説明

多層干渉フィルタおよび固体撮像装置

【課題】セルサイズに関わらず、優れた光学特性を有し、且つ、高い歩留まりおよび低い製造コストでの製造が可能な多層干渉フィルタおよび固体撮像装置を提供する。
【解決手段】多層干渉フィルタ16は、複数の二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173と、複数の二酸化シリコン層162、167、172と、複数のスペーサ層164、165、169、170とから構成されている。固体撮像装置10では、領域A、B、Cごとの層構成により、多層干渉フィルタ16の膜厚が相違している。タンタルのドープ量については、組成式Ti(1−x)Taにおいて、0<x≦0.1の関係を満たすように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層干渉フィルタおよび固体撮像装置に関し、特に層を構成する誘電体材料の組成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディジタルスティルカメラやディジタルムービカメラ等の撮像デバイスとして固体撮像装置が広く普及している。固体撮像装置では、入射される可視光から所定の波長の成分だけを選択的に透過させる光学フィルタが色分離用として採用されている。光学フィルタの一種としては、例えば、二酸化シリコン(SiO)層と二酸化チタン(TiO)層とが交互に積層され、光の干渉効果を利用する、所謂、干渉フィルタが提案されている(特許文献1を参照)。
【0003】
また、光学フィルタとしては、λ/4以外の光学膜厚を有するスペーサ層(SiO)の厚み方向両側を、2つのλ/4多層膜により挟んだ構成の干渉フィルタも提案されている(特許文献2、3)。ここで、上記2つのλ/4多層膜の各々は、複数の誘電体層(SiO、TiO)から構成されている。このような干渉フィルタでは、上記特許文献1で提案されている干渉フィルタほど各膜の膜厚精度を厳密に確保しなくても高精度な波長選択機能を有する。具体的には、図9に示すように、干渉フィルタでは、TiO層903、906、908、911、913とSiO層とが所定の順序で積層された構造を有する。そして、領域Dでは、スペーサ層910が介挿されることにより、領域Eとの間で透過波長の差異が設けられている。
【0004】
図9に示すように、特許文献2、3で提案されている干渉フィルタにおいては、スペーサ層910の介挿数などにより透過させる波長が規定される。よって、干渉フィルタの形成においては、透過させようとする波長に基づき、一部領域(図9では、領域E)に対しては、スペーサ層910の除去が実行される。スペーサ層910の除去工程においては、スペーサ層910とその下層に配されるTiO層との互いの構成材料であるSiOとTiOとのエッチング選択比を確保すべく、ウェットエッチングがドライエッチングと併用される。
【特許文献1】特開2000−180621号公報
【特許文献2】国際公開WO/2005/069376号公報
【特許文献3】特開2007−019143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2、3で提案されている干渉フィルタでは、製造過程におけるウェットエッチングに起因して光学特性の低下という問題を生じることがある。即ち、ウェットエッチングを用いてスペーサ層910の除去を実施する場合に、エッチング液が除去するスペーサ層910の下に配されているTiO層908の粒界にしみ込み、これがさらに下に配されたSiO層907の界面から一部を侵食してしまう(図10のF部分を参照)。そして、スペーサ層910の除去に伴い、SiO層907が不所望に侵食されてしまうと、当該部分での光学距離(構成膜の膜厚と屈折率との積で規定される距離)に変動を生じ、光学特性が低下してしまうことになる。
【0006】
なお、従来においては、上記スペーサ層910の除去における不所望な下層の侵食を抑制すべく、同一の領域での繰り返してのウェットエッチングを避けるべく、複数のスペーサ層910の互いの配置を変えるという手段も講じられているが、更なるセルの微細化を図るに際して、このような手段を採用することができない。
本発明は、上述のような問題を解決しようとなされたものであって、セルサイズに関わらず、優れた光学特性を有し、且つ、高い歩留まりおよび低いコストでの製造が可能な多層干渉フィルタおよび固体撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、次の構成を採用する。
(1)本発明に係る多層干渉フィルタは、複数の層が積層され、面内に膜厚が他よりも薄い領域を有する。そして、上記複数の層は、互いに屈折率が異なる少なくとも2種類の層から構成されており、上記他よりも厚みが薄い領域においては、その内の1種類の層として、Ti(1−x)の組成式で表される材料からなる層が含まれている。
【0008】
上記1種類の層を構成する材料の組成式では、Aが、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Zr(ジルコニウム)およびW(タングステン)からなる群から選択される少なくとも一種の元素であることを特徴とする。
(2)上記本発明に係る多層干渉フィルタでは、組成式中の”x”が、0<x≦0.1の関係を満たすことを特徴とする。
【0009】
(3)上記本発明に係る多層干渉フィルタでは、Ti(1−x)の組成式で表される材料からなる層が、アモルファス状態で形成されていることを特徴とする。
(4)上記本発明に係る多層干渉フィルタでは、上記少なくとも2種類の層の中に、SiOからなる層が含まれていることを特徴とする。
(5)本発明に係る固体撮像装置は、上記(1)〜(4)の何れかの多層干渉フィルタをカラーフィルタとして備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)のように、本発明に係る多層干渉フィルタでは、膜厚が他よりも薄い領域において、Ti(1−x)の組成式で表される材料からなる層が含まれている。そして、組成式中のAが、Ta、Nb、ZrおよびWからなる群から選択される少なくとも一種の元素であるという特徴を有する。即ち、本発明に係る多層干渉フィルタでは、従来のTiO層に代えて、TiOにTa、Nb、ZrおよびWからなる群から選択される少なくとも一種の元素がドープされてなる層を備える。これにより、本発明に係る多層干渉フィルタでは、上記一種の元素がドープされてなる層での粒子サイズをTiOよりも大きくすることができる。
【0011】
よって、本発明に係る多層干渉フィルタでは、TiOよりも粒子サイズの大きな粒子から形成された層において、粒界の分布密度の低減を図ることができ、TiO層を採用する場合に比して、形成過程中のウェットエッチングの際のエッチング液のしみ込み量の低減を図ることができる。また、本発明に係る多層干渉フィルタの構成では、画素セルのサイズに関わらずエッチング液のしみ込み量を低減することができる。
【0012】
従って、本発明に係る多層干渉フィルタは、セルサイズに関わらず、優れた光学特性を有し、且つ、高い歩留まりおよび低いコストでの製造が可能である。なお、TiOに対するドープ元素としてTa、Nb、ZrおよびWからなる群から選択される少なくとも一種の元素を採用するのは、Tiよりも高い融点を有することに起因する。特に、Taを採用する場合には、Taの酸化物の屈折率が”2.3”であって、TiOの屈折率”2.45”と近く、層における屈折率の低下を抑えることができるという観点からも優れている。
【0013】
また、本発明に係る多層干渉フィルタでは、上記(2)のように、組成式において、0<x≦0.1の関係を満たすようにすることが、屈折率の低下を抑制できるという観点からより望ましい。
また、本発明に係る多層干渉フィルタでは、Ti(1−x)の組成式で表される材料からなる層を、アモルファス状態で形成することが望ましい。これは、光学異方性の少ないアモルファス状態とすることにより、当該層における屈折率の高い均一化を図ることができるためである。
【0014】
また、本発明に係る固体撮像装置は、上記本発明に係る多層干渉フィルタを光学フィルタとして備えるので、優れた色分離特性を有し、且つ、コストの観点およびセルサイズの更なる微細化という観点から優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下では、本発明を実施するための最良の形態について、図を参照しながら説明する。なお、以下で用いる実施の形態については、本発明の構成的特徴および作用・効果を分かりやすく説明するための一例であって、本発明はその要旨とする部分以外について、これに限定を受けるものではない。
1.カメラ1の構成
本実施の形態に係るカメラ1について、図1(a)を用い説明する。
【0016】
図1(a)に示すように、カメラ1は、固体撮像装置10、レンズ20、色信号合成部30、映像信号作成部40および駆動部50などから構成されている。カメラ1に入射した光は、レンズ20により固体撮像領域10の画素領域に集光される。固体撮像装置10では、角撮像画素ごとに、入射光量に応じた色信号を生成し色信号合成部30へと出力する。固体撮像装置10および色信号合成部30は、駆動部50からの駆動信号に応じて駆動される。
【0017】
色信号合成部30では、入力された色信号に対し、色シェーディングを施し、当該色信号を映像信号作成部40へと出力する。映像信号作成部40では、色シェーディングが施された色信号からカラー映像信号を作成する。
2.固体撮像装置10の構成
図1(b)に示すように、固体撮像装置10は、半導体基板11を共通のベースとして、複数の画素101と、各回路部102〜10とが形成されてなる構成を有する。複数の画素101は、マトリクス状に配され、画素領域を構成している。
【0018】
垂直シフトレジスタおよび水平シフトレジスタ103は、ともにダイナミック回路であり、駆動回路105からの駆動信号(電圧信号、タイミング信号)に基づき、複数の画素101を順次駆動する。
各画素101から出力された画素信号は、出力アンプ104で増幅されて色信号合成部30へと出力される(図1(a)を参照)。
【0019】
3.固体撮像装置10における画素領域の構成
次に、固体撮像装置1における画素領域の構成について、図2(a)を用い説明する。
図2(a)に示すように、固体撮像装置10における画素領域では、n型の半導体基板11上にp型半導体層12が積層され、さらにその上には、層間絶縁膜14が積層されている。p型半導体層12と層間絶縁膜14との境界から、p型半導体層12の厚み方向(Z軸方向)下向きには、互いに間隔をあけた状態で複数のフォトダイオード13が形成されている。フォトダイオード13は、半導体基板11の主面に沿う方向(Z軸に直交する方向)において、例えば、マトリクス状などの形態をもって二次元配置されている。
【0020】
層間絶縁膜14中であって、隣り合うフォトダイオード13どうしの間に相当する箇所には、遮光膜15が形成されている。遮光膜15は、例えば、アルミニウム(Al)やタングステン(W)などの金属材料から構成されている。さらに、層間絶縁膜14上には、多層干渉フィルタ16、平坦化膜18が順に積層され、その上には、各フォトダイオード13に対応してマイクロレンズ19が形成されている。平坦化膜18は、例えば、二酸化シリコン(SiO)などの透明材料から構成されている。
【0021】
多層干渉フィルタ16は、領域A、B、Cごとに厚みが相違しており、これにより透過帯域が規定されている。
4.多層干渉フィルタ16の構成
多層干渉フィルタ16は、λ/4多層膜とスペーサ層との積層構成を有している。その構成について、図2(b)を用い説明する。
【0022】
図2(b)に示すように、多層干渉フィルタ16の領域Aにおいては、複数の二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173と、複数の二酸化シリコン層162、167、172と、二酸化シリコン層からなる複数のスペーサ層164、165、169、170とから構成されており、これにより、スペーサ層164、165、169、170の各々を、λ/4多層膜で挟んだ構成となっている。なお、領域Cでは、スペーサ層164、165、169、170は、存在しない。具体的には、領域Cでは、二酸化チタンタンタル層161、163と二酸化シリコン層162とから構成されるλ/4多層膜、同様に、二酸化チタンタンタル層166、168と二酸化シリコン層167とから構成されるλ/4多層膜、二酸化チタンタンタル層171、173と二酸化シリコン層172とから構成されるλ/4多層膜が順次積層されている。
【0023】
領域Bにおいては、スペーサ層は二酸化シリコン層165、170で形成されている。このような構成により、多層干渉フィルタ16では、領域A、B、Cごとにスペーサ層の膜厚を変える事で緑色、青色、赤色の各帯域の光を透過させる。
一般に、多層干渉フィルタがλ/4多層膜のみで構成されている場合には、当該多層干渉フィルタは、波長λを中心波長とする広い帯域で光を反射することになる。しかし、本実施の形態に係る多層干渉フィルタ16のようにλ/4多層膜でスペーサ層を挟む構成を採用する場合には、波長λを中心波長とする広い帯域で光を反射しながら、スペーサ層164、165、169、170の厚みに応じた波長を中心波長とする狭い帯域で光を透過させることができる。
【0024】
従って、本実施の形態に係る固体撮像装置10の多層干渉フィルタ16では、スペーサ層164、165、169、170の膜厚を異ならせることにより、異なる透過特性を実現可能である。
5.多層干渉フィルタ16の形成方法
次に、本実施の形態に係る多層干渉フィルタ16の形成方法について、図3〜図5を用い説明する。
【0025】
図3(a)に示すように、層間絶縁膜14の表面に対し、スパッタ装置を用いて、二酸化チタンタンタル層161、二酸化シリコン層162、二酸化チタンタンタル層163を順次積層する。これら3層161〜163によりλ/4多層膜が構成される。さらに、二酸化チタンタンタル層163の上面に対し、スパッタ装置を用いて、二酸化シリコン準備層1640を積層する(工程a)。
【0026】
図3(b)に示すように、上記のように積層形成された二酸化シリコン準備層1640の表面上の領域Aに対し、マスク501を積層形成する(工程b)。この後、4弗化メタン系のエッチングガスを用いたドライエッチングとバッファード弗酸を用いたウェットエッチングにより、領域Aを除く領域(図2(b)における領域B、C)の二酸化シリコン準備層1640を除去する(工程c)。エッチング後においては、図3(c)に示すように、領域Aの二酸化チタンタンタル層163上にだけ、二酸化シリコン層164が残留した状態となる。
【0027】
次に、図3(d)に示すように、二酸化シリコン層164および二酸化チタンタンタル層163の各表面に対し、二酸化シリコンを構成材料とする、スペーサ準備層1650を積層形成する(工程d)。この後、図4(a)に示すように、領域A、Bにおけるスペーサ準備層1650の表面に対し、マスク502を形成する(工程e)。この状態で、上記(工程c)と同様に、4弗化メタン系のエッチングガスを用いたドライエッチングとバッファード弗酸を用いたウェットエッチングにより、領域A、Bを除く領域(領域C)のスペーサ準備層1650を除去する(工程f)。その後、マスク502を除去すると、図4(b)に示すように、領域A、Bにだけスペーサ層165が形成された状態となる。なお、以下では、スペーサ層165を、便宜上、「第1のスペーサ層165」と記載する。
【0028】
次に、図4(c)に示すように、領域A、Bにおける第1のスペーサ層165および領域Cにおける二酸化チタンタンタル層163の各表面に対し、スパッタ装置を用い、二酸化チタンタンタル層166、二酸化シリコン層167、二酸化チタンタンタル層168を順次積層する。これら3層166〜168によりλ/4多層膜が形成される。さらに、二酸化チタンタンタル層168の表面に対し、スパッタ装置を用いて、二酸化シリコン準備層1690を積層形成するとともに、領域Aにおいては、さらにマスク503を積層形成する(工程g)。
【0029】
上記(工程g)の実行後において、4弗化メタン系のエッチングガスを用いたドライエッチングとバッファード弗酸を用いたウェットエッチングを行い、領域Aにだけ二酸化シリコン層169を残留させる。さらに、図4(c)に示すように、マスク503を除去した後、二酸化シリコンを構成材料とするスペーサ準備層1700を全面形成する(工程h)。
【0030】
次に、図5(a)に示すように、領域A、Bにおけるスペーサ準備層1700の表面に対し、マスク504を積層形成する(工程i)。この状態で、4弗化メタン系のエッチングガスを用いたドライエッチングとバッファード弗酸を用いたウェットエッチングを実行し、マスク504を除去する(工程j)。当該工程の実行により、図5(b)に示すように、領域A、Bにだけスペーサ層170が形成された状態となる。なお、上位第1のスペーサ層165との関係から、スペーサ層170を、「第2のスペーサ層170」と記載する
図5(c)に示すように、領域A、Bにおける第2のスペーサ層170および領域Cにおける二酸化チタンタンタル層168の各表面に対し、二酸化チタンタンタル層171、二酸化シリコン層172、二酸化チタンタンタル層173を順次積層する。これら3層171〜173についても、λ/4多層膜を構成する。
【0031】
上記において、二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173における二酸化チタンタンタルの組成式は、Ti(1−x)Taで表される。そして、前記組成式においては、0<x≦0.1の関係を満たす。
なお、上記製造過程におけるマスク501〜504の形成には、例えば、レジスト剤を塗布し、露光前ベーク(プリベーク)の後、ステッパなどの露光装置によって露光を行い、レジスト現像及び最終ベーク(ポストベーク)をする、という手段を採用することができる。
【0032】
また、二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173、および二酸化シリコン層162、164、167、169、172は、それぞれがアモルファス構造となっている。
以上のようにして、多層干渉フィルタ16が形成される。
6.二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173、および二酸化シリコン層162、164、167、169、172の成膜
上述のように、本実施の形態に係る固体撮像装置10では、多層干渉フィルタ16における二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173、および二酸化シリコン層162、164、167、169、172の各々は、アモルファス構造となっているのであるが、これは次のような成膜方法を採用することで実現される。
【0033】
本実施の形態における成膜工程では、DCスパッタリング装置を用い、プラズマの発生とイオンの加速とを一緒に実行する反応性マグネトロンDCスパッタリング法を採用する。そして、成膜条件は、二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173の成膜の場合、例えば次のような条件とすることができる。
・スパッタチャンバ内の雰囲気;酸素雰囲気
・印加電圧;パルス周波数が1〜100[Hz](例えば、50[Hz])のDC電圧
・ターゲット;チタンタンタル合金ターゲット
・酸素;10〜20[sccm](例えば、15[sccm])
・アルゴン;25〜50[sccm](例えば、35[sccm])
・圧力;0.1〜0.8[Pa](例えば、0.4[Pa])
・パワー;3〜12[kW](例えば、9[kW])
なお、上述のように、二酸化シリコン層162、164、167、169、172の成膜においても、反応性マグネトロンスパッタリング法を採用することができ、成膜条件については適宜設定できる。
【0034】
7.優位性
(1)多層干渉フィルタ16の構成要素として二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173を採用することによる優位性
本実施の形態に係る固体撮像装置10の多層干渉フィルタ16では、その構成要素の一つとして、従来の二酸化チタン層に代えて、二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173を採用している。このような構成を採ることにより、多層干渉フィルタ16では、二酸化チタンタンタル層における各構成粒子の粒子サイズを二酸化チタン層に比べて大きくすることができる。
【0035】
よって、本実施の形態に係る固体撮像装置10の多層干渉フィルタ16では、二酸化チタンよりも粒子サイズの大きいニ酸化チタンタンタルを構成粒子とする層を有することに起因して、当該層における粒界の分布密度の低減を図ることができる。粒界の分布密度の低減は、二酸化チタンタンタル層163、168が実質的にエッチングストッパとして機能するスペーサ準備層1650、1700のエッチング時(工程f、工程j)において、さらに下層へのエッチング液のしみ込み量の低減を図ることができる。
【0036】
図6に示すように、二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173を採用する本実施の形態では、ウェットエッチングの際のエッチング液のしみ込みがほとんどないことが分かる。特に、二酸化チタン層を採用する図10に示す従来の場合との比較においては、その差異は明らかである。
従って、多層干渉フィルタ16を有する固体撮像装置10では、各画素101のサイズに関わらず、優れた光学特性を有し、且つ、高い歩留まりおよび低いコストでの製造が可能である。なお、本実施の形態においては、二酸化チタンに対するドープ元素としてタンタル(Ta)を採用したが、この他に、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)などを採用することもでき、さらに、それらを複合的にドープすることでも効果を得ることができる。
【0037】
酸化チタンに対しドープすることが望ましい元素は、Tiよりも大きい原子量と高い融点を有することが条件でありる。なお、酸化チタンの屈折率が”2.45”であることを考慮するときには、タンタル(Ta)の酸化物の屈折率が”2.3”であって、層における屈折率の低下を抑えることができるという観点から、ドープ元素として最も優れている。
【0038】
(2)Taのドープ量を上記範囲とすることによる優位性
本実施の形態に係る多層干渉フィルタ16の二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173では、上記組成式において、0<x≦0.1の関係を満たすように設定している。このように数値範囲を規定することにより、各層161、163、166、168、171、173における屈折率の低下を抑制できるという優位性を有する。Taのドープ量と粒子サイズおよび屈折率との関係について、図7および図8に示す。
【0039】
図7に示すように、Taが少しでもドープされることによって、粒子サイズが非常に大きくなることが分かる。一方、図8に示すように、Taの酸化物の屈折率は、二酸化チタンの屈折率に比べて0.15ポイント小さいことから、Taのドープ量を増やせば増やすほど屈折率は低下する。そして、x=0.1のときの屈折率は、”2.4”である。
図7および図8に示す両結果を総合的に判断し、上記組成式において、0<x≦0.1の関係を満たすように設定することが望ましい、といえる。
【0040】
(3)反応性マグネトロンDCスパッタリング法を採用することによる優位性
上記のように、本実施の形態に係る成膜においては、反応性マグネトロンDCスパッタリング法を採用している。これより、本実施の形態では、成膜中にターゲット表面に生成される反応生成物(非導電物である酸化物)をパルスの立ち下がり時に除去することができ、成膜均一性の確保とともに、エロージョンの抑制とターゲット表面より剥離するパーティクルの抑制とを図ることが可能であり、歩留まりの向上を図ることができる。
【0041】
成膜均一性に関しては、例えば、直径φ200[mm]の基板を用いる場合、膜厚および屈折率の面内均一性を、±1.5[%]以下とすることができる。具体的には、青色領域の低波長領域での消衰効果が少ないアモルファス構造の膜(アモルファス膜)を基板上の全面に形成することができる。本実施の形態に係る製造方法のように、アモルファス構造の二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173を成膜する場合には、膜厚の面内均一性をそれぞれ±1.0[%]とすることができる。また、屈折率の面内均一性については、±0.3[%]とすることができる。
【0042】
また、この膜厚および屈折率の均一性が確保された多層干渉フィルタ16を備える固体撮像装置10では、蒸着法を用いた成膜によって形成された多層干渉フィルタを有する従来の固体撮像装置に対し、感度が2倍に向上し、白キズの数が1/3に低減することができる。
さらに、本実施の形態に係る上記成膜方法では、パルス状のDC電圧を印加するので、印加されるDC電圧のパルス波形に合わせて成膜も断続的になされ、成膜の際に発生する膜中ストレスを緩和することができる。これより、本実施の形態に係る成膜方法では、多層干渉フィルタ16の形成の際のフォトダイオード13などへのダメージを低減することができる。
【0043】
なお、本実施の形態では、DCスパッタリング法を用い二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173を成膜する際に、ターゲットとして、チタンターゲットとタンタルターゲットとの2つのターゲットを使用するコスパッタ成膜法を用いることもできる。
また、上記実施の形態においては、DCスパッタリング法を採用したが、高周波交流電源を用いプラズマの発生とイオンの加速とを一緒に行う高周波(RF)スパッタリング法を用いることも可能である。このように多層干渉フィルタ16を構成する膜161〜173の形成に、RFスパッタリング法を用いた場合にあっても、上記DCスパッタリング法を用いた場合と同様に、膜厚および屈折率の面内均一性の向上を図ることができるとともに、エロージョンの抑制およびパーティクルの抑制を効果的にすることができる。また、成膜にRFスパッタリング法を用いる場合には、形成された多層干渉フィルタ16における膜応力の低減を図ることができる。
【0044】
RFスパッタリング法を採用する場合においても、上記DCスパッタリング法を採用する場合と同様に、例えば、直径φ200[mm]以上の基板に対しても高い面内均一性を以って形成された多層干渉フィルタ16を備える固体撮像装置10を、高い歩留まりで製造することができる。なお、RFスパッタリング法を用い層を形成する場合には、スパッタ成膜中にターゲット表面に生成される反応生成物(非導電物)を、逆バイアス印加の際に除去することができ、成膜均一性の確保とともに、ターゲットのエロージョンの抑制およびパーティクルの抑制とが可能となる。
【0045】
また、RFスパッタリング法を用い二酸化チタンタンタル層161、163、166、168、171、173を成膜する場合には、ターゲットとして、二酸化チタンタンタルのセラミックターゲットを用いることもできる。
(その他の事項)
上記実施の形態では、MOS型の固体撮像装置10を一例として採用したが、CCD型の固体撮像装置に対して採用することも当然可能である。また、本発明に係る多層干渉フィルタは、固体撮像装置に限らず、種々のデバイスの光学フィルタとして適用することが可能である。
【0046】
また、上記実施の形態においては、成膜条件などについて、一例を示したが、本発明は、何らこれらの条件に限定を受けるものではない。
なお、図1(b)では、固体撮像装置10における画素領域に4×4の画素101が形成されている形態を模式的に表しているが、実際の固体撮像装置10における画素101の形成数は、より多い。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、優れた光学特性を有する多層干渉フィルタを備える固体撮像装置を、高い歩留まりで、且つ、低コストに製造するのに有効な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)は、実施の形態に係るカメラ1の構成を示すブロック図であり、(b)は、固体撮像装置10の構成を示すブロック図である。
【図2】(a)は、固体撮像装置10の画素101部分の構造を示す断面図であり、(b)は、その内の多層干渉フィルタ16の構造を示す断面図である。
【図3】多層干渉フィルタ16の製造過程を示す工程断面図である。
【図4】多層干渉フィルタ16の製造過程を示す工程断面図である。
【図5】多層干渉フィルタ16の製造過程を示す工程断面図である。
【図6】多層干渉フィルタ16における二酸化チタンタンタル層168の断面を示すTEM写真である。
【図7】二酸化チタンタンタル層におけるタンタルのドープ量割合とグレインサイズとの関係を示す特性図である。
【図8】二酸化チタンタンタル層におけるタンタルのドープ量割合と屈折率との関係を示す特性図である。
【図9】従来技術に係る多層干渉フィルタの一部断面を示すTEM写真である。
【図10】従来技術に係る多層干渉フィルタにおける二酸化チタン層904の断面を示すTEM写真である。
【符号の説明】
【0049】
1.カメラ
10.固体撮像装置
11.半導体基板
12.p型半導体層
13.フォトダイオード
14.層間絶縁膜
15.遮光膜
16.多層干渉フィルタ
18.平坦化膜
19.マイクロレンズ
20.レンズ
30.色信号合成部
40.映像信号作成部
50.駆動部
101.画素
102.垂直シフトレジスタ
103.水平シフトレジスタ
104.出力アンプ
105.駆動回路
161、163、166、168、171、173.二酸化チタンタンタル層
162、167、172.二酸化シリコン層
164、165、169、170.スペーサ層
501、502、503、504.マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層が積層され、面内に膜厚が他よりも薄い領域を有する多層干渉フィルタであって、
前記複数の層は、互いに屈折率が異なる少なくとも2種類の層から構成されており、
前記薄い領域においては、前記少なくとも2種類の層の内の1種類の層が、Ti(1−x)の組成式で表される材料からなり、
前記組成式中のAが、Ta、Nb、ZrおよびWからなる群から選択される少なくとも1種の元素である
ことを特徴とする多層干渉フィルタ。
【請求項2】
前記組成式において、0<x≦0.1の関係を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の多層干渉フィルタ。
【請求項3】
前記Ti(1−x)の組成式で表される材料からなる層は、アモルファス状態で形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の多層干渉フィルタ。
【請求項4】
前記少なくとも2種類の層の中には、SiOからなる層が含まれている
ことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の多層干渉フィルタ。
【請求項5】
請求項1から4の何れかの多層干渉フィルタをカラーフィルタとして備える
ことを特徴とする固体撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−299248(P2008−299248A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147941(P2007−147941)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】