説明

変形解析方法及び変形解析プログラム

【課題】解析に要する計算量を抑えつつ、解析精度を向上させることができる変形解析方法及び変形解析プログラムを提供する。
【解決手段】データ取得手段(41)が解析モデル及び成型条件に関するデータを取得するデータ取得ステップと、一次剛性マトリクス生成手段(42)が流動解析を行うことにより一次剛性マトリクスを生成する一次剛性マトリクス生成ステップと、物性値算出手段(43)が解析モデルの剛性に関する物性値を算出する物性値算出ステップと、圧力履歴取得手段(44)が圧力履歴を取得する圧力履歴取得ステップと、二次剛性マトリクス生成手段(45)が圧力履歴に応じて解析モデルの剛性に関する物性値を変更すると共に、変更した物性値に基づいて、二次剛性マトリクスを生成する二次剛性マトリクス生成ステップと、変形解析手段(46)が二次剛性マトリクスを用いて、成型品の変形特性を解析する変形解析ステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形解析方法及び変形解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラやレンズ等の筐体には、射出成型部品が多く用いられている。射出成型部品の形状は、樹脂の流動特性、強化繊維の配向、温度と圧力と粘性の時間変化、金型の変形、物性値の異方性、離型後の収縮変形等の複雑な物理現象の影響を受ける。これらの物理現象は、コンピュータによる有限要素法により、変形特性を解析(以下、「変形解析」という)することができる。
【0003】
しかしながら、上述したすべての物理現象を変形解析すると、計算量が膨大となる。このため、計算に用いる解析モデルを簡略化することにより、計算量を抑えるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4006316号公報
【特許文献2】特開2006−272928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術は、解析モデル自体を簡略化するため、簡略化の手法によっては、解析精度が悪くなる。しかしながら、解析精度への影響が少ない簡略化の手法は、今のところ解明されていない。
【0006】
このように、従来の変形解析においては、すべての物理現象を変形解析すると、計算量が膨大となる。また、従来の変形解析においては、解析モデルを簡略化すると、解析精度が悪くなる。
【0007】
本発明の課題は、解析に要する計算量を抑えつつ、解析精度を向上させることができる変形解析方法及び変形解析プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のような解決手段により前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
請求項1に記載の発明は、複数の要素に分割された解析モデルを用いて、金型に流動体を充填することにより成形される成形品の変形特性を解析する変形解析方法であって、前記解析モデル及び成形条件に関するデータを取得するデータ取得ステップと、取得した前記解析モデル及び前記成形条件を用いて流動解析を行うことにより一次剛性マトリクスを生成する一次剛性マトリクス生成ステップと、生成した前記一次剛性マトリクスを用いて、前記解析モデルの剛性に関する物性値を算出する物性値算出ステップと、前記解析モデルに設定された特定部分に対応する圧力履歴を取得する圧力履歴取得ステップと、前記圧力履歴に応じて前記解析モデルの剛性に関する物性値を変更すると共に、変更した前記解析モデルの剛性に関する物性値に基づいて、二次剛性マトリクスを生成する二次剛性マトリクス生成ステップと、生成した前記二次剛性マトリクスを用いて、前記成形品の変形特性を解析する変形解析ステップと、を備えることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の変形解析方法において、前記圧力履歴は、金型に流動体を充填した際に、前記金型に配置された複数の圧力センサから出力された圧力値であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の変形解析方法において、前記圧力履歴取得ステップでは、前記金型に配置された複数の前記圧力センサから出力された圧力値を用いて、前記解析モデルの全体の圧力分布を補間演算することを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の変形解析方法において、前記圧力履歴は、前記解析モデル及び前記成形条件を用いて流動解析を行うことにより算出された圧力値であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の変形解析方法おいて、前記解析モデルの剛性に関する物性値は、ヤング率及びせん断弾性率であることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の変形解析方法において、二次剛性マトリクス生成ステップでは、前記圧力履歴の最大値に対する前記解析モデルの各要素の圧力履歴の比率を算出すると共に、当該比率に基づいて前記解析モデルの各要素における一次剛性マトリクスの前記剛性に関する物性値を変更することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の変形解析方法において、前記成形品は、前記金型に流動体を充填することにより射出成形されるものであることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、複数の要素に分割された解析モデルを用いて、金型(21)に流動体を充填することにより成形される成形品の変形特性を解析するための変形解析プログラムであって、コンピュータ(40)を、前記解析モデル及び成形条件に関するデータを取得するデータ取得手段(41)、取得した前記解析モデル及び前記成形条件を用いて流動解析を行うことにより一次剛性マトリクスを生成する一次剛性マトリクス生成手段(42)、算出した前記一次剛性マトリクスを用いて、前記解析モデルの剛性に関する物性値を算出する物性値算出手段(43)、前記解析モデルに設定された特定部分に対応する圧力履歴を取得する圧力履歴取得手段(44)、前記圧力履歴に応じて前記解析モデルの剛性に関する物性値を変更すると共に、変更した前記解析モデルの剛性に関する物性値に基づいて、二次剛性マトリクスを生成する二次剛性マトリクス生成手段(45)、生成した前記二次剛性マトリクスを用いて、前記成形品の変形特性を解析する変形解析手段(46)、として機能させることを特徴とする。
なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、解析に要する計算量を抑えつつ、解析精度を向上させることができる変形解析方法及び変形解析プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係わる変形解析システム1の構成を示すブロック図である。
【図2】解析モデルの一例を示す概念図である。
【図3】一次剛性マトリクスの一例を示す説明図である。
【図4】一次従属剛性マトリクスの一例を示す説明図である。
【図5】要素eにおける歪と応力との関係を示す説明図である。
【図6】金型21に配置された特定の圧力センサにより計測された圧力値の一例を示すグラフである。
【図7】変形解析システム1により成型品の変形解析を行う場合の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】比較例の一次剛性マトリクスを用いて解析した成型品の変形特性を示す説明図である。
【図9】実施例の二次剛性マトリクスを用いて解析した成型品の変形特性を示す説明図である。
【図10】実際の成型品における真円度の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明に係わる変形解析方法及び変形解析プログラムの実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係わる変形解析システム1の構成を示すブロック図である。変形解析システム1は、図1に示すように、入出力装置10と、射出成型装置20と、記憶装置30と、システム制御装置40と、を備える。このうち、入出力装置10、記憶装置30及びシステム制御装置40は、CPU(中央処理装置)、ROM、RAM、入出力ポート等を備えたマイクロコンピュータにより構成されている。
【0013】
入出力装置10は、入力部11と、表示部12と、を備える。入力部11は、オペレータの操作するキーボード、マウス等の入力手段である。表示部12は、入力部11から入力された操作内容やデータ等のほか、変形解析の結果等を表示するディスプレイ装置である。なお、入出力装置10は、システム制御装置40とネットワーク等の回線を介して接続されていてもよい。
【0014】
射出成型装置20は、金型21と、圧力センサ22a〜22eと、圧力値入力ポート23と、成型機24と、を備える。金型21は、射出成型により成型品を作製するための型である。金型21に、溶融した樹脂(流動体)を充填することにより、成型品を作製することができる。なお、図1においては、金型21の形状を模式的に示している。
【0015】
圧力センサ22a〜22eは、金型21に充填された樹脂の圧力値を計測するための圧力計測手段である。圧力センサ22a〜22eは、充填された樹脂と接するように、金型21の内部に配置されている。なお、圧力センサの数は、金型21の形状や大きさ等により異なる。図1においては、5個の圧力センサ22a〜22eを配置した例を示している。また、図1においては、圧力センサ22a〜22eの配置を模式的に示している。圧力値入力ポート23は、圧力センサ22a〜22eから出力された圧力値を、所定の信号形式に変換してシステム制御装置40に送信する。
【0016】
成型機24は、溶融した樹脂を加圧しながら金型21に注入する装置である。成型機24の動作は、システム制御装置40の成型動作制御部(不図示)により制御される。
【0017】
記憶装置30は、解析データ記憶部31と、剛性マトリクス記憶部32と、プログラム記憶部33と、を備える。
【0018】
解析データ記憶部31には、解析モデルデータ、成型条件データ、圧力値データ、圧力履歴データ及び変形解析データが記憶される。
【0019】
解析モデルデータは、流動解析に用いられる解析モデル(後述)のデータである。成型条件データは、材料となる樹脂の種類、強化繊維の含有率、成型時における樹脂の温度、圧力等の成型条件に関するデータである。
【0020】
圧力値データは、圧力センサ22a〜22eにおいて計測された圧力値のデータである。システム制御装置40の成型動作制御部(不図示)は、成型機24を制御して、予め設定された成型条件に従って金型21に樹脂を充填させる。このとき、金型21の内部に配置された圧力センサ22a〜22eにより、圧力値が計測される。この圧力値のデータは、記憶装置30の解析データ記憶部31に圧力値データとして記憶される。
【0021】
圧力履歴データは、解析モデルにおける各要素の圧力値を時間で積分することにより算出した圧力の履歴に関するデータである。圧力履歴データについては後述する。変形解析データは、後述する二次剛性マトリクスを用いて成型品の変形特性を解析したときに得られるデータである。
【0022】
剛性マトリクス記憶部32には、一次剛性マトリクスデータ、一次従属剛性マトリクスデータ及び二次剛性マトリクスデータが記憶される。
【0023】
一次剛性マトリクスデータは、解析モデルと成型条件に関するデータとを用いて流動解析を行うことにより生成される一次剛性マトリクスのデータである。この一次剛性マトリクスは、ベース樹脂の物性値、強化繊維の物性値及び強化繊維の配向のみが考慮されたデータである。
【0024】
一次従属剛性マトリクスデータは、一次剛性マトリクスの逆行列となる剛性マトリクス(コンプライアンスマトリクス)のデータである。システム制御装置40の二次剛性マトリクス生成部45(後述)は、一次従属剛性マトリクスに含まれる物性値(ヤング率及びせん断弾性率)を、圧力履歴に応じて変更する。
【0025】
二次剛性マトリクスデータは、一次従属剛性マトリクスの逆行列となる剛性マトリクスのデータである。システム制御装置40の変形解析部46(後述)は、二次剛性マトリクスを用いて、成型品の変形特性を解析する。
【0026】
プログラム記憶部33には、樹脂流動解析プログラム、構造解析プログラム及び変形解析プログラムのプログラムコードが記憶される。
【0027】
樹脂流動解析プログラムは、解析モデル及び成型条件に基づいて、解析モデルにおける樹脂の流動特性を解析するプログラムである。構造解析プログラムは、二次剛性マトリクスに基づいて、成型品の変形特性を解析するプログラムである。変形解析プログラムは、システム制御装置40(後述)の各部を所定の処理手順に基づいて動作させるための制御プログラムである。
【0028】
なお、記憶装置30は、上記記憶部以外に、システム制御装置40がプログラム記憶部33に記憶されているプログラムを読み込むプログラム記憶エリアと、システム制御装置40が前記プログラムに従って演算処理を実行する際に、データの読み出し/書き込みを行うデータ記憶エリアと、を備える。
【0029】
システム制御装置40は、変形解析システム1の全体を制御する部分である。システム制御装置40は、データ取得部41と、一次剛性マトリクス生成部42と、物性値算出部43と、圧力履歴取得部44と、二次剛性マトリクス生成部45と、変形解析部46と、を備える。
【0030】
データ取得部41は、記憶装置30の解析データ記憶部31から、解析モデルデータ及び成型条件データを取得するデータ取得手段である。
【0031】
一次剛性マトリクス生成部42は、データ取得部41により取得した解析モデル及び成型条件を用いて流動解析を行うことにより、一次剛性マトリクスを生成する一次剛性マトリクス生成手段である。一次剛性マトリクス生成部42は、記憶装置30のプログラム記憶部33に記憶されている樹脂流動解析プログラムを用いて流動解析を行う。
【0032】
図2は、解析モデルの一例を示す概念図である。また、図3は、一次剛性マトリクスの一例を示す説明図である。
【0033】
解析モデルは、図2に示すように、解析対象となる成型品の形状を、複数の要素eの集まりとして近似させた三次元のメッシュモデルである。一次剛性マトリクス生成部42は、この解析モデル及び成型条件を用いて流動解析を行うことにより、図3に示すような一次剛性マトリクス(行列式)を生成する。一次剛性マトリクス生成部42は、図2に示す解析モデルのすべての要素eについて一次剛性マトリクスを生成する。一次剛性マトリクス生成部42は、生成した一次剛性マトリクスのデータを、記憶装置30の剛性マトリクス記憶部32に一次剛性マトリクスデータとして記憶する。なお、解析モデルの要素eの数は、解析する成型品の形状や大きさ等により適宜に設定される。
【0034】
物性値算出部43は、一次剛性マトリクス生成部42において生成した一次剛性マトリクスを用いて、解析モデルの剛性に関する物性値を算出する。具体的には、物性値算出部43は、一次剛性マトリクスの逆行列となる一次従属剛性マトリクスを生成する。物性値算出部43は、生成した一次従属剛性マトリクスのデータを、記憶装置30の剛性マトリクス記憶部32に一次従属剛性マトリクスデータとして記憶する。
【0035】
図4は、一次従属剛性マトリクスの一例を示す説明図である。物性値算出部43は、図3に示す一次剛性マトリクスの逆行列を演算することにより、図4に示すような一次従属剛性マトリクス(行列式)を生成する。物性値算出部43は、解析モデルのすべての要素eの一次剛性マトリクスについて、一次従属剛性マトリクスを生成する。一次従属剛性マトリクスは、直交座標系の各方向におけるヤング率(E)、せん断弾性率(G)及びポアソン比(v)により表される。物性値算出部43は、一次剛性マトリクスから一次従属剛性マトリクスを生成することにより、解析モデルの剛性に関する物性値として、ヤング率(E)及びせん断弾性率(G)を算出する。
【0036】
図5は、要素eにおける歪と応力との関係を示す説明図である。各要素eにおける歪と応力との関係は、一次従属剛性マトリクスを用いることにより、図5のように表すことができる。図5に示すように、要素eにおける歪(変形量)は、その要素eの一次従属剛性マトリクスに応力を乗じた値として算出される。なお、図5において、εは歪、γはせん断歪、αは線膨張係数、σは応力、τはせん断応力である。
【0037】
圧力履歴取得部44は、解析モデルに設定された特定部分に対応する圧力履歴を取得する圧力履歴取得手段である。具体的には、圧力履歴取得部44は、記憶装置30の解析データ記憶部31に記憶されている圧力値データに基づいて圧力履歴を算出する。
【0038】
図6は、金型21に配置された特定の圧力センサにより計測された圧力値の一例を示すグラフである。図6において、横軸は時間tを示し、縦軸は樹脂の圧力pを示している。成型機24(図1参照)により金型21に充填された樹脂の圧力pは、時間tの経過と共に、図6に示すように変化する。すなわち、樹脂を充填した直後は、樹脂の流動性が高いため、圧力pは急激に上昇する。その後、先に充填された樹脂が固まり始め、また充填される樹脂の粘度も徐々に高くなる。このように、時間tの経過と共に圧力の伝達効率が悪くなるので、圧力pは徐々に低下する。なお、図6に示すグラフは、要素eの位置により異なる。
【0039】
システム制御装置40の成型動作制御部(不図示)は、金型21に所定量の樹脂が充填されると、樹脂の注入を停止するように成型機24を制御する。図6において、時間t1は、成型機24による樹脂の注入が停止した時点を示している。成型品は、金型21の内部における樹脂の圧力がゼロになった時点において、金型21から取り出される。
【0040】
圧力履歴取得部44は、記憶装置30の解析データ記憶部31から圧力値データを取得すると共に、この圧力値データを用いて、解析モデルの全体の圧力分布を補間演算する。この補間演算を行うことにより、解析モデルのすべての要素eについて圧力値を設定することができる。
【0041】
そして、圧力履歴取得部44は、各要素eに設定した圧力値に基づいて、すべての要素eにおける圧力履歴を算出する。すなわち、圧力履歴取得部44は、図6に示すような圧力値のグラフを時間で積分した結果を、各要素eにおける圧力履歴として算出する。
【0042】
圧力履歴取得部44は、算出したすべての要素eの圧力履歴を、記憶装置30の解析データ記憶部31に圧力履歴データとして記憶する。
【0043】
二次剛性マトリクス生成部45は、解析モデルの各要素eにおける一次従属剛性マトリクスのヤング率(E)及びせん断弾性率(G)を、圧力履歴取得部44において取得した、各要素eの圧力履歴データに応じて変更する。具体的には、二次剛性マトリクス生成部45は、圧力履歴の最大値に対する各要素eの圧力履歴の比率を算出する。そして、二次剛性マトリクス生成部45は、算出した比率を、解析モデルの各要素eにおける一次従属剛性マトリクスのヤング率(E)及びせん断弾性率(G)に乗じることにより、これら物性値を変更する。
【0044】
一次従属剛性マトリクスのヤング率(E)及びせん断弾性率(G)を上述のように変更すると、射出成型工程において圧力が十分にかかった要素eについては、一次従属剛性マトリクスにおける剛性が高くなるように補正される。一方、射出成型工程において圧力が不足していた要素eについては、一次従属剛性マトリクスにおける剛性が低くなるように補正される。
【0045】
二次剛性マトリクス生成部45は、各要素eにおける一次従属剛性マトリクスのヤング率(E)及びせん断弾性率(G)を変更した後、一次従属剛性マトリクスの逆行列を演算して、二次剛性マトリクス(新一次剛性マトリクス)を生成する。二次剛性マトリクス生成部45は、生成した二次剛性マトリクスのデータを、記憶装置30の剛性マトリクス記憶部32に二次剛性マトリクスデータとして記憶する。
【0046】
変形解析部46は、二次剛性マトリクス生成部45において生成された二次剛性マトリクスを用いて、成型品の変形特性を解析する変形解析手段である。具体的には、変形解析部46は、二次剛性マトリクスと、記憶装置30のプログラム記憶部33に記憶されている構造解析プログラムとを用いて、成型品の変形特性を解析する。変形解析部46は、解析した成型品の変形特性を、記憶装置30の解析データ記憶部31に変形解析データとして記憶する。
【0047】
次に、上述した変形解析システム1により成型品の変形解析を行う場合の処理手順を、図7を参照して説明する。図7は、変形解析システム1により成型品の変形解析を行う場合の処理手順を示すフローチャートである。
【0048】
以下に説明するフローチャートの処理は、システム制御装置40が記憶装置30のプログラム記憶部33に記憶されている変形解析プログラムを読み込むことにより実行される。また、以下に説明する実施形態においては、解析データ、成型条件データ、圧力値データ等の解析に必要なデータは、記憶装置30の解析データ記憶部31に記憶されているものとする。
【0049】
ステップS1において、データ取得部41は、記憶装置30の解析データ記憶部31に記憶されている解析モデルデータ及び成型条件データを取得する。
【0050】
ステップS2において、一次剛性マトリクス生成部42は、データ取得部41により取得された解析モデル及び成型条件と、記憶装置30のプログラム記憶部33に記憶されている樹脂流動解析プログラムとを用いて流動解析を行い、一次剛性マトリクスを生成する。
【0051】
ステップS3において、物性値算出部43は、一次剛性マトリクス生成部42により生成された一次剛性マトリクスの逆行列となる一次従属剛性マトリクスを生成する。
【0052】
ステップS4において、圧力履歴取得部44は、記憶装置30の解析データ記憶部31に記憶されている圧力値データを取得すると共に、解析モデルの全体の圧力分布を補間演算する。この補間演算により、解析モデルのすべての要素eについて圧力値が設定される。
【0053】
ステップS5において、圧力履歴取得部44は、各要素eに設定した圧力値に基づいて、すべての要素eにおける圧力履歴を算出する。
【0054】
ステップS6において、二次剛性マトリクス生成部45は、解析モデルの各要素eにおける一次従属剛性マトリクスのヤング率(E)及びせん断弾性率(G)を、各要素eの圧力履歴データに応じて変更する。
【0055】
ステップS7において、二次剛性マトリクス生成部45は、一次従属剛性マトリクスの逆行列を演算して、二次剛性マトリクスを生成する。
【0056】
ステップS8において、変形解析部46は、二次剛性マトリクス及び構造解析プログラムを用いて、成型品の変形特性を解析する。変形解析部46は、解析した成型品の変形特性を、記憶装置30の解析データ記憶部31に変形解析データとして記憶する。この後、システム制御装置40は、本フローチャートの処理を終了する。
【0057】
次に、本実施形態の変形解析システム1による変形解析の実施例について説明する。本実施例では、解析モデルとして、図2に示す形状の解析モデルを用意した。解析モデルの直径は約45mm、高さは約35mmとした。また、材料となる樹脂はポリカーボネートとし、強化繊維としてグラスファイバーを20%含有させた(他の成型条件については説明を省略する)。
【0058】
実施例では、上述した条件に基づいて、図7に示すステップS1〜S8の処理を実行することにより、二次剛性マトリクスを生成した。また、比較例(従来例)として、実施例と同じ解析モデルについて、汎用の樹脂流動解析プログラムを用いて流動解析を行い、一次剛性マトリクス(図3参照)を生成した。そして、実施例により生成した二次剛性マトリクスと、比較例により生成した一次剛性マトリクスとについて、それぞれ構造解析プログラムを用いて、成型品の変形特性を解析した。
【0059】
図8は、比較例の一次剛性マトリクスを用いて解析した成型品の変形特性を示す説明図である。図9は、実施例の二次剛性マトリクスを用いて解析した成型品の変形特性を示す説明図である。
【0060】
解析対象となる解析モデル(図2参照)は、円筒形の軸方向から見たときに、120度ピッチで対象な形状となる。図8及び図9は、任意の120度で区切った解析面を正面から見たときの様子を示している。図8及び図9において、白い部分は、マイナス側(径方向の内側)への変位量が大きく、黒い部分は、プラス側(径方向の外側)への変位量が大きいことを表している。また、中間調(ドット)の部分は、マイナス側及びプラス側、それぞれの変位量の大きさを階調的に表している。なお、本実施形態では、図8及び図9において、黒い部分と連続する中間調の部分をドットの疎密により3段階で表し、他の中間調の部分の描画を省略する。
【0061】
図10は、実際の成型品における真円度の測定結果である。図10において、横軸は0〜120度までの範囲を示し、縦軸は変位量(歪)を示している。図10に示す0〜120度までの範囲は、図8及び図9に示す120度の解析面と同じ範囲を示している。また、図10に示す縦軸の変位量は、ゼロ(0)を基準としてプラス(+)、マイナス(−)で表される。
【0062】
図10に示す「○」、「×」、「□」のグラフは、図8及び図9に示す「○」、「×」、「□」の位置に対応する。すなわち、図8及び図9に示す「○」、「×」、「□」の位置における断面の変位量が、図10に示す「○」、「×」、「□」のグラフとなる。
【0063】
図10に示すグラフと、図8及び図9とを比較してみると、図8に示す比較例の変形特性は、図10のグラフとほとんど一致しない。一方、図9に示す実施例の変形特性は、図10のグラフとほぼ一致する。
【0064】
すなわち、図8に示す比較例の変形特性では、ピークの位置が50度付近に存在している。また、図8に示す比較例の変形特性では、60度を中心としたときに、左右の変位量が不均一に変化している。一方、図9に示す実施例の変形特性では、ピークの位置が図10のグラフと同じくほぼ60度の位置にある。また、図9に示す実施例の変形特性では、60度を中心としたときに、左右の変位量が図10のグラフと同じくほぼ均等に変化している。
【0065】
上記解析結果から明らかなように、一次従属剛性マトリクスのヤング率(E)及びせん断弾性率(G)を圧力履歴データに応じて変更した実施例の変形特性は、比較例の変形特性に比べて、実際の成型品における変形特性とほぼ近似することが確認された。
【0066】
上述した本実施形態の変形解析システム1によれば、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態においては、一次従属剛性マトリクスの物性値(ヤング率及びせん断弾性率)を圧力履歴に応じて変更すると共に、変更した物性値に基づいて生成した二次剛性マトリクスを用いて成型品の変形特性を解析するようにしたので、成型時における圧力履歴を考慮した変形解析を行うことができる。また、本実施形態においては、解析モデルを簡略化せずに用いている。このため、本実施形態によれば、変形解析の解析精度を向上させることができる。また、本実施形態においては、解析モデルを用いるため、すべての物理現象を変形解析する場合に比べて、解析に要する計算量を抑えることができる。従って、本実施形態の変形解析システム1においては、解析に要する計算量を抑えつつ、解析精度を向上させることができる。
(2)本実施形態においては、金型21に配置された圧力センサ22a〜22eにより計測した圧力値に基づいて圧力履歴を算出している。これによれば、成型時に金型21の内部にかかる圧力値を正確に計測することができるため、解析精度をより向上させることができる。なお、金型21に配置する圧力センサの数を増やすことにより、更に解析精度を向上させることができる。
(3)本実施形態においては、金型21に配置された圧力センサ22a〜22eにより計測した圧力値に基づいて、解析モデルの全体の圧力分布を補間演算している。このため、解析モデルのすべての要素eの圧力履歴を算出する際の計算量を少なくすることができる。
(4)本実施形態においては、一次従属剛性マトリクスのヤング率(E)及びせん断弾性率(G)を、解析モデルの剛性に関する物性値としている。そして、一次従属剛性マトリクスのヤング率(E)及びせん断弾性率(G)を圧力履歴に応じて変更するようにしている。このため、成型時における圧力履歴を考慮した補正を行うことができる。
(5)本実施形態においては、圧力履歴の最大値に対する各要素eの圧力履歴の比率を算出すると共に、算出した比率を、解析モデルの各要素eにおける一次従属剛性マトリクスのヤング率(E)及びせん断弾性率(G)に乗じることにより、これら物性値を変更している。これによれば、各要素eは、射出成型工程における圧力の大小に応じて一次従属剛性マトリクスの剛性が補正されるため、成型品の変形特性をより正確に解析することができる。
【0067】
(変形形態)
以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明は以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
(1)本実施形態においては、金型21に配置された圧力センサ22a〜22eにより計測した圧力値に基づいて圧力履歴を算出している。しかし、本発明はこれに限らず、解析モデル及び成型条件と樹脂流動解析プログラムとを用いて流動解析を行うことにより圧力値を算出し、この圧力値に基づいて圧力履歴を算出するようにしてもよい。このように、流動解析を用いて圧力履歴を算出するようにした場合には、金型21に圧力センサ22a〜22eを配置する必要がないので、システム構成を簡素化することができる。
(2)本実施形態においては、一次従属剛性マトリクスのヤング率(E)及びせん断弾性率(G)を、解析モデルの剛性に関する物性値としている。しかし、本発明はこれに限らず、ヤング率(E)又はせん断弾性率(G)のいずれか一方を、解析モデルの剛性に関する物性値としてもよい。
(3)本実施形態においては、成型品を射出成型により作製する例について説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、成型品を押出成型により作製する場合にも適用することができる。また、解析対象となる流動体は、樹脂に限らず、金属であってもよい。
【0068】
また、上記実施形態及び変形形態は適宜に組み合わせて用いることができるが、各実施形態の構成は図示と説明により明らかであるため、詳細な説明を省略する。更に、本発明は以上説明した実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0069】
1:変形解析システム、20:射出成型装置、21:金型、22a〜22e:圧力センサ、30:記憶装置、31:解析データ記憶部、32:剛性マトリクス記憶部、33:プログラム記憶部、40:システム制御装置、41:データ取得部、42:一次剛性マトリクス生成部、43:物性値算出部、44:圧力履歴取得部、45:二次剛性マトリクス生成部、46:変形解析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の要素に分割された解析モデルを用いて、金型に流動体を充填することにより成型される成型品の変形特性を解析する変形解析方法であって、
前記解析モデル及び成型条件に関するデータを取得するデータ取得ステップと、
取得した前記解析モデル及び前記成型条件を用いて流動解析を行うことにより一次剛性マトリクスを生成する一次剛性マトリクス生成ステップと、
生成した前記一次剛性マトリクスを用いて、前記解析モデルの剛性に関する物性値を算出する物性値算出ステップと、
前記解析モデルに設定された特定部分に対応する圧力履歴を取得する圧力履歴取得ステップと、
前記圧力履歴に応じて前記解析モデルの剛性に関する物性値を変更すると共に、変更した前記解析モデルの剛性に関する物性値に基づいて、二次剛性マトリクスを生成する二次剛性マトリクス生成ステップと、
生成した前記二次剛性マトリクスを用いて、前記成型品の変形特性を解析する変形解析ステップと、
を備えることを特徴とする変形解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の変形解析方法において、
前記圧力履歴は、金型に流動体を充填した際に、前記金型に配置された複数の圧力センサから出力された圧力値であることを特徴とする変形解析方法。
【請求項3】
請求項2に記載の変形解析方法において、
前記圧力履歴取得ステップでは、前記金型に配置された複数の前記圧力センサから出力された圧力値を用いて、前記解析モデルの全体の圧力分布を補間演算することを特徴とする変形解析方法。
【請求項4】
請求項1に記載の変形解析方法において、
前記圧力履歴は、前記解析モデル及び前記成型条件を用いて流動解析を行うことにより算出された圧力値であることを特徴とする変形解析方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の変形解析方法おいて、
前記解析モデルの剛性に関する物性値は、ヤング率及びせん断弾性率であることを特徴とする変形解析方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の変形解析方法において、
二次剛性マトリクス生成ステップでは、前記圧力履歴の最大値に対する前記解析モデルの各要素の圧力履歴の比率を算出すると共に、当該比率に基づいて前記解析モデルの各要素における一次剛性マトリクスの前記剛性に関する物性値を変更することを特徴とする変形解析方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の変形解析方法において、
前記成型品は、前記金型に流動体を充填することにより射出成型されるものであることを特徴とする変形解析方法。
【請求項8】
複数の要素に分割された解析モデルを用いて、金型に流動体を充填することにより成型される成型品の変形特性を解析するための変形解析プログラムであって、
コンピュータを、
前記解析モデル及び成型条件に関するデータを取得するデータ取得手段、
取得した前記解析モデル及び前記成型条件を用いて流動解析を行うことにより一次剛性マトリクスを生成する一次剛性マトリクス生成手段、
算出した前記一次剛性マトリクスを用いて、前記解析モデルの剛性に関する物性値を算出する物性値算出手段、
前記解析モデルに設定された特定部分に対応する圧力履歴を取得する圧力履歴取得手段、
前記圧力履歴に応じて前記解析モデルの剛性に関する物性値を変更すると共に、変更した前記解析モデルの剛性に関する物性値に基づいて、二次剛性マトリクスを生成する二次剛性マトリクス生成手段、
生成した前記二次剛性マトリクスを用いて、前記成型品の変形特性を解析する変形解析手段、
として機能させることを特徴とする変形解析プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−224805(P2011−224805A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94627(P2010−94627)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】