説明

塗布装置及び塗布方法並びに記憶媒体

【課題】基板を回転させた状態で塗布液を塗布する際に、1種類の塗布液で、風切りマークの発生を抑えながら、塗布膜の膜厚の調整範囲を大きくすること。
【解決手段】塗布ユニットは、カバー部材4の上部板31を、前記スピンチャック2に載置されたウエハWの表面に接近させて、前記スピンチャック2とカバー部材4とを同じ方向に回転させることにより、前記ウエハW表面の中心部に供給された塗布液を遠心力により伸展させて塗布膜の膜厚を調整し、次いで前記スピンチャック2及びカバー部材4を、前記塗布膜の膜厚を調整するときよりも低い回転数で回転させながら、前記カバー部材4を上昇させて前記塗布膜中の溶剤を揮発させるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板にレジスト液などの塗布液を塗布する塗布装置及び塗布方法並びに記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやLCDの製造プロセスにおいては、フォトリソグラフィ技術により基板へのレジストパターン形成処理が行われている。これらの処理では、 半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)や液晶ディスプレイ用ガラス基板等の基板にレジスト液を塗布して薄膜状のレジスト膜を形成し、次いで当該レジスト膜を露光した後、現像処理を行って所望のパターンを得る、一連の工程により行われる。
【0003】
ところで前記基板にレジスト液等の、塗布膜の成分と溶剤とを含む塗布液を塗布する技術として、回転塗布法(スピンコーティング法)が広く用いられている。この手法では、先ずスピンチャック上にウエハを載置して略水平に保持させ、ウエハを鉛直軸まわりに回転させながら、ウエハの上方側に設けられたノズルから、当該ウエハの中央部にレジストを供給する。ウエハに滴下されたレジスト液は、遠心力によりウエハの中央部から外周部に向かって伸展され、その後ウエハの回転数を低下させ、前記レジスト液のレベリングを行う。このレベリング後、ウエハの回転数を再び上昇させてウエハ上の余分なレジスト液を振り切って除去する。一方ウエハ上のレジスト液に含まれる溶剤は、ウエハの回転によりウエハ上に生じる気流に曝されて揮発していく。こうしてウエハの回転によりレジスト液の乾燥が促進され、レジスト膜が形成される。
【0004】
このような塗布法では、ウエハの回転数を上昇させるに従い、形成される塗布膜の膜厚が薄くなるため、回転数を調整することによって塗布膜の膜厚を制御することができる。しかしながらウエハの大型化に伴い、回転数をある値以上に上昇させると、ウエハの周縁に近い領域にて、レジスト膜の表面に、周方向に沿って、例えば30本前後のしわ状の、膜厚が不均一となる部位が形成されることがある。このしわは風切りマークと呼ばれ、これが形成された部位はデバイス領域としては使用できなくなってしまうため、同じ組成の塗布液を用いた場合には、膜厚の下限値が限られてしまい、一つの塗布液による膜厚の制御範囲が狭いという問題がある。
【0005】
この際、膜厚を前記下限値よりも小さくする場合には、塗布液の濃度(粘度)を低下させることにより対応することができる。従って膜厚の制御範囲を大きくするためには、濃度の異なる塗布液の供給系統を膜厚の制御範囲に対応する数だけ用意すればよいが、このような構成では、装置構成が煩雑になり、装置が大型化するという問題がある。
【0006】
ここで前記風切りマークは、レジスト液中の溶剤が揮発する過程において、ウエハの回転に伴ってウエハ表面に形成される不均一な気流の流れに前記レジスト液が曝されることにより形成されるため、本発明者らは、前記ウエハ表面の不均一な気流な流れの発生を抑えるために、スピンチャック上に載置されたウエハの周囲に、ウエハと共に回転可能なカバーを設けてウエハの周囲に囲まれた空間を形成し、この空間内にてレジスト液の塗布を行う手法を検討している。
【0007】
この手法でレジスト液を塗布すると、後述の実施例に示すように、膜厚の制御範囲を薄膜方向に拡大することできることが認められる。しかしながら、囲まれた空間の内部ではレジスト液中の溶剤が揮発しにくい状態となり、従来と同様にウエハを60秒程度回転させた程度では、前記溶剤が完全に除去されない。このため前記溶剤の自然乾燥を待つことになるが、このように自然乾燥させると、膜ムラが発生しやすいという問題がある。この膜ムラとはレジスト膜中の溶剤が自然揮発することによって生じる局所的な膜厚の違いをいう。
【0008】
ところで特許文献1には、基板を保持しつつ回転する回転台と、この回転台上の基板の上方側に当該基板と対向するように設けられた上部回転板と、を備えた回転式塗布装置が提案されている。この装置では、前記回転台と上部回転板とを回転させながら、基板に対して塗布処理を行い、塗布処理終了後に前記回転台と上部回転板の回転を一旦停止し、次いで基板の回転を再開する一方、上部回転板を回転させずに上昇させている。しかしながらこの構成では、上部回転板を回転させずに上昇させているので、基板上の気流が乱れやすい。このため、結果として塗布膜中の溶剤が揮発する際にこの気流の乱れの影響を受けてしまい、風切りマークの発生を抑えることができず、本発明の課題を解決することはできない。
【0009】
【特許文献1】特開平11−74173号公報(図1、段落0006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、基板を回転させた状態で塗布液を塗布する際に、1種類の塗布液で、風切りマークの発生を抑えながら、塗布膜の膜厚の調整範囲を大きくできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため本発明の塗布装置は、基板を略水平に保持すると共に、鉛直軸まわりに回転する基板保持部と、この基板保持部に保持された基板の上方側に隙間を介して当該基板と対向する上部板を備え、鉛直軸まわりに回転自在に設けられた、基板よりも大きいカバー部材と、このカバー部材を前記基板保持部に対して相対的に昇降させる昇降機構と、前記基板保持部に保持された基板表面に、塗布膜の成分と溶剤とを含む塗布液を供給するための塗布液ノズルと、前記基板保持部及びカバー部材並びに昇降機構の動作を制御する制御部と、を備え、この制御部は、前記上部板を、前記基板表面に接近させて、前記基板保持部とカバー部材とを同じ方向に回転させることにより、前記基板表面の中心部に供給された塗布液を遠心力により伸展させて塗布膜の膜厚を調整するステップと、次いで前記基板保持部及びカバー部材を、前記ステップよりも低い回転数で回転させながら、前記カバー部材を前記基板保持部に対して相対的に上昇させて前記塗布膜中の溶剤を揮発させるステップと、を実行するように構成されることを特徴とする。
【0012】
この際、前記基板保持部に保持された基板の裏面側にて、基板と隙間を介して基板の周方向に環状に形成された環状部材を含む固定部材を備え、前記カバー部材は、基板に接近したときに、この固定部材と共に基板を囲むように構成されていることが好ましい。また前記カバー部材は、前記基板保持部とは異なる回転機構により回転自在に構成されるようにしてもよい。さらに前記塗布液ノズルは前記カバー部材に設けられる構成とすることができる。
【0013】
さらに前記カバー部材を介して、当該カバー部材と前記基板保持部に保持された基板との間に、空気よりも粘性が低い第1の気体を供給する第1の気体供給手段を備え、前記制御部を、前記カバー部材を塗布膜の膜厚を調整するときの回転数で回転させるときに、前記第1の気体を供給するための制御信号を出力するように構成してもよいし、前記カバー部材を介して、当該カバー部材と前記基板保持部に保持された基板との間に、前記第1の気体と異なる第2の気体を供給する第2の気体供給手段を備え、前記制御部を、前記カバー部材を前記基板保持部に対して相対的に上昇させるときに、前記第1の気体に代えて第2の気体を供給するための制御信号を出力するように構成してもよい。
【0014】
さらにまた前記基板保持部に保持された基板の側方側及び下方側を覆うカップと、このカップ内の雰囲気を排気するための排気手段と、前記カップ内の雰囲気を所定の圧力に調整するために、前記排気手段の排気量を調整する排気量調整部と、を備え、前記制御部を前記カバー部材を介して気体を供給するときには前記排気量を大きくし、前記カバー部材を介して気体を供給しないときには、カバー部材を介して気体を供給するときよりも前記排気量を小さくするように制御信号を出力するように構成してもよい。
【0015】
また本発明の塗布方法は、基板を基板保持部に略水平に保持させる工程と、基板保持部に保持された基板の中心部に塗布膜の成分と溶剤とを含む塗布液を供給する工程と、前記カバー部材を、その上部板が前記基板表面に接近する位置に位置させる工程と、次いで前記基板保持部とカバー部材とを同じ方向に回転させることにより、基板表面の塗布液を遠心力により伸展させて塗布膜の膜厚を調整する工程と、次いで前記基板保持部及びカバー部材の回転数を前記工程よりも低い回転数で回転させながら、前記カバー部材を前記基板保持部に対して相対的に上昇させて前記塗布膜中の溶剤を揮発させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
この際、前記カバー部材を前記塗布膜の膜厚を調整するときの回転数で回転させるときに、このカバー部材と前記基板との間に空気よりも粘性が低い第1の気体を供給するようにしてもよいし、前記カバー部材を前記基板保持部に対して相対的に上昇させるときに、前記カバー部材と前記基板との間に、前記第1の気体に代えて、この第1の気体とは異なる第2の気体を供給するようにしてもよい。
【0017】
また前記基板保持部に保持された基板の側方側及び下方側を覆うカップを備え、 前記カバー部材と基板との間に気体を供給するときには、前記カップ内を大きい排気量で排気し、カバー部材と基板との間に気体を供給しないときには、カバー部材と基板との間に気体を供給するときよりも小さい排気量で前記カップ内を排気して、前記カップ内の圧力を調整するようにしてもよい。
【0018】
さらに本発明の記憶媒体は、基板保持部に略水平に保持された基板の中心部に塗布液を供給し、前記基板保持部を回転させて前記基板の表面に塗布液を塗布する塗布装置に用いられるコンピュータプログラムを格納した記憶媒体であって、前記プログラムは、既述の塗布方法を実行するようにステップ群が組まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基板表面の中心部に供給された塗布液を遠心力により伸展させて塗布膜の膜厚を調整する段階は、カバー部材を下降させ、基板の表面に上部板を接近させた状態で、前記カバー部材を基板保持部と同じ方向に回転させているので、基板の表面における気流の乱れが抑えられ、前記膜厚を薄くする場合でも風切りマークの発生を抑えることができる。また塗布膜中の溶剤を揮発させる段階では、前記基板保持部及びカバー部材の回転数を塗布膜の膜厚を調整するときよりも低い回転数で回転させながら、前記カバー部材を前記基板保持部に対して相対的に上昇させているので、気流の乱れの発生を抑えながら、前記溶剤の揮発を促進することができ、塗布膜中に残存する溶剤が自然に揮発することに起因する膜ムラの発生を抑えることができる。これらのことから、広い領域で均一な膜厚の塗布膜を得る場合に、一種類の塗布液によって調整される膜厚範囲を広くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に説明する実施の形態においては、本発明の塗布装置を、基板に対して塗布液例えばレジスト液を塗布する処理を行う塗布ユニットに適用した構成を例にして説明する。図1は前記塗布ユニットの断面図を示している。図中2は、基板をなす半導体ウエハW(以下「ウエハW」という)の裏面側中央部を吸引吸着して当該ウエハWを水平に保持するための基板保持部をなすスピンチャックである。このスピンチャック2は、軸部21を介して第1の昇降機構22及び第1の回転機構をなすモータM1に接続され、ウエハWを保持した状態で鉛直軸まわりに回転自在及び昇降自在に構成されている。
【0021】
図中23は、前記スピンチャック2に保持されたウエハの側周部及び底面部の外側に当該ウエハWを囲むように設けられたカップである。このカップ23の上面は、ウエハWの受け渡しを行うために、ウエハWよりも大きい大きさに開口している。カップ23の底部側には、凹部状をなす液受け部24がウエハWの周縁下方側において全周に亘って設けられている。この液受け部24は外側領域と内側領域とに区画されており、外側領域の底部には貯留されたレジスト液のドレインを排出するためのドレイン管25が接続され、内側領域の底部にはバルブV1,排気量調整部をなす排気ダンパ27を備えた排気路26を介して排気手段28に接続されている。
【0022】
前記スピンチャック2は、前記第1の昇降機構22により、前記カップ23内における処理位置と、このカップ23の上方側の受け渡し位置との間で昇降自在に構成されている。図1に示す位置は処理位置であり、前記受け渡し位置とは、外部の搬送手段(図示せず)とスピンチャック2との間でウエハWの受け渡しを行う位置である。そしてカップ23内における、前記処理位置に配置されたウエハWの下方側には、当該ウエハWの裏面と対向し、当該ウエハWの裏面を隙間を介して覆うように、平面形状が例えば円形状の下部板31が設けられている。
【0023】
この下部板31は、その外縁が前記ウエハWの外縁よりも外側に位置するようになっており、その中央部には前記スピンチャック2の軸部21が昇降する移動領域をなす開口部31aが形成され、この開口部31aの外縁は例えばスピンチャック2の下方側に位置している。またこの下部板31の上面には、前記ウエハWの外縁よりも外側の位置に、環状部材をなす壁部材32が立設されている。この壁部材32は、例えば前記ウエハWの外縁全体を周方向に沿って囲むように環状に設けられ、その高さは例えば前記処理位置にあるウエハWの表面よりも高くなるように設定されている。こうしてこの例では前記下部板31と壁部材32とにより固定部材が構成されている。
【0024】
一方前記スピンチャック2に保持されたウエハWの上方側には、このウエハWの上方側及び側方側を隙間を介して覆うようにカバー部材4が設けられている。このカバー部材4は、前記処理位置にあるウエハWの上面と対向するように、平面形状が例えば円形状であってウエハWよりも大きい上部板41を備えている。この上部板41は、その外縁が前記ウエハWの外縁よりも外側に位置するようになっており、その中央部には、後述する塗布液ノズル6からの塗布液の供給領域を形成するために、例えば直径が5mm程度の大きさの開口部41aが形成されている。
【0025】
またこの上部板41は、前記ウエハWの外縁よりも外側の位置において下方側に伸びる側壁部42を備えている。ここでカバー部材4は後述するように昇降自在に構成されており、前記側壁部42は、当該カバー部材4が図1に示す塗布位置に位置するときに、例えば前記壁部材32の外側において、ウエハWの側部全体を周方向に沿って囲むように設けられている。そしてカバー部材4が塗布位置に位置するときには、側壁部42の下端は例えば前記処理位置にあるウエハWの裏面よりも下方側に位置するように設定されている。
【0026】
このような上部板41の上面の中央部には、当該上部板41を吊り下げる状態で保持するために、円筒状の回転保持部51が設けられている。この回転保持部51は、その内部に前記塗布液ノズル6の配置領域が形成されており、その上端側は当該塗布液ノズル6を貫通させるために開口する領域以外は閉じられている。そしてこの回転保持部51の上面は、例えば円筒状の支持部材52を介して、略水平に伸びる支持板53に接続されている。
【0027】
この回転保持部51と、第2の回転機構をなすモータM2の回転軸54との間にはタイミングベルト55が巻き掛けられ、これにより前記回転保持部51は鉛直軸周りに回転自在に構成されている。さらに前記支持板53と前記モータM2とは、昇降板56の下面に夫々接続されており、この昇降板56を第2の昇降機構57により昇降させることによって、前記カバー部材4が昇降自在に構成される。
【0028】
このようにこのカバー部材4は、前記上部板31が前記処理位置にあるウエハW表面に接近する塗布位置と、この塗布位置よりも上方側の乾燥位置と、さらにこの乾燥位置より上方側の受け渡し位置との間で昇降自在に構成されると共に、前記塗布位置及び乾燥位置において鉛直軸周りに回転自在に構成される。なお図1に示す位置は塗布位置であり、前記受け渡し位置とは、前記受け渡し位置にあるスピンチャック2よりも上方側の位置であって、スピンチャック2と外部の搬送手段との間でウエハWの受け渡しを行なうときの位置である。
【0029】
この支持板53の略中央部には、前記処理位置にあるウエハWに対して塗布液例えばレジスト液を吐出するための塗布液ノズル6が設けられている。このノズル6は、その先端が、例えばカバー部材4の上部板41の下面よりも上方側に位置するように、前記上部板41の上面に設けられた例えば筒状のノズル支持部61により保持されている。この塗布液ノズル6の他端側はバルブV2及び流量制御部62を備えると共に、カバー部材4の昇降及び回転に合わせてフレキシブルに移動できるように構成された供給路63を介してレジスト液が貯留されたレジスト液供給源64に接続されている。
【0030】
ここで各部の寸法の一例について説明すると、前記スピンチャック2を処理位置に位置させると共に、カバー部材4を塗布位置に位置させた場合においては、ウエハWがカバー部材4と固定部材によりその周囲を囲まれる状態であって、ウエハWとカバー部材4の下面との距離L1は例えば2mm〜10mm、好ましくは3mm程度、下部板31の上面とカバー部材4の下面との距離L2は例えば30mm〜60mm、好ましくは40mm程度であり、壁部材32と上部板41との隙間は例えば2mm程度、側壁部42と下部板31との隙間は例えば2mm程度、下部板31とスピンチャック2との隙間は例えば2mm程度であって、ウエハWの側方に壁部材32と側壁部42とが位置する状態となっている。従ってこの位置では、ウエハWから見ると、ウエハWの裏面側はスピンチャック2と下部板31、表面側は上部板41、側方は壁部材32と側壁部42とにより夫々覆われており、ウエハWの周囲には囲まれた空間S1が形成されることになる。
【0031】
また前記スピンチャック2を処理位置に位置させると共に、カバー部材4を前記乾燥位置に位置させた場合においては、ウエハWとカバー部材4の下面との距離L1は例えば3mm〜15mm好ましくは7mm程度に設定することが好ましく、図3(a)に示すように壁部材32と側壁部42とが互いに上下方向に離れた状態となっている。カバー部材4をこの位置に設定することが好ましい理由は、前記距離L1が大き過ぎるとウエハW表面の気流が乱れるおそれがあり、小さすぎるとレジスト膜中の溶剤の揮発が促進されにくいからである。この位置では、ウエハWから見ると、ウエハWの表面側では上部板41との距離が大きく、側方においても壁部材32と側壁部42とが上下方向に重なっていないため、ウエハWの周囲の空間は開いた状態となる。
【0032】
以上において塗布ユニットの第1及び第2の回転機構M1,M2、第1及び第2の昇降機構22,57、バルブV1,V2、排気ダンパ27、流量調整部62等は、後述する塗布、現像装置全体の動作を制御する制御部8により制御されるようになっている。制御部8は、例えば図示しないプログラム格納部を有するコンピュータからなり、プログラム格納部には外部の搬送手段から受け取ったウエハWをスピンチャック2に受け渡したり、カバー部材4を昇降させたり、このウエハWに対してレジスト液の塗布を行う動作等についてのステップ(命令)群を備えたコンピュータプログラムが格納されている。そして、当該コンピュータプログラムが制御部8に読み出されることにより、制御部8は塗布ユニットの動作を制御するようになっている。なお、このコンピュータプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶手段に収納された状態でプログラム格納部に格納される。
【0033】
以上に説明した構成に基づいて、塗布ユニットにて行われるウエハWへのレジスト液の塗布処理を行う動作について図2〜図5を参照しながら説明する。先ず図2(a)に示すように、カバー部材4を前記受け渡し位置まで上昇させると共に、スピンチャック2を前記受け渡し位置まで上昇させ、スピンチャック2に図示しない外部の搬送手段からウエハWを受け渡す(ステップS1)。
【0034】
次いで図2(b)に示すようにスピンチャック2を前記処理位置まで下降させると共に、カバー部材4を前記塗布位置まで下降させ、ウエハWの周囲に囲まれた空間S1を形成する(ステップS2)。そしてスピンチャック2を第1の回転数例えば4000rpm程度の回転数で高速回転させながら、塗布液ノズル6から塗布液であるレジスト液をウエハWの中心部に向けて吐出する(ステップS3)。この第1の回転数とは、前記膜厚を調整するときの回転数であって、レジスト膜の膜厚に応じて決定される数値であり、例えば1000rpm〜4500rpmに設定される。
【0035】
ここでスピンチャック2を回転させる際には、カバー部材4もスピンチャック2の回転と同じ回転方向に高速回転させる。この際カバー部材4とスピンチャック2とは同じ回転数で回転させることが好ましいが、カバー部材4の回転数は第1の回転数±500rpm程度の範囲内の回転数であればよい。またカバー部材4とスピンチャック2とは互いに同期させた状態で回転させることが好ましいが、多少ずれていてもよい。
【0036】
この際、排気路26ではバルブV1を開き、排気ダンパ27の開度を調整して、排気手段28により、カップ23内が所定の圧力例えば大気圧よりも5〜20Pa程度低い圧力になるように排気しておく。このようにカップ23内をわずかに陰圧にするのは、カップ23外部からの空気の流入を防ぎながら、カップ23内のミストを排気するためである。
【0037】
このようにすると、前記囲まれた空間S1内において、ウエハW表面のレジスト液は遠心力の作用により外縁側に向かって流れて行き、更にウエハW上の余剰のレジスト液が振り切られ、カバー部材4と下部板31との隙間を介して外方側へ飛散していく。こうしてレジスト液を吐出しながらウエハWを10秒〜20秒程度第1の回転数にて高速回転させて膜厚を調整する(ステップS4)。このようにウエハWの周囲を囲んだ状態でウエハWを高速回転させているのは、風切りマークの形成を抑えながら膜厚を所定の厚さに調整するためであり、レジスト液が供給されたウエハWが第1の回転数で高速回転されればよく、この高速回転の開始タイミングは、レジスト液を吐出してから回転させてもよいし、レジスト液を吐出しながら回転させてもよいし、レジスト液を吐出する前から回転させてもよい。
【0038】
このレジスト膜厚の調整後、徐々にスピンチャック2及びカバー部材4の回転数を低下させていき、例えば図5に示すように、15秒程度で第1の回転数よりも低い第2の回転数例えば1800rpm程度以下の回転数まで低下させる(ステップS5)。この際カバー部材4の回転数もスピンチャック2と共に徐々に低下させる。ここでこの第2の回転数は、ウエハ表面のレジスト膜において、風切りマークの発生を抑えながらレジスト液中の溶剤を除去させるために求められた回転数であり、例えばレイノズル数(Re数)を考慮して導かれる数値である。
【0039】
前記Re数は、ウエハWの中心からの距離をr(mm)、ウエハWの角速度をω(rad/s)、ウエハWの周囲のガス動粘性係数をν(mm/s)とすると、次の(1)式により算出される。
【0040】
Re数=rω/ν ・・・(1)
このRe数が一定の値を超えると、ウエハW表面において気流の速度不均一が生じ、風切りマークが形成されやすくなるため、レジスト膜の膜厚が均一な領域を広くするためには、Re数を小さくすることが必要となる。ウエハWを回転する際には、ウエハ表面においてRe数<8×10である場所にて層流が形成され、8×10<Re数<3×10 となる場所には遷移流が形成され、Re数>3×10となる場所には乱流が発生する。そして前記速度不均一は遷移流によって形成されるため、風切りマークの形成を抑えるためには、前記遷移流の発生を抑えることが要求され、これに基づいて前記第2の回転数は、遷移流が発生しない程度のゆっくりした速度に設定される。こうして第2の回転数は例えば500rpm〜2000rpmに設定される。
【0041】
この場合においても、カバー部材4とスピンチャック2とは同じ回転数で回転させることが好ましいが、カバー部材4の回転数は第2の回転数±500rpm程度の範囲内の回転数であればよく、カバー部材4とスピンチャック2とは互いに同期させた状態で回転させることが好ましいが、多少ずれていてもよい。
【0042】
この後、スピンチャック2の回転数及びカバー部材4の回転数を前記第2の回転数以下の回転数に設定した状態で、カバー部材4を回転させながら徐々に開き、当該カバー部材4を前記乾燥位置まで例えば5秒程度で上昇させる(図3(a)、ステップS6)。このようにすると、ウエハWの周囲は開かれた状態になるので、レジスト液に含まれる溶剤が揮発しやすくなり、当該揮発が促進される(ステップS7)。なおカバー部材4は、前記乾燥位置においても、スピンチャック2の回転と共に回転させ、カップ23内の排気も続けておく。
【0043】
こうして所定時間例えば20秒程度、スピンチャック2及びカバー部材4を共に同じ方向に回転させることにより、レジスト膜中の溶剤を十分に揮発させ、残ったレジスト成分によりウエハW表面に例えば厚さ0.6μmのレジスト膜を形成させる。こうしてレジスト膜が形成された後、カバー体4及びスピンチャック2の回転を停止して、これらを夫々の受け渡し位置まで上昇させて、図示しない外部の搬送手段にウエハWを受け渡す(図3(b))。
【0044】
以上において本発明では、レジスト膜の膜厚を調整する段階では、カバー部材4の上部板41をウエハW表面に接近させて、固定部材と共にウエハWを囲み、ウエハWの周囲に囲まれた空間S1を形成した状態で、スピンチャック2とカバー部材4とを共に第1の回転数により高速回転させているので、風切りマークの形成を抑えながら、従来の回転塗布法において1種類の塗布液では調整が困難であった膜厚の薄いレジスト膜を広い領域に形成することができる。
【0045】
つまり本発明の構成では、レジスト液が供給されたウエハWを囲まれた空間S1内に配置した状態で高速回転させているので、この回転中におけるウエハ周囲への外部からの空気の流入が抑えられる。このためウエハ表面に乱れた気流が形成されにくいので、高速回転させても風切りマークの形成が抑えられ、カバー部材4を用いない場合に比べて膜厚を小さくできる。ここでレジスト膜の膜厚は、ウエハWの回転数により調整されるため、従来に比べて膜厚を小さくできることから、1種類の塗布液を用いた場合でもレジスト膜の膜厚の調整範囲が大きくなる。
【0046】
またこの際、スピンチャック2とカバー部材4とを同じ回転方向に回転させているので、ウエハ表面の空気もスピンチャック2とカバー部材4の回転に伴い回転する。従ってウエハ表面ではより気流の乱れが発生しにくく、風切りマークの形成が抑えられて、レジスト膜の膜厚の面内均一性が向上する。これに対してカバー部材4の回転数が第1の回転数範囲から大きくずれたり、回転方向が異なったりすると、ウエハWと共に回転する気流と、カバー部材4と共に回転する気流との間で気流の乱れが発生し、これによりウエハW表面ではガスの摩擦の影響を受けて、風切りマークが形成しやすい状態となってしまう。
【0047】
さらにスピンチャック2に保持されたウエハWの側方では、壁部材32と側壁部42とが上下方向に互いに重なった状態となっており、仮に壁部材32と下部板31との間の隙間から空気が流入しようしても、壁部材32に衝突し、この壁部材32に沿って流れ、壁部材32と上部板41との隙間を介して流れることになる。従ってウエハWの側方では、内部に空気が入り込みにくい構造となっており、この構造によっても、カバー部材4の外部からの空気の流入による、ウエハの表面近傍での気流の乱れが抑えられる。
【0048】
またレジスト膜の膜厚調整後は、Re数に基づいて決定された第2の回転数以下に回転数を落としてから、カバー部材4をスピンチャック2と同じ回転方向で回転させながら前記乾燥位置まで移動している。このようにカバー部材4を開くときにも、カバー部材4をスピンチャック2と共に回転させているのでウエハ表面の気流の乱れを抑えた状態でカバー部材4を開くことができる。これに対して
カバー部材4の回転を停止させると、カバー部材4近傍の気流の流れと、ウエハWと共に回転する気流とでは気流の形成状態が異なるため、これらの間で、気流の乱れが発生しやすい状態となる。さらにまた前記第2の回転数は既述のように、風切りマークの形成を抑えるために求められた数値であるので、この工程において、ウエハWの周りに開かれた空間が形成されるとしても、風切りマークが形成しにくい。
【0049】
そしてこのようにカバー部材4を開くことにより、レジスト液中の溶剤の揮発が促進され、溶剤の揮発が速やかに行われる。このため、従来と同じ程度の乾燥時間であっても自然乾燥による膜ムラの発生が抑えられ、面内均一性の良好なレジスト膜を形成することができる。またこの乾燥中にもカバー部材4をスピンチャック2と共に回転させているので、ウエハW表面の気流の乱れを抑えることができる。
【0050】
さらに塗布膜の膜厚を調整する段階から塗布膜中の溶剤を揮発させる段階までカバー部材4とスピンチャック2とを回転を停止しておらず、カバー部材4とスピンチャック2とを同じ回転方向で回転しているため、ウエハW上では常にウエハWの回転に伴った気流が生じた状態となり、途中で回転数を低下させたとしても、ウエハW上の気流は安定した状態で流れる。このため途中でカバー部材4とスピンチャック2の回転を共に停止したり、いずれか一方の回転を停止する場合に比べてウエハW上の気流の乱れが抑えられる。
【0051】
続いて本発明の第2の実施の形態について説明する。この例の塗布ユニットは、カバー部材4を介してカバー部材4とスピンチャック2上のウエハWとの間に気体を供給できるように構成されている。以下、上述の第1の実施の形態と異なる点について説明する。この例では図6に示すようにカバー部材4に通気部71が設けられている。この通気部71は、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の多孔質体より構成されており、例えばカバー部材4の上部板41における中央部、つまり塗布液ノズル6からのレジスト液供給用開口部41aの周囲と、スピンチャック2に載置されたウエハWの周縁側に対向する領域に、例えば周方向に沿って設けられている。この通気部71の厚さは3〜5mm程度に設定され、前記上部板41に周方向に沿って間隔をおいて配設してもよいし、リング状に配設してもよい。また多孔質体を設ける代わりに、上部板41に多数の通気孔を穿設するようにしてもよい。
【0052】
このカバー部材4の上方側には、前記通気部71をカバーするように扁平な通気室72が形成されており、この通気室72は円筒状に形成された回転保持部51の底部近傍と接続されていて、当該回転保持部51の内部に形成された空間と共に、上部板41の上方側に通気空間S2を形成している。一方回転保持部51の上部の筒状の支持部52にはガス供給路73が接続されており、このガス供給路73の他端側は、バルブV3及び流量調整部74aを介して、空気よりも粘性の低い第1の気体例えばHeガスの供給源74に接続されると共に、バルブV4及び流量調整部75aを介して前記第1の気体とは異なる第2の気体例えば空気の供給源75に接続されている。
ここで前記通気空間S2,ガス供給路73、バルブV3及び流量調整部74a、Heガスの供給源74により第1の気体供給手段が構成され、前記通気空間S2,ガス供給路73、バルブV4及び流量調整部75a、空気の供給源75により第2の気体供給手段が構成されている。前記第1の気体としては、Heガスの他、ネオン(Ne)ガスや窒素(N)ガス等を用いることができ、前記第2の気体としては、空気の他、酸素(O)ガスやアルゴン(Ar)ガス等を用いることができる。こうしてガス供給路73から支持部52の内部空間、回転保持部51の内部空間を介して通気室72に気体が供給され、当該通気室72内に供給された気体は、通気部71を介してカバー部材4の下方側へ通気していく。この他の構成については上述の第1の実施の形態と同様である。
【0053】
以上に説明した構成に基づいて、塗布ユニットにて行われるウエハWへのレジスト液の塗布処理を行う動作について図7,図8を参照しながら説明する。先ずカバー部材4を前記受け渡し位置まで上昇させると共に、スピンチャック2を前記受け渡し位置まで上昇させ、スピンチャック2に図示しない外部の搬送手段からウエハWを受け渡す(ステップS11)。次いでスピンチャック2を前記処理位置まで下降させると共に、カバー部材4を前記塗布位置まで下降させ、ウエハWのまわりに囲まれた空間S1を形成する(ステップS12)
そしてバルブV3を開き、ガス供給路73から支持部52の内部にHeガスを例えば20sccm程度の流量で導入すると共に、排気路26の排気ダンパ27の開度を大きくして、カップ23内の圧力が僅かに陰圧になる程度の圧力例えば大気圧よりも5〜20Pa程度低い圧力になるように調整する。この状態でスピンチャック2及びカバー部材4を共に第1の回転数例えば4000rpm程度の回転数で同じ方向に高速回転させながら、塗布液ノズル6からレジスト液をウエハWの中心部に向けて吐出する(図7(a)、ステップS13)。
このようにすると、前記カバー部材4と下部板31とに形成された囲まれた空間S1内においては、カップ23内が僅かに陰圧になる程度に排気される一方、カバー部材4の通気部71を介して当該空間S1内にHeガスが供給されるので、徐々に当該空間S1内の空気がHeガスに置換されていく。一方ウエハW表面のレジスト液は遠心力の作用により外縁側に向かって流れて行き、更にウエハW上の余剰のレジスト液が振り切られ、振り切られたレジスト液はカバー部材4と下部板31との間から外方へ飛散していく。こうしてレジスト液を吐出しながらウエハWを15秒程度高速回転させて膜厚を調整する(ステップS14)。
【0054】
前記囲まれた空間S1内は、空気から、当該空気よりも粘性が低いHeガスに置換され、このように粘性が低い雰囲気では、Re数が小さくなって風切りマークが形成されにくいため、より風切りマークの形成が抑えられる。つまり既述のようにRe数が一定の値を超えると、風切りマークが形成されやすくなるため、レジスト膜の膜厚が均一な領域を広くするためには、Re数は小さくすることが必要となる。
【0055】
ここでガス動粘性係数ν(mm/s)の値は、次の(2)式により算出される。(2)式中μはウエハの周囲のガスの粘性係数(Pas・s)であり、ρは前記ガスの密度(kg/m)である。
【0056】
ν=μ/ρ ・・・(2)
従ってRe数を小さくするには、ガス動粘性係数νを大きくすればよく、このためには、密度ρの低いガスつまり粘性の低いガスを用いればよい。こうして風切りマークの形成を抑えてレジスト膜厚の調整を行った後、徐々にスピンチャック2及びカバー部材4の回転数を低下させていき、既述のように第2の回転数例えば1800rpm程度以下の回転数まで低下させる(ステップS15)。この際カバー部材4はスピンチャック2と共に同じ方向に回転させながら、その回転数をスピンチャック2と共に徐々に低下させる。またこの段階においても、Heガスの供給及び排気は続いて行われる。
【0057】
ここで前記空間S1内は、風切りマークが形成される状態、つまりレジスト膜の膜厚が調整された後、溶剤が揮発する状態までにHeガスにより置換されればよいので、Heガスの供給タイミングは、レジスト液の吐出前でもレジスト液の吐出後でもどちらでもよい。またHeガスにより置換された後はHeガスの供給を停止すると共に、排気ダンパ27の開度を小さくして、Heガスを供給するときよりも排気量を小さくするようにしてもよい。この際完全に排気を停止すると、空間内S1に発生したミストを除去することができないため、カップ23が僅かな陰圧になる程度に排気量を小さくすることが望ましい。
【0058】
この後、バルブV3を閉じ、バルブV4を開いて、カバー部材4を介して供給されるガスをHeガスから空気に切り替え、当該空気を20sccm程度の流量で供給すると共に、排気ダンパ27を開いて、カップ23内が僅かに陰圧になる程度の圧力例えば大気圧よりも5〜20Pa程度低い圧力になるようにカップ23内を排気する。この状態でスピンチャック2及びカバー部材4を前記第2の回転数以下の回転数で同じ方向に回転させたまま、カバー部材4を徐々に上昇させ、当該カバー部材4を前記乾燥位置まで上昇させる(図7(b)、ステップS16)。
【0059】
このようにすると、カバー部材4を介してウエハ表面の中央側及び周縁側に対して空気を供給しながら、カバー部材4を上昇しているので、当該カバー部材4を開いたときに、カバー部材4の外側から空気が流入しようとしても、カバー部材4の内側から供給された空気により外側からの空気の流入が抑えられ、結果としてウエハW表面における気流の乱れの発生が抑えられる。またウエハWの表面に空気が供給されることにより、レジスト液中の溶剤の揮発が促進される。ここでHeガスではなく、空気を供給しているのは、稼働コストの削減のためであるが、この工程においてもHeガスを供給するようにしてもよい。
【0060】
こうしてカバー部材4を乾燥位置に位置させて、当該カバー部材4とスピンチャック2とを共に第2の回転数以下の回転数で同じ方向に回転させながら、前記溶剤の揮発を行なう(ステップS7)。この際、レジスト液の種類や膜厚に応じて、空気を供給しながら、レジスト液に含まれる溶剤を揮発させるようにしてもよいし、空気の供給を停止して、レジスト液に含まれる溶剤を揮発させるようにしてもよいが、空気の供給量に応じて排気ダンパ27の開度を調整して、風切りマークの発生を防止する。つまりカップ23内の陰圧を大きくすると、カップ23の外側から空気が入り込み、ウエハWの表面の気流が乱れ、風切りマークが発生してしまうため、カップ23内を、ミストは除去するが、外側から空気が入り込まない程度の陰圧例えば大気圧よりも5〜20Pa程度低い圧力になるように、空気を供給するときには排気ダンパ27の開度を大きくし、空気を供給しないときには空気を供給するときよりも排気ダンパの開度を小さくするように、カップ23内の排気コントロールを行う。
【0061】
こうして所定時間例えば15秒程度、スピンチャック2及びカバー部材4を共に同じ方向に回転させることにより、レジスト液中の溶剤を十分に揮発させ、残ったレジスト成分によりウエハW表面にレジスト膜を形成させる。こうしてレジスト膜が形成された後、空気の供給を停止し、カップ23内を大気圧よりも5Pa程度低い圧力に保ち、カバー体4及びスピンチャック2の回転を停止して、これらを夫々の受け渡し位置まで上昇させ、図示しない外部の搬送手段にウエハWを受け渡す(ステップS8)。
【0062】
このような構成においても、レジスト膜の膜厚を調整する段階では、ウエハWの周囲に囲まれた空間S1を形成した状態で、当該空間S1内の雰囲気を空気よりも粘性の低いガスにより置換しているので、既述のように風切りマークの形成が抑えられ、1種類の塗布液を用いた場合でもレジスト膜の膜厚の調整範囲が大きくなる。
【0063】
またレジスト液中の溶剤を揮発させる段階では、カバー部材4を介してカバー部材4とウエハWとの間に空気を供給しているため、既述のように、ウエハW表面近傍での気流の乱れを抑えると共に、前記溶剤の揮発を促進することができ、前記溶剤の揮発に要する時間を短縮することができる。このため従来と同じ程度の乾燥時間であっても自然乾燥による塗布ムラの発生が抑えられ、面内均一性の良好なレジスト膜を形成することができる。
【0064】
続いて前記塗布装置を組み込んだ塗布、現像装置に、露光部(露光装置)を接続したレジストパターン形成システムの一例について簡単に説明する。図9は前記システムの平面図であり、図10は同システムの斜視図、図11は同システムの断面図である。この装置には、キャリアブロックS1が設けられており、このブロックS1では、載置台101上に載置された密閉型のキャリア100から受け渡しアームCがウエハWを取り出して、当該ブロックS1に隣接された処理ブロックS2に受け渡すと共に、前記受け渡しアームCが、処理ブロックS2にて処理された処理済みのウエハWを受け取って前記キャリア100に戻すように構成されている。
【0065】
前記処理ブロックS2には、この例では現像処理を行うための第1のブロック(DEV層)B1、レジスト膜の下層側に形成される反射防止膜の形成処理を行なうための第2のブロック(BCT層)B2、レジスト液の塗布処理を行うための第3のブロック(COT層)B3、レジスト膜の上層側に形成される反射防止膜の形成処理を行なうための第4のブロック(TCT層)B4を下から順に積層して構成されている。
【0066】
第2のブロック(BCT層)B2と第4のブロック(TCT層)B4とは、各々反射防止膜を形成するための塗布液をスピンコーティングにより塗布する塗布ユニットと、この塗布ユニットにて行われる処理の前処理及び後処理を行うための加熱・冷却系の処理ユニット群と、前記塗布ユニットと処理ユニット群との間に設けられ、これらの間でウエハWの受け渡しを行なう搬送アームA2,A4とにより構成されている。第3のブロック(COT層)B3においても、前記塗布液がレジスト液であることを除けば同様の構成である。
【0067】
一方、第1の処理ブロック(DEV層)B1については、図10及び図11に示すように、一つのDEV層B1内に現像ユニット102が2段に積層されている。そして当該DEV層B1内には、これら2段の現像ユニットにウエハWを搬送するための搬送アームA1が設けられている。つまり2段の現像ユニット102に対して搬送アームA1が共通化されている構成となっている。
【0068】
さらに処理ブロックS2には、図9及び図11に示すように、棚ユニットU5が設けられ、この棚ユニットU5の各部同士の間では、前記棚ユニットU5の近傍に設けられた昇降自在な第1の受け渡しアームD1によってウエハWが搬送される。
【0069】
キャリアブロックS1からのウエハWは前記棚ユニットU5の一つの受け渡しユニット、例えば第2のブロック(BCT層)B2の対応する受け渡しユニットCPL2に受け渡しアームCによって順次搬送される。第2のブロック(BCT層)B2内の搬送アームA2は、この受け渡しユニットCPL2からウエハWを受け取って各ユニット(反射防止膜ユニット及び加熱・冷却系の処理ユニット群)に搬送し、これらユニットにてウエハWには反射防止膜が形成される。
【0070】
その後、ウエハWは棚ユニットU5の受け渡しユニットBF2、受け渡しアームD1、棚ユニットU5の受け渡しユニットCPL3及び搬送アームA3を介して第3のブロック(COT層)B3に搬入され、レジスト膜が形成される。更にウエハWは、搬送アームA3、棚ユニットU5の受け渡しユニットBF3、受け渡しアームD1を経て棚ユニットU5における受け渡しユニットBF3に受け渡される。なおレジスト膜が形成されたウエハWは、第4のブロック(TCT層)B4にて更に反射防止膜が形成される場合もある。この場合は、ウエハWは受け渡しユニットCPL4を介して搬送アームA4に受け渡され、反射防止膜が形成された後、搬送アームA4により受け渡しユニットTRS4に受け渡される。
【0071】
一方DEV層B1内の上部には、棚ユニットU5に設けられた受け渡しユニットCPL11から棚ユニットU6に設けられた受け渡しユニットCPL12にウエハWを直接搬送するための専用の搬送手段であるシャトルアームEが設けられている。レジスト膜やさらに反射防止膜が形成されたウエハWは、受け渡しアームD1により受け渡しユニットBF3、TRS4を介して受け渡しユニットCPL11に受け渡され、ここからシャトルアームEにより棚ユニットU6の受け渡しユニットCPL12に直接搬送され、インターフェイスブロックS3に取り込まれることになる。なお図11中のCPLが付されている受け渡しユニットは、温調用の冷却ユニットを兼ねており、BFが付されている受け渡しユニットは、複数枚のウエハWを載置可能なバッファユニットを兼ねている。
【0072】
次いで、ウエハWはインターフェイスアームBにより露光装置S4に搬送され、ここで所定の露光処理が行われた後、棚ユニットU6の受け渡しユニットTRS6に載置されて処理ブロックS2に戻される。戻されたウエハWは、第1のブロック(DEV層)B1にて現像処理が行われ、搬送アームA1により棚ユニットU5における受け渡しアームCのアクセス範囲の受け渡し台に搬送され、受け渡しアームCを介してキャリア100に戻される。なお図9においてU1〜U4は各々加熱部と冷却部とを積層した熱系ユニット群である。
【実施例】
【0073】
図12に示す実験用の装置を用い、ウエハWをカバー部材とスピンチャックとにより囲んだ状態でレジスト膜を形成した場合と、カバー部材を用いない場合とにおいて、スピンチャックの回転数とレジスト膜の膜厚との関係を測定し、両者の比較を行った。
【0074】
先ず実験装置について簡単に説明すると、図12中91は、スピンチャックであり、このスピンチャック91の周縁には全周に亘って側壁部92が設けられていて、この側壁部92の上端にカバー部材93がネジ止めにより取り付けられるように構成されている。ここで、スピンチャック91の上面とカバー部材93の下面との距離は5mm、ウエハWの表面とカバー部材93の下面との距離は4mmに設定した。
【0075】
そしてスピンチャック91にウエハWを保持させ、その中央部にレジスト液を供給してから、スピンチャック91にカバー部材93を取り付け、ウエハWを囲まれた空間内に配置した状態でスピンチャックSを1800rpm、3000rpm、4200rpmの回転数で回転させ、夫々の場合において所定時間経過後に膜厚を測定した。また同様にカバー部材を設けずに、ウエハの表面側を開放した状態で同様の実験を行った。これらの結果を図13に示す。図中Closeとはカバー部材93を設けた場合であり、Openとはカバー部材を設けない場合である。この際用いたレジスト液はkrFのレジストであり、その濃度は3cpである。
【0076】
この結果により、ウエハをカバー部材93とスピンチャック91とにより囲んだ場合には、カバー部材93を用いない場合よりも、レジスト膜の薄膜方向への膜厚範囲を広げられることが確認された。またカバー部材93を用いない場合には、回転時間を延ばしても膜厚の変化は少ないが、カバー部材93を用いた場合には回転時間が20秒を超えてからも膜厚の変化が大きいことが認められ、回転数が同じであっても回転時間を調整することによって膜厚が制御できることが理解される。
【0077】
但し、上述の実施例においてカバー部材93を設けた場合には、回転時間5秒経過後にカバー部材を開いてスピンチャック91の回転を停止し、約60秒経過後にレジスト膜の状態を目視にて確認したところ、膜ムラの発生が認められた。このことから、カバー部材93によりウエハWを囲んだままの状態では前記溶剤の揮発が十分に行われず、膜中に溶剤が残存してしまい、これがスピンチャックの回転停止後に自然揮発して膜ムラの発生を引き起こしていると推測される。
【0078】
これに基づいて、回転時間10〜60秒経過後にカバー部材93を開き、その後スピンチャック91を同じ回転数で10秒程度回転させ、この後レジスト膜の状態を目視にて確認する実験を行ったところ、膜ムラは確認されなかった。このことから、カバー部材93を開いてスピンチャック91を回転させると、前記溶剤の揮発が促進され、カバー部材93を開いてから10秒程度で十分に膜中の溶剤が揮発することが認められた。またこの際、回転数が3000rpm、4200rpmのときには、風切りマークの発生が認められるのに対し、回転数1800rpmの場合は風切りマークは確認されなかったことから、回転数が低いほど、風切りマークの形成が抑えることが理解される。
【0079】
以上において、本発明では、カバー部材4とスピンチャック2とは互いに同期した状態で回転させることが好ましいが、カバー部材4の回転数がスピンチャック2の回転数から予め設定される範囲内の回転数であれば、本発明の効果を得ることができ、回転開始や停止のタイミングがずれていてもよい。
【0080】
またカバー部材4の形状は、上述の例に限らず、上部板41がスピンチャック2に載置されたウエハに接近したときに、固定部材と共に又はカバー部材4単独で、スピンチャック2に載置されたウエハの表面及び側方側を覆う形状であればよい。つまりスピンチャック2に載置されたウエハの表面及び側方側を覆う形状であれば、ウエハの周囲に囲まれた空間S1を形成しなくても、外部からの気流の流入がある程度抑えられ、ウエハ表面における気流の乱れの発生を十分に抑えることができるからである。
【0081】
またカバー部材4をスピンチャック2に対して相対的に昇降させればよく、例えばスピンチャック2側を昇降させて、カバー部材4をウエハWに接近させるようにしてもよい。この際はカップ23も昇降自在に構成し、スピンチャック2と外部の搬送手段との間でウエハWの受け渡しを行うときにはカップ23を下降させ、ウエハWに対して塗布処理を行うときにはカップ23を上昇させてもよい。
【0082】
さらにまた本発明のカバー部材4は、スピンチャック2と共通の回転機構により回転させてもよい。さらにまた本発明は、レジスト液の塗布処理以外に、反射防止膜や絶縁材料等の塗布処理に適用することができる。また本発明は、半導体ウエハW以外に、例えばLCD基板、マスク基板などの処理にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係る塗布装置を示す断面図である。
【図2】前記塗布装置にて行われる塗布方法を説明するための断面図である。
【図3】前記塗布装置にて行われる塗布方法を説明するための断面図である。
【図4】前記塗布方法を説明するための工程図である。
【図5】前記塗布方法を説明するための、回転数と回転時間との関係を示す特性図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係る塗布装置を示す断面図である。
【図7】前記塗布装置にて行われる塗布方法を説明するための断面図である。
【図8】前記塗布方法を説明するための工程図である。
【図9】前記塗布装置を組み込んだレジストパターン形成装置を示す平面図である。
【図10】前記レジストパターン形成装置を示す斜視図である。
【図11】前記レジストパターン形成装置を示す断面図である。
【図12】実験用の塗布装置を示す断面図である。
【図13】レジスト液の膜厚と回転数との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0084】
W ウエハ
M1,M2 モータ(回転機構)
2 スピンチャック
22、57 昇降機構
23 カップ
31 下部板
32 壁部材
4 カバー部材
41 上部板
42 側壁部
51 回転保持部
6 塗布液ノズル
8 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を略水平に保持すると共に、鉛直軸まわりに回転する基板保持部と、
この基板保持部に保持された基板の上方側に隙間を介して当該基板と対向する上部板を備え、鉛直軸まわりに回転自在に設けられた、基板よりも大きいカバー部材と、
このカバー部材を前記基板保持部に対して相対的に昇降させる昇降機構と、
前記基板保持部に保持された基板表面に、塗布膜の成分と溶剤とを含む塗布液を供給するための塗布液ノズルと、
前記基板保持部及びカバー部材並びに昇降機構の動作を制御する制御部と、を備え、
この制御部は、前記上部板を、前記基板表面に接近させて、前記基板保持部とカバー部材とを同じ方向に回転させることにより、前記基板表面の中心部に供給された塗布液を遠心力により伸展させて塗布膜の膜厚を調整するステップと、
次いで前記基板保持部及びカバー部材を、前記ステップよりも低い回転数で回転させながら、前記カバー部材を前記基板保持部に対して相対的に上昇させて前記塗布膜中の溶剤を揮発させるステップと、を実行するように構成されることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記基板保持部に保持された基板の裏面側にて、基板と隙間を介して基板の周方向に環状に形成された環状部材を含む固定部材を備え、
前記カバー部材は、基板に接近したときに、この固定部材と共に基板を囲むように構成されていることを特徴とする請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
前記カバー部材は、前記基板保持部とは異なる回転機構により回転自在に構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の塗布装置。
【請求項4】
前記塗布液ノズルは前記カバー部材に設けられることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記カバー部材を介して、当該カバー部材と前記基板保持部に保持された基板との間に、空気よりも粘性が低い第1の気体を供給する第1の気体供給手段を備え、
前記制御部は、前記カバー部材を塗布膜の膜厚を調整するときの回転数で回転させるときに、前記第1の気体を供給するための制御信号を出力することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記カバー部材を介して、当該カバー部材と前記基板保持部に保持された基板との間に、前記第1の気体と異なる第2の気体を供給する第2の気体供給手段を備え、
前記制御部は、前記カバー部材を前記基板保持部に対して相対的に上昇させるときに、前記第1の気体に代えて第2の気体を供給するための制御信号を出力することを特徴とする請求項5記載の塗布装置。
【請求項7】
前記基板保持部に保持された基板の側方側及び下方側を覆うカップと、
このカップ内の雰囲気を排気するための排気手段と、
前記カップ内の雰囲気を所定の圧力に調整するために、前記排気手段の排気量を調整する排気量調整部と、を備え、
前記制御部は前記カバー部材を介して気体を供給するときには前記排気量を大きくし、前記カバー部材を介して気体を供給しないときには、カバー部材を介して気体を供給するときよりも前記排気量を小さくするように制御信号を出力することを特徴とする請求項5又は6記載の塗布装置。
【請求項8】
基板を基板保持部に略水平に保持させる工程と、
基板保持部に保持された基板の中心部に塗布膜の成分と溶剤とを含む塗布液を供給する工程と、
前記カバー部材を、その上部板が前記基板表面に接近する位置に位置させる工程と、
次いで前記基板保持部とカバー部材とを同じ方向に回転させることにより、基板表面の塗布液を遠心力により伸展させて塗布膜の膜厚を調整する工程と、
次いで前記基板保持部及びカバー部材の回転数を前記工程よりも低い回転数で回転させながら、前記カバー部材を前記基板保持部に対して相対的に上昇させて前記塗布膜中の溶剤を揮発させる工程と、を含むことを特徴とする塗布方法。
【請求項9】
前記カバー部材を前記塗布膜の膜厚を調整するときの回転数で回転させるときに、このカバー部材と前記基板との間に空気よりも粘性が低い第1の気体を供給することを特徴とする請求項8記載の塗布方法。
【請求項10】
前記カバー部材を前記基板保持部に対して相対的に上昇させるときに、前記カバー部材と前記基板との間に、前記第1の気体に代えて、この第1の気体とは異なる第2の気体を供給することを特徴とする請求項8又は9記載の塗布方法。
【請求項11】
前記基板保持部に保持された基板の側方側及び下方側を覆うカップを備え、 前記カバー部材と基板との間に気体を供給するときには、前記カップ内を大きい排気量で排気し、カバー部材と基板との間に気体を供給しないときには、カバー部材と基板との間に気体を供給するときよりも小さい排気量で前記カップ内を排気して、前記カップ内の圧力を調整することを特徴とする請求項9又は10記載の塗布方法。
【請求項12】
基板保持部に略水平に保持された基板の中心部に塗布液を供給し、前記基板保持部を回転させて前記基板の表面に塗布液を塗布する塗布装置に用いられるコンピュータプログラムを格納した記憶媒体であって、
前記プログラムは、請求項8ないし請求項11に記載された塗布方法を実行するようにステップ群が組まれていることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−272493(P2009−272493A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122516(P2008−122516)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】