多層炭素ナノ材料のフッ素化
本発明は、フッ素化多層炭素ナノ材料及びそれらを生成するための方法を提供する。本発明の一態様では、炭素ナノ材料は、部分的にフッ素化され、未反応炭素を一部保持する。本発明はまた、本発明のフッ素化炭素ナノ材料を組み込んだ電極及び電気化学デバイスを提供する。本発明の一態様では、電気化学品は、本発明の少なくとも部分的にフッ素化された炭素材料を含む第1電極と、リチウムイオン源を含む第2電極とを有する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、その全体の参照により、本明細書における開示と矛盾しない程度まで本明細書に組み込まれている2005年11月16日出願の米国特許仮出願第60/737186号明細書の優先権を主張するものである。
【0002】
[発明の背景]
本発明は、フッ素化多層炭素ナノ材料、詳細には、フッ素化多壁炭素ナノチューブ、多層炭素ナノファイバ、多層炭素ナノ粒子、炭素ナノウイスカー、及び炭素ナノロッドの分野におけるものである。
【0003】
フッ素化炭素は、リチウム一次電池における正極材料として商業的に使用されている。グラファイトをフッ素化することによって炭素層間にフッ素をインターカレーションすることが可能になる。フッ素化炭素の他の工業用途として、固体潤滑剤としての使用、又はBrF3及びClF3などの非常に活性な分子酸化剤用の貯留体としての使用が挙げられる。
【0004】
リチウム/CFx電池では、Wittingham(1975)Electrochem.Soc.122:526によって最初に仮定された電池の全放電反応は、式(1)によって定式化し得る:
【数1】
【0005】
したがって、mAh・g−lで表される理論的な比放電容量、Qthは式(2)によって与えられる:
【数2】
但し、Fは、ファラデー定数であり、3.6は、単位変換定数である。
【0006】
したがって、様々な化学量論組成を有する(CFx)n材料の理論容量は、以下の通りである:x=0.25、Qth=400mAh・g−1;x=0.33、Qth=484mAh・g−1;x=0.50、Qth=623mAh・g−l;x=0.66、Qth=721mAh・g−l;及びx=1.00、Qth=865mAh・g−l。
【0007】
炭素同素形とフッ素ガスの反応性は、グラファイト化度又は炭素材料の種類いずれかによって大きく異なる(Hamwi A.ら、J.Phys.Chem.Solids、1996、57(6〜8)、677〜688)。一般に、グラファイト化度が高いほど、反応温度が高い。フッ化炭素は、フッ素、又はフッ素及び不活性ガスの混合物の存在下で直接フッ素化することによって得られている。出発材料としてグラファイトを使用する場合、300℃未満では有意のフッ素化は見られない。350から640℃で、主として結晶構造及び組成の異なる、2つのフッ化グラファイト:ポリ(モノフッ化二炭素)(C2F)n及びポリ(モノフッ化炭素)(CF)nが形成される(Nakajima T.、Watanabe N.、Graphite fluorides and Carbon−Fluorine compounds、1991、CRC Press、Boston;Kita Y.、Watanabe N.、Fujii Y.、J.Am.Chem.Soc.、1979、101、3832)。両方の化合物では、炭素原子は、炭素六面体の平面状から「椅子状」又は「ボート状」形状へのゆがみを伴うsp3混成をとる。ポリ(モノフッ化二炭素)は、約350℃で得られ、特徴的な構造をとり、2つの隣接フッ素層が、六方晶格子のc軸に沿って強固なC−C共有結合によって結合した2つの炭素層によって隔てられている(段階2)。他方、約600℃で実現するポリ(モノフッ化炭素)は、2つの隣接フッ素層間に1つだけの炭素層構造を有する(段階1)。350と600℃との間で得られるフッ化グラファイトは、(C2F)nと(CF)nとの間の中間組成を有し、これら2つの相の混合物からなる(Kita、1979)。段階sは、フッ素の2つの連続層を隔てる炭素層の数を示す。したがって、段階1の化合物は、FCF/FCF...のような積層配列を有し、段階2の化合物は、配列FCCF/FCCF...を有する。ポリ(モノフッ化二炭素)とポリ(モノフッ化炭素)との両方は、比較的不十分な導電率を有することが知られている。
【0008】
電池においてフッ素化炭素ナノチューブを使用することは、特許文献において報告されている。Mashushita Electric Ind.Co.Ltd.の日本国特許出願公開第2005285440号明細書には、フッ素化炭素ナノチューブを含むフルオロカーボンから作製された正極と、リチウムイオン源を提供し得る材料から作製された負極とを含む非水電解質電池が報告されている。
【0009】
多壁炭素ナノチューブ(MWCNT)とフッ素の反応は、科学文献において報告されている。Hamwiら(1997)は、シリカ担持コバルト触媒上でアセチレンを熱分解することによって調製した20と40nmとの間の外径を有する炭素ナノチューブのフッ素化を報告している。純フッ素雰囲気下約500℃で4時間フッ素化すると、完全なフッ素化を示す白色化合物がもたらされた(A.Hamwi、H.Alvergnat、S.Bonnamy、F.Beguin、1997、Carbon、35、723)。Touharaら(2002)は、1気圧のフッ素ガス下50℃から200℃の温度で5日間、30nmの外径を有するテンプレート合成炭素ナノチューブのフッ素化を報告している(H.Touharaら、2002、J.Fluorine Chem、114、181〜188)。
【0010】
カーボンファイバとフッ素の反応も報告されている。Yanagisawaらの米国特許第6841610号明細書には、炭素層の曝露端がフッ素化されているフッ素化カーボンファイバが報告されている。元のカーボンファイバ出発物質は、「ニシン骨」構造及び約100nmの平均直径を有していた。フッ素化温度は340℃、フッ素分圧は460mmHg、窒素分圧は310mmHg、及び反応時間は72時間と報告された。Touharaら(1987)は、元素フッ素の反応を報告し、約10ミクロンの直径を有する蒸気成長カーボンファイバを330℃と614℃との間の温度で熱処理した。化合物全てでグラファイトの残留は確認されなかった。報告されたF/C比は、0.53(345℃で)と0.99(614℃で)の範囲であった(Touharaら、1987、Electrochemica Acta、32巻、2号、293〜298)。
【0011】
HFや他のフッ化物などの、フッ素化触媒として作用することができる他の化合物をガス混合物中に組み込むことによって、炭素−フッ素インターカレーション化合物も得られてきた。これらの方法によって、より低い温度でのフッ素化が可能になる。これらの方法によって、(C2F)n及び(CF)n以外のインターカレーション化合物を調製することも可能になった(N.Watanabeら、「Graphite Fluorides」、Elsevier、Amsterdam、1988、240〜246頁)。HF又は金属フッ化物の存在下で調製したこれらのインターカレーション化合物は、フッ素含量が非常に低い(F/C<0.1)場合、イオン性であり、又はより高いフッ素含量(0.2<F/C<0.5)に対してはイオン性−共有性である。いずれの場合でも、X線電子分光法(ESCA)によって測定された結合エネルギーは、F1s線の最も重要なピークに対して687eV未満の値であり、C1s線の最も重要なピークに対して285eV未満の値である(T.Nakajima、Fluorine−carbon and Fluoride−carbon、Chemistry,Physics and Applications、Marcel Dekker、1995、13頁)。
【0012】
Hamwiらは、F2、HF及びIF6のガス雰囲気下で約10時間のMWNTの室温フッ素化を報告している。質量取込みによって求められたF/C比は、0.4として報告された。フーリエ変換赤外分光分析法のスペクトルは、約1100cm−1に中心があるブロードバンドを示し、準イオン性C−F結合の存在を示すと報告されている(Hamwi、1997、同書)。
【0013】
Endoらの米国特許第5106606号明細書には、C5FからC30Fの組成を有するフッ素化グラファイトファイバが報告されている。実施例には、フッ化銀触媒の存在下での室温フッ素化が記載されている。
【0014】
[発明の概要]
本発明は、フッ素化多層炭素ナノ材料を提供する。本発明に関して使用するのに適した多層炭素材料として、多壁炭素ナノチューブ(MWCNT)、多層炭素ナノファイバ(CNF)、多層炭素ナノ粒子、炭素ナノウイスカー、及び炭素ナノロッドが挙げられる。これらのフッ素化材料は、一次電池及び二次電池などの電気化学デバイスにおいて使用するのに適している。詳細には、リチウム電池において部分フッ素化ナノ材料を使用すると、高放電速度での良好な電池性能が提供され得る。
【0015】
一実施形態では、本発明は、直接フッ素化によって得られ、平均化学組成CFxを有し、xが、炭素原子に対するフッ素原子の比であるフッ素化多層炭素ナノ材料を提供する。本発明の一態様では、xは、0.06と0.95間である。一実施形態では、炭素ナノ材料は、フッ素化する前、実質的に規則性の多層構造を有する。
【0016】
一実施形態では、本発明は、非フッ素化(未反応)炭素とフッ素化炭素との両方を含有する部分フッ素化炭素ナノ材料を提供する。未反応炭素相は、フッ素化炭素生成物より高い導電率を有する。部分フッ素化材料が、Li/CFx電池のカソードにおいて使用される場合、材料の非フッ素化成分は、電子伝導性を保証するが、一方、フッ素化成分は、式1に従って、放電中電気化学的に活性である。これらの部分フッ素化ナノ材料では、これらの2つの現象の組合せによって、放電中、高エネルギー密度を得ることが可能になる。
【0017】
他の実施形態では、本発明は、少なくとも2つのフッ素化炭素生成物:より少なくフッ素化され、より導電性の生成物及びより多くフッ素化され、導電性のより低い生成物を含有するフッ素化炭素ナノ材料を提供する。これらのフッ素化炭素材料は、非フッ素化炭素を含有してもよい。既に説明したように、より高い導電率を有する成分の存在は、高放電速度でのLi/CFx電池性能を補助することが予想される。
【0018】
本発明は、多層炭素ナノ材料をフッ素化するための方法をも提供する。一実施形態では、本発明の方法は、約375℃を超える温度で4時間を越える時間、多層炭素ナノ材料をフッ素又はフッ素ガス混合物いずれかと接触させるステップを含む。
【0019】
本発明は、化学エネルギーを電気化学電流に転換する電気化学デバイスをも提供し、このようなデバイスは、リチウム電池によって例示される。このようなデバイスは、本発明の少なくとも1つのフッ素化多層炭素ナノ材料を含む第1電極と、第2電極と、電解質と呼ばれるイオン輸送材料と、2つの電極を物理的に隔て、それらの間の直接の電気的接触を防止するセパレータ材料とを有する。他の実施形態では、電解質及びセパレータは、固体状態ポリマー(POE、PPE)、ゲル化電解質、又は固体状態電解質(リチウムリンオキシナイトライド(LiPON)薄膜)などの1つの材料によって提供することができる。リチウム電池では、第2電極は、リチウムイオン源を含む。一実施形態では、第1電極は、カソード又は正極であり、第2電極は、アノード又は負極である。アノードは、元素周期表の1、2、及び3族の金属に対応するイオン源を含んでもよい。
【0020】
本発明のさらなる態様では、電極が提供され、該電極は、フッ素化多層炭素ナノ材料を含む。一般に、フッ素化多層炭素ナノ材料は、導電性希釈剤及び結合剤をさらに含む組成物中に存在する。このような電極は、化学エネルギーを電極電流に転換する電気化学デバイス、及び電子デバイスにおいて用い得る。
【0021】
[発明の詳細な説明]
一実施形態では、本発明は、フッ素化多壁又は多層炭素ナノ材料を提供する。本明細書では、炭素ナノ材料は、1ナノメートルと1ミクロンとの間にある少なくとも1つの次元を有する。一実施形態では、ナノ材料の少なくとも1つの次元は、2nmと1000nmとの間にある。炭素ナノチューブ、炭素ナノファイバ、炭素ナノウイスカー、又は炭素ナノロッドにおいて、チューブ、ファイバ、ナノウイスカー、又はナノロッドの直径は、この大きさの範囲内に入る。炭素ナノ粒子では、ナノ粒子の直径は、この大きさの範囲内に入る。本発明による使用に適した炭素ナノ材料として、全不純物の濃度が10%未満である材料、及びホウ素、窒素、ケイ素、スズ、及びリンなどの元素をドープした炭素材料が挙げられる。
【0022】
本発明による使用に適した炭素ナノ材料は、フッ素化する前、複数の炭素層を有する。多壁ナノチューブでは、層は、ナノチューブの壁を作り出すグラフェン層によって形成される。多層ナノ粒子では、層は、多層フラーレンによって形成される。
【0023】
本明細書では、「ナノチューブ」という用語は、通常約1nmから約20nmの直径を通常特徴とするチューブ形状で別々のフィブリルを指す。加えて、ナノチューブは、通常、直径の約10倍を超える、好ましくは、直径の約100倍を超える長さを示す。ナノチューブを説明するのに使用される「多壁」という用語は、ナノチューブが規則性のある原子の複数の連続層からなる外部領域と、明確な内部コア領域もしくは管腔とを含むように、層状構造を有するナノチューブを指す。層は、フィブリルの長手軸の周りに実質的に同心的に配置される。炭素ナノチューブでは、層はグラフェン層である。炭素ナノチューブは、それぞれSWCNT、DWCNT、及びMWCNTと注記される単−、二重−、及び多壁炭素ナノチューブとして様々な形態で合成されている。直径の大きさは、SWCNT及びDWCNTでの約2nmからMWCNTでの約20nmの範囲である。一実施形態では、本発明で使用されるMWNTは、5nmを超える、10nmを超える、10と20nm間、又は約20nmの直径を有する。
【0024】
多壁炭素ナノチューブは、接触化学蒸気堆積法(CVD)によって生成し得る。一実施形態では、CVDによって生成した炭素ナノチューブは、本発明のフッ素化プロセスを受ける前に、加熱処理することによってそれらの構造及び微細組織の特徴が改良される。詳細には、炭素ナノチューブは、グラフェン層が実質的に真直ぐになり、チューブ軸に沿って規則正しく整列するように、十分高い温度まで加熱する。一実施形態では、MWCNTは、加熱することによって実質的に十分に規則性のある構造を生成する。本明細書では、炭素ナノ構造は、そのX線回折パターン中に少なくとも1つのピークを有し、1)銅の単色放射線を使用して回折角2θの24.5度と26.6度との間に含まれる角度領域内にそのピークが現れ、2)そのピークが、回折角2θにおける最大半値幅で4度未満の全幅を有する場合、実質的に十分規則性である。
【0025】
本明細書では、炭素ナノファイバとは、20nmを超え、1000nm未満の直径を有するカーボンファイバを指す。多様な実施形態では、本発明において使用される炭素ナノファイバは、20と1000nm間、40と1000nm間、又は80と350nm間である。多壁ナノチューブに類似の同心炭素層を有する炭素ナノファイバは、接触化学蒸気堆積法及び熱処理によって生成し得る。詳細には、CVD生成炭素ナノファイバは、炭素層が実質的に真直ぐになり、ファイバ軸に沿って規則正しく整列するように、十分高い温度まで加熱する。多様な実施形態では、炭素ナノファイバは、1800℃を超える、又は2500℃を超える温度まで加熱することによって実質的に十分規則性の構造を生成する。
【0026】
当技術分野で周知のように、より大きい直径(例えば、10ミクロン)を有する蒸気成長カーボンファイバ(VGCF)も、接触化学蒸気堆積法によって生成し得る。これらのファイバは、同心的に相互の頂部に存在する層様の成長環の構造を有し得る(Endo,M.、1988、Chemtech、568〜576)。1ミクロン以上の直径を有するVGCFは、本発明において使用される「炭素ナノ材料」という用語に包含されるものではない。
【0027】
炭素ナノ粒子は、大きな、かなり不完全な多層フラーレンに関連する構造として考え得る(Harris,P.、1999、「Carbon Nanotubes and Related Structures」、Cambridge University Press、Cambridge、103頁)。炭素ナノ粒子の一形態は、「炭素オニオン」と呼称される。十分に形成された場合、炭素オニオンは、構造において高度に完全であるように見え、眼に見える欠陥がほとんどない(Harris、1999)。炭素オニオンは、5nmを超える直径で形成されている(Harris、1999)。Nasibulinらは、5nmと30nmの間の炭素オニオンの形成を報告し(Nasimbulin,A.G.ら、2005、Colloid J.、67(1)、1〜20)、一方、Sanoらは、4と36nmの間の炭素オニオンの形成を報告している(Sano,N.ら、2002、J.Appl.Phys.、92(5)、2783)。多様な実施形態では、本発明において使用される多層炭素ナノ粒子は、5nmを超える、10nmを超える、20nmを超える、5と35nmとの間、又は10と30nmとの間の直径を有する。
【0028】
電子サイクロトロン共鳴化学蒸気堆積法によって成長した炭素ナノロッドの一形態は、Wooらによって報告された。フィラメント状の炭素は、中空チューブを形成しなかった。高分解能透過電子顕微鏡法によって、結晶性の壁を示し、グラフェン層が幾分不規則になり、ロッド軸の周りに傾斜していることが報告された。グラフェン層間の平均距離は、MWCNTより大きいと報告された(Woo,Y.ら、2003、J.Appl.Phys.94(10、6789)。
【0029】
グラファイトウイスカーとも呼称される炭素ウイスカーは、当技術分野で周知である。これらの材料は、基本的に連続なグラファイト性構造から作り上げられたスクロール様の構造を有するように思われる(Harris、1999)。
【0030】
本明細書では、材料のフッ素化は、フッ素を材料中に導入するステップを含む。本発明では、フッ素化は、通常、炭素とフッ素との間の結合を形成するステップを含むであろう。当技術分野で周知であるように、フッ素は、炭素とのイオン結合と共有結合との両方を形成することが可能である。一部の場合では、C−F結合はまた、強度においてイオン結合と共有結合の中間にあるとして分類されてきた(例えば、部分的にイオン性、準イオン性、準共有性)。フッ素化方法は、フッ素化生成物中に存在する結合の種類に影響し得る。
【0031】
本発明では、フッ素化多層炭素ナノ材料は、直接フッ素化によって生成する。直接フッ素化では、C−F結合は、より高いエネルギーになる傾向があり、低温フッ素インターカレーションを介して得られたC−F結合より共有性が大である。フッ素−グラファイトインターカレーション化合物は、フッ素含量に応じてイオン性と準共有性の間で変化する炭素−フッ素結合を有することが予想される。(Matsuo,Y.ら、1995、Z.Anorg.Allg.Chemie、621、1943〜1950)。例えば、Matsuoら(1995)は、687eV、685eV、及び683eVにおけるXPS F1sスペクトルピークを、それぞれ準共有、ほぼイオン性、及びイオン性として分類している。逆に、共有結合したフッ化グラファイトにおけるF1sピークは、689.3〜689.6eVにある(Watanabe、1988、同書)。
【0032】
本発明の一態様では、フッ素化生成物中の少なくとも一部の炭素は、フッ素と共有結合、又はほぼ共有結合している。本発明の他の態様では、フッ素化生成物中の少なくとも一部の炭素は、フッ素と共有結合している。一実施形態では、フッ素と共有結合、又はほぼ共有結合している炭素は、フッ素化炭素ナノ材料の表面より下に位置している。
【0033】
本明細書では、結合が、グラファイトの低温フッ素化を介して得られたフッ素のグラファイトインターカレーション化合物における「準イオン性」又は「準共有性」炭素−フッ素結合のエネルギーを超えるが、ポリ(モノフッ化二炭素)(C2F)n又はポリ(モノフッ化炭素)(CF)nの非表面領域中の炭素−フッ素共有結合の通常のエネルギー未満であるエネルギーを有する場合、フッ素化生成物中の炭素−フッ素結合は、ほぼ共有性であると分類される。
【0034】
フッ素化生成物中のC−F結合の性質は、適切な分析技法によって求め得る。このような技法は、当業者には周知であり、このような技法として、限定されないが、フーリエ変換赤外分光分析法(FT−IR)、核磁気共鳴分光分析法(NMR)、X線光電子分光分析法(XPS)、又はX線電子分光法(ESCA)が挙げられる。C−F結合中の共有性の程度は、フッ素化生成物に対する分析結果を、C−F共有結合を有すると通常認められている「標準」に対して得られた分析結果と比較することによって評価し得る。フッ素化生成物に対する分析結果と「標準」の分析結果間の一致(実験誤差内)は、共有結合を示すと考えてもよい。フッ化グラファイトである、ポリ(モノフッ化二炭素)(C2F)n及びポリ(モノフッ化炭素)(CF)nは、C−F共有結合を有すると通常認められている。
【0035】
実施例1で議論するように、約−190ppm/CFCl3に中心のある化学シフトピークを有する固体状態19F−NMRスペクトルは、炭素原子に共有結合したフッ素原子を示す。他の実施例では、84〜88ppm/TMSの化学シフトに存在する共鳴を有する固体状態13C−NMRスペクトルは、フッ素原子に共有結合した炭素原子を示す。約1215cm−1に中心のある振動バンドを示すフーリエ変換赤外分光分析法(FT−IR)スペクトルも、C−F共有結合を示している。
【0036】
本明細書では、部分フッ素化炭素材料は、フッ素と反応したある種の炭素材料と、フッ素と反応しなかったある種の炭素材料とを含む。部分フッ素化炭素材料は、主として外の部分がフッ素と反応し、内部領域は、大部分未反応である材料を含む。
【0037】
フッ素の炭素に対する比の平均は、フッ素化の程度の目安として使用し得る。この比の平均は、重量取込み測定を介して、又は実施例1で説明するようなNMR測定を介して求め得る。炭素材料の壁厚全体にフッ素が均一に分布していない場合、この比の平均は、X線光電子分光分析法(XPS)、又はESCAによって得ることができる表面のフッ素の炭素に対する比と異なる場合がある。
【0038】
一実施形態では、本発明は、直接フッ素化によって得られ、平均化学組成CFxを有し、xが、炭素原子に対するフッ素原子の比であり、0.06と0.95との間の値を有し、炭素ナノ材料が、フッ素化する前、実質的に規則性の多層構造を有するフッ素化炭素ナノ材料を提供する。他の実施形態では、xは、0.06と0.68間、0.3と0.66間、又は0.39と0.95間である。
【0039】
一実施形態では、xは、0.006と0.68間であり、フッ素化材料は、a)Cu単色放射線源を使用して、24.5〜26.6度の角度範囲のX線回折ピーク、及びb)(−160)ppmと(−200)ppm/CFCl3の間の範囲の19FNMRピークを示す。非フッ素化炭素ナノ材料のXRDピークは、上記引用範囲内に入ると予想される。
【0040】
他の実施形態では、xは、0.39と0.95間であり、フッ素化材料は、a)9.8〜15度の角度範囲のX線回折ピーク、b)(−180)ppmと(−200)ppm/CFCl3の間の範囲の19FNMRピーク、及びc)3つの13CNMRピーク:100〜150ppm/TMS範囲の第1ピーク、84〜88ppm/TMS範囲の第2ピーク、及び42〜48ppm/TMS範囲の第3ピークを示す。
【0041】
他の実施形態では、本発明は、非フッ素化炭素相と、少なくとも一部の炭素が、フッ素に共有結合又はほぼ共有結合している少なくとも1つのフッ素化炭素生成物とを含み、炭素ナノ材料が、フッ素化する前、実質的に規則性の多層構造を有するフッ素化炭素ナノ材料を提供する。多様な実施形態では、炭素原子に対するフッ素原子の比の平均は、0.06と0.68間、0.3と0.66間、又は0.3と0.6間である。
【0042】
他の実施形態では、本発明は、部分フッ素化された炭素ナノ材料であって、部分フッ素化炭素ナノ材料が、非フッ素化炭素相と、フッ素化炭素生成物とを含み、フッ素の炭素に対する比の平均が、0.4未満であり、炭素ナノ材料が、フッ素化する前、実質的に規則性の多層構造を有する炭素ナノ材料を提供する。
【0043】
本発明の他の態様では、本発明は、少なくとも一部の炭素が、フッ素に共有結合又はほぼ共有結合しており、層間間隔の平均が、グラファイト(モノフッ化二炭素)の層間間隔とグラファイト(モノフッ化炭素)の層間間隔との中間である少なくとも1つのフッ素化炭素生成物を含み、炭素ナノ材料が、フッ素化する前、多層構造を有するフッ素化炭素ナノ材料を提供する。多様な実施形態では、フッ素の炭素に対する比の平均は、1.0未満、0.3と0.8間、又は0.6と0.8間、0.39と0.95間、0.39と0.86間、0.39と0.68間、0.68と0.86間、又は0.74と0.86間である。
【0044】
一実施形態では、フッ素化炭素生成物は、フッ化グラファイト(C2F)n及び(CF)nの混合物によって生成するであろう生成物に類似のいくつかの特徴を有する。X線回折分析では、この生成物が、12.0度及び41.5度に中心がある2θのピークを有することが示される。この化合物の層間間隔は、約0.72nmである。この化合物の13C−NMRスペクトルは、42ppmに存在する共鳴を有するが、これは、非フッ素化sp3炭素原子を示す。NMR分析によって、炭素とフッ素間の共有結合も示される。CF2及びCF3基も少量存在する場合がある。
【0045】
他のフッ素化炭素生成物は、(CF)nに対する構造類似性を有し得る。X線回折分析では、この生成物が、12.0度超及び41.5度未満に中心がある2θのピークを有することが示される。この化合物の層間間隔は、約0.60nmである。NMR分析によって、炭素とフッ素間の共有結合も示される。CF2及びCF3基も少量存在する場合がある。いかなる特定の意見によっても拘束されることを望まないが、比較的低温(例えば、平均直径約150nmを有するCNFでは、420℃未満の温度)における多層炭素ナノ材料のフッ素化は、主として炭素材料の表面のフッ素化をもたらすと考えられている。炭素材料の残りは、未フッ素化のままである。この表面フッ素化は、CF2及びCF3などの基の形成を含む場合がある。一実施形態では、この型に伴うフッ素の炭素に対する比は、0と0.16間である。
【0046】
中間温度(例えば、平均直径約150nmを有するCNFでは、420℃と465℃との間の温度)では、フッ素化は、材料の表面を過ぎて進行すると考えられる。一実施形態では、フッ素化生成物は、フッ化グラファイト(C2F)n及び(CF)nの混合物に対するいくつかの結晶学的類似性を有する。一実施形態では、多層炭素ナノ材料は、部分的にフッ素化され、未反応炭素を一部含有する。他の実施形態では、一部の炭素が、「軽くフッ素化」され、主として非共有結合を有する第2のフッ素化生成物が、フッ素に共有結合又はほぼ共有結合している炭素原子を少なくとも一部有する第1のフッ素化生成物に加えて、存在する。一実施形態では、この型に伴うフッ素の炭素に対する比は、0.31と0.79間である。
【0047】
より高い温度(例えば、平均直径約150nmを有するCNFでは、465℃超の温度)では、フッ素化生成物は、フッ化グラファイト(CF)nに対するより強い結晶学的類似性を示し始める。いかなる特定の理論によっても拘束されることを望まないが、材料中に存在する(C2F)n様の相は、やはり共有結合を示す(CF)n様の相への転換を開始すると考えられる。この転換には、剥離が伴う。一実施形態では、非フッ素化炭素の量は、XRDによって検出できないほど十分に少ない。一実施形態では、フッ素の炭素に対する比は、0.86を超える。
【0048】
本発明のフッ素化多層炭素ナノ材料は、多層炭素ナノ材料がフッ素元素のガス源と接触する直接フッ素化法を使用して調製する。フッ素化条件(温度、時間、及びフッ素圧力を含めて)は、所望の程度の炭素材料のフッ素化が得られるように選択する。一実施形態では、フッ素化条件は、80と350nm間の平均直径を有するCNFをフッ素化するのに適するように選択する。
【0049】
多様な実施形態では、フッ素化温度は、375℃と480℃との間、400℃と475℃との間、405℃と465℃との間、又は420℃と465℃との間でよい。
【0050】
多様な実施形態では、時間は、4時間を越える、4と40時間の間、4と20時間の間、4と16時間の間、4と12時間の間、8と20時間の間、8と16時間の間、8と12時間の間、又は約16時間でよい。
【0051】
一実施形態では、フッ素化は、基本的にF2及び不活性ガスからなるガス混合物によって大気圧で行う。混合物中のフッ素のパーセンテージは、5%と100%間、10%と90%間、20%と80%間、20%と60%間、20%と50%間、又は約20%でよい。
【0052】
他の実施形態では、フッ素化は、大気圧未満の圧力で行い得る。一実施形態では、フッ素化は1気圧と0.1気圧間、又は1気圧と0.25気圧間で行い得る。
【0053】
元素フッ素の適切なガス源は、当業者に周知であろう;このような供給源の例は、F2及び十分に不活性なガスの混合物である。適切な不活性ガスとして、限定されないが、窒素及びアルゴンが挙げられる。好ましくは、フッ素インターカレーション触媒として周知であるHF又は他のフッ化物が、ガス混合物中に微量だけ存在する。
【0054】
一実施形態では、本発明は、1気圧と0.1気圧の間の圧力、及び375℃と480℃との間の温度で、4時間と20時間の間の時間炭素ナノ材料を元素フッ素のガス源に曝露するステップを含む、多層炭素ナノ材料をフッ素化するための方法を提供する。
【0055】
本発明のフッ素化多層炭素ナノ材料は、フッ素化後、熱処理し得る。
【0056】
本発明の電気化学デバイスでは、フッ素化多層炭素ナノ材料は、通常、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、粉末化グラファイト、コークス、カーボンファイバ、並びに粉末ニッケル、アルミニウム、チタン、及びステンレス鋼などの金属粉末から選択し得るような導電性希釈剤をも含む組成物中に存在する。導電性希釈剤は、組成物の導電性を改良し、組成物の約1重量%から約10重量%、好ましくは、組成物の約1重量%から約5重量%を代表する量において通常存在する。フッ素化多層炭素ナノ材料と、導電性希釈剤とを含む組成物は、ポリマー性結合剤をも通常含有し、好ましいポリマー性結合剤は、少なくとも部分的にフッ素化されている。したがって、結合剤の例として、限定されないが、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、及びポリ(エチレン−co−テトラフルオロエチレン)(PETFE)が挙げられる。結合剤は、存在する場合、組成物の約1重量%から約5重量%を代表し、フッ素化多層炭素ナノ材料は、組成物の約85重量%から約98重量%、好ましくは、組成物の約90重量%から約98重量%を代表する。
【0057】
次いで、生成フッ素化多層炭素ナノ材料は、上記の導電性希釈剤及び結合剤と混合し、好ましい重量比は、フッ素化多層炭素ナノ材料として約85重量%から約98重量%、より好ましくは、約90重量%から約98重量%;導電性希釈剤として、約1重量%から約10重量%、好ましくは、約1重量%から約5重量%;及び結合剤として、約1重量%から約5重量%である。
【0058】
通常、前記成分を混合して形成したスラリーは、次いで、導電性基材上に堆積又は他の方法で供給することによって電極を形成する。多数の他の導電性基材、例えば、ステンレス鋼、チタン、白金、金なども使用し得るが、特に好ましい導電性基材は、アルミニウムである。フッ素化多層炭素ナノ材料は、堆積プロセス中、少なくとも部分的に配列してもよい。例えば、せん断配列を使用することによってフッ素化多層炭素ナノ材料を配列し得る。
【0059】
本発明のさらなる態様では、電気化学デバイスにおいて使用するための電極を調製するための方法であって、以下のステップ:
本発明の方法に従って多層炭素ナノ材料をフッ素化するステップと、
フッ素化多層炭素ナノ材料を導電性希釈剤及び結合剤と混合することによってスラリーを形成するステップと、
スラリーを導電性基材に施用するステップと
を含む方法が提供される。
【0060】
一実施形態では、本発明は、第1電極と、第2電極と、これらの間に配置されたイオン輸送材料とを含み、第1電極が、本発明に記載のフッ素化炭素ナノ材料を含む電気化学デバイスを提供する。
【0061】
一次リチウム電池では、例えば、前記の電極は、カソードとして働き、アノードは、リチウムイオン源を提供し、イオン輸送材料が、通常、非水電解質によって飽和された微多孔性又は不織材料である。アノードは、例えば、リチウム、又はリチウムの合金(例えば、LiAl)、又は炭素−リチウムのホイル又はフィルムを含んでよく、リチウム金属のホイルが好ましい。イオン輸送材料は、低電気抵抗を有し、高強度、良好な化学的及び物理的安定性、及び全体が均一な特性を示す通常の「セパレータ」材料を含む。上記したように、本明細書における好ましいセパレータは、微多孔性及び不織材料、例えば、不織ポリエチレン、及び/又は不織ポリプロピレンなどの不織ポリオレフィン、並びに微多孔性ポリエチレンなどの微多孔性ポリオレフィンフィルムである。微多孔性ポリエチレン材料の例は、Hoechst Celaneseから商品名Celgard(登録商標)(例えば、Celgard(登録商標)2400、2500、及び2502)として得られるものである。リチウムは、水性媒体中で反応性であるので、電解質は非水性が必須である。適切な非水電解質は、プロピレンカルボナート(PC)、エチレンカルボナート(EC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、ジメチルエーテル(DME)、及びそれらの混合物などの非プロトン性有機溶媒中に溶解したリチウム塩からなる。PCとDMEの混合物が普通であり、通常、重量比が約1:3から約2:1である。この目的のための適切なリチウム塩として、限定されないが、LiBF4、LiPF6、LiCF3SO3、LiClO4、LiAlCl4などが挙げられる。使用の際は、印加電圧が、アノードでのリチウムイオンの発生、及び、電解質浸漬セパレータを介してのフッ素化多層炭素ナノ材料カソードへのイオンの移動を引き起こし、電池を「放電する」ことは理解されよう。
【0062】
一実施形態では、本発明は、第1電極がカソードにおいて働き、第2電極がアノードにおいて働き、リチウムイオン源を含み、イオン輸送材料が第1及び第2電極を物理的に隔て、それらの間の直接の電気的接触を防止する一次リチウム電池である電気化学デバイスを提供する。
【0063】
他の実施形態では、少なくとも部分的にフッ素化されたMWCNT又はCNFは、二次電池、つまり、再充電可能なリチウム電池などの再充電可能な電池において利用される。このような場合では、カチオン、例えば、リチウムイオンは、固体ポリマー電解質−−物理的セパレータとしても働く−−を通って少なくとも部分的にフッ素化されたMWCNT又はCNF電極まで輸送され、カチオンは、少なくとも部分的にフッ素化されたMWCNT又はCNF材料によってインターカレーション及び脱インターカレーションされる。固体ポリマー電解質の例として、化学的に不活性なポリエーテル、例えば、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、及び他のポリエーテルが挙げられ、ポリマー性材料は、塩、例えば、前記パラグラフに記載されたようなリチウム塩で含浸、又は他の方法で会合される。
【0064】
他の実施形態では、本発明は、第2電極が元素周期表の1、2、及び3族から選択される金属イオン源を含み、イオン輸送材料が、前記金属カチオンの輸送を可能にし、第1及び第2電極を物理的に隔てる固体ポリマー電解質を含む二次電池である電気化学デバイスを提供する。
【0065】
本発明のなおさらなる態様では、
少なくとも部分的にフッ素化されたMWCNT又はCNFを含み、元素周期表の1、2、及び3族から選択される金属カチオンを受領及び放出することが可能である第1電極と、
金属カチオン源を含む第2電極と、
金属イオンの輸送を可能にし、第1及び第2電極を物理的に隔てる固体ポリマー電解質と
を含む再充電可能な電池が提供される。
【0066】
Li/フッ素化CNF電池の特徴的な放電プロフィールを図14に示す;フッ素の炭素に対する比は、約0.59である。これらの電池は、式1によるLiF形成に対応する特徴的なプラトーを示す。プラトーの電圧値は、放電速度によって決まる。比較のために、市販のLi/CF電池の特徴的な放電プロフィールを図17に示す。
【0067】
Li/フッ素化CNF電池の放電プロフィールは、CNFのフッ素の炭素に対する比によって異なる。一般に、式2によって示されるように、F/Cが高いほど、放電容量は大である。フッ素の炭素に対する比が0.15以下の試料は、一定の放電電位を示さない恐れがある。
【0068】
部分フッ素化されたMWCNT及びCNFは、低放電期間では十分にフッ素化された材料に比較して過電位の減少を示す場合がある。このことは、フッ素化部分が進行すると、試料の導電性が減少すること、すなわち試料中の元の炭素量が減少することに関連している。
【0069】
加えて、Liと、部分フッ素化されたCNFとを含む電池は、より大きい放電速度で(例えば、1C以上で)、市販のLi/CF電池に比較して改良された性能を示し得る。
【0070】
一実施形態では、電気化学電池が一度組み立てられると、実際に使用される前に「前放電」される場合がある。前放電段階には、電池容量の1%〜5%を放電するステップが関与する。電池の前放電によって、Li/フッ素化CNF電池の特徴的な放電プロフィールにおいて見られる、電圧プラトーが確立される前の当初の電圧遅延が排除され得る。
【0071】
以下の実施例では、使用される数(例えば、量、温度等)に関して精度を保証しようとする努力がなされたが、いくつかの実験誤差及び偏差が考慮されるべきである。別段の指示がなければ、温度は℃であり、圧力は大気圧又はその近傍である。全ての溶媒は、HPLC級として購入され、別段の指示がなければ、全ての試薬は、市販のものである。
【0072】
実施例1
炭素ナノファイバとフッ素ガスの反応性
概要
以下の研究では、炭素ナノファイバ(Nanofibers)又はナノファイバ(Nanofibres)(CNF)とフッ素ガスの反応性を明らかにする。高度に精製し、グラファイト化したCNFを、380〜480℃の範囲の温度で16時間フッ素ガス流下で処理した。多様なフッ素化温度帯を、XRD、ラマン分光分析法、EPR、及び固体状態NMR(13C及び19F)などの直接的な物理化学分析によって明らかにした。C−F結合の共有性、T1スピン−格子核緩和時間、とりわけダングリング結合の密度及び環境などの多様なパラメーター間の比較によって、フッ素化の機構、すなわち、よりフッ素に富む(CF)n化合物の前駆体としての(C2F)n型フッ化グラファイトの形成を決定することが可能になる。フッ素化が炭素ナノファイバの外側部分から進行し、次いで、フッ素化部分の大きな構造変化なしでコア内まで伝播する際のTEM特性解析は、このことを支持する。シートの剥離作用の低いことが、フッ素化の進展、及び(CF)nへの転換に必要である;こうしたことは、472℃を超えるフッ素化温度で、グラファイト構造の消失に伴って行われる。
【0073】
1.序論
炭素同素形とフッ素ガスの反応性は、グラファイト化度、又は炭素材料の種類のいずれかによって大きく異なる。グラファイト化度又は殻数が大であるほど、フッ素化に要する温度は高い。ナノチューブコアを囲むグラファイトの多層の存在のために、MWCNTのフッ素化温度は、SWCNTに比較して著しく上昇する。この温度はMWCNT殻の数によって決まり、一般に400℃に近い(Hamwi A.;Alvergnat H.;Bonnamy S.;Beguin F.;Carbon 1997、35、723;Nakajima T.;Kasamatsu S.;Matsuno Y.;Eur.J.Solid.State Inorg.Chem.1996、33、831)。
【0074】
MWCNTのフッ素化に比較して、SWCNTの構造は、50℃のような低温でのフッ素化に好適である(Mickelson E.T.;Huffman C.B.;Rinzler A.G.;Smalley R.E.;Hauge R.H.;Margrave J.L.;Chem.Phys.Lett.、1998、296、188;Kelly K.F.;Chiang I.W.;Mickelson E.T.;Hauge R.;Margrave J.L.;Wang X.;Scueria G.E.;Radloff C.;Halas N.J.;Chem.Phys.Lett.、1999、313、445)。しかしながら、この構造は、350℃を超えると部分的に破壊される。
【0075】
この調査では、本発明者らは、380〜480℃の温度範囲でのCNFと純フッ素ガスの反応性を研究した。フッ素化化合物を、(1)XRD、TEM及びラマン分光分析法;(2)19F及び13C高分解能核磁気共鳴、及び(3)電子常磁性共鳴を含めての多様な技法によって特性解析した。交差データ解析によって、フッ素化の機構、結晶構造、及びC−F結合の性質に対する新規な知見が得られる。生成材料の特性が、議論され、従来の(CF)n及び(C2F)nフッ化グラファイト、並びにこの研究のために調製された(CF)n及び(C2F)nフッ化グラファイトの特性と比較されるであろう。
【0076】
2.実験
長さ2〜20ミクロンの高純度(>90%)炭素ナノファイバは、MER Corporation、Tucson、Arizonaの好意により供給された。それらは、化学蒸気堆積法(CVD)によって得られ、アルゴン雰囲気中で1800℃で熱処理することによってそれらの結晶性が促進された。フッ素化炭素ナノファイバ(CNF−FTFと記載される)を、F2流中で、380℃と480℃との間の範囲の温度(TF)でCNF200mgを用いて調製した。反応時間16時間を使用した。フッ素化の水準「x」(すなわち、F:Cモル比)を、重量法(重量取込み)及び定量的19F NMR測定によって求めた。X線回折(XRD)粉末パターンを、Cu(Kα)放射線(λ=1.5406Å)を用いるSiemens D501回折計を使用して得た。
【0077】
NMR実験を、1H、13C及び19Fそれぞれに対する作業周波数300.1、73.4及び282.2MHzを用いてTecmag Discovery and Bruker Avance分光計によって行った。2つのNMR Brukerプローブ:4mmローター上のフッ素デカップリングによる静的及び特別の交差分極/マジック角回転プローブを使用した。19F−13Cマッチをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)上で最適化した;19Fπ/2パルス幅は4μsであった。MASスペクトルでは、1H、19F及び13Cそれぞれに対する単一π/2パルス長3.5、4及び3.5μsを有する単純なシーケンス(τ−取得)を使用した。スピン−格子緩和時間T1を、飽和回収シーケンスを使用して測定し、exp(−t/T1)として発展する磁化曲線を考慮に入れて計算した。1H及び13C化学シフトは、テトラメチルシラン(TMS)を外部参照とした。19F化学シフトはCFCl3を参照とした。重量取込みによって得られるモル比F:Cを確認し、特に、部分剥離及び揮発性フッ化物の分離が起こる恐れのある最高フッ素化温度に対するこの方法の限界を求めるために、それぞれの試料に対して同じ条件、すなわち、類似のレシーバ利得、リサイクル時間D1(CNF−F480に対応する、最長スピン−格子緩和時間T1を使用してD1>5T1、したがってD1=3秒)、及び走査数を使用して、定量的19F NMR測定を行った。強度を試料質量で除する。比較のために、600℃で天然グラファイト及び石油コークスをフッ素ガスと直接反応させることによって得られる2つの従来の(CF)n試料、並びに380℃で天然グラファイトをフッ素ガスと直接反応させることによって得られる(C2F)n試料であって、組成がそれぞれCF1.1、CF1.0及びCF0.6である試料を、やはり、定量的NMRによって分析した。フッ素含量に対する参照としてポリフッ化ビニリデン−(CF2−CH2)−nを使用した。
【0078】
Bruker EMXデジタルXバンド(v=9.653GHz)分光計を用いて、EPRスペクトル分析を行った。共鳴周波数とスピンキャリア密度との両方を求めるために、較正用の参照としてジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)を使用した。
【0079】
電荷結合デバイス(CCD)マルチチャネル検出器を備えたJOBIN YVON T64000を使用して、ラマンスペクトルを室温で記録した。放射線源は、アルゴンレーザの514.5nm線であった。レーザ出力は10mWに合わせた。
【0080】
透過電子顕微鏡法(200kVで動作するTEM、FEI CM200)によって多様な試料を特性解析した。超音波処理法を使用して、炭素ナノファイバをクロロホルムに分散し、炭素/ホルムバール超薄膜で被覆された観察用の銅グリッド上に数滴の懸濁液を堆積した。続いて周囲条件でグリッドを乾燥させた。
【0081】
逆空間において、TEM像の定量的分析を行った。該方法の詳細は、別の所で知り得る(Basire C.;Ivanov D.A.;Phys.Rev.Lett.、2000、85、5587)。実験のサンプリング間隔に応じてTEM像(u(r))から臨界、又はNyquist周波数まで
【数3】
のように、二次元パワースペクトル密度関数(P2(s))をコンピュータ計算したが、Aは、像の面積、W(r)は窓関数(Press W.H.;Numerical Recipes in C、The Art of Scientific Computing、1988、Plenum Press、New York)、及びsは2D逆空間ベクトルを表す。次いで、
P1(s)=(2πs)−1∫P2(s’)δ(|s’|−s)ds’ (4)
に従って、P2(s)関数を一次元PSD(P1(s))に変換したが、sは、sのノルムを表す。
【0082】
3.結果
3.1 フッ素化方法
3.1.a.i 化学組成対フッ素化温度(TF)
図1にフッ素化温度の関数として、重量取込み及びNMRデータから得られた試料のF:C比をプロットする;表1にも数値をまとめる。2つの方法より、TFに対して450℃までは類似の結果が得られる。しかし、重量法は、フッ素の実際の量を低く見積もり、NMRは、より正確に測定するので、より高温では、2つの方法の間に大きな乖離が生ずる。実際、(CF)n及び(C2F)n化合物に基づく2つの標準フッ化グラファイトについてNMR法を試験したが、NMR法は、正しいF:C比を与える。乖離の元は、T>450℃でフッ素化CNFが熱分解することから来ることが最も確からしいが、この温度によりCF4、C2F6、及びその他などの揮発性フッ化アルキルが発生し、その結果重量損失がもたらされる。結論として、定量的なNMRデータによって、420℃を超えるTFでフッ素含量が急激に増加することが実際に明示される。しかし、次いで、重量取込み法によって分かることとは逆に、処理温度とともにフッ素含量が漸進的に増加することが明らかになる。
【0083】
図1及び表1では、4つのフッ素化温度帯を区別し得る:
i)420℃未満のTFでは、フッ素化の水準は低い:0<x<0.2;
特に、TF=380℃では、組成物はCF0.04であるが、一方、同じ反応温度におけるグラファイトでは、CF0.60が実現される(Dubois M.;Giraudet J.;Guerin K.;Hamwi A.;Fawal Z.;Pirotte P.;Masin F.;J.Phys.Chem.、B2006、110、11800)。
ii)TFが420〜435℃の範囲の場合、F:C比は、急激に増加する:0.31<x<0.7。
iii)TFが435と450℃との間に含まれる場合、F:Cの比は、ほぼ一定である:x≒0.7〜0.8。
iv)450℃を超えるTFでは、最高465℃まで組成のジャンプが観察され、次いで以降、x≒1.0付近で安定する。
【0084】
SWCNTと異なり、MWCNT及びより大きい直径のCNTは、それらのグラファイト構造のために、より高温でフッ素と反応する。実際、SWCNTは、50℃のような低温でフッ素と反応することによってCF0.114化合物を形成する(Mickelson、1998;Kelly、1999、同書)。MWCNTでは、殻の数が大であるほど、フッ素との反応温度は高い(Hamwi、1997、同書)。本発明者らの場合では元々の、CNFのグラフェン層(MWCNTの殻に類似)の数は、約35である。この値は、CNFに対する高いグラファイト化度を実際に示す。
【0085】
おそらくは、CNFの表面フッ素化は、第1の温度範囲で行われるが、より接近しにくいグラフェン層のフッ素化は、第2の温度範囲で行われる。この解釈を確認するために、多様な物理化学的特性解析が、TF値を増加させながら調査された。
【0086】
3.1.a.ii 化学組成対フッ素化時間
フッ素化温度430℃で、4と16時間の間でフッ素化時間を変化させた(他のフッ素化条件は同じである)。重量取込み測定から得られたF/C比は以下の通りであった:フッ素化時間4時間に対して0.22、フッ素化時間8時間に対して0.38、フッ素化時間12時間に対して0.55、及びフッ素化時間16時間に対して0.60であった。
【0087】
3.1.a.iii 化学組成対フッ素化圧力
フッ素化温度430℃、及びフッ素化時間16時間で、フッ素化圧力を0.3気圧まで低下させた(他のフッ素化条件は同じである)。この圧力で、重量取込み測定から得られたF/C比は、1気圧でのF/C比0.60に対して、0.53であった。
【0088】
3.1.b 積層構造及び形態
処理後のCNFのTEM明視野像は、グラファイト層の存在を示すことによってこの構造規則性を明らかに示す(図2a)。層の明確な周期性は、対応するPSD曲線(図3)のブラッグピークに反映され、このピークは、約0.34nmに位置する。直径分布は、非常に狭く、80と350nmとの間に含まれる(図2b)。平均直径(<Φ>)は、未処理試料の多様な部分の観察から約150nmと推定される。グラフェン層内にフッ素原子が収容されるために、フッ素化によって420℃での反応後平均直径のおだやかな増加がもたらされ(<Φ>=160nm)、480℃で大きな増加がもたらされる(<Φ>=180nm)。グラファイト構造は、480℃でのフッ素化と(図2d)逆に420℃でのフッ素化では維持される(図2c)。CNF−F420では、ファイバの形態は、ファイバの周縁及びコアに存在する2つの異なる構造を示す。図1cの像に対応するPSD関数(図3)は、未処理試料(図2a)で分かった通常のグラフェン層の周期性に加えて、約1.5〜2.0nm−1に最高点を有する幅広のピークを示す。PSD曲線のこの追加の特徴では、フッ素原子を収容したためにより規則性が低く、空間的により隔てられている層の存在が示される。同じ試料のファイバコアは、この周期性の増加を示さないことに留意されたい(図3)。
【0089】
1800℃での後処理に由来する結晶の規則性及びグラフェン層の配向を検討すると、元のナノファイバ及びMWCNTは、多数の共通する点を有する。よって、以下の部分では、MWCNTに適用されたのと類似の計算を議論することにする。
【0090】
3.2 構造の進展
図4で、元の及びフッ素化されたCNFのXRDパターンを比較する。元のCNFのパターンは、アーク放電(Okotrub A.V.;Yudanov N.F.;Chuvilin A.L.;Asanov I.P.;Shubin Y.V.;Bulusheva L.G.;Gusel’nikov A.V.;Fyodorov I.S.;Chem.Phys.Lett.、2000、323、231)、又はCVD(Nakajima、1996、同書)によって合成されたMWCNTと類似している。主ピークは、それぞれ、2θの値、26°3(層間距離d=0.338nm)、43°5(0.207nm)、45°(0.201nm)、54°4(0.169nm)、及び77°9(0.123nm)に対するグラファイトの(002)、(100)、(101)、(004)、及び(110)回折線に対応する。最強の(002)反射は、平均の層間間隔0.338nmに関係し、TEM明視野の結果と一致する。(002)ピークの幅(△2θ=0.72°)は、炭素層の平均数(35に近い)とc軸に沿った可干渉距離Lc(11.8nm)との両方の特性を示す。MWCNTに関しては、(hk0)線の対称、及び(hkl)ピークの弱い強度は、ナノ粒子の異なる層の炭素原子間に位置的な関係がないことを反映するものである。XRDによって示されるように、TFの関数として、CNFのフッ素化は漸進的に構造を変化させる。405<TF<420℃で、六方晶系のフッ化グラファイトマトリックスの(001)及び(100)ピークに帰属する、2θ値の中心が12.0°及び41.5°である対応ピークを有する新規な相が現れる。この相は、元のCNF相と共存する。しかし、この新規な相のピーク幅の拡大が見られることは、フッ素化層の積層規則性が低いことによるものであると考え得る。435<TF<450℃では、元のCNF相が消失し、フッ素化ナノファイバ相のみが存在する。フッ素化CNFは、(C2F)nの層間間隔(d間隔0.81nm)と(CF)nの層間間隔(0.60nmに等しいd間隔)の間の範囲にある層間間隔0.72nmを示す(Nakajimaら、1991、同書)。約480℃のTFでは、層間間隔0.60nmを有する(CF)n様の構造が得られる。図5では、出発時のCNFのラマンスペクトルと、フッ素化CNFのラマンスペクトルとを比較する。後者は、2つのバンド:Dモードに帰属する1345cm−1の1つと、Gモードに対応し、sp2炭素原子の二重共鳴ラマン効果に帰属する1570cm−1の第2のものとを示す。MWCNTでは、Dバンドは、おそらくは、主としてチューブ壁の欠陥に由来する(Osswald S.;Flahaut E.;Ye H.;Gogotsi Y.;Chem.Phys.Lett.、2005、402、422)。しかし、チューブ壁内及び炭素の他の形態の両方において、欠陥のDバンドに対する寄与は、依然完全には解明されていない。Gモードは、ラマン活性グラファイトモードのEg対称を有する光学的面内格子振動のためである。Raoらが報告しているように、1250と1700cm−1の間には、フッ素に対して又は炭素−フッ素結合に対してラマン活性な振動モードは存在しない(Rao A.M.;Fung A.W.P.;di Vittorio S.L.;Dresselhaus M.S.;Dresselhaus G.;Endo M.;Oshida K.;Nakajima T.;Phys.Rev.、B1992、45、6883)。
【0091】
F:C比が増加すると、Dバンドの強度も増加する。420℃未満の温度では、CNF−FTFスペクトルは、CNFのスペクトルに類似している。より詳細には、D及びGバンドの積分強度のID/IG比は、実験誤差内でほぼ一定である(ID/IG=0.30、表1)。この比は、CNFの構造不規則性に関係する。したがって、フッ素化が進行するにつれて、ID/IG比が増加し、不規則性も増加する。420<TF<435℃では、不規則性は、激しく増加し(表1参照)、1620cm−1近傍に新規なモードが現れる。中間帯フォノンに対する高密度状態フォノンを使用して、この弱い強度の特徴が報告された(Chien T.C.;Dresselhaus M.S.;Endo M.Phys.Rev.、B1982、26、5867)。435<TF<465℃では、不規則性誘起Dバンドは増加するものの、ゆるやかであり、比ID/IGは、最大値1.12に到達する。最後に、465℃を超えるTFでは、生成材料のラマンスペクトルは、蛍光現象のために記録することができなかった。
【0092】
XRD測定を補足して、ラマン分光分析法では、フッ素結合によって引き起こされる構造一貫性の減少が明確に示される。こうした進展のさらなる証拠は、ドメインサイズと、Knight及びWhiteによって与えられた強度比ID/IGの間の逆相関を使用して得られた結晶平面の平均ドメインサイズ(La)の調査によって提供される(Knight D.D.;White W.S.;J.Mater.Res.、1989、4、385)。La値は、CNFに対する14.7nmからCNF−F480に対する3.9nmまで大きく減少する。
【0093】
3.3固体状態NMR
静的19F−NMRスペクトルが、−170及び−190ppm/CFCl3で2つの非対象寄与を示すCNF−F380の場合を除いて、フッ素化温度にかからず、スペクトルは全て、類似の形状を示す(図6)。試料全てに対して19F NMRの最大半値全幅(FWHM)が類似の値(5.104Hz)であることは、共有性フッ化グラファイト:(C2F)n及び(CF)n(Dubois、2006、同書;Panich A.M.;Synth.Metals、1999、100、169;Touhara H.;Okino F.;Carbon、2000、38、241;Panich A.M.;Shames A.I.;Nakajima T.;J.Phys.Chem.Solids、2001、62、959;Krawietz T.R.;Haw J.F.;Chem.Commun.、1998、19、2151;Dubois M.;Guerin K.;Pinheiro J.P.;Fawal Z.;Masin F.;Hamwi A.;Carbon、2004、42、1931;Giraudet J.;Dubois M.;Guerin K.;Pinheiro J.P.;Hamwi A.;Stone W.E.E.;Pirotte P.;Masin F.;J.Solid State Chem.、2005、118、1262、以降Giraudet 2005aと呼称)、準イオン性化合物(Guerin、2004 及び Giraudet、2005a 同書)、及びフッ素化木炭(Touhara、2000、同書;Hagaman E.W.;Murray D.K.;Cul G.D.D.;Energy&Fuel、1998、12、399)としての、他のフッ素化炭素でも知られているようなフッ素核間の強い双極子ホモ核カップリングによって説明される。この対称的な共鳴ピークの中心は、−190ppmに位置し、炭素原子に共有結合したフッ素原子に帰属する(Dubois、2006;Dubois、2004;Giraudet、2005a、同書)。フッ素核の含量の増加は、ピーク形状が著しく変化することなく行われ、これは、F:C比が異なってもフッ素原子に対する環境が類似していることを示している。CNF−F380の場合は異なる。というのは、フッ素核の2つの基が検出されるからである(δ=−170及び−190ppm)(図6中に挿入);それらは、炭素とフッ素原子間の異なる相互作用か、異なる環境かいずれかに由来する。痕跡のHF分子に由来する可動性F−のインターカレーションは、(C4F)n型の場合排除することができない(Panich、1999、同書)。次いで、低フッ素含量(F:C=0.04)は、CNF表面における不均一なフッ素化をもたらす恐れがある。
【0094】
図7に回転速度10.0kHzで記録されたCNF−FTFの室温19F MAS NMRスペクトルを示す。(C2F)nに対するスペクトルも、そのフッ素化CNFとの強い類似性を示すために加える。CNF−F428のFWHM(6800Hz)は、他のフッ素化試料(4100Hz)より大である。このことは、研究された試料の構造規則性に依存するMAS実験の効率によって説明し得る;この特定の化合物は、XRDによって明らかにされたように、規則性が低い。428℃より高い温度で研究された(C2F)n及び全ての型のCNFは、類似のMASスペクトルを示すので、フッ素化の程度によって影響を受けない。このことにより、C−F結合及びフッ素環境の両方が、これらの試料では類似していることが確認される。−190ppm/CFCl3での強い同素ピークが、その回転サイドバンドと一緒に存在する。このピークは、C−F共有結合に関与するフッ素原子に対応する。この共有特性は、(C2F)nのC−F共有結合に帰属する1215cm−1における振動バンドを示すFT−IR分光分析法(ここでは示されていない)によって確認された(Kita、1979、同書)。
【0095】
−120ppmにおける2番目に強度の小さい共鳴(C−F線の回転サイドバンドのうちの1つの肩として存在する)は、CF2基の存在を示す。それにもかからず、CF2基の含量は少ないが、19F MAS NMRによって検出するには十分である。>CF2共鳴のサイドバンドも存在し、詳細には、C−F基の同素ピークの左側に重なり、肩をもたらすものである。これらの基は、グラファイト層の端部に位置するフッ素原子か、構造的な欠陥かいずれかに帰属させることができよう。これらの19F MAS実験によって、非常に少ない量であるにもかからず、他の基(−CF3)を検出することが可能になる。数個の狭い線が、C−F及び >CF2ピークの回転サイドバンドに重なった−60/−90ppm範囲に存在する。これらの基は、フッ化炭素シート端に局在化することができ、おそらくは、C−C結合の周りに回転運動をしており、これによって共鳴の狭さが説明される。
【0096】
値を、それぞれ450及び210msに等しい、通常の高温フッ化グラファイト型(CF)n及び(C2F)nの値と比較した場合、図8aに示されたフッ素化温度に伴う19Fスピン−格子緩和時間(T1)の進展は、フッ素集積についての補足的な情報を提供する(Dubois、2006、同書;Giraudet J.;Dubois M.;Guerin K.;Hamwi A.;Masin F.;J.Phys.Chem.Solids、2006、67(5〜6)、1100)。広い範囲のフッ素化温度(405<TF<450℃)、つまり、0.16から0.74の広い範囲のF:C比に対応する範囲では、スピン−格子緩和時間は、(C2F)n中に見られる値に近い(図8a)。他の特性解析によれば、この事実は、(C2F)nの形成と、大きな構造変化のないコアに向かう伝播とを含むフッ素化機構を示唆する。この仮定は、以下で13C MAS−NMR実験によって確認されるであろう。したがって、反応温度が480℃まで上昇する場合、T1は、漸進的に値450msに近づき、これは、石油コークスを使用して調製した(CF)nで測定された値に類似している。(C2F)n型から(CF)n型構造への転換は、フッ素化層の部分的な剥離を介して進むことによって追加のフッ素取込みが可能になる。
【0097】
フッ素含量が非常に少なく(F:C=0.09)、フッ素化部分が基本的にCNF表面上に位置しているので、CNF−F390の場合は特別である。本発明者らは、外部表面は、十分フッ素化されており、これによって、この化合物に登録された高いT1値(492ms)が説明できるであろうと考える。
【0098】
(CF)nフッ化炭素(フッ素化コークス)と異なり、(C2F)nの場合、常磁性中心の存在は、緩和の重要な因子である(Dubois、2006、同書;Panich、2001、同書;Giruadet、2006、同書)。短い回復時間に対するこのようなプロセスは、磁化曲線
【数4】
対t1/2の直線性によって明確に示されている(図8b)。事実、スピン拡散定数が適切な値である、ある種の条件下では、短い回復時間に対する磁化は、t1/2とともに進展する(Blumberg W.E.;Phys.Rev.、1960、119、79)。420℃で得られた試料によって例示されるように、この曲線はフッ素化CNF全てに対して直線であり、CNF−FTFと(C2F)nの構造的な類似性についての追加の証拠となる。
【0099】
13C−NMRによって、炭素とフッ素原子の間の相互作用、つまりC−F結合の性質、及び非フッ素化炭素原子の存在についての追加の情報が得られる。ここでもまた、フッ素化が最も少ない試料(CNF−F380)は、他のCNF−FTFと異なる。というのはCNF−F380は、120ppm/TMS近傍に中心がある唯一の広い共鳴を示すからである(図9a)。このような形状は、純粋のグラファイトに近い。フッ素含量が少ないために、炭素原子のうちの少しの部分のみがフッ素原子と結合している。フッ素含量が0.16に到達すると、線は非対称になり、2つの明確な共鳴が、F:C≧0.31に対して84〜88及び42ppmに存在し、両方共sp3混成を示す炭素原子に関係する。この温度範囲に見られるフッ素含量から予想されるように、第1の線(SCFと示された領域とともに)は、フッ素原子に共有結合した炭素原子に帰属する(Panich、1999;Dubois、2004;Giraudet、2005a、同書)。(C2F)nの場合と同様に、他のピークは、非フッ素化sp3炭素原子(Csp3)に関係する(Dubois、2006、同書)。(CxF)n(x>1)に対してWilkieらによって提案されたように、42ppmの化学シフトは、sp3炭素原子に対応する(Wilkie C.A.;Yu G.;Haworth D.T.;J.Solid State Chem.1979、30、197)。層間C−C共有結合によって対で結合したフッ化グラファイト層中に存在する(C2F)nの提案された構造モデルによれば(Watanabe N.;Physica B、1981、105、17;Sato Y.;Itoh K.;Hagiwara R.;Fukunaga T.;Ito Y.;Carbon、2004、42、3243)、この線は、sp3炭素原子に帰属させることができるであろう。炭素原子の半分のみがフッ素化されているので、sp3混成炭素原子は、もっぱら他の炭素原子に結合している。純粋のダイアモンドの共鳴ピークは、35ppmにあると予想され(Duijvestjn M.J.;Van der Lugt C.;Smidt J.;Wind R.A.;Zilm K.W.;Staplin D.C.;Chem.Phys.Lett.、1983、102、25)、したがって弱いフッ素−炭素相互作用は、(C2F)n(δ=42ppm)の場合に観察されるのと類似の化学シフト値をもたらし得る(Hamwi、1996、同書;Dubois、2004、同書)。
【0100】
120ppm近傍に中心がある第3の大きい共鳴ピークは、非フッ素化sp2炭素原子に主として帰属するが、フッ素との相互作用が小さい炭素原子にも帰属する(≒140ppm)(Hamwi、1996、同書;Dubois、2004、同書)。
【0101】
2つのsp3炭素共鳴の面積比は、フッ素含量にかからずほぼ一定である;それぞれ428、465及び472℃でフッ素化されたCNFに対して、SC−F/SCsp3=2.43、2.37及び2.34である。比較のために、(C2F)nフッ化グラファイトのスペクトルをも示す(この試料は、380℃でグラファイトをフッ素化することによって得られ、F:C比0.60を示し、sp2Cは、ほとんど識別されなかった(Dubois、2006、同書)。この場合、SC−F/SCsp3比は、1.5に近い。
【0102】
他方では、フッ素化温度が上昇する場合、sp2炭素原子の含量は、連続的に減少する、つまり、F:C含量が増加する。温度が350から380℃に上昇する場合(それぞれ、CF0.51及びCF0.60)、このようなプロセスは、(C2F)nでも行われることに留意されたい(Dubois、2006、同書)。次いで、CNFのフッ素化は、著しく構造を改変することなく、F:C比の増加をもたらす。形成されたC−F結合は、主として共有性である。
【0103】
MAS及び19F→13C交差分極を使用して行われたNMR測定は、多様な炭素原子を識別し得る。CNF−FTF及び(C2F)nについてMAS及びCP−MASを使用して得られたスペクトルの比較(図9a及び9b)によって、3種類の炭素原子に対する本発明者らの帰属が確認される。C−F基は、炭素の第2近接原子、つまりsp3炭素原子に比較してCP−MASにとって好ましいので、フッ化炭素マトリックス由来のC−F結合に対応するピークのみが、他の炭素原子にもっぱら結合したsp3混成炭素原子(Sc−c)と、sp2グラファイト性炭素原子(SG)との両方と異なり、増加し、後者は完全に消滅する。これらの条件を使用して明らかになる145ppmでのピークを考察すると、測定によって、室温フッ化グラファイトの場合と同様に、フッ素と弱い相互作用をしているsp2炭素原子の存在も示される(Dubois、2004.;2005a、同書)。しかし、これらの原子は、非常に低い濃度においてのみ存在する。
【0104】
さらに、>CF2基の共鳴もCP−MASの使用が好ましく、SC−Fピークの肩として小さい線が110ppmで観察される(図9b)。このような基は、多様な(CF)nにおいてほかでも既に観察されている(Kita、1979;Touhara、2000;Panich、2001;Krawietz、1998;Wilkie、1979、全て同書)。
【0105】
MASスペクトルは、428と472℃との間で処理された試料では類似しているが、sp3炭素原子に関連するピークの強度は、CNF−F480に対して著しく減少し、この試料の性質が変化したことを示している。(C2F)nスペクトルとの類似性を示す他のスペクトルと異なり、CNF−F480のスペクトルは、(CF)nに対して観察されたものに非常に近い。
【0106】
C−F結合の長さは、NMRによって測定し得る。というのはこのデータは双極子結合の表現中に含まれているからである。MASに関連するハートマン−ハーン交差分極(CP)は使用されるが、逆交差分極(ICP)シーケンスのために双極子結合をスペクトル中に再導入し得る場合、この後者の情報は、失われる。この方法及び実験条件は、(CF)nに関するこれまでの論文において十分説明されている(Giraudet J.;Dubois M.;Hamwi A.;Stone W.E.E.;Pirotte P.;Masin F.;J.Phys.Chem.、B2005、109、175、以降、Giraudet、2005bとして参照される)。
【0107】
短い接触時間では、CP信号の振幅は、C−F結合長に関係する周波数φを有する振動であることが分かる(Bertani P.;Raya J.;Reinheimer P.;Gougeon R.;Delmotte L.;Hirschinger J.;Solid State Magn.Res.、1999、13、219)。この挙動は、フッ素に共有結合した炭素に対してのみ観察され、sp3炭素原子に対してはそうでない。ICPシーケンスを使用して、接触時間の関数として、炭素スペクトルの積分ピーク強度が計算され、したがって、CP動力学が明らかになった(図10a);抽出された周波数は、φ=3976.0±18.6Hzであった。
dann
【数5】
から、rCF=0.136±0.001nm(Dubois、2006;Giruadet、2005b;Bertani、1999、全て同書)。
【0108】
(C2F)n(Dubois、2006、同書)及び(CF)n(Giruadet、2005b、同書)に関しては、C−F基に対する13C磁化進展のフーリエ変換によって、CNFのフッ素化度の全てに対してPake様構造が与えられる(図10b)。C−F結合長(rCF)は、双極子変動に関係するウイングを使用してPake構造から誘導し得る。S1は、これらのウイング間の間隔である。結合長は、式
【数6】
(nm)から推定し得る(Dubois、2006;Giruadet、2005b;Bertani、1999、全て同書)。S1値は、フッ素化CNF試料全てに対して7700Hzに等しい。0.138±0.002nmに等しいC−F結合距離は、研究された場合の全てにおいて見られる。第2モーメントの値を減少させ、C−F距離に反比例する可能な分子運動のために、NMRによって推定されるこれらの値は、過大に推定される可能性があることに留意されたい。CNF−FTFのC−F結合長は、(C2F)n(Dubois、2006、同書)及び(CF)n(0.138nm)(Giruadet、2005b、同書)に対して同じNMR手順によって得られたものに近く、C−F結合の性質が、これら3つの化合物型において類似であることを示す。
【0109】
3.4 EPR研究
元の試料は、分光計の検出限界内では、EPR信号を示さない。図11aは、フッ素化CNFのEPRスペクトルを示す。主たる広い線の起源は、局在スピンを有する炭素ダングリング結合に帰属した。このようなスピン担体は、グラファイトから出発し、F2雰囲気で600℃で得られた他のフッ素化炭素(Panich、2001、同書)、又は室温フッ化グラファイト(Dubois、2004;Giraudet、2006、同書)に対して提案されているが、非晶質炭素薄膜(Yokomichi H.;Morigaki K.;J.Non−Cryst.Solids、2000、266、797;Yokomichi H.;Hayashi T.;Amano T.;Masuda A.;J.Non−Cryst.Solids、1998、227、641)、又はナノサイズ化フッ化グラファイト(Takai K.;Sato H.;Enoki T.;Yoshida N.;Okino F.;Touhara H.;Endo M.;Mol. Cryst.Liq.Cryst.、2000、340、289)に対しても提案されている。
【0110】
図12a及び12b、並びに表2に、EPRパラメーターを要約する。再度であるが、最低及び最高温度(TF<405℃及びTF=480℃)でフッ素化されたCNFは、他の試料と異なる。CNF−F380のスペクトルは、非対称である(微分曲線の正及び負の部分のA/B強度比は、0.6に近い(図12a))。スペクトルに対する異なる寄与を明らかにするこの非対称は、フッ素化が増加するにつれて徐々に消滅する。したがって、A/Bは、1になる。スペクトルをシミュレーションすると、CNF−F380、CNF−F472、及びCNF−F480に対する3つの寄与が明らかになる(それぞれ、図11b、11c、及び11d、並びに表2も)。これらのシミュレーションは、WinSimfonia(Brukerソフトウエア)を使用して行った。
【0111】
第1に、(C2F)n及び(CF)nとのアナロジーによって、観察された広い線4は、酸素と相互作用するダングリング結合(Dubois、2006、同書)と、(CF)n及びCNF−F480の場合、両方の試料に対してほぼ同じ線幅を示す非分解超微細構造(Giraudet、2005b、同書)との両方を合わせた寄与による場合がある。線幅が、狭いので、線2は、(C2F)nに類似した、隣接して位置するダングリング結合に関係するであろう(表2)。同じ理由で本発明者らは、(CF)n中に存在するものと類似の構造欠陥に線3を帰属させ得る(Giraudet、2006及び2005b、同書)。これらのスピン担体の含量は、フッ素化温度とともに増加し、CNF−F480では支配的になる(線2のダングリング結合は、完全に消失した)。非対称(図11b)の元である線1は、不均一フッ素化が表面近傍で行われる場合、最低温度の反応(380及び390℃)に対して現れる。この信号の狭さは、フッ化炭素マトリックスとの多様な相互作用及び/又はインターカレーションされたF−の存在に由来する。一方では、スピン密度(Ds、つまり試料の質量当りのダングリング結合の数)は、常磁性欠陥を含有するフッ素化部分の伝播のために図12bに示すようにフッ素化温度とともに連続的に増加する;CNFは、EPR線を示さないことに留意されたい。380と472℃との間に含まれるTFでは、Dsは、(C2F)nのそれに近い(17 1019スピン.g−1、表2を参照)。他方、Dsは、CNF−F480では、激しく増加し、本調査の前に提案されている(C2F)nから(CF)nへの構造転換によって、(CF)n型(15.6 1020スピン.g−1、この試料は天然グラファイトを用いて得られた)に益々似てくる。
【0112】
4.一般的な議論
CNFの特定の構造は、フッ素化が進行するにつれて、(C2F)n型の形成に好ましいように思われる。フッ化グラファイト層の対からなるこの(C2F)n構造が、形成され、広い範囲の組成(0.16から0.74のF:C)にわたりフッ素化温度(405<TF<450℃)にかからず維持される。低温が施用される場合は外部壁近傍で行われ、次いで温度が上昇すると内部壁に向かって進行するフッ素化プロセスによって、この特徴を説明し得る。(C2F)nから(CF)nへの漸進的な転換は、温度が350/600℃以内で上昇する場合に行われるので、この機構は、グラファイトのフッ素化の機構とは異なる(Nakajima、1991;Kupta V.;Nakajima T.;Ohzawa Y.;Zemva B.;J.Fluorine Chem.、2003、120、143)。(C2F)n及び(CF)nは、グラフェンの平面層を有するフッ素インターカレーション相を介して形成されるが(Kupta、2003、同書)、この中間相は、CNFのフッ素化中、関与しないように思われる。最高480℃までのフッ素化温度の上昇は、CNFの部分的な分解をもたらす。この機構は、部分的な剥離の機構に類似している可能性がある。この生成材料の13C−NMRスペクトル(図11)によって、(C2F)n型に関係する元のsp2炭素とsp3炭素原子との両方の低含量が明らかに示される。フッ素化部分の部分的な分解は、(C2F)nから(CF)nへの転換につながる。
【0113】
CNFに対するF:C比の進展は、本明細書で適用されたフッ素化条件下で、予想が可能であっても、この研究から、いくつかの新規で興味ある特徴を明白に示し得る。MWCNTに関するこれまでの調査(Hamwi、1997、同書)と異なり、本発明者らの原料CNFの高度の純度によって、化学組成をそのF:C比から正確に誘導することが可能になる。これまでの研究では、揮発性炭素フッ素誘導体を形成する元々の試料中の反応性炭素の存在のために、このことが低く見積もられていた。さらに、狭い温度範囲[420〜435℃]内のF:C比の増加は、今まで報告されていなかった;400と500℃との間の高温フッ素化プロセスのみがこれまで示唆されていた(Nakajima、1996、同書)。さらに、本研究の他の重要な知見は、CNF分解前の温度限界と、CNFに対するフッ素化水準の限界との両方の決定である。NMR、ラマン、及びXRDを使用しての相補的な特性解析に基づいて、フッ素化材料は、処理温度に応じて3つの異なる型に分類し得る:最低のフッ素化温度(TF<420℃)では、フッ素化試料は、低いフッ素含量を示し、それらの構造は、ラマン拡散及びXRDによって示されるように元のCNFの構造に近い。フッ素原子は、CNF表面上に、つまり、外部壁上に位置する。
【0114】
420〜465℃の温度範囲では、T<435℃で速やかであるF:C比の増加の結果として激しい変化が起こる。次いで、フッ素化の水準は遅くなる;最初に、試料は二相(CNF及びCNF−F)になり、新規なCNF−F相が、層間C−C共有結合によって結合した対のフッ化グラファイト層を含む(C2F)n型フッ化グラファイトとの結晶学的な類似性を示す。このことは、フッ化炭素層内の炭素原子のみに結合したsp3混成炭素原子の存在によって実際に示された。グラフェン層及び/又はそれらの積層の曲率は、グラファイトと比較してフッ素化を制限し、それとともにこの(C2F)n型の相の形成に好ましいように思われる。ラマン散乱によって、構造欠陥の濃度がフッ素含量とともに増加することが明らかになる。さらに、フッ素原子の組込みが、C−F共有結合の形成を介して行われる。炭素原子とフッ素原子間の相互作用の型は、フッ素含量によって変化しない。したがって、フッ素化プロセスは、外壁から開始しなければならず、(C2F)n形状を形成し、次いでCNFコアに向かって進行する。
【0115】
フッ素化温度が465℃を超えて上昇すると、剥離が少し起こり、CNF−F480の場合に明確に示されたようにCNF−FTFを分解する。この機構は、部分的な剥離によって可能になった(C2F)nから(CF)nへの転換を明確に示す13C−NMRとXRDとの両方によって証明された。それでも、(C2F)nから(CF)nへの転換は、472℃に等しい処理温度では少なく、TF≧480℃で主として行われる。ラマン散乱スペクトルの蛍光の出現は、より高温での(CF)nの形成の形跡であり得る。
【0116】
5.結論
380と480℃との間の範囲の温度での炭素ナノファイバとフッ素ガスの反応を研究した。フッ素含量は、狭い温度範囲[420〜435℃]でCF0.31からCF0.70まで増加する。472℃は、部分的なCNFの分解が始まる前の上限温度であるように思われる。より低い温度では、表面のフッ素化のみが行われる。420〜435℃の温度範囲では、試料は二相になり、原料CNFに加えて、結晶学的に新規な相が、(C2F)n型フッ化グラファイトとのいくらかの類似性を示す。この相は、反応温度420℃を超えるとフッ素含量にかからず形成され、フッ素化温度の上昇とともに、外部壁からコアに向かってフッ素化が行われることを示唆している。さらに、いかなるフッ素含量においても、フッ素原子の組入れは、C−F共有結合の形成を介して行われる。(CF)n及び(C2F)nフッ化グラファイトを比較すると、層間距離、スピン−格子緩和時間T1、常磁性ダングリング結合の密度、及びその環境などの構造パラメーターは、本発明者らが、炭素ナノファイバのフッ素化中、温度の関数としていずれの相が形成されたかを決定することを可能にするのに十分な相違が存在する。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
実施例2
フッ素化炭素ナノファイバの電気化学的性質
電気化学試験では、電極は、少なくとも部分的にフッ素化した炭素ナノファイバ試料、導電材料、及び結合剤からなっていた。その結果が表3に示されている、一定の放電速度10Akg−1で試験した試料では、電極組成は、約80重量%のフッ素化ナノファイバ、10重量%のグラファイト、及び10重量%の結合剤としての10%ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)であった。次いで、電解質がプロピレンカルボナート中に溶解したLiClO4の1mol.L−1溶液からなる2極電池中に電極を搭載した。フッ化グラファイト電極と金属リチウムホイルの間に、電解質を含有する微多孔性PVDF膜を挟んだ。
【0120】
その結果が図13〜16及び表4に示されている試料では、電極組成は、約75重量%のフッ素化ナノファイバ、10重量%のアセチレンブラックグラファイト、及び10重量%の結合剤としての15%ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)であった。ビス(n−ブチル)フタラート(DBP)20%を含むアセトン溶液中で、これら3つの材料を一緒に混合した。次いで、CFxの薄膜が得られるまで、溶液を蒸発させた。膜を所望の直径に切断し、真空中で終夜乾燥させた。電解質は、プロピレンカルボナート(PC)及びジメチルエーテル(DME)に溶解させたLiBF4であった。セパレータは、厚さ25ミクロン、空孔率55%のCelgard(登録商標)であった。フッ化グラファイト電極と金属リチウムホイルの間に、電解質を含有するセパレータを挟んだ。
【0121】
その結果が図18に示されている試料では、電解質は、プロピレンカルボナート(PC)及びジメチルエーテル(DME)(3:7)に溶解させた1M LiBF4であった(C/20 RTで5%放電)。
【0122】
Li/フッ素化炭素ナノファイバ電池の放電プロフィールを図13〜16に示す。参考のために、図17は、通常のLi/CF電池に対する放電プロフィールを示す。これらの電池は、式1によるLiFの形成に対応する特徴的なプラトーを示す。
【0123】
フッ素化CNFの主要な電気化学的特徴を表3及び4に要約する。表3では、放電速度は一定であり、10Akg−1に等しかった。実現されたエネルギー密度、Espec(単位 Whkg−1)、及び電力密度Pspec(単位 Wkg−1)を、式(5)及び(6)を使用して放電曲線から求める:
【数7】
【0124】
Espec及びPspecに対する式では、q(i)及び<ei>はそれぞれ、電流i(A)で、放電容量(Ah)及び平均放電電圧(V)を表し、mは、電極(kg)中の活性(CFx)nの質量である。
【0125】
一定の放電速度10Akg−1では、研究された試料全ての平均電位は、ほぼ同じであり、2.5Vに等しい。この結果は、13C NMRによって特性解析されたようにフッ素化で変化しないC−F共有結合と一致する。さらに、フッ素化温度の範囲は狭いので、C−F結合の性質が反応温度に依存しないことは、容易に理解することができる。電力密度P(Wkg−1)は、電池に印加された平均放電電圧、及び電流密度(これは一定値10Akg−1であった)に直接比例するので、いかなるフッ素化化合物でも電力密度も25wkg−1で一定である。
【0126】
他方では、放電プロフィールは、それらの電圧及び形状において大きく異なる。この結果は、主として、フッ素化温度とともにF/Cが増加するためである。F/Cが大きいほど、放電容量も大である。405℃でフッ素化した試料のみは、他のフッ素化MWCNTFと同じように一定の放電電位を示さない。これは、フッ素固定化部位と関係づけることができる。実際、FはMWCNTFの表面に位置すると予想されるので、シートが同心形態であるために、C−F結合エネルギーがわずかに分散し、LiF形成の異なる電気化学電位は、漸進的な放電プラトーをもたらす。他の試料では、一定の放電電位が存在し、フッ化炭素マトリックス間にインターカレーションされたフッ素からのLiF形成に対応する。MWCNTFの放電電圧及びフッ素含量F/Cは、(C2F)化合物に近いが、428と450℃との間でフッ素化されたMWCNTFの容量は、市販の(C2F)より30%大きい。
【0127】
エネルギー密度に関しては、得られた最大値は大きく、放電電圧が一定である場合、エネルギー密度の進展は、フッ素化温度に伴う容量密度として進展する。MWCNTF465の電気化学的性能の最大値は、フッ素化温度に伴うファラデー収率の独特な進展のためである。理論比放電容量に対する放電容量の比として定義されるファラデー収率は、フッ素化が最低のMWCNTでは小さく、450℃を超えるフッ素化温度で約100%である。予想されるように、絶縁性のフッ化炭素と一緒に高導電性のMWCNT(少量でさえも)の存在は、クーロン効率に好ましいはずである。
【0128】
表3の試料では、低放電時間での過電位は、フッ素化温度とともに増加することが観察された。このことは、フッ素化部分が進行する、つまり元のMWCNT量が試料になって減少すると、試料の導電性が減少することと関係している。しかし、リチウムの拡散は、電気化学プロセスを制限し、電極性能を決定するように思われる。このことは、MWCNTFTT構造によって説明可能であろう。その構造において、2相領域は、リチウムが拡散するための好ましい道を構成しない場合があり、450℃を超えるフッ素化温度では、欠陥濃度が低い単一フッ化グラファイト構造によって、リチウムが全体の粒子を通ってより容易に拡散することが可能になり、本発明の場合のように電流密度が小さい場合は特にそうである。
【0129】
電気化学性能の最大値(Espec、Pspec)は、F/Cが最大で、それとともに(C2F)型フッ化グラファイト相が化合物中に主に存在する、つまり465℃に等しい処理温度であるフッ素化温度に対して得られた。
【0130】
数個のフッ素化CNF組成物に対して、開回路電圧の時間による安定性(自己放電)を調査した。図18には、これらの材料の優れた温度安定性が示されている。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
参考文献及び変形形態の組込みに関する説明
本出願全体にわたる全ての参考文献、例えば、特許又は授与された特許又は均等物を含めての特許文献、特許出願公開、特許出願非公開、及び非特許文献又は他の情報源材料は、あたかも個別に参照により組み込まれるごとく、それぞれの参考文献が本出願の開示と少なくとも部分的に矛盾しない程度においてその全体の参照により本明細書に組み込まれている(例えば、部分的に矛盾する参考文献は、該参考文献の部分的に矛盾する部分を除外して参照により本明細書に組み込まれている)。本明細書に対するいかなる補足又は補足(複数)も明細書及び/又は図面の一部として参照により本明細書に組み込まれている。
【0134】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含んだ(comprised)」、又は「含んでいる(comprising)」という用語が本明細書中で使用される場合、それらは、説明された特徴、整数、ステップ、又は参照された成分の存在を指定するものであり、1つもしくは複数の他の特徴、整数、ステップ、又はそれらの群の存在又は添加を排除するものと解釈されるべきでない。「含んでいる(comprising)」、又は「含む(comprise(s))」、又は「含んだ(comprised)」が、任意選択で、文法的に類似である用語で置換される、例えば、「からなっている(consisting)/からなる(consist(s))」、又は「基本的にからなっている(consisting)/基本的にからなる(consist(s))」がそれによって、必ずしも同一の広がりを持たないさらなる実施形態を説明する場合、本発明の個々の実施形態は、やはり、包含されるべきものとする。
【0135】
本発明は、多様な特定の及び好ましい実施形態及び技法を参照して説明された。しかしながら、本発明の趣旨及び範囲内に留まりつつ、多数の変形形態及び改変形態を作製し得ることは理解されよう。本明細書で具体的に説明された以外の、組成物、方法、デバイス、装置要素、材料、手順及び技法が、過度の実験に依存することなく、本明細書で広く開示された通りの本発明の実施に適用し得ることは、当業者なら明白であろう。本明細書で説明された組成物、方法、装置、装置要素、材料、手順及び技法の当技術分野で周知の機能均等物は全て、本発明に包含されるものとする。範囲が開示される場合はいつでも、部分範囲及び個別の値は全て、あたかも別個に開示されたごとくに包含されるものとする。本発明は、実施例又は例示のために提供され、限定のために提供されていない、図面に示された、又は明細書に例示された任意のものを含めての開示された実施形態によって限定されるべきものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。
【0136】
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【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】重量取込み(○)と定量的なNMRデータ(●)との両方によって推定された温度に伴うF:Cモル比の進展を示す図である。
【図2a】元の炭素ナノファイバ(a)及び(b)の;420℃(c)及び480℃(d)でのフッ素化試料のTEM明視野像を示す図である。
【図2b】元の炭素ナノファイバ(a)及び(b)の;420℃(c)及び480℃(d)でのフッ素化試料のTEM明視野像を示す図である。
【図2c】元の炭素ナノファイバ(a)及び(b)の;420℃(c)及び480℃(d)でのフッ素化試料のTEM明視野像を示す図である。
【図2d】元の炭素ナノファイバ(a)及び(b)の;420℃(c)及び480℃(d)でのフッ素化試料のTEM明視野像を示す図である。
【図3】図2:元の炭素ナノファイバ(1)、420℃で処理したフッ素化試料(2及び3)のTEM像に対して計算したパワースペクトル密度(PSD)関数を示す図である。曲線2及び3は、全体の像2c、及びファイバのコアのみに対応する。曲線は明確にするために縦軸を逆にしている。点線は、グラファイト層の周期性を示す。
【図4】CNFパターンと比較した、380と480℃との間の範囲にある温度でフッ素化したCNFのX線回折パターンを示す図である。
【図5】CNFパターンと比較した、380と465℃との間の範囲にある温度でフッ素化したCNFのラマンスペクトルを示す図である。
【図6】CNF−FTF(380<TF<480℃)の静的19F NMRスペクトルを示す図である。挿入図は、最低フッ素化試料(TF=380及び390℃)のスペクトルを示す。
【図7】回転速度10kHzでのCNF−FTF及び(C2F)nフッ化グラファイトの19F MAS NMRスペクトルを示す図である;*及び○マーカーは、それぞれ−190及び−120ppmにおける等方性ピークに関連した回転サイドバンドを示す。
【図8a】フッ素化温度の関数としてのスピン−格子緩和時間T1(a)を示す図である。
【図8b】CNF−F420、
【数8】
の最初の19F磁化曲線(b)の進展を示す図である。
【図9a】(a)(C2F)nフッ化グラファイトスペクトルと比較した、380と480℃との間の範囲にある温度でフッ素化したCNFの13C NMRスペクトル、(b)CNF−TF、及び19Fから13Cへの交差分極(回転速度は10kHzである)によって得られた(C2F)nフッ化グラファイトの13C MAS NMRスペクトルを示す図である。
【図9b】(a)(C2F)nフッ化グラファイトスペクトルと比較した、380と480℃との間の範囲にある温度でフッ素化したCNFの13C NMRスペクトル、(b)CNF−TF、及び19Fから13Cへの交差分極(回転速度は10kHzである)によって得られた(C2F)nフッ化グラファイトの13C MAS NMRスペクトルを示す図である。
【図10a】(a)n=1ハートマン−ハーン条件で、回転速度14.5kHzにおいてCNF−F472のフッ素に共有結合した炭素原子(○)、及びCNF−F472の炭素(sp3C)(●)に排他的に結合した炭素原子(●)に対する13C磁化の時間進展、(b)フッ素化温度の関数としての生成振動のフーリエ変換を示す図である。(C2F)nフッ化グラファイトの曲線を比較のために加える。
【図10b】(a)n=1ハートマン−ハーン条件で、回転速度14.5kHzにおいてCNF−F472のフッ素に共有結合した炭素原子(○)、及びCNF−F472の炭素(sp3C)(●)に排他的に結合した炭素原子(●)に対する13C磁化の時間進展、(b)フッ素化温度の関数としての生成振動のフーリエ変換を示す図である。(C2F)nフッ化グラファイトの曲線を比較のために加える。
【図11a】フッ素化CNFのEPRスペクトル(a)(比較を容易にするために、強度を試料の質量で除す)、及び選択された試料、CNF−F380(b)、CNF−F472(c)、及びCNF−F480(d)のシミュレーションを示す図である。
【図11b】フッ素化CNFのEPRスペクトル(a)(比較を容易にするために、強度を試料の質量で除す)、及び選択された試料、CNF−F380(b)、CNF−F472(c)、及びCNF−F480(d)のシミュレーションを示す図である。
【図11c】フッ素化CNFのEPRスペクトル(a)(比較を容易にするために、強度を試料の質量で除す)、及び選択された試料、CNF−F380(b)、CNF−F472(c)、及びCNF−F480(d)のシミュレーションを示す図である。
【図11d】フッ素化CNFのEPRスペクトル(a)(比較を容易にするために、強度を試料の質量で除す)、及び選択された試料、CNF−F380(b)、CNF−F472(c)、及びCNF−F480(d)のシミュレーションを示す図である。
【図12a】EPRパラメーターである、線幅(△Hpp)、及びA/B比(a)、並びにDsスピン密度(b)のフッ素化温度に伴う進展を示す図である。
【図12b】EPRパラメーターである、線幅(△Hpp)、及びA/B比(a)、並びにDsスピン密度(b)のフッ素化温度に伴う進展を示す図である。
【図13】リチウムアノードと、フッ素化炭素ナノファイバカソードとを備え、フッ素化ナノファイバが、フッ素の炭素に対する比0.21を有する電池の放電曲線を示す図である。
【図14】リチウムアノードと、フッ素化炭素ナノファイバカソードとを備え、フッ素化ナノファイバが、フッ素の炭素に対する比0.59を有する電池の放電曲線を示す図である。
【図15】リチウムアノードと、フッ素化炭素ナノファイバカソードとを備え、フッ素化ナノファイバが、フッ素の炭素に対する比0.76を有する電池の放電曲線を示す図である。
【図16】リチウムアノードと、フッ素化炭素ナノファイバカソードとを備え、フッ素化ナノファイバが、フッ素の炭素に対する比0.82を有する電池の放電曲線を示す図である。
【図17】リチウムアノードと、従来のフッ化炭素カソードとを備え、フッ化炭素が、フッ素の炭素に対する比1.0を有する電池の放電曲線を示す図である。
【図18】様々な温度におけるリチウム/CFx電池の開回路電圧プロフィールを示す図である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、その全体の参照により、本明細書における開示と矛盾しない程度まで本明細書に組み込まれている2005年11月16日出願の米国特許仮出願第60/737186号明細書の優先権を主張するものである。
【0002】
[発明の背景]
本発明は、フッ素化多層炭素ナノ材料、詳細には、フッ素化多壁炭素ナノチューブ、多層炭素ナノファイバ、多層炭素ナノ粒子、炭素ナノウイスカー、及び炭素ナノロッドの分野におけるものである。
【0003】
フッ素化炭素は、リチウム一次電池における正極材料として商業的に使用されている。グラファイトをフッ素化することによって炭素層間にフッ素をインターカレーションすることが可能になる。フッ素化炭素の他の工業用途として、固体潤滑剤としての使用、又はBrF3及びClF3などの非常に活性な分子酸化剤用の貯留体としての使用が挙げられる。
【0004】
リチウム/CFx電池では、Wittingham(1975)Electrochem.Soc.122:526によって最初に仮定された電池の全放電反応は、式(1)によって定式化し得る:
【数1】
【0005】
したがって、mAh・g−lで表される理論的な比放電容量、Qthは式(2)によって与えられる:
【数2】
但し、Fは、ファラデー定数であり、3.6は、単位変換定数である。
【0006】
したがって、様々な化学量論組成を有する(CFx)n材料の理論容量は、以下の通りである:x=0.25、Qth=400mAh・g−1;x=0.33、Qth=484mAh・g−1;x=0.50、Qth=623mAh・g−l;x=0.66、Qth=721mAh・g−l;及びx=1.00、Qth=865mAh・g−l。
【0007】
炭素同素形とフッ素ガスの反応性は、グラファイト化度又は炭素材料の種類いずれかによって大きく異なる(Hamwi A.ら、J.Phys.Chem.Solids、1996、57(6〜8)、677〜688)。一般に、グラファイト化度が高いほど、反応温度が高い。フッ化炭素は、フッ素、又はフッ素及び不活性ガスの混合物の存在下で直接フッ素化することによって得られている。出発材料としてグラファイトを使用する場合、300℃未満では有意のフッ素化は見られない。350から640℃で、主として結晶構造及び組成の異なる、2つのフッ化グラファイト:ポリ(モノフッ化二炭素)(C2F)n及びポリ(モノフッ化炭素)(CF)nが形成される(Nakajima T.、Watanabe N.、Graphite fluorides and Carbon−Fluorine compounds、1991、CRC Press、Boston;Kita Y.、Watanabe N.、Fujii Y.、J.Am.Chem.Soc.、1979、101、3832)。両方の化合物では、炭素原子は、炭素六面体の平面状から「椅子状」又は「ボート状」形状へのゆがみを伴うsp3混成をとる。ポリ(モノフッ化二炭素)は、約350℃で得られ、特徴的な構造をとり、2つの隣接フッ素層が、六方晶格子のc軸に沿って強固なC−C共有結合によって結合した2つの炭素層によって隔てられている(段階2)。他方、約600℃で実現するポリ(モノフッ化炭素)は、2つの隣接フッ素層間に1つだけの炭素層構造を有する(段階1)。350と600℃との間で得られるフッ化グラファイトは、(C2F)nと(CF)nとの間の中間組成を有し、これら2つの相の混合物からなる(Kita、1979)。段階sは、フッ素の2つの連続層を隔てる炭素層の数を示す。したがって、段階1の化合物は、FCF/FCF...のような積層配列を有し、段階2の化合物は、配列FCCF/FCCF...を有する。ポリ(モノフッ化二炭素)とポリ(モノフッ化炭素)との両方は、比較的不十分な導電率を有することが知られている。
【0008】
電池においてフッ素化炭素ナノチューブを使用することは、特許文献において報告されている。Mashushita Electric Ind.Co.Ltd.の日本国特許出願公開第2005285440号明細書には、フッ素化炭素ナノチューブを含むフルオロカーボンから作製された正極と、リチウムイオン源を提供し得る材料から作製された負極とを含む非水電解質電池が報告されている。
【0009】
多壁炭素ナノチューブ(MWCNT)とフッ素の反応は、科学文献において報告されている。Hamwiら(1997)は、シリカ担持コバルト触媒上でアセチレンを熱分解することによって調製した20と40nmとの間の外径を有する炭素ナノチューブのフッ素化を報告している。純フッ素雰囲気下約500℃で4時間フッ素化すると、完全なフッ素化を示す白色化合物がもたらされた(A.Hamwi、H.Alvergnat、S.Bonnamy、F.Beguin、1997、Carbon、35、723)。Touharaら(2002)は、1気圧のフッ素ガス下50℃から200℃の温度で5日間、30nmの外径を有するテンプレート合成炭素ナノチューブのフッ素化を報告している(H.Touharaら、2002、J.Fluorine Chem、114、181〜188)。
【0010】
カーボンファイバとフッ素の反応も報告されている。Yanagisawaらの米国特許第6841610号明細書には、炭素層の曝露端がフッ素化されているフッ素化カーボンファイバが報告されている。元のカーボンファイバ出発物質は、「ニシン骨」構造及び約100nmの平均直径を有していた。フッ素化温度は340℃、フッ素分圧は460mmHg、窒素分圧は310mmHg、及び反応時間は72時間と報告された。Touharaら(1987)は、元素フッ素の反応を報告し、約10ミクロンの直径を有する蒸気成長カーボンファイバを330℃と614℃との間の温度で熱処理した。化合物全てでグラファイトの残留は確認されなかった。報告されたF/C比は、0.53(345℃で)と0.99(614℃で)の範囲であった(Touharaら、1987、Electrochemica Acta、32巻、2号、293〜298)。
【0011】
HFや他のフッ化物などの、フッ素化触媒として作用することができる他の化合物をガス混合物中に組み込むことによって、炭素−フッ素インターカレーション化合物も得られてきた。これらの方法によって、より低い温度でのフッ素化が可能になる。これらの方法によって、(C2F)n及び(CF)n以外のインターカレーション化合物を調製することも可能になった(N.Watanabeら、「Graphite Fluorides」、Elsevier、Amsterdam、1988、240〜246頁)。HF又は金属フッ化物の存在下で調製したこれらのインターカレーション化合物は、フッ素含量が非常に低い(F/C<0.1)場合、イオン性であり、又はより高いフッ素含量(0.2<F/C<0.5)に対してはイオン性−共有性である。いずれの場合でも、X線電子分光法(ESCA)によって測定された結合エネルギーは、F1s線の最も重要なピークに対して687eV未満の値であり、C1s線の最も重要なピークに対して285eV未満の値である(T.Nakajima、Fluorine−carbon and Fluoride−carbon、Chemistry,Physics and Applications、Marcel Dekker、1995、13頁)。
【0012】
Hamwiらは、F2、HF及びIF6のガス雰囲気下で約10時間のMWNTの室温フッ素化を報告している。質量取込みによって求められたF/C比は、0.4として報告された。フーリエ変換赤外分光分析法のスペクトルは、約1100cm−1に中心があるブロードバンドを示し、準イオン性C−F結合の存在を示すと報告されている(Hamwi、1997、同書)。
【0013】
Endoらの米国特許第5106606号明細書には、C5FからC30Fの組成を有するフッ素化グラファイトファイバが報告されている。実施例には、フッ化銀触媒の存在下での室温フッ素化が記載されている。
【0014】
[発明の概要]
本発明は、フッ素化多層炭素ナノ材料を提供する。本発明に関して使用するのに適した多層炭素材料として、多壁炭素ナノチューブ(MWCNT)、多層炭素ナノファイバ(CNF)、多層炭素ナノ粒子、炭素ナノウイスカー、及び炭素ナノロッドが挙げられる。これらのフッ素化材料は、一次電池及び二次電池などの電気化学デバイスにおいて使用するのに適している。詳細には、リチウム電池において部分フッ素化ナノ材料を使用すると、高放電速度での良好な電池性能が提供され得る。
【0015】
一実施形態では、本発明は、直接フッ素化によって得られ、平均化学組成CFxを有し、xが、炭素原子に対するフッ素原子の比であるフッ素化多層炭素ナノ材料を提供する。本発明の一態様では、xは、0.06と0.95間である。一実施形態では、炭素ナノ材料は、フッ素化する前、実質的に規則性の多層構造を有する。
【0016】
一実施形態では、本発明は、非フッ素化(未反応)炭素とフッ素化炭素との両方を含有する部分フッ素化炭素ナノ材料を提供する。未反応炭素相は、フッ素化炭素生成物より高い導電率を有する。部分フッ素化材料が、Li/CFx電池のカソードにおいて使用される場合、材料の非フッ素化成分は、電子伝導性を保証するが、一方、フッ素化成分は、式1に従って、放電中電気化学的に活性である。これらの部分フッ素化ナノ材料では、これらの2つの現象の組合せによって、放電中、高エネルギー密度を得ることが可能になる。
【0017】
他の実施形態では、本発明は、少なくとも2つのフッ素化炭素生成物:より少なくフッ素化され、より導電性の生成物及びより多くフッ素化され、導電性のより低い生成物を含有するフッ素化炭素ナノ材料を提供する。これらのフッ素化炭素材料は、非フッ素化炭素を含有してもよい。既に説明したように、より高い導電率を有する成分の存在は、高放電速度でのLi/CFx電池性能を補助することが予想される。
【0018】
本発明は、多層炭素ナノ材料をフッ素化するための方法をも提供する。一実施形態では、本発明の方法は、約375℃を超える温度で4時間を越える時間、多層炭素ナノ材料をフッ素又はフッ素ガス混合物いずれかと接触させるステップを含む。
【0019】
本発明は、化学エネルギーを電気化学電流に転換する電気化学デバイスをも提供し、このようなデバイスは、リチウム電池によって例示される。このようなデバイスは、本発明の少なくとも1つのフッ素化多層炭素ナノ材料を含む第1電極と、第2電極と、電解質と呼ばれるイオン輸送材料と、2つの電極を物理的に隔て、それらの間の直接の電気的接触を防止するセパレータ材料とを有する。他の実施形態では、電解質及びセパレータは、固体状態ポリマー(POE、PPE)、ゲル化電解質、又は固体状態電解質(リチウムリンオキシナイトライド(LiPON)薄膜)などの1つの材料によって提供することができる。リチウム電池では、第2電極は、リチウムイオン源を含む。一実施形態では、第1電極は、カソード又は正極であり、第2電極は、アノード又は負極である。アノードは、元素周期表の1、2、及び3族の金属に対応するイオン源を含んでもよい。
【0020】
本発明のさらなる態様では、電極が提供され、該電極は、フッ素化多層炭素ナノ材料を含む。一般に、フッ素化多層炭素ナノ材料は、導電性希釈剤及び結合剤をさらに含む組成物中に存在する。このような電極は、化学エネルギーを電極電流に転換する電気化学デバイス、及び電子デバイスにおいて用い得る。
【0021】
[発明の詳細な説明]
一実施形態では、本発明は、フッ素化多壁又は多層炭素ナノ材料を提供する。本明細書では、炭素ナノ材料は、1ナノメートルと1ミクロンとの間にある少なくとも1つの次元を有する。一実施形態では、ナノ材料の少なくとも1つの次元は、2nmと1000nmとの間にある。炭素ナノチューブ、炭素ナノファイバ、炭素ナノウイスカー、又は炭素ナノロッドにおいて、チューブ、ファイバ、ナノウイスカー、又はナノロッドの直径は、この大きさの範囲内に入る。炭素ナノ粒子では、ナノ粒子の直径は、この大きさの範囲内に入る。本発明による使用に適した炭素ナノ材料として、全不純物の濃度が10%未満である材料、及びホウ素、窒素、ケイ素、スズ、及びリンなどの元素をドープした炭素材料が挙げられる。
【0022】
本発明による使用に適した炭素ナノ材料は、フッ素化する前、複数の炭素層を有する。多壁ナノチューブでは、層は、ナノチューブの壁を作り出すグラフェン層によって形成される。多層ナノ粒子では、層は、多層フラーレンによって形成される。
【0023】
本明細書では、「ナノチューブ」という用語は、通常約1nmから約20nmの直径を通常特徴とするチューブ形状で別々のフィブリルを指す。加えて、ナノチューブは、通常、直径の約10倍を超える、好ましくは、直径の約100倍を超える長さを示す。ナノチューブを説明するのに使用される「多壁」という用語は、ナノチューブが規則性のある原子の複数の連続層からなる外部領域と、明確な内部コア領域もしくは管腔とを含むように、層状構造を有するナノチューブを指す。層は、フィブリルの長手軸の周りに実質的に同心的に配置される。炭素ナノチューブでは、層はグラフェン層である。炭素ナノチューブは、それぞれSWCNT、DWCNT、及びMWCNTと注記される単−、二重−、及び多壁炭素ナノチューブとして様々な形態で合成されている。直径の大きさは、SWCNT及びDWCNTでの約2nmからMWCNTでの約20nmの範囲である。一実施形態では、本発明で使用されるMWNTは、5nmを超える、10nmを超える、10と20nm間、又は約20nmの直径を有する。
【0024】
多壁炭素ナノチューブは、接触化学蒸気堆積法(CVD)によって生成し得る。一実施形態では、CVDによって生成した炭素ナノチューブは、本発明のフッ素化プロセスを受ける前に、加熱処理することによってそれらの構造及び微細組織の特徴が改良される。詳細には、炭素ナノチューブは、グラフェン層が実質的に真直ぐになり、チューブ軸に沿って規則正しく整列するように、十分高い温度まで加熱する。一実施形態では、MWCNTは、加熱することによって実質的に十分に規則性のある構造を生成する。本明細書では、炭素ナノ構造は、そのX線回折パターン中に少なくとも1つのピークを有し、1)銅の単色放射線を使用して回折角2θの24.5度と26.6度との間に含まれる角度領域内にそのピークが現れ、2)そのピークが、回折角2θにおける最大半値幅で4度未満の全幅を有する場合、実質的に十分規則性である。
【0025】
本明細書では、炭素ナノファイバとは、20nmを超え、1000nm未満の直径を有するカーボンファイバを指す。多様な実施形態では、本発明において使用される炭素ナノファイバは、20と1000nm間、40と1000nm間、又は80と350nm間である。多壁ナノチューブに類似の同心炭素層を有する炭素ナノファイバは、接触化学蒸気堆積法及び熱処理によって生成し得る。詳細には、CVD生成炭素ナノファイバは、炭素層が実質的に真直ぐになり、ファイバ軸に沿って規則正しく整列するように、十分高い温度まで加熱する。多様な実施形態では、炭素ナノファイバは、1800℃を超える、又は2500℃を超える温度まで加熱することによって実質的に十分規則性の構造を生成する。
【0026】
当技術分野で周知のように、より大きい直径(例えば、10ミクロン)を有する蒸気成長カーボンファイバ(VGCF)も、接触化学蒸気堆積法によって生成し得る。これらのファイバは、同心的に相互の頂部に存在する層様の成長環の構造を有し得る(Endo,M.、1988、Chemtech、568〜576)。1ミクロン以上の直径を有するVGCFは、本発明において使用される「炭素ナノ材料」という用語に包含されるものではない。
【0027】
炭素ナノ粒子は、大きな、かなり不完全な多層フラーレンに関連する構造として考え得る(Harris,P.、1999、「Carbon Nanotubes and Related Structures」、Cambridge University Press、Cambridge、103頁)。炭素ナノ粒子の一形態は、「炭素オニオン」と呼称される。十分に形成された場合、炭素オニオンは、構造において高度に完全であるように見え、眼に見える欠陥がほとんどない(Harris、1999)。炭素オニオンは、5nmを超える直径で形成されている(Harris、1999)。Nasibulinらは、5nmと30nmの間の炭素オニオンの形成を報告し(Nasimbulin,A.G.ら、2005、Colloid J.、67(1)、1〜20)、一方、Sanoらは、4と36nmの間の炭素オニオンの形成を報告している(Sano,N.ら、2002、J.Appl.Phys.、92(5)、2783)。多様な実施形態では、本発明において使用される多層炭素ナノ粒子は、5nmを超える、10nmを超える、20nmを超える、5と35nmとの間、又は10と30nmとの間の直径を有する。
【0028】
電子サイクロトロン共鳴化学蒸気堆積法によって成長した炭素ナノロッドの一形態は、Wooらによって報告された。フィラメント状の炭素は、中空チューブを形成しなかった。高分解能透過電子顕微鏡法によって、結晶性の壁を示し、グラフェン層が幾分不規則になり、ロッド軸の周りに傾斜していることが報告された。グラフェン層間の平均距離は、MWCNTより大きいと報告された(Woo,Y.ら、2003、J.Appl.Phys.94(10、6789)。
【0029】
グラファイトウイスカーとも呼称される炭素ウイスカーは、当技術分野で周知である。これらの材料は、基本的に連続なグラファイト性構造から作り上げられたスクロール様の構造を有するように思われる(Harris、1999)。
【0030】
本明細書では、材料のフッ素化は、フッ素を材料中に導入するステップを含む。本発明では、フッ素化は、通常、炭素とフッ素との間の結合を形成するステップを含むであろう。当技術分野で周知であるように、フッ素は、炭素とのイオン結合と共有結合との両方を形成することが可能である。一部の場合では、C−F結合はまた、強度においてイオン結合と共有結合の中間にあるとして分類されてきた(例えば、部分的にイオン性、準イオン性、準共有性)。フッ素化方法は、フッ素化生成物中に存在する結合の種類に影響し得る。
【0031】
本発明では、フッ素化多層炭素ナノ材料は、直接フッ素化によって生成する。直接フッ素化では、C−F結合は、より高いエネルギーになる傾向があり、低温フッ素インターカレーションを介して得られたC−F結合より共有性が大である。フッ素−グラファイトインターカレーション化合物は、フッ素含量に応じてイオン性と準共有性の間で変化する炭素−フッ素結合を有することが予想される。(Matsuo,Y.ら、1995、Z.Anorg.Allg.Chemie、621、1943〜1950)。例えば、Matsuoら(1995)は、687eV、685eV、及び683eVにおけるXPS F1sスペクトルピークを、それぞれ準共有、ほぼイオン性、及びイオン性として分類している。逆に、共有結合したフッ化グラファイトにおけるF1sピークは、689.3〜689.6eVにある(Watanabe、1988、同書)。
【0032】
本発明の一態様では、フッ素化生成物中の少なくとも一部の炭素は、フッ素と共有結合、又はほぼ共有結合している。本発明の他の態様では、フッ素化生成物中の少なくとも一部の炭素は、フッ素と共有結合している。一実施形態では、フッ素と共有結合、又はほぼ共有結合している炭素は、フッ素化炭素ナノ材料の表面より下に位置している。
【0033】
本明細書では、結合が、グラファイトの低温フッ素化を介して得られたフッ素のグラファイトインターカレーション化合物における「準イオン性」又は「準共有性」炭素−フッ素結合のエネルギーを超えるが、ポリ(モノフッ化二炭素)(C2F)n又はポリ(モノフッ化炭素)(CF)nの非表面領域中の炭素−フッ素共有結合の通常のエネルギー未満であるエネルギーを有する場合、フッ素化生成物中の炭素−フッ素結合は、ほぼ共有性であると分類される。
【0034】
フッ素化生成物中のC−F結合の性質は、適切な分析技法によって求め得る。このような技法は、当業者には周知であり、このような技法として、限定されないが、フーリエ変換赤外分光分析法(FT−IR)、核磁気共鳴分光分析法(NMR)、X線光電子分光分析法(XPS)、又はX線電子分光法(ESCA)が挙げられる。C−F結合中の共有性の程度は、フッ素化生成物に対する分析結果を、C−F共有結合を有すると通常認められている「標準」に対して得られた分析結果と比較することによって評価し得る。フッ素化生成物に対する分析結果と「標準」の分析結果間の一致(実験誤差内)は、共有結合を示すと考えてもよい。フッ化グラファイトである、ポリ(モノフッ化二炭素)(C2F)n及びポリ(モノフッ化炭素)(CF)nは、C−F共有結合を有すると通常認められている。
【0035】
実施例1で議論するように、約−190ppm/CFCl3に中心のある化学シフトピークを有する固体状態19F−NMRスペクトルは、炭素原子に共有結合したフッ素原子を示す。他の実施例では、84〜88ppm/TMSの化学シフトに存在する共鳴を有する固体状態13C−NMRスペクトルは、フッ素原子に共有結合した炭素原子を示す。約1215cm−1に中心のある振動バンドを示すフーリエ変換赤外分光分析法(FT−IR)スペクトルも、C−F共有結合を示している。
【0036】
本明細書では、部分フッ素化炭素材料は、フッ素と反応したある種の炭素材料と、フッ素と反応しなかったある種の炭素材料とを含む。部分フッ素化炭素材料は、主として外の部分がフッ素と反応し、内部領域は、大部分未反応である材料を含む。
【0037】
フッ素の炭素に対する比の平均は、フッ素化の程度の目安として使用し得る。この比の平均は、重量取込み測定を介して、又は実施例1で説明するようなNMR測定を介して求め得る。炭素材料の壁厚全体にフッ素が均一に分布していない場合、この比の平均は、X線光電子分光分析法(XPS)、又はESCAによって得ることができる表面のフッ素の炭素に対する比と異なる場合がある。
【0038】
一実施形態では、本発明は、直接フッ素化によって得られ、平均化学組成CFxを有し、xが、炭素原子に対するフッ素原子の比であり、0.06と0.95との間の値を有し、炭素ナノ材料が、フッ素化する前、実質的に規則性の多層構造を有するフッ素化炭素ナノ材料を提供する。他の実施形態では、xは、0.06と0.68間、0.3と0.66間、又は0.39と0.95間である。
【0039】
一実施形態では、xは、0.006と0.68間であり、フッ素化材料は、a)Cu単色放射線源を使用して、24.5〜26.6度の角度範囲のX線回折ピーク、及びb)(−160)ppmと(−200)ppm/CFCl3の間の範囲の19FNMRピークを示す。非フッ素化炭素ナノ材料のXRDピークは、上記引用範囲内に入ると予想される。
【0040】
他の実施形態では、xは、0.39と0.95間であり、フッ素化材料は、a)9.8〜15度の角度範囲のX線回折ピーク、b)(−180)ppmと(−200)ppm/CFCl3の間の範囲の19FNMRピーク、及びc)3つの13CNMRピーク:100〜150ppm/TMS範囲の第1ピーク、84〜88ppm/TMS範囲の第2ピーク、及び42〜48ppm/TMS範囲の第3ピークを示す。
【0041】
他の実施形態では、本発明は、非フッ素化炭素相と、少なくとも一部の炭素が、フッ素に共有結合又はほぼ共有結合している少なくとも1つのフッ素化炭素生成物とを含み、炭素ナノ材料が、フッ素化する前、実質的に規則性の多層構造を有するフッ素化炭素ナノ材料を提供する。多様な実施形態では、炭素原子に対するフッ素原子の比の平均は、0.06と0.68間、0.3と0.66間、又は0.3と0.6間である。
【0042】
他の実施形態では、本発明は、部分フッ素化された炭素ナノ材料であって、部分フッ素化炭素ナノ材料が、非フッ素化炭素相と、フッ素化炭素生成物とを含み、フッ素の炭素に対する比の平均が、0.4未満であり、炭素ナノ材料が、フッ素化する前、実質的に規則性の多層構造を有する炭素ナノ材料を提供する。
【0043】
本発明の他の態様では、本発明は、少なくとも一部の炭素が、フッ素に共有結合又はほぼ共有結合しており、層間間隔の平均が、グラファイト(モノフッ化二炭素)の層間間隔とグラファイト(モノフッ化炭素)の層間間隔との中間である少なくとも1つのフッ素化炭素生成物を含み、炭素ナノ材料が、フッ素化する前、多層構造を有するフッ素化炭素ナノ材料を提供する。多様な実施形態では、フッ素の炭素に対する比の平均は、1.0未満、0.3と0.8間、又は0.6と0.8間、0.39と0.95間、0.39と0.86間、0.39と0.68間、0.68と0.86間、又は0.74と0.86間である。
【0044】
一実施形態では、フッ素化炭素生成物は、フッ化グラファイト(C2F)n及び(CF)nの混合物によって生成するであろう生成物に類似のいくつかの特徴を有する。X線回折分析では、この生成物が、12.0度及び41.5度に中心がある2θのピークを有することが示される。この化合物の層間間隔は、約0.72nmである。この化合物の13C−NMRスペクトルは、42ppmに存在する共鳴を有するが、これは、非フッ素化sp3炭素原子を示す。NMR分析によって、炭素とフッ素間の共有結合も示される。CF2及びCF3基も少量存在する場合がある。
【0045】
他のフッ素化炭素生成物は、(CF)nに対する構造類似性を有し得る。X線回折分析では、この生成物が、12.0度超及び41.5度未満に中心がある2θのピークを有することが示される。この化合物の層間間隔は、約0.60nmである。NMR分析によって、炭素とフッ素間の共有結合も示される。CF2及びCF3基も少量存在する場合がある。いかなる特定の意見によっても拘束されることを望まないが、比較的低温(例えば、平均直径約150nmを有するCNFでは、420℃未満の温度)における多層炭素ナノ材料のフッ素化は、主として炭素材料の表面のフッ素化をもたらすと考えられている。炭素材料の残りは、未フッ素化のままである。この表面フッ素化は、CF2及びCF3などの基の形成を含む場合がある。一実施形態では、この型に伴うフッ素の炭素に対する比は、0と0.16間である。
【0046】
中間温度(例えば、平均直径約150nmを有するCNFでは、420℃と465℃との間の温度)では、フッ素化は、材料の表面を過ぎて進行すると考えられる。一実施形態では、フッ素化生成物は、フッ化グラファイト(C2F)n及び(CF)nの混合物に対するいくつかの結晶学的類似性を有する。一実施形態では、多層炭素ナノ材料は、部分的にフッ素化され、未反応炭素を一部含有する。他の実施形態では、一部の炭素が、「軽くフッ素化」され、主として非共有結合を有する第2のフッ素化生成物が、フッ素に共有結合又はほぼ共有結合している炭素原子を少なくとも一部有する第1のフッ素化生成物に加えて、存在する。一実施形態では、この型に伴うフッ素の炭素に対する比は、0.31と0.79間である。
【0047】
より高い温度(例えば、平均直径約150nmを有するCNFでは、465℃超の温度)では、フッ素化生成物は、フッ化グラファイト(CF)nに対するより強い結晶学的類似性を示し始める。いかなる特定の理論によっても拘束されることを望まないが、材料中に存在する(C2F)n様の相は、やはり共有結合を示す(CF)n様の相への転換を開始すると考えられる。この転換には、剥離が伴う。一実施形態では、非フッ素化炭素の量は、XRDによって検出できないほど十分に少ない。一実施形態では、フッ素の炭素に対する比は、0.86を超える。
【0048】
本発明のフッ素化多層炭素ナノ材料は、多層炭素ナノ材料がフッ素元素のガス源と接触する直接フッ素化法を使用して調製する。フッ素化条件(温度、時間、及びフッ素圧力を含めて)は、所望の程度の炭素材料のフッ素化が得られるように選択する。一実施形態では、フッ素化条件は、80と350nm間の平均直径を有するCNFをフッ素化するのに適するように選択する。
【0049】
多様な実施形態では、フッ素化温度は、375℃と480℃との間、400℃と475℃との間、405℃と465℃との間、又は420℃と465℃との間でよい。
【0050】
多様な実施形態では、時間は、4時間を越える、4と40時間の間、4と20時間の間、4と16時間の間、4と12時間の間、8と20時間の間、8と16時間の間、8と12時間の間、又は約16時間でよい。
【0051】
一実施形態では、フッ素化は、基本的にF2及び不活性ガスからなるガス混合物によって大気圧で行う。混合物中のフッ素のパーセンテージは、5%と100%間、10%と90%間、20%と80%間、20%と60%間、20%と50%間、又は約20%でよい。
【0052】
他の実施形態では、フッ素化は、大気圧未満の圧力で行い得る。一実施形態では、フッ素化は1気圧と0.1気圧間、又は1気圧と0.25気圧間で行い得る。
【0053】
元素フッ素の適切なガス源は、当業者に周知であろう;このような供給源の例は、F2及び十分に不活性なガスの混合物である。適切な不活性ガスとして、限定されないが、窒素及びアルゴンが挙げられる。好ましくは、フッ素インターカレーション触媒として周知であるHF又は他のフッ化物が、ガス混合物中に微量だけ存在する。
【0054】
一実施形態では、本発明は、1気圧と0.1気圧の間の圧力、及び375℃と480℃との間の温度で、4時間と20時間の間の時間炭素ナノ材料を元素フッ素のガス源に曝露するステップを含む、多層炭素ナノ材料をフッ素化するための方法を提供する。
【0055】
本発明のフッ素化多層炭素ナノ材料は、フッ素化後、熱処理し得る。
【0056】
本発明の電気化学デバイスでは、フッ素化多層炭素ナノ材料は、通常、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、粉末化グラファイト、コークス、カーボンファイバ、並びに粉末ニッケル、アルミニウム、チタン、及びステンレス鋼などの金属粉末から選択し得るような導電性希釈剤をも含む組成物中に存在する。導電性希釈剤は、組成物の導電性を改良し、組成物の約1重量%から約10重量%、好ましくは、組成物の約1重量%から約5重量%を代表する量において通常存在する。フッ素化多層炭素ナノ材料と、導電性希釈剤とを含む組成物は、ポリマー性結合剤をも通常含有し、好ましいポリマー性結合剤は、少なくとも部分的にフッ素化されている。したがって、結合剤の例として、限定されないが、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、及びポリ(エチレン−co−テトラフルオロエチレン)(PETFE)が挙げられる。結合剤は、存在する場合、組成物の約1重量%から約5重量%を代表し、フッ素化多層炭素ナノ材料は、組成物の約85重量%から約98重量%、好ましくは、組成物の約90重量%から約98重量%を代表する。
【0057】
次いで、生成フッ素化多層炭素ナノ材料は、上記の導電性希釈剤及び結合剤と混合し、好ましい重量比は、フッ素化多層炭素ナノ材料として約85重量%から約98重量%、より好ましくは、約90重量%から約98重量%;導電性希釈剤として、約1重量%から約10重量%、好ましくは、約1重量%から約5重量%;及び結合剤として、約1重量%から約5重量%である。
【0058】
通常、前記成分を混合して形成したスラリーは、次いで、導電性基材上に堆積又は他の方法で供給することによって電極を形成する。多数の他の導電性基材、例えば、ステンレス鋼、チタン、白金、金なども使用し得るが、特に好ましい導電性基材は、アルミニウムである。フッ素化多層炭素ナノ材料は、堆積プロセス中、少なくとも部分的に配列してもよい。例えば、せん断配列を使用することによってフッ素化多層炭素ナノ材料を配列し得る。
【0059】
本発明のさらなる態様では、電気化学デバイスにおいて使用するための電極を調製するための方法であって、以下のステップ:
本発明の方法に従って多層炭素ナノ材料をフッ素化するステップと、
フッ素化多層炭素ナノ材料を導電性希釈剤及び結合剤と混合することによってスラリーを形成するステップと、
スラリーを導電性基材に施用するステップと
を含む方法が提供される。
【0060】
一実施形態では、本発明は、第1電極と、第2電極と、これらの間に配置されたイオン輸送材料とを含み、第1電極が、本発明に記載のフッ素化炭素ナノ材料を含む電気化学デバイスを提供する。
【0061】
一次リチウム電池では、例えば、前記の電極は、カソードとして働き、アノードは、リチウムイオン源を提供し、イオン輸送材料が、通常、非水電解質によって飽和された微多孔性又は不織材料である。アノードは、例えば、リチウム、又はリチウムの合金(例えば、LiAl)、又は炭素−リチウムのホイル又はフィルムを含んでよく、リチウム金属のホイルが好ましい。イオン輸送材料は、低電気抵抗を有し、高強度、良好な化学的及び物理的安定性、及び全体が均一な特性を示す通常の「セパレータ」材料を含む。上記したように、本明細書における好ましいセパレータは、微多孔性及び不織材料、例えば、不織ポリエチレン、及び/又は不織ポリプロピレンなどの不織ポリオレフィン、並びに微多孔性ポリエチレンなどの微多孔性ポリオレフィンフィルムである。微多孔性ポリエチレン材料の例は、Hoechst Celaneseから商品名Celgard(登録商標)(例えば、Celgard(登録商標)2400、2500、及び2502)として得られるものである。リチウムは、水性媒体中で反応性であるので、電解質は非水性が必須である。適切な非水電解質は、プロピレンカルボナート(PC)、エチレンカルボナート(EC)、エチルメチルカルボナート(EMC)、ジメチルエーテル(DME)、及びそれらの混合物などの非プロトン性有機溶媒中に溶解したリチウム塩からなる。PCとDMEの混合物が普通であり、通常、重量比が約1:3から約2:1である。この目的のための適切なリチウム塩として、限定されないが、LiBF4、LiPF6、LiCF3SO3、LiClO4、LiAlCl4などが挙げられる。使用の際は、印加電圧が、アノードでのリチウムイオンの発生、及び、電解質浸漬セパレータを介してのフッ素化多層炭素ナノ材料カソードへのイオンの移動を引き起こし、電池を「放電する」ことは理解されよう。
【0062】
一実施形態では、本発明は、第1電極がカソードにおいて働き、第2電極がアノードにおいて働き、リチウムイオン源を含み、イオン輸送材料が第1及び第2電極を物理的に隔て、それらの間の直接の電気的接触を防止する一次リチウム電池である電気化学デバイスを提供する。
【0063】
他の実施形態では、少なくとも部分的にフッ素化されたMWCNT又はCNFは、二次電池、つまり、再充電可能なリチウム電池などの再充電可能な電池において利用される。このような場合では、カチオン、例えば、リチウムイオンは、固体ポリマー電解質−−物理的セパレータとしても働く−−を通って少なくとも部分的にフッ素化されたMWCNT又はCNF電極まで輸送され、カチオンは、少なくとも部分的にフッ素化されたMWCNT又はCNF材料によってインターカレーション及び脱インターカレーションされる。固体ポリマー電解質の例として、化学的に不活性なポリエーテル、例えば、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、及び他のポリエーテルが挙げられ、ポリマー性材料は、塩、例えば、前記パラグラフに記載されたようなリチウム塩で含浸、又は他の方法で会合される。
【0064】
他の実施形態では、本発明は、第2電極が元素周期表の1、2、及び3族から選択される金属イオン源を含み、イオン輸送材料が、前記金属カチオンの輸送を可能にし、第1及び第2電極を物理的に隔てる固体ポリマー電解質を含む二次電池である電気化学デバイスを提供する。
【0065】
本発明のなおさらなる態様では、
少なくとも部分的にフッ素化されたMWCNT又はCNFを含み、元素周期表の1、2、及び3族から選択される金属カチオンを受領及び放出することが可能である第1電極と、
金属カチオン源を含む第2電極と、
金属イオンの輸送を可能にし、第1及び第2電極を物理的に隔てる固体ポリマー電解質と
を含む再充電可能な電池が提供される。
【0066】
Li/フッ素化CNF電池の特徴的な放電プロフィールを図14に示す;フッ素の炭素に対する比は、約0.59である。これらの電池は、式1によるLiF形成に対応する特徴的なプラトーを示す。プラトーの電圧値は、放電速度によって決まる。比較のために、市販のLi/CF電池の特徴的な放電プロフィールを図17に示す。
【0067】
Li/フッ素化CNF電池の放電プロフィールは、CNFのフッ素の炭素に対する比によって異なる。一般に、式2によって示されるように、F/Cが高いほど、放電容量は大である。フッ素の炭素に対する比が0.15以下の試料は、一定の放電電位を示さない恐れがある。
【0068】
部分フッ素化されたMWCNT及びCNFは、低放電期間では十分にフッ素化された材料に比較して過電位の減少を示す場合がある。このことは、フッ素化部分が進行すると、試料の導電性が減少すること、すなわち試料中の元の炭素量が減少することに関連している。
【0069】
加えて、Liと、部分フッ素化されたCNFとを含む電池は、より大きい放電速度で(例えば、1C以上で)、市販のLi/CF電池に比較して改良された性能を示し得る。
【0070】
一実施形態では、電気化学電池が一度組み立てられると、実際に使用される前に「前放電」される場合がある。前放電段階には、電池容量の1%〜5%を放電するステップが関与する。電池の前放電によって、Li/フッ素化CNF電池の特徴的な放電プロフィールにおいて見られる、電圧プラトーが確立される前の当初の電圧遅延が排除され得る。
【0071】
以下の実施例では、使用される数(例えば、量、温度等)に関して精度を保証しようとする努力がなされたが、いくつかの実験誤差及び偏差が考慮されるべきである。別段の指示がなければ、温度は℃であり、圧力は大気圧又はその近傍である。全ての溶媒は、HPLC級として購入され、別段の指示がなければ、全ての試薬は、市販のものである。
【0072】
実施例1
炭素ナノファイバとフッ素ガスの反応性
概要
以下の研究では、炭素ナノファイバ(Nanofibers)又はナノファイバ(Nanofibres)(CNF)とフッ素ガスの反応性を明らかにする。高度に精製し、グラファイト化したCNFを、380〜480℃の範囲の温度で16時間フッ素ガス流下で処理した。多様なフッ素化温度帯を、XRD、ラマン分光分析法、EPR、及び固体状態NMR(13C及び19F)などの直接的な物理化学分析によって明らかにした。C−F結合の共有性、T1スピン−格子核緩和時間、とりわけダングリング結合の密度及び環境などの多様なパラメーター間の比較によって、フッ素化の機構、すなわち、よりフッ素に富む(CF)n化合物の前駆体としての(C2F)n型フッ化グラファイトの形成を決定することが可能になる。フッ素化が炭素ナノファイバの外側部分から進行し、次いで、フッ素化部分の大きな構造変化なしでコア内まで伝播する際のTEM特性解析は、このことを支持する。シートの剥離作用の低いことが、フッ素化の進展、及び(CF)nへの転換に必要である;こうしたことは、472℃を超えるフッ素化温度で、グラファイト構造の消失に伴って行われる。
【0073】
1.序論
炭素同素形とフッ素ガスの反応性は、グラファイト化度、又は炭素材料の種類のいずれかによって大きく異なる。グラファイト化度又は殻数が大であるほど、フッ素化に要する温度は高い。ナノチューブコアを囲むグラファイトの多層の存在のために、MWCNTのフッ素化温度は、SWCNTに比較して著しく上昇する。この温度はMWCNT殻の数によって決まり、一般に400℃に近い(Hamwi A.;Alvergnat H.;Bonnamy S.;Beguin F.;Carbon 1997、35、723;Nakajima T.;Kasamatsu S.;Matsuno Y.;Eur.J.Solid.State Inorg.Chem.1996、33、831)。
【0074】
MWCNTのフッ素化に比較して、SWCNTの構造は、50℃のような低温でのフッ素化に好適である(Mickelson E.T.;Huffman C.B.;Rinzler A.G.;Smalley R.E.;Hauge R.H.;Margrave J.L.;Chem.Phys.Lett.、1998、296、188;Kelly K.F.;Chiang I.W.;Mickelson E.T.;Hauge R.;Margrave J.L.;Wang X.;Scueria G.E.;Radloff C.;Halas N.J.;Chem.Phys.Lett.、1999、313、445)。しかしながら、この構造は、350℃を超えると部分的に破壊される。
【0075】
この調査では、本発明者らは、380〜480℃の温度範囲でのCNFと純フッ素ガスの反応性を研究した。フッ素化化合物を、(1)XRD、TEM及びラマン分光分析法;(2)19F及び13C高分解能核磁気共鳴、及び(3)電子常磁性共鳴を含めての多様な技法によって特性解析した。交差データ解析によって、フッ素化の機構、結晶構造、及びC−F結合の性質に対する新規な知見が得られる。生成材料の特性が、議論され、従来の(CF)n及び(C2F)nフッ化グラファイト、並びにこの研究のために調製された(CF)n及び(C2F)nフッ化グラファイトの特性と比較されるであろう。
【0076】
2.実験
長さ2〜20ミクロンの高純度(>90%)炭素ナノファイバは、MER Corporation、Tucson、Arizonaの好意により供給された。それらは、化学蒸気堆積法(CVD)によって得られ、アルゴン雰囲気中で1800℃で熱処理することによってそれらの結晶性が促進された。フッ素化炭素ナノファイバ(CNF−FTFと記載される)を、F2流中で、380℃と480℃との間の範囲の温度(TF)でCNF200mgを用いて調製した。反応時間16時間を使用した。フッ素化の水準「x」(すなわち、F:Cモル比)を、重量法(重量取込み)及び定量的19F NMR測定によって求めた。X線回折(XRD)粉末パターンを、Cu(Kα)放射線(λ=1.5406Å)を用いるSiemens D501回折計を使用して得た。
【0077】
NMR実験を、1H、13C及び19Fそれぞれに対する作業周波数300.1、73.4及び282.2MHzを用いてTecmag Discovery and Bruker Avance分光計によって行った。2つのNMR Brukerプローブ:4mmローター上のフッ素デカップリングによる静的及び特別の交差分極/マジック角回転プローブを使用した。19F−13Cマッチをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)上で最適化した;19Fπ/2パルス幅は4μsであった。MASスペクトルでは、1H、19F及び13Cそれぞれに対する単一π/2パルス長3.5、4及び3.5μsを有する単純なシーケンス(τ−取得)を使用した。スピン−格子緩和時間T1を、飽和回収シーケンスを使用して測定し、exp(−t/T1)として発展する磁化曲線を考慮に入れて計算した。1H及び13C化学シフトは、テトラメチルシラン(TMS)を外部参照とした。19F化学シフトはCFCl3を参照とした。重量取込みによって得られるモル比F:Cを確認し、特に、部分剥離及び揮発性フッ化物の分離が起こる恐れのある最高フッ素化温度に対するこの方法の限界を求めるために、それぞれの試料に対して同じ条件、すなわち、類似のレシーバ利得、リサイクル時間D1(CNF−F480に対応する、最長スピン−格子緩和時間T1を使用してD1>5T1、したがってD1=3秒)、及び走査数を使用して、定量的19F NMR測定を行った。強度を試料質量で除する。比較のために、600℃で天然グラファイト及び石油コークスをフッ素ガスと直接反応させることによって得られる2つの従来の(CF)n試料、並びに380℃で天然グラファイトをフッ素ガスと直接反応させることによって得られる(C2F)n試料であって、組成がそれぞれCF1.1、CF1.0及びCF0.6である試料を、やはり、定量的NMRによって分析した。フッ素含量に対する参照としてポリフッ化ビニリデン−(CF2−CH2)−nを使用した。
【0078】
Bruker EMXデジタルXバンド(v=9.653GHz)分光計を用いて、EPRスペクトル分析を行った。共鳴周波数とスピンキャリア密度との両方を求めるために、較正用の参照としてジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)を使用した。
【0079】
電荷結合デバイス(CCD)マルチチャネル検出器を備えたJOBIN YVON T64000を使用して、ラマンスペクトルを室温で記録した。放射線源は、アルゴンレーザの514.5nm線であった。レーザ出力は10mWに合わせた。
【0080】
透過電子顕微鏡法(200kVで動作するTEM、FEI CM200)によって多様な試料を特性解析した。超音波処理法を使用して、炭素ナノファイバをクロロホルムに分散し、炭素/ホルムバール超薄膜で被覆された観察用の銅グリッド上に数滴の懸濁液を堆積した。続いて周囲条件でグリッドを乾燥させた。
【0081】
逆空間において、TEM像の定量的分析を行った。該方法の詳細は、別の所で知り得る(Basire C.;Ivanov D.A.;Phys.Rev.Lett.、2000、85、5587)。実験のサンプリング間隔に応じてTEM像(u(r))から臨界、又はNyquist周波数まで
【数3】
のように、二次元パワースペクトル密度関数(P2(s))をコンピュータ計算したが、Aは、像の面積、W(r)は窓関数(Press W.H.;Numerical Recipes in C、The Art of Scientific Computing、1988、Plenum Press、New York)、及びsは2D逆空間ベクトルを表す。次いで、
P1(s)=(2πs)−1∫P2(s’)δ(|s’|−s)ds’ (4)
に従って、P2(s)関数を一次元PSD(P1(s))に変換したが、sは、sのノルムを表す。
【0082】
3.結果
3.1 フッ素化方法
3.1.a.i 化学組成対フッ素化温度(TF)
図1にフッ素化温度の関数として、重量取込み及びNMRデータから得られた試料のF:C比をプロットする;表1にも数値をまとめる。2つの方法より、TFに対して450℃までは類似の結果が得られる。しかし、重量法は、フッ素の実際の量を低く見積もり、NMRは、より正確に測定するので、より高温では、2つの方法の間に大きな乖離が生ずる。実際、(CF)n及び(C2F)n化合物に基づく2つの標準フッ化グラファイトについてNMR法を試験したが、NMR法は、正しいF:C比を与える。乖離の元は、T>450℃でフッ素化CNFが熱分解することから来ることが最も確からしいが、この温度によりCF4、C2F6、及びその他などの揮発性フッ化アルキルが発生し、その結果重量損失がもたらされる。結論として、定量的なNMRデータによって、420℃を超えるTFでフッ素含量が急激に増加することが実際に明示される。しかし、次いで、重量取込み法によって分かることとは逆に、処理温度とともにフッ素含量が漸進的に増加することが明らかになる。
【0083】
図1及び表1では、4つのフッ素化温度帯を区別し得る:
i)420℃未満のTFでは、フッ素化の水準は低い:0<x<0.2;
特に、TF=380℃では、組成物はCF0.04であるが、一方、同じ反応温度におけるグラファイトでは、CF0.60が実現される(Dubois M.;Giraudet J.;Guerin K.;Hamwi A.;Fawal Z.;Pirotte P.;Masin F.;J.Phys.Chem.、B2006、110、11800)。
ii)TFが420〜435℃の範囲の場合、F:C比は、急激に増加する:0.31<x<0.7。
iii)TFが435と450℃との間に含まれる場合、F:Cの比は、ほぼ一定である:x≒0.7〜0.8。
iv)450℃を超えるTFでは、最高465℃まで組成のジャンプが観察され、次いで以降、x≒1.0付近で安定する。
【0084】
SWCNTと異なり、MWCNT及びより大きい直径のCNTは、それらのグラファイト構造のために、より高温でフッ素と反応する。実際、SWCNTは、50℃のような低温でフッ素と反応することによってCF0.114化合物を形成する(Mickelson、1998;Kelly、1999、同書)。MWCNTでは、殻の数が大であるほど、フッ素との反応温度は高い(Hamwi、1997、同書)。本発明者らの場合では元々の、CNFのグラフェン層(MWCNTの殻に類似)の数は、約35である。この値は、CNFに対する高いグラファイト化度を実際に示す。
【0085】
おそらくは、CNFの表面フッ素化は、第1の温度範囲で行われるが、より接近しにくいグラフェン層のフッ素化は、第2の温度範囲で行われる。この解釈を確認するために、多様な物理化学的特性解析が、TF値を増加させながら調査された。
【0086】
3.1.a.ii 化学組成対フッ素化時間
フッ素化温度430℃で、4と16時間の間でフッ素化時間を変化させた(他のフッ素化条件は同じである)。重量取込み測定から得られたF/C比は以下の通りであった:フッ素化時間4時間に対して0.22、フッ素化時間8時間に対して0.38、フッ素化時間12時間に対して0.55、及びフッ素化時間16時間に対して0.60であった。
【0087】
3.1.a.iii 化学組成対フッ素化圧力
フッ素化温度430℃、及びフッ素化時間16時間で、フッ素化圧力を0.3気圧まで低下させた(他のフッ素化条件は同じである)。この圧力で、重量取込み測定から得られたF/C比は、1気圧でのF/C比0.60に対して、0.53であった。
【0088】
3.1.b 積層構造及び形態
処理後のCNFのTEM明視野像は、グラファイト層の存在を示すことによってこの構造規則性を明らかに示す(図2a)。層の明確な周期性は、対応するPSD曲線(図3)のブラッグピークに反映され、このピークは、約0.34nmに位置する。直径分布は、非常に狭く、80と350nmとの間に含まれる(図2b)。平均直径(<Φ>)は、未処理試料の多様な部分の観察から約150nmと推定される。グラフェン層内にフッ素原子が収容されるために、フッ素化によって420℃での反応後平均直径のおだやかな増加がもたらされ(<Φ>=160nm)、480℃で大きな増加がもたらされる(<Φ>=180nm)。グラファイト構造は、480℃でのフッ素化と(図2d)逆に420℃でのフッ素化では維持される(図2c)。CNF−F420では、ファイバの形態は、ファイバの周縁及びコアに存在する2つの異なる構造を示す。図1cの像に対応するPSD関数(図3)は、未処理試料(図2a)で分かった通常のグラフェン層の周期性に加えて、約1.5〜2.0nm−1に最高点を有する幅広のピークを示す。PSD曲線のこの追加の特徴では、フッ素原子を収容したためにより規則性が低く、空間的により隔てられている層の存在が示される。同じ試料のファイバコアは、この周期性の増加を示さないことに留意されたい(図3)。
【0089】
1800℃での後処理に由来する結晶の規則性及びグラフェン層の配向を検討すると、元のナノファイバ及びMWCNTは、多数の共通する点を有する。よって、以下の部分では、MWCNTに適用されたのと類似の計算を議論することにする。
【0090】
3.2 構造の進展
図4で、元の及びフッ素化されたCNFのXRDパターンを比較する。元のCNFのパターンは、アーク放電(Okotrub A.V.;Yudanov N.F.;Chuvilin A.L.;Asanov I.P.;Shubin Y.V.;Bulusheva L.G.;Gusel’nikov A.V.;Fyodorov I.S.;Chem.Phys.Lett.、2000、323、231)、又はCVD(Nakajima、1996、同書)によって合成されたMWCNTと類似している。主ピークは、それぞれ、2θの値、26°3(層間距離d=0.338nm)、43°5(0.207nm)、45°(0.201nm)、54°4(0.169nm)、及び77°9(0.123nm)に対するグラファイトの(002)、(100)、(101)、(004)、及び(110)回折線に対応する。最強の(002)反射は、平均の層間間隔0.338nmに関係し、TEM明視野の結果と一致する。(002)ピークの幅(△2θ=0.72°)は、炭素層の平均数(35に近い)とc軸に沿った可干渉距離Lc(11.8nm)との両方の特性を示す。MWCNTに関しては、(hk0)線の対称、及び(hkl)ピークの弱い強度は、ナノ粒子の異なる層の炭素原子間に位置的な関係がないことを反映するものである。XRDによって示されるように、TFの関数として、CNFのフッ素化は漸進的に構造を変化させる。405<TF<420℃で、六方晶系のフッ化グラファイトマトリックスの(001)及び(100)ピークに帰属する、2θ値の中心が12.0°及び41.5°である対応ピークを有する新規な相が現れる。この相は、元のCNF相と共存する。しかし、この新規な相のピーク幅の拡大が見られることは、フッ素化層の積層規則性が低いことによるものであると考え得る。435<TF<450℃では、元のCNF相が消失し、フッ素化ナノファイバ相のみが存在する。フッ素化CNFは、(C2F)nの層間間隔(d間隔0.81nm)と(CF)nの層間間隔(0.60nmに等しいd間隔)の間の範囲にある層間間隔0.72nmを示す(Nakajimaら、1991、同書)。約480℃のTFでは、層間間隔0.60nmを有する(CF)n様の構造が得られる。図5では、出発時のCNFのラマンスペクトルと、フッ素化CNFのラマンスペクトルとを比較する。後者は、2つのバンド:Dモードに帰属する1345cm−1の1つと、Gモードに対応し、sp2炭素原子の二重共鳴ラマン効果に帰属する1570cm−1の第2のものとを示す。MWCNTでは、Dバンドは、おそらくは、主としてチューブ壁の欠陥に由来する(Osswald S.;Flahaut E.;Ye H.;Gogotsi Y.;Chem.Phys.Lett.、2005、402、422)。しかし、チューブ壁内及び炭素の他の形態の両方において、欠陥のDバンドに対する寄与は、依然完全には解明されていない。Gモードは、ラマン活性グラファイトモードのEg対称を有する光学的面内格子振動のためである。Raoらが報告しているように、1250と1700cm−1の間には、フッ素に対して又は炭素−フッ素結合に対してラマン活性な振動モードは存在しない(Rao A.M.;Fung A.W.P.;di Vittorio S.L.;Dresselhaus M.S.;Dresselhaus G.;Endo M.;Oshida K.;Nakajima T.;Phys.Rev.、B1992、45、6883)。
【0091】
F:C比が増加すると、Dバンドの強度も増加する。420℃未満の温度では、CNF−FTFスペクトルは、CNFのスペクトルに類似している。より詳細には、D及びGバンドの積分強度のID/IG比は、実験誤差内でほぼ一定である(ID/IG=0.30、表1)。この比は、CNFの構造不規則性に関係する。したがって、フッ素化が進行するにつれて、ID/IG比が増加し、不規則性も増加する。420<TF<435℃では、不規則性は、激しく増加し(表1参照)、1620cm−1近傍に新規なモードが現れる。中間帯フォノンに対する高密度状態フォノンを使用して、この弱い強度の特徴が報告された(Chien T.C.;Dresselhaus M.S.;Endo M.Phys.Rev.、B1982、26、5867)。435<TF<465℃では、不規則性誘起Dバンドは増加するものの、ゆるやかであり、比ID/IGは、最大値1.12に到達する。最後に、465℃を超えるTFでは、生成材料のラマンスペクトルは、蛍光現象のために記録することができなかった。
【0092】
XRD測定を補足して、ラマン分光分析法では、フッ素結合によって引き起こされる構造一貫性の減少が明確に示される。こうした進展のさらなる証拠は、ドメインサイズと、Knight及びWhiteによって与えられた強度比ID/IGの間の逆相関を使用して得られた結晶平面の平均ドメインサイズ(La)の調査によって提供される(Knight D.D.;White W.S.;J.Mater.Res.、1989、4、385)。La値は、CNFに対する14.7nmからCNF−F480に対する3.9nmまで大きく減少する。
【0093】
3.3固体状態NMR
静的19F−NMRスペクトルが、−170及び−190ppm/CFCl3で2つの非対象寄与を示すCNF−F380の場合を除いて、フッ素化温度にかからず、スペクトルは全て、類似の形状を示す(図6)。試料全てに対して19F NMRの最大半値全幅(FWHM)が類似の値(5.104Hz)であることは、共有性フッ化グラファイト:(C2F)n及び(CF)n(Dubois、2006、同書;Panich A.M.;Synth.Metals、1999、100、169;Touhara H.;Okino F.;Carbon、2000、38、241;Panich A.M.;Shames A.I.;Nakajima T.;J.Phys.Chem.Solids、2001、62、959;Krawietz T.R.;Haw J.F.;Chem.Commun.、1998、19、2151;Dubois M.;Guerin K.;Pinheiro J.P.;Fawal Z.;Masin F.;Hamwi A.;Carbon、2004、42、1931;Giraudet J.;Dubois M.;Guerin K.;Pinheiro J.P.;Hamwi A.;Stone W.E.E.;Pirotte P.;Masin F.;J.Solid State Chem.、2005、118、1262、以降Giraudet 2005aと呼称)、準イオン性化合物(Guerin、2004 及び Giraudet、2005a 同書)、及びフッ素化木炭(Touhara、2000、同書;Hagaman E.W.;Murray D.K.;Cul G.D.D.;Energy&Fuel、1998、12、399)としての、他のフッ素化炭素でも知られているようなフッ素核間の強い双極子ホモ核カップリングによって説明される。この対称的な共鳴ピークの中心は、−190ppmに位置し、炭素原子に共有結合したフッ素原子に帰属する(Dubois、2006;Dubois、2004;Giraudet、2005a、同書)。フッ素核の含量の増加は、ピーク形状が著しく変化することなく行われ、これは、F:C比が異なってもフッ素原子に対する環境が類似していることを示している。CNF−F380の場合は異なる。というのは、フッ素核の2つの基が検出されるからである(δ=−170及び−190ppm)(図6中に挿入);それらは、炭素とフッ素原子間の異なる相互作用か、異なる環境かいずれかに由来する。痕跡のHF分子に由来する可動性F−のインターカレーションは、(C4F)n型の場合排除することができない(Panich、1999、同書)。次いで、低フッ素含量(F:C=0.04)は、CNF表面における不均一なフッ素化をもたらす恐れがある。
【0094】
図7に回転速度10.0kHzで記録されたCNF−FTFの室温19F MAS NMRスペクトルを示す。(C2F)nに対するスペクトルも、そのフッ素化CNFとの強い類似性を示すために加える。CNF−F428のFWHM(6800Hz)は、他のフッ素化試料(4100Hz)より大である。このことは、研究された試料の構造規則性に依存するMAS実験の効率によって説明し得る;この特定の化合物は、XRDによって明らかにされたように、規則性が低い。428℃より高い温度で研究された(C2F)n及び全ての型のCNFは、類似のMASスペクトルを示すので、フッ素化の程度によって影響を受けない。このことにより、C−F結合及びフッ素環境の両方が、これらの試料では類似していることが確認される。−190ppm/CFCl3での強い同素ピークが、その回転サイドバンドと一緒に存在する。このピークは、C−F共有結合に関与するフッ素原子に対応する。この共有特性は、(C2F)nのC−F共有結合に帰属する1215cm−1における振動バンドを示すFT−IR分光分析法(ここでは示されていない)によって確認された(Kita、1979、同書)。
【0095】
−120ppmにおける2番目に強度の小さい共鳴(C−F線の回転サイドバンドのうちの1つの肩として存在する)は、CF2基の存在を示す。それにもかからず、CF2基の含量は少ないが、19F MAS NMRによって検出するには十分である。>CF2共鳴のサイドバンドも存在し、詳細には、C−F基の同素ピークの左側に重なり、肩をもたらすものである。これらの基は、グラファイト層の端部に位置するフッ素原子か、構造的な欠陥かいずれかに帰属させることができよう。これらの19F MAS実験によって、非常に少ない量であるにもかからず、他の基(−CF3)を検出することが可能になる。数個の狭い線が、C−F及び >CF2ピークの回転サイドバンドに重なった−60/−90ppm範囲に存在する。これらの基は、フッ化炭素シート端に局在化することができ、おそらくは、C−C結合の周りに回転運動をしており、これによって共鳴の狭さが説明される。
【0096】
値を、それぞれ450及び210msに等しい、通常の高温フッ化グラファイト型(CF)n及び(C2F)nの値と比較した場合、図8aに示されたフッ素化温度に伴う19Fスピン−格子緩和時間(T1)の進展は、フッ素集積についての補足的な情報を提供する(Dubois、2006、同書;Giraudet J.;Dubois M.;Guerin K.;Hamwi A.;Masin F.;J.Phys.Chem.Solids、2006、67(5〜6)、1100)。広い範囲のフッ素化温度(405<TF<450℃)、つまり、0.16から0.74の広い範囲のF:C比に対応する範囲では、スピン−格子緩和時間は、(C2F)n中に見られる値に近い(図8a)。他の特性解析によれば、この事実は、(C2F)nの形成と、大きな構造変化のないコアに向かう伝播とを含むフッ素化機構を示唆する。この仮定は、以下で13C MAS−NMR実験によって確認されるであろう。したがって、反応温度が480℃まで上昇する場合、T1は、漸進的に値450msに近づき、これは、石油コークスを使用して調製した(CF)nで測定された値に類似している。(C2F)n型から(CF)n型構造への転換は、フッ素化層の部分的な剥離を介して進むことによって追加のフッ素取込みが可能になる。
【0097】
フッ素含量が非常に少なく(F:C=0.09)、フッ素化部分が基本的にCNF表面上に位置しているので、CNF−F390の場合は特別である。本発明者らは、外部表面は、十分フッ素化されており、これによって、この化合物に登録された高いT1値(492ms)が説明できるであろうと考える。
【0098】
(CF)nフッ化炭素(フッ素化コークス)と異なり、(C2F)nの場合、常磁性中心の存在は、緩和の重要な因子である(Dubois、2006、同書;Panich、2001、同書;Giruadet、2006、同書)。短い回復時間に対するこのようなプロセスは、磁化曲線
【数4】
対t1/2の直線性によって明確に示されている(図8b)。事実、スピン拡散定数が適切な値である、ある種の条件下では、短い回復時間に対する磁化は、t1/2とともに進展する(Blumberg W.E.;Phys.Rev.、1960、119、79)。420℃で得られた試料によって例示されるように、この曲線はフッ素化CNF全てに対して直線であり、CNF−FTFと(C2F)nの構造的な類似性についての追加の証拠となる。
【0099】
13C−NMRによって、炭素とフッ素原子の間の相互作用、つまりC−F結合の性質、及び非フッ素化炭素原子の存在についての追加の情報が得られる。ここでもまた、フッ素化が最も少ない試料(CNF−F380)は、他のCNF−FTFと異なる。というのはCNF−F380は、120ppm/TMS近傍に中心がある唯一の広い共鳴を示すからである(図9a)。このような形状は、純粋のグラファイトに近い。フッ素含量が少ないために、炭素原子のうちの少しの部分のみがフッ素原子と結合している。フッ素含量が0.16に到達すると、線は非対称になり、2つの明確な共鳴が、F:C≧0.31に対して84〜88及び42ppmに存在し、両方共sp3混成を示す炭素原子に関係する。この温度範囲に見られるフッ素含量から予想されるように、第1の線(SCFと示された領域とともに)は、フッ素原子に共有結合した炭素原子に帰属する(Panich、1999;Dubois、2004;Giraudet、2005a、同書)。(C2F)nの場合と同様に、他のピークは、非フッ素化sp3炭素原子(Csp3)に関係する(Dubois、2006、同書)。(CxF)n(x>1)に対してWilkieらによって提案されたように、42ppmの化学シフトは、sp3炭素原子に対応する(Wilkie C.A.;Yu G.;Haworth D.T.;J.Solid State Chem.1979、30、197)。層間C−C共有結合によって対で結合したフッ化グラファイト層中に存在する(C2F)nの提案された構造モデルによれば(Watanabe N.;Physica B、1981、105、17;Sato Y.;Itoh K.;Hagiwara R.;Fukunaga T.;Ito Y.;Carbon、2004、42、3243)、この線は、sp3炭素原子に帰属させることができるであろう。炭素原子の半分のみがフッ素化されているので、sp3混成炭素原子は、もっぱら他の炭素原子に結合している。純粋のダイアモンドの共鳴ピークは、35ppmにあると予想され(Duijvestjn M.J.;Van der Lugt C.;Smidt J.;Wind R.A.;Zilm K.W.;Staplin D.C.;Chem.Phys.Lett.、1983、102、25)、したがって弱いフッ素−炭素相互作用は、(C2F)n(δ=42ppm)の場合に観察されるのと類似の化学シフト値をもたらし得る(Hamwi、1996、同書;Dubois、2004、同書)。
【0100】
120ppm近傍に中心がある第3の大きい共鳴ピークは、非フッ素化sp2炭素原子に主として帰属するが、フッ素との相互作用が小さい炭素原子にも帰属する(≒140ppm)(Hamwi、1996、同書;Dubois、2004、同書)。
【0101】
2つのsp3炭素共鳴の面積比は、フッ素含量にかからずほぼ一定である;それぞれ428、465及び472℃でフッ素化されたCNFに対して、SC−F/SCsp3=2.43、2.37及び2.34である。比較のために、(C2F)nフッ化グラファイトのスペクトルをも示す(この試料は、380℃でグラファイトをフッ素化することによって得られ、F:C比0.60を示し、sp2Cは、ほとんど識別されなかった(Dubois、2006、同書)。この場合、SC−F/SCsp3比は、1.5に近い。
【0102】
他方では、フッ素化温度が上昇する場合、sp2炭素原子の含量は、連続的に減少する、つまり、F:C含量が増加する。温度が350から380℃に上昇する場合(それぞれ、CF0.51及びCF0.60)、このようなプロセスは、(C2F)nでも行われることに留意されたい(Dubois、2006、同書)。次いで、CNFのフッ素化は、著しく構造を改変することなく、F:C比の増加をもたらす。形成されたC−F結合は、主として共有性である。
【0103】
MAS及び19F→13C交差分極を使用して行われたNMR測定は、多様な炭素原子を識別し得る。CNF−FTF及び(C2F)nについてMAS及びCP−MASを使用して得られたスペクトルの比較(図9a及び9b)によって、3種類の炭素原子に対する本発明者らの帰属が確認される。C−F基は、炭素の第2近接原子、つまりsp3炭素原子に比較してCP−MASにとって好ましいので、フッ化炭素マトリックス由来のC−F結合に対応するピークのみが、他の炭素原子にもっぱら結合したsp3混成炭素原子(Sc−c)と、sp2グラファイト性炭素原子(SG)との両方と異なり、増加し、後者は完全に消滅する。これらの条件を使用して明らかになる145ppmでのピークを考察すると、測定によって、室温フッ化グラファイトの場合と同様に、フッ素と弱い相互作用をしているsp2炭素原子の存在も示される(Dubois、2004.;2005a、同書)。しかし、これらの原子は、非常に低い濃度においてのみ存在する。
【0104】
さらに、>CF2基の共鳴もCP−MASの使用が好ましく、SC−Fピークの肩として小さい線が110ppmで観察される(図9b)。このような基は、多様な(CF)nにおいてほかでも既に観察されている(Kita、1979;Touhara、2000;Panich、2001;Krawietz、1998;Wilkie、1979、全て同書)。
【0105】
MASスペクトルは、428と472℃との間で処理された試料では類似しているが、sp3炭素原子に関連するピークの強度は、CNF−F480に対して著しく減少し、この試料の性質が変化したことを示している。(C2F)nスペクトルとの類似性を示す他のスペクトルと異なり、CNF−F480のスペクトルは、(CF)nに対して観察されたものに非常に近い。
【0106】
C−F結合の長さは、NMRによって測定し得る。というのはこのデータは双極子結合の表現中に含まれているからである。MASに関連するハートマン−ハーン交差分極(CP)は使用されるが、逆交差分極(ICP)シーケンスのために双極子結合をスペクトル中に再導入し得る場合、この後者の情報は、失われる。この方法及び実験条件は、(CF)nに関するこれまでの論文において十分説明されている(Giraudet J.;Dubois M.;Hamwi A.;Stone W.E.E.;Pirotte P.;Masin F.;J.Phys.Chem.、B2005、109、175、以降、Giraudet、2005bとして参照される)。
【0107】
短い接触時間では、CP信号の振幅は、C−F結合長に関係する周波数φを有する振動であることが分かる(Bertani P.;Raya J.;Reinheimer P.;Gougeon R.;Delmotte L.;Hirschinger J.;Solid State Magn.Res.、1999、13、219)。この挙動は、フッ素に共有結合した炭素に対してのみ観察され、sp3炭素原子に対してはそうでない。ICPシーケンスを使用して、接触時間の関数として、炭素スペクトルの積分ピーク強度が計算され、したがって、CP動力学が明らかになった(図10a);抽出された周波数は、φ=3976.0±18.6Hzであった。
dann
【数5】
から、rCF=0.136±0.001nm(Dubois、2006;Giruadet、2005b;Bertani、1999、全て同書)。
【0108】
(C2F)n(Dubois、2006、同書)及び(CF)n(Giruadet、2005b、同書)に関しては、C−F基に対する13C磁化進展のフーリエ変換によって、CNFのフッ素化度の全てに対してPake様構造が与えられる(図10b)。C−F結合長(rCF)は、双極子変動に関係するウイングを使用してPake構造から誘導し得る。S1は、これらのウイング間の間隔である。結合長は、式
【数6】
(nm)から推定し得る(Dubois、2006;Giruadet、2005b;Bertani、1999、全て同書)。S1値は、フッ素化CNF試料全てに対して7700Hzに等しい。0.138±0.002nmに等しいC−F結合距離は、研究された場合の全てにおいて見られる。第2モーメントの値を減少させ、C−F距離に反比例する可能な分子運動のために、NMRによって推定されるこれらの値は、過大に推定される可能性があることに留意されたい。CNF−FTFのC−F結合長は、(C2F)n(Dubois、2006、同書)及び(CF)n(0.138nm)(Giruadet、2005b、同書)に対して同じNMR手順によって得られたものに近く、C−F結合の性質が、これら3つの化合物型において類似であることを示す。
【0109】
3.4 EPR研究
元の試料は、分光計の検出限界内では、EPR信号を示さない。図11aは、フッ素化CNFのEPRスペクトルを示す。主たる広い線の起源は、局在スピンを有する炭素ダングリング結合に帰属した。このようなスピン担体は、グラファイトから出発し、F2雰囲気で600℃で得られた他のフッ素化炭素(Panich、2001、同書)、又は室温フッ化グラファイト(Dubois、2004;Giraudet、2006、同書)に対して提案されているが、非晶質炭素薄膜(Yokomichi H.;Morigaki K.;J.Non−Cryst.Solids、2000、266、797;Yokomichi H.;Hayashi T.;Amano T.;Masuda A.;J.Non−Cryst.Solids、1998、227、641)、又はナノサイズ化フッ化グラファイト(Takai K.;Sato H.;Enoki T.;Yoshida N.;Okino F.;Touhara H.;Endo M.;Mol. Cryst.Liq.Cryst.、2000、340、289)に対しても提案されている。
【0110】
図12a及び12b、並びに表2に、EPRパラメーターを要約する。再度であるが、最低及び最高温度(TF<405℃及びTF=480℃)でフッ素化されたCNFは、他の試料と異なる。CNF−F380のスペクトルは、非対称である(微分曲線の正及び負の部分のA/B強度比は、0.6に近い(図12a))。スペクトルに対する異なる寄与を明らかにするこの非対称は、フッ素化が増加するにつれて徐々に消滅する。したがって、A/Bは、1になる。スペクトルをシミュレーションすると、CNF−F380、CNF−F472、及びCNF−F480に対する3つの寄与が明らかになる(それぞれ、図11b、11c、及び11d、並びに表2も)。これらのシミュレーションは、WinSimfonia(Brukerソフトウエア)を使用して行った。
【0111】
第1に、(C2F)n及び(CF)nとのアナロジーによって、観察された広い線4は、酸素と相互作用するダングリング結合(Dubois、2006、同書)と、(CF)n及びCNF−F480の場合、両方の試料に対してほぼ同じ線幅を示す非分解超微細構造(Giraudet、2005b、同書)との両方を合わせた寄与による場合がある。線幅が、狭いので、線2は、(C2F)nに類似した、隣接して位置するダングリング結合に関係するであろう(表2)。同じ理由で本発明者らは、(CF)n中に存在するものと類似の構造欠陥に線3を帰属させ得る(Giraudet、2006及び2005b、同書)。これらのスピン担体の含量は、フッ素化温度とともに増加し、CNF−F480では支配的になる(線2のダングリング結合は、完全に消失した)。非対称(図11b)の元である線1は、不均一フッ素化が表面近傍で行われる場合、最低温度の反応(380及び390℃)に対して現れる。この信号の狭さは、フッ化炭素マトリックスとの多様な相互作用及び/又はインターカレーションされたF−の存在に由来する。一方では、スピン密度(Ds、つまり試料の質量当りのダングリング結合の数)は、常磁性欠陥を含有するフッ素化部分の伝播のために図12bに示すようにフッ素化温度とともに連続的に増加する;CNFは、EPR線を示さないことに留意されたい。380と472℃との間に含まれるTFでは、Dsは、(C2F)nのそれに近い(17 1019スピン.g−1、表2を参照)。他方、Dsは、CNF−F480では、激しく増加し、本調査の前に提案されている(C2F)nから(CF)nへの構造転換によって、(CF)n型(15.6 1020スピン.g−1、この試料は天然グラファイトを用いて得られた)に益々似てくる。
【0112】
4.一般的な議論
CNFの特定の構造は、フッ素化が進行するにつれて、(C2F)n型の形成に好ましいように思われる。フッ化グラファイト層の対からなるこの(C2F)n構造が、形成され、広い範囲の組成(0.16から0.74のF:C)にわたりフッ素化温度(405<TF<450℃)にかからず維持される。低温が施用される場合は外部壁近傍で行われ、次いで温度が上昇すると内部壁に向かって進行するフッ素化プロセスによって、この特徴を説明し得る。(C2F)nから(CF)nへの漸進的な転換は、温度が350/600℃以内で上昇する場合に行われるので、この機構は、グラファイトのフッ素化の機構とは異なる(Nakajima、1991;Kupta V.;Nakajima T.;Ohzawa Y.;Zemva B.;J.Fluorine Chem.、2003、120、143)。(C2F)n及び(CF)nは、グラフェンの平面層を有するフッ素インターカレーション相を介して形成されるが(Kupta、2003、同書)、この中間相は、CNFのフッ素化中、関与しないように思われる。最高480℃までのフッ素化温度の上昇は、CNFの部分的な分解をもたらす。この機構は、部分的な剥離の機構に類似している可能性がある。この生成材料の13C−NMRスペクトル(図11)によって、(C2F)n型に関係する元のsp2炭素とsp3炭素原子との両方の低含量が明らかに示される。フッ素化部分の部分的な分解は、(C2F)nから(CF)nへの転換につながる。
【0113】
CNFに対するF:C比の進展は、本明細書で適用されたフッ素化条件下で、予想が可能であっても、この研究から、いくつかの新規で興味ある特徴を明白に示し得る。MWCNTに関するこれまでの調査(Hamwi、1997、同書)と異なり、本発明者らの原料CNFの高度の純度によって、化学組成をそのF:C比から正確に誘導することが可能になる。これまでの研究では、揮発性炭素フッ素誘導体を形成する元々の試料中の反応性炭素の存在のために、このことが低く見積もられていた。さらに、狭い温度範囲[420〜435℃]内のF:C比の増加は、今まで報告されていなかった;400と500℃との間の高温フッ素化プロセスのみがこれまで示唆されていた(Nakajima、1996、同書)。さらに、本研究の他の重要な知見は、CNF分解前の温度限界と、CNFに対するフッ素化水準の限界との両方の決定である。NMR、ラマン、及びXRDを使用しての相補的な特性解析に基づいて、フッ素化材料は、処理温度に応じて3つの異なる型に分類し得る:最低のフッ素化温度(TF<420℃)では、フッ素化試料は、低いフッ素含量を示し、それらの構造は、ラマン拡散及びXRDによって示されるように元のCNFの構造に近い。フッ素原子は、CNF表面上に、つまり、外部壁上に位置する。
【0114】
420〜465℃の温度範囲では、T<435℃で速やかであるF:C比の増加の結果として激しい変化が起こる。次いで、フッ素化の水準は遅くなる;最初に、試料は二相(CNF及びCNF−F)になり、新規なCNF−F相が、層間C−C共有結合によって結合した対のフッ化グラファイト層を含む(C2F)n型フッ化グラファイトとの結晶学的な類似性を示す。このことは、フッ化炭素層内の炭素原子のみに結合したsp3混成炭素原子の存在によって実際に示された。グラフェン層及び/又はそれらの積層の曲率は、グラファイトと比較してフッ素化を制限し、それとともにこの(C2F)n型の相の形成に好ましいように思われる。ラマン散乱によって、構造欠陥の濃度がフッ素含量とともに増加することが明らかになる。さらに、フッ素原子の組込みが、C−F共有結合の形成を介して行われる。炭素原子とフッ素原子間の相互作用の型は、フッ素含量によって変化しない。したがって、フッ素化プロセスは、外壁から開始しなければならず、(C2F)n形状を形成し、次いでCNFコアに向かって進行する。
【0115】
フッ素化温度が465℃を超えて上昇すると、剥離が少し起こり、CNF−F480の場合に明確に示されたようにCNF−FTFを分解する。この機構は、部分的な剥離によって可能になった(C2F)nから(CF)nへの転換を明確に示す13C−NMRとXRDとの両方によって証明された。それでも、(C2F)nから(CF)nへの転換は、472℃に等しい処理温度では少なく、TF≧480℃で主として行われる。ラマン散乱スペクトルの蛍光の出現は、より高温での(CF)nの形成の形跡であり得る。
【0116】
5.結論
380と480℃との間の範囲の温度での炭素ナノファイバとフッ素ガスの反応を研究した。フッ素含量は、狭い温度範囲[420〜435℃]でCF0.31からCF0.70まで増加する。472℃は、部分的なCNFの分解が始まる前の上限温度であるように思われる。より低い温度では、表面のフッ素化のみが行われる。420〜435℃の温度範囲では、試料は二相になり、原料CNFに加えて、結晶学的に新規な相が、(C2F)n型フッ化グラファイトとのいくらかの類似性を示す。この相は、反応温度420℃を超えるとフッ素含量にかからず形成され、フッ素化温度の上昇とともに、外部壁からコアに向かってフッ素化が行われることを示唆している。さらに、いかなるフッ素含量においても、フッ素原子の組入れは、C−F共有結合の形成を介して行われる。(CF)n及び(C2F)nフッ化グラファイトを比較すると、層間距離、スピン−格子緩和時間T1、常磁性ダングリング結合の密度、及びその環境などの構造パラメーターは、本発明者らが、炭素ナノファイバのフッ素化中、温度の関数としていずれの相が形成されたかを決定することを可能にするのに十分な相違が存在する。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
実施例2
フッ素化炭素ナノファイバの電気化学的性質
電気化学試験では、電極は、少なくとも部分的にフッ素化した炭素ナノファイバ試料、導電材料、及び結合剤からなっていた。その結果が表3に示されている、一定の放電速度10Akg−1で試験した試料では、電極組成は、約80重量%のフッ素化ナノファイバ、10重量%のグラファイト、及び10重量%の結合剤としての10%ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)であった。次いで、電解質がプロピレンカルボナート中に溶解したLiClO4の1mol.L−1溶液からなる2極電池中に電極を搭載した。フッ化グラファイト電極と金属リチウムホイルの間に、電解質を含有する微多孔性PVDF膜を挟んだ。
【0120】
その結果が図13〜16及び表4に示されている試料では、電極組成は、約75重量%のフッ素化ナノファイバ、10重量%のアセチレンブラックグラファイト、及び10重量%の結合剤としての15%ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)であった。ビス(n−ブチル)フタラート(DBP)20%を含むアセトン溶液中で、これら3つの材料を一緒に混合した。次いで、CFxの薄膜が得られるまで、溶液を蒸発させた。膜を所望の直径に切断し、真空中で終夜乾燥させた。電解質は、プロピレンカルボナート(PC)及びジメチルエーテル(DME)に溶解させたLiBF4であった。セパレータは、厚さ25ミクロン、空孔率55%のCelgard(登録商標)であった。フッ化グラファイト電極と金属リチウムホイルの間に、電解質を含有するセパレータを挟んだ。
【0121】
その結果が図18に示されている試料では、電解質は、プロピレンカルボナート(PC)及びジメチルエーテル(DME)(3:7)に溶解させた1M LiBF4であった(C/20 RTで5%放電)。
【0122】
Li/フッ素化炭素ナノファイバ電池の放電プロフィールを図13〜16に示す。参考のために、図17は、通常のLi/CF電池に対する放電プロフィールを示す。これらの電池は、式1によるLiFの形成に対応する特徴的なプラトーを示す。
【0123】
フッ素化CNFの主要な電気化学的特徴を表3及び4に要約する。表3では、放電速度は一定であり、10Akg−1に等しかった。実現されたエネルギー密度、Espec(単位 Whkg−1)、及び電力密度Pspec(単位 Wkg−1)を、式(5)及び(6)を使用して放電曲線から求める:
【数7】
【0124】
Espec及びPspecに対する式では、q(i)及び<ei>はそれぞれ、電流i(A)で、放電容量(Ah)及び平均放電電圧(V)を表し、mは、電極(kg)中の活性(CFx)nの質量である。
【0125】
一定の放電速度10Akg−1では、研究された試料全ての平均電位は、ほぼ同じであり、2.5Vに等しい。この結果は、13C NMRによって特性解析されたようにフッ素化で変化しないC−F共有結合と一致する。さらに、フッ素化温度の範囲は狭いので、C−F結合の性質が反応温度に依存しないことは、容易に理解することができる。電力密度P(Wkg−1)は、電池に印加された平均放電電圧、及び電流密度(これは一定値10Akg−1であった)に直接比例するので、いかなるフッ素化化合物でも電力密度も25wkg−1で一定である。
【0126】
他方では、放電プロフィールは、それらの電圧及び形状において大きく異なる。この結果は、主として、フッ素化温度とともにF/Cが増加するためである。F/Cが大きいほど、放電容量も大である。405℃でフッ素化した試料のみは、他のフッ素化MWCNTFと同じように一定の放電電位を示さない。これは、フッ素固定化部位と関係づけることができる。実際、FはMWCNTFの表面に位置すると予想されるので、シートが同心形態であるために、C−F結合エネルギーがわずかに分散し、LiF形成の異なる電気化学電位は、漸進的な放電プラトーをもたらす。他の試料では、一定の放電電位が存在し、フッ化炭素マトリックス間にインターカレーションされたフッ素からのLiF形成に対応する。MWCNTFの放電電圧及びフッ素含量F/Cは、(C2F)化合物に近いが、428と450℃との間でフッ素化されたMWCNTFの容量は、市販の(C2F)より30%大きい。
【0127】
エネルギー密度に関しては、得られた最大値は大きく、放電電圧が一定である場合、エネルギー密度の進展は、フッ素化温度に伴う容量密度として進展する。MWCNTF465の電気化学的性能の最大値は、フッ素化温度に伴うファラデー収率の独特な進展のためである。理論比放電容量に対する放電容量の比として定義されるファラデー収率は、フッ素化が最低のMWCNTでは小さく、450℃を超えるフッ素化温度で約100%である。予想されるように、絶縁性のフッ化炭素と一緒に高導電性のMWCNT(少量でさえも)の存在は、クーロン効率に好ましいはずである。
【0128】
表3の試料では、低放電時間での過電位は、フッ素化温度とともに増加することが観察された。このことは、フッ素化部分が進行する、つまり元のMWCNT量が試料になって減少すると、試料の導電性が減少することと関係している。しかし、リチウムの拡散は、電気化学プロセスを制限し、電極性能を決定するように思われる。このことは、MWCNTFTT構造によって説明可能であろう。その構造において、2相領域は、リチウムが拡散するための好ましい道を構成しない場合があり、450℃を超えるフッ素化温度では、欠陥濃度が低い単一フッ化グラファイト構造によって、リチウムが全体の粒子を通ってより容易に拡散することが可能になり、本発明の場合のように電流密度が小さい場合は特にそうである。
【0129】
電気化学性能の最大値(Espec、Pspec)は、F/Cが最大で、それとともに(C2F)型フッ化グラファイト相が化合物中に主に存在する、つまり465℃に等しい処理温度であるフッ素化温度に対して得られた。
【0130】
数個のフッ素化CNF組成物に対して、開回路電圧の時間による安定性(自己放電)を調査した。図18には、これらの材料の優れた温度安定性が示されている。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
参考文献及び変形形態の組込みに関する説明
本出願全体にわたる全ての参考文献、例えば、特許又は授与された特許又は均等物を含めての特許文献、特許出願公開、特許出願非公開、及び非特許文献又は他の情報源材料は、あたかも個別に参照により組み込まれるごとく、それぞれの参考文献が本出願の開示と少なくとも部分的に矛盾しない程度においてその全体の参照により本明細書に組み込まれている(例えば、部分的に矛盾する参考文献は、該参考文献の部分的に矛盾する部分を除外して参照により本明細書に組み込まれている)。本明細書に対するいかなる補足又は補足(複数)も明細書及び/又は図面の一部として参照により本明細書に組み込まれている。
【0134】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含んだ(comprised)」、又は「含んでいる(comprising)」という用語が本明細書中で使用される場合、それらは、説明された特徴、整数、ステップ、又は参照された成分の存在を指定するものであり、1つもしくは複数の他の特徴、整数、ステップ、又はそれらの群の存在又は添加を排除するものと解釈されるべきでない。「含んでいる(comprising)」、又は「含む(comprise(s))」、又は「含んだ(comprised)」が、任意選択で、文法的に類似である用語で置換される、例えば、「からなっている(consisting)/からなる(consist(s))」、又は「基本的にからなっている(consisting)/基本的にからなる(consist(s))」がそれによって、必ずしも同一の広がりを持たないさらなる実施形態を説明する場合、本発明の個々の実施形態は、やはり、包含されるべきものとする。
【0135】
本発明は、多様な特定の及び好ましい実施形態及び技法を参照して説明された。しかしながら、本発明の趣旨及び範囲内に留まりつつ、多数の変形形態及び改変形態を作製し得ることは理解されよう。本明細書で具体的に説明された以外の、組成物、方法、デバイス、装置要素、材料、手順及び技法が、過度の実験に依存することなく、本明細書で広く開示された通りの本発明の実施に適用し得ることは、当業者なら明白であろう。本明細書で説明された組成物、方法、装置、装置要素、材料、手順及び技法の当技術分野で周知の機能均等物は全て、本発明に包含されるものとする。範囲が開示される場合はいつでも、部分範囲及び個別の値は全て、あたかも別個に開示されたごとくに包含されるものとする。本発明は、実施例又は例示のために提供され、限定のために提供されていない、図面に示された、又は明細書に例示された任意のものを含めての開示された実施形態によって限定されるべきものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。
【0136】
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【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】重量取込み(○)と定量的なNMRデータ(●)との両方によって推定された温度に伴うF:Cモル比の進展を示す図である。
【図2a】元の炭素ナノファイバ(a)及び(b)の;420℃(c)及び480℃(d)でのフッ素化試料のTEM明視野像を示す図である。
【図2b】元の炭素ナノファイバ(a)及び(b)の;420℃(c)及び480℃(d)でのフッ素化試料のTEM明視野像を示す図である。
【図2c】元の炭素ナノファイバ(a)及び(b)の;420℃(c)及び480℃(d)でのフッ素化試料のTEM明視野像を示す図である。
【図2d】元の炭素ナノファイバ(a)及び(b)の;420℃(c)及び480℃(d)でのフッ素化試料のTEM明視野像を示す図である。
【図3】図2:元の炭素ナノファイバ(1)、420℃で処理したフッ素化試料(2及び3)のTEM像に対して計算したパワースペクトル密度(PSD)関数を示す図である。曲線2及び3は、全体の像2c、及びファイバのコアのみに対応する。曲線は明確にするために縦軸を逆にしている。点線は、グラファイト層の周期性を示す。
【図4】CNFパターンと比較した、380と480℃との間の範囲にある温度でフッ素化したCNFのX線回折パターンを示す図である。
【図5】CNFパターンと比較した、380と465℃との間の範囲にある温度でフッ素化したCNFのラマンスペクトルを示す図である。
【図6】CNF−FTF(380<TF<480℃)の静的19F NMRスペクトルを示す図である。挿入図は、最低フッ素化試料(TF=380及び390℃)のスペクトルを示す。
【図7】回転速度10kHzでのCNF−FTF及び(C2F)nフッ化グラファイトの19F MAS NMRスペクトルを示す図である;*及び○マーカーは、それぞれ−190及び−120ppmにおける等方性ピークに関連した回転サイドバンドを示す。
【図8a】フッ素化温度の関数としてのスピン−格子緩和時間T1(a)を示す図である。
【図8b】CNF−F420、
【数8】
の最初の19F磁化曲線(b)の進展を示す図である。
【図9a】(a)(C2F)nフッ化グラファイトスペクトルと比較した、380と480℃との間の範囲にある温度でフッ素化したCNFの13C NMRスペクトル、(b)CNF−TF、及び19Fから13Cへの交差分極(回転速度は10kHzである)によって得られた(C2F)nフッ化グラファイトの13C MAS NMRスペクトルを示す図である。
【図9b】(a)(C2F)nフッ化グラファイトスペクトルと比較した、380と480℃との間の範囲にある温度でフッ素化したCNFの13C NMRスペクトル、(b)CNF−TF、及び19Fから13Cへの交差分極(回転速度は10kHzである)によって得られた(C2F)nフッ化グラファイトの13C MAS NMRスペクトルを示す図である。
【図10a】(a)n=1ハートマン−ハーン条件で、回転速度14.5kHzにおいてCNF−F472のフッ素に共有結合した炭素原子(○)、及びCNF−F472の炭素(sp3C)(●)に排他的に結合した炭素原子(●)に対する13C磁化の時間進展、(b)フッ素化温度の関数としての生成振動のフーリエ変換を示す図である。(C2F)nフッ化グラファイトの曲線を比較のために加える。
【図10b】(a)n=1ハートマン−ハーン条件で、回転速度14.5kHzにおいてCNF−F472のフッ素に共有結合した炭素原子(○)、及びCNF−F472の炭素(sp3C)(●)に排他的に結合した炭素原子(●)に対する13C磁化の時間進展、(b)フッ素化温度の関数としての生成振動のフーリエ変換を示す図である。(C2F)nフッ化グラファイトの曲線を比較のために加える。
【図11a】フッ素化CNFのEPRスペクトル(a)(比較を容易にするために、強度を試料の質量で除す)、及び選択された試料、CNF−F380(b)、CNF−F472(c)、及びCNF−F480(d)のシミュレーションを示す図である。
【図11b】フッ素化CNFのEPRスペクトル(a)(比較を容易にするために、強度を試料の質量で除す)、及び選択された試料、CNF−F380(b)、CNF−F472(c)、及びCNF−F480(d)のシミュレーションを示す図である。
【図11c】フッ素化CNFのEPRスペクトル(a)(比較を容易にするために、強度を試料の質量で除す)、及び選択された試料、CNF−F380(b)、CNF−F472(c)、及びCNF−F480(d)のシミュレーションを示す図である。
【図11d】フッ素化CNFのEPRスペクトル(a)(比較を容易にするために、強度を試料の質量で除す)、及び選択された試料、CNF−F380(b)、CNF−F472(c)、及びCNF−F480(d)のシミュレーションを示す図である。
【図12a】EPRパラメーターである、線幅(△Hpp)、及びA/B比(a)、並びにDsスピン密度(b)のフッ素化温度に伴う進展を示す図である。
【図12b】EPRパラメーターである、線幅(△Hpp)、及びA/B比(a)、並びにDsスピン密度(b)のフッ素化温度に伴う進展を示す図である。
【図13】リチウムアノードと、フッ素化炭素ナノファイバカソードとを備え、フッ素化ナノファイバが、フッ素の炭素に対する比0.21を有する電池の放電曲線を示す図である。
【図14】リチウムアノードと、フッ素化炭素ナノファイバカソードとを備え、フッ素化ナノファイバが、フッ素の炭素に対する比0.59を有する電池の放電曲線を示す図である。
【図15】リチウムアノードと、フッ素化炭素ナノファイバカソードとを備え、フッ素化ナノファイバが、フッ素の炭素に対する比0.76を有する電池の放電曲線を示す図である。
【図16】リチウムアノードと、フッ素化炭素ナノファイバカソードとを備え、フッ素化ナノファイバが、フッ素の炭素に対する比0.82を有する電池の放電曲線を示す図である。
【図17】リチウムアノードと、従来のフッ化炭素カソードとを備え、フッ化炭素が、フッ素の炭素に対する比1.0を有する電池の放電曲線を示す図である。
【図18】様々な温度におけるリチウム/CFx電池の開回路電圧プロフィールを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接フッ素化によって得られ、平均化学組成CFxを有するフッ素化炭素ナノ材料であって、xが、炭素原子に対するフッ素原子の比であり、0.06と0.95の間の値を有し、炭素ナノ材料が、フッ素化する前、実質的に規則性の多層構造を有するフッ素化炭素ナノ材料。
【請求項2】
炭素ナノ材料が、多壁炭素ナノチューブ、多層炭素ナノファイバ、多層炭素ナノ粒子、炭素ナノウイスカー、及び炭素ナノロッドからなる群から選択される、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
炭素ナノ材料が、40nmと1000nmとの間の直径を有する炭素ナノファイバである、請求項2に記載の材料。
【請求項4】
フッ素の炭素に対する比の平均が、0.06と0.68との間にある、請求項1に記載の材料。
【請求項5】
フッ素の炭素に対する比の平均が、0.3と0.66との間にある、請求項1に記載の材料。
【請求項6】
フッ素の炭素に対する比の平均が、0.39と0.95との間にある、請求項1に記載の材料。
【請求項7】
フッ素の炭素に対する比の平均が、0.6と0.8との間にある、請求項1に記載の材料。
【請求項8】
フッ素化炭素ナノ材料が、非フッ素化炭素相を含む、請求項1に記載の材料。
【請求項9】
第1電極と、第2電極と、これらの間に配置されたイオン輸送材料とを含む電気化学デバイスであって、第1電極が、請求項1〜8のいずれかに記載のフッ素化炭素ナノ材料を含む電気化学デバイス。
【請求項10】
フッ素化炭素ナノ材料が、導電性希釈剤と結合剤とをさらに含む組成物中に存在する、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
導電性希釈剤が、アセチレンブラック、カーボンブラック、粉末化グラファイト、コークス、カーボンファイバ、金属粉末、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
結合剤がポリマー性である、請求項10に記載のデバイス。
【請求項13】
結合剤がフッ素化炭化水素ポリマーである、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
第2電極が、元素周期表の1、2、及び3族から選択される金属のイオン源を含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項15】
イオンがリチウムイオンである、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
リチウムイオン源が、リチウム金属、リチウム合金、及び炭素−リチウム材料からなる群から選択される、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
リチウムイオン源が、リチウム金属又はリチウム合金である、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
イオン輸送材料が、第1及び第2電極を物理的に隔離し、それらの間の電気的な直接接触を防止する、請求項9に記載のデバイス。
【請求項19】
イオン輸送材料が、ポリマー性材料と非水電解質とを含む、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
1気圧と0.1気圧との間の圧力、及び375℃と480℃との間の温度で、4時間と20時間との間の時間、多層炭素ナノ材料を元素フッ素のガス源に曝露するステップを含む、前記炭素ナノ材料をフッ素化するための方法。
【請求項21】
元素フッ素のガス源が、フッ素と不活性ガスとの混合物を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
温度が、420℃〜465℃の範囲にある、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
時間が、8時間と16時間との間の範囲にある、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
圧力が、1気圧と0.25気圧との間にある、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
炭素ナノ材料の直径が、40nmと1000nmとの間にある、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
炭素ナノ材料の直径が、80nmと350nmとの間にある、請求項20に記載の方法。
【請求項1】
直接フッ素化によって得られ、平均化学組成CFxを有するフッ素化炭素ナノ材料であって、xが、炭素原子に対するフッ素原子の比であり、0.06と0.95の間の値を有し、炭素ナノ材料が、フッ素化する前、実質的に規則性の多層構造を有するフッ素化炭素ナノ材料。
【請求項2】
炭素ナノ材料が、多壁炭素ナノチューブ、多層炭素ナノファイバ、多層炭素ナノ粒子、炭素ナノウイスカー、及び炭素ナノロッドからなる群から選択される、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
炭素ナノ材料が、40nmと1000nmとの間の直径を有する炭素ナノファイバである、請求項2に記載の材料。
【請求項4】
フッ素の炭素に対する比の平均が、0.06と0.68との間にある、請求項1に記載の材料。
【請求項5】
フッ素の炭素に対する比の平均が、0.3と0.66との間にある、請求項1に記載の材料。
【請求項6】
フッ素の炭素に対する比の平均が、0.39と0.95との間にある、請求項1に記載の材料。
【請求項7】
フッ素の炭素に対する比の平均が、0.6と0.8との間にある、請求項1に記載の材料。
【請求項8】
フッ素化炭素ナノ材料が、非フッ素化炭素相を含む、請求項1に記載の材料。
【請求項9】
第1電極と、第2電極と、これらの間に配置されたイオン輸送材料とを含む電気化学デバイスであって、第1電極が、請求項1〜8のいずれかに記載のフッ素化炭素ナノ材料を含む電気化学デバイス。
【請求項10】
フッ素化炭素ナノ材料が、導電性希釈剤と結合剤とをさらに含む組成物中に存在する、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
導電性希釈剤が、アセチレンブラック、カーボンブラック、粉末化グラファイト、コークス、カーボンファイバ、金属粉末、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
結合剤がポリマー性である、請求項10に記載のデバイス。
【請求項13】
結合剤がフッ素化炭化水素ポリマーである、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
第2電極が、元素周期表の1、2、及び3族から選択される金属のイオン源を含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項15】
イオンがリチウムイオンである、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
リチウムイオン源が、リチウム金属、リチウム合金、及び炭素−リチウム材料からなる群から選択される、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
リチウムイオン源が、リチウム金属又はリチウム合金である、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
イオン輸送材料が、第1及び第2電極を物理的に隔離し、それらの間の電気的な直接接触を防止する、請求項9に記載のデバイス。
【請求項19】
イオン輸送材料が、ポリマー性材料と非水電解質とを含む、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
1気圧と0.1気圧との間の圧力、及び375℃と480℃との間の温度で、4時間と20時間との間の時間、多層炭素ナノ材料を元素フッ素のガス源に曝露するステップを含む、前記炭素ナノ材料をフッ素化するための方法。
【請求項21】
元素フッ素のガス源が、フッ素と不活性ガスとの混合物を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
温度が、420℃〜465℃の範囲にある、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
時間が、8時間と16時間との間の範囲にある、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
圧力が、1気圧と0.25気圧との間にある、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
炭素ナノ材料の直径が、40nmと1000nmとの間にある、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
炭素ナノ材料の直径が、80nmと350nmとの間にある、請求項20に記載の方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図2d】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図11d】
【図12a】
【図12b】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2c】
【図2a】
【図2b】
【図2d】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図11c】
【図11d】
【図12a】
【図12b】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2c】
【公表番号】特表2009−515813(P2009−515813A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541481(P2008−541481)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/060991
【国際公開番号】WO2007/126436
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(305053547)カリフォルニア インスティテュート オブ テクノロジー (18)
【出願人】(502017261)セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(シー.エヌ.アール.エス.) (15)
【出願人】(508105854)ユニベルシテ ブレイズ パスカル (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/060991
【国際公開番号】WO2007/126436
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(305053547)カリフォルニア インスティテュート オブ テクノロジー (18)
【出願人】(502017261)セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(シー.エヌ.アール.エス.) (15)
【出願人】(508105854)ユニベルシテ ブレイズ パスカル (4)
【Fターム(参考)】
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