説明

変速機油組成物

【課題】従来よりも摩擦係数及び摩耗防止性能が向上している上、走行後の酸化劣化による金属間摩擦係数の低下を抑制した変速機油組成物を提供する。
【解決手段】基油に、(A)油溶性モリブデン化合物をモリブデン量として0.03〜0.1質量%、(B)酸化防止剤を0.01〜2質量%、(C)金属系清浄剤を金属量として0.01〜2質量%、(D)ホウ素含有無灰分散剤をホウ素量として0.005〜0.05質量%、及び(E)リン系極圧剤をリン量として0.01〜0.1質量%含有してなることを特徴とする変速機油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機油組成物、特にはベルト式無段変速機用の潤滑油として好適な組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化防止対策に伴い、二酸化炭素の排出が抑制される方向にある。このため、自動車についても、より一層燃費を改善することが求められている。現在、自動車用の自動変速機(AT)としては、トルクコンバーター、湿式クラッチ、遊星ギヤなどを組み合わせたタイプが主流である。該ATは、手動変速機(MT)と比較して運転操作が大幅に簡単であるという利点を有するものの、省燃費性に劣るという欠点がある。
【0003】
この一つの解決法として、無段変速機(CVT)を採用する動きがある。該CVTは、ATと異なり無段階に変速比が設定できる為、常にエンジン効率の高い領域での運転が可能になるという優れた省燃費性に加え、変速時のショックが無く、加減速の応答が素早いという利点もある。このような理由から、CVTは、現在主流のATに取って代わるとの見込みもある。
【0004】
上記CVTには様々なタイプが存在するが、中でもベルトタイプのものが主流である。このベルトタイプCVTは、駆動プーリと動力を伝達するためのベルトから構成されており、ベルトはエレメントと呼ばれる金属片とそれを保持する鋼帯より成る。但し、ベルトタイプCVTは、エンジン出力が大きくなると、ベルトとプーリとの間で滑りが生じ易くなるため、従来は小排気量の自動車に採用されるのが普通であった。しかしながら、省燃費の要求から、昨今、高出力エンジンにも採用される動きが出て来た。
【0005】
上記ベルトタイプCVTにおいて、エンジン出力を効率よく伝達するためには、プーリとベルトの滑りを防止する必要がある。しかしながら、滑りを防止するためにベルトを挟みこむ圧力を高めると、摩耗が増大するだけでなく、オイルポンプの負荷が増大する等、かえって燃費を悪化させてしまう面も出てきてしまう。このため、装置面の改良だけでなく、潤滑油に対しても、ベルトとプーリが滑りを生じ難くかつベルト及びプーリが摩耗し難いものが要求されるようになってきており、換言すれば、摩耗を防止するための潤滑性を有しながら、十分な動力伝達のためにプーリとベルトが滑らないように一定以上の摩擦力を有するものが要求されるようになってきた。
【0006】
これに対して、特開平9−263782号公報には、必要に応じて粘度指数向上剤を含有する基油に、スルフォネート、イミド系化合物等の無灰分散剤、酸アミド、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン等のモリブデン化合物、アミン系酸化防止剤を添加した無段変速機油組成物が開示されており、該組成物は、100℃における最小摩擦係数が0.1以上で、すべり速度Vにおける摩擦係数μdとすべり速度が0となる直前の摩擦係数μsの比μs/μdが1より小さい特徴がある。また、特開平9−263782号公報は、脂肪酸誘導体、部分エステル化合物、硫黄系酸化防止剤等を含んでいてもよいとしており、これにより、摩擦係数を長期間保持でき、かつスクラッチ現象を防止できるとしている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−263782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献は、摩擦係数を改善することに重点を置いているものの、高出力のエンジン動力を伝達するためには、摩擦係数の点で更に改善が必要である。また、前記特許文献に開示の組成物は、摩耗防止性能も十分とは言えず、さらに走行後の酸化劣化によって金属間摩擦係数が低下する課題も残っており、更なる改善が必要である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、従来よりも摩擦係数及び摩耗防止性能が向上している上、走行後の酸化劣化による金属間摩擦係数の低下を抑制した変速機油組成物、特にはベルト式無段変速機油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、高い摩耗防止性能と高い摩擦係数とを両立させることが可能な金属ベルト式無段変速機用潤滑油について鋭意検討を進めた結果、潤滑油基油に、(A)油溶性モリブデン化合物、(B)酸化防止剤、(C)金属系清浄剤、(D)ホウ素含有無灰分散剤、(E)リン系極圧剤を特定量配合し、さらに任意に(F)トリアゾール誘導体を配合した潤滑油が、摩擦係数が高い上、摩耗防止性能に優れ、更には、走行後の酸化劣化による金属間摩擦係数の低下が抑制されており、ベルト式無段変速機油組成物として特に好適であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明の変速機油組成物は、基油に、(A)油溶性モリブデン化合物をモリブデン量として0.03〜0.1質量%、(B)酸化防止剤を0.01〜2質量%、(C)金属系清浄剤を金属量として0.01〜2質量%、(D)ホウ素含有無灰分散剤をホウ素量として0.005〜0.05質量%及び(E)リン系極圧剤をリン量として0.01〜0.1質量%含有してなることを特徴とし、更に、(F)トリアゾール誘導体を0.01〜0.2質量%含有することが好ましい。
【0012】
また、本発明の変速機油組成物において、前記(B)酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤が好ましく、前記(C)金属系清浄剤としては、塩基価100 mgKOH/g以上の過塩基性アルカリ土類金属系清浄剤が好ましく、前記(D)ホウ素含有無灰分散剤としては、ホウ素を含有するコハク酸イミドが好ましく、前記(E)リン系極圧剤としては、リン酸トリエステルが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い極圧性と耐摩耗性を有し、かつ酸化劣化後も高い金属間摩擦係数を維持することが可能な変速機油組成物、特にはベルト式無段変速機油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を更に詳細に説明する。本発明の変速機油組成物に用いる基油としては、潤滑油基油が好ましく、公知の鉱油及び/又は合成油を用いることができる。例えば、鉱油としては、公知の方法により、原油を原料として製造されたニュートラル油や、ブライトストック、常圧蒸留留出油をフルフラールなどの溶剤で抽出処理し、得られたラフィネートをメチルエチルケトンなどの溶剤で脱ろう処理したもの、それをさらに高圧下にて水素精製して硫黄分などの不純物を除去したもの、などを挙げることができる。また、合成油としては、ポリ-α-オレフィン、多価アルコールエステル、ポリアルキレングリコールなどを挙げることができる。
【0015】
本発明の変速機油組成物に用いる基油は、粘度指数が120以上であることが好ましく、160〜200であることが更に好ましい。このような基材としては、ワックス、高度水素化精製処理油等を水素化異性化したもの、合成油等を挙げることができる。なお、粘度指数が120未満では、低温流動性が低下してしまう。また基油には、粘度指数向上剤を含んでいることが好ましい。
【0016】
本発明の変速機油組成物に用いる(A)油溶性モリブデン化合物の配合量は、モリブデン量で0.03〜0.1質量%であり、好ましくは、モリブデン量で0.045〜0.1質量%である。油溶性モリブデン化合物の配合量がモリブデン量で0.1質量%を超えると、油溶性モリブデン化合物が基油に溶解しなくなる。一方、油溶性モリブデン化合物の配合量がモリブデン量で0.02質量%未満では、金属間摩擦係数(以下μとする)が低下し、また、モリブデン量で0.03質量%未満では、μが酸化劣化後に低下する。
【0017】
上記(A)油溶性モリブデン化合物としては、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオフォスフェート(MoDTP)の他、アルキルリン酸モリブデン塩、カルボン酸モリブデン塩などの有機酸のモリブデン塩、さらにはモリブデン酸やリンモリブデン酸、ケイモリブデン酸などのアルキルアミン塩等が挙げられ、これらの中でも、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)及びモリブデン酸混合アミン塩が好ましい。また、油溶性モリブデン化合物としては、燃焼残分としてMoO3又はリンモリブデン酸となるものが好ましい。
【0018】
上記モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)は、下記一般式(1−1):
【化1−1】

で表される。式(1−1)において、R1は、炭素数4〜18の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基を表し、X1は、酸素原子又は硫黄原子を表し、その酸素原子と硫黄原子との比は1/3〜3/1である。R1は、好ましくはアルキル基であり、R1として、具体的には、ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソトリデシル基、ステアリル基等が挙げられる。なお、1分子中に存在する4個のR1は、同一であっても、異なっていてもよく、また、本発明の変速機油組成物には、R1の異なるMoDTCを2種以上混合して用いることもできる。
【0019】
また、上記モリブデン酸混合アミン塩は、モリブデン酸とアミン化合物とから得られる塩であり、ここで、アミン化合物としては、種々のアミンを使用することができる。モリブデン酸混合アミン塩としては、下記一般式(1−2):
【化1−2】

(式中、R1a、R1bは、それぞれ炭素数3〜24の炭化水素基であり、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、x、y、zはそれぞれ1〜3である)で表わされる化合物が挙げられる。R1a、R1bにより表される炭化水素基としては、例えば、炭素数3〜24のアルキル基、炭素数3〜24のアルケニル基、炭素数3〜24のシクロアルキル基、炭素数3〜24のアリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基などの炭化水素基を挙げることができる。前記アルキル基やアルケニル基は直鎖状であってもよいし、分枝鎖状であってもよい。炭化水素基の具体例としては、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、へキサデセニル、オクタデセニル、ジメチルシクロへキシル、エチルシクロヘキシル、メチルシクロヘキシルメチル、シクロへキシルエチル、プロピルシクロへキシル、ブチルシクロヘキシル、ヘプチルシクロヘキシル、ジメチルフェニル、メチルベンジル、フェネチル、ナフチル、ジメチルナフチル基などを挙げることができる。
【0020】
本発明の変速機油組成物に用いる(B)酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤が好ましく、これらは一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。該酸化防止剤の配合量は、変速機油組成物全量基準で0.01〜2.0質量%であり、好ましくは、変速機油組成物全量基準で0.1〜1.5質量%、更には0.2〜1.0質量%である。酸化防止剤の配合量が2.0質量%を超えると、酸化防止効果が飽和又は減少し、更に酸化劣化時に増粘の原因となる。一方、酸化防止剤の配合量が0.01質量%未満では、酸化防止効果が十分に得られず、また、酸化劣化後のμの低下を抑制できない。
【0021】
上記フェノール系酸化防剤としては、ヒンダートフェノール化合物が好ましく、特には下記一般式(2):
【化2】

で表される化合物が好ましい。式(2)において、R2は、炭素数3〜20の炭化水素基であることが好ましく、特に好ましい炭化水素基としてはオクチル基、ステアリル基が挙げられる。
【0022】
上記フェノール系酸化防止剤としては、オクチル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2-t-ブチル-4-メトキシフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,4-ジエチル-6-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、n-オクタデシル-β-(4'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2,4-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、スチレン化フェノール、スチレン化クレゾール、トコフェノール、2-t-ブチル-6-(3'-t-ブチル-5'-メチル-2'-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2'-ジヒドロキシ-3,3'-ジ(α-メチルシクロヘキシル)-5,5'-ジメチルジフェニルメタン、2,2'-エチリデン-ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2'-ブチリデン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、N,N'-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、N,N'-ヘキサメチレン-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ)ヒドロシンナミド、2,2'-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2-チオジエチレン-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-
4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-t-ブチル-4-メチル-6-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-t-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラキス[メチレン-3-(3',5'-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、カルシウム(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルモノエチルフォスフォネート)、没食子酸プロピル、没食子酸オクチル、没食子酸ラウリル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-t-アミルヒドロキノン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、アルキル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(特に、アルキル基の炭素数は6〜18)が好ましい。
【0023】
また、上記アミン系酸化防止剤としては、ジアリールアミン化合物が好ましく、特には下記一般式(3):
【化3】

で表される化合物、及び下記一般式(4):
【化4】

で表される化合物が好ましい。
【0024】
上記式(3)の化合物は、一般的には、N−フェニルベンゼンアミンとアルケンとを反応させて得られる化合物である。式(3)において、R3は、水素または炭化水素基であり、各ベンゼン環で5個ずつ、合計10個置換し得るが、少なくとも1個以上置換しているものが好ましい。また、炭化水素基の炭素数は3以上20以下が好ましく、R3が複数存在する場合、各R3は同じ炭化水素基であっても異なっていてもよい。より好適な炭化水素基としては、ブチル基からノニル基までの直鎖又は分枝鎖のアルキル基が挙げられる。
【0025】
また、上記式(4)において、R4は、炭素数が3以上20以下の炭化水素基であり、式(4)にはナフチル基及びフェニル基の両方に置換されているように記しているが、少なくともどちらか一方の基に1個以上置換されているものでも、両方の基にそれぞれ1個ずつ以上置換されているものでもよい。なお、R4が複数個の場合、各R4は同一であっても、異なっていてもよい。式(4)中のR4は直鎖又は分枝鎖のオクチル基ないしノニル基であることが好ましく、ナフチル基又はフェニル基のどちらか一方に1個置換されているものが特に好ましい。
【0026】
上記アミン系酸化防止剤としてとして、具体的には、p,p'-ジオクチルジフェニルアミン、N-フェニル-N'-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、ポリ2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、チオジフェニルアミン、4-アミノ-p-ジフェニルアミン等を挙げることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
本発明の変速機油組成物に用いる(C)金属系清浄剤の配合量は、金属量で0.01〜2質量%であり、好ましくは、金属量で0.01〜0.2質量%、より好ましくは、金属量で0.01〜0.1質量%である。金属系清浄剤の配合量が金属量で2質量%を超えると、μの上昇効果が飽和し、更に添加するとμが低下する。一方、金属系清浄剤の配合量が金属量で0.01質量%未満では、μが低下し、清浄性が十分得られない。
【0028】
上記(C)金属系清浄剤は、過塩基性であることが好ましく、塩基価が100 mgKOH/g以上であることが更に好ましく、塩基価が100〜500 mgKOH/gであることが特に好ましい。金属系清浄剤の塩基価が100 mgKOH/g未満では、μが低下する。
【0029】
上記(C)金属系清浄剤としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ナトリウム等の各種金属のスルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフォネート等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のスルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフォネート等のアルカリ土類金属系清浄剤が好ましく、カルシウムスルフォネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリシレート、カルシウムフォスフォネートが特に好ましい。
【0030】
本発明の変速機油組成物に用いる(D)ホウ素含有無灰分散剤の配合量は、ホウ素量で0.005〜0.05質量%であり、好ましくは、ホウ素量で0.01〜0.03質量%、窒素量で0.01〜0.2質量%である。ホウ素含有無灰分散剤の配合量がホウ素量で0.05質量%を超えると、μの上昇効果が飽和し、摩耗が増大する。一方、ホウ素含有無灰分散剤の配合量がホウ素量で0.005質量%未満では、μが低下する。
【0031】
上記(D)ホウ素含有無灰分散剤としては、ホウ素を含有するコハク酸イミドが好ましい。該ホウ素含有コハク酸イミドは、コハク酸イミド化合物に、ホウ酸等のホウ素化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和又はアミド化した、いわゆる変性コハク酸イミドである。なお、上記ホウ素含有コハク酸イミドは、コハク酸イミド化合物中に少なくとも0.1質量%ホウ素(ホウ素元素質量として)を含有していることが好ましい。この種のホウ素含有コハク酸イミド系分散剤は、自動変速機油、ギヤ油、金属加工油、作動油などの各種潤滑油用の無灰分散剤として市販されているので、これら市販品の中から適宜選択して使用することができる。
【0032】
上記ホウ素含有コハク酸イミドに用いるコハク酸イミド化合物としては、イミド化に際してポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した下記一般式(5):
【化5】

で表わされるような、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した下記一般式(6):
【化6】

で表わされるような、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドがあるが、本発明においては、モノタイプ及びビスタイプのいずれのコハク酸イミドも使用可能であり、またモノタイプとビスタイプを混合して使用することもできる。
【0033】
上記式(5)及び式(6)中のR5及びR6は、それぞれ独立してアルキル基又はアルケニル基を示し、ポリブテニル(PIB)基であることが好ましい。また、式(5)中のaは、1〜10、好ましくは2〜5の整数を示し、式(6)中のbは、1〜10、好ましくは2〜5の整数を示す。なお、R5やR6がポリブテニル(PIB)基の場合、該ポリブテニル(PIB)基の平均分子量は500〜5000の範囲が好ましい。
【0034】
本発明の変速機油組成物に用いる(E)リン系極圧剤の配合量は、リン量で0.01〜0.1質量%であり、好ましくは、リン量で0.02〜0.06質量%である。リン系極圧剤の配合量がリン量で0.1質量%を超えると、酸化安定性・腐食防止性が低下する。一方、リン系極圧剤の配合量がリン量で0.01質量%未満では、μが低下し、極圧性が十分に得られない。
【0035】
上記(E)リン系極圧剤としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩が好ましく、これらエステルは、モノエステル、ジエステル及びトリエステルのいずれでもよい。また、その他のリン系極圧剤として、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル等のリン酸エステル系化合物を使用することもできる。これらの中でも、本発明の変速機油組成物においては、リン酸トリエステルが更に好ましく、トリアリールフォスフェートがより一層好ましく、トリクレジルフォスフェート(TCP)が特に好ましい。
【0036】
上記(E)リン系極圧剤として、具体的には、下記一般式(7):
【化7】

で表わされる化合物が挙げられる。式(7)中、R7は、ヒドロカルビル基又は水素原子であり、ヒドロカルビル基であることが好ましく、また、各R7は、同一でも異なってもよい。ここで、ヒドロカルビル基としては、炭素数1〜30、好ましくは1〜20、特に好ましくは3〜9のアルキル基、アリール基、アルキルアリール基等が挙げられ、これらの中でも、アリール基が好ましい。また、X7a及びX7bは、それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子を示すが、X7bが酸素原子であることが好ましく、X7a及びX7bが何れも酸素原子であることが更に好ましい。
【0037】
また、本発明の変速機油組成物は、更に、(F)トリアゾール誘導体を含むことが好ましい。ここで、該トリアゾール誘導体の配合量は、変速機油組成物全量基準で0.01〜0.2質量%、特には0.02〜0.1質量%の範囲が好ましい。トリアゾール誘導体の配合量が0.2質量%を超えると、酸化・腐食防止効果が飽和または減少し、また、酸化劣化時に増粘の原因となる。一方、トリアゾール誘導体の配合量が0.01質量%未満では、酸化劣化後における金属間摩擦係数の低下を抑制する効果が小さい。
【0038】
上記(F)トリアゾール誘導体としては、ベンゾトリアゾール誘導体が好ましく、下記一般式(8):
【化8】

で示される化合物が更に好ましい。式(8)において、R8aは、水素原子又はメチル基を示し、また、R8bは、水素原子、或いは窒素原子及び/又は酸素原子を含有する炭素数0〜20の基を示し、窒素原子を含有する炭素数5〜20の基であることが好ましい。
【0039】
上記(F)トリアゾール誘導体として、具体的には、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-(4又は5)-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メチルアミン、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-[2'-ヒドロキシ-3',5'-ビス(α,α'-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-ブチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-tert-アシル-ヒドロキシフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジイソアミルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-4'-オクトオキシフェニル)-ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0040】
本発明の変速機油組成物には、上記の添加剤の他に、本発明の目的が損なわれない範囲で、従来から潤滑油に用いられる粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不活性剤、油性剤、界面活性剤、消泡剤、摩擦調整剤、防錆剤、腐食防止剤等の各種添加剤を用途に応じて配合することができる。なお、トルクコンバーターのロックアップクラッチに亜鉛化合物の劣化物が詰まるため、本発明の変速機油組成物は、ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を実質的に含まないことが好ましく、ZnDTPの含有量が亜鉛量として0.01質量%未満であることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に制限されるものではない。
【0042】
〔変速機油組成物の調製〕
表1及び表2の上部に示す配合割合(添加量は組成物全量基準での質量%)で、下記の潤滑油基油及び添加剤を用いて、実施例1〜7及び比較例1〜7の組成物を調製した。
【0043】
<潤滑油基油>
鉱油基油(100℃の動粘度:6.6 mm2/s, 粘度指数:180, 粘度指数向上剤及び流動点降下剤を含む)
【0044】
〔A成分:油溶性モリブデン化合物〕
A−1;モリブデンジチオカーバメート(モリブデン含有量:4.2質量%, 上記一般式(1−1)で表わされ、R1が2−エチルヘキシル基であり、X1における酸素原子と硫黄原子との比(O/S)が2/2〜3/1の化合物)
A−2;モリブデン酸混合アミン塩(モリブデン含有量:4.3質量%, 窒素含有量:1.2質量%)
【0045】
〔B成分:酸化防止剤〕
B−1;ジフェニルアミン
B−2;ヒンダートフェノール[オクチル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
【0046】
〔C成分:金属系清浄剤〕
C;過塩基性カルシウムスルフォネート(カルシウム含有量:12質量%, 塩基価:300 mgKOH/g)
【0047】
〔D成分:ホウ素含有無灰分散剤〕
D;ホウ素含有コハク酸イミド(ホウ素含有量:0.5質量%、コハク酸イミド部分は、上記一般式(6)で表わされるビスタイプで、R6がポリイソブテニル(PIB、分子量:2000)であるコハク酸イミド)
【0048】
〔E成分:リン系極圧剤〕
E;トリクレジルフォスフェート(リン含有量:8.4質量%)
【0049】
〔F成分:トリアゾール誘導体〕
F;ベンゾトリアゾール誘導体[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-(4又は5)-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メチルアミン]
【0050】
<評価方法>
〔金属間摩擦係数(新油・酸化劣化油ともに同じ)〕
ASTM D 2174に従い、ブロックオンリング試験機(LFW−1)を用いて金属間摩擦係数を測定した。試験条件を以下に示す。
試験条件:
リング:Falex S-10 Test Ring (SAE4620 Steel)
ブロック:Falex H-60 Test Block (SAE01 Steel)
ならし
温度:110℃
荷重:890 Nで5分間保持後、1112 Nで25分間保持
滑り速度:0.5 m/sで5分間保持後、1.0 m/sで25分間保持
本試験
温度:110℃
荷重:1112 N
滑り速度:1.0, 0.5, 0.25, 0.125, 0.075, 0.025 m/sの順で各5分間保持
摩擦係数:滑り速度変更前の30秒間を測定
〔極圧性〕
ASTM D 2596に従って、シェル四球極圧試験を行い、極圧性を評価した。試験条件を下記に示す。
回転数:1800 rpm
油温:80℃
荷重:30 kgf
時間:30分間
〔耐摩耗性〕
ASTM D 2266に従って、シェル四球耐摩耗試験を行い、耐摩耗性を評価した。
〔酸化劣化方法〕
JIS K 2514に従って、酸化安定度試験(ISOT、150℃、48時間)を行った。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
実施例1〜7及び比較例1〜7を用いて本発明品について詳細に説明する。まず、(A)油溶性モリブデン化合物を配合しない場合、実施例1〜7の発明品よりも高い金属間摩擦係数を有するものの、極圧性と耐摩耗性にはあまり優れない(比較例1)。これに対し、(A)油溶性モリブデン化合物を少量でも配合すれば、極圧性と耐摩耗性が上昇する。しかしながら、(A)油溶性モリブデン化合物の配合量が少な過ぎると、初期の金属間摩擦係数が低く(比較例2及び3)、初期の金属間摩擦係数を0.135以上の高摩擦係数にするには、(A)油溶性モリブデン化合物を少なくともモリブデン量で0.02質量%配合する必要がある(比較例4)。しかしながら、(B)酸化防止剤を配合していない場合、必要とする金属間摩擦係数を酸化劣化後も確保することが出来ず、耐久性の必要な変速機油としては適用できない(比較例1〜4)。
【0054】
また、モリブデン量が0.02質量%の場合では、たとえ(B)酸化防止剤や(F)トリアゾール誘導体(腐食防止剤)を適切な量加えても、酸化劣化によるモリブデン化合物の減少を完全に食い止めることが出来ないため、添加したモリブデン化合物由来のモリブデン量が0.02質量%を下回ってしまい、金属間摩擦係数が低下してしまう(比較例5〜7)。そのため、(A)油溶性モリブデン化合物をモリブデン量で0.03質量%以上添加し、且つ(B)酸化防止剤を添加することで、初期に十分高い金属間摩擦係数を有し、且つ優れた極圧性と耐摩耗性も兼ね備えつつ、酸化劣化後も十分な金属間摩擦係数を保持することが可能となる(実施例1〜7)。
【0055】
なお、酸化劣化の抑制には(B)酸化防止剤の配合のみでも十分であるが、更に(F)トリアゾール誘導体(腐食防止剤)を加えると、酸化劣化の抑制効果が大きくなるため、好適である(実施例4及び5)。
【0056】
上記の結果から、本発明の変速機油組成物は、高い極圧性と耐摩耗性を有し、かつ酸化劣化後も高い金属間摩擦係数を保持していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、本発明の変速機油組成物は、高い極圧性と耐摩耗性を有し、かつ酸化劣化後も高い金属間摩擦係数を維持している。このため、本発明の変速機油組成物を、金属ベルトを使用した無段変速機(CVT)に用いることで、省燃費に優れた自動車の普及が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に、(A)油溶性モリブデン化合物をモリブデン量として0.03〜0.1質量%、(B)酸化防止剤を0.01〜2質量%、(C)金属系清浄剤を金属量として0.01〜2質量%、(D)ホウ素含有無灰分散剤をホウ素量として0.005〜0.05質量%、及び(E)リン系極圧剤をリン量として0.01〜0.1質量%含有してなることを特徴とする変速機油組成物。
【請求項2】
更に、(F)トリアゾール誘導体を0.01〜0.2質量%含有する請求項1に記載の変速機油組成物。
【請求項3】
前記(B)酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤及び/又はアミン系酸化防止剤である請求項1に記載の変速機油組成物。
【請求項4】
前記(C)金属系清浄剤が、塩基価100 mgKOH/g以上の過塩基性アルカリ土類金属系清浄剤である請求項1に記載の変速機油組成物。
【請求項5】
前記(D)ホウ素含有無灰分散剤が、ホウ素を含有するコハク酸イミドである請求項1に記載の変速機油組成物。
【請求項6】
前記(E)リン系極圧剤が、リン酸トリエステルである請求項1に記載の変速機油組成物。

【公開番号】特開2009−29968(P2009−29968A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196607(P2007−196607)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】