説明

塗布装置、電子写真感光体の製造方法および電子写真感光体の量産方法

【課題】 塗布装置内の塗布液の循環を停止した際に塗布液の液面に形成されることのある半固形膜が、塗布液の循環を再開した後も塗布槽の上端縁部に滞留し、塗工欠陥を引き起こしてしまう現象が抑制された塗布装置を提供し、該塗布装置を用いた電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 塗布槽の上端部が、第一の上端面12aと、第一の上端面12aより下に位置し、第一の上端面12aの外径より大きい外径を有する第二の上端面12bと、第一の上端面12aと第二の上端面12bとを繋ぐ段差面13とを有し、塗布液の循環を一時的に停止させた後、塗布液の循環を再開させた際に、溢流した塗布液が、第二の上端面12bを伝い、段差面13の全域を濡らしながら流れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置、塗布装置を用いた電子写真感光体の製造方法および電子写真感光体の量産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、支持体および該支持体上に形成された感光層を有するものが一般的である。また、支持体と感光層との間には、導電層や下引き層(中間層)などが設けられる場合があり、また、感光層上には、保護層が設けられる場合もある。
電子写真感光体を製造するにあたり、支持体上に感光層などの層を形成する方法としては、例えば、浸漬塗布法、ロールコーター法、スプレー法、静電塗装法などの塗布方法を用いる方法が挙げられる。これらのうち、浸漬塗布法は、被塗布体が円筒状やシームレスベルト状などの立体形状を有する場合に有利な方法である。また、浸漬塗布法は、1つの塗布装置(浸漬塗布装置)で複数の被塗布体に対して同時に塗布を行うことが可能であるため、大量生産に有利な方法である。そのため、浸漬塗布法は、電子写真感光体の製造(量産)に広く使用されている。
【0003】
図6に、塗布装置(浸漬塗布装置)の例を示す。
図6に示す塗布装置において、塗布液20は、ポンプなどの送液手段3により、回収タンク2およびフィルター4を経由して塗布槽9の下部に送られる。また、塗布槽9の容量を超える塗布液20は、溢流槽(オーバーフロー槽)10に落下した後、配管を経由して回収タンク2に送られる。6は塗布液20の液面である。このような塗布液の循環機構にて、塗布液20は塗布装置内を循環する。また、塗布槽9の上は、被塗布体1を通過させるための貫通口8が設けられた覆い蓋7が覆っており、塗布液20への異物の混入や、塗布液20からの溶剤の揮発を抑制している。被塗布体1は、その一部を昇降手段(不図示)によって把持されており、塗布槽9中の塗布液20に浸漬され、次いで引き上げられることにより、その表面に塗膜(湿潤した塗膜)が形成される。また、引き上げ後の塗膜が周囲の状況による影響を受けないようにするためのフード5が、覆い蓋7の貫通口8の上方に設置されている。
【0004】
電子写真感光体などの製造の合間には、フィルターの定期交換や、昇降手段・送液手段のメンテナンスを行うために、塗布装置内の塗布液の循環を一時的に停止させることがある。塗布装置内の塗布液の循環を一時的に停止させると、塗布槽中の塗布液の液面から溶剤が揮発して塗布液の粘度が増加し、塗布液の液面には部分的に半固形状の膜(以下「半固形膜」と表記する。)が形成される場合がある。そして、塗布液の循環を再開させた際に、半固形膜が塗布槽の上端縁部に引っ掛かり、滞留してしまう場合がある。塗布槽の上端縁部に滞留した半固形膜は、塗布槽における塗布液の流れ(塗布槽からの塗布液の溢流)を不均一にしてしまい、その結果、膜厚ムラなどの塗工欠陥を引き起こしてしまう懸念がある。
【0005】
塗布槽中の塗布液の液面における異物の滞留を抑える方法として、特許文献1には、塗布槽の上端部に切り欠き部またはせき部を設ける方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、塗布槽からの塗布液の溢流を均一に維持する方法として、図7に示すような一般的な塗布槽の形状に対して、図8に示すように、上端面12から外側に向って下がる傾斜面14を持たせた塗布槽が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−323778号公報
【特許文献2】特開平07−132258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法は、気泡に対しては効果があるものの、半固形膜に対してはほとんど効果がない。さらに、切り欠き部やせき部の近傍における塗布液の流れは不均一なものとなってしまい、塗工欠陥を引き起こしてしまう懸念がある。
また、特許文献2に開示されている塗布槽では、半固形膜の滞留のリスクは多少減るものの、半固形膜の滞留を抑える効果として十分であるとはいえない。
本発明の目的は、塗布装置内の塗布液の循環を一時的に停止させた際に塗布液の液面に形成されることのある半固形膜が、塗布液の循環を再開した後も塗布槽の上端縁部に滞留し、塗工欠陥を引き起こしてしまう現象が抑制された塗布装置を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記塗布装置を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、塗布液を容れるための円筒状の塗布槽と、該塗布槽中の塗布液に被塗布体を浸漬して引き上げるための昇降手段と、塗布液が該塗布槽の上端部を越えて該塗布槽から溢流するように塗布液を循環させるための循環機構と、を有する塗布装置において、
該塗布槽の上端部が、第一の上端面と、該第一の上端面より下に位置し、該第一の上端面の外径より大きい外径を有する第二の上端面と、該第一の上端面と該第二の上端面とを繋ぐ段差面と、を有し、
該循環機構が、塗布液が該塗布槽を満たしたまま該塗布槽から溢流しない状態で塗布液の循環を一時的に停止させること、および、塗布液の循環を再開させることが可能であり、
塗布液の循環を一時的に停止させた後、塗布液の循環を再開させた際に、溢流した塗布液が、該第二の上端面を伝い、該段差面の全域を濡らしながら流れる
ことを特徴とする塗布装置である。
また、本発明は、浸漬塗布方法によって被塗布体の表面に塗膜を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法において、該浸漬塗布方法を上記塗布装置を用いて行うことを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
また、本発明は、(i)塗布液を容れるための円筒状の塗布槽と、電子写真感光体用の被塗布体を昇降させるための昇降手段と、塗布液を循環させるための循環機構と、を有する塗布装置を用意する工程と、
(ii)被塗布体を降ろし、該塗布槽の上端部を越えて該塗布槽から溢流する塗布液に該被塗布体を浸漬し、引き上げる工程と、
(iii)工程(ii)を繰り返すことによって複数の塗布ずみの被塗布体を得る工程と
を有する電子写真感光体の量産方法において、
該塗布槽の上端部が、第一の上端面と、該第一の上端面より下に位置し、該第一の上端面の外径より大きい外径を有する第二の上端面と、該第一の上端面と該第二の上端面とを繋ぐ段差面と、を有し、 該量産方法が、さらに、
(iv)塗布液が該塗布槽を満たしたまま該塗布槽から溢流しない状態で塗布液の循環を一時的に停止させる工程と、
(v)溢流した塗布液が該第二の上端面を伝い、該段差面の全域を濡らしながら流れるように塗布液の循環を再開させる工程と
を有することを特徴とする電子写真感光体の量産方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗布装置内の塗布液の循環を一時的に停止させた際に塗布液の液面に形成されることのある半固形膜が、塗布液の循環を再開した後も塗布槽の上端縁部に滞留し、塗工欠陥を引き起こしてしまう現象が抑制された塗布装置を提供することができる。
また、本発明によれば、上記塗布装置を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上記塗布装置を用いた電子写真感光体の量産方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は本発明の塗布装置における塗布槽の一例を示す図であり、(b)は(a)における上端部の拡大図である。
【図2】(a)および(b)は本発明の塗布装置における塗布槽の上端部の鉛直方向の断面図である。
【図3】(a)および(b)は本発明の塗布装置における塗布槽の上端部の鉛直方向の断面図である。
【図4】本発明の塗布装置における塗布槽の一例における上端部の拡大図である。
【図5】本発明の塗布装置を用いて製造された電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【図6】塗布装置(浸漬塗布装置)の一例を示す図である。
【図7】(a)は従来の一般的な塗布槽の形状の一例を示す図であり、(b)は(a)における上端部の拡大図である。
【図8】(a)は従来の塗布槽の形状の一例を示す図であり、(b)は(a)における上端部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の塗布装置は、塗布槽の上端部を越えて塗布液が塗布槽から溢流するように塗布液を塗布装置内で循環させながら、塗布槽中の塗布液に被塗布体を浸漬して引き上げることによって、被塗布体の表面に塗膜を形成する塗布装置である。
本発明の塗布装置の一例としては、図6に示す構成の塗布装置100が挙げられる。
図6に示す塗布装置100において、塗布液20は、ポンプなどの送液手段3により、回収タンク2およびフィルター4を経由して塗布槽9の下部に送られる。本発明の場合、塗布槽9の形状は、例えば、図1や図4に示すような新規な形状になっている。
塗布槽9の容量を超える塗布液20は、溢流槽(オーバーフロー槽)10に落下した後、配管を経由して回収タンク2に送られる。このような塗布液の循環機構にて、塗布液20は塗布装置100内を循環する。また、塗布槽9の上は、被塗布体1を通過させるための貫通口8が設けられた覆い蓋7が覆っており、塗布液20への異物の混入や、塗布液20からの溶剤の揮発を抑制している。被塗布体1は、その一部を昇降手段(不図示)によって把持されて、塗布槽9中の塗布液20に浸漬され、次いで引き上げられることにより、その表面に塗膜(湿潤した塗膜)が形成される。また、引き上げ後の塗膜が周囲の状況(風など)による影響を受けないようにするためのフード5が、覆い蓋7の貫通口8の上方に設置されている。
本発明の塗布装置100に用いられる塗布槽の形状の一例を、図1(a)および(b)に示す。図1(b)に示すように、図1(a)に示す塗布槽の上端部は、第一の上端面12aと、第一の上端面より下に位置し、第一の上端面の外径より大きい外径を有する第二の上端面12bと、第一の上端面12aと第二の上端面12bとをつなぐ段差面13と、を有する。
図2(a)および(b)は、図1に示す塗布槽の上端部の鉛直方向の断面図である。塗布装置内の塗布液の循環を一時的に停止させ、塗布液の塗布槽からの溢流が止まり、ある程度の時間経過すると、塗布液の液面に半固形膜21が形成される。そして、形成された半固形膜21は、第一の上端面12a(上端縁部)に引っ掛かり、第一の上端面12aに滞留する場合がある(図2(a))。その後、塗布装置内の塗布液の循環を再開すると、塗布液は、第一の上端面12aに滞留した半固形膜を迂回して溢流することになる。そして、第一の上端面12aを越えて塗布槽を溢流した塗布液の一部は、第二の上端面12bを伝い、段差面13の全域を濡らしながら流れ、半固形膜21の下側まで回り込んで半固形膜21に接触することにより、半固形膜21を下方に流下させることができる(図2(b))。22は、第二の上端面12bを伝って半固形膜21の下側に回り込んだ塗布液である。
【0013】
第二の上端面12bには、図3(b)に示すように、外周部が内周部より高くなるような傾斜を持たせることがより好ましい。これによって、塗布槽を溢流した塗布液を半固形膜の下側までより確実に回り込ませることができる。第二の上端面12bと水平方向のなす角度(図3(b)中のα)は、0〜30°であることが好ましい。角度αが大きいほど、塗布液が半固形膜の下側に回り込みやすくなる傾向があり、角度αが小さいほど、半固形膜が下方に流下しやすくなる。なお、第二の上端面12bが、外周部が内周部より低くなるような傾斜を持つ場合、角度αの値は負となる。
【0014】
また、段差面13における鉛直方向の長さ(図3(a)および(b)中のa)は、0.5〜3mmであることが好ましい。長さaが長いほど、半固形膜が第一の上端面12aと第二の上端面12bにまたがって引っ掛かりにくくなり、第二の上端面12bを伝ってきた塗布液が半固形膜の下側に回り込みやすくなる。長さaが短いほど、第二の上端面12bを伝ってきた塗布液が段差面13の全域を濡らしやすくなり、塗布液が半固形膜に接触しやすくなる。
【0015】
第二の上端面12bの内周部から外周部までの最短の距離(図3(a)および(b)中のb)は、0.3mm〜3mmであることが好ましい。距離bが長いほど、塗布液が半固形膜の下側に回り込みやすくなる。距離bが短いほど、半固形膜が第二の上端面12bで引っ掛かりにくくなり、第二の上端面12bを伝ってきた塗布液が半固形膜の下側に回り込みやすくなる。
本発明において、塗布槽の上端部の上端面は、第一の上端面と第二の上端面の2つだけであることが好ましい。第二の上端面より下に位置する第三以降の上端面を設けたとしても(例えば図4)、第一の上端面に比較して、第二の上端面や第三以降の上端面に半固形膜が引っ掛かる可能性が低いため、第三以降の上端面には半固形膜の流下に貢献する機会がほとんどない。また、第三以降の上端面を設けると、第一の上端面から流下した半固形膜が、さらに第三以降の上端面に引っ掛かる可能性が高まる。
図3に示す角度α、長さaおよび距離bは、塗布装置内の塗布液の循環を一時的に停止させ、その後再開させた際に、塗布液を溢流した塗布液が第二の上端面を伝い、段差面13の全域を濡らしながら流れることが可能な関係を有することが好適である。
【0016】
次に、本発明の塗布装置を用いた電子写真感光体の製造方法について説明する。
電子写真感光体は、一般的に、支持体上に感光層を形成することによって製造される。感光層は、電荷輸送物質と電荷発生物質を同一の層に含有する単層型感光層であってもよいし、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とに機能分離した積層型(機能分離型)感光層であってもよい。電子写真特性の観点からは、感光層は、積層型感光層であることが好ましい。また、積層型感光層の中でも、支持体側から電荷発生層および電荷輸送層をこの順に積層してなるもの(順層型感光層)が好ましい。また、支持体と感光層との間には、導電層や下引き層などを設けてもよいし、感光層の上には、保護層などを設けてもよい。
【0017】
なお、上記「塗膜」とは、導電層であっても、下引き層であっても、感光層(電荷発生層、電荷輸送層)であっても、保護層であってもよく、また、その他の層であってもよい。また、上記「被塗布体(電子写真感光体用の被塗布体)」とは、当該「塗膜」がその表面に形成されるものを意味する。例えば、電子写真感光体が、支持体の上に導電層、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層および保護層をこの順に形成してなる物である場合、「塗膜」と「被塗布体」は以下のとおりである。
「塗膜」が導電層であるときには「被塗布体」は支持体である。
「塗膜」が下引き層であるときには「被塗布体」は支持体の上に導電層を形成してなる物である。
「塗膜」が電荷発生層であるときには「被塗布体」は支持体の上に導電層および下引き層をこの順に形成してなる物である。
「塗膜」が電荷輸送層であるときには「被塗布体」は支持体の上に導電層、下引き層および電荷発生層をこの順に形成してなる物である。
「塗膜」が保護層であるときには「被塗布体」は支持体の上に導電層、下引き層、電荷発生層および電荷輸送層をこの順に形成してなる物である。
【0018】
本発明の塗布装置は、「塗膜」が上記のどの層の場合であっても適用可能であり、複数の層に適用することも可能である。半固形膜は、特に30〜800mPa・sの粘度の塗布液において形成されやすい。電荷輸送層用塗布液は、一般的に、30〜800mPa・sの粘度に調整される。粘度が低いほど、ダレを起こして、被塗布体の軸方向上部の表面に形成される塗膜の膜厚が、被塗布体の中央部や下部の表面に形成される塗膜の膜厚に比べて薄くなる傾向がある。また、粘度が高いほど、塗布時におけるレベリングが不十分となり、塗膜にムラが発生する傾向がある。本発明の塗布装置は、特に、500mPa・s以下の粘度の塗布液において、半固形膜の滞留を抑える効果が大きい。ここで、粘度は、芝浦システム(株)製の単一円筒型回転粘度計(商品名:ビスメトロンVS-A1型)を用いて、塗布液の液温が25℃であるときに測定した値である。
また、本発明の塗布装置は、塗布液が塗布槽中を上昇し、塗布槽から溢流するように塗布液を循環させて用いられる。塗布槽において塗布液が上昇する際の上昇速度は、一般的に、30〜280mm/minで調整される。上昇速度が遅いほど、塗膜にムラを生じにくく、速いほど、塗布槽において塗布液の淀みが起きにくい。本発明の塗布装置は、特に塗布槽において塗布液が60mm/min以上の上昇速度で上昇する条件において、半固形膜の滞留を抑える効果が大きい。
【0019】
以下、積層型感光層を有する電子写真感光体を例に挙げて、より詳細に述べる。
支持体は、導電性を有しているもの(導電性支持体)であることが好ましく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス、バナジウム、モリブデン、クロム、チタン、ニッケル、インジウム、金、白金などの金属製(合金製)の支持体を用いることができる。また、これら金属(合金)を真空蒸着によって形成した皮膜を有する金属製支持体やプラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂など)製支持体を用いることもできる。
【0020】
また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子などの導電性粒子を結着樹脂とともにプラスチックや紙に含浸させてなる支持体や、導電性結着樹脂を有するプラスチック製の支持体などを用いることもできる。
また、支持体の形状としては、例えば、円筒状、シームレスベルト状(エンドレスベルト状)などが挙げられるが、これらの中でも、円筒状が好ましい。
また、支持体の表面は、レーザー光などの散乱による干渉縞の抑制などを目的として、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
【0021】
支持体と感光層(電荷発生層、電荷輸送層)または後述の下引き層との間には、レーザー光などの散乱による干渉縞の抑制や、支持体の傷の被覆を目的とした導電層を設けてもよい。
導電層は、カーボンブラック、金属粒子、金属酸化物粒子などの導電性粒子を結着樹脂および溶剤とともに分散処理することによって得られる導電層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。
導電層の膜厚は、1〜40μmであることが好ましく、2〜20μmであることがより好ましい。
【0022】
また、支持体または導電層と感光層(電荷発生層、電荷輸送層)との間には、バリア機能や接着機能を有する下引き層を設けてもよい。下引き層は、感光層の接着性改良、塗工性改良、支持体からの電荷注入性改良、感光層の電気的破壊に対する保護などを目的として設けられる。
下引き層は、樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる下引き層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。
下引き層に用いられる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、エチルセルロース樹脂、エチレン−アクリル酸コポリマー、エポキシ樹脂、カゼイン樹脂、シリコーン樹脂、ゼラチン樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ポリアクリレート、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリアリルエーテル、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリブタジエン、ポリプロピレン、ユリア樹脂などが挙げられる。
また、下引き層は、酸化アルミニウムなどを用いて形成することもできる。
また、下引き層には、金属、合金、金属酸化物の粒子や、塩類や、界面活性剤などを必要に応じて添加することもできる。
下引き層の膜厚は、0.05〜7μmであることが好ましく、0.1〜2μmであることがより好ましい。
【0023】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂および溶剤とともに分散処理することによって得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。乾燥、硬化させる方法としては、例えば、加熱、放射線照射などが挙げられる。分散処理方法としては、例えば、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、アトライター、液衝突型高速分散機などを用いた方法が挙げられる。
【0024】
電荷発生物質としては、例えば、モノアゾ、ジスアゾ、トリスアゾなどのアゾ顔料や、金属フタロシアニン、非金属フタロシアニンなどのフタロシアニン顔料や、インジゴ、チオインジゴなどのインジゴ顔料や、ペリレン酸無水物、ペリレン酸イミドなどのペリレン顔料や、アンスラキノン、ピレンキノンなどの多環キノン顔料や、スクワリリウム色素や、ピリリウム塩およびチアピリリウム塩や、トリフェニルメタン色素や、セレン、セレン−テルル、アモルファスシリコンなどの無機物質や、キナクリドン顔料や、アズレニウム塩顔料や、シアニン染料や、キサンテン色素や、キノンイミン色素や、スチリル色素や、硫化カドミウムや、酸化亜鉛などが挙げられる。これら電荷発生物質は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0025】
電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、スチレン−ブタジエンコポリマー、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ベンザール樹脂、ポリアクリレート、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリアリルエーテル、ポリアリレート、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリビニルアセタール、ポリブタジエン、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ブチラール樹脂などが好ましい。これらは、1種のみ用いてもよく、混合または共重合体として2種以上用いてもよい。
【0026】
電荷発生層中の結着樹脂の割合は、電荷発生層全質量に対して90質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、例えば、アルコール、スルホキシド、ケトン、エーテル、エステル、脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族化合物などの有機溶剤が挙げられる。
電荷発生層の膜厚は、0.001〜6μmであることが好ましく、0.01〜1μmであることがより好ましい。
また、電荷発生層には、増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0027】
電荷輸送層は、電荷輸送物質および結着樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。乾燥、硬化させる方法としては、例えば、加熱、放射線照射などが挙げられる。
電荷輸送物質としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物、トリアリールメタン化合物などが挙げられる。これら電荷輸送物質は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0028】
電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリアリルエーテル、ポリアリレート、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリビニルブチラール、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリアリレート、ポリカーボネートが好ましい。これらは、1種のみ用いてもよく、混合または共重合体として2種以上用いてもよい。
電荷輸送層中の電荷輸送物質の割合は、電荷輸送層全質量に対して20〜80質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。
【0029】
電荷輸送物質と結着樹脂との割合は、5:1〜1:5(質量比)の範囲であることが好ましい。
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、モノクロロベンゼン、ジオキサン、トルエン、キシレン、N−メチルピロリドン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メチラールなどの有機溶剤が挙げられる。
また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0030】
感光層の上には、これを保護することを目的とした保護層を設けてもよい。保護層は、上述した各種結着樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる保護層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。乾燥、硬化させる方法としては、例えば、加熱、放射線照射などが挙げられる。
電子写真感光体の表面層となる層には、潤滑剤を含有させてもよい。潤滑剤としては、例えば、ケイ素原子やフッ素原子を含むポリマー、モノマーおよびオリゴマーなどが挙げられる。具体的には、N−(n−プロピル)−N−(β−アクリロキシエチル)−パーフルオロオクチルスルホン酸アミド、N−(n−プロピル)−(β−メタクリロキシエチル)−パーフルオロオクチルスルホン酸アミド、パーフルオロオクタンスルホン酸、パーフルオロカプリル酸、N−n−プロピル−n−パーフルオロオクタンスルホン酸アミド−エタノール、3−(2−パーフルオロヘキシル)エトキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、N−n−プロピル−N−2,3−ジヒドロキシプロピルパーフルオロオクチルスルホンアミドなどが挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリジクロロジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素原子含有樹脂の粒子などが挙げられる。これら潤滑剤は、1種にも用いてもよく、2種以上用いてもよい。また、潤滑剤が樹脂である場合、その数平均分子量は、3000〜5000000であることが好ましく、10000〜3000000であることがより好ましい。潤滑剤が粒子である場合、その平均粒径は、0.01〜10μmであることが好ましく、0.05〜2.0μmであることがより好ましい。
【0031】
また、電子写真感光体の表面層には、抵抗調整剤を必要に応じて添加することもできる。抵抗調整剤としては、例えば、SnO、ITO、カーボンブラック、銀などの粒子が挙げられる。また、これらに疎水化処理を施したものを用いてもよい。抵抗調整剤を添加した場合の表面層の抵抗は、10〜1014Ω・cmであることが好ましい。
なお、保護層を設ける場合は、保護層が電子写真感光体の表面層である。保護層を設けない場合であって感光層が順層型感光層の場合は、電荷輸送層が電子写真感光体の表面層である。保護層を設けない場合であって逆層型感光層の場合は、電荷発生層が電子写真感光体の表面層である。
【0032】
図5に、本発明の製造方法で製造された電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
図5において、円筒状の電子写真感光体101は、軸102を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。
回転駆動される電子写真感光体101の表面は、帯電手段(一次帯電手段:帯電ローラーなど)103により、正または負の所定電位に均一に帯電される。次いで、電子写真感光体101の表面には、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)から出力される露光光(画像露光光)104が照射される。こうして電子写真感光体101の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。
【0033】
電子写真感光体101の表面に形成された静電潜像は、現像手段105の現像剤に含まれるトナーにより現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体101の表面に形成されたトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)106によって、転写材(紙など)Pに転写される。転写材(紙など)Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体101と転写手段106との間(当接部)に電子写真感光体101の回転と同期して取り出されて給送される。
【0034】
トナー像が転写された転写材Pは、電子写真感光体101の表面から分離されて定着手段108へ導入されて像定着を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として電子写真装置外へプリントアウトされる。
トナー像を転写した後の電子写真感光体101の表面は、クリーニング手段(クリーニングプレードなど)107によって転写残りの現像剤(転写残トナー)の除去を受けて清浄面化される。さらに電子写真感光体101の表面には、前露光手段(不図示)から前露光光(不図示)が照射されて除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図5に示すように、帯電手段103が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0035】
電子写真感光体101、帯電手段103、現像手段105、転写手段106およびクリーニング手段107などから選択される構成要素のうち、複数のものを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に結合して構成し、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンタなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図5では、電子写真感光体101と、帯電手段103、現像手段105およびクリーニング手段107とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段110を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ109としている。
【実施例】
【0036】
以下に、具体的な実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
(実施例1−1)
下記構造式(1)で示される化合物5000部(電荷輸送物質)、
【0037】
【化1】

【0038】
および、ビスフェノールZ型のポリカーボネート(商品名:ユーピロンZ−200、三菱ガス化学(株)製、粘度平均分子量(Mv):20000)7000部(結着樹脂)を、モノクロロベンゼン25000部/ジメトキシメタン(メチラール)12000部の混合溶剤に溶解させることによって、150mPa・sの粘度を有する電荷輸送層用塗布液を調製した。
【0039】
図6に示す構成を有し、かつ図1に示す形状で、表1に示すa、bおよびαの値を有する塗布槽を64個(8行×8列)備えた塗布装置を用意し、該塗布装置内において、上記電荷輸送層用塗布液を10分間循環させた後、循環を停止させた。循環を停止させてから30分後に電荷輸送層用塗布液の循環を再開させて、その5分後に64個の塗布槽のそれぞれにおける電荷輸送層用塗布液の溢流の均一性を目視で確認し、塗布槽の上端縁部に半固形膜が滞留することによって電荷輸送層用塗布液の溢流状態が不良になっている塗布槽の個数を数えた。なお、塗布槽から溢流しているときの電荷輸送層用塗布液の上昇速度は130mm/minになるようにした。これらの操作を10回繰り返して行い、そのたびに電荷輸送層用塗布液の溢流状態が不良になっている塗布槽の個数を数えた。溢流状態が不良になっている塗布槽の10回分合計の個数(不良個数)を640(64個×10回)で除して100を乗じた値を不良率[%]とした。不良個数および不良率の値を表1に示す。
(実施例1−2〜1−22)
電荷輸送層用塗布液の材料の種類および量、電荷輸送層用塗布液の粘度、塗布槽から溢流しているときの電荷輸送層用塗布液の上昇速度、ならびに、64個の塗布槽の種類(図1に示す形状の塗布槽のa、bおよびαの値)を表1に示すとおりにした以外は、実施例1−1と同様の操作を行い、不良個数および不良率の値を算出した。不良個数および不良率の値を表1に示す。
なお、表1中の「式(1)」は、上記構造式(1)で示される化合物を意味する。「PC」は、ビスフェノールZ型のポリカーボネート(商品名:ユーピロンZ−200、三菱ガス化学(株)製、粘度平均分子量(Mv):20000)を意味する。「PA」は、ビスフェノールC型のポリアリレート(重量平均分子量(Mw):180000)を意味する。「MCB」は、モノクロロベンゼンを意味する。「DMM」は、ジメトキシメタンを意味する。「OXY」は、o−キシレンを意味する。
(実施例1−23)
64個の塗布槽として図4に示す形状の塗布槽を用いた以外は、実施例1−1と同様の操作を行い、不良個数および不良率の値を算出した。不良個数および不良率の値を表1に示す。なお、第二の上端面12bと水平方向のなす角度および第三の上端面12cと水平方向のなす角度はともに0°とした。また、段差面13における鉛直方向の長さおよび段差面13bにおける鉛直方向の長さはともに1.2mmとした。また、第二の上端面12bの内周部から外周部までの最短の距離および第三の上端面12cの内周部から外周部までの最短の距離はともに0.7mmとした。
(比較例1−1)
64個の塗布槽として図7に示す形状の塗布槽を用いた以外は、実施例1−1と同様の操作を行い、不良個数および不良率の値を算出した。不良個数および不良率の値を表1に示す。
(比較例1−2)
64個の塗布槽として図8に示す形状の塗布槽を用いた以外は、実施例1−1と同様の操作を行い、不良個数および不良率の値を算出した。不良個数および不良率の値を表1に示す。
【表1】

【0040】
(実施例2−1)
以下のようにして、本発明の塗布装置を用いて電子写真感光体を製造(量産)した。
まず、支持体として、直径30mm、長さ254mmのアルミニウムシリンダーを用いた。
次に、ポリアミド(商品名:M−4000、東レ(株)製)10部を、メタノール100部/イソプロパノール90部の混合溶剤に溶解させることによって、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を上記支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を10分間90℃で乾燥させることによって、膜厚が0.6μmの下引き層を形成した。
【0041】
次に、CuKαのX線回折におけるブラッグ角2θの7.4°±0.2°および28.1°±0.2°に強いピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)9部、ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX−1、積水化学(株)製)3部、および、テトラヒドロフラン100部を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、3時間分散処理した。得られた分散液に酢酸ブチル200部を加えて希釈することによって、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を上記下引き層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を15分間80℃で乾燥させることによって、膜厚が0.15μmの電荷発生層を形成した。
以上のようにして、支持体上に下引き層および電荷発生層をこの順序で形成してなるもの(以下単に「被塗布体」と表記する。)を640個製造した。
【0042】
次に、上記640個の被塗布体を64個ずつの10セットに分け、1セットずつ、実施例1−1で用いたものと同様の塗布装置および電荷輸送層用塗布液を用いて、上記被塗布体の電荷発生層上に電荷輸送層用塗布液を浸漬塗布し、120℃で60分乾燥させて電荷輸送層を形成し、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体を得た。なお、塗布槽から溢流しているときの電荷輸送層用塗布液の上昇速度は実施例1−1と同様にした。
浸漬塗布の具体的な手順としては、まず、実施例1−1で用いたものと同様の塗布装置内において、実施例1−1で用いたものと同様の電荷輸送層用塗布液を10分間循環させた。その後、1セット目の被塗布体の電荷発生層上に電荷輸送層用塗布液を浸漬塗布した。この浸漬塗布の後、塗布装置内の電荷輸送層用塗布液の循環を停止させた。循環を停止させてから30分後に電荷輸送層用塗布液の循環を再開させて、その5分後、2セット目の被塗布体の電荷発生層上に電荷輸送層用塗布液を浸漬塗布した。このように塗布装置内の電荷輸送層用塗布液の循環の停止(30分間の停止)および再開を繰り返しながら、10セット目の被塗布体まで電荷輸送層用塗布液の浸漬塗布を行った。
【0043】
以上のようにして得られた640個の電子写真感光体の電荷輸送層の膜厚ムラを目視で確認し、評価した。具体的には、電荷輸送層の中央部(被塗布体の軸方向(浸漬塗布方向)の上端部から127mmの位置)の膜厚を周方向8箇所(45°刻み)で測定した。そして、8箇所の膜厚の最大値と最小値の差が1.5μm以上であった電子写真感光体は、半固形膜の滞留による電荷輸送層の膜厚ムラが大きい不良の電子写真感光体であると判断した。電荷輸送層の膜厚ムラが大きい不良の電子写真感光体の個数(不良個数)を640で除して100を乗じた値を不良率[%]とした。不良個数および不良率の値を表2に示す。なお、電荷輸送層の膜厚は、電子写真感光体の断面を顕微鏡観察することにより測定した値である。
【0044】
(実施例2−2〜2−23および比較例2−1〜2−2)
塗布装置、電荷輸送層用塗布液および塗布槽から溢流しているときの電荷輸送層用塗布液の上昇速度を表2に示すとおりにした以外は、実施例2−1と同様の操作を行って電子写真感光体を作製し、不良個数および不良率を算出した。不良個数および不良率の値を表2に示す。
【表2】

表1の結果と表2の結果を対比すると、半固形膜の滞留と膜厚ムラの発生は概ね相関しており、半固形膜の滞留を抑えることによって、膜厚ムラの発生が抑えられることがわかる。
【符号の説明】
【0045】
1 被塗布体
2 回収タンク
3 送液手段
4 フィルター
5 フード
6 液面
7 覆い蓋
8 貫通口
9 塗布槽
10 溢流槽
12 上端面
12a 第一の上端面
12b 第二の上端面
12c 第三の上端面
13 段差面
13b 第二の段差面
14 傾斜面
20 塗布液
21 半固形膜
22 第二の上端面を伝って半固形膜の下側に回り込んだ塗布液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を容れるための円筒状の塗布槽と、該塗布槽中の塗布液に被塗布体を浸漬して引き上げるための昇降手段と、塗布液が該塗布槽の上端部を越えて該塗布槽から溢流するように塗布液を循環させるための循環機構と、を有する塗布装置において、
該塗布槽の上端部が、第一の上端面と、該第一の上端面より下に位置し、該第一の上端面の外径より大きい外径を有する第二の上端面と、該第一の上端面と該第二の上端面とを繋ぐ段差面と、を有し、
該循環機構が、塗布液が該塗布槽を満たしたまま該塗布槽から溢流しない状態で塗布液の循環を一時的に停止させること、および、塗布液の循環を再開させることが可能であり、
塗布液の循環を一時的に停止させた後、塗布液の循環を再開させた際に、溢流した塗布液が、該第二の上端面を伝い、該段差面の全域を濡らしながら流れる
ことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記第二の上端面が、外周部が内周部より高くなるような傾斜を有する請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
浸漬塗布方法によって被塗布体の表面に塗膜を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法において、該浸漬塗布方法を請求項1または2に記載の塗布装置を用いて行うことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
(i)塗布液を容れるための円筒状の塗布槽と、電子写真感光体用の被塗布体を昇降させるための昇降手段と、塗布液を循環させるための循環機構と、を有する塗布装置を用意する工程と、
(ii)被塗布体を降ろし、該塗布槽の上端部を越えて該塗布槽から溢流する塗布液に該被塗布体を浸漬し、引き上げる工程と、
(iii)工程(ii)を繰り返すことによって複数の塗布ずみの被塗布体を得る工程と
を有する電子写真感光体の量産方法において、
該塗布槽の上端部が、第一の上端面と、該第一の上端面より下に位置し、該第一の上端面の外径より大きい外径を有する第二の上端面と、該第一の上端面と該第二の上端面とを繋ぐ段差面と、を有し、 該量産方法が、さらに、
(iv)塗布液が該塗布槽を満たしたまま該塗布槽から溢流しない状態で塗布液の循環を一時的に停止させる工程と、
(v)溢流した塗布液が該第二の上端面を伝い、該段差面の全域を濡らしながら流れるように塗布液の循環を再開させる工程と
を有することを特徴とする電子写真感光体の量産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−61460(P2012−61460A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159350(P2011−159350)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】