説明

多孔質酸化金属色素複合膜の製造方法

【課題】電析生成される酸化亜鉛系複合膜のポーラス構造を細かく均一にすること。
【解決手段】KClが0.1Mとなるように調製した水溶液を用いて、その溶液に酸素を20分間バブリングした。ただし、その最後の1分間は、作用極(導電性のITOガラス)の参照極に対する電位を−1.1Vとして電流を流すこと(本発明の前処理工程)によって、亜鉛塩やテンプレート化合物が何れも未添加の電解溶液中で、カソード電解を実行した。また、この前処理工程中に攪拌操作によって作用極に対して均一な電解溶液の流れを作った。この時の最大攪拌速度は、11cm/secとした。図2に、この前処理工程実行時の作用極の表面における電流密度の推移を例示する。作用極の表面におけるこの時の電流密度は、最終的には、約1.3〔mA/cm2 〕程で安定した。このことから、前処理工程の実行時間は、40秒から1分程度が妥当であると言える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解装置を用いて、透光性の導電性基板から成る作用極の表面上に酸化金属と、例えば色素化合物などのテンプレート化合物から成る複合膜を成膜する方法に関する。
この方法は、例えば色素増感太陽電池や紫外線発光素子など光電素子の電極材料等として大いに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
電解装置を用いて、透光性の導電性基板から成る作用極の表面上に酸化金属と、例えば色素化合物などのテンプレート化合物から成る複合膜を成膜する方法としては、例えば下記の特許文献1に記載されているものなどが公知である。この方法は、所望の基板の存在下、亜鉛塩を含む電解液に予めテンプレート化合物を混合してカソード電析を行い、該テンプレート化合物が内部表面に吸着する酸化亜鉛薄膜を透光性の導電性基板に形成させ、更に該酸化亜鉛薄膜にそのテンプレート化合物の脱着手段を講じることにより、空隙を有する多孔質酸化亜鉛薄膜を作製するものである。
ただし、ここで、酸化亜鉛薄膜の内部表面とは、ポーラス構造(多孔質構造)を形成する酸化亜鉛結晶の表面の内の、その酸化亜鉛薄膜の外部からは直接目視することができない部位を言う。また、以下、ポーラス構造を有するその他の酸化金属膜についても同様の表現を用いることがある。
【0003】
なお、電極表面における金属イオンの活性化過程については、例えば下記の非特許文献1などに詳しい記載がある。
【特許文献1】特開2004−006235
【非特許文献1】佐々木良夫、外二名「表面処理−化学と技術」新産業化学シリーズ日本化学会編、大日本図書.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複合膜を成膜する上記の従来技術においては、上記の導電性基板に上記の酸化亜鉛薄膜(酸化金属膜)が成膜される際に、その両者の界面における酸化亜鉛薄膜のポーラス構造が、十分には細かく均一に形成できないために、酸化亜鉛薄膜の成長に時間が掛かったり、或いは、導電性基板と酸化亜鉛薄膜(酸化金属膜)の間の固着性が十分強固に確保することが難しいなどの問題がある。
また、上記の従来技術によって製造された多孔質酸化亜鉛薄膜(酸化金属膜)を色素増感太陽電池の電極に用いた場合には、上記の様な界面における構造上の理由から、高いエネルギー変換効率を得ることが困難となっている。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、例えば酸化亜鉛などの酸化金属と、例えば色素化合物などのテンプレート化合物から成る複合膜のポーラス構造を細かく均一に形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、本発明の第1の手段は、電解装置を用いて、導電性基板から成る作用極の表面上に酸化金属とテンプレート化合物から成る複合膜を成膜する方法において、電解装置の電解溶液中に金属塩とテンプレート化合物を添加する前にカソード電解処理を実行する前処理工程を設けることである。
【0007】
ただし、ここで言うテンプレート化合物とは、カソード電解により形成される酸化金属の内部表面に吸着される化合物をいう。このテンプレート化合物は、化学吸着により酸化金属のバルク内部に存在するのではなく、金属イオンと錯体を形成して酸化金属の内部表面に吸着される化合物であれば良い。
【0008】
また、上記の導電性基板としては、導電性基板を任意に用いて良く、例えば、スズ(Sn)が添加されたITOガラス(酸化インジウムスズ硝子)や、例えばITOなどをコーティングしたPETや、FTO(酸化スズにフッ素をドープした膜)やSnO2 などを用いることができる。これらの導電性基板は、高い透光性を有することが望ましい。しかしながら、必ずしもその限りではなく、全く透光性を有しない基板材料を使用しても良い。これは、例えば、色素増感太陽電池を構成する場合、少なくとももう一方の他極側に透光性があれば、太陽電池を構成することが十分に可能となるためである。
【0009】
また、本発明の第2の手段は、上記の第1の手段において、上記の酸化金属を酸化亜鉛(ZnO)とし、上記の金属塩を亜鉛塩(ZnCl2 )とすることである。
ただし、これ以外にも、例えば酸化チタン、酸化タングステン、チタン酸バリウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化鉛などの金属酸化物を材料としても良い。この場合には、カソード電析において、これらの無機酸塩を含む電解液を用いることができる。
【0010】
また、本発明の第3の手段は、上記の第1または第2の手段において、上記のテンプレート化合物として、カルボキシル基、スルホン酸基、またはリン酸基などのアンカー基を有し、電気化学的な還元性を有する色素化合物を使用することである。
また、本発明の第4の手段は、上記の第3の手段において、上記の色素化合物として、エオシンY(C206 Br4 Na2 5 )を用いることである。
【0011】
また、本発明の第5の手段は、光電素子の光電極材料の製造方法において、上記の第1乃至第4の何れか1つの手段に基づいて製造された酸化金属/テンプレート化合物複合膜を洗浄することによって、上記の酸化金属/テンプレート化合物複合膜からテンプレート化合物を除去する洗浄工程と、この洗浄工程によって形成された多孔質の酸化金属膜の内部表面に、色素化合物を吸着させる色素吸着工程とを設けることである。
【0012】
ただし、上記の色素吸着工程においては、1つの基体としての多孔質酸化金属薄膜に対して異なる種類の色素を吸着させることが可能である。また、この異なる種類の色素は、多孔質酸化金属薄膜の同一領域内において混合して吸着させることができる。また、薄膜の異なる各領域に対して、それぞれ異なる色素を吸着させても良い。
以上の本発明の手段により、前記の課題を効果的、或いは合理的に解決することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の本発明の手段によって得られる効果は以下の通りである。
即ち、本発明の第1の手段によれば、電解溶液中に金属塩とテンプレート化合物を添加する前にカソード電解処理を実行する上記の前処理工程によって、導電性基板から成る作用極の表面上に、活性化された反応サイトが高い密度で数多く略均一に形成される。即ち、この反応サイトは酸化金属の成長核が付着する部位を提供するものであるが、上記の前処理工程によって、この部位(反応サイト)では、酸素の還元反応に対する活性化過程での活性化エネルギーが、その他の部位よりも小さくなるものと考えられる。
【0014】
そして、本発明の第1の手段によれば、上記の反応サイトが、上記の前処理工程によって基板の表面上に高密度に略均一に形成される結果、その後の酸化金属/テンプレート化合物複合膜の成膜工程において酸化金属/テンプレート化合物複合膜の基板界面におけるポーラス構造が細かく均一に形成される。
したがって、本発明の第1の手段によれば、導電性基板と酸化金属との界面におけるポーラス構造レベルでの接触面積が大幅に増大するので、導電性基板と酸化金属膜の間の固着性が向上したり、界面における電気抵抗が低くなる結果上記の酸化金属膜の成長時間が短かくなったりする。
【0015】
更に、本発明の第1の手段によれば、上記の酸化金属/テンプレート化合物複合膜を色素増感太陽電池などの光電素子の電極に利用した場合に、酸化金属/テンプレート化合物複合膜の基板界面におけるポーラス構造が細かく均一に形成されているため、この界面近傍のポーラス構造も微細となり、このポーラス構造における比表面積が効果的に増大して光電作用の効率が向上するとともに、界面における電気抵抗も低く抑えられる。
したがって、本発明の第1の手段によれば、色素増感太陽電池などの光電素子のエネルギー変換効率を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の第2の手段によれば、酸化亜鉛で上記のポーラス構造が形成されるので、上記のポーラス構造の形成が良好となり、また、金属膜内における伝導電子のエネルギー準位や界面での電気抵抗なども適当となるので、より高いエネルギー変換効率を確保することができる。
【0017】
また、本発明の第3または第4の手段によれば、上記の酸化金属/テンプレート化合物複合膜から上記のテンプレート化合物を除去する際に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基の水溶液を用いたアルカリ洗浄によって、簡単に膜中のテンプレート化合物を除去することが可能となる。
【0018】
また、本発明の第5の手段によれば、酸化金属に直接結合できなかった色素(テンプレート化合物)等が排除(洗浄)されて、増感剤として機能させるために必要かつ十分な量の色素だけが改めて膜中に導入(再吸着)されるので、光電極特性が向上する。そのため、この酸化金属/色素複合薄膜を色素増感太陽電池やその他の光電素子の光電極材料に用いた際には、非常に高いエネルギー変換効率を得ることができる。また、本発明の第5の手段によれば、多孔質の酸化金属によって構成されるポーラス構造の内部表面に様々な色素を選択して再吸着させることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
上記のテンプレート化合物は、電気化学的に還元性を有し、これらが酸化金属膜成長過程で還元され、求核性が増すことにより金属イオンと錯体を形成し、これが酸化金属結晶の内部表面に吸着されるためにそれ以上の結晶成長を抑制し、テンプレート化合物の分子サイズ+αの3次元的に連結したナノポアを結晶粒内に形成する化合物であると言うことができる。したがって、この様なテンプレート化合物としては、カルボキシル基、スルホン酸基あるいはリン酸基などのアンカー基を有し、電気化学的に還元性を有する芳香族化合物などのπ−電子を有するもの等が好適であり、より具体的に例示すれば以下の通りである。
【0020】
即ち、上記のテンプレート化合物としては例えば、キサンテン系色素のエオシンY、フルオレセイン、エリスロシンB、フロキシンB、ローズベンガル、フルオレクソン、マーキュロクロム、ジブロモフルオレセイン、ピロガロールレッドなど、クマリン系色素のクマリン343など、トリフェニルメタン系色素のブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルー、フェノールフタレインなどがある。また、これら以外にシアニン系色素、メロシアニン系色素、ポルフィリン、フタロシアニン、ペリレンテトラカルボン酸誘導体、インジゴ色素、オキソノール色素や天然色素のアントシアニン、クチナシ色素、ウコン色素、ベニバナ色素、カロテノイド色素、コチニール色素、パプリカ色素、Ru、Osなどのポリピリジン錯体などを挙げることができ、これらの大半は色素である。
なお、上記の本発明の第5の手段によって、色素を改めて酸化金属膜の内部表面に吸着させる場合には、先の電解処理時に電解液中に添加するこれらのテンプレート化合物は必ずしも色素である必要はない。即ち、酸化金属膜の内部表面に最終的に付着、残留する化合物だけが色素であれば良い。
【0021】
また、作用極に用いる導電性基板は、少なくとも光電変換反応に必要な波長の光を透過させるものであれば良く、95%酸化インジウムと5%酸化スズからなる化合物(ITO)を透明ガラス板に薄く蒸着したITOガラス基板や酸化スズにフッ素をドープした膜(FTO)を透明ガラス板に薄く蒸着したFTOガラス基板などを挙げることができる。また、酸化金属は、高温で焼成する必要がないので、透明ガラス板に代え、例えば導電性PETなどの透明なプラスチックを基板として用いることもできる。プラスチックを基板として用いる場合、プラスチックをコイル状に巻き、これに酸化金属/色素複合薄膜を形成すれば、大量生産が可能となる。
【0022】
また、上記のテンプレート化合物を除去した後に、改めてその酸化金属の膜中(内部表面)に吸着させる色素としては様々なものを用いることができ、例えば、キサンテン系色素のエオシンY、フルオレセイン、エリスロシンB、フロキシンB、ローズベンガル、フルオレクソン、マーキュロクロム、ジブロモフルオレセイン、ピロガロールレッドなど、クマリン系色素のクマリン343など、トリフェニルメタン系色素のブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルー、フェノールフタレインなどがある。また、これら以外にシアニン系色素、メロシアニン系色素、ポルフィリン、フタロシアニン、ペリレンテトラカルボン酸誘導体、インジゴ色素、オキソノール色素や天然色素のアントシアニン、クチナシ色素、ウコン色素、ベニバナ色素、カロテノイド色素、コチニール色素、パプリカ色素、Ru、Osなどのポリピリジン錯体などを挙げることもできる。
【0023】
また、これらの色素を再吸着させる多孔質酸化金属薄膜におけるテンプレート化合物の色素脱着率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。80%より色素脱着率が低いと、色素を再吸着させて得られる酸化金属/色素複合薄膜を色素増感太陽電池の光電極材料として用いた場合の光電極機能が著しく低下するからである。ただし、ここで、上記の色素脱着率は、{(色素(テンプレート化合物)総導入量)−(アルカリ処理後色素(テンプレート化合物)残留量)}/(色素(テンプレート化合物)総導入量)と定義される。また、色素を再吸着させる場合、多孔質酸化金属膜に乾燥処理を施してから行うのが好ましい。乾燥処理を施さないと、光電極機能が低下するからである。
【0024】
また、酸化金属膜を形成するカソード電析は、所望の基板の存在下、亜鉛塩を含む電解浴中で行う。亜鉛塩は、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛などのハロゲン化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛などを用いることができ、ハロゲン化亜鉛の場合は酸素を供給する(バブリング)が、酸素のバブルが電極に接触すると色素は酸化していまい脱着不能となるので、電極にバブルが接触しないようにする工夫が必要である。亜鉛塩を用いる場合の対極としては、亜鉛、金、白金、銀などが挙げられる。カソード電析により、酸化亜鉛の規則的薄膜構造が得られ、また酸化チタンのような熱処理が不要なことにより基板の選択性が広まる。
【0025】
また、多孔質酸化金属膜は、テンプレート化合物を前記の電解浴に予め混合しておいてからカソード電析し、更に酸化金属膜の内部表面に吸着されたテンプレート化合物を脱着手段を講じることにより得ることができる。これにより、酸化金属膜の表面からテンプレート化合物が脱着されることにより酸化金属膜には多数の空隙が形成され極めてポーラスで比表面積が増大する。テンプレート化合物の脱着手段は、テンプレート化合物がカルボキシル基、スルホン酸基あるいはリン酸基などのアンカー基を有する化合物であれば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基の水溶液を用いて洗浄することで行えるが、これに限定されるものではなく、テンプレート化合物の種類に応じて適宜行うことができる。アルカリによる洗浄は、pH10〜13で行うことが好ましい。
【0026】
また、色素増感太陽電池の中に用いる電解質溶液は、レドックス電解質を含む溶液、これをゲル化剤によって半固体化した電解質、CuI、CuSCN、NiO、Cu2O、KIなどのp型半導体固体ホール輸送材料など様々なものを用いることができる。電池の電解質中に存在させる酸化還元対としては、ヨウ素/ヨウ化物、臭素/臭化物などの酸化還元対を用いることができる。また、溶媒は水系でアセトニトリル−エチレンカーボネート混合溶液など様々なものを用いることができる。特に、多孔質酸化亜鉛薄膜に吸着させた色素が脱離しにくい嵩高い電解質を含む電解液が好ましく、このような電解質としては、ハロゲン化セシウム、ハロゲン化四級アルキルアンモニウム類、ハロゲン化イミダゾリウム類、ハロゲン化チアゾリウム類、ハロゲン化オキサゾリウム類、ハロゲン化キノリニウム類、ハロゲン化ピリジニウム類から選ばれた一種以上とハロゲン単体とを組み合わせたもの等が好適である。より具体的には例えば、ヨウ化セシウム、四級アルキルアンモニウムヨージド類のテトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラエブチルアンモニウムヨージド、テトラペンチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド、テトラへプチルアンモニウムヨージド、トリメチルフェニルアンモニウムヨージド、イミダゾリウムヨージド類として3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド、チアゾリウムヨージド類として3−エチル−2−メチル−2−チアゾリウムヨージド、3−エチル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾリウムヨージド、3−エチル−2−メチルベンゾチアゾリウムヨージド、オキサゾリウムヨージド類として3−エチル−2−メチル−ベンゾキサゾリウムヨージド、キノリニウムヨージド類として1−エチル−2−メチルキノリニウムヨージド、ピリジニウムヨージド類の1種以上とヨウ素との組み合わせ、あるいは四級アルキルアンモニウムブロミド等と臭素との組み合わせ等を用いることができる。
【0027】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
本実施例1では、3電極系の1室型セルを用いる。図1に、本実施例1で用いるその電解装置の構成を示す。反応槽4内の電解液6中に浸される作用極1は、フッ素をドープすることによって導電性が与えられた透光性のFTOガラス基板から形成されている。対極2は亜鉛(Zn)板から成り、また、参照極3(SCE)は飽和カロメル電極とした。反応槽4は、水を溜めた恒温槽5の中に固定されており、これによって、上記の電解液6は、0℃〜100℃の間の任意の温度に設定することができる。
なお、上記のFTOガラス基板は、アセトン、2−プロパノール、及び5%ビスタ溶液(洗浄液)中にて、それぞれ15分間ずつ超音波洗浄して脱脂し、その後45%硝酸溶液に2分間浸し、表面処理を施してから上記の作用極1として使用した。
【0029】
〔多孔質酸化亜鉛薄膜の作製〕
まず最初に、KClが0.1Mとなるように調製した水溶液を上記の電解液6として用いて、その溶液に酸素を20分間バブリングした。ただし、その最後の1分間は、作用極1の参照極3に対する電位を−1.1Vとして電流を流すこと(本発明の前処理工程)によって、亜鉛塩やテンプレート化合物が何れも未添加の電解溶液中で、カソード電解を実行しつつこのバブリングを実施した。また、この前処理工程中には、櫛形の攪拌子を電解溶液中で周期的に並進往復運動させる攪拌操作によって、作用極1に対して均一な電解溶液の流れを作った。この時の最大攪拌速度は、11cm/secとした。
【0030】
図2に、この前処理工程実行時の作用極1の表面における電流密度の推移を例示する。作用極1の表面におけるこの時の電流密度は、1.0±0.3〔mA/cm2 〕の範囲で推移したが、最終的には、約1.3〔mA/cm2 〕程で安定した。このことから、前処理工程の実行時間は、40秒から1分程度が妥当であると言える。
【0031】
その後の酸化亜鉛薄膜を成膜するための電解処理では、アンカー基を有するテンプレート化合物としてエオシンY(以下、EYと略すことがある)を用いた。即ち、ここでは、EYが内部表面に吸着される酸化亜鉛薄膜(以下、酸化亜鉛/EY薄膜(初回吸着)という)の形成浴(即ち、図1の電解液6)を、50μMのエオシンY水溶液中でZnCl2 が5mM、KClが0.1Mとなるように調製して、その後の電解溶液とした。なお、上記のエオシンYの濃度は、ランベルト・ベールの法則に基づいて決定した。
【0032】
この電解処理では、浴温70℃に固定して、電位−1.1V(vs.SCE)で定電位電解を20分間行うことにより、膜厚約3μmの酸化亜鉛/EY複合薄膜を形成した。また、上記の酸素のバブリングは、引き続きこの電解処理中も継続した。また、この電解処理中も、上記と同様の攪拌操作を行うことによって、作用極(導電性のFTO硝子基板)に対して均一な電解溶液の流れを作り、これによって、作用極の表面に到達するテンプレート化合物の量が均一になる様に制御した。この時の最大攪拌速度は、14cm/secとした。
図3に、この電解処理工程実行時の作用極1の表面における電流密度の推移を例示する。この時の電流密度は、約1.4〔mA/cm2 〕程度で略一定値を継続的に示した。
【0033】
その後、この電解処理後に得られた酸化亜鉛/EY薄膜を乾燥させることなく直ちに、0.1MのKOHに浸漬し、更に水洗いすることにより薄膜中のEYを除去して多孔質酸化亜鉛薄膜を得た。
【0034】
〔酸化亜鉛/色素複合薄膜の作製〕
次に、得られた多孔質酸化亜鉛薄膜を約150℃で30分乾燥処理した後、約100℃にて、5mMのEYエタノール溶液中で簡易還流を行い、これによって酸化亜鉛/EY複合薄膜を作製した。
ただし、上記と同様の手順で得られる同様の多孔質酸化亜鉛薄膜に対して、例えば、上記のEYの代りにクマリン343(色素)を再吸着させた酸化亜鉛/クマリン343薄膜を作製しても良い。
【0035】
〔色素増感太陽電池の作製〕
その後、上記の酸化亜鉛/EY複合薄膜を用いて、色素増感太陽電池を作製した。ここでは正極として、電池の電解質溶液に直接接触する面に反射膜を兼ねた白金(Pt)蒸着の電極層を成膜した導電性ガラスを用いた。また、その電解質溶液にはヨウ化エトラブチルアンモニウム0.5M、ヨウ素0.05Mのヨウ素電解液を用いた。
【0036】
〔本実施例1の効果〕
図4に、本発明の前処理工程が省略されていた従来の電解処理工程における電流密度の推移を例示する。このグラフは、上記の本発明の前処理工程の有無の点以外については、上記の実施例1と全く同様の条件下で測定したものである。この図4を前述の図3と比較すると分かる様に、電解処理時の作用極1の表面上での定常状態における電流密度については、本実施例1の値が従来例の値の約1.4倍になっている。このことは、本発明によって、上述の酸化亜鉛/EY薄膜の成長速度が、従来の約1.4倍に向上したことを意味している。
【0037】
また、上記の本発明の前処理工程の有無の点以外については、上記の実施例1と全く同様の条件で、別の色素増感太陽電池(:比較用のサンプル)を作成して、双方の太陽光エネルギー変換効率をそれぞれ測定した。その結果、上記の実施例1で得られた色素増感太陽電池のエネルギー変換効率は2.85%を示し、かつ、この色素増感太陽電池は、従来方法による上記の比較用のサンプルに対して約1.4倍の交換効率を示した。
【0038】
〔その他の変形例〕
本発明の実施形態は、上記の形態に限定されるものではなく、その他にも以下に例示される様な変形を行っても良い。この様な変形や応用によっても、本発明の作用に基づいて本発明の効果を得ることができる。
(変形例1)
例えば、上記の実施例1では、上記の通りに攪拌操作を実施したが、本発明の作用・効果を得るに当たっては、必ずしもこの様な攪拌操作は必須となる操作ではなく、また、その様な攪拌操作を行わない製造方法も本発明に属する。即ち、この様な攪拌操作の有無に係わらず、本発明の手段は、前記の本発明の作用・効果を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の方法は、色素増感太陽電池の外にも、例えば紫外線発光素子など光電素子の電極材料等として大いに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1で用いる3極式の電解装置の構成を模式的に描いた概念図
【図2】実施例1の前処理工程における電流密度の推移を例示するグラフ
【図3】実施例1の電解処理工程における電流密度の推移を例示するグラフ
【図4】従来の電解処理工程における電流密度の推移を例示するグラフ
【符号の説明】
【0041】
1:作用極(透光性の導電性基板)
2:対極
3:参照極
4:反応槽
5:恒温槽
6:電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解装置を用いて、透光性の導電性基板から成る作用極の表面上に酸化金属とテンプレート化合物から成る複合膜を成膜する方法であって、
前記電解装置の電解溶液中に金属塩とテンプレート化合物を添加する前にカソード電解処理を実行する前処理工程を有する
ことを特徴とする酸化金属/テンプレート化合物複合膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸化金属を酸化亜鉛(ZnO)とし、
前記金属塩を亜鉛塩とした
ことを特徴とする請求項1に記載の酸化金属/テンプレート化合物複合膜の製造方法。
【請求項3】
前記テンプレート化合物は、
カルボキシル基、スルホン酸基、またはリン酸基などのアンカー基を有し、電気化学的な還元性を有する色素化合物である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化金属/テンプレート化合物複合膜の製造方法。
【請求項4】
前記色素化合物は、
エオシンY(C206 Br4 Na2 5 )から成る
ことを特徴とする請求項3に記載の酸化金属/テンプレート化合物複合膜の製造方法。
【請求項5】
光電素子の光電極材料の製造方法であって、
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の製造方法に基づいて製造された前記酸化金属/テンプレート化合物複合膜を洗浄することによって、前記酸化金属/テンプレート化合物複合膜から前記テンプレート化合物を除去する洗浄工程と、
前記洗浄工程によって形成された多孔質の酸化金属膜の内部表面に、色素化合物を吸着させる色素吸着工程と
を有する
ことを特徴とする光電極材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−283048(P2006−283048A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100670(P2005−100670)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(598091860)財団法人名古屋産業科学研究所 (23)
【Fターム(参考)】