増殖因子レセプターの機能を阻害することにより腫瘍細胞を処置する方法
【課題】腫瘍の治療と診断に有効な手段を提供する。
【解決手段】治療有効量のHER2タンパク質と結合する抗体および該抗体と細胞毒性因子、サイトカイン(腫瘍壊死因子−α、腫瘍壊死因子−β、インターロイキン−1、インターロイキン−2またはインターフェロン−γ)または化学療法剤(5−フルオロウラシル、、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセートまたはドキソルビシン)とを投与するための指示書を含むキット。
【解決手段】治療有効量のHER2タンパク質と結合する抗体および該抗体と細胞毒性因子、サイトカイン(腫瘍壊死因子−α、腫瘍壊死因子−β、インターロイキン−1、インターロイキン−2またはインターフェロン−γ)または化学療法剤(5−フルオロウラシル、、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセートまたはドキソルビシン)とを投与するための指示書を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学、並びにがんの診断および治療に関する。さらに詳しくは、本発明は増殖因子レセプターと特異的に結合する抗体、該抗体を産生するハイブリドーマ、該抗体を利用した免疫化学物質、および該抗体を用いる診断法に関するものである。本発明はまた、該抗体を単独で、または細胞毒性因子と併用して、治療用途に用いることに関するものである。さらにまた本発明は腫瘍形成に関与するチロシンキナーゼの分析法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マクロファージはインビボでの新生物増殖の免疫監視に重要な役割を担っているエフェクター細胞の1種である。インビトロにおいて、細胞仲介性の細胞毒性には、活性化マクロファージと標的細胞との選択的な結合、並びにそれに伴う細胞毒性因子の放出が必要である。活性化マクロファージによって分泌される細胞毒性因子には、例えば、過酸化陰イオンおよび過酸化水素等の反応性酸素種、アルギナーゼ、インターロイキン1、および腫瘍壊死因子−α(TNF−α)が含まれる。これら因子の毒性作用に対する耐性の腫瘍細胞による獲得が、インビボでの腫瘍形成の開始および拡大化を導く機構の1つであると言える。
TNF−αが、マクロファージ−によって仲介される抗腫瘍性応答の強力なエフェクターとして作用するという観察が、インビボでの腫瘍形成とインビトロでの腫瘍細胞増殖の調節の研究にTNF−αを用いることの理論的根拠である。TNF−αおよびTNF−βをコードする遺伝子は、従来、リンホトキシンとして知られていた構造的に関連した細胞毒性タンパク質であり、既にクローニングされ、対応するタンパク質が大腸菌によって発現されている。これらのタンパク質は、インビボでのMeth A肉腫の出血性壊死の誘導、インビトロでの幾つかの腫瘍の増殖阻害、インビトロでのIFN−γの抗細胞作用に対する相乗的促進効果、ヒト多形核好中球機能の活性化、および脂質生合成の阻害等、一連の生物学的活性をあらわす。最近、rHuTNF−αがインビトロにおける正常な二倍体の増殖を増強することが示された。rHuTNF−αの存在下における様々な増殖応答は、TNF結合の変化と関連していることもある。
【0003】
増殖因子およびそれらのレセプターは細胞増殖の調節に関連しており、それらはまた腫瘍遺伝子において重要な役割を果しているようである。既知のがん原遺伝子(プロトオンコジェン)の内、3個は増殖因子または増殖因子レセプターに関連している。これらの遺伝子には以下のものがある。c−sis:シミアン肉腫ウイルスの形質転換遺伝子とホモローガスであり、血小板誘導増殖因子(PDGF)のB鎖である。c−fms:ネコ肉腫ウイルスの形質転換遺伝子とホモローガスでありマクロファージのコロニー刺激因子レセプター(CSF−1R)と密接に関連している。c−erbB:EGFレセプター(EGFR)をコードしており、トリの赤白血病ウイルス(v-erbB)の形質転換遺伝子とホモローガスである。2個のレセプター関連のがん原遺伝子(c−fmsおよびc−erbB)はチロシン特異的タンパク質キナーゼ群に属しており、このファミリーには多くのがん原遺伝子が含まれている。
【0004】
近年、化学的に誘導されたラット神経芽細胞腫から得たDNAによる形質転換研究によって新規な形質転換遺伝子が同定された。このneuと呼ばれる遺伝子はc−erbBがん原遺伝子と近縁ではあるが明確に区別される。v−erbBおよびヒトEGFRをプローブとして用いてヒトゲノムライブラリーおよび相補的DNA(cDNA)ライブラリーをスクリーニングすることにより、ヒトerbBと近縁の2個の遺伝子(それぞれ、HER2およびc−erbB−2と呼称)を別個に単離した。後の配列決定および染色体マッピング研究により、c−erbB−2およびHER2がneuの変異種であることが分かった。これもまたv−erbBをプローブとして用いた第4のグループは5−10倍に増幅された哺乳類がん細胞系MAC117とであると同定された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書中、HER2と称する遺伝子はチロシンキナーゼファミリーの新規物質をコードしており、クッセンスら(Coussens)[Science 230, 1132(1985)]の報告したEGFR遺伝子と極めて密接な関係にあるが明確に区別し得る。HER2遺伝子は、EGFR遺伝子が染色体7のバンドp11−p13に位置するのに対し、染色体17のバンドq21に認められる点で異なっている。また、EGFR遺伝子から産生する転写物は5.8kb及び10kbであるのに対し、HER2遺伝子から産生するmRNAは4.8kbである点でも異なる。最後に、EGFR遺伝子にコードされているタンパク質は分子量170, 000ダルトンであるのに対し、HER2遺伝子にコードされているタンパク質は分子量185, 000ダルトンである。しかし、配列データに基づけば、HER2遺伝子は、チロシンキナーゼ類の他のどれよりもEGFRと近い関係にある。EGFRタンパク質と同様にHER2タンパク質(p185)は細胞外ドメイン、2個のシステインに富む反復クラスターを有する膜貫通ドメイン(トランスメンブランドメイン)、および細胞質内のキナーゼドメインを有している。これは、未だ同定されていないが、あるリガンドの細胞性レセプターであることを示唆するものである。本明細書では、HER2 p185をp185またはHER2タンパク質と表わす。
【0006】
原発性の(一次)ヒト腫瘍細胞および腫瘍から導かれた樹立細胞系のサザーン分析により、EGFレセプター遺伝子の増幅、およびある場合にはリアレンジメント(再調整)が明らかになった。増幅は特に偏平上皮がんおよび膠芽細胞腫において明白であった。HER2遺伝子はまた、ヒト唾液腺がん、腎細胞がん、乳がん、および胃がん細胞系でも増幅されていることが分かった。近年、スラモンら[Slamon, Science 235, 177(1987)]は原発性ヒト乳癌の約30%に増幅されたHER2遺伝子が含有されていると報告した。配列のリアレンジメントが幾つか検出されたが、大部分の腫瘍では増幅したHER2遺伝子と正常なHER2遺伝子との間に明らかな差異はなかった。また、HER2遺伝子の増幅と疾患の否定的な予後および再発可能性は、有意な関係にあった。
がん原遺伝子c−mosおよびN−mycに観察されたように、過剰発現と細胞性形質転換との関連性を研究するためにフジャックら[Hudziak, Proc.Natl.Acad.Sci.(USA) 84, 7159(1987)]によるHER2発現ベクター、およびマウスNIH 3T3細胞の形質転換後に配列を増幅させるような選択手段を用いた。NIH3T3細胞内での未変化HER2遺伝子の増幅は、p185の過剰発現、並びに細胞の形質転換(増殖)と無胸腺マウスにおける腫瘍形成を誘発した。
【0007】
増殖因子または増殖因子レセプターと特異的に結合する抗体の作用を研究した。以下に例を挙げて説明する。
ローゼンタールら[Rosenthal, Cell 46, 301(1986)]はヒトTGF−αcDNA発現ベクターを非形質転換ラット樹立線維芽細胞に導入した。これらの細胞によるTGF−αの合成および分泌はヌードマウスでの足場依存性増殖を減少し腫瘍形成を誘導した。抗ヒトTGF−αモノクローナル抗体は軟寒天上でのラット細胞のコロニー形成を妨げた(足場依存性の喪失)。ギルら[Gill, J.Biol.Chem. 259, 7755(1984)]はEGFレセプター特異的であり、EGFの結合を阻害し、EGFにより促進されるチロシンタンパク質キナーゼ活性に対するアンタゴニスト(拮抗物質)であるモノクローナル抗体を開示した。
【0008】
ドレビンら[Cell 41, 695(1985)]はneu−腫瘍遺伝子で形質転換されたNIH 3T3細胞をneu遺伝子産物と反応性のモノクローナル抗体に暴露すると、neu形質転換NIH 3T3細胞が、足場依存性増殖に基づいて決定される非形質転換表現型に変換されることを示した。ドレビンら[Drebin, Proc. Natl. Acad. Sci.(USA) 83, 9129(1986)]はneu腫瘍遺伝子にコードされているタンパク質と特異的に結合するモノクローナル抗体(IgG2a アイソタイプ)でインビボ処理すると、ヌードマウスに移植された、neu形質転換NIH3T3細胞の腫瘍形成性増殖が有意に阻害されることを示した。
アキヤマら[Akiyama, Science 232, 1644(1986)]はc−erbB−2(HER2)のヌクレオチド配列から推定されるアミノ酸配列のカルボキシ末端から14アミノ酸残基に相当する合成ペプチドに対する抗体を惹起させた。
増殖因子は相乗的および拮抗的に相互作用することが報告されている。例えば、TGF−αおよびTGF−βはNRK−49F線維芽細胞腫の増殖を相乗的に促進するが、PDGFは3T3細胞のEGFレセプター機能をダウンレギュレーション(抑制、down regulation)する。種々の形質転換細胞がオートクリン機構により、増殖を刺激すると考えられる因子を分泌する。シュガーマンら[Sugarman, Cancer Res. 47,780(1987)]はある条件下、増殖因子がTNF−αの感受性腫瘍細胞に対する抗増殖作用を阻害し得ることを示した。特に、上皮性増殖因子(EGF)および組換えヒト腫瘍細胞増殖因子−α(rHuTGF−a)はインビトロで組換えヒト腫瘍壊死因子−α(rHuTNF−α)および組換えヒト腫瘍壊死因子−βのヒト頸管がん細胞系ME−180の抗増殖作用を妨害することが示された。この阻害作用はEGFまたはrHuTGF−αの濃度0.1〜100ng/mlで認められ、1〜10ng/mlで最高であった。この応答はTNFレセプターのダウンレギュレーションまたはTNF−αのレセプターへの親和性の変化によるものではないと思われた。組換えヒトインターフェロンーγの抗増殖作用はEGFまたはrHuTGF−αの存在で有意に影響されないので、この阻害は組換えTNF類に特異的であり、増殖因子の増殖促進作用のみによるものではない。どの増殖因子も、腫瘍細胞がrHuTNF−αと組換えインターフェロンーγに同時にさらされたときに見られる相乗的な細胞毒性に対する実質的な保護作用を持たなかった。TGF−βもインビトロでrHuTNF−αの抗増殖作用を妨害し得る。濃度1ng/ml以下で、TGF−βは有意にrHuTNF−αのNIH 3T3線維芽細胞に対する細胞毒性作用を有意に阻害した。EGF、血小板誘導増殖因子、およびTGF−βはすべてNIH 3T3細胞の増殖を促進するがTGF−βのみがrHuTNF−αの細胞毒性を妨害することから、TGF−βの保護作用と細胞増殖促進作用とは単純な関係にない。rHuTGF−αおよびTGF−βは、rHuTNF−αを介する他の2個の腫瘍細胞系(BT−10およびL−929細胞)への細胞毒性作用に対しては有意な保護作用を示さなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、増殖因子レセプター機能を阻害し得る抗体を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、改良されたHER2タンパク質分析法を提供する目的とするものである。
また、本発明は、改良された腫瘍治療法を提供することを目的とするものである。
さらに、本発明は、増殖因子レセプターおよび/または増殖因子を過剰に発現する腫瘍細胞の増殖を阻害する方法を提供することを目的とするものである。
さらにまた、本発明は、腫瘍細胞を増殖因子レセプター機能を阻害し得る抗体、および腫瘍壊死因子等の細胞毒性因子で腫瘍を処理することからなる腫瘍の治療法を提供することを目的とするものである。
さらにまた本発明は、腫瘍形成に関与している可能性のあるチロシンキナーゼの分析法を提供することを目的とするものである。
本発明の他の目的、特徴および特色は以下の記載並びに特許請求の範囲から明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明はHER2タンパク質の細胞外ドメインと特異的に結合するモノクローナル抗体に関するものである。また本発明はHER2タンパク質の分析法であって、細胞をHER2タンパク質の細胞外ドメインと特異的に結合する抗体に暴露し、該抗体と該細胞の結合程度を測定することからなる方法に関するものである。本発明はまた、患者に治療有効量のHER2レセプター機能を阻害し得る抗体を投与することからなる腫瘍細胞の増殖を阻止する方法に関するものである。さらにまた本発明は、治療有効量の増殖因子レセプター機能を阻害し得る抗体、および治療有効量の細胞毒性因子を投与する方法に関するものである。さらにまた本発明はTNF−α耐性が疑われる細胞をTNF−αに暴露し、TNF−α耐性細胞を単離し、単離した細胞を増大されたチロシンキナーゼ活性に関してスクリーニングし、増大されたチロシンキナーゼ活性を有するレセプターおよび他のタンパク質を単離することからなる腫瘍形成に関与していると思われるチロシンキナーゼの分析法に関するものである。
【0011】
新規な抗体を用いる腫瘍細胞の増殖阻害を発明した。驚くべきことに増殖因子レセプター機能、例えばHER2レセプター機能を阻害することにより細胞増殖が阻害され、細胞は細胞性毒性因子の影響を受け易くなった。従って、例えば、TNF−α単独では反応し難い乳がん細胞でも、細胞を増殖因子レセプター機能を阻害する抗体で処理しておくと、TNF−αに反応し易くなる。感受性の増加を、HER2タンパク質、HER2タンパク質に対するモノクローナル抗体、並びに腫瘍壊死因子−αを用いて示した。
【0012】
本発明方法は腫瘍の異常な増殖速度が増殖因子レセプターに依存するような、哺乳類の悪性または良性腫瘍の治療に有用である。異常な増殖速度とはホメオスタシス(生体恒常性)にとって必要な速度以上の速度であり、同一起源の正常組織にとって必要な速度以上の速度である。これらの腫瘍の多くはレセプターが認識する細胞外から供給される増殖因子依存性であるか、腫瘍細胞によって合成される増殖因子依存性である。後者の状況を“オートクリン”増殖と称する。本発明方法は以下の条件を満たせば適用することができる。
【0013】
(1)増殖因子レセプターおよび/またはリガンド(増殖因子)が発現され、腫瘍細胞の増殖が増殖因子レセプターの生物学的機能に依存性であり、
(2)増殖因子レセプターの生物学的機能が増殖因子レセプターおよび/またはリガンドに特異的に結合する抗体によって阻害される。
本発明は、あくまでも実施面でのいかなる理論によっても制限されないものであるが、抗体は以下に示す阻害方法の1またはそれ以上によって増殖因子レセプターの生物学的機能を阻害するものと考える。
(a)抗体がレセプターの細胞外ドメインと結合してリガンドとレセプターとの結合を妨げる。
(b)抗体がリガンド(増殖因子)自身と結合してリガンドとレセプターとの結合を妨げる。
(c)抗体が増殖因子レセプターをダウンレギュレーションする。
(d)抗体が腫瘍細胞を、TNF−α等の細胞毒性因子の細胞毒性作用に対して敏感にする。
(e)抗体がレセプターのチロシンキナーゼ活性を阻害する。
(f)および(g)の場合には、抗体が標的化作用(ターゲッティングファンクション)を介して間接的に増殖因子レセプターの生物学的機能を阻害する。
(f)抗体がレセプターと複合体を形成して血清中の補体を活性化し、かつ/または抗体依存性の細胞性細胞毒性(ADCC)を仲介するサブクラスであるか、またはアイソタイプに属する(例、IgG2a抗体)。
(g)レセプターまたは増殖因子と結合する抗体が毒素と抱合体を形成する(抗毒素)。
【0014】
レセプター上、リガンド結合部位の立体的近接部位に結合することでレセプター機能を大きく阻害する(レセプター遮断)、かつ/またはリガンドがレセプターに結合することを妨げる(遮断する)ような方法で増殖因子と結合する抗体を選択することが好都合である。これらの抗体はインビトロにおける、レセプター機能中和抗体の選択のためのアッセイによって常法通り選択される。当業者にとって自明の適当な分析法により、リガンド類似の作用でリガンドアゴニストのような働きをする抗体を排除する。ある種の腫瘍細胞に対し、抗体はオートクリン増殖系(即ち、細胞が増殖因子を分泌し、それが同細胞のレセプターと結合する)を阻害する。幾つかのリガンド、例えばTGF−αは細胞膜に作用する(止どまる)ことが分かっているので、抗体の標的機能はリガンドおよび/またはレセプターに対するものである。
【0015】
幾つかの腫瘍細胞は正常な細胞増殖および分化に必要な増殖因子を分泌する。しかしながら、これらの増殖因子はある種の条件下で、腫瘍細胞自身と近辺の正常細胞の無秩序な増殖をもたらし、腫瘍細胞形成を引き起こし得る。
上皮増殖因子(EGF)は劇的な細胞増殖刺激作用を有する。精製レセプター製品において、EGFレセプターはEGFの結合により活性化されるプロテインキナーゼである。このキナーゼの基質タンパク質のチロシン残基がりん酸化される。インシュリン、血小板誘導増殖因子(PDGF)および他の増殖ホルモンのレセプターはチロシン特異的キナーゼである。レセプターと結合したリガンドがあるタンパク質のレセプターによるりん酸化の引金となり、その結果、細胞増殖を促進すると考えられる。約1/3の既知の腫瘍遺伝子が他のタンパク質のチロシン残基をりん酸化するタンパク質をコードしている。これらの腫瘍遺伝子は、細胞の増殖因子およびホルモンに対する応答と類似のトリッガー(引金)応答をもたらすと考えられる。erbB腫瘍遺伝子産物はホルモン結合ドメインを欠いているので、構成的な増殖刺激シグナルを与えるのかもしれない。
【0016】
本発明の1実施態様は、腫瘍細胞のHER2タンパク質の生物学的機能を阻害する抗体の治療有効量を患者に投与することにより腫瘍細胞の増殖を阻止する方法に関する。
増殖因子レセプターの過剰発現は以下に示すように、細胞のTNFに対する耐性を増大する。HER1レセプター(EGFレセプター)の過剰発現はレセプター様がん原遺伝子産物と合致し、全HER2タンパク質が、この耐性の増大を示した。下記実施例にはHER2タンパク質(p185)をコードするHER2遺伝子の発現の増幅により、NIH3T3細胞のマクロファージまたはTNF−αの細胞毒性作用に対する耐性が誘導されることが記載されている。p185過剰発現によるTNF−αに対するNIH3T3細胞の耐性誘導には、TNF−αとそのレセプターとの結合の変化が伴う。p185の過剰発現はまたある種のヒト乳癌細胞系のTNF−α細胞毒性作用に対する耐性を伴う。
【0017】
本発明の他の実施態様においては、(1)患者に増殖因子および/またはそのレセプターに対する抗体であって、レセプターの生物学的機能を阻害し、細胞のTNF等の細胞毒性因子に対する感受性を高める抗体を投与し、さらに(2)患者に細胞毒性因子(類)または免疫系細胞を直接的または間接的に刺激して細胞毒性因子を産生させるような生物学的応答改変剤を投与することにより、腫瘍細胞を処理する。
【0018】
TNF−α等の細胞毒性因子は細胞分裂阻止(細胞増殖抑制)作用および細胞毒性(細胞破壊)作用を表す。有用な細胞毒性因子には、例えば、TNF−α、TNF−β、IL−1、IFN−γ、およびIL−2、並びに5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセート、およびドキソルビシン等の化学療法剤がある。細胞毒性因子は単剤または複合剤として用いることができる。さらにまた本発明の他の実施態様では、患者をレセプター機能を阻止する抗体で治療し、またオートローガストランスファー治療(例えばLAKまたTIL細胞)を行う。
【0019】
腫瘍壊死因子は、ある種の悪性形質転換細胞にとって細胞毒性のマイトジェン刺激ーマクロファージまたはリンパ細胞から産生されるポリペプチドである。TNF−αの抗ー腫瘍効果はインターフェロンの相乗作用を受けることが知られている。インターフェロンαおよびインターフェロンβの抗ウイルス作用と同様、TNF−αおよびTNF−β混合物の抗腫瘍作用は相加的である。
【0020】
腫瘍壊死因子にはTNF−αとTNF−βが含まれる。前者はその組換え細胞培養中での製造法をも含めて米国特許4, 650, 674、および欧州特許出願0168214に記載されており、後者は欧州特許出願0164965に記載されている。これらの特許書類に記載されているTNF−αおよびTNF−βには細胞毒性の、アミノ酸配列変異体およびグリコシル化変異体が含まれる。非組換え体起源のTNF−αおよびTNF−βも本発明方法には有用である。好ましいTNFは組換え微生物細胞培養から得られる成熟ヒトTNF−αである。通常、TNFの活性は、約1×106単位/mg以上で、感受性のあるL−Mネズミ細胞を溶解するだろうが、この1単位は上記特許出願記載の定義に従った値である。
本発明の他の実施態様では、1またはそれ以上の付加的なサイトカインおよび/または細胞毒性因子をTNF−α、egs.インターフェロン、インターロイキン、および化学療法剤と一緒に投与する。
本発明の組成物は、従来、インターフェロンやTNFの治療用投与に用いられてきた薬学的に許容し得るビヒクル、例えば生理学的食塩水または5%デキストリンを、通常の安定化剤、および/またはヒト血清アルブミンまたはマンニトール等の賦形剤と一緒に含有する。組成物は凍結乾燥するか、滅菌水溶液の形で提供される。
当業者ならば、治療用組成物中のTNF濃度および投与用量の決定について様々な変化を考慮するであろう。治療はまた、投与経路および患者の臨床症状によっても変化する。
【0021】
細胞毒性因子(類)と増殖因子レセプター機能を阻害する抗体とを、一緒に、または別個に投与する。後者の場合には、抗体をまず投与し、24時間以内にTNFを投与することが好都合である。患者の臨床応答に応じてTNFと抗体を複数回、交互に投与することも本発明の範囲内である。TNFと抗体とを、例えば静脈内、鼻腔内、または筋肉内投与等の同一または別個の経路で投与する。
本発明方法を増殖因子レセプターおよび/またはリガンドを過剰に生産する腫瘍細胞に適用し、増殖因子レセプター機能を阻害する抗体を生産させることもできる。細胞(例えば乳がん細胞)は該細胞上のレセプター数が正常な健常細胞(例えば、正常な乳組織細胞)上のレセプター数よりも多いと、増殖因子レセプターを過剰に産生している。HER2タンパク質が過剰に発現される腫瘍(従って、本発明方法が適用可能)の例として、ヒト乳がん、腎臓がん、胃がんおよびだ液腺がんを挙げることができる。
【0022】
本発明の他の実施態様では、増大したチロシンキナーゼ活性を有するレセプターおよび他のタンパク質の同定、および細胞を形質転換する腫瘍遺伝子の同定のための分析法に関する。チロシンキナーゼをコードしているある種の腫瘍遺伝子の増幅はTNF−α耐性と相関する。細胞をTNF−α耐性に関して選択すると、その幾つかはチロシンキナーゼ活性が増大している。チロシンキナーゼの幾つかはレセプターである。次いで、遺伝子のクローニングのために、通常の方法でチロシンキナーゼをコードする遺伝子をクローニングする。レセプターまたは他のタンパク質を同定することにより、本明細書中、HER2タンパク質を用いて示したごとく、レセプター(または他のタンパク質)機能を阻害し、細胞の細胞毒性因子に対する感受性を高める試薬を考案することができる。また、レセプターを同定すると、次にレセプターのリガンドを同定することができる。本発明の分析法は、TNF−αに感受性を有すると思われる細胞をTNF−αに暴露し、TNF−α耐性細胞を単離することからなる。次いで、TNF−α耐性細胞をチロシンキナーゼ活性の増大に関してスクリーニングし、チロシンキナーゼ活性の増大を示すレセプターおよび他のタンパク質を単離する。
【0023】
抗体
本発明においては、抗原で免疫刺激された免疫リンパ細胞と骨髄腫細胞との融合によって形成された連続的なハイブリッド細胞系から、増殖因子またはHER2タンパク質のような増殖因子レセプターと特異的に結合するモノクローナル抗体を単離した。増殖因子レセプターと結合する本発明のモノクローナル抗体は、レセプターの細胞外ドメインと結合するものであることが好都合である。本発明の他の実施態様では、増殖因子または増殖因子レセプターと特異的に結合するポリクローナル抗体を用いる。
腫瘍治療に用いる本発明の抗体の腫瘍細胞増殖阻止率はインビトロで20%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。これらの抗体はスクリーニング(例えば、図4の説明を参照)によって得られる。腫瘍治療に用いられる本発明のHER2タンパク質に対するモノクローナル抗体は、レセプターの血清活性をも阻害し得る。
【0024】
モノクローナル抗体は単一の抗原部位に対するものであるために高度に特異的である。しかも、種々の抗原決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含有する従来の通常の抗体(ポリクローナル抗体)製品とは対照的に、モノクローナル抗体はそれぞれ、抗原上の単一の抗原決定基に対するものである。モノクローナル抗体は、抗原ー抗体結合を利用する診断および分析アッセイにおける選択性および特異性を改善するのに有用である。モノクローナル抗体の第2の利点はハイブリドーマ培養により、他の免疫グロブリンによる汚染なしに合成することができる点にある。モノクローナル抗体はハイブリドーマ細胞の培養上清またはハイブリドーマ細胞を腹腔内接種したマウスの腹水から調製することができる。
最初コーラーおよびマイルシュタイン[Kohler and Milstein, Eur.J.Immunol. 6, 511(1976)]によって記載されたハイブリドーマの技術は、多くの特異抗原に対する高レベルのモノクローナル抗体を分泌する広範なハイブリッド細胞の生産に適用されてきた。
【0025】
宿主動物またはそれから得た、抗体産生細胞培養の免疫の方法およびスケジュールは、従来の確立された抗体刺激および生産技術に従う。出願人は試験モデルとしてマウスを用いたが、これはヒト対象をも含めたあらゆる哺乳類対象、並びにそれらの動物から導かれた抗体産生細胞を本発明方法に従って処理し、ヒトをも含む哺乳類のハイブリッド細胞系を産生するための基礎とすることができることを想定したものである。
免疫処置後、免疫リンパ細胞を骨髄腫細胞と融合させてハイブリッド細胞系を形成する。このハイブリッド細胞系を培養し無期限に継代培養し大量のモノクローナル抗体を産生することができる。本発明の目的から、融合のための免疫リンパ細胞を、免疫動物のリンパ節組織または脾臓組織から得たリンパ球およびその正常な分化子孫細胞から選択した。免疫脾臓細胞の方がマウス系において、より高濃度かつ好都合な抗体産生細胞を与えることから好ましい。骨髄腫細胞は融合ハイブリッド細胞の連続的な増殖の基盤を与える。骨髄腫細胞は血漿細胞から得られる腫瘍細胞である。
【0026】
1つの種の細胞と他の種の細胞とを融合させることもできる。しかしながら、免疫抗体産生細胞と骨髄腫細胞とが同一種を起源とするものであることが好ましい。
ハイブリッド細胞系は、細胞培養培地中、インビトロで維持することができる。本発明の細胞系は既知のヒポキサンチン−アミノプテリンチミジン(HAT)培地中に連続細胞系を含有する組成物として選択および/または維持することができる。実際、一度、ハイブリドーマ細胞系が樹立されれば、それを種々の栄養的に十分な培地で維持することができる。さらに、ハイブリッド細胞系は、凍結保存や液体窒素中での保存等、任意な常法で貯蔵および保存することができる。凍結細胞系を再生させ、無期限に培養し、モノクローナル抗体を再び産生、分泌させることができる。分泌された抗体を、組織培養上清から、沈澱、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の常法により回収する。
【0027】
本発明はマウスモノクローナル抗体を用いて示したが、それに限定されるものではない。事実、ヒト抗体を用いることができ、それが好ましいことが分かるであろう。そのような抗体はヒトハイブリドーマ[コートら(Cote)、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、アラン・アール・リス(Alan R.Liss)、77頁(1985)]を用いて得ることができる。実際に、本発明方法に従い、“キメラ抗体”の製造のために開発された方法[モリソンら(Morrison)、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)、81、6851(1984);ニューバーガー(Neuberger)、Nature 312、604(1984);タケダ(Takeda)、Nature 314、452(1985)]を用いて適当な抗原特異性を有するマウス抗体分子を、適当な生物活性(ヒト補体を活性化したりADCCを仲介する能力)を有するヒト抗体分子から得た遺伝子と一緒にスプライシングすることができる。そのような抗体も本発明の範囲に含まれる。
【0028】
他の細胞融合法として、EBV不滅化B細胞を用いて本発明のモノクローナル抗体を産生させることができる。他のモノクローナル抗体製造法として、組換えDNA法も考えられる。
最も重要な本発明の抗体の免疫化学的誘導体は、(1)抗毒素(抗体と細胞毒性部分との抱合体)、および(2)標識化(例えば、放射性ラベル、酵素ラベル、または蛍光色素ラベル)誘導体であって、ラベルが、標識した抗体を含有する免疫複合体の同定手段となるものである。また、抗体を天然の補体工程を経る溶解を導き、正常に存在する抗体依存性の細胞毒性細胞と相互作用させるのに用いることもできる。
【0029】
抗毒素
抗毒素の細胞毒性部分は細胞毒性薬物、酵素的に活性な細菌または植物起源の毒素、またはそのような毒素の酵素的に活性な断片(A鎖)であってよい。使用される酵素的に活性な毒素およびその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、エキソトキシンA鎖(シュードモナス・セルジノサ(Pseudomonas aeruzinosa)から)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファーサルシン、アレウリテス・フォルディ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンシンタンパク質、フィトラッカ・アメリカナ(Phytolacca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP−S)、モモルジカ・カランチア・インヒビター、クーシン、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス・インヒビター、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、およびエノマイシンが含まれる。他の態様として低分子量の抗がん剤と抱合体を形成していてもよい。モノクローナル抗体とそれらの細胞毒性部分との抱合体は種々の2機能性タンパク質カップリング試薬を用いて形成することができる。そのような試薬には、例えば、SSDP、IT、ジメチルアジプイミデートHClのようなイミドエルテルの2機能性誘導体、ジスクシンイミジルスベレートのような活性エステル、グルタルアルデヒド等のアルデヒド、ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン等のビスーアジド化合物、ビス(p−ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン等のビスジアゾニウム誘導体、トルイレン2, 6−ジイソシアネート等のジイソシアネート、および1, 5−ジフルオロ−2, 4−ジニトロベンゼン等の二(ビス)活性フッ素化合物等がある。毒素の溶解部分を抗体のFab断片と結合させる。
【0030】
HER2タンパク質等の標的増殖因子レセプターの細胞外ドメインに、特異的に結合するモノクローナル抗体をリシンA鎖と結合させると好都合である。リシンA鎖が脱グリコシル化されており組換え法で製造されるものであると最も都合がよい。ビテッタら[Vitetta, Science, 238, 1098(1987)]の方法でリシン抗毒素を容易に製造することができる。
診断のために、インビトロでヒトがん細胞を殺す場合には、一般に、細胞培養培地に抱合体を少なくとも10nMの濃度になるように加える。インビトロ使用の処方および方法は重要ではない。培養培地や潅流媒質に適応する水性製剤が、通常、用いられる。細胞毒性は通常のがんの存在または重篤度の測定法により、知ることができる。
【0031】
放射性同位元素(I,Y,Pr等)を抗体に結合させることにより、がん治療用の細胞毒性放射性薬物を製造することができる。本明細書中、“細胞毒性部分”という語句にはそのような放射性同位元素も包含される。
他の実施態様では、リポソームに細胞毒性薬物を充填し、リポソームを増殖因子レセプターと特異的に結合する抗体で被覆する。多くのレセプター部位があるので、この方法により大量の薬物が適正な細胞型に伝達されることになる。
【0032】
抗体依存性細胞性細胞毒性
本発明はまた、(a)HER2 p185等の増殖因子レセプターに対する抗体であって、(b)抗体分子が結合する腫瘍細胞の溶解を媒介し得るサブクラスまたはアイソタイプに属する抗体を使用することに基づく方法を提供するものである。さらに詳しくは、これらの抗体は、増殖因子レセプターと複合体を形成すると、血清中の補体を活性化し、かつ/またはナチュラルキラー細胞またはマクロファージ等のエフェクター細胞を活性化して抗体依存性細胞性細胞毒性(ADCC)を媒介するサブクラスまたはアイソタイプに属する。
本発明はまた、これらの抗体を天然の形でヒト腫瘍の治療に用いる事を目的とする。例えば、腫瘍関連の細胞表面抗原と結合する多くのIgG2aおよびIgG3マウス抗体をインビボで腫瘍の治療に用いることができる。実際、HER2p185は多くの腫瘍上に存在するので、本発明の抗体およびその治療上の使用は一般的に適用することができる。
【0033】
抗体の生物学的活性は大多数、抗体分子のFc領域によって決定されることが分かっている[ウアナヌエ(Uananue)およびベナチェルラフ(Benacerraf)、Textbook of Immunology、第2版、ウィリアムズ・アンド・ウィルキンズ(Williams&Wilkins)、218頁(1984)]。これは、補体活性化能力および白血球の影響下、細胞の抗体依存性細胞毒性(ADCC)を媒介する抗体の能力を含む。クラスおよびサブクラスが異なる抗体は、この点に関して異なっており、本発明においては、所望の生物学的活性を有する抗体を選択する。例えば、マウスの免疫グロブリンIgG3およびIgG2aクラスはコグネート(cognate)抗原を発現する標的細胞と結合すると血清中の補体を活性化することができる。
一般に、IgG2aおよびIgG3サブクラスの抗体、および時にはIgG1サブクラスの抗体はADCCを媒介することができ、IgG3、IgG2aおよびIgMサブクラスの抗体は血清中の補体と結合し、活性化することができる。通常、補体の活性化には標的細胞に、少なくとも2分子のIgG分子が極めて近接して結合することが必要である。しかしながら、唯一のIgM分子の結合で血清の補体が活性化される。
【0034】
補体の活性化および/またはADCCにより、特定の任意の抗体の標的腫瘍細胞溶解能を分析することができる。目的の腫瘍細胞をインビボで増殖させ、ラベルする:抗体を血清補体または抗原抗体複合体によって活性化され得る免疫細胞と一緒に腫瘍細胞培養物に加える。標的腫瘍細胞の細胞溶解を、溶解細胞のラベルにより検出する。事実、患自身の血清を補体および/または免疫細胞の供給源として用いて抗体をスクリーニングすることができる。次いで、補体を活性化し、またはADCCを媒介することができる抗体を特定の患者の治療的インビトロ試験に用いることができる。
本発明の実施態様としては、それがHER2p185等の増殖因子レセプターと結合し、かつ補体を活性化するかADCCを媒介する限り、実質上、任意の起源から得た抗体を用いてよい。モノクローナル抗体は、連続的かつ十分な量の供給源となるので好都合である。実際、例えば、HER2p185でマウスを免疫してp185に対する抗体を産生するハイブリドーマを樹立し、ヒト補体の存在下に腫瘍細胞を溶解し得る抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、種々のヒト腫瘍と反応し、溶解することができる抗体群を迅速に樹立し得る。
【0035】
抗体の治療上の使用
治療のためにインビボで使用する際には、本発明の抗体の治療有効量(患者の腫瘍を消滅または軽減する量)を患者に投与する。それらは、通常、可能ならば標的細胞部位に、または静注により、非経口的に投与される。用量および投与方法はがんの性質(原発性であるか、転移性であるか)その数、抗体が攻撃すべき部位、特定の抗毒素の性質(使用する場合)、例えばその治療指針、患者、および患者の病歴に依存する。投与される抗体の量は、通常、約0.1から約10mg/体重kgの範囲である。
【0036】
非経口投与のために、抗体を薬学的に許容し得る非経口用ビヒクルと一緒に注射用一回量投与剤形(溶液、懸濁液、エマルジョン)に製剤化する。そのようなビヒクルは遺伝的に無毒であって、非治療的なものである。そのようなビヒクルの例として、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンを挙げることができる。不揮発性油およびオレイン酸エチル当の非水性ビヒクルも使用可能である。リポソームを担体として用いることができる。ビヒクルは等張性および化学的安定性を増加するための物質、例えばバッファーおよび保存剤を含有することもある。一般にビヒクル中、約1mg/mlから10mg/mlの濃度で抗体を処方する。
【0037】
治療のための抗体サブクラスの選択は腫瘍抗原の性質に依存する。例えば、抗原が腫瘍標的に対して高度に特異的であって、正常細胞には殆んど存在しないような状況では、IgMが好ましい。しかしながら、腫瘍関連抗原が非常に低レベルではあるが正常組織でも発現される場合には、以下のような理由からIgGサブクラスが好ましいであろう。補体の活性化にはごく近接した少なくとも2個のIgG分子の結合が必要であるので、少量の抗原を発現する正常組織では少しのIgG抗体分子しか結合しないことから、補体に仲介される損傷が少ない。また、IgG分子が小さいことにより、IgM分子よりも腫瘍組織部分により多く局在(位置)することができる。
【0038】
インビボでの補体活性化は種々の生物学的作用、例えば炎症性応答およびマクロファージの活性化を導くことが示された[ウアナヌエ(Uananue)およびベナチェラフ(Benacerraf)、Textbook of Immunology、第2版、ウィリアムズ・アンド・ウィルキンズ(Williams&Wilkins)、218頁(1984)]。腫瘍細胞の活性化されたマクロファージに対する感受性は正常細胞のそれよりも高い[フィドラー(Fidler)およびポスト(Poste)、Springer Semin.Immunopathol.、5、161(1982)]。炎症に伴う血管拡張の増大は種々の抗がん剤、例えば化学療法剤、放射性標識抗体等の腫瘍部位への局在能を高める。従って、本発明の特定タイプの抗原−抗体の組み合わせを多くの方法で治療的に用いることができ、通常、腫瘍細胞集団の不均質性によって引き起こされる問題の多くを阻止し得る。さらに、純化抗原[ハコモリ(Hakomori)、Ann.Rev.Immunol.、2、103(1984)]またはそのような抗原に関連する抗−イディオタイプ抗体[ネポムら(Nepom)、Proc.Natl.Acad.Sci. 81、2864(1985);コプロウスキーら(Koprowski)、Proc.Natl.Acad.Sci. 81、216(1984)]を用いてヒトがん患者での活性な免疫応答を導くことができる。そのような応答には、ヒト補体を活性化し、ADCCを仲介し、それらの機構を介する腫瘍の破壊を導き得る抗体の形成が含まれる。
【0039】
イムノアッセイ
ここではHER2 p185の存在を決定する血清学的手法について説明する。基本的に本発明方法は試験すべき試料をモノクローナル抗体と一緒にインキュベーションするか、またはモノクローナル抗体に暴露した後、反応産物の存在を検出することからなる。当業者ならばこれら基本的手法には多くの変法があることを理解するであろう。それらにはRIA、ELISA、沈降法、凝集法、補体固定化法および免疫蛍光法が含まれる。現時点で好ましい方法は適当に標識したモノクローナル抗体を用いる方法である。
様々に標識された抗体を得るための標識には放射性標識および蛍光標識のように直接検出される標識と、酵素のように反応させるか、誘導体化して検出されねばならないものがある。放射性標識は現在入手可能な計数装置を任意に用いて検出することができる。好ましい同位元素標識は、99Tc、14C、131I、125I、3H、32P、および35Sである。酵素標識は現在用いられている様々な熱量計、分光光度計、蛍光分光光度計、およびガス分析法で検出可能である。カーボジイミド、過ヨウ素酸塩(パーアイオデート)、ジイソシアネート、グルタルアルデヒド等の架橋分子を用いて酵素と抗体とを結合させる。これらの方法に用いられる多くの酵素が知られておりそれらを利用できる。例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−グルクロニダーゼ、β−D−グルコシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ+ペルオキシダーゼ、ガラクト−スオキシダーゼ+ペルオキシダーゼおよび酸ホスファターゼがある。使用される蛍光性物質にはフルオレスセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、オーラミン、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェリア、2、3−ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リゾチーム、グルコース−6−りん酸デヒドロゲナーゼ等がある。既知の方法で抗体にそれら標識を結合させる。例えば、アルデヒド、カーボジイミド、ジマレイミド、イミデート、スクシンイミド、ビッド−ジアゾ化ベンザジン等を用いて抗体に上記蛍光性、化学発光性および酵素標識を結合させることができる。種々の標識法がモリソン(Morrison)、Methods in Enzymology、32b、103(1974)、シバネンら(Syvanen)、J.Biol.Chem. 284、3762(1973)、および、ボルトン(Bolton)およびハンター(Hunter)、Biochem.J. 133、529(1973)によって示された。
【0040】
患者のがんの存在を検出する、または既にがんの存在が分かっている患者でのがんの状態を監視するための様々なイムノイメージングおよびイムノアッセイに抗体および標識抗体を用いることができる。がんの状態のモニターに用いる場合には定量的なイムノアッセイを用いる必要がある。そのようなモニターアッセイを定期的に行い、結果を比較することにより、患者の腫瘍の重篤度が増大したか減少したかを決定することができる。使用される通常のアッセイ法には直接法および間接法の両者が含まれる。試料が、がん細胞を含有する場合、標識抗体がこれらの細胞と結合する。組織または細胞を洗浄して結合しなかった標識抗体を除去した後、組織試料中に存在する標識された免疫複合体を測定する。間接アッセイでは組織または細胞試料を非標識モノクローナル抗体と一緒にインキュベートする。次いで、試料をモノクローナル抗体に対する標識抗体(例、標識した抗ネズミ抗体等)で処理し、洗浄し、3重複合体の存在に関して測定する。
【0041】
診断面での使用に際しては、通常、抗体をキットの形で配置して用いる。これらキットは一般に、適当な容器内の標識形または非標識形抗体、間接アッセイのためのインキュベーション用試薬、および標識の性質に応じた基質または誘導体形成試薬からなる。HER2 p185対照および手引書も含まれる。
以下の実施例は本発明をより詳細に説明するものであるが、本発明の範囲を制限するものと見なされるべきではない。
【実施例】
【0042】
p185HER2の増幅された発現およびチロシンキナーゼ活性
フジャックら(Hudziak)、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA) 84、7159(1987)の開示に従って種々のレベルでp185を発現する一連のNIH 3T3細胞系を構築した。親細胞系は非形質転換形のTNF−α感受性表現型を有していた。選択可能マーカーとしてのネオマイシン耐性、およびジヒドロ葉酸レダクターゼ(メトトレキセート耐性をコードしており、結合しているDNA配列の増幅をもたらす)をコードする発現プラスミドpCVNで形質転換することにより対照細胞系(NIH 3T3 neo/dhfr)を調製した。pCVN−HER2(RSV−LTRの転写制御下にp185レセプター様チロシンキナーゼの全1225アミノ酸をコードする)をNIH 3T3細胞に、並行トランスフェクションにより導入した。アミノグリコシド抗生物質G418に対する耐性に基づいて形質転換体を選択した。pCVN−HER2一次形質転換体(HER2−3)は導入された形態学を持たず軟寒天上で増殖することができない。しかしながら、200nM(HER2−3200)、400nM(HER2−3400)、および800nM(HER2−3800)のメトトレキセート中における選択による段階的なHER2発現の増幅によって、形態学的な判断基準に基づき、軟寒天での増殖能力、およびヌードマウスでの腫瘍形成能力が導入された。
【0043】
p185発現の増幅は35Sメチオニンで代謝的に標識した細胞からの免疫沈降により証明された。これら細胞系におけるp185関連チロシンキナーゼ活性はインビトロでの自己りん酸化によって測定された。35Sメチオニン標識p185のオートラジオグラフィーのために35S標識メチオニン200μCi(アマーシャム;1132Ci/mM)を透折した2%ウシ胎児血清を含有するメチオニン不含標識培地1.5mlに加えた。各型の1.0×106細胞をCoulter counterで計数し、60mm培養皿(ファルコン)中で培養し、12時間付着させた。8時間の標識期間後、細胞を溶解しHER2コード化p185を分析した。自己りん酸化HER2レセプターチロシンキナーゼのオートラジオグラフィーのために、p185を免疫沈降させ、ペレットをチロシンキナーゼ反応バッファー50μlに再懸濁した。試料を4℃で20分間インキュベートした。種々の細胞系由来の自己りん酸化p185を、次いでゲル電気泳動の後、オートラジオグラフィーにかけて観察した。用いた分子量マーカーはミオシン(200kD)およびβ−ガラクトシダーゼ(116kD)である。その結果、p185の発現およびそれに伴う、増幅と並行するチロシンキナーゼの増加が見られた。インビトロでの自己りん酸化反応における定量的デンシトメトリーによると、HER2−3とHER2−3200、HER2−3200とHER2−3400との間でチロシンキナーゼ活性が少なくとも5〜6倍増加したが、HER2−3400とHER2−3800との間には僅かな相違しかなかった(以下の表1のチロシンキナーゼに関する欄を参照)。
【0044】
表1の各細胞型に存在するチロシンキナーゼの相対的な量はオートラジオグラムを走査する(LKB2202レーザーデンシトメーター使用)ことによって作成した曲線の下方の領域の面積比を求めることにより決定した。測定の直線性を得るために様々な時間、オートラジオグラムをとり、HER2一次形質転換体(HER2−3)との比較によって標準化した。
【0045】
TNF−αに対する耐性
次いで、上記の細胞系のTNF−αおよびマクロファージ誘導細胞毒性に対する感受性を試験した。
図1には対照細胞およびHER2遺伝子で形質転換されたNIH 3T3細胞の、TNF−α耐性が示されている。細胞を96ウエルのマイクロタイタープレートの、10%ウシ血清、2mM L−グルタミン、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを補充したDMEMを入れたウエルに、密度5, 000細胞/ウエルで接種した。細胞を4時間付着させた後、一定濃度範囲のTNF−αを加えた。TNF−α(組換えヒトTNF−α)の比活性をアクチノマイシンDの存在下、L−M細胞毒性アッセイによって測定したところ、5×107U/mgであった。37℃で72時間インキュベーションした後、単一層をPBSで洗浄してクリスタルバイオレットで染色し、細胞の相対生存率を決定した。これらの測定を6回繰り返した。代表的な実験の結果を図1に示す。
【0046】
図2には、マクロファージ仲介細胞毒性アッセイが示されている。10, 000U/mlのTNF−αを含有する培地でNIH 3T3neo/dhfrの1つのクローンを継代培養することによりTNF−α耐性細胞(neo/dhfr HTR)を得た。マクロファージ細胞毒性アッセイのためにNIH 3T3neo/dhfr、HER2−3800およびneo/dhfrHTR細胞を上記同様、96ウエルのマイクロタイタープレートに接種した。ヒトマクロファージを、健常提供者の末消血から得た付着細胞として得た。付着細胞をかき取って培地に再懸濁し、10μg/mlの大腸菌から得たリポ多糖類(LPS;シグマ)と100U/mlの組換えヒトガンマインターフェロン(rHuIFN−γ、ジェネンテク,インコーポレイテッド)で4時間活性化させた。次いで、細胞懸濁液を1200rpmで10分間遠心し、得られたペレットを培地で洗浄してLPSおよびrHuIFN−γを除去した。マクロファージを培地に再懸濁し、計数し、所望のエフェクター、標的比を得るために標的細胞に加えた。37℃で72時間インキュベーションした後、単一層を培地で洗浄し51Crの取り込みに基づいて生存率を測定するために、各ウエルに51Crを入れた。
【0047】
【表1】
*測定せず
生存率はTNF−αの細胞毒性単位、1.0×104/1mlについて求めた。乳がん細胞系はATCCから得、10%ウシ胎児血清、2mMグルタミン、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlスオレプトマイシンを補充したDMEM中に維持した。
【0048】
図1および表1に記載したようにHER2タンパク質発現が段階的に増幅されるのに並行してTNF−α耐性が増大している。形質転換による表現型を持たない一次形質転換体(HER2−3)においては耐性が殆ど増大しなかった。NIH3T3neo/dhfrに比較して、形質転換された細胞系であるHER2−3200、HER2−3400、およびHER2−3800は段階的にTNF−α仲介細胞毒性に対する感受性の減少を示した。しかしながら、NDA−MB−175−VII細胞はTNF−α感受性のBT−20およびMCF7細胞系に比べてp185発現が高められていた(図1および表1)。p185発現の相関性(表1)において、HER2−3200とHER2−3400における感受性の差(TNF−α濃度1×104U/mlで27.5%:48.4%)はHER2−3400とHER2−3800との差(生存率の比が48.4%:58.7%)よりも大きい(図1および表1参照)。NIH 3T3neo/dhfrとHER2−3800との活性化マクロファージに対する感受性を比較した場合にも同様の結果が得られた(第2図)。これらのデータはHER2遺伝子の発現の増幅がTNF−αに対する耐性を誘発し、また、これが宿主における重要な初期保護機構を成す、活性化マクロファージに対する耐性と相関関係にあることを示している。対照プラスミド(pCVN)の細胞系NIH 3T3neo/dhfr400中における増幅ではTNF−αに対する耐性が増大されなかった(表1)。このことは遺伝子のトランスフェクションまたは遺伝子増幅のいずれも、それ自身が細胞のTNF−αに対する感受性になんら影響を及ぼすものでないことを示している。
【0049】
高濃度のp185を発現するNIH 3T3細胞系がTNF−αまたはマクロファージにより誘導される細胞毒性に対して耐性を示すとの観察は、このことが腫瘍の進展を導く機構の1つであることを暗示している。この可能性を試験するために、6個の乳がん細胞系をHER2遺伝子の増幅およびTNF−αを介する細胞毒性に対する感受性に関してスクリーニングした。その結果(表1)、TNF−αによる増殖阻害に対する感受性は、BT−20、MCF7、MDA−MB−361およびSK−BR−3のインビトロでの自己りん酸化アッセイで測定したHER2関連チロシンキナーゼ発現と反比例することが分かった。しかしながら、MDA−MB−VII細胞のp185発現はTNF−α感受性のBT−20およびMCF7細胞系のそれより高いが、2個のTNF−α耐性乳がん細胞系(MDA−MB−VIIおよびMDA−MB−231)におけるHER2遺伝子発現の増幅はHER2−3対照に比較して証明し得る程ではなかった(表1)。これらの結果は一次乳がんおよび腫瘍誘導細胞系中でのHER2遺伝子増幅頻度に関する先の報告と一致しており、TNF−α耐性を導き得る他の細胞機構の存在を暗示しいている。
【0050】
実験結果はまた、EGFレセプターの過剰発現、およびsrc腫瘍遺伝子による細胞の形質転換がTNF−α耐性と相関関係にあることを示した。
TNF−αレセプター結合
HER2−3800中で、TNF−αレセプターがNIH 3T3neo/dhfrにおける場合と逆に変化している否かを調べるために、これらの細胞系の125I−標識TNF−αとの結合を比較した。図3はTNF−αレセプター結合アッセイを示す。置換曲線は125I−TNF−αのNIH 3T3neo/dhfrおよびHER2−3800に対する結合を示している。競合結合アッセイを行った。簡単に述べると、2.0×106の細胞懸濁液を終容量0.5mlで10%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地中でインキュベーションした。種々の濃度の非標識TNF−αの存在下、125I−TNF−α(0.2×106cpm)の細胞への結合を飽和平衡条件下、4℃で測定した。各データの測定点は3回の測定の平均値である。一夜インキュベーションした後、細胞をインキュベーションバッファーで2回洗浄し、細胞に結合した放射能を測定した。結果は非特異的結合<全結合の10%であった。
【0051】
これらの結果はNIH 3T3neo/dhfrに比べて、HER2−3800では全特異結合の増大が2−3倍であることを示している(図3)。しかも、HER2−3800に対する置換曲線はNIH3T3neo/dhfrのそれに比較してより低い親和性の方向に移行している(図3)。
【0052】
抗HER2モノクローナル抗体の生産
5匹の雌性Balb/cマウスをHER2遺伝子増幅NIH 3T3細胞で2週間免疫した。最初4回はマウスあたり約107細胞を注射した。PBS(0.5ml)中の細胞を第0、2、5および7週目に腹腔内投与した。第5、6回の注射には全タンパク質濃度約700μg/mlの、小麦胚芽アグルチニンで部分精製したメンブラン製品を用いた。各マウスに100μlを第9および13週目に腹腔内投与した。最後の注射は融合の3日前に精製物質を用いて静脈内投与で行った。
様々な時点に得たマウス血液を、全細胞リゼイトを用いる放射性免疫沈降法により試験した。抗体力価が最高である3匹のマウスを殺し、脾臓をミッシェル(Mishell)およびシイギ(Shiigi)、Selected Methods in Cellular Immunology. ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・コーポレイション(W.H.Freeman&Co.)、サン・フランシスコ(San Francisco)、357〜363頁(1980)の方法に従ってマウス骨髄腫細胞系X63−Ag8.653と融合させた。ただし、細胞を密度約2×105細胞/ウエルで96ウエルのマイクロタータープレートで培養した。またハイブリッド細胞をヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)ではなくヒポキサンチン−アゾセリンを用いて選択した。
ハイブリドーマ上清をELISAおよび放射性免疫沈降法によりHER2タンパク質に特異的な抗体の存在に関して試験した。
【0053】
ELISAのためには、PBS中3.5μg/mlのHER2タンパク質(小麦胚芽アグルチニンカラムで精製)をイムロンIIマイクロタイタープレートに4℃で一夜または室温で2時間吸着させた。次いでプレートを、0.05%Tween 20含有りん酸緩衝化食塩水(PBS−TW20)で洗浄し、結合していない抗原を除去した。次いで、ウエルあたり200μlのPBS−TW20中1%ウシ血清アルブミン(BSA)200μl中、室温で1時間インキュベートして残存する結合部位を遮断した。上記のごとくにしてプレートを洗浄し、ハイブリドーマ上清100μlを各ウエルに加えて室温で1時間インキュベートした。再度プレートを洗浄し、適当に希釈した、西洋ワサビペルオキシダーゼと結合したヤギ抗−マウス免疫グロブリン約100μlを各ウエルに加えた。室温で1時間プレートをインキュベートした後、上記同様に洗浄した。基質としてo−フェニレンジアミンを加え、室温で15−20分間インキュベートした後、2.5M H2SO4で反応を止めた。次いで492nmにおける各ウエルの吸光度を測定した。
【0054】
放射性免疫沈降のために、第1に小麦胚芽精製HER2タンパク質沈澱を以下の方法で自己りん酸化した。20mM Hepes、0.1%tritonおよび10%グリセリンバッファー(HTG)中でそれぞれ、以下の終濃度に希釈したキナーゼ溶液を調製した。0.18mCi/ml γP32−ATP(アマーシャム)、0.4mM MgCl2、0.2mM MnCl2、10μM ATP、総タンパク濃度35μg/mlの部分精製HER2タンパク質。反応混合物を室温で30分間インキュベーションした。次いでキナーゼ反応混合物50μlにハイブリドーマ上清50μlを加え、室温で1時間インキュベーションした。ヤギ抗マウスIgGプレコートプロテインAセファロースC14B 50μlをセファロース濃度80mg/mlで各試料に加え、室温で1時間インキュベーションした。得られた免疫複合体を遠心管中で、HTGバッファーで2回、最後にPBS中0.2%デオキシコレート、0.2%Tweeenで遠心し、遠心の合間に吸引することにより洗浄した。還元用試料バッファーを各試料に加え、試料を95℃で2.5分間加熱し、遠心して不溶性物質を除去し、還元された免疫複合体をSDS含有7.5%ポリアクリルアミドゲルに負荷した。ゲルを定常電流30ampで展開し、終了後のゲルからオートラジオグラフィーを得た。
【0055】
全ウエル上清の約5%がELISAおよび/または放射性免疫沈降反応においてHER2タンパク質と反応した。最初の5%(約100)の内、幾つかのハイブリッドは低親和性抗体を産生するものであり、他は不安定で抗体分泌が停止し、結果的に合計10の高親和性の安定なHER2タンパク質特異抗体産生細胞系が得られた。これらを制限希釈法[オイ(Oi, V.T.)およびヘルツェンベルグ(Herzenberg, L.A.)、"Immunoglobulin Producing Hybrid Cell Lines"、351〜372頁、ミッシェル(Mishell)およびシイギ(Shiigi)編、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・コーポレイション(W.H.Freeman&Co.)、サン・フランシスコ(San Francisco)、(1980)]でエキスパンドし、クローニングした。クローン化ハイブリドーマ細胞を、腹水腫を発現させるようにプリスタン(pristan)で初回抗原刺激を受けたマウスに注射すると大量の特異的モノクローナル抗体が産生された。次いで腹水を採取しプロテインAセファロースカラムを用いて精製した。
【0056】
抗体のスクリーニング
次いで、10個のモノクローナル抗体を高親和性モノクローナル抗体抗−形質転換または抗−腫瘍細胞活性に関して多くの分析法でスクリーニングした。モノクローナル抗体を、乳がんから導かれ、増幅されたダウンレギュレーション遺伝子を含有し、HER2p185チロシンキナーゼを過剰に産生するヒト腫瘍細胞系、SK BR3に対する増殖阻害活性に基づいて選択した。最初のスクリーニングにはハイブリドーマ細胞系の馴らし培地(その中で細胞を数日間培養し、細胞が産生した抗体、および細胞から分泌されるあらゆるものを含有する培地)を用いた。
SKBR3細胞を20, 000細胞/35mm皿(dish)の割合で平板培養した。対照として、ハイブリドーマ親細胞系(抗HER2モノクローナル抗体以外のあらゆるものを産生する)から得た馴らし培地、または抗HER2モノクローナル抗体を加えた。6日後、Coulterカウンターを用いてSKBR3細胞の全数を電気的に計数した。細胞をF−12、および10%ウシ胎児血清、グルタミン、およびペニシリンストレプトマイシンを補充したDMEMの1:1混合物中で増殖させた。プレートあたりの容量は2ml/35mm皿であった。35mm皿あたり骨髄腫馴らし培地0.2mlを加えた。各対照または抗HER2 MAbを2回分析し、2回の計数値の平均を求めた。
【0057】
調査の結果を図4に示す。モノクローナル抗体4D5は著しく乳がん細胞系SKBR3の増殖を阻害した。他の抗HER2抗体の増殖阻害活性は有意であるが低い(例、MAb、3E8および3H4)。他の抗HER2抗体(記載せず)は増殖を阻害しなかった。
ハイブリドーマ馴らし培地ではなく精製抗体を用いた繰り返し実験で図4の結果を確認した。図5は無関係なモノクローナル(抗HBV)およびモノクローナル抗体4D5(抗HER2)の10%ウシ胎児血清中におけるSKBR3細胞系の増殖に及ぼす影響を比較して示した用量応答曲線である。
【0058】
HER2タンパク質のダウンレギュレーション
SKBR3細胞をメチオニン不含培地中、100μCi35S−メチオニンで12時間パルス標識した。無関係な抗体(抗B型肝炎表面抗原)または抗HER2MAb(4D5)を5μg/mlで細胞に加えた。11時間後、細胞を溶解し、HER2 p185免疫沈降物とタンパク質を7.5%アクリルアミドゲル、次いでオートラジオグラフィーで分析した。SKBR3細胞由来の35S−メチオニン標識HER2p185はHER2タンパク質濃度がMAb4D5によるダウンレギュレーションを受けたことを示していた。
【0059】
乳がん細胞のモノクローナル抗体およびTNF−αによる処理
SKBR3乳がん細胞を濃度4×104細胞/ウエルでマイクロタイタープレートに接種し、2時間付着させた。次いで、細胞を種々の濃度、0.05、0.5または5.0μg/mlで抗HER2モノクローナル抗体(MAb)4D5または無関係なアイソタイプ適合物(抗rHuIFN−γ MAb)で4時間処理した後、rHuTNF−αを100、1, 000または10, 000U/mlで加えた。ここで、「無関係なアイソタイプ適合物」とは、上記抗rHuIFN−γ MAbが、HER2モノクローナル抗体(MAb)4D5との関係で、同一のアイソタイプを共有するがHER2タンパク質とは結合しない、対照抗体であることを意味する。72時間インキュベーションした後、細胞の単一層をクリスタルバイオレット染色し、対照(未処理)細胞と比較して相対生存率(RPV)を求めた。各処理群に6回の繰り返し実験を行った。結果を図6,7,8,9に示す。これらの図はHER2タンパク質を過剰に発現する細胞を、タンパク質の細胞外ドメインに対する抗体と一緒にインキュベーションすると、TNF−αの細胞毒性作用に対する感受性が誘導されることを示している。乳がん細胞MDA−MB−175に対する同等の処理で同様の結果を得た(図10)。ヒト胎児肺線維芽細胞(WI−38)のMAbによる処理では、予測されるような増殖阻害もTNF−αに対する感受性の誘導も得られなかった。
【0060】
HER2 p185を過剰に発現するNIH 3T3細胞のモノクローナル抗体およびTNF−αによる処理
NIH 3T3 HER2−3400細胞を上記SK−BR3細胞に関する記載のごとく、種々の濃度の抗HER2 MAbで処理した。MAb 4D5に関する結果を図11に示す。HER2タンパク質を過剰に発現する乳がん細胞系以外の細胞の増殖はHER2タンパク質に対する抗体により阻害され、これらの抗体の存在下でTNF−αに対する感受性が誘導されることを示唆する結果を得た。
【0061】
HER2タンパク質を過剰に発現するNIH 3T3細胞の抗HER2 IgG2Aモノクローナル抗体によるインビボにおける処理
HER2発現プラスミド(NIH 3T3400)またはneo−DHFRベクターのいずれかで形質転換されたNIH 3T3細胞を0.1mlりん酸緩衝化食塩水中106細胞でnu/nu(無胸腺)マウスに皮下投与した。0、1および5日目、さらに以後4日目毎に無関係な抗体、またはIgG2Aサブクラスの抗HER2モノクローナル抗体のいずれかを用量100μg(PBS中0.1ml)を腹腔内注射した。腫瘍の生成およびサイズを1カ月の処置期間中、監視した。
【0062】
【表2】
【0063】
表2は2H11 MAbがいくらかの抗腫瘍活性を有すること(腫瘍細胞系SKBR3に対してスクリーニングした場合、MAb2H11の増殖阻害特性はごく僅かである)、および実験期間中を通して3E8 MAbが100%の腫瘍増殖阻害活性を有することを示している。
本発明を、好ましいと考えられる態様について記載したが、本発明はここに開示した態様に限定されるものではない。むしろ、本発明は特許請求の範囲に記載した発明の思想および範囲に包含される様々に修飾された、および同等(均等)の発明を網羅するよう意図している。発明の範囲は、そのような修飾および均等な発明すべてを最大限広く解釈した範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1はNIH3T3細胞のTNF−α耐性を示しており、種々の濃度のHER2p185が見られる。
【図2】図2はNIH3T3細胞のマクロファージ細胞毒性分析の結果を示し、種々の濃度のHER2p185が見られる。
【図3】図3は対照細胞系(NIH 3T3 neo/dhfr)およびHER2p185を過剰に発現する細胞系(HER2−3800)へのTNF−α結合レベルを示す図である。
【図4】図4は抗−HER2モノクローナル抗体によるSK BR3細胞の増殖阻害を示す図である。
【図5】図5は血清中でのSK BR3細胞の増殖に対する無関係なモノクローナル抗体(抗HBV)の影響およびモノクローナル抗体4D5(抗−HER2)の影響を比較して示した用量応答曲線である。
【図6】図6はTNF−α濃度および抗HER2p185モノクローナル抗体濃度の増加関数として表した、SKBR3細胞の生存率を示す図である。
【図7】図7はTNF−α濃度および抗HER2p185モノクローナル抗体濃度の増加関数として表した、SKBR3細胞の生存率を示す図である。
【図8】図8はTNF−α濃度および抗HER2p185モノクローナル抗体濃度の増加関数として表した、SKBR3細胞の生存率を示す図である。
【図9】図9は図6〜8の実験に対する対照であり、無関係なモノクローナル抗体を使用した場合の結果を示す図である。
【図10】図10はTNF−α濃度および抗HER2p185モノクローナル抗体濃度の増加関数として表したMDA−MB−175−VII細胞の生存率を示す図である。
【図11】図11はTNF−αおよび抗HER2p185モノクローナル抗体濃度の増加関数として表した、HER2p185を過剰に発現するNIH3T3細胞の生存率を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学、並びにがんの診断および治療に関する。さらに詳しくは、本発明は増殖因子レセプターと特異的に結合する抗体、該抗体を産生するハイブリドーマ、該抗体を利用した免疫化学物質、および該抗体を用いる診断法に関するものである。本発明はまた、該抗体を単独で、または細胞毒性因子と併用して、治療用途に用いることに関するものである。さらにまた本発明は腫瘍形成に関与するチロシンキナーゼの分析法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マクロファージはインビボでの新生物増殖の免疫監視に重要な役割を担っているエフェクター細胞の1種である。インビトロにおいて、細胞仲介性の細胞毒性には、活性化マクロファージと標的細胞との選択的な結合、並びにそれに伴う細胞毒性因子の放出が必要である。活性化マクロファージによって分泌される細胞毒性因子には、例えば、過酸化陰イオンおよび過酸化水素等の反応性酸素種、アルギナーゼ、インターロイキン1、および腫瘍壊死因子−α(TNF−α)が含まれる。これら因子の毒性作用に対する耐性の腫瘍細胞による獲得が、インビボでの腫瘍形成の開始および拡大化を導く機構の1つであると言える。
TNF−αが、マクロファージ−によって仲介される抗腫瘍性応答の強力なエフェクターとして作用するという観察が、インビボでの腫瘍形成とインビトロでの腫瘍細胞増殖の調節の研究にTNF−αを用いることの理論的根拠である。TNF−αおよびTNF−βをコードする遺伝子は、従来、リンホトキシンとして知られていた構造的に関連した細胞毒性タンパク質であり、既にクローニングされ、対応するタンパク質が大腸菌によって発現されている。これらのタンパク質は、インビボでのMeth A肉腫の出血性壊死の誘導、インビトロでの幾つかの腫瘍の増殖阻害、インビトロでのIFN−γの抗細胞作用に対する相乗的促進効果、ヒト多形核好中球機能の活性化、および脂質生合成の阻害等、一連の生物学的活性をあらわす。最近、rHuTNF−αがインビトロにおける正常な二倍体の増殖を増強することが示された。rHuTNF−αの存在下における様々な増殖応答は、TNF結合の変化と関連していることもある。
【0003】
増殖因子およびそれらのレセプターは細胞増殖の調節に関連しており、それらはまた腫瘍遺伝子において重要な役割を果しているようである。既知のがん原遺伝子(プロトオンコジェン)の内、3個は増殖因子または増殖因子レセプターに関連している。これらの遺伝子には以下のものがある。c−sis:シミアン肉腫ウイルスの形質転換遺伝子とホモローガスであり、血小板誘導増殖因子(PDGF)のB鎖である。c−fms:ネコ肉腫ウイルスの形質転換遺伝子とホモローガスでありマクロファージのコロニー刺激因子レセプター(CSF−1R)と密接に関連している。c−erbB:EGFレセプター(EGFR)をコードしており、トリの赤白血病ウイルス(v-erbB)の形質転換遺伝子とホモローガスである。2個のレセプター関連のがん原遺伝子(c−fmsおよびc−erbB)はチロシン特異的タンパク質キナーゼ群に属しており、このファミリーには多くのがん原遺伝子が含まれている。
【0004】
近年、化学的に誘導されたラット神経芽細胞腫から得たDNAによる形質転換研究によって新規な形質転換遺伝子が同定された。このneuと呼ばれる遺伝子はc−erbBがん原遺伝子と近縁ではあるが明確に区別される。v−erbBおよびヒトEGFRをプローブとして用いてヒトゲノムライブラリーおよび相補的DNA(cDNA)ライブラリーをスクリーニングすることにより、ヒトerbBと近縁の2個の遺伝子(それぞれ、HER2およびc−erbB−2と呼称)を別個に単離した。後の配列決定および染色体マッピング研究により、c−erbB−2およびHER2がneuの変異種であることが分かった。これもまたv−erbBをプローブとして用いた第4のグループは5−10倍に増幅された哺乳類がん細胞系MAC117とであると同定された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書中、HER2と称する遺伝子はチロシンキナーゼファミリーの新規物質をコードしており、クッセンスら(Coussens)[Science 230, 1132(1985)]の報告したEGFR遺伝子と極めて密接な関係にあるが明確に区別し得る。HER2遺伝子は、EGFR遺伝子が染色体7のバンドp11−p13に位置するのに対し、染色体17のバンドq21に認められる点で異なっている。また、EGFR遺伝子から産生する転写物は5.8kb及び10kbであるのに対し、HER2遺伝子から産生するmRNAは4.8kbである点でも異なる。最後に、EGFR遺伝子にコードされているタンパク質は分子量170, 000ダルトンであるのに対し、HER2遺伝子にコードされているタンパク質は分子量185, 000ダルトンである。しかし、配列データに基づけば、HER2遺伝子は、チロシンキナーゼ類の他のどれよりもEGFRと近い関係にある。EGFRタンパク質と同様にHER2タンパク質(p185)は細胞外ドメイン、2個のシステインに富む反復クラスターを有する膜貫通ドメイン(トランスメンブランドメイン)、および細胞質内のキナーゼドメインを有している。これは、未だ同定されていないが、あるリガンドの細胞性レセプターであることを示唆するものである。本明細書では、HER2 p185をp185またはHER2タンパク質と表わす。
【0006】
原発性の(一次)ヒト腫瘍細胞および腫瘍から導かれた樹立細胞系のサザーン分析により、EGFレセプター遺伝子の増幅、およびある場合にはリアレンジメント(再調整)が明らかになった。増幅は特に偏平上皮がんおよび膠芽細胞腫において明白であった。HER2遺伝子はまた、ヒト唾液腺がん、腎細胞がん、乳がん、および胃がん細胞系でも増幅されていることが分かった。近年、スラモンら[Slamon, Science 235, 177(1987)]は原発性ヒト乳癌の約30%に増幅されたHER2遺伝子が含有されていると報告した。配列のリアレンジメントが幾つか検出されたが、大部分の腫瘍では増幅したHER2遺伝子と正常なHER2遺伝子との間に明らかな差異はなかった。また、HER2遺伝子の増幅と疾患の否定的な予後および再発可能性は、有意な関係にあった。
がん原遺伝子c−mosおよびN−mycに観察されたように、過剰発現と細胞性形質転換との関連性を研究するためにフジャックら[Hudziak, Proc.Natl.Acad.Sci.(USA) 84, 7159(1987)]によるHER2発現ベクター、およびマウスNIH 3T3細胞の形質転換後に配列を増幅させるような選択手段を用いた。NIH3T3細胞内での未変化HER2遺伝子の増幅は、p185の過剰発現、並びに細胞の形質転換(増殖)と無胸腺マウスにおける腫瘍形成を誘発した。
【0007】
増殖因子または増殖因子レセプターと特異的に結合する抗体の作用を研究した。以下に例を挙げて説明する。
ローゼンタールら[Rosenthal, Cell 46, 301(1986)]はヒトTGF−αcDNA発現ベクターを非形質転換ラット樹立線維芽細胞に導入した。これらの細胞によるTGF−αの合成および分泌はヌードマウスでの足場依存性増殖を減少し腫瘍形成を誘導した。抗ヒトTGF−αモノクローナル抗体は軟寒天上でのラット細胞のコロニー形成を妨げた(足場依存性の喪失)。ギルら[Gill, J.Biol.Chem. 259, 7755(1984)]はEGFレセプター特異的であり、EGFの結合を阻害し、EGFにより促進されるチロシンタンパク質キナーゼ活性に対するアンタゴニスト(拮抗物質)であるモノクローナル抗体を開示した。
【0008】
ドレビンら[Cell 41, 695(1985)]はneu−腫瘍遺伝子で形質転換されたNIH 3T3細胞をneu遺伝子産物と反応性のモノクローナル抗体に暴露すると、neu形質転換NIH 3T3細胞が、足場依存性増殖に基づいて決定される非形質転換表現型に変換されることを示した。ドレビンら[Drebin, Proc. Natl. Acad. Sci.(USA) 83, 9129(1986)]はneu腫瘍遺伝子にコードされているタンパク質と特異的に結合するモノクローナル抗体(IgG2a アイソタイプ)でインビボ処理すると、ヌードマウスに移植された、neu形質転換NIH3T3細胞の腫瘍形成性増殖が有意に阻害されることを示した。
アキヤマら[Akiyama, Science 232, 1644(1986)]はc−erbB−2(HER2)のヌクレオチド配列から推定されるアミノ酸配列のカルボキシ末端から14アミノ酸残基に相当する合成ペプチドに対する抗体を惹起させた。
増殖因子は相乗的および拮抗的に相互作用することが報告されている。例えば、TGF−αおよびTGF−βはNRK−49F線維芽細胞腫の増殖を相乗的に促進するが、PDGFは3T3細胞のEGFレセプター機能をダウンレギュレーション(抑制、down regulation)する。種々の形質転換細胞がオートクリン機構により、増殖を刺激すると考えられる因子を分泌する。シュガーマンら[Sugarman, Cancer Res. 47,780(1987)]はある条件下、増殖因子がTNF−αの感受性腫瘍細胞に対する抗増殖作用を阻害し得ることを示した。特に、上皮性増殖因子(EGF)および組換えヒト腫瘍細胞増殖因子−α(rHuTGF−a)はインビトロで組換えヒト腫瘍壊死因子−α(rHuTNF−α)および組換えヒト腫瘍壊死因子−βのヒト頸管がん細胞系ME−180の抗増殖作用を妨害することが示された。この阻害作用はEGFまたはrHuTGF−αの濃度0.1〜100ng/mlで認められ、1〜10ng/mlで最高であった。この応答はTNFレセプターのダウンレギュレーションまたはTNF−αのレセプターへの親和性の変化によるものではないと思われた。組換えヒトインターフェロンーγの抗増殖作用はEGFまたはrHuTGF−αの存在で有意に影響されないので、この阻害は組換えTNF類に特異的であり、増殖因子の増殖促進作用のみによるものではない。どの増殖因子も、腫瘍細胞がrHuTNF−αと組換えインターフェロンーγに同時にさらされたときに見られる相乗的な細胞毒性に対する実質的な保護作用を持たなかった。TGF−βもインビトロでrHuTNF−αの抗増殖作用を妨害し得る。濃度1ng/ml以下で、TGF−βは有意にrHuTNF−αのNIH 3T3線維芽細胞に対する細胞毒性作用を有意に阻害した。EGF、血小板誘導増殖因子、およびTGF−βはすべてNIH 3T3細胞の増殖を促進するがTGF−βのみがrHuTNF−αの細胞毒性を妨害することから、TGF−βの保護作用と細胞増殖促進作用とは単純な関係にない。rHuTGF−αおよびTGF−βは、rHuTNF−αを介する他の2個の腫瘍細胞系(BT−10およびL−929細胞)への細胞毒性作用に対しては有意な保護作用を示さなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、増殖因子レセプター機能を阻害し得る抗体を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、改良されたHER2タンパク質分析法を提供する目的とするものである。
また、本発明は、改良された腫瘍治療法を提供することを目的とするものである。
さらに、本発明は、増殖因子レセプターおよび/または増殖因子を過剰に発現する腫瘍細胞の増殖を阻害する方法を提供することを目的とするものである。
さらにまた、本発明は、腫瘍細胞を増殖因子レセプター機能を阻害し得る抗体、および腫瘍壊死因子等の細胞毒性因子で腫瘍を処理することからなる腫瘍の治療法を提供することを目的とするものである。
さらにまた本発明は、腫瘍形成に関与している可能性のあるチロシンキナーゼの分析法を提供することを目的とするものである。
本発明の他の目的、特徴および特色は以下の記載並びに特許請求の範囲から明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明はHER2タンパク質の細胞外ドメインと特異的に結合するモノクローナル抗体に関するものである。また本発明はHER2タンパク質の分析法であって、細胞をHER2タンパク質の細胞外ドメインと特異的に結合する抗体に暴露し、該抗体と該細胞の結合程度を測定することからなる方法に関するものである。本発明はまた、患者に治療有効量のHER2レセプター機能を阻害し得る抗体を投与することからなる腫瘍細胞の増殖を阻止する方法に関するものである。さらにまた本発明は、治療有効量の増殖因子レセプター機能を阻害し得る抗体、および治療有効量の細胞毒性因子を投与する方法に関するものである。さらにまた本発明はTNF−α耐性が疑われる細胞をTNF−αに暴露し、TNF−α耐性細胞を単離し、単離した細胞を増大されたチロシンキナーゼ活性に関してスクリーニングし、増大されたチロシンキナーゼ活性を有するレセプターおよび他のタンパク質を単離することからなる腫瘍形成に関与していると思われるチロシンキナーゼの分析法に関するものである。
【0011】
新規な抗体を用いる腫瘍細胞の増殖阻害を発明した。驚くべきことに増殖因子レセプター機能、例えばHER2レセプター機能を阻害することにより細胞増殖が阻害され、細胞は細胞性毒性因子の影響を受け易くなった。従って、例えば、TNF−α単独では反応し難い乳がん細胞でも、細胞を増殖因子レセプター機能を阻害する抗体で処理しておくと、TNF−αに反応し易くなる。感受性の増加を、HER2タンパク質、HER2タンパク質に対するモノクローナル抗体、並びに腫瘍壊死因子−αを用いて示した。
【0012】
本発明方法は腫瘍の異常な増殖速度が増殖因子レセプターに依存するような、哺乳類の悪性または良性腫瘍の治療に有用である。異常な増殖速度とはホメオスタシス(生体恒常性)にとって必要な速度以上の速度であり、同一起源の正常組織にとって必要な速度以上の速度である。これらの腫瘍の多くはレセプターが認識する細胞外から供給される増殖因子依存性であるか、腫瘍細胞によって合成される増殖因子依存性である。後者の状況を“オートクリン”増殖と称する。本発明方法は以下の条件を満たせば適用することができる。
【0013】
(1)増殖因子レセプターおよび/またはリガンド(増殖因子)が発現され、腫瘍細胞の増殖が増殖因子レセプターの生物学的機能に依存性であり、
(2)増殖因子レセプターの生物学的機能が増殖因子レセプターおよび/またはリガンドに特異的に結合する抗体によって阻害される。
本発明は、あくまでも実施面でのいかなる理論によっても制限されないものであるが、抗体は以下に示す阻害方法の1またはそれ以上によって増殖因子レセプターの生物学的機能を阻害するものと考える。
(a)抗体がレセプターの細胞外ドメインと結合してリガンドとレセプターとの結合を妨げる。
(b)抗体がリガンド(増殖因子)自身と結合してリガンドとレセプターとの結合を妨げる。
(c)抗体が増殖因子レセプターをダウンレギュレーションする。
(d)抗体が腫瘍細胞を、TNF−α等の細胞毒性因子の細胞毒性作用に対して敏感にする。
(e)抗体がレセプターのチロシンキナーゼ活性を阻害する。
(f)および(g)の場合には、抗体が標的化作用(ターゲッティングファンクション)を介して間接的に増殖因子レセプターの生物学的機能を阻害する。
(f)抗体がレセプターと複合体を形成して血清中の補体を活性化し、かつ/または抗体依存性の細胞性細胞毒性(ADCC)を仲介するサブクラスであるか、またはアイソタイプに属する(例、IgG2a抗体)。
(g)レセプターまたは増殖因子と結合する抗体が毒素と抱合体を形成する(抗毒素)。
【0014】
レセプター上、リガンド結合部位の立体的近接部位に結合することでレセプター機能を大きく阻害する(レセプター遮断)、かつ/またはリガンドがレセプターに結合することを妨げる(遮断する)ような方法で増殖因子と結合する抗体を選択することが好都合である。これらの抗体はインビトロにおける、レセプター機能中和抗体の選択のためのアッセイによって常法通り選択される。当業者にとって自明の適当な分析法により、リガンド類似の作用でリガンドアゴニストのような働きをする抗体を排除する。ある種の腫瘍細胞に対し、抗体はオートクリン増殖系(即ち、細胞が増殖因子を分泌し、それが同細胞のレセプターと結合する)を阻害する。幾つかのリガンド、例えばTGF−αは細胞膜に作用する(止どまる)ことが分かっているので、抗体の標的機能はリガンドおよび/またはレセプターに対するものである。
【0015】
幾つかの腫瘍細胞は正常な細胞増殖および分化に必要な増殖因子を分泌する。しかしながら、これらの増殖因子はある種の条件下で、腫瘍細胞自身と近辺の正常細胞の無秩序な増殖をもたらし、腫瘍細胞形成を引き起こし得る。
上皮増殖因子(EGF)は劇的な細胞増殖刺激作用を有する。精製レセプター製品において、EGFレセプターはEGFの結合により活性化されるプロテインキナーゼである。このキナーゼの基質タンパク質のチロシン残基がりん酸化される。インシュリン、血小板誘導増殖因子(PDGF)および他の増殖ホルモンのレセプターはチロシン特異的キナーゼである。レセプターと結合したリガンドがあるタンパク質のレセプターによるりん酸化の引金となり、その結果、細胞増殖を促進すると考えられる。約1/3の既知の腫瘍遺伝子が他のタンパク質のチロシン残基をりん酸化するタンパク質をコードしている。これらの腫瘍遺伝子は、細胞の増殖因子およびホルモンに対する応答と類似のトリッガー(引金)応答をもたらすと考えられる。erbB腫瘍遺伝子産物はホルモン結合ドメインを欠いているので、構成的な増殖刺激シグナルを与えるのかもしれない。
【0016】
本発明の1実施態様は、腫瘍細胞のHER2タンパク質の生物学的機能を阻害する抗体の治療有効量を患者に投与することにより腫瘍細胞の増殖を阻止する方法に関する。
増殖因子レセプターの過剰発現は以下に示すように、細胞のTNFに対する耐性を増大する。HER1レセプター(EGFレセプター)の過剰発現はレセプター様がん原遺伝子産物と合致し、全HER2タンパク質が、この耐性の増大を示した。下記実施例にはHER2タンパク質(p185)をコードするHER2遺伝子の発現の増幅により、NIH3T3細胞のマクロファージまたはTNF−αの細胞毒性作用に対する耐性が誘導されることが記載されている。p185過剰発現によるTNF−αに対するNIH3T3細胞の耐性誘導には、TNF−αとそのレセプターとの結合の変化が伴う。p185の過剰発現はまたある種のヒト乳癌細胞系のTNF−α細胞毒性作用に対する耐性を伴う。
【0017】
本発明の他の実施態様においては、(1)患者に増殖因子および/またはそのレセプターに対する抗体であって、レセプターの生物学的機能を阻害し、細胞のTNF等の細胞毒性因子に対する感受性を高める抗体を投与し、さらに(2)患者に細胞毒性因子(類)または免疫系細胞を直接的または間接的に刺激して細胞毒性因子を産生させるような生物学的応答改変剤を投与することにより、腫瘍細胞を処理する。
【0018】
TNF−α等の細胞毒性因子は細胞分裂阻止(細胞増殖抑制)作用および細胞毒性(細胞破壊)作用を表す。有用な細胞毒性因子には、例えば、TNF−α、TNF−β、IL−1、IFN−γ、およびIL−2、並びに5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセート、およびドキソルビシン等の化学療法剤がある。細胞毒性因子は単剤または複合剤として用いることができる。さらにまた本発明の他の実施態様では、患者をレセプター機能を阻止する抗体で治療し、またオートローガストランスファー治療(例えばLAKまたTIL細胞)を行う。
【0019】
腫瘍壊死因子は、ある種の悪性形質転換細胞にとって細胞毒性のマイトジェン刺激ーマクロファージまたはリンパ細胞から産生されるポリペプチドである。TNF−αの抗ー腫瘍効果はインターフェロンの相乗作用を受けることが知られている。インターフェロンαおよびインターフェロンβの抗ウイルス作用と同様、TNF−αおよびTNF−β混合物の抗腫瘍作用は相加的である。
【0020】
腫瘍壊死因子にはTNF−αとTNF−βが含まれる。前者はその組換え細胞培養中での製造法をも含めて米国特許4, 650, 674、および欧州特許出願0168214に記載されており、後者は欧州特許出願0164965に記載されている。これらの特許書類に記載されているTNF−αおよびTNF−βには細胞毒性の、アミノ酸配列変異体およびグリコシル化変異体が含まれる。非組換え体起源のTNF−αおよびTNF−βも本発明方法には有用である。好ましいTNFは組換え微生物細胞培養から得られる成熟ヒトTNF−αである。通常、TNFの活性は、約1×106単位/mg以上で、感受性のあるL−Mネズミ細胞を溶解するだろうが、この1単位は上記特許出願記載の定義に従った値である。
本発明の他の実施態様では、1またはそれ以上の付加的なサイトカインおよび/または細胞毒性因子をTNF−α、egs.インターフェロン、インターロイキン、および化学療法剤と一緒に投与する。
本発明の組成物は、従来、インターフェロンやTNFの治療用投与に用いられてきた薬学的に許容し得るビヒクル、例えば生理学的食塩水または5%デキストリンを、通常の安定化剤、および/またはヒト血清アルブミンまたはマンニトール等の賦形剤と一緒に含有する。組成物は凍結乾燥するか、滅菌水溶液の形で提供される。
当業者ならば、治療用組成物中のTNF濃度および投与用量の決定について様々な変化を考慮するであろう。治療はまた、投与経路および患者の臨床症状によっても変化する。
【0021】
細胞毒性因子(類)と増殖因子レセプター機能を阻害する抗体とを、一緒に、または別個に投与する。後者の場合には、抗体をまず投与し、24時間以内にTNFを投与することが好都合である。患者の臨床応答に応じてTNFと抗体を複数回、交互に投与することも本発明の範囲内である。TNFと抗体とを、例えば静脈内、鼻腔内、または筋肉内投与等の同一または別個の経路で投与する。
本発明方法を増殖因子レセプターおよび/またはリガンドを過剰に生産する腫瘍細胞に適用し、増殖因子レセプター機能を阻害する抗体を生産させることもできる。細胞(例えば乳がん細胞)は該細胞上のレセプター数が正常な健常細胞(例えば、正常な乳組織細胞)上のレセプター数よりも多いと、増殖因子レセプターを過剰に産生している。HER2タンパク質が過剰に発現される腫瘍(従って、本発明方法が適用可能)の例として、ヒト乳がん、腎臓がん、胃がんおよびだ液腺がんを挙げることができる。
【0022】
本発明の他の実施態様では、増大したチロシンキナーゼ活性を有するレセプターおよび他のタンパク質の同定、および細胞を形質転換する腫瘍遺伝子の同定のための分析法に関する。チロシンキナーゼをコードしているある種の腫瘍遺伝子の増幅はTNF−α耐性と相関する。細胞をTNF−α耐性に関して選択すると、その幾つかはチロシンキナーゼ活性が増大している。チロシンキナーゼの幾つかはレセプターである。次いで、遺伝子のクローニングのために、通常の方法でチロシンキナーゼをコードする遺伝子をクローニングする。レセプターまたは他のタンパク質を同定することにより、本明細書中、HER2タンパク質を用いて示したごとく、レセプター(または他のタンパク質)機能を阻害し、細胞の細胞毒性因子に対する感受性を高める試薬を考案することができる。また、レセプターを同定すると、次にレセプターのリガンドを同定することができる。本発明の分析法は、TNF−αに感受性を有すると思われる細胞をTNF−αに暴露し、TNF−α耐性細胞を単離することからなる。次いで、TNF−α耐性細胞をチロシンキナーゼ活性の増大に関してスクリーニングし、チロシンキナーゼ活性の増大を示すレセプターおよび他のタンパク質を単離する。
【0023】
抗体
本発明においては、抗原で免疫刺激された免疫リンパ細胞と骨髄腫細胞との融合によって形成された連続的なハイブリッド細胞系から、増殖因子またはHER2タンパク質のような増殖因子レセプターと特異的に結合するモノクローナル抗体を単離した。増殖因子レセプターと結合する本発明のモノクローナル抗体は、レセプターの細胞外ドメインと結合するものであることが好都合である。本発明の他の実施態様では、増殖因子または増殖因子レセプターと特異的に結合するポリクローナル抗体を用いる。
腫瘍治療に用いる本発明の抗体の腫瘍細胞増殖阻止率はインビトロで20%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。これらの抗体はスクリーニング(例えば、図4の説明を参照)によって得られる。腫瘍治療に用いられる本発明のHER2タンパク質に対するモノクローナル抗体は、レセプターの血清活性をも阻害し得る。
【0024】
モノクローナル抗体は単一の抗原部位に対するものであるために高度に特異的である。しかも、種々の抗原決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含有する従来の通常の抗体(ポリクローナル抗体)製品とは対照的に、モノクローナル抗体はそれぞれ、抗原上の単一の抗原決定基に対するものである。モノクローナル抗体は、抗原ー抗体結合を利用する診断および分析アッセイにおける選択性および特異性を改善するのに有用である。モノクローナル抗体の第2の利点はハイブリドーマ培養により、他の免疫グロブリンによる汚染なしに合成することができる点にある。モノクローナル抗体はハイブリドーマ細胞の培養上清またはハイブリドーマ細胞を腹腔内接種したマウスの腹水から調製することができる。
最初コーラーおよびマイルシュタイン[Kohler and Milstein, Eur.J.Immunol. 6, 511(1976)]によって記載されたハイブリドーマの技術は、多くの特異抗原に対する高レベルのモノクローナル抗体を分泌する広範なハイブリッド細胞の生産に適用されてきた。
【0025】
宿主動物またはそれから得た、抗体産生細胞培養の免疫の方法およびスケジュールは、従来の確立された抗体刺激および生産技術に従う。出願人は試験モデルとしてマウスを用いたが、これはヒト対象をも含めたあらゆる哺乳類対象、並びにそれらの動物から導かれた抗体産生細胞を本発明方法に従って処理し、ヒトをも含む哺乳類のハイブリッド細胞系を産生するための基礎とすることができることを想定したものである。
免疫処置後、免疫リンパ細胞を骨髄腫細胞と融合させてハイブリッド細胞系を形成する。このハイブリッド細胞系を培養し無期限に継代培養し大量のモノクローナル抗体を産生することができる。本発明の目的から、融合のための免疫リンパ細胞を、免疫動物のリンパ節組織または脾臓組織から得たリンパ球およびその正常な分化子孫細胞から選択した。免疫脾臓細胞の方がマウス系において、より高濃度かつ好都合な抗体産生細胞を与えることから好ましい。骨髄腫細胞は融合ハイブリッド細胞の連続的な増殖の基盤を与える。骨髄腫細胞は血漿細胞から得られる腫瘍細胞である。
【0026】
1つの種の細胞と他の種の細胞とを融合させることもできる。しかしながら、免疫抗体産生細胞と骨髄腫細胞とが同一種を起源とするものであることが好ましい。
ハイブリッド細胞系は、細胞培養培地中、インビトロで維持することができる。本発明の細胞系は既知のヒポキサンチン−アミノプテリンチミジン(HAT)培地中に連続細胞系を含有する組成物として選択および/または維持することができる。実際、一度、ハイブリドーマ細胞系が樹立されれば、それを種々の栄養的に十分な培地で維持することができる。さらに、ハイブリッド細胞系は、凍結保存や液体窒素中での保存等、任意な常法で貯蔵および保存することができる。凍結細胞系を再生させ、無期限に培養し、モノクローナル抗体を再び産生、分泌させることができる。分泌された抗体を、組織培養上清から、沈澱、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の常法により回収する。
【0027】
本発明はマウスモノクローナル抗体を用いて示したが、それに限定されるものではない。事実、ヒト抗体を用いることができ、それが好ましいことが分かるであろう。そのような抗体はヒトハイブリドーマ[コートら(Cote)、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、アラン・アール・リス(Alan R.Liss)、77頁(1985)]を用いて得ることができる。実際に、本発明方法に従い、“キメラ抗体”の製造のために開発された方法[モリソンら(Morrison)、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)、81、6851(1984);ニューバーガー(Neuberger)、Nature 312、604(1984);タケダ(Takeda)、Nature 314、452(1985)]を用いて適当な抗原特異性を有するマウス抗体分子を、適当な生物活性(ヒト補体を活性化したりADCCを仲介する能力)を有するヒト抗体分子から得た遺伝子と一緒にスプライシングすることができる。そのような抗体も本発明の範囲に含まれる。
【0028】
他の細胞融合法として、EBV不滅化B細胞を用いて本発明のモノクローナル抗体を産生させることができる。他のモノクローナル抗体製造法として、組換えDNA法も考えられる。
最も重要な本発明の抗体の免疫化学的誘導体は、(1)抗毒素(抗体と細胞毒性部分との抱合体)、および(2)標識化(例えば、放射性ラベル、酵素ラベル、または蛍光色素ラベル)誘導体であって、ラベルが、標識した抗体を含有する免疫複合体の同定手段となるものである。また、抗体を天然の補体工程を経る溶解を導き、正常に存在する抗体依存性の細胞毒性細胞と相互作用させるのに用いることもできる。
【0029】
抗毒素
抗毒素の細胞毒性部分は細胞毒性薬物、酵素的に活性な細菌または植物起源の毒素、またはそのような毒素の酵素的に活性な断片(A鎖)であってよい。使用される酵素的に活性な毒素およびその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、エキソトキシンA鎖(シュードモナス・セルジノサ(Pseudomonas aeruzinosa)から)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファーサルシン、アレウリテス・フォルディ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンシンタンパク質、フィトラッカ・アメリカナ(Phytolacca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP−S)、モモルジカ・カランチア・インヒビター、クーシン、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス・インヒビター、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、およびエノマイシンが含まれる。他の態様として低分子量の抗がん剤と抱合体を形成していてもよい。モノクローナル抗体とそれらの細胞毒性部分との抱合体は種々の2機能性タンパク質カップリング試薬を用いて形成することができる。そのような試薬には、例えば、SSDP、IT、ジメチルアジプイミデートHClのようなイミドエルテルの2機能性誘導体、ジスクシンイミジルスベレートのような活性エステル、グルタルアルデヒド等のアルデヒド、ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン等のビスーアジド化合物、ビス(p−ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン等のビスジアゾニウム誘導体、トルイレン2, 6−ジイソシアネート等のジイソシアネート、および1, 5−ジフルオロ−2, 4−ジニトロベンゼン等の二(ビス)活性フッ素化合物等がある。毒素の溶解部分を抗体のFab断片と結合させる。
【0030】
HER2タンパク質等の標的増殖因子レセプターの細胞外ドメインに、特異的に結合するモノクローナル抗体をリシンA鎖と結合させると好都合である。リシンA鎖が脱グリコシル化されており組換え法で製造されるものであると最も都合がよい。ビテッタら[Vitetta, Science, 238, 1098(1987)]の方法でリシン抗毒素を容易に製造することができる。
診断のために、インビトロでヒトがん細胞を殺す場合には、一般に、細胞培養培地に抱合体を少なくとも10nMの濃度になるように加える。インビトロ使用の処方および方法は重要ではない。培養培地や潅流媒質に適応する水性製剤が、通常、用いられる。細胞毒性は通常のがんの存在または重篤度の測定法により、知ることができる。
【0031】
放射性同位元素(I,Y,Pr等)を抗体に結合させることにより、がん治療用の細胞毒性放射性薬物を製造することができる。本明細書中、“細胞毒性部分”という語句にはそのような放射性同位元素も包含される。
他の実施態様では、リポソームに細胞毒性薬物を充填し、リポソームを増殖因子レセプターと特異的に結合する抗体で被覆する。多くのレセプター部位があるので、この方法により大量の薬物が適正な細胞型に伝達されることになる。
【0032】
抗体依存性細胞性細胞毒性
本発明はまた、(a)HER2 p185等の増殖因子レセプターに対する抗体であって、(b)抗体分子が結合する腫瘍細胞の溶解を媒介し得るサブクラスまたはアイソタイプに属する抗体を使用することに基づく方法を提供するものである。さらに詳しくは、これらの抗体は、増殖因子レセプターと複合体を形成すると、血清中の補体を活性化し、かつ/またはナチュラルキラー細胞またはマクロファージ等のエフェクター細胞を活性化して抗体依存性細胞性細胞毒性(ADCC)を媒介するサブクラスまたはアイソタイプに属する。
本発明はまた、これらの抗体を天然の形でヒト腫瘍の治療に用いる事を目的とする。例えば、腫瘍関連の細胞表面抗原と結合する多くのIgG2aおよびIgG3マウス抗体をインビボで腫瘍の治療に用いることができる。実際、HER2p185は多くの腫瘍上に存在するので、本発明の抗体およびその治療上の使用は一般的に適用することができる。
【0033】
抗体の生物学的活性は大多数、抗体分子のFc領域によって決定されることが分かっている[ウアナヌエ(Uananue)およびベナチェルラフ(Benacerraf)、Textbook of Immunology、第2版、ウィリアムズ・アンド・ウィルキンズ(Williams&Wilkins)、218頁(1984)]。これは、補体活性化能力および白血球の影響下、細胞の抗体依存性細胞毒性(ADCC)を媒介する抗体の能力を含む。クラスおよびサブクラスが異なる抗体は、この点に関して異なっており、本発明においては、所望の生物学的活性を有する抗体を選択する。例えば、マウスの免疫グロブリンIgG3およびIgG2aクラスはコグネート(cognate)抗原を発現する標的細胞と結合すると血清中の補体を活性化することができる。
一般に、IgG2aおよびIgG3サブクラスの抗体、および時にはIgG1サブクラスの抗体はADCCを媒介することができ、IgG3、IgG2aおよびIgMサブクラスの抗体は血清中の補体と結合し、活性化することができる。通常、補体の活性化には標的細胞に、少なくとも2分子のIgG分子が極めて近接して結合することが必要である。しかしながら、唯一のIgM分子の結合で血清の補体が活性化される。
【0034】
補体の活性化および/またはADCCにより、特定の任意の抗体の標的腫瘍細胞溶解能を分析することができる。目的の腫瘍細胞をインビボで増殖させ、ラベルする:抗体を血清補体または抗原抗体複合体によって活性化され得る免疫細胞と一緒に腫瘍細胞培養物に加える。標的腫瘍細胞の細胞溶解を、溶解細胞のラベルにより検出する。事実、患自身の血清を補体および/または免疫細胞の供給源として用いて抗体をスクリーニングすることができる。次いで、補体を活性化し、またはADCCを媒介することができる抗体を特定の患者の治療的インビトロ試験に用いることができる。
本発明の実施態様としては、それがHER2p185等の増殖因子レセプターと結合し、かつ補体を活性化するかADCCを媒介する限り、実質上、任意の起源から得た抗体を用いてよい。モノクローナル抗体は、連続的かつ十分な量の供給源となるので好都合である。実際、例えば、HER2p185でマウスを免疫してp185に対する抗体を産生するハイブリドーマを樹立し、ヒト補体の存在下に腫瘍細胞を溶解し得る抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、種々のヒト腫瘍と反応し、溶解することができる抗体群を迅速に樹立し得る。
【0035】
抗体の治療上の使用
治療のためにインビボで使用する際には、本発明の抗体の治療有効量(患者の腫瘍を消滅または軽減する量)を患者に投与する。それらは、通常、可能ならば標的細胞部位に、または静注により、非経口的に投与される。用量および投与方法はがんの性質(原発性であるか、転移性であるか)その数、抗体が攻撃すべき部位、特定の抗毒素の性質(使用する場合)、例えばその治療指針、患者、および患者の病歴に依存する。投与される抗体の量は、通常、約0.1から約10mg/体重kgの範囲である。
【0036】
非経口投与のために、抗体を薬学的に許容し得る非経口用ビヒクルと一緒に注射用一回量投与剤形(溶液、懸濁液、エマルジョン)に製剤化する。そのようなビヒクルは遺伝的に無毒であって、非治療的なものである。そのようなビヒクルの例として、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンを挙げることができる。不揮発性油およびオレイン酸エチル当の非水性ビヒクルも使用可能である。リポソームを担体として用いることができる。ビヒクルは等張性および化学的安定性を増加するための物質、例えばバッファーおよび保存剤を含有することもある。一般にビヒクル中、約1mg/mlから10mg/mlの濃度で抗体を処方する。
【0037】
治療のための抗体サブクラスの選択は腫瘍抗原の性質に依存する。例えば、抗原が腫瘍標的に対して高度に特異的であって、正常細胞には殆んど存在しないような状況では、IgMが好ましい。しかしながら、腫瘍関連抗原が非常に低レベルではあるが正常組織でも発現される場合には、以下のような理由からIgGサブクラスが好ましいであろう。補体の活性化にはごく近接した少なくとも2個のIgG分子の結合が必要であるので、少量の抗原を発現する正常組織では少しのIgG抗体分子しか結合しないことから、補体に仲介される損傷が少ない。また、IgG分子が小さいことにより、IgM分子よりも腫瘍組織部分により多く局在(位置)することができる。
【0038】
インビボでの補体活性化は種々の生物学的作用、例えば炎症性応答およびマクロファージの活性化を導くことが示された[ウアナヌエ(Uananue)およびベナチェラフ(Benacerraf)、Textbook of Immunology、第2版、ウィリアムズ・アンド・ウィルキンズ(Williams&Wilkins)、218頁(1984)]。腫瘍細胞の活性化されたマクロファージに対する感受性は正常細胞のそれよりも高い[フィドラー(Fidler)およびポスト(Poste)、Springer Semin.Immunopathol.、5、161(1982)]。炎症に伴う血管拡張の増大は種々の抗がん剤、例えば化学療法剤、放射性標識抗体等の腫瘍部位への局在能を高める。従って、本発明の特定タイプの抗原−抗体の組み合わせを多くの方法で治療的に用いることができ、通常、腫瘍細胞集団の不均質性によって引き起こされる問題の多くを阻止し得る。さらに、純化抗原[ハコモリ(Hakomori)、Ann.Rev.Immunol.、2、103(1984)]またはそのような抗原に関連する抗−イディオタイプ抗体[ネポムら(Nepom)、Proc.Natl.Acad.Sci. 81、2864(1985);コプロウスキーら(Koprowski)、Proc.Natl.Acad.Sci. 81、216(1984)]を用いてヒトがん患者での活性な免疫応答を導くことができる。そのような応答には、ヒト補体を活性化し、ADCCを仲介し、それらの機構を介する腫瘍の破壊を導き得る抗体の形成が含まれる。
【0039】
イムノアッセイ
ここではHER2 p185の存在を決定する血清学的手法について説明する。基本的に本発明方法は試験すべき試料をモノクローナル抗体と一緒にインキュベーションするか、またはモノクローナル抗体に暴露した後、反応産物の存在を検出することからなる。当業者ならばこれら基本的手法には多くの変法があることを理解するであろう。それらにはRIA、ELISA、沈降法、凝集法、補体固定化法および免疫蛍光法が含まれる。現時点で好ましい方法は適当に標識したモノクローナル抗体を用いる方法である。
様々に標識された抗体を得るための標識には放射性標識および蛍光標識のように直接検出される標識と、酵素のように反応させるか、誘導体化して検出されねばならないものがある。放射性標識は現在入手可能な計数装置を任意に用いて検出することができる。好ましい同位元素標識は、99Tc、14C、131I、125I、3H、32P、および35Sである。酵素標識は現在用いられている様々な熱量計、分光光度計、蛍光分光光度計、およびガス分析法で検出可能である。カーボジイミド、過ヨウ素酸塩(パーアイオデート)、ジイソシアネート、グルタルアルデヒド等の架橋分子を用いて酵素と抗体とを結合させる。これらの方法に用いられる多くの酵素が知られておりそれらを利用できる。例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−グルクロニダーゼ、β−D−グルコシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ+ペルオキシダーゼ、ガラクト−スオキシダーゼ+ペルオキシダーゼおよび酸ホスファターゼがある。使用される蛍光性物質にはフルオレスセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、オーラミン、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェリア、2、3−ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リゾチーム、グルコース−6−りん酸デヒドロゲナーゼ等がある。既知の方法で抗体にそれら標識を結合させる。例えば、アルデヒド、カーボジイミド、ジマレイミド、イミデート、スクシンイミド、ビッド−ジアゾ化ベンザジン等を用いて抗体に上記蛍光性、化学発光性および酵素標識を結合させることができる。種々の標識法がモリソン(Morrison)、Methods in Enzymology、32b、103(1974)、シバネンら(Syvanen)、J.Biol.Chem. 284、3762(1973)、および、ボルトン(Bolton)およびハンター(Hunter)、Biochem.J. 133、529(1973)によって示された。
【0040】
患者のがんの存在を検出する、または既にがんの存在が分かっている患者でのがんの状態を監視するための様々なイムノイメージングおよびイムノアッセイに抗体および標識抗体を用いることができる。がんの状態のモニターに用いる場合には定量的なイムノアッセイを用いる必要がある。そのようなモニターアッセイを定期的に行い、結果を比較することにより、患者の腫瘍の重篤度が増大したか減少したかを決定することができる。使用される通常のアッセイ法には直接法および間接法の両者が含まれる。試料が、がん細胞を含有する場合、標識抗体がこれらの細胞と結合する。組織または細胞を洗浄して結合しなかった標識抗体を除去した後、組織試料中に存在する標識された免疫複合体を測定する。間接アッセイでは組織または細胞試料を非標識モノクローナル抗体と一緒にインキュベートする。次いで、試料をモノクローナル抗体に対する標識抗体(例、標識した抗ネズミ抗体等)で処理し、洗浄し、3重複合体の存在に関して測定する。
【0041】
診断面での使用に際しては、通常、抗体をキットの形で配置して用いる。これらキットは一般に、適当な容器内の標識形または非標識形抗体、間接アッセイのためのインキュベーション用試薬、および標識の性質に応じた基質または誘導体形成試薬からなる。HER2 p185対照および手引書も含まれる。
以下の実施例は本発明をより詳細に説明するものであるが、本発明の範囲を制限するものと見なされるべきではない。
【実施例】
【0042】
p185HER2の増幅された発現およびチロシンキナーゼ活性
フジャックら(Hudziak)、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA) 84、7159(1987)の開示に従って種々のレベルでp185を発現する一連のNIH 3T3細胞系を構築した。親細胞系は非形質転換形のTNF−α感受性表現型を有していた。選択可能マーカーとしてのネオマイシン耐性、およびジヒドロ葉酸レダクターゼ(メトトレキセート耐性をコードしており、結合しているDNA配列の増幅をもたらす)をコードする発現プラスミドpCVNで形質転換することにより対照細胞系(NIH 3T3 neo/dhfr)を調製した。pCVN−HER2(RSV−LTRの転写制御下にp185レセプター様チロシンキナーゼの全1225アミノ酸をコードする)をNIH 3T3細胞に、並行トランスフェクションにより導入した。アミノグリコシド抗生物質G418に対する耐性に基づいて形質転換体を選択した。pCVN−HER2一次形質転換体(HER2−3)は導入された形態学を持たず軟寒天上で増殖することができない。しかしながら、200nM(HER2−3200)、400nM(HER2−3400)、および800nM(HER2−3800)のメトトレキセート中における選択による段階的なHER2発現の増幅によって、形態学的な判断基準に基づき、軟寒天での増殖能力、およびヌードマウスでの腫瘍形成能力が導入された。
【0043】
p185発現の増幅は35Sメチオニンで代謝的に標識した細胞からの免疫沈降により証明された。これら細胞系におけるp185関連チロシンキナーゼ活性はインビトロでの自己りん酸化によって測定された。35Sメチオニン標識p185のオートラジオグラフィーのために35S標識メチオニン200μCi(アマーシャム;1132Ci/mM)を透折した2%ウシ胎児血清を含有するメチオニン不含標識培地1.5mlに加えた。各型の1.0×106細胞をCoulter counterで計数し、60mm培養皿(ファルコン)中で培養し、12時間付着させた。8時間の標識期間後、細胞を溶解しHER2コード化p185を分析した。自己りん酸化HER2レセプターチロシンキナーゼのオートラジオグラフィーのために、p185を免疫沈降させ、ペレットをチロシンキナーゼ反応バッファー50μlに再懸濁した。試料を4℃で20分間インキュベートした。種々の細胞系由来の自己りん酸化p185を、次いでゲル電気泳動の後、オートラジオグラフィーにかけて観察した。用いた分子量マーカーはミオシン(200kD)およびβ−ガラクトシダーゼ(116kD)である。その結果、p185の発現およびそれに伴う、増幅と並行するチロシンキナーゼの増加が見られた。インビトロでの自己りん酸化反応における定量的デンシトメトリーによると、HER2−3とHER2−3200、HER2−3200とHER2−3400との間でチロシンキナーゼ活性が少なくとも5〜6倍増加したが、HER2−3400とHER2−3800との間には僅かな相違しかなかった(以下の表1のチロシンキナーゼに関する欄を参照)。
【0044】
表1の各細胞型に存在するチロシンキナーゼの相対的な量はオートラジオグラムを走査する(LKB2202レーザーデンシトメーター使用)ことによって作成した曲線の下方の領域の面積比を求めることにより決定した。測定の直線性を得るために様々な時間、オートラジオグラムをとり、HER2一次形質転換体(HER2−3)との比較によって標準化した。
【0045】
TNF−αに対する耐性
次いで、上記の細胞系のTNF−αおよびマクロファージ誘導細胞毒性に対する感受性を試験した。
図1には対照細胞およびHER2遺伝子で形質転換されたNIH 3T3細胞の、TNF−α耐性が示されている。細胞を96ウエルのマイクロタイタープレートの、10%ウシ血清、2mM L−グルタミン、100U/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを補充したDMEMを入れたウエルに、密度5, 000細胞/ウエルで接種した。細胞を4時間付着させた後、一定濃度範囲のTNF−αを加えた。TNF−α(組換えヒトTNF−α)の比活性をアクチノマイシンDの存在下、L−M細胞毒性アッセイによって測定したところ、5×107U/mgであった。37℃で72時間インキュベーションした後、単一層をPBSで洗浄してクリスタルバイオレットで染色し、細胞の相対生存率を決定した。これらの測定を6回繰り返した。代表的な実験の結果を図1に示す。
【0046】
図2には、マクロファージ仲介細胞毒性アッセイが示されている。10, 000U/mlのTNF−αを含有する培地でNIH 3T3neo/dhfrの1つのクローンを継代培養することによりTNF−α耐性細胞(neo/dhfr HTR)を得た。マクロファージ細胞毒性アッセイのためにNIH 3T3neo/dhfr、HER2−3800およびneo/dhfrHTR細胞を上記同様、96ウエルのマイクロタイタープレートに接種した。ヒトマクロファージを、健常提供者の末消血から得た付着細胞として得た。付着細胞をかき取って培地に再懸濁し、10μg/mlの大腸菌から得たリポ多糖類(LPS;シグマ)と100U/mlの組換えヒトガンマインターフェロン(rHuIFN−γ、ジェネンテク,インコーポレイテッド)で4時間活性化させた。次いで、細胞懸濁液を1200rpmで10分間遠心し、得られたペレットを培地で洗浄してLPSおよびrHuIFN−γを除去した。マクロファージを培地に再懸濁し、計数し、所望のエフェクター、標的比を得るために標的細胞に加えた。37℃で72時間インキュベーションした後、単一層を培地で洗浄し51Crの取り込みに基づいて生存率を測定するために、各ウエルに51Crを入れた。
【0047】
【表1】
*測定せず
生存率はTNF−αの細胞毒性単位、1.0×104/1mlについて求めた。乳がん細胞系はATCCから得、10%ウシ胎児血清、2mMグルタミン、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlスオレプトマイシンを補充したDMEM中に維持した。
【0048】
図1および表1に記載したようにHER2タンパク質発現が段階的に増幅されるのに並行してTNF−α耐性が増大している。形質転換による表現型を持たない一次形質転換体(HER2−3)においては耐性が殆ど増大しなかった。NIH3T3neo/dhfrに比較して、形質転換された細胞系であるHER2−3200、HER2−3400、およびHER2−3800は段階的にTNF−α仲介細胞毒性に対する感受性の減少を示した。しかしながら、NDA−MB−175−VII細胞はTNF−α感受性のBT−20およびMCF7細胞系に比べてp185発現が高められていた(図1および表1)。p185発現の相関性(表1)において、HER2−3200とHER2−3400における感受性の差(TNF−α濃度1×104U/mlで27.5%:48.4%)はHER2−3400とHER2−3800との差(生存率の比が48.4%:58.7%)よりも大きい(図1および表1参照)。NIH 3T3neo/dhfrとHER2−3800との活性化マクロファージに対する感受性を比較した場合にも同様の結果が得られた(第2図)。これらのデータはHER2遺伝子の発現の増幅がTNF−αに対する耐性を誘発し、また、これが宿主における重要な初期保護機構を成す、活性化マクロファージに対する耐性と相関関係にあることを示している。対照プラスミド(pCVN)の細胞系NIH 3T3neo/dhfr400中における増幅ではTNF−αに対する耐性が増大されなかった(表1)。このことは遺伝子のトランスフェクションまたは遺伝子増幅のいずれも、それ自身が細胞のTNF−αに対する感受性になんら影響を及ぼすものでないことを示している。
【0049】
高濃度のp185を発現するNIH 3T3細胞系がTNF−αまたはマクロファージにより誘導される細胞毒性に対して耐性を示すとの観察は、このことが腫瘍の進展を導く機構の1つであることを暗示している。この可能性を試験するために、6個の乳がん細胞系をHER2遺伝子の増幅およびTNF−αを介する細胞毒性に対する感受性に関してスクリーニングした。その結果(表1)、TNF−αによる増殖阻害に対する感受性は、BT−20、MCF7、MDA−MB−361およびSK−BR−3のインビトロでの自己りん酸化アッセイで測定したHER2関連チロシンキナーゼ発現と反比例することが分かった。しかしながら、MDA−MB−VII細胞のp185発現はTNF−α感受性のBT−20およびMCF7細胞系のそれより高いが、2個のTNF−α耐性乳がん細胞系(MDA−MB−VIIおよびMDA−MB−231)におけるHER2遺伝子発現の増幅はHER2−3対照に比較して証明し得る程ではなかった(表1)。これらの結果は一次乳がんおよび腫瘍誘導細胞系中でのHER2遺伝子増幅頻度に関する先の報告と一致しており、TNF−α耐性を導き得る他の細胞機構の存在を暗示しいている。
【0050】
実験結果はまた、EGFレセプターの過剰発現、およびsrc腫瘍遺伝子による細胞の形質転換がTNF−α耐性と相関関係にあることを示した。
TNF−αレセプター結合
HER2−3800中で、TNF−αレセプターがNIH 3T3neo/dhfrにおける場合と逆に変化している否かを調べるために、これらの細胞系の125I−標識TNF−αとの結合を比較した。図3はTNF−αレセプター結合アッセイを示す。置換曲線は125I−TNF−αのNIH 3T3neo/dhfrおよびHER2−3800に対する結合を示している。競合結合アッセイを行った。簡単に述べると、2.0×106の細胞懸濁液を終容量0.5mlで10%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地中でインキュベーションした。種々の濃度の非標識TNF−αの存在下、125I−TNF−α(0.2×106cpm)の細胞への結合を飽和平衡条件下、4℃で測定した。各データの測定点は3回の測定の平均値である。一夜インキュベーションした後、細胞をインキュベーションバッファーで2回洗浄し、細胞に結合した放射能を測定した。結果は非特異的結合<全結合の10%であった。
【0051】
これらの結果はNIH 3T3neo/dhfrに比べて、HER2−3800では全特異結合の増大が2−3倍であることを示している(図3)。しかも、HER2−3800に対する置換曲線はNIH3T3neo/dhfrのそれに比較してより低い親和性の方向に移行している(図3)。
【0052】
抗HER2モノクローナル抗体の生産
5匹の雌性Balb/cマウスをHER2遺伝子増幅NIH 3T3細胞で2週間免疫した。最初4回はマウスあたり約107細胞を注射した。PBS(0.5ml)中の細胞を第0、2、5および7週目に腹腔内投与した。第5、6回の注射には全タンパク質濃度約700μg/mlの、小麦胚芽アグルチニンで部分精製したメンブラン製品を用いた。各マウスに100μlを第9および13週目に腹腔内投与した。最後の注射は融合の3日前に精製物質を用いて静脈内投与で行った。
様々な時点に得たマウス血液を、全細胞リゼイトを用いる放射性免疫沈降法により試験した。抗体力価が最高である3匹のマウスを殺し、脾臓をミッシェル(Mishell)およびシイギ(Shiigi)、Selected Methods in Cellular Immunology. ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・コーポレイション(W.H.Freeman&Co.)、サン・フランシスコ(San Francisco)、357〜363頁(1980)の方法に従ってマウス骨髄腫細胞系X63−Ag8.653と融合させた。ただし、細胞を密度約2×105細胞/ウエルで96ウエルのマイクロタータープレートで培養した。またハイブリッド細胞をヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)ではなくヒポキサンチン−アゾセリンを用いて選択した。
ハイブリドーマ上清をELISAおよび放射性免疫沈降法によりHER2タンパク質に特異的な抗体の存在に関して試験した。
【0053】
ELISAのためには、PBS中3.5μg/mlのHER2タンパク質(小麦胚芽アグルチニンカラムで精製)をイムロンIIマイクロタイタープレートに4℃で一夜または室温で2時間吸着させた。次いでプレートを、0.05%Tween 20含有りん酸緩衝化食塩水(PBS−TW20)で洗浄し、結合していない抗原を除去した。次いで、ウエルあたり200μlのPBS−TW20中1%ウシ血清アルブミン(BSA)200μl中、室温で1時間インキュベートして残存する結合部位を遮断した。上記のごとくにしてプレートを洗浄し、ハイブリドーマ上清100μlを各ウエルに加えて室温で1時間インキュベートした。再度プレートを洗浄し、適当に希釈した、西洋ワサビペルオキシダーゼと結合したヤギ抗−マウス免疫グロブリン約100μlを各ウエルに加えた。室温で1時間プレートをインキュベートした後、上記同様に洗浄した。基質としてo−フェニレンジアミンを加え、室温で15−20分間インキュベートした後、2.5M H2SO4で反応を止めた。次いで492nmにおける各ウエルの吸光度を測定した。
【0054】
放射性免疫沈降のために、第1に小麦胚芽精製HER2タンパク質沈澱を以下の方法で自己りん酸化した。20mM Hepes、0.1%tritonおよび10%グリセリンバッファー(HTG)中でそれぞれ、以下の終濃度に希釈したキナーゼ溶液を調製した。0.18mCi/ml γP32−ATP(アマーシャム)、0.4mM MgCl2、0.2mM MnCl2、10μM ATP、総タンパク濃度35μg/mlの部分精製HER2タンパク質。反応混合物を室温で30分間インキュベーションした。次いでキナーゼ反応混合物50μlにハイブリドーマ上清50μlを加え、室温で1時間インキュベーションした。ヤギ抗マウスIgGプレコートプロテインAセファロースC14B 50μlをセファロース濃度80mg/mlで各試料に加え、室温で1時間インキュベーションした。得られた免疫複合体を遠心管中で、HTGバッファーで2回、最後にPBS中0.2%デオキシコレート、0.2%Tweeenで遠心し、遠心の合間に吸引することにより洗浄した。還元用試料バッファーを各試料に加え、試料を95℃で2.5分間加熱し、遠心して不溶性物質を除去し、還元された免疫複合体をSDS含有7.5%ポリアクリルアミドゲルに負荷した。ゲルを定常電流30ampで展開し、終了後のゲルからオートラジオグラフィーを得た。
【0055】
全ウエル上清の約5%がELISAおよび/または放射性免疫沈降反応においてHER2タンパク質と反応した。最初の5%(約100)の内、幾つかのハイブリッドは低親和性抗体を産生するものであり、他は不安定で抗体分泌が停止し、結果的に合計10の高親和性の安定なHER2タンパク質特異抗体産生細胞系が得られた。これらを制限希釈法[オイ(Oi, V.T.)およびヘルツェンベルグ(Herzenberg, L.A.)、"Immunoglobulin Producing Hybrid Cell Lines"、351〜372頁、ミッシェル(Mishell)およびシイギ(Shiigi)編、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・コーポレイション(W.H.Freeman&Co.)、サン・フランシスコ(San Francisco)、(1980)]でエキスパンドし、クローニングした。クローン化ハイブリドーマ細胞を、腹水腫を発現させるようにプリスタン(pristan)で初回抗原刺激を受けたマウスに注射すると大量の特異的モノクローナル抗体が産生された。次いで腹水を採取しプロテインAセファロースカラムを用いて精製した。
【0056】
抗体のスクリーニング
次いで、10個のモノクローナル抗体を高親和性モノクローナル抗体抗−形質転換または抗−腫瘍細胞活性に関して多くの分析法でスクリーニングした。モノクローナル抗体を、乳がんから導かれ、増幅されたダウンレギュレーション遺伝子を含有し、HER2p185チロシンキナーゼを過剰に産生するヒト腫瘍細胞系、SK BR3に対する増殖阻害活性に基づいて選択した。最初のスクリーニングにはハイブリドーマ細胞系の馴らし培地(その中で細胞を数日間培養し、細胞が産生した抗体、および細胞から分泌されるあらゆるものを含有する培地)を用いた。
SKBR3細胞を20, 000細胞/35mm皿(dish)の割合で平板培養した。対照として、ハイブリドーマ親細胞系(抗HER2モノクローナル抗体以外のあらゆるものを産生する)から得た馴らし培地、または抗HER2モノクローナル抗体を加えた。6日後、Coulterカウンターを用いてSKBR3細胞の全数を電気的に計数した。細胞をF−12、および10%ウシ胎児血清、グルタミン、およびペニシリンストレプトマイシンを補充したDMEMの1:1混合物中で増殖させた。プレートあたりの容量は2ml/35mm皿であった。35mm皿あたり骨髄腫馴らし培地0.2mlを加えた。各対照または抗HER2 MAbを2回分析し、2回の計数値の平均を求めた。
【0057】
調査の結果を図4に示す。モノクローナル抗体4D5は著しく乳がん細胞系SKBR3の増殖を阻害した。他の抗HER2抗体の増殖阻害活性は有意であるが低い(例、MAb、3E8および3H4)。他の抗HER2抗体(記載せず)は増殖を阻害しなかった。
ハイブリドーマ馴らし培地ではなく精製抗体を用いた繰り返し実験で図4の結果を確認した。図5は無関係なモノクローナル(抗HBV)およびモノクローナル抗体4D5(抗HER2)の10%ウシ胎児血清中におけるSKBR3細胞系の増殖に及ぼす影響を比較して示した用量応答曲線である。
【0058】
HER2タンパク質のダウンレギュレーション
SKBR3細胞をメチオニン不含培地中、100μCi35S−メチオニンで12時間パルス標識した。無関係な抗体(抗B型肝炎表面抗原)または抗HER2MAb(4D5)を5μg/mlで細胞に加えた。11時間後、細胞を溶解し、HER2 p185免疫沈降物とタンパク質を7.5%アクリルアミドゲル、次いでオートラジオグラフィーで分析した。SKBR3細胞由来の35S−メチオニン標識HER2p185はHER2タンパク質濃度がMAb4D5によるダウンレギュレーションを受けたことを示していた。
【0059】
乳がん細胞のモノクローナル抗体およびTNF−αによる処理
SKBR3乳がん細胞を濃度4×104細胞/ウエルでマイクロタイタープレートに接種し、2時間付着させた。次いで、細胞を種々の濃度、0.05、0.5または5.0μg/mlで抗HER2モノクローナル抗体(MAb)4D5または無関係なアイソタイプ適合物(抗rHuIFN−γ MAb)で4時間処理した後、rHuTNF−αを100、1, 000または10, 000U/mlで加えた。ここで、「無関係なアイソタイプ適合物」とは、上記抗rHuIFN−γ MAbが、HER2モノクローナル抗体(MAb)4D5との関係で、同一のアイソタイプを共有するがHER2タンパク質とは結合しない、対照抗体であることを意味する。72時間インキュベーションした後、細胞の単一層をクリスタルバイオレット染色し、対照(未処理)細胞と比較して相対生存率(RPV)を求めた。各処理群に6回の繰り返し実験を行った。結果を図6,7,8,9に示す。これらの図はHER2タンパク質を過剰に発現する細胞を、タンパク質の細胞外ドメインに対する抗体と一緒にインキュベーションすると、TNF−αの細胞毒性作用に対する感受性が誘導されることを示している。乳がん細胞MDA−MB−175に対する同等の処理で同様の結果を得た(図10)。ヒト胎児肺線維芽細胞(WI−38)のMAbによる処理では、予測されるような増殖阻害もTNF−αに対する感受性の誘導も得られなかった。
【0060】
HER2 p185を過剰に発現するNIH 3T3細胞のモノクローナル抗体およびTNF−αによる処理
NIH 3T3 HER2−3400細胞を上記SK−BR3細胞に関する記載のごとく、種々の濃度の抗HER2 MAbで処理した。MAb 4D5に関する結果を図11に示す。HER2タンパク質を過剰に発現する乳がん細胞系以外の細胞の増殖はHER2タンパク質に対する抗体により阻害され、これらの抗体の存在下でTNF−αに対する感受性が誘導されることを示唆する結果を得た。
【0061】
HER2タンパク質を過剰に発現するNIH 3T3細胞の抗HER2 IgG2Aモノクローナル抗体によるインビボにおける処理
HER2発現プラスミド(NIH 3T3400)またはneo−DHFRベクターのいずれかで形質転換されたNIH 3T3細胞を0.1mlりん酸緩衝化食塩水中106細胞でnu/nu(無胸腺)マウスに皮下投与した。0、1および5日目、さらに以後4日目毎に無関係な抗体、またはIgG2Aサブクラスの抗HER2モノクローナル抗体のいずれかを用量100μg(PBS中0.1ml)を腹腔内注射した。腫瘍の生成およびサイズを1カ月の処置期間中、監視した。
【0062】
【表2】
【0063】
表2は2H11 MAbがいくらかの抗腫瘍活性を有すること(腫瘍細胞系SKBR3に対してスクリーニングした場合、MAb2H11の増殖阻害特性はごく僅かである)、および実験期間中を通して3E8 MAbが100%の腫瘍増殖阻害活性を有することを示している。
本発明を、好ましいと考えられる態様について記載したが、本発明はここに開示した態様に限定されるものではない。むしろ、本発明は特許請求の範囲に記載した発明の思想および範囲に包含される様々に修飾された、および同等(均等)の発明を網羅するよう意図している。発明の範囲は、そのような修飾および均等な発明すべてを最大限広く解釈した範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1はNIH3T3細胞のTNF−α耐性を示しており、種々の濃度のHER2p185が見られる。
【図2】図2はNIH3T3細胞のマクロファージ細胞毒性分析の結果を示し、種々の濃度のHER2p185が見られる。
【図3】図3は対照細胞系(NIH 3T3 neo/dhfr)およびHER2p185を過剰に発現する細胞系(HER2−3800)へのTNF−α結合レベルを示す図である。
【図4】図4は抗−HER2モノクローナル抗体によるSK BR3細胞の増殖阻害を示す図である。
【図5】図5は血清中でのSK BR3細胞の増殖に対する無関係なモノクローナル抗体(抗HBV)の影響およびモノクローナル抗体4D5(抗−HER2)の影響を比較して示した用量応答曲線である。
【図6】図6はTNF−α濃度および抗HER2p185モノクローナル抗体濃度の増加関数として表した、SKBR3細胞の生存率を示す図である。
【図7】図7はTNF−α濃度および抗HER2p185モノクローナル抗体濃度の増加関数として表した、SKBR3細胞の生存率を示す図である。
【図8】図8はTNF−α濃度および抗HER2p185モノクローナル抗体濃度の増加関数として表した、SKBR3細胞の生存率を示す図である。
【図9】図9は図6〜8の実験に対する対照であり、無関係なモノクローナル抗体を使用した場合の結果を示す図である。
【図10】図10はTNF−α濃度および抗HER2p185モノクローナル抗体濃度の増加関数として表したMDA−MB−175−VII細胞の生存率を示す図である。
【図11】図11はTNF−αおよび抗HER2p185モノクローナル抗体濃度の増加関数として表した、HER2p185を過剰に発現するNIH3T3細胞の生存率を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のHRE2タンパク質と結合する抗体および該抗体と細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤とを患者に投与するための指示書を含むキット。
【請求項2】
抗体が、腫瘍細胞を細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤の細胞毒性作用に敏感にするものである請求項1に記載のキット。
【請求項3】
指示書が、抗体とサイトカインとを患者に投与することに関するものである請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
サイトカインが、TNF−α、TNF−β、IL−1、IL−2またはIFN−γである請求項3記載のキット。
【請求項5】
指示書が、抗体と化学療法剤とを患者に投与することに関するものである請求項1または2に記載のキット。
【請求項6】
化学療法剤が、5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセートまたはドキソルビシンである請求項5記載のキット。
【請求項7】
指示書が、抗体と細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤を一緒にまたは別々に患者に投与することに関するものである請求項1〜6のいずれかに記載のキット。
【請求項8】
指示書が、細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤を患者に投与する前に抗体を患者に投与することに関するものである請求項1〜7のいずれかに記載のキット。
【請求項1】
治療有効量のHRE2タンパク質と結合する抗体および該抗体と細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤とを患者に投与するための指示書を含むキット。
【請求項2】
抗体が、腫瘍細胞を細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤の細胞毒性作用に敏感にするものである請求項1に記載のキット。
【請求項3】
指示書が、抗体とサイトカインとを患者に投与することに関するものである請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
サイトカインが、TNF−α、TNF−β、IL−1、IL−2またはIFN−γである請求項3記載のキット。
【請求項5】
指示書が、抗体と化学療法剤とを患者に投与することに関するものである請求項1または2に記載のキット。
【請求項6】
化学療法剤が、5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセートまたはドキソルビシンである請求項5記載のキット。
【請求項7】
指示書が、抗体と細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤を一緒にまたは別々に患者に投与することに関するものである請求項1〜6のいずれかに記載のキット。
【請求項8】
指示書が、細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤を患者に投与する前に抗体を患者に投与することに関するものである請求項1〜7のいずれかに記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−186523(P2007−186523A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54427(P2007−54427)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【分割の表示】特願平10−335759の分割
【原出願日】昭和64年1月5日(1989.1.5)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【分割の表示】特願平10−335759の分割
【原出願日】昭和64年1月5日(1989.1.5)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
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