説明

変速機の振動抑制装置

【課題】簡単な構造で変速機構を収容する収容部材の振動レベルを十分に低減し、収容部材から生ずる騒音を顕著に低減することができる変速機の振動抑制装置を提供する。
【解決手段】変速機構を収容するトランスミッションケース16と、トランスミッションケース16に生ずる振動を抑制するオイルセパレータ7と、を備えた変速機の振動抑制装置において、オイルセパレータ7が、トランスミッションケース16内に収容され、トランスミッションケース16に固定された一方端部7aおよびインシュレータ8を介してトランスミッションケース16に弾性的に支持された他方端部7bを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の振動抑制装置、詳しくは、変速機構を収容する収容部材が振動抑制部材を支持することにより、収容部材の振動を抑制するようにした変速機の振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の変速機の振動抑制装置として、例えば、収容部材としての変速機ケースと、変速機ケースに設けられた開口部と、開口部を閉塞するカバー部材とを備え、このカバー部材の略中央部を変速機ケースの内部から外側方向に所定の荷重で押圧するカバー部材押圧手段を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この従来の変速機の振動抑制装置においては、カバー部材押圧手段による押圧力を、カバー部材の略中央部で変速機ケースの内側から外側に向かって作用させることにより、カバー部材が膜振動するとき、そのカバー部材の中央付近で、カバー部材押圧手段による押圧力を、振幅変動の方向に作用させ、収容部材の一部を構成するカバー部材の膜振動を抑制するようにしている。
【特許文献1】特開2006−316866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述のような従来の変速機の振動抑制装置においては、変速機ケースの開口部を閉塞するカバー部材と、このカバー部材を変速機ケースの内部から外側方向に押圧するカバー部材押圧手段との二つの部品で構成されており、カバー部材の振動を抑制するための部品が変速機ケースに新たに設けられているために、変速機の部品点数が増えてしまうとともに、構造が複雑になってしまうという問題があった。
また、カバー部材の振動を抑制するためのカバー部材押圧手段の両端部が、変速機ケースに形成された孔間谷部に嵌まり込んでおり、その両端部は変速機ケースに固定支持されている。また、カバー部材押圧手段の中央部は、カバー部材の下面に密着しカバー部材の下面を押圧するように配置されている。
そのために、カバー部材が膜振動するとき、カバー部材押圧手段の両端部および中央部を介してカバー部材の膜振動がカバー部材押圧手段に伝達されてしまい、カバー部材に励起される振動とカバー部材押圧手段に伝達された振動のモードが近似したものとなってしまう。その結果、カバー部材の振動のレベルの低減が不十分となり、カバー部材を含んで構成されている収容部材から生ずる騒音が十分に低減されないという問題があった。
【0004】
本発明は、前述のような従来の問題を解決するためになされたもので、簡単な構造で変速機構を収容する収容部材の振動レベルを十分に低減し、収容部材から生ずる騒音を顕著に低減することができる変速機の振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る変速機の振動抑制装置は、上記目的達成のため、(1)変速機構を収容する収容部材と、前記収容部材に生ずる振動を抑制する振動抑制部材と、を備えた変速機の振動抑制装置において、前記振動抑制部材が、前記収容部材内に収容され、前記収容部材に固定された一方端部と、弾性部材を介して前記収容部材に弾性的に支持された他方端部と、前記収容部材の内壁面と離隔した中間部と、を有することを特徴とする。
【0006】
この構成により、変速機構の振動が収容部材に伝達され、収容部材に振動が励起されたとき、収容部材に固定されている振動抑制部材の一方端部から振動抑制部材に振動が伝達され、振動抑制部材に振動が励起される。このとき、振動抑制部材は、中間部と他方端部で収容部材とは異なった振動態様で振動する。すなわち、振動抑制部材に励起される振動は、収容部材の振動に対して異なる振動モードとなっている。そのため、振動抑制部材の他方端部と収容部材との間に介在する弾性部材が変形し、振動抑制部材の振動エネルギー(J)が熱エネルギー(J)に変換され、振動抑制部材の振動レベル(dB)が減少するとともに、振動抑制部材の一方端部支持する収容部材の振動レベルも減少する。その結果、収容部材から放射される騒音が減少する。
【0007】
上記(1)に記載の変速機の振動抑制装置は、好ましくは、(2)前記振動抑制部材が、前記収容部材の内壁面に沿って湾曲した板状の湾曲部を有する板状体で構成される。
【0008】
この構成により、振動抑制部材が湾曲部を有するので、一方端部で収容部材に固定され、他方端部で弾性部材を介して収容部材に弾性的に支持された状態で振動抑制部材に振動が励起されたとき生ずる固有振動数を、簡単な構造で複数存在させることができる。また、収容部材の内部に収容される他の構成要素との干渉が防止され、省スペース化が促進される。
【0009】
上記(1)または(2)に記載の変速機の振動抑制装置においては、好ましくは、(3)前記振動抑制部材および前記弾性部材が、前記収容部材に生ずる振動を、0.5kHzないし3kHzの周波数範囲で抑制するよう構成される。
【0010】
この構成により、収容部材に生ずる振動が0.5kHzないし3kHzの周波数範囲、すなわち、可聴範囲のうち比較的大きな騒音が発生する周波数範囲で抑制されるので、収容部材から生ずる騒音を効果的に減少させることができる。
【0011】
上記(1)ないし(3)に記載の変速機の振動抑制装置においては、好ましくは、(4)前記収容部材が、前記変速機構を潤滑する潤滑油を内部に貯留するケースからなり、前記振動抑制部材が、前記ケース内に貯留された潤滑油と前記変速機構とを隔てるオイルセパレータで構成される。
【0012】
この構成により、収容部材がケースからなり振動抑制部材がオイルセパレータで構成されているので、変速機の部品点数を増加させることなく、簡単な構造で変速機の振動抑制装置が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な構造で変速機構を収容する収容部材の振動レベルを十分に低減し、収容部材から生ずる騒音を顕著に低減することができる変速機の振動抑制装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10が適用される車両用変速機1の断面図であり、図2は、本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10の部分斜視図であり、図3は、本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10の部分拡大断面図であり、図4は、図3のA−A断面を示す断面図である。
【0016】
まず、構成について説明する。
変速機の振動抑制装置10は、車両に搭載される車両用変速機1の一部を構成している。車両は、大型自動車、普通自動車などの車種からなり、例えば、横置きの4気筒ガソリンエンジンを搭載した普通自動車で構成されている。
【0017】
図1に示すように、車両用変速機1は、変速機構2と、ファイナルドリブンギヤ3と、ファイナルドリブンギヤ3と連結されたディファレンシャル4と、ディファレンシャル4に連結された左ドライブシャフト5および右ドライブシャフト6と、振動抑制部材としてのオイルセパレータ7と、弾性部材としてのインシュレータ8と、収容部材としてのケース19とを含んで構成されている。
【0018】
変速機構2は、図示しないエンジンの動力が伝達されるインプットシャフト11と、インプットシャフト11に設けられた複数の変速ギヤ12と、変速ギヤ12に噛み合うようアウトプットシャフト13に設けられた複数の変速ギヤ14と、この変速ギヤ14と同軸上に設けられ、ファイナルドリブンギヤ3と噛み合うファイナルドライブギヤ15と、これらの変速ギヤ12および変速ギヤ14の噛み合わせを切り替えるよう、インプットシャフト11およびアウトプットシャフト13に設けられた複数のスリーブ9と、図示しないシフトロッドおよびシフトフォークとを含んで構成されている。
【0019】
図2に示すように、変速機の振動抑制装置10は、オイルセパレータ7と、インシュレータ8と、オイルセパレータ7を支持するケース19を構成するトランスミッションケース16の一部とを含んで構成されている。
【0020】
オイルセパレータ7は、所定の板厚を有する板状体からなり、トランスミッションケース16に固定される一方端部7aと、インシュレータ8を介してトランスミッションケース16に弾性的に支持される他方端部7bと、トランスミッションケース16の内壁面16gから離隔する中間部7cとを有している。
トランスミッションケース16の内壁面に沿って所定の半径で湾曲した湾曲部7dを有している。一方端部7aには、屈曲部7e、7f、7gが形成されており、屈曲部7e、7f、7gには、貫通孔7h、7i、7jが形成されている。他方端部7bには、インシュレータ8が装着されるようになっている。
【0021】
インシュレータ8は、例えば、ゴム、エラストマー、プラスチックの高分子材料などの弾性材料からなり、断面が略四角形の棒状体で形成されており、その長手方向に沿って、所定の幅および深さの溝8aを有している。この溝8aには、オイルセパレータ7の他方端部7bが挿入されるようになっている。
【0022】
ケース19は、図1に示すように、トランスミッションケース16と、トランスアクスルケース17とを含んで構成されている。トランスミッションケース16およびトランスアクスルケース17により内部空間が画成されており、図示しないオイルポンプから潤滑油が内部空間内に供給され貯留されて各潤滑要素が潤滑されるようになっている。また、トランスミッションケース16の左ドライブシャフト5の挿通部、トランスアクスルケース17の右ドライブシャフト6の挿通部には、図示しないオイルシールが装着され潤滑油が外部に漏出しないようになっている。
【0023】
トランスミッションケース16は、例えば、ダイキャストにより成形されたアルミニウムなどの軽量な金属材料からなり、全体の厚みが薄く形成されて軽量化されるとともに、補強すべき所定の箇所にはリブが形成され、高い剛性を有している。また、トランスミッションケース16の内部には、インプットシャフト11、アウトプットシャフト13および左ドライブシャフト5などのシャフトを回転可能に支持する軸受用の保持穴が形成され、この保持穴に軸受が装着されるようになっている。
【0024】
また、図2に示すように、トランスミッションケース16の内壁部16aには、オイルセパレータ7を固定するためのねじ穴16b、16c、16dが所定のねじ径および深さで形成されている。さらに、ねじ穴16b、16c、16dから軸方向に離隔した位置に、所定の長さ、幅を有し、軸方向に所定の深さを有する溝16eが形成されており、この溝16eには、インシュレータ8が挿入されるようになっている。トランスミッションケース16の厚み、リブの形成箇所およびその大きさ、形状、ねじ穴の大きさおよび深さ、溝16eの長さ、幅および深さなどの寸法は、車両用変速機1の構造、大きさ、形状などの仕様、変速の設定条件、オイルセパレータ7およびインシュレータ8の構造、大きさ、形状などの設定条件などにより適宜選択される。
【0025】
トランスアクスルケース17は、トランスミッションケース16と同様に、ダイキャストにより成形されたアルミニウムなどの軽量な金属材料からなり、全体の厚みが薄く形成されて軽量化されるとともに、補強すべき所定の箇所にはリブが形成され、高い剛性を有している。このトランスアクスルケース17は、一端部でトランスミッションケース16にボルトなどの締結手段により固定されるとともに、他端部で図示しないエンジンのシリンダブロックにボルトなどの締結手段により固定されており、シリンダブロック、トランスミッションケース16およびトランスアクスルケース17が一体化されている。また、トランスアクスルケース17の内部には、インプットシャフト11および右ドライブシャフト6などのシャフトを回転可能に支持する軸受用の保持穴が形成され、この保持穴に軸受が装着されるようになっている。
【0026】
図3に示すように、インシュレータ8がトランスミッションケース16の溝16eに挿入され、この溝16eを形成するトランスミッションケース16の内壁面に密着して係合している。さらに、オイルセパレータ7の他方端部7bが、インシュレータ8の溝8aに挿入され、この溝8aを形成するインシュレータ8の内壁面に密着して係合している。
【0027】
したがって、オイルセパレータ7の他方端部7bがインシュレータ8を介してトランスミッションケース16に弾性的に支持されているので、オイルセパレータ7が振動したとき、インシュレータ8が主に剪断変形し、エネルギー保存の法則により振動エネルギー(J)が熱エネルギー(J)に変換されトランスミッションケース16の下部の振動レベル(dB)が低減されるようになっている。ここで、振動レベルとは、振動の大きさをいい、例えば、JIS C1510−1995に既定されている振動感覚補正特性および動特性により人体の感覚に基づく補正がなされ、基準値でレベルがされたものなどを意味する。
【0028】
図3および図4に示すように、オイルセパレータ7の一方端部7aの屈曲部7f、7g、7hが、それぞれボルト21およびワッシャ22により、トランスミッションケース16に固定されている。したがって、オイルセパレータ7の一方端部7aがトランスミッションケース16に固定されて支持されているので、トランスミッションケース16が振動したとき、一方端部7aを介してトランスミッションケース16の振動がオイルセパレータ7に伝達されるようになっている。
【0029】
また、図4に示すように、オイルセパレータ7は、変速ギヤ14とトランスミッションケース16の内壁面16gとの間に配置されているので、変速ギヤ14と、トランスミッションケース16の内壁面16gの上部に貯留された潤滑油とが離隔されている。特に車両が運転状態にあり、変速機構2が動作しているとき、オイルセパレータ7により、潤滑油が変速ギヤ14から離隔され、変速ギヤ14に潤滑油の撹拌抵抗が生じないようになっている。また、オイルセパレータ7に図示しない小径のオイル孔が形成されており、内壁面16gの上部に滞留した潤滑油がオイル孔から変速ギヤ14側に少しずつ供給されるようになっている。その結果、変速ギヤ14が回転すると、変速ギヤ14に撹拌抵抗が生じなくなるとともに、適切な潤滑がなされるようになっている。
【0030】
次いで、本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10におけるオイルセパレータ7およびトランスミッションケース16が有している固有振動数について説明する。この固有振動数は、オイルセパレータ7が、その一方端部7aでトランスミッションケース16に固定されて支持され、その他方端部7bでインシュレータ8を介してトランスミッションケース16に弾性的に支持された状態における固有振動数を意味している。
【0031】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10におけるオイルセパレータ7またはトランスミッションケース16を加振したときの、周波数特性を表したグラフであり、図6は、本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10の振動の特性を示すグラフであり、図6(a)オイルセパレータ7の周波数特性を示し、図6(b)は、トランスミッションケース16の周波数特性を示し、図6(c)は、トランスミッションケース16から放射される放射音と周波数との関係を示す。
【0032】
図5のグラフにおいて、太い実線および細い実線で表される各折れ線は、オイルセパレータ7およびトランスミッションケース16に加わる振動の周波数(Hz)とその振動におけるオイルセパレータ7およびトランスミッションケース16の加振点イナータンス(dB)との関係を示している。図5のグラフにおいて、加振点イナータンスの大きい山形の部分が、オイルセパレータ7およびトランスミッションケース16の各固有振動数(Hz)を表している。
【0033】
ここで加振点イナータンスは、被測定物に加振力(N)を作用させたときの、被測定物の加振点における加速度(単位当たりの加速度)の大きさを表している。例えば、弾性体からなる被測定物に振幅Fの周期的な加振力(N)を作用させたとき、被測定物の他の1点で生じる加速度をA(m/s)とすると,イナータンスは、A/F((m/s)/N)で表される。
【0034】
また、この加振点イナータンスはdBの単位で表示してもよい。例えば、基準となる加振点イナータンスをIkとし、比較対象の加振点イナータンスをIhとすると、加振点イナータンス(dB)は、常用対数の比、すなわち、dB=20log10(Ih/Ik)で表される。
この加振点イナータンスにおいては、被測定物に加振力(N)を作用させて測定したとき、その測定値が大きいほど、被測定物の加速度が大きいことを意味し、逆にその測定値が小さいほど、被測定物の加速度が小さいことを意味する。
【0035】
また、固有振動数は、固体の振動が特定の周波数のときに、他の周波数における振幅よりも大きい振幅となる、いわゆる共振周波数または共振点をいう。なお、固有振動数は、その固体の構造、形状および質量などの物理量により異なり、単一のものや複数存在するものがある。
【0036】
図6のグラフにおけるオイルセパレータ7およびトランスミッションケース16の折れ線は、以下の固有振動数を求める測定方法により測定された測定値を表したものである。すなわち、オイルセパレータ7の場合、オイルセパレータ7の表面部を加振用ハンマー等の加振手段で、この表面部に対し直交する方向である軸方向に加振させ、その際の音波からなる応答波をマイクで検出するとともに、その応答波を周波数解析して固有振動数を求める測定方法(例えば、特開平8−304354号公報参照)により測定された測定値を表したものである。トランスミッションケース16の場合も、オイルセパレータ7の場合と同様にして測定しその測定値を表したものである。
【0037】
図5に示すように、オイルセパレータ7は、0.5kHzないし3kHz(500Hzないし3000Hz)の周波数範囲で複数の固有振動数(Hz)を有している。500Hzないし3000Hzとしたのは、20Hzないし2万Hzの人が音として感じることができる周波数帯域である可聴域の内、500Hz未満の範囲および3000Hzを超える範囲では、人が不快な騒音と感ずる程度が比較的に低く、騒音低減の必要性が比較的に低いからである。したがって、可聴範囲のうち比較的大きな騒音が発生する周波数範囲で抑制されるので、収容部材から生ずる騒音を効果的に減少させることができる。
【0038】
具体的には、前述の測定方法により測定した結果、オイルセパレータ7は、周波数が約600Hzのω06、約1400Hzのω14、約1800Hzのω18、約2300Hzのω23、約2700Hzのω27の5箇所に、加振点イナータンスが増大する固有振動数を有している。この場合、オイルセパレータ7の表面が凹凸がなく平坦に形成されていると、オイルセパレータ7は、固有振動数をより多く有する。
【0039】
トランスミッションケース16は、オイルセパレータ7と同様に測定した結果、複数の固有振動数(Hz)を有している。具体的には、トランスミッションケース16は、約600Hzのω06、約1400Hzのω14、約1800Hzのω18、約2300Hzのω23の4箇所に固有振動数を有している。
【0040】
次いで、車両用変速機1の動作について簡単に説明する。
図1に示すように、運転者のシフト操作により図外のシフトロッドおよびシフトフォークが動作し、スリーブ9が所定の変速段の位置に移動し、例えば、運転者の意図した1段変速に切り替えられる。このとき、図外のエンジンの動力がインプットシャフト11に伝達されると、動力は、切り替えられた変速ギヤ12から変速ギヤ14に1段変速の変速比で伝達される。続いて、動力は、変速ギヤ14からファイナルドライブギヤ15を介してファイナルドリブンギヤ3に伝達され、ディファレンシャル4から左ドライブシャフト5および右ドライブシャフト6に伝達される。
【0041】
次いで、変速機の振動抑制装置10の作用について説明する。
図7は、本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10におけるオイルセパレータ7およびトランスミッションケース16の下部16fが振動した状態を示す説明図である。
【0042】
車両用変速機1に図示しないエンジンの動力が伝達されると、選択された変速段でインプット側の変速ギヤ12からアウトプット側の変速ギヤ14に動力が伝達される。このとき、これらのギヤに生じた振動がトランスミッションケース16に伝播される。すなわち、相互に噛み合った変速ギヤ12および変速ギヤ14のギヤ同士の歯当たりの衝撃によって生じる振動や、ギヤ自体に発生した振動は、インプットシャフト11およびアウトプットシャフト13などの固体を経由してトランスミッションケース16に伝播される。
【0043】
トランスミッションケース16に伝達される振動をKsとすると、振動Ksは、固体からの振動伝播、空気や潤滑油からの振動伝播により、乗員室内にも伝達され、特に、可聴音の周波数範囲で振幅などが大きくなると不快な騒音となることがある。
【0044】
図7に示すように、本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10においては、トランスミッションケース16の振動Ksが励起され、トランスミッションケース16に固定されて支持されているオイルセパレータ7の一方端部7aからオイルセパレータ7に振動Ksが固体からの振動伝播、空気からの振動伝播により伝達される。オイルセパレータ7に伝達される振動をPsとすると、オイルセパレータ7には振動Psが励起される。
【0045】
このとき、振動Psは、トランスミッションケース16の振動Ksに対し、変位(mm)、速度(m/s)、加速度(m/s)、振動の位相などの少なくともいずれかが異なる振動態様となっている。すなわち、振動Psと振動Ksは異なる振動モードとなっているために、オイルセパレータ7の他方端部7bとトランスミッションケース16との間に介在するインシュレータ8が、主にIs方向に変形し、オイルセパレータ7の振動エネルギー(J)が熱エネルギー(J)に変換され、オイルセパレータ7の振動レベル(dB)が減少する。
【0046】
同時に、オイルセパレータ7の一方端部7aを固定するトランスミッションケース16の振動レベルも減少する。すなわち、オイルセパレータ7の他方端部7bとトランスミッションケース16との間に介在するインシュレータ8が、トランスミッションケース16の振動レベルを減少させる減衰作用を有する。
【0047】
特に、オイルセパレータ7が有している固有振動数と、トランスミッションケース16が有している固有振動数とが合致したとき、前述のように、互いに振動モードが異なっているので、オイルセパレータ7の振動Psとトランスミッションケース16の振動Ksとが、相互に干渉し、互いの振動レベルが低減される。特に、振動Psと振動Ksの位相が約180度異なる逆位相となっている場合には、両者が干渉して互いの振動が減衰し振動レベルが顕著に低減される。
【0048】
図6(a)に示すように、オイルセパレータ7においては、加振点イナータンスが増大する特定の周波数、すなわち、固有振動数がω1ないしω6の6箇所に存在している。他方、図6(b)に示すように、トランスミッションケース16においては、固有振動数がω2、ω5およびω6の3箇所に存在している。したがって、オイルセパレータ7とトランスミッションケース16は、固有振動数がω2、ω5およびω6の3箇所において一致している。
【0049】
この場合、図6(c)に示すように、トランスミッションケース16の振動Ksの振動レベルは、固有振動数ω2、ω5およびω6において減少するので、トランスミッションケース16から放射される放射音の音圧レベル(dB)も比例して点線で表される音圧レベルから実線で表される音圧レベルまで減少する。
【0050】
オイルセパレータ7とトランスミッションケース16の固有振動数を一致させるには、いずれかの機械的特性を変えることにより実現することができる。具体的には、オイルセパレータ7の板厚、大きさ、形状および材質などを変えることにより、その機械的特性を変えることができ、固有振動数を以下のようにして調整することができる。
【0051】
例えば、オイルセパレータ7を1自由度の振動系の剛体として近似させ、この剛体の固有振動数をω(Hz)とし、この剛体の条件、例えば、片持支持などの支持条件に基づく定数をknとし、縦弾性係数をE(N/m)、断面二次モーメントをI(m)、断面積をA(m)、長さをL(m)とすると、固有振動数ωは、次式(1)で表される。
【0052】
【数1】


この式(1)に示されるように、オイルセパレータ7の形状や密度などと固有振動数ωとは、比例的な関係にあるので、オイルセパレータ7の材質に関する縦弾性係数E(N/m)、形状に関する断面二次モーメントI(m)および断面積A(m)や、質量に関する密度ρ(kg/m)などを調整することにより、オイルセパレータ7の固有振動数ωを調整して、トランスミッションケース16の固有振動数に合致させることができる。
【0053】
本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10は、1自由度の振動系の剛体に近似しているものの、オイルセパレータ7が湾曲部7dを有するとともに一方端部7aが3箇所の屈曲部7e、7f、7gで固定され、他方端部7bがインシュレータ8を介してトランスミッションケース16に弾性的に支持され、中間部7cがトランスミッションケース16の内壁面16gと離隔しているので、前述のようにトランスミッションケース16とは異なった複数の固有振動数を有している。また、トランスミッションケース16も複数の固有振動数を有しており、オイルセパレータ7の固有振動数とトランスミッションケース16の固有振動数とが合致する確率は高くなっている。したがって、オイルセパレータ7の固有振動数が多く存在するオイルセパレータ7を形成することが好ましい。
【0054】
図8は、本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10のトランスミッションケース16から放射される放射音の音圧レベル(dB)と周波数(Hz)との関係を示すグラフである。
図8に示すグラフは、トランスミッションケース16から放射された放射音の音圧レベル(dB)とトランスミッションケース16の振動周波数(Hz)の実測値を表しており、点線は従来技術のトランスミッションケースの音圧レベル、実線は本実施の形態におけるトランスミッションケース16の音圧レベルを表している。
【0055】
この音圧レベルおよび振動周波数は、車両用変速機1が搭載された車両を、外部から音の影響がないようにした実験室に駐車させ、実際の運転状態と同様の条件の下で、車両用変速機1から実測されたものである。
【0056】
具体的には、図7に示すように、トランスミッションケース16の近傍にマイク31を設置し音響測定器32によりトランスミッションケース16から放射された放射音の音圧レベルを実測している。また、トランスミッションケース16の下部表面部に振動センサ33を取り付け、振動計34によりトランスミッションケース16の振動周波数を実測している。
【0057】
ここで、本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10が、オイルセパレータ7の一方端部7aがトランスミッションケースに固定されて支持され、他方端部7bがインシュレータ8を介して弾性的に支持されているのに対して、従来技術の変速機の振動抑制装置においては、オイルセパレータの一方端部および他方端部の双方がトランスミッションケースに固定されて支持されている。したがって、従来技術の変速機の振動抑制装置は両端部が固定されて支持されている点で本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10と相違している。
【0058】
図8に示すグラフにおいて、点線で示される従来技術の音圧レベルが、本実施の形態では、トランスミッションケースの振動周波数が約1,300Hzのとき、約6dB減少しておりトランスミッションケースの振動周波数が約2,200Hzのとき、約2.5dB減少している。特に、騒音が問題となる音圧レベルの高い動周波数が約2,200Hzのときに、音圧レベルが約2.5dB減少している。この場合、実際に人の聴覚で感知してみると、発生していた不快な騒音が全く無くなり、騒音の問題が解消されていることが分かる。
【0059】
この点、本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10と比べ、従来の変速機の振動抑制装置におけるオイルセパレータは、その一方端部および他方端部の双方がトランスミッションケースに固定されて支持されているので、トランスミッションケースが振動すると、その一方端部および他方端部の双方からトランスミッションケースの振動が伝達され、トランスミッションケースの振動モードと、オイルセパレータの振動モードとが近似したものとなる。その結果、オイルセパレータがトランスミッションケースの振動レベルを減少させる減衰作用を有しないこととなる。
【0060】
このように、本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10は、インプットシャフト11の回転速度を変える変速機構2と、変速機構2を収容するトランスミッションケース16と、トランスミッションケース16に生ずる振動を抑制するオイルセパレータ7とを備え、オイルセパレータ7が、トランスミッションケース16内に収容され、トランスミッションケース16に固定された一方端部7aおよびインシュレータ8を介してトランスミッションケース16に弾性的に支持された他方端部7bを有することを特徴としている。オイルセパレータ7がトランスミッションケース16の内壁面に沿って湾曲した湾曲部7dを有する板状体からなり、0.5kHzないし3kHzの周波数範囲で複数の固有振動数(kHz)を有していることを特徴としている。
【0061】
この場合、変速機構2の振動がトランスミッションケース16に伝達され、トランスミッションケース16に振動が励起されたとき、トランスミッションケース16に固定されて支持されているオイルセパレータ7の一方端部7aからオイルセパレータ7に振動Ksが固体振動伝播により伝達され、オイルセパレータ7に振動Psが励起される。このとき、オイルセパレータ7に励起される振動Psは、トランスミッションケース16の振動Ksに対し、異なる振動モードとなっている。
【0062】
そのため、オイルセパレータ7の他方端部7bとトランスミッションケース16との間に介在するインシュレータ8が、主にIs方向に変形し、オイルセパレータ7の振動エネルギー(J)が熱エネルギー(J)に変換され、オイルセパレータ7の振動レベル(dB)が減少するとともに、オイルセパレータ7の一方端部7aを固定するトランスミッションケース16の振動レベルも減少する。すなわち、オイルセパレータ7の他方端部7bとトランスミッションケース16との間に介在するインシュレータ8が、トランスミッションケース16の振動レベルを減少させる減衰作用を有する。
【0063】
特に、オイルセパレータ7が湾曲部7dを有する板状体で形成されており、複数の固有振動数を有しているので、トランスミッションケース16が有している複数の固有振動数と合致し易く、互いに固有振動数が合致すると、互いに振動モードが異なっているので、オイルセパレータ7の振動Psとトランスミッションケース16の振動Ksとが、相互に干渉し、互いの振動レベルが低減される。その結果、トランスミッションケース16の振幅が低減され騒音が低減される。
【0064】
(第2の実施の形態)
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置20が適用される車両用変速機50の断面図であり、図10は、本発明の第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置20の部分斜視図であり、図11は、本発明の第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置20の部分拡大断面図であり、図12は、図11のA−A断面を示す断面図である。
【0065】
なお、第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置20においては、第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10のオイルセパレータ7が異なっているが、他の構成は同様に構成されている。したがって、同一の構成については、図1から図8に示した第1の実施の形態と同一の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
【0066】
まず、構成について説明する。
本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置20は、第1の実施の形態と同様に、車両用変速機50の一部を構成しており、車両は、大型自動車、普通自動車などの車種からなり、例えば、横置きの4気筒ガソリンエンジンを搭載した普通自動車で構成されている。
【0067】
図9に示すように、車両用変速機50は、変速機構2と、ファイナルドリブンギヤ3と、ファイナルドリブンギヤ3と連結されたディファレンシャル4と、ディファレンシャル4に連結された左ドライブシャフト5および右ドライブシャフト6と、振動抑制部材としてのオイルセパレータ57と、弾性部材としてのインシュレータ58と、収容部材としてのケース59とをさらに含んで構成されている。
【0068】
図10に示すように、変速機の振動抑制装置20は、オイルセパレータ57と、インシュレータ58と、オイルセパレータ57を支持するケース59の一部とを含んで構成されている。
【0069】
オイルセパレータ57は、第1の実施の形態と同様に、所定の板厚を有する板状体からなり、トランスミッションケース56に固定される一方端部57aと、トランスミッションケース56にインシュレータ58を介して弾性的に支持される他方端部57bと、トランスミッションケース56の内壁面56gと離隔する中間部57cとを有している。また、トランスミッションケース56の内壁面56gに沿って所定の半径で湾曲した湾曲部57dを有している。一方端部57aには、屈曲部57eが形成されており、屈曲部57eには、貫通孔57fが形成されている。他方端部57bには、インシュレータ58が装着されるようになっている。
【0070】
インシュレータ58は、第1の実施の形態と同様に、ゴム、エラストマー、プラスチックの高分子材料などの弾性材料からなり、断面が略四角形の棒状体で形成されており、その長手方向に沿って、所定の幅および深さの溝58aを有している。この溝58aには、オイルセパレータ57の他方端部57bが挿入されるようになっている。
【0071】
ケース59は、第1の実施の形態と同様に、トランスミッションケース56と、トランスアクスルケース17とを含んで構成されている。トランスミッションケース56およびトランスアクスルケース17により内部空間が画成されており、図示しないオイルポンプから潤滑油が内部空間内に供給され、各潤滑要素が潤滑されるようになっている。また、トランスミッションケース56の左ドライブシャフト5の挿通部、トランスアクスルケース17の右ドライブシャフト6の挿通部には、図示しないオイルシールが装着され潤滑油が外部に漏出しないようになっている。
【0072】
トランスミッションケース56は、第1の実施の形態と同様に、ダイキャストにより成形されたアルミニウムなどの軽量な金属材料からなり、全体の厚みが薄く形成されて軽量化されるとともに、補強すべき所定の箇所にはリブが形成され、高い剛性を有している。また、トランスミッションケース56の内部には、インプットシャフト11、アウトプットシャフト13および左ドライブシャフト5などのシャフトを回転可能に支持する軸受用の保持穴が形成され、この保持穴に軸受が装着されるようになっている。
【0073】
また、図10に示すように、トランスミッションケース56の内壁部56aには、オイルセパレータ57を固定するためのねじ穴56bが所定のねじ径および深さで形成されている。さらに、ねじ穴56bから軸方向に離隔した位置に、所定の長さ、幅を有し、軸方向に所定の深さを有する溝56cが形成されており、この溝56cには、インシュレータ58が挿入されるようになっている。トランスミッションケース56の厚み、リブの形成箇所およびその大きさ、形状、ねじ穴の大きさおよび深さ、溝56cの長さ、幅および深さなどの寸法は、車両用変速機50の構造、大きさ、形状などの仕様、変速の設定条件、オイルセパレータ57およびインシュレータ58の構造、大きさ、形状などの設定条件などにより適宜選択される。
【0074】
図11に示すように、インシュレータ5がトランスミッションケース56の溝56cに挿入され、この溝56cを形成するトランスミッションケース56の内壁面に密着して係合している。さらに、オイルセパレータ57の他方端部57bが、インシュレータ58の溝58aに挿入され、この溝58aを形成するインシュレータ58の内壁面に密着して係合している。したがって、オイルセパレータ57の他方端部57bがインシュレータ58を介してトランスミッションケース56に弾性的に支持されているので、オイルセパレータ57が振動したとき、インシュレータ58が主に剪断変形し、振動エネルギー(J)が熱エネルギー(J)に変換されトランスミッションケース56の下部の振動レベル(dB)が低減されるようになっている。
【0075】
図11および図12に示すように、オイルセパレータ57の一方端部57aの屈曲部57eが、ボルト61およびワッシャ62により、トランスミッションケース56に固定されている。したがって、オイルセパレータ57の一方端部57aがトランスミッションケース56に固定されて支持されているので、トランスミッションケース56が振動したとき、一方端部57aを介してトランスミッションケース56の振動がオイルセパレータ57に伝達されるようになっている。
【0076】
また、図12に示すように、オイルセパレータ57は、変速ギヤ14とトランスミッションケース56の内壁面56gとの間に配置されているので、変速ギヤ14が、トランスミッションケース56の内壁面56gの上部に貯留された潤滑油と離隔されている。特に車両が運転状態にあり、変速機構2が動作しているとき、オイルセパレータ57により、潤滑油が変速ギヤ14から離隔され、変速ギヤ14に潤滑油の撹拌抵抗が生じないようになっている。また、オイルセパレータ57に図示しない小径のオイル孔が形成されており、内壁面56gの上部に滞留した潤滑油がオイル孔から変速ギヤ14側に少しずつ供給されるようになっている。その結果、変速ギヤ14が回転すると、変速ギヤ14に撹拌抵抗が生じなくなるとともに、適切な潤滑がなされるようになっている。
【0077】
本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置20におけるオイルセパレータ57およびトランスミッションケース56は、第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10におけるオイルセパレータ7およびトランスミッションケース16が有している固有振動数とほぼ同様の固有振動数を有している。
【0078】
本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置20における車両用変速機50は、第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10における車両用変速機1と同様に動作する。
【0079】
次いで、変速機の振動抑制装置20の作用について説明する。
図13は、本発明の第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置20におけるオイルセパレータ57およびトランスミッションケース56の下部56fが振動した状態を示す説明図である。
【0080】
車両用変速機50に図示しないエンジンの動力が伝達されると、選択された変速段でインプット側の変速ギヤ12からアウトプット側の変速ギヤ14に動力が伝達される。
このとき、これらのギヤに生じた振動がトランスミッションケース56に伝播される。すなわち、相互に噛み合った変速ギヤ12および変速ギヤ14のギヤ同士の歯当たりの衝撃によって生じる振動や、ギヤ自体に発生した固有振動は、インプットシャフト11およびアウトプットシャフト13などの固体を経由してトランスミッションケース56に伝播される。同時に、トランスミッションケース56内の空気を媒体として、変速ギヤ12および変速ギヤ14の周囲に配置されているトランスミッションケース56などの構成要素にも伝播される。
【0081】
図13に示すように、第1の実施の形態と同様、トランスミッションケース56に伝達される振動Ksは、固体からの振動伝播、空気および潤滑油からの振動伝播により、乗員室内にも伝達され、特に、可聴音の周波数範囲で振幅などが大きくなると不快な騒音となる。
【0082】
本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置20においては、トランスミッションケース56の振動Ksが励起され、トランスミッションケース56に固定されて支持されているオイルセパレータ57の一方端部57aからオイルセパレータ57に振動Ksが固体振動伝播により伝達され、オイルセパレータ57に振動Psが励起される。
【0083】
このとき、オイルセパレータ57に励起される振動Psは、トランスミッションケース56の振動Ksに対し、変位(mm)、速度(m/s)、加速度(m/s)、位相などの少なくともいずれかが異なる振動モードとなっている。そのため、オイルセパレータ57の他方端部57bとトランスミッションケース56との間に介在するインシュレータ58が、主にIs方向に変形し、オイルセパレータ57の振動エネルギー(J)が熱エネルギー(J)に変換され、オイルセパレータ7の振動レベル(dB)が減少する。
【0084】
同時に、オイルセパレータ57の一方端部57aを固定するトランスミッションケース56の振動レベル)も減少する。すなわち、オイルセパレータ57の他方端部57bとトランスミッションケース56との間に介在するインシュレータ58が、トランスミッションケース56の振動レベルを減少させる減衰作用を有する。
【0085】
特に、オイルセパレータ57が有している固有振動数と、トランスミッションケース56が有している固有振動数とが合致したとき、前述のように、互いに振動モードが異なっているので、オイルセパレータ57の振動Psとトランスミッションケース56の振動Ksとが、相互に干渉し、互いの振動レベルが低減される。特に、振動Psと振動Ksの位相が約180度異なる逆位相となっている場合には、両者が干渉して互いの振動が減衰し振動レベルが顕著に低減される。
【0086】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、従来技術の音圧レベルが、トランスミッションケースの振動周波数が約1,300Hzのとき、約6dB減少しておりトランスミッションケースの振動周波数が約2,200Hzのとき、約2.5dB減少している。特に、騒音が問題となる音圧レベルの高い動周波数が約2,200Hzのときに、音圧レベルが約2.5dB減少している。この場合、実際に人の聴覚で感知してみると、発生していた不快な騒音が全く無くなり、騒音の問題が解消されていることが分かる。
【0087】
このように、本実施の形態に係る変速機の振動抑制装置20は、インプットシャフト11の回転速度を変える変速機構2と、変速機構2を収容するトランスミッションケース56と、トランスミッションケース56に生ずる振動を抑制するオイルセパレータ57とを備え、オイルセパレータ57が、トランスミッションケース56内に収容され、トランスミッションケース56に固定された一方端部57aおよびインシュレータ58を介してトランスミッションケース56に弾性的に支持された他方端部57bを有することを特徴としている。オイルセパレータ57がトランスミッションケース56の内壁面に沿って湾曲した湾曲部57dを有する板状体からなり、0.5kHzないし3kHzの周波数範囲で複数の固有振動数(kHz)を有していることを特徴としている。
【0088】
この場合、変速機構2の振動がトランスミッションケース56に伝達され、トランスミッションケース56に振動が励起されたとき、トランスミッションケース56に固定されて支持されているオイルセパレータ57の一方端部57aからオイルセパレータ57に振動Ksが固体振動伝播により伝達され、オイルセパレータ57に振動Psが励起される。
【0089】
このとき、オイルセパレータ57に励起される振動Psは、トランスミッションケース56の振動Ksに対し、異なる振動モードとなっている。そのため、オイルセパレータ57の他方端部57bとトランスミッションケース56との間に介在するインシュレータ58が、主に剪断変形し、オイルセパレータ57の振動エネルギー(J)が熱エネルギー(J)に変換され、オイルセパレータ7の振動レベル(dB)が減少する。
【0090】
同時に、オイルセパレータ7の一方端部57aを固定するトランスミッションケース56の振動レベルも減少する。すなわち、オイルセパレータ57の他方端部57bとトランスミッションケース56との間に介在するインシュレータ58が、トランスミッションケース16の振動レベルを減少させる減衰作用を有する。
【0091】
第1の実施の形態と同様に、オイルセパレータ57が湾曲部57dを有する板状体で形成されており、複数の固有振動数を有しているので、トランスミッションケース56が有している複数の固有振動数と合致し易く、互いに固有振動数が合致すると、互いに振動モードが異なっているので、オイルセパレータ57の振動Psとトランスミッションケース56の振動Ksとが、相互に干渉し、互いの振動レベルが低減される。その結果、トランスミッションケース56の振幅が低減され騒音が低減される。
【0092】
第1または第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10、20においては、車両用変速機1、50を変速機構2、シフトロッドおよびシフトフォークからなる手動変速機の場合について説明したが、本発明の変速機の振動抑制装置においては、車両用変速機を他の変速機やエンジンなどの潤滑部材を構成要素とするものであってもよい。
例えば、車両用変速機は、無段変速(CVT)で構成される自動変速機、モータジェネレータで構成される自動変速機、遊星歯車機構で構成される自動変速機、シリンダブロックおよびオイルパンにより構成されるエンジン部分などであってもよい。
【0093】
また、収容部材をトランスミッションケース16、56で構成する場合について説明したが、他のケースであってもよい。例えば、収容部材をトランスアクスルケース、オイルパンなどで構成してもよい。また、オイルセパレータ7を板状の湾曲部7dを有するもので構成した場合について説明したが、本発明の変速機の振動抑制装置においては、他の形状で構成してもよい。例えば、オイルセパレータを平坦な板状体、棒状部材を並行にして配置したもの、板ばねなどのばね部材で構成してもよい。
【0094】
また、オイルセパレータ7、57の一方端部7a、57aに屈曲部7e、7f、7g、57eを形成し、この屈曲部7e、7f、7g、57eをボルト21、ワッシャ22によりトランスミッションケース16、56に固定した場合について説明したが、本発明の変速機の振動抑制装置においては、オイルセパレータ7、57を他の固定手段でトランスミッションケース16、56に固定してもよい。例えば、オイルセパレータ7、57の一方端部7a、57aを直接トランスミッションケース16、56に圧入や溶接などの結合手段により固定してもよい。
【0095】
また、インシュレータ8を断面が略四角形の棒状体で形成した場合について説明したが、本発明の変速機の振動抑制装置においては、他の形状で形成したものでもよい。例えば、インシュレータ8を立方体や球状のボールで形成し、この立法体をオイルセパレータに形成した貫通孔に挿通させるようにしてもよい。
【0096】
また、第1または第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置10、20においては、振動抑制部材をオイルセパレータ7、57で構成した場合について説明したが、本発明の変速機の振動抑制装置においては、振動抑制部材を他の部材で構成してもよい。例えば、収容部材の内壁面に沿って湾曲した板状の湾曲部を有する振動抑制プレートで構成してもよい。この場合、例えば、収容部材内の上方部や側面部に、振動抑制プレートの一方端部を固定し、他方端部を弾性部材を介して弾性的に支持するようにしてもよい。
【0097】
以上説明したように、本発明によれば、簡単な構造で変速機構を収容する収容部材の振動レベルを低減して騒音を低減することができる変速機の振動抑制装置を提供することができるという効果を奏し、車両などの変速機の振動抑制装置全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置が適用される車両用変速機の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置の部分斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置の部分拡大断面図である。
【図4】図4のA−A断面を示す断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置におけるオイルセパレータまたはトランスミッションケースを加振したときの、周波数特性を表したグラフである。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置の振動の特性を示すグラフであり、図6(a)オイルセパレータの周波数特性を示し、図6(b)は、トランスミッションケースの周波数特性を示し、図6(c)は、トランスミッションケースから放射される放射音と周波数との関係を示す。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置におけるオイルセパレータおよびトランスミッションケースの下部が振動した状態を示す説明図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置のトランスミッションケースから放射される放射音の音圧レベル(dB)と周波数(Hz)との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置が適用される車両用変速機の断面図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置の部分斜視図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置の部分拡大断面図である。
【図12】図11のA−A断面を示す断面図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る変速機の振動抑制装置におけるオイルセパレータおよびトランスミッションケースの下部が振動した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0099】
1 車両用変速機
2 変速機構
3 ファイナルドリブンギヤ
4 ディファレンシャル
5 左ドライブシャフト
6 右ドライブシャフト
7、57 オイルセパレータ(振動抑制部材)
7a、57a 一方端部
7b、57b 他方端部
7c、57c 中間部
7d、57d 湾曲部
7e、7f、7g、57e 屈曲部
7h、7i、7j、57f 貫通孔
8、58 インシュレータ
8a、58a 溝
9 スリーブ
10、20 振動抑制装置
11 インプットシャフト
12 変速ギヤ
13 アウトプットシャフト
14 変速ギヤ
15 ファイナルドライブギヤ
16、56 トランスミッションケース
16a、56a 内壁部
16b、16c、16d ねじ穴
16e、56e 溝
16g、56g 内壁面
17 トランスアクスルケース
19、59 ケース(収容部材)
21、61 ボルト
22、62 ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機構を収容する収容部材と、前記収容部材に生ずる振動を抑制する振動抑制部材と、を備えた変速機の振動抑制装置において、
前記振動抑制部材が、前記収容部材内に収容され、前記収容部材に固定された一方端部と、弾性部材を介して前記収容部材に弾性的に支持された他方端部と、前記収容部材の内壁面と離隔した中間部と、を有することを特徴とする変速機の振動抑制装置。
【請求項2】
前記振動抑制部材が、前記収容部材の前記内壁面に沿って湾曲した板状の湾曲部を有することを特徴とする請求項1に記載の変速機の振動抑制装置。
【請求項3】
前記振動抑制部材および前記弾性部材が、前記収容部材に生ずる振動を、0.5kHzないし3kHzの周波数範囲で抑制するようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の変速機の振動抑制装置。
【請求項4】
前記収容部材が、前記変速機構を潤滑する潤滑油を内部に貯留するケースからなり、前記振動抑制部材が、前記ケース内に貯留された潤滑油と前記変速機構とを隔てるオイルセパレータからなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の変速機の振動抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−150511(P2009−150511A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330530(P2007−330530)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】