多結晶材料から単結晶を成長させる方法
【課題】多結晶材料から容易に単結晶が育成できるとともに、単結晶製造のコストを低下させて、単結晶の利用範囲を広げることが可能な単結晶の成長方法を提供する。
【解決手段】長尺状の多結晶材料と加熱源を、多結晶材料の長手方向に相対的に移動させることによって多結晶材料を局所加熱で半溶融状態にして多結晶材料の長手方向に単結晶を成長させる方法において、映像観察装置によって多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に観察し、半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することにより単結晶を成長させる。
【解決手段】長尺状の多結晶材料と加熱源を、多結晶材料の長手方向に相対的に移動させることによって多結晶材料を局所加熱で半溶融状態にして多結晶材料の長手方向に単結晶を成長させる方法において、映像観察装置によって多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に観察し、半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することにより単結晶を成長させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶材料のバルク半溶融状態に急峻な温度勾配を与えることにより、磁気ヘッド、光学素子、光学材料、圧電素子、シンチレータ、MEMS、デバイス用基板などの様々な用途に用いられる各種単結晶を容易に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固相反応法で製造される代表的なフェライト単結晶は容器を用いたブリッジマン法で育成されていた。しかし、この方法では、単結晶を完全溶融すると分配係数などにより製造される単結晶組成が変化していくという問題が起こるため、最近では完全溶融させない固相反応法が用いられるようになった。(例えば非特許文献1,特許文献1〜3参照)
【非特許文献1】応用物理61(1992)817 “固相反応法によるフェライト単結晶の育成”
【特許文献1】特開昭59-26992号公報
【特許文献2】特開昭59-78998号公報
【特許文献3】特開昭63−210091号公報
【0003】
その後、イットリウム鉄ガーネットも固相反応法で製造されるようになった。(非特許文献2、特許文献4参照)
この方法は共沈法で作成した高純度微粉末で高密度に焼成した多結晶体ブロックを用意して一面を鏡面研磨し、この面に特定方位に切断し鏡面研磨した種結晶を接合させ、電気炉に入れて特定の温度で熱処理をすると種結晶の接合部から多結晶が徐々に単結晶化して全体が単結晶と成る製造法である。
【非特許文献2】Proc.1st. Japan International SAMPE Sympo.,(1989)419 “Growth of yttrium iron garnet single crystal by solid-solid reaction”
【特許文献4】特開平4-75879号公報
【0004】
しかし、この方法では原料の品質、粒度の高品質が要求されるため共沈法で出発原料が製造されていた。また、焼成や単結晶製造に雰囲気の高圧制御を必要とするHIP(hot isostatic pressing furnace;熱間静水圧プレス)が用いられており、固相反応がある程度で止まってしまうため製造できる単結晶の厚さは限られてしまう欠点があった。
これらの問題を解決するために長尺化の製造方法が提案された(特許文献5)。しかし、この方法ではB2O3などの添加物を添加しないと結晶化しないことが記載されており、さらに、この方法では試料を電気炉に入れて、終了するまでは炉の温度制御をするだけで、製造中の状態は観察できなかった。
【特許文献5】特開昭64-18985号公報
【0005】
一方、Cu3Mo2O9は分解溶融物質であり(非特許文献3参照)、従来フラックス法により1X5X3ミリ程度の大きさの単結晶が育成されていた。(非特許文献4)
【非特許文献3】Materials Chemistry 4 (1979) 113 Phase diagram of CuO-MoO3 system
【非特許文献4】Phys.Rev.B77(2008) 134419 Slow-cooling法
【0006】
そこで、本発明者は大型単結晶製造を試みるために、溶融帯にCu3Mo2O9単結晶を析出する組成の溶液を用いる溶媒移動帯溶融法(Traveling Solvent Floating Zone法)を試みた。この系は溶融帯が発泡しやすく、粘性が少ない、さらに原料棒の径方向に突起物が時間とともに生成されて溶融帯が不安定になりやすく、時間経過とともに発生した気泡が大きくなってゆき溶融帯の保持ができなくなる、などの問題が多かった。そのため、著しく結晶成長が困難であったが、改良を加えることにより溶融帯を数時間保持することができ、5ミリ角程度の結晶を得ることが出来た。しかしそれ以上の大きさの単結晶が望めなかった。
従来の、融液を用いる方法では、精密温度制御など非常に高度な結晶育成技術が必要であるため、単結晶を製造するのが困難であり、コストが高くなってしまう欠点があった。また、異常粒成長を用いる方法では、結晶の大きさに限度があり、連続的に成長させるのが困難であった。このような理由で、単結晶の利用範囲が制限されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明はこれら従来技術の問題点を解消して、多結晶材料から容易に単結晶が育成できるとともに、単結晶製造のコストを下げて、単結晶の利用範囲を広げることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、加熱源を用いて多結晶材料を局所加熱して、バルク半溶融状態(固相−液相混合状態)を実現すると同時に、急峻な温度勾配を与えることにより誘起される急峻な化学ポテンシャル勾配に起因する固相の輸送を促進して結晶粒成長を行う際に、映像観察装置によって多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に観察し、半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することにより単結晶を成長させることを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明ではつぎの1〜10の構成を採用するものである。
1.長尺状の多結晶材料と加熱源を、多結晶材料の長手方向に相対的に移動させることによって多結晶材料を局所加熱で半溶融状態にして多結晶材料の長手方向に単結晶を成長させる方法において、映像観察装置によって多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に観察し、半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することにより単結晶を成長させることを特徴とする多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
2.前記局所加熱部の映像の光沢変化により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
3.前記局所加熱部の映像の光沢部と非光沢部の境界の成長方向位置が定常状態に維持されるように、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
4.前記局所加熱部の映像を画像処理することによってRGB値〔光の3原色である、R=Red(赤)、G=Green(緑)、B=Blue(青)〕を算出し、RGB値の変化により半溶融部の状態を確認して、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
5.前記局所加熱部の映像を画像処理して輝度のヒストグラムの広がりを閾値と対比することにより半溶融部の状態を確認して、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
6.前記局所加熱部の映像の気泡発生により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
7.前記局所加熱部の映像の縮径により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
8.前記長尺状の多結晶材料を他の物質と接触させずに局所加熱することを特徴とする1〜7のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
9.前記局所加熱部の映像の観察結果を演算処理し、処理結果に基づいて局所加熱部の加熱温度及び移動速度を自動制御することを特徴とする1〜8のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
10.前記長尺状の多結晶材料が、Cu3Mo2O9、SmBa2Cu3O7、Gd3−xYxFe5O12(0≦x≦3)、Mn1−yZnyFeO4(0≦y≦1)から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、上記の構成を採用することによって、つぎのような効果を奏することができる。
(1)固相反応法で一般的である高圧雰囲気を使うHIPを用いた種結晶を焼成材料に密着させる方法をとらず、簡便に製造できる。
(2)共沈法で微細粒子原料を作成し高密度焼結体を得るために高圧雰囲気を使うHIPで焼成をせずに、一般的な原料と焼成過程から得られる焼結体を用いることができる。
(3)高圧雰囲気を使うHIP中で種結晶を焼成材料に密着させる方法では、ある程度の厚さまでは製造されるが限りがある。本発明では温度勾配の傾斜方向に結晶化が進むので、長さ方向に結晶化させると方向がそろうので有利である。
(4)さらに、種結晶を用いれば望みの結晶軸方向の単結晶製造も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、固相反応による多結晶の結晶化と連続育成により結晶方向が揃う、広義の意味でのネッキング効果による単結晶化を組み合わせてもよい、長さ方向に単結晶製造できる方法を提供するものである。
一般的には、高密度化のために原料棒をなるべく高温にして焼成を行うが、適温を過ぎて焼成するとCu3Mo2O9の微結晶が発生し、機械的強度が弱くなってしまうことが判明した。しかし、逆に徐々に高温処理してゆくと単結晶のグレインが大きくなることが明らかになった。このことから固相反応法を想起し、本発明を考案するに至った。
【0012】
本発明では、一般的である高圧雰囲気を使うHIPを用いた種結晶を多結晶材料に密着させる方法をとらず、簡便に単結晶を製造することができる。また、共沈法で微細粒子原料を作成し高密度焼結体を得るために高圧雰囲気を使うHIPで焼成をせずに、一般的な原料と焼成過程から得られる焼結体を用いることができる。従来の、固相反応法は反応の進行状態を直接観察ができず、解明されていないことも多い。
【0013】
本発明者等の研究により、固相反応から結晶化の状態をリアルタイムで観察することにより、単結晶の成長に液相が大きく関与していることが明らかになり、物質により単結晶製造条件である液相の適量が異なることも明らかになり、単結晶製造時の液相の量の観察が重要であることが判明した。また、これから液相が容器などに接触して単結晶育成の障害になるおそれがないよう無接触にすることが重要であるこが明らかになった。高圧雰囲気を使うHIP中で種結晶を焼成材料に密着させる固相反応法では、ある程度の厚さを有する単結晶を製造することができるが限りがある。これに対して、本発明では種結晶を用いなくとも、単結晶の製造が可能である。さらに、種結晶を用いることにより、望みの結晶軸方向に長く、その場観察が出来て技術的に容易に、多量に単結晶を製造することができる。
【0014】
図1は、本発明の多結晶材料から単結晶を成長させる方法の原理を示す図である。
本発明では、一般的な原料と焼成過程により得られる棒状の多結晶焼結体を装置の上軸から吊るし、または装置の下軸に固定する。そして、焼結体の外側から図1に示すように、焼結体の軸方向には凸(山形)に急激に温度勾配がつくように、また焼結体の径方向には均等に加熱されるように、光加熱源により焼結体を加熱する。そして、半溶融状態の液相が出現するまで加熱源のパワーを増加してゆくと焼結体の縮径が生じ、光沢が増し、表面に気泡の発生等が観察されるので、これらの現象により液相の出現を確認する。ここで加熱源のパワーを一定にし、多結晶焼結体又は光加熱源を軸方向に移動させて、単結晶育成を開始する。
【0015】
液相の出現は、CCDカメラのような映像観察装置を用いて多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に撮影し、加熱により生じた半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御する。
本発明において、半溶融状態の液相の出現は、つぎの現象により確認することができる。
(1)局所加熱部の映像の光沢変化により半溶融部の状態を確認する。
(2)局所加熱部の映像を画像処理することによってRGB値を算出し、RGB値の変化により半溶融部の状態を確認する。
(3)局所加熱部の映像を画像処理して輝度のヒストグラムの広がりを閾値と対比することにより半溶融部の状態を確認する。
(4)局所加熱部の映像の気泡発生により半溶融部の状態を確認する。
(5)局所加熱部の映像の縮径により半溶融部の状態を確認する。
上記(3)の方法は、横軸に明るさ、縦軸に明るさ毎の画素数を積み上げたヒストグラムを用いる方法で、光沢画面特有の高輝度側に広がる歪みグラフにより確認するものである。
【0016】
加熱源パワーの制御は、画面上の液相界面の位置を一定にすることによって行われる。この界面の温度の分布、つまり図1の本手法の原理図における結晶成長進行部は加熱源による温度勾配と印加パワーによって決まる。印加パワーが高ければ温度分布は右にずれ、結晶開始温度を横切る幅が広がり、画面上での液相界面の位置が高くなるので、目視、RBG値、ヒストグラムによって確認しながら制御してゆく。
例えば、Cu3Mo2O9の場合は、わずかな液相が存在するだけで、結晶化が進行してゆくが、およそ印加パワーを一定にしてから3%以内の制御を行う。これに対して、SmBa2Cu3O7の場合はかなりの量の液相が必要であり、およそ印加パワーを一定にしてから10%以内の制御を行う。
【0017】
多結晶焼結体に構成物質(種結晶)を付着させて、単結晶製造に関与する液相の量を調整できる。この際、液相は容器などに接触させずに、局所加熱部の映像観察により加熱源のパワー調整を行う。棒状焼結体を上軸から吊るした場合は焼結体を下方へ、下軸に固定した場合は焼結体を上方へ等速移動させることにより、温度勾配化により多結晶は単結晶になり、生成した単結晶が低温部に移動し単結晶が連続的に製造される。あらかじめ種結晶を棒状焼結体に接触させておけば、種結晶の結晶軸方向に長い単結晶が製造できる。
【0018】
本発明の好ましい形態では多結晶材料を保持する容器を用いず、多結晶材料を他の物質と無接触で単結晶を成長させる。したがって、容器からの不純物による汚染がなく、製造温度の制約がないので2000℃以上に加熱することも可能である。また、容器代の倹約にもなる。
従来の固相反応法では、YIG、Mn-Znフェライトともに単結晶化する多結晶体は何らかの容器または物質の上に置かれて接触しており、RBa2Cu3O7の溶融固化法では液相保持と汚染を防ぐために支持材が使用されている。(例えば、特許文献6,7参照)
【特許文献6】特開平10-245223号公報
【特許文献7】特開2004-262673号公報
【0019】
本発明では、製造中の単結晶は他の物質とは全く無接触であり、単結晶製造中には擾乱を受けない。また、本発明は単結晶製造の状態が従来の固相反応法と異なり、リアルタイムで観察できる特徴を持っている。YIGやRBa2Cu3O7単結晶製造に用いられる浮遊帯域法(FZ)では上下の軸がお互いに逆に回転しており、完全溶融した部分が恒常的に動いており、原料棒と育成結晶の接触が問題となることがあり、常時溶融帯の観察が必要である。
これに対して、本発明では初期の液相の出現の確認と量の調整を必要とするだけで、それ以後は加熱温度をほぼ一定とするため、熟練をほとんど必要としない利点を持っている。液相の出現の適量の程度はそれぞれの物質で異なり、実施データが必要となる。加熱源としては電球またはレーザーで加熱する方法をとると、撮像部が高温とならないようにカメラ装置を設置できるので液相の出現を直接観察でき、単結晶の製造が一段と容易になるので好ましい。
【0020】
また、本発明の方法によりCu3Mo2O9単結晶を製造することが可能となったが、この方法は固相反応法の代表的なYIGやMnZnフェライト、RBa2Cu3O7などに適用することも可能である。また、単結晶が溶融して製造が困難な物質にも、条件を探索することにより適用可能となるものであると考えられる。本発明は、単結晶の成長状態をその場観察がすることができるので、技術的に容易に、多量に単結晶を製造することが可能となり、産業上有利な方法である。
【0021】
つぎに、本発明により多結晶材料から単結晶を成長させる手順について説明する。
多結晶焼結体は1−10ミリ程度の長さの部分を加熱できるように、数個の電球の後部に反射鏡を備えたものを加熱源とするが、その加熱部分の温度勾配は電球においてはフィラメントの形状、定格電力、印加電力によって調節可能である。
同様に、加熱源としてレーザーを使用する場合には、数個を対照的に配置し、定格電力、印加電力や集光のアライメントで加熱部分の温度勾配を調整できる。原料棒の融点、形状、加熱源によって、あらかじめ予備実験を行いデータの蓄積と焼結体の状態を観察した後に、単結晶製造をおこなうことが好ましい。
【0022】
原料となる多結晶焼結体は真円状の断面を持った円柱状が最も望ましく、容易に実施できるが、温度勾配に沿って結晶化が進むものであれば他の任意形状とすることも可能である。機械的強度を増すために融点より100℃下の温度で焼成することが望ましい。加熱源を配置する位置は、径方向においては加熱源によって作られる等温線の中心点からずれないことが重要である。本発明は加熱部の温度勾配が急であることが特徴であり、10℃/mm以上とすることが好ましい。多結晶焼結体を回転させると、緩衝の役割をする溶融帯のあるFZ法とは異なり、結晶化界面の温度が10℃近くは変化する。このため焼結体を回転させない方が良い。また、焼結体にあらかじめ種結晶を接触させて配置すると、望みの結晶軸方向の単結晶が製造できる。
【0023】
また、多結晶焼結体の先端から長さ10ミリ程度の部分の径を、例えば1、2ミリ程度に縮径にしておくとネッキング効果でこの部分が単結晶化しやすくなり、以後単結晶を容易に製造することができる。
加熱源としては、観察装置の導入が難しくその場観察が出来ない局所加熱抵抗線ヒーターや高周波加熱コイルであっても、精密に温度制御や印加パワー制御ができ、温度勾配の制御が可能であれば、熟練は必要と成るが、使用することも可能である。
【実施例】
【0024】
つぎに、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1:Cu3Mo2O9)
焼結後の組成がCu3Mo2O9になるように、それぞれ純度99.9%のCuOとMo2O3を3:1の比で混合し、670℃で5時間仮焼きした。その後粉砕混合し、ゴム管に混合原料を充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して700℃、5時間焼成をして直径5mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。この焼結体を4個のガラス製楕円鏡を持つ赤外線加熱結晶炉の上軸に吊るした。加熱源は、平型に配置されたフィラメントを持つ150Wのハロゲンランプが対角線状に4個配置されており、垂直方向の温度勾配は800℃で約25℃/mmである。
【0025】
あらかじめ短い焼結体を用いて直径5 mmに対する印加電力の結晶化最適値を数回の実験で確かめておき、最適印加電力まで1時間程度で昇温させる。その後焼結体の先端部を温度勾配の最高温度の位置に設定し、映像観察装置(CCDカメラ:以下同様)にて液相が出現して先端部が光沢を帯びたのを確認した。
さらに液相出現事実を確実にするために、例えばフォトショップのソフトウエアの画像処理で液相の部分のRGB数値、つまり赤成分(R)、緑成分(G)、青成分(B)の数値が急変したのを確認した。白黒の映像により確認したRGB数値(赤緑青成分の平均値)は、燒結体部分でR=50-104, G=50-104, B=50-104、液相出現部でR=254, G=254, B=254であった。
さらに、画像処理で光沢部のヒストグラムをとり、光沢部の証左である輝度の高い方向になだらかに広がる歪みを確認することにより、半溶融状態の液相の出現を確認した。
【0026】
つぎに、局所加熱部の温度を一定に保持し、下降速度を1−10mm/hで焼結体を移動させた。移動が終了してから室温まで同じく1時間程度で降温させた。原料の多結晶焼結体とほぼ同じ大きさの直径4.5mm、長さ7 cmのCu3Mo2O9単結晶が得られた。Cu3Mo2O9単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。またこのCu3Mo2O9単結晶を結晶軸方向に切断して種結晶とした。
Cu3Mo2O99単結晶製造中に観察した画像を図2に示す。また、焼結体部のヒストグラムを図3に、光沢部のヒストグラムを図4に示す。
【0027】
(実施例2:Cu3Mo2O9)
実施例1と同様にして、670℃で5時間仮焼きしたCu3Mo2O9原料粉末を、出発原料として使用した。実施例1で製造した単結晶をラウエカメラを用いて結晶軸を決め、切断して種結晶としてゴム管底部に(100)面を向けて配置してからゴム管に出発原料を充填して、実施例1と同様に2000kg/cm2の静水圧で加圧して700℃、5時間焼成をして直径5mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。この焼結体を赤外線加熱結晶炉の下軸に固定し、最適印加電力まで1時間程度で昇温させた。焼結体の種結晶のついている先端部を温度勾配の最高温度の位置に設定した。映像観察装置にて液相が出現して先端部が光沢を帯びたのを確認してから、温度を一定に保持し、下降速度を1−10mm/hで焼結体を移動させた。移動が終了してから室温まで同じく1時間程度で降温させた。(100)面を断面に持つ、原料の多結晶焼結体とほぼ同じ大きさのCu3Mo2O9単結晶が得られた。
【0028】
(実施例3:Y3Fe5O12)
それぞれ純度99.9%のY2O3とFe2O3をモル比で3:5の割合で混合した焼結体原料30 gと、同じく2:8の割合で混合したソルベント原料5 gを、それぞれ1150℃で12時間仮焼きした。その後粉砕混合し、ゴム管に混合焼結体原料を充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して1400℃、15時間焼成をして、直径8mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。またソルベント原料は、錠剤成型器でペレット状に成型し、1200℃、5時間焼成をして直径10mmの試料を得た。丸棒状の焼結体を赤外線加熱結晶炉の下軸に設定し、ごくわずかな液相を存在させるためにソルベント0.1 gを融着させた。このソルベントを付けた焼結体を赤外線加熱結晶炉の上軸に設定し、ソルベントが半融して液相が出現する印加電力まで1時間程度で昇温させた。映像観察装置にて、液相が出現して先端部が光沢を帯びやや丸くなるのを確認した。さらに液相出現事実を確実にするために、画像処理で液相の部分のRGB数値、つまり赤成分、緑成分、青成分の数値が急変したのを確認した。カラー映像により確認したRGB数値は、燒結体部分でR=229, G=62, B=11、液相出現部でR=255, G=255, B=177であった。ついで、画像処理で光沢部のヒストグラムをとり、光沢部の証左である輝度の高い方向になだらかに広がる歪みを確認した。
【0029】
つぎに、局所加熱部の温度を一定に保持し、下降速度を0.5−5 mm/hで焼結体を移動させた。移動が終了してから室温まで同じく1時間程度で降温させた。焼結体とほぼ同じ大きさの直径7mm、長さ7 cmのY3Fe5O12単結晶が得られた。Y3Fe5O12単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。このとき使用した赤外線加熱炉は双楕円鏡を備えた2つのランプから成る炉で、加熱源は平型に配置されたフィラメントを持つ500Wのハロゲンランプが対角に2個配置されており、温度勾配は1200℃で約35℃/mmであった。
Y3Fe5O12製造中に観察した画像を図5に示す。また、多結晶焼結体部のヒストグラムを図6に、光沢部のヒストグラムを図7に示す。
【0030】
(実施例4:Gd1.5Y1.5Fe5O12)
それぞれ純度99.9%のY2O3とGd2O3とFe2O3をモル比で1.5:1.5:5の割合で混合した焼結体原料30 gと、同じく1:1:8の割合で混合したソルベント原料5 gをそれぞれ1150℃で12時間仮焼きした。その後粉砕混合し、ゴム管に混合焼結体原料を充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して1400℃、15時間焼成をして直径8mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。またソルベント原料は錠剤成型器でペレット状に成型し、1200℃、5時間焼成をして直径10mmの試料を得た。丸棒状の焼結体を赤外線加熱結晶炉の下軸に設定し、ごくわずかな液相を存在させるためにソルベントを0.1 gを融着させた。このソルベントを付けた焼結体を赤外線加熱結晶炉の上軸に設定し、ソルベントが半融して液相が出現する印加電力まで1時間程度で昇温させた。映像観察装置にて液相が出現して先端部が光沢を帯びやや丸くなるのを確認してから、温度を一定に保持し、下降速度を0.5−5 mm/hで焼結体を移動させた。焼結体の移動が終了してから、室温まで同じく1時間程度で降温させた。焼結体とほぼ同じ大きさの、直径7mm、長さ7 cmのGd1.5Y1.5Fe5O12単結晶が得られた。Gd1.5Y1.5Fe5O12単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。このとき使用した赤外線加熱炉は、実施例3と同じ双楕円鏡を備えた2つのランプから成る炉であった。
【0031】
(実施例5:Gd3Fe5O12)
それぞれ純度99.9%のGd2O3とFe2O3をモル比で3:5の割合で混合し、1150℃で12時間仮焼きした。その後粉砕混合し、ゴム管に混合原料を充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して1400℃、15時間焼成することにより、直径8mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。該焼結体の先端を#2000の紙ヤスリで研磨し、(100)面を鏡面研磨したGd3Fe5O12単結晶を原料側に向け接合させた。このときごくわずかな液相を存在させるために、Fe2O3粉末を水に溶いて種結晶と原料棒の脇に微量付けた。該焼結体を赤外線加熱結晶炉の下軸に設定し、最適印加電力まで1時間程度で昇温させた。
焼結体の種結晶のついている先端部を温度勾配の最高温度の位置に設定し、映像観察装置にて液相が出現して先端部が光沢を帯びてきたのを確認してから、温度を一定に保持し、下降速度を0.5−5mm/hで焼結体を移動させた。移動が終了してから、室温まで同じく1時間程度で降温させた。原料の多結晶焼結体とほぼ同じ大きさの、直径7mm、長さ7 cmのGd3Fe5O12単結晶が得られた。Gd3Fe5O12単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。このとき使用した赤外線加熱炉は、実施例3と同じ双楕円鏡を備えた2つのランプから成る炉であった。
【0032】
(実施例6:MnZnフェライトMn1-yZnyFe2O4)
それぞれ純度99.9%のMnO、ZnO、Fe2O3をモル比で45:3:52の割合で混合し、870℃で12時間仮焼きした。その後粉砕混合し、混合原料をゴム管に充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して1150℃、15時間焼成することにより、直径5mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。該焼結体を赤外線加熱結晶炉の上軸に設定し、最適印加電力まで30分程度で昇温させた。焼結体の先端部を温度勾配の最高温度の位置に設定し、映像観察装置にて液相が出現して先端部が光沢を帯びやや丸くなるのを確認した。さらに液相出現事実を確実にするために、画像処理で液相の部分のRGB数値が急変したのを確認した。カラー映像により確認したRGB数値は、燒結体部分でR=255, G=120, B=31、液相出現部でR=255, G=244, B=177であった。ついで、画像処理で光沢部のヒストグラムをとり、光沢部の証左である輝度の高い方向になだらかに広がる歪みを確認してから、温度を一定に保持し、下降速度を1−10mm/hで焼結体を移動させた。移動が終了してから、室温まで同じく1時間程度で降温させた。原料の多結晶焼結体とほぼ同じ大きさの、直径4.5mm、長さ7 cmのMnZnフェライト単結晶が得られた。MnZnフェライト単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。このとき使用した赤外線加熱炉は、実施例3と同じ双楕円鏡を備えた2つのランプから成る炉であった。
MnZnフェライト製造中に観察した画像を図8に示す。また、多結晶焼結体部のヒストグラムを図9に、光沢部のヒストグラムを図10に示す。
【0033】
(実施例7:SmBa2Cu3O7)
それぞれ純度99.9%のSm2O3、BaCO3、CuOをモル比で1:4:6の割合で混合した焼結体原料30 gと、同じく1:9:14の割合で混合したソルベント原料5 gをそれぞれ870℃で15時間仮焼きした。その後粉砕混合し、ゴム管に混合焼結体原料を充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して950℃、15時間焼成をして直径5mm、長さ6cmの丸棒状の焼結体を得た。またソルベント原料は錠剤成型器でペレット状に成型し、900℃、5時間焼成をして直径10mm試料を得た。丸棒状の焼結体を赤外線加熱結晶炉の下軸に設定し、ごくわずかな液相を存在させるためにソルベントを0.1 gを融着させた。このソルベントを付けた焼結体を赤外線加熱結晶炉の上軸に設定し、ソルベントが半融して液相が出てくる印加電力まで1時間程度で昇温させた。映像観察装置にて、液相が出てきて先端部が光沢を帯びやや丸くなるのを確認した。さらに液相出現事実を確実にするために、画像処理で液相の部分のRGB数値が急変したのを確認した。カラー映像により確認したRGB数値は、燒結対部分でR=238, G=51, B=18、液相出現部でR=238, G=122, B=57であった。ついで、画像処理で光沢部のヒストグラムをとり、光沢部の証左である輝度の高い方向になだらかに広がる歪みを確認してから、温度を一定に保持し、下降速度を0.5−5mm/hで焼結体を移動させた。このとき温度が高すぎると完全溶融するため、製造された単結晶の自重で加熱部からちぎれてしまう現象がおきる。また、温度が低すぎると、単結晶化が停止してしまう現象がおきる。移動が終了してから、室温まで同じく1時間程度で降温させた。原料の多結晶焼結体とほぼ同じ大きさの、直径5mm、長さ5 cmのSmBa2Cu3O7単結晶が得られた。SmBa2Cu3O7単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。このとき使用した赤外線加熱炉は双楕円鏡を備えた2つのランプから成る炉で、加熱源は平型に配置されたフィラメントを持つ500Wのハロゲンランプが対角に2個配置されており、温度勾配は1100℃で約35℃/mmであった。
SmBa2Cu3O7単結晶製造中に観察した画像を図11に示す。この映像では、液相の出現による縮径が明確に観察された。また、多結晶焼結体部のヒストグラムを図12に、光沢部のヒストグラムを図13に示す。
【産業上の利用可能性】
【0034】
現在産業用としてYIG、MnZnフェライトでは固相反応法が用いられ、高密度の焼成多結晶体を得るために原料に共沈粉末を用い、焼成や育成にHIP(hot isostatic pressing furnace)を使用することが行われている。本発明で使用する多結晶材料原料は通常の焼成で十分であり、原料の多結晶材料を上から吊るして加熱し、映像観察装置によって多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に観察し、半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することにより単結晶を成長させる。したがって、材料を完全溶融すると製造が困難となる単結晶製造に特に有効な手法である。そして、今後、適用可能な有望な材料がさらに発見されれば、広く実用に用いうることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の多結晶材料から単結晶を成長させる方法の原理を示す図である。
【図2】実施例1で、Cu3Mo2O9単結晶製造中に観察した画像である。
【図3】実施例1で、画像処理により得られ多結晶焼結体部のヒストグラムである。
【図4】実施例1で、画像処理により得られた光沢部のヒストグラムである。
【図5】実施例3で、Y3Fe5O12製造中に観察した画像である。
【図6】実施例3で、画像処理により得られた多結晶焼結体部のヒストグラムである。
【図7】実施例3で、画像処理により得られた光沢部のヒストグラムである。
【図8】実施例6で、MnZnフェライト製造中に観察した画像である。
【図9】実施例6で、画像処理により得られた多結晶焼結体部のヒストグラムである。
【図10】実施例6で、画像処理により得られた光沢部のヒストグラムである。
【図11】実施例7で、SmBa2Cu3O7単結晶製造中に観察した画像である。
【図12】実施例7で、画像処理により得られた多結晶焼結体部のヒストグラムである。
【図13】実施例7で、画像処理により得られた光沢部のヒストグラムである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶材料のバルク半溶融状態に急峻な温度勾配を与えることにより、磁気ヘッド、光学素子、光学材料、圧電素子、シンチレータ、MEMS、デバイス用基板などの様々な用途に用いられる各種単結晶を容易に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固相反応法で製造される代表的なフェライト単結晶は容器を用いたブリッジマン法で育成されていた。しかし、この方法では、単結晶を完全溶融すると分配係数などにより製造される単結晶組成が変化していくという問題が起こるため、最近では完全溶融させない固相反応法が用いられるようになった。(例えば非特許文献1,特許文献1〜3参照)
【非特許文献1】応用物理61(1992)817 “固相反応法によるフェライト単結晶の育成”
【特許文献1】特開昭59-26992号公報
【特許文献2】特開昭59-78998号公報
【特許文献3】特開昭63−210091号公報
【0003】
その後、イットリウム鉄ガーネットも固相反応法で製造されるようになった。(非特許文献2、特許文献4参照)
この方法は共沈法で作成した高純度微粉末で高密度に焼成した多結晶体ブロックを用意して一面を鏡面研磨し、この面に特定方位に切断し鏡面研磨した種結晶を接合させ、電気炉に入れて特定の温度で熱処理をすると種結晶の接合部から多結晶が徐々に単結晶化して全体が単結晶と成る製造法である。
【非特許文献2】Proc.1st. Japan International SAMPE Sympo.,(1989)419 “Growth of yttrium iron garnet single crystal by solid-solid reaction”
【特許文献4】特開平4-75879号公報
【0004】
しかし、この方法では原料の品質、粒度の高品質が要求されるため共沈法で出発原料が製造されていた。また、焼成や単結晶製造に雰囲気の高圧制御を必要とするHIP(hot isostatic pressing furnace;熱間静水圧プレス)が用いられており、固相反応がある程度で止まってしまうため製造できる単結晶の厚さは限られてしまう欠点があった。
これらの問題を解決するために長尺化の製造方法が提案された(特許文献5)。しかし、この方法ではB2O3などの添加物を添加しないと結晶化しないことが記載されており、さらに、この方法では試料を電気炉に入れて、終了するまでは炉の温度制御をするだけで、製造中の状態は観察できなかった。
【特許文献5】特開昭64-18985号公報
【0005】
一方、Cu3Mo2O9は分解溶融物質であり(非特許文献3参照)、従来フラックス法により1X5X3ミリ程度の大きさの単結晶が育成されていた。(非特許文献4)
【非特許文献3】Materials Chemistry 4 (1979) 113 Phase diagram of CuO-MoO3 system
【非特許文献4】Phys.Rev.B77(2008) 134419 Slow-cooling法
【0006】
そこで、本発明者は大型単結晶製造を試みるために、溶融帯にCu3Mo2O9単結晶を析出する組成の溶液を用いる溶媒移動帯溶融法(Traveling Solvent Floating Zone法)を試みた。この系は溶融帯が発泡しやすく、粘性が少ない、さらに原料棒の径方向に突起物が時間とともに生成されて溶融帯が不安定になりやすく、時間経過とともに発生した気泡が大きくなってゆき溶融帯の保持ができなくなる、などの問題が多かった。そのため、著しく結晶成長が困難であったが、改良を加えることにより溶融帯を数時間保持することができ、5ミリ角程度の結晶を得ることが出来た。しかしそれ以上の大きさの単結晶が望めなかった。
従来の、融液を用いる方法では、精密温度制御など非常に高度な結晶育成技術が必要であるため、単結晶を製造するのが困難であり、コストが高くなってしまう欠点があった。また、異常粒成長を用いる方法では、結晶の大きさに限度があり、連続的に成長させるのが困難であった。このような理由で、単結晶の利用範囲が制限されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明はこれら従来技術の問題点を解消して、多結晶材料から容易に単結晶が育成できるとともに、単結晶製造のコストを下げて、単結晶の利用範囲を広げることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、加熱源を用いて多結晶材料を局所加熱して、バルク半溶融状態(固相−液相混合状態)を実現すると同時に、急峻な温度勾配を与えることにより誘起される急峻な化学ポテンシャル勾配に起因する固相の輸送を促進して結晶粒成長を行う際に、映像観察装置によって多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に観察し、半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することにより単結晶を成長させることを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明ではつぎの1〜10の構成を採用するものである。
1.長尺状の多結晶材料と加熱源を、多結晶材料の長手方向に相対的に移動させることによって多結晶材料を局所加熱で半溶融状態にして多結晶材料の長手方向に単結晶を成長させる方法において、映像観察装置によって多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に観察し、半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することにより単結晶を成長させることを特徴とする多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
2.前記局所加熱部の映像の光沢変化により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
3.前記局所加熱部の映像の光沢部と非光沢部の境界の成長方向位置が定常状態に維持されるように、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
4.前記局所加熱部の映像を画像処理することによってRGB値〔光の3原色である、R=Red(赤)、G=Green(緑)、B=Blue(青)〕を算出し、RGB値の変化により半溶融部の状態を確認して、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
5.前記局所加熱部の映像を画像処理して輝度のヒストグラムの広がりを閾値と対比することにより半溶融部の状態を確認して、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
6.前記局所加熱部の映像の気泡発生により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
7.前記局所加熱部の映像の縮径により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
8.前記長尺状の多結晶材料を他の物質と接触させずに局所加熱することを特徴とする1〜7のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
9.前記局所加熱部の映像の観察結果を演算処理し、処理結果に基づいて局所加熱部の加熱温度及び移動速度を自動制御することを特徴とする1〜8のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
10.前記長尺状の多結晶材料が、Cu3Mo2O9、SmBa2Cu3O7、Gd3−xYxFe5O12(0≦x≦3)、Mn1−yZnyFeO4(0≦y≦1)から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、上記の構成を採用することによって、つぎのような効果を奏することができる。
(1)固相反応法で一般的である高圧雰囲気を使うHIPを用いた種結晶を焼成材料に密着させる方法をとらず、簡便に製造できる。
(2)共沈法で微細粒子原料を作成し高密度焼結体を得るために高圧雰囲気を使うHIPで焼成をせずに、一般的な原料と焼成過程から得られる焼結体を用いることができる。
(3)高圧雰囲気を使うHIP中で種結晶を焼成材料に密着させる方法では、ある程度の厚さまでは製造されるが限りがある。本発明では温度勾配の傾斜方向に結晶化が進むので、長さ方向に結晶化させると方向がそろうので有利である。
(4)さらに、種結晶を用いれば望みの結晶軸方向の単結晶製造も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、固相反応による多結晶の結晶化と連続育成により結晶方向が揃う、広義の意味でのネッキング効果による単結晶化を組み合わせてもよい、長さ方向に単結晶製造できる方法を提供するものである。
一般的には、高密度化のために原料棒をなるべく高温にして焼成を行うが、適温を過ぎて焼成するとCu3Mo2O9の微結晶が発生し、機械的強度が弱くなってしまうことが判明した。しかし、逆に徐々に高温処理してゆくと単結晶のグレインが大きくなることが明らかになった。このことから固相反応法を想起し、本発明を考案するに至った。
【0012】
本発明では、一般的である高圧雰囲気を使うHIPを用いた種結晶を多結晶材料に密着させる方法をとらず、簡便に単結晶を製造することができる。また、共沈法で微細粒子原料を作成し高密度焼結体を得るために高圧雰囲気を使うHIPで焼成をせずに、一般的な原料と焼成過程から得られる焼結体を用いることができる。従来の、固相反応法は反応の進行状態を直接観察ができず、解明されていないことも多い。
【0013】
本発明者等の研究により、固相反応から結晶化の状態をリアルタイムで観察することにより、単結晶の成長に液相が大きく関与していることが明らかになり、物質により単結晶製造条件である液相の適量が異なることも明らかになり、単結晶製造時の液相の量の観察が重要であることが判明した。また、これから液相が容器などに接触して単結晶育成の障害になるおそれがないよう無接触にすることが重要であるこが明らかになった。高圧雰囲気を使うHIP中で種結晶を焼成材料に密着させる固相反応法では、ある程度の厚さを有する単結晶を製造することができるが限りがある。これに対して、本発明では種結晶を用いなくとも、単結晶の製造が可能である。さらに、種結晶を用いることにより、望みの結晶軸方向に長く、その場観察が出来て技術的に容易に、多量に単結晶を製造することができる。
【0014】
図1は、本発明の多結晶材料から単結晶を成長させる方法の原理を示す図である。
本発明では、一般的な原料と焼成過程により得られる棒状の多結晶焼結体を装置の上軸から吊るし、または装置の下軸に固定する。そして、焼結体の外側から図1に示すように、焼結体の軸方向には凸(山形)に急激に温度勾配がつくように、また焼結体の径方向には均等に加熱されるように、光加熱源により焼結体を加熱する。そして、半溶融状態の液相が出現するまで加熱源のパワーを増加してゆくと焼結体の縮径が生じ、光沢が増し、表面に気泡の発生等が観察されるので、これらの現象により液相の出現を確認する。ここで加熱源のパワーを一定にし、多結晶焼結体又は光加熱源を軸方向に移動させて、単結晶育成を開始する。
【0015】
液相の出現は、CCDカメラのような映像観察装置を用いて多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に撮影し、加熱により生じた半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御する。
本発明において、半溶融状態の液相の出現は、つぎの現象により確認することができる。
(1)局所加熱部の映像の光沢変化により半溶融部の状態を確認する。
(2)局所加熱部の映像を画像処理することによってRGB値を算出し、RGB値の変化により半溶融部の状態を確認する。
(3)局所加熱部の映像を画像処理して輝度のヒストグラムの広がりを閾値と対比することにより半溶融部の状態を確認する。
(4)局所加熱部の映像の気泡発生により半溶融部の状態を確認する。
(5)局所加熱部の映像の縮径により半溶融部の状態を確認する。
上記(3)の方法は、横軸に明るさ、縦軸に明るさ毎の画素数を積み上げたヒストグラムを用いる方法で、光沢画面特有の高輝度側に広がる歪みグラフにより確認するものである。
【0016】
加熱源パワーの制御は、画面上の液相界面の位置を一定にすることによって行われる。この界面の温度の分布、つまり図1の本手法の原理図における結晶成長進行部は加熱源による温度勾配と印加パワーによって決まる。印加パワーが高ければ温度分布は右にずれ、結晶開始温度を横切る幅が広がり、画面上での液相界面の位置が高くなるので、目視、RBG値、ヒストグラムによって確認しながら制御してゆく。
例えば、Cu3Mo2O9の場合は、わずかな液相が存在するだけで、結晶化が進行してゆくが、およそ印加パワーを一定にしてから3%以内の制御を行う。これに対して、SmBa2Cu3O7の場合はかなりの量の液相が必要であり、およそ印加パワーを一定にしてから10%以内の制御を行う。
【0017】
多結晶焼結体に構成物質(種結晶)を付着させて、単結晶製造に関与する液相の量を調整できる。この際、液相は容器などに接触させずに、局所加熱部の映像観察により加熱源のパワー調整を行う。棒状焼結体を上軸から吊るした場合は焼結体を下方へ、下軸に固定した場合は焼結体を上方へ等速移動させることにより、温度勾配化により多結晶は単結晶になり、生成した単結晶が低温部に移動し単結晶が連続的に製造される。あらかじめ種結晶を棒状焼結体に接触させておけば、種結晶の結晶軸方向に長い単結晶が製造できる。
【0018】
本発明の好ましい形態では多結晶材料を保持する容器を用いず、多結晶材料を他の物質と無接触で単結晶を成長させる。したがって、容器からの不純物による汚染がなく、製造温度の制約がないので2000℃以上に加熱することも可能である。また、容器代の倹約にもなる。
従来の固相反応法では、YIG、Mn-Znフェライトともに単結晶化する多結晶体は何らかの容器または物質の上に置かれて接触しており、RBa2Cu3O7の溶融固化法では液相保持と汚染を防ぐために支持材が使用されている。(例えば、特許文献6,7参照)
【特許文献6】特開平10-245223号公報
【特許文献7】特開2004-262673号公報
【0019】
本発明では、製造中の単結晶は他の物質とは全く無接触であり、単結晶製造中には擾乱を受けない。また、本発明は単結晶製造の状態が従来の固相反応法と異なり、リアルタイムで観察できる特徴を持っている。YIGやRBa2Cu3O7単結晶製造に用いられる浮遊帯域法(FZ)では上下の軸がお互いに逆に回転しており、完全溶融した部分が恒常的に動いており、原料棒と育成結晶の接触が問題となることがあり、常時溶融帯の観察が必要である。
これに対して、本発明では初期の液相の出現の確認と量の調整を必要とするだけで、それ以後は加熱温度をほぼ一定とするため、熟練をほとんど必要としない利点を持っている。液相の出現の適量の程度はそれぞれの物質で異なり、実施データが必要となる。加熱源としては電球またはレーザーで加熱する方法をとると、撮像部が高温とならないようにカメラ装置を設置できるので液相の出現を直接観察でき、単結晶の製造が一段と容易になるので好ましい。
【0020】
また、本発明の方法によりCu3Mo2O9単結晶を製造することが可能となったが、この方法は固相反応法の代表的なYIGやMnZnフェライト、RBa2Cu3O7などに適用することも可能である。また、単結晶が溶融して製造が困難な物質にも、条件を探索することにより適用可能となるものであると考えられる。本発明は、単結晶の成長状態をその場観察がすることができるので、技術的に容易に、多量に単結晶を製造することが可能となり、産業上有利な方法である。
【0021】
つぎに、本発明により多結晶材料から単結晶を成長させる手順について説明する。
多結晶焼結体は1−10ミリ程度の長さの部分を加熱できるように、数個の電球の後部に反射鏡を備えたものを加熱源とするが、その加熱部分の温度勾配は電球においてはフィラメントの形状、定格電力、印加電力によって調節可能である。
同様に、加熱源としてレーザーを使用する場合には、数個を対照的に配置し、定格電力、印加電力や集光のアライメントで加熱部分の温度勾配を調整できる。原料棒の融点、形状、加熱源によって、あらかじめ予備実験を行いデータの蓄積と焼結体の状態を観察した後に、単結晶製造をおこなうことが好ましい。
【0022】
原料となる多結晶焼結体は真円状の断面を持った円柱状が最も望ましく、容易に実施できるが、温度勾配に沿って結晶化が進むものであれば他の任意形状とすることも可能である。機械的強度を増すために融点より100℃下の温度で焼成することが望ましい。加熱源を配置する位置は、径方向においては加熱源によって作られる等温線の中心点からずれないことが重要である。本発明は加熱部の温度勾配が急であることが特徴であり、10℃/mm以上とすることが好ましい。多結晶焼結体を回転させると、緩衝の役割をする溶融帯のあるFZ法とは異なり、結晶化界面の温度が10℃近くは変化する。このため焼結体を回転させない方が良い。また、焼結体にあらかじめ種結晶を接触させて配置すると、望みの結晶軸方向の単結晶が製造できる。
【0023】
また、多結晶焼結体の先端から長さ10ミリ程度の部分の径を、例えば1、2ミリ程度に縮径にしておくとネッキング効果でこの部分が単結晶化しやすくなり、以後単結晶を容易に製造することができる。
加熱源としては、観察装置の導入が難しくその場観察が出来ない局所加熱抵抗線ヒーターや高周波加熱コイルであっても、精密に温度制御や印加パワー制御ができ、温度勾配の制御が可能であれば、熟練は必要と成るが、使用することも可能である。
【実施例】
【0024】
つぎに、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1:Cu3Mo2O9)
焼結後の組成がCu3Mo2O9になるように、それぞれ純度99.9%のCuOとMo2O3を3:1の比で混合し、670℃で5時間仮焼きした。その後粉砕混合し、ゴム管に混合原料を充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して700℃、5時間焼成をして直径5mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。この焼結体を4個のガラス製楕円鏡を持つ赤外線加熱結晶炉の上軸に吊るした。加熱源は、平型に配置されたフィラメントを持つ150Wのハロゲンランプが対角線状に4個配置されており、垂直方向の温度勾配は800℃で約25℃/mmである。
【0025】
あらかじめ短い焼結体を用いて直径5 mmに対する印加電力の結晶化最適値を数回の実験で確かめておき、最適印加電力まで1時間程度で昇温させる。その後焼結体の先端部を温度勾配の最高温度の位置に設定し、映像観察装置(CCDカメラ:以下同様)にて液相が出現して先端部が光沢を帯びたのを確認した。
さらに液相出現事実を確実にするために、例えばフォトショップのソフトウエアの画像処理で液相の部分のRGB数値、つまり赤成分(R)、緑成分(G)、青成分(B)の数値が急変したのを確認した。白黒の映像により確認したRGB数値(赤緑青成分の平均値)は、燒結体部分でR=50-104, G=50-104, B=50-104、液相出現部でR=254, G=254, B=254であった。
さらに、画像処理で光沢部のヒストグラムをとり、光沢部の証左である輝度の高い方向になだらかに広がる歪みを確認することにより、半溶融状態の液相の出現を確認した。
【0026】
つぎに、局所加熱部の温度を一定に保持し、下降速度を1−10mm/hで焼結体を移動させた。移動が終了してから室温まで同じく1時間程度で降温させた。原料の多結晶焼結体とほぼ同じ大きさの直径4.5mm、長さ7 cmのCu3Mo2O9単結晶が得られた。Cu3Mo2O9単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。またこのCu3Mo2O9単結晶を結晶軸方向に切断して種結晶とした。
Cu3Mo2O99単結晶製造中に観察した画像を図2に示す。また、焼結体部のヒストグラムを図3に、光沢部のヒストグラムを図4に示す。
【0027】
(実施例2:Cu3Mo2O9)
実施例1と同様にして、670℃で5時間仮焼きしたCu3Mo2O9原料粉末を、出発原料として使用した。実施例1で製造した単結晶をラウエカメラを用いて結晶軸を決め、切断して種結晶としてゴム管底部に(100)面を向けて配置してからゴム管に出発原料を充填して、実施例1と同様に2000kg/cm2の静水圧で加圧して700℃、5時間焼成をして直径5mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。この焼結体を赤外線加熱結晶炉の下軸に固定し、最適印加電力まで1時間程度で昇温させた。焼結体の種結晶のついている先端部を温度勾配の最高温度の位置に設定した。映像観察装置にて液相が出現して先端部が光沢を帯びたのを確認してから、温度を一定に保持し、下降速度を1−10mm/hで焼結体を移動させた。移動が終了してから室温まで同じく1時間程度で降温させた。(100)面を断面に持つ、原料の多結晶焼結体とほぼ同じ大きさのCu3Mo2O9単結晶が得られた。
【0028】
(実施例3:Y3Fe5O12)
それぞれ純度99.9%のY2O3とFe2O3をモル比で3:5の割合で混合した焼結体原料30 gと、同じく2:8の割合で混合したソルベント原料5 gを、それぞれ1150℃で12時間仮焼きした。その後粉砕混合し、ゴム管に混合焼結体原料を充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して1400℃、15時間焼成をして、直径8mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。またソルベント原料は、錠剤成型器でペレット状に成型し、1200℃、5時間焼成をして直径10mmの試料を得た。丸棒状の焼結体を赤外線加熱結晶炉の下軸に設定し、ごくわずかな液相を存在させるためにソルベント0.1 gを融着させた。このソルベントを付けた焼結体を赤外線加熱結晶炉の上軸に設定し、ソルベントが半融して液相が出現する印加電力まで1時間程度で昇温させた。映像観察装置にて、液相が出現して先端部が光沢を帯びやや丸くなるのを確認した。さらに液相出現事実を確実にするために、画像処理で液相の部分のRGB数値、つまり赤成分、緑成分、青成分の数値が急変したのを確認した。カラー映像により確認したRGB数値は、燒結体部分でR=229, G=62, B=11、液相出現部でR=255, G=255, B=177であった。ついで、画像処理で光沢部のヒストグラムをとり、光沢部の証左である輝度の高い方向になだらかに広がる歪みを確認した。
【0029】
つぎに、局所加熱部の温度を一定に保持し、下降速度を0.5−5 mm/hで焼結体を移動させた。移動が終了してから室温まで同じく1時間程度で降温させた。焼結体とほぼ同じ大きさの直径7mm、長さ7 cmのY3Fe5O12単結晶が得られた。Y3Fe5O12単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。このとき使用した赤外線加熱炉は双楕円鏡を備えた2つのランプから成る炉で、加熱源は平型に配置されたフィラメントを持つ500Wのハロゲンランプが対角に2個配置されており、温度勾配は1200℃で約35℃/mmであった。
Y3Fe5O12製造中に観察した画像を図5に示す。また、多結晶焼結体部のヒストグラムを図6に、光沢部のヒストグラムを図7に示す。
【0030】
(実施例4:Gd1.5Y1.5Fe5O12)
それぞれ純度99.9%のY2O3とGd2O3とFe2O3をモル比で1.5:1.5:5の割合で混合した焼結体原料30 gと、同じく1:1:8の割合で混合したソルベント原料5 gをそれぞれ1150℃で12時間仮焼きした。その後粉砕混合し、ゴム管に混合焼結体原料を充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して1400℃、15時間焼成をして直径8mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。またソルベント原料は錠剤成型器でペレット状に成型し、1200℃、5時間焼成をして直径10mmの試料を得た。丸棒状の焼結体を赤外線加熱結晶炉の下軸に設定し、ごくわずかな液相を存在させるためにソルベントを0.1 gを融着させた。このソルベントを付けた焼結体を赤外線加熱結晶炉の上軸に設定し、ソルベントが半融して液相が出現する印加電力まで1時間程度で昇温させた。映像観察装置にて液相が出現して先端部が光沢を帯びやや丸くなるのを確認してから、温度を一定に保持し、下降速度を0.5−5 mm/hで焼結体を移動させた。焼結体の移動が終了してから、室温まで同じく1時間程度で降温させた。焼結体とほぼ同じ大きさの、直径7mm、長さ7 cmのGd1.5Y1.5Fe5O12単結晶が得られた。Gd1.5Y1.5Fe5O12単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。このとき使用した赤外線加熱炉は、実施例3と同じ双楕円鏡を備えた2つのランプから成る炉であった。
【0031】
(実施例5:Gd3Fe5O12)
それぞれ純度99.9%のGd2O3とFe2O3をモル比で3:5の割合で混合し、1150℃で12時間仮焼きした。その後粉砕混合し、ゴム管に混合原料を充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して1400℃、15時間焼成することにより、直径8mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。該焼結体の先端を#2000の紙ヤスリで研磨し、(100)面を鏡面研磨したGd3Fe5O12単結晶を原料側に向け接合させた。このときごくわずかな液相を存在させるために、Fe2O3粉末を水に溶いて種結晶と原料棒の脇に微量付けた。該焼結体を赤外線加熱結晶炉の下軸に設定し、最適印加電力まで1時間程度で昇温させた。
焼結体の種結晶のついている先端部を温度勾配の最高温度の位置に設定し、映像観察装置にて液相が出現して先端部が光沢を帯びてきたのを確認してから、温度を一定に保持し、下降速度を0.5−5mm/hで焼結体を移動させた。移動が終了してから、室温まで同じく1時間程度で降温させた。原料の多結晶焼結体とほぼ同じ大きさの、直径7mm、長さ7 cmのGd3Fe5O12単結晶が得られた。Gd3Fe5O12単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。このとき使用した赤外線加熱炉は、実施例3と同じ双楕円鏡を備えた2つのランプから成る炉であった。
【0032】
(実施例6:MnZnフェライトMn1-yZnyFe2O4)
それぞれ純度99.9%のMnO、ZnO、Fe2O3をモル比で45:3:52の割合で混合し、870℃で12時間仮焼きした。その後粉砕混合し、混合原料をゴム管に充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して1150℃、15時間焼成することにより、直径5mm、長さ8cmの丸棒状の焼結体を得た。該焼結体を赤外線加熱結晶炉の上軸に設定し、最適印加電力まで30分程度で昇温させた。焼結体の先端部を温度勾配の最高温度の位置に設定し、映像観察装置にて液相が出現して先端部が光沢を帯びやや丸くなるのを確認した。さらに液相出現事実を確実にするために、画像処理で液相の部分のRGB数値が急変したのを確認した。カラー映像により確認したRGB数値は、燒結体部分でR=255, G=120, B=31、液相出現部でR=255, G=244, B=177であった。ついで、画像処理で光沢部のヒストグラムをとり、光沢部の証左である輝度の高い方向になだらかに広がる歪みを確認してから、温度を一定に保持し、下降速度を1−10mm/hで焼結体を移動させた。移動が終了してから、室温まで同じく1時間程度で降温させた。原料の多結晶焼結体とほぼ同じ大きさの、直径4.5mm、長さ7 cmのMnZnフェライト単結晶が得られた。MnZnフェライト単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。このとき使用した赤外線加熱炉は、実施例3と同じ双楕円鏡を備えた2つのランプから成る炉であった。
MnZnフェライト製造中に観察した画像を図8に示す。また、多結晶焼結体部のヒストグラムを図9に、光沢部のヒストグラムを図10に示す。
【0033】
(実施例7:SmBa2Cu3O7)
それぞれ純度99.9%のSm2O3、BaCO3、CuOをモル比で1:4:6の割合で混合した焼結体原料30 gと、同じく1:9:14の割合で混合したソルベント原料5 gをそれぞれ870℃で15時間仮焼きした。その後粉砕混合し、ゴム管に混合焼結体原料を充填して2000kg/cm2の静水圧で加圧して950℃、15時間焼成をして直径5mm、長さ6cmの丸棒状の焼結体を得た。またソルベント原料は錠剤成型器でペレット状に成型し、900℃、5時間焼成をして直径10mm試料を得た。丸棒状の焼結体を赤外線加熱結晶炉の下軸に設定し、ごくわずかな液相を存在させるためにソルベントを0.1 gを融着させた。このソルベントを付けた焼結体を赤外線加熱結晶炉の上軸に設定し、ソルベントが半融して液相が出てくる印加電力まで1時間程度で昇温させた。映像観察装置にて、液相が出てきて先端部が光沢を帯びやや丸くなるのを確認した。さらに液相出現事実を確実にするために、画像処理で液相の部分のRGB数値が急変したのを確認した。カラー映像により確認したRGB数値は、燒結対部分でR=238, G=51, B=18、液相出現部でR=238, G=122, B=57であった。ついで、画像処理で光沢部のヒストグラムをとり、光沢部の証左である輝度の高い方向になだらかに広がる歪みを確認してから、温度を一定に保持し、下降速度を0.5−5mm/hで焼結体を移動させた。このとき温度が高すぎると完全溶融するため、製造された単結晶の自重で加熱部からちぎれてしまう現象がおきる。また、温度が低すぎると、単結晶化が停止してしまう現象がおきる。移動が終了してから、室温まで同じく1時間程度で降温させた。原料の多結晶焼結体とほぼ同じ大きさの、直径5mm、長さ5 cmのSmBa2Cu3O7単結晶が得られた。SmBa2Cu3O7単結晶であることは、ラウエ測定、およびX線回折測定より確認した。このとき使用した赤外線加熱炉は双楕円鏡を備えた2つのランプから成る炉で、加熱源は平型に配置されたフィラメントを持つ500Wのハロゲンランプが対角に2個配置されており、温度勾配は1100℃で約35℃/mmであった。
SmBa2Cu3O7単結晶製造中に観察した画像を図11に示す。この映像では、液相の出現による縮径が明確に観察された。また、多結晶焼結体部のヒストグラムを図12に、光沢部のヒストグラムを図13に示す。
【産業上の利用可能性】
【0034】
現在産業用としてYIG、MnZnフェライトでは固相反応法が用いられ、高密度の焼成多結晶体を得るために原料に共沈粉末を用い、焼成や育成にHIP(hot isostatic pressing furnace)を使用することが行われている。本発明で使用する多結晶材料原料は通常の焼成で十分であり、原料の多結晶材料を上から吊るして加熱し、映像観察装置によって多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に観察し、半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することにより単結晶を成長させる。したがって、材料を完全溶融すると製造が困難となる単結晶製造に特に有効な手法である。そして、今後、適用可能な有望な材料がさらに発見されれば、広く実用に用いうることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の多結晶材料から単結晶を成長させる方法の原理を示す図である。
【図2】実施例1で、Cu3Mo2O9単結晶製造中に観察した画像である。
【図3】実施例1で、画像処理により得られ多結晶焼結体部のヒストグラムである。
【図4】実施例1で、画像処理により得られた光沢部のヒストグラムである。
【図5】実施例3で、Y3Fe5O12製造中に観察した画像である。
【図6】実施例3で、画像処理により得られた多結晶焼結体部のヒストグラムである。
【図7】実施例3で、画像処理により得られた光沢部のヒストグラムである。
【図8】実施例6で、MnZnフェライト製造中に観察した画像である。
【図9】実施例6で、画像処理により得られた多結晶焼結体部のヒストグラムである。
【図10】実施例6で、画像処理により得られた光沢部のヒストグラムである。
【図11】実施例7で、SmBa2Cu3O7単結晶製造中に観察した画像である。
【図12】実施例7で、画像処理により得られた多結晶焼結体部のヒストグラムである。
【図13】実施例7で、画像処理により得られた光沢部のヒストグラムである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の多結晶材料と加熱源を、多結晶材料の長手方向に相対的に移動させることによって多結晶材料を局所加熱で半溶融状態にして多結晶材料の長手方向に単結晶を成長させる方法において、映像観察装置によって多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に観察し、半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することにより単結晶を成長させることを特徴とする多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項2】
前記局所加熱部の映像の光沢変化により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項3】
前記局所加熱部の映像の光沢部と非光沢部の境界の成長方向位置が定常状態に維持されるように、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項4】
前記局所加熱部の映像を画像処理することによってRGB値を算出し、RGB値の変化により半溶融部の状態を確認して、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項5】
前記局所加熱部の映像を画像処理して輝度のヒストグラムの広がりを閾値と対比することにより半溶融部の状態を確認して、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項6】
前記局所加熱部の映像の気泡発生により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項7】
前記局所加熱部の映像の縮径により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項8】
前記長尺状の多結晶材料を他の物質と接触させずに局所加熱することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項9】
前記局所加熱部の映像の観察結果を演算処理し、処理結果に基づいて局所加熱部の加熱温度及び移動速度を自動制御することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項10】
前記長尺状の多結晶材料が、Cu3Mo2O9、SmBa2Cu3O7、Gd3−xYxFe5O12(0≦x≦3)、Mn1−yZnyFeO4(0≦y≦1)から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項1】
長尺状の多結晶材料と加熱源を、多結晶材料の長手方向に相対的に移動させることによって多結晶材料を局所加熱で半溶融状態にして多結晶材料の長手方向に単結晶を成長させる方法において、映像観察装置によって多結晶材料の局所加熱部の映像を連続的に観察し、半溶融部の状態をリアルタイムで観察して局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することにより単結晶を成長させることを特徴とする多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項2】
前記局所加熱部の映像の光沢変化により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項3】
前記局所加熱部の映像の光沢部と非光沢部の境界の成長方向位置が定常状態に維持されるように、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項4】
前記局所加熱部の映像を画像処理することによってRGB値を算出し、RGB値の変化により半溶融部の状態を確認して、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項5】
前記局所加熱部の映像を画像処理して輝度のヒストグラムの広がりを閾値と対比することにより半溶融部の状態を確認して、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項6】
前記局所加熱部の映像の気泡発生により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項7】
前記局所加熱部の映像の縮径により半溶融部の状態を確認し、局所加熱部の加熱温度及び移動速度を制御することを特徴とする請求項1に記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項8】
前記長尺状の多結晶材料を他の物質と接触させずに局所加熱することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項9】
前記局所加熱部の映像の観察結果を演算処理し、処理結果に基づいて局所加熱部の加熱温度及び移動速度を自動制御することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【請求項10】
前記長尺状の多結晶材料が、Cu3Mo2O9、SmBa2Cu3O7、Gd3−xYxFe5O12(0≦x≦3)、Mn1−yZnyFeO4(0≦y≦1)から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多結晶材料から単結晶を成長させる方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−143811(P2010−143811A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325283(P2008−325283)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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