説明

多波長半導体レーザ装置及び該多波長半導体レーザ装置を備えた光ピックアップ装置

【課題】多波長半導体レーザ装置の小型化を図ると共に、光ピックアップ装置の小型化及び低コスト化を図りながら、出射光のS/N比を向上させる。
【解決手段】本発明に係る多波長半導体レーザ装置1は、搭載基板2と、第1の基板11、第1の半導体レーザ素子部20、及び第1の半導体レーザ素子部20とX方向に隣り合う第2の半導体レーザ素子部30を有する第1の半導体レーザ素子10と、第2の半導体レーザ素子部30とX方向に隣り合う第2の半導体レーザ素子40とを備えている。第1の半導体レーザ素子部20は、第1の発光部Aを含む第1の半導体層22を有している。第2の半導体レーザ素子部30は、第2の発光部Bを含む第2の半導体層32を有している。第2の半導体レーザ素子40は、第2の基板41と、第3の発光部Cを含む第3の半導体層42とを有している。第2の発光部Bは、搭載基板2のX方向の中央部C2の上に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多波長半導体レーザ装置及び該多波長半導体レーザ装置を備えた光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、CD(Compact Disc)及びDVD(Digital Versatile Disc)の記録及び再生等に用いられ且つ赤外光及び赤色光を出射する2波長半導体レーザ素子と、BD(Blu-ray Disc)の記録及び再生等に用いられ且つ青紫色光を出射する半導体レーザ素子とを、それぞれ、異なるパッケージに搭載し、2波長半導体レーザ素子及び半導体レーザ素子を、光源として組み込んだ光ピックアップ装置が広く一般に生産されている。
【0003】
しかしながら、上記のような光ピックアップ装置では、次のような問題が生じる。赤外光及び赤色光を出射する2波長半導体レーザ素子と、青紫色光を出射する半導体レーザ素子とが、それぞれ異なるパッケージに搭載されている。このため、出射された赤外光及び赤色光が入射されるレンズ等を含む光学系と、出射された青紫色光が入射されるレンズ等を含む光学系との計2つの光学系が必要となり、光ピックアップ装置が大型化するという問題が生じる。さらに、2つの光学系のそれぞれに対応した光学部品が必要となり、光ピックアップ装置のコストが増大するという問題が生じる。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するために、特許文献1に記載の半導体レーザ装置が提案されている。従来の半導体レーザ装置について、図10を参照しながら説明する。
【0005】
図10に示すように、従来の半導体レーザ装置1は、赤外半導体レーザ素子部20及び赤色半導体レーザ素子部30を有する2波長半導体レーザ素子10と、青紫色半導体レーザ素子40と、上面に2波長半導体レーザ素子10及び青紫色半導体レーザ素子40が搭載されたサブマウント2と、サブマウント2の下面が固着されたパッケージ(図示省略)とを備えている。
【0006】
従来の半導体レーザ装置1では、2波長半導体レーザ素子10の基板11の側面11a及び11bを、サブマウント2から離れるに従って青紫色半導体レーザ素子40との距離が大きくなるように傾斜させる。これにより、青紫色半導体レーザ素子40の発光部Cを、2波長半導体レーザ素子10の発光部A及びBに近付けて配置することができる。このため、発光部Cと発光部A及びBとの距離が大きくなることを抑制することができる。その結果、光ピックアップ装置の光学系を1つにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−49293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の半導体レーザ装置では、以下に示す問題がある。
【0009】
従来の半導体レーザ装置1では、2波長半導体レーザ素子10の基板11の側面11a及び11bが、サブマウント2から離れるに従って青紫色半導体レーザ素子40との距離が大きくなるように傾斜している。このため、2波長半導体レーザ素子10の2つの発光部A及びBのうち、青紫色半導体レーザ素子40と隣り合う発光部B、即ち、赤色半導体レーザ素子部30の発光部Bが、基板11の中央部C11から遠くに位置する。このため、サブマウント2と基板11との熱膨張係数の差異から生じる応力により、発光部Bからの出射光の偏光方向が変化するという問題がある。
【0010】
一般に、光ピックアップ装置には、波長板等の偏光素子が使用されている。このため、発光部からの出射光のうち、特定方向の偏光成分を持つ出射光のみが、実質の光出力として寄与する。従って、出射光の偏光方向が変化すると、実質の光出力の低下を招くため、出射光のS/N比(Signal to Noise ratio)が低下する。
【0011】
ところで、発光部からの出射光の光軸が、光学系の光軸(中心軸)から離れるに従って、出射光の光取り込み効率が低下する虞がある。
【0012】
図10に示すように、3つの発光部A、B及びCは、それぞれ、互いに離間している。このため、従来の半導体レーザ装置1を備えた光ピックアップ装置の光学系を、1つとした場合、発光部A、B及びCからの出射光のうち、その光軸が光学系の光軸から離れた出射光の光取り込み効率が低下する虞がある。
【0013】
特に、赤外半導体レーザ素子、赤色半導体レーザ素子及び青紫色半導体レーザ素子のうち、赤色半導体レーザ素子の高温動作特性が最も劣る。このため、赤色半導体レーザ素子部30の発光部Bからの出射光の光軸が、光学系の光軸から離れて、出射光の光取り込み効率が低下すると、実質の光出力の低下をさらに招くため、出射光のS/N比がさらに低下する。
【0014】
前記に鑑み、本発明の目的は、多波長半導体レーザ装置の小型化を図ると共に、光ピックアップ装置の小型化及び低コスト化を図りながら、出射光のS/N比を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成するため、本発明に係る多波長半導体レーザ装置は、搭載基板と、搭載基板の上面の上に搭載され、第1の基板、第1の基板の上に形成された第1の半導体レーザ素子部、及び第1の基板の上に第1の半導体レーザ素子部と第1の方向に隣り合うように形成された第2の半導体レーザ素子部を有する第1の半導体レーザ素子と、搭載基板の上面の上に第2の半導体レーザ素子部と第1の方向に隣り合うように搭載された第2の半導体レーザ素子とを備え、第1の半導体レーザ素子部は、第1の基板の上に形成され第1の発光部を含む第1の半導体層を有し、第2の半導体レーザ素子部は、第1の基板の上に形成され第2の発光部を含む第2の半導体層を有し、第2の半導体レーザ素子は、第2の基板と、第2の基板の上に形成され第3の発光部を含む第3の半導体層とを有し、第1の半導体レーザ素子及び第2の半導体レーザ素子は、上面と第1の半導体層、第2の半導体層及び第3の半導体層とが対向するように、搭載基板の上面の上に搭載され、第2の発光部は、搭載基板の第1の方向の中央部の上に位置している。
【0016】
本発明に係る多波長半導体レーザ装置によると、第2の発光部を、搭載基板の第1の方向の中央部の上に位置させる。これにより、搭載基板を支持体に固着した固着後に、第2の発光部に生じる応力を小さくすることができるため、第2の発光部からの出射光の偏光方向が変化することを抑制することができる。従って、第2の発光部からの出射光のS/N比を向上させることができる。
【0017】
さらに、同一の搭載基板の上に第1の半導体レーザ素子及び第2の半導体レーザ素子を搭載することができる。このため、多波長半導体レーザ装置の小型化を図ることができる。さらに、光ピックアップ装置の光学系を1つにすることができる。このため、光ピックアップ装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0018】
本発明に係る多波長半導体レーザ装置において、搭載基板の下面が固着された支持体をさらに備え、第2の発光部は、支持体の第1の方向の中央部の上に位置していることが好ましい。
【0019】
このようにすると、固着後に、第2の発光部に生じる応力をさらに小さくすることができるため、第2の発光部からの出射光の偏光方向が変化することをさらに抑制することができる。従って、第2の発光部からの出射光のS/N比をさらに向上させることができる。
【0020】
本発明に係る多波長半導体レーザ装置において、第2の発光部からの出射光の波長は、655nm以上で且つ665nm以下であってもよい。
【0021】
本発明に係る多波長半導体レーザ装置において、第1の発光部からの出射光の波長は、775nm以上で且つ790nm以下であり、第1の半導体層は、第1の基板の上に形成された第1導電型のクラッド層と、第1導電型のクラッド層の上に形成された活性層と、活性層の上に形成された第2導電型のクラッド層とを含み、第1導電型のクラッド層は、III族元素としてインジウム(In)を含み、V族元素としてリン(P)を含むことが好ましい。
【0022】
このようにすると、活性層と第1導電型のクラッド層との伝導帯下端のエネルギー差ΔEを大きくすることができる。このため、高温動作時であっても、キャリアオーバーフローの発生を抑制することができ、光出力の低下を生じ難くすることができる。
【0023】
本発明に係る多波長半導体レーザ装置において、第3の発光部からの出射光の波長は、400nm以上で且つ410nm以下であってもよい。
【0024】
前記の目的を達成するため、本発明に係る光ピックアップ装置は、本発明に係る多波長半導体レーザ装置と、対物レンズを含む光学系とを備え、第2の発光部は、搭載基板の第1の方向の中央部の上に位置している。
【0025】
本発明に係る光ピックアップ装置によると、第2の発光部を、搭載基板の第1の方向の中央部の上に位置させる。これにより、固着後に、第2の発光部に生じる応力を小さくすることができるため、第2の発光部からの出射光の偏光方向が変化することを抑制することができる。従って、第2の発光部からの出射光のS/N比を向上させることができる。
【0026】
さらに、同一の搭載基板の上に第1の半導体レーザ素子及び第2の半導体レーザ素子を搭載することができる。このため、多波長半導体レーザ装置の小型化を図ることができる。さらに、光ピックアップ装置の光学系を1つにすることができる。このため、光ピックアップ装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0027】
本発明に係る光ピックアップ装置において、第2の発光部からの出射光の光軸は、光学系の光軸と一致していることが好ましい。
【0028】
このようにすると、第2の発光部からの出射光の光取り込み効率の低下を抑制することができる。従って、第2の発光部からの出射光のS/N比をさらに向上させることができる。
【0029】
本発明に係る光ピックアップ装置において、搭載基板の下面が固着された支持体をさらに備え、第2の発光部は、支持体の第1の方向の中央部の上に位置していることが好ましい。
【0030】
このようにすると、固着後に、第2の発光部に生じる応力をさらに小さくすることができるため、第2の発光部からの出射光の偏光方向が変化することをさらに抑制することができる。従って、第2の発光部からの出射光のS/N比をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る多波長半導体レーザ装置を備えた光ピックアップ装置によると、多波長半導体レーザ装置の小型化を図ると共に、光ピックアップ装置の小型化及び低コスト化を図りながら、出射光のS/N比を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る多波長半導体レーザ装置の構造を示す断面図である。
【図2】図2は、サブマウントの中央部から発光部までの距離と偏光角との関係を示す図である。
【図3】図3は、2波長半導体レーザ素子の偏光角−偏光比特性を示す図である。
【図4】図4は、比較例の2波長半導体レーザ装置の構造を示す断面図である。
【図5】図5は、基板の中央部から発光部までの距離と実装後の活性層(発光部)に生じる応力との関係を示す図である。
【図6】図6は、半導体レーザ装置の構造を示す断面図である。
【図7】図7(a) 〜(c) は、赤外半導体レーザ素子部、赤色半導体レーザ素子部及び青紫色半導体レーザ素子の各々の電流−光出力特性を示す図である。
【図8】図8は、本発明の一実施形態に係る光ピックアップ装置の構造を示す図である。
【図9】図9は、対物レンズ並びに赤外出射光、赤色出射光及び青紫色出射光を示す図である。
【図10】図10は、従来の半導体レーザ装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(一実施形態)
以下に、本発明の一実施形態に係る多波長半導体レーザ装置の構造について、図1を参照しながら説明する。
【0034】
本実施形態に係る多波長半導体レーザ装置1は、図1に示すように、基板11、赤外半導体レーザ素子部20及び赤色半導体レーザ素子部30を有する2波長半導体レーザ素子10と、青紫色半導体レーザ素子40と、上面の上に2波長半導体レーザ素子10及び青紫色半導体レーザ素子40が搭載されたサブマウント(搭載基板)2と、接着剤3によりサブマウント2の下面が固着されたパッケージ(支持体)4とを備えている。
【0035】
赤外半導体レーザ素子部20と赤色半導体レーザ素子部30とは、X方向(第1の方向,図1の紙面の横方向)に隣り合うように基板11の上に形成されている。青紫色半導体レーザ素子40は、赤色半導体レーザ素子部30とX方向に隣り合うようにサブマウント2の上に搭載されている。
【0036】
赤外半導体レーザ素子部20は、例えば、785nm帯(775nm以上で且つ790nm以下)の波長のレーザ光を出射し、CDの記録及び再生等に用いられる。赤色半導体レーザ素子部30は、例えば、660nm帯(655nm以上で且つ665nm以下)の波長のレーザ光を出射し、DVDの記録及び再生等に用いられる。青紫色半導体レーザ素子40は、例えば、405nm帯(400nm以上で且つ410nm以下)の波長のレーザ光を出射し、BDの記録及び再生等に用いられる。
【0037】
2波長半導体レーザ素子10は、モノリシック型の2波長半導体レーザ素子であり、基板11と、基板11の上に形成された赤外半導体レーザ素子部20と、基板11の上に形成された赤色半導体レーザ素子部30とを備えている。基板11は、例えば、厚さが約100μmのGaAsからなる。
【0038】
赤外半導体レーザ素子部20は、基板11の上に形成され且つ発光部Aを含む半導体層22と、半導体層22の上に形成された電極層23とを有している。半導体層22は、基板11の上に形成されたp型クラッド層22cと、p型クラッド層22cの上に形成された活性層22bと、活性層22bの上に形成され且つその上に電極層23が形成されたn型クラッド層22aとを含む。p型クラッド層22c及びn型クラッド層22aは、例えば、AlGaInP系からなる。活性層22bは、例えば、AlGaAs系からなる。本明細書において、「発光部」とは、最大強度の出射光が出射される部分をいう。
【0039】
赤色半導体レーザ素子部30は、基板11の上に形成され且つ発光部Bを含む半導体層32と、半導体層32の上に形成された電極層33とを有している。半導体層32は、例えば、AlGaInP系からなる。図1において詳細な図示を省略したが、半導体層32は、基板11の上に形成されたp型クラッド層と、p型クラッド層の上に形成された活性層と、活性層の上に形成され且つその上に電極層33が形成されたn型クラッド層とを含む。p型クラッド層、活性層及びn型クラッド層は、例えば、AlGaInP系からなる。
【0040】
青紫色半導体レーザ素子40は、基板41と、基板41の上に形成され且つ発光部Cを含む半導体層42と、半導体層42の上に形成された電極層43とを備えている。基板41は、例えば、厚さが約100μmのGaNからなる。半導体層42は、例えば、GaN系からなる。図1において詳細な図示を省略したが、半導体層42は、基板41の上に形成されたp型クラッド層と、p型クラッド層の上に形成された活性層と、活性層の上に形成され且つその上に電極層43が形成されたn型クラッド層とを含む。p型クラッド層、活性層及びn型クラッド層は、例えば、GaN系からなる。
【0041】
サブマウント2は、上面の上に形成された配線部5a、配線部5b及び配線部5cを有している。配線部5a、5b及び5cには、半田層6a、6b及び6cを介して、電極層23、33及び43が接合されている。このように、2波長半導体レーザ素子10及び青紫色半導体レーザ素子40は、サブマウント2と電気的に接続されている。サブマウント2は、例えば、AlNからなる。半田層6a、半田層6b及び半田層6cは、例えば、AuSnからなる。
【0042】
2波長半導体レーザ素子10及び青紫色半導体レーザ素子40は、上面の上に形成された配線部5a、5b及び5cと電極層23、33及び43とが対向するように、サブマウント2の上面の上に搭載されている。このように、2波長半導体レーザ素子10及び青紫色半導体レーザ素子40を、サブマウント2の上にジャンクションダウンに実装する。ここで、「ジャンクションダウンに実装する」とは、電極層23、33及び43を、サブマウント2側に向けて実装することをいう。
【0043】
2波長半導体レーザ素子10及び青紫色半導体レーザ素子40を、ジャンクションダウンに実装することにより、ヒートシンクであるサブマウント2と発光部A、B及びCとの距離を、例えば数μmとし、サブマウント2と発光部A、B及びCとを近付けることができる。このため、2波長半導体レーザ素子10及び青紫色半導体レーザ素子40から発生する熱を、サブマウント2に効率良く伝導させて放熱することができる。
【0044】
本実施形態では、発光部Bは、サブマウント2のX方向の中央部C2の上に位置している。これにより、後述の図2に示すように、偏光角を小さくすることができる。さらに、発光部Bは、パッケージ4のX方向の中央部C4の上に位置していることが好ましい。
【0045】
本実施形態では、一例として、2波長半導体レーザ素子10のチップ幅W10を190μmとし、青紫色半導体レーザ素子40のチップ幅W40を100μmとしている。2波長半導体レーザ素子10と青紫色半導体レーザ素子40とが離間する幅Wは、少なくとも、実装プロセスに必要なマージン幅を確保する必要がある。本実施形態では、一例として、幅Wを30μmとしている。
【0046】
発光部Aと発光部Bとの距離Wabは、例えば、90μmである。発光部Bと発光部Cとの距離Wbcは、例えば、90μmである。発光部Bと、基板11における基板41と隣り合う側の端との距離Wbは、例えば、30μmである。発光部Cと、基板41における基板11と隣り合う側の端との距離Wcは、例えば、30μmである。
【0047】
チップ幅W10が190μmであり(チップ幅W10の2分の1が95μmであり)、距離Wbが30μmであるから、基板11のX方向の中央部C11から発光部Bまでの距離は、65μm(=95μm−30μm)である。該距離が65μmであり、距離Wabが90μmであるから、中央部C11から発光部Aまでの距離は、25μm(=90μm−65μm)である。このように、発光部Aは、中央部C11の近傍領域に位置していることが好ましい。例えば、発光部Aは、後述の図5から判るように、中央部C11から±30μmまでの領域に位置していることが好ましい。
【0048】
以下に、サブマウント2のX方向の中央部C2から発光部Bまでの距離と偏光角との関係について、図2を参照しながら説明する。
【0049】
図2において、中央部C2の位置を0μmとしている。図2において、「+△μm」とは、中央部C2からX方向のうちの一方向に△μmの距離だけ離れていることをいう。一方、「−△μm」とは、中央部C2からX方向のうちの他方向に△μmの距離だけ離れていることをいう。
【0050】
図2に示すように、中央部C2の近傍領域、例えば、中央部C2から±150μmまでの領域では、偏光方向の変化が小さく、偏光角は0°の近傍である。一方、サブマウント2のX方向の両端部では、偏光方向の変化が大きく、偏光角は大きい。
【0051】
これは、以下に説明する理由による。
【0052】
図1に示すように、サブマウント2を、接着剤3によりパッケージ4の上に固着した場合、サブマウント2と接着剤3との熱膨張係数の差異により、固着後の赤色半導体レーザ素子部30の活性層に応力が発生する。
【0053】
サブマウント2のX方向の両端部は、接着剤3により固定された部分と固定されていない部分との境界部分である。このため、両端部の位置で、サブマウント2が変形し易く、延いては、赤色半導体レーザ素子部30が変形し易い。このため、両端部では、活性層に生じる応力が大きい。一方、中央部C2の近傍領域では、活性層に生じる応力が小さい。
【0054】
活性層に応力が生じると、活性層を含む半導体層の屈折率に異方性が生じ、偏光方向の回転が生じる。
【0055】
よって、中央部C2の近傍領域では、偏光方向の変化が小さい。一方、両端部では、偏光方向の変化が大きい。
【0056】
そこで、本実施形態では、図1に示すように、発光部Bを、サブマウント2のX方向の中央部C2の上に位置させる。これにより、固着後の赤色半導体レーザ素子部30の活性層(発光部B)に生じる応力を小さくすることができ、発光部Bからの出射光の偏光方向の変化を小さくすることができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、図1に示すように、発光部Bを、パッケージ4のX方向の中央部C4の上に位置させる。これにより、固着後の赤色半導体レーザ素子部30の活性層(発光部B)に生じる応力をより小さくすることができ、発光部Bからの出射光の偏光方向の変化をより小さくすることができる。
【0058】
ところで、本実施形態では、発光部Aからの出射光の偏光方向の変化を小さくするために、発光部Aを、基板11のX方向の中央部C11の近傍領域に位置させることが好ましい。これは、以下に説明する理由による。
【0059】
以下に、本実施形態の2波長半導体レーザ素子10と、比較例の2波長半導体レーザ装置とを比較しながら、2波長半導体レーザ素子10の偏光角−偏光比特性について、図3、図4、図5及び図6を参照しながら説明する。
【0060】
本実施形態では、2波長半導体レーザ素子10は、図1に示すように、青紫色半導体レーザ素子40と同一のサブマウント2の上に搭載されている。中央部C11から発光部Aまでの距離は、25μmである。中央部C11から発光部Bまでの距離は、65μmである。
【0061】
比較例では、2波長半導体レーザ装置は、図4に示すように、青紫色半導体レーザ素子とは異なるサブマウント2の上に搭載されている。中央部C11から発光部Aまでの距離及び中央部C11から発光部Bまでの距離は、55μmである。
【0062】
本実施形態の場合、中央部C11から発光部Aまでの距離は、25μmであり、比較例の場合、中央部C11から発光部Aまでの距離は、55μmである。後述の図5に示すように、中央部C11から離れるに従って、活性層(発光部A)に生じる応力が大きくなる。このため、本実施形態の発光部Aに生じる応力は、比較例の発光部Aに生じる応力よりも小さい。このため、本実施形態の偏光方向の変化は、比較例の偏光方向の変化よりも小さく、図3に示すように、本実施形態の偏光角(約1°)は、比較例の偏光角(約−4°)よりも、0°の近傍である。
【0063】
よって、発光部Aを、中央部C11の近傍領域に位置させることが好ましい。
【0064】
図5に示すように、中央部C11から離れるに従って、活性層に生じる応力が大きくなる。これは、以下に説明する理由による。
【0065】
図1に示すように、GaAsからなる基板11を含む2波長半導体レーザ素子10を、AlNからなるサブマウント2の上に実装した場合、サブマウント2と基板11との熱膨張係数の差異が大きい。このため、実装時の高温状態と実装後の室温状態との温度差により、実装後の2波長半導体レーザ素子10の活性層に応力が生じる。
【0066】
実装後の活性層(発光部A)に生じる応力と、中央部C11から発光部Aまでの距離との関係は、図5に示す通りである。半導体レーザ素子のチップ幅W10が150μm、200μm及び250μmの各々の場合の、活性層に生じる応力を計算することにより、図5に示す関係を得た。実装時の温度を、350℃とした。図6は、図5の計算に用いた半導体レーザ装置の構造を示している。図5において、中央部C11の位置を0μmとしている。
【0067】
図5に示すように、チップ幅W10が150μm、200μm及び250μmのいずれの場合も、中央部C11から±30μmまでの領域では、応力が小さい。一方、基板11のX方向の両端部では、応力が最も大きい。基板11のX方向の両端部は、半田層6aにより固定された部分と固定されていない部分との境界部分である。このため、両端部の位置で、半導体レーザ素子が変形し易く、活性層に生じる応力が最も大きい。
【0068】
よって、両端部に近付くに従って、言い換えれば、中央部C11から離れるに従って、活性層に生じる応力が大きくなる。
【0069】
なお、比較例の中央部C11から発光部Bまでの距離を、例えば55μmとしたため、本実施形態の中央部C11から発光部Bまでの距離(例えば65μm)は、比較例の中央部C11から発光部Bまでの距離よりも大きく、本実施形態の偏光角(約10°)は、比較例の偏光角(約4°)よりも大きい。しかしながら、既述の通り、本実施形態では、発光部Bを、サブマウント2のX方向の中央部C2の上に位置させる。これにより、固着後の発光部Bに生じる応力を小さくして、発光部Bからの出射光の偏光方向の変化を小さくすることができる。
【0070】
本実施形態では、赤外半導体レーザ素子部20は、赤色半導体レーザ素子部30と比べて、キャリアオーバーフローの発生を抑制することができ、光出力の低下を生じ難くすることができる。これは、以下に説明する理由による。「キャリアオーバーフロー」とは、活性層に注入されたキャリアが、熱により励起されて、クラッド層に漏れ出す現象である。
【0071】
キャリアのオーバーフローは、正孔よりも有効質量が軽い電子のp型クラッド層へのオーバーフローが支配的である。電子のp型クラッド層へのオーバーフローの発生を抑制するには、活性層とp型クラッド層との伝導帯下端のエネルギー差ΔEcを大きくすることが有効である。
【0072】
本実施形態では、赤外半導体レーザ素子部20のp型クラッド層22c及び赤色半導体レーザ素子部30のp型クラッド層は、AlGaInP系からなる。赤外半導体レーザ素子部20の活性層22bは、AlGaAs系からなり、赤色半導体レーザ素子部30の活性層は、AlGaInP系からなる。このため、赤外半導体レーザ素子部20のΔEcは、赤色半導体レーザ素子部30のΔEcと比べて、数百meVだけ大きい。
【0073】
よって、赤外半導体レーザ素子部20は、赤色半導体レーザ素子部30と比べて、キャリアオーバーフローの発生を抑制することができ、光出力の低下を生じ難くすることができる。このため、後述の図7(a) 及び(b) に示すように、赤外半導体レーザ素子部20は、赤色半導体レーザ素子部30と比べて、高温動作特性に優れている。
【0074】
ところで、青紫色半導体レーザ素子40の発光部Cからの出射光の偏光方向の変化は小さい。これは、次に説明する理由による。図1に示すように、GaNからなる基板41を含む青紫色半導体レーザ素子40を、AlNからなるサブマウント2の上に実装した場合、サブマウント2と基板41との熱膨張係数の差異が小さい。このため、実装後の青紫色半導体レーザ素子40の活性層に発生する応力は小さい。よって、発光部Cからの出射光の偏光方向の変化は小さい。
【0075】
以上説明したように、本実施形態によると、図1に示すように、発光部Bを、サブマウント2のX方向の中央部C2の上に位置させる。これにより、図2に示すように、固着後の赤色半導体レーザ素子部30の活性層(発光部B)に生じる応力を小さくすることができるため、発光部Bからの出射光の偏光方向の変化を小さくすることができる。
【0076】
さらに、図1に示すように、発光部Bを、パッケージ4のX方向の中央部C4の上に位置させる。これにより、固着後の赤色半導体レーザ素子部30の活性層に生じる応力をより小さくすることができるため、発光部Bからの出射光の偏光方向の変化をより小さくすることができる。
【0077】
さらに、図1に示すように、発光部Aを、基板11のX方向の中央部C11の近傍領域(例えば、中央部C11から±30μmまでの領域)に位置させる。これにより、図5に示すように、実装後の赤外半導体レーザ素子部20の活性層(発光部C)に生じる応力を小さくすることができるため、発光部Cからの出射光の偏光方向の変化を小さくすることができる。
【0078】
以下に、パルス動作時の、赤外半導体レーザ素子部20、赤色半導体レーザ素子部30及び青紫色半導体レーザ素子40の各々の電流−光出力特性について、図7(a) 〜(c) を参照しながら説明する。
【0079】
赤外半導体レーザ素子部20のパルス動作の条件は、85℃、パルス幅100nsec、duty比50%である。赤色半導体レーザ素子部30のパルス動作の条件は、85℃、パルス幅50nsec、duty比35%である。青紫色半導体レーザ素子40のパルス動作の条件は、85℃、パルス幅30nsec、duty比50%である。
【0080】
図7(b) に示すように、赤色半導体レーザ素子部30の場合、400mW程度の光出力で熱飽和する。図7(a) 及び(c) に示すように、赤外半導体レーザ素子部20及び青紫色半導体レーザ素子40の場合、500mW以上の光出力で熱飽和する。
【0081】
図7(a) 〜(c) から判るように、赤外半導体レーザ素子部20、赤色半導体レーザ素子部30及び青紫色半導体レーザ素子40のうち、赤色半導体レーザ素子30の高温動作特性が最も劣る。
【0082】
従って、本実施形態に係る多波長半導体レーザ装置を、光源として光ピックアップに組み込む場合、高温動作特性が最も劣る赤色半導体レーザ素子部30の発光部Bからの出射光の光取り込み効率の低下を抑制することが重要である。
【0083】
以下に、本発明の一実施形態に係る光ピックアップ装置について、図8を参照しながら説明する。
【0084】
本実施形態に係る光ピックアップ装置50は、図8に示すように、本実施形態に係る多波長半導体レーザ装置1と、光学系とを備えている。光学系は、回折格子51と、立ち上げミラー52と、対物レンズ53とを有している。光ピックアップ装置50から、光ディスク54にレーザー光が照射される。
【0085】
図8及び図9に示すように、発光部Bは、発光部Bから出射され対物レンズ53に入射する赤色出射光L30の光軸が、光学系の光軸(対物レンズ53の光軸)と一致するように、配置されている。
【0086】
このように、赤色出射光L30の光軸が光学系の光軸と一致するように、発光部Bを配置する。これにより、高温動作特性が最も劣る赤色半導体レーザ素子部30の発光部Bからの赤色出射光L30の光取り込み効率の低下を抑制することができる。
【0087】
本実施形態によると、赤色半導体レーザ素子部30の発光部Bを、サブマウント2のX方向の中央部C2の上に位置させる。これにより、発光部Bからの赤色出射光L30の偏光方向の変化を小さくすることができる。従って、赤色出射光L30のS/N比を向上させることができる。
【0088】
さらに、赤色出射光L30の光軸が光学系の光軸と一致するように、発光部Bを配置する。これにより、高温動作特性が最も劣る赤色半導体レーザ素子部30の発光部Bからの赤色出射光L30の光取り込み効率の低下を抑制することができる。従って、赤色出射光L30のS/N比をさらに向上させることができる。
【0089】
なお、発光部A及び発光部Cは、発光部Bから、それぞれ、距離Wab(例えば90μm)及び距離Wbc(例えば90μm)だけ離れている。このため、発光部Aからの赤外出射光L20及び発光部Cからの青紫色出射光L40は、対物レンズ53の光取り込み範囲内に収まることができない虞がある。このため、赤外出射光L20及び青紫色出射光L40の光取り込み効率が低下する虞がある。
【0090】
しかしながら、既述の通り、赤色出射光L30と比べて、赤外出射光L30及び青紫色出射光L40の偏光方向の変化は小さい。さらに、赤色半導体レーザ素子部30と比べて、赤外半導体レーザ素子部20及び青紫色半導体レーザ素子40は、高温動作特性に優れている。このため、赤外出射光L20及び青紫色出射光L40の光取り込み効率が低下しても、赤色出射光L30と比べて、赤外出射光L20及び青紫色出射光L40のS/N比が低下することはない。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、多波長半導体レーザ装置の小型化を図ると共に、光ピックアップ装置の小型化及び低コスト化を図りながら、出射光のS/N比を向上させることができ、多波長半導体レーザ装置を備えた光ピックアップ装置に有用である。
【符号の説明】
【0092】
1 多波長半導体レーザ装置
2 サブマウント
3 接着剤
4 パッケージ
5a,5b,5c 配線部
6a,6b,6c 半田層
10 2波長半導体レーザ素子
11 基板
20 赤外半導体レーザ素子部
22 半導体層
22a n型クラッド層
22b 活性層
22c p型クラッド層
23 電極層
30 赤色半導体レーザ素子部
32 半導体層
33 電極層
40 青紫色半導体レーザ素子
41 基板
42 半導体層
43 電極層
50 光ピックアップ装置
51 回折格子
52 立上げミラー
53 対物レンズ
54 光ディスク
L20 赤外出射光
L30 赤色出射光
L40 青紫色出射光
C2,C4,C11 中央部
W10,W40 チップ幅
W 幅
Wab,Wbc,Wb,Wc 距離
A,B,C 発光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭載基板と、
前記搭載基板の上面の上に搭載され、第1の基板、前記第1の基板の上に形成された第1の半導体レーザ素子部、及び前記第1の基板の上に前記第1の半導体レーザ素子部と第1の方向に隣り合うように形成された第2の半導体レーザ素子部を有する第1の半導体レーザ素子と、
前記搭載基板の上面の上に前記第2の半導体レーザ素子部と前記第1の方向に隣り合うように搭載された第2の半導体レーザ素子とを備え、
前記第1の半導体レーザ素子部は、前記第1の基板の上に形成され第1の発光部を含む第1の半導体層を有し、
前記第2の半導体レーザ素子部は、前記第1の基板の上に形成され第2の発光部を含む第2の半導体層を有し、
前記第2の半導体レーザ素子は、第2の基板と、前記第2の基板の上に形成され第3の発光部を含む第3の半導体層とを有し、
前記第1の半導体レーザ素子及び前記第2の半導体レーザ素子は、前記上面と前記第1の半導体層、前記第2の半導体層及び前記第3の半導体層とが対向するように、前記搭載基板の上面の上に搭載され、
前記第2の発光部は、前記搭載基板の前記第1の方向の中央部の上に位置していることを特徴とする多波長半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記搭載基板の下面が固着された支持体をさらに備え、
前記第2の発光部は、前記支持体の前記第1の方向の中央部の上に位置していることを特徴とする請求項1に記載の多波長半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記第2の発光部からの出射光の波長は、655nm以上で且つ665nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多波長半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記第1の発光部からの出射光の波長は、775nm以上で且つ790nm以下であり、
前記第1の半導体層は、前記第1の基板の上に形成された第1導電型のクラッド層と、前記第1導電型のクラッド層の上に形成された活性層と、前記活性層の上に形成された第2導電型のクラッド層とを含み、
前記第1導電型のクラッド層は、III族元素としてインジウム(In)を含み、V族元素としてリン(P)を含むことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の多波長半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記第3の発光部からの出射光の波長は、400nm以上で且つ410nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の多波長半導体レーザ装置。
【請求項6】
請求項1に記載の多波長半導体レーザ装置と、
対物レンズを含む光学系とを備え、
前記第2の発光部は、前記搭載基板の前記第1の方向の中央部の上に位置していることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項7】
前記第2の発光部からの出射光の光軸は、前記光学系の光軸と一致していることを特徴とする請求項6に記載の光ピックアップ装置。
【請求項8】
前記搭載基板の下面が固着された支持体をさらに備え、
前記第2の発光部は、前記支持体の前記第1の方向の中央部の上に位置していることを特徴とする請求項6に記載の光ピックアップ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−84791(P2013−84791A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223940(P2011−223940)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】