説明

変形運動計測装置及び変形運動計測方法

【課題】 ナノオーダーでの生物現象を高時間分解能で計測する。
【解決手段】 反射型電子顕微鏡4は、バイオセル12の表面に入射線15を照射し、その反射散乱線21の二次元強度分布である連続画像を撮影する。透過型電子顕微鏡5は、反射型電子顕微鏡5による撮影終了後に、静止したバイオセル12の表面12aの三次元形状と、静止した生体試料11の三次元形状を撮影する。解析装置は、反射型電子顕微鏡4及び透過型電子顕微鏡5の撮影した画像に基づいて、反射型電子顕微鏡4の撮影開始時刻から撮影終了時刻までの生体試料11の変形及び運動を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形運動計測装置及び変形運動計測方法に関する。特に、本発明は、ナノオーダーでの生体試料の変形及び運動の計測に適した装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、100万枚/秒での高速撮影を実現可能な高速ビデオカメラを既に提案している(特許文献1参照)。一方、現在の顕微鏡下での微小な生体試料の撮影速度は30〜60枚/秒程度が一般的である。しかし、このような低速の撮影速度では変形や運動を到底計測できないナノオーダーでの現象がある。この種の現象としては、蛋白質の細胞内での急激な構造変化、イオンチャンネルのイオン放出時の瞬間的開閉機構、レーザ穿孔、バイオ分子モータ等がある。
【0003】
微小試料の高速撮影には、可視光顕微鏡よりも透過型電子顕微鏡(TEM: Transmission Electron Scope)や反射型電子顕微鏡(SEM)のような電子顕微鏡が適している。しかし、透過型電子顕微鏡は生きたまま微生物や生体内部の動きを観察することは困難である。その理由は2つある。第1に透過型電子顕微鏡の内部は高真空であるが、生体は真空中では死滅するので容器中で生かしておく必要がある。第2に、透過型電子顕微鏡の内部において仮に厚さの薄い溶液中で生体を生かしておくことができたとしても、必要な透過電子像が得られるような大量の電子を浴びれば、生体は直ちに死滅する。一方、反射型電子顕微鏡では、微生物や生体の表面の状態は観察できても内部は観察できない。
【0004】
【特許文献1】特開2001−345441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ナノオーダーでの生物現象を含む微小試料の変形や運動を高時間分解能で計測することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書において、「容器」という語は、その内部に被観察物を保持することができ、かつ被観察物の変形及び運動によりその表面の形状が変化するものをいう。特に、容器という語は、被観察物である生体試料をその内部に保持するための電子顕微鏡用試料セルであるバイオセルを含む。
【0007】
また、本明細書において、「計測線」という語は、容器や被観察物の計測に使用される粒子又はエネルギの流れをいい、電子、イオン、及び正孔のような荷電粒子の流れ、紫外線、可視光線、及び赤外線等の光を含む電磁波、並びにX線に加えα線、γ線、β線、及び中性子線を含む放射線を包含する。
【0008】
本発明の第1の態様は、容器内に保持された被観察物の変形及び運動を計測するための計測装置であって、前記被観察物は第1の時間から第2の時間の間変形及び運動を行い、かつ前記被観察物の変形及び運動が前記容器の表面を変形させるものにおいて、前記容器の表面に計測線を照射する照射部と、前記容器の表面で反射及び散乱された計測線の二次元強度分布を検出する検出部とを有し、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの時間間隔を隔てた個々の撮影時刻における前記二次元強度分布である連続画像を撮影する第1の撮影部と、前記容器に計測線を照射する照射部と、前記容器及び被観察物を透過した計測線を検出する検出部とを有し、前記第2の時刻に静止した前記容器の表面の三次元形状である容器表面静止画像と、前記第2の時刻に静止した前記被観察物の三次元形状である被観察物静止画像とを撮影する第2の撮影部と、前記連続画像、前記容器表面静止画像、及び前記被観察物静止画像に基づいて、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの個々の前記撮影時刻における前記被観察物の変形及び運動を算出する解析部とを備えることを特徴とする変形運動計測装置を提供する。
【0009】
具体的には、前記解析部は、前記撮影時刻の一つにおける前記被観察物の変形及び運動を、その撮影時刻の直前の撮影時刻における前記被観察物の変形及び運動に基づいて仮定し、この仮定した前記被観察物の変形及び運動に基づいて算出した前記第反射及び散乱された計測線の二次元強度分布が、前記第1の撮影部で実際に撮影された前記撮影時刻の二次元強度分布と適合すれば、前記仮定した前記被観察物の変形及び運動を前記撮影時刻の被観察物の変形及び運動として決定する。
【0010】
被観察物が変形及び運動を継続している第1の時刻から第2の時刻の間は、第1の撮影部からの計測線は容器の表面によって反射及び散乱されるだけで、容器及び被観察物を透過しない。第2の時刻に被観察物が変形及び運動を停止して静止した後に、第2の撮影部の計測線が容器及び被観察物を透過する。例えば、容器がバイオセルで被観察物が生体試料である場合、生体試料が変形及び運動を継続している間は、計測線はバイオセル及び生体試料を透過しない。従って、計測線として電子線を採用し、バイオセル内の生体試料を死滅させることなく、高時間分解能での生体試料の変形及び運動の計測が可能である。詳細には、第1の撮影部として100万枚/秒程度の撮影速度を有する反射型電子顕微鏡を採用し、第2の撮影部として透過型電子顕微鏡を採用して3次元電子線トモグラフィにより詳細な3次元形状を得ることで100万枚/秒程度の高時間分解能を実現することができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、容器内に保持された被観察物の変形及び運動を計測するための計測方法であって、前記被観察物は第1の時間から第2の時間の間変形及び運動を行い、かつ前記被観察物の変形及び運動が前記容器の表面を変形させるものにおいて、前記第1の時間から前記第2の時間の間、時間間隔を隔てた個々の撮影時刻毎に、前記容器の表面に計測線を照射して前記容器の表面で反射及び散乱された計測線の二次元強度分布を撮影し、前記第2の時刻以降に前記容器に計測線を照射し、前記容器及び前記被観察物を透過した計測線により、前記第2の時刻に静止した前記容器の表面の三次元形状である容器表面静止画像と、前記第2の時刻に静止した前記被観察物の三次元形状である被観察物静止画像とを取得し、前記連続画像、前記容器表面静止画像、及び前記被観察物静止画像に基づいて、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの個々の前記撮影時刻における前記被観察物の変形及び運動を算出することを特徴とする、変形運動計測方法を提供する。
【0012】
具体的には、前記撮影時刻の一つにおける前記被観察物の三次元形状及び運動を、その撮影時刻の直前の撮影時刻における前記被観察物の変形及び運動に基づいて仮定し、前記仮定した前記被観察物の形状及び運動に基づいて前記計測線の反射及び散乱の二次元強度分布を算出し、前記仮定した前記被観察物の形状及び運動に基づいて算出した二次元強度分布と、前記第1の撮影部で実際に撮影された前記撮影時刻の二次元強度分布と比較し、前記仮定した前記被観察物の三次元形状及び運動に基づいて算出した二次元強度分布が、前記第1の撮影部で実際に撮影された前記撮影時刻の二次元強度分布と適合すれば、前記仮定した前記被観察物の形状及び運動を前記撮影時刻の被観察物の形状及び運動に決定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の装置及び方法によれば、被観察物が変形及び運動を継続している間は容器及び被観察物に計測線を透過させることなく、被観察物の変形及び運動を計測することできる。従って、容器がバイオセルで被観察物が生体試料である場合であっても、バイオセル内の生体試料を死滅せることなく、高時間分解能での生体試料の変形及び運動の計測が可能であり、蛋白質の細胞内での急激な構造変化、イオンチャンネルのイオン放出時の瞬間的開閉機構、レーザ穿孔、バイオ分子モータ等のようなナノオーダーの現象の計測を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】
図1を参照すると、本発明の実施形態に係る変形運動計測装置(以下、単に「計測装置」という。)1は、撮影装置2と解析装置3を備える。
【0016】
撮影装置2は、反射型電子顕微鏡(第1の撮影部)4と透過型電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡)5とを組み合わせたもので、共通のチャンバ6を有する。このチャンバ6は正面視で十字状を呈し、その中央には試料8を保持する試料台9が配設されている。試料台9の姿勢は、符号10で概略的に示す駆動装置により調整することができる。
【0017】
図2を併せて参照すると、試料8は被観察物である生体試料11をバイオセル12内に保持したものである。生体試料11は変形及び運動を行うものであればよい。生体試料11には、例えば蛋白質、細胞膜のチャンネル、バイオ分子モータ等がある。バイオセル12の表面12aは、反射型電子顕微鏡4からの入射線15を反射及び散乱させるが、透過はさせない。また、バイオセル12の表面12aは、生体試料11の変形及び運動を追従して変形する。なお、生体試料11の3次元の運動をすべて考慮する場合、図2において破線の矢印で概念的に示すように、生体試料11の運動の自由度は6度である。
【0018】
チャンバ6の図において左向きに延びる部分6aには、反射型電子顕微鏡4の電子銃16、絞り17、及び電磁レンズ18が配設されている。電子銃16からの入射線15は、絞り17及び電磁レンズ18を介して試料8に向けて照射される。
【0019】
また、チャンバ6の図において右向きに延びる部分6bには、反射型電子顕微鏡4のセンサ19と電磁レンズ20が配設されている。センサ19は、例えばCCD型撮像素子等のような電子の二次元強度分布を検出ないしは撮影でき、かつ100万枚/秒程度の撮影速度を有するものである。試料8で反射及び散乱された電子線(反射散乱線21)は、電磁レンズ20を介してセンサ19に入射し、反射散乱線21の二次元強度分布がセンサ19で検出ないしは撮影される。
【0020】
図1にのみ概略的に示す反射型電子顕微鏡4のコントローラ23は、電子銃16、センサ19、及び駆動装置10の動作を制御する。また、コントローラ23は、センサ19により検出された反射散乱線21の二次元強度分布を取得し、解析装置3に送る。コントローラ23は、電子銃16に試料8に対して連続的に入射線15を照射させ、センサ19には一定の時間間隔Δt(図3参照)で連続的に反射散乱線21を検出ないしは撮影させる。この時間間隔Δtは生体試料11の変形及び運動の計測の時間分解能を決定するので、より短いことが好ましい。例えば、センサ19の撮影速度は100万枚/秒程度であることが好ましい。
【0021】
図2を参照すると、反射型電子顕微鏡4の電子銃16からの入射線15は並行線である。入射線15はバイオセル12の表面12aに対して浅い角度で照射され、入射線15のバイオセル12の表面12aに対する角度θは鋭角である。入射線15の角度θは、駆動装置10で試料8の姿勢を変えることで調整することができる。また、入射線15の二次元強度分布は正規分布である。一方、バイオセル12の表面12aで反射及び散乱された反射散乱線21の二次元強度分布は、バイオセル12の表面12aの形状と相関を有する。また、前述のようにバイオセル12の表面12aは生体試料11の変形及び運動に追従して変形する。従って、センサ19で撮影される個々の撮影時刻における反射散乱線21の二次元強度分布は、バイオセル12内の生体試料11の三次元形状、変形、及び運動と相関を有する。
【0022】
再度図1を参照すると、チャンバ6の図において上向きに延びる部分6cには、透過型電子顕微鏡5の電子銃25、絞り26、及び電磁レンズ25が配設されている。電子銃25が発する電子線(入射線28)は、絞り26及び電磁レンズ27を介して試料8に向けて照射される。
【0023】
また、チャンバ6の図において下向きに延びる部分6dには、透過型電子顕微鏡5のセンサ29と磁気レンズ30が配設されている。センサ29は、例えばCCD型撮像素子等からなる。試料8(バイオセル12及び生体試料11)を透過した電子線(透過線31)は、電磁レンズ30を介してセンサ29に入射する。
【0024】
図1にのみ概略的に示す透過型電子顕微鏡5のコントローラ32は、電子銃25とセンサ29の動作を制御する。また、コントローラ32は、反射型電子顕微鏡4による撮影が時刻t2に終了した後に(生体試料11が変形及び運動を停止後)に、電子銃25に試料8に対して入射線28を照射させ、センサ29に透過線31を検出ないしは撮影させる。前述のように反射型電子顕微鏡4が連続的な撮影を行うのに対し、透過型電子顕微鏡5による撮影は単発的に行われる。コントローラ32は、3次元電子線トモグラフィにより、静止した生体試料11の三次元形状と静止したバイオセル12の表面12aの形状とを撮影する。コントローラ32は、これら静止した生体試料11の三次元形状(被観察物静止画像)と、静止したバイオセル12の表面12aの形状(容器表面静止画像)とを解析装置3に送る。
【0025】
解析装置3は、画像記憶部41と処理部42とを備える。画像記憶部41には反射型電子顕微鏡4から受信した連続画像(符号43で概念的に示す。)を記憶する。また、画像記憶部41は透過型電子顕微鏡5から受信した静止した生体試料11の三次元形状(符号44で概念的に示す。)を記憶する。さらに、画像記憶部41は透過型電子顕微鏡5から受信した静止したバイオセル12の表面12aの形状(符号45で概念的に示す。)を記憶する。さらにまた、画像記憶部41は、個々の撮影時刻における生体試料11の変形及び運動を含む処理部42の処理結果を記憶する。
【0026】
処理部42は、反射型電子顕微鏡4の連続画像、静止した生体試料11の三次元形状、及び静止したバイオセル12の表面12aの形状に基づいて、反射型電子顕微鏡4の撮影開始(図3の時刻t1)から撮影終了(図3の時刻t2)までの間の個々の撮影時刻(時間間隔Δt)における生体試料11の変形及び運動を計算する。処理部42には、この計算を実行するための2つのアルゴリズムないしは計算モデルが記憶ないしは格納されている。第1の計算モデル46は、生体試料11の形及び運動とそれに対応するバイオセル12の表面12aの形状を関連づけるものである。換言すれば、ある時刻における生体試料11の変形及び運動が与えられれば、第1の計算モデル46によってその時刻におけるバイオセル12の表面12aの形状を計算することができる。第2の計算モデル47は、バイオセル12の表面12aの形状と反射型電子顕微鏡4のセンサ29で検出される電子像の二次元強度分布を関連づけるものである。換言すれば、ある時刻におけるバイオセル12の表面12aの形状が与えられれば、第2の計算モデル47によってその時刻におけるセンサ29で検出される電子像の二次元強度分布を計算することができる。
【0027】
次に、図4のフローチャートを参照して、計測装置1による生体試料11の変形及び運動の計測を説明する。
【0028】
まず、ステップS4−1において、反射型電子顕微鏡4による連続撮影を行う。図3を併せて参照すると、撮影開始時刻t1から撮影終了時刻t2までの間、反射型電子顕微鏡4の電子銃16から試料8に入射線15を照射し、バイオセル12の表面12aで反射及び散乱された反射散乱線21を、一定の時間間隔Δtをあけた撮影時刻毎にセンサ19により検出ないしは撮影する。撮影終了時刻t2に生体試料11が死滅し、撮影終了時刻t2以降の生体試料11は変形及び運動を行わず静止している。また、それに伴って、撮影終了時刻t2以降は、バイオセル12の表面12aが静止している。反射端電子顕微鏡4によって撮影された各撮影時刻毎の反射散乱線21の二次元強度分布は、解析装置3の画像記憶部41に記憶される(図1の符号43参照)。
【0029】
前述のように反射型電子顕微鏡4の入射線15は、バイオセル12の表面12aで反射され、生体試料11及びバイオセル12を透過しない。従って、ステップS4−1の反射型電子顕微鏡4による撮影(撮影開始時刻t1から撮影終了時刻t2)までの間、生体試料11を死滅させることなく、撮影(反射散乱線21の電子像の二次元強度分布の撮影)を行うことができる。
【0030】
次に、ステップS4−2において、透過型電子顕微鏡5による撮影を行う。図3に示すように、この透過型電子顕微鏡5による撮影は、反射型電子顕微鏡4の撮影終了時刻t2以降、すなわち生体試料11及びバイオセル12の表面12aが静止後に実行される。透過型電子顕微鏡5の電子銃25から試料8に照射された入射線28は、バイオセル12及び生体試料11を透過し、透過線31がセンサ29により検出ないしは撮影される。透過型電子顕微鏡5のコントローラ32は、撮影した透過線31に基づいて3次元電子線トモグラフィにより、静止した生体試料11の三次元形状、及び静止したバイオセル12の表面12aの形状を得る。これらの三次元形状は解析装置3の画像記憶部41に記憶される(図1の符号44,45参照)。
【0031】
ステップS4−3〜S4−11では、反射端電子顕微鏡4によって撮影された各撮影時刻毎の反射散乱線21の二次元強度分布、透過型電子顕微鏡5により撮影された静止した静止した生体試料11の三次元形状、及び透過型電子顕微鏡5により撮影された静止したバイオセル12の表面12aの形状に基づいて、解析装置3の処理部42が各撮影時刻における生体試料11の変形及び運動を算出する。
【0032】
前述のように、反射型電子顕微鏡4の撮影終了時刻t2については、反射散乱線21の二次元強度分布、生体試料11の三次元形状、及びバイオセル12の表面12aの形状が測定されている。図3において矢印αで概念的に示すように、解析装置3の処理部46は、まず撮影終了時刻t2における既知の情報から撮影終了時刻t2の直前の撮影時刻t2−Δtにおける生体試料11の変形及び運動を算出する。次に、処理部46は、算出した撮影時刻t2−Δtにおける生体試料11の変形及び運動に基づいて、撮影時刻t2−Δtの直前の撮影時刻t2−2・Δtにおける生体試料11の変形及び運動を算出する。このように処理部46は、反射型電子顕微鏡4の撮影終了時刻t2から撮影開始時刻t1まで、時間間隔Δt毎の撮影時刻を遡りつつ、生体試料11の変形及び運動を算出する。
【0033】
ステップS4−3では、自然数である変数nを初期値である1に設定する。変数nの最大値nmaxは、反射型電子顕微鏡4の撮影開始時刻t1から撮影終了時刻t2までに撮影された連続画像の枚数に対応する。換言すれば、t1=t2−(nmax−1)・Δtである。
【0034】
ステップS4−4では、撮影時刻t2−n・Δtの生体試料11の変形及び運動を仮定する。この生体試料11の変形及び運動には、直後の撮影時刻、すなわち撮影時刻t2−(n−1)・Δtにおける生体試料11の変形及び運動等が使用される。今、nは初期値「1」であるので、反射型電子顕微鏡4で検出された撮影終了時刻t2における反射散乱線21の二次元強度分布、透過型電子顕微鏡5で検出された撮影終了時刻t2における生体試料11の三次元形状、及び透過型電子顕微鏡5で検出された撮影終了時刻t2におけるバイオセル12の表面12aの形状に基づいて、撮影終了時刻t2の直前の撮影時刻t2−Δtにおける生体試料11の変形及び運動が仮定される。
【0035】
次に、ステップS4−5では、時刻t2−n・Δtにおけるバイオセル12の表面12aの形状を算出する。このバイオセル12の表面12aの形状の算出は、ステップS4−4で仮定した撮影時刻t2−n・Δtの生体試料11の変形及び運動に第1の計算モデル(図1の符号46参照)を適用することでなされる。今、nは初期値「1」であるので、仮定した撮影時刻t2−Δtにおける生体試料11の変形及び運動に第1の計算モデルを適用することで、バイオセル12の表面12aの形状を算出する。
【0036】
次に、ステップS4−6では、撮影時刻t2−n・Δtにおける反射散乱光21の電子像の二次元強度分布を算出する。この二次元強度分布の算出は、ステップS4−5で算出した時刻t2−n・Δtにおけるバイオセル12の表面12aの形状に第2の計算モデル(図1の符号47参照)を適用することでなされる。今、nは初期値「1」であるので、算出した撮影時刻t2−Δtにおけるバイオセル12の表面12aの形状に第2の計算モデルを適用することで、反射散乱光21の二次元強度分布を算出する。
【0037】
次に、ステップS4−7において、ステップS4−6で算出した撮影時刻t2−n・Δtにおける反射散乱光21の電子像の二次元強度分布と、実際に反射型電子顕微鏡4で撮影された撮影時刻t2−n・Δtにおける反射散乱光21の電子像の二次元強度分布を比較する。ステップS4−8において、両者が適合、すなわち一致しているかその差が予め定められた許容範囲内である場合は、ステップS4−4における生体試料11の変形及び運動の仮定が正しいないしは妥当であるので、仮定した生体試料11の変形及び運動をその撮影時刻t2−n・Δtにおける生体試料11の変形及び運動に決定する。この場合、ステップS4−9に移行する。一方、ステップS4−8において両者が適合しない場合には、ステップS4−4に戻り、撮影時刻t2−n・Δtの生体試料11の変形及び運動を仮定を修正し、ステップS4−5〜S4−8の処理を繰り返す。今、nは初期値「1」であるので、算出した撮影時刻t2−Δtにおける反射散乱光21の電子像の二次元強度分布と、実際に反射型電子顕微鏡4で撮影された撮影時刻t2−Δtにおける反射散乱光21の電子像の二次元強度分布を比較する。ステップS4−8で両者が適合していればステップS4−9に移行し、適合していなければステップS4−4に戻り再度撮影時刻t2−Δtにおける生体試料11の変形及び運動の仮定を修正する。
【0038】
ステップS4−9では、ステップS4−4において仮定した時刻t2−n・Δtにおける生体試料11の変形及び運動を、画像記憶部41に記憶する。続いて、ステップS4−10において変数nに「1」を加算する。さらに、ステップS4−11においてt1≦t2−n・Δtでない場合、すなわち撮影開始時刻t1まで生体試料11の変形及び運動の算出が終了していない場合には、ステップS4−4に戻る。
【0039】
今、変数nは初期値「1」であるので、ステップS4−9で加算されて「2」となり、ステップS4−11を介してステップS4−4に戻る。ステップS4−4〜S4−8で、時刻t2−2・Δtにおける生体試料11の変形及び運動の計算が実行される。この際、ステップS4−4における生体試料11の変形及び運動の仮定には、既に算出されている時刻t2−Δtにおける生体試料11の変形及び運動が使用される。同様の処理が、ステップS4−11においてt1≦t2−n・Δtが成立するまで繰り返される。
【0040】
以上の処理により、撮影開始時刻t1から撮影終了時刻t2までの各撮影時刻(時間間隔Δt)における生体試料11の変形及び運動が算出され、画像記憶部41に記憶される。時間間隔Δtは反射型電子顕微鏡4の撮影速度で決まり、それに応じた時間分解能で生体試料11の変形及び運動を計測することができる。例えば、前述のように反射型電子顕微鏡4の撮影速度が100万枚/秒であれば、この時間分解能での生体試料11の変形及び運動を計測することができる。
【0041】
本発明は前記実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、試料は、バイオセル以外の容器に生体試料以外の他の被観察物を封入したものでもよい。ただし、被観察物の変形及び運動に伴って、容器の表面が変形する必要がある。また、試料に照射する計測線は電子線に限定されず、イオン、及び正孔のような電子線以外の荷電粒子の流れ、紫外線、可視光線、及び赤外線等の光を含む電磁波、並びにX線に加えα線、γ線、β線、及び中性子線を含む放射線等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係る変形運動計測装置を示す概略構成図。
【図2】反射型電子顕微鏡の入射線及び反射散乱線の二次元強度分布と、バイオセル内の生体試料の関係を説明するための概略図。
【図3】反射型電子顕微鏡による連続撮影を説明するための概略的なタイムチャート。
【図4】変形運動計測装置の動作を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0043】
1 変形運動計測装置
2 撮影装置
3 解析装置
4 反射型電子顕微鏡
5 透過型電子顕微鏡
6 チャンバ
8 試料
9 試料台
10 駆動装置
11 生体試料
12 バイオセル
15 入射線
16 電子銃
17 絞り
18 電磁レンズ
19 センサ
20 電磁レンズ
21 反射散乱線
23 コントローラ
25 電子銃
26 絞り
27 電磁レンズ
28 入射線
29 センサ
30 電磁レンズ
31 透過線
32 コントローラ
41 画像記憶部
42 処理部
46 第1の計算モデル
47 第2の計算モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に保持された被観察物の変形及び運動を計測するための計測装置であって、前記被観察物は第1の時間から第2の時間の間変形及び運動を行い、かつ前記被観察物の変形及び運動が前記容器の表面を変形させるものにおいて、
前記容器の表面に計測線を照射する照射部と、前記容器の表面で反射及び散乱された計測線の二次元強度分布を検出する検出部とを有し、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの時間間隔を隔てた個々の撮影時刻における前記二次元強度分布である連続画像を撮影する第1の撮影部と、
前記容器に計測線を照射する照射部と、前記容器及び被観察物を透過した計測線を検出する検出部とを有し、前記第2の時刻に静止した前記容器の表面の三次元形状である容器表面静止画像と、前記第2の時刻に静止した前記被観察物の三次元形状である被観察物静止画像とを撮影する第2の撮影部と、
前記連続画像、前記容器表面静止画像、及び前記被観察物静止画像に基づいて、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの個々の前記撮影時刻における前記被観察物の変形及び運動を算出する解析部と
を備えることを特徴とする変形運動計測装置。
【請求項2】
前記解析部は、前記撮影時刻の一つにおける前記被観察物の変形及び運動を、その撮影時刻の直前の撮影時刻における前記被観察物の変形及び運動に基づいて仮定し、この仮定した前記被観察物の変形及び運動に基づいて算出した前記第反射及び散乱された計測線の二次元強度分布が、前記第1の撮影部で実際に撮影された前記撮影時刻の二次元強度分布と適合すれば、前記仮定した前記被観察物の変形及び運動を前記撮影時刻の被観察物の変形及び運動として決定することを特徴とする、請求項1に記載の変形運動計測装置。
【請求項3】
容器内に保持された被観察物の変形及び運動を計測するための計測方法であって、前記被観察物は第1の時間から第2の時間の間変形及び運動を行い、かつ前記被観察物の変形及び運動が前記容器の表面を変形させるものにおいて、
前記第1の時間から前記第2の時間の間、時間間隔を隔てた個々の撮影時刻毎に、前記容器の表面に計測線を照射して前記容器の表面で反射及び散乱された計測線の二次元強度分布を撮影し、
前記第2の時刻以降に前記容器に計測線を照射し、前記容器及び前記被観察物を透過した計測線により、前記第2の時刻に静止した前記容器の表面の三次元形状である容器表面静止画像と、前記第2の時刻に静止した前記被観察物の三次元形状である被観察物静止画像とを取得し、
前記連続画像、前記容器表面静止画像、及び前記被観察物静止画像に基づいて、前記第1の時刻から前記第2の時刻までの個々の前記撮影時刻における前記被観察物の変形及び運動を算出することを特徴とする、変形運動計測方法。
【請求項4】
前記撮影時刻の一つにおける前記被観察物の三次元形状及び運動を、その撮影時刻の直前の撮影時刻における前記被観察物の変形及び運動に基づいて仮定し、
前記仮定した前記被観察物の形状及び運動に基づいて前記計測線の反射及び散乱の二次元強度分布を算出し、
前記仮定した前記被観察物の形状及び運動に基づいて算出した二次元強度分布と、前記第1の撮影部で実際に撮影された前記撮影時刻の二次元強度分布と比較し、
前記仮定した前記被観察物の三次元形状及び運動に基づいて算出した二次元強度分布が、前記第1の撮影部で実際に撮影された前記撮影時刻の二次元強度分布と適合すれば、前記仮定した前記被観察物の形状及び運動を前記撮影時刻の被観察物の形状及び運動に決定することを特徴とする、請求項3に記載の変形運動計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−173002(P2006−173002A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366263(P2004−366263)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】