説明

多層抄き紙、積層シート及び当該積層シートの製造方法

【課題】 黒色に着色され所望の明度を有する多層抄き紙であって、表面にアンカーコートを施すことなくコロナ放電処理を施した後、樹脂層を積層した際に、充分な剥離強度を有する多層抄き紙を提供する。
【解決手段】 表層及び裏層の少なくとも2層が積層されてなる多層抄き紙であって、前記表層は、黒色着色剤としてカーボンブラック顔料及び/又は染料を含有し、前記表層側の表面の表面電気抵抗率が、10.0log(Ω/sq)以上であり、前記表層側の表面のJIS Z8722に準じて測定した明度(L値)が19〜30、色相(a値)が−1.5〜+1.5、色相(b値)が−1.5〜+1.5の範囲である、多層抄き紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色の多層抄き紙、当該多層抄き紙に樹脂層を積層させた積層シート、及び当該積層シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品用トレーの素材としては、優れた耐湿性、耐熱性、ガス透過性等が求められ、基材と基材表面に接着された樹脂層とからなる積層シートが用いられる。基材としては、セロファン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、塩ビ等のフィルム状物、紙等が用いられる。これら基材の中でも紙は、印刷適性に優れる、基材表面に接着する樹脂を広く選択することができる、耐湿性、耐熱性、ガス透過性などの機能性を付与することができる、など様々な点で加工適性に優れ、好適に使用される基材の一つである。
【0003】
この紙基材を用いる食品用トレーには、内包する食品が引き立つように、また包装材であるトレーが目立たないように、印刷が施されることが多い。特に最近は内包する食品の高級感を高めるために濃い色のもの、特に黒色のものが好まれて用いられる傾向にある。
紙を基材とする積層シートであって、黒色であるものを得る方法としては、(1)樹脂層であるフィルムにコロナ放電処理をした後、黒色の印刷を行い、黒色フィルムを得、これと基材の紙とをラミネートして積層シートを得る方法、(2)基材である紙の表面(樹脂層の接着面)に黒色印刷しアンカーコートを施した後、コロナ放電処理し、樹脂層をラミネートして積層シートを得る方法等が挙げられる。
【0004】
染色紙を得る方法として、特許文献1には、染料及び/又は顔料で染色した紙表面をスパッタエッチングする方法が記載され、この方法により通常の抄紙過程では得られないような最小限の染料でより高度に濃色化した紙、特に有彩色においては高い彩度も兼ね備えた濃色紙を製造することができると記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、4−メチル−ペンテン樹脂からなる溶融薄膜をオゾン処理した後、酸化処理した基材面、またはアンカーコート処理した基材面に圧着ラミネートすることにより、包材として充分な接着性のある積層体フィルムが得られると記載されている。
【特許文献1】特開平11−12991号公報
【特許文献2】特開平5−104694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
紙を基材とする積層シートであって、黒色のものを得る方法として、上述の(1)に記載の方法では、紙と樹脂層との接着強度が低いという問題があった。また、(2)の方法では基材にアンカーコートする工程が発生するため、アンカーコート剤の裏回りに起因するブロッキングの問題、製造コストのアップ、塗布及び乾燥工程を必要とする等の問題があった。
【0007】
基材の表面にアンカーコートを施す必要がある理由は、樹脂層との接着性を上げる、コロナ放電処理の効果が得られないためである。樹脂層との接着性を上げるために基材表面に表面処理がなされるが、基材の表面処理法として、コロナ放電処理法、オゾン処理法、プライマー処理法、フレーム処理法などが知られている。これらのうち、コロナ放電処理法は、高周波高電圧の気中で、電解内にて起きる、原子、分子、電子イオン間でのそれぞれの衝突などによって、電子エネルギーの励起(激しく動く)を物質の表面で作用させ、その表面がエネルギーを受け、表面エネルギーが高くなり活性化された状態(ラジカルな状態)とし、この活性化された状態の時に、接着することで非常に高い接着力を得る表面処理方法である。
【0008】
しかしながら、処理基材表面に導電性があるとコロナ放電処理による表面処理効果が得られない。すなわち、紙は一般的に絶縁性であるため、コロナ放電処理によりその表面を改質しフィルムなどと高い接着力で接着することができるが、黒色に着色するための黒色着色剤であるカーボンブラック顔料が紙の表面に残存すると、導電性が認められ、この場合、コロナ放電処理の効果が得られない。そのためアンカーコートを施してからコロナ放電処理を行わなければならないという問題がある。
【0009】
ここで、特許文献1には、染料及び/または顔料で染色した黒色の染色紙が記載されているものの、本願発明が対象とする黒色よりも明度が高い。また、上述したとおり特許文献1は一般の抄紙工程における染色方法とは全く異なる特別な設備による特別な処理を施す技術である。また、樹脂層を積層すること、その接着強度の問題について開示がない。
【0010】
特許文献2には、充分な接着強度を有する樹脂層の積層方法が開示されているものの、樹脂層として特定の材料を用いた場合についてのみ開示があるだけであり、また黒色に染色された紙を基材として用いることについては記載がない。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、表面が所望の黒色に着色された多層抄き紙であって、表面にアンカーコートを施すことなくコロナ放電処理を施した後、樹脂層を積層した際に、充分な接着強度(剥離強度)を有する多層抄き紙、及びその多層抄き紙の表面に樹脂層を積層した積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためには、本発明の多層抄き紙は、表層及び裏層の少なくとも2層が積層されてなる多層抄き紙であって、前記表層は、黒色着色剤としてカーボンブラック顔料及び/又は染料を含有し、前記表層側の表面の導電性が、10.0log(Ω/sq)以上であり、前記表層側の表面のJIS Z8722に準じて測定した明度(L値)が19〜30、色相(a値)が−1.5〜+1.5の範囲、色相(b値)が−1.5〜+1.5である。
【0013】
前記表層は、カーボンブラック顔料を含有する場合、好ましくは、原料パルプ100質量部に対して5質量部以下の範囲で含有する。
【0014】
前記表層側の表面のJIS P8119に規定されているベック平滑度は、好ましくは、20〜100秒である。
【0015】
また、本発明は、上述の多層抄き紙と、その表層の上に積層された樹脂層とからなる積層シートであって、前記多層抄き紙と前記樹脂層との剥離強度が120g/18mm以上である。
【0016】
さらに本発明は、上述の多層抄き紙と、その表層の上に積層された樹脂層とからなる積層シートの製造方法であって、前記多層抄き紙の前記表層側の表面にコロナ放電処理を施す工程(a)、及び前記多層抄き紙の前記表層の表面に接するように前記樹脂層を接着させる工程(b)、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、黒色に染色され所望の明度である多層抄き紙であって、表面に直接コロナ放電処理を施し樹脂層を積層した場合であっても、充分な剥離強度を有する多層抄き紙、及び黒色に染色され所望の明度を有する多層抄き紙と、樹脂層とが充分な強度で接着され積層されている積層シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0019】
本発明は、表層及び裏層の少なくとも2層が積層されてなる多層抄き紙であって、前記表層は、黒色着色剤としてカーボンブラック顔料及び/又は染料を含有し、前記表層側の表面の表面電気抵抗率が、10.0log(Ω/sq)以上であり、前記表層側の表面のJIS Z8722に準じて測定した明度(L値)が19〜30、色相(a値)が−1.5〜+1.5、色相(b値)が−1.5〜+1.5の範囲である。L値は明るさの程度を表し値が大きいと明るいことを表す。a値は赤味とみどり味の強さを表し、プラス側で値が大きいと赤味が強く、マイナス側で値が大きいとみどり味が強い。また、b値は黄色味と青味の強さを表し、プラス側で値が大きいと黄色味が強く、マイナス側で値が大きいと青味が強いことを表す。以下では、表層、中層、及び裏層の3層の多層抄き紙、かかる多層抄き紙に樹脂層を積層してなる積層シート、及びかかる積層シートを加工してなる食品用トレーの実施形態を説明する。
【0020】
(カーボンブラック)
本発明において、表層の黒色着色剤としてカーボンブラックが用いられる場合、カーボンブラックとしては、例えば、ランプブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等を使用することができる。本発明において用いられるカーボンブラックとしては限定されないが、抄紙した際に良好に繊維中に保持されるものが好ましく、中でも粒子径が小さく、着色性が良好であることから、ファーネスブラックが好ましく用いられる。
【0021】
なお、アセチレンガスの熱分解によって得られたカーボンブラック(アセチレンブラック)は結晶性が高く、カーボンブラックの中でも導電性に優れることから本発明においては好ましくない。
【0022】
使用するカーボンブラックの形態としては、粉末、ペースト状、水分散状等があるが、抄紙する際に繊維スラリーに分散させて用いることが好ましいことから、水分散状のものを用いることが好ましい。カーボンブラックの水分散状のものは、フミン酸塩、界面活性剤などを用いて公知の手法により得られる。各カーボンブラック粒子の粒子形状は、特に限定されないが、一般的には球状であり、串に刺した団子あるいはぶどうに形容される凝集体を形成しており、導電性を有する。カーボンブラック粒子の粒径は、20〜100nmが好ましい。カーボンブラック粒子の粒径が20nmより小さいと、透明度が高く着色力が低下する。100nmを超えると、黒度が低下し、水中への分散性、紙への定着性が悪くなり好ましくない。
【0023】
具体的には、御国色素株式会社製のグランドブラックYT―100、グランドブラックAM1000、大日精化工業株式会社製のDP−1731、三菱化学株式会社製のカーボンブラック#40などが好適に使用できる。
【0024】
(染料)
本発明において、表層の黒色着色剤として染料が用いられる場合、染料としては、例えば、アニオン性直接染料、カチオン性直接染料、塩基性染料、酸性染料等を使用することができる。
【0025】
アニオン性直接染料は、元来セルロース繊維染色の目的に作られたもので、中性塩を含む染浴から直接にセルロース繊維に染着する。化学構造からみると、アゾ、スチルベン、チアゾール、ジオキサジン、フタロシアニン等に分けられる。アニオン性直接染料としては、アゾ基(−N=N−)を発色団として持つアゾ染料からなるものが一般的であるが、任意のアニオン性直接染料を用いることができる。カチオン性直接染料とは、発色団の末端がカチオン基になったもので、例えば、分子中にスルホン基、フェノール性水酸基、カルボキシル基などをもち、ナトリウム、カリウムまたはアンモニウム塩の形となった分子構造の染料である。
【0026】
塩基性染料は、助色団としてアミノ基NH2や置換アミノ基NHR、NR2を持ち、水溶液はカチオン性で、鮮明で、染着力が大きい。カチオン性であるためパルプに含まれるリグニンとイオン結合し染着する。酸性染料は、分子中にスルホン基、フェノール性水酸基、カルボキシル基等をもち水溶性で溶液はアニオン性を示す。一般に溶解性の優れるものが多く、鮮明度は塩基性染料に次いで高い。酸性染料は羊毛、ナイロン繊維等に汎用される染料で、セルロースに対する親和性は低い。しかし、パルプ染色では通常硫酸バンドを添加するので、硫酸バンドで染料が不溶性の塩となりパルプに吸着される。
【0027】
本発明に用いる染料としては、パルプに対する高親和性による染着が可能であり、染着力に優れるアニオン性直接染料、カチオン性直接染料を使用することが好ましい。例えば、攪拌装置を有する染色用バッチ槽内での染着に、アニオン性直接染料を使用し、色の微調整にはカチオン性直接染料を用いる。
【0028】
(定着剤)
染料の定着剤として、硫酸バンド、澱粉、ポリアクリルアマイドなどが用いられる。本願発明における所望の明度、色相に調整するためには、染料添加量も多くなる。そこで、本願発明においては特に染料の定着性を向上させるために、第4級アンモニウム塩、ピリジウム塩、ジシアンジアミド・ホルムアルデヒド縮合物、ポリアミン系重合物等の定着剤を用いることが好ましい。例えば、アニオン性直接染料、カーボンブラック用いずれの定着剤としてもポリアミン系重合物の定着剤を用いることができる。染料用の定着剤は、染料100重量部に対して、好ましくは1.5質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以下で添加する。なお、染料を添加した場合であっても、染料用定着剤は必ずしも添加しなくてもよい。カーボンブラック等の顔料用はカチオン度が低いものが好ましく、アニオン性直接染料用にはカチオン度の高い定着剤が好ましい。顔料用の定着剤は、顔料100重量部に対して、好ましくは1.5質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以下で添加する。なお、顔料を添加した場合であっても、顔料用定着剤は必ずしも添加しなくてもよい。
【0029】
染料用定着剤としては、具体的には、クラリアントジャパン株式会社製のサンドフィックスTPS、大日精化工業株式会社製のダイフィックスなどが好適に使用できる。顔料用定着剤としては、具体的には、クラリアントジャパン株式会社製のカルタレチンFリキッドが好適に使用できる。
【0030】
(原料パルプ)
本実施形態の多層抄き紙の各層に用いられる原料パルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、切茶古紙、無地茶古紙、雑袋古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、または離解・脱墨・漂白古紙パルプ、あるいは、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを使用することができる。
【0031】
(表層)
本実施形態の多層抄き紙の表層は、1)その上に積層される樹脂層を高強度で接着させる、2)多層抄き紙の表面の色を決定する、等の役目を担う層である。なお、表層は、多層抄き紙が食品用トレーに加工される際には、食品が内包される側の面とする。表層の原料パルプとしては限定されることなく、例えば上記に例示したパルプの中から選択することができるが、最表層として適した特性を有しつつ、食品用トレーとして加工して用いられる場合には、食品用トレーとしての品質特性等をバランスよく効率的に達成するために、LBKP、NBKP、LUKP、NUKP、LSBKP、NSBKP、あるいは切茶古紙、無地茶古紙、雑袋古紙から製造された古紙パルプを用いることが好ましい。
【0032】
原料パルプに、カーボンブラック顔料及び/または染料からなる黒色着色剤を内添または外添させて黒色着色する。好ましくは、原料パルプ等の紙原料を水に懸濁した原料スラリーに、カーボンブラック顔料及び/又は染料を内添、すなわち溶解または懸濁させ、これを用いて抄紙することにより黒色の表層を得る。
【0033】
表層は、前記カーボンブラック顔料を原料パルプ100質量部に対して5質量部以下の範囲で含有することが好ましく、3質量部以下の範囲で含有することがより好ましい。5質量部を超えてカーボンブラック顔料を含有する場合、表層の表面電気抵抗率が小さくなり、後述のコロナ放電処理の効果が得られにくくなるからである。
【0034】
表層は、付け量(坪量)が20〜40g/m2となるように抄紙することが好ましい。より好ましくは23〜35g/m2となるように抄紙することがより好ましい。付量が20g/m2を下回ると隠蔽性(不透明度)、見栄えが悪くなる。また、顔料及び/又は染料を添加してもその定着性が悪く、所望の明度、色相にすることが難しくなる。また、40g/m2を超えると見栄えはよくなるが、着色パルプを使用するため経済性が悪くなる。表層の付量は、見栄え、経済性の点から23〜35g/m2に調整することがより好ましい。
【0035】
(裏層)
本実施形態の多層抄き紙の裏層は、1)多層抄き紙全体の強度を調整する、2)印刷を施す際には、印刷適性を確保する、等の役目を担う層である。裏層の原料パルプとしては限定されることはなく、例えば上記(原料パルプ)に例示したパルプの中から選択することができる。これらの中でも特に、裏層として適した特性を有しつつ、食品用トレーとしてとしての各種品質特性等をバランスよく、効率的に達成するためにLBKP、NBKP、LUKP、NUKP、LSBKP、NSBKP、あるいは地券古紙、切茶古紙、無地茶古紙、雑袋古紙から製造された古紙パルプを用いることが好ましい。
【0036】
裏層の原料パルプについても、染料及び/または顔料を内添または外添することにより着色してもよい。
【0037】
(中層)
本実施形態の多層抄き紙の中層は、1)多層抄き紙全体の強度を調整する、2)安価な古紙パルプを使用できる等の役目を担う層である。中層は、これらの中でも特に1)の役割、すなわち必要な強度を得る役割が大きい。中層の原料パルプとしては、限定されることはなく、例えば上記に例示したパルプの中から選択することができるが、古紙パルプを可能な限り多く配合することが、エネルギー源単位や環境に与える負荷の軽減の点から好ましい。古紙パルプとしては、地券古紙、切茶古紙、無地茶古紙、雑袋古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、または離解・脱墨・漂白古紙パルプ等を使用することができる。これらの古紙パルプの中でも特に、紙袋の中層の隠蔽効果、各種品質特性をバランスよく、効率的に得るために、引張強度や引裂強度などが高く、地券古紙、切茶古紙、無地茶古紙、雑袋古紙から製造される古紙パルプを用いることが好ましい。
【0038】
(抄紙)
上述の各層の原料スラリーに、上述の顔料及び/または染料とともに、さらに硫酸バンド、他の定着剤、サイズ剤等の添加剤を加え、3層抄紙機によって抄紙する。なお、原料スラリーに紙力増強剤を内添させたり、抄紙時に紙力増強剤を噴霧したりしてもよい。
【0039】
(多層抄き紙)
本発明の多層抄き紙は、表層側の表面の表面電気抵抗率が、10.0log(Ω/sq)以上となるようにする。好ましくは、11.0log(Ω/sq)以上、さらに好ましくは12.0log(Ω/sq)以上である。表層の表面抵抗率が小さくなると、後述のコロナ放電処理の効果が得られにくくなるからである。また、表層側の表面のJIS Z8722に準じて測定した明度(L値)が19〜30、色相(a値)が−1.5〜+1.5、色相(b値)が−1.5〜+1.5の範囲となるようにする。明度(L値)が低い程濃い色であり、色相(a値)及び色相(b値)がゼロに近い程無彩色となり黒度が高いということになる。本発明は、黒色を呈しながら、すなわち、明度(L値)、色相(a値)及び色相(b値)が上記範囲内の値をとりながら、コロナ放電処理の効果が得られ、樹脂層の積層が容易な多層抄き紙を提供するものである。
【0040】
本発明の多層抄き紙は、表層側の表面のJIS P8119に規定されているベック平滑度が、20〜100秒となるように調整することが好ましい。さらに好ましくは30〜60秒、より好ましくは35〜50秒となるように調整する。多層抄き紙の表面平滑度は、使用するパルプの種類、叩解度により調整することができる。ベック平滑度が20秒未満であると多層抄き紙とその上に積層される樹脂層との間の接着性が低下する。多層抄き紙と樹脂層との接触面積が充分ではないためと考えられる。ベック平滑度が100秒を超える場合は、多層抄き紙と樹脂層との接着性は向上するが、パルプ繊維径が小さいパルプを使用する、パルプの叩解度を進める、抄紙時のプレス工程やカレンダー工程で高い圧力で紙を平坦化処理するなどが必要となり、食品用トレーなどの素材として使用するに多層抄き紙の強度が低下し、また紙厚が薄くなることにより剛性が低下するなどの問題がある。すなわち、食品用トレーなどの素材として好ましいトレー加工適性、品質が得られるという点から、前記ベック平滑度は、より好ましくは30〜60秒とする。
【0041】
本発明の多層抄き紙の坪量は、特に限定されるものではないが、例えば100〜360g/mが好ましく、100〜290g/mであるとより好ましい。坪量が100g/m未満であると、多層での構成が困難となる。一方、坪量が360g/mを超えると、厚みが厚くなりすぎるため、食品用トレーの加工に適さない。本明細書において坪量とは、JIS−P8113に準拠して測定した値をいう。
【0042】
(積層シート)
本発明の積層シートは、上述のような多層抄き紙の表層上に、樹脂層が積層されてなる。多層抄き紙の表面には、コロナ放電処理を施す。工程が簡略化されることから、多層抄き紙の表面に、アンカーコート層を施さずに直接、すなわち、表層の表面に直接コロナ放電処理を施すことが好ましい。コロナ放電処理においては、好ましくは10ワット・分/m以上、より好ましくは30ワット・分/m以上で放電を行う。
【0043】
樹脂層の積層には、押し出しラミネート法、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、共押し出しラミネート法などがあるが、樹脂層と多層抄き紙との高い接着性を得るために、押出ラミネート法、共押し出しラミネート法が好ましい。また、Tダイ共押出法と併用し多層フィルムを成型することも好ましい。
【0044】
樹脂層を形成する樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等を用いることができる。積層シートにおける樹脂層の厚さは、例えば、3〜100μm、好ましくは10〜50μmである。
本発明の積層シートにおいて、多層抄き紙と前記樹脂層との剥離強度が好ましくは120g/18mm以上、さらに好ましくは140g/18mm以上、より好ましくは160g/18mm以上とする。なお、本明細書でいう剥離強度の値は、後述の実施例の欄に示す剥離強度の測定方法による。
【0045】
(食品用トレー)
本実施形態の食品用トレーは、上述のような積層シートを加工して製造し、刺身、切身魚、サラダなどの生鮮食品、あるいは煮物、焼物などの惣菜等の食品を盛付け販売する際、野菜、果物を包装する際などに使用する食品トレーとして使用できる。
【0046】
(他の実施形態)
上記実施形態においては、表層、裏層、及び中層の3層の紙層からなる多層抄き紙について説明したが、本発明はこのような多層抄き紙に限らず、この他、例えば表層、表下層、中層、及び裏層の4層の紙層を有する多層抄き紙、さらには5層以上の紙層を有していても良い。また、本発明にかかる積層シートの用途として、上述のような食品用トレー以外に、カップや紙皿、防湿紙、封筒等の各種包材、またはファイル用紙、各種台紙等の用途が例示される。
【実施例】
【0047】
実施例1〜23、比較例1〜3の積層シートを製造し、下記に示す評価を行った。各積層シートは、表層、表下層、中層、及び裏層からなる多層抄き紙と樹脂層とが積層されてなる構成とした。
【0048】
(実施例1) 以下のとおり、実施例1の多層抄き紙を得た。
<1>表層
原料パルプとしてLBKPを用い、パルプ濃度が3.5質量%であり、離解フリーネスが320mLの原料スラリーを調製した。この原料スラリーに、以下工程のとおり顔料、染料、定着剤を添加した。(1)顔料用定着剤(商品名:カルタレチンFリキッド、クラリアントジャパン株式会社製)をカーボンブラック顔料100質量部に対して0.5質量部添加し、次にカーボンブラック(商品名:グランドブラックYT―100、御国色素株式会社製)を原料パルプ100質量部に対して1.5質量部添加した。(2)原料スラリーに、アニオン性直接染料A(商品名:デルマカーボンBFN、クラリアントジャパン株式会社製)と、アニオン性直接染料B(商品名:TOAレッド2BP、東亜化成株式会社製)と、アニオン性直接染料C(商品名:イエローRNH、井上化学株式会社製)とを27:5.3:9.9の質量比で混合した染料を原料パルプ100質量部に対して4質量部添加して3分間攪拌し、その後硫酸バンドを原料パルプ100質量部に対して4質量部添加して3分間攪拌し、さらに染料定着剤(商品名:サンドフィックスTPS、クラリアントジャパン株式会社製)を染料100質量部に対して0.5質量部添加して3分間攪拌した。
【0049】
また、所望の明度及び色相を得るために、色の微調整用として染料D(商品名:ターキスK−RLリキッド、クラリアントジャパン株式会社製)、染料E(商品名:レッドK2BNリキッド、クラリアントジャパン株式会社製)を使用した。
【0050】
以上の工程により、表層用スラリーを調製した。
<2>裏層、表下層、中層
原料パルプとして地券古紙を用い、パルプ濃度が2.0質量%、離解フリーネスが430mLの原料スラリーを調製した。この原料スラリーに、原料パルプ100質量部に対して硫酸バンドを4質量部添加した。その他、紙力増強剤、サイズ剤を添加し調製したものを、裏層用スラリー、表下層用スラリー、中層用スラリーとした。
【0051】
<3>抄紙 これらの原料スラリーを用い、円網4層抄紙機にて表層、表下層、中層及び裏層の紙層を抄き合わせて、その後プレスし乾燥させ、カレンダー処理を施して坪量120g/mの多層抄き紙を製造した。各層の付け量は、表層を28g/m、表下層を30g/m、中層を30g/m、裏層を32g/mとなるように調整した。
【0052】
(実施例2)
黒色着色剤としてカーボンブラック顔料を添加しなかったこと、及び顔料用定着剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様に製造した。
【0053】
(実施例3〜5)
カーボンブラック顔料を表1のとおり変更したこと以外は実施例1と同様に製造した。
【0054】
(実施例6〜9)
顔料用定着剤、染料用定着剤を表1のとおり変更したこと以外は実施例1と同様に製造した。
【0055】
(実施例10〜15)
表層付け量を表1のとおり変更したこと以外は実施例1と同様に製造した。なお、各層の合計坪量は120g/mとなるように中層、裏層の坪量を均等に調整した。
【0056】
(実施例16〜23)
平滑度を表1のとおり変更したこと以外は実施例1と同様に製造した。
【0057】
(比較例1、2)
カーボンブラック顔料を表1のとおり変更したこと以外は実施例1と同様に製造した。
【0058】
(比較例3)
染料を表1のとおり変更したこと以外は実施例1と同様に製造した。 (多層抄き紙の評価)
【0059】
<1>坪量の測定 JIS−P8113に準拠して測定した。
【0060】
<2>明度(L)、色相(a値)および色相(b値)の測定
各実施例及び各比較例の多層抄き紙について、JIS−Z8722に準拠した明度(L)、色相(a値)および色相(b値)を、測色色差計(ZE2000、日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0061】
<3>表面平滑度の測定
各実施例及び各比較例の抄き紙について、JIS−P8119に準拠してベック平滑度を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
<4>表面電気抵抗率の測定
各実施例及び各比較例の抄き紙について、JIS−K6911に準拠した表面電気抵抗率を、抵抗測定計(ULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A、株式会社アドバンテスト製)を用いて測定した。測定した値を常用対数で表した。結果を表1に示す。
【0063】
<5>顔料/染料の定着性評価
実施例1〜23、比較例1〜3を抄紙時のワイヤーした白水を以下の基準にて官能評価した。結果を表1に示す。
◎:白水の着色量は非常に少なく、顔料/染料の定着性が非常に良好である。
○:白水の着色量は少なく、顔料/染料の定着性が良好であり、連続操業にも適する。
△:白水の着色量が濃く、顔料/染料の定着性が悪く、連続操業に問題がある。
×:白水の着色量が非常に濃く、顔料/染料の定着性が不良である。連続操業には適さない。
【0064】
<6>紙面の見栄え
実施例1〜23、比較例1〜3で得た多層抄き紙の表面の見栄えを以下の基準にて官能評価した。結果を表1に示す。◎、○評価は十分に実用可能レベルである。△評価は、実用可能であるが改善が必要である、×評価は実用レベルにない。
◎:地合いに優れ、色むらがなく、非常に良好な見栄えである。
○:地合い、色むらがなく、良好な見栄えである。
△:地合いが悪く、色むらも見られ、改善が必要である。
×:地合いが悪く、色むらが酷く、実用レベルに適さない。
【0065】
(積層シートの製造)
押出ラミネートの操出部に設置した各実施例及び各比較例の多層抄き紙の表層側の表面にコロナ放電処理を施し、かかる処理面にポリエチレンテレフタレートからなる樹脂層を20μmの厚さでラミネート加工を行ない、積層シートを製造した。
【0066】
(積層シートの評価)
<1>剥離強度の測定
得られた積層シートについて、多層抄き紙と樹脂層との剥離強度を以下の方法により測定した。樹脂層表面に、多層抄き紙の流れ方向にセロハンテープ(18mm巾×20cm)を貼り(15mmはみ出して貼る)、カッターナイフでセロハンテープに沿って切り目を入れ、樹脂層を接着したセロハンテープを樹脂層と多層抄き紙との接着面から剥がした。吊した重量ばね測りの治具とテープを貼り付け、180度反対方向に引張り、その時の加重を読み取り剥離強度とした。結果を表1に示す。
【0067】
<2>トレー加工適性
各実施例及び各比較例の積層シートを段ボールシートの表原紙として用い、市販の中芯(坪量115g/m)と、裏原紙として市販のライナー(120g/m)とを貼合して段ボールシートに加工した。この段ボールシートを表原紙が内面となるように深絞り成形しトレーを製造した。製造したトレーの断裁面、折り曲げ部を観察し以下の基準により官能評価した。結果を表1に示す。◎、○評価は十分に実用可能レベルである。△評価は、実用可能であるが改善が必要である。×評価は実用レベルにない。
◎:多層抄き紙と樹脂層が強固に接着し、非常に良好である。
○:多層抄き紙と樹脂層間に浮き、剥れがない。
△:多層抄き紙と樹脂層間に浮きが、数箇所ある。
×:多層抄き紙と樹脂層間に浮き、剥れ箇所が多数あり、実用レベルにない。
【0068】
【表1】

表1からわかるように、カーボンブラック顔料を5質量%より大きい値で含有し、表面電気抵抗率が10.0log(Ω/sq)以上より低い比較例1、比較例2においては、剥離(接着)強度が低く、またトレー加工適性が低かった。比較例3は明度(L値)が高く、19〜30の範囲にある所望の明度(L値)が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の多層抄き紙は、黒色表面を有する包材として有用であり、樹脂層を積層させ積層シートを構成することにより、黒色表面を有する、例えば食品用トレー等の包材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層及び裏層の少なくとも2層が積層されてなる多層抄き紙であって、
前記表層は、黒色着色剤としてカーボンブラック顔料及び/又は染料を含有し、
前記表層側の表面の表面電気抵抗率が、10.0log(Ω/sq)以上であり、
前記表層側の表面のJIS Z8722に準じて測定した明度(L値)が19〜30、色相(a値)が−1.5〜+1.5、色相(b値)が−1.5〜+1.5の範囲である、多層抄き紙。
【請求項2】
前記表層は、前記カーボンブラック顔料を原料パルプ100質量部に対して5質量部以下の範囲で含有する、請求項1に記載の多層抄き紙。
【請求項3】
前記表層側の表面のJIS P8119に規定されているベック平滑度が、20〜100秒である、請求項1または2に記載の多層抄き紙。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載の多層抄き紙と、前記多層抄き紙の表層の上に積層された樹脂層とからなる積層シートであって、
前記多層抄き紙と前記樹脂層との剥離強度が120g/18mm以上である、積層シート。
【請求項5】
請求項1乃至3いずれかに記載の多層抄き紙と、前記多層抄き紙の表層の上に積層された樹脂層とからなる積層シートの製造方法であって、
前記多層抄き紙の前記表層側の表面にコロナ放電処理を施す工程(a)、及び
前記多層抄き紙の前記表層の表面に接するように前記樹脂層を接着させる工程(b)、を有する、積層シートの製造方法。

【公開番号】特開2009−30186(P2009−30186A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193005(P2007−193005)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】