説明

増幅器および無線通信装置

【課題】電源の破壊を防止することが可能な増幅器およびその増幅器を搭載した無線通信装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る増幅器は、電源部から供給される直流電力で駆動され、入力信号の電力を増幅するトランジスタ31と、トランジスタ31と同一の半導体基板30上で、かつ電源部21とトランジスタ31との電源供給線路上に形成され、所定値以上の電流が流れた場合に、直流電気的に開放状態となる過電流防止素子32とを備えている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅器および無線通信装置に関し、詳細には、電源を用いて駆動されるトランジスタを用いた増幅器およびその増幅器を搭載した無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話システムに代表される様々な無線通信システムが使用されている。これに伴って、これらの無線通信システムを用いた様々なサービスを受けるための無線機も多数製造・販売されている。無線機の種類も、携帯電話やパーソナルコンピュータに接続して用いるPCカード等の小型なものから、無線LANで用いられるアクセスポイント等の中型のもの、さらに携帯電話基地局のような大型のものまで様々な種類が存在する。
【0003】
通常、無線機はアンテナを具備し、空間中に信号を送信したり空間中の信号を受信して交信を行う。信号の電力は、空間中を伝播してゆく過程において、降雨による散乱等により減衰する。このため、無線機は、通常、アンテナから信号を送信する場合には、システム仕様で規定された範囲内で必要なレベルにまで電力を増幅するための電力増幅器を備えており、また、アンテナで信号を受信する際に信号を復調するために必要なレベルにまで電力を増幅する低雑音増幅器を備えている。
【0004】
電力増幅器や低雑音増幅器等の増幅器には、通常、半導体トランジスタが用いられ、それらを駆動するための電源を外部から供給する必要がある。電源とは、具体的には、小型無線機の場合は電池であり、大型無線機の場合はバッテリーなどである。
【0005】
増幅器に用いられる半導体トランジスタは、半導体トランジスタが許容できる大きさを超えた大電力信号が入力された場合や、半導体トランジスタが許容できる規定値以上の電圧が電源から供給された場合には破壊されてしまう。半導体トランジスタが破壊された場合には、破壊される箇所にも拠るが、半導体トランジスタの有する端子のうち端子同士が短絡状態になる場合もある。すなわち、電源によって駆動電圧を印加されている端子が接地されている端子と短絡され、電源が短絡されてしまうことが起こりうる。
【0006】
例えば、バイポーラトランジスタを用いたエミッタ接地増幅器を例に挙げると、コレクタ端子に駆動用電源が接続され、ベース端子に入力側の電源が接続され、エミッタ端子は接地される。ここで、エミッタ接地増幅器に大電力信号が入力され、エミッタ接地増幅器が破壊されたとする。エミッタ接地増幅器が破壊された時の状態は様々な態様があるが、例えば、コレクタ端子とエミッタ端子が短絡して破壊される場合もある。この場合には、コレクタ端子に接続された駆動用電源が短絡されてしまうことになる。
【0007】
このように電源が短絡された場合、電源回路や電圧変換器などに大電流が流れ、これらの回路が破壊されてしまったり、電流経路に抵抗器などがある場合には、回路が発熱する場合がある。
【0008】
例えば、特許文献1では、トランジスタのソース−ドレイン間の電位差である検出電圧を所定電圧と比較し、検出電圧が所定電圧を超えた場合に、トランジスタのゲートに短絡検出信号を送出してトランジスタをオフさせ、トランジスタの破壊を防ぐ方法が提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開2002−171140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、同文献の技術では、何等かの原因で電源の短絡が生じた場合に、トランジスタを保護することは可能であるが、電源の短絡自体を防止することができないという問題がある。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、電源の破壊を防止することが可能な増幅器およびその増幅器を搭載した無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、電源部から供給される直流電力で駆動され、入力信号の電力を増幅するトランジスタと、前記トランジスタと同一基板上で、かつ前記電源部と前記トランジスタとの電源供給線路上に形成され、所定値以上の電流が流れた場合に直流電気的に開放状態となる過電流防止素子と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、高周波信号を送信または受信する無線通信装置において、高周波信号を電力増幅する増幅器と、無線通信装置の各部に駆動電力を供給する、電池を含む電源部と、を備え、前記増幅器は、前記電源部から供給される直流電力で駆動され、入力信号の電力を増幅するトランジスタと、前記電源部と前記トランジスタとの電源供給線路上に形成され、所定値以上の電流が流れた場合に、直流電気的に開放状態となる過電流防止素子と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、トランジスタと同一基板上で、かつ電源部と前記トランジスタとの電源供給線路上に形成され、所定値以上の電流が流れた場合に直流電気的に開放状態となる過電流防止素子を備えているので、トランジスタが短絡状態で破壊された場合には、過電流防止素子が直流的に開放状態となるように破壊されるため、電源が破壊されることはなく、電源の破壊を防止することが可能な増幅器およびその増幅器を搭載した無線通信装置を提供することが可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る増幅器および無線通信装置の最良な実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではなく、また、実施の形態の中で説明されている特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必要であるとは限らない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る無線通信装置1の一構成例を示す図である。無線送信装置1は、図1に示す如く、ベースバンド信号処理部11と、ベースバンド用ローパスフィルタ12と、第1のシンセサイザ13と、直交変調器14と、IFフィルタ15と、第2のシンセサイザ16と、アップコンバータ17と、RFフィルタ18と、増幅器19と、アンテナ20と、電源部21とを備えている。
【0017】
ベースバンド信号処理部11は、ベースバンド信号を生成してローパスフィルタ12に出力する。ベースバンド用ローパスフィルタ12は、ベースバンド信号処理部11から入力されるベースバンド信号の所定の帯域を通過させて直交変調部14に出力する。第1のシンセサイザ13は、所定周波数の正弦波及び余弦波を直交変調部14に出力する。直交変調器14は、第1のシンセサイザ13から入力される所定周波数の正弦波及び余弦波をベースバンド用ローパスフィルタ12から入力されるベースバンド信号でそれぞれ変調して、IF信号をIFフィルタ15に出力する。
【0018】
IFフィルタ15は、直交変調器14から入力されるIF信号に対して所定の帯域を通過させてアップコンバータ17に出力する。第2のシンセサイザ16は、複数個の選択可能なチャンネルの中から選択した1個のチャンネルの周波数の正弦波を生成してアップコンバータ17に出力する。アップコンバータ17は、第2のシンセサイザ16から入力される正弦波をIFフィルタ15から入力されるIF信号で変調して、RF信号をRFフィルタ18に出力する。RFフィルタ18は、アップコンバータ17から入力されるRF信号の所定の帯域を通過させて増幅器19に出力する。増幅器19は、RFフィルタ18から入力されるRF信号を電力増幅して、アンテナ20に出力する。
【0019】
電源部21は、無線通信装置1の各部に駆動電力を供給する。電源部21は、電池22と、電池22から出力されるDC電力を所定レベルに変換して無線通信装置1の各部に供給するDC/DCコンバータ23とを備えている。
【0020】
図2は、図1の増幅器19の一構成例を示す図である。増幅器19は、図2に示すように、電源部21から供給される直流電力で駆動され、入力信号の電力を増幅するトランジスタ31と、電源部21とトランジスタ31との電源供給線路上に形成され、所定値以上の電流が流れた場合に直流電気的に開放状態となる過電流防止素子32と、信号入力端子33と、信号出力端子34と、入力整合回路35と、出力整合回路36とを備えている。トランジスタ31および過電流防止素子32は、半導体基板30上に形成されている。
【0021】
トランジスタ31は、半導体基板30上に、GaAs(ガリウムヒ素)やSiGe(シリコンゲルマン)などの半導体で形成することができる。過電流防止素子32は、すず、鉛、銀、およびベーター黄銅等やこれらの合金のように、ある定格値以上の電流が導体に流れるとその内部抵抗により発熱し、その発熱温度に一定時間さらされた場合に融解・溶断される低融点金属を使用することができる。また、過電流防止素子32は、上述したように、トランジスタ31が形成される半導体基板30と同一の基板上に形成され、電流ヒューズとして機能する。
【0022】
トランジスタ31と過電流防止素子32は、公知の半導体製造プロセスを使用して、同一の半導体基板30上に、同一の半導体製造プロセス中で形成することができる。また、トランジスタ31と過電流防止素子32は、MMIC(Microwave Monolithic Integrated Circuit「マイクロ波モノリシック集積回路」)として同一半導体基板30上に集積することができる。これにより、増幅器19の回路規模の増大や部品点数の増加を防止することができ、増幅器19を小型かつ安価に構成することができる。
【0023】
なお、増幅器19には、RFフィルタ18(図1参照)から変調された高周波信号が入力されるが、以下の説明では、説明の簡略化のために、周波数が1GHzの正弦波(以下、「SIN波」と称する)を入力信号として使用した場合について説明する。
【0024】
つぎに、上記構成の増幅器19の動作の概略を説明する。まず、信号入力端子33から1GHzのSIN波信号が入力される。信号入力端子33から入力されたSIN波信号は、入力整合回路35でインピーダンス整合された後、トランジスタ31で増幅される。トランジスタ31で増幅されたSIN波信号は、出力整合回路36でインピーダンス整合された後、信号出力端子34から出力される。
【0025】
図3は、図2の増幅器19の詳細な構成例を示す図である。トランジスタ31は、バイポーラトランジスタを用いたエミッタ接地増幅器で構成されている。過電流防止素子32は、電源部21とトランジスタ31のコレクタ端子間の電源供給線路上に挿入接続されている。
【0026】
入力整合回路35は、その一端側が信号入力端子33に接続され、その他端側が第2の入力キャパシタC2に接続された第1の入力キャパシタC1と、その一端側が第1の入力キャパシタC2に接続され、その他端側がトランジスタ31のベース端子に接続された第2の入力キャパシタC2と、第1のキャパシタC1と第2のキャパシタC2の接続点と接地間に接続された第1の入力インダクタL1と、第2のキャパシタC2とトランジスタ31のベース端子の接続点と電源部31間に挿入接続されたベースバイアス供給用チョークインダクタL2と、を備えている。
【0027】
この入力整合回路35において、第1の入力キャパシタC1、第1の入力インダクタL1、および第2の入力キャパシタC2は、信号入力端子33から入力される入力信号が反射損失が少ない状態でトランジスタ31に入力するように、入力インピーダンス整合回路を形成している。
【0028】
出力整合回路36は、その一端側が過電流防止素子32と接続され、その他端側がトランジスタ31のコレクタ端子と接続されたコレクタバイアス供給用チョークインダクタL3と、その一端側がトランジスタ31のコレクタ端子とコレクタバイアス供給用チョークインダクタL3の接続点に接続され、その他端側が第2の出力キャパシタC4に接続された第1の出力インダクタL4と、その一端側が第1の出力インダクタL4と接続され、その他端側が信号出力端子34と接続された第2の出力キャパシタC4と、第1の出力インダクタL4と第2の出力キャパシタC4の接続点と接地間に接続された第1の出力キャパシタC3と、を備えている。
【0029】
この出力整合回路36では、第1の出力インダクタL4、第1の出力キャパシタC3、および第2の出力キャパシタC4は、トランジスタ31から出力される出力信号が反射損失が少ない状態で信号出力端子34に出力されるように、出力インピーダンス整合回路を形成している。
【0030】
トランジスタ31は、電源部21から過電流防止素子32およびコレクタバイアス供給用チョークインダクタL3を介して、コレクタバイアスが供給される。また、トランジスタ31には、電源部21からベースバイアス供給用チョークインダクタL2を介して、ベースバイアスが供給される。
【0031】
つぎに、図3の構成の増幅器19が通常の増幅動作を行う場合について説明する。以下の説明では、トランジスタ31のコレクタ端子が直流電圧3.5Vにバイアスされており、ベース端子は直流電圧1.5Vにバイアスされているものとして説明する。この場合、トランジスタ31のコレクタ端子からエミッタ端子には、直流バイアス電流100mAが流れているものとして説明する。
【0032】
まず、信号入力端子33から入力整合回路35に入力されたSIN波信号は、第1の入力キャパシタC1、第1の入力インダクタL1、および第2の入力キャパシタC2を介して、トランジスタ31のベース端子に入力される。ベース端子に入力されたSIN波信号は、トランジスタ31の利得倍に増幅されてコレクタ端子から出力される。コレクタ端子の出力は、第1の出力インダクタL4、第1の出力キャパシタC3、および第2の出力キャパシタC4を介して信号出力端子34に出力される。
【0033】
過電流防止素子32の特性について詳細に説明する。ここで、過電流防止素子32の特性を説明するために、まず、トランジスタ31が増幅動作をする場合にコレクタ端子に流れ得る最大電流値について説明する。図4は、A級増幅動作を行うトランジスタ31の特性の一例を示す図である。
【0034】
図4において、横軸はコレクタ端子の電圧値、縦軸はコレクタ端子を流れる電流値を示している。また、図4において、実線は、ベース電圧Vb=1.3V、1.5V、1.6V、1.7Vとした場合のコレクタ電圧に対するコレクタ電流特性、黒丸は直流バイアス点、一点鎖線はトランジスタ31の負荷線をそれぞれ示している。なお、Vmaxで示されるコレクタ電流が「ゼロ」のときのコレクタ電圧は、トランジスタ31が破壊されてしまうブレークダウン電圧より十分低い電圧であるものとする。
【0035】
トランジスタ31がA級増幅動作を行う場合、バイアス点を中心にコレクタ電流およびコレクタ電圧は等しい振幅で変化する。換言すると、トランジスタ31の動作点は負荷線上を動くことになる。トランジスタのA級増幅動作の詳細な説明は、参考文献「マイクロ波トランジスタ」高山洋一郎著 社団法人電子情報通信学会などに記載されているため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0036】
A級増幅動作をするトランジスタ31にSIN波信号が入力された場合、コレクタ端子に流れる最大電流値は200mAとなる。本実施の形態では、過電流防止素子32は、少なくとも200mA以下の電流では物理的に開放状態にならないように構成されている。
【0037】
また、本実施の形態においては、トランジスタ31が短絡状態で破壊された場合とは、トランジスタ31のコレクタ端子とエミッタ端子が短絡されることに相当する。トランジスタ31が短絡状態で破壊された場合、本実施の形態では電源部21が短絡されることになる。電源部21が短絡された場合には、コレクタ端子と電源部21を接続する線路に短絡電流が流れることになるが、この短絡電流は、コレクタ端子に流れる最大電流値200mAを大きく上回ることになる。
【0038】
一例として短絡電流が7Aである場合について考察する。本形態では、電源部21より供給される電圧が3.5Vであるため、トランジスタ31が短絡状態で破壊された場合に、電源部21と短絡面との間に存在する電源部21の内部抵抗や短絡状態で破壊されたトランジスタ31の寄生抵抗などの抵抗値の合計は0.5Ωとなる。
【0039】
上述したように、通常の増幅動作時にはコレクタ電流が200mA以上になることはないため、コレクタ電流が200mA以上になる場合は過電流状態である。しかるに、実際の実装回路においては、トランジスタ特性の製造バラツキ、動作時の温度変化による電流値のバラツキ、および雑音の重畳による一時的な電流増加等により、瞬間的に200mAを超えてしまう場合もある。このため、200mAを超える電流が瞬間的に流れた場合であっても電源が短絡されたような異常な状態であるとは限らない。そこで、本実施の形態においては、過電流防止素子32は、トランジスタ31の通常動作時にコレクタ端子に流れ得る最大電流値のn倍(但し、n>1)の電流が流れた場合に物理的に開放状態で破壊されるように構成している。以下の説明では、一例として、過電流防止素子32を、トランジスタ31の通常動作時の最大電流値200mAの5倍である1Aの電流が流れた場合に、物理的に開放状態で破壊されるように構成した場合について説明する。
【0040】
図5は、過電流防止素子32の特性の一例を示す図である。図5において、横軸は過電流防止素子32が破壊される定格電流であり、左縦軸は内部抵抗、右縦軸は過電流防止素子32の内部抵抗により過電流防止素子32が発熱・溶断するときの発熱量を示している。また、図4において、(A)は、過電流防止素子32の内部抵抗の特性、(B)は、過電流防止素子32の溶断時の発熱量の特性を示している。
【0041】
図5において、過電流防止素子32は定格電流が1Aであるため、内部抵抗が0.1Ωであり、2.0Jの熱量が発生すると溶断する特性を有する。過電流防止素子32は、増幅器19が通常の増幅動作をしている際にトランジスタ31のコレクタ端子に流れる電流200mAの5倍の電流である1Aの電流が流れることが無い限り、物理的に開放状態で破壊されること無く、抵抗値0.1Ωの低抵抗体として機能する。
【0042】
つぎに、トランジスタ31が短絡状態で破壊された場合の動作について説明する。トランジスタ31が短絡状態で破壊された場合には、電源部21の電圧は、全て過電流防止素子32に印加されることになる。すなわち、過電流防止素子32には、3.5V以上の電源電圧が印加され、過電流防止素子32の内部抵抗値が0.1Ωの場合は、35A以上の大電流が流れることになる。
【0043】
過電流防止素子32は、2.0Jの熱量が発生した場合に溶断・破壊されるため、トランジスタ31が短絡状態で破壊された場合には、過電流防止素子32に35Aの電流が流れ、2.0Jを超える熱量が発生し、過電流防止素子32は開放状態で破壊される。過電流防止素子32が開放状態で破壊された場合には、電源部21は開放状態になり、電源部21には短絡電流が流れることを防止することができる。
【0044】
以上説明したように、実施の形態1の増幅器19によれば、トランジスタ31と同一の半導体基板30上で、かつ電源部21とトランジスタ31との電源供給線路上に形成され、所定値以上の電流が流れた場合に、直流電気的に開放状態となる過電流防止素子32とを備えているので、トランジスタと過電流防止素子とを同一の半導体基板上に形成して小型・安価な構成とすることができ、また、トランジスタが短絡状態で破壊された場合には、過電流防止素子が直流的に開放状態となるように破壊されるため、電源部が短絡されて破壊されることを防止することができる。
【0045】
また、過電流防止素子32は、すず、鉛、銀、およびベーター黄銅のいずれか1つ、または、これらの合金からなる低融点金属で形成されており、所定値以上の電流が流れた場合に、発熱して溶断する低抵抗導体であることとしたので、安価な材料を使用して、所定値以上の電流が流れた場合に、物理的に開放状態で破壊される過電流防止素子を実現することができる。
【0046】
また、過電流防止素子32が破壊される電流の所定値を、トランジスタ31の正常動作時に流れる最大電流値のn倍(n>1)としたので、トランジスタ31の短絡に起因するものではなく、トランジスタ特性の製造バラツキ、動作時の温度変化による電流値のバラツキ、および雑音の重畳による一時的な電流増加等により、瞬時的にトランジスタ31の最大電流値を少し越える電流が過電流防止素子32に流れた場合に過電流防止素子32が破壊されるのを防止することができる。
【0047】
なお、本実施の形態1では、増幅器19が周波数1GHzのSIN波を増幅する場合を例示して説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、1GHz以外の周波数の信号を増幅する場合や、SIN波ではなく振幅変調や位相変調された変調波を増幅する場合についても適用可能である。
【0048】
また、本実施の形態1では、過電流防止素子32が、トランジスタ31のコレクタ電流の最大電流値の5倍の電流が流れた場合に破壊される特性を有する場合を例示して説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、溶断熱量などの値が異なる場合であってもよい。
【0049】
また、本実施の形態1では、トランジスタ31として、エミッタ接地型バイポーラトランジスタを例示して説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、コレクタ接地型またはベース接地型バイポーラトランジスタでもよく、また、電界効果トランジスタ(FET)を使用することにしてもよい。
【0050】
また、実施の形態1では、増幅器19は、1つのトランジスタ31を備えた構成としたが、本発明はこれに限られるものではなく、複数のトランジスタを備えた構成としてもよい。
【0051】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る増幅器について説明する。上記実施の形態1の増幅器19は、トランジスタ31および過電流防止素子32を同一半導体基板30上に形成した構成である。これに対して、実施の形態2に係る増幅器19は、過電流防止素子32をトランジスタ31と同一の半導体基板3上に形成せずに、トランジスタ31が形成されている半導体基板が実装されるセラミック基板上に実装した場合について説明する。実施の形態2において、実施の形態1と共通する部分の説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0052】
図6は、実施の形態2に係る増幅器19の一構成例を示す図である。図6において、図2と同等機能を有する部位には同一符号を付している。増幅器19は、図6に示すように、トランジスタ31、過電流防止素子32、信号入力端子33、出力信号端子34、入力整合回路35、および出力整合回路36を備えている。トランジスタ31、過電流防止素子32、入力整合回路35、および出力整合回路36は、セラミック基板40に実装されている。
【0053】
トランジスタ31は、GaAs(ガリウムヒ素)やSiGe(シリコンゲルマン)などで形成される半導体トランジスタで構成されている。過電流防止素子32は、すず、鉛、銀、ベーター黄銅などや、それらの合金などのように、ある規定値以上の温度に一定時間曝された場合に融解、溶断される低融点金属を用いた電流ヒューズであり、かつ、トランジスタ31が形成されたMMICが実装されるセラミック基板40に実装されている。
【0054】
実施の形態2の増幅器19は、トランジスタ31と過電流防止素子32が同一の半導体基板上に形成されていないため、トランジスタ31や電源部21として、別個に任意の特性を持つものを用いる必要がある場合であっても、トランジスタ31や電源部21の特性に合わせた最適な過電流防止素子32を選択して、増幅器19を構成することができる。すなわち、種々の特性を有する電源部21やトランジスタ31を組み合わせた任意の特性を有し、かつ、電源部21が短絡されることを防止できる増幅器19を実現することができる。
【0055】
トランジスタ31を半導体基板上に形成する方法、および過電流防止素子32をセラミック基板に実装する方法は、公知の方法を使用することができるので、その詳細な説明は省略する。
【0056】
過電流防止素子32としては、例えば、セラミック基板40上の表面に実装可能なチップ部品タイプの電流ヒューズを使用することができ、上記図5に示した特性を有するものを使用することができる。トランジスタ31、入力整合回路35、および出力整合回路36の回路構成は、上記図3の構成と同様であるのでその説明は省略する。
【0057】
実施の形態2の増幅器19においては、信号入力端子33から入力された入力信号を増幅し、信号出力端子34より出力する通常の増幅動作、および、トランジスタ31が短絡状態で破壊された場合に過電流防止素子32が開放状態で破壊されることにより電源部21の短絡を防ぐ動作は実施の形態1と同様である。
【0058】
以上説明したように、実施の形態2の増幅器19によれば、特性の異なる様々なトランジスタや電源部を使用する増幅器において、増幅器に使用されるトランジスタが短絡状態で破壊された場合に電源が短絡されてしまうことを防止し、電源に短絡電流が流れることによる電源回路等の破壊を防止することが可能となる。
【0059】
なお、実施の形態2においては、実施の形態1と同様に、入力信号周波数や変調方式、トランジスタの構造等が異なる場合についても適用可能である。また、実施の形態2においては、トランジスタと過電流防止素子が同一セラミック基板上に実装される場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、セラミック基板の代わりに樹脂基板を使用することにしても良い。
【0060】
また、上記実施の形態1および実施の形態2では、増幅器を無線通信装置に適用した場合について説明したが、本発明の増幅器は、無線通信装置以外の他の機器にも適用可能であり、高周波信号を増幅する装置に広く適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る増幅器は、高周波信号を増幅する増幅器に広く有用であり、また、本発明に係る無線通信装置は、携帯電話端末やPHS端末等の移動端末、基地局、およびデジタルテレビジョン信号の送信装置等の各種無線通信装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態1に係る無線通信装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る増幅器の構成例を示す図である。
【図3】図2の増幅器の詳細な構成例を示す図である。
【図4】図3のトランジスタの電流電圧特性の一例を示す図である。
【図5】図3の過電流防止素子の電流ヒューズの特性の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る増幅器の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 無線通信装置
11 ベースバンド信号処理部
12 ベースバンド用ローパスフィルタ
13 第1のシンセサイザ
14 直交変調器
15 IFフィルタ
16 第2のシンセサイザ
17 アップコンバータ
18 RFフィルタ
19 増幅器
20 アンテナ
21 電源部
22 電池
23 DC/DCコンバータ
31 トランジスタ
32 過電流防止素子
33 信号入力端子
34 信号出力端子
35 入力整合回路
36 出力整合回路
40 セラミック基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部から供給される直流電力で駆動され、入力信号の電力を増幅するトランジスタと、
前記トランジスタと同一基板上で、かつ前記電源部と前記ランジスタとの電源供給線路上に形成され、所定値以上の電流が流れた場合に直流電気的に開放状態となる過電流防止素子と、
を備えたことを特徴とする増幅器。
【請求項2】
前記基板は、半導体基板、セラミック基板、または樹脂基板であることを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項3】
前記過電流防止素子は、すず、鉛、銀、およびベーター黄銅のいずれか1つ、または、これらの合金からなる低融点金属で形成されており、前記所定値以上の電流が流れた場合に、発熱して溶断する低抵抗導体であること特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項4】
前記所定値は、前記トランジスタの正常動作時に流れる最大電流値のn(n>1)倍の値であることを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項5】
前記トランジスタは、バイポーラトランジスタまたはFETであることを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項6】
高周波信号を送信または受信する無線通信装置において、
高周波信号を電力増幅する増幅器と、
無線通信装置の各部に駆動電力を供給する、電池を含む電源部と、
を備え、
前記増幅器は、
前記電源部から供給される直流電力で駆動され、入力信号の電力を増幅するトランジスタと、
前記電源部と前記トランジスタとの電源供給線路上に形成され、所定値以上の電流が流れた場合に、直流電気的に開放状態となる過電流防止素子と、
を含むことを特徴とする無線通信装置。


















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−157707(P2006−157707A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347416(P2004−347416)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】