説明

多層配線基板

【課題】薄膜配線層の電気抵抗変化が抑制され、かつ貫通導体と薄膜配線層との接合の信頼性が高い薄膜多層部を有する多層配線基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂絶縁層1と薄膜配線層2とが交互に積層され、上下の薄膜配線層2が、樹脂絶縁層1を厚み方向に貫通する貫通導体3に含まれるスズを主成分とする低融点金属材料3aにそれぞれ接合されて、貫通導体3によって互いに電気的に接続されてなる薄膜多層部4を有し、貫通導体3は、端部が複数の接合部Bに分割されて接合部Bが薄膜配線層2に接合されているとともに、複数の接合部Bの間に、薄膜配線層2および貫通導体3に接合された樹脂材料33が介在している。樹脂材料33によって、低融点金属材料3aと薄膜配線層2との接合面積を抑えて銅の拡散を抑制し、応力を緩和して貫通導体3と薄膜配線層2との接合信頼性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂絶縁層と薄膜配線層とが交互に積層され、上下の薄膜配線層が樹脂絶縁層を厚み方向に貫通する貫通導体によって互いに電気的に接続されてなる薄膜多層部を有する多層配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子を上面の端子に接続し、この端子と電気的に接続された下面の接続パッドを外部電気回路に電気的に接続するための多層配線基板として、複数の薄膜配線層と複数の樹脂絶縁層とが交互に積層されてなる薄膜多層部が、セラミック基板等の基板の上面に配置されてなる多層配線基板が知られている。このような多層配線基板は、例えば、半導体素子の電気的なチェックを行なう、いわゆるプローブカード用の基板として用いられている。薄膜配線層を形成する金属材料としては、マイグレーションの抑制やコスト,導電性等を考慮して、一般に銅が用いられている。
【0003】
このような多層配線基板におけるセラミック基板は、例えば、酸化アルミニウム質焼結体等からなる絶縁基体の上下面および内部に、タングステン等の金属材料からなるメタライズ配線層や貫通導体等の配線導体が配置された構造である。そして、薄膜多層部の上面に露出して形成された薄膜配線層が半導体素子と接続される端子として機能し、セラミック基板の下面に形成された配線導体が外部接続用の接続パッドとして機能する。
【0004】
薄膜多層部は、高い密度で電極が配置された半導体素子に対応して薄膜配線層が形成されたものであり、近年、生産性を向上させるために、あらかじめ薄膜配線層を形成した複数の樹脂絶縁層を準備しておいて、これらの樹脂絶縁層を接着剤層等を介して接合することが提案されている。この場合、上下の樹脂絶縁層に形成された薄膜配線層同士の電気的な接続は、貫通導体を低融点金属材料からなるろう材(スズ−銀やスズ−ビスマス等のスズを主成分とするはんだ等)で形成しておいて、この貫通導体を上下の薄膜配線層にそれぞれ接合することによって、上下の薄膜配線層同士を互いに電気的に接続することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−165508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上下の薄膜配線層にスズを含む低融点ろう材からなる貫通導体を接合した場合、銅のスズに対する拡散速度の方が、スズの銅に対する拡散速度よりも大きいため、薄膜配線層内に銅の貫通導体への拡散に伴う空隙が生じやすい。
【0007】
そして、このような空隙は、多層配線基板を半導体素子に接続する際の熱による銅の拡散によって促進されるため、多層配線基板の使用に伴って薄膜配線層における電気抵抗が変化(増加)してしまうという問題点があった。
【0008】
使用に伴って薄膜配線層の電気抵抗が変化すると、電気抵抗値での良否判定を行なっている半導体素子の電気チェックにおいて、良好な半導体素子までも不良と判定をしてしまう可能性がある。この場合には、例えば、半導体素子の電気チェック時の歩留まりの大幅な低下を不当に招いてしまう可能性がある。
【0009】
また、上記銅の拡散に伴い、スズ−銅の脆い合金が貫通導体と薄膜配線層との接合部分に生じやすい。そのため、樹脂絶縁層と貫通導体との熱膨張率の差に起因する熱応力等の応力によって脆い合金部分や上記空隙部分で機械的な破壊が生じ、貫通導体と薄膜配線層との間で断線が生じやすくなる可能性があるという問題点があった。
【0010】
本発明は上記従来の技術の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、薄膜配線層における電気抵抗の変化が抑制されているとともに、貫通導体と薄膜配線層との接合の信頼性が高い薄膜多層部を有する多層配線基板、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の多層配線基板は、樹脂絶縁層と薄膜配線層とが交互に積層され、上下の前記薄膜配線層が、前記樹脂絶縁層を厚み方向に貫通する貫通導体に含まれるスズを主成分とする低融点金属材料にそれぞれ接合されて、該貫通導体によって互いに電気的に接続されてなる薄膜多層部を有する多層配線基板であって、前記貫通導体は、端部が複数の接合部に分割されて該接合部が前記薄膜配線層に接合されているとともに、複数の前記接合部の間に前記薄膜配線層および前記貫通導体に接合された樹脂材料が介在していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の多層配線基板は、上記構成において、前記貫通導体は、前記低融点金属材料内にスズよりも電気抵抗が低い低抵抗金属材料の粒子が分散していることを特徴とする。
【0013】
本発明の多層配線基板の製造方法は、樹脂シートを準備するとともに該樹脂シートに貫通孔を形成する工程と、
スズを主成分とする低融点金属材料の粉末に、スズよりも電気抵抗が低く、前記低融点金属材料の液相点よりも融点が高い低抵抗金属材料の粉末、および硬化温度が前記液相点よりも高く前記低抵抗金属材料の融点よりも低い未硬化の熱硬化性樹脂材料を添加して貫通導体用ペーストを作製し、該貫通導体用ペーストを前記貫通導体内に充填するとともに前記樹脂シートの表面に前記貫通導体用ペーストと接するように薄膜導体層を形成する工程と、
複数の前記樹脂シートを、前記貫通孔内に充填した前記貫通導体用ペーストの露出する端面が前記薄膜配線層に接するようにして積層して積層体を形成する工程と、
該積層体を前記低融点金属材料の液相点よりも高く前記低抵抗金属材料の融点よりも低い温度で加熱して、上下の前記樹脂絶縁層を互いに接合させるとともに、前記熱硬化性樹脂材料の一部を前記貫通導体用ペーストの端面と前記薄膜配線層との界面に分散させて前記薄膜配線層に接合させながら、前記低融点金属材料の端部を複数の接合部に分割して該接合部を前記薄膜配線層に接合させる工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多層配線基板によれば、貫通導体の端部が複数の接合部に分割されて、この接合部が薄膜配線層に接合されているとともに、複数の接合部の間に薄膜配線層および貫通導体に接合された樹脂材料が介在していることから、この介在している樹脂材料の分、貫通導体の低融点金属材料と薄膜配線層との接合面積を従来よりも小さく抑えることができる。そのため、薄膜配線層から低融点金属材料への銅の拡散を抑制することができ、銅の拡散に起因する薄膜配線層の空隙を抑制することができる。したがって、空隙の増加による薄膜配線層の抵抗の変化(増加)を効果的に抑制することができる。
【0015】
また、貫通導体の接合部の間に、貫通導体および薄膜配線層の両者に接合した樹脂材料
が分散して介在し、これらの樹脂材料のヤング率が比較的低いため、貫通導体と薄膜配線層との間に脆い合金が生じたり、熱応力等の応力が作用したりしたとしても、この応力をヤング率が低い樹脂材料の変形で吸収することができる。そのため、貫通導体と薄膜配線層との電気的な接続を良好に確保することができる。
【0016】
また、本発明の多層配線基板は、上記構成において、貫通導体は、低融点金属材料内にスズよりも電気抵抗が低い低抵抗金属材料の粒子が分散している場合には、貫通導体の電気抵抗を低く抑えることができる。
【0017】
また、本発明の多層配線基板の製造方法によれば、上記各工程を備え、積層体を加熱して上下の樹脂絶縁層を互いに接合させるとともに貫通導体用ペーストの端面と薄膜配線層とを接合させる際に、低融点金属材料の液相点よりも高く低抵抗金属材料の融点よりも低い温度で加熱することから、低融点金属材料の粉末の全体が液状化して、表面張力により、溶融していない低抵抗金属材料の粉末をそれぞれに囲むようにして凝集する。また、この液状化した低融点金属材料の凝集(言い換えれば、低融点金属材料が貫通導体用ペーストと薄膜配線層との界面から部分的に離れること)に応じて、熱硬化性樹脂材料の一部が貫通導体用ペーストの端面と薄膜配線層との界面に粒状等の形状で分散する。そのため、貫通導体用ペーストについて、その端面と薄膜配線層との界面に熱硬化性樹脂材料を分散させて薄膜配線層に接合させながら、低融点金属材料の端部を複数の接合部に分割して、その接合部をそれぞれ薄膜配線層に接合させることができる。また、この熱硬化性樹脂材料は、上記加熱によって熱硬化させることができる。
【0018】
したがって、本発明の多層配線基板の製造方法によれば、貫通導体の薄膜配線層との接合部分を複数の接合部に分割するとともに、これらの接合部の間に貫通導体および薄膜配線層に接合された樹脂材料が分散して介在した薄膜多層部を備える、薄膜配線層における抵抗の変動が抑制され、貫通導体と薄膜配線層との電気的な接続信頼性が高い多層配線基板を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の多層配線基板の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す多層配線基板の薄膜多層部を拡大して示す拡大断面図である。
【図3】図2のA部分をさらに拡大して示す要部拡大断面図である。
【図4】(a)および(b)はそれぞれ本発明の多層配線基板における貫通導体の薄膜配線層との接合部分(界面)の一例を平面視した平面図(透視図)である。
【図5】(a)〜(d)は、本発明の多層配線基板の製造方法を工程順に示す断面図である。
【図6】(a)および(b)はそれぞれ図5(b)および(d)における要部を拡大して模式的に示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の多層配線基板を添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は本発明の多層配線基板の実施の形態の一例を示す断面図であり、図2は、図1に示す多層配線基板の要部を拡大して示す要部拡大断面図である。図1および図2において、1は樹脂絶縁層,2は薄膜配線層,3は貫通導体,4は薄膜多層部である。樹脂絶縁層1,薄膜配線層2および貫通導体3によって薄膜多層部4が構成され、薄膜多層部4がセラミック基板6の上面に積層されて多層配線基板5が構成されている。
【0021】
樹脂絶縁層1は、例えば長方形状や正方形状等の四角形状、または円形状等で、厚みが約25μm程度の層状に形成されている。また、図1に示す例において、複数の樹脂絶縁層1は、平面視でそれぞれの外形寸法および形状が同様であり、多層配線基板5の外側面に
凹凸が生じないように積層されている。積層された複数の樹脂絶縁層1は、薄膜多層部4における絶縁性の基体部分(符号なし)となるものであり、例えば上面に半導体素子等の電子部品(図示せず)が搭載され、下面がセラミック基板6等の剛性の高い基板上に取着される。
【0022】
これらの樹脂絶縁層1は、例えば、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂,ポリアミドイミド樹脂,ポリエーテルイミド樹脂,液晶ポリマー等の樹脂材料により形成されている。
【0023】
樹脂絶縁層1を厚み方向に貫通する貫通導体3および薄膜配線層2は、多層配線基板5に搭載される半導体素子等の電極をプリント回路基板等の外部の電気回路(図示せず)に電気的に接続するための導電路となる部分である。例えば、薄膜多層部4の上面の中央部に半導体素子を搭載するとともに、その電極を薄膜多層部4の最上面に露出する薄膜配線層2にはんだやプローブ等を介して電気的に接続すれば、半導体素子の電極が薄膜配線層2および貫通導体3を介して薄膜多層部4の最下面の薄膜配線層2と導通される。そして、この薄膜多層部4の最下面の薄膜配線層2を、例えばセラミック基板6にあらかじめ形成しておいた配線導体7を介して外部の電気回路に電気的に接続すれば、半導体素子の電極と外部の電気回路とが電気的に接続される。
【0024】
なお、図1に示す例においては、セラミック基板6も、平面視で薄膜多層部4と同様の形状および寸法で形成されている。つまり、多層配線基板5は、例えば全体が四角板状や円板状等であり、上面が、実装や電気チェックを行なう半導体素子等の電子部品を搭載(半導体素子を多層配線基板5に電気的および機械的に接続して半導体装置とするための実装、または半導体素子に対して電気的なチェックを施すための一時的な載置)するための部位として使用される。半導体素子としては、ICやLSI等の半導体集積回路素子や、半導体基板の表面に微小な電子機械機構が形成されてなるマイクロマシン(いわゆるMEMS素子)等が挙げられる。
【0025】
薄膜配線層2は、電気抵抗(抵抗率)が低く、マイグレーションが発生しにくいことから、銅または銅を主成分とする金属材料の合金材料からなる。薄膜配線層2は、上記の金属材料をスパッタリング法や蒸着法,めっき法等の方法で樹脂絶縁層1の上面等の表面に被着させ、必要に応じてマスキングやエッチング等のトリミング加工を施すことによって、所定のパターンで樹脂絶縁層1の表面に被着させることができる。
【0026】
貫通導体3は、例えば上記の樹脂絶縁層1の一部にCOレーザやYAGレーザによるレーザ加工,RIE(リアクティブ イオン エッチング)または溶剤によるエッチング等の孔あけ加工で厚み方向に貫通する貫通孔(符号なし)を形成し、この貫通孔内に貫通導体3となる貫通導体用ペーストを、スクリーン印刷法等の方法で充填し、これを加熱することによって形成することができる。貫通導体3は、薄膜配線層2の銅に対する接合が容易であるスズを主成分とする低融点金属材料を含んでいる。
【0027】
低融点金属材料3aは、上記のようにスズ(融点が約232℃)を主成分とする銅に対す
る接合が容易な金属材料であり、例えば、スズ−銀やスズ−銀−銅,スズ−銀−ビスマス,スズ−ビスマス,スズ−亜鉛等であって、スズを約60質量%以上含むもの(融点が約150〜250℃)を挙げることができる。
【0028】
貫通導体3は、例えば図3に示すように、スズ−銀やスズ−銀−ビスマス等の低融点金属材料3aに、導電性を高めるための低抵抗金属材料3bの粉末が添加されて構成されていることが好ましい。貫通導体用ペーストおよび貫通導体3の形成方法については後に詳しく説明する。なお、図3は、図2のA部分を拡大して示す拡大断面図である。図3において図1および図2と同様の部位には同様の符号を付している。
【0029】
低抵抗金属材料3bとしては、例えば銅や銀,金等の、スズよりも電気抵抗が低く、融点が900℃程度以上と高い金属材料(低融点金属材料3aに比べて低抵抗および高融点の
金属材料)を挙げることができる。このような低抵抗金属材料3bとしては、銅を20質量%程度以上含むものであることが、貫通導体3における電気抵抗を効果的に低く抑える上で好ましい。
【0030】
低抵抗金属材料3bは、前述したように、その融点が低融点金属材料3aの融点(約よりも高いものを用いる必要があり、融点が約900℃以上であり、電気抵抗(抵抗率)が約1.6〜2.5×10−8Ω・m程度と低い銀や銅,金等が用いられ、コスト等を考慮すれば銀
または銅が適している。なお、低抵抗金属材料3bを粉末として貫通導体3に添加することによる効果等については後述する。
【0031】
また、低融点金属材料3aは、スズを70質量%程度以上含むものであることが、薄膜配線層2の対する接合を容易かつ強固なものとする上で好ましい。低融点金属材料3aにおいて、スズに添加する金属材料としては銀や銅,ビスマス,インジウム等を用いることができる。このような金属材料を添加した低融点金属材料3aとしては、例えば低融点ろう材(いわゆる鉛フリーはんだ等)となるものを用いることもできる。例えば、スズに銀を5質量%程度添加した場合であれば、錫が100質量%である場合に比べてウィスカ発生防
止等の効果を得ることができる。
【0032】
本発明の多層配線基板5においては、例えば図3および図4に示すように、貫通導体3の端部が複数の接合部Bに分割されて、この接合部Bが薄膜配線層2に接合されているとともに、複数の接合部Bの間に薄膜配線層2および3貫通導体に接合された樹脂材料33が介在している。多層配線基板5は、上記構成を供えることから、接合部Bの間に分散している樹脂材料33の分、貫通導体(特に低融点金属材料3a)と薄膜配線層2との接合面積を従来よりも小さく抑えることができる。そのため、薄膜配線層2から低融点金属材料3aへの銅の拡散を抑制することができ、銅の拡散に起因する薄膜配線層2の空隙を抑制することができる。したがって、空隙の増加による薄膜配線層2の抵抗の変化(増加)を効果的に抑制することができる。
【0033】
なお、図4(a)および(b)は、それぞれ本発明の多層配線基板5における貫通導体3の薄膜配線層2との接合部分(界面)の一例を平面視した平面図(透視図)である。図4において図1および図3と同様の部位には同様の符号を付している。図4(a)は、複数の接合部Bが互いに独立している状態を示し、図4(b)は、複数の接合部Bの一部が互いに接している状態を示す。
【0034】
また、貫通導体3(低融点金属材料3a)と薄膜配線層2との間に、両者に接合した樹脂材料33が分散して介在し、これらの樹脂材料33の弾性率が比較的低いため、貫通導体3と薄膜配線層2との間に脆い合金が生じたり、熱応力等の応力が作用したりしたとしても、この応力を弾性率が低い樹脂材料33で吸収することができる。そのため、貫通導体3と薄膜配線層2との電気的な接続を確保することができる。
【0035】
樹脂材料33は、貫通導体3の低融点金属材料3aと薄膜配線層2との間に介在して両者の接合を補強するためのものであり、熱硬化型等の樹脂接着剤と同様の機能を備えているものである必要があるため、例えばエポキシ樹脂やポリアミドイミド樹脂,ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂からなるものが好ましい。
【0036】
なお、低融点金属材料3aのヤング率は、例えばスズの場合では50GPa程度であり、これに対して樹脂材料33のヤング率は、例えば上記エポキシ樹脂の場合であれば約1GP
a程度である。
【0037】
貫通導体3は、電気抵抗を低く抑える上では横断面(電流が流れる方向に直交する方向における断面)の面積が大きいほど好ましく、多層配線部4の外形の寸法を小さく抑える上では横断面が小さいほど好ましい。また、貫通導体3は、貫通導体3および貫通導体3に接している樹脂絶縁層1のクラックを抑制する上では円形が好ましい。
【0038】
このような貫通導体3の横断面については、上記の要件を考慮しながら、適宜設定すればよく、例えば、貫通導体3の長さ(樹脂絶縁層1の厚み方向の寸法)が15〜30μm程度の場合であれば、直径が30〜50μm程度の円形状や、長軸および短軸の長さが30〜50μm程度の楕円形状等とすればよい。
【0039】
また、本発明の多層配線基板5においては、上記構成を備え、貫通導体3の低融点金属材料3aのうち薄膜配線層2と接合している部分における横断面(電流が流れる方向に直交する方向における断面)が小さく、この部分において他の部分よりも抵抗が高いことから、次のような効果を得ることもできる。
【0040】
すなわち、例えばこの多層配線基板5をプローブカードとして使用している際に、外部の電気回路から過電流が多層配線基板を介して半導体素子に流れようとしたときに、この過電流によって貫通導体3の抵抗が高い部分(樹脂材料33が分散している薄膜配線層2との接合部分)が抵抗発熱によって溶断する。そのため、過電流を貫通導体3と薄膜配線層2との境界部分で遮断して、過電流による半導体素子の電気的な破壊を防ぐことができる。なお、過電流が生じるのは、例えば、多層配線基板5と半導体素子とを電気的に接続する複数のプローブの一部において接触不良(電気的な接続不良)が生じて、他のプローブと電気的に接続された貫通導体3に所定値を超えて過剰に電流が流れようとするような場合である。
【0041】
このような効果を得るためには、貫通導体3の薄膜配線層2と接合されている複数の接合部Bは、例えば図4(b)に示すように樹脂材料33によって互いに独立していることが好ましい。この場合には、複数に分かれた個々の接合部Bのそれぞれに過電流が流れようとするので、それぞれの部分において抵抗発熱が大きくなり、また断面積が小さく溶断しやすいため、上記過電流を遮断する効果をより有効に得ることができる。
【0042】
次に、以上のような薄膜多層部4を有する多層配線基板5の製造方法について図5および図6を参照しつつ説明する。図5(a)〜(d)は、それぞれ本発明の多層配線基板の製造方法の一例を工程順に示す断面図である。また、図6(a)および(b)は、それぞれ図5(b)および(d)における要部を模式的に示す要部拡大図である。図5および図6において図1および図3と同様の部位には同様の符号を付している。
【0043】
まず、図5(a)に示すように、複数の樹脂シート11を準備するとともに樹脂シート11に貫通孔(符号なし)を形成する。
【0044】
樹脂シート11の形成は、例えば剛性を有する台板(図示せず)の上面に未硬化の熱硬化性樹脂材料(ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂,ポリエーテルイミド樹脂,液晶ポリマー等)の未硬化物を層状に塗布して、加熱硬化させることによって行なうことができる。樹脂シート11は、セラミック基板6の上面に上記未硬化の熱硬化性樹脂材料を塗布するとともに加熱硬化させて形成して、樹脂シート11の形成とセラミック基板6への積層とを同時に行なうようにしてもよい。
【0045】
貫通孔は、樹脂絶縁層1の一部を厚み方向に貫通させるように、COレーザやYAG
レーザによるレーザ加工,RIE(リアクティブ イオン エッチング)または溶剤によるエッチング等の孔あけ加工を施すことによって形成することができる。
【0046】
次に、図5(b)および図6(a)に示すように、スズを主成分として含有する低融点金属材料の粉末13aに、スズよりも電気抵抗(抵抗率)が低く、この低融点金属材料の液相点よりも融点が高い低抵抗金属材料の粉末13b、および硬化温度が低融点金属材料の液相点よりも高く低抵抗金属材料の融点よりも低い未硬化の熱硬化性樹脂材料33aを添加して貫通導体用ペースト13を作製し、この貫通導体用ペースト13を貫通孔内に充填するとともに樹脂シート11の表面に貫通導体用ペースト13と接するように薄膜導体層2を形成する。
【0047】
貫通孔内に充填した貫通導体用ペースト13は、例えば図6(a)に示すように、低融点金属材料の粉末13aと高融点金属材料の粉末13bと熱硬化性樹脂材料33aとが有機溶剤およびバインダ等(符号なし)の中に分散した状態になっている。なお、図6(a)に示す例において熱硬化性樹脂材料33aは、低(高)融点金属材料と同様の粉末状として用いている。また、図6(a)においてそれぞれの材料の粉末13a,13b,33aは円形状(球状)や楕円形状(楕円球状)として示しているが、これらは模式的なものであり、このような形状でなくても構わない。
【0048】
次に、図5(c)に示すように、複数の樹脂シート11を、貫通孔内に充填した貫通導体用ペースト13の露出する端面がそれぞれ他の樹脂シート11の薄膜配線層2に接するように積層して積層体(符号なし)を形成する。
【0049】
次に、積層体を低融点金属材料3aの液相点よりも高く低抵抗金属材料3bの融点よりも低い温度で加熱して、上下の樹脂シート11を互いに接合させるとともに、熱硬化性樹脂材料33aの一部を貫通導体用ペースト13の端面と薄膜配線層2との界面に粒状に分散させて薄膜配線層2に接合させながら、低融点金属材料の粉末13aの液状化物を熱硬化性樹脂材料33aの液状化物で複数の接合部に分割させて薄膜配線層2に接合させる。
【0050】
この工程によって、図5(d)に示すように、樹脂シート11が樹脂絶縁層1になり、貫通導体用ペースト13が貫通導体3になる。貫通導体3には、図3に示したように、低抵抗金属材料の粉末13aがいったん溶融した後に固化して形成された低融点金属材料3aと、低抵抗金属材料の粉末13bからなる粒状の低抵抗金属材料3bと、貫通導体3の薄膜配線層2との接合部分において低融点金属材料3aおよび薄膜配線層2の両方と接合された樹脂材料33とが含まれている。なお、熱硬化性樹脂33aの一部は、貫通導体3の側面部分において樹脂絶縁層1と接合する。
【0051】
上下の樹脂シート11間の接合は、例えば、樹脂接着剤8等の接合材を介して行なわせることができる。また、樹脂シート11自体を接着性を有する樹脂材料(エポキシ樹脂等)で形成しておいて、上記加熱による硬化時に上下の樹脂シート11(樹脂絶縁層1)同士を接合させることによって行なうこともできる。
【0052】
なお、上記加熱時に、低融点金属材料の粉末13aは、液相点以上の温度の加熱によって全体が液相になり、液相の低融点金属材料は、表面張力によって凝集しようとする。また、加熱温度が低抵抗金属材料の融点未満であるため低抵抗金属材料の粉末13bは溶融せずに粒状のままであるため、図6(b)に示すように、液相の低融点金属材料(13a)によって低抵抗金属材料の粉末13bが囲まれる。また、この液状化した低融点金属材料(13a)の凝集に応じて、熱硬化性樹脂材料33aの一部が貫通導体用ペースト13の端面と薄膜配線層2との界面に粒状に分散する。そのため、貫通導体用ペースト13について、その端面と薄膜配線層2との界面に熱硬化性樹脂材料33aを粒状に分散させながら、低融点金属材
料3aを複数の接合部Bに分割して薄膜配線層2に接合させることができる。また、この熱硬化性樹脂材料33aは、上記加熱によって熱硬化させることができる。低抵抗金属材料は、上記のように融点が高いため、高融点金属材料とみなすこともできる。
【0053】
以上の工程によって、多層配線基板5の薄膜多層部4を作製することができる。この薄膜多層部4をセラミック基板6等の剛性を有する基板に接合すれば、多層配線基板5が製作される。
【0054】
薄膜多層部4のセラミック基板6に対する接合は、最下層の樹脂絶縁層1の下面を接着剤(図示せず)等を介してセラミック基板6の上面に接着することによって行なうことができる。また、あらかじめセラミック基板6を準備しておいて、そのセラミック基板6の上面に順次樹脂絶縁層1および薄膜配線層2の積層および貫通導体3の形成を繰り返すことによって、薄膜多層部4がセラミック基板6に接合された多層配線基板5を製作することもできる。
【0055】
セラミック基板6は、例えば酸化アルミニウム質焼結体や窒化アルミニウム質焼結体,ムライト質焼結体,ガラスセラミック焼結体,ガラス母材中に結晶成分を析出させた結晶化ガラスまたは雲母やチタン酸アルミニウム等の微結晶焼結体からなる、金属材料とほぼ同等の精密な機械加工が可能なセラミック材料(いわゆるマシナブルセラミックス)等のセラミック材料により形成されている。
【0056】
セラミック基板6は、例えば酸化アルミニウム質焼結体からなる場合であれば、次のようにして製作することができる。すなわち、酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素等の原料粉末に適当な有機バインダおよび有機溶剤を添加混合して作製したスラリーをドクターブレード法やリップコータ法等のシート成形技術でシート状に成形することによってセラミックグリーンシートを作製して、その後、セラミックグリーンシートを切断加工や打ち抜き加工によって適当な形状および寸法とするとともに、これを約1300〜1500℃の温度で焼成することによって製作することができる。
【0057】
また、セラミック基板6には、必要に応じて配線導体7を、タングステンやモリブデン,マンガン,銅,銀,パラジウム,金,白金等の金属材料を用いて、メタライズ法やめっき法等の方法で被着させておく。配線導体7は、例えばタングステンからなる場合であれば、タングステンのペーストをセラミック基板6となるセラミックグリーンシートの表面やあらかじめ形成しておいた貫通孔の内部等に塗布または充填し、セラミックグリーンシートと同時焼成することによって被着させることができる。
【実施例】
【0058】
酸化アルミニウム質焼結体からなるセラミック基板の上面に、厚みが約20μmのエポキシ樹脂からなる樹脂絶縁層と、厚みが約10μmの銅からなる薄膜配線層とを交互に10層積層するとともに、各樹脂絶縁層に直径が約400μmの貫通導体を形成して上下の薄膜配線
層を互いに電気的に接続させた多層配線基板を用いて、本発明の多層配線基板における効果を確認した。
【0059】
実施例の多層配線基板において、貫通導体は、低融点金属材料としてスズ−ビスマス(Sn−Bi)、低抵抗金属材料として銀(Ag)を用いて形成した。また、貫通導体と薄膜配線層との界面に介在させる樹脂粒としてエポキシ樹脂を用いた。
【0060】
貫通導体において、低融点金属材料は80質量%、高融点金属材料は20質量%とした。
【0061】
低抵抗金属材料は、平均粒径が約5〜50μm程度の球形または楕円球形状の粒状であり
、この周囲を低融点ろう材が囲んだ構造であった。
【0062】
また、比較例として、それぞれの貫通導体を上記の低融点金属材料のみで形成したこと以外は上記の実施例の多層配線基板と同様にして作製した従来技術による多層配線基板を準備した。
【0063】
なお、セラミック基板は、酸化アルミニウム質焼結体からなる厚みが1mmの第1セラミック基板の表面および内部にタングステンからなるメタライズ導体で配線導体を形成したものを使用した。
【0064】
これらの実施例および比較例の多層配線基板について、加速試験として温度サイクル試験を+125℃〜−55℃の条件で500サイクル行なった後に、貫通導体の内部および貫通導体と薄膜配線層との境界におけるクラックと断線の有無を、複数の貫通導体を直列に接続したデイジーチェーンサンプルを用いて抵抗変動をデジタルマルチメータで測定することによって検査した。抵抗値に変動(抵抗の増加)等の異常が見られた試料については、貫通導体と薄膜配線層との接合部分の断面を観察してクラック等の有無を確認した。
【0065】
その結果、実施例の多層配線基板では20%超える抵抗変動(電気抵抗の増加)および断線の発生が見られなかったのに対し、比較例の多層配線基板では20個中8個において貫通導体と薄膜配線層との間に亀裂の発生が見られ、20個中10個に20%を超える抵抗変動が見られた。
【0066】
以上のように、本発明の多層配線基板においては、貫通導体と薄膜配線層との間に亀裂等の機械的な破壊が生じることを効果的に抑制することが可能であり、電気抵抗の変動が抑制された信頼性の高い多層配線基板を提供することができることが確認できた。
【符号の説明】
【0067】
1・・・樹脂絶縁層
2・・・薄膜配線層
3・・・貫通導体
3a・・低融点金属材料
3b・・低抵抗金属材料
4・・・薄膜多層部
5・・・多層配線基板
6・・・セラミック基板
7・・・配線導体
8・・・樹脂接着材
11・・・樹脂シート
13・・・貫通導体用ペースト
13a・・低融点金属材料の粉末
13b・・高融点金属材料の粉末
33・・・樹脂材料
33a・・熱硬化性樹脂材料
B・・・接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂絶縁層と薄膜配線層とが交互に積層され、上下の前記薄膜配線層が、前記樹脂絶縁層を厚み方向に貫通する貫通導体に含まれるスズを主成分とする低融点金属材料にそれぞれ接合されて、該貫通導体によって互いに電気的に接続されてなる薄膜多層部を有する多層配線基板であって、
前記貫通導体は、端部が複数の接合部に分割されて該接合部が前記薄膜配線層に接合されているとともに、複数の前記接合部の間に前記薄膜配線層および前記貫通導体に接合された樹脂材料が介在していることを特徴とする多層配線基板。
【請求項2】
前記貫通導体は、前記低融点金属材料内にスズよりも電気抵抗が低い低抵抗金属材料の粒子が分散していることを特徴とする請求項1記載の多層配線基板。
【請求項3】
樹脂シートを準備するとともに該樹脂シートに貫通孔を形成する工程と、
スズを主成分とする低融点金属材料の粉末に、スズよりも電気抵抗が低く、前記低融点金属材料の液相点よりも融点が高い低抵抗金属材料の粉末、および硬化温度が前記液相点よりも高く前記低抵抗金属材料の融点よりも低い未硬化の熱硬化性樹脂材料を添加して貫通導体用ペーストを作製し、該貫通導体用ペーストを前記貫通導体内に充填するとともに前記樹脂シートの表面に前記貫通導体用ペーストと接するように薄膜導体層を形成する工程と、
複数の前記樹脂シートを、前記貫通孔内に充填した前記貫通導体用ペーストの露出する端面が前記薄膜配線層に接するようにして積層して積層体を形成する工程と、
該積層体を前記低融点金属材料の液相点よりも高く前記低抵抗金属材料の融点よりも低い温度で加熱して、上下の前記樹脂絶縁層を互いに接合させるとともに、前記熱硬化性樹脂材料の一部を前記貫通導体用ペーストの端面と前記薄膜配線層との界面に分散させて前記薄膜配線層に接合させながら、前記低融点金属材料の端部を複数の接合部に分割して該接合部を前記薄膜配線層に接合させる工程とを含むことを特徴とする多層配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−33623(P2012−33623A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170752(P2010−170752)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】