説明

塗布膜中の酸素量調整方法及び装置

【課題】塗布膜中に短時間で高効率に酸素を導入することができる。
【解決手段】塗布膜中の酸素量を調整する方法において、オゾン発生器42から水タンク40の水にオゾンを供給することにより、酸素ガスを飽和状態に溶解した酸素溶解水をミスト発生装置32からミストを塗布膜14aに向けて噴霧して付与することにより、水をキャリアとして塗布膜14a中に酸素を導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布膜中の酸素量調整方法及び装置に係り、特に光重合性平版印刷版を製造する際に、光重合層(感光層)の上に塗布するオーバーコート層の酸素量調整技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水素結合性基を含む水溶性高分子を主成分とするオーバーコート層を有する光重合性平版印刷版の製造においては、高感度化が重要なファクターであり、高感度化に有利なラジカル重合を利用した感光系が数多く研究、開発されている。しかし、ラジカル重合系は酸素による重合阻害を受けやすいため、光重合層の上に例えばポリビニルアルコール(PVA)を主成分とした酸素遮断性に優れたオーバーコート層を設けて、重合効率を高めるなどの工夫が行われている。このオーバーコート層の酸素透過速度が大きすぎる場合にはオーバーコート層に含有される酸素量が多過ぎるために、製造された光重合性平版印刷版の感度が低下する。逆に、酸素透過速度が小さすぎる場合にはオーバーコート層に含有される酸素量が少な過ぎるために、感度が異常に上昇し、現像不良、残色及び残膜発生の原因となり好ましくない。従って、オーバーコート層には、適正な酸素量が含有されなくてなならない。
【0003】
このオーバーコート層中の酸素量は、オーバーコート層の含水率に大きく影響されることから、従来は、オーバーコート層を光重合層の上に塗布した後、所定の恒温・恒湿の調湿ゾーン内に通過させてオーバーコート層の含水率を調整することにより、オーバーコート層中の酸素量を制御していた。
【0004】
しかし、オーバーコート層が塗布された帯状の支持体を連続搬送しながら調湿ゾーンを通過させてオーバーコート層の水分調整をする場合、調湿ゾーン内の温湿度条件とその滞留時間によりオーバーコート層へ供給される水分量が決まってしまう。従って、生産性の向上を目的として支持体の搬送速度を上げる場合には、調湿ゾーンの路長を長くする等の調湿能力の増強が必要であるが、調湿ゾーンの増設スペースがない場合には採用できない。このことから、調湿ゾーンの路長を長くしないで支持体の搬送速度を上げるためには、オーバーコート層に短時間で高効率に水分付与することのできる技術が必要になる。
【0005】
従来、紙等の被調湿物の水分調整を行う技術としては、例えば特許文献1〜4のようなものがある。特許文献1は紙の水分調整を行うもので、水塗布と加熱による水分調整方法である。特許文献2は水を超音波により微細化する方法である。特許文献3は段ボールシートの加熱量調整による水分調整方法である。特許文献4はシートの加湿方法である。
【0006】
また、光重合性平版印刷版を製造する際に、光重合層(感光層)の上に塗布するオーバーコート層中の酸素量を調整するための技術ではないが、膜に酸素を導入する技術としては、例えば特許文献5及び特許文献6がある。特許文献5には、金属ハロゲン化ガスと酸素とを反応させて被成膜体に金属酸化物膜を生成するCVD法やPVD法において、酸素ガスの圧力を高くして酸素ガスを被成膜体に導入し易くすることにより金属酸化物膜の成膜速度を上げる技術が開示されている。特許文献6には、スパッタ法により酸素及び炭素を含有する磁性薄膜を製造する方法において、スパッタガスとして少なくとも不活性ガスと二酸化炭素ガスを含有させると共に二酸化炭素ガスの分圧を調整することにより、磁性薄膜中に含有される酸素量及び炭素量を調整することが開示されている。
【特許文献1】特開平6−257093号公報
【特許文献2】特開2000−42030号公報
【特許文献3】特開2003−145650号公報
【特許文献4】特開2000−264464号公報
【特許文献5】特開平6−145950号公報
【特許文献6】特開2003−50746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜4は紙等の被調湿物の水分調整の代表的なものであるが、短時間で高効率に水分付与する点において未だ満足できるものでない。
【0008】
また、特許文献5及び6は、酸素圧力や他のガスのガス分圧により膜中に酸素を直接導入する技術であるが、この技術をオーバーコート層中の酸素量調整に適用しても、オーバーコート層中へ酸素を短時間で高効率に導入できないという問題がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、塗布膜中に短時間で高効率に酸素を導入することができるので、生産性を向上することができると共に、塗布膜に酸素を導入する酸素量調整ゾーンの路長を長くする必要がないので省コスト、省スペースにも寄与する塗布膜中の酸素量調整方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、塗布膜中の酸素量を調整する方法において、酸素ガスを飽和状態に溶解した酸素溶解水のミストを前記塗布膜に付与することにより、水をキャリアとして前記塗布膜中に酸素を導入することを特徴とする。
【0011】
請求項1によれば、酸素ガスが飽和状態に溶解した酸素溶解水のミストを塗布膜に付与することにより、水をキャリア(媒体)として高濃度の酸素を塗布膜中に導入することができるので、短時間で高効率で酸素を導入することができる。
【0012】
請求項2〜請求項4は、酸素溶解水を調製する好ましい態様を示したもので、請求項2は酸素ガスを水に直接溶解して調製する場合であり、請求項3はオゾンを水に溶解して調製する場合であり、請求項4は過酸化水素を水に溶解して調製する場合である。
【0013】
請求項5は、請求項1〜4の何れか1において、前記ミストに1000V〜20000Vの高電圧を付与することにより、ミストを微細化することを特徴とする。
【0014】
請求項5によれば、塗布膜に付与する酸素溶解水のミストの粒径を高電圧により微細化することで水が塗布膜に浸透し易くなるので、塗布膜中に一層短時間で高効率に酸素を付与することができる。この場合、ミストの粒径は2.0μm以下まで微細化されることが好ましい。
【0015】
請求項6は請求項1〜4の何れか1において、前記酸素溶解水に2000ガウス以上の磁力を付与することにより前記酸素溶解水を微細化することを特徴とする。
【0016】
酸素溶解水に2000ガウス以上の磁力を付与することにより、水のクラスターを破壊して水を微細化することができる。これにより、酸素溶解水をミストにしたときに一層細かなミストを得ることができ、水が塗布膜に浸透し易くなるので、塗布膜中に一層短時間で高効率に酸素を付与することができる。
【0017】
請求項7は請求項1〜6の何れか1において、前記ミストにプラスとマイナスの何れか一方の電荷を帯電させると共に、前記塗布膜に前記ミストとは逆の電荷を帯電させることを特徴とする。
【0018】
請求項7によれば、ミストと塗布膜とに互いに逆な電荷を帯電させることにより、ミストが塗布膜に吸引され、水が塗布膜に付与され易くなるので、塗布膜中に一層短時間で高効率に酸素を付与することができる。
【0019】
例えば、空気に高電圧をかけたり又はレナード効果により、ミストを発生させる空間をマイナスに帯電させ、そこに酸素溶解水のミストを供給することでマイナス帯電させたミストを作成する。ミストに高電圧を付与することにより、ミストが帯電される他にミストの微細化も生じる。一方、塗布膜をコロナ放電装置等によりプラスに帯電させる。これにより、帯電による吸引効果と微細化による浸透効果の両方の効果で、塗布膜中に一層短時間で高効率に酸素を付与することができる。
【0020】
本発明の請求項8は、前記目的を達成するために、塗布膜中の酸素量を調整する方法において、水のミストと酸素ガスとを接触させて酸素が取り込まれた酸素溶解ミストを生成し、この酸素溶解ミストを前記塗布膜に付与することにより、水をキャリアとして前記塗布膜中に酸素を導入することを特徴とする。
【0021】
請求項8は、水のミストと酸素ガスとを接触させて酸素が取り込まれた酸素溶解ミストを生成し、この酸素溶解ミストを塗布膜に付与する場合であり、この場合も水をキャリアとして高濃度の酸素を塗布膜中に導入することができるので、短時間で高効率で酸素を導入することができる。
【0022】
請求項9は請求項8において、前記酸素溶解ミストに1000V〜20000Vの高電圧を付与して前記酸素溶解ミストを微細化するか、又は該酸素溶解ミストを形成する水に2000ガウス以上の磁力を付与して前記水を微細化することを特徴とする。
【0023】
酸素溶解ミストの場合も、ミスト又は該ミストを形成する水を微細化することで、水が塗布膜に浸透し易くなるので、塗布膜へ酸素を導入し易くなる。
【0024】
請求項10は請求項1〜9の何れか1において、前記塗布膜は、光重合性平版印刷版を製造する際に感光層の上に塗布されるPVAオーバーコート層であることを特徴とする。
【0025】
本発明は、塗布膜が光重合性平版印刷版を製造する際に感光層の上に塗布されるPVAオーバーコート層である場合、そのオーバーコート層中の酸素量を短時間で高効率に調整する技術として極めて有効だからである。
【0026】
本発明の請求項11は、前記目的を達成するために、塗布膜中の酸素量を調整する酸素量調整装置において、前記塗布膜が塗布された帯状支持体を搬送させる搬送手段と、前記帯状支持体が通過するトンネル状の酸素量調整ゾーンと、前記酸素量調整ゾーン内に、酸素ガスを飽和状態に溶解した酸素溶解水のミストを発生させるミスト発生手段と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
請求項11によれば、酸素ガスが飽和状態に溶解した酸素溶解水のミストを塗布膜に付与することにより、高濃度の酸素を水をキャリア(媒体)として塗布膜中に導入することができるので、短時間で高効率で酸素を導入することができるので、塗布膜中に短時間で高効率で酸素を導入することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の塗布膜の酸素量調整方法及び装置によれば、水をキャリアとして塗布膜中に短時間で高効率に酸素を付与することができるので、生産性を向上することができると共に、塗布膜に酸素を導入するゾーンの路長を長くする必要がないので省コスト、省スペースにも寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、添付図面に従って、本発明に係る塗布膜中の酸素量調整方法及び装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0030】
図1は、本発明の塗布膜中の酸素量調整装置30を組み込んだ平版印刷版用原反の製造ライン10の一例であり、以下この製造ライン10の例で説明する。尚、本発明は、平版印刷版用原反の製造ライン10に限定するものではなく、塗布膜中の酸素溶解量や酸素透過量を調整したい何れのラインにも適用できる。
【0031】
図1に示すように、送出機12には、ロール状に巻回された長尺な支持体14がセットされる。この送出機12から連続的に送り出された支持体14は、表面処理部16において表面処理が施される。表面処理が施された支持体14は、バックコート層塗布・乾燥部18において支持体14の裏面にバックコート層が形成された後、下塗り塗布・乾燥部20において支持体14の表面に下塗り層が形成される。次に、感光層塗布・乾燥部22において、下塗り層の上に光重合性組成物の感光層が形成された後、オーバーコート層塗布・乾燥部24において、水素結合性基を含む水溶性高分子、例えばPVA(ポリビニルアルコール)を主成分とするオーバーコート層(PVA塗布膜)が形成される。次に、支持体14が酸素量調整装置30の調整ゾーン26を通過する際に、オーバーコート層の酸素量(濃度)が設定範囲になるように制御される。これにより、光重合性平板印刷版の原反14Aが製造され、原反14Aが巻取機28に巻き取られる。
【0032】
本発明に用いられる支持体14は、寸度的に安定なアルミニウム又はその合金(例えば珪素、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、鉛、ビスマス、ニッケルとの合金)を用いることができる。通常は、アルミニウムハンドブック第4版(1990、軽金属協会発行)に記載の従来公知の素材、例えば、JIS A l050材、JIS A ll00材、JIS A 3103材、JIS A 3004材、JIS A 3005材または引っ張り強度を増す目的でこれらに0.1wt%以上のマグネシウムを添加した合金を用いることができる。
【0033】
表面処理部16での表面処理としては、例えば支持体14がアルミニウム板の場合、その表面を目的に応じて各種処理を施すのが通例である。一般的な処理方法としてはアルミニウム板を先ず脱脂または電解研磨処理とデスマット処理によりアルミ表面の清浄化を行う。その後に機械的粗面化処理又は/及び電気化学的粗面化処理を施しアルミニウム板の表面に微細な凹凸を付与する。尚、この時に更に化学的エッチング処理とデスマット処理を加える場合もある。その後、アルミニウム板表面の耐摩耗を高める為に陽極酸化処理が施され、その後アルミニウム表面は必要に応じて親水化処理または/及び封孔処理が行われる。
【0034】
バックコート層塗布・乾燥部18において、支持体14の裏面には、重ねた場合の感光性組成物層の傷付きを防ぐための有機高分子化合物からなる被覆層(バックコート層)が必要に応じて設けられる。
【0035】
下塗り塗布・乾燥部20において、必要に応じて支持体14の表面に下塗り層塗布液を塗布・乾燥して下塗り層を形成する。この下塗り塗布・乾燥部20においても塗布する方式や条件としては、後述する感光性組成物層を塗布する方式や条件の多くを利用できる。
【0036】
感光層塗布・乾燥部22において、下塗り層の上に光重合型感光性組成物の塗料が塗布・乾燥されて感光層が形成される。そして、オーバーコート層塗布・乾燥部24において、感光層の上に、オーバーコート層塗料を塗布する。
【0037】
図2は、酸素量調整装置30の概念図であり、酸素ガスを飽和状態に溶解した酸素溶解水を、オゾンを水に溶解することで調製する場合である。しかし、酸素溶解水の調製は、オゾンを水に溶解する場合に限定されるものではなく、酸素ガスを水に直接溶解してもよく、過酸化水素を水に溶解する等により調製してもよい。
【0038】
酸素量調整装置30は、主として、支持体14が搬送されるトンネル状の調整ゾーン26と、その調整ゾーン26内に、酸素溶解水のミストを発生させるミスト発生装置32とで構成される。
【0039】
図2に示すように、調整ゾーン26は、矢印方向に連続的に搬送される支持体14の入口と出口が形成されたトンネル状のケーシング36で囲われ、支持体14はパスローラ38、38…上を、オーバーコート層14aを上にして搬送される。また、オーバーコート層14a側には、ミスト発生装置32の噴霧部32Aが設けられると共に、ミスト発生装置32は配管34を介して水タンク40に接続される。水タンク40はオゾン発生器42に接続され、オゾン発生器42で発生したオゾンガスが水タンク40内の水に溶解し、酸素溶解水が調製される。そして、水タンク40で調製された酸素溶解水が、ミスト発生装置32の噴霧部32Aからオーバーコート層14aに向けて噴霧される。この酸素溶解水のミストがオーバーコート層14aに付着、浸透することにより、水を介してオーバーコート層14aの酸素量(酸素濃度)が所望の設定酸素量(設定酸素濃度)に調整される。また、調整ゾーン26の支持体搬送方向の下流側には、オーバーコート層14aの酸素濃度を測定する酸素濃度計31(例えばorbisphere3600型) が配置され、調整ゾーン26内で調整されたオーバーコート層14aの酸素濃度が測定される。そして、測定結果に基づいてオーバーコート層14aの酸素濃度が設定酸素濃度になるように、噴霧部32Aからのミスト噴霧量が制御される。
【0040】
図3の酸素量調整装置30は、ミスト発生装置32から噴霧する酸素溶解水のミストを微細化するために、ミストに高電圧を付与するようにしたものである。尚、図2と同じ部材や装置には同符号を付して説明する。
【0041】
図3に示すように、調整ゾーン26は、矢印方向に連続的に搬送される支持体14の入口と出口が形成されたトンネル状のケーシング36で囲われ、支持体14はパスローラ38、38…上を、オーバーコート層14aを上にして搬送される。高電圧方式の酸素量調整装置30は、主として、接地電極44と高電圧電極46とミスト発生装置32と水タンク40とオゾン発生器42とで構成される。即ち、オーバーコート層14aの上方に、リング状に形成された接地電極44が支持体14に平行に配設されると共に、接地電極44の上方に高電圧電源48に接続された高電圧電極46が配設される。尚、接地電極44のリング形状は四角状、円状、楕円状、三角状等を採用することができる。また、ミスト発生装置32の噴霧部32Aが高電圧電極46と接地電極44との間の空間に水を噴霧可能なように配置され、ミスト発生装置32は配管34を介して水タンク40及びオゾン発生器42に接続される。これにより、噴霧部32Aから噴霧された酸素溶解水のミストは、高電圧電極46と接地電極44との間に形成される高電圧の電界を通ることにより大きなエネルギーを得て、表面張力を超えて分裂し、微細化されてオーバーコート層14aに達する。この場合、ミストに1000V〜20000Vの高電圧を付与することがミストの微細化を促進する上で好ましく、5000V〜20000Vの範囲がより好ましい。このように、オーバーコート層14aに付与する酸素溶解水のミストの粒径を高電圧により微細化することで水が塗布膜に浸透し易くなるので、塗布膜中に一層短時間で高効率に酸素を付与することができる。この場合、高電圧電極46と接地電極44との距離(H)は100〜300mmの範囲が好ましく、150〜250mmの範囲がより好ましい。また、微細化されたミストの粒径は2.0μm以下であることが好ましい。
【0042】
また、図2の場合と同様に、調整ゾーン26の支持体搬送方向の下流側には、オーバーコート層14aの酸素た塗布膜中の酸素濃度を測定する酸素濃度計31(例えばorbisphere3600型) が配置され、調整ゾーン26内で調整されたオーバーコート層14aの酸素濃度が測定される。そして、測定結果に基づいてオーバーコート層14aの酸素濃度が設定酸素濃度になるように、噴霧部32Aからのミスト噴霧量が制御される。
【0043】
図4の酸素量調整装置30は、水タンク40からミスト発生装置32に送る酸素溶解水を微細化してから、ミスト発生装置32でミストを噴霧するようにしたものである。尚、図2及び図3と同じ部材や装置には同符号を付して説明する。
【0044】
図4に示すように、調整ゾーン26を囲むケーシング36は図2及び図3と同様である。磁気化方式の酸素量調整装置30は、主として、ミスト発生装置32と磁気化水発生装置50と水タンク40とオゾン発生器42とで構成される。即ち、オーバーコート層14aの上方に、ミスト発生装置32の噴霧部32Aが設けられ、このミスト発生装置32は配管34を介して水タンク40及びオゾン発生器42に接続される。そして、この配管34の途中に磁気化水発生装置50が設けられる。この磁気化水発生装置50は、配管34を挟んで対向配置された磁石のN極とS極により配管34内に高磁界を発生させる。配管34を流れる酸素溶解水が、この高磁界を横切って磁力が付与されることにより、水のクラスター構造が破壊され、これにより水が微細化する。微細化された水の粒径は2.0μm以下であることが好ましい。これにより、ミスト発生装置32の噴霧部32Aからは微細化した水がミスト状に噴霧され、オーバーコート層14aに達する。この場合、水に2000ガウス以上、より好ましくは5000ガウス以上の高磁場を付与することが、水の微細化を促進する上で好ましい。このように、酸素溶解水に高磁界を付与して水のクラスター構造を破壊してからミスト発生装置32で酸素溶解水を噴霧することで、オーバーコート層14aに付与する酸素溶解水のミストの粒径を微細化することができる。この結果、酸素溶解水が塗布膜に浸透し易くなるので、塗布膜中に一層短時間で高効率に酸素を付与することができる。
【0045】
図4の場合も図2や図3と同様に、調整ゾーン26の支持体搬送方向の下流側には、オーバーコート層14aの塗布膜中の酸素濃度を測定する酸素濃度計31(例えばorbisphere3600型) が配置され、調整ゾーン26内で調整されたオーバーコート層14aの酸素濃度が測定される。そして、測定結果に基づいてオーバーコート層14aの酸素濃度が設定酸素濃度になるように、噴霧部32Aからのミスト噴霧量が制御される。
【0046】
図5の酸素量調整装置30は、調整ゾーン26内に噴霧する酸素溶解水にマイナスの電荷を帯電させると共に、オーバーコート層にプラスの電荷を付与するようにしたものであり、水の帯電と同時に水の微細化も行えるようにした一例である。尚、図2〜図4と同様の装置や部材には同符号を付して説明する。
【0047】
図5に示すように、調整ゾーン26を囲むケーシング36は図2〜図4と同様である。帯電方式の酸素量調整装置30は、主として、調整ゾーン26に入る前のオーバーコート層14aに正の電荷を付与するプラス帯電手段52と、調整ゾーン26内に噴霧する酸素溶解水に負の電荷を帯電するマイナス帯電手段54とで構成される。プラス帯電手段52としては例えばコロナ放電装置を採用することができる。また、マイナス帯電手段54としては、図3で使用した接地電極44と高電圧電極46とをそのまま使用することができる。即ち、高電圧電極46と接地電極44との間に高電圧を付与して高電圧電極46と接地電極44との間の空間をマイナスに帯電させて、そこにミスト発生装置32から酸素溶解水をミスト状に噴霧することでミストが微細化すると共にマイナスに帯電させたミストを作成することができる。これにより、ミスト発生装置32から噴出された微細でマイナスに帯電されたミストが、プラスに帯電されたオーバーコート層14aに吸引されるので、ミストがオーバーコート層14aへ付着、浸透され易くなる。この結果、帯電による吸引効果と微細化による浸透効果の両方の効果で、水を介してオーバーコート層14aに更に短時間で一層高効率に酸素を導入することができる。尚、図5では、オーバーコート層14aをプラスに帯電させ、酸素溶解水のミストをマイナスに帯電させたが、オーバーコート層14aをマイナスに帯電させ、酸素溶解水のミストをプラスに帯電させてもよい。
【0048】
図5の場合も図2から図4と同様に、調整ゾーン26の支持体搬送方向の下流側には、オーバーコート層14aの塗布膜中の酸素濃度を測定する酸素濃度計31(例えばorbisphere3600型) が配置され、調整ゾーン26内で調整されたオーバーコート層14aの酸素濃度が測定される。そして、測定結果に基づいてオーバーコート層14aの酸素濃度が設定酸素濃度になるように、噴霧部32Aからのミスト噴霧量が制御される。
【0049】
上記図2〜図5の酸素量調整装置30では、調整ゾーン26内に1基の酸素量調整装置30を設けた例で示したが、調整ゾーン26の路長に応じて複数基の酸素量調整装置30を設けてもよい。
【0050】
尚、本実施の形態では、酸素溶解水をミスト状にするようにしたが、水のミストと酸素ガスとを接触させて酸素が取り込まれた酸素溶解ミストを生成し、この酸素溶解ミストをオーバーコート層14aに付与するようにしてもよい。また、本発明の実施の形態では、ミストを発生するミスト発生装置32として、酸素溶解水をスプレーする噴霧方式を使用したが、酸素溶解水を加熱して蒸気ミストにする加熱方式であってもよい。
【実施例】
【0051】
縦横100mm角のアルミニウム製の支持体14にPVA塗布液(ポリビニルアルコールを主体とした塗布液)を塗布量が2g/m2 になるように塗布してPVA塗布膜(オーバーコート層に相当)を形成した。そして、この支持体14を調整ゾーン26内を通過させたときの、PVA塗布膜への酸素付与速度を調べた。
【0052】
本発明の実施例及び従来技術である比較例ともに調整ゾーン26内の温度を26°C、湿度を55%RHになるようにして、PVA塗布膜に付与される水分量は一定になるようにすると共に、調整ゾーン26でのPVA塗布膜の滞留時間を同じにした。
【0053】
酸素付与速度は、PVA塗布膜の酸素濃度、酸素透過初期速度を測定することにより調べた。PVA塗布膜の酸素濃度は酸素濃度計31(orbisphere3600型) を使用して測定すると共に、PVA塗布膜の水分濃度はCHINO株式会社製の赤外線水分計IRM−Vを使用して測定した。
【0054】
(比較例)
酸素が溶解されていない水タンク40の水をミスト発生装置32から調整ゾーン26内にミスト状に噴霧すると共に、ミストに図3で説明した高電圧をかけて微細化した。高電圧の電圧は6000Vで行い、水タンク40の水は25°Cで一定にした。
【0055】
(実施例1)
オゾン発生器42から水タンク40の水にオゾンを供給して、酸素ガスを飽和状態に溶解した酸素溶解水を使用した以外は、比較例と同様である。
【0056】
(実施例2)
酸素ガスを水タンク40の水に直接溶解させて、酸素ガスを飽和状態に溶解した酸素溶解水を使用した以外は、比較例と同様である。
【0057】
その結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

表1から分かるように、酸素ガスを飽和状態に溶解した酸素溶解水のミストをPVA塗布膜に付与することにより、水をキャリアとしてPVA塗布膜中に酸素を導入する本発明の実施例1及び2は、PVA塗布膜を調湿することでPVA塗布膜中の酸素濃度を制御する比較例に比べて酸素濃度及び酸素透過初期速度ともに約1.5倍大きくなった。
【0059】
このように、本発明は、水をキャリアとすることで塗布膜中に短時間で高効率に酸素を付与することができるので、生産性を向上することができると共に、塗布膜に酸素を導入するゾーンの路長を長くする必要がないので省コスト、省スペースにも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の酸素量調整装置を備えた平版印刷版用原反の製造ライン
【図2】本発明の酸素量調整装置を説明する概念図
【図3】本発明の酸素量調整装置の別態様で、高電圧方式の酸素量調整装置の概念図
【図4】本発明の酸素量調整装置の別態様で、高電圧方式の酸素量調整装置の概念図
【図5】本発明の酸素量調整装置の別態様で、帯電方式の酸素量調整装置の概念図
【符号の説明】
【0061】
10…平版印刷版用原反の製造ライン、12…送出機、14…支持体、14a…オーバーコート層、16…表面処理部、18…バックコート層塗布・乾燥部、20…下塗り塗布・乾燥部、22…感光層塗布・乾燥部、24…オーバーコート層塗布・乾燥部、26…調整ゾーン、28…巻取機、30…酸素量調整装置、31…酸素濃度計、32…ミスト発生 装置、34…配管、36…ケーシング、38…パスローラ、40…水タンク、42…オ ゾン発生器、44…接地電極、46…高電圧電極、48…高圧電源、50…磁気化水発生装置、52…プラス帯電手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布膜中の酸素量を調整する方法において、
酸素ガスを飽和状態に溶解した酸素溶解水のミストを前記塗布膜に付与することにより、水をキャリアとして前記塗布膜中に酸素を導入することを特徴とする塗布膜中の酸素量調整方法。
【請求項2】
前記酸素溶解水は酸素ガスを水に直接溶解することにより調製されることを特徴とする請求項1の塗布膜中の酸素量調整方法。
【請求項3】
前記酸素溶解水はオゾンを水に溶解することにより調製されることを特徴とする請求項1の塗布膜中の酸素量調整方法。
【請求項4】
前記酸素溶解水は過酸化水素を水に溶解することにより調製されることを特徴とする請求項1の塗布膜中の酸素量調整方法。
【請求項5】
前記ミストに1000V〜20000Vの高電圧を付与することにより、ミストを微細化することを特徴とする請求項1〜4の何れか1の塗布膜中の酸素量調整方法。
【請求項6】
前記酸素溶解水に2000ガウス以上の磁力を付与することにより前記酸素溶解水を微細化することを特徴とする請求項1〜4の何れか1の塗布膜中の酸素量調整方法。
【請求項7】
前記ミストにプラスとマイナスの何れか一方の電荷を帯電させると共に、前記塗布膜に前記ミストとは逆の電荷を帯電させることを特徴とする請求項1〜6の何れか1の塗布膜中の酸素量調整方法。
【請求項8】
塗布膜中の酸素量を調整する方法において、
水のミストと酸素ガスとを接触させて酸素が取り込まれた酸素溶解ミストを生成し、この酸素溶解ミストを前記塗布膜に付与することにより、水をキャリアとして前記塗布膜中に酸素を導入することを特徴とする塗布膜中の酸素量調整方法。
【請求項9】
前記酸素溶解ミストに1000V〜20000Vの高電圧を付与して前記酸素溶解ミストを微細化するか、又は該酸素溶解ミストを形成する水に2000ガウス以上の磁力を付与して前記水を微細化することを特徴とする請求項8の塗布膜中の酸素量調整方法。
【請求項10】
前記塗布膜は、光重合性平版印刷版を製造する際に感光層の上に塗布されるPVAオーバーコート層であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1の塗布膜中の酸素量調整方法。
【請求項11】
塗布膜中の酸素量を調整する酸素量調整装置において、
前記塗布膜が塗布された帯状支持体を搬送させる搬送手段と、
前記帯状支持体が通過するトンネル状の酸素量調整ゾーンと、
前記酸素量調整ゾーン内に、酸素ガスを飽和状態に溶解した酸素溶解水のミストを発生させるミスト発生手段と、を備えたことを特徴とする塗布膜中の酸素量調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−320852(P2006−320852A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147217(P2005−147217)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】