説明

変速機

【課題】変速機の全長を短縮できる軸受け固定構造をもつ変速機を提供する。
【解決手段】本発明の変速機は、回転軸1と、外周面に形成された軸受け側固定溝221をもつ軸受け外周部22を備える軸受け2と、軸受け外周部22が挿通可能なリング内周部31と、リング内周部31の内周中心に対して所定距離偏心した外周中心をもつリング外周部32とをもつ偏心スナップリング3と、軸受け側固定溝221に対向するケース側固定溝221が内周面に形成されるケース4と、軸受け2が軸受け固定部41に挿嵌できる許容位置33と、軸受け外周部22及び軸受け固定部32の間における軸方向の相対移動を規制することができる規制位置34との間で偏心スナップリング3を周方向に回転させる偏心スナップリング回転部材5と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機に関し、特に軸受けを固定する構造に特徴を有する変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用変速機は、車両のコンパクト化に伴い全長の短縮化が求められている。また、低燃費化を目的とした多段化により、変速段が増加した分を別の箇所や工夫で全長が延長しないよう、あるいは、より短縮するような構造が求められているのが現状である。
【0003】
ところで、従来の一般的に使用されている変速機において、回転軸を変速機のケースに回転可能に支承するための軸受けが固定された状態を示す一部断面図を図8に示している。図8は、市販されているFF自動車用横置き型変速機(非特許文献1)の一部断面図で、回転軸91の一端側(図面左方)に深溝玉軸受け92が使用されている。軸受けは、歯車により発生する荷重を受けながら軸を回転させるだけでなく、その軸自体の軸方向の位置決めの機能も併せ持つという重要な役割を担っている。そのため、図9に示されるように、軸受け外周部にスナップリング93が使用され、そのスナップリング93を組み付け後、組み付けのために使用した開口部を蓋94で塞ぎ、蓋94を5本のボルト95で固定している。
【非特許文献1】日産自動車株式会社、RS5F70A解説書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この構造では軸受けの一端側に、「蓋94の厚み+ボルト95の頭部高さ」が必要となり、変速段の多段化等に伴う延長方向と同じ方向に変速機の全長を延ばしている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、変速機の全長を短縮できる軸受け固定構造をもつ変速機を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明の構成上の特徴は、回転軸と、
前記回転軸の一端部の外周側に固定される軸受け内周部と、外周面に周方向に形成された軸受け側固定溝をもち前記軸受け内周部の外周側に回動可能且つ軸方向の移動が規制されるように周設された軸受け外周部とを備える軸受けと、
前記軸受け外周部がほぼ隙間なく挿通可能なリング内周部と、前記リング内周部の外周側で前記リング内周部の内周中心に対して所定距離偏心した外周中心をもつリング外周部とをもち、前記軸受け側固定溝内に前記軸方向に隙間なく挿嵌可能な厚みをもち、略C字形状の偏心スナップリングと、
前記軸受けの前記軸受け側固定溝に対向し且つ前記偏心スナップリングの前記リング外周部が前記軸方向に隙間なく挿嵌可能で且つ前記偏心スナップリングのリング外周部が内接し径方向の移動を規制できる底面をもつケース側固定溝が内周面に形成され、前記軸受けの前記軸受け外周部の外面を概ね隙間なく覆う内面形状をもつ軸受け固定部をもち、前記回転軸、前記軸受け及び前記偏心スナップリングを収納する収納空間を区画するケースと、
前記偏心スナップリングの前記内周中心が前記軸受け固定溝の内周面の中心と一致することにより前記軸受けが前記ケースの前記軸受け固定部に挿嵌できる許容位置と、前記内周中心が前記軸受け固定溝の内周面の中心と偏心することにより周方向の一部が前記軸受け側固定溝に挿嵌されて前記軸受け外周部及び前記軸受け固定部の間における軸方向の相対移動を規制することができる規制位置との間で前記偏心スナップリングを周方向に回転させる偏心スナップリング回転部材と、
を有することである。
【0007】
また請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記ケース側固定溝底面は前記偏心スナップリングの外周部と略同一形状であることである。
【0008】
また請求項3に係る発明の構成上の特徴は、回転軸と、
前記回転軸の一端部の外周側に固定される軸受け内周部と、外周面に周方向に形成され且つ底面の外接円が前記外周面の外周中心と所定距離偏心した軸受け側固定溝をもち前記軸受け内周部の外周側に回動可能且つ軸方向の移動が規制されるように周設された軸受け外周部とを備える軸受けと、
前記軸受けの前記軸受け側固定溝に対向するケース側固定溝が内周面に形成され、前記軸受けの前記軸受け外周部の外面を概ね隙間なく覆う内面形状をもつ軸受け固定部をもち、前記回転軸及び前記軸受けを収納する収納空間を区画するケースと、
前記軸受け固定部の前記内周面にほぼ隙間なく挿通可能なリング外周部と、前記リング外周部の内周側で前記リング外周部の外周中心に対して所定距離偏心した内周中心をもつリング内周部とをもち、前記軸受け側固定溝及び前記ケース側固定溝に対して前記軸方向に隙間なく挿嵌可能で前記収納空間内に収納された略C字形状の偏心スナップリングと、
前記偏心スナップリングの前記外周中心が前記軸受け外周部の外周面の中心と一致することにより前記軸受けが前記ケースの前記軸受け固定部と挿嵌できる許容位置と、前記外周中心が前記軸受け外周部の外周面の中心とずれることにより周方向の一部が前記ケース側固定溝に挿嵌されて前記軸受け外周部及び前記軸受け固定部の間における軸方向の相対移動を規制することができる規制位置との間で前記偏心スナップリングを周方向に回転させる偏心スナップリング回転部材と、
を有することである。
【0009】
また請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項3において、前記軸受け側固定溝底面は前記偏心スナップリングの内周部と略同一形状である
また請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜4の何れか1項において、前記偏心スナップリングは前記外面の周方向に形成された歯を有し、前記偏心スナップリング回転部材は前記ケース側固定溝底面の一部と導通した導通箇所で前記偏心スナップリングの前記歯と係合し前記偏心スナップリングを周方向に回転させるボルトを有し、前記ケースは前記ボルトが挿入される回転用孔が形成されていることである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明においては、偏心スナップリングの内周中心と外周中心が所定距離偏心している。この偏心スナップリングは周方向に回転可能に軸受け固定部の内周面に設けられたケース側固定溝に挿嵌されている。偏心スナップリングは、偏心スナップリング回転部材によって、軸受けが軸受け固定部に挿嵌できる許容位置(偏心スナップリングがすべてケース側固定溝内に隠れるように収納される位置)と軸受けが軸受け固定部で軸方向移動を規制される規制位置(偏心スナップリングの一部がケース側固定溝内から縮径方向に突出する位置)とに周方向に回転させられる。
【0011】
ケース側固定溝底面の形状は偏心スナップリングの外周部が内接し径方向への移動を規制する形状とすることで、偏心スナップリングが径方向に移動せず、安定してケース側固定溝に挿嵌された状態となる。また、偏心スナップリングが許容位置と規制位置とに周方向に回転する間、外周中心がブレたりせず、安定して回転させることができる。
【0012】
偏心スナップリングの位置を許容位置にした状態で、軸受け外周部を軸受け固定部内に挿入した後、偏心スナップリングを規制位置に回転させることで、軸受け固定部内に軸受けが固定できる。この構造は、軸方向にスペースを必要としない。そのため、変速機の全長を短縮できる。また、部品点数も少ないため、コストを低下させることができる。
【0013】
請求項2に係る発明においては、ケース側固定溝底面の形状が偏心スナップリングの外周部と略同一形状とすることで、偏心スナップリングが径方向に移動せず、安定してケース側固定溝に挿嵌された状態となる。また、偏心スナップリングが許容位置と規制位置とに周方向に回転する間、外周中心がブレたりせず、安定して回転することができる。また、ケース側固定溝の加工が容易である。
【0014】
請求項3に係る発明においては、偏心スナップリングを軸受け側固定溝に周方向に回転自在の状態で嵌め込み、偏心スナップリングを許容位置(偏心スナップリングがすべて軸受け側固定溝内に隠れるように収納される位置)とした後、軸受けを軸受け固定部内に挿入する。偏心スナップリングは、軸受けをケースの軸受け固定部に挿入した後、規制位置(偏心スナップリングの一部が軸受け側固定溝内から拡径方向に突出する位置)に回転させることで、軸受けが軸方向へ移動できなくなる。
【0015】
つまり、偏心スナップリングを許容位置と規制位置とに周方向に回転させるだけで軸受けを固定できるため、軸方向にスペースを必要せず、変速機の全長を短縮できる。また、部品点数も少ないため、コストを低下させることができる。
【0016】
請求項4に係る発明においては、軸受け側固定溝底面の形状が偏心スナップリングの内周部と略同一形状とすることで、偏心スナップリングが径方向に移動せず、安定して軸家側固定溝に挿嵌された状態となる。また、偏心スナップリングが許容位置と規制位置とに周方向に回転する間、内周中心がブレたりせず、安定して回転させることができる。
【0017】
請求項5に係る発明においては、偏心スナップリングを許容位置と規制位置とに周方向に回転させる偏心スナップリング回転部材としてのボルトとそのボルトが挿入される回転用孔がケースに形成されるだけの構成のため、構造が簡単である。また、部品点数が少ない。また、偏心スナップリングは偏心スナップリング回転部材の回転によって回転するため、偏心スナップリングを確実に規制位置に回転させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る変速機を、自動車に搭載される変速機に具体化した場合について説明する。
(実施形態1)
本実施形態1の変速機は、図1に示されるように、回転軸1と、軸受け2と、偏心スナップリング3と、ケース4とを有する。
【0019】
回転軸1は、一端側が後述するケース4に軸受け2を介して回転自在に支承される。回転軸1には、図示が省略されているが、一端側から他端側の間に、複数の歯車が同軸で回転自在あるいは一体回転可能に支承されている。
【0020】
軸受け2は、回転軸1の一端側で回転軸1の軸方向の移動を規制するように、回転軸1の外周側でかつケース4の内周側に配設される部材である。つまり、回転軸1の一端側とケース4との間に位置する部材である。軸受け2は、回転軸1の一端部の外周側に固定される軸受け内周部21と、軸受け内周部21より外周側に位置しケース4に接する軸受け外周部22と、軸受け内周部21及び軸受け外周部22の間に位置し回転自在なボール23とを有する。そして、軸受け外周部22は外周面に周方向に形成された軸受け側固定溝221を有する。軸受け側固定溝221の底面221a、つまり内周の径は、後述する偏心スナップリング3の規制位置34における、偏心スナップリング3のリング内周部31の周方向一部が挿嵌されるように形成される。偏心スナップリング3が規制位置34であるとき、偏心スナップリング3の径方向で幅の広い側のリング外周部32はケース側固定溝42に挿嵌された状態で、リング内周部31の周方向一部が軸受け側固定溝221に挿嵌される。
【0021】
偏心スナップリング3は、リング内周部31とリング外周部32とをもち、略C字形状の部材である。リング内周部31は、図2に示されるように、軸受け外周部22がほぼ隙間なく挿通可能である。リング外周部32は、リング内周部31の外周側でリング内周部31の内周中心に対して所定距離偏心した外周中心をもつ。そして、リング内周部31の径R1よりリング外周部32の径R2が大きい。よって、偏心スナップリング3の径方向の幅は一定ではなく、リング3の開口側に対向する側が幅広に形成されている。図1に戻って、偏心スナップリング3は、全体(リング内周部31もリング外周部32も)がケース側固定溝42に嵌め込まれており、ケース側固定溝42からはみ出していない状態が許容位置33である。許容位置33から周方向に回転し、リング内周部31がケース側固定溝42から径方向中心側にはみ出す位置が規制位置34である(図3)。規制位置34において、リング内周部31が軸受け側固定溝221に周方向3分の1程度以上が挿嵌されるように偏心スナップリング3を形成するのが望ましい。また、リング外周部32の外面には周方向に歯321が形成されている。歯321は、その先端が外周中心に位置するように、偏心スナップリング3の開口側付近を避けて、周方向の一部に形成されている。
【0022】
ケース4は、回転軸1、軸受け2、偏心スナップリング3及び複数の歯車等の変速を行うための部材が内部に収納される収納空間40をもつ変速機のケースである。ケース4は、軸受け固定部41と、ケース側固定溝42とをもち、回転用孔43が形成されている。
【0023】
軸受け固定部41は、軸受け2の軸受け外周部22の外周面を概ね隙間なく覆う内面形状をもつ。そして、軸受け固定部41の内面の径は、偏心スナップリング3の内周中心と同じ径である。
【0024】
ケース側固定溝42は、軸受け固定部41の内面側であって、軸受け2の軸受け外周部22の軸受け側固定溝221に対向する位置で周方向に連続して形成された溝である。ケース側固定溝42には、偏心スナップリング3が内周側の開口から嵌め込まれる。ケース側固定溝42の軸方向幅は、偏心スナップリング3が挿嵌されて回転できる幅である。そして、ケース側固定溝42の内周側の径、つまり軸受け固定部41の内面411の径は偏心スナップリング4の内周中心と同じ径であり、ケース側固定溝底面421は偏心スナップリング4の外周中心と同じ径である。ケース側固定溝底面421の形状は、偏心スナップリング3の外周部32と略同一形状であることが好ましい。
【0025】
回転用孔43は、ケース側固定溝42の接線方向で、ケース4の上方から下方の垂直方向に貫通する孔である。そして、ケース側固定溝底面421の一部と導通する導通箇所431が形成されている。この回転孔43にボルト(偏心スナップリング回転部材)5が挿入される。ボルト5には、偏心スナップリング3のリング外周部32の歯321と螺合するねじ山51が形成されている。また、ボルト5の先端と螺合し、ボルト5が差し込まれる反対側のケース4外部に位置するナット6によって、ボルト5がケース4に固定される。
【0026】
次に、本実施形態1の変速機において、回転軸1をケース4に回転自在に支承する方法(軸受け2をケース4に固定する方法)について説明する。
【0027】
まず、回転軸1の一端側を軸受け2の軸受け内周部21に嵌入し、軸受け2を回転軸1に固定する。次に、偏心スナップリング3をケース4の軸受け固定部41の内径より縮めて、ケース4の図1(b)における右側からケース4のケース側固定溝42に嵌め込む。このとき、偏心スナップリング3の径方向の幅が一番広い方とケース側固定溝42の一番深いところとを合わせて、図1(a)においては、偏心スナップリング3の開口側が下方に位置するように嵌め込む。そして、偏心スナップリング3は弾性力によりケース側固定溝42に嵌め込まれると、内径がケース4の軸受け固定部41の内径とほぼ同じになり、軸受け2が軸方向で軸受け固定部41内周側に嵌入することができる(許容位置33)。よって、図1(b)において、軸受け2が固定された回転軸1を軸受け2を左側にして、ケース4の右側から左側に挿入できる。軸受け2の軸受け外周部22の側面がケース4の軸受け固定部41に接するまで、回転軸1は挿入される。そして、ケース4の回転用孔43にボルト5を上方から挿入する。ボルト5が回転用孔43に挿入される途中で、回転用孔43の導通箇所431でボルト5のねじ山51が偏心スナップリング3の歯321と螺合する。ボルト5を回転させると偏心スナップリング3は、図1(a)において、偏心スナップリング3の周方向で時計回り(矢印T方向)に回転する。偏心スナップリング3は、回転しながらリング内周部31の周方向一部が軸受け側固定溝221に挿嵌され始める。そして、偏心スナップリング3がほぼ180度回転したところで、ボルト5の回転を止める。特に、偏心スナップリング3の外周に設ける歯321の位置を調節することでボルト5と歯321とが噛み合わなくなる位置にて偏心スナップリング3の回転を止めることができる。つまり、歯321を形成する位置により偏心スナップリング3の回転位置を調節できる。偏心スナップリング3は周方向に回転する間、リング外周部32がケース側固定溝42から抜けることはない。よって、図3に示されるように、許容位置33から180度回転した偏心スナップリング3のリング内周部31の一部が軸受け側固定溝221に挿嵌されると、偏心スナップリング3はケース側固定溝42と軸受け側固定溝221とに挿嵌された状態となり、軸受け2が軸方向に移動するのを規制することとなる(規制位置34)。つまり、軸受け2に固定されている回転軸1の軸方向の移動を規制し、回転軸1を回転自在にケース4に支承する。この状態を固定するため、ケース4外部に突出したボルト5の先端部にナット6を螺合して、ボルト5をケース4に固定する。
【0028】
本実施形態1の変速機によれば、偏心した外周中心をもつ偏心スナップリング3を用いることで、軸受け2のケース4内(軸受け固定部41)への挿入と、軸受け2の軸方向への固定ができる。偏心スナップリング3は、ケース側固定溝42に対して接線方向に形成される回転用孔43にボルト5を挿入し、偏心スナップリング3の歯321と螺合させて回転させることで周方向の回転するため、軸方向に余分なスペースが必要ない。その上、部品点数も少ないため、コストを抑制できる。
(変形例1)
本発明の変形例1について具体的に説明する。本変形例1は実施形態1と基本的には同様の構成及び同様の作用効果を有する。以下、異なる部分を中心に説明する。
【0029】
本変形例1の変速機で用いられる偏心スナップリング3αは、図4に示されるように、開口側の径方向の幅が広く形成されている。そのため、ケース側固定溝42に挿嵌される際、実施形態1とは逆方向、つまり開口側を上方にして嵌め込む。そして、ケース側固定溝42に挿嵌後は、回転軸1を固定した状態の軸受け2をケース4内に挿入し、ケース4の回転用孔43にボルト5を挿入する。そして、図5に示されるように、偏心スナップリング3の歯321と螺合するボルト5を回転させて、偏心スナップリング3を周方向時計回りTに180度ほど回転させる。偏心スナップリング3の開口側に位置するリング内周部31が軸受け側固定溝221に挿嵌されており、リング外周部32はケース側固定溝221に挿嵌されているため、軸受け2の軸方向の移動を規制できる。
(実施形態2)
本発明の実施形態2について具体的に説明する。本実施形態2は実施形態1と基本的には同様の構成及び同様の作用効果を有する。以下、異なる部分を中心に説明する。
【0030】
本実施形態2の変速機で用いられる偏心スナップリング3βは、図6に示されるように、開口を下側にした許容位置33で軸受け2の軸受け側固定溝221内に嵌め込まれた状態で、リング外周部32が軸受け固定溝221からはみ出ない。偏心スナップリングβの外面径R2と軸受け外周部22の外周222の径とが略等しく、偏心スナップリング3βの内周径R1と軸受け側固定溝221の底面221aである内周の径とが略等しい。そして、図7に示されるように、偏心スナップリング3βを許容位置33から周方向に180度回転させると、偏心スナップリング3βのリング外周部32がケース4のケース側固定溝42に挿嵌した状態となる規制位置34である。
【0031】
ケース4の回転用孔43は、軸受け固定部41の内周面に対して接線方向に貫通する。そのため、ケース側固定溝42の底面421の一部と導通する導通箇所431があり、実施形態1の場合に比べて、導通箇所431の開口は接線方向に広めである。
【0032】
また、導通箇所431の場所に対向する軸受け2の軸受け外周部22は、接線方向に一部平らに形成する。これは、軸受け側固定溝221に挿嵌された偏心スナップリング3βの歯431と回転用孔43に挿入されたボルト5のねじ山51とを螺合させるためである。
【0033】
本実施形態2の変速機において、回転軸1を回転自在にケース4に支承させるには、まず偏心スナップリング3βを軸受け2の軸受け側固定溝221に嵌め込む。偏心スナップリング3は、径を少し大きく変形させ、軸受け固定溝221に嵌め込み、嵌め込まれた後は弾性力で基に戻る。ことのき、偏心スナップリグ3が軸受け固定溝221からはみ出ない位置(許容位置33)になるように嵌め込む。次に、回転軸1を軸受け内周部21に固定した軸受け2をケース4の軸受け固定部41に嵌め込む。そして、ボルト5を回転用孔43に挿入し、偏心スナップリング3βの歯321と螺合させ、ボルト5を回転し偏心スナップリング3βをほぼ180度回転させる(規制位置34)。偏心スナップリング3βのリング外周部32は、周方向3分の1程度、軸受け側固定溝221からはみ出し、ケース側固定溝42に挿嵌される。よって、偏心スナップリング3βはリング内周部31が軸受け側固定溝221に挿嵌した状態で、リング外周部32がケース側固定溝42に挿嵌しているため、軸受け2は軸方向に移動できない。結果、回転軸1が軸方向の移動を規制されて、ケース4に回転自在に支承される。
【0034】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、偏心スナップリング3の形状としては、開口に対向する側あるいは開口側が径方向に広いものに限られず、周方向でどの位置が径方向に広くなるようにしても偏心していれば良いので、開口の左側だけあるいは右側だけ広い形状でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)は(b)のA−A’断面図で、(b)本実施形態1の変速機の軸方向の一部断面図である。
【図2】実施形態1の変速機に用いられる偏心スナップリング3の図である。
【図3】本実施形態1の変速機の軸方向一部断面図である。
【図4】変形例1の許容位置33にある偏心スナップリング3αと軸受け側固定溝221及びケース側固定溝42の概略線を示す概略図である。
【図5】変形例1の規制位置34にある偏心スナップリング3αと軸受け側固定溝221及びケース側固定溝42の概略線を示す概略図である。
【図6】本実施形態2の許容位置33にある偏心スナップリング3βと軸受け側固定溝221及びケース側固定溝42の概略線を示す概略図である。
【図7】本実施形態2の規制位置34にある偏心スナップリング3βと軸受け側固定溝221及びケース側固定溝42の概略線を示す概略図である。
【図8】従来技術の変速機の内部説明図である。
【図9】従来技術の変速機で用いられるケースの一部斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1:回転軸、
2:軸受け、21:軸受け内周部、22:軸受け外周部、221:軸受け側固定溝、
221a:底面、23:ボール、
3,3α,3β:偏心スナップリング、31:リング内周部、32:リング外周部、
321:歯、33:許容位置、34:規制位置、
4:ケース、41:軸受け固定部、411:内面、42:ケース側固定溝、421:底面、
43:回転用孔、431:導通箇所、
5:ボルト(偏心スナップリング回転部材)、51:ねじ山、
91:回転軸、92:軸受け、93:スナップリング、94:蓋、95:ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の一端部の外周側に固定される軸受け内周部と、外周面に周方向に形成された軸受け側固定溝をもち前記軸受け内周部の外周側に回動可能且つ軸方向の移動が規制されるように周設された軸受け外周部とを備える軸受けと、
前記軸受け外周部がほぼ隙間なく挿通可能なリング内周部と、前記リング内周部の外周側で前記リング内周部の内周中心に対して所定距離偏心した外周中心をもつリング外周部とをもち、前記軸受け側固定溝内に前記軸方向に隙間なく挿嵌可能な厚みをもち、略C字形状の偏心スナップリングと、
前記軸受けの前記軸受け側固定溝に対向し且つ前記偏心スナップリングの前記リング外周部が前記軸方向に隙間なく挿嵌可能で且つ前記偏心スナップリングのリング外周部が内接し径方向の移動を規制できる底面をもつケース側固定溝が内周面に形成され、前記軸受けの前記軸受け外周部の外面を概ね隙間なく覆う内面形状をもつ軸受け固定部をもち、前記回転軸、前記軸受け及び前記偏心スナップリングを収納する収納空間を区画するケースと、
前記偏心スナップリングの前記内周中心が前記軸受け固定溝の内周面の中心と一致することにより前記軸受けが前記ケースの前記軸受け固定部に挿嵌できる許容位置と、前記内周中心が前記軸受け固定溝の内周面の中心と偏心することにより周方向の一部が前記軸受け側固定溝に挿嵌されて前記軸受け外周部及び前記軸受け固定部の間における軸方向の相対移動を規制することができる規制位置との間で前記偏心スナップリングを周方向に回転させる偏心スナップリング回転部材と、
を有することを特徴とする変速機。
【請求項2】
前記ケース側固定溝底面は前記偏心スナップリングの外周部と略同一形状である請求項1に記載の変速機。
【請求項3】
回転軸と、
前記回転軸の一端部の外周側に固定される軸受け内周部と、外周面に周方向に形成され且つ底面の外接円が前記外周面の外周中心と所定距離偏心した軸受け側固定溝をもち前記軸受け内周部の外周側に回動可能且つ軸方向の移動が規制されるように周設された軸受け外周部とを備える軸受けと、
前記軸受けの前記軸受け側固定溝に対向するケース側固定溝が内周面に形成され、前記軸受けの前記軸受け外周部の外面を概ね隙間なく覆う内面形状をもつ軸受け固定部をもち、前記回転軸及び前記軸受けを収納する収納空間を区画するケースと、
前記軸受け固定部の前記内周面にほぼ隙間なく挿通可能なリング外周部と、前記リング外周部の内周側で前記リング外周部の外周中心に対して所定距離偏心した内周中心をもつリング内周部とをもち、前記軸受け側固定溝及び前記ケース側固定溝に対して前記軸方向に隙間なく挿嵌可能で前記収納空間内に収納された略C字形状の偏心スナップリングと、
前記偏心スナップリングの前記外周中心が前記軸受け外周部の外周面の中心と一致することにより前記軸受けが前記ケースの前記軸受け固定部と挿嵌できる許容位置と、前記外周中心が前記軸受け外周部の外周面の中心とずれることにより周方向の一部が前記ケース側固定溝に挿嵌されて前記軸受け外周部及び前記軸受け固定部の間における軸方向の相対移動を規制することができる規制位置との間で前記偏心スナップリングを周方向に回転させる偏心スナップリング回転部材と、
を有することを特徴とする変速機。
【請求項4】
前記軸受け側固定溝底面は前記偏心スナップリングの内周部と略同一形状である請求項3に記載の変速機。
【請求項5】
前記偏心スナップリングは前記外面の周方向に形成された歯を有し、
前記偏心スナップリング回転部材は前記ケース側固定溝底面の一部と導通した導通箇所で前記偏心スナップリングの前記歯と係合し前記偏心スナップリングを周方向に回転させるボルトを有し、
前記ケースは前記ボルトが挿入される回転用孔が形成されている請求項1〜4の何れか1項に記載の変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−293737(P2009−293737A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149580(P2008−149580)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】