマーとしてビニル芳香族モノマー(スチロール、α−メチルスチロール、ビニルピリジン等)、非共役ジエン(4−シアノシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン等)、およびアルキン類(1−または2−ブチン等)を使用することができる。
【0090】
NBRポリマー中の共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルの比率は幅広い範囲で変化させることができる。共役ジエンの比率または合計は、ポリマー全体を基準として、通常は40〜90重量%の範囲、好ましくは60〜85重量%の範囲にある。α,β−不飽和ニトリルの比率または合計は、ポリマー全体を基準として、通常は10〜60重量%、好ましくは15〜40重量%である。各場合におけるモノマーの比率の合計は100重量%になる。さらなるターモノマーが、ポリマー全体を基準として0〜40重量%、好ましくは0.1〜40重量%、特に好ましくは1〜30重量%の量で存在してもよい。この場合、対応する共役ジエンまたはジエンおよび/またはα,β−不飽和ニトリルまたはニトリルの比率はさらなるモノマーの比率で置き換えられ、各場合において、すべてのモノマーの合計は100重量%となる。
【0091】
上述したモノマーを重合させることによるニトリルゴムの調製は当業者に十分に周知であり、ポリマーに関する文献に包括的に記載されている。さらに本発明において使用することができるニトリルゴムは、例えば、Lanxess Deutschland GmbHよりPerbunan(登録商標)およびKrynac(登録商標)シリーズの商品名で市販もされている。
【0092】
メタセシスの出発物質であるゴムとして適したニトリルゴムのムーニー粘度(ML(1+4)100℃)は25〜120の範囲、好ましくは30〜70の範囲にある。これは数平均分子量Mが200000〜700000の範囲、好ましくは200000〜400000の範囲にあることに相当する。出発物質であるニトリルゴムは、典型的には多分散性PDI=M/M(Mは重量平均分子量であり、Mは数平均分子量である)が2.0〜6.0の範囲、好ましくは2.0〜4.0の範囲にある。
【0093】
上述のメタセシスにより得られたニトリルゴムは、本発明による加硫性組成物の低分子量ゴム成分(i)として使用することができ、a)重量平均分子量Mが50000g/molまで、好ましくは10000〜50000g/molの範囲、より好ましくは12000〜40000g/molの範囲にあり、b)多分散性PDI=M/M(Mは数平均分子量である)が2.0未満、好ましくは>1.0〜2.0未満、より好ましくは1.1〜1.9、最も好ましくは1.2〜1.9である。
【0094】
共オレフィン:
本発明による加硫性組成物に使用されるニトリルゴム(i)を調製するためのメタセシス反応は、いわゆる共オレフィン(好ましくは、エチレン、イソブテン、スチレン、1−ヘキセン等のC〜C16直鎖または分岐オレフィン)の存在下に実施してもよい。共オレフィンが液体(1−ヘキセン等)である場合、使用される共オレフィンの量は、好ましくは1〜200重量%の範囲にある。共オレフィンが気体(エチレン等)である場合、使用される共オレフィンの量は、反応槽の圧力が1×10Pa〜1×10Paの範囲、好ましくは5.2×10Pa〜4×10Paの範囲になるものである。好ましくは、メタセシス反応は、1−ヘキセンを用いて行われる。
【0095】
溶媒:
メタセシス反応は、使用される触媒を失活させず、かつ反応にいかなる悪影響も与えない好適な溶媒中で実施される。好ましい好適な溶媒は有機溶媒、特に、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、ハロゲノベンゼン等の芳香族化合物、好ましくはモノクロロベンゼン(MCB);ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキエタン等のエーテル;アセトン、炭酸ジメチル、またはアルコールである。それ自体が溶媒として作用することができる共オレフィン(例えば、1−ヘキセン)が使用される特定の場合においては、他の溶媒は不要である。
【0096】
反応混合物中の出発物質であるニトリルゴムの濃度は重要ではないが、例えば混合物が十分に撹拌できないほど粘性が高い場合に反応を妨げないようにするべきであることは明らかである。好ましくは、混合物全体のNBRの濃度は1〜20重量%の範囲、最も好ましくは6〜15重量%の範囲にある。
【0097】
メタセシス反応は15〜140℃の範囲、好ましくは20〜80℃の範囲の温度で実施される。
【0098】
使用されるニトリルゴムをベースとするメタセシス触媒の量は特定の触媒の性質および触媒活性に依存する。使用される触媒の重量は、通常、使用されるニトリルゴムを基準として、貴金属が1〜1000ppm、好ましくは2〜500ppm、特に5〜250ppmとなる量である。本発明の好ましい実施形態においては、触媒の重量(触媒配合量)は、0.01〜0.30phr、より好ましくは0.02〜0.25phrの範囲にある。構造(III)のグラブス(I)触媒、構造(IV)のグラブス(II)触媒、構造(VII)のホベイダ触媒、構造(XVII)のグレラ触媒、構造(XIX)のデンドリマー触媒、構造(XXIV)のグラブス(III)触媒、または(XXIV)、(XXV)、(XXVI)、(XXVII)もしくは(XXVIII)のいずれかの構造の触媒(XXVIII)が用いられる場合、触媒配合量は、例えば、0.06〜0.10phr(ゴム百部当たりの部)の範囲にあることがよりさらに好ましい。
【0099】
加硫性組成物に使用することができるニトリルゴムを生成するメタセシス分解プロセスに続いて分解されたニトリルゴムをさらに水素化することができる。これは当業者に周知の方法で実施することができる。
【0100】
均一または不均一水素化触媒を用いて水素化を行うことが可能である。その場で、すなわち先にメタセシス分解を行ったものと同一の反応槽で、分解されたニトリルゴムを単離する必要なく水素化を行うことも可能である。水素化触媒は単純に反応槽に添加される。
【0101】
使用される触媒は、通常はロジウム、ルテニウム、またはチタンをベースとするものであるが、白金、イリジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、コバルト、または銅を、金属としてまたは好ましくは金属化合物の形態のいずれかで使用することも可能である(例えば、米国特許第3,700,637A号明細書、独国特許出願公開第2539132A号明細書、欧州特許出願公開第0134023A号明細書、独国特許出願公開第3541689A号明細書、独国特許出願公開第3540918A号明細書、独国特許出願公開第0298386A号明細書、独国特許出願公開第3529252A号明細書、独国特許出願公開第3433392A号明細書、米国特許第4,464,515A号明細書、および米国特許第4,503,196A号明細書参照)。
【0102】
均質相の水素化に好適な触媒および溶媒は以下に記載するものであり、独国特許出願公開第2539132A号明細書および欧州特許第0471250A号明細書からも周知である。
【0103】
選択的水素化は、例えば、ロジウムまたはルテニウム含有触媒の存在下に達成することができる。例えば、一般式
(RB)MX
(式中、Mは、ルテニウムまたはロジウムであり、R基は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれC〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、C〜C15アリール基、またはC〜C15アラルキル基であり、Bは、リン、ヒ素、硫黄、またはスルホキシド基S=Oであり、Xは、水素または陰イオン、好ましくは、ハロゲン、特に好ましくは塩素または臭素であり、lは、2、3、または4、mは、2または3、nは、1、2、または3、好ましくは1または3である)の触媒を使用することができる。好ましい触媒は、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリド、およびトリス(ジメチルスルホキシド)ロジウム(III)クロリド、さらには式(CP)RhHのテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウムヒドリド、およびトリフェニルホスフィンの全部または一部がトリシクロヘキシルホスフィンで置き換えられた対応する化合物である。触媒は少量で利用することが可能である。ポリマーの重量を基準として0.01〜1重量%の範囲、好ましくは0.03〜0.5重量%の範囲、特に好ましくは0.1〜0.3重量%の範囲の量が好適である。
【0104】
通常は、この触媒を式RBの配位子(式中、R、m、およびBは上述の触媒と同義)である共触媒と併用することが適している。好ましくは、mは3、Bはリンであり、R基は同一であっても異なっていてもよい。トリアルキル、トリシクロアルキル、トリアリール、トリアラルキル、ジアリール−モノアルキル、ジアリール−モノシクロアルキル、ジアルキル−モノアリール、ジアルキル−モノシクロアルキル、ジシクロアルキル−モノアリール、またはジシクロアルキル−モノアリール基を有する共触媒が好ましい。
【0105】
共触媒の例は、例えば、米国特許第4,631,315A号明細書に記載されている。好ましい共触媒はトリフェニルホスフィンである。共触媒は、好ましくは、水素化されるニトリルゴムの重量を基準として0.3〜5重量%の範囲、好ましくは0.5〜4重量%の範囲の量で使用される。さらに、ロジウム含有触媒対共触媒の重量比は、好ましくは1:3〜1:55の範囲、より好ましくは1:5〜1:45の範囲である。水素化されるニトリルゴム100重量部を基準とすると、水素化されるニトリルゴム100重量部当たり共触媒を0.1〜33重量部、好ましくは0.5〜20重量部、その中でも非常に好ましくは1〜5重量部使用することが適切であり、特に共触媒は2重量部を超えるが5重量部未満である。
【0106】
この水素化を実施する手段は米国特許第6,683,136号明細書より当業者に十分に周知である。通常、水素化すべきニトリルゴムをトルエンやモノクロロベンゼン等の溶媒中で100〜150℃の範囲の温度および50〜150バールの範囲の圧力で2〜10時間水素処理することにより実施される。
【0107】
本発明においては、水素化は、出発物質であるニトリルゴム中に存在する二重結合の少なくとも50%、好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%の範囲の選択的反応である。
【0108】
不均一触媒を使用する場合、これらは通常、パラジウムをベースとし、例えば、炭素、シリカ、炭酸カルシウム、または硫酸バリウムに担持された担持触媒である。
【0109】
水素化完結後、a)重量平均分子量が50000g/molまで、好ましくは10000〜50000g/molの範囲、より好ましくは12000〜40000g/molの範囲にあり、かつb)多分散性PDI=M/M(Mは重量平均分子量であり、Mは数平均分子量である)が2.0未満、好ましくは>1.0〜2.0未満、より好ましくは1.1〜1.9、最も好ましくは1.2〜1.9である水素化ニトリルゴムが得られる。
【0110】
場合により、水素化ニトリルゴムを機械的脱気装置と接触させることによってこのゴムが溶媒溶液から単離される。単離されたゴムが低分子量であるため、アルコール(メタノール、イソプロパノール、エタノール等)または水蒸気/水による凝固等の標準的な単離技法を用いることは、ポリマーの粘性が極めて高く、それによって生成物の損失および最終仕上げの長時間化を招くことになるため有利ではない。以下に記載する方法により、場合により水素化された低分子量ニトリルポリマーを有機溶媒から高収率で単離することが可能になる。
【0111】
ポリマー単離:
残留溶媒をポリマーから除去することは様々な理由から必要である。溶媒は健康および環境に有害であり、高濃度の場合はポリマー性能を低下させる。したがって、残留溶媒量が2000ppm未満、好ましくは1000ppm未満、特に好ましくは500ppm未満と低いことが望ましい。
【0112】
溶媒からゴムを単離する技術および低残留物のゴムを得る技術は当該技術分野において周知である。これは通常、水蒸気または非溶媒を用いてゴムを凝固させ、撹拌槽内で水蒸気を用いて水性懸濁液形態のゴムから溶媒をストリッピングし、脱水プレスおよび乾燥機を併用してストリッピング処理から水を除去することを含む。しかしながら、本発明によるポリマー組成物に必須の低分子量ゴムの大規模な商業生産においてこの技術を用いることは不可能であることが判っている。驚くべきことに、水を関与させない「乾燥」プロセスにより、ニトリルゴムを溶液から単離し、所望の低残留量にすることが可能であることが判明した。
【0113】
ゴムを機械的脱気装置と接触させる方法によって場合により水素化されたニトリルゴムを有機溶媒溶液から単離することができる。機械的脱気装置は、好ましくは、単軸、二軸、または多軸押出機、より好ましくは二軸押出機、最も好ましくは同方向回転セルフワイピング二軸押出機である。
【0114】
好ましくは、ポリマー溶液は、機械的脱気装置に装入する前にポリマー溶液を蒸留することにより濃縮される。
【0115】
さらなる好ましい実施形態においては、ポリマー溶液は、機械的脱気装置に装入される前に、壁温が150℃〜220℃、好ましくは170℃〜200℃の熱交換器を通過させてポリマー溶液を110℃〜180℃、好ましくは130℃〜160℃の温度に到達させることにより濃縮される。
【0116】
さらなる実施形態においては、ポリマー溶液は、機械的脱気装置に装入される前に、蒸発管の壁温が150℃〜220℃、好ましくは170℃〜200℃に維持されている蒸発管内で溶液を加熱することによって濃縮される。
【0117】
さらなる実施形態においては、機械的脱気装置から排出されるポリマーは、好ましいメッシュ幅が10〜100マイクロメートル、好ましくは20〜50マイクロメートルの篩を通過する。
【0118】
好ましくは、篩から排出されたポリマーは、ポリマーを160℃〜100℃に冷却するためのポリマー冷却に付され、ポリマー冷却器は壁温が150℃〜90℃のスタティックミキサー型である。
【0119】
したがって、分子量Mが50000g/molまでかつ多分散指数が<2.0である低分子量(H)NBRを単離する方法は以下のステップを含む:
(i)NBRのメタセシスおよびそれに続く任意的な水素化後に得られる(H)NBR溶液を、溶媒蒸留により蒸留して、(H)NBRの濃度を溶液全体の15〜60重量%、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは25〜40重量%の範囲にする蒸留するステップと、
(ii)ステップ(i)で得られた蒸留された(H)NBR溶液を予備濃縮することによって溶液全体の50〜80重量%の濃度にし、場合により予備濃縮されたポリマー溶液を加熱するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られたポリマー溶液を機械的に脱気するステップと、
(iv)ステップ(iii)で得られた機械的に脱気されたポリマー溶液をポンプ輸送することにより、好ましくはメッシュ幅が10〜100マイクロメートル、好ましくは20〜50マイクロメートルの篩を通過させ、篩別により得られたポリマーを場合によりポリマー冷却器で冷却するステップと、
(v)ステップ(iv)で得られたポリマーを、好ましくはトレーに排出するかまたはポリマーをベール(bale)に形成することより排出するステップと
を含む。
【0120】
本発明による単離方法後に得られる単離された場合により水素化されたニトリルゴムは、残留溶媒、特に残留有機溶媒を2000ppm未満、好ましくは1000ppm未満、よりさらに好ましくは500ppm未満含む。
【0121】
(i)蒸留
メタセシスから得られる(H)NBRポリマー溶液は、(H)NBRの濃度が混合物全体の15〜60重量%の範囲、より好ましくは20〜50重量%、最も好ましくは25〜40重量%の範囲となるように溶媒蒸留によって濃縮される。
【0122】
(ii)予備濃縮
溶媒蒸留から出発する蒸留は、有利には数回のステップで実施され、1回は混合物全体の50%〜80重量%に予備濃縮することを含み、次のステップで所望の残留溶媒量に到達させる。
【0123】
予備濃縮を実施するための好ましい1方法においては、蒸留ステップ後のポリマー溶液は蒸発管で加熱される。管の入口圧力は、管内の壁面で溶液の一部が蒸発を開始して温度低下および温度上昇させるように十分に低い(0.5〜6バール(絶対)、好ましくは1〜4バール)ものである。また、蒸発管の壁温は、150℃〜220℃、好ましくは170℃〜200℃に維持される。
【0124】
蒸発管の生成物は分離槽に排出され、ここで濃縮されたポリマー溶液から蒸気が分離される。分離槽内の圧力は200ミリバール(絶対)〜0.5バール(絶対)、好ましくは100ミリバール(絶対)〜1バール(絶対)に維持される。分離槽には2つの出口があり、1つは蒸気用、1つは濃縮ポリマー溶液用である。蒸気用出口は凝縮器および真空ポンプに連結されている。分離槽の底部に位置する濃縮ポリマー溶液用出口には、濃縮ポリマー溶液を除去するためのギアポンプまたは押出機、好ましくはギアポンプが用いられる。出口におけるポリマーは濃縮により50%〜80%に達しており、溶媒の蒸発により温度は80〜150℃、好ましくは100〜130℃に降下する。
【0125】
予備濃縮を実施するための他の好ましい方法は、蒸留ステップ後にポリマー溶液を「フラッシュステップ」で処理するものである。この段階において、溶液は、壁温150℃〜220℃、好ましくは170℃〜200℃の熱交換器にポンプ輸送され110℃〜180℃、好ましくは130℃〜160℃の温度に到達する。熱交換器はシェル・チューブ型熱交換器、プレート型熱交換器、またはスタティックミキサー型熱交換器であってもよく、スタティックミキサー型熱交換器が好ましい。次いでポリマー溶液をフラッシュバルブを介して分離槽内にフラッシュする。フラッシュバルブ手前の圧力は、ポリマー溶液が熱交換器内で沸騰しないように制御される。分離槽内の圧力は200ミリバール(絶対)〜0.5バール(絶対)、好ましくは100ミリバール(絶対)〜1バール(絶対)に維持される。分離槽の出口は2つあり、1つは蒸気用、1つは濃縮ポリマー溶液用である。蒸気用出口は凝縮器および真空ポンプに連結されている。分離槽底部に位置する濃縮ポリマー溶液用出口には濃縮ポリマー溶液を除去するためのギアポンプまたは押出機、好ましくはギアポンプが用いられる。
【0126】
フラッシュステップにおけるポリマーを処理する方法は、有利には、順次数回実施される。フラッシュステップの好ましい回数は2または3回、最も好ましくは2回である。
【0127】
予備濃縮を行った後、好ましくは濃縮されたポリマー溶液は、壁温150℃〜220℃、好ましくは170℃〜200℃の好ましくはスタティックミキサー設計の他の熱交換器で、110℃〜180℃、好ましくは130℃〜160℃の温度に加熱される。
【0128】
(iii)機械的脱気
次いでポリマー溶液は機械的脱気装置に排出される。機械的脱気装置の好ましい選択肢は押出機である。この目的には単軸、二軸、または多軸押出機を使用することができ、二軸押出機、特にセルフワイピング同方向回転二軸押出機が好ましい。押出機はリアベントを備えており、押出機バレル内にポリマーがフラッシュされて蒸気がポリマー溶液から分離され、押出機の進行方向と反対方向に移動する。リアベントの圧力は5〜150ミリバール(絶対)、好ましくは10〜100ミリバール(絶対)である。
【0129】
押出機には他にも数カ所のベントが備えられており、それによってさらなる蒸気をポリマーから分離することができる。これらのベントはより低い圧力(0.5〜20ミリバール(絶対)、好ましくは1〜10ミリバール(絶対))で運転される。これらのベント間の気体漏れを防止するために、ポリマーにより形成される液体シールが用いられ、これは押出機の逆流ポンプ(back pumping)部によりポリマーで完全に満たされる部分を生じさせることにより得られる。押出機の壁温は150℃〜220℃、好ましくは170℃〜200℃であり、回転速度は200/分〜600/分、好ましくは200/分〜600/分である。押出機の滞留時間は10秒間〜300秒間、好ましくは30秒間〜180秒間である。
【0130】
機械的脱気装置の他の選択肢は大容量連続混練機である。この混練機は単軸式または二軸式であってもよく、二軸混練機は同方向回転または異方向回転のいずれであってもよい。このような混練機は、加圧域が1つしかないため滞留時間が300秒間〜7200秒間、好ましくは600秒間〜3600秒間とより長く、押出機に比べて表面積がはるかに広く、表面積が広いために熱伝導能力がはるかに高いという点で押出機とは区別される。この種の混練機の例はList CRPまたはthe Buss−SMS Reasollである。
【0131】
混練機の圧力は0.5〜20ミリバール(絶対)、好ましくは1〜10ミリバール(絶対)に維持される。壁温は130℃〜200℃、好ましくは150℃〜180℃である。回転速度は10〜300/分、好ましくは50〜200/分である。
【0132】
(iv)篩別
機械的脱機装置の後段には、ポンプ輸送を促進するためのギアポンプおよびポリマーから不純物を除去するための篩が続く。篩の好ましいメッシュ幅は10〜100マイクロメートル、好ましくは20〜50マイクロメートルである。篩の後段の好ましい選択肢はポリマー冷却器でポリマーを冷却することである。ポリマー冷却器はポリマーを160℃〜100℃に冷却するものであり、壁温は150℃〜90℃である。好ましくは、この冷却器はスタティックミキサー型である。
【0133】
(v)排出
篩別または場合により冷却器の後段で、好ましくは生成物をトレーに排出するかまたはベールを形成することによって生成物を排出する。
【0134】
いずれかの熱交換器を加熱する方法は電気的であっても凝縮または液体加熱媒体を用いたものであってもよい。凝縮加熱媒体としては水蒸気が好ましい。液体加熱媒体として、当該方法の温度に適した有機熱媒流体が好ましい。このような熱媒流体は一般に周知で市販されており、それ自体を電気的に加熱するかまたは凝縮媒体を介して加熱することができる。冷却は液体媒体、好ましくは加圧水または有機熱媒流体により実施することができる。
【0135】
成分(ii):架橋剤
本発明による加硫性組成物は、少なくとも1種の架橋剤を必ず含有しなければならない。架橋剤は何らかの特定の架橋剤に限定されない。好適な架橋剤は、例えば過酸化物加硫系、硫黄加硫系、アミン加硫系、UVベースの加硫系、多価エポキシ加硫系、多価イソシアネート加硫系、アジリジン加硫系、塩基性金属酸化物加硫系、または有機金属ハロゲン化物加硫系である。好ましい加硫系は、過酸化物加硫系、硫黄加硫系、アミン加硫系、またはUV加硫系である。特に好ましい架橋剤または加硫系は、過酸化物系である。
【0136】
過酸化物加硫系
本発明は特定の過酸化物加硫系に限定されない。例えば、無機または有機過酸化物が好適である。有用な有機過酸化物としては、過酸化ジアルキル、過酸化ケタール、過酸化アラルキル、過酸化エーテル、過酸化エステル(ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,2’−ビス−(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキセン−(3)、1,1−ビス−(tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、過酸化ベンゾイル、tert−ブチル−クミルパーオキサイド、および過安息香酸tert−ブチル等)が挙げられる。
【0137】
通常、加硫性組成物中の過酸化物の量は、1〜10phr(=ゴム百部当たりの部)、好ましくは1〜8phrの範囲にある。過酸化物が固体支持体上で使用される場合、上述の量は活性な過酸化物の量に関するものである。
【0138】
過酸化物加硫系は、純粋な形態で導入しても、あるいは有利には様々な固体支持体、例えば酸化カルシウム、クレー、またはシリカ上で導入してもよい。有利には、過酸化物加硫系をポリマー結合形態で適用してもよい。好適な系は、Rhein Chemie Rheinau GmbH,Dより市販されているPolydispersion T(VC)D−40P(=ポリマー結合ジ−tert−ブチルパーオキシイソプロピルベンゼン)等である。
【0139】
過酸化物加硫系を用いた加硫は、通常は100〜200℃、好ましくは130〜180℃の範囲の温度で行われる。
【0140】
アミン加硫系
アミン加硫系として、通常はポリアミン架橋剤が使用され、好ましくは架橋促進剤と併用される。使用されるポリアミン架橋剤または架橋促進剤は特定のものに限定されない。
【0141】
ポリアミン架橋剤は、上記試剤が(1)2個以上のアミノ基を有する化合物であるかまたは(2)架橋中にその場で2個以上のアミノ基を有する化合物を形成する化学種であれば特に限定されない。しかしながら、脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素の複数の水素がアミノ基またはヒドラジド構造(「−CONHNH」で表される構造であり、式中、COはカルボニル基を示す)に置き換えられている化合物が好ましい。
【0142】
ポリアミン架橋剤(ii)の例として以下が挙げられるであろう:
・脂肪族ポリアミン、好ましくはヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、テトラメチレンペンタアミン、ヘキサメチレンジアミン−シンナムアルデヒド付加物、またはヘキサメチレンジアミン二安息香酸塩;
・芳香族ポリアミン、好ましくは、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、または4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン);
・少なくとも2個のヒドラジン構造を有する化合物、好ましくはイソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、またはセバシン酸ジヒドラジド。
【0143】
これらの中でも脂肪族ポリアミンが好ましく、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0144】
加硫性ポリマー組成物中のポリアミン架橋剤の含有量は、ニトリルゴムを100重量部を基準として0.2〜20重量部の範囲、好ましくは1〜15重量部の範囲、より好ましくは1.5〜10重量部の範囲である。
【0145】
架橋促進剤は当該技術分野において周知の任意の架橋促進剤であってもよい。例えば、塩基性架橋促進剤、好ましくはグアニジン架橋促進剤(テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン、o−トリルビグアニジン、ジカテコールホウ酸のジ−o−トリルグアニジン塩等);またはアルデヒドアミン架橋促進剤(n−ブチルアルデヒドアニリン、アセトアルデヒドアンモニア、ヘキサメチレンテトラアミン等)が好ましく、グアニジン架橋促進剤、特にDOTG(ジ−o−トリルグアニジン)が好ましい。
【0146】
本発明の他の好ましい実施形態においては、架橋促進剤は、少なくとも1種の二−または多環アミン系塩基である。好ましくは、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エン(TBD)、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デク−5−エン(MTBD)、およびその誘導体からなる群から選択される二−または多環アミン系塩基である。
【0147】
二−または多環アミン系塩基は、当該技術分野において周知の方法により調製することができる。本発明に述べた好ましい塩基は市販されている。
【0148】
本発明の一実施形態においては、pK値(DMSO中で測定)が−2〜+12の範囲にある二−または多環アミン系塩基が使用される。
【0149】
加硫性ポリマー組成物中の塩基性架橋促進剤の含有量は、場合により水素化されたニトリルゴム(成分(i))を100重量部を基準として、通常は0.5〜10重量部の範囲、好ましくは1〜7.5重量部、より好ましくは2〜5重量部である。
【0150】
アミン加硫系を用いた加硫は、好ましくは加硫性ポリマー組成物を130℃〜200℃、好ましくは140℃〜190℃、より好ましくは150℃〜180℃の範囲の温度に加熱することにより行われる。好ましくは、加熱は、1分間〜15時間、より好ましくは5分間〜30分間行われる。
【0151】
ダイの外で行われるいわゆる後加硫を、例えば、加硫物すなわち各形態の部品を標準的なオーブンで130℃〜200℃、好ましくは140℃〜190℃、より好ましくは150℃〜180℃の範囲の温度で15時間までの時間で実施することが可能であり、場合によっては推奨される。
【0152】
UV加硫系
好適なUV加硫系は当該技術分野において周知である。UV加硫系には、通常は光増感剤(光重合開始剤)が使用される。光増感剤の例としては、ベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ジベンジル、5−ニトロアセナフテン、ヘキサクロロシクロペンタジエン、p−ニトロジフェニル、p−ニトロアニリン、2,4,6−トリニトロアニリン、1,2−ベンズアントラキノン、3−メチル−1,3−ジアザ−1,9−ベンズアントレンが挙げられる。光増感剤は単独でまたはこれらを2種以上組み合わせて使用することができる。
【0153】
光増感剤は、通常は、ニトリルゴムを100重量部当たり0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部、より好ましくは0.1〜1重量部の量で使用される。
【0154】
硫黄加硫系
硫黄加硫は、通常、硫黄元素または当該技術分野において周知の硫黄加硫剤を用いて行われる。上記硫黄含有加硫剤は、通常、硫黄を熱不安定形態で含む。これらは加硫温度で硫黄を放出する(硫黄供与体)。
【0155】
硫黄供与体は、加硫特性を劇的に変化させることなく硫黄を直接置き換えることができるものと、同時に加硫促進剤となるものとにさらに分類することができる。第1の分類の製品は例えばジチオジモルホリン、カプロラクタムジスルフィド、およびN,N’−ジチオ−ビス−(ヘキサヒドロ−2H−アゼピノン)である。同時に加硫促進剤となる硫黄供与体の場合は、当業者に周知のように加硫系を適切に改質しなければならない。同時に加硫促進剤となる硫黄供与体の例としては、2−モルホリノ−ジチオ−ベンゾチアゾール、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、N−オキシジエチレンジチオカルバミル−N’−オキシオキシジエチレンスルフェンアミドに加えて、テトラメチルチウラムジスルフィドがある。
【0156】
好ましい硫黄含有加硫剤は、ベンゾチアゾールジスルフィド、例えば、Vulkacit(登録商標)D3V1/C、テトラメチルチウラムモノスルフィド、例えば、Vulkacit(登録商標)チウラムMS/C、テトラメチルチウラムジスルフィド、例えば、Vulkacit(登録商標)チウラム/C、およびこれらの混合物である。
【0157】
通常加硫剤である硫黄または硫黄供与体は、ニトリルゴムを100重量部を基準として0.25〜5重量部、好ましくはニトリルゴムを100重量部を基準として1.5〜2.5重量部の量で使用される。
【0158】
通常、硫黄または硫黄含有加硫剤は加硫促進剤と併用される。好適な加硫促進剤は当該技術分野において周知である。その例としては、メルカプト促進剤、スルフェンアミド促進剤、チウラム促進剤、ジチオカルバメート促進剤、ジチオカルバミルスルフェンアミド促進剤、キサンテート促進剤、グアニジン促進剤、アミン促進剤チオ尿素促進剤、ジチオホスフェート促進剤、および硫黄供与体がある。
【0159】
加硫促進剤は、通常、ニトリルゴム100重量部を基準として0.5〜1重量部の量で用いられる。促進剤の添加量を増加した場合(例えばニトリルゴム100重量部を基準として1.5〜2.5重量部)、硫黄含有量は好ましくは減量するべきである。
【0160】
任意的な成分(iii):フィラー
好ましい実施形態においては、加硫性ポリマー組成物は少なくとも1種のフィラーをさらに含む。有用なフィラーは活性もしくは不活性フィラーまたはその両方の混合物であってもよい。フィラーは、例えば:
・高分散シリカ、例えば、シリカ溶液を沈殿させるかまたはハロゲン化ケイ素の火炎加水分解により調製され、好ましくは5〜1000m/gの範囲の比表面積を有し、一次粒度が10〜400nmの範囲にあるもの;シリカは場合により他の金属(Al、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、Ti等)酸化物との混合酸化物として存在してもよい;
・合成ケイ酸塩、例えば、ケイ酸アルミニウムやアルカリ土類金属ケイ酸塩(ケイ酸マグネシウムやケイ酸カルシウム等)、好ましくはBET比表面積が20〜400m/gの範囲にあり、一次粒径が10〜400nmの範囲にあるもの;
・天然ケイ酸塩、例えば、カオリンや他の天然ケイ酸塩;
・ガラス繊維およびガラス繊維製品(マット用押出物(matting extrudate))またはガラス微小球;
・金属酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム;
・金属炭酸塩、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛;
・金属水酸化物、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム;
・カーボンブラック、本発明による複合体に好ましく使用されるカーボンブラックは、ランプブラック、ファーネスブラック、またはガスブラック法により調製されるものであり、好ましくはBET(DIN 66131)比表面積が20〜200m/gの範囲にある、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、またはGPFカーボンブラックである;
・ゴムゲル、特に、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、およびポリクロロプレンをベースとするもの;
またはこれらの混合物であってもよい。
【0161】
好適な鉱物系フィラーの例として、シリカ、ケイ酸塩、クレー(ベントナイト等)、石膏、アルミナ、二酸化チタン、タルク、これらの混合物等が挙げられる。これらの鉱物粒子は表面にヒドロキシル基を有しているため親水性および疎油性が付与されている。これによりフィラー粒子とゴムとの十分な相互作用を達成することがさらに難化する。多くの目的には、シリカ、例えば、ケイ酸ナトリウムを二酸化炭素で沈殿させることにより作製されるシリカを鉱物として用いることができる。本発明による使用に好適な非晶質乾燥シリカ粒子は凝集体の平均粒度が1〜100ミクロンの範囲、例えば10〜50ミクロンまたは例えば10〜25ミクロンであってもよい。本発明においては、粒度が5ミクロン未満または50ミクロン超の凝集粒子は10体積パーセント未満であるべきである。さらに好適な非晶質乾燥シリカは通常DIN(Deutsche Industrie Norm)66131に準拠して測定されたBET表面積が50〜450平方メートル毎グラムの範囲にあり、DIN 53601に準拠して測定されたDBP吸収が150〜400グラム毎100グラムシリカの範囲にあり、DIN ISO 787/11に準拠して測定された乾燥損失が0〜10重量パーセントの範囲にある。好適なシリカフィラーはPPG Industries Inc.からHiSil(登録商標)210、HiSil(登録商標)233、およびHiSil(登録商標)243の商品名でまたはLanxess Deutschland GmbHからVulkasil(登録商標)SおよびVulkasil(登録商標)Nとして入手可能である。
【0162】
多くの場合、フィラーとしてカーボンブラックを使用することが有利である。通常は、ポリマー複合体中に、カーボンブラックが20〜200重量部、例えば30〜150重量部、例えば40〜100重量部の範囲の量で存在する。さらに、本発明のポリマー複合体中にカーボンブラックを鉱物系フィラーと併用することが有利な場合がある。この組合せにおける鉱物系フィラー対カーボンブラックの比率は通常は0.05〜20、例えば0.1〜10の範囲にある。
【0163】
任意的な成分(iv):他のゴム用助剤
加硫性ポリマー組成物中に使用することができるさらなる助剤は、例えば、反応促進剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫特性および加硫物の物理的性質の両方、特に架橋密度に影響を及ぼすことができる共加硫剤、酸化防止剤、起泡剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、オゾン安定剤、加工助剤、可塑剤、粘着付与剤、発泡剤、染料、顔料、ワックス、増量剤、有機酸、抑制剤(inhibitor)、金属酸化物、および活性化剤、例えば、トリエタノールアミン、ポリエチレングリコール、またはヘキサントリオールである。
【0164】
さらなるゴム用助剤(ゴム助剤)は従来量で使用され、これは特に目的の用途に依存する。従来量は、例えば、ゴムを基準として0.1〜50重量%である。例えば、加硫性ポリマー組成物は、分子内に1、2、またはそれ以上の炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸等の有機脂肪酸を助剤として0.1〜20phr含んでいてもよく、これは分子内に少なくとも1つの炭素−炭素共役二重結合を有する共役ジエン酸を10重量%以上含んでいてもよい。例えば、これらの脂肪酸は8〜22個、例えば12〜18個の炭素原子を有する。その例として、ステアリン酸、パルミチン酸、およびオレイン酸ならびにそのカルシウム、亜鉛、マグネシウム、カリウム、およびアンモニウム塩が挙げられる。
【0165】
本発明の加硫性ポリマー組成物は、加硫特性および加硫物の物理的性質を改善する役割を果たすいわゆる共加硫剤を含んでいてもよい。特にこの種の材料は架橋度を増大させて架橋密度を高めることができる。この点に関し、ポリマー組成物は、0.1〜50phr、好ましくは5〜50phrの範囲のアクリル酸塩またはメタクリル酸塩を助剤として含んでいてもよい。好適なアクリル酸塩およびメタクリル酸塩は欧州特許出願公開第0319320A1号明細書の特に第3頁16〜35行、米国特許第5,208,294A号明細書第2欄25〜40行、および米国特許第4,983,678A号明細書第2欄45〜62行より周知である。特に、アクリル酸亜鉛、ジアクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛、または液体アクリル酸エステル、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)、ブタンジオールメタクリレートBDMA)およびエチレングリコールジメタクリレート(EDMA)も挙げられる。異なるアクリル酸エステルおよび/またはその金属塩を併用することが有利な場合もある。例えば、アクリル酸金属塩が立体障害フェノール(例えば、メチル置換アミノアルキルフェノール、特に、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ジメチルアミノメチルフェノール)等のスコーチ防止剤と併用される。
【0166】
本組成物は他の共加硫剤、例えば、過酸化物加硫した物品の架橋度を高める共加硫剤の役割を果たすトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、N,N’−1,3−フェニレンビスマレイミド、または高ビニル含量のブタジエン単独重合体もしくは共重合体を0.1〜50phrの範囲で含んでいてもよい。
【0167】
さらなるゴム成分の添加:
加硫性ポリマー組成物は、有利には、他の天然または合成ゴムを含んでいてもよく、これらに限定されるものではないが、BR(ポリブタジエン)、ABR(ブタジエン/アクリル酸−C〜Cアルキルエステル共重合体)、CR(ポリクロロプレン)、IR(ポリイソプレン)IIR(イソブチレン/イソプレン共重合体およびその誘導体、例えば、ハロゲン化および/またはイオン性基含有および/またはその分岐誘導体)、イソブチレン/パラメチルスチレン共重合体およびその誘導体、SBR(スチレン/ブタジエン共重合体)、好ましくはスチレン含有量が1〜60重量%の範囲にあるもの、EPDM(エチレン/プロピレン/ジエン共重合体)、FKM(フッ素系ポリマーまたはフッ素ゴム)、および上述のポリマーの混合物が挙げられる。これらのさらなる1種またはそれ以上の天然または合成ゴムは、加硫性ポリマー組成物中の任意成分(v)とも称される。上記ゴムを慎重にブレンドすることにより加工性を犠牲にすることなくポリマー複合体のコストが低減される場合が多い。天然および/または合成ゴムの量は、造形品の製造に適用される処理条件に依存することになり、これは予め幾つかの実験を行うことにより容易に得ることができる。
【0168】
本発明の加硫性ポリマー組成物は、成分(i)として添加される場合により水素化されたニトリルゴムとは異なる、場合により水素化されたニトリルゴムをさらに含んでいてもよい。成分(i)として添加される場合により水素化されたニトリルゴムとは異なる、場合により水素化されたニトリルゴムは、加硫性ポリマー組成物中の任意成分(v)とも称される。この種の他の場合により水素化されたニトリルゴム(以後、「より高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム」と称する)は、原則として、場合により水素化されたニトリルゴムを調製する際に使用される異なるモノマーに関し上述されたものと同じ定義に従うが、分子量Mに関しては、50000g/molを超え、かつ/または多分散指数が2.0を超える点が異なる。このようなさらなるより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴムは様々なグレードの形態で市販されており、Lanxess Deutschland GmbHよりTherban(登録商標)の商品名でまたはZeon CorporationよりZetpol(登録商標)の商品名で市販されている。例えば、成分(i)と、ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)が30〜150の範囲、好ましくは60〜125の範囲にあり、多分散指数が2.5〜6.0の範囲、好ましくは2.9〜5.0の範囲、より好ましくは2.9〜3.5の範囲にある1種またはそれ以上の場合により水素化されたニトリルゴム(v)とのブレンドを使用することが可能である。
【0169】
加硫性ポリマー組成物中のより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム(v)対成分(i)の比率は加硫性ポリマー組成物全体の粘度に加えて分子量分布自体に直接影響を与えるであろう。したがって、要求に応じて特定の加工性および性能特性を有するブレンドを作製することが可能である。
【0170】
本発明の加硫性ポリマー組成物は、
(i)0.01〜70重量%の範囲、特に8〜33重量%の範囲(両者の重量すなわち成分(i)およびより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム成分(v)を基準とする)の、重量平均分子量Mwが50000g/mol以下であり多分散指数が2.0未満である少なくとも1種の場合により水素化されたニトリルゴムと、
(v)99.9〜30重量%の範囲、特に92〜67重量%の範囲(同様に、両者の重量すなわち成分(i)およびより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム成分(v)を基準とする)の、より高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム成分(v)と
を含むことが好ましい。
【0171】
よりさらに好ましい実施形態においては、本発明の加硫性ポリマー組成物は、
(i)0.01〜70重量%の範囲、特に8〜33重量%の範囲の、重量平均分子量Mが50000g/mol以下であり多分散性が2.0以下である少なくとも1種の水素化ニトリルゴムと、
(v)99.9〜30重量%の範囲、特に92〜67重量%の範囲の、ムーニー粘度(ML(1+4)100℃)が30〜150の範囲、好ましくは60〜125の範囲にあり、多分散指数が2.5〜6.0の範囲、好ましくは2.9〜5.0の範囲、より好ましくは2.9〜3.5の範囲にある1種またはそれ以上の水素化ニトリルゴム成分と
を含み、上述のは重量%すべて両者すなわち成分(i)および水素化ニトリルゴム成分(v)の重量の合計を基準とする。
【0172】
ブレンディング技法は決定的要素とは考えられていない。したがって、異なる粘度のポリマーをブレンディングする当業者に周知のあらゆる技法が好適であろう。しかしながら、より高分子量の場合により水素化されたニトリルゴムを溶液中で成分(i)とブレンドすることが好ましい。一実施形態においては、より高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム(v)の溶液が成分(i)の溶液に添加され、次いで、結果として得られた混合物が場合により混合され、水蒸気凝固等の周知の技法によりポリマーブレンドが回収される。場合によりスチームストリッピングや乾燥(例えば、ミルによる)等のさらなる処理ステップが行われるであろう。他の実施形態においては、より高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム(v)が成分(i)のゴムを含む溶液中に溶解され、次いで結果として得られた混合物が場合により混合され、水蒸気凝固等の周知の技法によりポリマーブレンドが回収される。場合によりスチームストリッピングや乾燥(例えば、ミルによる)等のさらなる処理ステップが行われるであろう。さらなる他の実施形態においては、成分(i)のゴムがより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム(v)の溶液中に溶解され、次いで結果として得られた混合物が場合により混合され、水蒸気凝固等の周知の技法によりポリマーブレンドが回収される。場合によりスチームストリッピングや乾燥(例えば、ミルによる)等のさらなる処理ステップが行われるであろう。成分(i)のゴムとより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴムとの混合物に成分(i)のゴムを溶解するなど、他の多くの方法が存在することは明らかであり、これは本明細書に明示していなくても本発明の範囲に包含される。
【0173】
低分子量ゴム成分としての成分(i)だけでなく、上に定義した少なくとも1種のより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム(v)も含有する本発明の加硫性ポリマー組成物より得られた加硫物は、発熱性の低下に有利に作用する。この効果はDIN 53533に準拠したBF Goodrich試験を用いた測定により観測される。発熱性が低いとは、加硫物の特性プロファイルを損なうことなく動的応力を増大できることを意味する。多くの用途においては発熱性を低下させることが望ましい。例えば、発熱性を低下させることは、特に、自動車産業(タイミングまたはコンベアベルト、シール材、ガスケット、軸受パッド)、電気産業(ケーブル外被)、機械工学関連産業(車輪、ローラー)、および造船産業(配管用シール材、継手)等に見られる動的用途に有用である。長い高分子鎖を有する高粘度のポリマーは発熱性が低く、一方、低粘度のポリマーは一般に発熱性がより高いことは当業者に周知である。本発明の加硫性ポリマー組成物が、成分(i)およびより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム(v)のブレンドを含む場合、予期された発熱性の増大(すなわち低粘度成分(i)がさらに存在することにより予期されるもの)が、より高分子量の場合により水素化されたニトリルゴムと比較して認められないことは驚くべきことである。本発明のHNBRを含む上述のブレンドの発熱性は本発明によらないHNBRのみをベースとする加硫性ポリマー組成物よりも低下さえしており、丁度真逆のことが起こっている。
【0174】
さらに、本発明のHNBRを含むブレンドをベースとする加硫品は、低粘度HNBRを含まないことを除いて同一組成を有するブレンドをベースとする加硫品と同等の熱老化および油浸漬性(oil immersion property)を示す。したがって、本発明の低粘度HNBRを用いても、形成された加硫品の特性に悪影響はない。加硫品のIRM 903による膨潤はわずかに改善さえ認められる。
【0175】
通常、加硫性組成物が本発明の低粘度HNBRを含まない場合に、同等のブレンド(加工性に極めて優れ、後段で得られる加硫品が同等の有利な性能特性を示す)を要求に応じて作製しようとすると、かなりの量の可塑剤または他の添加剤を添加することが必要になるであろう。しかしながら、このような組成物をベースとする加硫品をIRM 901油に浸漬すると、この種の可塑剤は必ず浸出を実質的に増加させることになる。
【0176】
特定の理論に束縛されるものではないが、油浸漬試験に関する好ましい結果は、本発明の低粘度HNBRおよびより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴムが一緒に加硫されて一つの網目構造構造を形成することを示している。本発明の低粘度HNBRが低分子量の可溶性物質としてマトリックスから抽出されるであろうと予測されていたので、この結果は驚くべきことであった。したがって、本発明の低粘度HNBRおよびより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴムは極めて混和性が高い。したがって、本発明の低粘度HNBRは共加硫性可塑剤として作用する。
【0177】
したがって、本発明のHNBRを含むブレンドをベースとする加硫品は従来技術に従う加硫品よりも有利であることは明白である。
【0178】
加硫性ポリマー組成物の調製:
加硫性ポリマー組成物は、必須成分すなわち低分子量の場合により水素化されたニトリルゴム(i)および少なくとも1種の架橋剤(ii)に加えて場合によりフィラー(iii)および場合によりさらなる助剤化合物(iv)を一緒に高温(好適には25℃〜200℃の範囲であってもよい)で混合することにより調製される。場合により、通常、混合時間は1時間を超えず、混合時間は2〜30分間の範囲で通常は十分である。加硫性ポリマー組成物が溶媒を使用せずに調製されるかまたは溶液から回収された場合、混合は、好適には、バンバリーミキサー等の密閉式混合機またはHaakeもしくはブラベンダー小型密閉式混合機で実施することができる。2本ロールミルも添加剤をエラストマー中に十分に分散させる。押出機でも十分な混合が得られ、混合時間の短縮を可能にする。また、場合により水素化されたニトリルゴム(i)および結果として得られる加硫性ポリマー組成物の粘度などが奏功して、低粘度化合物専用の様々な混合装置を使用することも可能である。例えば、プレスミキサー(Press Mixer)、「Zブレード」ミキサー、または遊星ローラー押出機(Planetary Roller Extruder)を低〜中粘度化合物に使用することにより最適な混合が達成される。さらに、混合を2段階以上で実施することが可能であり、混合を異なる装置で、例えば1段階を密閉式混合機で行い、1段階を押出機で行ってもよい。しかしながら、混合段階で望ましくない早期架橋(スコーチ)が起こらないように注意を払うべきである。配合および加硫に関しては:Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,第4巻p.66以下(配合)および第17巻p.666以下(加硫)も参照されたい。
【0179】
場合により水素化さえたニトリルゴム成分(i)だけでなくこのような成分(i)を含む加硫性ポリマー組成物も低粘度であるため、新規なポリマー組成物は、これらに限定されるものではないが、射出成形技術、特に液状樹脂射出成形を用いて加工するのに理想的に適している。本発明による加硫性ポリマー組成物はまた、トランスファー成形または圧縮成形により加工することもできる。新規な低粘度の本加硫性ポリマー組成物は、典型的には、従来の射出成形に用いられ、高温(約160〜230℃)形態で射出され、ポリマー複合体および金型温度に応じて架橋/加硫が起こり、それぞれの加硫物が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明による加硫性ポリマー組成物は、シール材、ホース、軸受パッド、ステーター、ウェルヘッドシール、バルブプレート、ワイヤーおよびケーブル外被、車輪ローラー(wheel roller)、配管用シール材、インプレイスガスケット、履き物の部品等の造形品形態の加硫物の製造に非常に適している。上記造形品形態にある加硫物は、好ましくは、射出成形技術、より好ましくは液状樹脂射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、無圧加硫、またはこれらの組合せにより調製される。さらに、加硫性ポリマー組成物はワイヤーおよびケーブルの製造、特に押出法を介するものに非常に適している。したがって、さらに本発明は、新規な低粘度ポリマー組成物を加硫することにより得られる加硫物に関連する。
【0181】
本発明はまた、本発明による場合により水素化されたニトリルゴムまたは本発明による加硫性ポリマー組成物の、加硫物を調製するための使用にも関する。
【0182】
本発明を例示を目的として上に詳細に説明してきたが、このような詳細は単に説明を目的とするものであり、特許請求の範囲に限定される可能性がない場合は、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく当業者により変形を行うことが可能であることを理解すべきである。
【実施例】
【0183】
実施例:
【0184】
【表1】

【0185】
DIN 55672−1に準拠し、GPCを用いて反応の進行を監視した。
【0186】
実施例1〜4:
1L容器中、Perbunan(登録商標)T 3429を75gをモノクロロベンゼン500gに溶解した。ニトリルゴムが完全に溶解したら1−ヘキセンを4phrを容器に加え、溶液を2時間撹拌し、その際、1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)−ルテニウム(フェニル−メチレン)ジクロリドをMCB20mL中に溶解して、1L容器に加えた。反応混合物を22℃の温度で撹拌しながら12時間反応させた。設定された時間配分が経過した後、溶液をGPC分析用に提出した。
【0187】
【表2】

【0188】
実施例5〜6:
10Lの高圧容器内でPerbunan(登録商標)T 3435を700gをモノクロロベンゼン4667gに溶解した。ニトリルゴムが完全に溶解したら、1−ヘキセンを4phrを反応器に加えて溶液を22℃で2時間撹拌し、その際に1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)−ルテニウム(フェニル−メチレン)のMCB溶液を反応器に加えた。次いで溶液を22℃で2時間撹拌した。
【0189】
メタセシス反応完結後、反応器にトリス−(トリフェニルホスフィン)ロジウムクロリド(0.06phr)のMCB溶液を装入し、反応器を水素で85バールに加圧した。反応混合物を撹拌(600rpm)しながら138℃の温度で4時間反応させることにより、水素化率が<0.9%の水素化ニトリルゴム溶液を得た。水素化に続いて、ゴム溶液を加熱し、roto−vapを用いて依然として流動可能な濃度まで濃縮する処理により溶液を処理した。ゴム溶液をシート上に注ぎ、MCBの臭気がなくなるまで排気型加熱オーブンに装入した。
【0190】
【表3】

【0191】
実施例7:
実施例7は、ニトリルゴムをPerbunan T 3435からPerbunan T 3429としたことを除いて上に概要を説明した実施例5〜6と同一手順で実施した。
【0192】
【表4】

【0193】
B)配合例8〜36
実施例7に従う水素化ニトリルゴム(M193000g/mol;M34000g/mol)をベースとして、以下の表に要約する成分をオープンミルまたはプレスミキサーのいずれかで(指示に従う)混合することにより以下の加硫性ポリマー組成物(実施例8〜36)を調製した。実施例に「RT」と記載されている場合は、室温すなわち22℃±℃とする。
【0194】
【表5A】

【表5B】

【0195】
ASTM D 5289(180℃、1°、1.7Hz、60分)に従い加硫挙動(MDR)を調査し、以下の特性データを測定した:
S’min[dNm]は加硫曲線(cross−linking isotherm)の最小トルク
S’max[dNm]は加硫曲線の最大トルク
S’end[dNm]は加硫完了時のトルク値
Delta S’[dNm]はS’minおよびS’max値の差
t50[s]はS’maxの50%に到達する時間
t90[s]はS’maxの90%に到達する時間
t95[s]はS’maxの95%に到達する時間
TS2[s]はS’minから2dNmの上昇が観測されるまでの時間である。
【0196】
加硫物の引張破断応力(「引張強さ」)と共に応力値「Mxxx」(「xxx」は供試体の初期長を基準とした伸び率を表す)をASTM D412−80に準拠して測定した。
【0197】
硬さ特性を、Type Aショアデュロメータを用いてASTM−D2240−81に準拠して測定した。
【0198】
粘度の剪断速度および温度依存性の測定を、レオメーターMCR 301(Anton Paar、独国)を使用し、プレート/プレート構成(プレートの直径:25mm)を用いて測定した。
【0199】
ムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)を、ASTM標準D 1646に準拠して測定した。
【0200】
発熱性測定(Goodrich Flexometer法)を、DIN 53,533 Part 1+3に準拠して実施した。
【0201】
Goettefert Rheovulcameterを使用し、射出体積を3.1ccm、バレル圧力を50バール、射出温度を100℃としてコンパウンドの模擬射出成形を実施した。バレル内でコンパウンドを100秒間予熱した後に3.1ccmの金型に0.4秒間ショットすることにより射出した。次いでコンパウンドを190℃で5分間加硫させた後、取り出して計量した。得られた加硫品の質量を測定した。金型の充填率を示す。充填率が高いほどコンパウンドが特定の圧力および温度で容易に流動する。
【0202】
実施例8および9:
加硫性ポリマー組成物の成分(表4参照、ゴム百部当たりの部(phr)で示す)をオープンミルで従来の混合により混合した。次いで、ポリマー組成物を180℃で20分間加硫した。表4に従うポリマー複合体の特性を表5、6、および7にまとめる。
【0203】
【表6】

【0204】
【表7】

【0205】
【表8】

【0206】
【表9】

【0207】
実施例8および9は、従来のHNBRゴムグレードと類似の加硫系を用いて低粘度HNBR材料を加硫させることが可能であることを示している。
【0208】
特に実施例8は、MDRのS’値が増大していることから、過酸化物によってHNBRポリマー鎖に化学的架橋が生じることを示している。
【0209】
実施例9はカーボンブラックおよびシリカの両方をフィラー系として含むことに加えて、加硫系として過酸化物および共加硫剤を含むものである。この実施例は、本HNBRゴムをフィラーと混合できることと、得られる加硫性ポリマー組成物を加硫できることとを示すものである(同じくMDRのS’値の増大による)。さらに、引張特性はフィラーの強化効果を示す(未充填の系と比較し、充填された系のモジュラスが増加している)。さらに、これらの2つの実施例は本コンパウンドをオープンミルを用いて混合(従来の混合技法)できることを示している。粘度範囲はこれらのコンパウンドが様々な射出成形技法に非常に有用であることを示している。
【0210】
実施例10〜13:
加硫性ポリマー組成物の成分(表8参照、ゴム100部当たりの部(phr)で示す)を従来の技法を用いて密閉式プレスミキサー(closed press mixer)で混合した。次いでポリマー組成物を180℃で20分間加硫した。表8に従うポリマー複合体の特性を表9、10、および11にまとめる。
【0211】
【表10】

【0212】
【表11】

【0213】
【表12】

【0214】
【表13】

【0215】
実施例10〜13の組成物をプレスミキサー(密閉式混合機の1種)で調製した。実施例35および36で用いたミルによる混合とプレスミキサーとの違いを示す(実施例10対実施例9ならびに実施例11および12対実施例35および36)。総じてある程度の違いは確実に存在し、これはミキサーの種類に起因するものであろう。この4種の組成物は、純粋な鉱物系フィラー系(Silitin(登録商標)鉱物系フィラー)、2種の異なるブラックフィラー(強化作用が高いものおよび低いもの)、ならびに鉱物系フィラーおよびブラックフィラー(強化作用が中程度のブラックおよびシリカ)の混合物を使用し、共加硫剤の使用の有無ならびに過酸化物の量および形態を変化させたことを示すものである。
【0216】
実施例14〜18:
加硫性ポリマー組成物の成分(表12参照、ゴム100部当たりの部(phr)で示す)をオープンミルを用いて混合した。次いでポリマー組成物を180℃で15分間加硫した。表12に従う加硫性組成物の特性を表13、14、および15にまとめる。
【0217】
【表14A】

【表14B】

【0218】
【表15】

【0219】
【表16】

【0220】
【表17】

【0221】
実施例14〜18は、高活性〜低活性のフィラー(例えば、シリカ、改質シリカ、セライト、タルク)まで幅広く異なる数種類の従来の鉱物系フィラーを含む低粘度水素化ニトリルゴムの使用を示すものである。表12に要約した当業者に周知の異なる分散助剤を用いた。試料14は赤色コンパウンドであり、着色コンパウンド中においても水素化ニトリルゴムが有用であることを示すものである。実施例14は異なる老化防止系の使用を示すものである。剪断依存性を示す粘度の測定から、本組成物が射出成形技法に有用であることがわかる。
【0222】
実施例19〜25:
加硫性ポリマー組成物の成分(phr)(表16参照、ゴム100部当たりの部(phr)で示す)をオープンミルを用いて混合した。次いでポリマー組成物を180℃で15分間加硫させた。表16に従うポリマー複合体の特性を表17、18、および19にまとめる。
【0223】
【表18】

【0224】
【表19】

【0225】
【表20】

【0226】
【表21】

【0227】
実施例19〜25は、同一のフィラーおよび過酸化物系に様々な共加硫剤を併用したことを示しており、共加硫剤を使用することにより幅広い特性が得られることを示している。幾つかの実施例から、共加硫剤を増加させることにより加硫状態(S’endにより示される)が向上することが明らかである。本明細書において使用される異なる共加硫剤としては、金属塩、多官能性アクリレート、および官能性オリゴマーが挙げられる。これらの共加硫剤は、接着、加硫状態、耐引裂き性、硬さに加えて他の加工性および最終加硫物の特性を改善するための当業者に周知の代表的な選択肢である。剪断依存性を示す粘度測定から本コンパウンドが射出成形技法に有用であることがわかるであろう。
【0228】
実施例26〜31:
加硫性ポリマー組成物の成分(表20参照、ゴム100部当たりの部(phr)で示す)をオープンミルを用いて混合した。次いでポリマー組成物を180℃で15分間加硫した。表2に従うポリマー複合体の特性を表21および22にまとめる。
【0229】
【表22】

【0230】
【表23】

【0231】
【表24】

【0232】
実施例26〜31は異なる過酸化物(二官能性対単官能性)を含むポリマー組成物および水素化ニトリルゴムの加硫状態に対するこれらの効果を示すものである。過酸化物は担体を存在させずに純粋な形態で混合される。この材料は加硫状態が向上するとともに破断伸びが低下したことを示しており、これは架橋密度が増加したことを示唆している。これらの実施例は、過酸化物加硫系を用いることにより材料が予想通りの挙動をすることを示している。
【0233】
実施例32〜36:
加硫性ポリマー組成物のゴム成分(表23参照、100部当たりの部(phr)で示す)をオープンミルを用いて混合した。次いでポリマー組成物を180℃で15分間加硫した。表23に従うポリマー複合体の特性を表24および25にまとめる。
【0234】
【表25】

【0235】
【表26】

【0236】
【表27】

【0237】
実施例32は実施例19との比較用であり、同一配合において異なるカーボンブラックを使用したことを示すものである。実施例33は実施例19との比較用であり、同一配合において異なる過酸化物を使用したことを示すものである。実施例34、35、および36は、ミルで混合した試料とプレスミキサーでこれを実施した試料とを対比するためのものである。
【0238】
概して、先の実施例から、特定の低粘度を有する場合により水素化されたゴム成分(i)を用いることにより、上述の利点を示す加硫性組成物およびそれぞれの加硫物の調製が可能になると同時に、従来技術において現在市販されている場合により水素化されたニトリルブタジエンベースのエラストマーをベースとする加硫性組成物/加硫物を用いた場合に観察される魅力的な特性プロファイルを示すことが明らかである。本明細書において実証しようとしているのは、異なる量の過酸化物、異なる種類の過酸化物、異なる老化防止系、異なるブラックフィラー、異なるホワイトフィラー、ブラックおよびホワイトフィラーの組合せ、異なる共加硫剤、および異なる着色剤をこの種の加硫物に用いることが可能なことである。
【0239】
実施例37〜60:
実施例37〜60は、この新規な種類のHNBRのコンパウンド中における有用性を例示するものである。実施例7による本発明のHNBRを他の本発明によらないHNBRポリマーとブレンドした。その分子量および組成分析を表26に示す。加硫性組成物の成分の定義ならびに加硫性組成物およびそれを加硫したコンパウンドの特性評価に用いた方法は上のB項に説明した通りである。
【0240】
【表28】

【0241】
HNBR A、B、C、およびDを周知の技法、例えば、米国特許第6,673,881A号明細書に開示されている方法に従いに従い合成した。アクリロニトリルおよびブタジエンを乳化液中で重合させ、得られたニトリルブタジエン共重合体を場合により特にグラブスII触媒を用いてメタセシス反応に付し、次いでニトリルゴムを、例えばモノクロロベンゼン中で特にウィルキンソン触媒を用いることにより水素化することにより、それぞれ水素化されたニトリルゴムを得た。
【0242】
実施例37〜44:
加硫性ポリマー組成物の成分(表27参照、ゴム100部当たりの部(phr)で示す)をオープンミルを用いて混合した。次いで加硫性ポリマー組成物を180℃で15分間加硫した。表27に従うポリマー複合体の特性を表28、29、30、および31にまとめる。
【0243】
【表29】

【0244】
【表30】

【0245】
【表31】

【0246】
【表32】

【0247】
【表33】

【0248】
実施例37〜44は特定の本発明の低粘度HNBR(実施例7)をブレンドコンパウンドに使用することの有用性を示すものである。具体的には、実施例37および41は高分子量HNBR(HNBR Aを80phr)および低分子量HNBR(実施例7を20phr)をベースとするコンパウンドであり、このブレンドは、比較用の実施例38および42に使用されたHNBR Bと原料ポリマーのムーニー粘度が近似している。実施例37および41の本発明の加硫性組成物の粘度はHNBR Bをベースとする類似のコンパウンド(実施例38および42)よりも大幅に低く、それによって未加硫の加硫性組成物の加工が有利になる。実施例40および実施例44を除くすべてのコンパウンドを同等の最終加硫状態に到達させることができた(表29参照)。引張および圧縮永久歪み特性を表30に列挙する。
【0249】
実施例40および44の加硫性組成物から得られた加硫後の組成物の発熱性の値は、加硫されたコンパウンドが試験中に変形して測定誤差が生じたため測定できなかった(軟らか過ぎて試験できなかった)。本発明による2種のブレンドコンパウンド(実施例37および実施例41)の発熱性が、同等のムーニー粘度を有する比較例(実施例38および実施例42)よりも大幅に低いことがわかる。さらに、ムーニーがより高いHNBR Aのみを使用した本発明によらない実施例(実施例39および実施例43)は発熱性が低下しなかった。
【0250】
実施例45〜55;
加硫性ポリマー組成物の成分(表32参照、100部当たりの部(phr)で示す)を、1.5Lの密閉式混合機を使用し、充填率を74%、ローター回転数60rpm、開始温度60℃として標準的な実験室手順を用いて混合した。次いでポリマー組成物を180℃で15分間加硫した。加硫特性を表34に示し、それにより得られた加硫コンパウンドの特性を表35および36に示す。
【0251】
【表34A】

【表34B】

【0252】
【表35】

【0253】
【表36】

【0254】
【表37】

【0255】
これらの加硫性ポリマー組成物は、流動性を改善することが有利となるシール材またはタイミングベルトまたは他の任意の用途に使用することができる配合を単に例示するためのものである。さらに、このような低粘度ポリマーをこのような加硫性ブレンド組成物に使用することにより、流動性を改善するためにゴム産業に慣用されている様々な低分子量加工助剤を使用することが不要になる。
【0256】
【表38】

【0257】
実施例45〜55から、特定の低粘度ゴム成分(実施例7)を射出成形用途に使用することの有用性が示される。具体的には、実施例48、52、および55は高分子量HNBR材料(HNBR Cを70phr)および低分子量HNBR材料(実施例7を30phr)のブレンドをベースとするコンパウンドである。実施例48、52、および55の加硫性組成物の粘度はHNBR CまたはHNBR Dベースの類似のコンパウンド(実施例45および46)よりも大幅に低下している。このムーニー粘度の低下により未加硫のコンパウンドの加工が非常に有利になる。この効果を実証するためにRheovulcameterを用いて加硫性組成物を試験した(表36参照)。低粘度ゴム成分(実施例7)を添加して作製された加硫性組成物は流動性が大幅に改善されており、これはコンパウンド中の低粘度材料の割合が増加するにつれて金型の充填率が増加することにより認められる。
【0258】
実施例45は、このような比較的低い(50バール)射出圧力では材料を金型に全く流入させることができず加硫品が形成されなかった。
【0259】
【表39】

【0260】
表37は実施例45、51〜55の加硫性組成物から得られた加硫品の発熱特性に関する結果をまとめたものである。実施例7のHNBRを用いて形成された加硫品は比較例45と比較して発熱性の値が改善されている。特に、本発明によらない実施例45および本発明による実施例54および55は有効架橋密度が一致しているので(MDRにより測定されたトルク値が非常に近い)、比較に用いるのに特に最適であろう。実施例54および55の発熱性は実施例45と比較して6℃低下している。
【0261】
【表40A】

【表40B】

【表40C】

【0262】
表38は熱風老化(150℃)および油浸漬試験(150℃、IRM 901およびIRM903)についてまとめたものである。IRM 901浸漬試験により低分子量物質が加硫品から抽出され、したがってΔV値が負になる。IRM 903を用いた浸漬試験は加硫品が膨潤することを示しており、これによりΔV値は正になる。実施例45〜55はいずれも熱風および油浸漬老化性が類似していることを示しており、したがって、比較用の加硫性組成物(実施例45)から得られる加硫品と比較すると、実施例7に従うHNBRを用いて加硫品を形成しても特性に悪影響はない。実際、IRM 903中における膨潤試験ではわずかな改善さえ見られる。実施例51〜55はIRM 903浸漬による膨潤が低減されたことを示している。実施例7に従うHNBRを用いて形成された物品はIRM 901浸漬による体積減少が類似しており、比較用加硫性組成物(実施例45)と同等の負のΔV値を示す。これは重要な利点である。その理由は、本発明の低粘度HNBRを含まない組成物の場合、特定の非常に優れた加工性および性能特性を有する同一のブレンドを要求に応じて作製するためにはかなりの量の可塑剤または他の添加剤を添加することが必要になるためである。しかしながら、このような可塑剤を用いたこのような組成物をベースとする加硫品をIRM 901に浸漬すると、通常は浸出が実質的に増大するであろう。
【0263】
実施例56〜60:
加硫性ポリマー組成物の成分(表39参照、100部当たりの部(phr)で示す)を1.5Lの密閉式混合機を用いて充填率74%、ローター回転数60rpm、開始温度60℃で標準的な実験室手順を用いて混合した。次いでポリマー組成物を180℃で15分間加硫させた。加硫特性を表40に示し、それにより得られた加硫コンパウンドの特性を表41および42に示す。
【0264】
【表41】

【0265】
これらの実施例56〜60は、本発明の低粘度HNBRの、HNBRをベースとするコンパウンド用の共加硫性粘度調節剤としての使用をさらに示す役割を果たす。別の低粘度可塑剤(DIPLAST(登録商標)TM 8−10/ST)を添加しないコンパウンドの流動性および結果として得られる物理的性質を調査した。
【0266】
実施例56〜60のMDRデータを表40に列挙する。
【0267】
【表42】

【0268】
ムーニー粘度に関しては、実施例57のコンパウンドだけでなく実施例58〜60のコンパウンドのムーニー粘度も実施例56のコンパウンドと比較して大幅に低下した。したがって、DIPLAST TM 8−10/ST等のさらなる可塑剤を必要とすることなくコンパウンドの粘度を大幅に低下させることが可能である。コンパウンドのムーニーは実施例7に従うULV HNBRを10、20、および30phr添加することによりそれぞれ20、40、および55%低下する。
【0269】
表41に分岐金型を備えたRheovulcameterを用いた射出成形試験の結果を示す。
【0270】
【表43】

【0271】
実施例57〜60は、DIPLAST TM 8−10/ST等のさらなる可塑剤を必要とすることなく特定の低粘度ゴム成分(実施例7)を射出成形用途に使用することの有用性を示すものである。具体的には、実施例58〜60は、高分子量HNBR C材料(それぞれ90、80、および70phr)および低分子量HNBR材料(実施例7をそれぞれ10、20、および30phr)のブレンドをベースとするコンパウンドである。これらのコンパウンドの射出成形への有用性を実証するために、加硫性組成物についてRheovulcameterを用いて試験を行った(表41)。低粘度ゴム成分(実施例7)を添加して作製した加硫性組成物はコンパウンド中の低粘度材料の割合が増加するに従い流動性が大幅に改善されており、これは金型の充填率が増加することにより認められる。実施例59の金型の充填率は比較例56の2倍を超えている。
【0272】
【表44】

【0273】
これらの加硫性ポリマー組成物は、流動特性が改善されることが有利となるシールまたはタイミングベルトまたは他の任意の用途に使用することができる配合を単に示すためのものである。さらに、これらの組成物から、このような低粘度ポリマーがこのような加硫性ブレンド組成物に低分子量加工助剤(例えばDIPLAST TM8−10/ST)を用いることなく使用されることが示される。加硫物品の選択された物理的性質を表42に示す。
【0274】
実施例56〜60の加硫性組成物から得られた加硫品の発熱特性を結果を表43にまとめる。実施例7のHNBRを用いて形成された加硫品の発熱特性は比較例56と比較して改善されている。
【0275】
【表45】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)重量平均分子量Mが50000g/mol以下であり、かつ多分散指数が2.0未満である少なくとも1種の場合により水素化されたニトリルゴムと、
(ii)少なくとも1種の架橋剤と
を含む加硫性ポリマー組成物。
【請求項2】
(iii)少なくとも1種のフィラー
をさらに含む、請求項1に記載の加硫性ポリマー組成物。
【請求項3】
(iv)1種またはそれ以上のさらなる助剤化合物
をさらに含む、請求項2に記載の加硫性ポリマー組成物。
【請求項4】
(iv)さらなる助剤化合物としての少なくとも1種の加硫用共架橋剤
を含む、請求項3に記載の加硫性ポリマー組成物。
【請求項5】
前記加硫用共架橋剤が、アクリル酸亜鉛、ジアクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)、ブタンジオールジメタクリレート(BDMA)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、およびN,N’−1,3−フェニレンビスマレインイミドからなる群から選択される、請求項4に記載の加硫性ポリマー組成物。
【請求項6】
反応促進剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、酸化防止剤、起泡剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、オゾン安定剤、加工助剤、可塑剤、粘着付与剤、発泡剤、染料、顔料、ワックス、増量剤、有機酸、抑制剤、金属酸化物、および活性剤からなる群から選択される1種またはそれ以上の助剤(iv)を含む、請求項3に記載の加硫性ポリマー組成物。
【請求項7】
成分(i)がアクリロニトリルおよび1,3−ブタジエンの共重合体またはアクリロニトリルおよび1,3−ブタジエンの共重合体の水素化物のいずれかである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の加硫性ポリマー組成物。
【請求項8】
重量平均分子量Mが50000g/molを超え、かつ多分散指数が2.0を超える少なくとも1種の場合により水素化されたニトリルゴム(v)をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の加硫性ポリマー組成物。
【請求項9】
(v)ムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)が30〜150の範囲、好ましくは60〜125の範囲にあり、かつ多分散指数が2.5〜6.0の範囲、好ましくは2.9〜5.0の範囲、より好ましくは2.9〜3.5の範囲にある少なくとも1種の場合により水素化されたニトリルゴムをさらに含む、請求項8に記載の加硫性ポリマー組成物。
【請求項10】
少なくとも1種の成分(i)および少なくとも1種の成分(ii)を混合することを含む、請求項1に記載の加硫性ポリマー組成物の調製方法。
【請求項11】
少なくとも1種のフィラー(iii)を、少なくとも1種の成分(i)と、少なくとも1種の成分(ii)と、場合により1種またはそれ以上のさらなる助剤化合物(iv)と、場合により1種またはそれ以上のより高分子量の場合により水素化されたニトリルゴム(v)とさらに混合することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の加硫性ポリマー組成物を加硫することを含む、加硫物の調製方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の加硫性ポリマー組成物を、80℃〜250℃、好ましくは120℃〜220℃、より好ましくは150℃〜200℃、最も好ましくは165℃〜190℃の範囲の温度で加硫することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記加硫を、射出成形、好ましくは液状樹脂射出成形、トランスファー成形、または圧縮成形により実施することを含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の加硫性ポリマー組成物をベースとする加硫物。
【請求項16】
請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法により得ることができる請求項15に記載の加硫物。
【請求項17】
造形品、好ましくは、シール材、ホース、軸受パッド、ステーター、ウェルヘッドシール、バルブプレート、ワイヤーおよびケーブル外被、車輪ローラー、配管用シール材、インプレイスガスケット、または履き物部品の形態にある、請求項15または16のいずれか一項に記載の加硫物。前記造形品形態にある加硫物は、好ましくは、射出成形技術、より好ましくは液状樹脂射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、無圧加硫、またはこれらの組合せにより調製される。さらに、加硫性ポリマー組成物はワイヤーおよびケーブルの製造、特に押出法を介するものに非常に適している。したがって、さらに本発明は、新規な低粘度ポリマー組成物を加硫することにより得られる加硫物に関連する。

【図1】
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【公表番号】特表2013−503226(P2013−503226A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526065(P2012−526065)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062492
【国際公開番号】WO2011/023771
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】