説明

多孔質ガラス母材製造用バーナー

【課題】各ガス噴出ポート出口において均一な線速が得られ、反応が均一となり、安定した火炎が得られ、堆積効率が向上する、小口径ガス噴出ポートを有する多孔質ガラス母材製造用バーナーを提供する。
【解決手段】本発明による多孔質ガラス母材製造用バーナーは、前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポートより径方向内側に位置するガス噴出ポートを形成する管の内径が、前記所定の長さLの位置よりバーナー根元側の位置からバーナー先端側に向かって縮小され、前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポート及び当該ガス噴出ポートより径方向外側に位置するガス噴出ポートを形成する管の内径が、前記所定の長さLの位置よりバーナー先端側の位置からバーナー先端側に向かって縮小されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆積効率に優れた多孔質ガラス母材製造用バーナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバ母材を製造するために、各種方法が提案されている。それらの方法のなかでも、バーナー火炎中で生成したガラス微粒子を、バーナーもしくは出発部材を相対往復運動させて、回転する出発部材上に付着堆積させて多孔質母材を合成し、これを電気炉内で脱水、焼結する外付け法(OVD:Outside Vapor Phase Deposition法)は、比較的任意の屈折率分布のものが得られ、しかも、大口径の光ファイバ母材を量産できることから汎用されている。
【0003】
図1は、外付け法(OVD法)による多孔質ガラス母材の製造装置の一例を示す概略図である。図1において、ガラス微粒子(スート)が堆積される出発部材は、コアロッド1の両端部にダミーロッド2を溶着したものであり、その両端がインゴットチャック機構4により軸回りに回転自在に支持されている。この出発部材に向かって配設された、往復移動自在のバーナー3から、光ファイバ用原料、例えばSiCl4等の蒸気と燃焼ガス(水素ガス及び酸素ガス)とを出発部材に向けて吹き付け、酸水素火炎中での加水分解によって生成したスートを出発部材上に堆積させることにより、光ファイバ用多孔質母材が形成される。なお、符号5は排気フードである。
【0004】
バーナー3は、不図示のバーナーガイド機構により出発部材の長手方向に沿って往復移動自在に支持されている。そして、出発部材を軸回りに回転させながら、出発部材に向けて火炎を噴射し、火炎中での原料ガスの加水分解によって生成したガラス微粒子を堆積させることで多孔質母材が製造される。次いで、不図示の加熱炉のヒータ部を通過させることにより、脱水ガラス化され、光ファイバ母材とされる。
【0005】
ガラス微粒子を合成し出発部材上にスートを堆積させるために、従来、同心多重管バーナーが用いられてきた。しかし、このような同心多重管構造のバーナーは、ガラス原料ガス、可燃性ガス及び助燃性ガスの混合が充分に行われないため、ガラス微粒子の生成が充分でなかった。その結果、収率が伸びず、高速合成が困難であった。
【0006】
この問題を解決するために、特許文献1には、可燃性ガス噴出ポート内に、中心の原料ガス噴出ポートを取り囲むように小口径助燃性ガス噴出ポートを形成するノズルを複数配置したマルチノズル型バーナーが提案されている。このタイプのバーナーに関しては、さらに堆積効率を向上させる方法が幾つか提案されている。例えば、小口径助燃性ガス噴出ポートの構成について特許文献2ないし5等が提案されている。また、小口径助燃性ガス噴出ポートの焦点距離の適正化について、特許文献6ないし8等が提案されている。さらに、ガス流量及びガス線速の適正化について、特許文献9ないし12等が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特公平03−9047号公報
【特許文献2】特開2003−206154号公報
【特許文献3】特開2004−331440号公報
【特許文献4】特開2006−182624号公報
【特許文献5】特許第3744350号公報
【特許文献6】特開平05−323130号公報
【特許文献7】特許第3543537号公報
【特許文献8】特開2003−226544号公報
【特許文献9】特許第3591330号公報
【特許文献10】特開2003−165737号公報
【特許文献11】特開2003−212555号公報
【特許文献12】特許第3653902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、かかる小口径助燃性ガス噴出ポート(ノズル)を有する多孔質ガラス母材製造用バーナーについて、鋭意検討した結果、前記の小口径助燃性ガス噴出ポートの構成や焦点距離、ガス流量、ガス線速が堆積効率に大きく関わっていることを確認した。しかし、それ以前に、各ガス噴出ポート出口においてガス線速にばらつきが存在することに起因して、反応が不均一になるといった問題や、ガス流に乱れが生じて火炎が乱れるといった問題があり、これらが堆積効率の向上を妨げていることを見い出した。
【0009】
通常、バーナーへの反応ガスの供給は、バーナーの各ガス噴出ポートを形成する管の根元の一箇所にガス導入管を取り付け、これにガス供給チューブを繋いで各ガス噴出ポートに反応ガスを供給している。なお、各ガス噴出ポートへのガスは、バーナーの構造上、中心に配設されたガス噴出ポート以外は、リング(環)状の流路に直交する方向の一箇所で連結されたガス導入管から供給される。ここで、バーナーは同心多重管構造を有しているため、外方の管ほど管径が太くなり、ガス導入管からリング状の流路に供給されたガスは、外方の管ほど、内部に位置する内管の反対側には回り込み難くなる。この結果、ガス噴出ポートの流路断面内での線速が不均一になり易い。
【0010】
特に、小口径助燃性ガス噴出ポートを有するバーナーは、小口径助燃性ガス噴出ポート群がガス噴出ポートの一つ内に配置されるので、従来使用されてきた小口径助燃性ガス噴出ポートを有さない同心多重管バーナーと比較して、管径が大きくなる傾向がある。そのために、従来の同心多重管バーナーに比べて、各ガス噴出ポート出口でのガス線速のばらつきが存在し易い。そこで、各ガス噴出ポートを形成する管に対しガス導入管を複数取り付けることで、ガス噴出ポート内の線速のばらつきを減少させる方法が考えられるが、ガス導入管の数が非常に多くなり、構造が極めて複雑になり、現実的な方法ではない。
【0011】
本発明は、各ガス噴出ポート出口において均一な線速のばらつきが得られ、反応が均一となり、安定した火炎が得られ、堆積効率を向上させることのできる、小口径ガス噴出ポートを有する多孔質ガラス母材製造用バーナーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一形態による多孔質ガラス母材製造用バーナーは、中心に配置され、原料ガス噴出ポートを形成する中心管と、該中心管に対して同心に配置され、隣接する管との間に環状のガス噴出ポートを形成する複数の管と、前記中心の原料ガス噴出ポート以外のいずれかのガス噴出ポート内に、前記中心管に対して同心円上に1列又は複数列配置され、小口径ガス噴出ポートを形成する複数のノズルであって、該ノズルの先端から所定の長さLの位置で、該ノズルが配置されたガス噴出ポートを形成する一対の管の間に配置された1本の主管から分岐されて構成されている複数の小口径ガス噴出ポートノズルと、を備える。そして、前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポートより径方向内側に位置するガス噴出ポートを形成する管の内径は、前記所定の長さLの位置よりバーナー根元側の位置からバーナー先端側に向かって縮小され、前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポート及び当該ガス噴出ポートより径方向外側に位置するガス噴出ポートを形成する管の内径は、前記所定の長さLの位置よりバーナー先端側の位置からバーナー先端側に向かって縮小されている。
【0013】
ここで、複数の前記小口径ガス噴出ポートノズルは、焦点距離を同一とすることが好ましい。また、前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポートより径方向内側に位置するガス噴出ポートを形成する管の内径、及び、前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポート及び当該ガス噴出ポートより径方向外側に位置するガス噴出ポートを形成する管の内径は、所定の縮小比Xを満たすようにバーナー根元側からバーナー先端側に向かって縮小され、該縮小比が、X≦0.83であることが好ましい。
【0014】
また、前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポートを形成する外側の管の開口径をDとするとき、該開口径Dと前記所定の長さLとの関係が、式L/D≧2.0を満たすのが好ましい。また、少なくとも前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポートより径方向内側に位置するガス噴出ポートを形成する管は、内径の縮小部において、バーナー先端側に向けて肉厚が薄くなるのが好ましい。さらに、バーナー最外管の外側に、バーナー最外管とクリアランスを一定に保つように形成されたバーナーカバーが設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一形態によれば、バーナーから噴出されるガス流は、各ガス噴出ポート出口において均一な線速が得られ、安定した火炎となり、生成したガラス微粒子の堆積効率が向上する等、極めて優れた効果を奏する。
【0016】
通常、各ガス導入管からガス噴出ポートに導入されたガスは、その環状流路内で線速のばらつきを有する。ガス噴出ポートの軸線に直交する方向から導入されたガスは、内部に配設されている内管の壁に衝突して方向を変えてバーナー先端側に向かうため、内管の裏側つまり背後側には回り込みづらい。そのため、ガス導入管側の線速が大きくなり、内管の背後側の線速が小さくなる傾向がある。しかし、本発明の一形態のように、ガス噴出ポート出口までの間の途中で管の内径を縮小する構成を採用すれば、内管が存在していても、環状流路内で導入ガスの流れが軸方向に対して傾いた内壁に当たって拡散され、導入ガスが内管の背後側に回りこみ易くなることにより、環状流路内での線速のバラツキを抑制できる。
【0017】
また、小口径ガス噴出ポートノズルを内包するガス噴出ポートの外側に位置するガス噴出ポートについては、小口径ガス噴出ポートノズルを内包するガス噴出ポートと同じ位置で流路を縮小することで、バーナーを大型化させることなく、該ガス噴出ポート内の線速を均一化することができる。他方、小口径ガス噴出ポートノズルより内側に位置するガス噴出ポートは、小口径ガス噴出ポートノズルに分岐する前の主管部分、つまり、分岐位置よりもバーナー根元側で管の内径を縮小することで、流路内のガスの流れを拡散することができ、線速のバラツキを抑制することができるのに加えて、前記分岐部を通る内管の管径を小さくすることができる。これにより分岐された小口径ガス噴出ポートノズル相互の間隔を詰めることができ、バーナー全体をコンパクトに収めることができる。
【0018】
逆に、小口径ガス噴出ポートノズルより内側に位置するガス噴出ポートを形成する管の縮小を、分岐箇所よりもバーナー先端側で行った場合は、縮小部でガスの流れが拡散され、線速のバラツキが抑制されるのは同じであるが、内管の管径が太いままであるので、分岐後の小口径ガス噴出ポートノズル相互の間隔を詰めることができず、必然的に間隔は広くなる。その結果、小口径ガス噴出ポートノズルを内包するガス噴出ポートに加え、その外管も太くなるため、バーナーが巨大になり好ましくない。
【0019】
また、複数の小口径ガス噴出ポートノズルにおいて、同一列の小口径ガス噴出ポートの焦点距離を同一にしたことで、当該ガス噴出ポートから噴出されたガスを対象物上の一点に集中させて噴き付けることができ、ガスの反応性を向上させることができる。よって、多孔質ガラスの堆積効率を向上させることができる。
【0020】
ここで、ガス噴出ポートを形成する管の内径の縮小比は重要であり、多孔質ガラス母材を製造するのに使用されるガスでは、バーナー根元側の管の内径をA、バーナー先端側の管の内径をBとするとき、その縮小比Xが、X=B/A≦0.83を満たすことで、線速がより均一になる。なお、環状流路に導入されるガスの流速が大きくなるほど、線速のバラツキが小さくなる傾向にあるので、流速が大きくなるほど、縮小比Xを小さくすればよい。 また、ガス噴出ポートを形成する管が円筒状である場合には、軸方向の断面における直径が一律となるので、縮小比Xは、バーナー根元側の管の直径Aとバーナー先端側での管の直径Bとの比となる。一方で、ガス噴出ポートを形成する管が断面楕円状の筒体、断面多角形状の筒体である場合には、軸方向の断面における直径が軸心の周りの位置によって異なる。この場合、管の軸心の周りの任意の位置における直径を、バーナー根元側(A)とバーナー先端側(B)とで比較した値を、縮小比Xとする。
【0021】
なお、導入ガスの流量及びガスの種類によっては、管の内径を縮小しても小口径ガス噴出ポートノズルの長さLが短いと、小口径ガス噴出ポートノズルの周りを流れるガスは、流路内の内管よりと外管よりで線速に差が生じ、線速のばらつきを生じる場合がある(図11参照)。これは、小口径ガス噴出ポートノズルを内包するガス噴出ポートの開口径に対して、小口径ガス噴出ポートノズルの長さLが不足しているためである。
【0022】
複数の小口径ガス噴出ポートノズルを内包するガス噴出ポートの開口径に対して、小口径ガス噴出ポートノズルの長さLが充分にある場合は、バーナー先端に達するまでに小口径ガス噴出ポートノズルの径方向内側にガスが回りこんで、小口径ガス噴出ポートノズル周囲の線速の差は小さくなる(図9参照)。他方、上記したように、小口径ガス噴出ポートノズルを内包するガス噴出ポートの開口径に対して、小口径ガス噴出ポートノズルの長さLが不足している場合は、バーナー先端に達するまでに小口径ガス噴出ポートノズルの径方向内側にガスが回り込めないために、小口径ガス噴出ポートノズル内側での線速は小さく、全体の線速の差が大きくなる。
【0023】
そこで、小口径ガス噴出ポートノズルを内包するガス噴出ポートの開口径をDとするとき、分岐箇所からバーナー先端までの長さLを、L/D≧2.0を満たすように設定することで、小口径ガス噴出ポートノズルの長さLを充分取ることができるので、小口径ガス噴出ポートノズルの周囲を流れるガス流の線速の均一化が可能となる。
【0024】
なお、バーナー根元側は、バーナーを保持装置に固定するために強度が必要であり、逆にバーナー先端側は、管の内径を縮小する必要がある。そこで、小口径ガス噴出ポートノズルを内包するガス噴出ポートより内側に位置する管は、管の内径の縮小部からバーナー先端にかけての管の肉厚を薄くすることが好ましい。
【0025】
また、バーナー最外管のバーナー先端側は、管の内径の縮小によってテーパー形状をしている。このため、バーナーカバーは、バーナーの最外管とクリアランスを一定に保つように縮径されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】外付け法(OVD法)による多孔質ガラス母材の製造装置を示す概略図である。
【図2】従来の、小口径ガス噴出ポートを有するガラス微粒子合成用バーナーの先端を示す概略図である。
【図3】従来の、小口径ガス噴出ポートを有するバーナーを示す概略断面図である。
【図4】バーナー先端での、ガス導入管の位置を基準とするガスの線速のばらつきの測定位置を説明するための概略図である。
【図5】小口径ガス噴出ポートを内包するガス噴出ポートの線速のばらつきの測定位置を説明するための概略図である。
【図6】従来の小口径ガス噴出ポートを有するバーナーの線速のばらつきを示す図である。
【図7】実施例1で使用した、本発明による小口径ガス噴出ポートを有するバーナーの実施形態の断面構造を示す概略断面図である。
【図8】実施例1で使用したバーナーの線速のばらつきを示す図である。
【図9】実施例1で使用したバーナーの、第3管内のガス流の状態を示す概略図である。
【図10】管の内径の縮小比X(B/A)と堆積効率との関係を示す図である。
【図11】L/Dが小さい場合の、第3管内のガス流の状態を示す概略図である。
【図12】L/Dが小さい場合の、バーナーの線速のばらつきを示す図である。
【図13】L/Dと堆積効率との関係を示す図である。
【図14】バーナーの最外管の外側に、バーナーカバーが取り付けられたバーナーの外観を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
そこで、本発明に係る多孔質ガラス母材製造用バーナーの一実施形態につき、図7を参照してより詳細に説明する。
【0028】
本実施形態のバーナー100は、中心の原料ガス噴出ポート101Pを形成する第1管101と、これに同心の複数(第2ないし第5)の環状のガス噴出ポート102P,103P,104P,105Pを形成する複数(第2ないし第5)の管102,103,104,105を含む同心多重管構造を有している。第1ないし第5の管102、103、104、105は、軸方向の断面が円状の管である。
【0029】
本実施の形態では、中心軸線Cを有し中心の原料ガス噴出ポート(以下、第1ガス噴出ポートとも云う)101Pを形成する第1管101に対して、同軸に第1ガス導入管1091が取り付けられている。そして、この第1管101に関して、同心に、順に配置された第2管102、第3管103、第4管104及び第5管105に対しては、バーナー100の根元側で、中心軸線Cに直交する方向に、第2ガス導入管1092、第3ガス導入管1093、第4ガス導入管1094及び第5ガス導入管1095が、それぞれ、取り付けられている。
【0030】
さらに、第2管102と第3管103との間には、根元側からバーナー100の先端から所定の長さLの位置まで、1本の主管108が配置されている。この主管108は、第2管102に内周部が連結されている隔壁108Aで長さLの位置で閉鎖され、そして、主管108に対しては、その根元側で、中心軸線Cに直交する方向に、第6ガス導入管1096が取り付けられている。また、主管108の隔壁108Aからは、所定の長さLの位置で複数の小口径ガス噴出ポート106Pを形成するノズル106Nが分岐されている。これらの複数の小口径ガス噴出ポートノズル106Nは、本実施形態では、第2管102と第3管103との間に形成される第3ガス噴出ポート103Pに内包されて、原料ガス噴出ポート101Pを形成する第1管101ないしは中心軸線C回りの円上に、等間隔で1列に配置されている(本実施形態では8本)。そして、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの各々は、中心軸線C上に結ぶ焦点距離が同一となるように、途中で径方向内方に向けて折り曲げられている。なお、小口径ガス噴出ポートノズル106Nは、中心軸線C回りの同心円上に、等間隔で2列に配置されてもよい。
【0031】
そして、小口径ガス噴出ポートノズル106Nを内包する第3ガス噴出ポート103Pより径方向内側に位置する第1ガス噴出ポート101P及び第2ガス噴出ポート102Pは、途中の、上記先端からの長さLの位置よりバーナー根元側の長さLxの位置で、各ポートを形成する管の内径の縮小が開始され、長さLの位置より先端側では管の内径が一定になるようにされている。換言すると、小口径ガス噴出ポートノズル106Nを内包する第3ガス噴出ポート103Pより内側の第1管101及び第2管102は、長さLxの位置から長さLの位置まで管径が連続して縮小されている。そして、これらの第1及び第2のガス噴出ポートは、これらのポートを形成する管の内径が、ガス導入管1091及び1092が取り付けられたバーナー100の根元側の管の内径をそれぞれA、バーナー100の先端側の管の内径をそれぞれBとするとき、それらの縮小比XがX=B/A≦0.83を満たすように、途中で縮小されて形成されている。
【0032】
一方、小口径ガス噴出ポートノズル106Nを内包する第3ガス噴出ポート103P及びそれより径方向外側に位置する第4ガス噴出ポート104P及び第5ガス噴出ポート105Pは、上記先端からの長さLの位置よりバーナー先端側の長さLyの位置で、各ポートを形成する管の内径が縮小されている。換言すると、小口径ガス噴出ポートノズル106Nより外側の第3〜5管103〜105は、長さLyの位置からバーナー100の先端にかけて管径が連続して縮小されている。そして、これらの第3ないし第5のガス噴出ポート103P〜105Pは、これらのポートを形成する管の内径が、上記長さLの位置から長さLyの位置までの管の内径をそれぞれA、バーナー100の先端の管の内径をそれぞれBとするとき、それらの縮小比XがX=B/A≦0.83を満たすように、途中で縮小されて形成されている。
【0033】
また、小口径ガス噴出ポートノズル106Nが配置された第3のガス噴出ポート103Pを形成する外側の管、すなわち、第3管103の開口径をDとするとき、この開口径Dと所定の長さLとの関係が、式L/D≧2.0を満たすようにされている。かくて、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの長さLを充分取ることで、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの周囲を流れるガス流の線速の均一化を可能としている。
【0034】
また、本実施の形態では、小口径ガス噴出ポートノズル106Nが配置された第3のガス噴出ポート103Pより径方向内側に位置する第1及び第2のガス噴出ポート101P及び102Pをそれぞれ形成する第1及び第2の管101及び102は、それぞれ、縮小が開始される長さLxの位置から長さLの位置までの管の内径の縮小部において、バーナー100の先端に向け肉厚が次第に薄くされ、そして、長さLの位置からバーナー100の先端までにおいてこの薄くされた肉厚が維持されている。さらに、第5のガス噴出ポート105Pを形成する第5の管105は、長さLyの位置からバーナー100の先端までの管の内径の縮小部において、バーナー先端に向け肉厚が薄くされている。このようにして、バーナー100全体のコンパクト化が図られている。
【0035】
さらに、図14に示すように、バーナー100の最外管である第5管105の外側には、第5管105とのクリアランスを一定に保つように形成されたバーナーカバー110が設けられている。このように形成したバーナーカバー110を設けることにより、バーナー100全体をコンパクトにすることができる。
【0036】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
予備調査;
【0038】
まず、予備調査として、図2及び図3に概略的に示すような従来のバーナーを用いて各ガス噴出ポートについて、バーナー先端での線速のばらつきを測定した。
【0039】
このバーナーは、同心5重管構造を有し、第3管13内に8本の小口径ガス噴出ポートノズル16を内包し、これらの小口径ガス噴出ポートノズル16は中心管11に対し同一円上に等間隔で配設されている。そして、図3に示すように、バーナーバーナー主管18から、符号17で示す、バーナーの先端からL=80mmの位置で分岐され、小口径ガス噴出ポートノズル16が形成されている。
【0040】
このバーナーの中心管11以外に多孔質ガラス母材製造用ガスを供給し、常温における、バーナー先端での線速のばらつきを、熱線風速計を用いて測定した。ガスは、第2管12にシールガスとしてN2を4L/min、第3管13に可燃性ガスとしてH2を170L/min、第4管14にシールガスとしてN2を5L/min、第5管15に助燃性ガスとしてO2を40L/min供給した。
【0041】
線速のばらつきの測定は、図4に示すように、ガス導入管19が取り付けられている方向を0時方向とし、90度刻みで3時方向、6時方向、9時方向の4箇所で測定した。小口径ガス噴出ポートノズル16を内包する第3管13のガス噴出ポート13Pについては、各方向に対して図5に示すように、小口径ガス噴出ポートノズル16の上側と下側(径方向外側と内側)の2箇所ずつ測定した。その結果を図6に示した。
【0042】
図6から、各ガス噴出ポートにおいて、ガス導入管19の側(0時方向)のガス線速が大きく、内管を隔てた裏側(6時方向)のガス線速が小さいことが認められる。
【0043】
実施例1;
【0044】
図7を参照して説明した本発明の実施形態に係る同心5重管構造を有するバーナー100を使用した。このバーナー100は、第3管103内に8本の小口径ガス噴出ポートノズル106Nを内包し、これらの小口径ガス噴出ポートノズル106Nは、図7に示すように、バーナー100の先端からL=80mmの位置で主管108から分岐されており、第3管103の開口径Dは40mmで、L/D=2.0となっている。
【0045】
小口径ガス噴出ポート106Pより内側の第1管101及び第2管102は、バーナー100の先端からの距離、すなわち、長さLx=120mmの位置で管の内径が0.83倍になるように縮小が開始されており、小口径ガス噴出ポート106Pより外側の第3〜5管は、バーナー100の先端からの距離すなわち、長さLy=40mmの位置で管の内径が0.83倍になるように縮小が開始されている。各ガス噴出ポート101Pないし106Pに供給したガスの種類及びガス流量は予備調査と同様にして、常温で線速のばらつきの測定を行った。
【0046】
その結果、図8に示すように、予備調査の図6と比較して、各ガス噴出ポートにおいて、線速のばらつきがより均一化されているのが認められた。さらに、図9に太矢印で示すように、第3管103内を流れるガスは、バーナー100の先端に到達するまでに小口径ガス噴出ポートノズル106Nの裏側にまで充分回り込んでいるのが確認された。
【0047】
次に、この線速のばらつきの測定を行ったバーナー100の、管の内径の縮小位置及びバーナー100の先端側の管の内径は変えずに、バーナー100の根元側の管の内径を変えることで、管の内径の縮小比X(B/A)を0.7〜1.0の範囲で変化させてガラス微粒子の堆積を行い、堆積効率を求めた。
【0048】
なお、バーナー100には、第1管101にガラス原料ガスとしてSiCl410L/minと助燃性ガスとしてO220L/minを供給し、第2管102にシールガスとしてN2を4L/min、第3管103に可燃性ガスとしてH2を170L/min、第4管104にシールガスとしてN2を5L/min、第5管105に助燃性ガスとしてO2を40L/min供給し、さらに、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの主管108には助燃性ガスとしてO2を16L/min供給し、外径50mm、長さ2000mmのコアロッドの両端部に外径50mmのダミーロッドを溶着した出発部材上にガラス微粒子を100kg堆積させた。
【0049】
その結果、図10に示すように、縮小比が0.83以下になると、ガスの線速が均一化され、火炎が安定し、堆積効率が高く安定しているのが確認された。
【0050】
比較例1;
【0051】
実施例1で線速測定したL/Dが2.0のバーナー100とその根元径、先端径、及び絞り位置が同じで、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの長さLを60mmとしてL/D比を1.5に変更したバーナー100'を使用し、各ガス噴出ポートに供給したガスの種類及びガス流量は予備調査と同様にして、常温で線速のばらつきの測定を行った。
【0052】
その結果、このL/D=1.5のバーナー100'は、L/D=2のバーナー100の線速のばらつきを示した図8のバーナー100と比較して、図11及び図12に示すように、第3管103内の内側と外側(小口径ガス噴出ポートの上側と下側)での線速の差が大きくなっていた。これは、小口径ガス噴出ポートノズル106Nを内包するガス噴出ポート103Pの開口径Dに対して、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの長さLが不足していたために、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの内側にガスが回りこまないうちに、ガスがバーナー100'の先端に達してしまっていることによると推定される。
【0053】
実施例2;
【0054】
次に、比較例1で使用したL/D=1.5のバーナー100'の、バーナー根元径、バーナー先端径及び絞り位置を変えずに、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの長さLを変えることで、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの長さLと第3管103の開口径Dとの比L/Dを変化させたバーナー100"を用いた。そして、外径50mm、長さ2000mmのコアロッドの両端部に外径50mmのダミーロッドを溶着した出発部材上にガラス微粒子を100kg堆積した。図13に、L/Dと堆積効率の関係を示した。
【0055】
なお、バーナー100"には、第1管101にガラス原料ガスとしてSiCl410L/minと助燃性ガスとしてO220L/minを供給し、第2管102にシールガスとしてN2を4L/min、第3管103に可燃性ガスとしてH2を170L/min、第4管104にシールガスとしてN2を5L/min、第5管105に助燃性ガスとしてO2を40L/min供給し、さらに、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの主管108には助燃性ガスとしてO2を16L/min供給した。
【0056】
その結果、図13に示すように、L/D≧2.0を満たしていれば、小口径ガス噴出ポートノズル106Nの長さが充分となるために、安定した堆積効率が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によるバーナーは、安定した火炎が得られ、ガラス微粒子の堆積効率が向上し、多孔質ガラス母材の生産性向上に大きく寄与する。
【符号の説明】
【0058】
100 バーナー
101 第1管
101P 原料ガス(第1ガス)噴出ポート
102 第2管
102P 第2ガス噴出ポート
103 第3管
103P 第3ガス噴出ポート
104 第4管
104P 第4ガス噴出ポート
105 第5管
105P 第5ガス噴出ポート
106P 小口径ガス噴出ポート
106N 小口径ガス噴出ポートノズル
108 主管
108A 隔壁
1091〜1096 第1〜第6ガス導入管
110 バーナーカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に配置され、原料ガス噴出ポートを形成する中心管と、
該中心管に対して同心に配置され、隣接する管との間に環状のガス噴出ポートを形成する複数の管と、
前記中心の原料ガス噴出ポート以外のいずれかのガス噴出ポート内に、前記中心管に対して同心円上に1列又は複数列配置され、小口径ガス噴出ポートを形成する複数のノズルであって、該ノズルの先端から所定の長さLの位置で、該ノズルが配置されたガス噴出ポートを形成する一対の管の間に配置された1本の主管から分岐されて構成されている複数の小口径ガス噴出ポートノズルと、
を備える多孔質ガラス母材製造用バーナーであって、
前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポートより径方向内側に位置するガス噴出ポートを形成する管の内径は、前記所定の長さLの位置よりバーナー根元側の位置からバーナー先端側に向かって縮小され、
前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポート及び当該ガス噴出ポートより径方向外側に位置するガス噴出ポートを形成する管の内径は、前記所定の長さLの位置よりバーナー先端側の位置からバーナー先端側に向かって縮小されていることを特徴とする多孔質ガラス母材製造用バーナー。
【請求項2】
複数の前記小口径ガス噴出ポートノズルにおいて、同一列の小口径ガス噴出ポートは、焦点距離を同一とする請求項1に記載の多孔質ガラス母材製造用バーナー。
【請求項3】
前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポートより径方向内側に位置するガス噴出ポートを形成する管の内径、及び、前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポート及び当該ガス噴出ポートより径方向外側に位置するガス噴出ポートを形成する管の内径は、所定の縮小比Xを満たすようにバーナー根元側からバーナー先端側に向かって縮小され、該縮小比が、X≦0.83である請求項1又は請求項2に記載の多孔質ガラス母材製造用バーナー。
【請求項4】
前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポートを形成する外側の管の開口径をDとするとき、該開口径Dと前記所定の長さLとの関係が、式L/D≧2.0を満たす請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の多孔質ガラス母材製造用バーナー。
【請求項5】
少なくとも前記小口径ガス噴出ポートノズルが配置されたガス噴出ポートより径方向内側に位置するガス噴出ポートを形成する管は、内径の縮小部において、バーナー先端側に向けて肉厚が薄くなる請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の多孔質ガラス母材製造用バーナー。
【請求項6】
バーナー最外管の外側に、バーナー最外管とクリアランスを一定に保つように形成されたバーナーカバーが設けられている請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の多孔質ガラス母材製造用バーナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−215415(P2010−215415A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42296(P2009−42296)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】