説明

多軸成形材料、プリフォーム、FRPおよびその製造方法

【課題】
優れた取扱性・樹脂含浸性・賦型性を有し、力学特性および品位の優れたFRPを生産性よく得ることができる多軸成形材料、プリフォーム、およびそれらを用いたFRP、ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】
多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートが、少なくとも2枚、該強化繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体が一体化された多軸成形材料であって、各シートにおける強化繊維糸条の目付が50〜350g/mの範囲内であり、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布が15〜250g/mの範囲内で配置されており、かつ、前記積層体が第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により一体化されている多軸成形材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた取扱性・樹脂含浸性・賦型性を有し、力学特性および品位の優れたFRPを、成形中に発生する強化繊維糸条の配向の乱れを抑制しながら生産性よく得ることができる多軸成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より炭素繊維やガラス繊維を強化繊維とした繊維強化プラスチック(以下、FRPと略す)は、比強度、比弾性率に優れることから、様々な用途に使われている。かかるFRPの成形方法としては、強化繊維基材に予めマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを用い、これを型にセットしてバッグフィルムで覆い、オートクレーブ内で加熱・加圧し、熱硬化性樹脂を硬化させるオートクレーブ成形法や、ドライな状態の強化繊維基材を型内にセットし、型内を減圧した状態(真空状態)で液状の熱硬化性樹脂を注入する真空注入成形法が一般的に広く知られている。しかしながら、オートクレーブ成形法や真空注入成形法では、基材を積層する必要や、バッグフィルムで覆い真空に減圧する必要があり、特に真空注入成形においては熱硬化性樹脂を注入する必要もあった。また、これらの方法では前述した工程を含めて一回あたりの成形時間(サイクルタイム)が長くなりすぎ、例えば生産台数の多い自動車部材などへの適応が困難であった。
【0003】
かかる問題に対して、例えば、強化繊維基材を予め積層してステッチ糸により縫製、一体化した多軸ステッチ基材を用いることにより、FRPに成形する時の積層工程を省略する手法が提案されている(例えば、特許文献1など)。しかしながら、かかる技術では別に用意したマトリックス樹脂(熱硬化性樹脂)を注入し、更に硬化させる工程が必要なため、その効果が十分とは言い難い。
【0004】
一方、樹脂の注入・硬化の工程を省略する手段として、強化繊維にマトリックスとなる合成樹脂繊維を予め一体化して前記多軸ステッチ基材とした成形材料(例えば、特許文献2など)や、前記多軸ステッチ基材の層間にマトリックスとなるフィルムを挿入した成形材料(例えば、特許文献3など)が提案されている。
【0005】
しかしながら、かかる特許文献2に記載の方法では、多軸ステッチ基材における強化繊維の層の中にマトリックスとなる合成樹脂繊維を配置している成形材料であるため樹脂含浸性に劣り、樹脂の含浸には高い圧力が必要であるという問題があった。また、マトリックス樹脂を強化繊維の中に含浸させる際には、含浸すべき箇所に存在する空気を効率的に系外に逃がす、すなわち空気の系外への経路を形成することが重要となるが、強化繊維に合成樹脂繊維を予め一体化しているため、空気の系外への経路が狭く、加圧・加熱中に簡単に閉塞されてしまい、その結果、FRP中にボイドとして残存しやすいという問題があった。更には、強化繊維に合成樹脂繊維を予め一体化する必要があるため、工程が増加することによりコストアップするという問題もあった。
【0006】
かかる特許文献3に記載の方法では、縫い糸がフィルムを貫通することが困難であるという問題があった。また、樹脂フィルムを用いると、積層シートを特に二次曲面のような複雑形状に賦型するときに樹脂フィルムが形状に追従できずにシワが発生したり、強化繊維の目曲がりを誘発したりするという問題があった。更に、特許文献3に具体的に記載される強化繊維の層は、それぞれが厚く目付が大きいので、溶融した樹脂フィルム(マトリックス)を厚み方向に完全に含浸させるのが難しいという問題があった。さらに、かかる特許文献3には、前記シワや強化繊維の目曲がりを抑制することやマトリックス樹脂の含浸性を改善することに関して、その手段や方法が開示されておらず、示唆もない。
【0007】
なお、上記の樹脂フィルムにかかる問題に対して、強化繊維シートおよび熱可塑性樹脂の不織布を積層して加熱・加圧したプリプレグまたはセミプレグ状態の成形材料も提案されている(例えば、特許文献4など)。しかしながら、成形材料の面方向全面にわたって樹脂を強化繊維に含浸させてプリプレグまたはセミプレグ状態にしてしまうと、成形材料の取扱性・賦型性は大幅に低下する問題があった。そして、特許文献4には、多層に積層する工程における取扱性・賦型性に関して、その手段や方法が開示されておらず、示唆もない。
すなわち、特許文献1〜4をはじめとした従来の技術では、優れた取扱性・樹脂含浸性・賦型性を有し、力学特性および品位の優れたFRPを生産性よく得ることができる成形材料およびそれから得られるFRPは見出されておらず、かかる技術が渇望されている。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0059309号明細書
【特許文献2】特開2001−073241号公報
【特許文献3】特開2004−346175号公報
【特許文献4】特開2003−165851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、複雑形状に賦型するときにシワが発生する問題や、強化繊維の目曲がりを誘発する問題を解決し、優れた取扱性・樹脂含浸性・賦型性を有し、力学特性および品位の優れたFRPを生産性よく得ることができる多軸成形材料、プリフォーム、およびそれらを用いたFRP、ならびにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は次の(1)〜(14)を特徴とするものである。
(1)多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートが、少なくとも2枚、該強化繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体が一体化された多軸成形材料であって、各シートにおける強化繊維糸条の目付が50〜350g/mの範囲内であり、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布が15〜250g/mの範囲内で配置されており、かつ、前記積層体が第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により一体化されていることを特徴とする多軸成形材料。
(2)第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm1−150)≦Tm2≦(Tm1−20)の関係を満足することを特徴とする上記(1)に記載の多軸成形材料。
(3)第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−150)≦Tm1≦(Tm2−20)の関係を満足することを特徴とする上記(1)に記載の多軸成形材料。
(4)第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−20)<Tm1<(Tm2+20)の関係を満足することを特徴とする上記(1)に記載の多軸成形材料。
(5)前記シートは、強化繊維糸条の目付が90〜190g/mの範囲内であり、3〜12枚の範囲内で強化繊維糸条の配列方向が鏡面対称になるように積層されており、また、前記不織布は、目付が30〜80g/mの範囲であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の多軸成形材料。
(6)積層体の最外層にも前記第1の熱可塑性樹脂で構成された不織布が配置されており、層間に配置された不織布の目付W1と、最外層に配置された不織布の目付W2とが、(1.2×W1)≦W2≦(3×W1)の関係を満足することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の多軸成形材料。
(7)ステッチ糸が積層体厚み方向に貫通することによって形成された貫通孔が、多軸成形材料の長手方向および幅方向それぞれにおいて4〜25列/25mmの範囲内で規則的に配列し、かつ、貫通孔の密度が60,000〜200,000箇所/mの範囲内であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の多軸成形材料。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の多軸成形材料が二次曲面を有する形状に賦型されたことを特徴とするプリフォーム。
(9)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の多軸成形材料もしくは上記(8)に記載のプリフォームを用いて成形されたことを特徴とするFRP。
(10)第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布は溶融・固化してマトリックスを構成し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸はその形態を実質的に維持して存在していることを特徴とする上記(9)に記載のFRP。
(11)第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布および第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸が溶融・固化してマトリックスを構成していることを特徴とする上記(9)に記載のFRP。
(12)多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートを、少なくとも2枚、該強化繊維糸条が交差するように積層した積層体を一体化した多軸成形材料を用いるFRPの製造方法であって、
多軸成形材料として、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布を有し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により積層体が一体化されており、かつ、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm1−150)≦Tm2≦(Tm1−20)の関係を満足しているものを用い、
該多軸成形材料をTm2以上(Tm1―20)以下の温度に加熱してステッチ糸を溶融させて賦型し、
しかる後にTm1以上の温度に加熱して不織布を溶融させて各シートに熱可塑性樹脂を含浸させる
ことを特徴とするFPRの製造方法。
(13)多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートを、少なくとも2枚、該強化繊維糸条が交差するように積層した積層体を一体化した多軸成形材料を用いるFRPの製造方法であって、
多軸成形材料として、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布を有し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により積層体が一体化されており、かつ、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−150)≦Tm1≦(Tm2−20)の関係を満足しているものを用い、
該多軸成形材料をTm1以上(Tm2―20)以下の温度に加熱して、賦型しながら不織布を溶融させて各シートに熱可塑性樹脂を含浸させる
ことを特徴とするFRPの製造方法。
(14)多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートを、少なくとも2枚、該強化繊維糸条が交差するように積層した積層体を一体化した多軸成形材料を用いるFRPの製造方法であって、
多軸成形材料として、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布を有し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により積層体が一体化されており、かつ、 第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−20)<Tm1<(Tm2+20)の関係を満足しているものを用い、
該多軸成形材料をTm1およびTm2以上の温度に加熱してステッチ糸および不織布を同時に溶融させて各シートに熱可塑性樹脂を含浸させる
ことを特徴とするFRPの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多軸成形材料によれば、マトリックスとなる樹脂から構成された不織布を強化繊維糸条からなるシートの間に配置して積層体を構成し、該積層体をステッチ糸で一体化しているので、プリフォームやFRPの成形作業を簡易に素早くかつ確実に行うことができ、さらに、ステッチ糸による貫通孔が厚み方向へ樹脂が含浸する際の樹脂流路となるため、樹脂含浸性に優れたものとなる。そして、不織布とステッチ糸のうちどちらか一方を溶融させる場合には、形態は維持されつつも積層体の各層がせん断変形しやすい状態となり、複雑な形状の型を用いて成形する場合でもシワや強化繊維糸条の配向の乱れを抑制することができる。また、不織布とステッチ糸を同時に溶融させる場合には、一層高い生産性で成形を行える上に、ステッチ糸の痕跡がなく、特に表面平滑性に優れたFRPを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の最良の実施形態の一例について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本発明の多軸成形材料の一実施態様を示す概略斜視図である。また、図2は、本発明の多軸成形材料の一実施態様を示す概略断面図である。
【0013】
図1および図2に示す通り、多軸成形材料8は、強化繊維糸条が並行に配列されたシートが、少なくとも2枚、強化繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成している。シート1は、強化繊維糸条が多軸成形材料の長手方向に並行に配列された層で、シート2は、強化繊維糸条が多軸成形材料の長手方向に対して+45°に並行に配列された層で、シート3は、強化繊維糸条が多軸成形材料の長手方向に対して90°に並行に配列された層で、シート4は、強化繊維糸条が多軸成形材料の長手方向に対して−45°に並行に配列された層である。なお、ここで多軸成形材料の長手方向とは、巻取装置により多軸成形材料を巻き取る方向、もしくは、引取装置により引き取る方向をいう。図1および図2に示す多軸成形材料において、強化繊維糸条のシートの積層枚数は4枚であるが、これらは本発明の多軸成形材料の一例を示したものであり、積層構成、積層枚数はこれに限定するものではない。本発明における好ましい積層構成としては、FRPに成形した際にそりを生じないように鏡面対称積層であり、また、好ましい積層枚数としては、取扱性と樹脂含浸性とのバランスから3〜12枚の範囲内である。
【0014】
これら各シートにおける強化繊維糸条の目付は50〜350g/mの範囲内である。好ましくは90〜190g/mの範囲内である。各層における強化繊維糸条の目付が50g/m未満であると、隣り合う強化繊維糸条同士の間に隙間ができて品位が劣るばかりか、前記隙間が力学特性低下の原因を引き起こす。また、各層における強化繊維糸条の目付が350g/mを越えると、隣り合う強化繊維糸条同士が重なる箇所ができるため、多軸成形材料の表面に凹凸ができる上に、層が厚くなるため賦形性に劣る。更には、層が厚くなると、熱可塑性樹脂で構成される不織布を溶融させて完全に含浸させる際に過大な外圧を加える必要があり、その過大な外圧により強化繊維糸条が目曲がりして、結局本発明の課題を解決できないものとなってしまう。
【0015】
本発明の多軸成形材料は、強化繊維糸条で構成された積層体のそれぞれの層間、すなわち、図1および図2におけるシート1とシート2との間、シート2とシート3との間、シート3とシート4との間に、FRPのマトリックスを構成する熱可塑性樹脂(第1の熱可塑性樹脂)で構成された不織布5が配置されている。
【0016】
マトリックス樹脂を強化繊維糸条に含浸させる際には、含浸すべき箇所に存在する空気を効率的に系外に逃がす、すなわち空気の系外への経路を形成することが重要となる。空気を効率的に逃がせないとFRP中にボイドとして残存する問題を発生する。そこで、本発明においては、少なくともシート間に不織布5を配置することで、平面方向の全面に延在するシート1〜4およびシート内の強化繊維糸条の単糸同士の隙間を空気の系外への経路とし、空気の系外への経路が成形中に閉塞されてしまうという問題を回避する。すなわち、本発明は、少なくともシート間に不織布5を配置することにより低い圧力での成形でもマトリックス樹脂を簡易に含浸できることを見出したものである。
【0017】
図1および図2に示す多軸成形材料では、多軸成形材料の最外層の片側にも不織布9が配置されているが、最外層の両側に不織布を配置してもよいし、最外層に不織布を配置しなくてもよい。不織布9が多軸成形材料の最外層の少なくとも一方に配置されていると、複数枚の多軸成形材料を積層する場合に、各多軸成形材料における最外層の不織布9を部分的に溶融させて多軸成形材料同士を一体化(例えばプリフォームの態様)することが可能となるため好ましい。最も好ましい態様は、多軸成形材料の最外層の両方に配置されている態様である。
【0018】
強化繊維糸条のシート間に配置される不織布は、目付が15〜250g/mの範囲内である。好ましくは35〜150g/m、更に好ましくは40〜100g/mである。不織布の目付が15g/m未満であると熱可塑性樹脂の量が強化繊維糸条の量に対して相対的に不足して十分に含浸ができないだけでなく、不織布が薄くなりすぎて多軸成形材料の製造プロセスにおいて破れたり変形したりするといった問題が発生し易く、不織布の取扱性が著しく低下する。同様の観点から、好ましくは35g/m以上、より好ましくは40g/mである。なお、この問題をさけるために強化繊維糸条のシートの目付を本発明の範囲を超えて低くすると、強化繊維糸条同士の間に隙間ができるためFRPにしたときの強度が低下するばかりか品位も悪くなる場合がある。一方、不織布の目付が250g/m越えると、強化繊維糸条の含有量が相対的に少なくなり、FRPにしたときに十分な強度が発現できない。なお、この問題をさけるために強化繊維糸条のシートの目付を本発明の範囲を超えて高くすると強化繊維糸条どうしが重なり合うため表面に凸凹が発生し、賦形性や品位が劣るだけでなく、樹脂を含浸させるときに過大な外圧が必要となり強化繊維糸条の目曲がりが発生する場合がある。なお、各シートの強化繊維糸条および不織布の目付は、JIS R7602(1989)5.5項に準拠してサンプルを切り出し、局所的な融着を開放して多軸成形材料を分解して各シートの強化繊維糸条および不織布について測定した値とする。
【0019】
さらに、本発明の多軸成形材料は、強化繊維糸条が交差するように積層された積層体であるため、上下の配向の異なる強化繊維糸条の層に押しつぶされて強化繊維糸条の配向が厚み方向に蛇行しやすく、力学特性の低下を招くおそれがある。しかしながら、樹脂から構成された不織布の目付を上記範囲内とすることで、シート間に挿入された不織布が上下のシートに発生する凸凹を緩和し、強化繊維糸条の蛇行を防ぐことができる。
【0020】
そして、本発明の多軸成形材料において、シート間に配置する不織布の目付を30〜80g/mの範囲内とするとともに、強化繊維糸条の目付が90〜190g/mの範囲内であるシートを、3〜12枚の範囲内で、強化繊維糸条の配列方向が鏡面対称になるように積層する場合、それらの相乗効果として取扱性、賦型性を高い次元でバランスさせることができ、得られるFRPは力学特性および品位にとりわけ優れたものとなる。
【0021】
また、成形されるFRPに特に表面品位が求められる場合には、シート間に配置される不織布の目付W1と、最外層に配置される不織布の目付W2とが、(1.2×W1)≦W2≦(3×W1)の関係を満たすようにすることが好ましい。最外層の不織布の目付が層間に配置した不織布の目付の1.2倍未満であると、強化繊維糸条で配列された最外層の凸凹が緩和されず、表面の平滑度に劣る場合がある。また、最外層の不織布の目付が層間に配置した不織布の目付の3倍を越えると、最外層付近の繊維含有量が著しく低下するため、繊維含有量が不均一なFPRになるばかりか、最外層に配置された樹脂が流動しやすくなり最外層の強化繊維の繊維配向が乱れて強度低下を招く場合や、FRPが反る場合がある。
【0022】
本発明で用いる不織布を構成する熱可塑性樹脂としては、その融点Tm+50℃、せん断速度1000/sの条件下における溶融粘度が250Pa・s以下であることが好ましい。より好ましくは200Pa・s以下、更に好ましくは150Pa・s以下である。溶融粘度が250Pa・sを超えると、上述のメルトブロー法またはスパンボンド法にて不織布の製造が困難となり易い。また、溶融させて強化繊維糸条に含浸させる際に粘度が高いため含浸性に劣るだけでなく、含浸に高い圧力が必要となるためその圧力により強化繊維糸条の屈曲や目曲がりを誘発する場合がある。なお、上記融点Tmとは、DSC(示差走査熱量計)を用いてJIS K7121(1987)にしたがい絶乾状態で20℃/minの昇温速度にて測定した値を指す。なお、融点を示さないもの(例えば非晶性ポリマー)については、同様に測定して得られるガラス転移温度+100℃を便宜的に融点とみなす。
本発明において、積層体は、図1および図2に示すように、第1の熱可塑性樹脂とは異なる第2の熱可塑性樹脂で構成されるステッチ糸6により一体化されている。かかる第2の熱可塑性樹脂は、第1の熱可塑性樹脂と同様にFRPのマトリックスを構成してもよいし、マトリックスを構成しなくてもよい。ステッチ糸6はニードル7により積層体を縫製し、多軸成形材料8を構成する。
【0023】
ここで、積層体にはステッチ糸が積層体厚み方向に貫通することで貫通孔13が形成され、この貫通孔13は、樹脂が含浸する際の樹脂流路となる。したがって、本発明の多軸成形材料は樹脂含浸性に優れたものとなる。
【0024】
貫通孔13にはステッチ糸が存在するが、かかるステッチ糸が強化繊維糸条を拘束してその配向方向(角度)を維持させること、強化繊維糸条の損傷を最低限に抑えること、FRPに成形するときの均一な賦形性を発現すること、更には上述の樹脂の含浸性とのバランスを総合的に勘案すると、多軸成形材料の長手方向および幅方向それぞれにおいて貫通孔が4〜25列/25mmの範囲内で規則的に配列するようにすることが好ましい。より好ましくはそれぞれに方向において5〜13列/25mmの範囲内である。なお、長手方向と幅方向とで同一間隔である必要はない。また、貫通孔13は、多軸成形材料8の平面方向における密度が30,000〜250,000箇所/mの範囲内であるのが好ましい。より好ましくは60,000〜200,000箇所/m、更に好ましくは65,000〜150,000箇所/mの範囲内である。前記貫通孔が4列/25mm未満であったり、30,000箇所/m未満であると、強化繊維糸条の拘束が緩くなるため取扱性に劣ったり、取り扱っている時やFRPへの成形時に強化繊維糸条の屈曲や目曲がりを誘発する場合がある。そればかりでなく、前記貫通孔は、多軸成形材料の厚み方向への樹脂の含浸流路として機能するため、その数が少なくなり含浸性に劣り易い。一方、前記貫通孔が25列/25mmを超えたり、250,000箇所/mを超えると、樹脂含浸性には優れるが、ニードルにより強化繊維糸条を傷つけ易くなり、力学特性が劣るばかりか、強化繊維糸条の拘束がきつくなり過ぎて賦形性に劣り易い。
【0025】
なお、貫通孔の密度とは、10cm×10cmの正方形に切り出した多軸成形材料からステッチ糸が厚み方向に貫通している貫通孔を数えて100倍したものを示す。また、多軸成形材料の長手方向または幅方向25mmあたりの貫通孔の列数とは、10cm×10cmの正方形に切り出した多軸成形材料から長手方向または幅方向に関して、貫通孔が規則的に配列している列を数え、それぞれの数を4で割った値を小数点以下1桁まで表したものを示す。貫通孔が規則的に配列しているかどうかの判断は、多軸成形材料の当該方向において、互いに隣り合って存在する貫通孔25個の間の距離を求め、その平均値に対してそれぞれの距離の個別値が±10%以内であれば規則的と判断する。なお、隣り合う貫通孔の距離のそれぞれが同一である必要はない。
【0026】
本発明の多軸成形材料は上述の構成を有するため、背景技術における特許文献4などの全面的に固定された成形材料(プリプレグまたはセミプレグ状態のシートを含む)と較べて、賦型性に大幅に優れるのである。
【0027】
なお、本発明の多軸成形材料はそれ自体にマトリックス樹脂を含む成形材料であり、後から別に用意したマトリックス樹脂を注入・硬化させるドライな中間基材とは異なるものである。ドライな中間基材では、上述したような、マトリックス樹脂を構成する部材を予め配置することで生じる樹脂含浸性、賦型性の低下といった問題が存在しないが、本発明の多軸成形材料は、マトリックスを構成する不織布を配置して積層工程、樹脂注入・硬化工程を省略できるにも関わらず、上述のとおり樹脂含浸性、賦型性にも優れたものとなる。
積層体を一体化する方法としては、ステッチ糸を編機、ミシン等を用いてニードルにて縫合する、いわゆるステッチ・ボンディングが挙げられる。ステッチ糸の編組織としては、例えば、鎖編、1/1トリコット編、あるいは、鎖編と1/1トリコット編とを複合した変則1/1トリコット編などが挙げられる。ステッチ・ボンディングは、所望の構成、厚みの材料を一枚の基材として得ることができるほか、編組織を最適化することで各ユニットの拘束の強弱を自由に操作することができる特徴がある。
【0028】
不織布を構成する第1の熱可塑性樹脂とステッチ糸を構成する第2の熱可塑性樹脂には、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm1−150)≦Tm2≦(Tm1−20)の関係を満足するものをそれぞれ使用するのが好ましい(以下、態様Aと呼称する)。上記融点とは、DSC(示差走査熱量計)を用いてJIS K7121(1987)にしたがい絶乾状態で20℃/minの昇温速度にて測定した値を指す。なお、本発明においては、融点を示さないもの(例えば非晶性ポリマー)について、上記測定方法により得られるガラス転移温度+100℃を簡易的に融点とみなす。
【0029】
第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂の融点が態様Aの関係であると、FRPに成形するときにステッチ糸を先に溶融させることができる。このことにより、不織布を溶融させて強化繊維糸条の層内に含浸させる前に、強化繊維糸条で構成された各層がせん断変形を起こし易くできる。なお、本態様Aの場合、先に溶融しているステッチ糸が形態を替えて貫通孔に残存することにより、強化繊維糸条で構成された各層が大きくせん断変形しすぎるのを防ぐ機能を果たし、繊維配向の著しい屈曲を抑制することができる。このため複雑な形状(例えば二次曲面)の成形型を用いた場合でも多軸成形材料に発生するシワを抑制して賦型することができるのである。更には、複数枚の多軸成形材料を積層する場合、不織布は溶融させずに第2の熱可塑性樹脂で構成されるステッチ糸を部分的に溶融させて多軸成形材料同士を一体化(例えばプリフォームの態様)することが可能となるため、本発明において好ましい態様といえる。
【0030】
かかる態様Aの関係を満たす具体的な組合せとしては、例えば、第1の熱可塑性樹脂がポリアミド6またはポリアミド66であり、第2の熱可塑性樹脂がポリアミド11、ポリアミド12または共重合ポリアミド(例えば、ポリアミド6/66/12、ポリアミド610/12、ポリアミド6/66/610/12、ポリアミド6/66/612/12など)である組合せや、第1の熱可塑性樹脂がポリアミド66であり第2の熱可塑性樹脂がポリアミド6である組合せ、第1の熱可塑性樹脂がポリエステルであり第2の熱可塑性樹脂が共重合ポリエステルである組合せ、第1の熱可塑性樹脂がポリエチレンまたはポリプロピレンであり第2の熱可塑性樹脂が共重合ポリオレフィンである組合せ、第1の熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり第2の熱可塑性樹脂がエチレンである組合せ等が挙げられる。前記組合せであると、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とが類似の分子構造を有する樹脂で構成されるため両者の相溶性に優れ、FRPにおいて優れた力学特性を発現することができる。
【0031】
また、第1の熱可塑性樹脂はポリフェニレンサルファイドであり第2の熱可塑性樹脂はポリアミドである組合せ等であると、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂との融点の差を大きくでき、特に賦型性に優れる利点がある。
【0032】
そして、別の視点からは、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂として、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−150)≦Tm1≦(Tm2−20)の関係を満足するものをそれぞれ使用するのが好ましい(以下、態様Bと呼称する)。
【0033】
第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂の融点が態様Bの関係であると、FRPに成形するときに不織布を先に溶融させることができる。このことにより、不織布を溶融させて第1の熱可塑性樹脂を強化繊維糸条の層内に含浸させている最中に、強化繊維糸条で構成された各層は溶融していないステッチ糸によって強化繊維糸条の配向の乱れを防ぐことができるうえに、ステッチ糸により形成された強化繊維糸条のシート厚み方向の貫通孔が樹脂の含浸流路となって、溶融した第1の熱可塑性樹脂の含浸性を格段に向上させるという予想外の効果を奏する。なお、貫通孔による含浸性の向上は、ステッチ糸が溶融している/していないに関わらず効果をもたらすことができる。すなわち、前述の態様Aや後述の態様Cのいずれにおいても効果が発現される。具体的には、ステッチ糸が溶融している態様A、Cにおいては、ステッチ糸が先にまたは同時に溶融するが、溶融した後も形態を替えて貫通孔に存在するため貫通孔は残存して含浸流路として機能する。一方、ステッチ糸が溶融していない態様Bにおいては、ステッチ糸が糸形状のまま存在することにより貫通孔の形状が確実に保たれ、より効率的に含浸流路としての機能を果たすのである。つまり、後述の態様Bにおいて本効果が大きく発現する。更には、態様Bにおいては、不織布を先に溶融させて樹脂を各層に含浸させるため、図3に示すように不織布が挿入されていた層間厚みが薄くなってステッチ糸による拘束がゆるみ、各層がせん断変形し易くなりシワの発生を抑制できる。このため、強化繊維糸条の配向が整った、すぐれた力学特性を発現できる品位のよいFRPを得ることができるのである。更に、第1の熱可塑性樹脂で構成される不織布が多軸成形材料の最外層の少なくとも一方にも配置されている場合には、複数枚の多軸成形材料を積層するにあたって、ステッチ糸を溶融させずに不織布を部分的に溶融させて多軸成形材料同士を一体化(例えばプリフォームの態様)することが可能となるため、本発明において好ましい態様といえる。なお、図3はステッチ糸の拘束がゆるんだ状態を分かりやすくするために模式的に表したものであり、実際に不織布が溶融している段階では、ステッチ糸はゆるんだ状態であってもマトリックス樹脂中に浸漬する。
【0034】
かかる関係を満たす態様Bの具体的な組合せとしては、例えば、第1の熱可塑性樹脂がポリアミド11、ポリアミド12または共重合ポリアミド(例えば、ポリアミド6/66/12、ポリアミド610/12、ポリアミド6/66/610/12、など)であり第2の熱可塑性樹脂がポリアミド6またはポリアミド66である組合せや、第1の熱可塑性樹脂がポリアミド6であり第2の熱可塑性樹脂がポリアミド66である組合せ、第1の熱可塑性樹脂は共重合ポリエステルであり第2の熱可塑性樹脂はポリエステルである組合せ、第1の熱可塑性樹脂は共重合ポリオレフィンであり第2の熱可塑性樹脂はポリエチレンまたはポリプロピレンである組合せ、第1の熱可塑性樹脂はポリエチレンであり第2の熱可塑性樹脂はポリプロピレンである組合せ等が挙げられる。前記組合せであると、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とに類似の樹脂を使用すると両者の接着性が優れるため、優れた力学特性を発現することができる。
【0035】
また、第1の熱可塑性樹脂はポリオレフィンであり第2の熱可塑性樹脂はポリエステルである組合せ等であると、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂との融点の差を大きくでき、含浸が容易にできるため成形性に優れる利点がある。
【0036】
更に別の視点からは、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂として、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−20)<Tm1<(Tm2+20)の関係を満足する、すなわち、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが実質的に同一であるものをそれぞれ使用するのが好ましい(以下、態様Cと呼称する)。
【0037】
第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂の融点が態様Cの関係であると、FRPに成形するときにステッチ糸と不織布とをほぼ同時に溶融させることができる。このような多軸成形材料では、態様Aや態様Bと比較して溶融して形態を替えたステッチ糸以外に強化繊維糸条の配向の乱れを抑制するものがなくなるため、複雑な形状の型を用いた場合では、態様AおよびBと比較して強化繊維糸条の配向の乱れを抑制する効果が劣るが、成形時における加熱を1ステップにすることができ、成形サイクルを短くすることができる。また、一回の加熱でステッチ糸の痕跡を殆ど残さないように成形でき、表面平滑性に優れたFRPを得ることができる。更に、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とを同じ樹脂で構成することもできるため両者の相溶性により一層優れ、FRPにおいてとりわけ優れた力学特性を発現することができる。
【0038】
本発明で用いる強化繊維糸条としては、複合材料用の強化繊維糸条として使用できるものを用いることが好ましく、例えば、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、および、アラミド、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアリレートおよびポリイミド等の有機繊維等が挙げられ、これらの1種または2種類以上を併用したものを使用することができる。中でも、炭素繊維は、比強度・比弾性率に優れており、好ましく用いられる。
【0039】
強化繊維糸条は、取り扱い性やステッチング時の耐ニードル擦過性を向上させるために、0.2〜2.5重量%の集束剤が付着されていることが好ましい。上記範囲内の集束剤が付着されている繊維糸条は、毛羽発生が効率的に抑えられる。
【0040】
強化繊維糸条は、無撚でも有撚でも使用することができるが、引張強度や圧縮強度等の力学特性の面からは、実質的に無撚(1ターン/m未満)のものが好ましい。かかる観点から、本発明の多軸成形材料の製造においては、強化繊維糸条を縦取解舒して解舒撚を混入させてもよいが、横取解舒して解舒撚が入らないようにし、多軸成形材料中に強化繊維糸条を実質的に無撚(1ターン/m未満)の状態で存在させるのが好ましい。横取解舒することにより、本発明の範囲内の目付においても高品位のシートを確実に得ることが容易になるだけでなく、FRPとしても強化繊維体積配合率Vfや力学特性を高めることができる。特にシートの目付が190g/m以下であると、シート中に強化繊維糸条同士の隙間(ギャップ)が形成され易く、シートの品位に劣る場合があるので横取解舒が好ましい。上記効果は、強化繊維糸条の繊度が後述の範囲内である場合に顕著に発現する。また、強化繊維糸条の繊度は、好ましくは500〜7,000texであり、より好ましくは1,000〜2,000texである。繊度が小さすぎると、繊維糸条がねじれる問題が殆どなく、本発明の効果が発揮されない場合がある。また、繊維糸条が高価であり、このような細繊度の繊維糸条を多数本使用することになるので、多軸基材そのものも高価になってしまう。一方、繊度が大きすぎると、例えば、1層当たりの強化繊維糸条の目付が100g/m以下の低目付の多軸成形材料を得る際に僅かな力で糸条幅が変動しやすく、安定した糸条幅の維持が困難な場合がある。
【0041】
本発明で用いる不織布としては、例えば、カード法、メルトブロー法、スパンボンド法、抄紙法などにより製造されたものが挙げられる。かかる不織布は、離型紙やフィルムなどの支持体の上に形成されたものでも、単独で扱えるものでもよいが、単独で扱えるものの方が安価に入手できる。前記方法で製造された不織布は、不連続状の熱可塑性繊維を結合したものであるため、多軸成形材料に適用した場合に優れた賦型性や、ステッチにおけるスムーズなニードル貫通性(連続ステッチ性)を発現することができるのである。この他にも、連続繊維を引き揃えて不織組織化した布帛なども例として挙げられ、これらの1種または2種類以上を併用したものも使用することができる。中でも、材料コストの面からはメルトブロー法またはスパンボンド法により製造されたものが、賦型性の面からはカード法により製造されたものを用いるのが好ましい。
【0042】
本発明のプリフォームは、前述の多軸成形材料が積層されて二次曲面を有する形状に賦型されたものである。本発明の多軸成形材料を用いることにより、二次曲面を有する形状にもシワの発生を防ぎながら賦型することができ、強化繊維糸条の配向の乱れを抑制したプリフォームに賦型することができる。
【0043】
図4は、本発明のFRPの一実施態様を示す概略断面図である。
【0044】
本発明のFRP12は、前述の多軸成形材料またはプリフォームを用いて成形したものであって、少なくとも前記不織布を構成していた第1の熱可塑性樹脂を溶融・固化させてマトリックス樹脂10としたものである。予めマトリックス樹脂と一体となっている本発明の多軸成形材料またはプリフォームであると、RTMのようにマトリックス樹脂を注入する工程などを省略できるため、成形サイクルを短くでき、FRPの生産性に優れる。また、本発明の多軸成形材料またはプリフォームを用いると、二次曲面を有する形状にもシワの発生を抑えながら賦型することができ、強化繊維糸条の配向の乱れを抑制したFRPを成形することができる。
【0045】
かかるFRPは、上記態様Aの熱可塑性樹脂から構成される不織布、ステッチ糸を用いた場合には、まず第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸が溶融した後、第2の熱可塑性樹脂から構成された不織布が溶融・固化してマトリックスを構成するため、ステッチ糸の痕跡が残らないFRPとなる。そして、上述した通り、複雑な形状でもシワを抑制しながら賦型することができ、その結果、表面平滑性、力学特性に優れたFRPとすることができる。また、多軸成形材料を複数枚積層してプリフォームを形成・成形する場合において、多軸成形材料同士を予め一体化することができるので、成形サイクルが短く、生産性に優れたものとできる。
【0046】
また、上記態様Bの熱可塑性樹脂から構成される不織布、ステッチ糸を用いた場合には、第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布が溶融・固化してマトリックスを構成し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸がその形態を実質的に維持して存在しているFRPとなり、上述したとおり溶融していないステッチ糸によって強化繊維糸条の配向の乱れが抑制され、優れた力学特性を発現できるFRPとなる。
【0047】
さらに、上記態様Cの熱可塑性樹脂から構成される不織布、ステッチ糸を用いた場合には、第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布と第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸とが同時に溶融・固化してマトリックスを構成するFRPとなる。そして、上述した通り、成形サイクルを短くでき、表面平滑性、力学特性に優れたFRPとすることができる。なお、図4ではステッチ糸が記載されているが、態様AまたはCの多軸成形材料ではステッチ糸の痕跡が残らない。
【0048】
かかる本発明のFRPは、次のような方法で製造することができる。
すなわち、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布を有し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により積層体が一体化されており、かつ、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm1−150)≦Tm2≦(Tm1−20)の関係を満足している多軸成形材料を用いる場合は、多軸成形材料をTm2以上(Tm1―20)以下の温度に加熱して、不織布は溶融させていない状態でステッチ糸を溶融させて賦型し、しかる後にTm1以上の温度に加熱して不織布を溶融させて各シートに熱可塑性樹脂を含浸させることで、上記態様Aで説明したようなFRPを製造することができる。すなわち、不織布を溶融させて強化繊維糸条の層内に含浸させる前にステッチ糸を先に溶融させることができるため、積層体の各層がせん断変形しやすくなり、複雑な形状(例えば二次曲面)の成形型を用いた場合でもシワの発生を抑制できる。
【0049】
また、多軸成形材料として、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布を有し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により積層体が一体化されており、かつ、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−150)≦Tm1≦(Tm2−20)の関係を満足しているものを用いる場合には、多軸成形材料をTm1以上(Tm2―20)以下の温度に加熱して、賦型しながら不織布を溶融させて各シートに熱可塑性樹脂を含浸させることで、上記態様Bで説明したようなFRPを製造することができる。すなわち、不織布を溶融させて第1の熱可塑性樹脂を強化繊維糸条の層内に含浸させている最中に、強化繊維糸条で構成された各層は溶融していないステッチ糸によって拘束されるので、強化繊維糸条の配向の乱れを防ぐことができる。また、ステッチ糸により形成された強化繊維糸条のシート厚み方向の貫通孔が樹脂の含浸流路となるので、溶融した第1の熱可塑性樹脂がスムーズに強化繊維糸条の層に含浸する。更には、不織布を先に溶融させて含浸するため、元々、不織布が挿入されていた層間厚みが薄くなってステッチ糸がゆるむことにより各層のせん断変形し易くシワの発生を抑制できる。すなわち、ステッチ糸にて適度に拘束されているため強化繊維糸条の配向の乱れを最小限に抑え、優れた力学特性を発現できる品位のよいFRPを得ることが出来るのである。
【0050】
さらに、不織布を溶融させて熱可塑性樹脂を各層に含浸させた後に、Tm2以上の温度に加熱してステッチ糸を溶融させると、FRPの持つ意匠性をステッチ糸が阻害することを最小限に抑制することができるため、FRPが優れた表面品位を得ることができる。このため、Tm2以上の温度に加熱する工程は、特に意匠性が重要なFRPを得るのに有効である。
【0051】
さらに、多軸成形材料として、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布を有し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により積層体が一体化されており、かつ、 第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−20)<Tm1<(Tm2+20)の関係を満足しているものを用いる場合には、多軸成形材料をTm1およびTm2以上の温度に加熱してステッチ糸および不織布を同時に溶融させて各シートに熱可塑性樹脂を含浸させることで、上記態様Cで説明したようなFRPを製造することができる。すなわち、成形時における加熱を1ステップにすることができ、成形サイクルを短くすることができるうえに、一回の加熱でステッチ糸の痕跡を殆ど残さないように成形でき、表面平滑性に優れたFRPを得ることができる。更には、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とに同じ樹脂を用いることができるため、両者の相溶性がより一層優れ、FRPにおいてとりわけ優れた力学特性を発現することができる。
【0052】
なお、本発明の多軸成形材料を加熱・加圧する手段としては、特に制限しないが、オートクレーブ、オーブンと大気圧との組合せ、プレス機などを用いるのが好適であり、中でも成形時間の早さからプレス機がより好ましい。
【実施例】
【0053】
実施例および比較例における原材料としては、次のものを用いた。
【0054】
強化繊維糸条
・PAN系炭素繊維糸条、12,000フィラメント、繊度800tex、引張強度4,900MPa、引張弾性率240GPa、0ターン/m、集束剤0.5重量%。
【0055】
ステッチ糸
・ステッチ糸A:共重合ポリアミド、10フィラメント、繊度56dtex、融点115℃。
・ステッチ糸B:ポリアミド66、10フィラメント、繊度33dtex、融点255℃。
【0056】
不織布
・不織布A:ポリアミド6、目付80g/m、融点220℃。
・不織布B:共重合ポリアミド、目付80g/m、融点115℃。
・不織布C:目付10g/mである以外は不織布Aと同様。
・不織布D:目付120g/mである以外は不織布Aと同様。
・不織布E:目付220g/mである以外は不織布Aと同様。
・不織布F:目付280g/mである以外は不織布Aと同様。
【0057】
(実施例1)
まず、次の手順で1.3m幅の積層体を形成した。すなわち、強化繊維糸条で構成された各シート間、および、最外層の何れにも不織布Aを有する積層体を形成した。
(1)最外層に配置する不織布Aを連続的にベルトコンベア上に、不織布Aとベルトコンベアとの長手方向が平行になるように配置した。かかるベルトコンベアは、以降の強化繊維糸条の層および不織布を積層する間も一定速度(本実施例では1m/min)で、その長手方向(0°方向)に移動し続け、後述の接着手段へ連続的に搬送するものであった。
(2)前記不織布Aの上に、解舒撚を混入させないように横取解舒した強化繊維糸条を、長手方向(ベルトコンベアが搬送する方向、0°方向)に対して−45°に並行に、かつ、150g/mとなるように配列して−45°シートを形成した。なお、−45°シートの強化繊維糸条の配置はキャリッジ装置により行った。本工程におけるキャリッジ装置は、−45°方向に往復運動するもので、その内の往運動(または復運動)する時に強化繊維糸条をベルトコンベア上に配置する装置で、ベルトコンベアが長手方向へ搬送している速度に同調して強化繊維糸条同士が重ならず、順番に隣り合うように並ぶように制御した。
(3)前記−45°シートの上に2枚目の不織布Aを配置し、その上に、−45°シート形成と同様の方法で、強化繊維糸条を長手方向に対して+90°に並行に、かつ、150g/mとなるように配列し、+90°シートを形成した。
(4)前記+90°シートの上に3枚目の不織布Aを配置し、その上に、−45°シート形成と同様の方法で、強化繊維糸条を長手方向に対して+45°に並行に、かつ、150g/mとなるように配列し、+45°シートを形成した。
(5)前記+45°シート層の上に4枚目の不織布Aを配置し、その上に、−45°シート形成と同様の方法で、強化繊維糸条を長手方向に対して0°に並行に、かつ、150g/mとなるように配列し、0°シートを形成した。
(6)前記0°シートの上に5枚目の不織布Aを配置し、積層体を形成した。
続いて、上記の通り形成したベルトコンベア上の積層体を、ステッチ糸Aにてステッチして一体化させた。かかるステッチにおいては、ステッチ糸Aを巻出装置により巻き出し、ニードルを積層体に貫通させながら編成した。ステッチ糸の編組織は鎖編と1/1トリコット編とを複合した変則1/1トリコット編とし、ステッチ糸による貫通孔を多軸成形材料の長手方向に5列/25mm、幅方向に8.3列/25mmとなるように規則的に配列した。なお、貫通孔の密度は66,666箇所/mであった。不織布Aはニードル貫通性に優れ、不織布の繊維がニードルに絡まることはなかった。ステッチ糸Aによって一体化された多軸成形材料を、多軸成形材料aとして巻取装置によって巻き取った。(態様A)
続いて、多軸成形材料a(態様A)を半球状の二次曲面を有する金型に配置して、一旦150℃に加熱した状態でステッチ糸Aを溶融させながら発生したシワを伸ばして型に追従させ、25MPaで180秒間加圧(プレス)した。加圧したまま金型温度を250℃に昇温して更に180秒間保持し、金型温度を50℃に冷却してから放圧・脱型してFRPを得た。
【0058】
得られたFRPから幅が2cmになるように切り出した断面を光学顕微鏡で観察すると、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の96%に樹脂が含浸していた。また、繊維配向の乱れや表面の凸凹が僅かに発生したがシワの発生はみられなかった。
【0059】
(実施例2)
用いるステッチ糸Aをステッチ糸Bに替え、ステッチ糸の編組織は鎖編とし、ステッチ糸による貫通孔を多軸成形材料の長手方向に5列/25mm、幅方向に16.7列/25mmとなるように規則的に配列して、貫通孔の密度を133,333箇所/mとした以外は、実施例1と同様にして多軸成形材料を形成し、それを多軸成形材料bとした。(態様B)
続いて、多軸成形材料b(態様B)を半球状の二次曲面を有する金型に配置して、230℃に加熱した状態で不織布Aを溶融させながら発生したシワを伸ばして型に追従させ、25MPaで240秒間加圧(プレス)し、加圧したまま金型温度を50℃に冷却してから放圧・脱型してFRPを得た。
【0060】
得られたFRPは、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、観察面の99%に樹脂が含浸していた。また、表面の凸凹が僅かに発生したが、繊維配向の乱れやシワの発生が全く見られなかった。
【0061】
(実施例3)
用いる不織布Aを不織布Bに替えた以外は、実施例1と同様にして多軸成形材料を形成し、それを多軸成形材料cとした。(態様C)
続いて、多軸成形材料c(態様C)を半球状の二次曲面を有する金型に配置して、150℃に加熱した状態で不織布Bおよびステッチ糸Aを溶融させながら発生したシワを伸ばして型に追従させ、25MPaで180秒間加圧(プレス)し、加圧したまま金型温度を50℃に冷却してから放圧・脱型してFRPを得た。
【0062】
得られたFRPは、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の96%に樹脂が含浸していた。また、ステッチ糸の痕跡がほとんど残っていなかったが、繊維配向の乱れやシワは殆どみられなかった。また、実施例1、2におけるFRPに較べて表面品位に最も優れていた。
【0063】
(実施例4)
最外層に配置していた不織布Aを不織布Dに変更した以外は実施例1と同様にしてFRPを成形した。
【0064】
得られたFRPは、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の97%に樹脂が含浸していた。繊維配向の乱れが僅かに発生したがシワの発生はみられなかった。さらに表面のマトリックス層の厚みが増し、表面の凸凹が緩和されて表面平滑度が実施例1のFRPよりも優れていた。
【0065】
(実施例5)
最外層に配置していた不織布Aを不織布Eに変更した以外は実施例1と同様にしてFRPを成形した。
【0066】
得られたFRPは、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、わずかに最外層付近にボイドがみられるものの観察面の97%に樹脂が含浸していた。シワの発生はみられなかった。さらに最外層付近の樹脂が流動して最外層の繊維配向の乱れが僅かに発生したものの表面のマトリックス層の厚みが増し、表面の凸凹が緩和されて表面平滑度が実施例4のFRPよりも更に優れていた。
【0067】
(実施例6)
各シートを形成するにあたり、解舒撚を混入させるように縦取解舒した強化繊維糸条を、330g/mとなるように配列した点、用いる不織布Aを不織布Eに替えた点以外は実施例1と同様にしてFRPを成形した。得られたFRPは、樹脂未含浸部分(ボイド)が強化繊維糸条シート厚み方向の中心部分に僅かに見られたものの観察面の93%に樹脂が含浸しており、シワの発生はみられなかった。
【0068】
(実施例7)
ステッチ糸による貫通孔を多軸成形材料の長手方向に2.5列/25mm、幅方向に5列/25mmとなるように規則的に配列して、貫通孔の密度を20,000箇所/mとした以外は、実施例2と同様にしてFRPを成形した。得られたFRPは、樹脂未含浸部分(ボイド)が強化繊維糸条シート厚み方向の中心部分に僅かに見られたものの、観察面の91%に樹脂が含浸していた。また、表面の凸凹が僅かに発生し、繊維配向の乱れやシワの発生が僅かに見られた。
【0069】
(比較例1)
各シートの強化繊維糸条を40g/mとなるように配列した以外は実施例1と同様にして多軸成形材料を形成した。得られた多軸成形材料は隣り合う強化繊維糸条同士の間に隙間ができて品位が劣っていた。更に実施例1と同様の方法でFRPを成形したが、得られたFRPにおいても上記隙間が解消されず品位が劣っていた。
【0070】
(比較例2)
用いる不織布Aを不織布Cに替える以外は、実施例1と同様にして多軸成形材料を形成した。不織布Cは目付が小さいため取扱性に劣り、多軸成形材料の製造途中で不織布が破れたり変形して部分的に薄くなるといった問題が多発して安定した製造ができなかった。得られた多軸成形材料は不織布の薄い部分が見られるなど目付の不均一なもので品位が劣っていた。更に実施例1と同様の方法でFRPを成形したが、不織布Cの目付が小さ過ぎる(マトリックス樹脂量が少な過ぎる)ため、マトリックス樹脂の絶対量が不足し、樹脂未含浸部分が特に強化繊維糸条シート厚み方向の中心部分に多発し、FRPとして使用できるものではなかった。
(比較例3)
各シートを形成するにあたり、解舒撚を混入させるように縦取解舒した強化繊維糸条を、360g/mとなるように配列した点、各シート間に配置する不織布を不織布Eとした点以外は実施例1と同様にして多軸成形材料を形成した。なお、不織布は、FRPにおける繊維配合体積率Vfを実施例1と同等程度にするために実施例1と異なるものを用いた。
【0071】
得られた多軸成形材料は、隣り合う強化繊維糸条同士が重なって多軸成形材料の表面に凹凸ができ表面品位が劣っていた。更に実施例1と同様の方法でFRPを成形したところ、シートが厚い(目付が大きい)ため賦形性が劣っていた上に、得られたFRPにはマトリックス樹脂の未含浸部分(特に強化繊維糸条シート厚みの中心部分)が多く見られた。
【0072】
(比較例4)
用いる不織布Aを不織布Fに替え、かつ、解舒撚を混入させるように縦取解舒して強化繊維糸条を配列した以外は、実施例1と同様にして多軸成形材料を形成した。更に実施例1と同様の方法でFRPを成形したが、得られたFRPにおいて樹脂の含浸は問題なかった。しかし、不織布Dの目付が大き過ぎる(マトリックス樹脂量が多過ぎる)ため、加圧(プレス)している時に不織布を構成している熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂)が製品形状からフローし過ぎてしまい、この樹脂フローに伴い、大きな繊維配向の乱れが発生した。また、FRPにおける強化繊維配合率が実施例1よりも小さくなり、FRPとしての軽量化効果に劣るものであった。
【0073】
(比較例5)
最外層に配置していた不織布Aを不織布Fに変更した以外は実施例1と同様にしてFRPを成形した。
【0074】
得られたFRPは、強化繊維糸条の内部にまで樹脂が含浸しており、シワの発生はみられなかった。しかし、最外層に配置した不織布Fの目付が大き過ぎる(マトリックス樹脂量が多過ぎる)ため、加圧(プレス)している時に最外層付近の不織布を構成している熱可塑性樹脂(マトリックス樹脂)が製品形状からフローし過ぎてしまい、この樹脂フローに伴い、最外層に大きな繊維配向の乱れが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の多軸成形材料によると、取扱性に優れ、複雑な形状のFRPの成形において、シワや強化繊維糸条の配向の乱れを抑制することができるため、力学特性に優れ、かつ、樹脂含浸性に優れるため品位のよいFRPを生産性よく得られることができる。このような多軸成形材料は、自動車、航空機、船舶等の輸送機器の構造部材や、建築部材などに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明における多軸成形材料の一実施態様を示す概略斜視図である。
【図2】本発明における多軸成形材料の一実施態様を示す概略断面図である。
【図3】本発明における不織布が溶融した状態の多軸成形材料の一実施態様を示す概略断面図である。
【図4】本発明におけるFRPの一実施態様を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1:強化繊維糸条が長手方向に並行に配列されたシート
2:強化繊維糸条が長手方向に対して+45°に並行に配列されたシート
3:強化繊維糸条が長手方向に対して90°に並行に配列されたシート
4:強化繊維糸条は長手方向に対して−45°に並行に配列されたシート
5:層間の不織布
6:ステッチ糸
7:ニードル
8:多軸成形材料
9:最外層の不織布
10:マトリックス樹脂
11:不織布が溶融した状態の多軸成形材料
12:FRP
13:ステッチ糸による貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートが、少なくとも2枚、該強化繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体が一体化された多軸成形材料であって、各シートにおける強化繊維糸条の目付が50〜350g/mの範囲内であり、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布が15〜250g/mの範囲内で配置されており、かつ、前記積層体が第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により一体化されていることを特徴とする多軸成形材料。
【請求項2】
第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm1−150)≦Tm2≦(Tm1−20)の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の多軸成形材料。
【請求項3】
第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−150)≦Tm1≦(Tm2−20)の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の多軸成形材料。
【請求項4】
第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−20)<Tm1<(Tm2+20)の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の多軸成形材料。
【請求項5】
前記シートは、強化繊維糸条の目付が90〜190g/mの範囲内であり、3〜12枚の範囲内で強化繊維糸条の配列方向が鏡面対称になるように積層されており、また、前記不織布は、目付が30〜80g/mの範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多軸成形材料。
【請求項6】
積層体の最外層にも前記第1の熱可塑性樹脂で構成された不織布が配置されており、層間に配置された不織布の目付W1と、最外層に配置された不織布の目付W2とが、(1.2×W1)≦W2≦(3×W1)の関係を満足することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多軸成形材料。
【請求項7】
ステッチ糸が積層体厚み方向に貫通することによって形成された貫通孔が、多軸成形材料の長手方向および幅方向それぞれにおいて4〜25列/25mmの範囲内で規則的に配列し、かつ、貫通孔の密度が60,000〜200,000箇所/mの範囲内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多軸成形材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の多軸成形材料が二次曲面を有する形状に賦型されたことを特徴とするプリフォーム。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の多軸成形材料もしくは請求項8に記載のプリフォームを用いて成形されたことを特徴とするFRP。
【請求項10】
第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布は溶融・固化してマトリックスを構成し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸はその形態を実質的に維持して存在していることを特徴とする請求項9に記載のFRP。
【請求項11】
第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布および第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸が溶融・固化してマトリックスを構成していることを特徴とする請求項9に記載のFRP。
【請求項12】
多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートを、少なくとも2枚、該強化繊維糸条が交差するように積層した積層体を一体化した多軸成形材料を用いるFRPの製造方法であって、
多軸成形材料として、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布を有し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により積層体が一体化されており、かつ、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm1−150)≦Tm2≦(Tm1−20)の関係を満足しているものを用い、
該多軸成形材料をTm2以上(Tm1―20)以下の温度に加熱してステッチ糸を溶融させて賦型し、
しかる後にTm1以上の温度に加熱して不織布を溶融させて各シートに熱可塑性樹脂を含浸させる
ことを特徴とするFPRの製造方法。
【請求項13】
多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートを、少なくとも2枚、該強化繊維糸条が交差するように積層した積層体を一体化した多軸成形材料を用いるFRPの製造方法であって、
多軸成形材料として、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布を有し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により積層体が一体化されており、かつ、第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−150)≦Tm1≦(Tm2−20)の関係を満足しているものを用い、
該多軸成形材料をTm1以上(Tm2―20)以下の温度に加熱して、賦型しながら不織布を溶融させて各シートに熱可塑性樹脂を含浸させる
ことを特徴とするFRPの製造方法。
【請求項14】
多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートを、少なくとも2枚、該強化繊維糸条が交差するように積層した積層体を一体化した多軸成形材料を用いるFRPの製造方法であって、
多軸成形材料として、少なくともシート間に、FRPのマトリックスを構成する第1の熱可塑性樹脂から構成された不織布を有し、第2の熱可塑性樹脂から構成されたステッチ糸により積層体が一体化されており、かつ、 第1の熱可塑性樹脂の融点Tm1と第2の熱可塑性樹脂の融点Tm2とが、(Tm2−20)<Tm1<(Tm2+20)の関係を満足しているものを用い、
該多軸成形材料をTm1およびTm2以上の温度に加熱してステッチ糸および不織布を同時に溶融させて各シートに熱可塑性樹脂を含浸させる
ことを特徴とするFRPの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−182065(P2007−182065A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302524(P2006−302524)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】