説明

塗布装置

【課題】吐出停止時および吐出再開時の応答性を向上する。
【解決手段】塗布装置は、基板に向けて流動性材料を吐出する3本のノズル17、3本のノズル17に流動性材料をそれぞれ送出する3つの吐出機構18を備える。吐出機構18は、ノズル17に接続される可動配管181、可動配管181の上流側に接続される固定配管182、可動配管181と固定配管182との間に設けられた開閉可能なエアバルブ183、固定配管182の上流側に接続されて固定配管182に流動性材料を送出するポンプ機構185、および、ポンプ機構185を制御する圧力制御部である電空レギュレータ186を備える。塗布装置1では、設置できる範囲内でノズル17から最も近い位置にエアバルブ183を設けることにより、ノズル17とエアバルブ183との間の配管長さを最も短くすることができる。これにより、吐出停止時および吐出再開時の応答性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に流動性材料を塗布する塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板上にレジスト液等の流動性材料を塗布する装置として、ノズルから基板に向けて微少量の流動性材料を定量吐出する塗布装置が利用されている。例えば、特許文献1および特許文献2では、ダイヤフラムを有するポンプにより液体供給源から液体を吸引し、この液体に圧力を加えることにより基板に向けて吐出する液体供給装置が開示されている。
【特許文献1】特開平11−343978号公報
【特許文献2】特開2003−49778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、有機EL(Electro Luminescence)材料を利用した有機EL表示装置の開発が行われている。高分子有機EL材料を用いたアクティブマトリックス駆動方式の有機EL表示装置の製造では、ガラス基板(以下、単に「基板」という。)に対して、TFT(Thin Film Transistor)回路の形成、陽極となるITO(Indium Tin Oxide)電極の形成、隔壁の形成、正孔輸送材料を含む流動性材料の塗布、加熱処理による正孔輸送層の形成、有機EL材料を含む流動性材料の塗布、加熱処理による有機EL層の形成、陰極の形成、および、絶縁膜の形成による封止が順次行われる。
【0004】
有機EL表示装置の製造においても、有機EL材料や正孔輸送材料を含む流動性材料を、ノズルから基板に向けて吐出して塗布する塗布装置が利用されている。このような塗布装置では、有機EL材料および正孔輸送材料が非常に高価であるため、基板に対する流動性材料の塗布が中断される際には、製造コスト低減の観点から流動性材料の吐出が停止されることが好ましい。
【0005】
一方、特許文献1および特許文献2に示す装置では、上述のように、ポンプにより流動性材料に圧力を加えることにより吐出が行われており、流動性材料の吐出停止は、流動性材料に加えられている圧力を解放することにより行われる。しかしながら、このような構造をそのまま有機EL表示装置を製造する装置に応用すると、流動性材料を吐出するノズルの吐出口が非常に小さいため、配管内の圧力の解放に時間がかかり、吐出停止動作が行われてから実際に吐出が停止するまでに長時間を要してしまう。また、一旦吐出を停止すると、吐出の再開時にはポンプからノズルに至る配管内の圧力を上昇させる必要があるため、安定した吐出が行われるまでにやはり長時間を要してしまう。
【0006】
また、特許文献1および特許文献2に示す装置では、内部構造が複雑なダイヤフラムポンプが液体の送出に用いられているため、流動性材料の入れ替え時等に行われるポンプ等の洗浄において、ポンプ内に流動性材料が残置してしまう恐れがあり、メンテナンス作業の簡素化に限界がある。さらに、ダイヤフラムポンプでは、連続して吐出可能な流動性材料の量が少なく、これを増加するためにはポンプ機構の再設計や制御性の確認が必要となる。このため、流動性材料の塗布量の増加を伴う基板の大型化の要求に対して容易に対応することが難しい。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、塗布装置における吐出停止時および吐出再開時の応答性を向上することを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、基板に流動性材料を塗布する塗布装置であって、基板を保持する基板保持部と、前記基板に向けて流動性材料を連続的に吐出するノズルと、前記ノズルを前記基板の主面に対して平行な主走査方向および副走査方向に相対的に移動する移動機構と、前記ノズルに接続されて前記ノズルの移動に従って撓むとともに流動性材料が流れる可動配管と、前記可動配管の上流側に接続され、装置本体に対して相対的に固定された固定配管と、前記可動配管と前記固定配管との間に設けられた開閉可能なバルブと、複数枚の基板に塗布する量の流動性材料を貯溜するとともに前記固定配管に接続され、貯溜されている流動性材料に継続的に圧力を加えて前記流動性材料を前記固定配管に送出するポンプ機構と、前記ポンプ機構を制御して前記流動性材料に継続的に加えられる圧力を予め設定された設定圧力とする圧力制御部とを備える。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の塗布装置であって、前記バルブと前記可動配管との間にサックバックバルブをさらに備える。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の塗布装置であって、前記ポンプ機構が、前記流動性材料を貯溜するとともに前記固定配管に接続され、圧力が加えられて容積が減少することにより前記固定配管に前記流動性材料を送出する可変容器と、前記可変容器を内部に収容する耐圧容器とを備え、前記圧力制御部が、前記耐圧容器内の圧力を調整する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の塗布装置であって、前記可変容器が、前記固定配管に対して着脱可能に取り付けられる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の塗布装置であって、前記ポンプ機構が、前記可変容器内の前記流動性材料の量を検出するセンサをさらに備える。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の塗布装置であって、前記流動性材料が、正孔輸送材料または有機EL材料を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、吐出停止時および吐出再開時の応答性を向上することができる。請求項2の発明では、吐出停止時の応答性をより向上することができる。請求項4の発明では、可変容器を容易に交換することができる。請求項5の発明では、ポンプ機構への流動性材料の補充を適切なタイミングで行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る塗布装置1の構成を示す平面図であり、図2は塗布装置1の正面図である。塗布装置1は、正孔輸送材料または有機EL(Electro Luminescence)材料を含む流動性材料を有機EL表示装置用の基板9に塗布する装置である。ここで、「正孔輸送材料」とは、有機EL表示装置の正孔輸送層を形成する材料であり、「正孔輸送層」とは、有機EL材料により形成された有機EL層へと正孔を輸送する狭義の正孔輸送層のみを意味するのではなく、正孔の注入を行う正孔注入層も含む。
【0016】
図2に示すように、塗布装置1は、基板9を保持する基板保持部11、および、基板保持部11を基板9の主面に対して平行な所定の移動方向(すなわち、図1中における上下方向)に水平移動するとともに垂直方向に向く軸を中心として回転する基板移動機構12を備える。基板保持部11は、内部にヒータによる加熱機構(図示省略)を備える。
【0017】
塗布装置1は、また、図1および図2に示すように、基板9上に形成されたアライメントマーク(図示省略)を撮像して検出するアライメントマーク検出部13、基板保持部11上の基板9に向けて3本のノズル17から流動性材料を吐出して塗布する塗布ヘッド14、塗布ヘッド14を基板保持部11の移動方向とは垂直な水平方向(すなわち、図1中における左右方向)に移動するヘッド移動機構15、塗布ヘッド14の移動方向に関して基板保持部11の両側に設けられるとともに塗布ヘッド14からの流動性材料を受ける2つの受液部16、塗布ヘッド14の3本のノズル17にそれぞれ接続されるとともに流動性材料をノズル17にそれぞれ送出して吐出させる3つの吐出機構(すなわち、吐出装置)18、および、これらの構成を制御する制御部を備える。
【0018】
3本のノズル17は、図1中における左右方向(すなわち、塗布ヘッド14の移動方向であり、以下、ノズル17の「主走査方向」という。)に略直線状に配列されるとともに図1中における上下方向(すなわち、基板9の移動方向であり、以下、「副走査方向」という。)に僅かにずれて配置される。副走査方向に関し、互いに隣接する2本のノズル17の間の距離は、基板9上に予め形成されている主走査方向に伸びる隔壁間のピッチ(以下、「隔壁ピッチ」という。)と等しくされる。塗布装置1では、基板移動機構12およびヘッド移動機構15が、3本のノズル17を主走査方向および副走査方向に基板9に対して相対的に移動する移動機構となる。
【0019】
塗布装置1により有機EL材料を含む流動性材料(以下、「有機EL液」という。)が塗布される場合、塗布ヘッド14では、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)と互いに色が異なる3種類の有機EL材料をそれぞれ含む3種類の有機EL液が3本のノズル17に供給される。また、正孔輸送材料を含む流動性材料(以下、「正孔輸送液」という。)が塗布される場合、3本のノズル17には同一種類の正孔輸送液が供給される。
【0020】
図3は、1つの吐出機構18に注目して吐出機構18の構造をノズル17と共に示す図である。他の2つの吐出機構18の構造も図3と同様である。図3に示すように、吐出機構18は、ノズル17に接続される可動配管181、可動配管181の上流側(すなわち、ノズル17とは反対側)に接続される固定配管182、可動配管181と固定配管182との間に設けられた開閉可能なエアバルブ183、エアバルブ183と可動配管181との間に設けられたサックバックバルブ184、固定配管182の上流側に接続されて固定配管182に流動性材料を送出するポンプ機構185、および、ポンプ機構185を制御する圧力制御部である電空レギュレータ186を備える。
【0021】
本実施の形態では、可動配管181の長さはおよそ1m〜1.5mとされ、吐出機構18では、可動配管181がサックバックバルブ184に直接接続される。また、サックバックバルブ184がエアバルブ183に直接接続され、エアバルブ183が固定配管182に直接接続される。以下の説明では、流動性材料が流れる可動配管181および固定配管182をまとめて、「流路配管」と呼ぶ場合がある。吐出機構18では、エアバルブ183およびサックバックバルブ184が流路配管上に配置される。サックバックバルブ184は、後述する流動性材料の吐出の停止時に駆動されて内部の容積が増大し、これにより、サックバックバルブ184内部およびサックバックバルブ184に接続される可動配管181内の流動性材料に対して負圧が付与される。
【0022】
可動配管181は可撓性を有し、ノズル17の移動(すなわち、塗布ヘッド14の移動)に従って撓む。固定配管182は、塗布装置1のフレーム(図示省略)に固定されており、ノズル17が移動した場合であっても移動することはない。換言すれば、固定配管182は、塗布装置1の装置本体に対して相対的に固定されている。固定配管182上には、固定配管182を流れる流動性材料の流量を計測する流量計1821、および、流動性材料中の異物を捕集して除去するフィルタ1822が設けられる。
【0023】
図4は、ポンプ機構185の構造をポンプ機構185近傍の構成と共に示す図である。図4に示すように、ポンプ機構185は、複数枚の基板9に塗布する量(本実施の形態では、15枚〜20枚の基板9に塗布する量であり、およそ100cc〜200cc)の流動性材料を貯溜する柔軟な可変容器1851、可変容器1851を内部に収容する耐圧容器1852、および、可変容器1851内の流動性材料の量を検出する梃子式の残量センサ1853を備える。図4では、図示の都合上、耐圧容器1852の内部の構成を実線(一部、破線等)にて示している。
【0024】
図5は、可変容器1851を示す底面図である。可変容器1851は、薄いフッ素系樹脂(例えば、テフロン(登録商標))シートにより形成されており、流動性材料が充填された状態においては、図4および図5に示すように、上下が略対称なドーム状(すなわち、図4における側面視では略楕円形であり、図5における平面視では略円形)となる。可変容器1851の鉛直方向の下端には、固定配管182に接続される配管接続部18511が設けられており、可変容器1851は、配管接続部18511および配管接続部18511に接続されるポンプ内配管18512を介して固定配管182に対して着脱可能に取り付けられて接続される。可変容器1851は、耐圧容器1852内に配置された載置部1854上に配管接続部18511を下に向けた状態で載置される。
【0025】
図6は、載置部1854を示す平面図である。図4および図6に示すように、載置部1854は略円筒状であり、上縁部から内側に向かって斜め下方に伸びる複数(本実施の形態では6枚)の板部材18541を備える。載置部1854では、図6に示すように側壁部にスリット18542が設けられており、図4に示すように、板部材18541上に可変容器1851が載置された状態では、可変容器1851の下端部に接続されたポンプ内配管18512が、スリット18542を介して載置部1854の外側へと伸びる。
【0026】
ポンプ機構185では、耐圧容器1852が、電空レギュレータ186およびレギュレータ1861を介して塗布装置1の外部に設けられた圧縮空気供給機構(すなわち、コンプレッサ)に接続されており、電空レギュレータ186により耐圧容器1852内の圧力が調整される。具体的には、電空レギュレータ186に内蔵されている圧力計(図示省略)により耐圧容器1852内の圧力が計測され、当該計測圧力と予め設定された設定圧力とのずれ量に基づいて、耐圧容器1852に供給される圧縮空気の圧力がフィードバック制御される。
【0027】
ポンプ機構185では、耐圧容器1852内の圧力(すなわち、後述するように、流動性材料に加えられる圧力)を確認するためのもう1つの圧力計1855が、耐圧容器1852と電空レギュレータ186とを接続する配管上に設けられている。ポンプ機構185では、圧力計1855が流路配管上ではなく圧縮空気が流れる配管上に設けられることにより、圧力計1855に耐薬品性が求められないため、ポンプ機構185の構成を簡素化することができる。
【0028】
ポンプ機構185では、電空レギュレータ186による制御により、可変容器1851および可変容器1851内に貯溜されている流動性材料に継続的に加えられる圧力が予め設定された設定圧力とされる。そして、可変容器1851に継続的に圧力が加えられてその容積が減少することにより(換言すれば、可変容器1851内に貯溜されている流動性材料に継続的に圧力が加えられることにより)、可変容器1851内の流動性材料が微小流量にて固定配管182に送出される。
【0029】
ポンプ機構185では、図4に示すように、残量センサ1853が、一方の先端(以下、「右端部」という。)を可変容器1851の上端部に当接させるとともに回転軸18532を中心として回動する棒状の回動部材18531、および、回動部材18531の可変容器1851に当接する先端とは反対側の端部(以下、「左端部」という。)の変位を検出する変位センサ18533を備える。変位センサ18533は、2つの反射式の光センサ18534を備え、2つの光センサ18534はそれぞれ、前方(すなわち、図4中における右側)に回動部材18531の左端部が存在するか否かを検出する。
【0030】
可変容器1851内に流動性材料が最大限まで充填された状態(いわゆる、満水状態)では、回動部材18531は図4中に実線にて示す位置に位置しており、図4中の下側の光センサ18534によりその左端部が検出される。そして、可変容器1851内の流動性材料が送出されるにつれて可変容器1851は萎み、回動部材18531の右端部も下方へと移動する。可変容器1851内の流動性材料が全て送出されて空になると、回動部材18531は図4中に二点鎖線にて示す位置に位置し、その左端部が上側の光センサ18534により検出される。このように、残量センサ1853では、2つの光センサ18534により回動部材18531の位置が検出されることにより、可変容器1851が満水状体であるか空であるか、あるいは、その中間であるかが確認される。
【0031】
次に、塗布装置1による流動性材料の塗布の流れについて説明する。塗布装置1により流動性材料の塗布が行われる際には、まず、3つの吐出機構18のそれぞれの可変容器1851に対して、複数枚の基板9に塗布する量の流動性材料の充填が行われる。可変容器1851への流動性材料の充填は、耐圧容器1852の外部において行われる。図4および図5に示すように、可変容器1851では、可変容器1851への流動性材料の充填時に可変容器1851の内部の気体を放出する放出口18513が配管接続部18511に隣接して設けられる。可変容器1851への流動性材料の充填時には、放出口18513を鉛直方向の上端に位置させつつ(すなわち、図4に示す姿勢とは上下逆さまに)可変容器1851が所定の充填台等に載置される。
【0032】
続いて、3つの吐出機構18のそれぞれにおいて、耐圧容器1852の搬出入口(図示省略)が開放され、流動性材料が充填された可変容器1851が耐圧容器1852内に搬入される。可変容器1851は、載置部1854上に配管接続部18511を下側に向けて載置されるとともに配管接続部18511およびポンプ内配管18512を介して固定配管182に接続され、その後、耐圧容器1852の搬出入口が閉鎖される。耐圧容器1852の搬出入口が閉鎖されると、電空レギュレータ186により耐圧容器1852内の圧力が制御されて予め設定された設定圧力とされ、可変容器1851内の流動性材料に対して圧力が加えられる。
【0033】
塗布装置1では、上述の各吐出機構18における可変容器1851に対する準備作業と並行して、図1および図2に示すように、1枚目の基板9が基板保持部11に載置されて保持される。そして、アライメントマーク検出部13からの出力に基づいて基板移動機構12が駆動され、基板9が図1中に実線にて示す塗布開始位置に位置する。塗布ヘッド14は予め図1および図2中に実線にて示す待機位置(すなわち、図1および図2中の左側の受液部16の上方)に位置している。
【0034】
続いて、各吐出機構18において、図3に示すエアバルブ183が開放されることにより、可変容器1851(図4参照)内の流動性材料が固定配管182および可動配管181を流れ、ノズル17からの流動性材料の吐出が開始される。吐出機構18では、電空レギュレータ186により耐圧容器1852(図4参照)内の圧力が設定圧力に維持されることにより、可変容器1851、固定配管182、可動配管181およびノズル17内の流動性材料に対して一定の圧力が継続的に加えられる。これにより、流動性材料がノズル17から所定の流量(以下、「設定流量」という。)にて吐出される。吐出機構18では、固定配管182上に設けられた流量計1821により、流動性材料の流量が検出されて設定流量であることが確認される。万一、流路配管の目詰まり等により流量が設定流量と異なる場合は、作業者に対してその旨が通知される。
【0035】
吐出機構18では、エアバルブ183の開度が、流動性材料の設定流量や流路配管の径等に合わせて高精度に調整されることにより、エアバルブ183の開放直後の流量のオーバーシュート(すなわち、エアバルブ183の解放直後に、流動性材料が一時的に設定流量よりも過大な流量にて流れること)が抑制され、また、流量静定後における流量の微小変動が防止される。さらには、後述のエアバルブ183の閉鎖時における流量のオーバーシュートおよび流動性材料の圧力の急激な変動(いわゆる、ウォータハンマ)も防止される。
【0036】
塗布装置1では、ノズル17からの流動性材料の流量が静定すると、ヘッド移動機構15が駆動されて塗布ヘッド14(すなわち、ノズル17)の主走査方向における移動が開始される。塗布装置1では、3本のノズル17から流動性材料を基板9に向けて連続的に吐出しつつ、塗布ヘッド14を基板9に対して図1中の左側から右側へと相対的に移動することにより、流動性材料が基板9上にストライプ状に塗布される。基板9上の塗布領域には上述のように複数の隔壁が予め形成されており、3本のノズル17からの流動性材料は隔壁間の隣接する3つの溝部に塗布される。また、塗布領域の周囲の非塗布領域は、図示省略のマスク部により覆われているため、流動性材料は塗布されない。
【0037】
塗布ヘッド14が図1および図2中に二点鎖線にて示す待機位置(すなわち、図1および図2中の右側の受液部16の上方)まで移動すると、基板移動機構12が駆動され、基板9が基板保持部11と共に図1中の上側に隔壁ピッチの3倍の距離だけ移動する。このとき、塗布ヘッド14では、3本のノズル17から受液部16に向けて流動性材料が連続的に吐出されている。基板9の副走査方向における移動が終了すると、塗布ヘッド14が3本のノズル17から流動性材料を吐出しつつ図1中において右側から左側へと移動する。
【0038】
塗布装置1では、基板9に対する3本のノズル17の主走査および副走査が高速に繰り返されることにより、流動性材料が基板9上にストライプ状に塗布される。そして、基板9が図1中に二点鎖線にて示す塗布終了位置まで移動すると、ノズル17からの流動性材料の吐出が停止されて基板9に対する流動性材料の塗布が終了する。このとき、ノズル17は、図1および図2中の左側の受液部16上に位置している。
【0039】
1枚目の基板9に対する流動性材料の塗布が終了すると、3つの吐出機構18のそれぞれにおいて、図3に示すエアバルブ183が閉じられることにより、ポンプ機構185により可動配管181およびノズル17内の流動性材料に対して加えられていた圧力が遮断され、同時に、サックバックバルブ184が駆動されることにより、可動配管181およびノズル17内の流動性材料に負圧が付与されてノズル17からの流動性材料の吐出が迅速に停止される。このとき、流動性材料の粘度やポンプ機構185により流動性材料に加えられていた圧力(すなわち、設定圧力)に合わせてサックバックバルブ184が高精度に制御されることにより、流動性材料のサックバック量(すなわち、可動配管181およびノズル17内の流動性材料の引き量)が高精度に調整される。
【0040】
図1および図2に示す塗布装置1では、流動性材料の吐出停止と並行して1枚目の基板9が装置外へと搬出され、2枚目の基板9が基板保持部11に載置されて基板移動機構12により塗布開始位置に位置する。続いて、各吐出機構18において、図3に示すサックバックバルブ184が駆動されてサックバックバルブ184内部の容積が元に戻される。同時に、エアバルブ183が開放されて可動配管181およびノズル17内の流動性材料の圧力が再度上昇することにより、ノズル17からの流動性材料の吐出が再開される。そして、各ノズル17からの流動性材料の流量が静定した後、3本のノズル17の主走査および副走査が高速に繰り返されることにより、流動性材料が2枚目の基板9上にストライプ状に塗布される。
【0041】
塗布装置1では、基板9の交換(すなわち、塗布終了後の基板の搬出、および、未塗布基板の搬入)時には3本のノズル17からの流動性材料の吐出を一旦停止しつつ、図4に示す可変容器1851内の流動性材料の量に対応する複数枚の基板9に対して、流動性材料の塗布が順次行われる。そして、当該複数枚の基板9に対する塗布が終了すると、各吐出機構18において、残量センサ1853により可変容器1851が空になったことが検出され、作業者による可変容器1851の交換が行われる。
【0042】
可変容器1851を交換する際には、耐圧容器1852に設けられた安全弁18521が開放され、耐圧容器1852内の圧力解放が行われた後、空になった可変容器1851が固定配管182から取り外されて耐圧容器1852から搬出される。そして、予め流動性材料が充填された新しい可変容器1851が耐圧容器1852内に搬入されて固定配管182に接続される。その後、上記と同様に、複数枚の基板9に対して流動性材料の塗布が順次行われる。
【0043】
以上に説明したように、塗布装置1の3つの吐出機構18ではそれぞれ、エアバルブ183が可動配管181と固定配管182との間に設けられている。このように、塗布装置1では、各吐出機構18において、設置できる範囲内でノズル17から最も近い位置にエアバルブ183を設けることにより、ノズル17とエアバルブ183との間の配管長さを最も短くすることができる。これにより、エアバルブ183の閉鎖後のノズル17側(すなわち、可動配管181およびノズル17)における流動性材料の圧力解放に要する時間を短縮し、吐出停止動作(すなわち、エアバルブ183の閉鎖)が行われてから実際に流動性材料の吐出が停止されるまでの時間を短縮することができる。
【0044】
また、吐出再開時においても、圧力を上昇すべきノズル17とエアバルブ183との間の配管の長さが最も短くされているため、エアバルブ183開放後の流動性材料の圧力上昇に要する時間を短縮し、吐出再開動作(すなわち、エアバルブ183の開放)が行われてから実際に流動性材料の吐出が再開されて流動性材料の流量が静定するまでの時間を短縮することができる。このように、塗布装置1では、吐出停止時および吐出再開時の応答性を向上することができる。
【0045】
その結果、複数枚の基板9に対して流動性材料の塗布を順次行う際に、基板9に対する塗布の中断時(すなわち、基板の交換時)に流動性材料の吐出を迅速に停止することができ、正孔輸送材料または有機EL材料を含む流動性材料が無駄に(すなわち、基板9に塗布されることなく)吐出されることを防止することができる。また、流動性材料の安定した吐出を迅速に再開することにより、複数枚の基板9に対する流動性材料の塗布作業の効率を向上することもできる。このように、吐出停止時および吐出再開時の応答性が良好な塗布装置1は、高価な正孔輸送材料または有機EL材料を含む流動性材料の塗布に特に適している。
【0046】
各吐出機構18では、エアバルブ183と可動配管181との間にサックバックバルブ184が設けられ、吐出停止時に可動配管181およびノズル17内の流動性材料に対して負圧が付与されることにより、流動性材料の吐出をより迅速に停止することができる。換言すれば、サックバックバルブ184により、吐出停止時の応答性をより向上することができる。
【0047】
また、吐出機構18では、電空レギュレータ186により耐圧容器1852内の圧力を精度良く調整することにより、流量を精度良く制御しつつ微小流量の流動性材料を流路配管(すなわち、固定配管182および可動配管181)に送出することができる。その結果、塗布装置1では、3本のノズル17から微小流量の流動性材料を精度良く吐出して基板9に塗布することができる。このように、塗布装置1の吐出機構18は、微小流量の吐出が求められる正孔輸送液および有機EL液の吐出に特に適している。
【0048】
各吐出機構18のポンプ機構185では、可変容器1851が固定配管182に着脱可能に取り付けられるため、可変容器1851を容易に交換することができる。その結果、ポンプ機構185において流動性材料を貯溜する部位の洗浄が不要となるため、吐出機構18および塗布装置1のメンテナンスを容易に行うことができる。また、可変容器1851の容量を変更することにより、ポンプ機構185に貯溜することができる流動性材料の量を容易に変更することができるため、基板9の大きさの変更に迅速かつ容易に対応することができる。
【0049】
ポンプ機構185では、可変容器1851を耐圧容器1852内に設け、可変容器1851を介して流動性材料に圧力を加えることにより、流動性材料に対して圧力を加える作動流体(本実施の形態では圧縮空気)が流動性材料に直接接触することが防止される。このため、流動性材料が作動流体と直接接触することにより生じる可能性がある影響(例えば、流動性材料のゲル化)を防止することができる。また、ポンプ機構185では、可変容器1851が高い耐薬品性を有するフッ素系樹脂シートにより形成されているため、様々な種類の流動性材料の吐出を行うことができる。
【0050】
さらには、可変容器1851内の流動性材料の量を検出する残量センサ1853が設けられることにより、可変容器1851の交換(すなわち、空になった可変容器1851を固定配管182から取り外して流動性材料が充填済みの新しい可変容器1851を固定配管182に接続することであり、換言すれば、ポンプ機構185への流動性材料の補充である。)を適切なタイミングで行うことができる。
【0051】
ポンプ機構185の可変容器1851では、固定配管182に接続される配管接続部18511が鉛直方向の下端に設けられることにより、可変容器1851内に気泡が存在する場合であっても気泡は可変容器1851の上端部に滞留するため、流動性材料の吐出時に固定配管182(および可動配管181)に気体が送出されることを確実に防止することができる。その結果、気泡が配管内に詰まって流動性材料の送出が妨げられること(いわゆる、エア噛み)を確実に防止することができる。さらには、可変容器1851内の流動性材料は、残量にかかわらず可変容器1851の下端に集まるため、可変容器1851内の流動性材料の全量を最後まで確実に吐出することができる。
【0052】
可変容器1851への流動性材料の充填時には、可変容器1851が、放出口18513を鉛直方向の上端に位置させつつ載置されるため、可変容器1851内部の気体は、流動性材料の増加とともに放出口18513から速やかに放出される。このため、可変容器1851に流動性材料を容易に充填することができる。また、可変容器1851内における気体の残存を防止することができ、流動性材料の吐出時において、固定配管182に気体が送出されることをより確実に防止することができる。
【0053】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る塗布装置について説明する。第2の実施の形態に係る塗布装置は、図1および図2に示す3つの吐出機構18に代えて、吐出機構18とは異なる構造を有する3つの吐出機構18aを備える。図7は、吐出機構18aの構造を示す図である。図7に示すように、吐出機構18aは、図3に示す吐出機構18の構成に加えて、ポンプ機構185に流動性材料を充填する流動性材料充填部187を備える。その他の構成は図3と同様であり、以下の説明において同符号を付す。また、ポンプ機構185の構成は図4と同様である。
【0054】
流動性材料充填部187は、流動性材料が貯溜される貯溜槽1871、貯溜槽1871に接続されるとともに流量計1821とポンプ機構185との間において固定配管182に接続される充填用配管1872、充填用配管1872上に設けられて貯溜槽1871内の流動性材料を固定配管182へと送出する充填ポンプ1873、および、充填用配管1872上に設けられるバルブ1874を備える。また、吐出機構18aの固定配管182では、充填用配管1872との接続点の下流側(すなわち、ノズル17側)および上流側にバルブ1824および切替バルブ1825が設けられる。
【0055】
第2の実施の形態に係る塗布装置において、ノズル17から流動性材料が吐出される際には、バルブ1824が開放され、バルブ1874は閉鎖される。また、切替バルブ1825は、流動性材料がポンプ機構185からノズル17に向かう方向のみに流れる状態とされる。第2の実施の形態に係る塗布装置では、第1の実施の形態と同様に、流動性材料を連続的に吐出する3本のノズル17を基板9に対して高速に主走査および副走査することにより、基板9に対する流動性材料の塗布が行われ、流動性材料の吐出を停止した状態で基板9の交換が行われた後、流動性材料の吐出が再開されて次の基板9に対する流動性材料の塗布が行われる。第2の実施の形態に係る塗布装置においても、第1の実施の形態と同様に、吐出停止時および吐出再開時の応答性を向上することができる。
【0056】
第2の実施の形態に係る塗布装置では、複数枚の基板9に対して流動性材料が塗布されて残量センサ1853(図4参照)により可変容器1851が空であることが検出されると、固定配管182上のバルブ1824が閉鎖されるとともに、切替バルブ1825が切り替えられて流動性材料が固定配管182からポンプ機構185に向かう方向のみに流れる状態とされる。そして、充填用配管1872上のバルブ1874が開放されるとともに充填ポンプ1873が駆動され、貯溜槽1871から充填用配管1872および固定配管182を介してポンプ機構185へと流動性材料が送出されて可変容器1851に充填される。吐出機構18aでは、可変容器1851が固定配管182に接続された状態であって、かつ、載置部1854に載置された状態にて流動性材料の充填が行われる。
【0057】
第2の実施の形態に係る塗布装置でも、第1の実施の形態と同様に、可変容器1851が固定配管182に着脱可能に取り付けられるため、可変容器1851を容易に交換することができる。その結果、流動性材料の種類を変更する場合等に、ポンプ機構185において流動性材料を貯溜する部位の洗浄が不要となるため、吐出機構18aおよび塗布装置のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0058】
なお、第2の実施の形態に係る塗布装置では、貯溜槽1871および充填ポンプ1873に代えて、流動性材料を貯溜するとともに充填用配管1872へと送出する加圧タンクが設けられてもよい。また、充填用配管1872が装置外部の流動性材料供給源に接続されることにより、可変容器1851に対する流動性材料の充填が行われてもよい。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0060】
例えば、上記実施の形態に係る塗布装置の各ポンプ機構185では、梃子式の残量センサ1853に代えて、例えば、可変容器1851の重量を電気的に計測して可変容器1851内の流動性材料の量を検出する残量センサが設けられてもよい。可変容器1851はベローズを有する形状とされてもよく、可変容器1851に対する圧力は、可変容器1851に当接する押圧板をエアシリンダ等により移動して可変容器1851を押圧することにより加えられてもよい。
【0061】
上記実施の形態に係る塗布装置では、塗布対象となる基板は、必ずしも有機EL表示装置用のガラス基板には限定されず、また、塗布される流動性材料も、正孔輸送液や有機EL液以外のものであってよい。塗布装置は、例えば、液晶表示装置やプラズマ表示装置に利用される基板に対する流動性材料の塗布に用いられてもよく、半導体基板に対する流動性材料の塗布に用いられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1の実施の形態に係る塗布装置の平面図である。
【図2】塗布装置の正面図である。
【図3】吐出機構の構造を示す図である。
【図4】ポンプ機構の構造を示す図である。
【図5】可変容器の底面図である。
【図6】載置部の平面図である。
【図7】第2の実施の形態に係る吐出機構の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 塗布装置
9 基板
11 基板保持部
12 基板移動機構
15 ヘッド移動機構
17 ノズル
181 可動配管
182 固定配管
183 エアバルブ
184 サックバックバルブ
185 ポンプ機構
186 電空レギュレータ
1851 可変容器
1852 耐圧容器
1853 残量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に流動性材料を塗布する塗布装置であって、
基板を保持する基板保持部と、
前記基板に向けて流動性材料を連続的に吐出するノズルと、
前記ノズルを前記基板の主面に対して平行な主走査方向および副走査方向に相対的に移動する移動機構と、
前記ノズルに接続されて前記ノズルの移動に従って撓むとともに流動性材料が流れる可動配管と、
前記可動配管の上流側に接続され、装置本体に対して相対的に固定された固定配管と、
前記可動配管と前記固定配管との間に設けられた開閉可能なバルブと、
複数枚の基板に塗布する量の流動性材料を貯溜するとともに前記固定配管に接続され、貯溜されている流動性材料に継続的に圧力を加えて前記流動性材料を前記固定配管に送出するポンプ機構と、
前記ポンプ機構を制御して前記流動性材料に継続的に加えられる圧力を予め設定された設定圧力とする圧力制御部と、
を備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布装置であって、
前記バルブと前記可動配管との間にサックバックバルブをさらに備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗布装置であって、
前記ポンプ機構が、
前記流動性材料を貯溜するとともに前記固定配管に接続され、圧力が加えられて容積が減少することにより前記固定配管に前記流動性材料を送出する可変容器と、
前記可変容器を内部に収容する耐圧容器と、
を備え、
前記圧力制御部が、前記耐圧容器内の圧力を調整することを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
請求項3に記載の塗布装置であって、
前記可変容器が、前記固定配管に対して着脱可能に取り付けられることを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の塗布装置であって、
前記ポンプ機構が、前記可変容器内の前記流動性材料の量を検出するセンサをさらに備えることを特徴とする塗布装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の塗布装置であって、
前記流動性材料が、正孔輸送材料または有機EL材料を含むことを特徴とする塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−117891(P2007−117891A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313737(P2005−313737)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】