説明

多孔質成形体およびその製造方法ならびにその用途

【課題】金属または鉱物のような難加工性材料を基材とした、クローズドセル構造を有する多孔質成形体の製造方法、およびその多孔質成形体ならびにその用途を提供する。
【解決手段】少なくとも金属および/または鉱物からなる基材と、フェノールのベンゼン環上に1または2個の電子供与性基を有する3または4官能性フェノール系化合物と、架橋剤と、触媒とを、攪拌してスラリーを得る工程(A)と、少なくとも陰イオン界面活性剤と水とを、空気を抱き込ませるように攪拌して気泡体を得る工程(B)と、前記スラリーと前記気泡体とを混合した後、成形してゲル化物を生成する工程(C)と、前記ゲル化物を焼成する工程(D)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質成形体およびその製造方法ならびにその用途に関する。より詳しくは、金属または/および鉱物を基材とした高気孔率の多孔質成形体、およびその製造方法ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
クローズドセル構造を有した金属製の多孔質成形体は、オープンセル構造のものと比較して、強度、断熱性、防音・防振性等に優れていることから、注目されている。従来より、クローズドセル構造を有した金属製の多孔質成形体の製造方法としては、溶解した金属中にガスを吹き込む方法、中空のバルーンを混入する方法、および金属粉末に発泡剤を混入したコンパウンドを粉末鍛造法や押し出し法等の処理により固形化した後、発泡剤のガス発生温度付近で焼結することにより発泡させる方法などを用いた製造方法が知られている。
【0003】
しかし、製造する際に用いられる金属粉体の種類は、発泡剤の発泡温度域と金属の溶融温度域、または焼成温度域等によって制限され、広範な種類の金属を用いることができなかった。
【0004】
また、金属粉体をバインダーと混合してコンパウンドまたはスラリーとし、それに焼失部材を混入して焼結時に焼き飛ばす方法も知られているが、80%を超える気孔率を有する発泡体を作製することは困難であった。
さらに、スラリーに発泡剤を混入し、ドクターブレード法によりシート状にしながら同時に加熱して発泡、乾燥させ、発泡前駆体を作製する方法も提案されている(特許文献1)。この方法によれば、97%を超える高気孔率の発泡材料の作製が可能であるものの、加熱によりスラリーをそのまま発泡させているため、ある程度以上の厚さに成形すると、乾燥する前に発泡した泡の結合・崩壊が進み、その結果、厚さが1cm以下の成形体しか得られなかった。
【0005】
一方、近年ゲル化能を有する高分子水溶液を用いた方法が提案されている(特許文献2〜3)。この方法は、まず、高分子水溶液に金属粉体を混合してスラリー化した後、発泡剤を添加し、ゲル化した後に冷凍凍結する。次いで、このゲル化物を加熱した後、スポンジ状に発泡させ、焼結して発泡焼結体を得る方法である。
【0006】
しかしながら、冷凍凍結、冷凍乾燥等という手間のかかる工程を要する方法となっている。
また、加熱処理をすることなく硬化する特定のバインダーとして、フェノールのベンゼン環上に1または2個の電子供与性基を有する、3または4官能性フェノール系化合物を用いた多孔質成形体の製造方法が提案されている(特許文献4)。この製造方法によれば、中間体としてノボラックまたはレゾール等のフェノール系樹脂を経ることのないフェノール系化合物をバインダー樹脂として用いるので、硬化させるための加熱処理を必要とせず、セラミック粉末を用いた多孔質セラミック成形体を得ることができる。
【0007】
しかしながら、特許文献4には、セラミック粉末、界面活性剤、溶剤、燐酸塩化合物、および前記特定のフェノール系樹脂を公知の方法により混ぜ合わせた後に焼成する製造方法が記載されているのみであり、セラミック粉末の代わりに金属または鉱物等を基材として用いても、硬化させるまでに泡が消失したり、基材が沈降したりして、気孔率の高い多孔質成形体を形成することは困難であった。
【特許文献1】特開平9−87704号公報
【特許文献2】特開2005−29860号公報
【特許文献3】特開2005−42193号公報
【特許文献4】国際公開第2004/031264号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決し、特定のフェノール系化合物を用い、金属または鉱物のような難加工性材料を基材とした、クローズドセル構造を有する多孔質成形体の製造方法を提供することを目的とする。また、金属または鉱物を基材とし、高気孔率であり、かつ厚みのある多孔質成形体、ならびにその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、フェノールのベンゼン環上に1または2個の電子供与性基を有する3または4官能性フェノール系化合物を用いて、スラリーを調製した後、そのスラリーと、事前に空気を充分に抱き込ませた気泡体とを混合する多孔質成形体の製造方法により、上記課題を解決できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の多孔質成形体の製造方法は、少なくとも金属および/または鉱物からなる基材と、フェノールのベンゼン環上に1または2個の電子供与性基を有する3または4官能性フェノール系化合物と、架橋剤と、触媒とを、攪拌してスラリーを得る工程(A);
少なくとも陰イオン界面活性剤と水とを、空気を抱き込ませるように攪拌して気泡体を得る工程(B);
前記スラリーと前記気泡体とを混合した後、成形してゲル化物を生成する工程(C);
前記ゲル化物を焼成する工程(D)とを有することを特徴としている。
【0011】
本発明の製造方法により得られる多孔質成形体は、軽量構造素材、断熱素材、防音・防振素材、梱包素材、フィルター素材、触媒担体素材、電極素材、航空宇宙用素材またはスポーツ器具用素材に用いられるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、成形時に加熱処理を要することなく、容易に成形することができ、その後においても冷凍凍結、冷凍乾燥工程を経ることなく、焼成工程をも簡略化した製造方法により多孔質成形体を得ることができる。
【0013】
また、本発明の製造方法によれば、空気を抱き込ませるように攪拌した気泡体を用いることにより、基材として難加工性材料である金属または鉱物を用いた多孔質成形体を得ることができ、気孔率が高く、様々な厚みおよび形状を有する成形体を提供することができる。
【0014】
さらに、本発明の多孔質成形体は、その気孔率の高さおよび厚み設定の自由度を生かし、断熱特性、耐熱性、吸振性の要求される分野、緩衝材料、梱包材料などの衝撃エネルギーの吸収が要求される分野、軽量化の要求される分野、フィルター材料、触媒担体材料、電極材料など広い表面積が要求される分野、航空宇宙材料、スポーツ用品素材等の軽量かつ高比強度が要求される分野等における素材として幅広く活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る多孔質成形体の製造方法、および該方法により得られる多孔質成形
体ならびにその用途について詳細に説明する。
本発明の多孔質成形体の製造方法は、少なくとも金属および/または鉱物からなる基材と、フェノールのベンゼン環上に1または2個の電子供与性基を有する3または4官能性フェノール系化合物と、架橋剤と、触媒とを、攪拌してスラリーを得る工程(A);
少なくとも陰イオン界面活性剤と水とを、空気を抱き込ませるように攪拌して気泡体を得る工程(B);
前記スラリーと前記気泡体とを混合した後、成形してゲル化物を生成する工程(C);
前記ゲル化物を焼成する工程(D)
とを有することを特徴とする。工程(A)と工程(B)は並行して行なってもよいが、工程(A)および工程(B)の後、工程(C)を行い、最後に工程(D)を行なう。
【0016】
以下、各工程ごとに詳細に分説する。
なお、本明細書において「フェノールのベンゼン環上に1または2個の電子供与性基を有する3または4官能性フェノール系化合物」を「3または4官能性フェノール系化合物」ともいう。
【0017】
<工程(A)>
本発明の工程(A)では、少なくとも金属および/または鉱物からなる基材、3または4官能性フェノール系化合物、架橋剤および触媒とを配合し、必要に応じて他の成分を配合したものを攪拌することによって、スラリーを調製する。3または4官能性フェノール系化合物は、中間体としてノボラックやレゾール等のフェノール系樹脂を経ることなく、1段階で、かつ加熱処理をすることなく自らの反応熱によって重合反応を促進させることができるので、常温下(0〜35℃程度)でスラリーを硬化させることができる。したがって、取り扱いが容易であり、製造工程を簡略化できる。
【0018】
[基材]
本発明に用いられる基材は、金属および/または鉱物である。
金属としては、例えば、貴金属、貴金属合金、銅、ニッケル、チタン、モリブデン、タングステン、アルミニウム系合金、銅系合金、チタン系合金、モリブデン系合金、タングステン系合金、ニッケル系合金、鉄系合金、コバルト系合金、磁性合金、超硬合金、耐食合金、耐熱合金、導電用合金、超電導合金、摺動用合金、軸受用合金、防振合金、水素貯蔵用合金、形状記憶合金、電極用合金、ステンレス、炭素鋼、合金鋼、磁石鋼、工具鋼および高速度鋼等が挙げられる。これらは1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでもステンレスが好適である。
【0019】
鉱物としては、例えば、珪石、白土、珪藻土、シリカブラック、パーライト、貢石、ゼオライト、コランダム、粘土、カオリン、ベントナイト、水酸化マグネシウム、マグネサイト、マグネシア、水酸化カルシウム、石灰石、セッコウ、アパタイト、タルク、かんらん石、コージェライト、セピオライト、ドロマイト、珪灰石、珪酸ジルコン、長石、赤泥、レンガ、雲母、鋳物砂等が挙げられる。これらは1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでもマグネシア、コランダムが好適である。
【0020】
さらに上記金属および鉱物を組み合わせて用いることもできる。
基材の形状としては、粉末状、粒状、フレーク状、シート状、板状等が挙げられるが、スラリー内における分散性を考慮すると、粒状であるのが好ましい。粒状の基材の場合、平均粒径が0.1〜500μmであり、かつ粒度分布のバラツキの少ないものが望ましい。平均粒径および粒度分布が上記範囲であると、基材が均一に分散しやすく、後述するゲル化物を生成した際に基材が沈降することを抑制できるので、焼成時まで緻密な孔を維持し、気孔率の高い多孔質成形体を得ることができる。
【0021】
[3または4官能性フェノール系化合物]
本発明に用いられる3または4官能型フェノール系化合物とは、フェノールのベンゼン環上に1または2個の電子供与性基を有する化合物であり、かつフェノールのベンゼン環の3または4個の炭素原子が架橋剤と反応しうる性質を有することをいう。該化合物は、加熱処理をすることなく、常温下(0〜35℃程度)において架橋剤および硬化促進剤等とともに攪拌するだけで硬化反応が進行する特性を有し、前記基材を結合するバインダーとして機能する。
【0022】
3または4官能性フェノール系化合物の電子供与性基としては、フェノールのベンゼン環上に置換してベンゼン環上の電子密度を増加しうる基であり、3次元硬化反応に悪影響を与えない基であればよい。例えば、水酸基、低級アルキル基、低級アルコキシ基等が挙げられる。
【0023】
低級アルキル基としては、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、i−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が例示される。好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0024】
低級アルコキシ基としては、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられ、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、i−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等が例示される。好ましくは、メトキシ基、エトキシ基である。
【0025】
3または4官能性フェノール系化合物としては、具体的には、1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシン)、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、メタクレゾールおよび3,5−ジメチルフェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。なかでも、反応性、取り扱い易さ、安全性、コスト等の点から、レゾルシンが好適である。
【0026】
3または4官能性フェノール系化合物は、基材100重量部に対し、3.5〜6.0重量部、好ましくは3.8〜4.8重量部の量で配合するのが望ましい。3または4官能性フェノール系化合物の配合量が上記範囲内であると、収縮率が1%以下の成形物をえることができる。
【0027】
[架橋剤]
本発明で用いられる架橋剤は、前記3または4官能性フェノール系化合物のベンゼン環上の炭素原子と反応し、具体的には、フェノール性水酸基のオルト、パラ位のベンゼン環の炭素と反応して脱水縮合し、高分子架橋し得るものである。架橋剤としては、各種アルデヒド類、キシレングリコール類が挙げられる。
【0028】
アルデヒド類としては、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒドおよびテレフタルアルデヒドが挙げられる。
【0029】
キシレングリコール類としては、具体的には、オキソキシレングリコール、パラキシレングリコール、メタキシレングリコール、1,3,5−トリメチロールベンゼン、1,2,4−トリメチロールベンゼンおよび1,2,3−トリメチロールベンゼンが挙げられる。
【0030】
これらのなかでも、ホルムアルデヒド、テレフタルアルデヒドが好ましい。
架橋剤は、3または4官能性フェノール系化合物100重量部に対し、15.0〜25.0重量部、好ましくは20.0〜23.0重量部の量で配合するのが望ましい。または、3または4官能性フェノール系化合物1モルに対し、0.75〜1.8モル好ましくは1〜1.5モルの量で配合するのが望ましい。架橋剤の配合量が上記範囲内であると、硬化反応を完全に進行させることができる。
【0031】
[触媒]
本発明に用いられる触媒は、前記3または4官能性フェノール系化合物と架橋剤との高分子架橋反応(脱水縮合反応)の触媒として用いられるものであり、公知の触媒を用いることができ、例えば、酸触媒、塩基触媒が挙げられる。
【0032】
酸触媒としては、公知の無機酸または有機酸が用いられる。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の鉱酸;パラトルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸;三フッ化ホウ素、四塩化チタン、塩化アルミニウム等のルイス酸等が挙げられる。反応後、フェノール系樹脂内に酸を残存させないためには塩酸等の揮発性の酸が望ましく、作業性、環境等を考慮するとパラトルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸が望ましい。
【0033】
塩基触媒としては、公知の無機塩基または有機塩基が用いられる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア(水溶液であってもよい)、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の無機塩基;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン(DMAP)1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカクーエン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン(DBN)、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の有機塩基等が挙げられる。反応後、フェノール系樹脂内に塩基を残存させないためには、有機塩基等の加熱により揮発性または分解性を有する塩基が望ましく、作業性、環境等を考慮するとアンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンが望ましい。
【0034】
触媒は、3または4官能性フェノール系化合物100重量部に対し、0.4〜0.9重量部、好ましくは0.5〜0.8重量部の量で配合するのが望ましい。触媒の配合量が上記範囲内であると、ゲル化するまでの時間を20分〜2時間とすることができ、可使時間として適切なため作業性が良い。
【0035】
これら3または4官能性フェノール系化合物、架橋剤、触媒の量が上記範囲内であると、バインダーとしての機能を充分発揮することができるとともに適度な粘性を保持することができるので、工程(C)において成形枠に流し込みにくくなったり、焼成後に型から取り出す際に成形体のわれが生じたりすることを抑制することができる。
【0036】
[その他の成分]
その他、上記各成分を溶解あるいは懸濁(分散)しうるものであり、重合反応に悪影響を与えないものであれば、必要に応じて溶剤を配合してもよい。溶剤としては、特に限定されないが、気泡の消失を抑制するとともに環境安全上および健康上の配慮を必要とせず、かつ有機溶剤回収装置などの装置を必要としない点において、水が好ましい。なお、MgO、CaOなどの基材で成形する場合には、触媒を加えずに型に入れ、硬化させることもできる。これを焼結温度まで焼成すれば、マグネシア、カルシア等のセラミック成形物を得ることができる。
【0037】
また、必要に応じて本発明の効果を損ねない範囲内の量で、上述した成分以外のその他の成分として各種添加剤をさらに配合してもよい。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0038】
配合し得る各種添加剤としては、例えば、充填剤、可塑剤、促進剤、滑剤、着色剤、変性剤、安定剤、酸化防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、用いる用途に応じて適宜選択することができる。
【0039】
上記その他の成分の量は、硬化に影響を与えない程度であれば、基材100重量部に対し、3重量部以下の量で配合してもよい。
なお、前記スラリーは、実質上燐酸塩化合物を配合しないのが好ましい。燐酸塩化合物を配合すると、スラリーの硬化速度が遅くなる傾向にあり、硬化する前に基材が沈降してしまう恐れがあるからである。実質上燐酸塩化合物を配合しない場合、後述する工程(D)において、非酸化雰囲気下で焼成するのが好ましい。
【0040】
燐酸塩化合物としては、具体的には、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛、燐酸ジルコニウム、燐酸ナトリウム、燐酸マグネシウム等の燐酸塩化合物が挙げられる。また、燐酸塩化合物の量は、基材100重量部に対し、10重量部未満の量で配合してもよいが、配合しないのがより好ましい。
【0041】
[スラリーの調製]
工程(A)により、少なくとも前記基材と、3または4官能性フェノール系化合物と、架橋剤と触媒とを配合し、必要に応じて他の成分を配合したものを撹拌して、スラリーを調製する。撹拌には、縦型、横型、可搬型攪拌機等、公知の攪拌機を用いることができる。また、攪拌翼の形状は特に限定されないが、例えばプロペラ翼、タービン翼等が挙げられる。
【0042】
攪拌時間は、常圧常温下(0〜35℃程度)において1〜60分、好ましくは5〜50分であり、かつ攪拌翼の回転速度は800〜2000回/分、好ましくは1100〜1800回/分)である。攪拌時間および攪拌翼の回転速度が上記範囲であると、後述する工程(C)において得られる撹拌物を均一なゲルとすることができる。また、3または4官能性フェノール系化合物と架橋剤が反応して脱水縮合し、高分子架橋反応が進行して硬化するとともに、工程(C)における成形の際に型に流しこめる程度の適度な流動性を保持することができる。
【0043】
放置時間は、必要に応じて設けることができ、常圧常温下(0〜35℃程度)において5〜120分、好ましくは10〜20分である。放置時間が上記範囲内であると、生成した気泡の消滅を回避することができる。
【0044】
<工程(B)>
本発明の工程(B)では、少なくとも陰イオン界面活性剤と水とを配合し、必要に応じて他の成分を配合して、空気を抱き込ませるように攪拌し、気泡体を調製する。これらを充分に攪拌することによって、空気を微細な気泡として多量に抱き込んだ気泡体と得ることができる。しかも前記スラリーとは別に該気泡体を調製することによって、気泡体中の気泡を安定化させ、後の(C)工程において微細な気泡を多く含んだゲル化物を生成することができるとともに、(D)工程における焼成の前に気泡が消失したり、基材が沈降したりするのを抑制することができる。
【0045】
[陰イオン界面活性剤]
本発明に用いられる陰イオン界面活性剤は、気泡剤として機能する。すなわち、気−液
界面に吸着して強固な膜を作り、攪拌によって抱きこまれた空気を気泡として安定化し、焼成工程前に気泡が消失するのを抑制する働きを有する。これにより、気孔率の高い多孔質成形体を得ることができる。
【0046】
陰イオン界面活性剤としては、具体的には、石けん、N−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩;
アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンおよびアルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩等のスルホン酸塩;
硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩;
アルキルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩等が挙げられる。なかでも、アルキルエーテル硫酸塩(市販品としては、例えば小野田ケミコ(株)製「OFA−2」)が好ましい。
【0047】
前記陰イオン界面活性剤は、基材100重量部に対し、0.05〜0.3重量部、好ましくは0.07〜0.2重量部の量で配合するのが望ましい。陰イオン界面活性剤の配合量が上記範囲内であると、成形体の気孔率を高めることができるとともに、前記スラリーを気泡周辺に充分に行き渡らせることができるので、工程(D)の焼成の前に気泡の壁が消失してオープンセル構造となるのを抑制することが可能となる。
【0048】
[水]
水は、前記陰イオン界面活性剤の発泡を促進させるとともに、前記スラリーの分散性を高める働きをする。水は、基材100重量部に対し、1.5〜15重量部、好ましくは3〜7重量部の量で配合するのが望ましい。水の配合量が上記範囲内であると、気泡の形状保持時間を長くたもつことができる。
【0049】
[その他の成分]
上記各成分を溶解あるいは懸濁(分散)しうるものであり、他に悪影響を与えない程度の量で、前記触媒を配合させてもよい。前記スラリーにだけでなく、気泡体にも触媒を配合することで、気泡の安定化を図ることができるという効果を得ることができる。
【0050】
気泡体に配合する前記触媒は、陰イオン界面活性剤100重量部に対し、0.02〜0.05重量部、好ましくは0.03〜0.04重量部の量であるのが望ましい。気泡体に配合する前記触媒の配合量が上記範囲内であると、気泡を容易に形成させることができる。
【0051】
[気泡体の調製]
工程(B)により、少なくとも陰イオン界面活性剤と水とを配合し、空気を抱き込ませるように攪拌して気泡体を調製する。さらに必要に応じて前記触媒またはその他の成分を配合し、前記陰イオン界面活性剤と水とともに攪拌して気泡体を調製してもよい。
撹拌には工程(A)における撹拌と同様、公知の攪拌機を用いることができる。
【0052】
攪拌時間は、常圧常温下(0〜35℃程度)において1〜10分、好ましくは5〜10分であり、かつ攪拌翼の回転速度は800回/分、好ましくは1100回/分である。攪拌時間および攪拌翼の回転速度が上記範囲であると、水との相互作用によって陰イオン界面活性剤が充分に空気を抱き込み、より多くの微細な気泡を有する気泡体として有効に機能することができる。
【0053】
<工程(C)>
本発明の工程(C)では、工程(A)で得られるスラリーと、工程(B)で得られる気泡体とを混合した後、成形してゲル化物を生成する。3または4官能性フェノール系化合
物は加熱処理を要せず、通常、室温下(0〜35℃程度)で硬化するので、成形して得られたゲル化物は、高価な加熱処理施設を要することなく、簡易な製造方法によって硬化させることができる。
【0054】
また、工程(A)で得られるスラリーに工程(B)で得られる気泡体を加えて混合するのが好ましい。こうすることで、気泡体に含まれる気泡が消失するのをさらに抑制し、スラリーに気泡を充分に分散させやすいという効果を得ることができる。
【0055】
スラリーと気泡体とを混合した後、さらに攪拌するのが好ましい。撹拌には工程(A)における撹拌と同様、公知の攪拌機を用いることができる。
攪拌時間は、常圧常温下(0〜35℃程度)において1〜10分、好ましくは1〜 5分であり、かつ攪拌翼の回転速度は800回/分、好ましくは1100回/分である。攪拌時間および攪拌翼の回転速度が上記範囲であると、気泡体が充分に分散し、緻密な気孔を有する成形体を得ることができる。
【0056】
成形には種々の成形枠を利用した公知の方法を用いることができる。成形枠の形状としては、例えば、角型、丸型、シート型等が挙げられる。本発明の多孔質成形体は、実質的に厚みの制限がなく成形できるため、深型の成形枠を用いて厚みのある成形体を得ることもできる。成形枠の材質は、特に限定されないが、硬化速度の向上および乾燥時におけるクラック発生の抑制の観点から、攪拌物中の溶剤のみを吸収する材質が好ましい。
【0057】
スラリーを成形枠に流しこんで得られたゲル化物は、室温下で放置するだけで硬化させることができる。放置時間は常圧常温下で5〜30分、好ましくは10〜20分であるのが望ましい。放置時間が上記範囲であると、硬化反応を完結させ、工程(D)の焼成の前に気孔が消失するのをさらに抑制することができる。
【0058】
ここで、前記スラリーの溶剤として水を用いた場合には、自然乾燥またはマイクロウェーブ法等の公知の方法で乾燥させてもよい。さらに加熱することにより乾燥させてもよいが、局部乾燥を避けるため、密閉容器中で内部から乾燥させる工程が望ましい。粉末基材を当該バインダーによる注型で成形した場合、表面からの乾燥が著しいと表面亀裂の原因になりやすいからである。加熱により乾燥させる場合、通常、常圧下で乾燥時間は1〜30分、好ましくは5〜20分、乾燥温度は室温〜100℃、好ましくは30〜70℃である。上記範囲内の時間で乾燥させると、焼成後の成形体に生じるわれを防止することができる。
【0059】
<工程(D)>
本発明の工程(D)では、工程(C)で得られるゲル化物を焼成する。焼成方法は公知の方法を用いることができ、好ましくは常圧下の大気中、より好ましくは常圧下の非酸化雰囲気で焼成する。減圧下であると基材を保持する炭素が少なく、高圧下であると残炭率が高くなる。例えば、真空減圧下では、焼成前バインダー100重量部に対し、焼成後は30〜50重量部になり、常圧下では40〜70重量部、150気圧下では70〜85重量部となる。本発明ではいずれの状態でも使用は可能であるが、残炭率が高ければ機械的強度は大きくなるもののコスト高となるので、常圧下で充分である。
【0060】
焼成温度は600〜1100℃、好ましくは800〜1000℃である。焼成時間は4〜24時間、好ましくは8〜24時間である。このような焼成により、多孔質成形体を得ることができる。
【0061】
<多孔質成形体>
本発明の多孔質成形体は、クローズドセル構造を有しており、気孔率は80%以上であ
り、平均密度は基材の密度にもよるが、0.1〜2g/cm3である。気孔率はJISR
2205の吸水率試験法を用いて測定することができ、平均密度はアルキメデス法を用いて測定することできる。したがって、難加工性材料である金属または鉱物を基材とした、高気孔率であり、かつ厚さに制限のない多孔質成形体を得ることができる。
【0062】
<多孔質成形体の用途>
本発明の多孔質成形体は、高気孔率かつ厚みのある成形体であり、しかも金属または鉱物を基材としていることから、応用範囲は極めて広く、種々の分野において活用できる。例えば、軽量かつ高比強度が要求される分野、断熱特性・耐熱性・吸振性が要求される分野、衝撃エネルギーの吸収を要求される分野、軽量化が要求される分野、広い表面積が要求される分野等が挙げられる。具体的には、軽量構造素材、断熱素材、防音または防振素材、梱包素材、フィルター素材、触媒担体素材、電極素材、航空宇宙用素材あるいはスポーツ器具用素材等が挙げられ、本発明の多孔質成形体はこれらの素材に好適に用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[参考例1]
基材として、平均粒径10.49μmのSUS304Lステンレス粉(アトミック社製「PF−20F」)20g、レゾルシン水溶液(レゾルシン:水=55g:75g)2.2g、ホルマリン水溶液(ホルムアルデヒド:水=61g:69g)2.2g、パラトルエンスルホン酸0.2gとを回転速度(1100回/分)の攪拌機(電気式ハンドミキサー:貝印機械社製)にて、室温下1.0分間攪拌してスラリーを得た。
【0064】
陰イオン界面活性剤として(小野田ケミコ(株)製「OFA−2」)0.3gを得られたスラリーに加え、さらに回転速度(1100回/分)の前記攪拌機にて、室温下1.5分間攪拌し、角型の成型用枠に流し込み、室温下で10分間放置してゲル化させた。その後、ガス雰囲気炉により1000℃で焼成して成形体を得た。結果を表1に示す。
【0065】
[参考例2]
基材として、平均粒径4.17μmのSUS316Lステンレス粉(アトミック社製「PF−5F」)20gを用いた以外は、表1に示す配合量に従い、参考例1と同様の方法により成形体を得た。各成分の配合量、攪拌時間およびゲル化物の空気中放置時間を表1に示す。
【0066】
[参考例3]〜[参考例7]
基材、レゾルシン水溶液、ホルマリン水溶液、触媒、陰イオン界面活性剤を表1に示す配合量とし、参考例1と同様の方法によりスラリーを調製して角型の成型用枠に流し込んだ後、空気中に放置せず、すぐにガス雰囲気炉により1000℃で焼成して成形体を得た。各成分の配合量および攪拌時間を表1に示す。
【0067】
[参考例8]
基材、触媒、陰イオン界面活性剤を表1に示す配合量とし、レゾルシン水溶液(レゾルシン:水=82.5g:75g)を6.0g、ホルマリン水溶液(ホルムアルデヒド:水=91.5g:69g)を6.0gとした以外は、参考例1と同様の方法によりスラリーを調製して、角型の成型用枠に流し込んだ後、空気中に放置せず、すぐにガス雰囲気炉により1000℃で焼成して成形体を得た。各成分の配合量および攪拌時間を表1に示す。
【0068】
[参考例9]〜[参考例10]
基材、レゾルシン水溶液、ホルマリン水溶液、触媒、陰イオン界面活性剤を表2に示す配合量とし、参考例1と同様の方法によりスラリーを調製して、角型の成型用枠に流し込んだ後、空気中に放置せず、すぐにガス雰囲気炉により1000℃で焼成して成形体を得た。各成分の配合量および攪拌時間を表2に示す。
【0069】
[実施例1]
基材として、平均粒径10.49μmのSUS304Lステンレス粉(アトミック社製「PF−20F」)50g、レゾルシン水溶液(レゾルシン:水=82.5g:75g)5.5g、ホルマリン水溶液(ホルムアルデヒド:水=91.5g:69g)5.5g、パラトルエンスルホン酸0.6gとを回転速度(1100回/分)の攪拌機(電気式ハンドミキサー:貝印機械社製)にて、室温下1.0分間攪拌してスラリーを得た。
【0070】
陰イオン界面活性剤(小野田ケミコ(株)製「OFA−2」)1.0gと、水33gと、パラトルエンスルホン酸1.3gとを前記攪拌機にて5分間攪拌して気泡体を調製した後、得られたスラリーに加えた。これらをさらに回転速度(1100回/分)の前記攪拌機にて、室温下2.0分間攪拌し、角丸型の成型用枠に流し込み、室温下で24時間放置してゲル化させた。その後、ガス雰囲気炉により1000℃で焼成して成形体を得た。各成分の配合量、攪拌時間およびゲル化物の空気中放置時間を表2に示す。
【0071】
[実施例2]〜[実施例6]
基材、レゾルシン水溶液、ホルマリン水溶液、触媒、陰イオン界面活性剤を表2に示す配合量とし、実施例1と同様の方法により成形体を得た。各成分の配合量、攪拌時間およびゲル化物の空気中放置時間を表2に示す。
【0072】
[実施例7]〜[実施例14]
基材、レゾルシン水溶液、ホルマリン水溶液、触媒、陰イオン界面活性剤を表3に示す配合量とし、実施例1と同様の方法により成形体を得た。各成分の配合量、攪拌時間およびゲル化物の空気中放置時間を表3に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
[多孔質成形体の観察]
実施例11で得られた成形体は、厚み40mm、密度0.8g/cm、気孔率80%以上のクローズドセル形発泡体であった。電子顕微鏡により、該発泡体がクローズドセル形発泡体であることを観察した。結果を図1および図2に示す。また、この場合の気孔のセル厚さは100μm程度であった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例11で得られた成形体の電子顕微鏡(倍率200倍)による観察画像である。
【図2】実施例11で得られた成形体の電子顕微鏡(倍率50倍)による観察画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属および/または鉱物からなる基材と、フェノールのベンゼン環上に1または2個の電子供与性基を有する3または4官能性フェノール系化合物と、架橋剤と、触媒とを、攪拌してスラリーを得る工程(A);
少なくとも陰イオン界面活性剤と水とを、空気を抱き込ませるように攪拌して気泡体を得る工程(B);
前記スラリーと前記気泡体とを混合した後、成形してゲル化物を生成する工程(C);
前記ゲル化物を焼成する工程(D)
とを有することを特徴とする多孔質成形体の製造方法。
【請求項2】
前記3または4官能性フェノール系化合物が、1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシン)、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、メタクレゾールおよび3,5−ジメチルフェノールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質成形体の製造方法。
【請求項3】
前記金属が、ステンレスであることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質成形体の製造方法。
【請求項4】
軽量構造素材、断熱素材、防音・防振素材、梱包素材、フィルター素材、触媒担体素材、電極素材、航空宇宙用素材またはスポーツ器具用素材に用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法で得られる多孔質成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−174812(P2008−174812A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10838(P2007−10838)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【出願人】(506081781)イーアンドイーテクノロジー株式会社 (2)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】