説明

塗装ロボットによる静電塗装吹付制御方法及び制御装置

【課題】 塗装ロボットにおける自動塗装化において、塗装品質や生産性の基本となる教示の容易化、標準化を可能にし、作業効率を高めることができ、しかも同一の被塗装物における塗装部位毎の微妙な色見調整変更や塗り合わせ調整変更等に容易に対応させることができるようにする。
【解決手段】 ロボット制御装置10により、塗装条件に対する複数の吹付条件を、塗装ロボットに教示される塗装ステップ毎に選択可能に保持し、複数の吹付条件のいずれかに基づき、塗装ロボットの塗装ステップ毎の作動制御とともに塗装機21の吹付条件を制御するようにした。また、塗装ステップ毎の吹付条件の設定が予め記憶された吹付条件値、標準モデルの中から選択できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ロボットに搭載される静電塗装機の塗装吹付制御を行う静電塗装吹付制御方法及び静電塗装吹付制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装ロボットに塗装機を搭載し、予め教示した作動により繰り返し塗装を行う塗装においては、作動の軌跡と同時にスプレーのON−OFFが制御されて、必要な塗装を行い、更に被塗装物の塗装部位によってスプレー領域の幅を合わせて効率的に塗装を行うためにパターン幅の調整を制御しながら作動を行うことが知られている。
【0003】
一方、塗着効率を向上させ資源、環境、塗装コスト等の有効性から特に自動塗装では静電塗装が採用されることが多く、この場合には静電ガンを搭載して塗装を行う。この静電塗装においては、スプレーガンに面していない塗装面、例えば裏面にも塗料が付き回る効果があり、比較的単純なスプレーガンの動きでも塗着を助け、全体としての塗着効率を上げることができるとした利点が既に知られている。反面、静電効果は被塗装物の形状によって電界の集中する凸部に付着しやすく、部分的に塗膜厚さの不均一を生ずることが問題とされている。
【0004】
一般に静電塗装装置は、高電圧の使用とこれに伴う安全性への配慮から荷電制御等が取り入れられており、塗装機の制御装置として設けられている。特に、回転静電型塗装機の場合は、より高電圧を使用し、噴霧制御として回転数、シェーピングエア等の制御が求められることから、静電塗装用制御装置から送られる制御信号により塗装機の作動が制御されている。したがって、塗装ロボット側では通常のスプレーガンと同様、スプレーの吐出、吹付けエア、パターン調整エアの調整制御を行うように構成されており、前記静電塗装における荷電や回転数制御等は静電塗装用制御装置側の出力によって固定されている。
【0005】
このように、荷電圧、ベル回転数、シェーピングエア圧力が固定化されていると、近年の形状等が複雑化している被塗装物では、凹凸部位に対する静電効果において塗料の膜厚不均一が発生して適正な塗装が困難になることがある。特に、凹部位等においては、塗料の入り込みが悪化し、塗装不良を生ずることがある。また、塗面の高意匠化の要望に伴い、同一の被塗装物における塗装部位毎に微妙な色見調整変更や塗り合わせ調整変更等が必要となった場合、その調整変更等の対応が困難となることがある。
【0006】
被塗装物の塗装箇所毎に塗装条件を設定するものとして、特許文献1では、塗料を吐出するための組み合わせ吐出圧、塗料を霧状にするための霧化圧及び噴射範囲を定めるためのパターン圧の塗装パターンを予めRAMに記憶しておき、軌道データ毎に塗装パターンの1つを選択して調整し、CPUで吐出圧等を生成するための電空レギュレータに出力する電圧値を演算し、軌道データと共に演算された電圧値を塗装条件データとして登録し、記憶された軌道データ及び塗装条件データに基づいて塗装処理を再生するようにした塗装ロボットを提案している。
【特許文献1】特開平08−117653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に示されたものでは、軌道データ及び塗装条件データに基づいて塗装処理を再生することにより、塗装条件を再生するための微妙な調整を無くし、被塗装物の塗装箇所毎に塗装条件を設定することが可能となるが、塗装処理に要する塗装条件が吐出圧、霧化圧及び噴射範囲を定めるためのパターン圧となっている。
【0008】
このように、塗装条件が吐出圧、霧化圧及び噴射範囲を定めるためのパターン圧となっている場合、上述したように、形状等が複雑化している被塗装物あるいは塗装面に対する仕上げの多様性が要求されている状況に適切に対応することは難しくなっている。特に、静電塗装においては、凹凸部位に対する静電効果において塗料の膜厚不均一が発生してしまうことがあり、静電塗装特有の塗装方法を取り入れる必要がある。例えば、凹部の塗装においては、静電効果による塗料の入り込みが損なわれ膜厚が減少するため、予めプレコート(予備塗装)を行ってから静電塗装により全体を塗装するなどの方法が採られている。また、凸部においては、逆に電界の集中から塗料の塗着が増加するために静電効果を制限したり、塗装距離を保つなどの熟練した操作が必要とされていた。
【0009】
したがって、塗装ロボットにおける教示の段階において、塗料の付き回りの確認等、繰り返しての教示操作や塗装工程におけるプレコートの組み入れ、もしくはその部位に対する再塗装が必要となるなど、作業効率が悪化・生産性が低下してしまうという問題があった。
【0010】
更に、回転静電塗装においては、荷電圧の他、仕上げ状態を左右する噴霧粒子の状態を決める霧化頭の回転数が、吹付け条件の重要な要素となっている。また、回転する霧化頭から噴霧される塗料粒子は、一般的にシェーピングエアによって噴霧パターンの広がり、直進力すなわち噴霧粒子速度が調整されるように構成されており、被塗装物に対する塗着に大きく影響する。しかし従来は、これらの調整は塗装機側の制御装置により行われ、塗装プログラムの途中で変更されることはなかった。このため、被塗装物の形状複雑化に伴って、塗装箇所に適正な塗装を行うことができなかった。
【0011】
また、上述したように、塗面の高意匠化の要望に伴い、同一の被塗装物における塗装部位毎に微妙な色見調整変更や塗り合わせ調整変更等が必要となっても、塗装条件が吐出圧、霧化圧及び噴射範囲を定めるためのパターン圧となっている場合では、それらの調整変更に対応することが困難であるという問題があった。
【0012】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、塗装ロボットにおける自動塗装化において、塗装品質や生産性の基本となる教示の容易化、標準化を可能にし、作業効率を高めることができ、しかも同一の被塗装物における塗装部位毎の微妙な色見調整変更や塗り合わせ調整変更等に容易に対応させることができる、塗装ロボットによる静電塗装吹付制御方法及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の静電塗装吹付制御方法は、塗装ロボットに搭載される静電塗装機の塗装吹付制御を行う静電塗装吹付制御方法であって、前記静電塗装機の塗装条件に対する複数の吹付条件を、それぞれ前記塗装ロボットに教示される塗装ステップ毎に選択可能に保持し、選択された前記複数の吹付条件に基づき、前記塗装ロボットの前記塗装ステップ毎の作動制御とともに前記静電塗装機の吹付を制御することを特徴とする。
【0014】
また、前記複数の吹付条件の中からいずれかの条件値を前記塗装ステップ毎に選択し、選択された条件値を設定条件とし、その設定条件に応じた前記静電塗装機の吹付を制御するための制御値を出力させるものとする。
【0015】
また、前記複数の吹付条件は、回転霧化式の静電塗装機における、ON−OFF、荷電圧、ベル回転数、シェーピングエア圧力のいずれかを含むものとする。
【0016】
また、被塗装物の塗装形状に応じ、前記複数の吹付条件におけるそれぞれの条件値の組み合わせからなる標準モデルを保持し、その標準モデルを塗装ステップ毎に選択し、前記静電塗装機の吹付条件を制御するものとする。
【0017】
本発明の静電塗装吹付制御装置は、塗装ロボットに搭載される静電塗装機の塗装吹付制御を行う制御装置であって、前記静電塗装機の塗装条件に対する複数の標準条件を、前記塗装ロボットに教示される塗装ステップ毎に選択可能に保持する条件保持手段と、前記複数の標準条件のいずれかに基づき、前記塗装ロボットの前記塗装ステップ毎の作動制御とともに前記静電塗装機の吹付条件を制御する手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塗装条件に対する複数の吹付条件を、塗装ロボットに教示される塗装ステップ毎に選択可能に保持し、複数の吹付条件のいずれかに基づき、塗装ロボットの塗装ステップ毎の作動制御とともに静電塗装機の吹付条件を制御するようにしたので、被塗装物の形状や塗装仕上げ仕様の要求に応じて、その都度、部分的に吹付け条件を変更して適正な塗装を行うことができる。特に、被塗装物が、部分的に入り込みを必要とする複雑な形状である場合に適用できるようになる。
【0019】
また、これらに対する条件の設定が予め記憶された吹付条件値、標準モデルの中から選択することができるので、塗装ロボットの教示作業が容易かつ短時間で可能となる。したがって、塗装準備作業の作業効率を高めることができ、しかも同一の被塗装物における塗装部位毎の微妙な色見調整変更や塗り合わせ調整変更等に容易に対応させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本実施形態では、条件保持手段に、塗装条件に対する複数の吹付条件を、塗装ロボットに教示される塗装ステップ毎に選択可能に保持させ、各制御手段により条件保持手段に保持されている複数の吹付条件のいずれかに基づき、塗装ロボットの塗装ステップ毎の作動制御とともに静電塗装機の吹付条件を制御するようにした。これらの制御手段は、塗装ロボットの制御盤に組み込まれた制御装置に含めて設けられることにより、塗装ロボットの作動制御と連動して塗装ステップ毎に制御することが容易になる。
【0021】
この場合、形状等が複雑化している被塗装物であっても、その凹凸部位に対する塗装ロボットの塗装ステップに応じた複数の吹付条件のいずれかに基づき、静電塗装機の吹付条件を制御することで、静電効果において塗料の膜厚が均一なものとなる。
【0022】
特に、凹部位等においては、塗料の付き回りが悪化することがあるが、前述のように、塗料の膜厚を均一なものとすることができることから、塗料の付き回りの確認とその部位に対する再塗装とが不要となり、作業効率が向上する。
【0023】
また、塗面の高意匠化の要望に伴い、同一の被塗装物における塗装部位毎に微妙な色見調整変更や塗り合わせ調整変更等が必要となっても、塗装条件に対する複数の吹付条件が、塗装ロボットに教示される塗装ステップ毎に選択可能に保持されているため、それらの調整変更への対応が容易となる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明する。
図1は、本発明の静電塗装吹付制御装置の一実施例を説明するための図、図2は、図1の塗装機制御手段及び条件保持手段の詳細を説明するための図、図3は、図1の静電塗装吹付制御装置による静電塗装吹付制御方法を説明するためのフローチャートである。
【0025】
図1及び図2に示すように、静電塗装吹付制御装置であるロボット制御装置10は、入力手段11、記憶手段12、制御手段13、出力手段16を備え、制御手段13はロボットの駆動と塗装機の噴霧をそれぞれ制御するロボット制御手段14と、塗装機制御手段15とを備えている。
【0026】
塗装ロボット本体20は、ロボット制御手段14からの出力信号に基づいて駆動装置を作動させ、塗装機(静電ガン)21を搭載する作動アームを操作する。塗装機21は同じく塗装機制御手段15から塗装機21への出力制御信号に基づき吹付条件を制御する制御機器により、もしくは直接塗装機21に備えられた手段によって吹付条件が制御される。
【0027】
それぞれの制御手段は、条件入力により教示された情報に基づき塗装ロボットと協動して塗装機21の吹付けを制御する。この他、前記出力手段16には、塗装機21と被塗装物との相対位置を維持するため搬送設備や付帯設備の制御に対する制御信号を出力する機能が含まれている。
【0028】
条件保持手段17には、塗装条件に対する幾つかの吹付制御条件が選択可能に保持されている。ここで、本実施例での塗装機21は、回転霧化による静電塗装機を使用した場合を示しており、制御条件としては、塗装機21における、ON−OFF、荷電圧、霧化頭回転数、シェーピングエア圧力のいずれかを含むものである。これらの制御条件は、塗装機21の種類によって異なり必要に応じて選択もしくは制御されるもので、一部に限定される場合もある。
【0029】
また、各種の塗装仕様に基づいて適時選択設定されるもので、前記条件保持手段17にはこれまでの塗装経験や試験実施塗装等に基づいて、塗装機21及び各種塗装条件の組み合わせによる幾つかかの条件が選択できるように、主な塗装仕様に適合した標準の条件として記憶されている。
【0030】
ちなみに、本実施例における塗装機21を使用した場合の荷電圧は、例えば80kV、霧化頭回転数は毎分3万回転、シェーピングエア圧力200kPaとした値を標準とし、条件の違いに応じて他の条件値を選択できるようにされている。
【0031】
標準モデル保持手段18には、被塗装物の塗装形状に応じた標準モデル(パターン)が保持されている。記憶手段12には、塗装ステップ毎の設定条件が各々の塗装ステップに対応させて記憶される。ここで、塗装ステップ毎の設定条件は、条件保持手段17に保持されている複数の吹付条件の中から選択されたものである。
【0032】
なお、設定条件としては、条件保持手段17に保持されている複数の吹付条件とは別に設定入力することも可能である。この場合の設定入力は、入力手段11によって、例えばタッチパネルを有するモニタの画面へのタッチ操作に応じて行われるようにしてもよいし、専用の入力キーの操作に応じて行われるようにしてもよい。
【0033】
塗装機制御手段15は、条件保持手段17に保持されている複数の吹付条件のいずれかに基づき、塗装ロボットの塗装ステップ毎の作動制御と協動して塗装機21の吹付を制御するものであり、選択手段15a、吹付制御手段15bを備えている。
【0034】
選択手段15aは、条件保持手段17に保持されている複数の標準条件である、塗装機21における、ON−OFF、荷電圧、霧化頭回転数、シェーピングエア圧力等の条件を塗装ロボットの塗装ステップ毎に選択し、その選択した条件を設定条件とするとともに、記憶手段12に各々の塗装ステップに対応させて記憶させる。なお、選択手段15aによる複数の吹付条件からの選択は、塗装ロボットの塗装ステップ毎に手動もしくは自動的に選択されるようにしてもよいし、例えばタッチパネルを有するモニタの画面へのタッチ操作、あるいは専用の入力キーの操作に応じて行われるようにしてもよい。
【0035】
自動的に選択される場合、塗装ロボットの塗装ステップは、標準モデル保持手段18に保持されている被塗装物の塗装形状に応じた標準モデルから得ることができる。標準モデルは、例えば被塗装物の形状において、塗装面が凹部となっており塗料の入り込みが低下する形状である場合には、荷電を停止して静電効果をなくしシェーピングエアによる噴霧粒子の直進力で凹部に入り込ませる条件の組み合わせを予め設定し、これを保持させておく。
【0036】
同様に霧化頭の回転数は、一般的に高速であるほど噴霧粒子は細かくなり、微細な粒子での平滑な塗面が得られるが、粒子が微細になるほど塗料粒子の慣性力が弱まって静電気による影響を受けやすく、凹部への入り込みは低下する。これらの吹付条件はそれぞれ個別の設定条件での組み合わせにおいて多様であり、経験や実施テストの積み重ねが必要となっている。
【0037】
このような過去の経験を元に、本実施例の標準モデルは最適な条件を予め設定し、ラベルを付して前記記憶手段12に選択可能に保持しておく。したがって、同様な条件の被塗装物に対しては、その中から選択することによって容易に適正条件を教示できるようになる。
【0038】
これらの条件設定は直接条件を入力する他、標準モデルを選択して入力する方法もしくは、被塗装物の形状、塗装面の仕上げ状態、塗料の区分等関連する条件を入力し、その条件に応じた標準条件を自動的に選択されるように構成することができる。また、塗装ステップ毎のパターンは、例えばタッチパネルを有するモニタの画面へのタッチ操作や専用の入力キーの操作により設定変更することも可能である。
【0039】
吹付制御手段15bは、記憶手段12に記憶されている設定条件に基づき、塗装ロボットの塗装ステップ毎に、自動演算により塗装機21の吹付条件を制御するための条件値を求め、その条件値に応じた吹付条件制御信号を出力することで、塗装機21の吹付条件を制御する。なお、吹付制御手段15bによる塗装ロボットの塗装ステップの判断は、例えば標準モデル保持手段18に保持されている被塗装物の塗装形状に応じた塗装ステップ毎の標準モデルを元に行うことができる。
【0040】
その吹付条件制御信号は、電磁弁開閉用接点(スプレー、回転数)、電空バルブ用アナログ電圧(回転数、シェーピング)、アナログ電圧(静電電圧)等を制御する図示しない同一の制御基板を介して出力されるようになっている。
【0041】
なお、図中符号22は塗装機制御手段15からの出力信号に基づき、エア圧力を調整する電空バルブであり、符号23は塗料の流量を制御する流量制御機器である。
【0042】
次に、静電塗装吹付制御方法について説明する。
まず、図3のフローチャートに示すように、吹付条件の設定を開始する場合、ロボット制御装置10に塗装ロボットの作動条件が入力される(ステップS1)。入力される作動条件は、塗装ロボットの駆動装置を介して塗装機21を搭載した塗装ロボットのアームを駆動し、被塗装物に対して塗装機21を操作する条件であり、塗装箇所、塗り回数、ガン角度、ストローク、吹付距離を決定するものである。
【0043】
これらの入力データは塗装ロボットの教示データとして入力され、通常被塗装物に対する塗装軌跡の各ポイント毎に入力・記憶される。各ポイント間の塗装ステップは変更の必要がなければ同じ条件で維持され、変更の必要が生じた場合に該当する条件が変更され、順次記憶されていく。
【0044】
本実施例では、これらのロボット作動条件の他に、塗装機の吹付け操作条件(噴霧条件)として静電塗装における高電圧の荷電制御、回転霧化式の静電塗装機として吹付け条件に影響の大きな回転数あるいはシェーピングエアの圧力制御等が、ロボット制御装置10に組み込まれた塗装ステップ毎の制御値として入力され(ステップS2)、塗装ロボットの作動と協動し、適正な塗装作業が行われることになる。
【0045】
塗装機21の制御は、記憶手段12に組み込まれ保持されている各条件値から必要とする条件を選択し、記憶される。条件の入力は個別の条件、例えば高電圧の荷電ON−OFFの選択や、シェーピングエア圧力の設定等を個々に行ってもよく、別に標準モデルとして保持されている標準塗装条件を選択することでもよい。
【0046】
作業者は、被塗装物の形状を確認し、塗装位置が凹部であれば高電圧の荷電を切断し、無荷電でその部位を塗装させることが可能となる。回転静電塗装の場合は同時にシェーピングエア圧力を制御し、噴霧粒子の直進力を増加させ、奥まった凹部にまで塗料を塗着させることが可能となる。
【0047】
このように、塗装条件がこれまでより広い範囲で設定が可能であり、ロボット制御装置10に組み込まれることで、塗装ステップ毎に部分的な吹付け条件の変更が容易に可能となり、複雑形状の被塗装物、特殊仕上げ塗料に対する吹付け条件での対応、特殊美麗塗装仕上げ等、品質の多様化に対応できる。
【0048】
また、被塗装物の形状もしくは塗装仕様に応じた標準的な塗装条件の組み合わせを予め幾つか記憶させた標準モデルから選択するようにすれば、作業者による変動もなく、しかも熟練した技能を有さなくても容易に適正な吹付け塗装条件を選択して、教示プログラムを簡単に短時間で作成することができる。
【0049】
そして、入力された条件データにより、前記塗装ステップ毎に記憶された塗装ロボットの作動と協動し塗装機21の吹付け条件が制御され、適正な塗装が可能となる。すなわち、塗装機21の吹付け条件は、塗装機制御手段15からの出力信号に基づき、エア圧力の制御を行う電空バルブ22等の圧力、もしくは流量制御機器23を介して塗装機21に必要なエアを供給したり、荷電する高電圧を静電ガンに供給したりするなどの制御条件となる。
【0050】
順次、塗装ステップ毎の作動及び吹付け条件が入力、記憶され(ステップS3)、被塗装物に対し必要とする塗装が完了して1つの塗装プログラムが終了する(ステップS4)。教示により記憶されたプログラムは、再生により繰り返し同じ塗装条件での塗装が行われる。本実施例では、塗装ステップ毎に静電塗装に重要な塗装条件を設定することができるため、1つの塗装プログラム内の一部の設定条件を変える必要が生じた場合、該当する塗装ロボットの作動ステップで塗装条件を部分的に変更すれば部分的な修正が容易に可能である。
【0051】
そして、塗装が開始される場合(ステップS5)、記憶手段12に塗装ロボットの塗装ステップに対応させて設定条件が記憶されると、吹付制御手段15bにより、記憶手段12から塗装ロボットの塗装ステップに応じた設定条件が読み出され(ステップS6)、自動演算によりその設定条件に応じた塗装機21の吹付条件を制御するための制御値が求められる。更に、出力手段16から、その制御値に応じた吹付条件制御信号が出力されることで、塗装機21の吹付条件が制御される(ステップS7)。以降、同様にして塗装ステップ毎にそれぞれに応じた設定条件が読み出され、塗装完了となるまで塗装機21の吹付条件が制御される(ステップS8)。
【0052】
なお、吹付制御手段15bによる塗装ロボットの塗装ステップに応じた設定条件の読み出しは、上記同様に、標準モデル保持手段18の被塗装物の塗装形状に応じた塗装ステップ毎の標準モデル(パターン)を元に判断することができる。また、例えばタッチパネルを有するモニタの画面へのタッチ操作、あるいは専用の入力キーの操作に応じて設定変更された場合、その設定変更された塗装ステップを元に判断してもよい。
【0053】
このように、本実施例では、ロボット制御装置10により、塗装条件に対する複数の吹付条件を、塗装ロボットに教示される塗装ステップ毎に選択可能に保持し、複数の吹付条件のいずれかに基づき、塗装ロボットの塗装ステップ毎の作動制御とともに塗装機21の吹付条件を制御するようにしたので、被塗装物の形状や塗装仕上げ仕様の要求に応じて、その都度、部分的に吹付け条件を変更して適正な塗装を行うことができる。特に、被塗装物が、部分的に入り込みを必要とする複雑な形状である場合に適用できるようになる。
【0054】
また、これらに対する条件の設定を、予め記憶された吹付条件値、標準モデルの中から選択することができるので、塗装ロボットの教示作業が容易かつ短時間で可能となり、塗装準備作業の作業効率を高めることができ、しかも同一の被塗装物における塗装部位毎の微妙な色見調整変更や塗り合わせ調整変更等に容易に対応させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
塗装ロボットによる静電塗装分野の拡大が期待できる。また、熟練作業者のいない作業所や中小企業などにおいて広範な活用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の静電塗装吹付制御装置の一実施例を説明するための図である。
【図2】図1の塗装機制御手段及び条件保持手段の詳細を説明するための図である。
【図3】図1の静電塗装吹付制御装置による静電塗装吹付制御方法を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
10 ロボット(RB)制御装置
11 入力手段
12 記憶手段
13 制御手段
14 ロボット(RB)制御手段
15 塗装機制御手段
15a 選択手段
15b 吹付制御手段
16 出力手段
17 条件保持手段
18 標準モデル保持手段
20 塗装ロボット本体
21 塗装機
22 電空バルブ
23 流量制御機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ロボットに搭載される静電塗装機の塗装吹付制御を行う静電塗装吹付制御方法であって、
前記静電塗装機の塗装条件に対する複数の吹付条件を、それぞれ前記塗装ロボットに教示される塗装ステップ毎に選択可能に保持し、選択された前記複数の吹付条件に基づき、前記塗装ロボットの前記塗装ステップ毎の作動制御とともに前記静電塗装機の吹付を制御する
ことを特徴とする静電塗装吹付制御方法。
【請求項2】
前記複数の吹付条件の中からいずれかの条件値を前記塗装ステップ毎に選択し、
選択された条件値を設定条件とし、その設定条件に応じた前記静電塗装機の吹付を制御するための制御値を出力させる
ことを特徴とする請求項1に記載の静電塗装吹付制御方法。
【請求項3】
前記複数の吹付条件は、回転霧化式の静電塗装機における、ON−OFF、荷電圧、ベル回転数、シェーピングエア圧力のいずれかを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の静電塗装吹付制御方法。
【請求項4】
被塗装物の塗装形状に応じ、前記複数の吹付条件におけるそれぞれの条件値の組み合わせからなる標準モデルを保持し、その標準モデルを塗装ステップ毎に選択し、前記静電塗装機の吹付条件を制御する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静電塗装吹付制御方法。
【請求項5】
塗装ロボットに搭載される静電塗装機の塗装吹付制御を行う静電塗装吹付制御装置であって、
前記静電塗装機の塗装条件に対する複数の標準条件を、前記塗装ロボットに教示される塗装ステップ毎に選択可能に保持する条件保持手段と、
前記複数の標準条件のいずれかに基づき、前記塗装ロボットの前記塗装ステップ毎の作動制御とともに前記静電塗装機の吹付条件を制御する手段とを備える
ことを特徴とする静電塗装吹付制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−691(P2007−691A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180370(P2005−180370)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】