説明

多環式炭化水素骨格含有成分を含む硬化性シリコーン系組成物

【課題】ガスバリア性を有し、基板に封止を施しても基板の反りが発生せず、ダイシングに適した硬度を持つ透明な硬化物を与える硬化性シリコーン系組成物を提供する。
【解決手段】(A)(a)下記一般式(1):


[式中、Rは非置換のまたはハロゲン原子等で置換された1価炭化水素基またはアルコキシ基]で表される、SiH結合を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素と、の付加反応生成物であって、かつ、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する付加反応生成物、(B)1分子中にSiH結合を3個以上とフェニル基とを含有する直鎖状シロキサン、(C)アルコキシシリル基および/またはエポキシ基と、SiH結合とを有するシロキサン化合物、ならびに、(D)ヒドロシリル化反応触媒を含む硬化性シリコーン系組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器用部材、電子機器用絶縁材またはコーティング材料として有用な、多環式炭化水素骨格含有成分を含む硬化性シリコーン系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学機器用部材、特に光エネルギーの大きな青色発光ダイオード(LED)や白色発光ダイオード(LED)の封止材料を初めとして、シリコーン樹脂のLED関連の様々な用途への利用が進んでいる。こうした状況下、封止材に対して種々の耐久性が要求されている。
シリコーン封止材料に着目してみると、耐光性や耐熱変色性に優れる利点がある一方、シリコーンは特性としてガス透過性を有するために、外部からの腐食性ガスの浸入により銀電極が変色し、その結果、LEDの輝度が低下してしまうことがある。
【0003】
一方、LEDの封止工程に着目すると、カップ状のデバイスに封止材をディスペンス方式で行なう方法の他、多数のLEDチップを搭載した基板に対して、封止樹脂を一括塗布し、樹脂を硬化させた後に、ダイシングによって個片化する製造方法も採用されている。このような製造方法において高硬度のシリコーン封止材を用いた場合、硬化収縮によって基板の反りが発生し、精密なダイシングができないことがある。
【0004】
先に、本発明者は、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素骨格含有化合物とケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも3個以上有する化合物とヒドロシリル化触媒を必須成分として含む硬化性組成物を提案した(特許文献1)。しかしながら、この組成物を加熱硬化させた硬化物はガスバリア性に劣るため、銀電極が変色することがある。また、基板上に塗布し、樹脂を硬化させた場合に基板に反りが発生し、精密なダイシング加工ができない問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−133073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術の問題点に鑑み、本発明は、ガスバリア性を有し、かつ、多数のLEDチップを搭載した基板に対して封止を施しても基板の反りが発生せず、それでいてダイシングするのに十分な硬度を持つ透明な硬化物を与える硬化性シリコーン系組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
(A)(a)下記一般式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、Rは独立に非置換のまたはハロゲン原子、シアノ基もしくはグリシドキシ基で置
換された炭素原子数1〜12の1価炭化水素基または炭素原子数1〜6アルコキシ基である。]
で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、
(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素と、
の付加反応生成物であって、かつ、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する付加反応生成物、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有し、かつ、フェニル基を含有する直鎖状シロキサン、
(C)アルコキシシリル基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基と、ケイ素原子に結合した水素原子と、を有するシロキサン化合物、ならびに、
(D)ヒドロシリル化反応触媒
を含む硬化性シリコーン系組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化性シリコーン系組成物は、電極の変色を防止するガスバリア性を保持し、かつ、多数のLEDチップを搭載した基板に対して封止を施しても基板に反りが生じることがなく、ダイシングするのに十分な硬度を持つ硬化性シリコーン系組成物を与えることができる。従って、種々の製造工程に対応した発光ダイオード素子の保護、封止の用途に好適に使用できる。また、硬化物は透明性に優れるため、レンズ材料、光学機器用封止材、ディスプレイ材料等の各種の光学用材料、電子機器用絶縁材、更にはコーティング材料としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、Meはメチル基を示し、Phはフェニル基を示す。
−硬化性シリコーン系組成物−
[(A)成分]
本発明の組成物の(A)成分は、
(a)下記一般式(1):
【0012】
【化2】

【0013】
[式中、Rは独立に非置換のまたはハロゲン原子、シアノ基もしくはグリシドキシ基で置
換された炭素原子数1〜12、好ましくは1〜6の1価炭化水素基または炭素原子数1〜6、好ましくは1〜4のアルコキシ基である]
で表されるケイ素原子に結合した水素原子(以下、「SiH」とも云う)を1分子中に2個有する化合物と、
(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であって、かつ、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する付加反応生成物である。
【0014】
<(a)成分>
この(A)成分の反応原料である、(a)成分は式(1)で表される化合物である。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Rは、独立に非置換のまたはハロゲン原子、シアノ基もしくはグリシドキシ基で置換された炭素原子数1〜12、好ましくは1〜6の1価炭化水素基または炭素原子数1〜6、好ましくは1〜4のアルコキシ基である。
上記一般式(1)中のRは、アルケニル基およびアルケニルアリール基以外のものであるものが好ましく、特に、その全てがメチル基であることが好ましい。
【0017】
この上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、
構造式:HMe2Si-p-C64-SiMe2Hで表される1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、
構造式:HMe2Si-m-C64-SiMe2Hで表される1,3-ビス(ジメチルシリル)ベンゼン等のシルフェニレン化合物が挙げられる。
なお、この上記一般式(1)で表される化合物は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0018】
<(b)成分>
この(A)成分の反応原料である(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素において、前記「付加反応性」とは、ケイ素原子に結合した水素原子と周知のヒドロシリル化反応により付加反応し得る性質を意味する。
【0019】
また、該(b)成分は、(i)多環式炭化水素の骨格を形成している炭素原子のうち、隣接する2つの炭素原子間に付加反応性炭素−炭素二重結合が形成されているもの、(ii)多環式炭化水素の骨格を形成している炭素原子に結合した水素原子が、付加反応性炭素−炭素二重結合含有基によって置換されているもの、または、(iii)多環式炭化水素の骨格を形成している炭素原子のうち、隣接する2つの炭素原子間に付加反応性炭素−炭素二重結合が形成されており、かつ、多環式炭化水素の骨格を形成している炭素原子に結合した水素原子が付加反応性炭素−炭素二重結合含有基によって置換されているもの、の何れであっても差し支えない。ここで、付加反応性炭素−炭素二重結合含有基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ノルボルニル基等のアルケニル基、特に炭素原子数2〜12のもの等が挙げられる。
この(b)成分としては、例えば、下記構造式(x):
【0020】
【化4】

【0021】
で表される5-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、
下記構造式(y):
【0022】
【化5】

【0023】
で表される6-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、前記両者の組み合わせ(以下、これら3者を区別する必要がない場合は、「ビニルノルボルネン」と総称することがある)が挙げられる。
なお、前記ビニルノルボルネンのビニル基の置換位置は、シス配置(エキソ形)またはトランス配置(エンド形)のいずれであってもよく、また、前記配置の相違によって、該成分の反応性等に特段の差異がないことから、前記両配置の異性体の組み合わせであっても差し支えない。
【0024】
<(A)成分の調製>
本発明の組成物の(A)成分は、SiHを1分子中に2個有する上記(a)成分の1モルに対して、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する上記(b)成分の1モルを越え10モル以下、好ましくは1モルを越え5モル以下の過剰量を、ヒドロシリル化反応触媒の存在下で付加反応させることにより、SiHを有しない付加反応生成物として得ることができる。
【0025】
前記ヒドロシリル化反応触媒としては、従来から公知のものが全て使用することができる。例えば、白金を担持したカーボン粉末、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒;パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の白金族金属系触媒が挙げられる。また、付加反応条件、溶媒の使用等については、特に限定されず通常のとおりとすればよい。
【0026】
前記のとおり、(A)成分の調製に際し、上記(a)成分に対して過剰モル量の上記(b)成分を用いることから、該(A)成分は、上記(b)成分の構造に由来する付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有するものである。更に、上記(a)成分に由来する残基が、上記(b)成分の構造に由来する付加反応性炭素−炭素二重結合を有しない多環式炭化水素の二価の残基によって結合されている構造を含むものであってもよい。
【0027】
即ち、(A)成分としては、例えば、下記一般式(6):

Y-X-(Y'-X)p-Y (6)

(式中、Xは上記(a)成分の化合物の二価の残基であり、Yは上記(b)成分の多環式炭化水素の一価の残基であり、Y'は上記(b)成分の二価の残基であり、pは0〜10、好ましくは0〜5の整数である)
で表される化合物が挙げられる。
【0028】
なお、上記(Y'-X)で表される繰り返し単位の数であるpの値については、上記(a)成分1モルに対して反応させる上記(b)成分の過剰モル量を調整することにより設定することが可能である。
上記一般式(6)中のYとしては、具体的には、例えば、下記構造式:
【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
で表される一価の残基(以下、前記6者を区別する必要がない場合は、これらを「NB基」と総称し、また、前記6者の構造を区別せずに「NB」と略記することがある。);
【0032】
上記一般式(6)中のY'としては、具体的には、例えば、下記構造式:
【0033】
【化8】

【0034】
で表される二価の残基が挙げられる。
但し、上記構造式で表される非対称な二価の残基は、その左右方向が上記記載のとおりに限定されるものではなく、上記構造式は、実質上、個々の上記構造を紙面上で180度回転させた構造をも含めて示している。
【0035】
上記一般式(6)で表される(A)成分の好適な具体例を、以下に示すが、これに限定されるものではない。(なお、「NB」の意味するところは、上記のとおりである。)
NB-Me2Si-p-C64-SiMe2-NB
NB-Me2Si-m-C64-SiMe2-NB
【0036】
【化9】

【0037】
(式中、pは1〜10の整数である。)
更に、本発明の(A)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0038】
[(B)成分]
本発明の(B)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有し、かつ、フェニル基を含有する直鎖状シロキサンである。該(B)成分中のSiHが、上記(A)成分の1分子中に2個有する付加反応性炭素−炭素二重結合とヒドロシリル化反応により付加して、3次元網状構造の硬化物を与える。
【0039】
該(B)成分としては、例えば、下記一般式(2):

R’3SiO(R’2SiO)SiR’3 (2)

[式中、R’は、独立に水素原子、非置換のまたはハロゲン原子、シアノ基もしくはグリシドキシ基で置換された炭素原子数1〜12の1価炭化水素基であり、但し、1分子中のR'の少なくとも3個は水素原子で、かつ、1分子中のR'の少なくとも1個はフェニル基であり、nは0〜100の数を示す。]
で表される直鎖状シロキサン系化合物が挙げられる。
【0040】
上記一般式(2)中のR’が非置換またはハロゲン原子、シアノ基もしくはグリシドキシ基で置換された一価炭化水素基である場合、例えば、メチル基、エチル、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、sec-ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o-,m-,p-トリル等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基等のアラルキル基;p-ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基;およびこれらの基中の炭素原子に結合した1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、シアノ基、もしくはグリシドキシ基で置換された、例えば、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;2-シアノエチル基;3-グリシドキシプロピル基等が挙げられる。また、(A)成分と相溶し透明な材料を形成するために、また、得られるガスバリア性の観点から、1分子中の少なくとも1個のR’はフェニル基である。
上記の条件を満たすことを条件として、残るR’はメチル基とフェニル基であることが、工業的に製造することが容易であり、入手しやすいことから好ましい。
【0041】
上記(B)成分の好適な具体例を、以下に示すが、これに限定されるものではない。
Me3SiO(MeHSiO)3(Ph2SiO)2SiMe3
Me3SiO(MeHSiO)4(Ph2SiO)2SiMe3
HMe2SiO(MeHSiO)1(Ph2SiO)2SiMe2H
HMe2SiO(MeHSiO)2(Ph2SiO)2SiMe2H
本発明の(B)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0042】
[(C)成分]
本発明の(C)成分は、アルコキシシリル基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基と、ケイ素原子に結合した水素原子と、を有するシロキサン化合物であり、(A)成分の付加反応性炭素−炭素二重結合とヒドロシリル化反応により付加して、3次元網状構造の硬化物を与えるとともに、基板材料との接着性を付与するものである。
【0043】
上記のアルコキシシリル基およびエポキシ基は、通常、2価の有機基を介してケイ素原子に結合しており、2価の有機基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の炭素原子数2〜6のアルキレン基、および、かかるアルキレン基を構成する複数のメチレン基の一部が酸素原子に置換されたアルキレン基が挙げられる。
【0044】
この(C)成分としては、例えば、1-(2-トリメトキシシリルエチル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1-(3-グリシドキシプロピル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1-(2-トリメトキシシリルエチル)-3-(3-グリシドキシプロピル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0045】
[(A)、(B)および(C)成分の配合量]
一般的には、硬度がコーティング材料等の前述した用途において十分な硬度を有する硬化物が得られる点で、本組成物中に含まれる付加反応性炭素−炭素二重結合の合計1モル当り、該組成物中に含まれるSiHの合計の量が、通常、0.5〜3.0モルの範囲、好ましくは0.8〜1.5モルの範囲となるようにするのがよい。即ち、後述する任意配合成分として、上記(A)成分以外の付加反応性炭素−炭素二重結合を有するケイ素系化合物、および/または、(B)成分および(C)成分以外のSiHを有するケイ素系化合物を配合する場合においては、これらの任意配合成分中の付加反応性炭素−炭素二重結合およびSiH基を考慮する必要がある。
【0046】
しかし、(A)成分、(B)成分および(C)成分以外に、付加反応性炭素−炭素二重結合を有するケイ素系化合物もSiH基を有するケイ素化合物も存在しない場合には、(A)、(B)および(C)成分の配合量は、(A)成分中の付加反応性炭素−炭素二重結合の合計1モル当り、(B)成分および(C)成分中のSiHの合計の量が、通常、0.5〜3.0モル、好ましくは0.8〜1.5モルとなる量とすることになる。
【0047】
なお、(A)成分以外の付加反応性炭素−炭素二重結合を有するケイ素系化合物が含まれる場合、該化合物が有する付加反応性炭素−炭素二重結合が、全組成物中の付加反応性炭素−炭素二重結合の合計量の50モル%以下であることが好ましく、0〜30モル%であることがより好ましい。また、(B)成分および(C)成分以外のSiHを有するケイ素系化合物が含まれる場合、該化合物が有するSiHが、全組成物中のSiHの合計量の50モル%以下であることが好ましく、0〜30モル%であることがより好ましい。
【0048】
[(D)成分]
本発明の(D)成分であるヒドロシリル化反応触媒は、上記「(A)成分の調製」で記載したものと同じである。
【0049】
本発明の組成物への(D)成分の配合量は、触媒としての有効量であればよく、特に制限されない。通常、上記(A)成分と(B)成分との合計質量に対して、白金族金属原子として、通常、1〜500ppm、特に2〜100ppm程度となる量を配合することが好ましい。前記範囲内の配合量とすることで、硬化反応に要する時間が適度のものとなり、硬化物が着色する等の問題を生じることがない。
【0050】
[他の配合成分]
本発明の組成物には、上記(A)〜(D)成分に加えて、本発明の目的・効果を損なわない範囲で下記に例示する他の成分を配合することは任意である。
<酸化防止剤>
本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物中には、上記(A)成分中の付加反応性炭素−炭素二重結合が未反応のまま残存している場合があり、必要に応じ、酸化防止剤を配合することにより前記着色を未然に防止することができる。
【0051】
この酸化防止剤としては、従来から公知のものが全て使用することができ、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,5-ジ-t-アミルヒドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0052】
なお、この酸化防止剤を使用する場合、その配合量は、酸化防止剤としての有効量であればよく、特に制限されないが、上記(A)成分と(B)成分との合計質量に対して、通常、10〜10,000ppm、特に100〜1,000ppm程度配合することが好ましい。前記範囲内の配合量とすることによって、酸化防止能力が十分発揮され、着色、白濁、酸化劣化等の発生がなく光学的特性に優れた硬化物が得られる。
【0053】
<粘度・硬度調整剤>
本発明の組成物の粘度または本発明の組成物から得られる硬化物の硬度等を調整するために、ケイ素原子に結合したアルケニル基またはSiHを有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンもしくは網状オルガノポリシロキサン;非反応性の(即ち、ケイ素原子に結合したアルケニル基およびSiHを有しない)直鎖状または環状ジオルガノポリシロキサン、シルフェニレン系化合物等を配合してもよい。
【0054】
<その他>
また、ポットライフを確保するために、1-エチニルシクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等の付加反応制御剤を配合することができる。更に、透明性に影響を与えない範囲で、強度を向上させるためにヒュームドシリカ等の無機質充填剤を配合してもよいし、必要に応じて、染料、顔料、難燃剤等を配合してもよい。
【0055】
更に、太陽光線、蛍光灯等の光エネルギーによる光劣化に抵抗性を付与するため光安定剤を用いることも可能である。この光安定剤としては、光酸化劣化で生成するラジカルを補足するヒンダードアミン系安定剤が適しており、酸化防止剤と併用することで、酸化防止効果はより向上する。光安定剤の具体例としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、4-ベンゾイル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
【0056】
また、本発明の組成物を封止材料として用いる場合には、基材との接着性を向上させるためにシランカップリング剤を配合してもよいし、クラック防止のため可塑剤を添加してもよい。
【0057】
なお、本発明の組成物の硬化条件については、その量により異なり、特に制限されないが、通常、60〜180℃、1〜5時間の条件とすることが好ましい。
【0058】
−組成物の硬化物−
上述した本発明の組成物を硬化させることにより得られる硬化物は、ガスバリア性に優れており、厚さ1mmのシート換算で、23℃において酸素ガス透過率が300cm/m2・day以下であり、好ましくは0〜200cm/m2・dayである。したがって、発光ダイオード等の半導体装置に封止材として用いた場合に、外部から腐食性ガスが浸透することが防止され、銀電極の変色、ひいてはLEDの輝度の低下を防ぐことができる。
【0059】
また、該硬化物は一般に硬度(ShoreD)が50以上であり、好ましくは60以上、通常60〜70である。該硬化物はこのように高硬度であるにも関わらず、基板上に塗布し硬化させたときに該基板の変形が起り難いので、多数のLEDチップを搭載した基板に組成物を塗布し硬化させた後に、ダイシングによって個片化する製造方法に用いることができる。
【0060】
上記の硬化物は無色透明であるので、レンズ材料、LED、受光素子等の光学機器用封止材、ディスプレイ材料等の各種の光学用材料、プリプレグ等の電子機器用絶縁材、更にはコーティング材料として好適である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[合成例1](A)成分の調製
攪拌装置、冷却管、滴下ロートおよび温度計を備えた5Lの4つ口フラスコに、ビニルノルボルネン(商品名:V0062、東京化成社製;5-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エンと6-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エンとの略等モル量の異性体混合物)1785g(14.88モル)、および、トルエン455gを加え、オイルバスを用いて85℃に加熱した。これに、5質量%の白金を担持したカーボン粉末3.6gを添加し、攪拌しながら1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼン1698g(8.75モル)を180分間かけて滴下した。滴下終了後、更に110℃で加熱攪拌を24時間行った後、室温まで冷却した。その後、白金担持カーボンをろ過して除去し、トルエンおよび過剰のビニルノルボルネンを減圧留去して、無色透明なオイル状の反応生成物(25℃における粘度:12820mPa・s)3362gを得た。
【0062】
反応生成物を、FT-IR、NMR、GPC等により分析した結果、このものは、
(1)p-フェニレン基を2個有する化合物(下記に代表的な構造式の一例を示す):約41モル%、
【0063】
【化10】

【0064】
(2)p-フェニレン基を3個有する化合物(下記に代表的な構造式の一例を示す):約32モル%
【0065】
【化11】

【0066】
(3)および、p-フェニレン基を4個以上有する化合物:約27モル%
の混合物であることが判明した。また、前記混合物全体としての付加反応性炭素−炭素二重結合の含有割合は、0.36モル/100gであった。
【0067】
[実施例1]
(A)合成例1で得られた反応生成物:40質量部、
(B)Me3SiO(MeHSiO)3(Ph2SiO)2SiMe3:52質量部、
(C)1-(2-トリメトキシシリルエチル)-3-(3-グリシドキシプロピル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン:8質量部
(なお、上記組成物中のSiH/炭素−炭素二重結合のモル比は1.03である。)
(D)白金-ビニルシロキサン錯体:白金原子として、上記組成物合計質量に対して20ppmとなる量、並びに
1-エチニルシクロヘキサノール:0.03質量部
を均一に混合して組成物を得た。
【0068】
[実施例2]
(A)合成例1で得られた反応生成物:56質量部、
(B)Me3SiO(MeHSiO)4(Ph2SiO)2SiMe3:36質量部、
(C)1-(2-トリメトキシシリルエチル)-3-(3-グリシドキシプロピル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン:8質量部
(なお、上記組成物中のSiH/炭素−炭素二重結合のモル比は1.04である。)
(D)白金-ビニルシロキサン錯体:白金原子として、上記組成物合計質量に対して20ppmとなる量、並びに
1-エチニルシクロヘキサノール:0.03質量部
を均一に混合して組成物を得た。
【0069】
[実施例3]
(A)合成例1で得られた反応生成物:56質量部、
(B)HMe2SiO(MeHSiO)1(Ph2SiO)2SiMe2H:36質量部、
(C)1-(2-トリメトキシシリルエチル)-3-(3-グリシドキシプロピル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン:8質量部
(なお、上記組成物中のSiH/炭素−炭素二重結合のモル比は1.05である。)
(D)白金-ビニルシロキサン錯体:白金原子として、上記組成物合計質量に対して20ppmとなる量、並びに
1-エチニルシクロヘキサノール:0.03質量部
を均一に混合して組成物を得た。
【0070】
[実施例4]
(A)合成例1で得られた反応生成物:59質量部、
(B)HMe2SiO(MeHSiO)2(Ph2SiO)2SiMe2H:33質量部、
(C)1-(2-トリメトキシシリルエチル)-3-(3-グリシドキシプロピル)-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン:8質量部
(なお、上記組成物中のSiH/炭素−炭素二重結合のモル比は1.09である。)
(D)白金-ビニルシロキサン錯体:白金原子として、上記組成物合計質量に対して20ppmとなる量、並びに
1-エチニルシクロヘキサノール:0.03質量部
を均一に混合して組成物を得た。
【0071】
[比較例1]
上記実施例1に記載の(A)成分を77質量部用いること、並びに、(B)成分として、
(MeHSiO)415質量部を使用した以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。(なお、SiH/炭素−炭素二重結合(モル比)=1.01)
【0072】
[比較例2]
上記実施例1に記載の(B)成分として下記の1,3,5,7-テトラメチルシクロテロラシロキサンとビニルノルボルネンの付加反応物 33質量部を使用すること以外は、実施例1と同様にして組成物得た。(なお、SiH/炭素−炭素二重結合(モル比)=1.11)
【0073】
【化12】

【0074】
(式中、nは1〜11の整数である。)
【0075】
<性能評価手法>
各実施例および比較例で得られた組成物について、下記の特性について、それぞれ記載の手法に従って硬化物を作成し、性能評価を実施した。硬化の条件は、100℃で1時間加熱し、さらに、150℃で5時間加熱して硬化を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0076】
(1)外観
2枚のガラス板間に2mm厚のスペーサーを介在させ、15mm×40mm×2mmの空間に組成物を収め、上記の条件で加熱硬化を行った。得られた硬化物の外観を目視で評価した。
(2)硬度
(1)と同様の方法で作成した6mm厚の硬化物を用いて、硬度(Shore D)を測定した。
(3)ガスバリア性の評価
外径100mmφ、厚み1mmの硬化物を作成し、イリノイインスツルメンツ社製酸素ガス透過率測定装置(8001型)を用い、23℃にて測定を実施した。
【0077】
(4)基板形状保持性の評価
基板上で組成物を硬化させて硬化物を作成した際の基板の反りの発生を評価した。
アルミニウム基板(50mm×150mm×0.3mm)に組成物を塗布し上記条件で硬化させ、基板上に1mm厚の硬化物を作成した。室温放置後、アルミ基板の反りを測定した。
(5)ダイシング試験
プリント配線板用積層基板(三菱ガス化学製、HL820、50mm×150mm×0.2mm)に組成物を塗布し上記条件で硬化させ、基板上に1mm厚の硬化物を作成した。室温に放置後、粘着フィルムを基板に貼付後、(株)ディスコ製ダイシング装置(DAD341型)を用いて5mm×5mmのサイズに切断した。
【0078】
(6)光透過率
(1)で作成した硬化物について分光光度計を用いて、測定波長:800nm、600nm、400nmの3点について光透過率の測定を行った。
【0079】
【表1】

【0080】
(注)*比較例1,2のダイシングテストでは、基板を粘着フィルムに貼り付けた際、平坦な状態を保持できない現象が起こった。
【0081】
【表2】

【0082】
[評価]
実施例の硬化物は、いずれも、透明性、ガスバリア性に優れ、かつ、高硬度であるにもかかわらず基板上に硬化物を作成しても基板の反りが起こらない。したがって、ダイシングに適している。一方、比較例の組成物はガスバリア性に劣り、基板上に硬化物を作成した場合、反りが大きいためダイシングを行うことが不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の組成物は、種々の発光ダイオード素子の製造工程において保護、封止に有用である。また、レンズ材料、光学機器用封止材、ディスプレイ材料等の各種の光学用材料、電子機器用絶縁材、コーティング材料としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)下記一般式(1):
【化1】

[式中、Rは独立に非置換のまたはハロゲン原子、シアノ基もしくはグリシドキシ基で置
換された炭素原子数1〜12の1価炭化水素基または炭素原子数1〜6アルコキシ基である。]
で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、
(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素と、
の付加反応生成物であって、かつ、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する付加反応生成物、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有し、かつ、フェニル基を含有する直鎖状シロキサン、
(C)アルコキシシリル基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基と、ケイ素原子に結合した水素原子と、を有するシロキサン化合物、ならびに、
(D)ヒドロシリル化反応触媒
を含む硬化性シリコーン系組成物。
【請求項2】
請求項1に係る組成物であって、前記(b)の多環式炭化水素が、5-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、6-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エンまたは前記両者の組み合わせである、硬化性シリコーン系組成物。
【請求項3】
請求項1または2に係る組成物であって、前記(B)成分が、下記一般式(2)で表される直鎖状シロキサンである、硬化性シリコーン系組成物。

R’3SiO(R’2SiO)SiR’3 (2)

[式中、R’は、独立に水素原子、非置換のまたはハロゲン原子、シアノ基もしくはグリシドキシ基で置換された炭素原子数1〜12の1価炭化水素基であり、但し、1分子中のR'の少なくとも3個は水素原子で、かつ、1分子中のR'の少なくとも1個はフェニル基であり、nは0〜100の数を示す。]
【請求項4】
前記(A)成分が、前記(a)成分と該、(a)に対して過剰モル量の前記(b)成分とを、白金担持カーボンの存在下で付加反応させ、その後、該白金担持カーボンをろ過により除去することを含む方法により得られた付加反応性生物である請求項1〜3のいずれか1項に係る硬化性シリコーン系組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に係る組成物であって、その硬化物がガスバリア性を有する前記硬化性シリコーン系組成物。
【請求項6】
本組成物を1mm厚のシートに成形硬化させたときに、該シートの23℃における酸素ガス透過率が300cm/m2・day以下である請求項5に係る硬化性シリコーン系組成物
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に係る組成物であって、基板上に塗布後、該組成物を硬化させたときに該基板の変形が起こらす、かつ、得られた硬化物の硬度(ShoreD)が50以上であるダイシング加工が可能な前記硬化性シリコーン系組成物。
【請求項8】
光学デバイスまたは光学部品用材料として用いられる請求項1〜7のいずれか1項に係る硬化性シリコーン系組成物。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物を硬化させて得られ、厚さ1mm換算で、23℃において酸素ガス透過率が300cm/m2・day以下である硬化物。

【公開番号】特開2012−46604(P2012−46604A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189038(P2010−189038)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】