説明

塩酸ドネペジルの製造方法

本発明は、ドネペジル又はその塩の製造方法を提供し、該方法は、式(II)の1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムハライドを、イオン化合物、溶媒、触媒及び水素源の存在下で還元すること、及び任意にドネペジルをその塩に変換することを含む。
【化1】


(式中、Xはブロミド又はクロリドである。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、高純度の塩酸ドネペジルを製造するための改良方法に関する。特に、本発明は、有機溶媒若しくは水性溶媒又はそれらの混合物中、イオン化合物の存在下で、少なくとも1種の水素化触媒を用いて行われる新規還元工程を用いる、1-ベンジル-4-[5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムブロミドから塩酸ドネペジルを製造するための改良方法に関する。特に、本発明は、塩酸ドネペジルの製造のための産業上適切な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(本発明の背景)
1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル)メチルピペリジン塩酸塩として化学的に公知である塩酸ドネペジル[式I]
【化1】

は、アルツハイマー病の治療に使われ、皮質アセチルコリンを増加させるために用いられる。それは、5又は10mgの塩酸ドネペジルを含むフィルムコートされた錠剤において、経口投与のために利用することができる。
【0003】
塩酸ドネペジルは、周知技術であり、米国特許第4,895,841号(以下'841特許と記載する)において、最初に開示された。そこに記載されているように、塩酸ドネペジルは、5,6-ジメトキシ-1-インダノンを1-ベンジル-4-ホルミルピペリジンと、リチウムジイソプロピルアミドなどの強塩基の存在下で反応させ、続いて、テトラヒドロフラン(THF)中のパラジウム炭素触媒を用いた還元工程(実施例3及び4)により製造される。残渣は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを利用することにより精製された。しかし、この方法は、特定の明白な限界が欠点である。1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イリデニル]メチルピペリジンの還元のために置かれる手順は、産業的に実行可能でない。該方法は、水素化残渣の精製のためのカラムクロマトグラフィーの使用を必要とし、それは産業的に実施することができない。更に、該方法は、非常に可燃性の溶媒であり、かつ爆発的なペルオキシド蒸気が形成され得るTHFを利用する。さらに、ドネペジルHClの全収率は、50.8%であることが報告されている。得られた生成物の純度は、当該特許には開示されていない。
【0004】
米国特許第5,606,064号(以下'064特許と記載する)及び米国特許第6,252,081号は、1-ベンジル-4-(5,6-ジメトキシインダン-1-オン-2-イリデン)メチルピリジニウム塩を還元し、ドネペジルを得るというドネペジルの製造方法を記載している。ベンジル基の存在下でのオレフィン結合及びピリジニウム環の還元は、当該特許において開示される条件下で成し遂げるのは困難である。更に、該反応は、完了するのに少なくとも24時間を必要とする(実施例6)。
【化2】

【0005】
当該方法の主な不利点は、該反応が、メタノール及び二酸化白金の存在下で実施されることである。高価な触媒の使用は、産業的に現実的でない。さらに、上記の方法を繰り返すことで、式IIIの部分的に水素化された不純物などの不要な副産物が生じ、
【化3】

それは、5%の範囲で形成される。この不純物は、最終的な結晶化において分離するのが困難であり、それゆえに、カラムクロマトグラフィー/繰り返し精製による精製を必要とし、結果として低い収率となる。従って、該方法は、工業的規模において実現可能でない。また、これらの不純物は、最終生産物の全収率に影響を及ぼす。更に、得られた生成物の純度は、当該特許において開示されていない。
【0006】
米国特許第6,649,765号及び第20040158070A号として公開されている米国特許出願は、酢酸及びメタノールなどの溶媒の混合物中、10〜45psiゲージ圧で、貴金属酸化物触媒(酸化白金)を用いる5,6-ジメトキシ-2-(ピリジン-4-イル)メチレン-インダン-1-オンの還元、続いて、塩酸ドネペジルを得るためのベンジル化を開示している。該方法は高価であり、その上、産業的に現実的でない。更に、得られた生成物の純度は、これらの特許において開示されていない。
【化4】

【0007】
PCT公開番号WO2004082685は、5,6-ジメトキシ-2-(ピリジン-4-イル)メチレン-インダン-1-オンから開始し、溶媒の1つとしてメタノールを用いた中間体5,6-ジメトキシ-2-(4-ピリジル)メチル-インダン-1-オンの製造を介する二段階還元、続いてベンジル化を含む、ドネペジルの製造を開示している。
【化5】

上記の方法は、複数の工程を伴うために、時間がかかり、かつ実施するのも困難である。
【0008】
第2007/0135644A1号として公開されている米国特許出願は、5,6-ジメトキシ-2-[1-(4-ピリジニル)メチリデン]-1-インダノントシラートを、脱塩水中、70〜95℃、10barで8時間、10%Pd/C触媒を用いて還元することによる塩酸ドネペジルの製造を開示している。該混合物を、1-ブタノールで3回抽出し、残渣を得て、それをメチル-tert-ブチルエーテルにより精製し、5,6-ジメトキシ-2-(4-ピペリジニルメチル)-1-インダノンを得て、続いて、トルエン中、塩化ベンジルを用いて、8時間、145℃で縮合し、ドネペジルを得て、さらにそれを塩酸ドネペジルに変換する。
【化6】

【0009】
この方法は、10barの高圧及び70〜95℃の温度での還元を伴い、不純物をもたらす。更に、ベンジル化反応は、8時間、145℃の高温を必要とする。後処理プロセスは、非常に長時間にわたり、よって、その全工程が産業的に好ましくない。
【0010】
PCT公開番号WO2008/010235は、1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イリデニル]メチルピペリジンを、溶媒として大容量のTHF中、触媒量のコバルト塩の存在下、金属ボロヒドリドを用いて還元し、塩酸ドネペジルを得るという、塩酸ドネペジルの製造方法を開示している。この方法は、高コストのコバルト触媒の使用のため、産業的に現実的でない。
【0011】
ドネペジルの製造のための先行技術の手順では、複数の還元工程及び/又は中間体のクロマトグラフィー分離、副生成物の形成などの特定の不利な点を有し、低い収率を与える。これらの性質は、塩酸ドネペジルの大規模な製造の妨げとなる。
【0012】
従って、高純度を有する式(I)の塩酸ドネペジルの製造のための、産業的に実現可能であり、費用効率的であり、かつ環境にやさしい方法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
(本発明の目的)
本発明の目的は、安全であり、産業的に実現可能であり、時間効率的であり、費用効率的であり、かつ高収率及び高純度の塩酸ドネペジルを提供する、塩酸ドネペジルの製造のための改良された還元手順を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、還元の間に形成される式(III)の不純物への、ドネペジルの部分的な脱ベンジル化を最小限にすることである。
本発明は、以下に詳述される。その部分は、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(本発明の要旨)
本発明の第1の態様に従って、ドネペジル又はその塩を製造する方法を提供し、該方法は、式IIの1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムハライドを、イオン化合物、溶媒、触媒及び水素源の存在下で還元し、ドネペジルを形成すること:
【化7】

(式中、Xは、ブロミド又はクロリドである。)
及び任意に該ドネペジルをその塩に変換することを含む。先行技術の多段階方法の幾つかと比較して、本発明の方法は、非常に単純であり、工業的用途に非常に適していることが理解されるであろう。
【0016】
ある実施態様において、化合物IIは、以下の構造を有する1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムブロミドである。
【化8】

【0017】
別の実施態様において、化合物IIは、以下の構造を有する1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムクロリドである。
【化9】

【0018】
ある実施態様において、ドネペジルは、その塩に変換される。適切な塩は、当業者に周知であり、塩を調製する方法も当業者に周知である。好ましくは、該方法は、ドネペジルを塩酸ドネペジルに変換することを含む。ドネペジルを塩酸と反応させ、塩酸ドネペジルを形成することができる。塩酸は、メタノール溶液の形態であってもよい。本発明の方法は、塩酸塩以外のドネペジルの塩を調製する方法であってもよいことが理解されるであろう。そのケースにおいて、塩酸以外の酸が、反応の間に存在する。例えば、臭化水素酸塩の形成は、還元の間に存在する臭化水素酸を含む。
【0019】
イオン化合物は、室温(20℃〜25℃)で固体である無機化合物であってもよい。イオン化合物は、融解点が100℃未満である液体の有機塩であってもよい。ある実施態様において、イオン化合物は、四級アンモニウム塩、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、ギ酸塩、過塩素酸塩又はそれらの混合物からなる群から選択される。アルカリ金属は、ナトリウム又はカリウムであってもよい。アルカリ土類金属は、カルシウムであってもよい。通常、イオン化合物は、以下からなる群から選択される:酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム-水酸化アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、リン酸カルシウム、クエン酸塩、リン酸塩、リン酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ギ酸トリエチルアンモニウム、ギ酸ピリジニウム、及び過塩素酸ナトリウムである。好ましくは、イオン化合物は、酢酸アンモニウムである。
【0020】
溶媒は、有機溶媒、水性溶媒又はそれらの混合物であってもよい。溶媒は、C1〜C3アルコールであってもよい。溶媒は、エーテルであってもよい。ある実施態様において、溶媒は、以下からなる群から選択される:メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、塩化メチレン、塩化エチレン、精留されたアルコール(rectified spirit)、酢酸及びそれらの混合物である。好ましくは、溶媒は、酢酸、酢酸エチル及び精留されたアルコールの混合物である。
【0021】
ある実施態様において、触媒は、以下からなる群から選択される:パラジウム、水酸化パラジウム、パラジウム活性炭素、パラジウムアルミナ、白金、白金活性炭素、ルテニウム、ロジウム及びラネーニッケルである。好ましくは、触媒は、白金活性炭素である。
【0022】
好ましくは、該方法は、イオン化合物が酢酸アンモニウムであり、溶媒が酢酸、酢酸エチル及び精留されたアルコールの混合物であり、触媒が白金活性炭素である、塩酸ドネペジルの製造方法である。
【0023】
好適には、水素源は、水素ガスである。ある実施態様において、還元反応は、約25psi〜約80psi、好ましくは、約55psi〜約60psiの範囲の水素ガス圧で実施される。
典型的には、還元反応は、約10℃〜約50℃、好ましくは、約25℃〜約30℃の範囲の温度で実施される。
【0024】
ある実施態様において、還元反応は、約2時間〜約6時間、好ましくは、約3時間〜約4時間の範囲の時間帯で実施される。
ある実施態様において、本発明の方法は、ドネペジル遊離塩基を製造する方法であり、該方法は、還元反応後に、ドネペジル遊離塩基をドネペジルの塩に変換することを更に含む。
【0025】
還元工程の生成物は、例えば、溶媒又は溶媒の混合物を用いて結晶化によって、精製することができる。
本発明の別の態様に従って、少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%の純度を有する塩酸ドネペジルを提供する。
本発明の別の態様に従って、上記の方法で製造されたドネペジル又はその塩、例えば塩酸ドネペジルを提供する。
【0026】
好ましくは、ドネペジル又はその塩は、0.1%未満の式IIIの不純物、
【化10】

好ましくは、0.01%未満の式IIIの不純物を含む。
【0027】
本発明の別の態様に従って、上記のドネペジル又はその塩を、1種以上の医薬として許容し得る賦形剤とともに含む、医薬製剤を提供する。前記賦形剤及び製剤は、当業者に周知である。該製剤は、他の活性医薬成分を含むこともできる。
【0028】
本発明の別の態様に従って、上記のドネペジル若しくはその塩又は上記の医薬製剤の、薬剤における使用を提供する。
【0029】
本発明の別の態様に従って、上記のドネペジル若しくはその塩又は上記の医薬製剤の、コリンエステラーゼ阻害剤の投与により予防、改善又は除去される疾患状態の治療における使用を提供する。ある実施態様において、疾患はアルツハイマー病である。
【0030】
本発明の別の態様に従って、コリンエステラーゼ阻害剤の投与により予防、改善又は除去される疾患状態の、この種の治療を必要とする患者の治療方法を提供し、該方法は、該患者に、有効量の上記ドネペジル又はその塩を投与することを含む。ある実施態様において、疾患は、アルツハイマー病である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(発明の詳細な説明)
本発明は、塩酸ドネペジルの合成のための改良された還元方法に関し、該方法は、先行技術と比較して、安全であり、産業的に実現可能であり、時間及び費用効率的であり、かつ塩酸ドネペジルの製造の間の還元の複数工程を減らすものである。ある実施態様において、該方法は、塩酸ドネペジルの製造のために、中間体1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムブロミドの使用を含む。別の実施態様において、該方法は、塩酸ドネペジルの製造のために、中間体1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムクロリドの使用を含む。
【0032】
本明細書で用いられる用語「ドネペジル」は、その多形を含むドネペジルの全ての形態、例えばアモルファスドネペジル又は結晶性ドネペジルを意味する。ドネペジルは、水和物又はその溶媒和物の形態であることもできる。
【0033】
ある実施態様において、本明細書で用いられる用語「イオン化合物」は、溶液のpHの変化を最小限にする不活性物質を意味する。それによって、イオン化合物は、反応の間、不純物形成を制御することができ、かつ反応速度を向上できる。イオン化合物は、酸又は塩基が溶液に加えられるとき又は溶液が希釈されるときに、溶液の酸性度の変化を抑制できる。イオン化合物は、イオン液体及び固体を含む。イオン無機化合物は室温で固体であるが、有機イオン性液体は、その融解点が比較的低い(100℃以下)塩であってもよい。
【0034】
これらのイオン化合物は、化学反応性を増加させる潜在性を有し、従って、より効率的な方法をもたらすだけでなく、それらは不燃性であり、かつ低蒸気圧による従来の溶媒より毒性も低い。
【0035】
塩酸ドネペジルの収率は、本発明の方法を用いることにより、実質的に増加することが見出された。形成される多くの不純物が、改良された還元工程のために減少し、それゆえに、反応が、工業規模において、より単純かつより容易に達成可能になるためである。
【0036】
ある実施態様において、本発明に従う反応の全体スキームは、以下で表される:
【化11】

【0037】
本発明に従って、塩酸ドネペジルの製造方法を提供し、該方法は:イオン化合物の存在下、有機溶媒若しくは水性溶媒又はこれらの混合物を適切に用いて、1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムブロミド又はクロリドの触媒水素化を含む。
【0038】
本発明による方法に用いられるイオン化合物は、以下からなる群から選択され得る:酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム-水酸化アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、リン酸カルシウム、クエン酸塩、リン酸塩、リン酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ギ酸トリエチルアンモニウム、ギ酸ピリジニウム、過塩素酸ナトリウム、及びギ酸トリエチルアンモニウムである。イオン化合物は、単独又は当業者に公知の他のイオン化合物と組み合わせて使用することができる。好ましいイオン化合物は、酢酸アンモニウムである。酢酸アンモニウムは、反応混合物のpHを維持するために加えられ、従って、反応をより速くし、かつ式IIIの不純物の形成を減らすことができる。
【0039】
本発明による方法に用いられる好ましい触媒は、以下からなる群から選択され得る:パラジウム、水酸化パラジウム、パラジウム活性炭素、パラジウムアルミナ、白金、白金活性炭素、ルテニウム、ロジウム及びラネーニッケルである。本発明の方法において、白金活性炭素が、最も好ましい触媒である。触媒の組合せを用いてもよい。
【0040】
ある実施態様において、溶媒は、以下からなる群から選択される:メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、塩化メチレン、塩化エチレン、精留されたアルコール、酢酸又はそれらの混合物である。好適には、溶媒は、溶媒の混合物である。好ましくは、溶媒は、酢酸、酢酸エチル及び精留されたアルコールの混合物である。本明細書中で用いられる、精留されたアルコールは、5%メタノールによって変性したエタノールを意味する。
【0041】
好ましくは、還元反応は、約25〜約80psi、より好ましくは、約55〜約60psiの範囲の水素ガス圧で実施される。好ましくは、還元反応は、約10〜約50℃、より好ましくは、約25〜約30℃の範囲の温度で実施される。好ましくは、還元反応は、約2〜約6時間、より好ましくは、約3〜約4時間の範囲の時間帯で実施される。これらの条件は、先行技術において報告されるような10barの高圧力及び70〜95℃の高温と対比されるべきである;従って、本発明は、反応時間を減らし、不純物レベルを最小限にし、その後の収率を増加させる。
【0042】
本発明の方法によって得られた式Iのドネペジルは、高純度であることが観察された。本明細書で用いられる用語「高純度」は、少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%、典型的には約99.8%のHPLC純度を有する化合物を意味する。好ましくは、本発明の方法に従うことによって得られたドネペジルは、式(III)の不純物を、実質的に含まない。本明細書で用いられる用語「実質的に含まない」は、ドネペジル生成物が、0.1%未満、好ましくは0.05%未満、より好ましくは0.01%未満の式(III)の不純物の量を含むことを意味する。
【0043】
本発明の方法に従うことによって得られたドネペジルは、例えば、溶媒又は溶媒の混合物を用いる結晶化によってさらに精製し、高純度及び高収率のドネペジルを得ることができる。遊離塩基として得られたドネペジルは、医薬として許容し得る塩に更に変換することができる。
【0044】
本方法は、先行技術において開示されているそれらの方法と比較して、安全であり、単純であり、かつ容易である。ある実施態様において、該方法は、酢酸、酢酸エチル及び精留されたアルコールの混合物を含む溶媒を使用し、これは産業的及び商業的に実行可能な方法となる。更に、好ましい実施態様において、本発明の方法に従うことにより得られた生成物は、少なくとも99.8%の純度を有し、かつ0.01%未満の式(III)の不純物を含む。
【0045】
また、本発明は、コリンエステラーゼ阻害剤の投与により予防、改善又は除去される疾患状態の、この種の治療を必要とする患者の治療方法を提供し、該方法は、該患者に、実質的に上記の本発明の方法により製造された治療的有効量のドネペジル又はその医薬として許容し得る塩を投与することを含む。
【0046】
本発明は、その特定の実施態様に関して記載されるが、特定の変更及び等価物は、当業者にとって明らかであり、本発明の範囲内に含まれることが意図される。
本発明は、以下の実施例において、更に詳細に説明される。本発明の方法を例示する実施例は、単に実例となる特徴を有するものであり、いかなる点においても本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムブロミド(20 kg)及び酢酸アンモニウム(2 kg)の酢酸エチル(450 lt)溶液を、水素化装置に充填した。その後、酢酸(22 kg)及び精留されたアルコール(100 lt)を加えた。触媒スラリー(白金炭素を水(6.6 lt)及び酢酸(78 kg)にスラリー化することによって別に調製したもの(4 kg; 10% w/w))を、該水素化装置に充填した。
【0048】
反応塊を、25〜30℃で55〜60psiの水素圧を印加することによって水素化し、4時間維持した。反応完了後、反応塊を濾過した。触媒を、精留されたアルコール(180 lt)及び水(100 lt)の混合物によって洗浄した。
【0049】
合わせた透明ろ液を45℃未満で蒸留し、溶媒を除去した。得られた残渣を水(100 lts)とともに撹拌し、反応塊のpHを、25〜30℃で、液体アンモニアを用いて7.5〜8.0に調節した。
【0050】
固体を、酢酸エチル(200 lt×3)で抽出した。酢酸エチル層を、硫酸ナトリウム(10 kg)で乾燥し、減圧下45℃未満で蒸留した。残渣にメタノール(50 lt)を加え、45℃未満で、蒸留を続けて、わずかな酢酸エチルを除去した。残渣にメタノール(10 lt)を加え、反応塊を15〜20℃に冷却した。反応塊のpHを、メタノール塩酸を用いて2.0〜2.5に調節した。この溶液に、ジイソプロピルエーテル(80 lt)を加え、反応塊を0〜5℃に冷却し、固体を濾過した。
【0051】
固体を、メタノール(80 lt)及びジクロロメタン(25 lt)の混合物に溶解することにより精製し、ジイソプロピルエーテル(150 lt)を25〜30℃で加えることによって沈殿させ、1時間撹拌した。得られた固体を濾過し、30〜35℃で乾燥した。固体を、メタノール(15 lt)及びジイソプロピルエーテル(150 lt)の混合物から再結晶し、塩酸ドネペジルを得た。
収率:-14.0 kg(75%)、HPLC純度>99.5%。
【0052】
(実施例2)
1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムブロミド(10 kg)及び1-アリルピリジニウムブロミド(2.65 kg)の酢酸エチル(225 lt)溶液を、水素化装置に充填した。その後、酢酸(11 kg)及び精留されたアルコール(50 lt)を加えた。触媒スラリー(白金炭素を水(3.3 lt)及び酢酸(39 kg)にスラリー化することによって別に調製したもの(2 kg; 10% w/w))を、該水素化装置に充填した。
【0053】
反応塊を、25〜30℃で55〜60psiの水素圧を印加することによって水素化し、4時間維持した。反応完了後、反応塊を濾過した。触媒を、精留されたアルコール(90 lt)及び水(50 lt)の混合物によって洗浄した。
【0054】
合わせた透明ろ液を45℃未満で蒸留し、溶媒を除去した。得られた残渣を水(50 lts)とともに撹拌し、反応塊のpHを、25〜30℃で、液体アンモニアを用いて7.5〜8.0に調節した。
固体を、酢酸エチル(100 lt×3)で抽出した。酢酸エチル層を、硫酸ナトリウム(5 kg)で乾燥し、減圧下45℃未満で蒸留した。残渣にメタノール(25 lt)を加え、45℃未満で、蒸留を続けて、わずかな酢酸エチルを除去した。残渣にメタノール(5 lt)を加え、反応塊を15〜20℃に冷却した。反応塊のpHを、メタノール塩酸を用いて2.0〜2.5に調節した。この溶液に、ジイソプロピルエーテル(40 lt)を加え、反応塊を0〜5℃に冷却し、固体を濾過した。
【0055】
固体を、メタノール(40 lt)及びジクロロメタン(12.5 lt)の混合物に溶解することにより精製し、ジイソプロピルエーテル(75 lt)を25〜30℃で加えることによって沈殿させ、1時間撹拌した。得られた固体を濾過し、30〜35℃で乾燥した。固体を、メタノール(7.5 lt)及びジイソプロピルエーテル(75 lt)の混合物から再結晶し、塩酸ドネペジルを得た。
収率:-7.1 kg(77.42%)、HPLC純度>99.5%。
【0056】
本発明は、添付の特許請求の範囲内で変更され得ることが理解されるであろう。この明細書において、与えられる純度及び不純物の数値は、重量%の基準で提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドネペジル又はその塩の製造方法であって、式IIの1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムハライドを、イオン化合物、溶媒、触媒、及び水素源の存在下で還元し、ドネペジルを形成すること:
【化1】

(式中、X-は、クロリド又はブロミドである。)
及び任意にドネペジルをその塩に変換することを含む、前記製造方法。
【請求項2】
前記ドネペジルをその塩に変換する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記ドネペジルを、ドネペジルと塩酸との反応により、塩酸ドネペジルに変換する、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記塩酸がメタノール溶液の形態である、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記イオン化合物が、アンモニウム塩、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、ギ酸塩、過塩素酸塩、又はこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
前記イオン化合物が、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム-水酸化アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、リン酸カルシウム、クエン酸塩、リン酸塩、リン酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ギ酸トリエチルアンモニウム、ギ酸ピリジニウム、及び過塩素酸ナトリウムからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
前記イオン化合物が、酢酸アンモニウムである、請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、塩化メチレン、塩化エチレン、精留されたアルコール、酢酸及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒が、酢酸、酢酸エチル及び精留されたアルコールの混合物である、請求項1〜8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
前記触媒が、パラジウム、水酸化パラジウム、パラジウム活性炭素、パラジウムアルミナ、白金、白金活性炭素、ルテニウム、ロジウム及びラネーニッケルからなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項11】
前記触媒が、白金活性炭素である、請求項1〜10のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項12】
前記水素源が、水素ガスである、請求項1〜11のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項13】
前記還元反応を、約25psi〜約80psiの範囲の水素ガス圧で実施する、請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
前記還元反応を、約55psi〜約60psiの範囲の水素ガス圧で実施する、請求項13記載の製造方法。
【請求項15】
前記還元反応を、約10℃〜約50℃の範囲の温度で実施する、請求項1〜14のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項16】
前記還元反応を、約25℃〜約30℃の範囲の温度で実施する、請求項1〜15のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項17】
前記還元反応を、約2時間〜約6時間の範囲の時間で実施する、請求項1〜16のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項18】
前記還元反応を、約3時間〜約4時間の範囲の時間で実施する、請求項1〜17のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項19】
前記方法が、ドネペジル遊離塩基を製造する方法であり、かつ該方法が、還元反応の後にドネペジル遊離塩基をドネペジルの塩に変換することを更に含む、請求項1〜18のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項20】
前記還元工程の生成物を、溶媒又は溶媒の混合物を用いて結晶化により精製する、請求項1〜19のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項21】
化合物IIが、以下の構造を有する1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムブロミドである、請求項1〜20のいずれか1項記載の製造方法:
【化2】


【請求項22】
化合物IIが、以下の構造を有する1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン-2-イル)メチレン]ピリドニウムクロリドである、請求項1〜20のいずれか1項記載の製造方法:
【化3】


【請求項23】
少なくとも98%の純度を有する、塩酸ドネペジル。
【請求項24】
少なくとも99%の純度を有する、請求項23記載の塩酸ドネペジル。
【請求項25】
請求項1〜22のいずれか1項記載の製造方法に従って製造された、ドネペジル又はその塩。
【請求項26】
請求項25記載の塩酸ドネペジル。
【請求項27】
0.1%未満の式IIIの不純物を含む、請求項23〜26のいずれか1項記載のドネペジル又はその塩:
【化4】


【請求項28】
0.01%未満の式IIIの不純物を含む、請求項27記載のドネペジル又はその塩。
【請求項29】
請求項23〜28のいずれか1項記載のドネペジル又はその塩を、1種以上の医薬として許容し得る賦形剤とともに含む、医薬製剤。
【請求項30】
請求項23〜28のいずれか1項記載のドネペジル若しくはその塩、又は請求項29に記載の医薬製剤の、薬剤における使用。
【請求項31】
請求項23〜28のいずれか1項記載のドネペジル若しくはその塩又は請求項29記載の医薬製剤の、コリンエステラーゼ阻害剤の投与により予防、改善又は除去される疾患状態の治療における使用。
【請求項32】
コリンエステラーゼ阻害剤の投与により予防、改善又は除去される疾患状態の、この種の治療を必要とする患者の治療方法であって、該患者に、請求項23〜28のいずれか1項記載の治療的有効量のドネペジル又はその塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項33】
実質的に実施例に関連して本明細書中に記載されている方法。
【請求項34】
実質的に実施例に関連して本明細書中に記載されている塩酸ドネペジル。

【公表番号】特表2011−515453(P2011−515453A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501287(P2011−501287)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000776
【国際公開番号】WO2009/118516
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(501312451)シプラ・リミテッド (56)
【Fターム(参考)】