説明

変速機用同期装置

【課題】レバー部材を備え後進段ギヤ鳴り防止機能を有する同期装置において、高速走行における5速等への変速操作感を向上する。
【解決手段】ハブ12とスリーブ20および同期リング22との間にレバー部材24を設け、スリーブ20が変速ギヤ18へ向かって移動する際には同期リング22のスプライン22cを介して同期リング22を変速ギヤ18に押しつけて同期させ、スリーブ20が変速ギヤ18と逆の方向へ向かう場合はレバー部材24の反転作用で同期リング20を変速ギヤ18に押しつけて同期させる構成であって、スリーブの高速段斜面20gとレバー部材24の頂部24aとの当接をスリーブ20が同期リング22のスプライン22cを直接押圧するまでとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機の変速操作(ギヤ切り替え)時に、高速段の変速ギヤとは逆方向へ向かうスリーブの押圧力を、レバー部材による反転作用で同期リングに伝えることが可能な同期装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の変速機用同期装置としては、5速の変速ギヤに圧接可能な同期リングとハブとの間にレバー部材を設けて、後進段へのシフトの際に5速の変速ギヤとは反対の方向へ向かうスリーブの押圧力を、レバー部材による反転作用で同期リングに伝え、これを5速の変速ギヤに押しつけて同期させることで、クラッチディスクの惰性による回転を止めた後に後進ギヤを噛み合わせている。
このような簡単な構造で後進段への変速操作時にギヤ鳴りを防止できるので、変速機の製造コストを下げることに貢献している(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
この場合、5速の同期作用が終了するまでの間は同期リングの摩擦トルクでレバー部材が径方向外側へ押し広げられることによって、スリーブの進行を阻止するようになっている。
同期作用が終了すると同期リングの摩擦トルクによる阻止力がなくなるので、スリーブは内側のスプラインに形成した斜面により、レバー部材を径方向内側へ押し込みながら5速ギヤに向かって進行し、シフト操作を完了させる。
【0004】
この際に、回転に伴う遠心力の作用でレバー部材が径方向外側へ力を受けるため、同期作用の後にスリーブが進行するためには、遠心力にうち勝ってレバー部材を内側へ押し込む必要がある。
したがって、高速走行における5速への緩やかな操作(スローシフト)においては、同期作用に要する操作力より遠心力にうち勝つ力の方が大きい値になることがある。
特に、5速の同期装置が出力軸側に設けてある場合には、入力軸側に設けた場合より同期装置が高速回転するので、回転速度の自乗に比例して増大する遠心力にうち勝つのに要する操作力が大きくなり、結果としてシフト操作を重く感じることになる。
【0005】
これの対策として本出願人は、スリーブは内側のスプラインに形成した斜面角を小さくして、遠心力に打ち勝つのに要する力を小さくすることを提案した(特許文献2参照)。
しかし、この案においても、同期終了からシフト完了までの操作でレバー部材に作用する遠心力に打ち勝つ必要があり、高速走行時の操作において不快に感じることがあった。
【特許文献1】特開平9−89002号公報
【特許文献2】特開2005−113975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、同期終了後の操作でレバー部材に作用する遠心力に打ち勝つ必要があると、高速走行時の操作に不快に感じることを避けることができないという点である。
本発明の目的は、同期終了後の操作においてレバー部材に作用する遠心力に打ち勝つ必要をなくして、高速走行時の操作感を良くすることが可能な同期装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の変速機用同期装置は、スリーブの内周に設けた溝の両側に、該溝の底から第1内径部へ向かう高速段斜面と同底から第2内径部へ向かう反転斜面とを形成するとともに、第1内径部の径を第2内径部の径より大きく設定することにより、同期終了後に高速段斜面とレバー部材との当接をなくして、同期終了後の操作におけるレバー部材の遠心力の影響を回避するようにしたことを最も主要な特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明は、動力を伝える軸と、該軸に固定されるボス部から径方向外側に延ばしたフランジ部の外周に複数の切り欠きを形成したスプラインを有するハブと、内周に溝および該溝の底から第1内径部へ向かう高速段斜面と底から第2内径部へ向かう反転斜面を有するスプラインが形成され、ハブの外周にスプラインの嵌合により軸方向に摺動可能に支持されたスリーブと、該スリーブが嵌合可能なスプラインおよび円錐面がハブ側に一体的に設けられた変速ギヤと、該変速ギヤの円錐面に圧接可能な摩擦面が形成され、外周にチャンファ面を有するスプラインとハブ側に軸方向の第1突起とを設けられた同期リングと、スリーブとハブと同期リングとの間に配置され、スリーブの軸方向の移動による押圧力を同期リングに伝達可能な複数のレバー部材とを備え、同期リングは、スリーブが変速ギヤへ向かう移動の際に、高速段斜面によって押されたレバー部材によって押圧されて摩擦面を変速ギヤの円錐面に押しつけて初期摩擦力を得た後、外周に形成したスプラインを介してスリーブの移動による押し力を受けて、変速ギヤと同期させるようにし、レバー部材は、スリーブが変速ギヤと逆の方向へ向かう移動の際には、反転斜面による押し力を、ハブを支点として反転させて同期リングに伝達し、摩擦面を変速ギヤに押しつけて両者を同期させるようにし、スリーブの第1内径部の径を第2内径部の径より大きく設定した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の変速機用同期装置は、スリーブの該溝の底から第1内径へ向かう高速段斜面と同底から第2内径へ向かう反転斜面とを形成し、第1内径を第2内径より大きく設定したため、同期終了後の操作におけるレバー部材の遠心力の影響を回避して、高速走行時の変速において操作感を向上した同期装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】5速用同期装置における要部の断面図である。
【図2】ハブにセットしたレバー部材とスプリングの外観図である。
【図3】同期リングの外観図である。
【図4】同期リングの断面図である。
【図5】レバー部材の外観図である。
【図6】レバー部材の断面図である。
【図7】スリーブの断面図である。
【図8】スリーブの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る変速機用同期装置を、実施例に基づき図とともに説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明装置の1実施例の主要部の断面図であって、図2におけるA−A線に相当する部分の断面である。図2は、図1における出力軸10と5速ギヤ18と5速ギヤ側の同期リング22などを取り去って右側(5速ギヤ18側)から見た外観図である。
【0013】
また、図3は同期リング22の外観であり、図1において左側から見たものである。さらに図4は図3のB−B線における同期リングの断面を示す。
そして、図5はレバー部材24の外観であり、図1において左側から見たものである。さらに図6は図5のC−C線におけるレバー部材24の断面を示す。
また、図7にはスリーブ20の断面を、図8にはスリーブ20の部分拡大断面を示す。
【0014】
出力軸10は図示しない車輪に接続されており、この出力軸10に京成したスプライン10aにハブ12がナット14により一体的に固定されている。
ハブ12のボス12aと出力軸10の鍔10bとの間にはベアリング16に支持された5速ギヤ18が回転自在に設けられている。
5速ギヤ18は図示しない入力軸と一体の5速駆動ギヤと常時噛み合っており、入力軸は図示しないクラッチディスクと一体になって回転し、図示しないエンジンに接続可能とされている。
5速ギヤ18には、クラッチギヤ18aが一体になっており、そのハブ12側には円錐面18bが、またその外周にはスプライン18cが形成されている。
【0015】
ハブ12は、ボス12aの外側にフランジ部12bが形成され、その外周にスプライン12cが形成された環状部12dを有し、環状部12dからフランジ部12bにかけて2カ所の切り欠き12eが形成されている。なお、図2では切り欠き12eの形状が破線で示してある。
【0016】
ハブ12の外側にはスリーブ20が設けられ、この内周面に形成されたスプライン20aがハブ12のスプライン12cと軸方向に摺動可能に常時嵌合している。このスプライン20aは5速への変速操作終了時には図1の右側へ移動して、5速ギヤ18のクラッチギヤ18aに形成したスプライン18cと噛み合う。
また、スプライン20aには、図7に示すように5速ギヤ18側先端部にチャンファ面20b、20cが形成され、内側の中央部に周方向の溝20dが形成されるとともにその両側には高速段斜面20gと反転斜面20iとがそれぞれ形成されている。
【0017】
すなわち、スプライン20aは溝20dの左側に第1内径部20f、右側に第2内径部20hが形成され、溝20dの底20eから第1内径部20fにかけて高速段斜面20gが、また溝20dの底20eから第2内径部20hにかけて反転斜面20iが、それぞれ形成されている。
なお、第1内径部20fはスプライン20aのうち、後述するレバー部材24の頂部24aと当接する部分のみ形成してあればよい。
【0018】
なお、図7の中央部にはスプライン20aを軸中心側から見た形状が描いてある。
そして、スリーブ20の外周にはフォーク溝20jが形成され、図示しないシフトフォークがフォーク溝20jに嵌合して、スリーブ20を図1において左右へ移動させることができるようになっている。
すなわち、図1は中立状態にあるが、5速へ変速操作する場合は、シフトフォークによりスリーブ20を、右側へ、後進段へ変速操作する場合には左側へ、それぞれ移動させるようになっている。
【0019】
図1に示すように、5速ギヤ18とハブ12の間には同期リング22が配置されている。図1、図3および図4に示すように、同期リング22の内側には5速ギヤ18の円錐面18bに対応した円錐状の摩擦面22aが形成され、ハブ12側には2カ所の第1突起22bが、また外周にはスプライン22cと2個ずつ2カ所の第2突起22dがそれぞれ形成されており、さらにスプライン22にはチャンファ面22e、22fが形成されている。
また、第2突起22dのハブ12側は5速受圧面22gが形成され、第1突起22bの脇にはリバース受圧面22hが形成されている。
【0020】
また、図1に示すように、同期リング22とハブ12の間には2個のレバー部材24が挟まれるように設けられている。
図5、図6に示すように、レバー部材24は、この中央部に頂部24aが形成されるとともに、この両側に円弧形状の腕24b、24cを有してしており、それらの中間部にリバース支点24d、24eを形成するように斜面状の窪み24f、24gがそれぞれ形成されている。
【0021】
そして、2個のレバー部材24は、頂部24aが図1および図2に示したハブ12の切り欠き12eにそれぞれ係合するとともに、ハブ12に対して径方向の移動と軸方向の移動および揺動とが可能になっている。
レバー部材24の内側にはスプリング26が設けられ、その拡張力でレバー部材24を径方向外側へ押し広げている。
レバー部材24が径方向外側の方の移動位置にある場合は、図1のように頂部24aの外側がスリーブ20の溝20dに入り込んでいる。
また、レバー部材24の5速ギヤ18側は押圧面24jを形成する。
【0022】
前述の同期リング22の第1突起22bは、図2に破線で示すように2個のレバー部材24の間に回転方向の隙間を有するように係合して第2突起22dはハブ12の切り欠き12eに対して同じく回転方向の隙間を有するように係合している。
すなわち、同期リング22はハブ12およびレバー部材24に対して若干の回転ができるようになっており、その量はハブ12のスプライン12cのピッチの約1/4であるが、2個のレバー部材24間(図2に示す寸法D)の隙間がやや大きく設定されている。
【0023】
しかし、レバー部材24が径方向内側に最も移動すると、図2の寸法Dが小さくなって同期リング22の回転可能範囲がほとんどなくなるようになっている。
なお、図2は、後述するように同期リング22が回転して第2突起22dがハブ12の切り欠き12eに接した状態で描いてある。
【0024】
次に、図1に示した同期装置の作動を説明する。
5速側位置へ変速操作する場合は、図示しないシフトフォークがスリーブ20を5速ギヤ18側(図1中の右側)へ移動させる。
すると、スリーブ20の溝20dに入り込んでいるレバー部材24の頂部24aを高速段斜面20gが右側へ押し、レバー部材24はその押圧面24jが同期リング22の5速受圧面22gを右側へ押圧する。
【0025】
すなわち、レバー部材24はスプリング26による径方向外方向への拡張力と、レバー部材24自体に作用する遠心力とによって径方向外側へ押し広げられているため、高速段斜面20gで押されると拡張力に応じた荷重で同期リング22を押圧し、同期リング22は摩擦面22aが5速ギヤ18の円錐面18bに押しつけられる。
【0026】
このとき、出力軸10と5速ギヤ18との間に回転速度差があると、摩擦面22aと円錐面18bとの間に摩擦が生じて、同期リング22がハブ12に対して回転する。
すなわち、前述のように同期リング22はハブ12に対して若干の相対回転を許容されているので、第2突起22dがハブ12の切り欠き12eに接するまで回転する。
このとき、第1突起22bは2個のレバー部材24間(寸法D)内でも相対回転するが、図2に示すようにまだ隙間を保っている。
【0027】
スリーブ20がさらに右側へ進行すると、レバー部材24はスリーブ20の高速段斜面20gに押され、その分力がスプリング26および遠心力による力にうち勝って、レバー部材24を径方向内側へ移動させながら5速ギヤ18側へ進む。
すると、スリーブ20のチャンファ面20c、20dのどちらかが同期リング22のスプライン22cのチャンファ面22e、33fのどちらかに接する。
【0028】
この、チャンファ面20c、20dおよび22e、33f同士が当接するのとほぼ同時に、高速段斜面20gとレバー部材24の頂部24aの当接が終了し、以降、頂部24aは第1内径部20fに接するようになるとともに、図2におけるE部の隙間が詰まって第1突起22bが2個のレバー部材24の端部に接するようにしてある。
これ以降、このチャンファ面20c、20dおよび22e、33fにおいてスリーブ20が同期リング22を直接押圧するようになる。
【0029】
同期リング22はスリーブ20に直接押されて、摩擦面22aと円錐面18bとが強く圧接されて、両者間の摩擦力も大きくなり、これによって同期リング22に作用する摩擦トルクが大きくなる。
この摩擦トルクがチャンファ面20c、20dおよび22e、33fにおいてスリーブ20の進行を阻止する阻止力になる。
【0030】
すなわち、両チャンファ面20c、20dおよび22e、33fの角度を適切に設定しておくと、スリーブ20が強く押しても、それによる阻止力がうち勝つので、摩擦面22aおよび円錐面18b間において摩擦がある限り、スリーブ20の進行がチャンファ面22e、33fのどちらかによって阻止されることになる。
【0031】
このように、スリーブ20が同期リング22を押し続け同期作用が促進すると、やがて摩擦面22aと円錐面18b間の摩擦により出力軸10と5速ギヤ18との回転数差がなくなる。つまり同期が終了することになる。
【0032】
出力軸10と5速ギヤ18との回転速度差がなくなると、摩擦面22aと円錐面18b間の摩擦トルクがなくなるので阻止力も消滅して、スリーブ20はチャンファ面20c、20dで同期リング22および5速ギヤ18を若干回転させながら進行し、もはや回転差のなくなった5速ギヤ18のスプライン18cと噛み合って5速への変速操作が完了する。
【0033】
このとき、前述のように高速段斜面20gとレバー部材24の頂部24aの当接が終了しているので、レバー部材24を内側へ押し込む必要がない。したがって、同期が終了してからのスリーブ20の進行に要する力には、レバー部材24に作用する遠心力やスプリング26の張力は関係しない。
このため、高速走行において5速への変速操作を行う場合にあっても、同期が終了してからのスリーブ20の進行に要する力には、レバー部材24に作用する遠心力やスプリング26の張力は関係しないので、操作感が従来に比べて向上する。
【0034】
次に、中立位置から後進段位置への変速操作について説明する。
通常、後進段位置への変速操作は車両が停止した状態で行われるので、出力軸10の回転速度は0である。
一方、図示しないクラッチを切った(解放した)場合でも、図示しないクラッチディスクおよび入力軸の惰性により、これと連動回転する5速ギヤ18は回転しているので、そのまま図示しない後進ギヤを噛み合わせると不快なギヤ鳴りを起こすことになる。
【0035】
この場合は、図示しないシフトフォークが、5速への変速操作とは逆に図1において左側へスリーブ20を移動させる。すると、スリーブ20の反転斜面20iがレバー部材24の頂部24aを左側へ押して移動させ、レバー部材24はリバース支点24d、24eがハブ12のフランジ部12bに突き当たり、そこを支点として腕22b、22cの端部が同期リング22のリバース受圧面22hを右側へ押圧する。
【0036】
つまり、レバー部材24はリバース支点24d、24eとハブ12のフランジ部12bとの接点を支点とした反転作用で、スリーブ20の進行方向とは逆の方向へ同期リング22を押圧することになる。
ここでも、最初は、スプリング26によってレバー部材24が径方向外側へ押し広げられている力の分力で同期リング22を押圧する。
【0037】
前述のように、出力軸10が停止しており5速ギヤ18が回転していると、5速ギヤ18側へ押圧された同期リング23は、摩擦面22aおよび円錐面18b間に摩擦が生じ、これによってハブ12およびレバー部材24に対して回転する。
ここでも、同期リング22は第2突起22dがハブ12の切り欠き12eに接するまで回転する。この段階では図2に示すように、第1突起22bとレバー部材24との間には隙間がある。
【0038】
ここから、さらにスリーブ20が左側へ移動すると、スリーブ20の反転斜面20iがスプリング26の拡張力にうち勝ってレバー部材24を内側へ押し込みながら移動する。
すると、図2のE部側の隙間が詰まって、レバー部材24の腕24cの端部が同期リング22の第1突起22bに接するようになる。
同期リング22は、摩擦面22aおよび円錐面18b間の摩擦トルクを受けているので、第1突起22bはレバー部材24が内側へ移動するのを阻止する。
【0039】
すなわち、スリーブ20の反転斜面20iの傾斜角を適切に設定しておけば、摩擦面22aと円錐面18bとの間に摩擦がある限り、レバー部材24は径方向内側へ移動できず、スリーブ20の左側への移動を阻止することになる。
このため、スリーブ20は反転斜面20iでレバー部材24の頂部を押し、その反転作用で同期リング22は5速ギヤ18側へ強力に押圧され続け、同期作用を行う。
【0040】
これにより、同期が促進し5速ギヤ18の回転が止まると摩擦面22aと円錐面18bとの間の摩擦が消滅して、スリーブ20の移動を阻止する力がなくなり、スリーブ20は反転斜面20iでレバー部材24を内側へ押し込みながら進行し、これと連動する図示しない後進段ギヤを噛み合わせる。
すでに5速ギヤ18とともに、図示しないクラッチディスクは停止しているので、後進段ギヤは不快なギヤ鳴りをせずに噛み合うことができる。
【0041】
以上の説明でわかるように、実施例1の同期装置にあっては、スリーブ20の反転斜面20iは前述の阻止作用をなすため傾斜角が大きくなっているが、高速段斜面20gは阻止作用を受け持たないので傾斜角は小さくてもよく、しかもチャンファ面20c、20dおよび22e、33f同士が当接するのとほぼ同時に、高速段斜面20gとレバー部材24の頂部24aの当接が終了するようにしてある。
【0042】
このため、高速走行において5速への変速操作を行う場合でも、遠心力に逆らってレバー部材24を内側へ押し込む力は小さくて済むとともに、同期作用が終了した後にはレバー部材24を内側へ押し込む必要がない。
したがって、同期が終了してからのスリーブ20の進行に要する力には、レバー部材24に作用する遠心力やスプリング26の張力は関係しないので、操作感が従来に比べて向上する。
【0043】
上記した実施例は、レバー部材24に窪み24f、24gを設けてリバース支点24d、24eを形成し、これをハブ12のフランジ部12b(平面)に当接させて反転作用の支点としているが、逆にハブ12のフランジ部12b側に窪みを形成してレバー部材24側を平面にしてもよい。
【0044】
本発明の同期装置は、当業者の一般的な知識に基づいて、摩擦面における摩擦係数を高めるために同期リングの摩擦面にネジや油溝を形成するなどの変更を加えた態様で実施することができる。
また、5速に限ることなく、その他の高速段においても適用できる。さらに、実施例とは逆に入力軸側に5速等の高速段の同期装置が設けることも可能である。
また。スリーブを移動させるフォークは、ドライバーの手による力、あるいはアクチュエータの駆動力のいずれにより駆動させるようにしてもよい。
また、レバー部材24の数は2個に限られず、さらに多数個であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の変速機用同期装置は、高速走行において5速等への変速操作を行う場合でも、レバー部材に作用する遠心力が操作感に影響するのを小さくできるので、5速ギヤ等が高速回転するような構成の変速機等に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 出力軸
12 ハブ
14 ナット
16 ベアリング
18 5速ギヤ
20 スリーブ
22 同期リング
24 レバー部材
26 スプリング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を伝える軸と、
該軸に固定されるボス部から径方向外側に延ばしたフランジ部の外周に複数の切り欠きを形成したスプラインを有するハブと、
内周に溝および該溝の底から第1内径部へ向かう高速段斜面と前記底から第2内径部へ向かう反転斜面を有するスプラインが形成され、前記ハブの外周に前記スプラインの嵌合により軸方向に摺動可能に支持されたスリーブと、
該スリーブが嵌合可能なスプラインおよび円錐面が前記ハブ側に一体的に設けられた変速ギヤと、
該変速ギヤの前記円錐面に圧接可能な摩擦面が形成され、外周にチャンファ面を有するスプラインとハブ側に軸方向の第1突起とを設けられた同期リングと、
前記スリーブと前記ハブと前記同期リングとの間に配置され、前記スリーブの軸方向の移動による押圧力を前記同期リングに伝達可能な複数のレバー部材とを備え、
前記同期リングは、前記スリーブが前記変速ギヤへ向かう移動の際に、前記高速段斜面によって押された前記レバー部材によって押圧されて前記摩擦面を前記変速ギヤの前記円錐面に押しつけて初期摩擦力を得た後、前記外周に形成したスプラインを介して前記スリーブの移動による押し力を受けて、前記変速ギヤと同期させるようにし、
前記レバー部材は、前記スリーブが前記変速ギヤと逆の方向へ向かう移動の際には、前記反転斜面による押し力を、前記ハブを支点として反転させて前記同期リングに伝達し、前記摩擦面を前記変速ギヤに押しつけて両者を同期させるようにし、
前記スリーブの前記第1内径部の径を前記第2内径部の径より大きく設定したことを特徴とする変速機用同期装置。
【請求項2】
前記レバー部材は、前記スリーブが前記変速ギヤ側へ向かう移動の際に、前記スリーブのスプラインが前記同期リングのスプラインに接するまでの間は前記高速段斜面によって押圧され、前記スリーブのスプラインが前記同期リングのスプラインに接した後は該高速段斜面による押圧から外れるように前記第1内部の径を設定したことを特徴とする請求項1に記載の変速機用同期装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−80496(P2011−80496A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231127(P2009−231127)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(594008626)協和合金株式会社 (49)
【Fターム(参考)】