説明

塗装多孔質材の製造方法

【課題】 多孔質基材表面に、水性塗料を用いて下塗り塗装及び上塗り塗装をインライン方式で生産性よく施し、しかもふくれや割れなどの外観異常が抑制された塗膜を形成し得る塗装多孔質材の製造方法を提供する。
【解決手段】 多孔質基材表面に水性下塗り塗料を塗装したのち、形成される下塗り塗膜を完全に乾燥させることなく、その上に水性上塗り塗料を塗装し、次いで加熱乾燥処理する塗装多孔質材の製造方法であって、前記水性上塗り塗料として、加熱乾燥処理後の上塗り塗膜の水蒸気透過度が30g/m2・24hr以上となる水性塗料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装多孔質材の製造方法及びその方法で得られた塗装多孔質材に関する。さらに詳しくは、本発明は、多孔質基材表面に、水性塗料を用いて下塗り塗装及び上塗り塗装をインライン方式で生産性よく施し、しかもふくれや割れなどの外観異常の発生が抑制された塗膜を形成し得る塗装多孔質材の製造方法、及び該製造方法で得られた塗装多孔質材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質基材、例えば気泡コンクリート(ALC)パネル、コンクリート材、モルタル材などは、一般に表面に凹凸を有しており、したがって、塗装方法としては、通常パテ補修やシーラーによる前処理塗装を行い、その上に下塗り塗装及び上塗り塗装を施す方法が採られている。この場合、従来下塗り塗装は工場で行い、施工現場では上塗り塗装及び必要によりトップコート塗装が一般に行われている。
しかしながら、このようなアウトライン方式においては、施工現場での上塗り塗装は常温乾燥せざるを得ないため、乾燥に時間がかかり、トップコート塗装するまでの待ち時間が無駄となり、工期の短縮が難しかった。その上、天候の影響を受けやすいという問題もあった。
したがって、工期短縮の上から、工場で一貫して下塗り塗装及び上塗り塗装を行うインライン方式を採用し、施工現場ではそのまま施工、又はトップコート塗装のみを行うことが望まれていた。
インライン方式で下塗り塗装−上塗り塗装を行う場合、通常下塗り塗装後、加熱乾燥処理し、上塗り塗装が施される。しかしながら、多孔質基材は熱容量が大きいために、加熱乾燥処理に多大のエネルギーを要し、したがってこの加熱乾燥処理を省くことが望ましい。
【0003】
近年、環境衛生上の観点から、塗装分野においては、水溶性塗料や水系エマルション塗料などの水性塗料が多く用いられるようになってきた。
この水性塗料を用いて、下塗り塗装−上塗り塗装をインライン方式で行う際、下塗り塗装で形成された塗膜を完全に乾燥させることなく、その上に上塗り塗装を施し、下塗り塗膜と上塗り塗膜を同時に加熱乾燥処理する場合、従来の水性上塗り塗料を用いると、下塗り塗膜の加熱乾燥で発生する水蒸気によって、形成される塗膜にふくれや割れなどの外観異常が生じることが多い。
一方、建築物外装面に、水分が残存した状態であっても、優れた密着性を発揮し得る塗装方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この塗装方法においては、非水系樹脂として、水蒸気透過度が40g/m2・24hr以上の塗膜を形成し得るものを使用し、かつ脱水剤を含有させた塗料を用いており、脱水剤を含有していなければ、塗膜の水蒸気透過度が40g/m2・24hr以上であっても、該塗膜にふくれなどが生じやすい。
【0004】
【特許文献1】特開2004−238967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、多孔質基材表面に、水性塗料を用いて下塗り塗装及び上塗り塗装をインライン方式で生産性よく施し、しかもふくれや割れなどの外観異常の発生が抑制された塗膜を形成し得る塗装多孔質材の製造方法、及びその方法で得られた塗装多孔質材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、多孔質基材表面に水性下塗り塗料を塗装したのち、形成される下塗り塗膜を完全に乾燥させることなく、その上に、水蒸気透過度がある値以上である塗膜が形成されるように水性上塗り塗料を塗装し、次いで加熱乾燥処理することにより、所望の塗装多孔質材が生産性よく得られ、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)多孔質基材表面に水性下塗り塗料を塗装したのち、形成される下塗り塗膜を完全に乾燥させることなく、その上に水性上塗り塗料を塗装し、次いで加熱乾燥処理する塗装多孔質材の製造方法であって、前記水性上塗り塗料として、加熱乾燥処理後の上塗り塗膜の水蒸気透過度が30g/m2・24hr以上となる水性塗料を用いることを特徴とする塗装多孔質材の製造方法、
(2)水性下塗り塗料の固形分換算塗布量(A)及び水性上塗り塗料の固形分換算塗布量(B)が、それぞれ35〜350g/m2及び30〜150g/m2であり、かつ(B)/(A)が0.2〜1.5である請求項1に記載の塗装多孔質材の製造方法、
(3)水性上塗り塗料が、シリコーン変性アクリル系樹脂エマルションを用いて得られたものである上記(1)又は(2)に記載の塗装多孔質材の製造方法、
(4)水性下塗り塗料における樹脂成分の溶解性パラメーターSP1値と、水性上塗り塗料における樹脂成分の溶解性パラメーターSP2値の差ΔSP(│SP1−SP2│)が1以下である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の塗装多孔質材の製造方法、及び
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法によって得られたことを特徴とする塗装多孔質材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、多孔質基材表面に、水性塗料を用いて下塗り塗装及び上塗り塗装をインライン方式で生産性よく施し、しかもふくれや割れなどの外観異常の発生が抑制された塗膜を有する塗装多孔質材を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の塗装多孔質材の製造方法においては、多孔質基材表面に水性下塗り塗料を塗装したのち、形成される下塗り塗膜を完全に乾燥させることなく、その上に水性上塗り塗料を塗装し(ウェットオンウェット塗装)、次いで加熱乾燥処理することにより、塗装多孔質材を製造する。
本発明において、被塗基材として用いられる多孔質基材としては、特に制限はなく、例えば気泡コンクリート(ALC)パネル、コンクリート材、モルタル材などの無機質建材等を好ましく挙げることができる。
本発明においては、前記多孔質基材表面に下塗り塗装及び上塗り塗装を施すが、当該多孔質基材の表面状態に応じて、前記下塗り塗装を施す前に、必要により、従来公知のパテ補修やシーラーによる前処理塗装を行うことができる。本発明では、前処理塗装のシーラーとして前記水性下塗り塗料として用いるものと同じ水性塗料を用いるのが簡便で好ましい。
【0010】
前記水性下塗り塗料としては、例えばアクリル系樹脂、シリコーン変性アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの水溶性、水分散(エマルション)型の水性樹脂を、水系媒体に溶解又は分散させ、必要に応じ、さらに顔料や各種添加剤を添加してなる水性塗料を用いることができる。
本発明においては、水性下塗り塗料として、耐侯性、耐久性、耐アルカリ性、接着強度などに優れる点から、アクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂エマルション塗料又はシリコーン変性アクリル系樹脂を含むシリコーン変性アクリル系樹脂エマルション塗料を用いることが好ましい。
前記のアクリル系樹脂エマルション塗料は、アクリル系単量体と他のエチレン性不飽和結合を有する単量体との共重合体を含む水系エマルション塗料であり、一方、シリコーン変性アクリル系樹脂エマルション塗料は、オルガノポリシロキサンをグラフトもしくは内包させたアクリル系単量体と他のエチレン性不飽和結合を有する単量体との共重合体を含む水系エマルション塗料である。
【0011】
前記のアクリル系樹脂エマルション塗料及びシリコーン変性アクリル系樹脂エマルション塗料における共重合体を形成するアクリル系単量体としては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロシキプロピル等のエステル、さらにはアクリルアミド、アクリロニトリル等が用いられる。またこれらと共重合可能な他のエチレン性不飽和結合を有する単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニルなどが用いられる。
アクリル系樹脂エマルション塗料は、前記のアクリル系単量体と他のエチレン性不飽和結合を有する単量体とを、乳化共重合させることにより製造されたアクリル系樹脂エマルションに、必要に応じ、顔料や各種添加剤を加えることにより調製することができる。
【0012】
一方、シリコーン変性アクリル系樹脂エマルション塗料は、乳化したアルコキシシラン単量体又はその加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンオリゴマーの存在下、アクリル系単量体と他のエチレン性不飽和結合を有する単量体を水中で乳化重合することによって製造されたシリコーン変性アクリル系樹脂エマルションに、必要に応じ、顔料や各種添加剤を加えることにより調製することができる。
前記シリコーン変性アクリル系樹脂エマルションは、アルコキシシラン単量体の乳化加水分解と、アクリル系単量体の乳化共重合とを同一系内において、同時に、又は逐次行って製造することができる。
前記アルコキシシランの例としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシランなどが挙げられる。これらのアルコキシシランは単独でも又は2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
アクリル共重合体へのシリコーン成分のグラフトを望む場合には、アルコキシシラン単量体の一部に3−メタクリロキシプロピルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシブチルトリメトキシシランのようなラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有するアルコキシシランを使用するのがよい。
アクリル系樹脂エマルション及びシリコーン変性アクリル系樹脂エマルションを製造する際の乳化重合においては、通常界面活性剤を含む水溶液中において、重合開始剤の存在下に、各単量体成分を共重合させる方法が用いられる。
【0014】
前記界面活性剤としては、慣用のノニオン性又はアニオン性界面活性剤を使用することができる。ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。一方、アニオン性界面活性剤の例としては、アニオン成分がアルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、スチレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、酸性リン酸アルキルエステル、アルカンスルホン酸などであり、対イオンがアルカリ金属、アンモニア、トリエチルアミンのようなアミンなどが挙げられる。
重合開始剤としては、通常水溶性開始剤が用いられる、この水溶性開始剤の例としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの無機過酸化物開始剤、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、テトラリンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物開始剤、及び4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)のようなアゾ系開始剤が挙げられる。
【0015】
このようにして製造されたアクリル系樹脂エマルション又はシリコーン変性アクリル系樹脂エマルションに、必要により顔料や、水系エマルション塗料において慣用されている各種添加剤を添加することにより、本発明で好ましく用いられる下塗り塗料が得られる。
前記顔料としては、例えば二酸化チタン、酸化鉄、水酸化鉄、カーボンブラック、黄鉛等の無機顔料及びアゾレーキ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料等の各種有機着色顔料、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、ケイ酸、炭酸マグネシウムなどの体質顔料が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
水性下塗り塗料において、必要により用いられる顔料の含有量は、樹脂成分/顔料の固形分質量比で、通常1/10〜6/10程度である。前記質量比が1/10以上であれば防水性の良好な塗膜を得ることができ、一方6/10以下であれば凹部の塗料溜り、素穴内部の塗り残し、クラックやしわの発生などを抑制することができる。好ましい質量比は2/10〜4/10である。
また、各種添加剤としては、例えば顔料分散剤、沈殿防止剤、表面改質剤、紫外線吸収剤など挙げられる。
【0016】
このようにして調製された下塗り塗料においては、塗装時における不揮発分は、塗装性及び乾燥性などの面から50質量%以上が好ましく、特に50〜70質量%の範囲が好ましい。
また、塗装時の粘度は、#4フォードカップによる25℃の測定値で10〜50秒であることが好ましい。粘度が上記範囲にあれば、塗装装置における塗料循環系で塗料中に顔料が沈殿するのを抑制することができると共に、塗り残しや凹部の塗料溜りの発生などを抑制することができる。該粘度は、より好ましくは20〜40秒である。
さらに、ラメラ長が3mm以下であることが好ましい。ラメラ長とは、塗料等の液状膜における液切れの程度を示すもので、測定値が小さいほど塗料の液膜が切れやすく、空気吹付けによる過剰塗料の除去がしやすい。より好ましいラメラ長は、0.1〜2mmである。
【0017】
本発明においては、多孔質基材表面に、前記水性下塗り塗料を塗装したのち、形成される下塗り塗膜を完全に乾燥させずに、その上に塗装(ウェットオンウェット塗装)される上塗り塗料として、加熱乾燥処理後の上塗り塗膜の水蒸気透過度が30g/m2・24hr以上となる水性塗料が用いられる。
上塗り塗膜の水蒸気透過度が30g/m2・24hr以上であれば、不完全乾燥状態の下塗り塗膜上に上塗り塗装を施し、加熱乾燥処理する際に、下塗り塗膜の乾燥で発生する水蒸気が、上塗り塗膜の空隙を通って外部に抜けやすく、その結果塗膜にふくれや割れなどの外観異常が発生しにくい。また、その上限については塗膜が形成される限りにおいて特に制限はないが、通常150g/m2・24hrを超えると耐水性が不十分となることがある。
なお、上塗り塗膜の水蒸気透過度の測定方法については、後述する。
このような水性塗料としては、塗膜の水蒸気透過度、耐候性、耐久性、耐アルカリ性、接着強度などの面から、シリコーン変性アクリル系樹脂エマルション塗料が好ましく用いられる。
このシリコーン変性アクリル系樹脂エマルション塗料については、前述の水性下塗り塗料において説明したとおりである。
水性上塗り塗料における不揮発分は、塗装性及び乾燥性などの面から、通常30〜50質量%程度、好ましくは40〜50質量%である。
水性上塗り塗料において、必要により用いられる顔料の含有量は、得られる塗膜の防水性、クラックやしわの発生防止性などの面から、樹脂成分/顔料の固形分質量比で、通常5/10〜25/10程度、好ましくは7/10〜20/10である。
【0018】
本発明においては、水性下塗り塗料における樹脂成分の溶解性パラメーターSP1値と、水性上塗り塗料における樹脂成分の溶解性パラメーターSP2値の差ΔSP(│SP1−SP2│)が1以下であることが好ましい。該ΔSPが1以下であると、下塗り塗膜と上塗り塗膜との親和性が向上し、界面での剥離を抑制することができる。
溶解性パラメーター(SP)は、樹脂等の親水性又は疎水性の度合いを示す尺度であり、また樹脂間の相溶性を判断する上でも重要な尺度である。例えば「J.Polymer.Sci.」、Al、第5巻、第1671頁(1967年)に報告されている濁度測定法をもとに数値定量化されるものである。
このΔSPを考慮することにより、水性下塗り塗料及び水性上塗り塗料をウェットオンウェット塗装する際に、下塗り塗膜と上塗り塗膜との密着性を優れたものにすることができる。
【0019】
本発明の塗装多孔質材の製造方法においては、必要によりパテ補修やシーラーによる前処理塗装が行われた多孔質基材表面に、まず水性下塗り塗料を塗装する。この塗装方法としては、シャワーコーター、フローコーター、スプレー塗装などで水性下塗り塗料を過剰に塗布したのち、塗装面に空気を吹付け、過剰な塗料を塗装面から除去して(エアーカット法)、塗装面を均一にする方法を用いることができる。
シャワーコーター、フローコーター、スプレー塗装は、塗装における常用の塗装方法を用いることができる。
【0020】
このようにして被塗基材上に塗付される水性下塗り塗料の量は、固形分換算で、通常35〜350g/m2程度、好ましくは70〜280g/m2である。
本発明においては、このようにして被塗基材上に下塗り塗装を施したのち、形成された下塗り塗膜上に、インライン方式で上塗り塗料を塗装する。この場合、上塗り塗料が塗装される下塗り塗膜は、完全に乾燥させることなく、上塗り塗装が可能な状態、すなわち2層が実質上混じり合わない程度に乾燥する(以下、この状態をハーフ乾燥状態という)。下塗り塗膜をハーフ乾燥状態にするには、自然乾燥でもよく、必要により適宜予備加熱処理してもよい。なお、下塗り塗装前に、被塗基材を適宜加熱しておくこともできる。自然乾燥する場合、その乾燥時間は、下塗り塗膜の厚さなどにより左右されるが、通常10〜120分間程度である。
このようにして、ハーフ乾燥状態にされた下塗り塗膜上に、水性上塗り塗料を塗装する。
【0021】
上塗り塗料の塗装方法としては、2層ができるだけ混じり合わないような方法が好ましく、例えばスプレー塗装法を用いることができる。ハーフ乾燥状態の下塗り塗膜に塗布される水性上塗り塗料の量は、固形分換算で、通常30〜150g/m2程度、好ましくは50〜120g/m2である。また、水性上塗り塗料の固形分換算塗布量/水性下塗り塗料の固形分換算塗布量比は、良好な外観を得るために、0.2〜1.5の範囲が好ましく、特に0.3〜1.0が好ましい。
本発明においては、このようにしてハーフ乾燥状態の下塗り塗膜上に、上塗り塗料を塗装したのち、加熱乾燥処理する。この際の加熱乾燥処理温度は、通常50〜140℃程度、好ましくは70〜100℃である。加熱処理時間は、加熱処理温度によって左右されるが、通常1〜30分間程度、好ましくは5〜15分間である。この加熱処理によって、下塗り塗膜及び上塗り塗膜が共に乾燥硬化する。下塗り塗膜の乾燥時に発生する水蒸気は上塗り塗膜の空隙を通って外部に抜けることから、形成される硬化塗膜にはふくれや割れなどの外観異常が生じにくい。
【0022】
本発明においては、このようにして、必要によりパテ補修やシーラーによる前処理塗装が施された多孔質基材表面に、インライン方式で、水性下塗り塗料を塗装し、ハーフ乾燥状態の下塗り塗膜上に、さらに水性上塗り塗料を塗装したのち、加熱乾燥処理することにより、ふくれや割れなどの外観異常の発生が抑制された塗膜を有する塗装多孔質材を、天候などに左右されずに生産性よく製造することができる。
本発明においては、このようにして得られた塗装多孔質材の表面に、耐擦傷性や意匠性などを付与する目的で、必要により、現場施行時に、さらに従来公知のトップコート用塗料を用いてトップコートを施すことができる。
本発明はまた、前記本発明の方法で製造された塗装多孔質材をも提供する。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における上塗り塗膜の水蒸気透過度及び塗装多孔質材の仕上り外観は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)上塗り塗膜の水蒸気透過度
各例で使用する上塗り塗料を用い、ポリプロピレン板上に、各例における塗布量に相当する塗布量でドクターブレードにて塗装し、100℃で5分間乾燥させたのち、得られた塗膜を剥離してフリーフィルムを作製した。このフリーフィルムについて、JIS K5400 8.17に準拠して水蒸気透過度を測定した。
(2)塗装多孔質材の仕上り外観
塗装多孔質材の塗膜を目視観察し、ふくれなどの外観異常が発生しているか否かを確認した。
【0024】
実施例1
ALC板上に、まず前処理塗料として、下記のようにして調製された下塗り塗料をシャワーコート法にて塗装したのち、過剰量をエアーカット法にて取り除いた。塗布量は、固形分として700g/m2であった。次いで、赤外線乾燥炉内温度100℃で4分間加熱乾燥処理した。
次に、この前処理塗装されたALC板上に、下記のようにして調製された下塗り塗料をシャワーコート法にて塗装したのち、過剰量をエアーカット法にて取り除いた。塗布量は、固形分として210g/m2であった。塗装してから2分間余熱乾燥したのち、その上に下記のようにして調製された上塗り塗料をエアレススプレー塗装法にて、固形分として100g/m2の塗布量で塗装した。
塗装してから5分間余熱乾燥したのち、赤外線加熱炉内温度100℃、風速0.3m/秒で10分間加熱乾燥処理することにより、塗装多孔質材を製造した。
下塗り塗料の樹脂成分と上塗り塗料の樹脂成分のΔSP、上塗り塗膜の水蒸気透過度及び塗装多孔質材の仕上り外観を第1表に示す。
<下塗り塗料の調製>
モノマー組成がスチレン/メチルメタクリレート/n-ブチルアクリレート=36/11/53のアクリル共重合体エマルション[乳化剤:ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム対モノマー1%使用]と、炭酸カルシウムと、水と、溶剤としてのブチルセロソルブとを混合し、ディスパー攪拌して、樹脂成分/顔料の固形分質量比3/10、不揮発分70質量%、#4フォードカップ粘度45秒の下塗り塗料を調製した。
この下塗り塗料の樹脂成分のSP値は9.4であった。
<上塗り塗料の調製(I)>
顔料ペースト(酸化チタン/沈降性硫酸バリウム質量比=6/4)と下記方法で合成した樹脂エマルション(1)を混合し、ディスパー攪拌して、樹脂成分/顔料の固形分質量比11/10、不揮発分50質量%の上塗り塗料を調製した。
「樹脂エマルション(1)の調製」:
ビーカーに脱イオン水45gと第2表の組成のモノマー、乳化剤(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム対モノマー1%使用)を入れて攪拌し乳化物を得た。これとは別に、攪拌機、冷却管、滴下ロート及び温度計を備えた反応容器に、脱イオン水60gを仕込み、80℃に保持した後、室温まで冷却し、その後25%アンモニア水を添加してpHを8に調整した。次いで100メッシュの金網でろ過して樹脂エマルション(1)を調製した。
【0025】
実施例2
実施例1において、上塗り塗料として、樹脂成分/顔料固形分質量比が11/10のものを用いた以外は、実施例1と同様な操作を行い、塗装多孔質材を製造した。
ΔSP、上塗り塗膜の水蒸気透過度及び塗装多孔質材の仕上り外観を第1表に示す。
【0026】
比較例1、2
実施例1において、上塗り塗料として、下記のようにして調製された上塗り塗料を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行い、塗装多孔質材を製造した。
ΔSP、上塗り塗膜の水蒸気透過度及び塗装多孔質材の仕上り外観を第1表に示す。
<上塗り塗料の調製(II)>
顔料ペースト(酸化チタン/沈降性硫酸バリウム質量比=6/4)とモノマー組成がスチレン/メチルメタクリレート/n-ブチルアクリレート/アクリル酸=4/64/31/1のアクリル共重合体エマルション[乳化剤:ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム対モノマー1%使用](樹脂エマルション(2))を混合し、ディスパー攪拌して、樹脂成分/顔料の固形分質量比11/10(比較例1)及び22/10(比較例2)、不揮発分50質量%の上塗り塗料を調製した。
【0027】
実施例3〜6
実施例2において、下塗り塗装及び上塗り塗装の塗布量を第1表に示すように変更した以外は、実施例2と同様な操作を行い、塗装多孔質材を製造した。
ΔSP、上塗り塗膜の水蒸気透過度及び塗装多孔質材の仕上り外観を第1表に示す。
【0028】
実施例7〜9
第2表に示すモノマー組成で上記樹脂エマルション(1)と同様に調製した、SP値が異なる樹脂エマルション(3)〜(5)(シリコーン変性アクリルエマルション)を用いることで、ΔSPが第1表に示す値になる上塗り塗料を用いた以外は、実施例2と同様な操作を行い、塗装多孔質材を製造した。
ΔSP、上塗り塗膜の水蒸気透過度及び塗装多孔質材の仕上り外観を第1表に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の方法によれば、ALC板などの多孔質基材表面に、水性下塗り塗料及び特定の水性上塗り塗料を用いてインライン方式で下塗り塗装及び上塗り塗装をウェットオンウェット法にて施すことにより、ふくれや割れなどの外観異常の発生が抑制された塗膜を有する塗装多孔質材を、天候などに影響されずに、生産性よく製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材表面に水性下塗り塗料を塗装したのち、形成される下塗り塗膜を完全に乾燥させることなく、その上に水性上塗り塗料を塗装し、次いで加熱乾燥処理する塗装多孔質材の製造方法であって、前記水性上塗り塗料として、加熱乾燥処理後の上塗り塗膜の水蒸気透過度が30g/m2・24hr以上となる水性塗料を用いることを特徴とする塗装多孔質材の製造方法。
【請求項2】
水性下塗り塗料の固形分換算塗布量(A)及び水性上塗り塗料の固形分換算塗布量(B)が、それぞれ35〜350g/m2及び30〜150g/m2であり、かつ(B)/(A)が0.2〜1.5である請求項1に記載の塗装多孔質材の製造方法。
【請求項3】
水性上塗り塗料が、シリコーン変性アクリル系樹脂エマルションを用いて得られたものである請求項1又は2に記載の塗装多孔質材の製造方法。
【請求項4】
水性下塗り塗料における樹脂成分の溶解性パラメーターSP1値と、水性上塗り塗料における樹脂成分の溶解性パラメーターSP2値の差ΔSP(│SP1−SP2│)が1以下である請求項1〜3のいずれかに記載の塗装多孔質材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって得られたことを特徴とする塗装多孔質材。


【公開番号】特開2006−175372(P2006−175372A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372028(P2004−372028)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(591077704)東亜工業株式会社 (34)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】