説明

多孔性金属錯体の製造方法、多孔性金属錯体、吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材

【課題】 反応時間の短縮及び収率の増加が可能な多孔性金属錯体の製造方法を提供する。
【解決手段】中心金属と有機配位子とを備える金属錯体の三次元的多孔性骨格構造からなる多孔性金属錯体の製造方法であって、有機配位子の塩を第1の金属塩として調製し、中心金属の塩を第2の金属塩として調製し、第1及び第2の金属塩を反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多孔性金属錯体の製造方法、多孔性金属錯体、吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池車両に搭載するための固体高分子型燃料電池の開発競争が活発に繰り広げられている。このような燃料電池車両の実用化のために、低コスト、軽量で、かつ吸蔵密度の高い水素吸蔵材料を用いる効率的な水素吸蔵方法の開発が望まれている。
【0003】
そこで、金属イオンと有機配位子からなる二次元格子構造を単位モチーフとして3次元的に積層した骨格構造を有する多孔性の有機金属錯体を用いた水素吸蔵材料が提案され(特許文献1参照)、メタン、窒素、水素などのガス吸着材として注目されている。中でも特にフマル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸を有機配位子に用いた多孔性の有機金属錯体がガス吸蔵材として好適であることが見出されている(特許文献2、特許文献3、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−348361号公報
【特許文献2】特開2000−63385号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0004364号明細書
【非特許文献1】M.Eddaoudi, H.Li, and O.M.Yaghi,J.Am.Chem.Soc.122,1391-1397(2000)
【非特許文献2】N.L.Rosi et al., Science 300,1127-1129(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有機配位子となるカルボン酸化合物は、有機金属錯体を得るためには使用される溶媒への溶解度が低く、必要溶媒量が多くなる。このため、一度に合成できる量が限られ、量を増やそうとすると多量の溶媒を必要とする。また、カルボン酸化合物は金属塩との反応性が低く、有機金属錯体を得るためには長い反応時間が必要である。この反応時間を短くするために反応温度を上げると副反応が多くなり、目的とする有機金属錯体の収率が低くなることがある。そして、中間体が不安定な化合物では収率の低下がより顕著に見られ、コスト、量産性の点で問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る多孔性金属錯体の製造方法は、中心金属と有機配位子とを備える金属錯体の三次元的多孔性骨格構造からなる多孔性金属錯体の製造方法であって、有機配位子の塩を第1の金属塩として調製し、中心金属の塩を第2の金属塩として調製し、第1及び第2の金属塩を反応させることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る多孔性金属錯体は、本発明に係る多孔性金属錯体の製造方法により得られたことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る吸着材は、上記本発明に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る分離材は、上記本発明に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係るガス吸着材は、上記本発明に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る水素吸着材は、上記本発明に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機配位子となる化合物を金属塩とすることで解離しやすくなり、溶媒に対して溶解度が高くなるので、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、第1及び第2の金属塩は解離しやすいので反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。
【0012】
本発明によれば、多孔性金属錯体が効率良く安価に得られる。
【0013】
本発明によれば、本発明に係る多孔性金属錯体を用いるので、安価な吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材が効率よく得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に多孔性金属錯体の製造方法、多孔性金属錯体、吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材を説明する。
【0015】
第一実施形態
図1に、本発明の第一実施形態に係る多孔性金属錯体の一例であるテレフタル酸亜鉛(II)を模式的に示す。ここでは、中心金属の間を結合する有機配位子としてテレフタル酸のみを用いている。図1(a)は、テレフタル酸亜鉛(II)の結晶1を示す顕微鏡写真、図1(b)は、図1(a)のIb部の模式的拡大図、図1(c)は、図1(b)のIc部の模式的拡大図であり、図2は、多孔性金属錯体の三次元骨格を二次元的に示すモチーフ図である。
【0016】
図1(a)に示すように、テレフタル酸亜鉛(II)は略立方体状の結晶を構成する。この結晶1は、図1(b)に示すように、三次元的に行列配置した亜鉛を中心金属とする格子点2と、その間を結ぶ配位結合部3からなる三次元格子状の骨格構造を有する。より詳細には、例えば図1(c)及び図2に示すように、多孔性金属錯体1は、1つの酸素原子に4つの亜鉛イオンが結合した構造の亜鉛4核クラスタからなる格子点2(以下、しばしば「亜鉛4核クラスタ2」又は単に「クラスタ2」と呼ぶ。)と、このクラスタ2の亜鉛イオンに各々配位結合されたRで示す構造を有する置換基(図1(c)ではRはベンゼン環で表している。)を含むテレフタル酸イオンからなる配位結合部3とを有する骨格構造を成す。各テレフタル酸イオンは2つのカルボキシレート基を有する。テレフタル酸イオンは、各カルボキシレート基の2つの酸素原子を介して亜鉛4核クラスタ2の亜鉛イオンに配位することにより、亜鉛4核クラスタ2を格子点とし、クラスタ2と配位結合部3とによって画成された空隙GP1を有する単位格子Icを構成する。この単位格子Icを二次元に配置した二次元格子構造M1を単位モチーフ、つまり、基本的繰り返しパターンとして積層し、その間をさらにテレフタル酸イオンで架橋することにより三次元的多孔性骨格構造が形成される。この構造では、複数の二次元格子の各空隙列が一列に整列し、一次元のチャネルを複数形成する。図1(c)は、この骨格構造の単位格子の空隙の大きさを具現化した球体4を示す。
【0017】
このような構造を有する多孔性金属錯体は、有機配位子の塩を第1の金属塩として調製し、中心金属の塩を第2の金属塩として調製することによって製造する。この場合には、有機配位子となる化合物を金属塩とすることで解離しやすくなり、溶媒に対して溶解度が高くなるので、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、第1及び第2の金属塩は解離しやすいので反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。
【0018】
ここで一例として、図3(a)に本発明の第一実施形態に係る化学反応を、図3(b)に従来例における化学反応を示す。図3(b)に示すように、従来例では有機配位子となる化合物としてカルボン酸を用い、溶媒中で中心金属となる金属塩と反応させている。この反応では、溶媒中におけるカルボン酸の解離定数が低く溶解度が低いため、反応終了時間が長く、反応収率も低い。これに対し、図3(a)に示すように有機配位子となる化合物としてカルボン酸金属塩を使用した場合には、この化合物は溶媒に易溶であり、容易にイオン化して反応が進む。このため、従来例よりも短時間で反応が終了し、反応収率も従来例と比べて高くなる。
【0019】
なお、第1の金属塩の調製、第2の金属塩の調製及び反応のいずれか一つは、第1又は第2の溶液に超音波を照射することを含んでもよい。この場合には、第1の金属塩と第2の金属塩との反応が促進される。第1及び第2の金属塩の一方は、カルボン酸金属塩を含み、カルボン酸金属塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含むことが好ましい。カルボン酸金属塩がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩である場合には、カルボン酸の脱プロトン化と比較して溶媒中でカルボキシレート基と金属イオンに解離しやすく、溶解度が高い。このため、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、カルボン酸金属塩が解離しやすいので他方の金属塩との反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加を期待でき、製造コストを削減できる。
【0020】
カルボン酸金属塩は、次の一般式(I)
(XOOC)n1−R−(COOX’)n2 ・・・(I)
(ただし、Rはアルキレン基、アルキニレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示し、Xは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、X’はXと同一又は異なるアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、n1、n2は1〜4の整数を示す。)で表されるカルボン酸誘導体を含むことが好ましい。この場合、アルキレン基、アルキニレン基、アルケニレン基又はアリーレン基は置換基を有していても良い。
【0021】
カルボン酸金属塩は、次の一般式(II)
XOOC−R−COOX’ ・・・(II)
で表されるジカルボン酸誘導体からなることが好ましい。X又はX’は、Na(ナトリウム)又はK(カリウム)からなることが好ましい。X又はX’がNa又はKである場合には、従来に比べ、安価で効率良く多孔性金属錯体を製造することが可能となる。一般式(II)において、Rはアリーレン基を含むことが好ましく、アリーレン基は置換基を有していても良い。
【0022】
このRは、次の一般式(III)〜(XII)
【化1】

【0023】
のいずれか一つで表される置換基を含むことが好ましい。一般式(III)〜(XII)において、*の箇所にはカルボキシレート基が結合し、このカルボキシレート基の2つの酸素原子が中心金属に配位して錯体を形成することにより二次元格子構造及び三次の骨格構造を形成する。ここで、配位子となるジカルボン酸誘導体を目的にあわせて選ぶことにより、細孔の形、細孔径を調製することが可能となる。なお、ジカルボン酸誘導体のカルボキシレート基を、イオン交換により調製しても良い。
【0024】
第2の金属塩は、2〜4価の金属を含む金属群から選択された金属を含むことが好ましく、特に、第2の金属塩は2価の金属を含むことが好ましい。この場合には、第2の金属塩が溶媒で解離して金属がイオン化するため、第1の金属塩との反応が促進される。このため、従来に比べて反応時間も短縮でき、反応温度の低下、収率の増加が可能となる。なお、この第2の金属塩は、Cu、Zn、Mo、Ru、Cr、Ni及びRhを含む金属群から選択された金属を含むことがより好ましい。また、第2の金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及び蟻酸塩を含む金属塩群から選択される金属塩を含むことが好ましい。
【0025】
第1の金属塩の調製は、第1の金属塩を第1の溶媒に溶解して第1の溶液を得ることを含み、第2の金属塩の調製は、第2の金属塩を第2の溶媒に溶解して第2の溶液を得ることを含み、反応は、第1及び第2の溶液を混合することを含む。第1及び第2の溶液を混合することにより、第1の金属塩が解離すると共に第2の金属塩が解離して金属イオンが生成し、金属錯体が生成する。
【0026】
第1及び第2の溶媒の一方は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、アセトン及びアセトニトリルを含む溶媒群から選択された溶媒を含むことが好ましい。アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール等が使用可能である。これらの溶媒は、第1の金属塩及び第2の金属塩を溶解するが、目的物である金属錯体を溶解しないため、効率良く目的物を得ることが可能となる。中でも、溶媒は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類を含む溶媒群から選択された溶媒を含むことが好ましい。また、第1及び第2の溶媒が同じ溶媒でも構わない。
【0027】
上記反応は、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム及び蟻酸カリウムを含む金属塩群から選択された金属塩を副生成物として得ることを含むことが好ましい。これらの副生成物は反応速度が大きいため、第1の金属塩と第2の金属塩の反応が促進される。このため、反応時間の低下、反応温度の低下及び反応収率の増加が可能となる。生成した多孔性金属錯体は、8〜10のpHを有することが好ましい。pHが8〜10の範囲にある場合には、第1及び第2の金属塩が溶媒中で解離しやすくなるため溶媒への溶解度が上がり、反応が促進される。
【0028】
この多孔性金属錯体の製造方法により生成した多孔性金属錯体は、中心金属とカルボキシレート基を有する有機配位子とを備え、中心金属の周りに有機配位子が配位される。各有機配位子は2つのカルボキシレート基を有し、各カルボキシレート基の2つの酸素原子を介して中心金属に配位することにより、中心金属を格子点とする環(空隙)が縮合した格子状の二次元構造が形成される。この二次元格子構造を単位モチーフ、つまり、基本的繰り返しパターンとして積層し、各二次元格子構造を更に有機配位子で架橋することにより三次元的多孔性骨格構造が形成される。この構造では、複数の二次元構造の各空隙列が一列に整列するため、一次元のチャネルを複数形成する。
【0029】
この多孔性金属錯体において、二次元格子構造の単位モチーフを積層した三次元的多孔性骨格構造は空隙を画成する骨格部であり、各空隙の細孔径は0.3〜2.0[nm]の大きさである。そして、この細孔径より小さな気体又は液体分子を骨格構造に取り込むことが可能である。この骨格構造は比較的強い結合である配位結合により形成されているため強固であり、気体又は液体分子を除去してもその骨格構造が安定に維持される。このため、気体又は液体分子を可逆的に取り込むことが可能である。なお、この多孔性金属錯体は上記副生成物を残留物として含む。上記副生成物を残留物を含む場合には、出発物質が第1の金属塩と第2の金属塩であることが示される。
【0030】
以上説明したように、本発明の第一実施形態に係る多孔性金属錯体の製造方法では、第1及び第2の金属塩は解離しやすく、溶解度が高いので、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、第1及び第2の金属塩はが解離しやすいので反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加を期待でき、製造コストを削減できる。このように、この製造方法により多孔性金属錯体を効率良く安価に得られる。また、この製造方法により得られた多孔性金属錯体を用いて吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材を製造した場合には、従来に比べて効率良く安価に得られる。
【0031】
第二実施形態
図4に、本発明の第二実施形態に係る多孔性金属錯体(以下、しばしば「多孔性架橋金属錯体」と呼ぶ。)の一例であるテレフタル酸銅(II)−トリエチレンジアミンの結晶構造11を模式的に示す。ここでは、中心金属の間の結合には、有機配位子と架橋配位子の二種類を配位子として用いている。
【0032】
この結晶構造11は、2個の銅イオンを中心金属12とした二核錯体であり、中心金属12の周りに有機配位子としてテレフタル酸イオンが配位されて配位結合部13を形成する。テレフタル酸イオンは2つのカルボキシレート基を有し、このカルボキシレート基の2つの酸素原子を介して中心金属12である銅イオンに配位することにより、2つの銅イオンを格子点とする環(空隙)が縮合した格子状の2次元構造(カルボン酸金属錯体)M2が形成される。この二次元格子構造M2を単位モチーフ、つまり、基本的繰り返しパターンとして積層し、各二次元格子構造M2を架橋配位子14であるトリエチレンジアミンで架橋することにより三次元的多孔性骨格構造が形成される。架橋配位子14であるトリエチレンジアミンは、2個の配位基で中心金属12である銅イオンに配位する二座配位子である。この構造11では、中心金属12と配位結合部13によって画成された空隙GP2を有し、複数の二次元構造M2の各空隙列が一列に整列するため、一次元のチャネルを複数形成する。
【0033】
このような構造を有する多孔性架橋金属錯体は、有機配位子の塩を第1の金属塩として調製し、中心金属の塩を第2の金属塩として調製し、第1及び第2の金属塩を反応させることにより製造する。この反応において、中心金属の塩に2座配位可能な架橋配位子を加える。この反応では、銅イオンとテレフタル酸イオンとから形成される二次元格子構造M2からなる単位モチーフが形成されると同時に、中心金属12に2座配位可能な架橋配位子14を加えることにより、架橋配位子14が二次元格子構造M2間を架橋して三次元的多孔性骨格構造11を形成する。この反応において、有機配位子となる化合物を金属塩とすることで化合物が解離しやすくなり、溶媒に対して溶解度が高くなるため、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、第1及び第2の金属塩は解離しやすいので反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加がを期待でき、製造コストを削減できる。
【0034】
さらに、従来では、二次元格子構造M2を架橋配位子で架橋する場合には、金属イオンと有機配位子とから形成される二次元格子構造M2を形成した後にこの二次元格子構造M2を3次元的に積層して架橋配位子で二次元格子構造M2間を結合するという2段階の合成法を取ることが多かったため、反応時間が増加し、収率が低下するという問題があった。これに対し、第二実施形態においては、第1及び第2の金属塩を反応させる際に架橋配位子となる化合物を加えることにより、二次元格子構造M2の形成と同時に各二次元格子構造M2の間を架橋配位子14によって結合することができる。このため、合成プロセスを1段階に短縮することができ、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。
【0035】
ここで第二実施形態の一例として、図5(a)に第二実施形態に係る化学反応を、図5(b)に従来例における化学反応を示す。図5(b)に示すように、従来例では有機配位子となる化合物としてカルボン酸を用い、溶媒中で中心金属となる金属塩と反応させている。この反応では、溶媒中におけるカルボン酸の解離定数が低く溶解度が低いため、反応終了時間が長く、反応収率も低い。また、カルボン酸と金属塩とを反応させて二次元格子構造からなる金属錯体を形成し、この反応液に更に架橋配位子となる化合物を添加し、架橋金属錯体を形成する2段階の合成法を取る。これに対し、図5(a)に示すように、有機配位子となる化合物としてカルボン酸金属塩を使用した場合には、この化合物は溶媒に易溶であり、容易にイオン化して反応が進むため、従来例よりも短時間で反応が終了し、反応収率も従来例と比べて高くなる。また、カルボン酸金属塩、第2の金属塩及び架橋配位子を同時に反応させるため、二次元格子構造からなる金属錯体の形成と同時に架橋配位子による架橋反応が進み、架橋金属錯体が形成する。このように、合成プロセスを1段階に短縮することができ、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。
【0036】
なお、第1の金属塩の調製、第2の金属塩の調製及び反応のいずれか一つは、第1又は第2の溶液に超音波を照射することを含んでもよい。この場合には、第1の金属塩と第2の金属塩との反応、又は第1の金属塩と架橋配位子との反応が促進される。第1及び第2の金属塩の一方は、カルボン酸金属塩を含み、カルボン酸金属塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含むことが好ましい。カルボン酸金属塩がアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩である場合には、カルボン酸の脱プロトン化と比較して溶媒中でカルボキシレート基と金属イオンに解離しやすく、溶解度が高い。このため、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、カルボン酸金属塩が解離しやすいので他方の金属塩との反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加を期待でき、製造コストを削減できる。
【0037】
カルボン酸金属塩は、次の一般式(I)
(XOOC)n1−R−(COOX’)n2 ・・・(I)
(ただし、Rはアルキレン基、アルキニレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示し、Xは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、X’はXと同一又は異なるアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、n1、n2は1〜4の整数を示す。)で表されるカルボン酸誘導体を含むことが好ましい。この場合、アルキレン基、アルキニレン基、アルケニレン基又はアリーレン基は置換基を有していても良い。
【0038】
カルボン酸金属塩は、次の一般式(II)
XOOC−R−COOX’ ・・・(II)
で表されるジカルボン酸誘導体からなることが好ましい。X又はX’は、Na(ナトリウム)又はK(カリウム)からなることが好ましい。X又はX’がNa又はKである場合には、従来に比べ、安価で効率良く多孔性金属錯体を製造することが可能となる。一般式(II)において、Rはアリーレン基を含むことが好ましく、アリーレン基は置換基を有していても良い。
【0039】
このRは、次の一般式(III)〜(XII)
【化2】

【0040】
のいずれか一つで表される置換基を含むことが好ましい。一般式(III)〜(XII)において、*の箇所にはカルボキシレート基が結合し、このカルボキシレート基の2つの酸素原子が中心金属に配位して錯体を形成することにより二次元格子構造を形成する。ここで、配位子となるジカルボン酸誘導体を目的にあわせて選ぶことにより、細孔の形、細孔径を調製することが可能となる。なお、ジカルボン酸誘導体のカルボキシレート基を、イオン交換により調製しても良い。
【0041】
第2の金属塩は、2〜4価の金属を含む金属群から選択された金属を含むことが好ましく、特に、第2の金属塩は2価の金属を含むことが好ましい。この場合には、第2の金属塩が溶媒で解離して金属がイオン化するため、第1の金属塩との反応が促進される。このため、従来に比べて反応時間も短縮でき、反応温度の低下、収率の増加が可能となる。なお、この第2の金属塩は、Cu、Zn、Mo、Ru、Cr、Ni及びRhを含む金属群から選択された金属を含むことがより好ましい。また、第2の金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及び蟻酸塩を含む金属塩群から選択される金属塩を含むことが好ましい。
【0042】
第1の金属塩の調製は、第1の金属塩を第1の溶媒に溶解して第1の溶液を得ることを含み、第2の金属塩の調製は、第2の金属塩を第2の溶媒に溶解して第2の溶液を得ることを含み、反応は、第1及び第2の溶液を混合することを含む。また、反応は、中心金属の塩に2座配位可能な架橋配位子を加えることを含む。第1及び第2の溶液を混合することにより、第1の金属塩が解離すると共に第2の金属塩が解離して金属イオンが生成し、金属錯体が生成する。また、架橋配位子を加えることにより、二次元格子構造からなる金属錯体の形成と同時に架橋配位子による架橋反応が進み、架橋金属錯体が形成する。このため、合成プロセスを1段階に短縮することができ、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。なお、架橋配位子は第1及び第2の溶液を得る段階で加えてもよい。
【0043】
第1及び第2の溶媒の一方は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、アセトン及びアセトニトリルを含む溶媒群から選択された溶媒を含むことが好ましい。アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール等が使用可能である。これらの溶媒は、第1及び第2の金属塩、架橋配位子を溶解するが、目的物である架橋金属錯体を溶解しないため、効率良く目的物を得ることが可能となる。中でも、溶媒は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類を含む溶媒群から選択された溶媒を含むことが好ましい。また、第1及び第2の溶媒が同じ溶媒でも構わない。
【0044】
上記反応は、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム及び蟻酸カリウムを含む金属塩群から選択された金属塩を副生成物として得ることを含むことが好ましい。これらの副生成物は反応速度が大きいため、第1の金属塩と第2の金属塩の反応が促進される。このため、反応時間の低下、反応温度の低下及び反応収率の増加が可能となる。生成した多孔性架橋金属錯体は、8〜10のpHを有することが好ましい。pHが8〜10の範囲にある場合には、第1及び第2の金属塩が溶媒中で解離しやすくなるため溶媒への溶解度が上がり、反応が促進される。
【0045】
この多孔性架橋金属錯体の製造方法により生成した多孔性架橋金属錯体は、中心金属とカルボキシレート基を有する有機配位子と中心金属に二座配位可能な架橋配位子を備え、中心金属の周りに有機配位子及び架橋配位子が配位される。各有機配位子は2つのカルボキシレート基を有し、各カルボキシレート基の2つの酸素原子を介して中心金属に配位することにより、中心金属を格子点とする環(空隙)が縮合した格子状の二次元構造が形成される。この二次元格子構造を単位モチーフ、つまり、基本的繰り返しパターンとして積層し、各二次元格子構造を更に架橋配位子で架橋することにより三次元的多孔性骨格構造が形成される。この構造では、複数の二次元構造の各空隙列が一列に整列するため、一次元のチャネルを複数形成する。
【0046】
この多孔性架橋金属錯体において、二次元格子構造の単位モチーフを積層した三次元的多孔性骨格構造は空隙を画成する骨格部であり、各空隙の細孔径は0.3〜2.0[nm]の大きさである。そして、この細孔径より小さな気体又は液体分子を骨格構造に取り込むことが可能である。この骨格構造は比較的強い結合である配位結合により形成されているため強固であり、気体又は液体分子を除去してもその骨格構造が安定に維持される。このため、気体又は液体分子を可逆的に取り込むことが可能である。なお、この多孔性架橋金属錯体は上記副生成物を残留物として含む。上記副生成物を残留物を含む場合には、出発物質が第1の金属塩と第2の金属塩であることが示される。
【0047】
以上説明したように、本発明の第二実施形態に係る多孔性金属錯体(多孔性架橋金属錯体)の製造方法では、第1及び第2の金属塩は解離しやすく、溶解度が高いので、従来に比べて必要溶媒量が少なくてすみ、反応時間も短縮できる。また、第1及び第2の金属塩はが解離しやすいので反応性が高く、反応温度の低下、単位時間当たりの生産性及び収率の増加を期待でき、製造コストを削減できる。また、第1及び第2の金属塩及び架橋配位子を同時に反応させるため、二次元格子構造からなる金属錯体の形成と同時に架橋配位子による架橋反応が進み、多孔性金属錯体が形成する。このため、合成プロセスを1段階に短縮することができ、単位時間当たりの生産性及び収率の増加が期待でき、製造コストを削減できる。また、この製造方法により得られた多孔性金属錯体を用いて吸着材、分離材、ガス吸着材及び水素吸着材を製造した場合には、従来に比べて効率良く安価に得られる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例4により本発明の実施の形態について更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0049】
1.試料の調製
実施例1 {ZnO(OOC−C−COO)の合成
カルボン酸塩(第1の金属塩)としてテレフタル酸二ナトリウムを、第2の金属塩として硝酸亜鉛用いた。まず、テレフタル酸二ナトリウム2.10[g]と硝酸亜鉛四水和物2.60[g]をジエチルホルムアミドに溶解し、攪拌後室温にて24[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、ジエチルホルムアミドで洗浄した。その後、180[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{ZnO(OOC−C−COO)を得た。
【0050】
実施例2 {ZnO(OOC−C10−COO)の合成
カルボン酸塩として2,6−ナフタレンジカルボン酸のイオン交換により合成した2,6−ナフタレンジカルボン酸二ナトリウムを、第2の金属塩として硝酸亜鉛用いた。2,6−ナフタレンジカルボン酸二ナトリウム2.60[g]と硝酸亜鉛四水和物2.60[g]をジエチルホルムアミドに溶解し、攪拌後室温にて36[時間]放置した。その後、180[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{ZnO(OOC−C10−COO)を得た。
【0051】
実施例3 {ZnO(OOC−C−COO)の合成
カルボン酸塩としてテレフタル酸のイオン交換により合成したテレフタル酸二カリウムを、第2の金属塩として硝酸亜鉛用いた。テレフタル酸二カリウム2.42[g]と硝酸亜鉛四水和物2.60[g]をジエチルホルムアミドに溶解し、攪拌後室温にて48[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、ジエチルホルムアミドで洗浄した。その後、180[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{ZnO(OOC−C−COO)を得た。
【0052】
実施例4 {ZnO(OOC−C−COO)の合成
カルボン酸塩(第1の金属塩)としてテレフタル酸二ナトリウムを、第2の金属塩として硝酸亜鉛用いた。まず、テレフタル酸二ナトリウム1.57[g]と硝酸亜鉛四水和物2.60[g]をジエチルホルムアミドに溶解し、攪拌後室温にて24[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、ジエチルホルムアミドで洗浄した。その後、80[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{ZnO(OOC−C−COO)を得た。
【0053】
実施例5 {ZnO(OOC−C10−COO)の合成
カルボン酸塩として2,6−ナフタレンジカルボン酸のイオン交換により合成した2,6−ナフタレンジカルボン酸二ナトリウムを、第2の金属塩として硝酸亜鉛用いた。2,6−ナフタレンジカルボン酸二ナトリウム1.94[g]と硝酸亜鉛四水和物2.60[g]をジエチルホルムアミドに溶解し、攪拌後室温にて36[時間]放置した。その後、80[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{ZnO(OOC−C10−COO)を得た。
【0054】
実施例6 {ZnO(OOC−C−COO)の合成
カルボン酸塩としてテレフタル酸のイオン交換により合成したテレフタル酸二カリウムを、第2の金属塩として硝酸亜鉛用いた。テレフタル酸二カリウム1.81[g]と硝酸亜鉛四水和物2.60[g]をジエチルホルムアミドに溶解し、攪拌後室温にて48[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、ジエチルホルムアミドで洗浄した。その後、80[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{ZnO(OOC−C−COO)を得た。
【0055】
実施例7 {Cu(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
カルボン酸塩(第1の金属塩)としてテレフタル酸二ナトリウムを、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを、第2の金属塩としてギ酸銅を用いた。まず、テレフタル酸二ナトリウム1.05 [g]、トリエチレンジアミン0.28[g]、ギ酸銅四水和物0.77 [g]をメタノールに溶解し、攪拌後室温にて18[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、メタノールで洗浄した。その後、80[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{Cu(OOC−C−COO)−1/2C12を得た。
【0056】
実施例8 {Cu(OOC−C106−COO)−1/2C12の合成
カルボン酸塩として2,6−ナフタレンジカルボン酸のイオン交換により合成した2,6−ナフタレンジカルボン酸二ナトリウムを、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを、第2の金属塩としてギ酸銅四水和物を用いた。2,6−ナフタレンジカルボン酸二ナトリウム 1.30[g]、トリエチレンジアミン0.28[g]、ギ酸銅四水和物0.77[g]をメタノールに溶解し、攪拌後室温にて24[時間]放置した。その後、80[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{Cu(OOC−C106−COO)−1/2C12を得た。
【0057】
実施例9 {Cu(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
カルボン酸塩としてテレフタル酸のイオン交換により合成したテレフタル酸二カリウムを、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを、第2の金属塩としてギ酸銅四水和物を用いた。テレフタル酸二カリウム1.21 [g]、トリエチレンジアミン0.28[g]、ギ酸銅四水和物0.77[g]をメタノールに溶解し、攪拌後室温にて24[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、メタノールで洗浄した。その後、80[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{Cu(OOC−C−COO)−1/2C12を得た。
【0058】
実施例10 {Rh(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
カルボン酸塩としてテレフタル酸二ナトリウムを、架橋配位子としてトリエチレンジアミンを、第2の金属塩として酢酸ロジウム二水和物を用いた。テレフタル酸二ナトリウム 1.05[g] 、トリエチレンジアミン0.28[g]、酢酸ロジウム二水和物2.39[g]をメタノールに溶解し、攪拌後室温にて48[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、メタノールで洗浄した。その後、80[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{Rh(OOC−C−COO)−1/2C12を得た。
【0059】
比較例1 {ZnO(OOC−C−COO)の合成
カルボン酸としてテレフタル酸を用いた。まず、テレフタル酸0.033[g]と硝酸亜鉛四水和物0.156[g]をジエチルホルムアミドに溶解し、攪拌後室温にて168[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、ジエチルホルムアミドで洗浄した。その後、180[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{ZnO(OOC−C−COO)を得た。
【0060】
比較例2 {ZnO(OOC−C10−COO)の合成
カルボン酸として2,6−ナフタレンジカルボン酸を用いた。まず、2,6−ナフタレンジカルボン酸0.012[g]と硝酸亜鉛四水和物0.110[g]をジエチルホルムアミドに溶解し、攪拌後室温にて168[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し、ジエチルホルムアミドで洗浄した。その後、180[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{ZnO(OOC−C10−COO)を得た。
【0061】
比較例3 {Cu(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
カルボン酸としてテレフタル酸を用いた。まず、テレフタル酸 0.033[g]とギ酸銅四水和物 0.030[g]をメタノールに溶解し、攪拌後室温にて168[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し粗結晶を得た。粗結晶をアセトンに溶解し、トリエチレンジアミン0.011[g]を加えて室温で10[時間]攪拌し、吸引濾過を行った。その後、180[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{Cu(OOC−C−COO)−1/2C12を得た。
【0062】
比較例4 {Rh(OOC−C−COO)−1/2C12の合成
カルボン酸として、テレフタル酸を用いた。まず、テレフタル酸 0.033[g]と酢酸ロジウム二水和物 0.094[g]をメタノールに溶解し、攪拌後室温にて168[時間]放置した。析出した固体を吸引濾過により回収し粗結晶を得た。粗結晶をアセトンに溶解し、トリエチレンジアミン0.011[g]を加えて室温で10[時間]攪拌し、吸引濾過を行った。ジエチルホルムアミドで洗浄した。その後、180[℃]で2[時間]真空乾燥を行い、目的物である{Rh(OOC−C−COO)−1/2C12を得た。
【0063】
2.ガス貯蔵能力の測定
実施例1及び実施例2で得られた試料について、ガス貯蔵能力を測定した。測定方法は、JIS H 7201の水素吸蔵放出測定試験に従った。試料を秤量して測定用耐圧試料管に入れ、200[℃]で3[時間]真空引きして試料管内に残留しているガスを放出させて、水素が吸蔵されていない原点を得た後測定を行った。測定温度は25[℃]とした。その後大気圧まで減圧して水素放出量の確認を行った。
【0064】
実施例1〜実施例10、比較例1〜比較例4において合成された金属錯体、架橋配位子、有機配位子、第2の金属塩、反応終了時間及び反応の収率を表1に、実施例1及び実施例2で得られた試料の水素吸蔵能を表2に示す。
【表1】

【表2】

【0065】
前述した図3を用いて、実施例2と比較例2の反応について説明する。図3(a)に実施例2における化学反応を、図3(b)に比較例2における化学反応を示す。図3(b)に示すように、比較例2では有機配位子となるカルボン酸としてジカルボン酸である2,6−ナフタレンジカルボン酸を用い、ジエチルホルムアミド中で硝酸亜鉛四水和物と反応させている。この反応では、溶媒中における2,6−ナフタレンジカルボン酸の解離定数が低く溶解度が低いため、表1に示すように反応終了時間が168[時間]と長い。これに対し、実施例2ではカルボン酸金属塩である2,6−ナフタレンジカルボン酸二ナトリウムを使用している。この化合物は溶媒に易溶であり、容易にイオン化して反応が進む。このため、実施例2では比較例2よりも短時間で反応が終了し、反応収率は65[%]だった。
【0066】
また、前述した図5を用いて、実施例7と比較例3の反応について説明する。図5(a)に実施例7における化学反応を、図5(b)に比較例3における化学反応を示す。図5(b)に示すように、比較例3では有機配位子となる化合物としてテレフタル酸を用い、メタノール中でギ酸銅と反応させている。この反応では、溶媒中におけるテレフタル酸の解離定数が低く溶解度が低いため、反応終了時間168[時間]と長く、その後にテレフタル酸とギ酸銅との反応物と架橋配位子であるトリエチレンジアミンを反応させていることから、反応収率も45[%]と低い。これに対し、図5(a)に示すように有機配位子となる化合物としてカルボン酸金属塩であるテレフタル酸二ナトリウムを使用した場合には、この化合物は溶媒に易溶であり、容易にイオン化して反応が進むため、従来例よりも短時間で反応が終了し、反応収率も従来例と比べて高くなる。また、テレフタル酸二ナトリウム、ギ酸銅及び架橋配位子であるトリエチレンジアミンを同時に反応させるため、合成プロセスを1段階に短縮することができ、反応時間が18[時間]と短く、反応収率も79[%]と高かった。
【0067】
図6に、実施例1、実施例7及び比較例1における反応速度と反応収率との関係を示す。ここで反応速度は、反応時間の逆数を示し、右にいく程反応速度が大きいことを示している。実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1の反応速度は比較例1の7倍であり、反応収率は2.4倍であった。また、実施例7と比較例1とを比較すると、実施例7の反応速度は比較例1の9.3倍であり、反応収率は2.6倍であった。同様に、他の実施例においても有機配位子となるカルボン酸誘導体としてカルボン酸の金属塩を用いた場合には、カルボン酸を使用するよりも反応時間が短かく、収率の増加が可能となることがわかった。
【0068】
実施例1の水素吸蔵能は10[MPa]で0.40[wt%]、35[MPa]で0.82[wt%]であり、実施例2の水素吸蔵能は10[MPa]で0.46[wt%]、35[MPa]で0.97[wt%]だった。このように、実施例1及び実施例2で得られた試料は高い水素吸蔵能を有することがわかった。
【0069】
このように、実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例4の結果より、本発明の実施の形態に係る多孔性金属錯体の製造方法では、カルボン酸金属塩はカルボン酸と比較して溶媒中で解離しやすく、溶解度が高いため、従来に比べて反応時間の短縮及び収率の増加が可能となることがわかった。
【0070】
以上、本実施の形態について説明したが、上記実施の形態の開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(a)テレフタル酸亜鉛(II)の結晶1を示す顕微鏡写真である。(b)Ib部の模式的拡大図である。(c)Ic部の模式的拡大図である。
【図2】多孔性金属錯体の三次元骨格を二次元的に示すモチーフ図である。
【図3】(a)本発明の第一実施形態に係る化学反応の一例を示す図である。(b)従来例における化学反応を示す図である。
【図4】多孔性金属錯体の一例の結晶構造を示す模式図である。
【図5】(a)本発明の第二実施形態に係る化学反応の一例を示す図である。(b)従来例における化学反応を示す図である。
【図6】多孔性金属錯体の製造における反応速度と反応収率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
1 結晶
2 格子点
3 配位結合部
4 球体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心金属と有機配位子とを備える金属錯体の三次元的多孔性骨格構造からなる多孔性金属錯体の製造方法であって、
前記有機配位子の塩を第1の金属塩として調製し、
前記中心金属の塩を第2の金属塩として調製し、
前記第1及び第2の金属塩を反応させることを特徴とする多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項2】
前記反応において、前記中心金属の塩に2座配位可能な架橋配位子を加えることを特徴とする請求項1に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項3】
前記第1及び第2の金属塩の一方は、カルボン酸金属塩を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項4】
前記カルボン酸金属塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を含むことを特徴とする請求項3に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項5】
前記カルボン酸金属塩は、次の一般式(I)
(XOOC)n1−R−(COOX’)n2 ・・・(I)
(ただし、Rはアルキレン基、アルキニレン基、アルケニレン基又はアリーレン基を示し、Xは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、X’はXと同一又は異なるアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、n1、n2は1〜4の整数を示す。)で表されるカルボン酸誘導体を含むことを特徴とする請求項4に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項6】
前記アルキレン基、アルキニレン基、アルケニレン基又はアリーレン基は置換基を有することを特徴とする請求項5に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項7】
前記カルボン酸金属塩は、次の一般式(II)
XOOC−R−COOX’ ・・・ (II)
で表されるジカルボン酸誘導体を含むことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項8】
前記X又はX’は、Na又はKを含むことを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項9】
前記Rはアリーレン基を含むことを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項10】
前記アリーレン基は置換基を有することを特徴とする請求項9に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項11】
前記Rは、次の一般式(III)〜(XII)
【化1】

のいずれか一つで表される置換基を含むことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項12】
前記カルボン酸誘導体のカルボキシレート基を、イオン交換により調製することを特徴とする請求項5乃至請求項11のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項13】
前記第1及び第2の金属塩の一方は、2〜4価の金属を含む金属群から選択された金属を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項14】
前記一方の金属塩の金属は、2価の金属を含むことを特徴とする請求項13に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項15】
前記一方の金属塩の金属は、Cu、Zn、Mo、Ru、Cr、Ni及びRhを含む金属群から選択された金属を含むことを特徴とする請求項14に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項16】
前記一方の金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及び蟻酸塩を含む金属塩群から選択される金属塩を含むことを特徴とする請求項13乃至請求項15のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項17】
前記第1の金属塩の調製は、前記第1の金属塩を第1の溶媒に溶解して第1の溶液を得ることを含み、
前記第2の金属塩の調製は、前記第2の金属塩を第2の溶媒に溶解して第2の溶液を得ることを含み、
前記反応は、前記第1及び第2の溶液を混合することを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項18】
前記第1の金属塩の調製、前記第2の金属塩の調製及び前記反応のいずれか一つは、前記第1又は第2の溶液に超音波を照射することを含むことを特徴とする請求項17に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項19】
前記第1及び第2の溶媒の一方は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、アセトン及びアセトニトリルを含む溶媒群から選択された溶媒を含むことを特徴とする請求項17又は請求項18に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項20】
前記一方の溶媒は、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルホルムアミド、水、アルコール類を含む溶媒群から選択された溶媒を含むことを特徴とする請求項19に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項21】
前記反応は、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、蟻酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム及び蟻酸カリウムを含む金属塩群から選択された金属塩を副生成物として得ることを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項20のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項22】
前記多孔性金属錯体は、8〜10のpHを有することを特徴とする請求項1乃至請求項21のいずれか一項に記載の多孔性金属錯体の製造方法。
【請求項23】
請求項1乃至請求項22のいずれか一項に係る多孔性金属錯体の製造方法により得られたことを特徴とする多孔性金属錯体。
【請求項24】
前記多孔性金属錯体は、請求項21に係る副生成物を残留物として含むことを特徴とする請求項23に記載の多孔性金属錯体。
【請求項25】
前記骨格構造内に取り込まれた気体又は液体を有することを特徴とする請求項23又は請求項24に記載の多孔性金属錯体。
【請求項26】
請求項23乃至請求項25のいずれか一項に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする吸着材。
【請求項27】
請求項23乃至請求項25のいずれか一項に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする分離材。
【請求項28】
請求項23乃至請求項25のいずれか一項に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とするガス吸着材。
【請求項29】
請求項23乃至請求項25のいずれか一項に係る多孔性金属錯体を含むことを特徴とする水素吸着材。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−328051(P2006−328051A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115839(P2006−115839)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】