説明

多孔質材料、及び多孔質材料の製造方法

【課題】サブミクロンオーダの細孔を有するとともに、前記細孔中に媒体を流した際に圧力損失を生じることのない多孔質材料を提供する。
【解決手段】表面から裏面に貫通する無配向の第1の細孔を有する第1の多孔質層と、前記第1の多孔質層上に形成され、表面から裏面に貫通するとともに、前記表面から前記裏面に向けて1次元的に配向してなる第2の細孔を有する第2の多孔質層とを具えるようにして多孔質材料を構成する。また、前記第1の細孔と前記第2の細孔とは連通しており、前記第1の細孔の孔径を前記第2の細孔の孔径よりも大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター、断熱材、吸音材、衝撃緩衝材等として好適に用いることができる多孔質材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に多数の空隙を含有する構造を有する多孔質材料は、その特性から、気相・液相に係らず各種流体のフィルター、断熱材、吸音材、衝撃緩衝材等、広範囲の用途に使われている。また、上記の物理的特性のみならず、内部の表面積が大きいことから、触媒の担持体、もしくは多孔質材料が直接触媒として機能する等、化学反応場としての利用もなされている。
【0003】
多孔質材料の特性は、孔径、孔径分布、孔形状、等の構造により決定されるため、多くの用途において、複数の構造を持つ多孔質体を組合せて使用している。例えば、異物分離を目的とするフィルターでは、複数の多孔質体を、孔径の大きい順に積層してなる構造の多孔質構造体から構成することが提案されている。また、水の浄化目的に使われているセラミック製フィルターでは、孔径がサブミクロンオーダの微細な多孔質膜と数〜数百ミクロンオーダーの孔径の多孔質の基材とを含むような多孔質構造体としている。この例では、複数層の構造が全てセラミックス系の同質材料であるため一体焼結することが可能である。
【0004】
一方、ファインケミカル用途や、飲料水の製造、その他工業プロセス用水の製造等の目的から、微小な粒子のろ過が必要とされる場面が多くなっている。その際、孔径がサブミクロンオーダのろ過膜が必要とされるが、この領域では媒体が孔を通過する際の抵抗が大きく、前記ろ過膜における圧力損失が大きくなるという課題がある。また、一般的に有機系の膜で構成されたろ過材料では、ろ過材料内部のランダムに配列した樹脂や繊維の空隙部で、粒子を捕捉することから、一度捕捉された粒子を脱離させることが困難であり、汚染されやすいという傾向がある(例えば、特許文献1及び2など参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−70683号
【特許文献2】特開2005−319376号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、サブミクロンオーダの細孔を有するとともに、前記細孔中に媒体を流した際に圧力損失を生じることのない多孔質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明は、
表面から裏面に貫通する無配向の第1の細孔を有する第1の多孔質層と、
前記第1の多孔質層上に形成され、表面から裏面に貫通するとともに、前記表面から前記裏面に向けて1次元的に配向してなる第2の細孔を有する第2の多孔質層とを具え、
前記第1の細孔と前記第2の細孔とは連通しており、前記第1の細孔の孔径が前記第2の細孔の孔径よりも大きいことを特徴とする、多孔質材料に関する。
【0008】
本発明者らは、上述した従来技術に関する問題に鑑み、1次元的に配向した表面から裏面に貫通する細孔を有する多孔質材料をろ過膜として適用することを検討した。この場合、前記細孔は前記ろ過膜内を直線状に貫通することから、従来のように細孔が無配向に形成されてなる多孔質材料から構成したろ過膜に比較して、前記ろ過膜中を通過する媒体の経路長を短くすることができる。したがって、前記媒体が前記ろ過膜中を通過する際の圧力損失を低減させることができる。
【0009】
また、前記ろ過膜、すなわち前記多孔質材料の単位面積当たりの孔数を増加させれば、前記ろ過膜中を通過する媒体の流束を向上させることができ、かかる観点からも前記媒体が前記ろ過膜内を通過する際の圧力損失を低減できる。
【0010】
さらに、前記媒体中に含まれる粒子を捕捉するのは前記細孔の表面部においてであり、前記ろ過膜内には前記粒子が侵入しないことから、前記ろ過膜の汚染を抑制することができる。
【0011】
上述した1次元の細孔を有する多孔質材料は、例えばアルミニウム等の金属材料を陽極酸化処理して得ることができる。すなわち、アルミニウム等の金属材料に対して陽極酸化処理を施すことにより、前記材料中にサブミクロンサイズの細孔が自律的に形成される。なお、孔径は電解液の組成、電圧等の条件により制御可能であり、孔径分布の揃った細孔を有する多孔質材料を得ることができる。
【0012】
しかしながら、陽極酸化処理によって得た多孔質材料は比較的脆く、薄膜化する際にクラックが発生したり、破壊したりする恐れがある。したがって、前記多孔質材料を薄膜化する際には、少なくとも30〜50μm以上の厚さとすることが要求される。
【0013】
一方、上記細孔はサブミクロンオーダであるので、前記多孔質材料から形成される薄膜において、前記細孔は極めて高いアスペクト比を有するようにして形成されることになる。このため、前記多孔質材料からなる薄膜でろ過膜等を構成した場合において、前記ろ過膜の細孔に媒体を流した場合に、前述した細孔の高いアスペクト比に起因して前記媒体の圧力損失が増大してしまう結果となる。したがって、以前として従来の問題を解決することができないでいた。
【0014】
このような状況に鑑み、本発明では、表面から裏面に貫通する無配向の第1の細孔を有する第1の多孔質層と、上述したような1次元的に配向してなる第2の細孔を有する第2の多孔質層とを積層させて多孔質材料を構成した。この場合、前記第1の多孔質層は前記第2の多孔質層に対する基材として機能させることができるので、前記第2の多孔質層を十分に薄くしても前記第2の多孔質層で支持されるので、破損等の恐れがない。したがって、前記第2の多孔質層の厚さを十分に薄くすることによって、前記第2の細孔のアスペクト比を十分に小さくすることができ、前記第2の多孔質層内に媒体を流した場合においても、その圧力損失を十分に低減することができる。
【0015】
なお、上記第1の多孔質層は前記第2の多孔質層の基材として機能し、多孔質層本来の機能は、上述したように第2の多孔質層が担うので、前記第1の多孔質層は前記第2の多孔質層の本来的な機能を損なわないように構成する必要がある。したがって、前記第1の多孔質層の前記第1の細孔の孔径は、前記第2の多孔質層の前記第2の細孔の孔径よりも大きくする。例えば、前記第1の細孔の孔径を200nm〜1000nmとし、前記第2の細孔の孔径を10〜100nmの範囲とすることができる。
【0016】
なお、前記第2の細孔の孔径を10〜100nmの範囲とすることによって、前記第2の多孔質層中における前記第2の細孔の孔径分布を少なくすることができ、製造歩留まりを向上させることができる。また、上水道における浄水処理や、浄水器に求められる除粒子性能を発揮させるためには、細孔の孔径として100nm程度が要求されるので、前述の要件を満足することによって、前記第2の多孔質層、すなわち本発明の多孔質材料を浄水分野において適用できるようになる。
【0017】
また、本発明の一態様において、前記第1の多孔質層は、ガラス及びセラミック材料の少なくとも一方とすることができる。また、前記第2の多孔質層は、アルミナを含むことができる。これによって、前記第1の多孔質層及び前記第2の多孔質層の耐熱性や耐薬品性を向上させることができるようになる。
【0018】
なお、前記第1の多孔質層及び前記第2の多孔質層の構成材料が互いに異なるのは、これらの層を上述した機能を生ぜしめるべく、以下の製造方法を採用したことに起因する。
【0019】
上述した多孔質材料は任意の方法によって形成することができるが、好ましくは、以下に示す本発明の製造方法に従って形成する。
【0020】
なお、前記製造方法は、
2以上の異なる相を有する前駆体を準備する工程と、
前記前駆体上にアルミニウム薄膜を形成するとともに、陽極酸化処理を施し、アルミナを含む多孔質中間体を形成する工程と、
前記前駆体に多孔化処理を施し、表面から裏面に貫通する無配向の第1の細孔を有する第1の多孔質層を形成する工程と、
前記第1の多孔質層の前記第1の細孔中にエッチング溶液を浸漬させ、前記多孔質中間体の底部に残存する膜に接触させて前記膜を除去し、表面から裏面に貫通するとともに、前記表面から前記裏面に向けて1次元的に配向してなる第2の細孔を有する第2の多孔質層を形成する工程と、
を具えることを特徴とする。
【0021】
なお、前記第1の多孔質層は、前記前駆体の前記2以上の異なる相から、少なくとも1つの相を除去することによって形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、サブミクロンオーダの細孔を有するとともに、前記細孔中に媒体を流した際に圧力損失を生じることのない多孔質材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の詳細、その他の特徴及び利点について、実施の形態に基づいて説明する。
【0024】
(多孔質材料)
最初に、本発明の多孔質材料の構成の概略について説明する。図1〜3は、本発明の多孔質材料の一例を示す構成図である。図1は、前記多孔質材料の上平面図であり、図2は、前記多孔質材料をA−A線に沿って切った場合の断面図であり、図3は、前記多孔質材料の第2の多孔質層の構成を拡大して示す斜視図である。
【0025】
図1に示すように、本例の多孔質材料10は、第1の多孔質層11上に第2の多孔質層が形成されてなる。第1の多孔質層11は、骨格11Aと、表面から裏面に貫通し、ランダムに配向した第1の細孔11Bとを含む。第2の多孔質層12は、骨格12Aと、表面から裏面に貫通するとともに、1次元的に配向してなる第2の細孔12Bとを含む。なお、図3に示すように、第2の多孔質層12における骨格12Aはセル状を呈し、第2の細孔12Bは、セル状の骨格12A内に形成されたような構成を呈する。
【0026】
第1の多孔質層11は第2の多孔質層12の基材として機能し、多孔質層本来の機能は、第2の多孔質層12が担う。したがって、第1の多孔質層11は第2の多孔質層12の本来的な機能を損なわないように構成する必要がある。したがって、第1の多孔質層11の第1の細孔11Bの孔径は、第2の多孔質層12の第2の細孔12Bの孔径よりも大きくする。例えば、第1の細孔11Bの孔径を200nm〜1000nmとし、第2の細孔12Bの孔径を10〜100nmの範囲とすることができる。
【0027】
なお、第2の細孔12Bの孔径を10〜100nmの範囲とすることによって、第2の多孔質層12中における第2の細孔12Bの孔径分布を少なくすることができ、製造歩留まりを向上させることができる。また、上水道における浄水処理や、浄水器に求められる除粒子性能を発揮させるためには、細孔の孔径として100nm程度が要求されるので、前述の要件を満足することによって、第2の多孔質層12、すなわち本例の多孔質材料10を浄水分野において適用できるようになる。
【0028】
また、第1の細孔11Bの孔径の上限は特に限定されるものではないが、以下に示す製造方法における限界は10μm程度であると言われている。しかしながら、本発明が目的とする実用上の観点からは、上限は1000μm、すなわち上述した1000nm程度が好ましい。なお、これより大きい孔径であると、媒体に混入した大きな粒子が直接第2の多孔質層12に衝突し、この第2の多孔質層12を破損させる可能性がある。
【0029】
さらに、第1の多孔質層11の厚さT及び第2の多孔質層12の厚さtは特に限定されるものではないが、例えば第1の多孔質層11の厚さTは10〜30μmとし、第2の多孔質層12の厚さtは1〜3μmとすることができる。なお、第2の多孔質層12の厚さtを上述の範囲に設定することにより、第2の細孔12Bのアスペクト比を小さくすることができるので、上述したように、多孔質材料10をろ過膜として使用した場合に、媒体の圧力損失を効果的に抑制することができる。また、第2の多孔質層12自体に強度もある程度確保することができ、前記媒体を流した際に破損するような不利益を被ることがない。
【0030】
本例における多孔質材料10によって粒子を含んだ媒体をろ過する場合、上述したように、第2の多孔質層12がその多孔質としての本来的な機能を奏するものであることから、第2の多孔質層12から第1の多孔質層11に向けて前記媒体を流すようにする。これによって、前記媒体は、第2の多孔質層12における均一な孔径の第2の細孔12Bによってろ過されることになり、第2の細孔12Bの孔径より小さな粒子は第2の細孔12B中を通過し、さらに第1の多孔質層11の第1の細孔11Bを通過するのに対し、第2の細孔12Bの孔径と同等、またはそれより大きな粒子は第2の細孔12Bの表面にトラップされるのみで、内部には進入しない。これによって、多孔質材料10によって前記媒体のろ過が可能となる。
【0031】
なお、第2の細孔12Bの表面にトラップされた粒子は自ずから剥離する。また、剥離せずに残存しても、第1の多孔質層11側から洗浄し、さらにはその他の洗浄手段をとることにより、容易に剥離することが可能である。
【0032】
また、第1の多孔質層11は、ガラス及びセラミック材料の少なくとも一方とすることができる。さらに、第2の多孔質層12は、アルミナを含むことができる。これによって、第1の多孔質層11及び第2の多孔質層12の耐熱性や耐薬品性を向上させることができるようになる。
【0033】
(多孔質材料の製造方法)
次に、本発明の多孔質材料の製造方法について説明する。図4〜7は、本発明の多孔質材料の製造方法に関する工程図である。
【0034】
最初に、図4に示すように、2以上の異なる相を有する前駆体110を準備し、この前駆体110上にアルミニウム薄膜120を形成する。アルミニウム薄膜120は、例えば、LSIの製造プロセス等で使用されている、スパッタリング法や真空蒸着法といった物理的成膜法(PVD法)が適用可能である。但し、アルミニウム薄膜120の組成、構造が均一でないと、以下に説明する陽極酸化処理により形成される細孔の均一性が悪くなることから、基板の温度上昇を抑制しつつ、より緻密な膜形成が可能となるスパッタリング法の適用が望ましい。
【0035】
なお、アルミニウム薄膜120は以下に示す陽極酸化処理を通じて第2の多孔質層12を構成するようになるので、形成される第2の細孔12Bのアスペクト比を低減して媒体の圧力損失を抑制すべく、できる限り薄いことが望ましい。また、スパッタリングによる成膜においても、膜厚が厚くなるほど、粒子の不均一性が大きくなることから、薄いことが望ましいという事情がある。但し、第2の多孔質層12の厚さtを上述のような1〜3μmとし、圧力損失の抑制及び強度の確保という利益を得るためには、アルミニウム薄膜120の厚さを1〜2μmとする。これは、陽極酸化後は元のアルミニウム薄膜120の厚さが1〜1.5倍に増大することに起因する。
【0036】
次いで、アルミニウム薄膜120をアセトン中で超音波洗浄する等の方法で脱脂し、図5に示すように、アルミニウム薄膜120に対向するようにして電極15を配置するとともに、電極15及びアルミニウム薄膜120をそれぞれ電源16に接続する。さらに電極15及びアルミニウム薄膜120を所定の電解液中に浸漬する。その後、電極15及びアルミニウム薄膜120間で電解を行い、アルミニウム薄膜120を陽極酸化し、多孔質化して多孔質中間体121を得る。
【0037】
なお、図5に示すように、陽極酸化処理したのみでは、多孔質中間体121と前駆体110との間には、アルミニウム薄膜120が残存し、多孔質中間体121の底部にはバリア層121Aが残存する。
【0038】
また、電極15は、カーボン、ステンレス鋼等から構成することができる。
【0039】
さらに、上記陽極酸化処理は、使用する電解液の種類等に依存して電解条件が異なるが、アルミニウム薄膜120から上記要件を満足するような第2の多孔質層12を得るには、例えば表1に示すような条件を用いることができる。
【0040】
【表1】

【0041】
次いで、図6に示すように、前駆体110に対して多孔化処理を施し、前駆体110を構成する2以上の異なる相の内、少なくとも1つの相を除去して、第1の多孔質層11を得る。なお、上記多孔化処理において、多孔質中間体121と前駆体110との間に残存していたアルミニウム薄膜120も併せて除去される。
【0042】
なお、上記多孔化処理に関しては、前駆体110の種々の態様に基づいて以下に詳述する。
【0043】
次いで、第1の多孔質層11の第1の細孔11B中にエッチング溶液を浸漬させ、多孔質中間体121の底部に残存するバリア層121Aに接触させて除去する。これによって、表面から裏面に貫通するとともに、前記表面から前記裏面に向けて1次元的に配向してなる第2の細孔12Bを有する第2の多孔質層12を得る。
【0044】
なお、バリア層121Aを除去するのに適したエッチング溶液(薬品)及び処理条件は、例えば表2に示したように選択することができる。
【0045】
【表2】

【0046】
(多孔化処理)
次に、上記多孔質材料の製造方法における多孔化処理について詳述する。
図8は、前駆体110として二相ガラスを使用した場合の、多孔化の方法の模式図を示す。
【0047】
二相ガラスは、液相線以下の温度域でガラスが2つの異なった組成に分離する、ガラスの分相現象を利用したものである。高温融液が急冷されると、均質な未分相状態のガラスが得られるが、このガラスを上記液相線以下の温度で加熱し、そこで保持すると、熱力学的に安定な2つの異なった組成に次第に分かれる。
【0048】
分相現象を用いた代表的なガラスは、米国コーニング社が開発したバイコールガラスである。このガラスの高温融液を急冷すると、図8に示すように未分相状態のガラス111が得られ、これを液相線以下の温度で加熱することによってホウケイ酸塩ガラス(Na2O-B2O3)112とシリカガラス(SiO2)113とに分相する。この場合、シリカガラス113に対して、ホウケイ酸塩ガラス112は酸に侵食されやすいので、例えば塩酸による処理で、ホウケイ酸塩ガラス112のみを溶解させて、シリカガラス113を骨格として残すことが可能となる。
【0049】
この結果、ホウケイ酸塩ガラス112の存在した場所は第1の細孔11Bとなり、シリカガラス113は骨格11Aとして残存し、上記第1の多孔質層11が得られる。
【0050】
なお、多孔質中間体121と前駆体110との間に残存したアルミニウム薄膜120は、上記酸処理によって、ホウケイ酸塩ガラス112とともに溶解除去される。
【0051】
図9は、前駆体110として、多孔質セラミック−樹脂の複合体を使用した場合の、多孔化の方法の模式図を示す。
【0052】
多孔質セラミックー樹脂の複合体115を構成する多孔質セラミック116は、アルミナ、シリカ、イットリア、ジルコニア等の酸化物、窒化ケイ素のような窒化物、その他耐熱性,耐薬品性を具備する材質で構成される。これら多孔質セラミックは、粉体の焼結等の方法で作製することが可能であり、各種の細孔径を持つ材料が得られる。
【0053】
上記多孔質セラミック116の空隙内に未硬化の樹脂を流し込み、空隙部を充填する。
次いで、硬化処理を施し、前記樹脂を硬化させて樹脂相117を形成する。これによって、表面に空隙が開口しない、多孔質セラミック116と樹脂相117との複合体115を形成する。なお、前記樹脂としては、セルロース系樹脂等の自然由来の樹脂、もしくはエポキシ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、またはアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂といった合成樹脂が利用される。
【0054】
また、多孔質セラミック116の空隙部に十分に樹脂を含浸させるためには、真空含浸を利用することができる。特にエポキシ樹脂は低粘度という特徴があることから、真空含浸用途に利用される。例えば常温で硬化することが可能な、ビスフェノールAの主剤とアミン系の硬化剤とを含むエポキシ樹脂を、真空含浸により多孔質セラミックの空隙部に充填し、常温で放置、もしくは僅かに過熱することにより硬化を促進させる。
【0055】
次いで、複合体115に対して熱処理を施し、樹脂相117を熱分解して除去する。この際、樹脂相117の存在していた部分が第1の細孔11Bに相当し、残存する多孔質セラミック116が骨格11Aに相当するようになり、上記第1の多孔質層11が形成される。
【0056】
なお、上記樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、500℃以上でエポキシ樹脂の分解が発生することから、それ以上の温度、望ましくは600℃以上で加熱処理を行い、樹脂相117を除去する。
【0057】
また、図8及び9に示す例では、第1の多孔質層11を形成する際の多孔化処理について説明したので、前駆体110を準備してから多孔化処理を行うまでのアルミニウム薄膜の形成及び陽極酸化処理については記載を省略している。
【0058】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の多孔質材料の一例を示す上平面図である。
【図2】図1に示す多孔質材料をA−A線に沿って切った場合の断面図である。
【図3】図1に示す多孔質材料の第2の多孔質層の構成を拡大して示す斜視図である。
【図4】本発明の多孔質材料の製造方法に関する工程図である。
【図5】同じく、本発明の多孔質材料の製造方法に関する工程図である。
【図6】同じく、本発明の多孔質材料の製造方法に関する工程図である。
【図7】同じく、本発明の多孔質材料の製造方法に関する工程図である。
【図8】多孔化処理の一例を示す工程図である。
【図9】多孔化処理の他の例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0060】
10 多孔質材料
11 第1の多孔質層
11A 第1の多孔質層における骨格
11B 第1の細孔
12 第2の多孔質層
12A 第2の多孔質層における骨格
12B 第2の細孔
110 前駆体
120 アルミニウム薄膜
121 多孔質中間体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から裏面に貫通する無配向の第1の細孔を有する第1の多孔質層と、
前記第1の多孔質層上に形成され、表面から裏面に貫通するとともに、前記表面から前記裏面に向けて1次元的に配向してなる第2の細孔を有する第2の多孔質層とを具え、
前記第1の細孔と前記第2の細孔とは連通しており、前記第1の細孔の孔径が前記第2の細孔の孔径よりも大きいことを特徴とする、多孔質材料。
【請求項2】
前記第1の細孔の孔径が200nm〜1000nmであり、前記第2の細孔の孔径が10〜100nmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質材料。
【請求項3】
前記第1の多孔質層は、ガラス及びセラミック材料の少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔質材料。
【請求項4】
前記第2の多孔質層は、アルミナを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の多孔質材料。
【請求項5】
2以上の異なる相を有する前駆体を準備する工程と、
前記前駆体上にアルミニウム薄膜を形成するとともに、陽極酸化処理を施し、アルミナを含む多孔質中間体を形成する工程と、
前記前駆体に多孔化処理を施し、表面から裏面に貫通する無配向の第1の細孔を有する第1の多孔質層を形成する工程と、
前記第1の多孔質層の前記第1の細孔中にエッチング溶液を浸漬させ、前記多孔質中間体の底部に残存する膜に接触させて前記膜を除去し、表面から裏面に貫通するとともに、前記表面から前記裏面に向けて1次元的に配向してなる第2の細孔を有する第2の多孔質層を形成する工程と、
を具えることを特徴とする、多孔質材料の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウム薄膜は、スパッタリング法によって形成することを特徴とする、請求項5に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項7】
前記多孔化処理は、前記前駆体の前記2以上の異なる相を有する部材から、少なくとも1つの相を除去することによって行うことを特徴とする、請求項5又は6に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項8】
前記前駆体は分相ガラスであり、前記第1の多孔質層は、前記分相ガラス中の少なくとも1相を溶解除去することによって形成することを特徴とする、請求項7に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体は、空孔内に樹脂が充填されてなる多孔質セラミック部材であり、前記第1の多孔質層は、前記樹脂を分解除去することによって形成することを特徴とする、請求項7に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項10】
前記第1の細孔と前記第2の細孔とは連通しており、前記第1の細孔の孔径が前記第2の細孔の孔径よりも大きいことを特徴とする、請求項5〜9のいずれか一に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項11】
前記第1の細孔の孔径が200nm〜1000nmであり、前記第2の細孔の孔径が10〜100nmの範囲であることを特徴とする、請求項10に記載の多孔質材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−235487(P2009−235487A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82939(P2008−82939)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】