説明

多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置

【課題】空燃比フィードバック制御を実行可能な多気筒内燃機関において、気筒間空燃比ばらつき異常をより適切に検出する。
【課題手段】1つ以上の気筒を含む所定の対象気筒の燃料噴射量を強制的に所定量変更する噴射量変更手段と、前記噴射量変更手段が燃料噴射量を変更したときの出力変動に基づき気筒間空燃比ばらつき異常を検出するばらつき異常検出手段(S705)と、排気通路に設けられた空燃比検出手段の出力に基づいて検出される空燃比を所定の目標空燃比に追従させる空燃比フィードバック制御を実行する空燃比制御手段と、を備えた多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。噴射量変更手段が燃料噴射量を変更しているときに空燃比制御手段による空燃比フィードバック制御の実行を禁止する(S703)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関の気筒間空燃比のばらつき異常を検出するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒を利用した排気浄化システムを備える内燃機関では、排気中有害成分の触媒による浄化を高効率で行うため、内燃機関で燃焼される混合気の空気と燃料との混合割合、すなわち空燃比のコントロールが欠かせない。こうした空燃比の制御を行うため、内燃機関の排気通路に空燃比センサを設け、これによって検出された空燃比を所定の目標空燃比に追従させるようフィードバック制御を実施している。
【0003】
一方、多気筒内燃機関においては、通常全気筒に対して同一の制御量を用いて空燃比制御を行うため、空燃比制御を実行したとしても実際の空燃比が気筒間でばらつくことがある。このときばらつきの程度が小さければ、空燃比フィードバック制御で吸収可能であり、また触媒でも排気中有害成分を浄化処理可能なので、排気エミッションに影響を与えず、特に問題とならない。
【0004】
しかし、例えば一部の気筒の燃料噴射系や吸気バルブの動弁機構が故障するなどして、気筒間の空燃比が大きくばらつくと、排気エミッションを悪化させてしまい、問題となる。このような排気エミッションを悪化させる程の大きな空燃比ばらつきは異常として検出するのが望ましい。
【0005】
例えば、特許文献1が開示する内燃機関では、まず、空燃比フィードバック制御の演算値に基づいて内燃機関の気筒間の空燃比がインバランス状態になっていることが判断される。当該内燃機関では排気通路の浄化触媒の上流側に設けられたA/Fセンサの検出結果に基づいてメイン空燃比フィードバック制御が実行され、そしてその浄化触媒の下流側に設けられたO2センサの検出結果に基づいてサブ空燃比フィードバック制御が実行される。このサブ空燃比フィードバック制御の演算値の平均値が通常値を超えるときに気筒間の空燃比がインバランス状態になっていると判断される。さらに、特許文献1の内燃機関では、そのようにして気筒間に空燃比異常があると判断したときに、各気筒への燃料噴射時間を所定時間ずつ短縮させる処理が実行され、それにより失火が生じた気筒が空燃比インバランスが生じている気筒であると特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−112244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多気筒内燃機関において、各気筒への燃料噴射量を強制的に変える燃料噴射量変更制御を実行することで、気筒間空燃比ばらつき異常つまり気筒間の空燃比がインバランス状態になっていることを検出することが可能である。しかし、そのような燃料噴射量変更制御を実行しているときにも、空燃比を理論空燃比などの所定の目標空燃比に追従させる空燃比フィードバック制御が実行され得る。この場合、空燃比フィードバック制御の実行により、燃料噴射量変更制御により変更された燃料噴射量が元に戻される方向に再び変更され、気筒間空燃比ばらつき異常の検出を妨げる可能性がある。
【0008】
そこで本発明は、以上の事情に鑑みて創案され、その目的は、空燃比フィードバック制御を実行可能な多気筒内燃機関において、気筒間空燃比ばらつき異常をより適切に検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様は、
1つ以上の気筒を含む所定の対象気筒の燃料噴射量を強制的に所定量変更する噴射量変更手段と、
前記噴射量変更手段が燃料噴射量を変更したときの出力変動に基づき気筒間空燃比ばらつき異常を検出するばらつき異常検出手段と、
排気通路に設けられた空燃比検出手段の出力に基づいて検出される空燃比を所定の目標空燃比に追従させる空燃比フィードバック制御を実行する空燃比制御手段と、
を備えた多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置において、
前記噴射量変更手段が燃料噴射量を変更しているときに前記空燃比制御手段による空燃比フィードバック制御の実行を禁止する禁止手段を更に備えたことを特徴とする多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図2】触媒前センサおよび触媒後センサの出力特性を示すグラフである。
【図3】回転変動を表す値を説明するためのタイムチャートである。
【図4】回転変動を表す別の値を説明するためのタイムチャートである。
【図5】一の対象気筒のインバランス率と回転変動量との関係を概念的に表したグラフである。
【図6】図5の特性線の一部を表したグラフであり、燃料噴射量の増量と、増量前後の回転変動量の変化との関係を説明するためのグラフである。
【図7】第1実施形態の処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】空燃比ばらつき異常検出処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0012】
図1は、本発明の第1実施形態に係る内燃機関(エンジン)10の概略図である。図示されるように、エンジン10は、シリンダブロック12を含むエンジン10内に形成された燃焼室14で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室14内でピストンを往復移動させることにより動力を発生する。エンジン10は、1サイクル4ストロークエンジンである。エンジン10は自動車用の多気筒内燃機関であり、より具体的には直列4気筒の火花点火式内燃機関すなわちガソリンエンジンである。ここではエンジン10は車両に搭載されている。ただし本発明が適用可能な内燃機関はこのようなものに限られず、2気筒以上を有する多気筒内燃機関であれば気筒数、形式等は特に限定されない。
【0013】
図示しないが、エンジン10のシリンダヘッドには吸気ポートを開閉する吸気弁と、排気ポートを開閉する排気弁とが気筒ごとに配設されている。各吸気弁および各排気弁はカムシャフトによって開閉させられる。シリンダヘッドの頂部には、燃焼室14内の混合気または燃料に点火するための点火プラグ16が気筒ごとに取り付けられている。
【0014】
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管18を介して吸気集合室であるサージタンク20に接続されている。サージタンク20の上流側には吸気管22が接続されており、吸気管22の上流端にはエアクリーナ24が設けられている。そして吸気管22には、上流側から順に、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ26と、電子制御式のスロットルバルブ28とが組み込まれている。吸気ポート、枝管18、サージタンク20および吸気管22により吸気通路30が実質的に形成される。
【0015】
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射する燃料噴射弁(インジェクタ)32が気筒ごとに配設される。インジェクタ32から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁の開弁時に燃焼室14に吸入され、ピストンで圧縮され、点火プラグ16で点火燃焼させられる。
【0016】
一方、各気筒の排気ポートは排気マニホールド34に接続される。排気マニホールド34は、その上流部をなす気筒毎の枝管34aと、その下流部をなす排気集合部34bとからなる。排気集合部34bの下流側には排気管36が接続されている。排気ポート、排気マニホールド34および排気管36により排気通路38が形成される。排気管36には三元触媒を含む触媒コンバータ40が取り付けられている。この触媒コンバータ40が排気浄化装置をなしている。なお、触媒コンバータ40は、流入する排気の空燃比(排気空燃比)A/Fが理論空燃比(ストイキ、例えばA/F=14.6)近傍のときに排気中の有害成分であるNOx、HCおよびCOを同時に浄化するように機能する。
【0017】
触媒コンバータ40の上流側および下流側にそれぞれ排気空燃比を検出するための第1および第2空燃比センサ、すなわち触媒前センサ42および触媒後センサ44が設置されている。これら触媒前センサ42および触媒後センサ44は、触媒コンバータ40の直前および直後の位置の排気通路に設置され、排気中の酸素濃度に基づく信号を出力する。なお、触媒後センサ44は設けられなくてもよい。なお、ここでは触媒前センサ42および触媒後センサ44はそれぞれ空燃比検出手段であるが、触媒後センサ44が省かれる場合には空燃比検出手段として触媒前センサ42のみが設けられる。
【0018】
上述の点火プラグ16、スロットルバルブ28およびインジェクタ32等は、電子制御ユニット(ECU)50に電気的に接続されている。ECU50は、エンジン10における各種制御手段(制御装置)および各種検出手段(検出部)としての各機能を実質的に担うように構成されている。ECU50は、何れも図示されないCPU、ROMおよびRAMを含む記憶装置、並びに入出力ポート等を含むものである。またECU50には、図示されるように、前述のエアフローメータ26、触媒前センサ42、触媒後センサ44のほか、内燃機関10のクランク角を検出するためのクランク角センサ52、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ54、エンジン冷却水温を検出するための水温センサ56、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU50は、各種センサによる出力および/または検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ16、スロットルバルブ28、インジェクタ32を含む各種アクチュエータを制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
【0019】
このようにECU50は、燃料噴射制御手段、点火制御手段、吸入空気量制御手段、およびこれらのうちの部分の組み合わせとして構成される空燃比制御手段等のそれぞれの機能を担う。より詳細には、エンジン10には後で詳述するように気筒間空燃比ばらつき異常検出装置が実装されていて、ECU50は、噴射量変更手段、空燃比制御手段、気筒間空燃比ばらつき異常を検出するばらつき異常検出手段、および、噴射量変更手段が燃料噴射量を変更しているときに空燃比制御手段による空燃比フィードバック制御の実行を禁止する禁止手段の各機能を実質的に担う。なお、本実施形態では、そのばらつき異常検出手段は、エンジン10におけるある出力変動を表す値(出力変動量)を検出するための出力変動量検出手段と、該出力変動量検出手段により検出された出力変動量と所定値との比較を行う比較手段とのそれぞれを含む。
【0020】
またスロットルバルブ28にはスロットル開度センサ(図示せず)が設けられ、スロットル開度センサからの出力信号がECU50に送られる。ECU50は、通常、アクセル開度に応じて定まる開度に、スロットルバルブ28の開度(スロットル開度)をフィードバック制御する。
【0021】
またECU50は、エアフローメータ26からの出力信号に基づき、単位時間当たりの吸入空気の量すなわち吸入空気量を検出する。そしてECU50は、検出したアクセル開度、スロットル開度および吸入空気量の少なくとも一つに基づき、エンジン10の負荷を検出する。
【0022】
ECU50は、クランク角センサ52からのクランクパルス信号に基づき、クランク角自体を検出すると共にエンジン10の回転数を検出する。ここで「回転数」とは単位時間当たりの回転数のことをいい、回転速度と同義である。本実施形態では回転数とは1分間当たりの回転数rpmのことをいう。なお、ECU50の気筒間空然比ばらつき異常を検出するばらつき異常検出手段として実質的に機能する部分は、出力検出手段としてのクランク角センサ52の出力に基づいて出力変動量としての回転変動を表す値(回転変動量)を検出する。
【0023】
そして、ECU50は、通常、吸入空気量およびエンジン回転速度つまりエンジン運転状態に基づいて、予め記憶装置に記憶されているプログラム、マップ又は関数を含むデータを用いて、燃料噴射量(または燃料噴射時間)を設定する。そして、その燃料噴射量に基づいて、インジェクタ32からの燃料の噴射が制御される。なお、このような通常時の燃料噴射制御による燃料噴射量をここでは通常時燃料噴射量と称する。
【0024】
ところで、空燃比センサである触媒前センサ42は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能である。図2に触媒前センサ42の出力特性を示す。図示するように、触媒前センサ42は、検出した排気空燃比(触媒前空燃比A/Ff)に比例した大きさの電圧信号Vfを出力する。排気空燃比がストイキ(理論空燃比、例えばA/F=14.5)であるときの出力電圧はVreff(例えば約3.3V)である。
【0025】
他方、空燃比センサである触媒後センサ44は所謂O2センサからなり、ストイキを境に出力値が急変する特性を持つ。図2に触媒後センサ44の出力特性を示す。図示するように、排気空燃比(触媒後空燃比A/Fr)がストイキであるときの出力電圧、すなわちストイキ相当値はVrefr(例えば0.45V)である。触媒後センサ44の出力電圧は所定の範囲(例えば0〜1V)内で変化する。概して排気空燃比がストイキよりリーンのとき、触媒後センサの出力電圧Vrはストイキ相当値Vrefrより低くなり、排気空燃比がストイキよりリッチのとき、触媒後センサの出力電圧Vrはストイキ相当値Vrefrより高くなる。
【0026】
触媒コンバータ40は三元触媒を備え、上記したように、そこに流入する排気ガスの空燃比A/Fがストイキ近傍のときに排気中の有害成分であるNOx、HCおよびCOを同時に浄化する機能を有する。しかし、この三者を同時に高効率で浄化できる空燃比の幅(ウィンドウ)は比較的狭い。
【0027】
そこで、エンジン10の通常運転時、触媒コンバータ40に流入する排気の空燃比をストイキ近傍に制御するための空燃比制御(ストイキ制御)がECU50により実行される。この空燃比制御は、触媒前センサ42によって検出された排気空燃比が所定の目標空燃比に一致するように混合気の空燃比(具体的には燃料噴射量)をフィードバック制御する主空燃比制御(主空燃比フィードバック制御)と、触媒後センサ44によって検出された排気空燃比がその所定の目標空燃比に一致するように混合気の空燃比(具体的には燃料噴射量)をフィードバック制御する補助空燃比制御(補助空燃比フィードバック制御)とからなる。具体的には、主空燃比フィードバック制御では、触媒前センサ42の出力に基づいて検出される現状の排気空燃比を所定の目標空燃比に追従させるために、第1補正係数を演算して、この第1補正係数に基づいてインジェクタ32からの燃料噴射量を調整するような制御が実行される。そして、さらに補助空燃比フィードバック制御では、触媒後センサ44の出力に基づいて、第2補正係数を演算し、主空燃比フィードバック制御にて得られた第1補正係数を修正するような制御が実行される。ただし、本実施形態において、上記所定の目標空燃比つまり空燃比の基準値(目標値)はストイキであり、このストイキに相当する燃料噴射量(ストイキ相当量という)が燃料噴射量の基準値(目標値)である。但し、空燃比および燃料噴射量の基準値は他の値とすることもできる。
【0028】
さて、例えば全気筒のうちの一部の気筒(特に1気筒)において、インジェクタ32の故障等が発生し、気筒間に空燃比のばらつき(インバランス:imbalance)が発生することがある。例えばインジェクタ32の閉弁不良により#1気筒の燃料噴射量が他の#2,#3,#4気筒の燃料噴射量よりも多くなり、#1気筒の空燃比が他の#2,#3,#4気筒の空燃比よりも大きくリッチ側にずれる場合である。
【0029】
このときでも、前述の空燃比フィードバック制御により比較的大きな補正量を与えれば、触媒前センサ42に供給されるトータルガス(合流後の排気ガス)の空燃比をストイキに制御できる場合がある。しかし、気筒別に見ると、#1気筒がストイキより大きくリッチ、#2,#3,#4気筒がストイキよりリーンであり、全体としてストイキとなっているに過ぎず、排気エミッション上好ましくないことは明らかである。そこで本実施形態では、かかる気筒間空燃比ばらつき異常を検出する装置が装備されている。
【0030】
ここで、気筒間空燃比のばらつき度合いを表す指標値としてインバランス率なる値を用いる。インバランス率とは、複数の気筒のうちある1気筒のみが燃料噴射量ズレを起こしている場合に、その燃料噴射量ズレを起こしている気筒(インバランス気筒)の燃料噴射量がどれくらいの割合で、燃料噴射量ズレを起こしていない気筒(バランス気筒)の燃料噴射量すなわち基準噴射量からズレているかを示す値である。インバランス率をIB(%)、インバランス気筒の燃料噴射量をα、バランス気筒の燃料噴射量すなわち基準噴射量をβとすると、IB=(α−β)/β×100で表される。インバランス率IBが大きいほど、インバランス気筒のバランス気筒に対する燃料噴射量ズレが大きく、空燃比ばらつき度合いは大きい。
【0031】
他方、本実施形態においては、所定の対象気筒の燃料噴射量をアクティブにまたは強制的に増量または減量し、少なくとも燃料噴射量の増量または減量後の対象気筒の出力変動としての回転変動に基づき、ばらつき異常を検出する。
【0032】
まず、回転変動について説明する。回転変動とは、エンジン回転速度あるいはクランクシャフト回転速度の変化をいう。そして本明細書では、上記したように回転変動を表す値つまり回転変動の程度を表した値を回転変動量と称する。例えば、クランクシャフトが所定角度回転するのに要する時間を計測し、その計測値を演算処理することで求められる値(量)が回転変動量として用いられることができる。以下の図3および図4を用いた説明で、種々の値を回転変動量として用いることができることが理解されるだろう。
【0033】
図3には回転変動を説明するための一例としてのタイムチャートを示す。図示例はエンジン10と同様に直列4気筒エンジンの例であるが、他の形式および気筒配列のエンジンにも同様に適用可能であることが理解されよう。なお、図3の例での点火順序は#1,#3,#4,#2気筒の順である。
【0034】
図3において、(A)はエンジンのクランク角(°CA)を示す。1エンジンサイクルは720(°CA)であり、図には逐次的に検出される複数サイクル分のクランク角が鋸歯状に示されている。
【0035】
図3(B)は、クランクシャフトが所定角度だけ回転するのに要した時間、すなわち回転時間T(s)を示す。ここでは所定角度が30(°CA)であるが、他の値(例えば10(°CA))としてもよい。回転時間Tが長いほど(図中上側に至るほど)エンジン回転速度は遅く、逆に回転時間Tが短いほどエンジン回転速度は速い。この回転時間Tはクランク角センサ52の出力に基づきECU50により検出される。
【0036】
図3(C)は、後に説明する回転時間差ΔTを示す。図中、「正常」とは、いずれの気筒にも空燃比ずれが生じていない正常な場合を示し、「リーンずれ異常」とは、#1気筒のみにインバランス率IB=−30%のリーンずれが生じている異常な場合を示す。リーンずれ異常は例えばインジェクタの噴孔詰まりや開弁不良により生じ得る。
【0037】
まず、各気筒の同一タイミングにおける回転時間TがECUにより検出される。ここでは各気筒の圧縮上死点(TDC)のタイミングにおける回転時間Tが検出される。この回転時間Tが検出されるタイミングを検出タイミングという。
【0038】
次いで、検出タイミング毎に、当該検出タイミングにおける回転時間T2と、直前の検出タイミングにおける回転時間T1との差(T2−T1)がECUにより算出される。この差が図3(C)に示す回転時間差ΔTであり、ΔT=T2−T1である。
【0039】
通常、クランク角がTDCを超えた後の燃焼行程では回転速度が上昇するため回転時間Tが低下し、その後の圧縮行程では回転速度が低下するため回転時間Tが増大する。
【0040】
しかしながら、図3(B)に示すように#1気筒がリーンずれ異常の場合、#1気筒を点火させても十分なトルク(出力)が得られず、回転速度が上昇しづらいので、その影響で#3気筒TDCにおける回転時間Tは大きくなっている。それ故、#3気筒TDCにおける回転時間差ΔTは、図3(C)に示すように大きな正の値となる。この#3気筒TDCにおける回転時間および回転時間差をそれぞれ#1気筒の回転時間および回転時間差とし、それぞれT1およびΔT1で表す。他の気筒についても同様である。
【0041】
次に、#3気筒は正常であるので、#3気筒を点火させたときには回転速度が急峻に上昇する。これにより次の#4気筒TDCのタイミングでは、#3気筒TDCのときに比べ回転時間Tが若干低下しているに過ぎない。それ故、#4気筒TDCにおいて検出された#3気筒の回転時間差ΔT3は、図3(C)に示すように小さな負の値となる。このようにある気筒の回転時間差ΔTが、点火気筒TDC毎に検出される。
【0042】
以降の#2気筒TDCおよび#1気筒TDCにおいても#4気筒TDCのときと同様の傾向が見られ、両タイミングにおいて検出された#4気筒の回転時間差ΔT4および#2気筒の回転時間差ΔT2はともに小さな負の値となっている。以上の特性が1エンジンサイクル毎に繰り返される。
【0043】
このように、各気筒の回転時間差ΔTは、各気筒の回転変動を表す値であり、各気筒の空燃比ずれ量に相関した値であることが分かる。そこで各気筒の回転時間差ΔTを各気筒の回転変動の指標値つまり回転変動量として用いることができる。各気筒の空燃比ずれ量が大きいほど、各気筒の回転変動は大きくなり、各気筒の回転時間差ΔTは大きくなる。
【0044】
他方、図3(C)に示すように、正常の場合には回転時間差ΔTが常時ゼロ付近である。
【0045】
図3の例ではリーンずれ異常の場合を示したが、逆のリッチずれ異常、すなわち1気筒のみに大きなリッチずれが生じている場合にも、同様の傾向がある。大きなリッチずれが生じた場合、点火しても燃料過多のため燃焼が不十分となり、十分なトルクが得られず、回転変動が大きくなるからである。
【0046】
次に、図4を参照して、回転変動を表す別の値つまり別の回転変動量の例を説明する。図4(A)は図3(A)と同様にエンジンのクランク角(°CA)を示す。
【0047】
図4(B)は、前記回転時間Tの逆数である角速度ω(rad/s)を示す。ω=1/Tである。当然ながら、角速度ωが大きいほどエンジン回転速度は速く、角速度ωが小さいほどエンジン回転速度は遅い。角速度ωの波形は、回転時間Tの波形を上下反転した形となる。
【0048】
図4(C)は、前記回転時間差ΔTと同様、角速度ωの差である角速度差Δωを示す。角速度差Δωの波形も、回転時間差ΔTの波形を上下反転した形となる。図中の「正常」および「リーンずれ異常」については図3と同様である。
【0049】
まず、各気筒の同一タイミングにおける角速度ωがECUにより検出される。ここでも各気筒の圧縮上死点(TDC)のタイミングにおける角速度ωが検出される。角速度ωは、1を前記回転時間Tで除することにより算出される。
【0050】
次いで、検出タイミング毎に、当該検出タイミングにおける角速度ω2と、直前の検出タイミングにおける角速度ω1との差(ω2−ω1)がECUにより算出される。この差が図4(C)に示す角速度差Δωであり、Δω=ω2−ω1である。
【0051】
通常、クランク角がTDCを超えた後の燃焼行程では回転速度が上昇するため角速度ωが上昇し、その後の圧縮行程では回転速度が低下するため角速度ωが低下する。
【0052】
しかしながら、図4(B)に示すように#1気筒がリーンずれ異常の場合、#1気筒を点火させても十分なトルクが得られず、回転速度が上昇しづらいので、その影響で#3気筒TDCにおける角速度ωは小さくなっている。それ故、#3気筒TDCにおける角速度差Δωは、図4(C)に示すように大きな負の値となる。この#3気筒TDCにおける角速度および角速度差をそれぞれ#1気筒の角速度および角速度差とし、それぞれω1およびΔω1で表す。他の気筒についても同様である。
【0053】
次に、#3気筒は正常であるので、#3気筒を点火させたときには回転速度が急峻に上昇する。これにより次の#4気筒TDCのタイミングでは、#3気筒TDCのときに比べ角速度ωが若干上昇するに過ぎない。それ故、#4気筒TDCにおいて検出された#3気筒の角速度差Δω3は、図4(C)に示すように小さな正の値となる。このようにある気筒の角速度差Δωが、次点火気筒TDC毎に検出される。
【0054】
以降の#2気筒TDCおよび#1気筒TDCにおいても#4気筒TDCのときと同様の傾向が見られ、両タイミングにおいて検出された#4気筒の角速度差Δω4および#2気筒の角速度差Δω2はともに小さな正の値となっている。以上の特性が1エンジンサイクル毎に繰り返される。
【0055】
このように、各気筒の角速度差Δωは、各気筒の回転変動を表す値であり、各気筒の空燃比ずれ量に相関した値であることが分かる。そこで各気筒の角速度差Δωを各気筒の回転変動の指標値として用いることができる。各気筒の空燃比ずれ量が大きいほど、各気筒の回転変動は大きくなり、各気筒の角速度差Δωは小さくなる(マイナス方向に大きくなる)。
【0056】
他方、図4(C)に示すように、正常の場合には角速度差Δωが常時ゼロ付近である。
【0057】
逆のリッチずれ異常の場合にも同様の傾向がある点は上述した通りである。
【0058】
次に、ある1気筒の燃料噴射量をアクティブにつまり強制的に増量または減量して当該気筒での空燃比を変化させたときの回転変動量の変化を、図5の概念図を参照して説明する。ただし、この場合、燃料噴射量をアクティブに増量または減量するとき、吸入空気量は変化しないようにスロットルバルブ28等の作動は制御される。
【0059】
図5において、横軸はインバランス率IBを示し、縦軸は回転変動量を示す。ここでは、全4気筒のうちのある1気筒のみのインバランス率IBを燃料噴射量を増減させることで変化させ、このときの当該1気筒のインバランス率IBと当該1気筒の回転変動量との関係を線L1に従って示す。当該1気筒をアクティブ対象気筒という。他の気筒は全てバランス気筒であり、基準噴射量としてストイキ相当量を噴射しているものとする。
【0060】
なお、図5では横軸にインバランス率が用いられるが、インバランス率に代えて空燃比が用いられることができる。図5では左側に至るほどインバランス率がプラス方向に大きくなるが、これに対応して、インバランス率の代わりに空燃比が用いられる場合には、図中左側に至るほど空燃比はリッチになる。
【0061】
図5の横軸には、インバランス率IBがとられている。図5中、アクティブ対象気筒の燃料噴射量がストイキ相当量であるときに相当するインバランス率が0%の線Sから左側に移動するほど、インバランス率IBがプラス方向に増加し、燃料噴射量としては過多すなわちリッチな状態となる。逆に、図5中、インバランス率IBが0%の線Sから右側に移動するほど、インバランス率IBがマイナス方向に増加し(減少し)、燃料噴射量としては過少すなわちリーンな状態となる。また、図5中、上側に移動するほど、回転変動量が大きくなる。
【0062】
特性線L1から理解され得るように、アクティブ対象気筒のインバランス率IBが0%からプラス方向に増加してもマイナス方向に増加しても、アクティブ対象気筒の回転変動量は大きくなる傾向にある。そして、インバランス率IBが0%から離れるほど、特性線L1の傾きが急になり、インバランス率IBの変化量または変化割合に対する回転変動量の変化量または変化割合は大きくなる傾向にある。
【0063】
ここで、インバランス率IBがプラスの範囲の図5の一部領域が取り出されて、図6に示される。なお、図6の線L2は図5の線L1の一部に相当する。
【0064】
図6には、アクティブ対象気筒における2つのインバランス率IBの例が線A、Bで表されている。線Aにおけるインバランス率IBaは、ストイキ相当値である0%のインバランス率(図5の線S参照)からプラス方向にずれているが許容範囲内のものの一例である。これに対して、線Bにおけるインバランス率IBbは、線Aにおけるインバランス率IBaよりも燃料噴射量がさらに多い方向にずれていて、許容範囲外のものの一例である。
【0065】
ここで、通常運転時にストイキ制御を行っているときのアクティブ対象気筒の状態が線A上の状態である場合を考える。このときに、矢印F1で示すように、アクティブ対象気筒の燃料噴射量を、所定量Δf1、強制的に増量変更したとする。所定量Δf1は任意に設定されることができるが、例えば、燃料噴射量はインバランス率で約45%相当の増量が図られる。IB=0%の近辺(図6中右端側)では特性線L2の傾きが緩やかであることから、ストイキ制御を行っているときのアクティブ対象気筒の状態が線A上の状態である場合、燃料噴射量を増量変更したときの線A´上の状態における回転変動量Va´は増量前の回転変動量Vaと大きく変わらない。
【0066】
他方、ストイキ制御を行っているときのアクティブ対象気筒の状態が線B上の状態である場合を考える。このとき、アクティブ対象気筒において既に許容範囲を超えるリッチずれが生じており、そのインバランス率IBbが比較的大きなプラス側の値になっている。例えば、線Bでのインバランス率IBbは、インバランス率で約60%のリッチずれに相当する。この状態から矢印F2で示すように、アクティブ対象気筒の燃料噴射量を同一所定量Δf1、強制的に増量したとすると、燃料噴射量を増量変更したときの線B´を含む領域では特性線L2の傾きが急であることから、増量後の回転変動量Vb´は増量前の回転変動量Vbよりかなり大きく、増量前後の回転変動量の差(Vb´―Vb)は大きくなる。すなわちこのような燃料噴射量の増量により、アクティブ対象気筒の回転変動は十分大きくなる。
【0067】
よって、アクティブ対象気筒の燃料噴射量を強制的に所定量増量変更したときの少なくとも増量後のアクティブ対象気筒の回転変動量に基づき、ばらつき異常を検出することが可能である。例えば、増量後の回転変動量の大きさ(例えば|Vb´|)が所定量よりも大きいときにばらつき異常があると判断することができる。さらに、複数サイクルに関してアクティブ対象気筒に関して求めた回転変動量の平均値または統計処理して求めた値を、回転変動量として、所定量と比較することで、気筒間空然比ばらつき異常があるか否かが判断されてもよい。このように、燃料噴射量の増量により、気筒間空然比ばらつき異常があるときにはそれを顕著に燃焼室での燃料つまり混合気の燃焼状態に反映させて、その結果を回転変動量として検出して、該回転変動量に基づいて気筒間空然比ばらつき異常を検出することができる。
【0068】
なお、上記説明では、燃料噴射量を所定量分だけ強制的に増量変更させる制御(燃料噴射量増量制御)を行って、気筒間空然比ばらつき異常を検出した。これは、インバランス気筒で燃料噴射量が多い側にずれているときに有効である。
【0069】
逆に、インバランス気筒で燃料噴射量が少ない側にずれているときには、燃料噴射量を所定量Δf2分だけ強制的に減量変更させる制御(燃料噴射量減量制御)を行って、ばらつき異常を検出することが有効である。このインバランス率が負の領域で強制減量を行う場合も、上記の場合から理解できるので、その説明は省略される。ただし、燃料噴射量減量制御における減量量(大きさ)Δf2は燃料噴射量増量制御における増量量(大きさ)Δf1よりも少ないとよい。これは、リーンずれ異常気筒に対しあまりに多くの減量を行ってしまうと失火の虞があるからである。ただし、燃料噴射量の減量(または増量)により失火を生じさせ、そのときの出力変動に基づいてばらつき異常を検出することを本発明は排除しない。所定量Δf2は任意に設定されることができるが、例えば、燃料噴射量はインバランス率で約15%相当の減量がなされ得る。なお、燃料噴射量増量制御を実行して気筒間空然比ばらつき異常を検出するための閾値である上記所定値と、燃料噴射量減量制御を実行して気筒間空然比ばらつき異常を検出するための閾値である所定値は同じであっても異なってもよい。
【0070】
本実施形態では、燃料噴射量変更制御は、全気筒一律且つ同時に適用されるのではなく、一部の気筒である所定の対象気筒のみに一時に適用され、順次、燃料噴射量変更制御が適用される対象気筒は他の気筒に移行する。つまり、燃料噴射量変更制御の適用方法は、全気筒同時に行う方法の他、任意数の気筒ずつ順番に且つ交互に行う方法がある。例えば1気筒ずつ増量したり、2気筒ずつ増量したり、4気筒ずつ増量したりする方法がある。燃料噴射量を強制的に増量または減量する対象気筒の数および気筒番号は任意に設定できる。他方、燃料噴射量増量制御や燃料噴射量減量制御は、全気筒一律且つ同時に適用されることも可能であり、この場合、所定の対象気筒は全気筒である。この場合であっても、インバランス気筒における回転変動量は他の気筒に比して大きくなるものと考えられるから、気筒間空燃比ばらつき異常を好適に検出することができる。
【0071】
以上述べたように、気筒間空燃比ばらつき異常を検出するためには、上記したように、燃料噴射量を強制的に増量変更または減量変更させる制御つまり燃料噴射量変更制御を行ってインバランス率に応じた回転変動量を大きくすることが有効である。しかし、このような燃料噴射量変更制御を実行するときに、仮に空燃比フィードバック制御が実行されると、燃料噴射量変更制御により変更された燃料噴射量がズラされ、気筒間空燃比ばらつき異常の検出を妨げる可能性がある。そこで本実施形態では、気筒間空燃比ばらつき異常を検出しているときに、空燃比フィードバック制御の実行を禁止するものである。
【0072】
以下、通常時の燃料噴射制御による通常時燃料噴射量に対して燃料噴射量を増量または減量させる燃料噴射量変更制御を実行すると共に、その際に、目標空燃比の変更を伴う空燃比制御を禁止する制御を、図7のフローチャートに従って説明する。
【0073】
エンジン1が始動されると、ステップS701で、空燃比ばらつき診断制御を実行するための所定の実行条件が成立しているか否かが判定される。ここでは、実行条件として、エンジン始動後の所定の(運転)状態であることという条件が定められている。実行条件は種々定められることができる。例えば、エンジン冷却水温が所定温度(例えば70℃)以上であること、負荷が所定範囲内にあること(例えば吸入空気量が所定吸入空気量範囲(例えば15〜50g/s)にあること)、エンジン回転速度が所定エンジン回転速度域(例えば1500rpm〜2000rpm)にあることの全てを満たすことが実行条件として定められることができる。条件となるエンジン回転速度はアイドリング相当値でもよい。
【0074】
実行条件が成立している場合には、噴射量変更及びばらつき検出処理に先立って、空燃比制御禁止フラグがセット(=1)される。このフラグは、図示しない別途の空燃比制御ルーチンにおいて参照されるものであり、セット(=1)の場合には空燃比制御が禁止され、リセット(=0)の時には、別途に定められた空燃比制御の実行条件の成立を条件に、当該制御が実行される。
【0075】
そして、空燃比ばらつき診断制御が後述のとおり実行され(S705)、その終了後に、空燃比制御禁止フラグがリセット(=0)されて(S707)、本ルーチンを抜ける。したがって、以後は通常通り空燃比制御が実行され得る。
【0076】
ステップS705における空燃比ばらつき診断制御は、図8のサブルーチンに従って実行される。すなわち、エンジン1が始動されると、ステップS801で対象気筒カウンタCa、実施カウンタCcおよび変更カウンタCfがそれぞれゼロにされる。対象気筒カウンタCaは、上記したような空燃比診断用制御の実施対象となる気筒つまり(アクティブ)対象気筒の気筒を指し示すカウンタである。本実施形態では、2気筒ずつ燃料量が増減変更され、#1、#4気筒を対象気筒とする場合と、#2、#3気筒を対象気筒とする場合とがある。
【0077】
次に、ステップS803で、変更カウンタCfがゼロであるか否かが判定される。初期状態では、変更カウンタCfはゼロであるので肯定判定される。
【0078】
ステップS803の判定で肯定判定されると、ステップS805で、増量変更した燃料噴射量が算出される。ここではまず燃料噴射量を増やすための所定量としての変更量が算出される。この変更量の算出は、エンジン回転速度およびエンジン負荷に基づいて予め記憶装置に記憶する燃料噴射量増量用のデータを検索することで実行される。所定の演算式に基づいて所定の演算を行うことが行われてもよい。例えば、変更量として40%、45%などの増量用変更量が算出される。なお、この変更量はそのように可変とされずに一定とされてもよい。そして、対象気筒カウンタCaに適合した気筒の燃料噴射量がその変更量に基づいて変更される。例えば対象気筒カウンタCaがゼロのときの対象気筒は#1、#4気筒であるので、それらの気筒の基本制御用につまり通常制御用に算出された燃料噴射量つまり上記通常時燃料噴射量に、算出された変更量が加えられて、これにより燃料噴射量変更制御における燃料噴射量が定められる。例えば、変更量として40%が定められたとき、変更後の燃料噴射量は通常時燃料噴射量の140%になる。なお、ここでは、通常時燃料噴射量は、ストイキ相当量である。
【0079】
そして、ステップS807で、ステップS805で算出された量の燃料が対象気筒である#1、#4気筒のそれぞれにおけるインジェクタ32から噴射される。
【0080】
このように燃料噴射量変更制御が行われているときの回転変動量が、ステップS809で、上記したようにクランク角センサ52からの出力に基づいて算出される。このステップS809で算出された回転変動量は、ステップS811で、第1所定値以下か否かが判定される。第1所定値は、気筒間空然比ばらつき異常を検出するために定められていて、エンジン10では、第1所定値までの回転変動量は許容される。
【0081】
ステップS811で回転変動量が第1所定値以下であるので肯定判定されると、ステップS813で実施カウンタCcに1だけ加算される。そして、ステップS815で、実施カウンタCcが第2所定値であるか否かが判定される。この第2所定値は1以上の任意の整数に定められることができる。なお、実施カウンタCcは、上記ステップS805により算出された量の燃料を噴射する燃料噴射量変更制御(ステップS807)の期間を定めるように定められている。例えば、実施カウンタCcは、1サイクルの期間であってもよく、複数サイクル、例えば数十サイクルの期間であってもよい。
【0082】
ステップS815で、実施カウンタCcが第2所定値でないので否定判定されると、ステップS803以下の上記各ステップが繰り返し実行される。
【0083】
これに対して、ステップ815で実施カウンタCcが第2所定値であるので肯定判定されると、ステップS817で対象気筒カウンタCaが1だけ増やされて、次ぐステップS819で対象気筒カウンタCaが第3所定値であるか否かが判定される。ここでは第3所定値は、上記したように#1、#4気筒を対象気筒とする場合と、#2、#3気筒を対象気筒とする場合との2つのグループがあることに基づいて2に定められている。
【0084】
ステップS819で対象気筒カウンタCaが第3所定値でないので否定判定されると、ステップS803に戻り、#2、#3気筒を対象気筒としてさらに上記ステップに基づく制御が繰り返し実行される。
【0085】
ステップS819で対象気筒カウンタCaが第3所定値であるので肯定判定されると、ステップS821で対象気筒カウンタCaがゼロにされて、次ぐステップS823で変更カウンタCfが1だけ増やされる。そして、ステップS825で変更カウンタCfが第4所定値であるか否かが判定される。第4所定値は、燃料噴射量変更制御において燃料噴射量を増やす場合と減らす場合との2通りがあるので2と定められている。
【0086】
ステップS823で変更カウンタCfが1にされると、ステップS825で否定判定されて、ステップS803に戻る。ステップS803では上記したように変更カウンタCfがゼロであるか否かが判定される。
【0087】
変更カウンタCfが1であるのでステップS803で否定判定されると、ステップS827で、減量変更した燃料噴射量が算出される。ここではまず燃料噴射量を減らすための所定量としての変更量が算出される。この変更量の算出は、上記したのと同様に、エンジン回転速度およびエンジン負荷に基づいて予め記憶装置に記憶する燃料噴射量減量用のデータを検索することで実行される。所定の演算式に基づいて所定の演算を行うことが行われてもよい。例えば、変更量として10%、15%などの減量用変更量が算出される。そして、対象気筒カウンタCaに適合した気筒の基本制御用につまり通常制御用に算出された燃料噴射量つまり上記通常時燃料噴射量に、算出された変更量が加えられて、これにより燃料噴射量変更制御における燃料噴射量が定められる。例えば、変更量として10%が定められたとき、変更後の燃料噴射量は通常時燃料噴射量の90%になる。なお、ここでは、通常時燃料噴射量は、ストイキ相当量である。
【0088】
そして、ステップS827を経ると上記ステップS807に進み、以下ステップS807〜S819の上記演算および制御が実行される。ただし、ステップS809で算出された回転変動量は上記したようにステップS811で第1所定値以下か否かが判定されるが、ステップS805を経て燃料噴射量が増やされる場合と、ステップS827を経て燃料噴射量が減らされる場合とで、第1所定値が変えられてもよい。
【0089】
ステップS819で肯定判定されると、ステップS821で対象気筒カウンタCaがゼロにされて、次ぐステップS823で変更カウンタCfが1だけ増やされる。そして、ステップS825で変更カウンタCfが第4所定値であるか否かが判定される。そして、ステップS825で変更カウンタCfが第4所定値であるので肯定判定されると、当該診断制御が終了される。
【0090】
なお、ここでは、エンジン10の始動後、たった一度のみ、図7の診断制御が実行される。しかし、適宜の時期に、この診断制御が実行されてもよい。例えば、エンジン10の作動時間またはエンジン10を搭載した車両の走行距離が所定値になったときに、診断制御が実行されることができる。
【0091】
他方、ステップS811で、回転変動量が第1所定値を越えて否定判定されると、ステップS829で運転者に気筒間空然比ばらつき異常が検出されたことを知らせるべく、例えば運転席のフロントパネルに備えられた警告ランプが点灯される。これにより図7の診断制御は終了される。
【0092】
なお、このように、本実施形態では、任意の1つの気筒群または任意の1つの気筒に上記ばらつき異常が検出された場合に、図8の診断制御は終了されるが、気筒間空然比ばらつき異常がある気筒を特定するべく、全ての気筒の各々に対して個別に上記診断制御が必ず行われることも可能である。
【0093】
以上のとおり、本実施形態では、所定の対象気筒の燃料噴射量を変更したときの出力変動に基づき気筒間空燃比ばらつき異常を検出するばらつき異常検出手段と、排気通路に設けられた空燃比検出手段の出力に基づいて検出される空燃比を所定の目標空燃比に追従させる空燃比フィードバック制御を実行する空燃比制御手段と、を備えた多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置において、噴射量変更手段が燃料噴射量を変更しているときに空燃比制御手段による空燃比フィードバック制御の実行を禁止した。したがって本実施形態では、燃料噴射量変更制御により変更された燃料噴射量が空燃比フィードバック制御によって元に戻されるという制御の干渉を抑制することができ、気筒間空燃比ばらつき異常をより適切に検出することができる。
【0094】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は他の実施形態を許容する。また、本発明は、種々の形式の2つ以上の気筒を有する多気筒エンジンに適用され得、ポート噴射形式のエンジンのみならず、筒内噴射形式のエンジン、ガスを燃料として用いるエンジンなどにも適用され得る。
【0095】
また、上記実施形態では、出力変動を判断または評価するために回転変動量を用いた。しかし、他の出力の値または量、例えば空燃比の変動量を、気筒間空燃比ばらつき異常の検出のために用いることができる。
【0096】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 内燃機関(エンジン)
32 インジェクタ
40 触媒コンバータ
42 触媒前センサ
44 触媒後センサ
52 クランク角センサ
54 アクセル開度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の気筒を含む所定の対象気筒の燃料噴射量を強制的に所定量変更する噴射量変更手段と、
前記噴射量変更手段が燃料噴射量を変更したときの出力変動に基づき気筒間空燃比ばらつき異常を検出するばらつき異常検出手段と、
排気通路に設けられた空燃比検出手段の出力に基づいて検出される空燃比を所定の目標空燃比に追従させる空燃比フィードバック制御を実行する空燃比制御手段と、
を備えた多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置において、
前記噴射量変更手段が燃料噴射量を変更しているときに前記空燃比制御手段による空燃比フィードバック制御の実行を禁止する禁止手段を更に備えたことを特徴とする多気筒内燃機関の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−7279(P2013−7279A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138734(P2011−138734)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】