説明

多数個取り金型、マグネットピースの製造方法およびマグネットロールの製造方法

【課題】複数のマグネットピースをワンショットで成形するための多数個取り金型においては、キャビティへの溶融した磁性樹脂材料の充填が同時に終わらないために、マグネットピースにバリが発生するという問題がある。
【解決手段】可動型および固定型を型閉じすることにより、一対の可動側入れ子と固定側入れ子の間にマグネットピースを成形するためのキャビティが形成される多数個取り金型において、個々のキャビティには、固定型に形成された主ランナーが複数に分岐した副ランナーがゲートを介して連通しており、横断面積の小さいキャビティほど主ランナーの近くに配置し、横断面積の大きいキャビティほど主ランナーから離れて配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザープリンタやデジタル複写機等の画像形成装置に用いられるマグネットロールの製造方法、当該マグネットロールを構成するマグネットピースの製造方法、および当該マグネットピースを成形するための多数個取り金型に関する。
【背景技術】
【0002】
図1〜図3に示すように、従来より、シャフト2の周りに短手方向の断面形状が略扇形状の複数のマグネットピース3〜8を接着剤を用いて放射状に貼り合わせたマグネットロール1が提供されている(例えば、特許文献1〜7参照)。
【0003】
マグネットロール1は、例えば、シャフト2の周りに、汲み上げ極S3(S極)のマグネットピース5と、トリミング極N2(N極)のマグネットピース4と、現像極S1(S極)のマグネットピース3と、回収(搬送)極N1(N極)のマグネットピース8と、剥離極S2(S極)のマグネットピース7と、介在極ピース6(S極)がこの順に貼り付けられた(貼り合わされた)ものである。
【0004】
マグネットピース3〜8は、磁石材料粉、樹脂バインダー、添加剤等の混合物からなる磁性樹脂材料を用いて磁場中で成形することによって製造したものである。磁石材料粉としては、例えば、フェライト粉や、Nd等の希土類金属粉とFe、Co、Ni等の鉄族金属粉との混合物を使用することができる。また、樹脂バインダーは、例えば、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、エチレンエチルアクリレート(EEA)等を使用することができる。
【0005】
この所謂貼り合わせマグネットロール1に用いられるマグネットピース3〜8は、図4に示すように、複数のキャビティ102が形成された磁性材料101(配向ヨーク)および103(可動側金型本体)と、非磁性材料100(固定側金型本体)との組み合わせからなる多数個取りの配向用金型を用いて製造することができる(例えば、特許文献8参照)。ここで、マグネットピースの短手方向の断面積(横断面積)は、図4に示すように、マグネットロールの所望の磁気特性を出すため個々に異なるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−229309号公報
【特許文献2】特開2003−229321号公報
【特許文献3】特開2001−034068号公報
【特許文献4】特開2000−075665号公報
【特許文献5】特開平10−308308号公報
【特許文献6】特開平01−114011号公報
【特許文献7】特開昭62−282422号公報
【特許文献8】特開昭62−282422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した多数個取り金型において、複数のマグネットピース3〜8の生産タクトを上げるためには、個々のキャビティ102内に溶融した磁性樹脂材料を注入するための注入口であるゲートの断面積を製品(マグネットピース)の品質に支障が出ない範囲内で、できるだけ大きくしなければならない。
【0008】
しかし、横断面積が大きいマグネットピースはゲートの断面積を大きくすることができるが、横断面積が小さいマグネットピースはゲートの断面積を大きくすることができない(小さくしなければならない)。このため、溶融した磁性樹脂材料の射出充填時間がキャビティ102毎に異なるという問題が発生する。
【0009】
そして、かかる問題を抱えた多数個取り金型を用いて複数のマグネットピースを成形すると、射出充填を早く終えたキャビティで成形されたマグネットピースにバリが発生し易くなるという問題がある。
【0010】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであって、複数のキャビティに溶融した磁性樹脂材料が満たされるまでの時間を略同一にし、マグネットピースにバリが発生しない多数個取り金型等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(第1発明)
第1発明は、非磁性材料からなる可動側入れ子が複数固定された可動型と、この可動側入れ子に対応して設けられた非磁性材料からなる固定側入れ子が複数固定された固定型と、固定側入れ子の個々に設けられた複数の配向ヨークとを備え、1本のマグネットロールで使用される複数のマグネットピースを配向磁場中で成形するための多数個取り金型に関するものである。
【0012】
そして、第1発明は、可動型および固定型を型閉じすることにより、一対の可動側入れ子と固定側入れ子の間にマグネットピースを成形するためのキャビティが形成され、個々のキャビティには、固定型に形成された主ランナーが分岐した副ランナーがゲートを介して連通しており、横断面積の小さいキャビティほど主ランナーの近くに配置され、横断面積の大きいキャビティほど主ランナーから離れて配置されたことを特徴とするものである。ここで、連通とは、隔絶された2つの空間を連続状態にすることをいう。
かかる構成により、複数のキャビティに溶融した磁性樹脂材料が満たされるまでの時間を略同一にし、成形品であるマグネットピースのバリの発生を極めて少なくすることができる。
【0013】
(第2発明)
第2発明の多数個取り金型は、第1発明において、複数の可動側入れ子の内、少なくとも1つが磁性材料からなるものである。
かかる構成により、前記した第1発明の効果を奏するのみならず、磁性材料からなる可動側入れ子を用いることにより、磁束密度の高いマグネットピースを製造することができる。
【0014】
(第3発明)
第3発明のマグネットピースの製造方法は、第1発明または第2発明の多数個取り金型を準備し、主ランナーに溶融した磁性樹脂材料を射出し、副ランナーおよびゲートを介して全てのキャビティを溶融した磁性樹脂材料で満たした後、可動型および固定型を冷却して溶融した磁性樹脂材料を冷却固化させ、複数のキャビティから複数のマグネットピースを取り出すことを特徴とする。
かかる構成により、バリが極めて少ない高品質なマグネットピースを製造することができる。
【0015】
(第4発明)
第4発明のマグネットロールの製造方法は、第1発明または第2発明の多数個取り金型を準備し、主ランナーに溶融した磁性樹脂材料を射出し、副ランナーおよびゲートを介して全てのキャビティを溶融した磁性樹脂材料で満たした後、可動型および固定型を冷却して溶融した磁性樹脂材料を冷却固化させ、複数のキャビティから複数のマグネットピースを取り出し、複数のマグネットピースを、外周に接着剤が塗布されたシャフトの周りに貼り合わせることを特徴とする。
かかる構成により、バリの無い高品質なマグネットピースを用いて高品質なマグネットロールを製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る多数個取り金型およびマグネットピースの製造方法は、バリが極めて少ないマグネットピースを製造できる。また、本発明に係るマグネットロールの製造方法は、高品質なマグネットロールを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来のマグネットロールの斜視図
【図2】従来のマグネットピースの斜視図
【図3】従来のマグネットロールの側面図(図1における矢視A)
【図4】従来のマグネットピースの多数個取り金型の断面図
【図5】多数個取り金型の正面図
【図6】多数個取り金型を正面から見た断面図
【図7】多数個取り金型を側面から見た断面図(図5における断面A−A)
【図8】多数個取り金型内部の磁性樹脂材料の斜視図
【図9】多数個取り金型を正面から見た断面図
【図10】従来のマグネットピースのイジェクトを説明するための断面図
【図11】従来のマグネットピースのイジェクトを説明するための断面図
【図12】従来のマグネットピースのイジェクトを説明するための断面図
【図13】マグネットピースのイジェクトを説明するための断面図
【図14】マグネットピースのイジェクトを説明するための断面図
【図15】マグネットピースとイジェクトピンの位置関係を説明するための図
【図16】マグネットピースのイジェクトを説明するための断面図
【図17】マグネットピースのイジェクトを説明するための断面図
【図18】マグネットピースのイジェクトを説明するための斜視図
【図19】マグネットピースの一端の斜視図
【図20】マグネットピースのイジェクトを説明するための斜視図
【図21】マグネットピースの他端の斜視図
【図22】マグネットピースのイジェクトを説明するための図
【図23】マグネットピースのイジェクトを説明するための図
【図24】可動側入れ子と固定側入れ子の斜視図
【図25】固定側入れ子の斜視図
【図26】可動側入れ子の斜視図
【図27】可動側入れ子と固定側入れ子の断面図
【図28】可動側入れ子と固定側入れ子の斜視図
【図29】固定側入れ子の斜視図
【図30】可動側入れ子の斜視図
【図31】可動側入れ子と固定側入れ子の断面図
【図32】可動側入れ子の平面図
【図33】可動側入れ子の断面図
【図34】可動側入れ子の断面図
【図35】可動側入れ子と固定側入れ子の断面図
【図36】マグネットピースのイジェクトを説明するための図
【図37】多数個取り金型を側面から見た断面図(図5における断面A−A)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図5は本発明に係る多数個取り金型の正面図、図6は本発明に係る多数個取り金型を正面から見た断面図、図7は多数個取り金型を側面から見た断面図(図5における断面A−A)、図8は多数個取り金型内部の磁性樹脂材料の斜視図である。尚、図8に示したように、本実施例1における主ランナーおよび副ランナーの断面形状は略方形状としたが、略円形状または略半円形状であっても良い。
【0020】
(多数個取り金型)
図6に示すように、本発明に係る多数個取り金型20は、6個の非磁性材料からなる可動側入れ子35が可動側取付盤37に固定された可動型13と、この可動側入れ子35に対応して設けられた6個の非磁性材料からなる固定側入れ子36が固定側取付盤38に固定された固定型14と、個々の固定側入れ子36に設けられた磁性材料からなる配向ヨーク17とを備えている。
【0021】
そして、図5および図6に示すように、パーティング面12で可動型13および固定型14に分割された多数個取り金型20を型閉じすることにより、一対の可動側入れ子35と固定側入れ子36の間にキャビティ43〜48が形成される。これらキャビティ43〜48は、図1および図3に示したマグネットピース3〜8を製造するため、多数個取り金型20の内部に設けられた空間である。
【0022】
つまり、多数個取り金型20により、キャビティ43によりマグネットピース3、キャビティ44によりマグネットピース4、キャビティ45によりマグネットピース5、キャビティ46によりマグネットピース6、キャビティ47によりマグネットピース7、キャビティ48によりマグネットピース8が配向磁場中で成形され、1本のマグネットロールで使用される全てのマグネットピースをワンショット(1回の成形)で製造することができる。
【0023】
これらのキャビティ43〜48は、図5〜図7に示すように、固定型14に形成された主ランナー27が分岐した副ランナー28がゲート39を介して連通している。そして、横断面積(キャビティの短手方向の断面積)の小さいキャビティほど主ランナー27の近くに配置され、横断面積の大きいキャビティほど主ランナー27から離れて配置されている。別言すると、キャビティ43〜48は、その横断面積の小さいものから順に主ランナー27の近くに配置されている。さらに別言すると、キャビティ43〜48は、その体積の小さいものから順に主ランナー27の近くに配置されている。
【0024】
本実施例1においては、主ランナー27が多数個取り金型20の略中央部に設けられているので、横断面積の小さいキャビティ45およびキャビティ47が主ランナー27に近い中央寄りに配置され、横断面積の大きいキャビティ44およびキャビティ48が主ランナー27から離れた両端部に配置されている。このように全てのキャビティ43〜48を配置することにより、全てのキャビティ43〜48への溶融した磁性樹脂材料の射出充填を略同一時間に終わらせることができる。
【0025】
(マグネットピースの製造方法)
次に、前記した多数個取り金型20を用いたマグネットピース3〜8の製造方法について説明する。前記した多数個取り金型20に形成された射出用開口部29に、図示しない射出成形装置の射出ノズルを接触させ、射出ノズル中の溶融した磁性樹脂材料を主ランナー27に射出(注入)する。主ランナー27に射出された溶融した磁性樹脂材料は、分岐して副ランナー28を流れて進み、ゲート39から各キャビティ内に侵入する。その際、配向ヨーク17に電流を流すため、全てのキャビティ43〜48は、配向磁場中で溶融した磁性樹脂材料で満たされる。尚、図8は、このときの多数個取り金型20の内部の磁性樹脂材料の状態を示した斜視図であるが、符号127は主ランナー27の内部の磁性樹脂材料であり、符号128は副ランナー128内部の磁性樹脂材料である。
【0026】
その後、可動型13および固定型14の図示しない流路に冷却水を流して可動型13および固定型14を冷却し、キャビティ43〜48内に存する溶融した磁性樹脂材料を冷却固化させる。そして、配向ヨーク17に逆に電流を流して型内脱磁を行なった後、可動型13を固定型14から離すように移動(型開き)し、可動型13の全ての可動側入れ子35のキャビティ43〜48からマグネットピース3〜8を取り出す。これらのマグネットピース3〜8は、前記した多数個取り金型20を用いて製造したものであるため、バリの発生が極めて少ない。
【0027】
可動側入れ子35のキャビティ43〜48からのマグネットピース3〜8の取り出しは、イジェクタを用いる場合が一般的である。以下に、マグネットピースの取り出し機構としてイジェクタを採用した場合の構成について説明する。
【0028】
〔イジェクタを用いた場合の問題点〕
まず、イジェクタを用いた場合の一般的な問題点について、キャビティ43を例にして説明する(図36)。いうまでもなく、他のキャビティ44〜48についてもイジェクタを用いた場合、同様の問題点が発生する。
【0029】
配向ヨーク17に逆電流を流し、一旦、全てのマグネットピース3〜8を型内脱磁を行っても、マグネットピース3〜8の横断面積(マグネットピース3〜8の体積)が互いに異なり、配向ヨーク17の大きさも互いに異なるので、全てのマグネットピース3〜8の磁束密度がゼロになるわけではない。このため、例えば、一部のマグネットピースであるマグネットピース3の磁束密度がゼロにならなかった場合、可動型13を移動させて型開きした際に、配向ヨーク17が磁性材料からなるので、磁気吸引力によりマグネットピース3が固定側入れ子36に貼り付く場合がある(図11)。
【0030】
また、型開きした際に、マグネットピース3が固定側入れ子36に貼り付かなかった場合であっても、イジェクタ9によりマグネットピース3を突き出した後(図10)、マグネットピース3がイジェクタ9の先端25から動き、磁気吸引力により可動側入れ子35に貼り付く場合がある(図12)。
かかる問題が発生すると、作業者がその都度マグネットピース3を取り除かなければならないため、マグネットピース3の生産効率が悪化するという問題がある。
【0031】
〔イジェクタの構成1〕
前記した問題点が発生しないようにするため、図13に示すように、マグネットピース3の両端部(図2に示すマグネットピース3の一端15の近傍、および他端16の近傍)に位置するイジェクタ9の先端部25をキャビティ43に突出させたまま、配向磁場中でキャビティ43に溶融した磁性樹脂材料を射出し、当該磁性樹脂材料を冷却固化させるのが望ましい。ここで、イジェクタとは、可動側入れ子に対して突出動作および引込み動作を行い、突出動作時にマグネットピースを可動側入れ子から突き出す(離型させる)ものをいう。
【0032】
かかる構成により、図14に示すように、マグネットピース3の両端部にはイジェクタ9の先端部25が侵入し、イジェクタ9にマグネットピース3が食い付いているので、マグネットピース3を常にイジェクタ9の先端部に位置させることができる。つまり、マグネットピース3が磁気吸引力により固定型14または可動型13に貼り付くことがない。
【0033】
尚、イジェクタは1つのキャビティに複数あっても良いが、少なくともマグネットピース3の両端部に位置するイジェクタ9の先端部25がキャビティに突出していれば良い。つまり、図15に示すように、マグネットピース3の両端部(一端15の近傍と、他端16の近傍)に位置するイジェクタ9のみがキャビティ43に突出したままの状態にし、他のイジェクタ10はキャビティ43に突出させた状態を維持してもそうでなくても良い。ただし、マグネットピース3の磁束密度を乱さないようにするためには、マグネットピース3の略中央部に位置するイジェクタピン10の先端部25を溶融した磁性樹脂材料の射出充填時から当該磁性樹脂材料が冷却固化するまでの間、キャビティ43に突出させない方が望ましい。
【0034】
〔イジェクタの構成2〕
また、前記した問題点が発生しないようにするための別の構成としては、図16に示すように、マグネットピース3を成形するためのキャビティ43の両端部に位置するイジェクタ11の先端部を、マグネットピース3を貼り付けるシャフト2の周面に対応する円弧面22と、この円弧面22の両側からキャビティ43に突出した2つの突出部23とからなる構成を採用しても良い。
【0035】
かかる構成を採用したキャビティ43に対して、ゲート39から溶融した磁性樹脂材料を射出し、当該磁性樹脂材料を冷却固化させ、配向ヨーク17に逆電流を流し、型内脱磁すると、図17に示すように安定してマグネットピース3を離型することができる。つまり、図18および図20に示すように、マグネットピース3の両端部にはイジェクタ11の突出部23が侵入しているので、イジェクタ11にマグネットピース3が食い付き、マグネットピース3を常にイジェクタ11の先端部に位置させることができる。
【0036】
尚、マグネットピース3をイジェクタ11から取り外すと、図19および図21に示すように、マグネットピース3の両端部には合計4個の凹部18が形成される。しかし、かかる凹部18は、マグネットピース3の両端部におけるシャフト2側に位置しているので、マグネットロール1の磁気特性にはほとんど影響がない。
【0037】
尚、前記した構成において、図22に示すように、イジェクタ11の先端部に位置する突出部23に、アンダーカット部24を形成することが望ましい。かかる構成により、マグネットピース3の両端部において、アンダーカット部24がマグネットピース3の内部に侵入し、イジェクタ11にマグネットピース3がより強固に食い付いているので、外力を加えないとマグネットピース3をイジェクタ11から取り外すことができない。
【0038】
このようなアンダーカット部24としての突起(凸部)の突出部23端面からの突出量は、例えば、0.1mm、0.3mm等の微量であり、外力を加えれば容易に取り外すことができる寸法に設定する。ここで、アンダーカット部24は、突出部23に形成された凹凸部分であって、マグネットピース3を可動型13(可動側入れ子40)から取り出す際に、外力を加えることによるマグネットピース3の弾性変形によって取り出す必要のある部分であれば良いから、図22に示した突起(凸部)に限られるものではなく、図23に示したように凹部であっても良い。
【0039】
〔イジェクタの構成3〕
さらに、別の構成について、図5および図6におけるキャビティ46を構成する可動側入れ子35および固定側入れ子36をとりあげて説明する。
【0040】
図24、図25および図27に示すように、可動側入れ子35と固定側入れ子36が合わされることにより形成されるキャビティ46の長手方向の一端には副ランナー28が連通しており、他端には樹脂溜まり部326が連通している。そして、可動側入れ子35には、マグネットピース6を可動側入れ子35のキャビティ46から取り出すためのイジェクタ310が2本設けられている。
【0041】
このイジェクタ310は、1本が可動側入れ子35の樹脂溜まり部326に、もう1本が可動側入れ子35の副ランナー28に設けられているので、図26に示すように、可動側入れ子35のキャビティ46からマグネットピース6を取り出す際、イジェクタ310が直接マグネットピース6に接触することがない。つまり、マグネットピース6は、キャビティ46の長手方向の一端に連結した副ランナー28および他端に連結した樹脂溜まり部326で冷却固化した磁性樹脂材料323および128がイジェクタ310により突き出されることにより、可動側入れ子35のキャビティ46から取り出される。かかる構成により、イジェクタ310がマグネットピース6に接触することが無いので、マグネットピース6にイジェクタ310の跡が付かない。このため、マグネットピース6にイジェクタ310の跡が付くことによるマグネットピース6の表面の磁束密度の乱れを防止することができる。
【0042】
〔イジェクタの構成4〕
また、非磁性材料からなる可動側入れ子35の他の構成について以下に説明する。図28および図31に示すように、可動側入れ子35および固定側入れ子36を組み合わせることにより、キャビティ46と、このキャビティ46の長手方向の一端380にゲート39を介して連通した副ランナー28と、キャビティ46の長手方向の他端381に連通した樹脂溜まり部377が形成される。
【0043】
そして、可動側入れ子35側の副ランナー28および樹脂溜まり部377にイジェクタ310が設けられており、副ランナー28および樹脂溜まり部377の溶融した磁性樹脂材料が冷却固化した成形物を、イジェクタ310により突き出すことにより、可動側入れ子35のキャビティ46中のマグネットピース46を取り出すことができる。
【0044】
また、図28、図30および図34に示すように、可動側入れ子35側のキャビティ46におけるゲート39の近傍に、キャビティ46に突出した突出部378を設けると共に、樹脂溜まり部377の断面積を、キャビティ46の長手方向の他端381に向かって除々に大きくすることが望ましい。
【0045】
前記した構成3との主な相違点は、突出部378および樹脂溜まり部377であるため、これらについて詳細に説明する。
(突出部378)
図34に示すように、突出部378は、可動側入れ子35のキャビティ46に突出するように設けられている。この突出部378は、可動側入れ子35のキャビティ46内のマグネットピース6が成形物(副ランナー28の一部および樹脂溜まり部で固化した磁性樹脂材料)と共にイジェクタ310により可動型13の型開き方向に突き出される際に、マグネットピース6からスムーズに抜けるように可動型13の型開き方向に対してアンダーカット(マグネットピースを射出成形金型から取り出す際に型開き方向に対して引っ掛かりとなる部分)にならないように可動側入れ子35に形成されている。
【0046】
本構成4においては、突出部378として、可動側入れ子35のキャビティ46のキャビティ面の底面に、直径1.5mm(図34のF=1.5mm)、高さ1.5mm(図34のE=1.5mm)のピンを突出させた。尚、図34におけるG寸法は、マグネットピース6の熱収縮に負けない肉厚であれば良く、本構成4においては、G=1.5mmとした。尚、突起部378の位置は、キャビティ46の長手方向の一端380から10mm以内の範囲に設けることが望ましい。かかる範囲であれば、長手方向の磁力均一性に影響が出にくいからである。
【0047】
(樹脂溜まり部377)
樹脂溜まり部377は、図28〜図31に示すように、可動側入れ子35の樹脂溜まり部374と、固定側入れ子36の樹脂溜まり部375を型閉じにより合わせることにより形成される。これら樹脂溜まり部374および375の構成以外は同一であるため、樹脂溜まり部374について詳細に説明する。
【0048】
図32および図33(図32のA−A断面図)に示すように、樹脂溜まり部374は、可動側入れ子35のキャビティ34の他端381に向かって徐々に断面積が大きくなるように構成されている。より詳細に説明すると、図32および図33において樹脂溜まり部374の末端382から、キャビティ46の他端381に向かって、幅寸法がB<C<D、高さ寸法がE<F<Gとなるようになっている。尚、BとE、CとF、DとGの位置が対応している。
【0049】
このように構成することにより、キャビティ46および樹脂溜まり部377の内部に満たされた溶融した磁性樹脂材料が冷却固化してマグネットピース6が形成される際、キャビティ46の一端380側においてはマグネットピース6に突出部378が突入しているので、マグネットピース6の一端380側は、キャビティ46の他端381側に向かって収縮できない。
【0050】
しかし、マグネットピース6の他端381側は、樹脂溜まり部377が前記したように構成されているので、樹脂溜まり部377の内部で形成された成形物および当該成形物に接続したマグネットピース6の他端381側は、キャビティ46の一端380側に向かって自由に収縮できる。
【0051】
このため、キャビティ46内の溶融樹脂が冷却固化し、マグネットピース6が形成される際のマグネットピース6の収縮は専らキャビティ46の他端381側で発生するので、マグネットピース6と副ランナー128がゲート39が位置する部分において分離(切断)されることがなく、イジェクタ310により成形物を突き出すことによりマグネットピース6も可動側入れ子35から安定して突き出すことができる。
【0052】
かかる構成4を用いることにより、イジェクタ310は、マグネットピース6に接触することが無いので、マグネットピース6にイジェクタ310の跡が付かない。このため、マグネットピース6にイジェクタ310の跡が付くことによるマグネットピース6の表面の磁束密度の乱れを防止することができる。
【0053】
前記した構成1乃至4は、説明で例示したキャビティ以外のキャビティにおける可動側入れ子35および固定側入れ子36においても同様に構成できることはいうまでもない。また、構成1乃至4は、図5乃至8を用いて説明した多数個取り金型20に対し、単独で(イジェクタの構成1のみ、イジェクタの構成2のみ、イジェクタの構成3のみ、イジェクタの構成4のみ)用いることができるし、イジェクタの構成1およびイジェクタの構成2のように、相互に自由に組み合わせて用いることができる。
【0054】
(マグネットロールの製造方法)
前記した製造方法により得られたマグネットピース3〜8を、図1および図3に示したように、接着剤が塗布されたシャフト2に貼り付けた後、所望の磁束密度が出るように着時することにより、高品質なマグネットロール1を製造することができる。
【実施例2】
【0055】
他の実施例を図9を用いて説明する。
尚、説明を分かりやすくするため、実施例1との相違点のみを詳細に説明し、実施例と同一の部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
図9は、多数個取り金型を正面から見た断面図である。
【0056】
本実施例2の実施例1との相違点は、強い磁束密度が必要な現像極のマグネットピース3を製造するためのキャビティ43を、磁性材料からなる可動側入れ子40と、非磁性材料からなる固定側入れ子36により構成した点である。かかる構成により、磁束密度の高いマグネットピース3を製造することができる。
【0057】
前記した実施例は、説明のために例示したものであって、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載から当事者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更、削除および付加が可能である。
【0058】
例えば、前記したマグネットロール1は、6つのマグネットピース3〜8をシャフト2の周りに貼り合わせたものを示したが、マグネットピースの数は6つに限るものではなく、複数であれば5つ以下であっても、7つ以上であっても良い。
【0059】
また、図37に示すように、前記した実施例において、固定側取付盤38の溶融した磁性樹脂材料の流路(主ランナー27および副ランナー28)に、ホットランナーを用いても良い。
【0060】
また、前記した第3発明および第4発明は、以下のように把握することもできる。
(第3発明)
第1発明または第2発明に記載の多数個取り金型を準備し、
前記主ランナーに溶融した磁性樹脂材料を射出し、前記配向ヨークに電流を流しながら、前記副ランナーおよび前記ゲートを介して全ての前記キャビティを前記溶融した磁性樹脂材料で満たした後、
前記可動型および前記固定型を冷却して前記溶融した磁性樹脂材料を冷却固化し、
前記配向ヨークに逆電流を流して前記冷却固化した磁性樹脂材料を型内脱磁し、
前記複数のキャビティから前記複数のマグネットピースを取り出すマグネットピースの製造方法
【0061】
(第4発明)
第3発明に記載の製造方法により製造した前記複数のマグネットピースを、外周に接着剤が塗布されたシャフトの周りに貼り合わせた後、
表面に所望の磁力が出るように着磁するマグネットロールの製造方法
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、画像形成装置等に使用されるマグネットロールを製造するためのマグネットピースに適用される。
【符号の説明】
【0063】
1 マグネットロール
2 シャフト
3〜8 マグネットピース
13 可動型
14 固定型
17 配向ヨーク
20 多数個取り金型
27 主ランナー
28 副ランナー
35 可動側入れ子
36 固定側入れ子
39 ゲート
43〜48 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性材料からなる可動側入れ子が複数固定された可動型と、
該可動側入れ子に対応して設けられた非磁性材料からなる固定側入れ子が複数固定された固定型と、
該固定側入れ子の個々に設けられた配向ヨークとを備え、
1本のマグネットロールで使用される複数のマグネットピースを配向磁場中で成形するための多数個取り金型において、
前記可動型および前記固定型を型閉じすることにより、一対の前記可動側入れ子と前記固定側入れ子の間にマグネットピースを成形するためのキャビティが形成され、
個々の該キャビティには、前記固定型に形成された主ランナーが分岐した副ランナーがゲートを介して連通しており、
横断面積の小さい前記キャビティほど前記主ランナーの近くに配置され、横断面積の大きい前記キャビティほど前記主ランナーから離れて配置されたことを特徴とする多数個取り金型
【請求項2】
前記可動側入れ子の少なくとも1つが磁性材料からなる請求項1に記載の多数個取り金型
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の多数個取り金型を準備し、
前記主ランナーに溶融した磁性樹脂材料を射出し、前記副ランナーおよび前記ゲートを介して全ての前記キャビティを前記溶融した磁性樹脂材料で満たした後、
前記可動型および前記固定型を冷却して前記溶融した磁性樹脂材料を冷却固化し、
前記複数のキャビティから前記複数のマグネットピースを取り出すマグネットピースの製造方法
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法により製造した前記複数のマグネットピースを、外周に接着剤が塗布されたシャフトの周りに貼り合わせるマグネットロールの製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2011−71148(P2011−71148A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218362(P2009−218362)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】