説明

多孔質ガラス電解質

【課題】本発明は、プロトン導電率を向上させた多孔質ガラス電解質を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、SiO多孔質ガラスの細孔内部の表面を、メルカプトメチルトリメトキシシランで表面改質し、上記メルカプトメチルトリメトキシシランのメルカプト基を酸化することによりスルホン酸基に変換させたことを特徴とする多孔質ガラス電解質を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン導電率を向上させた多孔質ガラス電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、燃料電池などの材料として広く使用されている含フッ素イオン交換膜(“ナフィオン”、“フレミオン”などの商標名で市販されている)は、有機高分子膜であるため、耐熱性が十分でなく、80℃以上の高温での使用は難しい。燃料電池システム全体としてのエネルギー効率の改善を考慮すれば、発電時に発生する廃熱を有効利用するために、100〜150℃程度の温度で使用できる材料の開発が切望されている。
【0003】
そこで、高温において使用可能である無機系の材料を用いた電解質として、例えば、特許文献1においては、多孔質ガラスを含む電解質に、化学式X[(CH−Y](式中、Xはアルコキシ基又はハロゲン原子、Rはアルキル基、Yはプロトン導電性基に変換しうる基、jは1、2又は3、kは0、1又は2、mは1、2又は3でありj+k+m=4を満たし、nは2〜11の整数を示す)で表されるシランカップリング剤を塗布した発明が開示されている。これは、多孔質ガラス細孔内表面を、シランカップリング剤を用いて表面改質することにより、高いプロトン導電性が達成されるものである。
【0004】
しかしながら、ガラスの細孔内をプロトンが移動する速度が遅く、プロトン導電率が低いという問題が依然としてあった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−071756号公報
【特許文献2】特開平11−121038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、プロトン導電率を向上させた多孔質ガラス電解質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明においては、SiO多孔質ガラスの細孔内部の表面を、メルカプトメチルトリメトキシシランで表面改質し、上記メルカプトメチルトリメトキシシランのメルカプト基を酸化することによりスルホン酸基に変換させたことを特徴とする多孔質ガラス電解質を提供する。
【0008】
本発明によれば、炭素の鎖長が短いメルカプトメチルメトキシシランを用いて、SiO多孔質ガラスの細孔内部の表面が表面改質されていることにより、上記多孔質ガラス電解質の細孔内部におけるプロトンが移動し易くなるため、多孔質ガラス電解質のプロトン導電率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、プロトン導電率を向上させた多孔質ガラス電解質を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の多孔質ガラス電解質について、以下詳細に説明する。
本発明の多孔質ガラス電解質は、SiO多孔質ガラスの細孔内部の表面を、メルカプトメチルトリメトキシシラン((CHO)Si(CHSH(n=1))で表面改質し、上記メルカプトメチルトリメトキシシランのメルカプト基を酸化することによりスルホン酸基に変換させたことを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、炭素の鎖長が短いメルカプトメチルメトキシシランを用いて、SiO多孔質ガラスの細孔内部の表面が表面改質される。さらに、上記メルカプトメチルトリメトキシシランのメルカプト基(SH基)は酸化され、プロトン導電性基であるスルホン酸基(SOH基)となっている。これにより、SiO多孔質ガラス電解質の細孔内部におけるプロトンが移動し易くなるため、多孔質ガラス電解質のプロトン導電率を向上させることができる。
【0012】
図1は、本発明の多孔質ガラス電解質の細孔内部の表面状態を説明する図である。表面改質する前のSiO多孔質ガラスの細孔内部表面には、通常、OH基が存在している(図1(a))。本発明においては、シランカップリング剤としてメルカプトメチルトリメトキシシラン((CHO)Si(CHSH(n=1))を用いて表面改質される(図1(b))。さらに、硝酸または過酸化水素水等を用いることにより、メルカプトメチルトリメトキシシラン中のSH基がSOH基に酸化されている(図1(c))。
従来は、上記シランカップリング剤として、化学式(CHO)Si(CHSHで表されるシランカップリング剤において、n=2〜11のものが用いられていたのであるが、本発明においては、上述したように、上記式(CHO)Si(CHSHで表されるシランカップリング剤において、炭素鎖がより短いメルカプトメチルトリメトキシシラン(n=1)が用いられている。これにより、SiO多孔質ガラス電解質の細孔内部における水の拡散係数が向上し、プロトンが移動し易くなるため、多孔質ガラス電解質のプロトン導電率を向上させることができるのである。
【0013】
また、上記SiO多孔質ガラスの製造方法としては、所望のナノ細孔を有するSiO多孔質ガラスを製造できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、図2に示されるように、まず、原料として、SiO、B、およびNaOを用いて、未分相の母材ガラス1を形成する(図2(a))。次に、上記母材ガラス1を熱処理でSiO相(ガラス骨格)2とB−NaO相3とに相分離させて、相分離したガラスを得る(図2(b))。次に、上記相分離したガラス中のB−NaO相3を酸で溶出することにより、ナノ細孔4を形成して多孔化し、SiO多孔質ガラスを得ることができる(図2(c))。
【0014】
本発明の多孔質ガラス電解質の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、上記多孔質ガラス電解質と、上記電解質の両側に配設される電極(アノード及びカソード)とを備える膜電極複合体、上記膜電極複合体の両側にガス拡散層が配され、さらにその外側にガス流路を備えたセパレータが配された燃料電池等として、用いることができる。中でも、自動車用の膜電極複合体、燃料電池等に用いられる多孔質ガラス電解質として、用いることが好ましい。
上記膜電極複合体、上記燃料電池に用いられる上記電極、上記ガス拡散層、上記セパレータ等については、通常用いられるものと同様のものを用いることができ、ここでの説明は省略する。
【0015】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例]
(多孔質ガラス電解質の作製)
まず、SiO、BO、NaOを用いてSiO−BO−NaO母材ガラスを形成した。次に、600℃の熱処理により、SiO相(ガラス骨格)とBO−NaO相とに相分離した。次に、BO−NaO相を、酸を用いて、98℃で溶出し、多孔化した。
次に、得られた多孔質ガラスのガラス細孔表面をシランカップリング剤(メルカプトメチルトリメトキシシラン、(CHO)Si(CHSH(n=1))を用いて、表面改質した。次に、硝酸を用いてメルカプトメチルトリメトキシシランのSH基を酸化し、SOH基に変換した。このような方法により、多孔質ガラス電解質を得た。
【0017】
[比較例1]
シランカップリング剤として(CHO)Si(CHSH(n=3)を用いた以外は実施例と同様にして、多孔質ガラス電解質を得た。
【0018】
[比較例2]
シランカップリング剤として(CHO)Si(CHSH(n=6)を用いた以外は実施例と同様にして、多孔質ガラス電解質を得た。
【0019】
[比較例3]
シランカップリング剤として(CHO)Si(CHSH(n=10)を用いた以外は実施例と同様にして、多孔質ガラス電解質を得た。
【0020】
[評価]
実施例、比較例1、比較例2、および比較例3で得られた多孔質ガラス電解質のプロトン導電率および水の拡散係数を、測定した。得られたプロトン導電率を測定温度に対してプロットしたグラフを図3に示す。また、水の拡散係数を炭素鎖長(化学式(CHO)Si(CHSHにおけるnの値)に対してプロットしたグラフを図4に示す。
【0021】
図3に示されるように、実施例は、比較例と比較してプロトン導電率が向上することが分かった。また、図4に示されるように、実施例は、比較例と比較して水の拡散係数は大きいものであった。これらのことから、実施例においては、炭素の鎖長が短いメルカプトメチルトリメトキシシランを用いて、SiO多孔質ガラスの細孔内部の表面を表面改質することにより、SiO多孔質ガラスの細孔内部におけるプロトンが移動し易くなるため、多孔質ガラス電解質のプロトン導電率を向上させることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の多孔質ガラス電解質の細孔内部の表面状態を説明する説明図である。
【図2】本発明におけるSiO多孔質ガラスの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図3】実施例、比較例1、比較例2、および比較例3で得られた多孔質ガラス電解質のプロトン導電率を測定温度に対してプロットしたグラフである。
【図4】実施例、比較例1、および比較例3で得られた多孔質ガラス電解質における水の拡散係数を炭素鎖長に対してプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0023】
1 … 母材ガラス
2 … SiO
3 … BO−NaO相
4 … ナノ細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO多孔質ガラスの細孔内部の表面を、メルカプトメチルトリメトキシシランで表面改質し、前記メルカプトメチルトリメトキシシランのメルカプト基を酸化することによりスルホン酸基に変換させたことを特徴とする多孔質ガラス電解質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−123495(P2010−123495A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298097(P2008−298097)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】