説明

多重光信号処理装置

【課題】 本発明は、複数の光信号を一度に整形し,また強度変調を施すことができること及び,光ルーティングに用いられる,光ラベルを一括して処理し,異なるネットワークへ光情報を転送しうるモジュールを提供することを目的とする。
【解決手段】 上記の課題は,基板2と,基板上に形成した光導波路3と,ミラー4とを有するPLCモジュールであって,光導波路は,2つのスラブ導波路(5,6)と,アレイ導波路7と,一方のスラブ導波路と連結され,プレーナ光波回路モジュール外から光信号が入力し,所定の処理を施された後に,前記光信号が前記プレーナ光波回路モジュール外へ出力されるの入力導波路8と,2つのスラブ導波路のうち残りのスラブ導波路(第2のスラブ導波路6)と,ミラー4とを連結するL本の光導波路を具備する出力導波路9と,を備え,出力導波路9は,強度変調器10及び位相変調器11を備えるプレーナ光波回路モジュールによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレーナ光波回路モジュールなどに関する。特にフォトニックMPLS(マルチプロトコルラベルスイッチング)に用いられるプレーナ光波回路モジュールなどの多重光信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,インターネットなどの情報通信ネットワークを利用した情報通信が広く利用,情報通信量が増加の一途をたどっている。このため,大量の情報を高速に伝えることができるフォトニックネットワークについて研究がなされている。フォトニックネットワークを実現するためには,フォトニック伝送技術と,フォトニック転送技術の2つの要素技術が必要となる。
【0003】
フォトニック伝送技術として,光符号多重通信(OCDM)が開発されている。一方,情報転送については,従来は,光情報をいったん電気情報に変換して,それを光情報に戻していた。しかしながら,電気情報により光情報を転送するためには,時間がかかるなどフォトニックネットワークの効果を台無しにしてしまうという問題があった。このような電気的ルータではなく,光情報のままで転送するルータが期待される。これが,フォトニックインターネット(IP)ルータであり,そのようなルータを利用したIPルーティング技術の開発が望まれている。
【0004】
アレイ導波路格子型波長合分波器(AWG)の製造方法や,光通信、光情報処理等の分野での応用は公知である(例えば,下記特許文献1(特開平11-38239号公報),下記特許文献2(特開平11-6928号公報)参照。)
【0005】
【特許文献1】特開平11-38239号公報
【特許文献2】特開平11-6928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、複数の光信号を一度に整形し,また強度変調を施すことができるモジュールを提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、光ルーティングに用いられる,光ラベルを一括して処理し,異なるネットワークへ光情報を転送しうるモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は,AWGなどの出力に対し強度変調と位相変調を施こすことにより,複数の光信号を一度に整形し,また強度変調を施すことができるという知見に基づくものであり,このモジュールを用いれば,複数波長の光信号を一括して整形や増幅などをすることができるというものである。すなわち,本発明者らは,以下の発明を提供するものである。
【0009】
[1] 基板と,前記基板上に形成した光導波路,強度変調器,位相変調器,及び, ミラーを有するプレーナ光波回路モジュールであって,前記光導波路は,2つのスラブ導波路と,前記2つのスラブ導波路を連結するN本の光導波路を具備するアレイ導波路と,前記2つのスラブ導波路のうち一方のスラブ導波路(第1のスラブ導波路)と連結され,前記プレーナ光波回路モジュール外から光信号が入力し,所定の処理を施された後に,前記光信号が前記プレーナ光波回路モジュール外へ出力されるM本(Mは,1以上の整数)の入力導波路と,前記2つのスラブ導波路のうち残りのスラブ導波路(第2のスラブ導波路)と,前記ミラーとを連結するL本の光導波路を具備する出力導波路とを備え,前記出力導波路は,強度変調器及び位相変調器を備えるプレーナ光波回路モジュール。
【0010】
[2] 位相変調器が,薄膜ヒータ型熱光学位相シフタによる位相変調器である上記に記載のモジュール。
【0011】
[3] 基板と,前記基板上に形成した光導波路とを有するプレーナ光波回路モジュールであって,前記光導波路は,2つのスラブ導波路と,前記2つのスラブ導波路を連結するN本の光導波路を具備するアレイ導波路と,前記2つのスラブ導波路のうち一方のスラブ導波路(第1のスラブ導波路)と連結され,前記プレーナ光波回路モジュール外から光信号が入力し,所定の処理を施された後に,前記光信号が前記プレーナ光波回路モジュール外へ出力されるM本(Mは,1以上の整数)の入力導波路と,前記2つのスラブ導波路のうち残りのスラブ導波路(第2のスラブ導波路)に連結されるL本の光導波路を具備する出力導波路とを備え,前記出力導波路は,強度変調器及び位相変調器を備える第1の部分と, 前記第1の部分と等価である第2の部分(図2を参照)とを具備するプレーナ光波回路モジュール。
【0012】
[4] 光路に設けられたM個の光サーキュレータと,前記プレーナ光波回路モジュールと前記光サーキュレータとを連結するM本の光ファイバと,上記のいずれかに記載のプレーナ光波回路モジュールとを含むモジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の光信号を一度に整形し,また強度変調を施すことができるモジュールを提供できる。
【0014】
本発明よれば、光ルーティングに用いられる,光ラベルを一括して処理し,異なるネットワークへ光情報を転送しうるモジュールを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下では,第1の態様にかかる本発明のプレーナ光波回路(PLC)モジュールを説明する。図1に本発明のプレーナ光波回路(PLC)モジュールの基本構成を示す。図1に示されるように,本発明のPLCモジュール1は,基板2と,前記基板上に形成した光導波路3と,ミラー4とを有するPLCモジュールであって,前記光導波路は,2つのスラブ導波路(5,6)と,前記2つのスラブ導波路を連結するN本の光導波路を具備するアレイ導波路7と,前記2つのスラブ導波路のうち一方のスラブ導波路(第1のスラブ導波路5)と連結され,前記プレーナ光波回路モジュール外から光信号が入力し,所定の処理を施された後に,前記光信号が前記プレーナ光波回路モジュール外へ出力されるM本(Mは,1以上の整数)の入力導波路8と,前記2つのスラブ導波路のうち残りのスラブ導波路(第2のスラブ導波路6)と,前記ミラー4とを連結するL本の光導波路を具備する出力導波路9と,を備え,前記出力導波路9は,強度変調器10及び位相変調器11を備えるプレーナ光波回路モジュールに関する。なお,図1において,21は入力ポート,22は光サーキュレータ,23はPC(偏波コントローラ及び偏光子),24は光ゲートスイッチ,25は相関信号発生器を示す。
【0016】
基板2及び各導波路3は,光を伝播することができるものであれば,特に限定されない。例えば,LN基板上に,Ti拡散のニオブ酸リチウム導波路を形成しても良いし,シリコン(Si)基板上に二酸化シリコン(SiO2)導波路を形成しても良い。また,InPやGaAs基板上にInGaAsP,GaAlAs導波路を形成した光半導体導波路を用いても良い。基板として,XカットZ軸伝搬となるように切り出されたニオブ酸リチウム (LiNbO3:LN)が好ましい。これは大きな電気光学効果を利用できるため低電力駆動が可能であり,かつ優れた応答速度が得られるためである。この基板2のXカット面(YZ面)の表面に光導波路3が形成され、導波光はZ軸(光学軸)に沿って伝搬することとなる。Xカット以外のニオブ酸リチウム基板を用いても良い。また,基板として,電気光学効果を有する三方晶系、六方晶系といった一軸性結晶、又は結晶の点群がC3V,C3,D3,C3h,D3hである材料を用いることができる。これらの材料は、電界の印加によって屈折率変化が伝搬光のモードによって異符号となるような屈折率調整機能を有する。具体例としては、ニオブ酸リチウムの他に、タンタル酸リチウム (LiTO3:LT),β−BaB2O4(略称BBO),LiTO3等を用いることができる。
【0017】
基板の大きさは,所定の導波路を形成できる大きさであれば,特に限定されない。各導波路の幅,長さ,及び深さも本発明のモジュールがその機能を発揮しうる程度のものであれば特に限定されない。各導波路の幅としては,たとえば1〜20マイクロメートル程度,好ましくは5〜10マイクロメートル程度があげられる。また,導波路の深さ(厚さ)として,10ナノメートル〜1マイクロメートルがあげられ,好ましくは50ナノメートル〜200ナノメートルである。
【0018】
ミラー4は,光を反射することができるものであれば特に限定されず,公知のものを用いることができる。なお,ミラーは,図1に示すように基板外に基板と密着して設けられても良いし,基板内に設けられても良い。
【0019】
アレイ導波路7は,一本一本の長さが所定の光導波路長(ΔL)だけ異なり,順次長くなるように設計される。そこれにより,一本一本の光導波路には位相差(ΔΦ)が生じる。
このようなAWG型光波長合分波器の波長間隔(Δλ)は、アレイ導波路のピッチ(d)、光導波路長差(ΔL)、実効屈折率(nc )および群屈折率(ng )、入力用チャネル光導波路と出力用チャネル光導波路における光導波路間隔(Δx)、スラブ光導波路の曲率半径(焦点距離)(f)と実効屈折率(ns )等の値から設定することができる。また、出力用チャネル光導波路の中央の光導波路(回折角が0度)から得られる光の周波数を中心周波数(f0)と呼び、中心周波数(f0)は、Cを光速、mを回折次数として、f0=mC/(nc ・ΔL)で求めることができる(AWG型光波長合分波器の詳細は、T.Takahashi,et al., J. Lightwave Technol. 12, p.989, 1994など)。また,アレイ導波路では,入力される複数の光信号のそれぞれについて,位相差をつけてスラブ導波路へと出力することもできる。
【0020】
強度変調器10は,出力導波路9を伝播する光信号の強度(振幅)を制御するための装置である。強度変調器として,周知の可変光減衰器(VOA)を用いることができる。例えば,導波路上に形成された金属薄膜ヒータを熱源としてマッハツェンダー干渉計の一方のアーム導波路に熱光学効果によって屈折率変化を生じさせ、干渉計の出力強度を調整するものがあげられる(例えば,特開2000-352699号公報参照)。強度変調器10として,LNを用いたVOA素子を用いても良い(例えば,特開平10-142569号公報参照)。
【0021】
位相変調器11は,出力導波路9を伝播する光信号の位相を制御するための装置である。位相変調器は,導波路上に形成された金属薄膜ヒータを熱源として導波路に熱光学効果によって屈折率変化を生じさせ,それにより伝播する光信号の位相を制御するものがあげられる。なお,強度変調器10と位相変調器11とは,好ましくは,その変調タイミングがコントロールされるように,外部信号源と連結される。
【0022】
図1を参照して,本発明のPLCモジュールの動作を以下に説明する。入力ポート21から入力した光信号は,光サーキュレータ22により光路が調整される。そして,任意の要素である偏波コントローラ(PC:Polarization Controller 23)に入力され,その偏向面が調整される。その後,PLC1の入力導波路8へ入力される。そして,第1のスラブ型導波路5,アレイ型導波路7,及び第2のスラブ型導波路8からなるAWGを通過して,スペクトル分解され,出力導波路9へと出力される。
【0023】
例えば,5チャネルの入力及び出力を有するAWGにおいて,5つの入力チャネルの全てにλ1,λ2,λ3,λ4,λ5の光信号が入力された場合,出力チャネルから出力される光信号は,たとえば,(1) λ1,λ2,λ3,λ4,λ5;(2)λ2,λ3,λ4,λ5,λ1;(3)λ3,λ4,λ5,λ1,λ2;(4)λ4,λ5,λ1,λ2,λ3;(5)λ5,λ1,λ2,λ3,λ4となる。すなわち,複数の入力チャネルから第1のスラブ導波路5の異なる入力チャネルに入力された同じ波長の光信号は,過不足無く必ず第2のスラブ導波路6の出力チャネルから出力されることとなる。
【0024】
出力導波路で,強度変調器10と位相変調器11とにより,光信号の強度と位相とが制御され,ミラー4へと到達する。強度変調器10と位相変調器11による変調は,出力導波路における変調であるから,異なる入力チャネルから光信号であっても,出力チャネルによって異なることとなる。また,この変調は,同じ出力チャネルを伝播する全ての光信号に影響することとなる。よって,5個の周波数面チャネル数の変調量に合う入力チャネルポートに予め波形のわかっている光パルス列を入力することにより,一括して5つの光信号の波形整形やレート変換を調整することができる。
【0025】
一方,ミラー4へ到達した光信号は,ミラーにて全反射し,再び位相変調器11,強度変調器10,及びAWG(6〜8)を通過して,入力導波路8から光サーキュレータ22へと到達する。光サーキュレータに到達した光信号は,出力ポートへと出力される。
【0026】
本発明のモジュールを用いれば,例えばメインネットワークからの光信号を受けて,その光信号に含まれる複数の波長を有する光ラベルを分析し,そして,スペクトル整形や強度補正を施した後に,ローカルネットワークなどの他のネットワークへと光信号を転送できる。したがって,従来のように,異なるネットワークに光信号を転送する場合でも,一度電気信号に変換せずに,光信号のままで転送できることとなる。また,光信号のままで,光信号の波形を整形したり,強度を調整できることとなる。
【0027】
本発明のPLCは、例えば,以下の方法により作製される。すなわち,まず基板上に導波路を形成する。導波路は,ニオブ酸リチウム基板表面に,プロトン交換法やチタン熱拡散法を施すことにより設けることができる。例えば,フォトリソグラフィー技術によってLN基板2上に数マイクロメートル程度のTi金属のストライプを、LN基板上に列をなした状態で作製する。その後、LN基板 2を1000℃近辺の高温にさらしてTi金属を当該基板内部に拡散させる。このようにすれば,LN基板上に導波路を形成できる。
【0028】
また,電極は上記と同様にして製造できる。例えば,電極を形成するため、光導波路 の形成と同様にフォトリソグラフィー技術によって、同一幅で形成した多数の導波路の両脇に対して電極間ギャップが1マイクロメートル〜50マイクロメートル程度になるように形成する。
【0029】
なお,シリコン基板を用いる場合は,たとえば以下のようにして本発明のモジュールを製造できる。シリコン(Si)基板上に火炎堆積法によって二酸化シリコン(SiO2)を主成分とする下部クラッド層を堆積し、次に、二酸化ゲルマニウム(GeO2)をドーパントとして添加した二酸化シリコン(SiO2)を主成分とするコア層を堆積する。その後、電気炉で透明ガラス化する。次に、エッチングして光導波路部分を作製し、再び二酸化シリコン(SiO2)を主成分とする上部クラッド層を堆積する。そして、薄膜ヒータ型熱光学強度変調器及び薄膜ヒータ型熱光学位相変調器を上部クラッド層に形成する。その後,PLCの端部にミラーを取り付ける。このようにして,本発明のモジュールを製造できる。
【0030】
以下では,図2に従って,本発明のモジュールの別の態様を説明する。この態様にかかる本発明のモジュールの基本構成や各要素については,先に説明したものと同一である。よって,繰り返しを避けるため,それらの記載を準用することとして,ここでは記載を省略する。この態様のモジュールは,図1におけるモジュールからミラーを取り除いて,その代わりに,ミラー像となる光路を基板上に設けたものである。従って,その動作も図1におけるものと同様である。
【0031】
ただし,図2に記載された本発明のモジュールは,図1のものに比べて要素が多くなり大きなスペースを要することとなるが,例えば,強度変調器や位相変調器を図1のものより多く設けることができるので,それぞれの変調器を比較的簡単に製造できる。また,図2では,左右対称に構成される。なお,モジュールでは,符号の関係上,入力導波路8から光信号が出力されることとなるが,この場合は,光が出力される方の入力導波路8が,出力導波路として機能することはいうまでもない。
【0032】
なお,図2では,強度変調器10や位相変調器11を各導波路に2つづつ設けているが,そのうちひとつを省略しても良い。
【実施例1】
【0033】
実施例1は,本発明のPLCを利用したOSS(光スペクトルシンセサイザ)に関する。
図3は,本発明のPLCを利用したOSS(光スペクトルシンセサイザ)の概略構成図である。図3に示されるように,OSSは,入力ポート,出力ポート及びPLCを連結する光サーキュレータと,光サーキュレータとPLCとの間に設けた偏向調整器(PC:Polarization Controller)とを具備する。そして,PLCは,2つのスラブ型導波路,その2つのスラブ型導波路の間に設けられたアレイ型導波路,入力導波路,出力導波路,及びミラーを具備し,出力導波路には強度変調器(VOA)及び位相変調器(VOPS)を設けた。なお,2つのスラブ型導波路及びアレイ型導波路は,AWGを構成している。ミラーは,全反射ミラーを用いた。AWGは,チャネル数32,チャネル間隔19.90656GHzとした。
図4に,強度変調器(VOA)の概略構成図を示す。図4に示されるように,本実施例におけるVOAは,マッハツェンダー型の構造をしており,上下のアームにヒータを有する構造とした。そして,それらのヒータに流す電流の値を制御することで,導波路を伝わる光信号の強度を制御できる。また,3msごとにヒータに加える電流値を制御できるように設定した。
【0034】
図5に,位相変調器(VOPS)の概略構成図を示す。図5に示されるように,本実施例におけるVOPSは,導波路にヒータを有する構造とした。そして,ヒータに流す電流の値を制御することで,導波路を伝わる光信号の位相を制御できる。また,3msごとにヒータに加える電流値を制御できるように設定した。32チャンネルのAWGの入力端からミラーまでの長さは,全てのスペクトルチャネルで同一となるようにPLC上の光路を調整した。
【0035】
本実施例のOSSの動作を以下説明する。入力ポートから入力した光信号は,光サーキュレータを介して,PCに入力され,その偏向面が調整される。その後,PLCの入力導波路へ入力される。そして,第1のスラブ型導波路,アレイ型導波路,及び第2のスラブ型導波路(32チャンネルAWG)を通過して,スペクトル分解され,出力導波路へと出力される。出力導波路で,VOAとVOPSとにより,光信号の強度と位相とが制御され,ミラーへと到達する。ミラーへ到達した光信号は,ミラーにて全反射し,再びVOPS,VOA,及びAWGを通過して,入力導波路から光サーキュレータへと到達する。光サーキュレータに到達した光信号は,出力ポートへと出力される。
【0036】
図6に,光スペクトル整形の原理を説明するための概念図を示す。図6(A)は,コム状のスペクトル形状を有する入力光信号の例を示す図である。図6(B)は,各周波数ごとの強度変調と位相変調の例を示す図である。図6(C)は,図6(A)の入力光信号が,図6(B)に示される変調を受けた後の光信号のスペクトルを示す図である。
【0037】
本実施例のOSSの各波長チャネルは,制御対象となる光信号の中心波長にあわせて,全体的にシフトさせることができる。たとえば,図6(A)に示されるコム状のスペクトル形状を有する入力光信号が,本実施例のOSSに入力された場合,OSSは,それぞれのモードに対して,例えば図6(B)に示される強度変調や位相変調を施す。すると,入力されたコム上の入力信号は,図6(B)で示される変調関数に従って,整形され図6(C)のような光信号となる。このように,強度変調器や位相変調器が制御する関数を調整すれば,出力信号のスペクトルを制御できることとなる。
【実施例2】
【0038】
実施例2は,本発明のPLCを利用したレート可変パルス生成システムに関する。本実施例では,20GHz,40GHz,80GHz,及び160GHzのRZパルス列及びCS(キャリア抑圧)-RZパルス列を生成した。
【0039】
図7は,本発明のPLCを利用したレート可変パルス生成システムの概略構成図である。図7に示されるように,本実施例のレート可変パルス生成システムは,10GHzシグナルジェネレータ(SG),モード同期レーザ(MLLD),10GHzから20GHzへの時分割多重装置(OTDM-MUX), 光スペクトルアナライザ(OSA)及び/又はストリークカメラ,偏光調整器(PC),光サーキュレータ,PC,及びPLCを含むOSSを具備する。本実施例において,OSSに関する部分は,実施例1のOSSと同様のものを用いた。なお,各デバイスを,分散補償ファイバ(DSF)により連結し,なお,特に図示しないが,システムにおける光損失を,EDFAなどの光ファイバアンプにより補償した。MLLDは,繰り返し9.95328GHz,半値幅(FWHM)2ps,中心周波数1552.69nmのRZ(リターントゥゼロ)パルス列を生成するものを用いた。MLLDにより生成した光パルスは,OTDM-MUXにより19.90656GHz(OC-192相当の2倍)のパルス列に多重される。光パルスは,その後,光サーキュレータを介して,OSSに入力する。OSSでは,実施例1で説明したとおり,強度変調器と位相変調器とに与えられた関数にしたがって,所定の変調が施される。OSSからの出力光信号のスペクトルをOSAとストリークカメラとにより観測した。その結果を図8及び図9に示す。
【0040】
図8は,本実施例により生成されたRZパルス列のスペクトルを示す図である。図8(A),図8(B),図8(C),図8(D)は,それぞれ20GHz,40GHz,80GHz,及び160GHzのRZパルス列のスペクトル図である。図8(F)は,160GHzのCS-RZパルス列のスペクトル図である。また,図9は,ストリークカメラにより観測した,スペクトル波形を示す図である。図9(A),図9(B),図9(C),図9(D)は,それぞれ20GHz,40GHz,80GHz,及び160GHzのRZパルス列のスペクトル波形を示す図である。図9(F)は,160GHzのCS-RZパルス列のスペクトル波形を示す図である。
【0041】
図8(A)に示される20GHzのRZスペクトル列は,MLLDから出力された10GHzの光パルス信号をOTDM-MUXで倍周期とした32チャンネルのオリジナルスペクトル分布を示した。この32チャンネルの信号を,ひとつおきにOSSの強度変調器で抑圧すると,それらのパルスが抑圧されるので図8(B)に示されるスペクトルを有するRZパルス列を得ることができる。すなわち,図9(B)に示されるように,40GHzの周期を有するパルス列を生成することができる。また,同様に所定の操作を繰り返すことにより, 160GHzなどのRZパルス列を得ることができた。なお,一度OSSの制御条件を設定すれば,3msで繰り返しレートを変化させることができた。
【0042】
また,本実施例では,以下のようにしてCS(キャリア抑圧)-RZパルス列を生成した。
CS-RZ変調方式は,RZ変調方式よりもスペクトル帯域を圧縮でき,パルス波形の歪みなどファイバ伝搬による分散の影響を受けにくいので,近年盛んに研究されるようになっている。
【0043】
図10は,RZパルスとCS-RZパルスとの違いを説明するための図である。CS-RZパルス列を生成する場合は,OSSの変調様式を例えば図10に示すように制御すればよい。これにより,隣り合うパルスの位相がπだけ反転した状態を作り出すことができる。すなわち,本発明のPLC(OSS)を用いれば,RZ変調信号のみならず,CS-RZ変調信号をも得ることができる。この結果は,図8(E)及び図9(E)に示すとおりである。
【0044】
本実施例では,上記のとおり生成したCS-RZパルス列が,位相反転を繰り返すパルス列となっていることを以下のようにして確認した。図11は,実施例2において生成したCS-RZパルス列が,位相反転を繰り返すパルス列となっていることを確認するための1ビットシフト干渉計の概念図である。図11に示されるように,この検証実験では,上記のシステムを利用して生成した160GHzのRZパルス列と,160GHzCS-RZパルスとを1ビット干渉系に入力することにより,検証を行った。その結果を図12に示す。
【0045】
図12は,実施例における検証実験の結果を示すスペクトル図である。図12(A)は,横軸のひとつのメモリが2nsごとのスペクトル図である。一方,図12(B)は,横軸のひとつのメモリが20psごとのスペクトル図である。
【実施例3】
【0046】
以下では,実施例2のレート可変パルス生成システムを用いて,パルスの波形整形が行えることを示す。システムは,図7に示される実施例2のシステムを基本的にはそのまま利用したが,OTDM-MUXの後に分散媒質を挿入し,OTDM-MUXから出力される20GHzのパルスにゆがみを与え,このゆがみを与えたパルスをOSSに入力した。その結果を図13に示す。
【0047】
図13は,実施例3における波形整形実験の結果を示すスペクトルである。図6(A)は,分散媒質によりゆがみを受けて,広がったパルスを示す。図6(B)は,分散媒質によりゆがみを受けて,広がったパルスを,OSSに入力し,スペクトルの各モードの振幅と位相とを調整し整形を行った後のスペクトルを示す。図6(C)は,分散媒質によりゆがみを受けて,広がったパルスのSHG相関波形を示す。図6(D)は,分散媒質によりゆがみを受けて,広がったパルスを,OSSに入力し,スペクトルの各モードの振幅と位相とを調整し整形を行った後のSHG相関波形を示す。
【0048】
整形前は,相関波形の半値幅が5.458psであったのに対し,整形後の相関波形の半値幅は3.286psであった。よって,OSSを用いることで,有効に波形を整形できることがわかった。さらには,OSSのチャネル数を増やすことで,より精度高くスペクトル波形を整形できると考えられる。
【実施例4】
【0049】
各入力導波路に,λ1〜λ5の信号が入力される。入力された信号は,AWGを介して,スペクトル分解を受け,(1) λ1,λ2,λ3,λ4,λ5;(2)λ2,λ3,λ4,λ5,λ1;(3)λ3,λ4,λ5,λ1,λ2;(4)λ4,λ5,λ1,λ2,λ3;(4)λ5,λ1,λ2,λ3,λ4のように出力される。出力された光信号は,それぞれ出力導波路において強度変調及び位相変調を施され,ミラーへと到達する。さらに、AWGを介して光信号に変換される。
【実施例5】
【0050】
本発明のOSSを3台用いた光スペクトル領域のマッチトフィルタリング実験を行った。光ラベル処理を用いた光パケットスイッチング(OPS: Optical packet switching)技術は,フォトニックネットワークのノードにおける転送速度を飛躍的に向上させることが期待されている。そして,光領域のマッチトフィルタリング技術は,光パケットスイッチングを実現するために,重要な役割を果たす。図14にOSSを用いた,光スペクトル領域マッチトフィルタリング(全光ラベル認識)実験の系の概略構成図を示す。系は,10GHz-MLLD,LiNbO3光強度変調器(LN-IM),パルスパターン生成器(PPG),OTDM-MUX,PC,3dBカプラ,モニタ類,そして光サーキュレータを介して結線されたOSS3セットによって構成される。この実験系において,OOSは.スペクトル領域の符号器及び復号器として機能する。MLLD(モード同期レーザダイオード)から出力された10GHzのパルスは,LN-IM(リチウムニオブ強度変調器)により,その周波数が1/64にまで分周された後,OTDM-MUX(マルチプレクサ)に入力される。これにより20GHzに相当する50ps間隔のパルス対が,10/64 GHz相当の繰り返しで次々にやってくる,不連続信号を得た。ここで,10/64 GHz相当の時間間隔をパケットが飛んでくる間隔の最小値と見なした。生成された50ps間隔のパルス対は,2つの独立したOSSに入力され,それぞれ異なる組み合わせのスペクトル形状に符号化した。実験系ではプライム符号を符号化に用いた。符号化された2つの信号はカプラで合波された後,第3のOSSによって復号した。
【0051】
実施例5の実験結果を図15に示す。図15(a)は,生成された10/64 GHz相当の繰り返しをもつ50ps間隔のパルス対の波形を示すグラフである。図15(b), (c)は,それぞれ異なる符号にセッティングされたOSSで符号化された信号波形を示すグラフである。図15(d), (e)は,それぞれの符号化信号のスペクトルを示すグラフである。図15(f), (g)は,それぞれ合波された2種類の符号の時間波形とそのスペクトルを示すグラフである。図15(f), (g)と,図15(b), (c),および図15(d), (e)を比較すると,2種類の信号が,時間領域とスペクトル領域で合波されていることが確認できる。図15(h)と(i)は,復号器として機能する受信側OSSの出力波形を示すグラフであり,図15(j), (k)はそれぞれの場合の復号化信号のスペクトルを示すグラフである。図15(h)は,復号器の符号が図15(d)における符号に一致している場合,図15(i)は復号器の符号が図15(e)の符号に一致している場合に相当する。この実験結果より,OSSを用いた光スペクトル領域におけるマッチトフィルタリングが良好に機能していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、複数の光信号を一度に整形し,また強度変調を施すことができるモジュールを提供できる。よって,本発明は,光情報通信,特に波長分割多重通信において好適に利用されうる。また、本発明によれば,光ルーティングに用いられる光ラベルを一括して処理し,異なるネットワークへ光情報を転送しうるモジュールを提供できる。よって,本発明は,フォトニックインターネットルータとして利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は,本発明の第1の態様にかかるモジュールの概略構成図である。
【図2】図2は,本発明の第2の態様にかかるモジュールの概略構成図である。
【図3】図3は,本発明のPLCを利用したOSS(光スペクトルシンセサイザ)の概略構成図である。
【図4】図4は,強度変調器(VOA)の概略構成図である。
【図5】図5は,位相変調器(VOPS)の概略構成図である。
【図6】図6に,光スペクトル整形の原理を説明するための概念図を示す。図6(A)は,コム状のスペクトル形状を有する入力光信号の例を示す図である。図6(B)は,各周波数ごとの強度変調と位相変調の例を示す図である。図6(C)は,図6(A)の入力光信号が,図6(B)に示される変調を受けた後の光信号のスペクトルを示す図である。
【図7】図7は,本発明のPLCを利用したレート可変パルス生成システムの概略構成図である。
【図8(A)】図8(A)は,本実施例により生成された20GHzのRZパルス列のスペクトル図である。
【図8(B)】図8(B)は,本実施例により生成された40GHzのRZパルス列のスペクトル図である。
【図8(C)】図8(C)は,本実施例により生成された80GHzのRZパルス列のスペクトル図である。
【図8(D)】図8(D)は,本実施例により生成された160GHzのRZパルス列のスペクトル図である。
【図8(E)】図8(E)は,本実施例により生成された160GHzのRZパルス列のスペクトル図である。
【図8(F)】図8(F)は,本実施例により生成された160GHzのCS-RZパルス列のスペクトル図である。
【図9(A)】図9(A)は,本実施例により生成された20GHzのRZパルス列のストリークカメラにより観測した,スペクトル波形を示す図である。
【図9(B)】図9(B)は,本実施例により生成された40GHzのRZパルス列のストリークカメラにより観測した,スペクトル波形を示す図である。
【図9(C)】図9(C)は,本実施例により生成された80GHzのRZパルス列のストリークカメラにより観測した,スペクトル波形を示す図である。
【図9(D)】図9(D)は,本実施例により生成された160GHzのRZパルス列のストリークカメラにより観測した,スペクトル波形を示す図である。
【図9(E)】図9(E)は,本実施例により生成された160GHzのRZパルス列のストリークカメラにより観測した,スペクトル波形を示す図である。
【図9(F)】図9(F)は,本実施例により生成された160GHzのCS-RZパルス列のストリークカメラにより観測した,スペクトル波形を示す図である。
【図10】図10は,RZパルスとCS-RZパルスとの違いを説明するための図である。
【図11】図11は,実施例2において生成したCS-RZパルス列が,位相反転を繰り返すパルス列となっていることを確認するための1ビットシフト干渉計の概念図である。
【図12】図12は,実施例における検証実験の結果を示すスペクトル図である。図12(A)は,横軸のひとつのメモリが2nsごとのスペクトル図である。一方,図12(B)は,横軸のひとつのメモリが20psごとのスペクトル図である。
【図13】図13は,実施例3における波形整形実験の結果を示すスペクトルである。
【図14】図14は,実施例4におけるスペクトル領域マッチトフィルタリング実験系の概略構成図である。
【図15】図15は,実施例5におけるマッチトフィルタリング実験の結果を示すグラフである。図15(a)は,生成された10/64 GHz相当の繰り返しをもつ50ps間隔のパルス対の波形を示すグラフである。図15(b), (c)は,それぞれ異なる符号にセッティングされたOSSで符号化された信号波形を示すグラフである。図15(d), (e)は,それぞれの符号化信号のスペクトルを示すグラフである。図15(f), (g)は,それぞれ合波された2種類の符号の時間波形とそのスペクトルを示すグラフである。図15(h)と(i)は,復号器として機能する受信側OSSの出力波形を示すグラフであり,図15(j), (k)はそれぞれの場合の復号化信号のスペクトルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
1 プレーナ光波回路(PLC)モジュール
2 基板
3 導波路
4 ミラー
5 第1のスラブ導波路
6 第2のスラブ導波路
7 アレイ導波路
8 入力導波路
9 出力導波路
10 強度変調器
11 位相変調器
21 入力ポート
22 光サーキュレータ
23 PC(偏波コントローラ)
24 光ゲートスイッチ
25 相関信号発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と,前記基板上に形成した光導波路,強度変調器,位相変調器,及びミラーを有するプレーナ光波回路モジュールであって,
前記光導波路は,
2つのスラブ導波路と,
前記2つのスラブ導波路を連結するN本の光導波路を具備するアレイ導波路と,
前記2つのスラブ導波路のうち一方のスラブ導波路(第1のスラブ導波路)と連結され,前記プレーナ光波回路モジュール外から光信号が入力し,所定の処理を施された後に,前記光信号が前記プレーナ光波回路モジュール外へ出力されるM本(Mは,1以上の整数)の入力導波路と,
前記2つのスラブ導波路のうち残りのスラブ導波路(第2のスラブ導波路)と,前記ミラーとを連結するL本の光導波路を具備する出力導波路と
を備え,
前記出力導波路は,強度変調器及び位相変調器を備えるプレーナ光波回路モジュール。
【請求項2】
位相変調器が,薄膜ヒータ型熱光学位相シフタによる位相変調器である請求項1に記載のモジュール。
【請求項3】
基板と,前記基板上に形成した光導波路とを有するプレーナ光波回路モジュールであって,
前記光導波路は,
2つのスラブ導波路と,前記2つのスラブ導波路を連結するN本の光導波路を具備するアレイ導波路と,
前記2つのスラブ導波路のうち一方のスラブ導波路(第1のスラブ導波路)と連結され,前記プレーナ光波回路モジュール外から光信号が入力し,所定の処理を施された後に,前記光信号が前記プレーナ光波回路モジュール外へ出力されるM本(Mは,1以上の整数)の入力導波路と,
前記2つのスラブ導波路のうち残りのスラブ導波路(第2のスラブ導波路)に連結されるL本の光導波路を具備する出力導波路とを備え,
前記出力導波路は,強度変調器及び位相変調器を備える第1の部分と,
前記第1の部分と等価である第2の部分とを具備する
プレーナ光波回路モジュール。
【請求項4】
光路に設けられたM個の光サーキュレータと,
前記プレーナ光波回路モジュールと前記光サーキュレータとを連結するM本の光ファイバと,
請求項1〜3のいずれかに記載のプレーナ光波回路モジュールとを含むモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8(A)】
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【図8(B)】
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【図8(C)】
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【図8(D)】
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【図8(E)】
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【図8(F)】
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【図9(A)】
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【図9(B)】
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【図9(C)】
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【図9(D)】
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【図9(E)】
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【図9(F)】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−195036(P2006−195036A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−4904(P2005−4904)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月8日から10日 日本女子大学、御茶ノ水大学、梨花女子大学主催の「第5回 合同フォーラム」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年11月4日 日本光学会(社団法人応用物理学会)発行の「Optics Japan 2004 講演予稿集」に発表
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】