説明

多層構造の有機薄膜を有する光電素子、その製造方法、及び太陽電池

【課題】 有機薄膜を用いた光電変換技術に関し、高効率の発電特性を発揮する光電素子及び太陽電池に関する。
【解決手段】 光電素子(31)を構成する複合層(11)が、光エネルギーを捕集して励起する光増感基を含む第1光捕集膜(A1)と、この光増感基に電子を供与する電子供与基を含む第1正孔輸送膜(P1)と、第n−1光捕集膜(An-1)を通過した光エネルギーを捕集して励起する光増感基を含む第n光捕集膜(An)と、第n光捕集膜(An)及び第n−1光捕集膜(An-1)に挟持され、励起した前記光増感基に電子を供与する電子供与基を含む第n正孔輸送膜(Pn)と、第n−1光捕集膜(An-1)及び第n光捕集膜(An)を連結する光捕集膜連結子(41)と、第n−1正孔輸送膜(Pn-1)及び第n正孔輸送膜(Pn)を連結する正孔輸送膜連結子(42)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜を用いた光電変換技術に関し、特に、この有機薄膜が多層構造を有してなる光電素子、その製造方法及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
図13は、従来の有機薄膜を用いた光電素子を示す概要図で、(a)は第1従来例の構成及び発電原理を示し、(b)は第2従来例の構成を示す。
図13(a)に示すように、従来の光電素子38は、ガラス等の透明な支持体に蒸着された透明電極(電極23)の上に、電子供与性を有する有機半導体膜からなる正孔輸送層Pxと、入射する光線Rの光エネルギーを吸収して励起する光増感基を含む光捕集層Axと、電子受容性を有する有機半導体膜からなる電子輸送層Nxとが積層され、さらにその上に対向電極(電極24)を配置して構成されたものが知られている。なお、前記した正孔輸送層Px及び電子輸送層Nxは、それぞれ積層される順番が逆であったり、またいずれか一方のみが積層されたりする場合もあり得る(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
次に、図13(a)に示される、従来の光電素子38の動作メカニズムについて説明する。まず、光線Rが透明電極(電極23)に入射して光捕集層Axに吸収されると、これに含まれる光増感基は励起して、図13(a)に示されるように、界面近傍には正孔・電子対27,27…が生成する。
すると、正孔輸送層Pxとの界面近傍で生成した正孔・電子対27,27…からは、正孔(+)が電荷分離して正孔輸送層Pxへと取り込まれることになる。そして、取り込まれた正孔(+)は、正孔輸送層Pxを媒介して電極23に輸送される。
【0004】
一方、発生した正孔・電子対27のうち、この正孔(+)が電荷分離した後に残った電子(−)は、光捕集層Axの内部を移動して電子輸送層Nxとの界面(反対界面という)に到達する。そして、反対界面に到達できた電子(−)は、電子輸送層Nxを媒介して電極24に輸送される。
【0005】
同様に、電子輸送層Nxとの界面近傍で励起した正孔・電子対27,27…からは、電子(−)が電荷分離して電子輸送層Nxへと取り込まれることになる。そして、取り込まれた電子(−)は、電子輸送層Nxを媒介して電極24に輸送される。一方、発生した正孔・電子対27のうち、この電子(−)が電荷分離した後に残った正孔(+)は、光捕集層Axの内部を移動して正孔輸送層Pxとの界面(反対界面という)に到達する。そして、反対界面に到達できた正孔(+)は、正孔輸送層Pxを媒介して電極23に輸送される。
【0006】
このように、正孔輸送層Px及び電子輸送層Nxとの界面で発生した正孔・電子対27,27…のうち、電荷分離後に光捕集層Ax内部を移動して反対界面に到達できた正孔(+)及び電子(−)は、電極23,24に輸送されて両極間に電位を発生させることになる。そして、電極23,24間を図示しない外部負荷を経由させて短絡し、光線Rを照射させれば、光電素子38は発電し連続的な電力が出力され続ける。
【0007】
ところで、光電素子38を高効率で発電させるため、従来において、次のような観点から取り組みが行なわれていた。すなわち、光線Rを透過させることなく光エネルギーの吸収率を向上させることと、光捕集層Axの内部における電子(−)または/及び正孔(+)の移動を円滑にすることを目的とするものである。
具体的には、各層(正孔輸送層Px、光捕集層Ax、電子輸送層Nx)の層厚を最適化することや、図13(b)に示すように、光捕集層Ax´における正孔(+)または電子(−)の伝導特性の向上のため、光捕集層Ax´中に、それぞれ正孔輸送層Pxの成分H、または電子輸送層Nxの成分を混合させるといった試みである。
【特許文献1】特開平7−240530号公報
【特許文献2】特開平5−259493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、光線Rが光電素子38を透過しないようにして、その光エネルギーを高効率で吸収しようとすれば、光捕集層Ax(図13a参照)の層厚を増加させることが考えられる。しかし、光捕集層Axの層厚が増加することは、光捕集層Axに隣接する2つの層(正孔輸送層Px、電子輸送層Nx)の界面が隔てられることとなり、界面で発生し互いの反対界面に向かう電子(−)及び正孔(+)の円滑な移動が妨げられるといった問題が発生する。このため、光捕集層Axの層厚を増加させることは、必ずしも、光電素子38を高効率で発電させることに結びつかない。
【0009】
一方で、すでに図13(b)を参照して説明したような試みは、光捕集層Axの内部における正孔(+)または電子(−)の伝導性の向上に寄与するため、前記したような光捕集層Axの層厚が増加することに付随して発生する問題の解決策になり得る。しかし、実験的に明らかなことは、そのような試みは、従来の光電素子38の発電効率を期待されるレベルまで画期的に向上させることは不可能であることである。
【0010】
本発明は、従来の光電素子38の発電効率を画期的に向上させることを目的としてなされたものであり、光捕集層Axの多重化と、正孔輸送膜あるいは電子輸送膜との複合化とにより、高効率の発電特性を発揮する光電素子及び太陽電池を提供することを課題にする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するための第1発明は、複合層と、この複合層の両面に配置される一対の電極とを有する光電素子において、前記複合層は、光エネルギーを捕集して励起する光増感基を含む第1光捕集膜と、この第1光捕集膜に隣接し、励起した前記光増感基に電子を供与する電子供与基を含む第1正孔輸送膜と、第n−1光捕集膜を通過した光エネルギーを捕集して励起する光増感基を含む第n光捕集膜(n=2,3…)と、前記第n光捕集膜及び前記第n−1光捕集膜に挟持され、励起した前記光増感基に電子を供与する電子供与基を含む第n正孔輸送膜(n=2,3…)と、前記第n正孔輸送膜を貫通して、前記第n−1光捕集膜及び前記第n光捕集膜の間を連結する光捕集膜連結子と、前記第n−1光捕集膜を貫通して、第n−1正孔輸送膜及び前記第n正孔輸送膜の間を連結する正孔輸送膜連結子と、を含むことを特徴とする。
【0012】
さらに、前記した課題を解決するための第2発明は、複合層と、この複合層の両面に配置される一対の電極とを有する光電素子において、前記複合層は、光エネルギーを捕集して励起する光増感基を含む第1光捕集膜と、この第1光捕集膜に隣接し、励起した前記光増感基から電子が受容される電子受容基を含む第1電子輸送膜と、第n−1光捕集膜を通過した光エネルギーを捕集して励起する光増感基を含む第n光捕集膜(n=2,3…)と、前記第n光捕集膜の両面にそれぞれ配置され、励起した前記光増感基から電子が受容される電子受容基を含む第n電子輸送膜及び第n−1電子輸送膜と、前記第n−1電子輸送膜を貫通して、第n−1光捕集膜及び前記第n光捕集膜の間を連結する光捕集膜連結子と、前記第n光捕集膜を貫通して、前記第n−1電子輸送膜及び第n電子輸送膜の間を連結する電子輸送膜連結子と、を含むことを特徴とする。
【0013】
このように発明が構成されることにより、光捕集膜の界面で電子・正孔対の電荷分離によって発生した電子または/及び正孔は、複合層の内部を円滑に移動して電極にたどりつくことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光電素子に入射した光線の光エネルギーは、高効率で電気エネルギーに変換されることとなり、高効率の発電特性を発揮する光電素子及び太陽電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、第1実施形態にかかる光電素子31を示す概念図である。
図2は、交互吸着膜の製造原理(交互吸着法)を説明する概念図である。
図3は、交互吸着膜の製造工程を説明する概念図である。
図4は、本発明の太陽電池を示す断面図である。
【0016】
図1(a)に示すように、第1実施形態にかかる光電素子31は、一対の電極21,22が、複合層11a(11)と、電子輸送層Nxとを挟むようにして構成される。そして、この複合層11は、複数の正孔輸送膜P(P1,P2…Pn-1,Pn)及び光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)が交互に積層されて多層構造を有している。
なお以降において、個々の正孔輸送膜、または光捕集膜を特定して指すときは、第1正孔輸送膜P1,第2正孔輸送膜P2,…、または第1光捕集膜A1のように示し、特定せずに指すときは、単に、正孔輸送膜P、光捕集膜Aのように示す。
【0017】
さらに、nが2以上の自然数であるとして、光捕集膜An-1の両側に接して隣り合う正孔輸送膜Pn-1と正孔輸送膜Pnとは、複数の正孔輸送膜連結子42,42…により連結されている。また、これら正孔輸送膜連結子42,42…は、その両端がそれぞれ接続している正孔輸送膜Pn-1または正孔輸送膜Pnと同じ材質からなり、異材質の光捕集膜An-1の膜面を貫通している。
そして、同様に、nが2以上の自然数であるとして、正孔輸送膜Pnの両側に接して隣り合う光捕集膜An-1と光捕集膜Anとは、複数の光捕集膜連結子41,41…により連結されている。また、これら光捕集膜連結子41,41…は、その両端がそれぞれ接続している光捕集膜An-1または光捕集膜Anと同じ材質からなり、異材質の正孔輸送膜Pnの膜面を貫通している。
なお、これら連結子41,42は、介在する異種膜を物理的に貫通して同種の膜を連結する場合に限定されることはなく、後記するように、電子や正孔等の電気的エネルギーの輸送担体または光励起エネルギーの輸送担体を膜から膜へ伝達するための中継手段として機能するものであればすべて含まれることとする。
【0018】
ここで、電極21,22のうち光線(図示せず)が入射するいずれか一方の電極は、光線に対する透過性と、電気伝導性とを併せ持つ物質からなる透明電極である。そして、対向する電極は、電気伝導性の高い金属物質であったり、透明電極であったりする。
【0019】
そして、光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)は、それぞれ光線の光エネルギーを吸収すると励起する光増感基が官能基として付加されている有機薄膜である。ところで、光増感基が励起しているとは、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)にある1対の電子がLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)に上がった状態を指している。このような励起状態にある光増感基は、隣り合う光増感基の間でエネルギーの受け渡しを可能にする。このため、光捕集膜Aは、エネルギーを一方の界面から反対界面に向けて移動させることが可能となっている。
【0020】
そして、正孔輸送膜P(P1,P2…Pn-1,Pn)は、電子を自らの側から押し出そうとする性質を有する電子供与基が官能基として付加されている有機薄膜である。この正孔輸送膜Pは、それぞれに隣接する光捕集膜Aとの界面において、光エネルギーを吸収すると発生する電子・正孔対に電子を供与することにより正孔(+)を電荷分離して受容するものである。このように受容された正孔(+)は、正孔輸送膜連結子42を伝って、正孔輸送膜P(P1,P2…Pn-1,Pn)の内部を移動し、隣接する電極21に導かれる。
そして、第n光捕集膜Anと電子輸送層Nxの界面に発生した電子・正孔対から電荷分離された正孔(+)も、正孔輸送膜P(P1,P2…Pn-1,Pn)の内部を移動し、隣接する電極21に導かれることになる。
【0021】
電子輸送層Nxは、電子を自らの側に引き寄せようとする電子受容基が含まれる有機層または無機層である。この電子輸送層Nxは、第n光捕集膜Anとの界面に生成した電子(−)を受容して電極22に輸送するものである。
なお、この電子輸送層Nxは、複合層11に対して、後記するような交互吸着法、その他塗布・蒸着等の物理的あるいは化学的な手段により設けられるものである。
【0022】
ところで、光電素子31における発電効率を向上させるための条件は、光捕集膜Aの界面において電子・正孔対を効率よく発生させることと、複合層11の内部を反対界面に向かう電子及び正孔の移動を円滑にすすめることである。
そのためには、複合層11は、光捕集膜Aと、正孔輸送膜Pとが多層を形成しているとともに、界面と反対界面との行程が電荷分離によって発生した正孔及び電子が再結合により消滅せずに伝達されるのに必要十分な距離であることが望まれる。
【0023】
このような条件を実現するためにとり得る複合層11は、その層厚が1nm〜200nm、好ましくは5〜100nmで、正孔輸送膜P(P1,P2…Pn-1,Pn)及び光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)のそれぞれの膜厚は、0.5nm〜30nm、好ましくは1nm〜10nmで、前記した層厚を超えない範囲で複数の光捕集膜Aが正孔輸送膜Pと交互に積層されている構成をとるものである。
【0024】
このように、複合層11の構成要素が前記したような範囲の寸法をとることが望ましいのは次の通りである。正孔輸送膜P(P1,P2…Pn-1,Pn)及び光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)のそれぞれの膜厚の下限が0.5nmであることは、それよりも薄く膜を構成させることは物理的に不可能なことにより、上限が30nmであることは、それより厚くするとこれを貫通し両端面に接する2つの膜を連結する連結子が長くなり、内部抵抗が増大して発電効率が低下することによる。
【0025】
また複合層11の層厚の下限が1nmであることは、それよりも薄く複合層11を構成させることは、入射する光線の光エネルギーのうち電気エネルギーに変換されないまま透過してしまう割合が高くなり発電の効率が低下するからである。そして、複合層11の層厚の上限が200nmであることは、それよりも厚く複合層11を構成させると、内部抵抗が増大して、発電効率が低下するからである。
【0026】
なお、前記した透明電極に用いられる物質としては、ITO(インジウム・スズ酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化膜)、TiO2、SnO2、ZnOが、具体的に挙げられる。
また、透明電極の対向電極に用いられる金属物質としては、Al,Au,Pt等が具体的に挙げられる。
【0027】
そして、前記した光増感基としては、ルテニウム錯体系、フラーレン系、クマリン系、カルバゾール系、ポルフィリン系、フタロシアニン系、チオフェン系、スピロ系、フェロセン系、フルオレノン系、フルギド系、イミダゾール系、ペリレン系、フェナジン系、フェノチアジン系、ポリエン系、アゾ系、キノン系、インジゴ系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、ポリメチン系、アクリジン系、アクリジノン系、カルボスチリル系、クマリン系、ジフェニルアミン系、クナクリドン系、キノフタロン系、フェノキサジン系、フタロペリノン系、ポルフィン系、クロロフィル系、フタロシアニン系、クラウン系、スクアリリウム系、チアフルバレン系の官能基が具体的に用いられるものとして挙げられる。
【0028】
また、前記した電子供与基としては、チオフェン系、フェロセン系、パラフェニレンビニレン系、カルバゾール系、ピロール系、アニリン系、ジアミン系、フタロシアニン系、ヒドラゾン系の官能基が具体的に用いられるものとして挙げられる。
そして、前記した電子受容基としては、フラーレン、オキサジアゾール、オキサドール、ペリレン、ナフタレンの誘導体、金属錯体等の物質が具体的に用いられるものとして挙げられる。
なお、本発明における、光増感基、電子供与基、電子受容基とは、高分子の主鎖あるいは側鎖に導入されるようなものに限定されることはなく、例えば単分子状態のものも含むこととする。
【0029】
(製造方法)
次に、図2及び図3を参照して、第1実施形態にかかる光電素子の製造方法について説明する。第1実施形態にかかる光電素子31(図1参照)の複合層11は、以下に説明するような交互吸着法により作製される。ここで、交互吸着法とは、図2に示すように、カチオンを含む水溶液2と、アニオンを含む水溶液3とを別々の容器に用意し、これらの容器に、初期表面電荷を与えた基板電極21を交互に浸すことにより、この基板電極21上に多層構造を有する交互吸着膜を得る方法である。なお、交互吸着法で用いられるカチオン及びアニオンは、高分子または低分子のいずれの形態もとり得る。
【0030】
まず、図3(a)に示すように、基板電極(電極21)の表面に、初期表面電荷として負の電荷を与える。そして、この表面が負に帯電した基板電極21を、電子供与基Sの導入されたカチオン(適宜、図8(a)参照)を含む溶液に浸せば、図3(b)に示すように、クーロン力により、電子供与基Sの導入されたカチオンが表面に吸着し、1層の第1正孔輸送膜P1の超薄膜が形成される。こうして形成された正孔輸送膜P1の表面は、正に帯電していることになる。
そこで、今度はこの基板電極21を光増感基Tの導入されたアニオン(適宜、図8(a)参照)を含む溶液に浸せば、図3(c)に示すように、クーロン力によりアニオンが吸着し、1層の第1光捕集膜A1の超薄膜が形成されることになる。このようにして、基板電極21を二つの容器に交互に浸すことにより、電子供与基Sを含む正孔輸送膜Pと光増感基Tを含む光捕集膜Aとを交互に成膜することができ、多層構造をもった複合層11(図1参照)を形成することができる。
【0031】
以上の例ではカチオンの官能基が電子供与基S、アニオンの官能基が光増感基Tである場合について述べたが、カチオンに光増感基T、アニオンに電子供与基Sの官能基が導入される場合もあり得る(適宜、図8(a)参照)。また、基板電極21の初期表面電荷は、負電荷を与えた例について示したが、正電荷を与える場合もあり、この場合、最初にアニオンを基板電極21に吸着させることになる。
【0032】
また、与えた条件により変動するが、1回の基板電極21の浸漬により表面に吸着される吸着膜の膜厚は、0.5〜30nmの範囲でコントロールすることができる。そして、この基板電極21をカチオンが含まれる水溶液とアニオンが含まれる水溶液とへ交互に浸漬することにより、この吸着膜の層数を積み増して、全体の層厚を、前記した一層分の膜厚を単位に定量的にコントロールすることができる。
【0033】
さらに、このような交互吸着法により、正孔輸送膜Pと光捕集膜Aとの交互吸着膜を得ると、隣り合う第n−1正孔輸送膜Pn-1と第n正孔輸送膜Pnとは、間に挟まれる第n光捕集膜Anにより完全に分断されているわけではなく、この第n光捕集膜Anの膜面を所々で貫通して、相互に連通しあっている。同様に、隣り合う第n−1光捕集膜An-1と第n光捕集膜Anも、間に挟まれる第n正孔輸送膜Pnにより完全に分断されているわけではなく、この第n正孔輸送膜Pnの膜面を所々で貫通して、相互に連通し合っている。このように、光捕集膜Aや正孔輸送膜Pを貫通して両側に隣接する同種の膜を連通している部分は、すなわち図1に示される正孔輸送膜連結子42、光捕集膜連結子41に相当するものである。このような連結子が生成する理由としては、交互に積層される吸着膜の欠陥や、これら吸着膜を構成している高分子鎖のインターペネトレーション(相互貫通)等が考えられている。
【0034】
なお、図2中に記載は省略したが、さらに洗浄槽を設け、一方の水槽に基板電極21を浸漬させた後、他方の水槽に浸漬させる前には、洗浄槽でリンス浴を行うこととして、表面に付着した一方の水槽の液が他方の水槽に混入しないようにするのが好ましい。
【0035】
以上、図1における複合層11を交互吸着法で作製することについて述べたが、さらに引き続いて電子輸送層Nxも交互吸着法で作製することができる。具体的には、電子受容基の導入されたカチオンの水溶液に、複合層11が設けられている基板電極21を浸漬する。次に、アニオンの水溶液に浸漬されて全体が負に帯電されるが、このアニオンは、単に、次の電子受容基の導入されたカチオン膜を積層させるための接着膜として機能するものである。そして、これらの作業を交互に繰り返して行えば、所定の層厚を有する電子輸送層Nxが形成される。さらにこの電子輸送層Nxの末端面に蒸着法等を用いて電極22を設ければ、光電素子31が完成する。
【0036】
なお、接着膜として用いるアニオンとしては、カルボン酸を有する高分子とスルホン酸を有する高分子が挙げられる。具体的には、カルボン酸を有するアニオン高分子としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリ(チオフェン−3−酢酸)等が挙げられる。スルホン酸を有するアニオン高分子としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリメタクリル酸−3−スルホプロピル、ポリアニリンスルホン酸、ポリ(3−チオフェンアルカンスルホン酸)等が挙げられる(適宜、図8(b)参照)。
【0037】
また接着膜として用いるカチオンとしては、アンモニウム基を有する高分子とピリジル基を有する高分子が挙げられる。具体的には、アンモニウム基を有するカチオン高分子として、ポリエチレンイミン、ポリアミルアミン、ポリメタクリル酸コリンなどが挙げられる。ピリジル基を有するカチオン高分子としては、ポリビニルピリジン、ポリビニルエチルピリジン、ポリ(パラ−メチルピリジニウムビニレン)等が挙げられる(適宜、図8(b)参照)。
【0038】
(太陽電池の構成)
図4は、本発明にかかる光電素子を用いて構成した太陽電池を示す断面図である。図4に示すように、太陽電池30は、光電素子31の支持体としての透明基板25と、透明電極(電極21)とが接して構成される。そして、それぞれの電極21,22には、端子接点14,14に一端が固定された導線28が設けられ、光線Rが入射すると光電変換反応により電気が発生し、この導線28により外部負荷26に出力される。なお、透明基板25はガラス製であったり、プラスチック製であったりする。
【0039】
(動作説明)
次に図1及び図4を参照して、太陽電池30に光線Rが入射して発電する動作の説明を行う。
まず、光線Rが透明基板25(電極21)を透過して、複合層11の片面に入射したとする。すると、入射した光線は、まず第1光捕集膜A1を通過すると、その光エネルギーの一部が捕集される。さらに、光線は、第2、第3…第n光捕集膜A2,A3,…Anと通過するたびに、漸次、光エネルギーが捕集されていく。そして、複合層11を突き抜けた光線は、対向する電極22で反射され再び、複合層11に入射して、漸次、光捕集膜Aに吸収されていく。
【0040】
このようにして、光エネルギーを捕集した、それぞれの光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)の光増感基は励起状態に遷移する。このように励起した光増感基は、隣り合う光増感基の間でエネルギーの受け渡しを行う。その結果、正孔輸送膜Pと光捕集膜Aの界面へ光励起エネルギーが輸送され、電子・正孔対が形成される。この電子・正孔対は、正孔輸送膜Pを構成する電子供与基から電子(−)が供与されることにより電荷分離して、正孔(+)が正孔輸送膜P側に取り込まれることとなる。一方、電子輸送層Nxとの界面における電子・正孔対が電荷分離して発生した正孔(+)も、直近の第n正孔輸送膜Pnに取り込まれる。
【0041】
さらに、光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)が正孔輸送膜P(P1,P2…Pn-1,Pn)と成す界面の面積は大きいので、正孔輸送膜P(P1,P2…Pn-1,Pn)の電子供与基から電子の供与を受けて、電荷分離する電子・正孔対の単位時間あたりの数は非常に膨大なものであるといえる。
【0042】
このため、正孔輸送膜P(P1,P2…Pn-1,Pn)に取り込まれる正孔(+)の数は膨大なものとなり、これらはすべて電極21に輸送されることになる。また、電荷分離により同時に発生した対の電子(−)も、電子輸送層Nxの機能により、逐一、対向する電極22に輸送されることになる。
結果として、電極21には正電荷が蓄積し、対向する電極22には負電荷が蓄積することになり、電極間には電位差が発生する。そして、図4に示されるように、この両電極21,22を外部負荷26を介して短絡すれば、この外部負荷26に大電力が供給されることになる。
【0043】
以上の第1実施形態の説明において、図1に示される電子輸送層Nxは、必須の構成要素ではなく、省略することもできる。すなわち、図1に示される複合層11(11a,11b,11c,11d)の両端に直接電極21,22が配置される構成もとり得る。このように、電子輸送層Nxが省略された場合は、光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)が電子(−)を電極22に輸送する役割を果たす。また、光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)が正孔(+)を電極21に輸送する役割を果たす場合もあり得る。
【0044】
さらに、図1に示される光電素子31の電極21と複合層11との間に、正孔輸送層Pxを挿入し、図7(a)(b)に示す光電素子31´,31”のような形態もとり得る。
また図1(a)においては、正孔輸送膜P及び光捕集膜Aが交互に積層して形成される複合層11aは、正孔輸送膜Pが電極21との界面を形成し、光捕集膜Aが電子輸送層Nxとの界面を形成しているが、発明が保護される技術範囲はこの形態に限定されることはない。
【0045】
すなわち、電子輸送層Nxとの境界で接する膜は、図1(a)(b)の複合層11a,11bに示すように光捕集膜Aである場合もあるが、図1(c)(d)の複合層11c,11dに示すように正孔輸送膜Pn+1である場合もある。
また、電極21との境界で接する膜は、図1(b)(c)の複合層11b,11cに示すように光捕集膜Aである場合もあるが、図1(a)(d)の複合層11a,11dに示すように正孔輸送膜Pである場合もある。
【0046】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図5(a)は、第2実施形態にかかる光電素子32を示す概念図である。
図5に示すように、第2実施形態にかかる光電素子32は、一対の電極21,22が、複合層12a(12)と、正孔輸送層Pxとを挟むようにして構成される。そして、この複合層12は、複数の電子輸送膜N(N1,N2…Nn-1,Nn)及び光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)が交互に積層されて多層構造を有している。
【0047】
さらに、nが2以上の自然数であるとして、第n光捕集膜Anの両側に接して隣り合う第n−1電子輸送膜Nn-1と第n電子輸送膜Nnとは、複数の電子輸送膜連結子44,44…により連結されている。また、これら電子輸送膜連結子44,44…は、第n光捕集膜Anの膜面を貫通して、両端がそれぞれ第n−1電子輸送膜Nn-1と第n電子輸送膜Nnとに接続している。
そして、同様に、nが2以上の自然数であるとして、第n−1電子輸送膜Nn-1の両側に接して隣り合う第n−1光捕集膜An-1と第n光捕集膜Anとは、複数の光捕集膜連結子43,43…により連結されている。また、これら光捕集膜連結子43,43…は、電子輸送膜Nn-1の膜面を貫通して、両端がそれぞれ光捕集膜An-1と光捕集膜Anとに接続している。
【0048】
なお、第2実施形態にかかる光電素子32は、第1実施形態にかかる光電素子31(図1参照)に比較して、正孔輸送膜P(P1,P2…Pn-1,Pn)が電子輸送膜N(N1,N2…Nn-1,Nn)に置き替わっている相違点を除き、ほぼ同等の構成を有しているといえる。
このため、電子輸送膜Nに導入された電子受容基の作用により、光捕集膜Aと電子輸送膜Nとの界面で発生した電子・正孔対から電子(−)が電子輸送膜N側に電荷分離し電極22に導かれる点と、正孔輸送層Pxの界面に正孔(+)が生成して電極21に導かれる点と、が動作上の相違点である。
従って、第2実施形態にかかる光電素子32の動作原理、製造方法等の詳細な説明については、すでに第1実施形態で行った説明において、正孔輸送膜Pと電子輸送膜Nとの機能説明を入れ替えて適用することができるので、これを省略することにする。
【0049】
以上の第2実施形態の説明において、図5に示される正孔輸送層Pxは、必須の構成要素ではなく、省略することもできる。すなわち、図5に示される複合層12(12a,12b,12c,12d)の両端に直接電極21,22が配置される構成もとり得る。このように、正孔輸送層Pxが省略された場合は、光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)が正孔(+)を電極21に輸送する役割を果たす。また、光捕集膜A(A1,A2…An-1,An)が電子(−)を電極22に輸送する役割を果たす場合もあり得る。
【0050】
さらに、図5に示される光電素子32の電極22と複合層12との間に、電子輸送層Nxを挿入し、図7(c)(d)に示す光電素子32´,32”のような形態もとり得る。
また図5(a)においては、電子輸送膜N及び光捕集膜Aが交互に積層して形成される複合層12aは、電子輸送膜Nが電極22との界面を形成し、光捕集膜Aが正孔輸送層Pxとの界面を形成しているが、発明が保護される技術範囲はこの形態に限定されることはない。
【0051】
すなわち、正孔輸送層Pxとの境界で接する膜は、図5(a)(b)の複合層12a,12bに示すように光捕集膜Aである場合もあるが、図5(c)(d)の複合層12c,12dに示すように電子輸送膜Nである場合もある。
また、電極22との境界で接する膜は、図5(b)(c)の複合層12b,12cに示すように光捕集膜An+1である場合もあるが、図5(a)(d)の複合層12a,12dに示すように電子輸送膜Nである場合もある。
【0052】
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図6(a)は、第3実施形態にかかる光電素子33を示す概念図である。図6に示される光電素子33は、基本構成として、複合層13と一対の電極21,22とを有している点において、すでに第1、第2実施形態において説明された光電素子31,32と同一である。第3実施形態の光電素子33の相違点は、複合層13の膜厚方向において、導入される機能基に濃度勾配を有する点である。
【0053】
図6(b)に示すように、複合層13を構成するX,Y,Z成分膜のそれぞれは、(1)〜(7)の組み合わせのパターンをとり得る。すなわち、X成分膜が電子供与基を成分に含む正孔輸送膜または光増感基を成分に含む光捕集膜のいずれかで、Y成分膜が電子受容基を成分に含む電子輸送膜または電子供与基を含む正孔輸送膜のいずれかで、Z成分膜が正孔輸送膜、電子輸送膜、光捕集膜または接着膜のいずれかとして、重複のない組み合わせである。また、(6)(7)で示されるように、Z成分膜が省略される場合も考慮される。
なお、ここで接着膜とは、電子供与基、光増感基、電子受容基のいずれも含まないものである。また、図中、X7525膜のように、下付きでしめされる「75」「25」の数値は、それぞれX成分及びY成分の比率を示す数値であって、このように、X成分及びY成分が所定の比率で含まれる膜を総称して単にXY膜と表記する。
【0054】
そして、図6(a)に示すように、複合層13は、X成分膜からスタートして、Z成分膜、X成分が75%でY成分が25%含まれるX7525膜、Z成分膜、…(中略)…Y成分膜といったように、X成分とY成分とが所定の比率で混合したXY膜と、Z膜とが交互に積層している。さらに、XY膜におけるX成分とY成分との比率は膜厚方向に沿った濃度勾配を有するように設定されている。
また、Z成分膜の両側に接して隣り合う二つのXY膜は、このZ成分膜を貫通する複数のXY膜連結子45により連結されている。さらに、XY成分膜の両側に接して隣り合う二つのZ成分膜も、このXY膜を貫通する複数のZ膜連結子46により連結されている。
【0055】
(製造方法)
このように、膜厚方向に濃度勾配を有する複合層13の製造方法は、次のようにして行われる。すなわち、Z成分が導入されたカチオン(アニオン)の水溶液が入れられたZ成分容器と、導入されるX成分及びY成分の比率(含有濃度)が段階的に変えられたアニオン(カチオン)の水溶液が入れられた複数のXY成分容器とを用意する。そして、まず最初にXY成分容器に基板電極(電極21)を浸漬して、次にZ成分容器に浸漬してといった行動を繰返すとともに、浸漬させるXY成分容器に関しては濃度勾配を持つように順次異なる容器に替えていく。そして最終的に対向電極(電極22)を蒸着等の手段により設けて光電素子33を得る。
【0056】
(動作説明)
図6(b)(1)で示される複合層13の組み合わせにおいては、光捕集膜(Z成分膜)は、いずれも周囲を電子供与基及び電子受容基が混在したXY膜に囲まれている。このため、界面で電荷分離した結果生成した正孔(+)及び電子(−)は、いずれもこのXY膜を媒介して電極21及び電極22に輸送される。
図6(b)(2)で示される複合層13の組み合わせにおいては、正孔輸送膜(Z成分膜)が、周囲を電子供与基及び光増感基が混在したXY膜に囲まれている。このため、界面における電荷分離の結果生成した正孔(+)は、Z成分膜で電極21に輸送されることとなり、同じく生成した電子(−)は、光増感基に電子受容基が混在したXY膜を媒介して電極22に輸送されることになる。
【0057】
図6(b)(3)で示される複合層13の組み合わせにおいては、電子輸送膜(Z成分膜)が、周囲を電子供与基及び光増感基が混在したXY膜に囲まれている。このため、界面における電荷分離の結果生成した電子(−)は、Z成分膜で電極22に輸送されることとなり、同じく生成した正孔(+)は、光増感基に電子供与基が混在したXY膜を媒介して電極22に輸送されることになる。
図6(b)(4)(6)で示される複合層13の組み合わせにおいては、界面で電荷分離した結果生成した正孔(+)及び電子(−)は、光増感基及び電子受容基が混在したXY膜を媒介して、それぞれ電極21及び電極22に輸送される。
図6(b)(5)(7)で示される複合層13の組み合わせにおいては、界面で電荷分離した結果生成した正孔(+)及び電子(−)は、光増感基及び電子供与基が混在したXY膜を媒介して、それぞれ電極21及び電極22に輸送される。
【0058】
以上、第3実施形態の光電素子33は、複合層13のみの単層構造としたが、この複合層13と電極21,22との間には、図7(a)〜(d)に示されるように、電子輸送層Nx及び正孔輸送層Pxの少なくとも一方が挟持される構造もとり得る。
【実施例1】
【0059】
以下、実施例において本発明の多層構造の有機薄膜の製造例を示す。さらに、本発明の有機薄膜を用いた光電素子と、比較例として示す従来の光電素子との発電特性を比較する。
【0060】
<透明電極の親水処理>
まず、ITO基板等の透明電極を、トルエン、アセトン、エタノール溶液により超音波処理を各20分間行う。次に、この透明電極をアルカリ性のピラニア溶液(蒸留水:30%過酸化水素水:25%濃アンモニア水 = 5 : 1 :1)中に80℃で15分間煮沸して、基板表面を負に帯電させた。なお、ピラニア溶液の代わりに、オゾンクリーナを用いて1時間UV−オゾン処理を行うことによっても基板表面を親水性にすることができる。
【0061】
次に、交互吸着法による光電素子31の複合層11の作製について説明するが、先にこの複合層11を形成するのに必要な電解質溶液の調製について述べる。
<光捕集ポリカチオン溶液(Ru溶液)の調製>
複合層11のうち光捕集膜Aを形成するために必要な光捕集ポリカチオン(Ru)溶液は次のように調製される。まず、メタクリル酸コリン(choline methacrylate)とメタクリル酸ビピリジル(4-(methacryloylmethyl)-4'- methyl-2,2'-bipyridine)をエタノール中にてラジカル共重合し、共重合体を得る。
そして、この共重合体を、良溶媒としてエタノール、貧溶媒としてアセトンを用いて再沈殿精製させた後、ビス2,2'-ビピリジルジクロロルテニウム(II)錯体との配位子交換反応によりルテニウム錯体を側鎖に有するポリカチオンとして合成した。このように錯化した後に、さらに良溶媒としてエタノール、貧溶媒として塩化メチレンを用いて、再沈殿させて精製した。この高分子を超純水に溶解し、10 mM水溶液(光捕集ポリカチオン)とした(図8a(5)参照)。
【0062】
<正孔輸送ポリアニオン溶液(PEDOT溶液)の調製>
複合層11のうち正孔輸送膜Pを形成するために必要な正孔輸送ポリアニオン(PEDOT)溶液は次のように調製される。まず、1.3wt%-PEDOT/PSS (0.5wt%-PEDOT + 0.8wt%-PSS)に超純水を加え、10 mMのPEDOT/PSS水溶液(正孔輸送ポリアニオン)を調製する。そして、超音波処理を2分間行い、分散性を高めたのち、孔径0.45 mmのフィルタに通すことにより、正孔輸送ポリアニオン(PEDOT)溶液とした(図8a(1)参照)。
【0063】
<ポリカチオン溶液(PCM溶液)の調製>
すでに実施形態で説明した電子輸送層Nxや正孔輸送層Px等の単独層を交互吸着法で作製する際に用いられる接着膜を形成するために必要なポリカチオン(PCM)溶液は、次のように調製される。まず、メタクリル酸コリン(choline methacrylate)をエタノール中にてラジカル重合し、高分子電解質PCMを得た。良溶媒としてエタノール、貧溶媒としてアセトンを用いて再沈殿精製を行った。この高分子を超純水に溶解し、10 mM水溶液(ポリカチオン)とした(図8b(8)参照)。
【0064】
<ポリアニオン溶液(PAA溶液)の調製>
同様にして、単独層を交互吸着法で作製する際に用いられる接着膜を形成するために必要なポリアニオン(PAA)溶液は、次のように調製される。まず、35wt%のポリアクリル酸水溶液(ポリアニオン)を10 mMに調製し、水酸化ナトリウム水溶液を適当量加えてpH = 6.5に調整した(図8b(10)参照)。
【0065】
<すすぎ溶液の調整>
リンス浴に用いるすすぎ溶液は、イオン交換水を蒸留し、超純水作製フィルタ(Barnstead II)を通して作製した超純水を用いる。
【0066】
このように作製された各高分子電解質水溶液および超純水30 mLを、それぞれ50 × 50φ mmの秤量瓶に入れ、ターンテーブル上に所定の順序で配置した。そして、吸着条件は、浸漬時間5分、すすぎ時間3分、乾燥時間2分、温度21−24℃、湿度50−60%に設定した。また基板の引き上げ、引き下げはステッピングモータを用いて毎秒0.6 mmの速度にて行った。
【0067】
最初に、光電素子の構成が、[透明電極/複合層(正孔輸送膜+光捕集膜)/電子輸送層/金属電極]型で示される、複合層11を有する光電素子31(ITO/PEDOT+Ru/C60/Al)について示す(図9a参照)。
<複合層11の作製>
まず、親水処理したITO基板(透明電極)21を、Ru溶液に5分間浸漬し、引き上げ後2分間乾燥し、超純水に3分間浸漬し、引き上げ後2分間乾燥した。続いて、PEDOT溶液に5分間浸漬し、引き上げ後2分間乾燥し、超純水に3分間浸漬し、引き上げ後2分間乾燥した。これによりITO基板上に、RuとPEDOTの1対膜が形成される。この操作を10回繰り返すことにより、10対のRu+PEDOT膜からなる複合層11を電極に作製した。
<電子輸送層Nxの作製>
次に、1 mLのオルトジクロロベンゼンに、4 mgのポリスチレン、16 mgのC60を加えて、超音波処理を1時間行い、均一溶液を得た。作製した複合層11の表面にこの溶液をキャストし、スピンコートを施した。回転速度は、最初の10秒間が400 rpm、その後99秒間は1000 rpmにて行った。このスピンコートにより得た高分子膜から、12時間の真空乾燥により溶媒を除去し、電子輸送層Nxを得た。
<対向電極の作製>
真空蒸着装置を用いて、電子輸送層Nxの上にアルミニウムを蒸着して対向電極22とした。なお条件は、2 nm s-1の蒸着速度にて50秒間蒸着を行い、厚さ50 nmのアルミニウム電極22を得た。
このようにして、図9(a)の概念図で示されるような、正孔輸送膜P及び光捕集膜Aが交互に積層してなる複合層11を有する光電素子31(ITO/PEDOT+Ru/C60/Al)が得られる。
【0068】
<比較例>
次に、比較例として、[透明電極/正孔輸送層/光捕集層/電子輸送層/金属電極]型のように、前記した複合層を構成する正孔輸送膜及び光捕集膜が、正孔輸送層Px、光捕集層Axのようにそれぞれ別個の単層で構成される光電素子(ITO/PEDOT/Ru/C60/Al)を次のような方法で作製する(図10a参照)。
まず、親水処理したITO基板21を、PCM溶液に5分間浸漬し、引き上げ後2分間乾燥し、超純水に3分間浸漬し、引き上げ後2分間乾燥した。続いて、PEDOT溶液に5分間浸漬し、引き上げ後2分間乾燥し、超純水に3分間浸漬し、引き上げ後2分間乾燥した。これによりITO基板21上に、PEDOTとPCMの一対膜が形成される。この操作を11回繰り返すことにより、11対のPEDOT/PCM膜からなるPEDOT(正孔輸送)層Pxを得る。ここでPCM膜は接着膜として機能している。
次に、PEDOT溶液をPAA溶液に、PCM溶液をRu溶液に換えて、同様の操作を4回繰り返すことにより、4対のRu/PAA膜からなるRu(光捕集)層Axを得る。
さらに、実施例1において記載した同様の方法により、光捕集層Axの上に、順次、電子輸送層Nx、及び対向電極22を作製した。
このようにして、図10の概念図で示されるような、正孔輸送層Px及び光捕集層Axとが別個の単層からなる光電素子(ITO/PEDOT/Ru/C60/Al)が得られる。
【0069】
<比較検討結果>
図9(b)および図10(b)は、それぞれ図9(a)及び図10(a)に示される光電素子に、光線を照射した場合の光電流応答の観測データである。
これら観測データは、それぞれの光電素子(ITO/PEDOT+Ru/C60/Al,ITO/PEDOT/Ru/C60/Al)にI-Vメータを接続し、短絡状態(V = 0)での光電流応答を観測したデータである。なお、照射光源には500 Wのキセノンランプを用い、50 mW cm-2の白色光(光線)が断続的に、ITO基板側から照射されている。
【0070】
得られた二つの観測データを比較すると、比較例として示される、別個の単層からなる光電素子 (ITO/PEDOT/Ru/C60/Al)の光電流応答値は、0.1 μA cm-2程度であるのに対し、実施例として示される、複合層を有する光電素子(ITO/PEDOT+Ru/C60/Al)では、0.1 mA cm-2であり1000倍もの向上が認められた。
【0071】
また、光電素子の構成のうち透明電極と複合層との間にさらに正孔輸送層(PEDOT)を設けて、複合層を有する光電素子(ITO/PEDOT/PEDOT+Ru/C60/Al)とした場合は、光電流応答値のさらなる向上が認められた。
この場合、正孔輸送層は、交互吸着法によりITO基板を、PEDOT溶液とPCM溶液とに交互に浸漬させることにより作製される。このように、ITO/PEDOT膜を作製したのち、続けて前記したように、複合層、電子輸送層、金属電極を順番に形成していく。
【0072】
また、電子輸送層(C60)は、交互吸着法により作製することもできる。この場合、複合層(PEDOT+Ru)を形成したのち、続けてITO基板を、C60C(COONa)2溶液(電子輸送ポリアニオン)(図8a(7)参照)およびポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA)溶液(ポリカチオン)(図8b(9)参照)に交互に浸漬することにより電子輸送層(C60)が作製される。また、その他の電子輸送層(C60)の成膜法として真空蒸着法、導電性液晶や電解質を介して対向電極とカップリングさせる方法が挙げられる。
このように電子輸送層(C60)が異なる成膜法により作製されても、光電素子の光電流応答値は、同様の向上効果が認められた。
【実施例2】
【0073】
次に、光電素子の構成が、[金属電極/正孔輸送層/複合層(正孔輸送膜+光捕集膜)/電荷分離層/電子輸送層/透明電極]型で示される、複合層を有する光電素子(Au/PEDOT/PEDOT+Ru/C60/SnO2/ITO)について示す。
【0074】
<酸化スズ(電子輸送層)/透明電極の作製>
前記した方法により洗浄したITO基板(透明電極)上に、SnO2微粒子(〜 15 nm)15wt%コロイド懸濁水溶液(安定剤としてカリウムイオンを含有)をスピンキャストした。乾操した基板を、電気炉を用いて400℃にて1時間焼成し、SnO2透明電極を得た。
【0075】
<C60(C(COOH)2)2(電荷分離層)の固定化>
前記したSnO2透明電極を、トルエン、アセトン溶液を用いて洗浄した後、それぞれ1 mMのC60(C(COOH)2)2(図8c(12)参照)およびベンゾトリアゾール-1-オール(1H-benzotriazol-1-o1)を含むブロモベンゼン(bromobenzene)溶液に浸漬し、0℃に冷却した後ジシクロヘキシルカルボジイミド(dicyclohexylcarbodiimide)を加え、室温で撹拌しながら固定化を行った。C60(C(COOH)2)2の固定化量は、浸漬時間を変えることにより任意に制御することが可能である。
【0076】
<複合層(正孔輸送膜+光捕集膜)および正孔輸送層の作製>
上述したRu溶液とPEDOT溶液を用いて、交互吸着法により、10対のRu+PEDOT膜からなる複合層を作製した。続いて、PEDOT溶液とPCM溶液を用いて、交互吸着法により10対のPEDOTからなる正孔輸送層を作製した。
<対向電極の作製>
真空蒸着装置を用いて、作製した正孔輸送層の上に対向電極として金を蒸着した。2 nms-1の蒸着速度にて50秒間蒸着を行い、厚さ50 nmの金電極を作製した。
【0077】
このようにして得られた、光電素子(Au/PEDOT/PEDOT+Ru/C60/SnO2/ITO)に対して、前記した場合と同様にキセノンランプの白色光(光線)を照射して光電流応答を観測したところ、同様に複合層が採用されていることによる光電流の向上が認められた。
また、機能複合層以外の層(正孔輸送層および電荷分離層)を他の成膜法(キャスト法、真空蒸着法)により作製しても同様の効果が認められた。また、正孔輸送層として導電性液晶や電解質を介して対向電極とカップリングした素子でも同様の効果が認められた。
なお、構成のうち電荷分離層(C60)が省略されて、光電素子の構成が、[金属電極/正孔輸送層/複合層(正孔輸送膜+光捕集膜)/電子輸送層/透明電極]型で示される、光電素子(Au/PEDOT/PEDOT+Ru/SnO2/ITO)も光電流の向上が認められた。
【実施例3】
【0078】
次に、光電素子の構成が[金属電極/正孔輸送層/複合層(光捕集膜+電子輸送膜)/電荷分離層/電子輸送層/透明電極]型で示される、複合層を有する光電素子(Au/PEDOT/Ru+C60/C60/SnO2/ITO)について示す。
この光電素子は、前記した方法により作製したC60修飾SnO2(電荷分離/電子輸送)透明電極上に、Ru溶液およびC60C(COONa)2溶液を用いて交互吸着法によりRu+C60膜からなる複合層を作製した。続いて、PEDOT溶液およびPCM溶液を用いて交互吸着法により、PEDOT膜からなる正孔輸送層を作製した。そして、対向電極としてAuを前記した同様の方法により真空蒸着して、光電素子(Au/PEDOT/Ru+C60/C60/SnO2/ITO)を得た。光電流応答を観測したところ、同様の光電流の向上効果が認められた。
なお、構成のうち電荷分離層(C60)が省略されて、光電素子の構成が、[金属電極/正孔輸送層/複合層(光捕集膜+電子輸送膜)/電子輸送層/透明電極]型で示される、光電素子(Au/PEDOT/Ru+C60/SnO2/ITO)も光電流の向上が認められた。
【実施例4】
【0079】
次に、光電素子の構成が[透明電極/正孔輸送層/複合層(光捕集膜+電子輸送膜)/電子輸送層/金属電極]型で示される、複合層を有する光電素子(ITO/PEDOT/Ru+C60/C60/Al)について示す。
この光電素子は、ITO基板上に、PEDOT溶液およびPCM溶液を用いて交互吸着法により、PEDOT膜からなる正孔輸送層を設け、続いて、Ru溶液およびC60C(COONa)2溶液を用いて交互吸着法により、Ru+C60膜からなる複合層を設け、さらに、C60C(COONa)2溶液およびPDDA溶液を用いて交互吸着法によりC60膜からなる電子輸送層を設け、最後に、真空蒸着によりAlからなる対向電極を設けて作製された。光電流応答を観測したところ、同様の光電流の向上効果が認められた。
なお、構成のうち正孔輸送層(PEDOT)が省略されて、光電素子の構成が、[透明電極/複合層(光捕集膜+電子輸送膜)/電子輸送層/金属電極]型で示される、光電素子(ITO/Ru+C60/C60/Al)においても光電流の向上が認められた。
【実施例5】
【0080】
次に、光電素子の構成が、[金属電極/正孔輸送層/複合層(正孔輸送膜+光捕集膜+電子輸送膜)/電子輸送層/透明電極]型で示される、濃度勾配型の複合層を有する光電素子について示す。
この光電素子は、前記した方法により作製したSnO2(電子輸送)透明電極上に、ポリアニオン溶液としてPEDOT溶液とC60C(COONa)2溶液の混合溶液を、ポリカチオン溶液としてRu溶液を用いて、PEDOT+Ru+C60(濃度勾配)膜を作製した。こここで、PEDOT : C60C(COONa)2の組成(モル)比が、10 : 0, 7 : 3, 5 : 5, 3 : 7, 0 : 10の5種類の混合溶液((PEDOT|C60)x: PEDOT組成x = 100, 70, 50, 30, 0 %)を作製した。
【0081】
ITO/ SnO2電極を、Ru溶液および(PEDOT|C60)100溶液へ交互に4回浸漬し、Ru溶液および(PEDOT|C60)70溶液へ交互に4回浸漬し、Ru溶液および(PEDOT|C60)50溶液へ交互に4回浸漬し、Ru溶液および(PEDOT|C60)30溶液へ交互に4回浸漬し、Ru溶液および(PEDOT|C60)0溶液へ交互に4回浸漬し、合計20対の膜とした。
続いて、PEDOT溶液およびPCM溶液を用いて交互吸着法によりPEDOT膜からなる正孔輸送層を作製した。真空乾燥にした後、対向電極としてAuを真空蒸着した。光電流応答を観測したところ、濃度勾配による光電流の向上が認められた。
【実施例6】
【0082】
次に、光電素子の構成が、[透明電極/正孔輸送層/複合層(正孔輸送膜+光捕集膜+電子輸送膜)/電子輸送層/金属電極]型で示される、濃度勾配型の複合層を有する光電素子について示す。
この光電素子は、ITO基板上に、PEDOT溶液およびPCM溶液を用いて交互吸着法により、PEDOT膜からなる正孔輸送層を設け、そして、前記した方法によりPEDOT+Ru+C60膜からなる濃度勾配型の複合層を設け、続いて、C60C(COONa)2溶液およびPDDA溶液を用いて交互吸着法によりC60膜からなる電子輸送層を設け、真空乾燥した後、真空蒸着によりAlを対向電極として設けて作製した。光電流応答を観測したところ、濃度勾配による光電流の向上が認められた。
また、構成のうち正孔輸送層(PEDOT)が省略されて、光電素子の構成が、[透明電極/複合層(正孔輸送膜+光捕集膜+電子輸送膜)/電子輸送層/金属電極]型で示される、光電素子においても光電流の向上が認められた。
【実施例7】
【0083】
次に、光電素子の構成が、[金属電極/正孔輸送層/複合層(正孔輸送膜+光捕集膜)/電子輸送層/透明電極]型で示される、濃度勾配型の複合層を有する光電素子について示す。
この光電素子は、前記した方法により作製したSnO2(電子輸送)透明電極上に、ポリアニオン溶液としてPEDOT溶液とC60C(COONa)2溶液の混合溶液を、ポリカチオン溶液としてPCM溶液を用いて交互吸着法によりPEDOT+C60膜からなる濃度勾配型の複合層を設け、続いてPEDOT溶液およびPCM溶液を用いて交互吸着法によりPEDOT(正孔輸送)膜を設け、真空乾燥した後、最後に真空蒸着によりAuを対向電極として設けて作製した。光電流応答を観測したところ、濃度勾配による光電流の向上が認められた。
【実施例8】
【0084】
次に、光電素子の構成が、[透明電極/正孔輸送層/複合層(正孔輸送膜+光捕集膜)/電子輸送層/金属電極]型で示される、濃度勾配型の複合層を有する光電素子について示す。
ITO基板上に、PEDOT溶液およびPCM溶液を用いて交互吸着法により、PEDOT膜からなる正孔輸送層を設け、続いて、上述の方法によりPEDOT+C60膜からなる濃度勾配型の複合層を設け、続いてC60C(COONa)2溶液およびPDDA溶液を用いて交互吸着法によりC60膜からなる電子輸送を設け、真空乾燥した後、最後に真空蒸着によりAlを対向電極として設けて作製した。光電流応答を観測したところ、濃度勾配による光電流の向上が認められた。
なお、構成のうち正孔輸送層(PEDOT)が省略されて、光電素子の構成が、[透明電極/複合層(正孔輸送膜+光捕集膜)/電子輸送層/金属電極]型で示される、光電素子においても光電流の向上が認められた。
【実施例9】
【0085】
次に、光電素子の構成が、[金属電極/正孔輸送層/複合層(光捕集膜+電子輸送膜)/電子輸送層/透明電極]型で示される、濃度勾配型の複合層を有する光電素子について示す。
この光電素子は、まず始めに前記した方法により作製したSnO2(電子輸送)透明電極上に、ポリアニオン溶液として銅フタロシアニンスルホン酸(CuPcS)溶液(光捕集ポリアニオン)(図8a(3)参照)とC60C(COONa)2溶液の混合溶液を、ポリカチオン溶液としてPDDA溶液を用いて、CuPcS+C60膜の濃度勾配型の複合層を作製する。
【0086】
つまり、CuPcS : C60C(COONa)2の組成(モル)比が、10 : 0, 7 : 3, 5 : 5, 3 : 7, 0: 10の5種類の混合溶液((CuPcS|C60)x: CuPcS組成x = 100, 70, 50, 30, 0%)を作製し、SnO2電極を、PDDA溶液および(CuPcS|C60)100溶液へ交互に4回浸漬し、PDDA溶液および(CuPcS|C60)70溶液へ交互に4回浸漬し、PDDA溶液および(CuPcS|C60)50溶液へ交互に4回浸漬し、PDDA溶液および(CuPcS|C60)30溶液へ交互に4回浸漬し、PDDA溶液および(CuPcS|C60)0溶液へ交互に4回浸漬し、合計20対のCuPcS+C60膜からなる濃度勾配型の複合層を得る。
さらに、PEDOT溶液およびPCM溶液を用いて交互吸着法によりPEDOT膜からなる正孔輸送層を設け、真空乾燥した後、最後に真空蒸着によりAuを対向電極として設けて光電素子を作製した。光電流応答を観測したところ、濃度勾配による光電流の向上が認められた。
【実施例10】
【0087】
次に、光電素子の構成が、[透明電極/正孔輸送層/複合層(光捕集膜+電子輸送膜)/電子輸送層/金属電極]型で示される、濃度勾配型の複合層を有する光電素子について示す。
この光電素子は、ITO基板上に、PEDOT溶液およびPCM溶液を用いて交互吸着法により、PEDOT膜からなる正孔輸送層を設け、続いて、前記した方法によりCuPcS+C60膜からなる濃度勾配型の複合層を設け、さらに、C60C(COONa)2溶液およびPDDA溶液を用いて交互吸着法によりC60膜からなる電子輸送層を設け、真空乾燥した後、最後に真空蒸着によりAlからなる対向電極を設けて作製した。光電流応答を観測したところ、濃度勾配による光電流の向上が認められた。
なお、構成のうち正孔輸送層(PEDOT)が省略されて、光電素子の構成が、[透明電極/複合層(光捕集膜+電子輸送膜)/電子輸送層/金属電極]型で示される、光電素子においても光電流の向上が認められた。
【実施例11】
【0088】
次に、光電素子の構成が、[透明電極/複合層(光捕集膜+電子輸送膜)/金属電極]型で示される、濃度勾配型の複合層を有する光電素子について示す。
この光電素子の複合層は、ポリカチオン溶液としてポリパラフェニレンビニレン(PPV)前駆体溶液(光捕集ポリカチオン)(図8a(2)参照)とフラーレンカチオン(C60C4H10N)溶液(電子輸送ポリカチオン)(図8a(6)参照)の混合溶液を、ポリアニオン溶液としてポリチオフェンスルホン酸(PTS)溶液(光捕集ポリアニオン)(図8a(4)参照)とC60C(COONa)2溶液(電子輸送ポリアニオン)の混合溶液を用いて作製される。
ここで、PPV : C60C4H10N)2の組成(モル)比が、10 : 0, 7 : 3, 5 : 5, 3 : 7, 0 : 10の5種類の混合溶液((PPV|C60)x: PPV組成x = 100, 70, 50, 30, 0%)、および、PTS :C60C(COONa)2の組成(モル)比が、10 : 0, 7 : 3, 5 : 5, 3 : 7, 0 : 10の5種類の混合溶液((PTS|C60)x: PEDOT組成x = 100, 70, 50, 30, 0%)が作製される。
そして、ITO基板を、(PPV|C60)100溶液および(PTS|C60)100溶液へ交互に4回浸漬し、(PPV|C60)70溶液および(PTS|C60)70溶液へ交互に4回浸漬し、(PPV|C60)50溶液および(PTS|C60)50溶液へ交互に4回浸漬し、(PPV|C60)30溶液および(PTS|C60)30溶液へ交互に4回浸漬し、(PPV|C60)0溶液および(PTS|C60)0溶液へ交互に4回浸漬し、合計20対のPPV|PTS+C60膜からなる濃度勾配型の複合層を設けた。乾燥後、真空中にて220℃のアニーリングを行い、PPV前駆体をPPV(図8a(2')参照)へと変換した。その後、対向電極としてAlを真空蒸着した。光電流応答を観測したところ、濃度勾配による光電流の向上が認められた。
【実施例12】
【0089】
次に、図11(a)に示すような、光電素子の構成が、[透明電極/複合層(光捕集膜+正孔輸送膜)/電子輸送層/金属電極]型の光電素子(ITO/PPV+PEDOT/C60/Al)について説明する。
まず、前記した図9(a)の光電素子を作製した方法と同様の方法で、親水処理したITO基板(透明電極)21を、PPV溶液とPEDOT溶液に交互に浸漬する操作を30回繰り返すことにより、30対のPPV+PEDOT膜からなる複合層11をITO電極21に作製した。
次に、この複合層11の上に、図9(a)と同様の方法により電子輸送層Nを50nm設け、さらにその上に厚さ50 nmのアルミニウム電極22を設けた。
図11(d)は、このようにして得られた、光電素子(ITO/PPV+PEDOT/C60/Al)(図11(a))に、光線を照射した場合の光電流応答の観測データである。この光電流応答の観測データの測定条件は、前記図9(b)及び図10(b)において実施した条件と同一である。
【0090】
次に、図11(b)に示すような、光電素子の構成が、[透明電極/正孔輸送層/複合層(光捕集膜+正孔輸送膜)/電子輸送層/金属電極]型の光電素子(ITO/PEDOT/PPV+PEDOT/C60/Al)について説明する。
まず、前記した図10(a)の光電素子の正孔輸送層Pを作製した方法と同様の方法で、親水処理したITO基板(透明電極)21を、PDDA溶液とPEDOT溶液に交互に浸漬する操作を20回繰り返すことにより、20対のPDDA+PEDOT膜からなる正孔輸送層PをITO電極21に作製した。
次に、この正孔輸送層Pの上に、前記した図11(a)と同様の方法により、30対のPPV+PEDOT膜からなる複合層11を作製し、さらに電子輸送層Nを50nm設け、さらにその上に厚さ50 nmのアルミニウム電極を設けた。
図11(e)は、このようにして得られた、光電素子(ITO/PEDOT/PPV+PEDOT/C60/Al)(図11(b))に、光線を照射した場合の光電流応答の観測データである。この光電流応答の観測データの測定条件は、前記した図11(d)において実施した条件と同一である。
【0091】
次に、図11(c)に示すような、光電素子の構成が、[透明電極/正孔輸送層/複合層(正孔輸送膜+光捕集膜)/電子輸送層/金属電極]型の光電素子(ITO/PEDOT/PEDOT+PPV/C60/Al)について説明する。
この図11(c)に示される光電素子(ITO/PEDOT/PEDOT+PPV/C60/Al)と、図11(b)に示される光電素子(ITO/PEDOT/PPV+PEDOT/C60/Al)との相違点は、電子輸送層(N層)との境界で接する膜が、後者ではPEDOT(正孔輸送膜P)であるのに対し、前者ではPPV(光捕集膜A)である点において相違する。よって、図11(c)に示される光電素子の作製は、図11(b)における複合層11に対してさらにPPV層が1層分積み増しされている。
図11(f)は、このようにして得られた、光電素子(ITO/PEDOT/PEDOT+PPV/C60/Al)(図11(c))に、光線を照射した場合の光電流応答の観測データである。この光電流応答の観測データの測定条件は、図11(d)において前記した条件と同一である。
【0092】
そして、図11(d)(e)を対比すると、図11(a)の構成に正孔輸送層Pxを追加して図11(b)の構成にすることにより、開放電圧VOCが0.20Vから0.38Vに向上し、短絡電流JSCが30μA/cm2から74μA/cm2に向上しているのがわかる。
すなわちこの実験データは、図7(a)で示される光電素子31´,31”,32´,32”の構成のように、複合層11,12,13と電極21,22の間に正孔輸送層Pxまたは電子輸送層Nxを挿入することにより、特別な効果が発現することを実証したことになる。この効果の発現は、複合層11に正孔輸送層Pxまたは電子輸送層Nxを追加しても、光電素子の内部抵抗の増加に寄与することなく、電極21,22間の絶縁性を向上させるためと考えられる。
【0093】
また、図11(e)(f)を対比すると、複合層11が電子輸送層Nxに接する境界がPEDPT(正孔輸送膜P)から、PPV(光捕集膜A)の構成に置換されることにより、開放電圧VOCが0.38Vから0.55Vに向上し、短絡電流JSCが74μA/cm2から90μA/cm2に向上しているのがわかる。
すなわちこの実験データは、図1(a)と図1(d)の構成の相違、または図1(b)と図1(c)の構成の相違のように、複合層11の境界部に配置される膜によって、光電素子31の特性が相違することを実証したことになる。
【実施例13】
【0094】
次に、比較例として図12(a)に示すような、光電素子の構成が、[透明電極/正孔輸送層/光捕集膜/電子輸送層/金属電極]型の複合層を有する光電素子(ITO/PEDOT/Ru/C60/Al)について説明する。
まず、前記した図10(a)の正孔輸送層Pxを作製した方法と同様の方法で、親水処理したITO基板(透明電極)21を、PCM溶液とPEDOT溶液に交互に浸漬する操作を10回繰り返すことにより、10対のPCM+PEDOT膜からなる正孔輸送層PxをITO電極21に作製した。
次に、この正孔輸送層Pxの上に、1層のRu膜からなる光捕集層Axを作製し、さらに電子輸送層Nxを50nm設け、さらにその上に厚さ50 nmのアルミニウム電極22を設けた。
図12(c)は、このようにして得られた光電素子(ITO/PEDOT/Ru/C60/Al)(図12(a))に、光線を照射した場合の光電流応答の観測データである。この光電流応答の観測データの測定条件は、前記図9(b)及び図10(b)において実施した条件と同一である。
【0095】
次に、図12(b)に示すような、光電素子の構成が、[透明電極/正孔輸送層/複合層(光捕集膜+正孔輸送膜)/電子輸送層/金属電極]型の複合層を有する光電素子(ITO/PEDOT/Ru+PEDOT/C60/Al)について説明する。
この図12(b)に示される光電素子(ITO/PEDOT/Ru+PEDOT/C60/Al)と、図12(a)に示される光電素子(ITO/PEDOT/Ru/C60/Al)との相違点は、電子輸送層Nxとの境界で接する膜が、前者ではRu(光捕集膜A)であるのに対し、後者ではPEDOT(正孔輸送膜P)である点において相違する。よって、図12(b)に示される光電素子の作製は、図12(a)におけるRuの光捕集膜Aに対してさらにPEDOTの正孔輸送膜Pが1層分積み増しされている。
図12(d)は、このようにして得られた、光電素子(ITO/PEDOT/Ru+PEDOT/C60/Al)(図12(b))に、光線を照射した場合の光電流応答の観測データである。この光電流応答の観測データの測定条件は、図12(c)における条件と同一である。
【0096】
そして、図12(c)(d)を対比すると、電子輸送層Nxに接する境界が、Ru(光捕集膜A)から、PEDPT(正孔輸送膜P)の構成に置換されることにより、開放電圧VOCが0.12Vから0.25Vに向上し、短絡電流JSCが60μA/cm2から200μA/cm2に向上しているのがわかる。
すなわちこの実験データは、図1(a)と図1(d)の構成の相違、または図1(b)と図1(c)の構成の相違のように、複合層11の境界部に配置される膜によって、光電素子31の特性が相違することを実証したことになる。しかし、この実施例13で示された構成の相違に基づく光電素子の特性変化は、光捕集膜Aが境界で接するほうが特性の向上が認められる実施例12に対し、逆の結果を示している。このことは、実施例12及び実施例13において、それぞれ光捕集膜Aとして用いられたRu及びPPVのホール輸送特性の差に起因するものと考えられている。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】(a)は、第1実施形態にかかる光電素子を示す概念図であり、(b)〜(d)は、複合層の両端の境界を構成する膜の組み合わせを示す図である。
【図2】交互吸着膜の製造原理(交互吸着法)を説明する概念図である。
【図3】交互吸着膜の製造工程を説明する概念図である。
【図4】本発明の太陽電池を示す断面図である。
【図5】(a)は、第2実施形態にかかる光電素子を示す概念図であり、(b)〜(d)は、複合層の両端界面を構成する膜の組み合わせを示す図である。
【図6】第3実施形態にかかる光電素子を示す概念図である。
【図7】(a)〜(d)は、複合層と電極との間に正孔輸送層または電子輸送層が挿入される構成を有する光電素子の他の類型を示す概念図である
【図8】(a)は実施例において例示される、正孔輸送膜に含まれる電子供与基、光捕集膜に含まれる光増感基、電子輸送膜に含まれる電子受容基の構造式であり、(b)は実施例において例示される、接着膜を構成する高分子電解質の構造式であり、(c)は実施例において例示される、電荷分離膜に含まれる物質である。
【図9】(a)は実施例として示される光電素子(ITO/PEDOT+Ru/C60/Al)の概念図であり、(b)はこの実施例における光電流応答の観測データである。
【図10】(a)は比較例として示される光電素子(ITO/PEDOT/Ru/C60/Al)の概念図であり、(b)はこの比較例における光電流応答の観測データである。
【図11】(a)は実施例として示される光電素子(ITO/PPV+PEDOT/C60/Al)の概念図であり、(b)は実施例として示される光電素子(ITO/PEDOT/PPV+PEDOT/C60/Al)の概念図であり、(c)は実施例として示される光電素子(ITO/PEDOT/PEDOT+PPV/C60/Al)の概念図であり、(d)は実施例(a)における光電流応答の観測データであり、(e)は実施例(b)における光電流応答の観測データであり、(f)は実施例(c)における光電流応答の観測データである。
【図12】(a)は比較例として示される光電素子(ITO/PEDOT/Ru/C60/Al)の概念図であり、(b)は実施例として示される光電素子(ITO/PEDOT/Ru+PEDOT/C60/Al)の概念図であり、(c)は比較例(a)における光電流応答の観測データであり、(d)は実施例(b)における光電流応答の観測データである。
【図13】従来の光電素子を示す概要図で、(a)は第1従来例の構成及び発電原理を示し、(b)は第2従来例の構成を示す。
【符号の説明】
【0098】
11(11a,11b,11c,11d) 複合層
12(12a,12b,12c,12d) 複合層
13 複合層
21 基板電極(電極)
22 対向電極(電極)
26 外部負荷
28 導線
30 太陽電池
31,32,33 光電素子
41,43 光捕集膜連結子
42 正孔輸送膜連結子
44 電子輸送膜連結子
P(P1,P2…Pn-1,Pn) 正孔輸送膜(第1,第2…第n-1,第n正孔輸送膜)
A(A1,A2…An-1,An) 光捕集膜(第1,第2…第n-1,第n光捕集膜)
N(N1,N2…Nn-1,Nn) 電子輸送膜(第1,第2…第n-1,第n電子輸送膜)
R 光線
S 電子供与基
T 光増感基

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合層と、この複合層の両面に配置される一対の電極とを有する光電素子において、
前記複合層は、
光エネルギーを捕集して励起する光増感基を含む第1光捕集膜と、
この第1光捕集膜に隣接し、励起した前記光増感基に電子を供与する電子供与基を含む第1正孔輸送膜と、
第n−1光捕集膜を通過した光エネルギーを捕集して励起する光増感基を含む第n光捕集膜(n=2,3…)と、
前記第n光捕集膜及び前記第n−1光捕集膜に挟持され、励起した前記光増感基に電子を供与する電子供与基を含む第n正孔輸送膜(n=2,3…)と、
前記第n正孔輸送膜を貫通して、前記第n−1光捕集膜及び前記第n光捕集膜を連結する光捕集膜連結子と、
前記第n−1光捕集膜を貫通して、第n−1正孔輸送膜及び前記第n正孔輸送膜を連結する正孔輸送膜連結子と、を備えることを特徴とする光電素子。
【請求項2】
複合層と、この複合層の両面に配置される一対の電極とを有する光電素子において、
前記複合層は、
光エネルギーを捕集して励起する光増感基を含む第1光捕集膜と、
この第1光捕集膜に隣接し、励起した前記光増感基から電子が受容される電子受容基を含む第1電子輸送膜と、
第n−1光捕集膜を通過した光エネルギーを捕集して励起する光増感基を含む第n光捕集膜(n=2,3…)と、
前記第n光捕集膜の両面にそれぞれ配置され、励起した前記光増感基から電子が受容される電子受容基を含む第n電子輸送膜及び第n−1電子輸送膜と、
前記第n−1電子輸送膜を貫通して、前記第n−1光捕集膜及び前記第n光捕集膜を連結する光捕集膜連結子と、
前記第n光捕集膜を貫通して、前記第n−1電子輸送膜及び第n電子輸送膜を連結する電子輸送膜連結子と、を備えることを特徴とする光電素子。
【請求項3】
前記第2〜第n正孔輸送膜は、さらに光増感基または電子受容基を含有し、その含有濃度は、nの次数に応じて膜厚方向に濃度勾配を有することを特徴とする請求項1に記載の光電素子。
【請求項4】
前記第2〜第n電子輸送膜は、さらに電子供与基または光増感基を含有し、その含有濃度は、nの次数に応じて膜厚方向に濃度勾配を有することを特徴とする請求項2に記載の光電素子。
【請求項5】
前記第2〜第n光捕集膜は、さらに電子供与基または電子受容基を含有し、その含有濃度は、nの次数に応じて膜厚方向に濃度勾配を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光電素子。
【請求項6】
前記第1〜第n正孔輸送膜、または前記第1〜第n電子輸送膜に替え、接着膜を用いることを特徴とする請求項5に記載の光電素子。
【請求項7】
いずれか一方の前記電極、及び前記複合層の間に設けられ、前記励起により発生した電子を、前記複合層から前記電極に輸送する電子輸送層をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光電素子。
【請求項8】
いずれか一方の前記電極、及び前記複合層の間に設けられ、前記励起により発生した正孔を、前記複合層から前記電極に輸送する正孔輸送層をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光電素子。
【請求項9】
前記複合層及び前記電子輸送層の境界は、前記光捕集膜で接していることを特徴とする請求項7に記載の光電素子。
【請求項10】
前記複合層及び前記電子輸送層の境界は、前記正孔輸送膜で接していることを特徴とする請求項7に記載の光電素子。
【請求項11】
前記複合層及び前記正孔輸送層の境界は、前記光捕集膜で接していることを特徴とする請求項8に記載の光電素子。
【請求項12】
前記複合層及び前記正孔輸送層の境界は、前記電子輸送膜で接していることを特徴とする請求項8に記載の光電素子。
【請求項13】
交互吸着法により前記複合層が作製されることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の光電素子。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の光電素子を用い、光エネルギーを電気エネルギーに変換し、電力として外部に取り出す機能を有することを特徴とする太陽電池。
【請求項15】
基板電極を負(または正)に帯電させる電極帯電工程と、
帯電した前記基板電極を、電子供与基の導入されたカチオン(またはアニオン)の溶液に浸漬し、静電吸着により形成される正孔輸送膜が表面を覆うと共に、全体として正(または負)に帯電させる正孔輸送膜吸着工程と、
正(または負)に帯電した前記基板電極を、光増感基の導入されたアニオン(またはカチオン)の溶液に浸漬し、静電吸着により形成される光捕集膜が表面を覆うと共に、全体として負(または正)に帯電させる光捕集膜吸着工程と、
前記光捕集膜吸着工程及び正孔輸送膜吸着工程を交互に繰り返し、前記基板電極に複合層を形成する交互吸着工程と、
前記複合層の、前記基板電極とは反対面に対向電極を設ける電極形成工程と、を含むことを特徴とする光電素子の製造方法。
【請求項16】
基板電極を負(または正)に帯電させる電極帯電工程と、
帯電した前記基板電極を、電子受容基の導入されたカチオン(またはアニオン)の溶液に浸漬し、静電吸着により形成される電子輸送膜が表面を覆うと共に、全体として正(または負)に帯電させる電子輸送膜吸着工程と、
正(または負)に帯電した前記基板電極を、光増感基の導入されたアニオン(またはカチオン)の溶液に浸漬し、静電吸着により形成される光捕集膜が表面を覆うと共に、全体として負(または正)に帯電させる光捕集膜吸着工程と、
前記光捕集膜吸着工程及び電子輸送膜吸着工程を交互に繰り返し、前記基板電極に複合層を形成する交互吸着工程と、
前記複合層の、前記基板電極とは反対面に対向電極を設ける電極形成工程と、を含むことを特徴とする光電素子の製造方法。
【請求項17】
前記交互吸着工程において、繰返し浸漬される、電子供与基の導入されたカチオン(またはアニオン)の前記溶液は、さらに光増感基または電子受容基を含有するものであって、その含有濃度は、前記基板電極が浸漬される毎に段階的に変化するものであることを特徴とする請求項15に記載の光電素子の製造方法。
【請求項18】
前記交互吸着工程において、繰返し浸漬される、電子受容基の導入されたカチオン(またはアニオン)の前記溶液は、さらに電子供与基または光増感基を含有するものであって、その含有濃度は、前記基板電極が浸漬される毎に段階的に変化するものであることを特徴とする請求項16に記載の光電素子の製造方法。
【請求項19】
前記交互吸着工程において、繰返し浸漬される、光増感基の導入されたカチオン(またはアニオン)の前記溶液は、さらに電子供与基または電子受容基を含有するものであって、その含有濃度は、前記基板電極が浸漬される毎に段階的に変化するものであることを特徴とする請求項15から請求項18のいずれか1項に記載の光電素子の製造方法。
【請求項20】
前記正孔輸送膜吸着工程または電子輸送膜吸着工程に替え、
帯電した前記基板電極を、電子受容性も電子供与性も示さない高分子電解質(カチオンまたはアニオン)の溶液に浸漬し、静電吸着により形成される接着膜が表面を覆うと共に、全体として正(または負)に帯電させる接着膜吸着工程を、含むことを特徴とする請求項19に記載の光電素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2006−156956(P2006−156956A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262522(P2005−262522)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】