説明

多孔質絶縁膜の製造方法、多孔質絶縁膜及び半導体装置

【課題】比誘電率の低い絶縁膜を安定して得ることのできる多孔質絶縁膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる多孔質絶縁膜の製造方法は、シリコン及び酸素を骨格とし、シリコンに結合する側鎖の一方が不飽和炭化水素基であり、他方が炭素原子を2つ以上含む飽和炭化水素基である環状有機シリカ化合物の蒸気を希ガスで希釈した蒸気に、酸化剤ガスを前記環状有機シリカ化合物の蒸気の流量の0.3倍以上1.2倍以下添加してプラズマ中に導入し、半導体基板上に多孔質低誘電率絶縁膜を成長させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置を構成する絶縁膜として利用可能な多孔質絶縁膜及びその製造方法並びに多孔質絶縁膜を利用する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の技術の発展に伴い、半導体装置の高集積化、高密度化が進んでいる。これに伴い、配線幅及び配線ピッチの微細化の進行による配線遅延の増大が顕在化している。
【0003】
配線遅延は配線抵抗と配線間容量との積に比例するが、上記のように配線幅の縮小に伴って配線抵抗が増大する傾向にあるため、配線間容量までもが増大すると、配線遅延が大幅に増大し、結果として回路の動作速度の劣化を招く。従って、半導体装置の動作速度向上のためには、低抵抗の配線材料及び低誘電率の層間絶縁膜の採用、並びにこれらを用いた半導体装置の製造プロセス技術の確立が求められている。
【0004】
従来、半導体集積回路の配線材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金が主に使用されていたが、より高速な動作を要求される集積回路においては、アルミニウムよりも抵抗率の低い金属である銅を配線材料として採用することで配線抵抗の低減を図っている。
【0005】
一方で、配線間容量の低減のためには、配線部を取り囲む絶縁膜の低誘電率化が必要である。このため、従来利用されてきたSiO2(比誘電率4)、SiON(比誘電率4〜6)、Si34(比誘電率7)等の無機系材料よりも比誘電率の低い絶縁膜材料を採用することが有効である。具体的には、低誘電率材料として、フッ素添加SiO2(SiOF)や、炭素原子を含有する有機系絶縁膜材料などが利用されている。
【0006】
フッ素添加SiO2は膜中のフッ素濃度を高くすることで比誘電率の低減を実現できる一方、吸湿性が増すという問題がある。また、水分や水素との反応によって生じるフッ化水素が原因で配線材の腐食が発生したり、フッ素の脱離による比誘電率の上昇といった問題が生じる。このため、フッ素添加SiO2によって実質的に得られる比誘電率は3.3程度であり、比誘電率3以下を実現するのは難しい。
【0007】
一方、炭素原子を含有する有機系絶縁膜材料としては、有機SOG(spin on glass)、ポリイミドや、有機シランガスを用いた炭素添加SiO2(以後、SiOCHと記す)、あるいはこれらを多孔質化した絶縁膜(以後、多孔質膜と記す)等が挙げられる。この中でも特に多孔質絶縁膜は、膜中に空孔を含有することで比誘電率2.8以下を実現可能であり、90nm世代以降のULSI多層銅配線の層間絶縁膜として期待される材料の一つである。
【0008】
これら多孔質絶縁膜の成膜方法の一つに、スピン塗布法が挙げられる。スピン塗布法では、例えば原料のモノマーと空孔(ポア)形成剤とを混合した溶液をシリコン基板上にスピン塗布(回転させたシリコン基板の面上に溶液を滴下)することでシリコン基板上に被膜を形成する。その後、シリコン基板を350℃から450℃で加熱することで、その被膜中で熱重合反応と空孔形成剤の熱分解脱離反応とを起こさせることで、膜中に空孔を含有した多孔質絶縁膜を形成する。このスピン塗布法は、絶縁膜の形成方法として広く用いられている方法であるが、以下の課題を有している。
【0009】
スピン塗布法では、有機溶媒に溶かしたモノマー溶液をスピン塗布して均一化する。このとき、用いた溶液の90%程度は基板外に飛ばされ、廃液となる。従って原料の利用効率は低く、製造コストが高くなる。
【0010】
また、スピン塗布法では、モノマーの重合反応及び硬化反応を起こすための加熱行程が必要となる。この加熱工程では、通常300℃〜450℃程度の温度に保たれた炉内において、数十分から数時間にわたる熱処理を行うため、デバイス作製工程全体のスループットを低下する。また、加熱の際に雰囲気中に酸素分子が存在すると、これとモノマーとが反応してしまい目的とする膜構造が得られない場合がある。このため、加熱時の雰囲気中の酸素分子を除くために、ベーク炉全体を不活性ガスで置換する必要があり、このことは低コスト化を妨げる一因となりうる。
【0011】
さらに、多層配線の形成時には、各層毎に塗布及び加熱工程を行うため、最下層の配線層は繰り返し高温長時間の熱ストレスを受ける。これはデバイス信頼性、特に微細化された銅配線の劣化を誘発する一因となる。
【0012】
さらに、スピン塗布法で得られる多孔質絶縁膜は、その形成原理から膜表面につながる連続孔となる。より詳しく言えば、スピン塗布法の場合、膜中に含有した空孔形成剤を熱分解・脱離させた領域を空孔化するのであるが、そのためには空孔形成剤の熱分解・脱離ガスが膜中から外界(膜表面)へ抜けるためのガス抜き孔が必要となる。膜中の空孔は必ずガス抜き孔とつながっているため、膜表面につながる連続孔となる。すなわち、スピン塗布法の場合、熱反応を利用した絶縁膜の重合成長工程と多孔質化の過程とが分離独立しており、その多孔質絶縁膜は膜表面につながる連続孔から構成されてしまう。
しかし、膜表面につながる連続孔は、逆に、外気中の水分や半導体加工用のエッチングガスや洗浄水が膜内部に浸透拡散するための経路としても作用する。その結果、多孔質絶縁膜の特性が時間とともに変化し、不安定なものとなってしまう。
【0013】
多孔質絶縁膜を得る別の成膜方法としては、アモルファス絶縁膜を形成するプラズマCVD法が挙げられる。プラズマCVD法では、原料ガスをプラズマ中で解離・活性化しアモルファス絶縁膜を形成する。従って、原料の使用効率と言う点では塗布法よりも優れており、またスピン塗布に比べて薄膜化がしやすいなどの利点がある。また、塗布法と異なり、加熱による硬化工程を必要としないという利点を有している。
【0014】
しかしながら、上記のプラズマCVD法では、プラズマ中で出発原料ガスを原子レベルに解離させるため、原理的に出発原料の分子骨格を反映した構造が成長する訳ではない。
例えば、直鎖状の有機シリカ分子をプラズマ中で解離させると、活性化した有機シリカ分子がシリコン基板へ到達する間にプラズマ気体中で一部結合し、基板上に"雪"が降り積もるがごとく嵩高い多孔質膜を形成させる。
【0015】
この場合、プラズマ中での活性原子の結合反応を促進するためには、活性原子の滞在時間を長くする必要がある。具体的には、基板とプラズマとの距離を十分に離すなとの工夫が必要である。しかしながら、プラズマ中での活性原子の成膜過程の制御は難しく、成長する多孔質絶縁膜構造の制御は困難と言える。すなわち、プラズマCVD法では、低誘電率化のために膜中に導入する空孔の大きさや充填率を、制御性良く実現することが本質的に難しい。また、出発原料を解離するために大きなプラズマパワーを必要するため、半導体デバイスへのプラズマダメージが大きいといった課題がある。さらに、空孔径が3nm程度以上に大きくなると、水分、プロセスガス及び薬液等が絶縁膜中へ侵入したり、膜強度の低下等が生じやすく、結果として絶縁膜の信頼性劣化や、半導体デバイス作製プロセスへの適応性の低下を引き起こすといった問題を有する。
【0016】
また、多孔質絶縁膜を層間絶縁膜として利用する場合、これに接触する他の半導体材料と高い密着性を有することが必要である。層間絶縁膜の低誘電率化を図るためには、膜中に含有される極性元素(酸素やシリコンなど)の比率を小さくすること、すなわち、膜中の有機基の比率を大きくすることが有効である。しかしながら、極性元素の比率を低減すると、他の半導体材料との界面において極性元素の面密度が低下することや、接触界面において組成が急激に変化する構造となってしまうことにより、結果として高い密着性を維持することが困難となる。
【0017】
絶縁膜の比誘電率を低くすることを目的とした発明としては、特許文献1に開示される「絶縁膜の形成方法および多層配線」がある。特許文献1に開示される発明は、半導体基板の表面にプラズマ重合ジビニルシロキサン・ビス・ベンゾシクロブテンを成長させて高耐熱性を有するベンゾシクロブテン膜を効率よく成膜できるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2001−230244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、特許文献1に記載の発明によって得られる絶縁膜は、環状構造を有する原料を出発原料としていないため、絶縁膜の密度を低く抑えることが難しい。また、特許文献1に記載の発明は、同一の原料を用いたとしても、どのような圧力下で絶縁膜を成長させたかによって、形成された絶縁膜の比誘電率が変化してしまう。すなわち、特許文献1に記載の発明では、同じ特性を有する絶縁膜を安定して得ることは難しい。
【0020】
このように、従来の技術では、比誘電率の低い絶縁膜を得ることはできるがそれを特定の値に制御することは難しかった。
【0021】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、上述した課題である、比誘電率の低い絶縁膜を安定して得ることのできる多孔質絶縁膜の製造方法、及びこの方法を用いて製造した多孔質絶縁膜並びにこの多孔質絶縁膜を層間絶縁膜として用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
かかる目的を達成するために、本発明は、以下の特徴を有することとする。
【0023】
<多孔質絶縁膜の製造方法>
本発明にかかる多孔質絶縁膜の製造方法は、
シリコン及び酸素を骨格とし、シリコンに結合する側鎖の一方が不飽和炭化水素基であり、他方が炭素原子を2つ以上含む飽和炭化水素基である環状有機シリカ化合物の蒸気を希ガスで希釈した蒸気に、酸化剤ガスを前記環状有機シリカ化合物の蒸気の流量の0.3倍以上1.2倍以下添加してプラズマ中に導入し、半導体基板上に多孔質低誘電率絶縁膜を成長させることを特徴とする。
【0024】
<多孔質絶縁膜>
本発明にかかる多孔質絶縁膜は、
上記記載の多孔質絶縁膜の製造方法によって製造される多孔質絶縁膜であることを特徴とする。
【0025】
<半導体装置>
本発明にかかる半導体装置は、
上記記載の多孔質絶縁膜が層間絶縁膜として用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、比誘電率の低い絶縁膜を安定して得ることのできる多孔質絶縁膜の製造方法、及びこの方法を用いて製造した多孔質絶縁膜並びにこの多孔質絶縁膜を層間絶縁膜として用いた半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の絶縁膜の作製方法の実施に利用可能な成膜装置の概略図である。
【図2】本発明の絶縁膜の作製方法の実施に利用される、液体原料の気化供給に利用可能な気化供給システムの概略図である。
【図3】本発明の絶縁膜の作製方法の実施に利用される、固体原料の気化供給に利用可能な気化供給システムの概略図である。
【図4】第一の実施形態にかかる絶縁膜の、成膜速度のRF電力依存性を示す図である。
【図5】第一の実施形態にかかる絶縁膜の、比誘電率のRF電力依存性を示す図である。
【図6】第一の実施形態にかかる絶縁膜の、RF電力200Wにおける成膜速度の原料流量依存性を示す図である。
【図7】第一の実施形態にかかる絶縁膜の、RF電力200Wにおける比誘電率の原料流量依存性を示す図である。
【図8】第一の実施形態にかかる絶縁膜の、RF電力200Wにおける成膜速度の反応室圧力依存性を示す図である。
【図9】第一の実施形態にかかる絶縁膜の、RF電力200Wにおける比誘電率の反応室圧力依存性を示す図である。
【図10】第一の実施形態にかかる絶縁膜の、フーリエ変換赤外分光分析結果を示す図である。
【図11】第一の実施形態にかかる絶縁膜の、小角X線分析によるポア(空孔)分布分析結果を示す図である。
【図12】第一の実施形態に記載の絶縁膜の、RF電力200Wにおける電流電圧特性の原料流量依存性を示した図である。
【図13】第二の実施形態にかかる絶縁膜の、成膜速度とRFパワー依存性測定結果を示した図である。
【図14】第二の実施形態にかかる絶縁膜の、比誘電率とRFパワー依存性測定結果を示した図である。
【図15】第二の実施形態にかかる絶縁膜の、3V3IPC3SおよびTVTMCTSを用いて、RF電力200Wで成膜された膜のそれぞれのFTIRスペクトルを示した図である。
【図16】第二の実施形態にかかる絶縁膜の、環状有機シリカ3V3IPC3S原料および直鎖状有機シリカ原料より得られたラマン分光分析の結果を示す。
【図17】第2の実施形態にかかる絶縁膜の、小角X線分析により求めた膜中のポア分布を示した図である。
【図18】第三の実施形態にかかる絶縁膜の、成膜速度のN2O添加量依存性を示す図である。
【図19】第三の実施形態にかかる絶縁膜の、成膜速度の希釈ヘリウムガス流量依存性を示す図である。
【図20】第三の実施形態にかかる絶縁膜の、フーリエ変換赤外分光分析結果を示す図である。
【図21】第三の実施形態にかかる絶縁膜の、小角X線分析によるポア(空孔)分布分析結果を示す図である。
【図22】第三の実施形態にかかる絶縁膜の、比誘電率のN2O添加量依存性を示す図である。
【図23】第三の実施形態にかかる絶縁膜の、電流電圧特性のN2O添加量依存性を示した図である。
【図24】第四の実施形態にかかる絶縁膜の、成膜速度とSiH4添加量の関係を示す図である。
【図25】第四の実施形態にかかる絶縁膜の、得られた絶縁膜の比誘電率(k)とSiH4添加量との関係を示す図である。
【図26】第四の実施形態にかかる絶縁膜の、フーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)の結果を示した図である。
【図27】第五の実施形態にかかる絶縁膜の、成膜速度とN2O添加量との関係を示した図である。
【図28】第五の実施形態にかかる絶縁膜の、得られた絶縁膜の比誘電率(k)とN2O添加量との関係を示した図である。
【図29】第五の実施形態にかかる絶縁膜の、フーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)の結果を示した図である。
【図30】第六の実施形態にかかる絶縁膜の、成膜速度の原料供給比、N2O添加量依存性を示す図である。
【図31】第六の実施形態にかかる絶縁膜の、比誘電率の原料供給比、N2O添加量依存性を示す図である。
【図32】第六の実施形態にかかる絶縁膜の、ラザフォード後方散乱/水素前方散乱法による組成分析結果の、原料供給比依存性を示した図である。
【図33】第六の実施形態にかかる絶縁膜の、成膜シーケンスを概略的に示した図である。
【図34】第七の実施形態にかかるMOSFETデバイスにおける、デュアルダマシン配線構造の模式図である。
【図35】第八の実施形態にかかるMOSFETデバイスにおける、デュアルダマシン配線構造の模式図である。
【図36】第八の実施形態にかかるMOSFETデバイスにおける、デュアルダマシン配線構造の模式図である。
【図37】第九の実施形態にかかるMOSFETデバイスにおける、デュアルダマシン配線構造の模式図である。
【図38】第十の実施形態にかかるMOSFETデバイスにおける、シングルダマシン配線構造の模式図である。
【図39】第十一の実施形態にかかるMOSFETデバイスにおける、銅配線側壁部に〜10nmの保護膜を設けたシングルダマシン配線構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔発明の原理〕
本発明の多孔質絶縁膜の成膜方法は、原料として分子中に環状シリカ骨格を有し、且つ該環状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている環状有機シリカ化合物を用いて、該環状有機シリカ化合物の蒸気を低パワープラズマ中に導入することで、環状シリカ骨格を保ったまま不飽和炭化水素を選択的に活性化させる。環状有機シリカ化合物にはシリカ骨格で囲まれた微細空孔が存在するが、この不飽和炭化水素から形成される炭化水素基を介して別の環状有機シリカ分子と重合反応させると、あたかもシリカ骨格で囲まれた微細空孔が三次元空間に連なった多孔質絶縁膜が形成される。
【0029】
原料として分子中に少なくとも一つの不飽和炭化水素結合を有し、且つモノマー中に分子空孔を有する有機シリカ化合物をプラズマ中に導入すると、該有機シリカ化合物はプラズマ中で分解されるが、不飽和炭化水素結合を有していることから、未結合手を1本以上有するラジカルが生成されやすい。従って、これらラジカルの重合反応が進み、この結果として、不飽和炭化水素結合を含まない環状シリカ化合物に比して高い成膜速度を得ることが可能である。
【0030】
また、環状有機シリカ同士を重合させる以外に、例えば不飽和炭化水素の結合した直鎖状有機シリカと該環状有機シリカ化合物との混合ガスをプラズマ中に導入すれば、環状シリカ骨格内の微細空孔が直鎖状有機シリカを介して重合された多孔質絶縁膜が形成される。Si原子に対する相対炭素濃度が、環状有機シリカ化合物に比して高い直鎖状有機シリカ化合物を用いれば、炭素成分により富んだ多孔質絶縁膜が形成される。成膜中に環状有機シリカ分子ガスと直鎖状有機シリカ分子ガスとの供給比を変化させれば、成長膜厚方向に炭素組成の変化した多孔質絶縁膜が得られる。
【0031】
ここで肝要なことは、該環状シリカ骨格を破壊させることなく、かつこれに結合する不飽和炭化水素基を優先的に活性化させるプラズマが必要不可欠である。希ガス、He、Ne、Ar,Krのプラズマは不飽和炭化水素の選択活性に有効である。さらに、我々は、この希ガスに酸化剤ガスを混ぜた混合ガスのプラズマが不飽和炭化水素基の選択活性化を促進させ、多孔質絶縁膜の成長速度を著しく向上させる新現象を見いだした。正確な促進反応機構は現時点でわかっていないが、不飽和炭化水素基中の炭素の一部が酸素と結合してCO又はCO2として引き抜かれ、後に残った炭素ラジカルを介して環状有機シリカ化合物が重合してゆくものと推測される。
さらに、我々はこの希ガスに水素化シリコンガスを混ぜた混合ガスのプラズマも不飽和炭化水素の選択活性化を促進させ、多孔質絶縁膜の成長速度を増加させる新現象も見出した。この場合も正確な促進反応機構は現時点ではわかっていないが、プラズマ中で水素化シリコン分子の一部から水素ラジカルが引き抜かれ、この水素ラジカルが不飽和炭化水素と反応して炭化水素ラジカル化し、この炭化水素ラジカルを介して環状有機シリカ化合物が重合してゆくもの推測される。得られる膜中のシリコン組成も微増することから水素の引き抜かれた水素化シリコンラジカルも環状有機シリカ化合物の重合促進に寄与しているものと推測される。
【0032】
このように、本発明の多孔質絶縁膜の製造方法は、その多孔質源として出発原料たる環状有機シリカ化合物中の微細空孔を用い、この微細空孔を不飽和炭化水素の誘導体を介して結合してゆくことが特徴である。従って、得られた多孔質絶縁間膜中の空孔径は、出発原料中の環状シリカ骨格内部の微細空孔径とほぼ一致したものが主を占める。
【0033】
なお、上記の構成を有する本発明の多孔質絶縁膜の製造方法に用いる直鎖状有機シリカ化合物は、下記一般式(1)で表される構造であることが好ましい。
【0034】
【化1】

【0035】
また、上記の構成を有する本発明の多孔質絶縁膜の製造方法に用いる環状有機シリカ化合物は、下記一般式(2)で表されるシクロシロキサンモノマー(式(2)中、各R1及びR2はそれぞれ水素、アルキル基、アルコキシド基、アミノ基、アルケン、アルキン、フェニル基及びフェノール基からなる群から選択されるいずれか一つであり、各R1及びR2は同一でも異なっていても良い。ただし、側鎖基の少なくとも一つは不飽和炭化水素基である。また、nは2以上の整数である。)である。
【0036】
【化2】

【0037】
環員数nに関しては、n=3〜4が望ましく、さらには多孔質絶縁膜の空孔径を小さくする観点からはn=3が望ましい。すなわち、n>4になると環状構造が不安定となり、プラズマ中で分解してその骨格構造を保持しにくいこと、蒸気圧が増大し気化しにくくなるためである。n=2の場合はシリカ骨格は4角形と不安定となり、プラズマ中で分解しやすくなる。構造安定性と気化特性の観点からはn=3および4の環状有機シリカは同等の性質を示すが、n=3の方が環状構造内の内孔径が小さい。この環状有機シリカの内孔径は、該原料より得られる多孔質絶縁膜の空孔径に対応する。従って、より微細な空孔が求められるULSI多層銅配線の層間絶縁膜としては、n=3がより望ましいといった新事実も見出した。
ここで、側鎖基の少なくとも一つである不飽和炭化水素基としては、ビニル基(−C=CH2)やプロペニル基(−CH=CHCH3)、エチニル基(−C≡CH)である。また、側鎖基の少なくとも一つである飽和炭化水素基としては、メチル基(−CH3)、エチル基(−CH2CH3)、プロピル基(−CH2CH2CH3)、立体障害の大きいイソプロピル基(−CH(CH32)やターシャリーブチル基(−C(CH33)などである。立体障害の大きな側鎖の場合、得られる膜密度が低減してより比誘電率が低下するといった効果を有する。
【0038】
具体的には、n=4で表される前記有機シリカ化合物は、下記一般式(3)で示されるテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーである。
【0039】
【化3】

【0040】
また、このほかにも、下記一般式(6)で示されるテトラビニルシクロテトラシロキサン誘導体(式(6)中、R1、R2、R3、R4は同一でも異なっていても良く、水素、アルキル基、アルコキシド基、アミノ基、アルケン、アルキン、フェニル基、フェノール基などを示す)を用いることもできる。
【0041】
【化4】

【0042】
さらに、下記一般式(7)で示されるトリビニルシクロテトラシロキサン誘導体(式(7)中、R1、R2、R3、R4、R5は同一でも異なっていても良く、水素、アルキル基、アルコキシド基、アミノ基、アルケン、アルキン、フェニル基、フェノール基などを示す)を用いることもできる。
【0043】
【化5】

【0044】
また、下記一般式(8)、(9)で示されるジビニルシクロテトラシロキサン誘導体(式(8,9)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6は同一でも異なっていても良く、水素、アルキル基、アルコキシド基、アミノ基、アルケン、アルキン、フェニル基、フェノール基などを示す)を用いることもできる。
【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
また、下記一般式(10)で示されるビニルシクロテトラシロキサン誘導体(式(10)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7は同一でも異なっていても良く、水素、アルキル基、アルコキシド基、アミノ基、アルケン、アルキン、フェニル基、フェノール基などを示す)を用いることもできる。
【0048】
【化8】

【0049】
同様にして、ペンタビニルシクロテトラシロキサン誘導体、ヘキサビニルシクロテトラシロキサン誘導体、ヘプタビニルシクロテトラシロキサン誘導体、オクタビニルシクロテトラシロキサン誘導体としても良い。
【0050】
また、原料となる有機シリカ化合物を構成する環状シリカ骨格は、n=4の8員環に限らず、4員環(n=2)、6員環(n=3)、10員環(n=5)、あるいはそれ以上のnであっても構わなく、また、それらは少なくとも一つの不飽和炭化水素結合を有していればよい。
【0051】
具体的には、n=3で表せる前記環状有機シリカ化合物は、下記一般式(4)で示されるトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンモノマーである。
【0052】
【化9】

【0053】
また、このほかにも、下記一般式(11)で示されるトリビニルシクロトリシロキサン誘導体(一般式(11)中のR1,R2,R3は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルコキシド基、アミノ基、アルケン、アルキン、フェニル基、フェノール基などを示す)を用いることもできる。
ただし、側鎖基の少なくとも一つは不飽和炭化水素基である側鎖基の少なくとも一つである不飽和炭化水素基としては、ビニル基(−C=CH2)やプロペニル基(−CH=CHCH3)、エチニル基(−C≡CH)である。また、側鎖基の少なくとも一つである飽和炭化水素基としては、メチル基(−CH3)、エチル基(−CH2CH3)、プロピル基(−CH2CH2CH3)、立体障害の大きいイソプロピル基(−CH(CH32)やターシャリーブチル基(−C(CH33)などである。立体障害の大きな側鎖の場合、得られる膜密度が低減してより比誘電率が低下するといった効果を有する。
【0054】
【化10】

【0055】
また、このほかにも、下記一般式(12)で示されるジビニルシクロトリシロキサン誘導体(一般式(12)、中R1,R2,R3,R4は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルコキシド基、アミノ基、アルケン、アルキン、フェニル基、フェノール基などを示す)を用いることもできる。
ただし、側鎖基の少なくとも一つは不飽和炭化水素基である。側鎖基の少なくとも一つである不飽和炭化水素基としては、ビニル基(−C=CH2)やプロペニル基(−CH=CHCH3)、エチニル基(−C≡CH)である。また、側鎖基の少なくとも一つである飽和炭化水素基としては、メチル基(−CH3)、エチル基(−CH2CH3)、プロピル基(―CH2CH2CH3)、立体障害の大きいイソプロピル基(−CH(CH32)やターシャリーブチル基(−C(CH33)などである。立体障害の大きな側鎖の場合、得られる膜密度が低減してより比誘電率が低下するといった効果を有する。
【0056】
【化11】

【0057】
また、このほかにも、下記一般式(13)で示されるビニルシクロトリシロキサン誘導体(一般式(13)、中のR1,R2,R3,R4,R5は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルコキシド基、アミノ基、アルケン、アルキン、フェニル基、フェノール基などを示す)を用いることもできる。
ただし、側鎖基の少なくとも一つは不飽和炭化水素基である。側鎖基の少なくとも一つである不飽和炭化水素基としては、ビニル基(−C=CH2)やプロペニル基(−CH=CHCH3)、エチニル基(−C≡CH)である。また、側鎖基の少なくとも一つである飽和炭化水素基としては、メチル基(−CH3)、エチル基(−CH2CH3)、プロピル基(―CH2CH2CH3)、立体障害の大きいイソプロピル基(−CH(CH32)やターシャリーブチル基(−C(CH33)などである。立体障害の大きな側鎖の場合、得られる膜密度が低減してより比誘電率が低下するといった効果を有する。
【0058】
【化12】

【0059】
さらに、上記の環状有機シリカ化合物原料を、単一で用いても十分な効果が得られるものであるが、これらの環状有機シリカ化合物を複数組み合わせて用いても、多孔質絶縁膜を成長することができる。さらには、不飽和炭化水素を含む環状有機シリカ化合物と、側鎖に水素、炭化水素基及び酸化炭化水素基からなる群から選択されるいずれかが結合された直鎖状有機シリカ化合物とを組み合わせて用いることもできる。
【0060】
次に、本発明の実施の形態に係る半導体装置の製造方法に用いられる成長装置(成膜装置)の一例を図1に示す。
反応室1は、排気配管7、排気バルブ22及び冷却トラップ8を介して接続された真空ポンプ9により減圧されている。反応室1の内部には基板保持台を兼ねた基板加熱部3が設けられ、基板加熱部3上に半導体基板(被成膜基板)2が敷置される。
【0061】
原料であるモノマーは気化システム16a内において気化され、気化された分子蒸気はキャリアガスとともにバルブ21aを介して配管15を通じ、反応室1へ供給される。二種のモノマーを原料として用いる場合は、これに加えて、気化システム16bを用いて気化した分子蒸気を、キャリアガスとともにバルブ21bを介して配管15へ送り、配管15内で二種のモノマーの分子蒸気を混合し、反応室1に供給すれば良い。また、三種類以上の原料を用いる場合には、同様にして、複数の原料タンク(図示しない)、原料供給配管(図示しない)、気化供給システム(図示しない)、気化原料供給配管(図示しない)などを同様にして設置すれば良い。
【0062】
さらに、配管15にはバルブ20及び流量コントローラ18を介して酸化剤ガス、水素化シリコンガス、希釈ガス、パージガス及びクリーニングガスが導入可能となっており、必要に応じて、気化された分子蒸気への酸化剤ガスの添加や、不活性ガスによる希釈が行われる。
【0063】
クリーニングガスは、反応室1の付着生成物を除去するために用いられ、通常、O2とフロロカーボンガスとの混合気がよく使用されるが、付着生成物を除去する効果があればこれらに限定されるものではない。また、クリーニングガスの代わりに、NF3などを用いたリモートプラズマシステムを利用してもよい。
【0064】
酸化剤ガスとしては、O2、CO2、CO、N2O、NO2などを用いることができる。この他に、H2Oも酸化作用を有するが、H2Oを用いた場合は、膜中にSi−OH基が形成される。このSi−OH結合に含まれる−OH基は、多層配線形成時の熱処理プロセス中に熱の影響を受けたり、ガス成分と反応することにより、Si−OH基同士での反応や、エッチングガス中に含まれる水素との反応を起こし、H2Oを生じる。膜中に残留したH2Oを脱離させるには、100℃以上での熱処理などが施されるが、これは工程数の増加すなわちコストの増加とスループットの低下を招く。
【0065】
また、膜中に残留したH2Oは熱処理によって膜中から脱離するが、脱離と同時に膜の収縮を生じる。さらに、膜中にH2Oが水分子の形で残留した場合、H2Oの比誘電率は約80であることより、膜の比誘電率の大幅な上昇を招く。従って、酸化剤としてH2Oを用いることは好ましくない。
【0066】
希釈ガスとしては、He、Ar、Ne、Xeなどを用いることができる。水素化シリコンガスとしては、少なくともシリコンに直接結合した水素を1個以上含み、かつ酸素を含まない化合物であり、具体的にはシランガス(SiH4)、トリメチルシランガス(SiH(CH3)3)、ジメチルシランガス(SiH2(CH3)3)モノメチルシランガス(SiH3CH3)、ジシラン(Si26)などである。
【0067】
配管15は、分子蒸気の分圧が配管温度における平衡蒸気圧よりも低くなるようにヒータ19によって加熱・保温され、分子蒸気の再液化を防止している。また、配管15は反応室1のパージ不活性ガスの経路としても用いられる。
【0068】
反応室1に導入された分子蒸気、キャリアガス、酸化剤ガス及び希釈ガスは、複数の貫通孔を具有し反応室1内に設置されたシャワーヘッド4で混合及び分散されたのち、半導体基板(被成膜基板)2上に吹き付けられる。シャワーヘッド上部には図示しないガス分散板が設けられることもある。
【0069】
シャワーヘッド4には、給電線11とマッチングコントローラ12とを介してRF電源13が接続され、接地線6を介して接地された基板加熱部3との間にRF電力が供給される。
半導体基板2上に吹き付けられた分子蒸気は、シャワーヘッド4と基板加熱部3との間にかかる印加電力によって誘起されたプラズマにより励起・活性化され、基板加熱部3上に置かれた半導体基板2の表面に吸着する。活性化され半導体基板2上に吸着した分子蒸気は、プラズマエネルギーと基板加熱部3より与えられる熱エネルギーとによって重合反応を起こし、半導体基板2上に絶縁膜を形成する。
【0070】
なお、反応生成物の付着を防止する目的で、反応室1の外壁はヒータ5によって、排気配管7はヒータ23よって加熱されている。また同様の理由で、シャワーヘッドには図示しないヒータが具備されることもある。
【0071】
未反応の分子蒸気は排気バルブ22と排気配管7とを通じて冷却トラップ8に導入される。冷却トラップ8では、トラップ面の温度が十分低いため、分子蒸気はその表面に凝集し、冷却トラップ8内部で液化及び固化を生じる。その結果、未反応の分子蒸気は冷却トラップ8内にて回収される。結果として、真空ポンプ9には原料が取り除かれたキャリアガス、酸化剤ガス、希釈ガス等の添加ガス、及びクリーニングガスのみが送られる。
【0072】
また、原料として用いるモノマーの蒸気圧がテトラエトキシシラン(TEOS)などに比して小さい場合、大容量気化のため及び気化された原料の再液化を防止するためには、気化システム16a(16b)から反応室1までの圧力損失を小さくすることが重要となる。圧力損失を小さくするには、例えば、気化システム16a(16b)出口〜反応室1までの配管径を圧力損失を十分小さくできる範囲に設定すればよい。具体的に言えば、気化システム16a(16b)〜反応室1までに配管径1/4〜3/8インチ程度の配管を用いていたのであれば、これを1/2インチ以上とする(配管径を大きくする)ことで圧力損失を低減できる。
【0073】
また、気化器システム16a(16b)〜反応室1までの配管径を大きくした場合、図1に示したシャワーヘッド4と、配管15との間の電位差により、配管15の内部にもプラズマが誘起されやすくなり、結果として反応室1上部のガス導入部付近及び配管15内部に、反応生成物が付着する。これを防止するためは、配管15が金属製の場合にはガス導入部付近にアルミナなどの絶縁材を設けて、配管15と反応室1上部との絶縁性を強化することや、配管15内部を絶縁材でコーティングすることが非常に効果的である。また、配管材質を金属ではなく絶縁材(例えばアルミナ)とすることも有効である。
【0074】
図2は、図1中で示した気化システム16a、16bに関する模式的な説明図である。
ここでは、原料であるモノマーが液体である場合を示している。
なお、以下の説明では単量体であるモノマーについて説明するが、ダイマー、オリゴマーについてもその原理は同様である。また、原料が気体である場合は、流量コントローラ等により流量を制御し、反応室1へ供給すれば良い。
【0075】
原料タンク25に充填されたモノマー24は、供給配管27、バルブ42、流量指示器32及びバルブ46を介して、気化制御器35へ導入される。一方、キャリアガス26は流量コントローラ34、バルブ47及び配管53を経て気化制御器35内に導入される。
気化制御器35に導入された原料24は、気化制御器35内に設けられ、流量指示器32からフィードバック制御されるバルブ48を介し、気化制御器35内の配管36においてキャリアガス26と混合され、バルブ50を介して気化室37に導入される。
【0076】
気化室37は減圧されており、さらにヒータ38により加熱されているため、気化室37内へ導入された原料24はこの熱エネルギーによって連続的に気化する。
【0077】
気化した原料24は、ヒータ38によって加熱され、ガス温度を保ったまま、キャリアガス26とともに、ヒータ40で保温された配管30、バルブ51及び配管39を通じて反応室1へ供給される。なお、流量コントローラ34、バルブ47及び配管30は、気化制御器35内部配管36、バルブ50、気化室37、及び気化室出口配管39、バルブ51、バルブ52、ベント配管41のパージ用にも用いる。
【0078】
図3は、原料が固体の場合、原料の分子蒸気を発生させ、供給する気化供給システムの構成を模式的に示す図である。
キャリアガス53は、流量コントローラ54、バルブ55、配管56を介して原料タンク58に供給される。原料タンク58は、固体原料59を内蔵しており、またヒータ57によって、固体原料59が溶融状態から気化して、あるいは固相状態から昇華して、十分な飽和蒸気圧が得られる温度に加熱されている。
【0079】
気化した原料の分子蒸気はキャリアガス53とともに、配管60、バルブ61、流量コントローラ62及びバルブ63を介して気化原料供給配管64に供給され、バルブ66及び配管67を介して反応室1に供給される。
【0080】
また、気化する原料は、モノマー、ダイマー、オリゴマーいずれの原料についても同様の原理で気化が可能である。さらに、本発明において、キャリアガスにはヘリウムガス、アルゴンガス、ネオンガス等、気化させる原料に対して不活性なガスを適宜使用することができる。
【0081】
以上のように、原料は常温で固体、液体、気体いずれの状態においても、適切な気化供給システムを選択することで、目的とする供給量の原料の分子蒸気を反応室へ供給することができる。
【0082】
次に、上記原理に基づく本発明の好適な実施の形態を示すことにより、本発明をより具体的に説明する。なお、これらの各実施形態は、本発明の最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明はこれら実施形態により限定を受けるものではない。
【0083】
〔第一の実施形態〕
本発明を好適に実施した第一の実施形態として、分子中に環状シリカ骨格を有し且つ該環状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている環状有機シリカ化合物原料を原料として形成した絶縁膜について説明する。
本実施形態に係る絶縁膜は、分子中に環状シリカ骨格を有し且つ該環状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている環状有機シリカ化合物原料の少なくとも一つとして、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマーを原料として用いて形成した。
【0084】
また、比較のために本実施形態に係る絶縁膜とは異なる二種類の材料を用いて絶縁膜を形成した。
このうち一方の絶縁膜(第1の比較用絶縁膜)は、分子中に直鎖状シリカ骨格を有し、且つ分子中に不飽和炭化水素基を持たない化合物である、下記一般式(14)で示されるターシャリーブチルトリエトキシシランモノマー(TBTES)を材料として用いて形成した。
【0085】
【化13】

【0086】
他方の絶縁膜(第2の比較用絶縁膜)は、分子中に直鎖状シリカ骨格を有し、且つ分子中に不飽和炭化水素基を持たない化合物である、下記一般式(15)で示されるターシャリーブチルジメチルエトキシシランモノマー(TBDMES)を材料として用いて形成した。
【0087】
【化14】

【0088】
キャリアガスとしては、Heの他にAr、Ne、Xeなど、モノマーに対して不活性なガスを用いることが好適である。キャリアガスの流量は、気化システム内におけるモノマーの分圧がモノマーの飽和蒸気圧よりも小さくなるよう設定すれば良い。キャリアガスとしては、不活性ガスの他にはH2などが考えられる。しかしながら、H2をキャリアガスとして用いた場合、H2はプラズマ中で活性化し、同じくプラズマ中で活性化したモノマーに対して付加反応を生じる。キャリアガスはモノマーに比して気相中に大量に存在するため、膜中の水素含有量の増加を招き、耐熱性の劣化など膜特性の不安定化を誘発する要因となる。従って、キャリアガスとしては、モノマーに対して不活性なHe、Ne、Ar、Xeなどが好適である。
本実施形態に係る絶縁膜及び第1及び第2の比較用絶縁膜は、成膜時にキャリアガスとしてヘリウム8.45×10-1Pa・m3/sを供給した。なお、ガス供給量は標準状態(0℃、1atom=1.01×105Pa)に換算した値であり、以下に示すすべてのガス供給量においてもこの換算値を用いている。
【0089】
上記の各絶縁膜は、図2に示す気化制御器35において原料を気化し、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマー8.239×10-2〜1.099×10-1Pa・m3/s、又は、TVTMCTSモノマーの代わりに、TBTESモノマーを1.030×10-1Pa・m3/s、又はTBDMESモノマーを1.183×10-1Pa・m3/s供給して成膜した。
【0090】
成膜の際には、キャリアガス及び原料の他、希釈ガスとしてヘリウムを1.690×10-1Pa・m3/s流し、反応室1に導入した。350℃に保たれた基板加熱部3に予め200mmφのシリコン基板(半導体基板)2を敷置しておき、さらに反応室1は圧力360Paに減圧し、ほぼ300mmφのシャワーヘッド4に周波数13.56MHz、RF電力50〜700Wの高周波を印加し、プラズマ重合反応により、シリコン基板2上に絶縁膜を成長させた。この場合、プラズマ形成パワー密度は、おおよそ0.05W/cm2〜1W/cm2に相当する。なお、ここでは基板加熱部3の温度を350℃としたが、基板加熱部3の温度は、200℃〜450℃程度とすることが望ましい。
【0091】
図4に、原料として、TVTMCTSモノマーを8.239×10-2Pa・m3/s供給して形成した絶縁膜(本実施形態に係る絶縁膜)、TBTESモノマーを1.030×10-1Pa・m3/s供給して形成した絶縁膜(第1の比較用絶縁膜)、及びTBDMESモノマーを1.183×10-1Pa・m3/s供給して形成した絶縁膜(第2の比較用絶縁膜)の成膜速度のRF電力依存性(RF電力と成膜速度との関係)を示す。横軸はRF電力(W)、縦軸は成膜速度(nm/min)を表す。分子中に不飽和炭化水素基を有するTVTMCTSを原料として形成した本実施形態に係る絶縁膜は、不飽和炭化水素基を有しないTBTESやTBDMESを原料として形成した第1及び第2の比較用絶縁膜よりも原料流量が少ないにも係わらず、高い成膜速度を示した。
【0092】
プラズマ中に導入された分子蒸気は、プラズマからのエネルギーによって解離・活性化する。この際、シリカ骨格に結合した不飽和炭化水素基は、未結合手を1本以上有するラジカルが生成されやすく、またこれらの未結合手は、分子同士をつなぐ"糊"として作用することで、重合反応が支配的な成膜が進む。
【0093】
一方、不飽和炭化水素基を有しない化合物では、プラズマ中での解離が不飽和炭化水素基を有する化合物に比して選択的に活性化される結合手が少ないため、"糊"となる未結合手が少なく、結果として成膜速度は低くなると推定される。
【0094】
この結果として、分子中に不飽和炭化水素基を有するシリカ化合物は、不飽和炭化水素基を含まないシリカ化合物に比し、成膜速度が高くなる。すなわち、分子中に不飽和炭化水素基を有するTVTMCTSモノマーを原料とした本実施形態に係る絶縁膜は、不飽和炭化水素基を持たないTBTESやTBDMESのモノマーを原料とした第1及び第2の比較用絶縁膜と比し成膜速度が高くなる。また、RF電力を増大することで、ラジカルの形成が促進され、さらに高い成膜速度を得ることが可能である。
【0095】
図5は、原料として、TVTMCTSモノマーを8.239×10-2Pa・m3/s供給して形成した絶縁膜(本実施形態に係る絶縁膜)、TBTESモノマーを1.030×10-1Pa・m3/s供給して形成した絶縁膜(第1の比較用絶縁膜)、及びTBDMESモノマーを1.183×10-1Pa・m3/s供給して形成した絶縁膜(第2の比較用絶縁膜)の比誘電率のRF電力依存性(比誘電率とRF電力との関係)を示す。横軸はRF電力(W)、縦軸は比誘電率を表す。本実施形態に係る絶縁膜並びに第1及び第2の比較用絶縁膜の誘電率を調べたところ、RF電力200W以下においては、いずれの膜も比誘電率は3以下であり、従来利用されてきたSiO2やフッ素添加SiO2と比較して低い誘電率を有していた。
【0096】
ただし、分子中に不飽和炭化水素基を持たないシリカ化合物であるTBTES、TBDMESモノマーを用いた第1及び第2の比較用絶縁膜は、RF電力を300W以上まで増加すると、比誘電率は3以上まで上昇する。
【0097】
一方、分子中に不飽和炭化水素基を有するシリカ化合物であるTVTMCTSを用いて形成した本実施形態に係る絶縁膜は、RF電力を増加しても、TBTESやTBDMESのモノマーを原料として用いた場合に比べて比誘電率の増分は小さく、RF電力500Wにおいても比誘電率を2.8以下に維持することができる。
【0098】
TBTESやTBDMESのモノマーを原料として用いた場合、RF電力の増加によりモノマーの過剰分解と有機成分の脱離とが進行しているために比誘電率の上昇を招いていると推測される。TVTMCTSモノマーを原料として用いた場合は、不飽和炭化水素基に由来するラジカルが主となって成膜が進むため、RF電力を増加しても、過剰分解したモノマーの取り込みや有機成分の脱離が抑制される。つまり、原料供給律速ではなく、不飽和炭化水素基の活性化律速により成膜速度が決まり、且つ不飽和炭化水素基を介した重合反応によって選択的な成長が進むために、過剰分解したモノマーの取り込みや、有機成分の脱離を生じにくく、結果として比誘電率はほぼ一定の値を取ると推測される。
【0099】
図6に、原料としてTVTMCTSモノマーを用い、供給量を2.746×10-2Pa・m3/s〜1.099×10-1Pa・m3/sまで変化させて形成した絶縁膜の、RF電力200Wにおける成膜速度の原料供給量依存性(原料供給量と成膜速度との関係)を示す。横軸は原料供給量(Pa・m3/s)を、縦軸は成膜速度(nm/min)を表す。また、図7に、原料としてTVTMCTSモノマーを用い、供給量を2.746×10-2Pa・m3/s〜1.099×10-1Pa・m3/sまで変化させて形成した絶縁膜の、RF電力200Wにおける比誘電率の原料供給量依存性(原料供給量と比誘電率との関係)を示す。横軸は原料供給量(Pa・m3/s)を、縦軸は比誘電率を表す。
これらの図に示されるように、TVTMCTSモノマーを原料として用いた本実施形態に係る絶縁膜は、原料の供給量に関わらず成膜速度や比誘電率が一定となる。
【0100】
図6に示すように、原料供給量2.746×10-2Pa・m3/s〜1.099×10-1Pa・m3/sの範囲において、成膜速度はほぼ一定値を取る。このことは、TVTMCTSモノマーを用いた場合の成膜速度が、原料供給律速ではなく、活性化反応律速によって決定することを示唆している。
【0101】
また、図7に示すように、原料供給量2.746×10-2Pa・m3/s〜1.099×10-1Pa・m3/sの範囲において、比誘電率は2.75以下を維持している。
従って、プラズマによって活性化したモノマーは、環状シリカ骨格を維持したまま、不飽和炭化水素基を介して重合し、その反応は原料供給量に大きく依存しないことが示唆された。なお、2.746×10-2Pa・m3/s以下では比誘電率がわずかに上昇するが、2.746×10-2Pa・m3/s以下の領域においては、気相中の原料濃度が低下するため、過剰に分解されるモノマーの取り込みや有機成分の脱離が生じ、これを膜中に取り込むことで比誘電率が上昇すると考えられる。
【0102】
図8に、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマーの供給量が8.239×10-2Pa・m3/sで、RF電力が200Wである場合の反応室圧力と成膜速度との関係を示す。横軸は反応室圧力(Pa)を、縦軸は成膜速度(nm/min)を表す。ここでは、反応室圧力を320Pa〜440Paまで変化させた。図示されるように、成膜速度は反応室圧力に対して依存性を示さない。
【0103】
また、図9に、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマーの供給量が8.239×10-2Pa・m3/sで、RF電力が200Wである場合の反応室圧力と比誘電率との関係を示す。横軸は反応室圧力(Pa)を、縦軸は比誘電率を表す。ここでは、反応室圧力を320Pa〜440Paまで変化させた。図示されるように、比誘電率は反応室圧力に対して依存性を示さず、ほぼ一定の値を取る。
【0104】
このように、成膜速度が高く、且つ低い比誘電率を安定して得るためには、本実施形態に係る絶縁膜のように、不飽和炭化水素基を有するモノマーを原料として用いるのが好適であることが実証された。
【0105】
すなわち、少なくとも一つの、分子中に環状シリカ骨格を有し且つ該環状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている環状有機シリカ化合物原料として、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマーを用いた場合、形成される膜の成膜速度と比誘電率とは、原料流量、RF電力及び反応室圧力に対して依存性が小さく、すなわちプロセス安定性の極めて高い低誘電率膜を得ることができる。
【0106】
図10に、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマーを1.099×10-1Pa・m3/s供給し、RF電力200Wにおいて形成した絶縁膜(本実施形態に係る絶縁膜)について、フーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)によって膜構造を調べた結果を示す。横軸は波数(cm-1)を、縦軸は吸収量(a.u)を表す。
原料であるテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーの構造に由来したSi−O結合(波数1040cm-1付近)、Si−CH3結合(波数800cm-1及び1250cm-1付近)及びC−H結合(波数3000cm-1付近)、に起因する振動ピークが観測された。また、この他、Si−H結合に起因する弱い振動ピーク(波数1400cm-1付近)も観測された。しかしながら、不飽和炭化水素基、すなわち炭素−炭素二重結合(C=C結合)に起因するピーク(C=C結合が存在すると波数910cm-1、990cm-1、1400cm-1及び1800cm-1付近に現れるピーク)は観測されなかった。したがって、形成された絶縁膜は、不飽和炭化水素結合の重合反応により形成されていることが推測できる。
【0107】
また、図10に示されるように、形成された膜中にはSi−OHに起因するスペクトル(Si−OH結合が存在すると波数3200〜3500cm-1付近に現れる幅広のピーク)が観測されていない。膜中にSi−OH結合が存在する場合、Si−OH結合に含まれる−OH基は、多層配線形成時の熱処理プロセス中に熱の影響を受けたり、ガス成分と反応したりすることにより、Si−OH基同士での反応や、エッチングガス中に含まれる水素との反応を起こし、この結果H2Oを生じる。膜中に残留したH2Oを脱離させるには、100℃以上での熱処理などが施されるが、これは工程数の増加すなわちコストの増加とスループットの低下を招く。
【0108】
また、H2Oは熱処理によって膜中から脱離するが、同時に膜の収縮を生じる。さらに、膜中にH2Oが水分子の形で残留した場合、H2Oの比誘電率は約80であることより、膜の比誘電率の大幅な上昇を招く。従って、本発明のように、形成された膜中にSi−OH結合が含まれないことが望ましい。
【0109】
図11に、原料としてテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマーを2.746×10-2Pa・m3/s又は1.099×10-1Pa・m3/s供給し、RF電力200Wにおいて形成した絶縁膜について、小角X線散乱法によって膜中の空孔(ポア)分析を行った結果を示す。横軸は空孔径(nm)を、縦軸は空孔分布(nm-1)を表す。いずれにおいても、膜中からは空孔が検出され、形成された膜が多孔質絶縁膜であることが確認された。また、絶縁膜中の空孔の最大分布径は、原料供給量が2.746×10-2Pa・m3/sの場合において0.30nm、原料供給量が1.099×10-1Pa・m3/sの場合において0.48nmであった。
【0110】
本実施形態により得られた多孔質絶縁膜と、空孔径が3nm以上である他の多孔質絶縁膜と、Thermal Desorption Spectroscopy(TDS)測定を行ったところ、3nm以上の空孔を有する多孔質絶縁膜では、H2Oの脱離ガススペクトル強度は本実施形態に記載の多孔質絶縁膜に比して5倍以上に増大することが明らかとなった。このことは、空孔径が3nm以上に大きくなると、膜の吸湿が促進されることを示唆している。従って、空孔径を3nm以下、望ましくは2nm以下とすることで吸湿性を改善できる。また、空孔径が3nm以下と小さくすることで、吸湿性の改善のみならず、プロセスガスの吸蔵、薬液の浸析などを抑制できるという利点を有する。
【0111】
表1に、原料としてテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマーを1.099×10-1Pa・m3/s供給し、形成した本実施形態に係る絶縁膜について、ラザフォード後方散乱/水素前方散乱(RBS/HFS)法により、膜中元素の組成分析を行った結果を示す。膜中からは、原料であるテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーに由来するSi、O、C、Hが検出された。
【0112】
【表1】

【0113】
モノマーの組成は、O/Si=1、C/Si=3、H/Si=6である。従って、形成された膜は、モノマーから炭素原子、水素原子がそれぞれ一つずつ少ない組成となっている。図8に示したFT−IR測定結果より、Si−H結合に起因する振動ピークが見られることから、一部のSi−CH3結合がSi−H結合に置換されたり、またビニル結合の一部の炭化水素が脱離するなどし、結果として炭素原子、水素原子が少なくなっているものと推測される。一方、形成された膜には、シリコン原子と酸素原子がほぼ1:1で含有されており、環状シリカ骨格は破壊されずに膜中に存在していることを示している。
【0114】
図12に、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーの供給量を2.746×10-2Pa・m3/s〜1.099×10-1Pa・m3/sまで変化させ、RF電力200Wにおいて形成した本実施形態に係る絶縁膜について、電流電圧特性(電界強度とリーク電流密度との関係)を測定した結果である。横軸は電界強度(MV/cm)を、縦軸はリーク電流密度(A/cm2)を示す。リーク電流は電界強度1MV/cmにおいて1×10-9A/cm2以下、絶縁耐圧は5MV/cm以上を示し、MOSFETデバイスの多層配線を形成する際の層間絶縁膜として、十分実用的な特性を有していた。
【0115】
以上の結果より、分子中に環状シリカ骨格を有し且つ該環状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている環状有機シリカ化合物原料を原料として形成された本実施形態に係る絶縁膜は、膜中に空孔を含有する構造であり、かつ低誘電率な多孔質SiOCH絶縁膜であることが確認された。
【0116】
〔第二の実施形態〕
第二の実施形態では、一般式(4)に示したトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサン(3V3IPC3S)モノマーを原料として層間絶縁膜の成長を実施したものである。n=4の環状有機シロキサンであるTVTMCTSと比較して、n=3の3V3IPC3Sの環状有機シロキサンは環状シロキサン骨格数が少ない。このため、3V3IPC3Sの環状骨格からなる内孔が0.35nmφと、TVTMCTSの0.45nmφと比較して小さい。
【0117】
また、環状シロキサンの一方の側鎖である不飽和炭化水素はビニル基と共通であるが、他方の側鎖はTVTMCTSはメチル基であり、3V3IPC3Sはイソプロピル基と嵩高な側鎖がついている。すなわち、3V3IPC3Sは、より小径の環状骨格内空孔と、より嵩高なる飽和炭化水素側鎖と、不飽和炭化水素側鎖に特徴がある。
【0118】
図2に示す気化制御器において、成膜時にキャリアガスとしてヘリウム8.45×10-1Pa・m3/sを供給して3V3IPC3S原料を1.70×10-1Pa・m3/sを気化して実験を行い、その成膜特性を比較した。ここでは、比較のため、n=4の環状有機シリカであるTVTMCTSを用いた場合と比較した。
【0119】
成膜の際には、キャリアガス及び原料の他、希釈ガスとしてヘリウムを1.690×10-1Pa・m3/sを流し、反応室1に導入した。350℃に保たれた基板加熱部3に予め200mmφのシリコン基板(半導体基板)2を敷置しておき、さらに反応室1は圧力360Paに減圧し、ほぼ300mmφのシャワーヘッド4に周波数13.56MHz、RF電力50〜700Wの高周波を印加し、プラズマ重合反応により、シリコン基板2上に絶縁膜を成長させた。この場合、プラズマ形成パワー密度は、およそ0.05W/cm2〜1W/cm2に相当する。なお、ここでは基板加熱部3の温度を350℃としたが、基板加熱部3の温度は、200℃〜450℃程度とすることが望ましい。
【0120】
図13に成膜速度とRFパワー依存性測定結果を示す。図14に、比誘電率とRFパワー依存性測定結果を示す。図6に示したTVTMCTSと同様、RFパワーの減少に伴い成膜速度は低下するが、比誘電率(k)も減少する。同じRF電力で比較すると、3V3IPC3Sは、TVTMCTSに比べて成膜速度が向上し、さらにk値も減少することが確認された。3V3IPC3SはRF電力を100Wにまで低減すると比誘電率も2.3まで低減できることが確認された。より"かさ"の大きな有機基をもつ3V3IPC3Sモノマーを用いることで、低密度化が図られk値が低減されたと考えられる。
【0121】
図15に3V3IPC3SおよびTVTMCTSを用いて、RF電力200Wで成膜された膜のそれぞれのFTIRスペクトルを示す。2850〜3000cm-1付近の吸収ピークは、CH結合に起因するものだが、3V3IPC3Sがよりピークが大きく、また1500cm-1付近では3V3IPC3Sの側鎖のみが有するC−CH3結合に関するピークが観測された。一方、TVTMCTSに特徴的なSi−CH3結合については、TVTMCTSがより大きな吸収ピークを有していることも確認された。FTIRの分析により、基本的には、3V3IPC3Sモノマーの構造を反映した膜が形成されており、当初の狙い通り、"かさ"の大きな有機基を導入することで低誘電率化を実現することが出来たと言える。
【0122】
図16に、環状有機シリカ3V3IPC3S原料および直鎖状有機シリカ原料より得られたラマン分光分析の結果を示す。直鎖状有機シリカより得られた膜のラマンスペクトルからは、ランダム配置のSi−O骨格から膜が構成されていることがわかる。一方、環状有機シリカ3V3IPC3Sから得られた膜は、n=3のSi−O環状骨格の存在が確認された。すなわち、環状有機シリカ3V3IPC3S原料のn=3の環状シロキサン骨格が膜中に保持されていることが確認された。環状有機シリカ原料を用いたすべての膜に対しても、膜中には原料の環状シロキサン骨格が保持されていたが、n=3およびn=4の環状シロキサン骨格が最も安定に存在することも確認された。
【0123】
図17に、小角X線分析により求めた膜中のポア分布を示す。n=4の環状有機シリカのTVTMCTSを原料として用いた場合、平均空孔径は約0.6nmφであった。一方、n=3の3V3IPC3S原料を用いた場合、平均空孔径は約0.3nmφであった。
すなわち、原料の骨格内空孔径が小さいn=3の3V3IPC3S原料を用いた場合、より小さな空孔が膜中に分布していることが確認された。このことにより、原料の環状有機シリカ骨格の構造を制御することで、プラズマ重合反応によって得られる膜の空孔構造を制御できることが実証された。
【0124】
〔第三の実施形態〕
本発明を好適に実施した第三の実施形態として、原料としてテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーを用い、酸化剤ガスとして亜酸化二窒素(N2O)を用いた場合の絶縁膜について説明する。
本実施形態においては、キャリアガスとして、ヘリウム8.450×10-1Pa・m3/sを供給した。また、原料であるテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーは、図2に示す気化制御器35において気化し、1.099×10-1Pa・m3/sを供給した。希釈ガスとしてヘリウムを1.690×10-1Pa・m3/s流し、反応室1に導入した。さらに5.408×10-2Pa・m3/s〜2.197×10-1Pa・m3/sのN2Oを反応室1に導入した。
【0125】
反応室1内には、350℃に保たれた基板加熱部3にあらかじめ半導体基板2を敷置しておき、さらに反応室1は圧力360Paに減圧し、シャワーヘッド4に周波数13.56MHz、RF電力200Wの高周波を印加してプラズマを発生させ、半導体基板2上に絶縁膜を成長させた。N2Oを加えたことを除いては、第一の実施形態と同様の方法で成膜を行った。
【0126】
図18に、成膜速度とN2O添加量との関係を示す。横軸はN2Oの供給量(Pa・m3/s)を、縦軸は成膜速度(nm/min)を表す。図示されるように、N2Oの添加量に比例して、成膜速度が増加する。これはスループットと、原料コストとを改善する上で重要な効果である。換言すると、成膜時にN2Oを添加することによってスループットと原料利用効率とを改善できる。
【0127】
図19に、成膜速度と希釈ヘリウムガスの流量との関係を示す。横軸は稀釈ヘリウムガスの流量(Pa・m3/s)を、縦軸は成膜速度(nm/min)を表す。図からも明らかなように、希釈ヘリウムガスを増量しても、成膜速度はほぼ一定値を示す。
【0128】
2Oを用いることで成膜速度が向上する正確な促進反応機構は現時点でわかっていないが、不飽和炭化水素基中の炭素の一部が酸素と結合してCO又はCO2として引き抜かれ、後に残った炭素ラジカルを介して環状有機シリカ化合物が重合してゆくものと推測される。ヘリウムを増量した場合は、このような"引き抜き"反応は生じないため、結果として成膜速度はほとんど変わらない。
【0129】
ここで肝要なことは、該環状シリカ骨格を破壊させることなく、かつこれに結合する不飽和炭化水素基を優先的に活性化させるプラズマが必要不可欠なことである。不飽和炭化水素の活性化は、プラズマのエネルギーを高くすること、すなわちRF電力を大きくすることが有効であるが、不飽和炭化水素基を優先的に活性化させるには、十分な成膜速度を得られる範囲において、RF電力をできるだけ小さくすることが効果的である。より具体的には、RF電力を100W〜500W程度の範囲に設定することが望ましい。このことは、下地面に与えるプラズマダメージを小さくするという副次的効果をももたらす。
【0130】
今回の検討範囲は、N2O=2.197×10-1Pa・m3/sまでであるが、2.197×10-1Pa・m3/sを超えるN2Oの添加により、さらに成膜速度を向上できることは明らかである。すなわち、本実施形態に係る絶縁膜は、分子中に環状シリカ骨格を有し且つ該環状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている環状有機シリカ化合物原料の蒸気と酸化ガスとからなる混合ガスをプラズマ中に導入することに特徴があり、その混合比を限定するものではない。
【0131】
図20に、N2Oを5.408×10-2Pa・m3/s、1.099×10-1Pa・m3/s、又は2.197×10-1Pa・m3/s添加して形成した絶縁膜について、フーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)によって膜構造を調べた結果を示す。横軸は波数(cm-1)を、縦軸は吸収量(a.u)を表す。原料であるテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーの構造に由来したSi−O結合(波数1040cm-1付近)、Si−CH3結合(波数800cm-1及び1250cm-1付近)、C−H結合(波数3000cm-1付近)に起因する振動ピークが観測された。また、この他、Si−H結合に起因する弱い振動ピーク(波数1400cm-1付近)も観測された。
しかしながら、不飽和炭化水素基、すなわち炭素−炭素二重結合(C=C結合)に起因するピーク(C=C結合が存在すると波数910cm-1、990cm-1、1400cm-1及び1800cm-1付近に現れるピーク)は観測されなかった。
【0132】
また、図20からも明らかなように、本実施形態に係る絶縁膜は、N2Oの添加量によらず、ほぼ同一のスペクトルを示した。さらに、このスペクトルは図10に示した第一の実施形態に係る絶縁膜のスペクトルとほぼ一致するため、本実施形態にかかる絶縁膜が、図10に示すN2Oを添加しない膜(すなわち、第一の実施形態に係る絶縁膜)とほぼ同様の膜構造を有していることを確認できる。したがって、本実施形態に係る絶縁膜は、第一の実施形態に係る絶縁膜と同様に、不飽和炭化水素結合の重合反応により形成されていると推測できる。
【0133】
また、形成された膜中にはSi−OHに起因するスペクトル(Si−OH結合が存在すると波数3200〜3500cm-1付近に現れる幅広のピーク)が観測されていない。
膜中にSi−OH結合が存在する場合、Si−OH結合に含まれる−OH基は、多層配線形成時の熱処理プロセス中に熱の影響を受けたり、ガス成分と反応したりすることにより、Si−OH基同士での反応や、エッチングガス中に含まれる水素との反応を起こし、この結果H2Oを生じる。膜中に残留したH2Oを脱離させるには、100℃以上での熱処理などが用いられるが、これは工程数の増加すなわちコストの増加とスループットの低下を招く。
【0134】
また、H2Oは熱処理によって膜中から脱離するが、同時に膜の収縮を生じる。さらに、膜中にH2Oが水分子の形で残留した場合、H2Oの比誘電率は約80であることより、膜の比誘電率の大幅な上昇を招く。従って、形成された膜中にSi−OH結合が含まれないことが望ましい。
【0135】
図21に、N2Oを1.099×10-1Pa・m3/s添加して形成した本実施形態にかかる絶縁膜について、小角X線散乱法により、膜中の空孔(ポア)分析を行った結果を示す。横軸は空孔径(nm)を、縦軸は空孔分布(nm-1)を表す。膜中からは最大分布0.40nmの空孔が検出され、本実施形態に係る絶縁膜が空孔を含有する多孔質絶縁膜であることが確認された。
【0136】
表2は、N2Oを1.099×10-1Pa・m3/s添加して形成した絶縁膜について、ラザフォード後方散乱/水素前方散乱(RBS/HFS)法により、膜中元素の組成分析を行った結果である。膜中からは、原料であるテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーに由来するSi、O、C、Hが検出された。また、N2Oを用いていない、第一の実施形態に示した膜とほぼ同一の組成比を有していた。
【0137】
【表2】

【0138】
上記の分析結果は、N2Oを添加した場合においても、第一の実施形態に示した絶縁膜と同様に、不飽和炭化水素基を介した反応によって膜が形成されていることを示唆している。添加ガスとしてN2Oを導入すると、プラズマ中で不飽和炭化水素基中の炭素の一部が酸素と結合してCOあるいはCO2として引き抜かれ、後に残った炭素ラジカルを介して環状有機シリカ化合物が重合してゆくものと推測される。
【0139】
従って、モノマーの組成比O/Si=1、C/Si=3、H/Si=6に比して、形成された膜は、モノマーから炭素原子、水素原子がそれぞれ一つずつ少ない組成となっている。またこのほかにも、図20に示したFT−IR測定結果において、Si−H結合に起因する振動ピークが見られることから、一部のSi−CH3結合がSi−H結合に置換されているものと考えられ、結果として炭素原子や水素原子がモノマー組成に比して少なくなっているものと推測される。しかしながら、本実施形態に係る絶縁膜は、シリコン原子と酸素原子がほぼ1:1で含有されており、N2Oを用いない第一の実施形態と同様に、環状シリカ骨格は破壊されずに膜中に存在していることを示唆している。
【0140】
図22に、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーの供給量を1.099×10-1Pa・m3/sとし、N2O添加量を5.408×10-2Pa・m3/s、1.099×10-1Pa・m3/s、2.197×10-1Pa・m3/sとし、RF電力200Wにおいて形成した絶縁膜について、比誘電率を測定した結果を示す。横軸はN2Oの添加量(Pa・m3/s)を、縦軸は比誘電率を表す。形成した膜の誘電率を調べたところ、N2Oの添加量によらず、約2.6〜2.7であり、従来利用されてきたSiO2やフッ素添加SiO2よりも低い誘電率を有していた。
【0141】
従って、RF電力200W程度では、成膜時にN2Oを添加しても環状シリカ骨格を破壊させることなく、かつこれに結合する不飽和炭化水素基を優先的に活性化させ、N2Oを添加しない場合と同様に、不飽和炭化水素基に由来するラジカルが主となって成膜が進むと推測できる。このため、N2O添加量を増加することで、活性化したモノマーが増加し、不飽和炭化水素基を介した付加反応又は置換反応によって選択的な成長が進むために、形成される膜は環状シリカ骨格を基本骨格として成長し、過剰分解したモノマーの取り込みや、有機成分の脱離を生じにくく、結果として比誘電率はほぼ一定の値を取ると推測される。
【0142】
図23に、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーの供給量を1.099×10-1Pa・m3/sとし、N2O添加量を5.408×10-2Pa・m3/s、1.099×10-1Pa・m3/s、2.197×10-1Pa・m3/sとし、RF電力200Wにおいて形成した絶縁膜について、電流電圧特性を測定した結果を示す。横軸は電界強度(MV/cm)を、縦軸はリーク電流密度(A/cm2)を表す。リーク電流は電界強度1MV/cmにおいて1×10-9A/cm2以下、絶縁耐圧は5MV/cm以上を示し、MOSFETデバイスの多層配線を形成する際の層間絶縁膜として、十分実用的な特性を有していた。
【0143】
以上の結果より、本実施形態に係る絶縁膜は、膜中に空孔を含有する構造であり、かつ低誘電率な多孔質SiOCH絶縁膜であることが確認された。
【0144】
〔第四の実施形態〕
本発明を好適に実施した第四の実施形態として、原料としてトリビニルトリイソピルシクロトリシロキサン(3VIPC3S)モノマーを用い、添加ガスである水素化シリコンガスとしてシラン(SiH4)を用いた場合の絶縁膜について説明する。
【0145】
本実施形態においては、キャリアガスとして、ヘリウムを8.450×10-1Pa・m3/s(500sccm)を供給した。また、原料であるトリビニルトリイソピルシクロトリシロキサンモノマーは、図2に示す気化制御器35において気化し、1.099×10-1Pa・m3/sのSiH4を反応室1に導入した。
【0146】
反応室1内には、350℃に保たれた基板加熱部3にあらかじめ半導体基板2を敷置しておき、さらに反応室1は圧力360Paに減圧し、シャワーヘッド4に周波数13.56MHz、RF電力200Wの高周波を印加してプラズマを発生させ、半導体基板2上に絶縁膜を成長させた。SiH4を加えたことを除いては、第二の実施形態と同様の方法で成膜を行った。
【0147】
図24に成膜速度とSiH4添加量との関係を示す。横軸はSiH4の供給量(Pa・m3/s)を、縦軸は成膜速度(nm/min)を表す。図示されるように、SiH4の添加量に比例して、成膜速度が増加する。これはスループットと、原料コストとを改善する上で重要な効果である。換言すると、成膜時にSiH4を添加することによってスループットと原料利用効率とを改善できる。希釈ヘリウムガスを増量しても、成膜速度はほぼ一定値を示した。SiH4を用いることで成膜速度が向上する正確な促進反応機構は現時点でわかっていないが、不飽和炭化水素基中の炭素の一部がSiH4より離脱した水素ラジカルと結合して炭素ラジカルを介して環状有機シリカ化合物が重合してゆくものと推測される。ヘリウムを増量した場合は、成膜速度はほとんど変わらなかった。
【0148】
今回の検討範囲は、SiH4=1.69×10-1Pa・m3/sまでであるが、1.69×10-1Pa・m3/sを超えるとSiH4の添加により、さらに成膜速度を向上できることは明らかである。すなわち、本実施形態に係る絶縁膜は、分子中に環状シリカ骨格を有し且つ該環状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている環状有機シリカ化合物原料の蒸気と水素化シリコンとからなる混合ガスをプラズマ中に導入することに特徴があり、その混合比を限定するものではない。
【0149】
図25に、得られた絶縁膜の比誘電率(k)とSiH4添加量との関係を示す。反応室1内には、350℃に保たれた基板加熱部3にあらかじめ半導体基板2を敷置しておき、さらに反応室1は圧力360Paに減圧し、シャワーヘッド4に周波数13.56MHz、RF電力200Wの高周波を印加してプラズマを発生させ、半導体基板2上に絶縁膜を成長させた。SiH4を加えたことを除いては、第二の実施形態と同様の方法で成膜を行った。SiH4の添加により、比誘電率はやや低減する傾向を示した。小角X線散乱法により、いずれの膜中からは最大分布0.40nmの空孔が検出され、本実施形態に係る絶縁膜が空孔を含有する多孔質絶縁膜であることが確認された。
【0150】
表3に示すラザフォード後方散乱/水素前方散乱(RBS/HFS)法により、膜中元素の組成分析結果から、炭素および水素組成比がやや情報する傾向、すなわち炭化水素比の微増傾向が認められるが、SiH4ガス添加により膜組成が大きく変化するといったことはない。また、図26に示したフーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)の結果からも、SiH4添加してもその吸収スペクトルに大きな変化はなく、膜構造・組成に大きな変化ないことを示唆する。
【0151】
【表3】

【0152】
すなわち、原料としてトリビニルトリイソピルシクロトリシロキサン(3V3IPC3S)モノマーに対する添加ガスである水素化シリコンガスとしてシラン(SiH4)は、得られる絶縁膜の構造・化学組成に大きな影響を与えることはなく、プラズマ重合反応の促進効果をもたらす。その詳細な原因は明らかではないが、プラズマ中のSiH4ガスより解離する水素ラジカルが3V3IPC3Sの不飽和炭化水素側鎖であるビニル基を反応してラジカル化させ、プラズマ重合反応を促進するものと考えられる。RF電力200W程度では、成膜時にSiH4を添加しても環状シリカ骨格を破壊させることなく、かつこれに結合する不飽和炭化水素基を優先的に活性化させ、SiH4を添加しない場合と同様に、不飽和炭化水素基に由来するラジカルが主となって成膜が進むと推測できる。
【0153】
このため、SiH4添加量を増加することで、活性化したモノマーが増加し、不飽和炭化水素基を介した付加反応又は置換反応によって選択的な成長が進むために、形成される膜は環状シリカ骨格を基本骨格として成長し、過剰分解したモノマーの取り込みや、有機成分の脱離を生じにくく、結果として比誘電率をほぼ一定の値を取ると推測される。
【0154】
不飽和炭化水素基の活性化は、プラズマのエネルギーを高くすること、すなわちRF電力を大きくすることが有効であるが、不飽和炭化水素基を優先的に活性化させるには、十分な成膜速度が得られる範囲において、RF電力をできるだけ小さくすることが効果的である。SiH4ガス添加による成膜速度増大は、より低RF電力で成膜できることを意味し、下地面に与えるプラズマダメージを小さくするという副次的効果をもたらす。
【0155】
今回、水素化シリコンガスとしてシランガス(SiH4)を用いたが、プラズマ中で水素化シリコンが解離して水素ラジカルを発生することが本実施形態の本質である。従って少なくともシリコン原子に1つ以上の水素原子が結合している水素化シリコンガスであればよく、例えばトリメチルシランガス(SiH(CH33)、ジメチルシランガス(SiH2(CH33)、モノメチルシランガス(SiH3(CH3)、ジシラン(Si26)などであっても同様の効果を得ることができる。
【0156】
〔第五の実施形態〕
本発明を好適に実施した第五の実施形態として、原料としてトリビニルトリイソピルシクロトリシロキサン(3V3IPC3S)モノマーを用い、添加ガスである酸化剤ガスとしてN2Oを用いた場合の絶縁膜について説明する。
【0157】
本実施形態においては、キャリアガスとして、ヘリウムを8.450×10-1Pa・m3/s(500sccm)を供給した。また、原料であるトリビニルトリイソピルシクロトリシロキサンモノマーは、図2に示す気化制御器35において気化し、1.099×10-1Pa・m3/sを供給した。希釈ガスとしてヘリウムを1.690×10-1Pa・m3/sを流し、反応室1に導入した。さらに3.38×10-2Pa・m3/s〜1.35×10-1Pa・m3/sのN2Oを反応室1に導入した。
【0158】
反応室1内には、350℃に保たれた基板加熱部3にあらかじめ半導体基板2を敷置しておき、さらに反応室1は圧力360Paに減圧し、シャワーヘッド4に周波数13.56MHz、RF電力200Wの高周波を印加してプラズマを発生させ、半導体基板2上の絶縁膜を成長させた。N2Oを加えたことを除いては、第一の実施形態と同様の方法で成膜を行った。
【0159】
図27に、成膜速度とN2O添加量との関係を示す。横軸はN2Oの供給量(Pa・m3/s)を、縦軸は成膜速度(nm/min)を表す。図示されるように、N2Oの添加量に比例して、成膜速度が増加する。これはスループットと、原料コストとを改善する上で重要な効果である。換言すると、成膜時にN2Oを添加することによってスループットと原料利用効率とを改善できる。
【0160】
希釈ヘリウムガスを増量しても、成膜速度はほぼ一定値を示した。N2Oを用いることで成膜速度が向上する正確な促進反応機構は現時点でわかっていないが、不飽和炭化水素基中の炭素の一部が酸素と結合してCO又はCO2として引き抜かれ、後に残った炭素ラジカルを介して環状有機シリカ化合物が重合してゆくものと推測される。ヘリウムを増量した場合は、成膜速度はほとんど変わらなかった。
【0161】
今回の検討範囲は、N2O=1.69×10-1Pa・m3/sまでであるが、1.69×10-1Pa・m3/sを超えるN2Oの添加により、さらに成膜速度を向上できることは明らかである。すなわち、本実施形態に係る絶縁膜は、分子中に環状シリカ骨格を有し且つ該環状シリカ骨格に少なくとも1つの不飽和炭化水素基が結合されている環状有機シリカ化合物原料の蒸気と参加剤とからなる混合ガスをプラズマ中に導入することに特徴があり、その混合比を限定するものではない。
【0162】
図28に得られた絶縁膜の比誘電率(k)とN2O添加量との関係を示す。反応室1内には、350℃に保たれた基板加熱部3にあらかじめ半導体基板2を敷置しておき、さらに反応室1は圧力360Paに減圧し、シャワーヘッド4に周波数13.56MHz、RF電力200Wの高周波を印加してプラズマを発生させ、半導体基板2上に絶縁膜を成長させた。
【0163】
2Oを加えたことを除いては、第二の実施形態と同様の方法で成膜を行った。N2Oの添加により、比誘電率はやや低減する傾向を示した。小角X線散乱法により、いずれの膜中からは最大分布0.40nmの空孔が検出され、本実施形態に係る絶縁膜が空孔を含有する多孔質絶縁膜であることが確認された。
【0164】
表4に示すラザフォード後方散乱/水素前方散乱(RBS/HFS)法により、膜中元素の組成分析結果から、酸素、炭素および水素組成比がやや上昇する傾向が認められるが、N2Oガスの添加により膜組成が大きく変化するといったことはない。また、図29に示したフーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)の結果からも、N2O添加してもその吸収スペクトルに大きな変化はなく、膜構造・組成に大きな変化がないことを示唆する。
【0165】
【表4】

【0166】
すなわち、原料としてトリビニルトリイソピルシクロトリシロキサン(3V3IPC3S)モノマーに対する添加ガスである酸化剤ガスとしてN2Oは、得られる絶縁膜の構造・化学組成には大きな影響を与えることはなく、プラズマ重合反応の促進効果をもたらす。その詳細原因が明らかではないが、ここで肝要なことは、該環状シリカ骨格を破壊させることなく、かつこれに結合する不飽和担架水素基を優先的に活性化させるプラズマが必要不可欠である。希ガスに酸化剤ガスを混ぜた混合ガスのプラズマが不飽和炭化水素基の選択活性化を促進させ、多孔質絶縁膜の成長速度を著しく向上させる新現象を見出した。
【0167】
正確な促進反応機構は現時点でわかっていないが、不飽和炭化水素基中の炭素の一部が酸素と結合してCO又はCO2として引き抜かれ、後に残った炭素ラジカルを介して環状有機シリカ化合物が重合してゆくもと推測される。
【0168】
RF電力200W程度では、成膜時にN2Oを添加しても環状シリカ骨格を破壊させることなく、かつこれに結合する不飽和炭化水素基を優先的に活性化させ、N2Oを添加しない場合と同様に、不飽和炭化水素基に由来するラジカルが主となって成膜が進むと推測できる。このため、N2O添加量を増加することで、活性化したモノマーが増加し、不飽和炭化水素基を介した付加反応又は置換反応によって選択的な成長が進むために、形成される膜は環状シリカ骨格を基本骨格として成長し、過剰分解したモノマーの取り込みや、有機成分の脱離を生じにくく、結果として比誘電率はほぼ一定の値を取ると推測される。
【0169】
不飽和炭化水素の活性化は、プラズマのエネルギーを高くすること、すなわちRF電力を大きくすることが有効であるが、不飽和炭化水素基を優先的に活性化させるには、十分な成膜速度を得られる範囲において、RF電力をできるだけ小さくすることが効果的である。N2Oガス添加による成膜速度増大は、より低RF電力で成膜できることを意味し、下地面に与えるプラズマダメージを小さくするという副次効果をもたらす。
【0170】
今回、酸化剤ガスとしてN2Oを用いたが、プラズマ中で酸素ラジカルを発生することが本実施形態の本質である。従って、少なくとも酸素原子を含んでいればよく、例えば酸素、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)アルコール(ROH、Rは炭化水素)、フェノール(PhOH、Phはフェニル基)、などであっても同様の効果を得ることができる。アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、ノーマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノーマルブチルアルコール、イソブチルアルコールなどである。また、N2Oや酸素とアルコールあるいはフェノールとの混合酸化剤ガスであってもよい。
【0171】
〔第六の実施形態〕
本発明を好適に実施した第六の実施形態について説明する。本実施形態に係る絶縁膜は、分子中に環状シリカ骨格を有し、且つ該環状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている環状有機シリカ化合物としてテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマー、分子中に直鎖状シリカ骨格を有し、且つ該直鎖状シリカ骨格の側鎖に水素、炭化水素基及び酸化炭化水素基からなる群から選択されるいずれかが結合された直鎖状有機シリカ化合物として、下記一般式(5)で表されるジビニルシロキサンベンゾシクロブテンモノマーを用い、両モノマーの分子蒸気を混合し、また酸化剤ガスとして亜酸化二窒素(N2O)を添加して成膜を行った絶縁膜である。
【0172】
【化15】

【0173】
なお、本実施形態においては、水素炭化水素基及び酸化炭化水素基から選択されるいずれかが側鎖に結合されている直鎖状シリカ化合物として、側鎖中に不飽和炭化水素結合を有するジビニルシロキサンベンゾシクロブテンモノマーを用いているが、側鎖中に不飽和炭化水素結合を含まない直鎖状有機シリカ化合物を用いても良い。ただし、環状有機シリカ化合物と同様に少なくとも一つは不飽和炭化水素結合を有することが、成膜速度の向上即ちスループットの向上の観点からは好ましい。
【0174】
キャリアガスとして、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーに対してヘリウム5.070×10-1Pa・m3/s、ジビニルシロキサンベンゾシクロブテンモノマーに対してヘリウム8.450×10-1Pa・m3/sを供給した。
【0175】
テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーを図1に示す気化制御器16aにおいて気化し、0〜1.099×10-1Pa・m3/sを供給した。また、ジビニルシロキサンベンゾシクロブテンモノマーを図1に示す気化制御器16bにおいて気化し、7.605×10-3Pa・m3/sを供給した。さらに、これらの原料とともに0〜6.760×10-2Pa・m3/sのN2Oを供給した。これらを図1に示す配管15にて混合したのち、反応室1に導入した。反応室1の内部には、350℃に保たれた基板加熱部にあらかじめ基板を敷置しておき、圧力360Paに減圧し、シャワーヘッドに周波数13.56MHz、RF電力200Wの高周波を印加してプラズマを発生させ、基板上に絶縁膜を成長させた。
【0176】
図30に、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマーと、ジビニルシロキサンベンゾシクロブテン(BCB)モノマーと、を用いて成膜を行った際の、成膜速度のモノマー供給比依存性(モノマー供給比と成膜速度との関係)を示す。横軸は供給したモノマーの総量に対するTVTMCTSの割合を、縦軸は成膜速度(nm/min)を表す。TVTMCTSモノマー及びBCBモノマーの混合気を用いて成膜することによって、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマーのみ((TVTMCTS/(TVTMCTS+BCB))=1)、ジビニルシロキサンベンゾシクロブテンモノマーのみ((TVTMCTS/(TVTMCTS+BCB))=0)を用いた場合に比して、成膜速度が向上した。酸化剤ガスとして、N2Oを添加することで、成膜速度はさらに向上する。
【0177】
また、両モノマーの供給比が1:1となる付近で、成膜速度は極大値をもつことを見出した。
TVTMCTSモノマーとBCBモノマーを同時に供給した場合、TVTMCTSモノマーリッチな領域においては、成膜速度はTVTMCTSモノマーの活性化が支配的となり、従って成膜速度はTVTMCTSモノマーを単独で用いた場合に近づく。一方でBCBモノマーリッチな領域では、BCBモノマーの活性化が支配的となり、BCBモノマーを単独で用いた場合の成膜速度に近づく。
【0178】
しかしながら、TVTMCTSモノマーとBCBモノマーの供給比を1:1とすると、両モノマーに具有される不飽和炭化水素基に由来する重合反応が最も促進され、これにより成膜速度は極大値をとると推測される。
【0179】
図30では、N2O=6.760×10-2Pa・m3/sまでの結果を示しているが、N2Oをさらに増量することで、成膜速度が向上するのは明らかである。これらの効果は、デバイスのスループット改善と原料コストの低減に有効である。
【0180】
図31に、モノマー供給比と比誘電率との関係を示す。横軸は供給したモノマーの総量に対するTVTMCTSの割合を、縦軸は比誘電率を表す。N2Oを用いない場合、比誘電率は供給比1:1付近で極大値をとることを見出した。
【0181】
ジビニルシロキサンベンゾシクロブテン(BCB)モノマーは、Si−O骨格に嵩の大きな有機側鎖を有した構造となっている。従って、BCBモノマーとヘリウム(キャリアガス)のみを用いて膜を形成した場合、膜中に嵩の大きな有機基が取り込まれ、結果として極性原子であるシリコンや酸素の存在比が小さくなるため、低い比誘電率を得ることができる。
【0182】
テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマー及びヘリウム(キャリアガス)のみを用いて膜を形成した場合((TVTMCTS/(TVTMCTS+BCB))=1)は、Si−O骨格が形成する分子空孔を効果的に膜中に取り込むことにより、BCB膜((TVTMCTS/(TVTMCTS+BCB))=0)に比して少ない有機含有量にも係わらず、低い誘電率を得ることができる。TVTMCTSモノマーとBCBモノマーとの両方を供給した場合、TMTMCTSモノマーによって形成された空孔に、BCBモノマーに由来するSi−O、有機基が、いわば"入り込む"ことにより、それぞれのモノマーを単独で用いた膜に比して、より緻密な膜となってしまうと推測される。比誘電率は膜密度と相関があり、膜密度が大きいほど比誘電率は高くなる。
従って、TVTMCTSモノマーとBCBモノマーとを等量供給した場合、両モノマーに具有される不飽和炭化水素基に由来する重合反応が最も促進され、すなわち最も緻密な膜が形成され、結果として比誘電率は極大値を取ると推測される。
【0183】
一方、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマーとジビニルシロキサンベンゾシクロブテンモノマーとに加えてN2Oを3.380×10-2Pa・m3/s添加した場合、比誘電率は極小値をとり、TVTMCTSモノマー流量2.746×10-2Pa・m3/sにおいて(TVTMCTS/(TVTMCTS+BCB)=0.783)最も低い比誘電率2.55と、TVTMCTSモノマーを単独で用いた絶縁膜よりも低い比誘電率を得た。
【0184】
TVTMCTSモノマーのみを用いて成膜を行った場合、第二の実施形態に示したように、環状シリカ骨格を破壊しない程度のRF電力であれば、N2Oを添加しても、しなくても、不飽和炭化水素基を介した付加反応あるいは置換反応によって膜が形成され、その比誘電率はN2Oの添加量によらず約2.6〜2.7とほぼ一定である。
【0185】
一方で、BCBモノマーのみを用いて成膜を行った場合、N2Oを添加しない場合の比誘電率は2.7程度であるが、N2Oを添加することで、比誘電率は約2.9まで上昇する。これはN2Oが酸化剤として作用し、モノマーの酸化、有機基の脱離が促進され、結果としてよりSi−O結合の多い膜が形成されているためと考えられる。すなわち、BCBモノマーとN2Oとがプラズマ中に同時に存在する場合、BCBモノマーから脱離した有機基が多く存在している。TVTMCTSモノマー及びBCBモノマーと、N2Oとを同時に反応室内に導入し、適切なRF電力を印加すると、TVTMCTSモノマーは環状シリカ骨格を維持したまま活性化する一方、BCBモノマーは過剰に分解され、嵩の大きな有機基が脱離する。この時、BCBモノマーから脱離した嵩の大きな有機基は、TVTMCTSの環状シリカ骨格に結合したり、あるいはTVTMCTS同士の結合の際に空間的な"隙間"を形成することで、あたかも"空孔形成剤"として作用することで、膜中に三次元的な空孔を形成し、N2Oを添加しない場合に比して低い比誘電率を得ることができると推測される。
【0186】
2Oの流量が多い場合、BCBモノマーの解離はさらに進み、この場合は膜密度の増加を招くため、比誘電率を小さくするためには、TVTVCTSモノマー流量と、BCBモノマー流量と、N2O流量との間に最適比が存在すると考えられる。
【0187】
図32に、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマー(TVTMCTS)と、ジビニルシロキサンベンゾシクロブテンモノマー(BCB)とを用いて成膜した絶縁膜をラザフォード後方散乱/水素前方散乱(RBS/HFS)法によって組成分析した結果を示す。横軸はモノマー供給比を、縦軸は元素の相対濃度を表す。
【0188】
供給比を変化させることで、膜中の水素及び炭素の濃度を任意に変化させることが可能である。具体的には、成膜時にテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマー、ビルシロキサンベンゾシクロブテンモノマー及びN2Oの供給量を変化させることで、成膜厚方向に炭素、水素濃度が段階的または連続的に異なり、且つ膜全体の実効的な比誘電率を低減させた膜を容易に作製することができる。
【0189】
例えば、図33に示すように、成膜初期においてはテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマー1.099×10-1Pa・m3/s及びN2O=1.099×10-1Pa・m3/sを供給し、その後、TVTMCTSモノマー流量を2.746×10-2Pa・m3/sにし、同時にジビニルシロキサンベンゾシクロブテンモノマー7.605×10-3Pa・m3/s及びN2O=3.38×10-2Pa・m3/sを供給する。その後成膜終期に再びTVTMCTSモノマー1.099×10-1Pa・m3/sとN2O=1.099×10-1Pa・m3/sとを供給する。この時、シャワーヘッド4には、13.56MHz、200WのRF電力を印加する。
【0190】
これら一連のプロセスを連続で行うことで、膜の上下面の炭素・水素濃度が膜内部に比して低く、かつ高い成膜速度を有する膜を一括に形成することができる。この時、膜全体の実効的な比誘電率は、TVTMCTSモノマーとN2Oを用いた膜よりも小さくなる。
また、同様にして、成膜初期においてテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマー、ジビニルシロキサンベンゾシクロブテン(BCB)モノマー及びN2Oを供給し、その後BCBモノマーの供給をストップし、成膜終期において再度BCBモノマーを供給することで、膜の上下界面の炭素、水素濃度を、膜内部に比して高くすることが容易である。
【0191】
さらに、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンモノマー、ジビニルシロキサンベンゾシクロブテンモノマー及びN2Oは、それぞれパルス状あるいはランプ状に供給することで膜中の炭素濃度及び水素濃度を段階的又は連続的に制御可能である。
【0192】
本実施形態にかかる絶縁膜は、隣接する半導体材料との密着性を向上させることにも有効である。
層間絶縁膜の低誘電率化を図るためには、膜中に含有される極性元素(酸素やシリコンなど)の比率を小さくすること、すなわち、膜中の有機基の比率を大きくすることが有効である。しかしながら、酸素やシリコンといった極性元素の比率を低減すると、他の半導体材料との界面に存在する極性元素の面密度が減少することや、接触界面において組成が急激に変化することにより、結果として高い密着性を維持することが困難となる。
【0193】
本実施形態に係る絶縁膜は、原料として、分子中に環状シリカ骨格を有し且つ該環状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている有機シリカ化合物と、分子中に直鎖状シリカ骨格を有し且つ該直鎖状シリカ骨格の側鎖に水素、炭化水素基及び酸化炭化水素基からなる群から選択されるいずれかが結合されている直鎖状有機シリカ化合物とを用いて、例えばそれぞれの有機シリカ化合物の供給比を適宜制御することで、同一反応室内において連続的に異なる絶縁膜を成膜することが可能である。さらに該絶縁膜中の炭素濃度を任意に制御する事が可能であることから、該絶縁膜が他の半導体材料と接する上下界面付近または一方の界面付近の膜組成を、段階的または連続的に変化させ、接する半導体材料との密着性を向上させるように制御することが容易となる。
【0194】
〔第七の実施形態〕
第七の実施形態として、上記第一〜第六の実施形態に係る絶縁膜を用いて多層配線を作成したMOSFETデバイスについて説明する。図34は、MOSFETデバイスにおける多層配線構造の一例を模式的に示した断面図である。
【0195】
上記構造の多層配線構造を形成する手順について説明する。まず、シリコン基板70にMOSFETデバイスを形成する。これは、従来と同様に、例えば、シリコン基板70の酸化、窒化膜の形成、フォトレジスト(PR)膜の形成、PR膜の露光、現像、エッチング、PR膜の剥離、フィールド酸化膜(素子分離領域)形成、エッチング、ゲート酸化膜形成、ゲート電極形成、ソース及びドレイン領域の形成という各工程を経て行われる。
【0196】
次に、上記手順で形成したMOSFETデバイスの上に無機層間絶縁膜73を形成する。その後、無機層間絶縁膜73の一部を部分的に除去し、ドレイン領域及びソース領域のそれぞれに通ずる孔を形成する。その後、無機層間絶縁膜73の全面に導電性材料(タングステンや銅など)層を形成し、不要部分を除去することで、無機層間絶縁膜73に形成した孔をコンタクトプラグ(ビア)72とする。
【0197】
次に、ビア72が形成されたMOSFET上に銅拡散バリア層74と第一層目多孔質絶縁膜75a及び第一層目ハードマスク75bからなる第一層目層間絶縁膜75とを形成する。
【0198】
次に、第一層目層間絶縁膜75上に、PR膜を形成する。配線パターンに合わせてPR膜を露光し、これを現像することによって、配線溝を形成しようとする部分のみPR膜を除去する。その後、PR膜をマスクとしてドライエッチングを行って第一層目層間絶縁膜75及び銅拡散バリア層74を部分的に除去し、マスクされていない部分に配線溝を形成する。配線溝を形成し終えたら、PR膜を除去する。
【0199】
次に、形成した配線溝の内部を含むMOSFETデバイスの全面に、銅拡散バリア金属76及び銅膜を形成し、これらの余剰分をCMPによって除去することで第一層目銅配線77が完成する。
【0200】
第一層目銅配線77を形成したら、その上に第一ビア層間絶縁膜79aを形成し、さらに第二配線層間絶縁膜79bを積層することによって第二層目層間絶縁膜79を形成する。そして、第二層目層間絶縁膜79の上に銅拡散バリア層78を形成する。
【0201】
銅拡散バリア層78を形成したら、この上にPR膜を形成する。配線パターン及びビアパターンに合わせてPR膜を露光しこれを現像することによって、のちに第二層目配線80又は第一ビア85が形成される部分のみPR膜を除去する。その後、PR膜をマスクとしてドライエッチングを行って第一ビア層間絶縁膜79a及び第二配線層間絶縁膜79bを部分的に除去し、マスクされていない部分に配線溝及びビアホールを形成する。
【0202】
次に、形成したビアホール及び配線溝の内部を含むMOSFETデバイスの全面に、銅拡散バリア金属83及び銅膜を形成し、これらの余剰分をCMPによって除去することで第二層目銅配線80及び第一ビア85を形成する。
【0203】
第一ビア85を形成したら、その上に第二ビア層間絶縁膜81aを形成し、さらに第三配線層間絶縁膜81bを積層することによって第三層目層間絶縁膜81を形成する。そして、第三層目層間絶縁膜81の上に銅拡散バリア層78を形成する。
【0204】
銅拡散バリア層78を形成したら、この上にPR膜を形成する。配線パターン及びビアパターンに合わせてPR膜を露光しこれを現像することによって、のちに第三層目配線82又は第二ビア86が形成される部分のみPR膜を除去する。その後、PR膜をマスクとしてドライエッチングを行って第二ビア層間絶縁膜81a及び第二配線層間絶縁膜81bを部分的に除去し、マスクされていない部分に配線溝及びビアホールを形成する。
【0205】
次に、形成したビアホール及び配線溝の内部を含むMOSFETデバイスの全面に、銅拡散バリア金属84及び銅膜を形成し、これらの余剰分をCMPによって除去することで第三層目銅配線82及び第二ビア86を形成する。このような手順によって、図34に示すような多層配線構造が形成される。
【0206】
なお、さらに多層化した構成とする場合には、層間絶縁膜及び銅拡散バリア層の形成、配線溝及びビアホールの形成、並びに配線及びビアの形成といった工程を繰り返し実行すればよい。
【0207】
図34に示す構成では、第三の実施形態にかかる絶縁膜を配線層に、第二の実施形態にかかる絶縁膜をビア層に適用し、デュアルダマシン配線構造を形成した。
デュアルダマシン配線構造を形成する際には、配線層及びビア層に適用する絶縁膜材料のエッチング選択比が高いこと(換言すると、配線層とビア層とでエッチング速度の差が大きいこと)が好ましい。上記説明した多層構造絶縁膜の作製方法では、膜中の炭素、水素濃度を容易に制御可能であるため、エッチング選択比を容易に高めることができる。
【0208】
例えば、膜中のSi−O結合は一般的にCFxガスによってドライエッチング可能である。また、有機成分については、N2とH2との混合気、又はO2などによりドライエッチング可能である。SiOCH膜中の炭素、水素濃度が異なる場合、たとえばエッチングガスをN2とH2とCFxやO2とArとCFxの混合気を用いて、それぞれのガスの供給比、CFxガス種を変化させることで、エッチング選択比を制御することが可能である。
【0209】
従って、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(TVTMCTS)モノマー又はTVTMCTSモノマーとN2Oとを用いた絶縁膜(第一、第二の実施形態にかかる絶縁膜)と、TVTMCTSモノマーとジビニルシロキサンベンゾシクロブテン(BCB)モノマー又はTVTMCTSモノマーとBCBモノマーとN2Oとを用いた炭素濃度の高い絶縁膜(第三の実施形態にかかる絶縁膜)とを積層することで、高いエッチング選択比を得ることができる。
【0210】
また、上記第三の実施形態において説明したように、環状シリカ構造を持つ原料と、直鎖状シリカ構造を持つ原料との供給比を成膜途中で変更することで、組成の異なる絶縁膜を連続して形成することが可能である。よって、図34に示した多層配線構造においても、同一反応室内で、配線層とビア層とを連続的に成膜可能であるため、炭素濃度の異なる絶縁膜を連続に成膜することで、エッチング選択比とスループットとを同時に改善できる。
なお、本実施形態では、ビア層には第二の実施形態にかかる絶縁膜を、配線層としてはビア層に比して炭素濃度の高い第三の実施形態にかかる絶縁膜を用いているが、配線層に第二の実施形態にかかる絶縁膜を用い、ビア層に配線層の絶縁膜に比して炭素濃度の高い第三の実施形態にかかる絶縁膜を用いても、同様の効果が得られることは明らかである。
また、本実施形態では、配線層とビア層とに上記各実施形態において説明した多孔質絶縁膜を用いているが、配線層及びビア層いずれかのみに、上記いずれかの実施形態にかかる多孔質絶縁膜を用いても、実効的な比誘電率を低減するのに有効である。
【0211】
〔第八の実施形態〕
第八の実施形態として、多層配線構造のビア層と配線層との間のエッチングストッパ層として上記第一〜第六の実施形態にかかる絶縁膜を適用したMOSFETデバイスについて説明する。
【0212】
図35は、MOSFETデバイスにおける多層配線構造の一例を模式的に示した断面図である。この図に示す構成では、炭素濃度の異なる二種類の絶縁膜を用いる。配線層及びビア層としてそれぞれ用いたいずれの絶縁膜と比しても炭素濃度の高い絶縁膜を、エッチングストッパ層として配線層とビア層との間に設けた上で、デュアルダマシン配線構造を形成した。
【0213】
図35に示す多層配線積層構造を形成する手順は、上記第四の実施形態において説明した手順とほぼ同様である。ただし、ビア層間絶縁膜79aや81aを形成したら、エッチングストッパ層79c,81cを形成してから配線層間絶縁膜79b,81cを形成すること、並びに配線溝及びビアホールを形成する工程においてはビアホールを形成する箇所のエッチングストッパ層79c、81cも除去することが相違する。
【0214】
なお、配線層及びビア層に炭素濃度の高い絶縁膜を配し、エッチングストッパ層を配線層及びビア層に比して炭素濃度の低い絶縁膜としても同様の効果を得られる。さらに、図36に示すように、エッチング選択比の十分取れる範囲において、配線層とビア層とに炭素濃度が異なる絶縁膜を適用しても構わない。
【0215】
上記多層配線積層構造も、同一反応室内で、配線層とビア層とを連続的に成膜可能な構造である。従って、炭素濃度の異なる絶縁膜を連続に成膜することで、エッチング選択比とスループットとを同時に改善できる。
【0216】
また、配線層及びビア層の少なくとも一方に上記第一〜第六のいずれかの実施形態にかかる多孔質絶縁膜を用い、エッチングストッパ層を例えば無機絶縁膜としても、多層配線全体の実効的な比誘電率を低減するのに有効である。
【0217】
〔第九の実施形態〕
第九の実施形態として、多層配線構造において他の半導体材料との密着性を向上させるための層として上記第一〜第六の実施形態にかかる絶縁膜を適用したMOSFETデバイスについて説明する。
【0218】
図37は、MOSFETデバイスにおける多層配線構造の一例を模式的に示した断面図である。
配線層及びビア層の上下界面に、層中心部に比して炭素濃度を変化させた絶縁膜を段階的又は連続的に挿入した構造を作製した。該層間絶縁膜の上部及び下部に接する半導体材料との界面付近のみ組成を制御し、上下界面における密着性を向上することが可能である。
【0219】
図37に示す多層配線積層構造を形成する手順は、上記第四の実施形態において説明した手順とほぼ同様である。ただし、第一層目層間絶縁膜75を形成する際には、銅拡散バリア膜74を形成したら、密着性強化層95を形成してから第一層目多孔質絶縁膜75aを形成し、その後密着性強化層95を形成してから第一層目ハードマスク75bを形成する。そして、配線溝を形成する工程においては、配線溝形成箇所の密着性強化層95も除去する。
また、銅拡散バリア膜78とビア層間絶縁膜79a、81aとの間、ビア層間絶縁膜79a、81aとエッチングストッパ層78との間、エッチングストッパ層78と配線層間絶縁膜79b,81bとの間にそれぞれ密着性強化層95を設けており、配線溝やビアホールを形成する際には、これらを形成する箇所の密着性強化層95も除去する。
【0220】
原料として、分子中に環状シリカ骨格を有し且つ該環状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている有機シリカ化合物と、分子中に直鎖状シリカ骨格を有し且つ該直鎖状シリカ骨格に少なくとも一つの不飽和炭化水素基が結合されている直鎖状有機シリカ化合物とを用いることで、他の半導体材料との界面に存在する酸素やシリコン等の極性元素の面密度や他の半導体材料との接触界面における急激な組成変化といった界面の密着性を低減させる要素を緩和するように組成を容易に制御可能である。従って、該絶縁膜が他の半導体材料と接する上下界面付近または一方の界面付近の膜組成を、段階的又は連続的に変化させ、接する半導体材料との密着性を向上させるように制御することが可能となる。
【0221】
また、図37は、配線層及びビア層の全ての界面について段階的に炭素濃度を制御し、密着性を向上させた構造の一例であるが、全ての界面について段階的に炭素濃度を制御して密着性を向上させる必要はなく、一部の界面のみに適用しても十分な効果を得られる。
【0222】
さらに、配線層とビア層との界面において、配線層とビア層とのエッチング選択比を十分に得られるように界面組成を制御し、この組成制御層をエッチングストッパ層として利用することも、スループットの向上、プロセス制御性、密着性向上の観点から非常に有効な手段である。
【0223】
〔第十の実施形態〕
本発明を好適に実施した第十の実施形態として、上記第一〜第六の実施形態にかかる絶縁膜を配線層及びビア層に用いたシングルダマシン配線構造のMOSFETデバイスについて説明する。
図38は、MOSFETデバイスにおける多層配線構造の一例を模式的に示した断面図である。本実施形態にかかるMOSFETデバイスは、層間絶縁膜に多孔質絶縁膜を適用することで、多層配線の実効的な比誘電率を低減することが可能である。
【0224】
上記構造の多層配線構造を形成する手順について説明する。シリコン基板70にMOSFETデバイスを形成してから、第一層目銅配線77を形成するまでの手順は第四の実施形態と同様である。
【0225】
第一層目銅配線77を形成し終えたら、その上に銅拡散バリア膜78を形成し、さらに第一ビア層間絶縁膜79aを形成し、またさらに第二ビア層間絶縁膜ハードマスク79dを形成する。第二ビア層間絶縁膜ハードマスク79dを形成したら、この上にPR膜を形成する。ビアパターンに合わせてPR膜を露光しこれを現像することによって、のちに第一ビア85が形成される部分のみPR膜を除去する。その後、PR膜をマスクとしてドライエッチングを行って第二ビア層間絶縁膜ハードマスク79d、第一ビア層間絶縁膜79a及び銅拡散バリア層78を部分的に除去し、マスクされていない部分ビアホールを形成する。
【0226】
次に、形成したビアホールの内部を含むMOSFETデバイスの全面に、銅拡散バリア金属83及び銅膜を形成し、これらの余剰分をCMPによって除去することで第一ビア85を形成する。
【0227】
第一ビア85を形成し終えたら、その上に銅拡散バリア膜78を形成し、さらに第二配線層間絶縁膜79bを形成し、またさらに第二配線層間絶縁膜ハードマスク79eを形成する。第二配線層間絶縁膜ハードマスク79eを形成したら、この上にPR膜を形成する。配線パターンに合わせてPR膜を露光しこれを現像することによって、のちに第二層目銅配線80が形成される部分のみPR膜を除去する。その後、PR膜をマスクとしてドライエッチングを行って第二配線層間絶縁膜ハードマスク79e、第二配線層間絶縁膜79b及び銅拡散バリア層78を部分的に除去し、マスクされていない部分に配線溝を形成する。
【0228】
次に、形成した配線溝の内部を含むMOSFETデバイスの全面に、銅拡散バリア金属83及び銅膜を形成し、これらの余剰分をCMPによって除去することで第二層目銅配線80を形成する。
【0229】
第二層目銅配線80を形成し終えたら、その上に銅拡散バリア膜78を形成し、さらに第二ビア層間絶縁膜81aを形成し、またさらに第三ビア層間絶縁膜ハードマスク81dを形成する。第三ビア層間絶縁膜ハードマスク81dを形成したら、この上にPR膜を形成する。ビアパターンに合わせてPR膜を露光しこれを現像することによって、のちに第二ビア86が形成される部分のみPR膜を除去する。その後、PR膜をマスクとしてドライエッチングを行って第三ビア層間絶縁膜ハードマスク81d、第二ビア層間絶縁膜81a及び銅拡散バリア層78を部分的に除去し、マスクされていない部分ビアホールを形成する。
【0230】
次に、形成したビアホールの内部を含むMOSFETデバイスの全面に、銅拡散バリア金属84及び銅膜を形成し、これらの余剰分をCMPによって除去することで第二ビア86を形成する。
【0231】
第二ビア86を形成し終えたら、その上に銅拡散バリア膜78を形成し、さらに第三配線層間絶縁膜81bを形成し、またさらに第三配線層間絶縁膜ハードマスク81eを形成する。第三配線層間絶縁膜ハードマスク81eを形成したら、この上にPR膜を形成する。配線パターンに合わせてPR膜を露光しこれを現像することによって、のちに第三層目銅配線82が形成される部分のみPR膜を除去する。その後、PR膜をマスクとしてドライエッチングを行って第三配線層間絶縁膜ハードマスク81e、第三配線層間絶縁膜81b及び銅拡散バリア層78を部分的に除去し、マスクされていない部分に配線溝を形成する。
【0232】
次に、形成した配線溝の内部を含むMOSFETデバイスの全面に、銅拡散バリア金属84及び銅膜を形成し、これらの余剰分をCMPによって除去することで第三層目銅配線82を形成する。
【0233】
その後、層間絶縁膜及び銅拡散バリア層の形成、配線溝及びビアホールの形成、並びに配線及びビアの形成といった工程を繰り返し実行することで図示するような多層配線構造が形成される。
【0234】
なお、さらに多層化した構成とする場合には、層間絶縁膜及び銅拡散バリア層の形成、配線溝及びビアホールの形成、並びに配線及びビアの形成といった工程を繰り返し実行すればよい。
【0235】
本実施形態では、配線層とビア層とに上記第一〜第六の実施形態にかかる多孔質絶縁膜を用いているが、配線層及びビア層いずれかのみに、上記第一〜第六のいずれかの実施形態にかかる多孔質絶縁膜を用いても、実効的な比誘電率を低減するのに有効である。
【0236】
さらに、上記第一〜第六の実施形態にかかる絶縁膜を段階的又は連続的に積層し、上層の絶縁膜をハードマスクとして用いても、密着性の向上、多層配線全体の実効的な比誘電率の低減に有効である。
【0237】
〔第十一の実施形態〕
本発明を好適に実施した第十一の実施形態として、上記第一〜第六の実施形態にかかる絶縁膜配線層及びビア層に用いたシングルダマシン配線構造のMOSFETデバイスについて説明する。
図39は、MOSFETデバイスにおける多層配線構造の一例を模式的に示した断面図である。
【0238】
図39に示す多層配線積層構造を形成する手順は、上記第七の実施形態において説明した手順とほぼ同様である。ただし、配線溝やビアホールを形成した後で、これらの側壁面に側壁保護膜87を形成してから銅拡散バリア膜78を形成することが異なる。
【0239】
さらに、配線溝及びビアホールの側壁部に、10nm厚以下の保護膜を形成した。多孔質絶縁膜をドライエッチングすると、エッチング後の配線溝側壁部には多孔質絶縁膜、すなわち空孔が露出する。このとき、露出した空孔には、エッチングやアッシング時にガスが侵入又は吸着したり、洗浄工程において水分が侵入又は吸着したりする。これらは、MOSFETデバイスの信頼性の劣化や、絶縁膜の比誘電率の上昇を誘発する一因と成りうる。したがって、ガス成分や水分が空孔中に侵入したり吸着したりすることをなるべく少なくすることが肝要である。
【0240】
本実施形態では、配線溝やビアホールの側壁部に、原料としてジビニルシロキサンベンゾシクロブテンモノマーを用いたプラズマ重合法により、10nm厚以下の保護膜(BCB膜)を形成した。これにより、配線溝やビアホールの側壁部に露出した空孔を塞ぎ、ガス成分や水分が空孔内へ侵入したり吸着したりすることを防止することが可能となった。
【0241】
本実施形態では、配線層及びビア層のいずれにも、保護膜を形成しているが、配線層及びビア層のいずれかのみに用いても良い。
【0242】
なお、上記各実施形態は本発明の好適な実施の一例であり、本発明はこれらに限定されることはない。例えば、上記の各実施形態では、原料を気化し、気相中で絶縁膜を成長させた例について示しているが、塗布法により同様に成膜を行っても低誘電率な多孔質絶縁膜を得ることができる。
また、上記の説明は、反応室内でシャワーヘッドにRF電力を印加してプラズマ化する場合を例に行ったが、反応室外で予めプラズマ化を行い、これを反応室内に導入する構成(即ち、リモートプラズマシステム)としても上記各実施形態と同様の絶縁膜やMOSFETデバイスを得られる。
また、上記第七〜第十一の実施形態においては、半導体装置の一例としてMOSFETをあげて説明したが、この他の半導体装置にも適用可能であることは言うまでもない。
このように、本発明は様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0243】
1 反応室
2 半導体基板
3 基板加熱部
4 シャワーヘッド
5 アース線
6 反応室加熱ヒータ
7 排気配管
8 冷却トラップ
9 真空ポンプ
10 廃液配管
11 RFケーブル
12 マッチングコントローラ
13 RF電源
14 アース線
15 気化原料供給配管
16a、16b 気化供給システム
17 クリーニングガス、酸化ガス、希釈ガス
18 流量コントローラ
19 ガス配管
20、21a、21b、22 バルブ
23 排気配管ヒータ
24 液体モノマー原料
25 原料タンク
26 キャリアガス
27 原料供給配管
28 洗浄溶媒
29 洗浄溶媒タンク
30 気化原料供給配管
31 洗浄溶媒供給配管
32 原料流量制御器
33 溶媒流量制御器
34 キャリアガス流量制御器
35 気化制御器
36 原料・キャリアガス供給配管
37 気化室
38 ヒータ
39 気化原料供給配管
40 ヒータ
41 廃液配管
42〜52 バルブ
53 キャリアガス
54 流量制御器
55 バルブ
56 キャリアガス供給配管
57 ヒータ
58 気化室
59 原料
60 気化原料供給配管
61 バルブ
62 流量制御器
63 バルブ
64 気化原料供給配管
65 ヒータ
66 バルブ
67 気化原料供給配管
68 バルブ
69 廃液配管
70 シリコン基板
71 MOSFET
72 コンタクトプラグ
73 無機層間絶縁膜
74 銅拡散バリア膜
75 第一層目層間絶縁膜
75a 第一層目多孔質絶縁膜
75b 第一層目ハードマスク
76 第一層目銅拡散バリア金属
77 第一層目銅配線
78 銅拡散バリア膜
79 第二層目層間絶縁膜
79a 第一ビア層間絶縁膜
79b 第二配線層間絶縁膜
79c エッチングストッパ膜
79d 第二ビア層間絶縁膜ハードマスク
79e 第二配線層間絶縁膜ハードマスク
80 第二層目銅配線
81 第三層目層間絶縁膜
81a 第二ビア層間絶縁膜
81b 第二配線層間絶縁膜
81c エッチングストッパ膜
81d 第二ビア層間絶縁膜ハードマスク
81e 第三配線層間絶縁膜ハードマスク
82 第三層目銅配線
83、84 銅拡散バリア金属
85 第一ビア
86 第二ビア
87 銅配線側壁保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン及び酸素を骨格とし、シリコンに結合する側鎖の一方が不飽和炭化水素基であり、他方が炭素原子を2つ以上含む飽和炭化水素基である環状有機シリカ化合物の蒸気を希ガスで希釈した蒸気に、酸化剤ガスを前記環状有機シリカ化合物の蒸気の流量の0.3倍以上1.2倍以下添加してプラズマ中に導入し、半導体基板上に多孔質低誘電率絶縁膜を成長させることを特徴とする多孔質絶縁膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸化剤ガスの流量が、3.38×10-2Pa・m3/s以上1.35×10-1Pa・m3/s以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質絶縁膜の製造方法。
【請求項3】
前記半導体基板は、200℃以上450℃以下に加熱された半導体基板であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質絶縁膜の製造方法。
【請求項4】
前記酸化剤ガスが、N2O、酸素、二酸化炭素(CO2)、アルコール(ROH、Rは炭化水素)、フェノール(C65OH)のいずれか、またはこれらのうちから選択される複数の酸化剤ガスの混合酸化剤ガスである請求項1から3のいずれか1項に記載の多孔質絶縁膜の製造方法。
【請求項5】
前記アルコールが、メチルアルコール、エチルアルコール、ノーマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノーマルブチルアルコール、イソブチルアルコールのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の多孔質絶縁膜の製造方法。
【請求項6】
前記環状有機シリカ化合物が、シリコン3個と酸素3個からなる6員環構造(環員数n=3)であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の多孔質絶縁膜の製造方法。
【請求項7】
前記環状有機シリカ化合物が、下記式(1)で表される「1,3,5−トリイソプロピル−1,3,5−トリビニル−シクロトリシロキサン」であることを特徴とする請求項6に記載の多孔質低誘電率絶縁膜の製造方法。
【化1】

【請求項8】
前記飽和炭化水素基が、炭素原子を3つ以上含みかつ分岐構造を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の多孔質絶縁膜の製造方法。
【請求項9】
前記炭素原子を2つ以上含む飽和炭化水素基が、エチル基(−CH2CH3)またはプロピル基(−CH2CH2CH3)であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の多孔質絶縁膜の製造方法。
【請求項10】
前記炭素原子を3つ以上含みかつ分岐構造を有する飽和炭化水素基が、イソプロピル基(−CH(CH32)またはターシャリーブチル基(−C(CH33)であることを特徴とする請求項8に記載の多孔質絶縁膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の多孔質絶縁膜の製造方法によって製造される多孔質絶縁膜。
【請求項12】
膜中に含有される空孔の少なくとも一部が、前記環状有機シリカ化合物の骨格と略同一径であることを特徴とする請求項11に記載の多孔質絶縁膜。
【請求項13】
ラマン分光分析において、前記6員環構造に対応するラマンスペクトル(590±10cm-1)を有することを特徴とする請求項11または12に記載の多孔質絶縁膜。
【請求項14】
膜中の元素存在比は、O/Si=0.8〜1.2であり、C/Si=1.5〜10.0であり、H/Si=4.0〜15.0であることを特徴とする請求項11から13のいずれか1項に記載の多孔質絶縁膜。
【請求項15】
請求項11から15のいずれか1項に記載の多孔質絶縁膜が層間絶縁膜として用いられていることを特徴とする半導体装置。
【請求項16】
前記多孔質絶縁膜と非多孔質絶縁膜とを備え、該多孔質絶縁膜と該非多孔質絶縁膜との界面近傍で、少なくとも該多孔質絶縁膜中の炭素原子の相対濃度が段階的又は連続的に変化していることを特徴とする請求項16に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記半導体装置は配線層とビア層とを備え、該配線層の層間絶縁膜として前記多孔質絶
縁膜が用いられ、該多孔質絶縁膜の炭素組成が前記ビア層の層間絶縁膜の炭素組成よりも
高いことを特徴とする請求項15または16に記載の半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate


【公開番号】特開2010−21575(P2010−21575A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240787(P2009−240787)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【分割の表示】特願2005−515834(P2005−515834)の分割
【原出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】