多重反射飛行時間型質量分析計及びその使用方法
【解決手段】
多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)及び分析方法を開示する。イオンの飛行経路が、静電ミラーによって軌道に沿って折り返される。適度な機器サイズを維持しながら飛行経路が長いほど分解能が高くなる。
多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)及び分析方法を開示する。イオンの飛行経路が、静電ミラーによって軌道に沿って折り返される。適度な機器サイズを維持しながら飛行経路が長いほど分解能が高くなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に質量分光分析の分野に関し、詳細には多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は、様々な化合物や混合物の同定と定量分析に使用される周知の分析化学ツールである。そのような分析の感度と分解能は、実際に使用するために重要な点である。TOF MSの分解能が飛行経路の長さに比例することはよく知られてきた。しかしながら、機器を妥当なサイズに維持しながら飛行経路を長くすることは難しいことが分かる。提案された解決策が、多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)である。MR−TOF MSは、飛行時間集束特性を有する静電イオンミラーの導入後に使用可能になった。米国特許第4,072,862号、ソビエト特許第SU198034号、及びSov.J.Tech.Phys.41(1971)1498は、飛行時間機器内のイオンエネルギーの集束を改善するイオンミラーを開示している。このイオンミラーを使用すると、イオン飛行経路が1回自動的に折り返される。
【特許文献1】米国特許第4,072,862号公報
【0003】
H.Wollnikは、多重反射MR−TOF MSを実現するためのイオンミラーの可能性を現実化した。英国特許第GB2080021号は、複数のグリッドレスミラー(gridless mirror)間のイオン経路を折り返すことによって機器の全長を短くする方法を提案している。そのような2列のミラーは、同一平面内に位置合わせされてもよく2つの向かい合った平行な円上に配置されてもよい(図1)。空間的イオン集束機能を有するグリッドレスイオンミラーの導入は、反射回数に関係なくイオン損失を減少させイオンビームを閉じ込めておくように意図されている(米国特許第5017780に詳述されている)。GB2080021に開示されたグリッドレスミラーは、イオン飛行時間をイオンエネルギーから切り離すためのものであった。2種類のMR−TOF MSが開示されている。それは、(a)N個の順次反射するTOF MSを組み合わせることに相当する「折り返し経路(folded path)」方式と、(b)パルス化したイオンの進入と放出を使用することによって軸方向に位置合わせされた2個のイオンミラー間の複数回のイオン反射を使用する「同軸反射(coaxial reflecting)」方式である。また、「同軸反射」方式は、H.WollnikらによってMass Spec.Rev.,1993,12,p.109に開示され、Int.J.Mass Spectrom.Ion Proc.227(2003)217で発表された研究で実施された。中型(30cm)のTOF MSで50回の折り返し後に50,000の分解能が達成された。実際には、グリッドレスイオンミラーと空間的集束イオンミラーは、対象とするイオンを保持したが(損失は2分の1未満であった)、許容質量範囲はサイクル数と比例して縮小する。
【0004】
もう1つのタイプの周期的MR−TOF MSは、H.WollnikのNucl.Instr.Meth.,A258(1987)289とSakuraiらのNucl.Instr.Meth.,A427(1999)182による論文に記載された。イオンは、静電偏向器と磁気偏向器を使用して閉軌道内に維持される。この方式は、同軸反射方式と同じように、質量範囲を狭める複数の繰り返しサイクルを使用していた。
【0005】
二次元グリッドレスミラーを使用する折り返し経路式MR−TOF MSが、ソビエト特許SU1725289号に開示された。バーからなる2つの同一ミラーで構成されたMR−TOF MSが、ミラー間の中間平面に対してまた折り返しイオン経路の平面に対して平行かつ対称的であった(図2)。ミラーの幾何学的配置と電位は、折り返しイオン経路の平面を横切るイオンビームを空間的に集束させ、イオンエネルギーに関する二次飛行時間集束を提供するように調整されている。イオンは、いわゆるシフト方向(ここではX軸)に検出器に向かってゆっくりとドリフトしながら平面ミラー間で多重反射される。繰り返し回数と分解能は、イオン注入角度を変化させることによって調整された。
【0006】
空間的及び飛行時間集束収束特性を有する平面グリッドレスミラーを備えた「折り返し経路式」MR−TOF MSのNazarenkoの試作品は、シフト方向にイオン集束を行わず、従って反射サイクルが制限されていた。さらに、試作品に使用されているイオンミラーは、折り返しイオン経路の平面を横切る空間イオンの広がりに対して飛行時間集束を行わず、従って、実際には発散し即ち幅が広いビームの使用によって飛行時間分解能が低下し飛行経路の拡張が無意味になる。換言すると、この方式は、満足できる分析装置を提供することができず、従って現実のイオン源で動作する能力を提供できなかった。結局、Nazarenkoの試作品には、イオン源のタイプとMR−TOF MSと様々なイオン源を結合する効率的な方法とを考慮していない。
【0007】
イオンビームのイオン源のタイプとその空間的及び時間的特性、並びに幾何学的制約は、MR−TOF MSの設計における重要な要素である。単反射TOF MSとの適合性は、イオン源がMR−TOF MSに適合することを必ずしも意味しない。例えば、二次イオンSIMSやマトリクス支援脱離/イオン化MALDI等のパルス化イオン源は、TOF MSと極めて適合性が高く、そのような機器の特徴は、高い分解能と空間的イオン発散によって生じる中程度のイオン損失である。MR−TOF MSへの切り換えは新しい問題を引き起こす。一方、そのようなイオン源のパルス化した性質は、パルスをイオン化する周波数が調整可能なのでMR−TOF MS内の飛行時間を拡張するのに適している。他方、飛行時間拡張の制限因子はMALDIイオンの不安定性である。
【0008】
エレクトロスプレー(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧光イオン化(APPI)、電子衝撃(EI)、化学物質のイオン化(CI)、光イオン化(CI)、又は誘導結合プラズマ(ICP)等の気体イオン源は、安定したイオンを生成することで知られているが、これらは、米国特許第6,331,702号と第6,504,150号に記載された最近紹介されたガス充填MALDIイオン源の場合のように、本質的に連続したイオンビーム又は準連続イオンビームを生成する。連続イオンビームをイオンのパルス化したパケットに効率的に変換する直交イオン加速方式(o−TOF MS)(US5070240号と第WO9103071号、及びソビエト特許SU1681340を参照)の紹介後に、TOF MSは、連続イオン源と首尾良く結合され、後に準連続イオン源と首尾良く結合された。衝突冷却イオンガイド(US4963736)と組み合わされた気体イオン源は、TOF MSの軸に沿った低速拡散を有する冷イオンビームを生成し、これは、10,000を超える高いTOF分解能を達成するのに役立つ。しかしながら、MR−TOF MSを使用すると、直交加速デューティサイクルが低下し、従って感度が低下する。
【0009】
米国特許第6,107,625号は、o−TOF MSの分解能のさらなる向上が、いわゆる「ターンアラウンドタイム(turn-around time)」によって主に制限され、飛行経路の拡張によって分解能が改善されることを示唆している。この’625特許は、図3に示したような、イオンミラーと複数の偏向器を組み合わせた直交加速器によって、外部ESIイオン源を「同軸反射」MR−TOF MSに結合することを示唆している。連続イオンビームのサンプリングを改善するために、インタフェースは、まばらなイオンパルス間でイオンを蓄積する線形イオントラップを使用する。Melvin Parkらは、ASMS 2001,www.asms.org,MR−TOF MSでの原稿の「Analytical Figure of Merits of a Multi−Pass Time−of−Flight Mass Spectrometer」と題する論文の中で、長さ約1メートルの機器内で6回の反射サイクルを使用して60,000の分解能を照明した。しかしながら、グリッドを有するイオンミラーの使用によって大きなイオン散乱とイオン損失が生じた。同軸反射MR−TOF MSは、分解能を改善したが、それに比例して質量範囲を狭めた。
【0010】
また、直交注入を備えたESIは、折り返しイオン経路によってMR−TOF MSに結合された(EP1237044 A2と、J.HoyesらによるASMS2000の原稿「A high resolution Orthogonal TOF with selectable drift length」www.asms.orgを参照)。この発明は、直交イオン源と検出器の間に更に別の短い反射板を導入することによって、既存の市販のo−TOFを二重反射機器に変換することができる。連続イオンビームのエネルギーは、イオン反射回数を制御する。「折り返し」MR−TOF MSは、十分な質量範囲を保ち、分解能をかなり改善するが、直交加速器内へのイオンサンプリングのデューティサイクルと幾何学的効率を低下させ、さらに両方のイオンミラーのメッシュを通過するたびにイオン損失と散乱を引き起こす。
【0011】
上の2つの例から、従来の直交加速が、MR−TOF MSにおいて、特に拡張された飛行時間で非効率的であることが分かる。連続イオンビームからのパルス化したイオンサンプリングを改善する試みには、B.M.Chienらによる論文「The design and performance of an ion trap storage−reflectron time−of−flight mass spectrometer」International Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes 131(1994)149−119の三次元イオントラップ(IT)、US5763878、US5847386(図29〜図31)、US6111250(図29〜図31)、US6545268、及びWO9930350の線形イオントラップ(LIT)、又はデュアルLIT(GB2378312)、及びA.Lucaらによる論文「On the combination of a linear field free trap with a time−of−flight mass spectrometer」Rev.Sci.Instrum.V.72,#7(2001),p2900−2908のリングイオントラップのような、主に高周波(RF)トラップ内のイオン蓄積を使用する多数の試みがある。これらの解決策は全て、放出されたイオンパケットの時間的かつ/又は空間的な広がりを損なうので、単反射TOF MSに好ましい方法は相変わらず直交注入である。US6020586の中間的方式では、イオントラップ段階と直交加速の両方を組み合わせた幾つかのトラップ機能が使用されている。低速のイオンパケットが、蓄積イオンガイドから同期直交加速器内に周期的に放出される。この方式は、従来のo−TOF MSよりも感度を高めるが分解能と質量範囲を多少犠牲にする。この機構は、M.Parkによる既述の参考文献では、同軸MR−TOF MSに結合されていた。しかしながら、そのような機器は十分な質量範囲を提供しない。更に、連続イオンビームのTOF MS及び特に多重反射TOF MSに十分に適したイオンパルスへの変換を改善することが望ましい。
【0012】
多重反射TOFは、また、著者の一人の同時係属出願(WO2004008481)でタンデム型質量分析計に使用されている。遅いMR−TOF MSが、ミリ秒時間スケールで親イオンの低速分離に使用され、短い直交TOFが、マイクロ秒時間スケールでフラグメントの高速質量分析に使用される。MR−TOF MS内の飛行時間分離を損なうことなくイオンをフラグメント化するために中間に高速衝突セルが使用される。この方式は、新規な品質を提供し、並行又は「多次元」MS−MS分析を可能にし、複数の親イオンのフラグメントスペクトルが混合なしに同時に取得される。この方式は、親イオンがシフト方向に広がるという欠点を有し、この欠点により、分析計のアクセプタンスが厳しく制限され、イオン源から来るイオンビームの発散を小さくしなければならない。MR−TOF MSのアクセプタンスをさらに高めることが望ましい。
【0013】
即ち、従来技術のMR−TOF MSは、実質的に拡張された飛行経路に沿ってイオンビームを一定に保持する空間的及び飛行時間集束機能を備えていない。ほとんどの参考文献は、イオン源との適合性及びタンデム型質量分析計における有用性を検討することなくMR−TOF分析装置について説明している。実際には、既知のMR−TOF分析装置の制限されたアクセプタンスは、そのような結合を厳しく制限し、実質的に延長された飛行経路においてイオン損失を引き起こすことが予想される。MR−TOF MSを連続イオン源に実際に結合するために幾つかの言及があり、分解能の大幅な改善が実証されている。しかしながら、分解能は、感度の低下を犠牲にして得られ、同軸反射の場合には、質量範囲の縮小を犠牲にして得られる。従って、本質的に連続又は準連続なイオン源で動作し、また1組の主な分析特性、即ち感度、質量範囲及び分解能がo−TOFよりも優れたTOF質量分析計が必要である。また、TOF MSをタンデム型質量分析計に結合する優れた機構が必要である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、
(A)ドリフト空間内に、シフト方向の集束を提供する周期的な1組のレンズを使用し、
(B)エネルギーに関する既知の空間イオン集束と飛行時間集束だけでなく、空間的広がりに対する新規な飛行時間集束も可能にする、少なくとも4個の電極を備えた平面ミラーの幾何学的配置を使用することによって、二次元平面ミラーを備えたMR−TOF MSのアクセプタンスと分解能を 実質的に高めることができることが分かった。
【0015】
発明者は、更に、本発明のMR−TOF MSの改善されたアクセプタンスによって、MR−TOF MSをイオン蓄積装置を介して連続イオン源に効率的に結合できることが分かった。 連続的に到達するイオンが、イオンガイド、IT、LIT、リングイオントラップ等の蓄積装置に蓄積されその蓄積装置からパルスで放出され、従って、o−TOF MSよりもまばらなMR−TOF MSの密度の低いパルス間のイオンの無駄がなくなる。
【0016】
本発明のMR−TOF MSは、以下のような理由で、従来技術よりも優れたイオン光学的特徴の有利な組み合わせを提供する。
・「折り返し」機構の特性である全質量範囲を有する。
・ミラーがグリッドレスなのでメッシュ上のイオン損失がない。
・低い周波数のパルスイオン放出でイオントラップ内にイオンを蓄積することによって連続イオンビームを効率的に消費する。
・分析装置がシフト方向の周期的レンズによる空間的集束と折り返しイオン経路の平面を横切るミラーによる空間的集束とを有するので、そのようなトラップによって生成される幅広いイオンビームを受け入れる。
・エネルギーと新規のイオンパケットの空間的広がりに対する高次飛行時間集束を提供することによって分解能を改善する。
・適切に閉じ込められたイオンビームの多重反射における折り返し経路を使用することによって、飛行時間の拡張によるイオンパケットの長いターンアラウンドタイムを許容し、その結果、様々なイオントラップからのイオン蓄積とパルス化を有する方式を許容する。
・飛行時間が長くなると別の利点が生じ、即ち検出器とデータ収集システムがより低速で安価になり、この両方は現在、TOF質量分析計の極めてコストの高い部品である。
【0017】
本発明は、MR−TOF MS機能に全くの新規性を導入し、即ち、好ましくは整数の折り返しごとにイオンシフトに対応する周期でドリフト空間内に最適に位置決めされた複数のレンズを導入する。この周期的なレンズは、ビームの集束を可能にし、従って拡張された折り返しイオン経路に沿ったイオンの安定閉じ込めを保証する。1組のレンズはMR−TOFに新規な品質をもたらし、極めて多数回の反射の後でもビームの空間的及び角度的な広がりが制限されたままである(実際には、シフト方向の反射を使用する場合にも達成される)。更に、イオン光学シミュレーションを使用して、発明者は、新規なMR−TOF内のイオンの動きが、幾何学的配置の誤差、ポンプとゲージの漂遊電界及び磁界、並びにイオンビーム自体の空間電荷のような様々な外部歪みに効率的に耐えることを発見した。MR−TOFは、ポテンシャル溝内のトラップと類似のそのような歪みにもかかわらず、イオンを主軌道の近くに戻す。周期的レンズの機能によって、イオンビームの確実な完全伝達と共に、拡張飛行経路を有するMR−TOF MSのコンパクトなパッケージングが可能になる。
【0018】
レンズの同調によって、焦点距離Fが半反射又は全イオン折り返しの4分の1(P/4)の整数倍(F=N*P/4)と一致するときに達成されるシフト方向の周期的で繰り返し可能な集束が可能になる。最も密な集束はF=P/4のときに生じる。そのような密な集束は、折り返し1回当たりのシフトを最小にして機器をコンパクトにするのに有利である。そのような密な集束レンズの条件下でも、折り返し1回当たりのイオン経路が比較的長いので、レンズは弱いままであり、従って、折り返しイオン経路の平面における空間的広がりに矯正不可能な飛行時間収差はさずかしか導入されないことが重要である。実質的にイオン経路の平面を横切って延長された平面レンズは、異なる方向に集束するので、イオンミラーと周期的レンズによる空間的集束の同調が完全に独立であるという利点を有する。更にまた、そのようなレンズは、側方の極板の非対称電圧を使用することによって操縦を実現することができる。
【0019】
本発明は、更に、シフト方向の反射を使用することによって飛行経路長を更に長くすることができる。そのような反射は、例えばミラー間のドリフト空間内でシフト経路の側に配置された偏向電極によって達成することができる。偏向電極は、イオンゲーティングを可能にするように常時に又はパルスモードで動作することができる。1回の反射は質量範囲に影響しないが、シフト方向の多重反射により飛行経路を更に延長するには質量範囲が犠牲になる。また、偏向電極を使用して分析装置をバイパスしてイオンをレシーバ内に向けることができる。
【0020】
本発明のミラーの新規な集束特性は、ミラー間の固有距離の選択と電極電位の調整によって提供される。そのような調整の結果として、イオンエネルギーの三次飛行時間集束と、折り返しイオン経路の平面を横切る空間イオンの広がりに対する二次飛行時間集束と、前記平面を横切る空間的集束が得られる。発明者は、高次飛行時間収差の除去が、組立欠陥並びにドリフト長と電極電位のある程度のばらつきに対して安定していることが分かった。従って、1個の電極電位だけを調整し、実際には1つのパラメータ即ちイオンエネルギーに関するイオン飛行時間の線形従属性を変化させながら、新規のMR−TOF MSの同調によって高い解像力を得ることができる。
【0021】
前述の集束特性は、例えば実質的にシフト方向に延長された厚い正方形フレームからなる平面4電極ミラーで実現される。また、スロット付きの薄い極板、バー、シリンダ又は湾曲電極を使用することによって、所望の電界構造を作成することができる。プリント回路基板を使用して二次元ミラーのエッジを効率的に終端して、MR−TOF MSの全物理長を短くすることができる。電極を更に多くすると、ミラーパラメータが更に改善される可能性が高いが、システムが複雑になる。
【0022】
好ましいモードにおいて、イオン源とイオン検出器は、ミラー間のドリフト空間内に配置される。そのような構成では、折り返しイオン経路はミラーエッジから遠いままであり、ミラーを静止モードで操作してMR−TOF MSのより高い安定性と質量精度を達成することができる。しかしながら、本発明は、MR−TOF MSを外部イオン源又はイオンレシーバと結合しビームがミラーエッジのフリンジ電界内を通るのを防ぐために、外部ソースからのパルスイオン入射又はイオンミラー内のイオン放出と適合している。
【0023】
本発明は、MALDIやSIMSのようなパルスイオン源、衝突冷却を備えたMALDIのような準連続イオン源、並びにESI、EI、CI、PI、ICP等の本質的に連続なイオン源、又はタンデム型質量分析計のフラグメント化セルを含む様々なイオン源に応用可能である。連続又は準連続イオン源は全て、イオンガイドで動作することが好ましい。
【0024】
前述のように広いアクセプタンスを有するので、本発明のMR−TOF MSをイオン蓄積装置と共に使用し、密度の低い加速パルス間のイオン損失を防ぐことができる。そのようなイオン蓄積は、イオン源自体内又はMR−TOF MSの加速器内に組み込まれるイオンガイド、RFチャネル、リング電極トラップ、ワイヤガイド、IT又はLITを含む様々な種類のガス充填高周波(RF)蓄積装置内で行うことができる。本発明は、以下のいずれかを使用する。
・イオン蓄積装置からの軸方向又は直交方向の直接加速。
・二重加速機構。連続パルス加速によって蓄積装置から低速イオンパルスが軸方向又は直交方向に放出され、そのような加速器は、直流(DC)加速器として又はRF伝送モードとDCパルスモードを切り換えるRFイオンガイドとして作成することができる。
・二重蓄積機構。低速イオンパルスが、第1の蓄積トラップから放出され、通常はさらに低いガス圧で動作する第2のトラップに入れられる。また、第2の蓄積装置からのイオン放出は、軸方向と直交方向のどちらに行われてもよく、軸方向又は直交方向の追加の加速器を介して行われてもよい。
【0025】
イオンパケットのパラメータの幾つかの妥協点は、新規のMR−TOF MSの飛行経路の実質的な拡張と広いアクセプタンスのために受け入れ可能である。
【0026】
本発明の好ましい実施形態は、後者、即ち二重イオン蓄積装置のより複雑であるが有利な方式を使用する。イオンガイドは、両方の蓄積装置に好ましい選択である。追加の組のパルス電極を使用することが好ましく、その電界は、第2のイオンガイドのイオン蓄積領域内によく浸透し、短いターンアラウンドタイムで軸方向の高速イオン放出を可能にし、同時に全く均一な加速電界と適度のイオン発散を提供する。本発明は、直交加速方式と比べて、連続イオンビームをほとんど完全に利用することができる。ターンアラウンドタイムの多少の増大は、飛行経路の拡張によって補われる。
【0027】
本発明は、イオンガイドと開放リング電極を備えた三次元イオントラップとからなる複合イオントラップ等の幾つかの新規のイオン蓄積装置を提案する。細分化された類似物のシミュレーションによって、MR−TOF分析用のイオンを作成するためのそのようなトラップの実現可能性が証明された。別の新規の装置は、補助電極を備えた線形イオントラップを含む。イオントラッピングと軸方向放出は両方とも、別の組の電極の電圧をパルス化しその電極のRF信号をなくすことによって達成することができる。
【0028】
本発明は、より強力なイオンパルスを提供すると予想され、その結果、イオン検出器のダイナミックレンジと寿命が重要な問題になる。当技術分野において、イオン蓄積、質量分離、又は検出の段階でのイオン抑制を含む多数の解決策が知られている。既知の戦略には、望ましくないビーム成分のイオン強度又は質量フィルタリングの自動的調整がある。ダイナミックレンジは、データ収集のために二次電子増倍管(SEM)とアナログディジタル変換器(ADC)を使用することによって強化される。本発明の特質は、長いパルス持続時間にあり、帯域幅を低くでき、前述の問題の解決が多少容易になる。
【0029】
この機構は、連続又は準連続イオンビームの完全利用、並びにR〜100,000の範囲の改善された分解能を提供する予想される。MR−TOF MSは、独立機器として、又はLC−MS又はMS−MSタンデムの一部分として使用され、まず親イオンの任意の既知の質量分離器と任意の既知の種類のフラグメンテーションセルと組み合わされた第2のフラグメントイオン分析装置として期待される。
【0030】
また、本発明のMR−TOF MSは、タンデム型質量分析計の構成において第1の分離質量分析計として使用することができる。MR−TOFを使用する利点は、著者の1人による同時係属特許において明らかになる。同時係属発明は、フラグメント分析用の高速のTOF2と組み合わせたイオン分離用の低速のTOF1を使用することを提案する。この構成により、イオン源からの1つのパルスで複数の前駆体の並行分析が可能である。本発明は、特に、MR−TOF MS内の長い分離を可能にし、さらにイオンビームの低いエネルギーと中程度のエネルギーでの分離、ビームの密な集束、及びイオンビーム位置の正確な制御を可能にし、これらは、ビームをフラグメンテーションセル内に導くときに有効である。
【0031】
また、質量分光分析の両方の段において、MR−TOFの強化された伝送と強化された分解能を使用することができる。この場合、第2のショルダーにおける延長された飛行時間は、時限イオンセレクタによる単一の前駆体の選択を必要とし、これにより並行MS−MS分析の可能性が失われるが、その代わりにMS−MS分析の高い特定性、分解能及び質量精度が提供される。多段MSn分析は、単一のMR−TOF分析装置を備えた機器で行うことができる。例えば、衝突セルがイオンの流れの方向を戻し、時限イオンセレクタがMR−TOFとフラグメンテーションセル間で使用される場合は、同じ分析装置を親イオン分離と娘イオン分離の両方と孫イオン分析に使用することができる。イオンは、MR TOF分析装置と衝突セルの間を往復される。
【0032】
並行MS−MS分析と高分解能MS−MS分析の両方の形態は、好ましくは両方のMR−TOFの飛行経路と加速電圧を調整することによって単一の汎用機器で達成することができる。第1の分析装置内の電圧を下げ(イオンビームをパルス偏向し、より少ない数の反射を使用することによって)、第2の分析装置内の飛行経路を短くすることにより、そのような汎用性が提供される。
【0033】
本発明のMR−TOF MSの利用は、極めて幅広い種々な装置及び方法にわたる。例として、MR−TOF MSは、様々なタイプのクロマトグラフィにおける任意の事前試料分離或いは任意のタイプの外部質量分析計又はイオン移動度分光計における質量分光分離と組み合わせることができる。同様に、様々な実施形態における様々なガス充填蓄積装置とガス充填フラグメンテーションセルを、ガスイオン反応器に変換することができる。そのような反応器は、例えばICP法でイオン−分子反応器を使用して同位体感度を高めるために有効であり、電荷削減又は選択的フラグメント化のために多価イオンと逆極性のイオンとの間のイオン−イオン反応器を使用することができ、従って、そのような反応器は、多価イオンの電子捕捉解離に使用することができる。
【0034】
本発明をより完全に理解するために、次に添付図面を参照する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明は、一般に質量分光分析の分野に関し、より詳細には多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を含む装置に関する。より具体的には、本発明は、ドリフト空間内の周期的な1組のレンズと組み合わせたミラー電極の新規な配列及び制御を使用することによって、平面のグリッドレスのMR−TOF MSの分解能と感度を改善する。本発明のMR−TOF MSは、空間的及び時間的集束が改善されるので、拡張された折り返しイオン経路に沿ったイオンビームのアクセプタンスが広くなり閉じ込めが確実になる。その結果、本発明のMR−TOF MSをイオン蓄積装置を介して連続イオン源に効率的に結合することができ、それにより、イオンサンプリングのデューティサイクルが節約される。本発明のMR−TOF MSは、タンデム型質量分析計において、二次元並行MS−MS分析と縦続の第1の低速セパレータとして、或いは両方の分析段でMR−TOF MSを使用するタンデムとして使用するように提案される。
【0036】
図1は、WollnikらのGB特許第2080021号(このGB特許の図3と図4)による従来技術の多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を示す。飛行時間型質量分析計において、ソース12から様々な質量とエネルギーのイオンが放射される。コレクタ20までのイオンの飛行経路は、ミラーR1,R2,...Rnによってイオンを多重反射するように調整することによって折り返される。ミラーは、イオン飛行時間がイオンエネルギーに依存しないようなものである。この特許は、軸方向に対称的な複数のイオンミラーの2つの幾何学的配置を示す。両方の配置において、イオンミラーは、2つの平行な平面IとIIに配置され、イオン経路の表面に沿って位置合わせされている。1つの配置において、面は平面であり、もう1つの配置では円筒である。イオンがイオンミラーの光学軸に対して斜めに移動し、それにより追加の飛行時間収差が生じ、従って高分解能の達成がかなり複雑になることに注意されたい。
【0037】
図2は、ロシア特許第SU1725289号に記載されているNazarenkoらによる試作品の「折り返し経路」MR−TOF MSを示す。この特許のMR−TOF MSは、2つのグリッドレス静電ミラーを有し、ミラーはそれぞれ、一方のミラーの3個の電極3、4及び5と、他方のミラーの6、7及び8からなる。各電極は、「中央」平面XZに対して対称的な1対の平行極板「a」と「b」からなる。ソース1とレシーバ2が、前記イオンミラーの間のドリフト空間内にある。ミラーは、複数回のイオン反射を提供する。反射回数は、イオン源を検出器に対してX軸方向に移動させることにより調整される。この特許は、Y方向の空間イオン集束とイオンエネルギーに対する二次飛行時間集束を達成する、イオン折り返しごとに達成されるタイプのイオン集束について説明する。
【0038】
試作品がシフト方向にイオン集束を実現せず、従って反射サイクル数が実質的に制限されることに注意されたい。また、Y方向の空間イオンの広がりに対する飛行時間集束を提供しない。従って、試作品のMR−TOF MSは、分析装置の幅広いアクセプタンスと、従って実際のイオン源を処理する機能を提供できない。最終的に、この試作品は、イオン源のタイプとMR−TOF MSを様々なイオン源に結合する効率的な方法とを考慮していない。
【0039】
図3は、M.ParkのUS6107625による従来技術の「同軸反射」MR−TOF MSを示す。この発明は、互いに軸方向に位置決めされた2つの静電反射板34と38を含み、その結果、イオン源32によって生成されたイオンを反射板の間で左右に反射させることができる。第1の反射装置34は、直交加速器の機能とイオンミラーの機能を兼ね備えている。複数回のイオン反射の後で、どちらかのミラーを素早くオフにして、イオンが反射板を通過してイオン検出器36に達することを可能にする。この特許は、連続イオン源をMR−TOF MSに結合する方法を教示している。記載された装置は、実際に、小さいサイズの機器において高い分解能を達成する。しかしながら、使用されている「同軸反射」方式によって、質量範囲が大幅に縮小し、連続イオンビームからのイオンサンプリングのデューティサイクルが低下する。メッシュは実質的なイオン損失を引き起こす。デューティサイクルは、イオン源への蓄積線形イオントラップ(LIT)の導入後に著者による後の研究で改善される。
【0040】
図4は、本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の概略を新規な周期的レンズの詳細と共に示す。MR−TOF MS11は、内蔵加速器13を備えたパルスイオン源12と、イオンレシーバ16と、互いに平行でかつここではY軸で示した「シフト」方向に実質的に延長された2本1組のグリッドレスイオンミラー15と、前記ミラー間の無電界空間14と、前記ドリフト空間内に位置決めされた1組の複合レンズ17とを含む。
【0041】
前述の要素は、イオン源12とイオンレシーバ16の間に折り返しイオン経路19を提供するように調整され、前記イオン経路は、イオンミラー15の間の多重反射とシフトY方向へのイオンドリフトとの組み合わせからなる。このシフトは、入ってくるイオンパケットのX軸に対する機械的又は電子的なわずかな傾きによって調整される。レンズ17は、整数回のイオン反射ごとのイオンシフトに対応する周期でY軸に沿って位置決めされる。好ましい実施形態は、シフトY方向にレンズ17によって新規のイオン光学特性即ち周期的集束を提供し、平面グリッドレスイオンミラーによって提供される直交Z方向の周期的空間的集束を補うことによって、MR−TOF MSのアクセプタンスを大幅に強化する。本発明の特別に設計されたイオンミラーによる改善されたそのようなイオン光学特性並びに飛行時間集束について以下で詳細に説明する。
【0042】
周期的レンズの組み込みは、MR−TOF MSにおいて完全に新規な特徴であり、これにより、主ジグソー折り返しイオン経路に沿ったイオンの安定保持が提供される。レンズの同調により、焦点距離Fが完全イオン折り返しの半反射又は4分の1(P/4)の整数倍即ちF=N*P/4のときに達成されるシフト方向への周期的な繰り返し可能な集束が可能になる。最も密な集束は、F=P/4のときに起こる。そのような密な集束は、1折り返し当たりのシフトを最小にして機器を小型にするのに有利である。そのような密な集束の条件下でも1回の折り返し当たりのイオン経路長が比較的長いためレンズは弱いままであり、従ってレンズは、折り返しイオン経路の平面におけるイオンの空間的な広がりに対して矯正不可能な飛行時間収差を少ししか導入しないことが重要である。即ち、レンズは、実質的にイオン経路の平面を横切って延長され、折り返しイオン経路の平面を横切りかつその平面においてそれぞれイオンミラーとレンズによる完全に独立した空間的集束の同調の利点を提供するレンズであることが好ましい。また、そのようなレンズは、側方の極板に非対称的な電圧を使用することによって操縦を実現することができる。
【0043】
1組の周期的レンズはMR TOFに新規の品質をもたらし、従ってイオンビームは、極めて多数の反射の後でも閉じ込められたままである(実際には、シフト方向の反射を使用する場合に達成される)。更に、イオン光学シミュレーションを使用することにより、発明者は、新規のMR−TOF内のイオンの動きが、幾何学的配置、表面の漂遊電界及び磁界、ポンプ及びゲージの不正確さ、並びにイオンビームの空間電荷のような外部歪みに効率的に耐えることを発見した。MR−TOFは、そのような歪みに関わらずイオンを主軌道の近くに戻す。この効果は、ポテンシャル井戸内のトラッピングと等価である。周期的レンズの機能により、イオンビームの確実な完全伝達と共に、拡張飛行経路を有するMR−TOF MSのコンパクトな実装が可能になる。
【0044】
図4は、また、同じ好ましい実施形態の側面ビュー21と、好ましいMR−TOF MSの分析装置内の軸方向の電位分布22を示す。ミラー15は、XY平面に対して対称的であり、互いに同一であることが好ましいが必ずしもそうでなくてもよく、即ちYZ平面に対して対称的である。ミラー15は、1つのレンズ電極15L、2個の電極15E、及び1つのキャップ電極15Cを含む少なくとも4個の電極と、更にドリフト空間14の特別に形成された縁とで構成されることが好ましい。前述のように、ミラーは、実質的にシフト方向に延長され、折り返しイオン経路19の領域のまわりに二次元静電界を形成する。
【0045】
本発明におけるミラーの新規の集束特性は、ミラー間の固有距離と電極電位の調整を選択することによって提供される。発明者は、これらのパラメータを、導関数の組み込み計算とまた組み込み自動最適化ブロックによるイオン光学シミュレーションによって求めた。そのような独自のプログラムを処理することによって、発明者は、最適化アルゴリズムの幾つかの一般的傾向とイオンミラーのイオン光学特性に対する幾つかの重要な要件を公式化した。例えば、2つの同一ミラーを備えた対称的MR−TOF MSの場合、各ミラーは、次のような5つのパラメータを独立に同調させるために少なくとも4個の電極を備えていなければならない。
a)3つのパラメータ(最適には、2つの電極電位とミラー間のドリフト長)は、エネルギーに関する周期的な(各反射後の)三次飛行時間集束を提供するように選択され、従って、同調により、イオンエネルギーに関するイオン飛行時間の1次導関数、二次導関数、及び三次導関数をなくすことができる。
b)1つのパラメータ(最適には、ドリフト空間に最も近い「組み込みレンズ」電極の電位)は、折り返しイオン経路の平面を横切るいわゆる「パラレルツーポイント(parallel-to-point)」の空間的集束を実現する。この用語は、ドリフト空間の中間で始まる平行なイオンパケットが、折り返しの半分後に点に集束され、完全に折り返した後で平行なイオンパケットに戻ることを意味する。この集束は、パケットのイオンも同調点の近くでイオン経路の平面と交差するように調整されると有利である。
c)残り1つのパラメータは、折り返しイオン経路の平面からずれた初期イオンに関する前述のイオンパケットの飛行時間の二次導関数をなくすように調整される。
【0046】
両方の条件(b)と(c)が満たされた場合は、ミラー配置の対称性によって、それぞれの完全折り返しの後、即ち偶数回の反射の後で、初期座標上の二次までの全飛行時間収差と折り返しイオン経路の平面を横切る角度的広がり(angular spread)とが自動的に除去される。
【0047】
発明者は、高次飛行時間収差の除去が、組み立て不良及びドリフト長と電極電位のある程度のばらつきに対して安定していることが分かった。従って、1つの電極電位だけを調整し、実際には1つのパラメータ、即ちイオンエネルギーに関するイオン飛行時間の一次従属性を変化させながら新規のMR−TOF MSを同調させることによって高い解像力を得ることができた。
【0048】
図5は、前述の高次空間及び飛行時間集束を実現する本発明のMR−TOF分析装置の幾何学的配置と電圧の特定の例を示す。ビュー23は、寸法が長さLの典型的な電極に規格化された特定の4電極ミラーの寸法を示す。ミラーの電極は、レンズ電極が15L、2つの中間電極が15E、キャップ電極が15Cで示されている。同様に、ビュー24は、ドリフト空間とミラー全体の寸法を示し、ビュー25は、同じ特定のMR−TOF MSの電極の電位を示す。この電位は、イオンビームの公称エネルギーEに規格化される。分析装置は、図4のビュー22に示したものと類似の軸方向のポテンシャル分布を形成する。
【0049】
イオンミラーの細長い二次元構造は、様々な形状の電極を使用して構成することができた。図5のビュー26は、長方形フレーム、細長いスロットを備えた薄板、角棒、並びに平行ロッドや湾曲電極、円錐、双曲線等によって形成された図示していないタイプを含むいくつかの可能なタイプの電極の幾何学的形状を示す。発明者は、また、二次元未満の形状の電極を使用して所望の電界構造を合成できると予想する。
【0050】
二次元電界構造を保つには、境界問題の特別の処理が必要である。電界構造の歪みを回避するために、ミラーは、折り返しイオン経路の全シフトよりも長く作成されるか、若しくは例えばミラー電界の等電位曲線の形状を繰り返す電極形状を有する微細構造のプリント回路基板(PCB)30のような特殊な装置を使用する。本発明のイオン光学シミュレーションで、レンズのエッジの幅だけを調整することによって、フリンジ電界浸透を大幅に減少させることができることが分かった。例えばレンズ電極15Lのリブとして追加のエッジ電極を導入することによって同等の結果を得ることができる。
【0051】
図6は、本発明の好ましい実施形態のMR−TOF分析装置内でのシフト方向へのイオン反射によるイオン経路拡張の図と原理を示す。以前の番号を使用して示した標準的な構成要素の他に、実施形態31は、操縦装置32及び33と、任意のインラインイオンレシーバ34を含む。入射イオンパケット35は、追加の検出器34上に偏向されてもよく、或いは折り返し経路36に沿ってMR−TOF MS内に向けられてもよい。シフト軸Yの他端において、第2の操縦装置33が、軌道38に沿ってイオンレシーバ16上にイオンを放出してもよく、或いはイオンパケットを折り返しイオン経路37に沿って再びMR−TOF MS内に向けてもよい。
【0052】
動作において、特定の状況において、入口操縦装置32がオフにされ出口操縦装置33が常にオンにされているとき、MR−TOF MSは、非繰り返し折り返しイオン経路を維持し、従って質量分光分析の全質量範囲を維持し、飛行経路を2倍する。入口操縦装置を使用して分析装置を常にバイパスすることができる。これらの機能は、MR−TOF MSがタンデム型MSのイオンセパレータとして使用されバイパス機能がタンデム形態とMSだけの形態の間の切り替えを可能にする同時係属特許において有用であると思われる。
【0053】
この操縦装置を使用して、繰り返し周期的折り返しイオン経路にイオンパケットを通すことができ、飛行経路の延長は、質量範囲の比例縮小と、特定の用途の要件に基づいて行われる妥協とを伴う。この場合、操縦装置32は、分析質量スペクトルの所望の部分を選択するイオンゲートとしても使用されることがある。
【0054】
ドリフト方向の反射を使用している間に分析装置全体の幾何学的制約とミラーエッジのフリンジ電界が重要になることがある。この問題の回避方法は、イオンビームをイオンミラーに通し、より具体的にはイオンビームをミラーキャップ電極15Cのスリットに通すことである。次に、ミラー15は、点線で示したように例えば別の電極を追加することによって拡張することができ、またパルスモードで断続させなければならない。
【0055】
また、図6に操縦装置の特定の例41を示す。操縦装置41は、1組の平行な極板42〜46を含み、極板42は接地されている。装置は、平面偏向板と平面レンズの特徴を兼ね備える。装置は、極板44と45の電圧を同調させることによって2つの機能を切り替えることもでき或いは2つの機能を同時に兼ね備えることもできる。装置は、周期的構造のレンズへの組み込みを可能にする。この場合、ドリフト方向へのイオンの集束及び/又は反射の両方のためにそれぞれ個別のセルを使用することができる。偏向板は、イオンのゲーティング、狭い質量範囲の選択、複数の前駆体又は複数の質量ウィンドウの同時分析を可能にするように、常時に又はパルスモードで動作することができる。また、偏向器が、変化を受けないミラー電界(図示せず)の境界内にウェルを留める閉ループイオン軌道を作成できるので、レンズと偏向器のフレキシブルな切り換えは有用であり、同時にフリンジ電界の問題を克服できる。
【0056】
イオン偏向を導入すると飛行時間分解能が低下し、従って、これは、一般に、MR−TOF MSの分解能の改善ためではなくイオン操作と飛行時間の延長に使用される。
【0057】
例えば、典型的なエネルギー広がりが5%でビームの位相空間がビーム経路と垂直な両方向に10πmmミリラドの場合、L=25mmの本発明のMR TOF MSのイオン光学シミュレーションにより、レンズの最大焦点距離が全ビーム折り返し(2回反射)の長さと等しいモードにおいて、偏向器を使用せずに100,000の質量解像力(FWHM)が達成可能であることが予測される。レンズと偏向器の追加使用により生じる最も密な集束の場合、この解像力は、30,000まで低下すると予測される。しかしながら、飛行時間が延長されているので、この値は、同じ解像力を有する従来のTOF MSよりも厳密でない値のイオンターンアラウンドタイムで達成できることに注意されたい。
【0058】
これで、本発明のMR−TOF MSの説明を完了し、新規のMR−TOF分析装置が、イオンビームの空間的及び時間的な広がりに対するより高い許容範囲を有することに特に注意されたい。新規の分析装置は、幾何学的なイオン損失を生じることなく飛行時間の延長を可能にする安定したイオンビーム閉じ込めを実現する。飛行時間の拡張により、TOF分解能が向上し、パルスイオン源に現われるイオンターンアラウンドタイムの影響が減少する。また最終的に、本発明のMR−TOF MSは、初期イオンビームの空間的広がりに対して高次飛行時間集束を提供し、即ち飛行時間分解能を低下させることなくより幅の広いビームを受け入れることができる。一方、飛行時間の拡張により、連続イオンビームからのイオンサンプリングの効率が低下する。本発明は、二次イオン質量分析計イオン源(SIMS)又はマトリクス支援型レーザイオン化(MALDI)などのパルス化イオン源に使用することができるが、励起イオンの長期安定性が障害になることがある。そのようなイオンの安定性は、パルス化されたガス供給源からのガス制動によって改善することができる。そのようなイオンがパルス化され加速された場合でも、イオンパルスの持続時間は、イオン源をパルス化されるように考慮するために長くなる。この矛盾は、本発明の別の重要な特徴、即ちエレクトロスプレー(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、電子衝撃(EI)、化学イオン化(CI)、光イオン化(PI)、誘導結合プラズマ(ICP)、ガス充填MALDIのような連続又は準連続イオン源、並びにタンデム型質量分析計のイオンガス反応セル又は衝突セルへのイオン蓄積及びパルス放出の組み込みによって解決される。
【0059】
本発明は、MR−TOF MSの拡張飛行時間に対応する、連続イオンビームの蓄積と低い周波数におけるパルス化イオン放出のためのイオン蓄積段を追加することによって、MR−TOF MS内へのイオンサンプリングの効率を大幅に改善する。そのようなイオン蓄積は、イオン源自体又はMR−TOF MSの加速器に組み込まれたイオンガイド、RFチャネル、IT又はLIT、ワイヤ又はリング電極トラップを含む様々な種類のガス充填高周波(RF)蓄積装置において行われる。当該技術の蓄積装置は、イオン制動のためにガス分子との数百回のイオン衝突に十分なガス圧でガス充填される。そのような装置は、イオンの半径方向の閉じ込めのための高周波(RF)電界と、軸方向のイオンの動きを制御する軸方向の静止又は動的な波状電界を使用する。蓄積段は、任意のMR−TOF MSのまばらなパルス間のイオン損失を回避する。
【0060】
図7Aを参照し、ブロック図レベルの詳細を使用すると、本発明51の好ましい実施形態のMR−TOF MS内のパルスイオン源は、連続的に相互接続された連続イオン源61、蓄積イオンガイド71、第2の蓄積装置81、加速器91を含む。パルスイオン源51は、MR−TOF31に接続される。ブロック図は最も一般的な事例を示し、要素71、81及び91は任意であり、即ち、幾つかの特定の実施形態の範囲内では省略されても組み合わされてもよい。
【0061】
動作において、連続イオン源61、好ましくはガスイオン源は、イオンガイド71内を送られることが好ましい連続イオンビームを生成する。イオンガイド71は、連続イオンビームを蓄積し、MR−TOF分析装置31に対応する周期で周期的にイオンパケットを放出することが好ましい。そのような放出されたイオンパケットは、直接又は任意選択の第2の蓄積装置81を介して加速器91に渡される。加速器は、高速イオンパケットを連続又はパルスでMR−TOF分析装置に軸方向又は直交方向に注入する。イオンガイド71と第2の蓄積装置81は、三次元イオントラップ、四重極、多重極又はワイヤイオンガイド、RFチャネル、リング電極トラップ、イオンファンネル又は線形イオントラップによって示したような任意のRF閉じ込め及びガス充填装置でよい。
【0062】
追加の蓄積装置81の主な機能は、第1の蓄積イオンガイド71に蓄積された残りのイオンと異なる条件でイオン雲を作成することである。そのような条件は、イオンビームのガス圧、空間電荷又は質量組成によって、或いは放出電極の構成によって異なることがある。以下の説明に示すように、二重蓄積方式は、よりフレキシブルであり、イオンビームの完全利用と多くの自動調整を可能にする。最も重要なことは、イオンビームをより小さい位相空間で生成し、分析装置によるビームアクセプタンスを改善することである。追加の蓄積装置を使用する利点は、二重蓄積方式を使用する本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の以下の詳細な説明で明らかになるであろう。
【0063】
図7Bは、ガス連続イオン源の特定の例61B、即ちスプレープローブ62、サンプリングノズル63、サンプリングスキマー64、ポンプ65及び75から成るESIイオン源を示す。ESIイオン源の構成要素と動作原理は、当該技術分野で周知である。検体混合物の溶液をプローブ62から大気圧を有する領域にスプレーする。充満したエーロゾルが蒸発し、それにより検体のガスイオンが形成され、その検体のガスイオンが、サンプリングノズル63によってサンプリングされる。ポンプ65が、余分なガスを数mbarのガス圧まで排気する。更に、イオンがガス流と静電界に支援されたサンプリングスキマー64によってサンプリングされ、連続イオンビーム66が生成され、同時にガスがポンプ75によって排気される。
【0064】
図7Cは、試料板67、レーザ68、冷却ガス供給源69、及びポンプ75から成るガス冷却機能を備えた準連続MALDIイオン源の特定の例61Cを示す。ガス冷却機能を備えたMALDIイオン源61Bは、パルスレーザ68によって試料板67上の試料を照明しながら検体のイオンを生成する。供給源69は、試料板のまわりに冷却ガスを、約0.01mbar(WO9938185)又は約1mbar(WO0178106)の中くらいのガス圧で提供する。試料板から放出されたイオンは、ガス衝突で冷却され安定化される。イオン安定性は、長い分析時間を使用するのでMR−TOF MS内での使用には特に重要である。イオン運動エネルギー特性と鋭いタイミング特性は、ガス衝突で抑制される。得られるイオンビーム66は、パルスイオンビームではなく準連続イオンビームと見なされる。
【0065】
図7Dは、中間蓄積イオンガイド71の図を示す。イオンガイド71には、前述のイオン源61Bと61Cが両方とも接続されている。蓄積イオンガイドの特定の例71は、高周波(RF)電圧が供給される四重極ロッド72、1組の補助電極73、出射孔74、及びポンプ75から成る。同じポンプ75が、前に図7Bと図7Cに示されていることに注意されたい。動作において、連続又は準連続イオンビーム66が、イオンガイド71内に導かれる。イオンは、アパーチャ64を介してサンプリングされ、ポンプ75が、余分なガスを排出する。アパーチャ64とポンプ75は、アパーチャ64のガス圧がほぼ等しいので、両方にイオン源がある場合と類似している。イオンは、RFロッド72の間に蓄積され、同時にガス衝突で抑制され、アパーチャ64と74によって減速される。イオンは、RF四重極の軸の近くにDCポテンシャル井戸の底に閉じ込められる。周期的イオンパケット76は、蓄積イオンガイドから加速器91内に直接又は後述する任意選択の第2のイオン蓄積装置81を介してパルス式に排出される。
【0066】
本発明は、通常と異なるイオン蓄積の機構を使用することができ、補助電極73が、イオンガイド71内の軸方向のDC分布を作り出す。電極73は、静電界がロッド間に効率的に浸透するようにRFロッド72を取り囲む。軸方向のDC分布は、空間的に分散されたイオン蓄積、制御されたイオンサンプリング、及びイオン放出プロセスの適度な持続時間を実現するように時間的に調整され変更される。補助電極73の電圧による操作にはRFロッド72のRF電位による操作が必要ないことに注意されたい。実際に、ロッド72に印加するRF電圧を定常状態に維持し、これによりパルス化したイオンパケットを集束させることが有利である。イオンが軸方向に放出されるので、RF電界が無視できる場合、RF電界は軸方向のイオン速度にほとんど影響を及ぼさない。様々な組の電極に別々のRF信号とパルス信号を印加することにより、電子回路電源の作成が便利りなり容易になることは明らかである。
【0067】
蓄積イオンガイド71は、好ましくは直交に加速器91に直接結合されてもよい。イオンガイドは、ガスが充填されるので、電極73と74の電位のわずかな変調によってソフトなイオン放出を提供することが好ましい。そのような遅く(数電子ボルトから数十電子ボルト)かなり長い(数マイクロ秒)イオンパケットは、同期された直交加速と適合する。この方式は、従来技術(例えば、US6020586)において全く一般的なので示されていない。パケット76は、ガス充填イオンガイドを高真空で分析装置に適応させる追加の差動ポンピング段を通る。この追加の段は、ほぼ平行なイオンビームを形成するレンズから成る。イオンパケットは、イオンを分析装置に同期的に注入する直交加速器91に入る。低速イオンビームの方向に延長されたスリットを有する平らな電極からなるグリッドレス加速器を使用することが好ましい。MR−TOFのシフト方向に向けられたスリットの明らかに魅力的な方式は、実際には直交配列よりも劣り、イオン源とスリットは、折り返しイオン経路の平面に対して直角に向けられ延長されている。イオンミラーによるイオン集束は、イオンミラーを同調させることにより適切な補償で使用される場合に一次集束を有する周期的レンズよりも空間的広がりに対して高い次数(二次)の飛行時間集束を有することは明らかである。
【0068】
直交加速器は、本発明のMR−TOF分析装置のドリフト空間内に配置されてもよく、本発明の平面MR−TOF分析装置のミラー(又は、1個のイオンミラーのパルス部分)の1つと組み合わされパルス式に操作されてもよい。従来技術と同様に、蓄積イオンガイドには、イオン質量範囲を犠牲にして直交加速のデューティサイクルを少なくするという長所がある。
【0069】
図8は、第2の蓄積装置81のブロック図を示す。第2の蓄積装置81は、汎用イオントラップ82、軸方向出射孔88又は直交出射孔86、及びポンプ85とから成る。蓄積装置81は、イオンガイド71、好ましくは蓄積イオンガイドに接続されている。動作において、イオンが、イオンガイド71から汎用トラップ82内に連続又はパルスで放出される。汎用イオントラップは、三次元イオントラップ、四重極内に形成された線形イオントラップ、補助DC電極を備えることが好ましい多重極又はワイヤイオンガイド、RFチャネル、リング電極トラップ、イオンファンネル、或いはこれらの装置の組み合わせでよい。トラップは、ガスがポンプ85によって排出されている状態で約0.1mTorrの低いガス圧に維持されることが好ましい。RF電界及びDC電界とガス制動との複合作用により、イオンは、トラップの出口近くに閉じ込められる。イオンは、蓄積装置82からMR−TOF分析装置に、MR−TOF分析装置のポンプシステムのガス負荷を減少させる働きをする対応するアパーチャ86又は88を介して軸方向87又は直交方向89に周期的に直接排出される。
【0070】
図9は、軸方向放出器と任意選択の加速器とを備えた二重イオン蓄積のブロック図を示す。任意選択の加速器91は、ポンプ95によって排出されるハウジング97内に配置された1組の電極92から成る。図9の特定の例において、加速器は、ポンプをMR−TOFとハウジングと共有するが、MR−TOF内の真空を高めるために差動式にポンピングされてもよい。パルスイオンビーム89は、第2の蓄積装置81から来て1組の電極92内で加速される。当技術分野において既知の多数のタイプの加速器がある。例として、そのような電極は、ワイヤから作成されてもよく、スリット又はメッシュを有するリング又はプレートから作成されてもよい。これらは、また、イオンビームを閉じ込めるためにRF信号によって供給される電極を含むことがある。イオンは、軸方向94又はイオン注入の方向に対して直交方向93に加速される。加速器は、連続又はイオン注入と同期したパルスモードで動作する。全ての場合において、加速器は、物体平面(object plane)と呼ばれる中間時間集束平面でイオンパッケージが局所的圧縮96を受けるように調整され制御されることがある。
【0071】
図10は、パルス化された軸方向イオン放出を有する第2の蓄積装置81の特定の機構101を示す。特定の第2の蓄積装置81は、短いロッド拡張部103を備えた1組の多重極ロッド102と出射孔104とから成る。蓄積装置81は、更に、DC加速電極105とアパーチャ106とから成る軸方向DC加速器91と通信する。
【0072】
動作において、イオンが、イオン源で形成され、中間イオンガイド71を介して連続イオン源又は低速イオンパケットとして来ることが好ましい。第2の蓄積装置81は、蓄積時間1ミリ秒の間にイオン衝突制動にも十分な比較的低いガス圧、例えば0.1〜1mTorrに保持される。ロッド拡張部103は、ロッド102と同じRF信号が供給されるが、少し低いDC(ロッド102よりも10〜50V低い)に保持される。イオンは、出射孔104上の電位を変化させることによって第2の蓄積装置81に周期的に蓄積されパルス放出される。イオン蓄積段で、アパーチャ104は、逆電位に維持され、それにより出射孔103の近くに局所的なDCウェルが形成され、同時にロッド拡張部のRF電界によって半径方向にイオンが閉じ込められる。DCウェルの鋭さは、イオン雲が約0.5〜1mmのサイズになるように調整される。イオン放出段で、アパーチャ104は、(正イオン用に)強い負の電位に引かれ、イオンが軸に沿って第2の蓄積装置81から取り出される。RF電界がオンのままであることに注意されたい。イオンが軸の近くに閉じ込められるので、そのイオンは、軸方向の放出中にRF電界の影響をほとんど受けない。DC加速電極105は、エネルギー収集装置と、イオンパケット107の同時空間的集束用のレンズとして働くことがある。出射孔106は、MR TOF MSポンピングシステムのガス負荷を減少させるために使用されることがある。我々の推定では、イオン雲が約0.5Vを超える空間電荷電位を生成している間は、イオンパケット107のパラメータは、MR−TOF MSにあまり適していない。エネルギーの広がりが0.2電子ボルト、イオン雲の直径が0.5mm、加速度電位が5kV、抽出電界が500V/mmのとき、イオンビームパラメータは、発散が1度未満、エネルギーの広がりが5%未満、1kDaイオンのターンアラウンドタイムが8ナノ秒未満である。
【0073】
図11は、非蓄積イオンガイドから直交イオン加速を提供する機構111を示す。この機構は、イオントラップ108、非蓄積イオンガイド109、及びDC加速器91から成る。機構111は、様々なタイプのイオントラップとイオンガイドによって実現することができる。図11の特定のイオントラップ108は、DC電極113と出射孔114によって取り囲まれたRF多重極セット112で構成されている。特定の非蓄積イオンガイド109は、電極の1つにスリット117を備えるかRF多重極の電極間に開口部を備えた多重極セット115から成る。多重極115は、必要に応じて、補助DC電極116によって取り囲まれる。イオントラップとイオンガイドの両方の段は、ポンプ85と95によってポンピングされる。
【0074】
動作において、イオンは、イオン源で形成され、中間イオンガイド71を介して連続又は低速イオンパケットとして来る。イオントラップ108は、蓄積時間1ミリ秒の間にイオン衝突制動にも十分な比較的低いガス圧、例えば0.1〜1mTorrに保持される。イオンは、DC電極113と出射孔114の電位を変調することによって周期的に蓄積され低速イオンパケット(1〜10マイクロ秒)としてイオントラップ108からパルス式に放出される。イオンガイド109の多重極115は、軸方向に広がるイオンパケットの半径方向のイオン閉じ込めを継続するためにRF信号が供給される。イオン注入パルスに対する所定の遅延で、第2の抽出パルスが多重極ロッド115に印加され、任意のパルスが補助電極116に印加されてもよい。多重極115の電位は、所定の位相のRF信号(例えば、ゼロボルトで)でゼロにされ、次に(短い10〜300ナノ秒の「スイッチ」遅延後に)所定のパルス電位に切り換えられて、多重極ロッド間又はロッドの1つのロッドのスロット117内のイオンバンチング(ion bunching)とイオン抽出が実現される。次に、イオンが、DC段91で加速され、MR−TOF MS31に入る。イオントラップ108からイオンを放出する第1のパルスとイオンガイド109の第2の抽出パルスとの間の遅延は、直交方向に取り出されるイオンの質量範囲を最大にするように調整される。
【0075】
ガスがロッド112と115の長さ全体に広がった状態で蓄積部103と加速器104を1つのユニットに閉じ込めてもよいが、アパーチャ114と電極113を完全になくし、必要に応じて電極112と115を1組の電極に組み込でもよいことに注意されたい。
【0076】
図12は、更に別の蓄積装置の特定の機構を示し、これは、「イオンガイドと三次元イオントラップとの複合物」と呼ぶことができる。図12を参照すると、特定の蓄積装置121は、2対の電極122と123で構成された四重極イオンガイドと、リング電極127とキャップ電極126と129とを有する3−D Paulトラップとから成る。リング電極127には、大きなサイズのアパーチャ125を有する開口部がある。キャップ電極129は、直交イオン放出のためのアパーチャ130を有する。
【0077】
動作において、連続的な高周波(RF)電界が、イオンガイドと三次元トラップの全体に及ぶ。最も単純な形態において、1対の電極122が、RF電圧が供給されるリング電極127に接続されて1つの極を構成し、1対の電極123が、キャップ電極126と129に接続されて別の極を構成する。上の2つの極の間にRF電圧を対称的に供給すると同じRF電界を達成することができる。好ましい形態において、RF電界の類似の構造が維持される。しかしながら、異なる振幅のRF電圧と別に制御されたDC電位を有する間に対応する電極に同じ周波数と位相の信号を供給することができる。イオンは、対の電極122と123の間のイオンガイドを介して(連続的又はパルスで)供給され、開口部125を介して三次元トラップに入る。
【0078】
RF電位とDC電位の分布は、線形四重極122〜123と四重極トラップ126〜129の間にイオン質量電荷比m/zに反比例する数ボルトの範囲の振幅を有する質量依存軸方向障壁を形成する。一般的なケースにおいて、この障壁は、ガイドと三次元トラップとの間でイオンを共有させる。電極122〜123のDCオフセットを上昇させ、ガス衝突の支援により、イオンの大部分を三次元トラップの中央に集中させることができる。好ましい形態において、前記DCオフセットは、m/z*以上のイオンで障壁が消えるように徐々に大きくされる。m/z*のイオンは、トラップ内で最小振幅の長期振動で障壁を通り過ぎる。DCをゆっくりと大きくすると、トラップ内に全てのイオンをゆっくりと移動させることができる。これと同時に、イオン源から来るイオンを中間蓄積イオンガイド71内に蓄積して、デューティサイクルを改善することができる。三次元トラップ内でイオンが制動された後(1〜5ミリ秒)、RF電界をオフにし、短く最適化された遅延(10〜300ナノ秒)の後で、キャップ電極129のアパーチャ130からイオンパケットを放出するように三次元トラップ電極126、127及び129の少なくともの幾つかに高電圧パルスを供給する。1つの好ましい形態において、RF電圧は固有位相の方形波信号と置き換えられ、イオン放出パルスは、イオン放出段階の間電位分布が一定になるように、固有位相の方形波信号と同期される。
【0079】
図13は、前述の複合トラップ121の細分化した類似物131を示す。1対の四重極ロッド122は、チャネル135と共に極板132と置き換えられている。リング電極127は、円形の穴138を有する極板137と置き換えられている。1対の電極123は、極板132を対称的に取り囲む極板133及び134と置き換えられている。キャップ電極126は、キャップ極板136と置き換えられ、アパーチャ130を有するキャップ電極129は、アパーチャ140を有するキャップ板139と置き換えられている。キャップ極板136と139は、極板133と134に平行に配置されるか又はその拡張部として配置されている。極板は、図13の左側部分に示したサンドイッチ構造で配列されている。同じ電極を図13の右側部分に別々にして示す。
【0080】
動作において、細分化したトラップ131は、軸の近くに同じ電界構造を提供する。これは、チャネル135の軸近くの四重電極二次元電界と、円形穴138の中心近くの三次元四重電極電界である。トラップ電界は、極板に印加されるRF電圧又は方形波信号によって形成される。RF電界は、細分化したイオンガイドと細分化した三次元イオントラップの間でイオン共有を実現する。RF信号が、周期的にRF信号(好ましくは0V)のある一定の位相でオフにされ、所定の遅延(10〜300ナノ秒)後に高電圧パルスが電極に印加されて、ほぼ均質な電界内でイオン放出が提供される。イオンパケットは、アパーチャ140から取り出され、MRTOFのポンピングシステムのガス負荷を減少させる働きをする。RF信号が中央極板135と137だけに印加され、DCランプが極板133と134(又は132を含む)に印加され、高電圧パルスが極板136と140に印加されることが好ましい。この構成により、RF信号、DC信号及び高電圧パルスの分離が可能になる。
【0081】
イオン蓄積装置91の他の実施形態には、同軸アパーチャによって構成された線形イオントラップ(例えば、A.Luca,S.Schlemmer,I.Cermak,D.Gerlich,Rev.Sci.Instrum.,72(2001),2900−2908を参照)、直交放出部を備えた細分化トラップ(US6670606B1と類似)、細分化リングイオントラップ(Q.Ji,M.Davenport,C.Enke,J.Holland,J.American Soc.Mass Spectrom,7,1996,1009−1017)、ワイヤトラップ、RF信号を有する電極によって取り囲まれたメッシュによって形成されたトラップ、螺旋状ワイヤトラップ等がある。
【0082】
図14は、本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の詳細図を示す。本発明の好ましい実施形態141は、多重反射分析装置31とパルスイオン源51とからなる。前述のように、パルスイオン源51は、実質的に接続された連続イオン源61、中間蓄積イオンガイド71、第2の蓄積イオンガイド81、及び加速器とから成る。それぞれの主構成要素は、前述の要素を含む。連続イオン源61の特定の示した例は、スプレープローブ62、サンプリングノズル63、サンプリングスキマー64、及びポンプ65から成るESIイオン源である。中間蓄積イオンガイド71は、補助電極パルス電極73、出射孔74、及びポンプ75によって取り囲まれた1組の四重極RFロッド72から成る。第2の蓄積イオンガイド81は、ガス閉じ込めキャップ82、1組84の補助パルス化電極によって取り囲まれた1組83の四重極RFロッド、出射孔88、 ポンプ85から成る。加速器91は、1組の電極92、MR−TOF MS分析装置と共用のハウジング97、及びポンプ95から成る。MR−TOF分析装置31は、無電界領域14、2個の平面グリッドレスイオンミラー15、インラインイオン検出器34、1組の周期的レンズ17、1組32の入口操縦板、及び1組33の出口操縦板とから成る。
【0083】
動作において、ESIイオン源61は、連続イオンビーム66を生成し、この連続イオンビーム66は、蓄積イオンガイド71に中くらいのガス圧(0.01〜0.1mbar)で蓄積される。中間蓄積イオンガイド71は、低速イオンパケットを、さらに低いガス圧(好ましくは10-4〜10-3mbar)で動作する第2の蓄積イオンガイド81内に周期的に放出する。ガス閉じ込めキャップ82によって、第2のイオンガイド81の上流領域のガス圧を高くすることができ、それによりガイドの出口近くのより小さいガス圧でのイオン制動とイオントラップが改善される。これは、ポンプ95のガス負荷を減少させるのに役立ち、従ってMR−TOF分析装置31と加速器91のチャンバ97内のガス圧を低く維持するのに役立ち、MR−TOFは、通常、飛行回路が拡張されているので、従来のTOF MSよりも低いガス圧(10-7mbar未満)を必要とする。
【0084】
低速イオンパケットは、第1のイオンガイド71に蓄積された全てのイオンの一定部分を含む。ガイドの例として、約1ミリ秒ごとに蓄積イオンの約10%がアパーチャ74を介してサンプリングされる。入るイオンと出るイオンのそのようなバランスによって、10ミリ秒ごとにイオン含有量の回復が可能になる。第1のイオンガイド71に蓄積されたイオンの量は、ビーム内のESIの強度に依存する。典型的なイオン流量3.108/毎秒において、第1のイオンガイド71は約3.106のイオンを含み、著しい空間電荷電界を生成することが分かっている。第2の蓄積装置内にイオンの10%だけがサンプリングされる場合、第2の蓄積装置内のイオンの量は約3.105である。1mm3に蓄積されているそのようなイオン雲は、約30meV電位の空間電荷を生成し、この空間電荷は、熱エネルギー(25meVのガス運動エネルギー)とイオン初期パラメータにある程度の影響を及ぼす。二重蓄積方式には幾つかの長所がある。第1に、第2の蓄積四重極内へのパルス注入によって、低いガス圧で完全なイオン制動が保証される。第2に、第1の四重極内のRF信号の振幅を調整して低質量フィルタとして動作させることができる。溶媒イオンと化学的バックグラウンドイオンのほとんどを除去することによって、空間電荷が更に減少する。第3に、長期イオン運動の選択的励起を使用することによって、空間電荷を作成し検出器を飽和させる最も強いイオン種の選択的除去を達成することができる。更に、イオン注入の持続時間を調整することによって、イオンビームの強度を制御することができる。これは、データ収集のダイナミックレンジの改善と検出器の飽和の回避に役立つ。
【0085】
第1のイオンガイド71は、出射孔74上及び必要に応じて追加電極73上のパルス電位の支援によって生成される極めて緩やかなパルス化軸方向電界によって低速のイオンパケットを放出する。1組73の追加電極の使用によって、パケット内の放出イオンのエネルギーと量の正確な制御が可能になる。放出されるイオンパケットは、パルス化トラップ機構を使用して第2の蓄積イオンガイド81内にほぼ完全にトラップされる。より詳細において、出射孔88の電位によって反発DC障壁が形成され、電極83のRF電界によってイオンが半径方向に閉じ込められる。しかしながら、イオンパケットは、遠端部88から反射され、その時までにイオンが第2のガイド81の入口(74)に戻り、第1のイオンガイド71からのイオン放出の終了後に生じた電極74の反発電位を受ける。イオンガイド83の最初のガス圧が高いのでイオン運動制動が加速される。ガス圧の局所的増大は、ガス閉じ込めキャップ82とアパーチャ74から出るガスジェットによって形成される。
【0086】
トラップされたイオンは、追加電極84の支援によって形成されたDCポテンシャル井戸内に閉じ込められる。そのような電極は、追加電極の電位の有効で対称的な浸透を行うように第2のイオンガイド81のRFロッド83を取り囲む。イオンガイド81の軸上の静電界を注目すると、1組の追加電極84は、半径方向に中くらいの八極子DC電界を生成しながらDC電界の軸方向分布を形成する。長期蓄積中のイオン不安定性を回避するためにそのような八極子DC電界を十分に小さく維持することが重要である。数値例として、1.5kVと周波数3MhzのRF電位が、中心の間の10mmに位置決めされた5mmの四重極ロッドに印加される。それぞれの追加電極は、ロッド用の5mmと7mmの中央孔を有する極板として形成される。そのような極板の電位の約20%は、四重極組立体の中心に浸透する。3つの極板は、互いに3mm離され、出射孔から5mm離されて配置される。中央極板に10V電圧降下を印加することによって、深さ約2VのDCウェルを形成する。100meVのエネルギーを有するイオンは、長さ約1mmで直径が数分の1mmの雲に閉じ込められる。この機構は、イオン安定性に対する影響がほとんどなく、少なくとも10の質量電荷比の範囲内でイオンを蓄積することを可能にする。
【0087】
イオンガイド81内の衝突制動と閉じ込めの後、イオンパケットは、DC加速器92内と次にMR−TOF分析装置31内に軸方向(X方向)に放出される。第2の蓄積装置が空になった後、パルス電位は、次のイオン蓄積サイクルの準備をするためにトラップ状態に戻る。パルス化放出は、RF電位を変化させないまま、組84の追加電極と出射孔88に印加される高電圧電気パルスの支援によって行われる。第2の蓄積四重極81内の低いガス圧は、高電圧パルスを印加している間のガス放電を回避するのに役立つ。イオンが全て小さい体積内に蓄積されるので、そのようなパルスは他のイオンを漏らさず、パルス振幅は、イオンのターンアラウンドタイムを大幅に短縮するのに十分に、かなり高くてもよい。従って、実際に、二重蓄積機構のさらに他の2つの重要な理由は、イオンパケットを小さい雲に圧縮する能力と高電圧加速パルスを印加する能力である。そのようなイオンパケットパラメータは、第1のイオンガイド71から直接高速で放出する場合には達成できないことがある。
【0088】
かなり大きい放出パルスを印加すると、イオンのターンアラウンドタイムが実質的に低下し、イオンガイドをMR−TOF MSのパルスイオン源として直接使用することができる。前述の幾何学例に行われたイオン光学シミュレーションにおいて、追加電極に高電圧パルスを印加することによって、ターンアラウンドタイムを数ナノ秒に短縮できることが分かった。例えば、(3つのうちの)中間の追加電極に5kVのパルスを印加し、出射孔に−1kVのパルスを印加することによって、軸方向の電界が約200V/mmになる。初期エネルギーの広がりが200meVで蓄積イオン雲のサイズが1mmであると仮定すると、1000amuイオンのターンアラウンドタイムはわずか10ナノ秒であり、放出されるイオンパケットのエネルギーの広がりは200eV未満である。DC加速器92内でDC約4kVの後段加速を適用することによって、イオンビームは、5%未満のエネルギーの広がりを有し、十分に集束され、10π*mm*ミリラド以下の空間電荷を有し、これは、本発明のMR−TOF分析装置の広いアクセプタンスと高次飛行時間集束と適合する。
【0089】
本発明者によるイオン光学シミュレーションで、MR−TOF MSの分解能は、主にターンアラウンドタイムによって制限されると考えられる。数値例として、エネルギー4keVと速度3×104m/sに加速された1000amuのイオンは、10ナノ秒のターンアラウンドタイムを有し、同時に50回の反射(一方向にシフトしながら25回の反射と帰りに25回の反射)を有する幅0.25mの分析装置で1ミリ秒の飛行時間を有する。そのような分析装置は、30mの有効飛行経路を有する折り返し経路を提供する。実際に10ナノ秒のターンアラウンドタイムが唯一の制限因子の場合は、分解能はR=50,000に達する。飛行時間のさらなる拡張は、分解能を更に改善すると予想される。さらに長い蓄積は、ターンアラウンドタイムを多少劣化させる。しかしながら、空間電荷電界とターンアラウンドタイムの増大は、飛行時間の増大よりも遅いと予想される。
【0090】
蓄積時間を長くすると、検出器のダイナミックレンジが圧迫される。MR−TOF内の飛行時間が長くなりイオン利用効率が高くなると、イオンは最大1ミリ秒蓄積されてから持続時間10〜20ナノ秒の短いパケットで検出器に到達する。検出器の飽和を防ぎ、従って分析パラメータ(質量精度、イオン分解能、ダイナミックレンジ等)の損失を防ぐために、時間−ディジタル変換器(TDC)と組み合わされたマイクロチャンネル極板検出器(MCP)ではなく、アナログ−ディジタル変換器(ADC)と組み合わされた二次電子増倍管(SEM)を使用することによって検出器のダイナミックレンジを広くすることができる。実施形態の1つとして、複合検出器を使用することができ、その場合、単一のマイクロチャンネル又はマイクロ球極板はシンチレータと光電子増倍管の後にある。また、以下の手段のいずれか又は任意の組み合わせを使用することを提案する。
a)様々な増幅段で電子をサンプリングする2つのコレクタを備えたSEMを使用する。
b)高速操縦装置と組み合わされた二重SEMを備えた機構を使用する。
c)1対の取得チャネルに接続された二重増幅器を使用する。
d)イオンパルスの強度がショット間で変化するように中間又は第2の蓄積トラップ内の2つの異なる蓄積時間を交替する。
【0091】
MR−TOFは、従来のTOF(1〜3ナノ秒)よりも長いイオンパルス(10〜20ナノ秒)を有すると予想されることに注意されたい。帯域幅要件が低いため、前述の手段の実現が容易になる。
【0092】
MR−TOF内のイオン利用効率が高くなるほど検出器の老朽化が早くなる。また、検出器の寿命を長くしそのダイナミックレンジを大きくするために、より短い蓄積時間で質量スペクトルのプレ走査を使用することを提案する。このプレ走査から、極めて強いピークのリストを推定して機器コントローラのメモリに記憶することができる。このリストを使用してパルスイオンセレクタを制御することができる。パルスイオンセレクタは、検出器に組み込まれてもよく、偏向器又はレンズ或いは前述の実施形態のいずれかのMR−TOFのドリフト空間内に組み込まれてもよい。このセレクタは、パケットがセレクタ内を飛行している間に強力なパケットの大部分を偏向させるか散乱させることによって強力なイオンピークに対応する質量電荷比を備えたイオンを抑制するために使用される。また、そのようなピークを実質的に低い利得を有するもう1つの検出器に方向転換することができる。セレクタの好ましい実施形態には、ブラッドベリー=ニールセンイオンゲート、平行極板偏向器、イオン検出器内の制御グリッド(例えば、二次電子の通過を止めるためにパルス化されたダイノード又はマイクロチャネル極板間のグリッド)がある。実際のイオン強度の計算においてイオン強度の抑制が考慮される場合がある。次に、1ショット当たりのイオン数は、任意のイオン蓄積段、MR−TOF又は検出器において抑制されることがある。
【0093】
検出器に圧力をかけ老朽化する他に、1パルス当たりの過剰な量のイオン(2*105以上)は、蓄積装置内に空間電荷を作り出す役割をもつ。様々な戦略には、予備又は二次イオン蓄積装置の段におけるイオンビーム強度又は1パルス当たりのイオン数の制御された抑制がある。そのような制御された抑制には、例えばRFトラップ装置内で長期的運動を刺激し、それらのイオンの選択的損失を引き起こすことによる、対象となる質量範囲の選択、低質量イオンの除去、最も強力なイオン構成要素の質量選択的除去がある。
【0094】
イオントラップ源と組み合わせたMR−TOF MSの前述の方式によって連続イオンビームをイオンパケットに100%変換することができる。更に、イオンパケットの達成可能なパラメータは、新規なMR−TOF MSのイオンの完全な透過を可能にし、ターンアラウンドタイムが主な制限因子である場合は、長さ1mの機器内で50,000の分解能を達成することができる。そのようなパラメータは、既存のo−TOF MSの分解能と感度を超え、また既存のMR−TOF MSのものよりも優れている。
【0095】
多重反射分析装置内と1組の周期的レンズ内の安定したイオン閉じ込めによって、MR−TOFの感度と分解能が改善され、長いイオン分離が可能になる。新規の分析装置のそのような特性は、著者の1人の同時係属出願WO2004008481号に記載され、参照により本明細書に組み込まれた平行MS−MS分析装置を備えたタンデム型質量分析計で極めて有用である。そこで、1組の周期的レンズをTOF−TOFタンデムの第1の多重反射分析装置を導入し、それにより平行MS−MS分析の感度と分解能の両方を改善する。
【0096】
図15を参照すると、タンデム型質量分析計151の好ましい実施形態は、パルスイオン源51、多重反射質量分析計31、フラグメンテーションセル152、及び直交飛行時間型質量分析計161から成る。前述のパルス化イオン源51は、連続イオン源、二重蓄積イオンガイド、及び加速器から成る。第2の蓄積イオンガイドは、この図では、軸方向のイオン放出のためにセットアップされた補助DC電極84を備えたRF線形イオントラップ83として示されている。前述のMR−TOF MS31は、無電界領域14、オフライン検出器34、好ましくは4つ以上の電極を含みかつ高次時間飛行及び空間的集束を提供するように構成され制御された2つの平面グリッドレスミラー15、折り返しイオン経路に沿った安定したイオン閉じ込めのための1組の周期的レンズ17、好ましくは周期的レンズ17に組み込まれエッジイオン反射によって飛行経路の拡張を実現する1対のエッジ偏向器32及び33から成る。
【0097】
フラグメンテーションセル152は、同時係属特許出願に詳細に示されている高速フラグメンテーションセルである。フラグメンテーションセルは、半径方向のイオン閉じ込めのための短い(5〜30mm)RF四重極158、並びに時間依存軸方向電界を形成する補助DC電極159と出射孔160を含むことが好ましい。四重極は、ポート157を介して比較的高いガス圧(0.1〜1Torr)でガスが充填された内側セル156によって取り囲まれている。MR−TOFのガス負荷を小さくするために、セル156のまわりの空間は、ターボポンプ155によってポンピングされる。イオン伝送を強化するために、内側セルの両端に集束レンズ154が設けられている。
【0098】
直交TOF161は、当技術分野で周知の従来装置である。これは、パルス化電極162とインライン検出器164を備えた直交加速段163、ポンプ165、電気的に浮かされた無電解領域166、イオンミラー167、及びTOFイオン検出器168から成る。直交加速は、入るイオンビームに沿って向けられたスリットを有する平らな電極で行われることが好ましい。直交TOFは、約10マイクロ秒時間の高速フラグメント分析を実現するために、イオン経路が短く(0.3〜0.5m)加速電圧が高い(5kV超)点がほとんどの従来の機器と異なる。動作において、パルスイオン源51は、親イオンのバーストを周期的(例えば、10ミリ秒に1回)に生成し、イオンを蓄積し第2の蓄積装置82からイオンを放出することによってイオン源61からの連続イオンフラックスをイオンパルスに変換する。様々なm/z比率を有する親イオンの混合物は、様々な分析種の混合物を表す。イオンは、30mを超える複数の拡張折り返しイオン経路を有する第1の分析装置31内で時間的に分離される。分析装置は、約50〜100eVの少ないイオンエネルギーで動作して分離時間を約10ミリ秒に延長する。本発明のMR−TOFは、低いエネルギーと延長された飛行時間においてイオン分離に極めて適している。分析装置は、イオンエネルギーに対する高次飛行時間集束を提供することによって高い相対的エネルギー広がり(20%以内)を許容する。また、これにより、低いイオンエネルギーでの例外的伝達が可能になる。イオンは、イオンミラーによってX方向に跳ね返されて、Z方向に周期的に集束される。これと同時に、イオンは、1組の周期的レンズ17内で周期的に集束するのでジグソー折り返し軌道に沿って維持され、X方向に周期的に集束される。イオン飛行経路は、エッジ偏向器33内の反射によって拡張される。最初に注入されたイオンは経路35をたどる。エッジ偏向器32内で操縦された後、イオンは軌道36をたどり、ミラー間で複数の跳ね返りを受ける。軌道36は、右から第2のエッジ偏向器33に近づく。エッジ偏向器33は、イオンを操縦して軌道37をたどるようにする。そのような操縦は、Y軸に沿ったイオンドリフトの方向を戻す。軌道37は、再び複数のレンズを通り、左からエッジ偏向器32に近づく。静止エッジ偏向器32は、ビームをフラグメンテーションセル152内に向ける。イオンエッジ反射が一定電圧を使用して行われることに注意されたい。飛行経路は、分析装置の全質量範囲を保ちながら2倍になる。
【0099】
偏向器は、以下の幾つかの目的のためにパルスモードで使用されることがある。
1.質量範囲を犠牲にして飛行経路を更に拡張する。偏向器32を2倍の偏向電圧にパルス調整することによって、軌道が取り囲まれる。軌道37に沿って入ってきたイオンは、軌道36内に戻され、偏向器32が小さい偏向に戻され、偏向器32がオフにされている場合にイオンが軌道39又は軌道38に沿って解放されるまで複数のエッジ偏向を受ける。
2.単一エッジ偏向後にイオンをオフライン検出器34に戻す。偏向器32は、軌道35の最も重いイオンが偏向器を通ってMR−TOFに入った後でかつ軌道37の最も軽いイオンが偏向器32に近づく前にオフにされる。
3.ビームをオフライン検出器34内に向けることによって分析装置をバイパスする。
4.低質量イオンや極めて強力なイオンなどの望ましくない種の粗い質量分離又は抑制を行う。
【0100】
親イオンは、イオン分解のために十分に高い運動エネルギー(約50〜100eV)でフラグメンテーションセル152に導入される。同時係属発明に記載されているように、フラグメンテーションセルは、好ましくは0.1Torrを超える高いガス圧でガスが充填され、セルは短く維持される(約1cm)。セル内のガス圧が高くなると(通常より0.005〜0.01Torr高く)、静電レンズ又はRF集束装置のイオン集束の追加手段による差動ポンピングの追加のエンベロープが必要になる。セル内のイオンの移動は、軸方向のDC電界又は移動波状軸方向電界によって加速される。その結果、イオンは、10マイクロ秒未満だけイオンパケットを広げながら約20マイクロ秒でセルを通過する。同じ電界は、イオンの周期的蓄積とパルス放出を可能にするか、少なくともイオン速度の実質的な同期変調を可能にする。
【0101】
次に、フラグメントイオンは、質量分析のために、セルから第2のTOF分析装置161内に放出される。第2の分析装置の効率を高めるために、イオンは、フラグメンテーションセル152の出口で約10マイクロ秒ごとに周期的に集束され、それらのパルスは、o−TOF161内の直交加速163のパルスと同期される。第2の分析装置161は、短い飛行時間(10〜30マイクロ秒)を有するように調整され、この短い飛行経路は、中くらいの飛行経路(1m未満)と高いイオンエネルギー(5kV以上)で達成されると予想される。2つの分析装置の全く異なる時間スケール(少なくとも2桁)によって全ての親イオンの並行MS−MS分析が可能である。様々な親イオン種のフラグメントが様々な時間に形成され、それらを混ぜることなく個別のフラグメント質量スペクトルを記録するために、いわゆる時間入れ子式データ収集システムが使用される。
【0102】
全般に、フラグメンテーションセルが、当該技術又は本発明に示されている任意のRF蓄積装置を含むことができることに注意されたい。セルの蓄積及び周期的パルス放出を使用することによって、約10マイクロ秒の短い分離時間を有する限り、任意の他のタイプのTOF MSも同じように利用することができる。例えば、特に加速電圧を高め(例えば5kV)、シフトイオン反射を使用して飛行経路を短く調整する場合は、第2のTOF分析装置として別のMR−TOF MSを使用するこができる。
【0103】
示したMS−MS機器は、特にオンライン分離技術との組み合わせで有用なMS−MS分析(最大で数百MS−MSスペクトル/毎秒)の極めて高いスループットを有することが予想される。そのようなタンデム型機器は、薬学研究における組み合わせライブラリやプロテオーム研究におけるペプチド混合物等の極めて複雑な混合物の分析に利用されると予想される。この機器は、両方の質量分析段の限定された質量解像力(分解能)を有する。TOF2データシステムと時間分解能が1ナノ秒でTOF1の分離時間が10ミリ秒であると仮定すると、2つの質量解像力の積R1*R2は2.5*106未満であり、例えば、さらに、並行MS−MS分析の能力を考慮するR1=300〜500とR2=3000〜5000の強力な分析的組み合わせを行う。親イオンの同位体のグループを分離するにはR1>300で十分であり、適度な質量イオンの電荷状態を決定するにはR2>3000で十分である(m/z<2000a.m.u(原子質量単位))。
【0104】
両方の段の分解能は、TOF1により大きい分離時間を使用することによって改善することができる。TOF1にイオンビームを安定的に維持すると、TOF1の損失なしにより長い分離が可能になる。FTMS内で10〜11Torr以上の真空が達成されており、飛行時間を数分に拡張することができる。しかしながら、10ミリ秒を大きく下回るTOF1分離時間のさらなる拡張の可能性は、パルスイオントラップ内の空間電荷効果によってある程度制限される。空間電荷制限と有限の蓄積時間によって、両方の段で分解能を高めることはできない。例えば、R1=100,000、R2=100,000及び積R1*R2=1010の組み合わせは40秒の蓄積時間を必要とし、これは、そのような期間にESIイオン源によって生成される約1010のイオンを蓄積するために必要である。直径1mmのイオン雲は、トラップできない約10kVの空間電荷電位を有することになる。パルス化トラップ内へのイオン注入時間を制限し制御するか、前の質量分離を使用するか、或いは多数のイオン種から選択的にろ過することにより、トラップ内のイオン数を106未満に制限することによって折り合いをつける多数の方法がある。そのようなイオン作成段は、中間イオンガイド71内又は第2の蓄積装置81内で行うことができる。
【0105】
より高い分解能の両方のMS段は、ビーム全体の減衰(注入時間の制限による)、所望の種の分離、又はたくさんの種のろ過によるイオン損失を避けられないので、並行分析には適合しないと思われる。しかしながら、両方の段における極めて高い分解能を使用して低分解能の迅速なスクリーニングを後のデータマイニングと組み合わせることはより有望と思われる。第1のステップで、対象とする親イオンの質量を決定することができ、第2の分析ステップは、それらのイオン種の高精度で確実な分析に使用される。
【0106】
図16は、高分解能タンデム型飛行時間質量分析計171の好ましい実施形態を示す。タンデム171は、第1のMR−TOFにおいて時限イオン選択を使用しまたフラグメント分析のために第2の多重反射分析装置31Bを使用すること以外、前述のタンデムTOF−TOF151と類似している。第2のMR−TOF分析装置31Bは、第1のMR−TOFとある程度類似している。これは、無電界領域14B、2つの平面グリッドレスミラー15B、1組の周期的レンズ17B、検出器34B、及び1対のエッジ偏向器32Bと33Bから成る。また、第2の分析装置31Bは、飛行経路調整用に、第2の周期的レンズセット17Bに組み込まれた追加のレンズ偏向器173を含む。
【0107】
タンデムMS171の他の要素は、前述の要素と類似している。パルスイオン源51は、連続イオン源、二重蓄積イオンガイド、及び加速器から成る。前述の第1のMR−TOF MS31Aは、無電界領域14A、2つの平面グリッドレスミラー15A、1組の周期的レンズ17A、1対のエッジ偏向器32Aと33A、オフライン検出器34A、及び時限イオンセレクタ172(第2のMR−TOF 31Bには使用されていない)から成る。前述の高速フラグメンテーションセル152は、ポート157を介してガスが比較的高いガス圧(0.1〜1Torr)で充填された短い(5〜30mm)RF四重極158を含む。この四重極は、両端に集束レンズ154を有する状態で内側セル156によって取り囲まれている。セルは、例えば、軸方向DC電界を変調することによってセル内を通過するイオンを減速し加速する手段159と160を有することが好ましい。
【0108】
動作において、イオンは、パルスイオン源51に蓄積され、飛行時間分離のために第1のMR−TOF分析装置31A内に放出される。分離されたイオン又はそのようなイオンの一部は、時限イオンゲート172によってフラグメンテーションセル152に入れられ、そこでイオンはフラグメント化される。フラグメントイオンは、周期的に、質量分析のためにセル152から第2のMR−TOF分析装置31Bにパルス式に送られる。以下では、2つのタンデム動作モード、即ち並行MS−MS分析の高スループットモードと、順次MS−MS分析の高分解能モードについて説明する。
【0109】
最初の高スループットモードにおいて、第1の分析装置は、約−50Vに調整された浮遊可能な無電解領域14Aの電位によって制御された低いイオンエネルギーで動作する。分離には約10ミリ秒時間かかり、全ての親イオンがフラグメンテーションセル152に入る。時限イオンゲート172は、親イオンを入れている間オフのままであるが、溶媒イオンと化学バックグラウンドイオンの大部分を含む低質量範囲の抑制に使用されることがある。第2の分析装置は、約−5kVに保持される無電解領域14Bの電位によって制御される高イオンエネルギーに調整され、即ちイオン速度は、第1の分析装置よりも1桁大きい。第2の分析装置内の飛行経路は、イオンドリフト方向を戻す追加の偏向器173を使用することによって実質的に短縮される。イオンは、イオンミラー15Bで2回だけ反射され、検出器34Bに導かれる。フラグメントイオンの代表的な飛行経路は、約0.5mになり、即ち、第1のMR−TOF31Aよりもほぼ2桁短くなる。時間スケールは、およそ3桁異なり、これにより、時間入れ子データ収集による複数の親イオンの前述の並行MS−MS分析が可能になる。この分析によって、一連の所望のフラグメントを有する親イオンの迅速な割り当てが可能になる(例えば、いわゆるイミニウムイオン(immonium ion)の存在によって、アミノ酸で構成されたペプチドが決定される)。親イオン質量に関する情報は、より高い分解能とより高い特定性を有する第2の分析モードにおける詳細なMS−MS分析の促進に使用することができる。
【0110】
第2の高分解能測定モードにおいて、両方のMR−TOF分析装置は、高いエネルギーと分解能で動作する。エネルギーは、無電解領域14Aと14Bの両方に負の高電位(例えば、−5kV)を印加することによって調整される。代表的な30mの飛行経路において、飛行時間は約1ミリ秒であると思われる。その結果、パルスイオン源の周波数を1kHzに調整する必要がある。第2の蓄積装置の抽出パルスは、高分解能MR−TOF MS内で使用されているものと類似のより強い電界を提供するように調整される。より高い電圧(例えば−5kV)パルスが射出孔92に印加され、対応する正の高電圧パルス(+5kV)が補助電極84に印加される。より強い電界に比例して、サイズ0.5mmのイオン雲の場合、ターンアラウンドタイム(5〜10ナノ秒)が減少し、イオンエネルギーの広がり(100〜200eV)が拡大すると推定される。第1のMR−TOF分析装置の予想分解能は、約50,000〜100,000であると予想される。
【0111】
そのような分解能で単一のイオン種を選択するためには、ブラッドベリー=ニールセンゲート、即ち、1つの平面内に配置された交互の2列のワイヤで構成された装置で達成可能な0.3mmの空間分解能の時限イオンセレクタを必要とする。2つの列の間に短い10〜30ナノ秒のパルスを印加することによって、短いパルスのイオンがゲート内に入り、同時に、他のイオン種は操縦され、次に止まったときに失われる。例として、第1のレンズの近くの中間飛行時間集束平面内に時限イオンゲートが配置される。ワイヤに印加される1000Vのパルスによって、10kVイオンが3度(1/20)ずれ、これは、CIDセルの1mmの入口アパーチャ153を外すのに十分である。親イオン選択の分解能は、更に、第1のMR−TOF内の飛行経路と飛行時間の同時拡張により複数のエッジ反射を使用することによって改善することができる。いずれにしてもゲートが1m/zの親イオンを入れるので、関連した質量範囲の縮小は重要ではなくなる。また、この場合、ターンアラウンドタイムが長くなることを犠牲にして親イオンのエネルギーの広がりを50eV以下に小さくすることが望ましく、この長いターンアラウンドタイムは、第1の分析装置内で飛行経路を長くし、加速エネルギーを低くし、飛行時間を長くすることによって補うことができる。
【0112】
質量選択された親イオンは、約50〜100eVまで減速され、フラグメンテーションセル152の入口アパーチャに集中する。そのようなエネルギーの注入によって、選択された親イオンのフラグメント化が起こる。フラグメントは、RFトラップ157内のRF閉じ込めと、補助電極と出射孔のDC電位によって形成される軸方向DCウェルを配列することによってフラグメンテーションセル152内に蓄積される。これらの電極に電気パルスを印加することによって、フラグメントイオンは、質量分析のために第2のMR−TOF内にパルス式に放出される。イオンパルスと第2の分析装置のパラメータは、第1のMR−TOFのものと類似している。CIDセルは、前述のパルスイオン源の様々な要素と機構を含むことができる。従って、フラグメントの質量分析は、50,000〜100,000の高い解像力(分解能)が期待される。説明したタンデムは、分析時間の完全な使用を可能にする。第2のMR−TOF31Bにおいてフラグメントセル152が空になりフラグメントイオンが質量分離されている間、第1の分析装置31Aは、親イオンの選択とフラグメンテーションセル内への注入を同時に行うために使用されてもよい。
【0113】
図17は、パルスイオン源51、単一のMR−TOF分析装置31、及び任意選択のフラグメンテーションセル182から成る効率的なタンデム型機器181を示す。パルスイオン源51の蓄積装置73又は83を含むタンデム181のガス充填蓄積装置或いは任意選択のフラグメンテーションセル182を使用して、イオンをフラグメント化し、それを後の質量分析又は分離のために同じMR−TOFに逆注入することができる。その結果、機器は、単にイオン選択、フラグメント化及び逆注入のステップを繰り返すだけで高分解能の逐次MS−MS分析又は複数段MSn逐次分析が可能になる。
【0114】
また、MR−TOFを複数回使用するには、MR−TOF内の偏向形態をわずかに調整しなければならない。セル182をイオンフラグメント化のために使用するタンデム181の例を検討する。親イオン分離段では、偏向器32と33は両方とも一定の操縦電位のままである。イオンは、一連の軌道35、36、37及び39をたどる。時限イオンゲート172は、対象イオンを軌道39に沿ってセルに入れる。イオンは、約50〜100eVまで減速され、フラグメント化を受ける。フラグメントは、電極187上のRF電界と、入口アパーチャ184、補助電極188及び後側電極189によって構成されたDCトラップ電位によって蓄積される。十分な所定の遅延後に、イオンは衝突制動され、セルからMR−TOFの方にパルス式に放出される。これらのイオンは、戻り軌道39と次に軌道37をたどる。しかしながら、セルからイオン放出する頃に、偏向器33は、異なる偏向モードに切り替えられる。イオンは、半分の角度で操縦され、ミラーから軌道190に沿って跳ね返り、その動きを軌道37と次に軌道39に戻す。次に、偏向器32がオフにされて全てのイオンがオフライン検出器34に送られるか、時限イオンセレクタ172が、対象となる娘イオンを選択しそれをMSn分析のさらに他の段階のためにフラグメンテーションセル内に送るために使用される。同様に、蓄積イオンガイド73又は83がイオンフラグメント化に使用される場合、蓄積装置内へのイオンの戻りは、イオンを半分の角度で偏向する偏向器33によって調整されることがある。ミラーで垂直に反射された後、イオンは、同じ軌道36に戻る。これにより、所望のサイクル数の間、イオンがフラグメンテーションセルとMR−TOF分析装置の間を通ることができる。この場合も、複数エッジ偏向を使用して単一試料の選択を強化することができる。また、二重蓄積機構は、事前に蓄積したイオンのパルス放出と複数段MS−MS分析のイオンフラグメント化に第2の区分室を使用しながら、入ってくるイオンを第1の区分室に連続的に蓄積することによってイオンデューティサイクルの節約を可能にすることができる。
【0115】
示した好ましい実施形態は、説明の例であり、限定されることを意図していない。更に、本発明の趣旨と原理の範囲内にある多数の変更を行うことができることが当業者には明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】WollnikらによるGB特許第2080021号(英国特許の図3と図4)の従来技術の多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を示す図である。
【図2】NazarenkoらによるSU1725289の試作品の「折り返し経路」MR−TOF MSを示す図である。
【図3】M.ParkによるUS6107625の従来技術の「同軸反射」MR−TOF MSを示す図である。
【図4】本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態を新規の周期的レンズの詳細を示す図である。
【図5】本発明の好ましい実施形態のイオンミラーのMR TOF分析装置の幾何学的配置及び電位を示す図である。
【図6】シフト方向のエッジイオン反射によるイオン経路拡張の概略と原理を示す図である。
【図7】中間イオン蓄積装置を使用して連続イオン源から本発明のMR−TOF MS内にイオンをサンプリングする概略を示す図である。
【図7A】MR−TOF MS内のパルスイオン源のブロック図である。
【図7B】連続イオン源の例としてエレクトロスプレーイオン源の詳細を示す図である。
【図7C】準連続イオン源の例として衝突制動を有するMALDIイオン源の詳細を示す図である。
【図7D】中間蓄積イオンガイドの詳細を示す図である。
【図8】第2のイオン蓄積装置とイオン加速器の概略を示す図である。
【図9】軸方向放出と任意の加速器を有する二重イオン蓄積のブロック図である。
【図10】パルス軸方向イオン放出を実現する第2の蓄積装置の特定の機構を示す図である。
【図11】非蓄積イオンガイドからの直交加速を有する機構を示す図である。
【図12】四重極イオンガイドと三次元四重極イオントラップの複合体を構成する第2の蓄積装置の特定の機構を示す図である。
【図13】複合トラップの細分化した類似物の図である。
【図14】本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の詳細を示す図である。
【図15】並行MS−MS分析を備え親イオンの低速分離の第1のMS段としてMR−TOF MSを含むタンデム型質量分析計の好ましい実施形態の図である。
【図16】MS−MS分析の高スループットモードと高分解能測定モードの汎用切り換えを提供する両方のMS段にMR−TOF MSを備えたタンデム型質量分析計の好ましい実施形態の図である。
【図17】単一MR−TOF MS分析装置とイオンの流れを戻すフラグメンテーションセルを使用する多段MSn分析用の質量分析計の好ましい実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0117】
11 MR−TOF MS
12 パルスイオン源
13 内蔵加速器
14 無電界空間
15 グリッドレスイオンミラー
16 イオンレシーバ
17 複合レンズ
19 折り返しイオン経路
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に質量分光分析の分野に関し、詳細には多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は、様々な化合物や混合物の同定と定量分析に使用される周知の分析化学ツールである。そのような分析の感度と分解能は、実際に使用するために重要な点である。TOF MSの分解能が飛行経路の長さに比例することはよく知られてきた。しかしながら、機器を妥当なサイズに維持しながら飛行経路を長くすることは難しいことが分かる。提案された解決策が、多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)である。MR−TOF MSは、飛行時間集束特性を有する静電イオンミラーの導入後に使用可能になった。米国特許第4,072,862号、ソビエト特許第SU198034号、及びSov.J.Tech.Phys.41(1971)1498は、飛行時間機器内のイオンエネルギーの集束を改善するイオンミラーを開示している。このイオンミラーを使用すると、イオン飛行経路が1回自動的に折り返される。
【特許文献1】米国特許第4,072,862号公報
【0003】
H.Wollnikは、多重反射MR−TOF MSを実現するためのイオンミラーの可能性を現実化した。英国特許第GB2080021号は、複数のグリッドレスミラー(gridless mirror)間のイオン経路を折り返すことによって機器の全長を短くする方法を提案している。そのような2列のミラーは、同一平面内に位置合わせされてもよく2つの向かい合った平行な円上に配置されてもよい(図1)。空間的イオン集束機能を有するグリッドレスイオンミラーの導入は、反射回数に関係なくイオン損失を減少させイオンビームを閉じ込めておくように意図されている(米国特許第5017780に詳述されている)。GB2080021に開示されたグリッドレスミラーは、イオン飛行時間をイオンエネルギーから切り離すためのものであった。2種類のMR−TOF MSが開示されている。それは、(a)N個の順次反射するTOF MSを組み合わせることに相当する「折り返し経路(folded path)」方式と、(b)パルス化したイオンの進入と放出を使用することによって軸方向に位置合わせされた2個のイオンミラー間の複数回のイオン反射を使用する「同軸反射(coaxial reflecting)」方式である。また、「同軸反射」方式は、H.WollnikらによってMass Spec.Rev.,1993,12,p.109に開示され、Int.J.Mass Spectrom.Ion Proc.227(2003)217で発表された研究で実施された。中型(30cm)のTOF MSで50回の折り返し後に50,000の分解能が達成された。実際には、グリッドレスイオンミラーと空間的集束イオンミラーは、対象とするイオンを保持したが(損失は2分の1未満であった)、許容質量範囲はサイクル数と比例して縮小する。
【0004】
もう1つのタイプの周期的MR−TOF MSは、H.WollnikのNucl.Instr.Meth.,A258(1987)289とSakuraiらのNucl.Instr.Meth.,A427(1999)182による論文に記載された。イオンは、静電偏向器と磁気偏向器を使用して閉軌道内に維持される。この方式は、同軸反射方式と同じように、質量範囲を狭める複数の繰り返しサイクルを使用していた。
【0005】
二次元グリッドレスミラーを使用する折り返し経路式MR−TOF MSが、ソビエト特許SU1725289号に開示された。バーからなる2つの同一ミラーで構成されたMR−TOF MSが、ミラー間の中間平面に対してまた折り返しイオン経路の平面に対して平行かつ対称的であった(図2)。ミラーの幾何学的配置と電位は、折り返しイオン経路の平面を横切るイオンビームを空間的に集束させ、イオンエネルギーに関する二次飛行時間集束を提供するように調整されている。イオンは、いわゆるシフト方向(ここではX軸)に検出器に向かってゆっくりとドリフトしながら平面ミラー間で多重反射される。繰り返し回数と分解能は、イオン注入角度を変化させることによって調整された。
【0006】
空間的及び飛行時間集束収束特性を有する平面グリッドレスミラーを備えた「折り返し経路式」MR−TOF MSのNazarenkoの試作品は、シフト方向にイオン集束を行わず、従って反射サイクルが制限されていた。さらに、試作品に使用されているイオンミラーは、折り返しイオン経路の平面を横切る空間イオンの広がりに対して飛行時間集束を行わず、従って、実際には発散し即ち幅が広いビームの使用によって飛行時間分解能が低下し飛行経路の拡張が無意味になる。換言すると、この方式は、満足できる分析装置を提供することができず、従って現実のイオン源で動作する能力を提供できなかった。結局、Nazarenkoの試作品には、イオン源のタイプとMR−TOF MSと様々なイオン源を結合する効率的な方法とを考慮していない。
【0007】
イオンビームのイオン源のタイプとその空間的及び時間的特性、並びに幾何学的制約は、MR−TOF MSの設計における重要な要素である。単反射TOF MSとの適合性は、イオン源がMR−TOF MSに適合することを必ずしも意味しない。例えば、二次イオンSIMSやマトリクス支援脱離/イオン化MALDI等のパルス化イオン源は、TOF MSと極めて適合性が高く、そのような機器の特徴は、高い分解能と空間的イオン発散によって生じる中程度のイオン損失である。MR−TOF MSへの切り換えは新しい問題を引き起こす。一方、そのようなイオン源のパルス化した性質は、パルスをイオン化する周波数が調整可能なのでMR−TOF MS内の飛行時間を拡張するのに適している。他方、飛行時間拡張の制限因子はMALDIイオンの不安定性である。
【0008】
エレクトロスプレー(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧光イオン化(APPI)、電子衝撃(EI)、化学物質のイオン化(CI)、光イオン化(CI)、又は誘導結合プラズマ(ICP)等の気体イオン源は、安定したイオンを生成することで知られているが、これらは、米国特許第6,331,702号と第6,504,150号に記載された最近紹介されたガス充填MALDIイオン源の場合のように、本質的に連続したイオンビーム又は準連続イオンビームを生成する。連続イオンビームをイオンのパルス化したパケットに効率的に変換する直交イオン加速方式(o−TOF MS)(US5070240号と第WO9103071号、及びソビエト特許SU1681340を参照)の紹介後に、TOF MSは、連続イオン源と首尾良く結合され、後に準連続イオン源と首尾良く結合された。衝突冷却イオンガイド(US4963736)と組み合わされた気体イオン源は、TOF MSの軸に沿った低速拡散を有する冷イオンビームを生成し、これは、10,000を超える高いTOF分解能を達成するのに役立つ。しかしながら、MR−TOF MSを使用すると、直交加速デューティサイクルが低下し、従って感度が低下する。
【0009】
米国特許第6,107,625号は、o−TOF MSの分解能のさらなる向上が、いわゆる「ターンアラウンドタイム(turn-around time)」によって主に制限され、飛行経路の拡張によって分解能が改善されることを示唆している。この’625特許は、図3に示したような、イオンミラーと複数の偏向器を組み合わせた直交加速器によって、外部ESIイオン源を「同軸反射」MR−TOF MSに結合することを示唆している。連続イオンビームのサンプリングを改善するために、インタフェースは、まばらなイオンパルス間でイオンを蓄積する線形イオントラップを使用する。Melvin Parkらは、ASMS 2001,www.asms.org,MR−TOF MSでの原稿の「Analytical Figure of Merits of a Multi−Pass Time−of−Flight Mass Spectrometer」と題する論文の中で、長さ約1メートルの機器内で6回の反射サイクルを使用して60,000の分解能を照明した。しかしながら、グリッドを有するイオンミラーの使用によって大きなイオン散乱とイオン損失が生じた。同軸反射MR−TOF MSは、分解能を改善したが、それに比例して質量範囲を狭めた。
【0010】
また、直交注入を備えたESIは、折り返しイオン経路によってMR−TOF MSに結合された(EP1237044 A2と、J.HoyesらによるASMS2000の原稿「A high resolution Orthogonal TOF with selectable drift length」www.asms.orgを参照)。この発明は、直交イオン源と検出器の間に更に別の短い反射板を導入することによって、既存の市販のo−TOFを二重反射機器に変換することができる。連続イオンビームのエネルギーは、イオン反射回数を制御する。「折り返し」MR−TOF MSは、十分な質量範囲を保ち、分解能をかなり改善するが、直交加速器内へのイオンサンプリングのデューティサイクルと幾何学的効率を低下させ、さらに両方のイオンミラーのメッシュを通過するたびにイオン損失と散乱を引き起こす。
【0011】
上の2つの例から、従来の直交加速が、MR−TOF MSにおいて、特に拡張された飛行時間で非効率的であることが分かる。連続イオンビームからのパルス化したイオンサンプリングを改善する試みには、B.M.Chienらによる論文「The design and performance of an ion trap storage−reflectron time−of−flight mass spectrometer」International Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes 131(1994)149−119の三次元イオントラップ(IT)、US5763878、US5847386(図29〜図31)、US6111250(図29〜図31)、US6545268、及びWO9930350の線形イオントラップ(LIT)、又はデュアルLIT(GB2378312)、及びA.Lucaらによる論文「On the combination of a linear field free trap with a time−of−flight mass spectrometer」Rev.Sci.Instrum.V.72,#7(2001),p2900−2908のリングイオントラップのような、主に高周波(RF)トラップ内のイオン蓄積を使用する多数の試みがある。これらの解決策は全て、放出されたイオンパケットの時間的かつ/又は空間的な広がりを損なうので、単反射TOF MSに好ましい方法は相変わらず直交注入である。US6020586の中間的方式では、イオントラップ段階と直交加速の両方を組み合わせた幾つかのトラップ機能が使用されている。低速のイオンパケットが、蓄積イオンガイドから同期直交加速器内に周期的に放出される。この方式は、従来のo−TOF MSよりも感度を高めるが分解能と質量範囲を多少犠牲にする。この機構は、M.Parkによる既述の参考文献では、同軸MR−TOF MSに結合されていた。しかしながら、そのような機器は十分な質量範囲を提供しない。更に、連続イオンビームのTOF MS及び特に多重反射TOF MSに十分に適したイオンパルスへの変換を改善することが望ましい。
【0012】
多重反射TOFは、また、著者の一人の同時係属出願(WO2004008481)でタンデム型質量分析計に使用されている。遅いMR−TOF MSが、ミリ秒時間スケールで親イオンの低速分離に使用され、短い直交TOFが、マイクロ秒時間スケールでフラグメントの高速質量分析に使用される。MR−TOF MS内の飛行時間分離を損なうことなくイオンをフラグメント化するために中間に高速衝突セルが使用される。この方式は、新規な品質を提供し、並行又は「多次元」MS−MS分析を可能にし、複数の親イオンのフラグメントスペクトルが混合なしに同時に取得される。この方式は、親イオンがシフト方向に広がるという欠点を有し、この欠点により、分析計のアクセプタンスが厳しく制限され、イオン源から来るイオンビームの発散を小さくしなければならない。MR−TOF MSのアクセプタンスをさらに高めることが望ましい。
【0013】
即ち、従来技術のMR−TOF MSは、実質的に拡張された飛行経路に沿ってイオンビームを一定に保持する空間的及び飛行時間集束機能を備えていない。ほとんどの参考文献は、イオン源との適合性及びタンデム型質量分析計における有用性を検討することなくMR−TOF分析装置について説明している。実際には、既知のMR−TOF分析装置の制限されたアクセプタンスは、そのような結合を厳しく制限し、実質的に延長された飛行経路においてイオン損失を引き起こすことが予想される。MR−TOF MSを連続イオン源に実際に結合するために幾つかの言及があり、分解能の大幅な改善が実証されている。しかしながら、分解能は、感度の低下を犠牲にして得られ、同軸反射の場合には、質量範囲の縮小を犠牲にして得られる。従って、本質的に連続又は準連続なイオン源で動作し、また1組の主な分析特性、即ち感度、質量範囲及び分解能がo−TOFよりも優れたTOF質量分析計が必要である。また、TOF MSをタンデム型質量分析計に結合する優れた機構が必要である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、
(A)ドリフト空間内に、シフト方向の集束を提供する周期的な1組のレンズを使用し、
(B)エネルギーに関する既知の空間イオン集束と飛行時間集束だけでなく、空間的広がりに対する新規な飛行時間集束も可能にする、少なくとも4個の電極を備えた平面ミラーの幾何学的配置を使用することによって、二次元平面ミラーを備えたMR−TOF MSのアクセプタンスと分解能を 実質的に高めることができることが分かった。
【0015】
発明者は、更に、本発明のMR−TOF MSの改善されたアクセプタンスによって、MR−TOF MSをイオン蓄積装置を介して連続イオン源に効率的に結合できることが分かった。 連続的に到達するイオンが、イオンガイド、IT、LIT、リングイオントラップ等の蓄積装置に蓄積されその蓄積装置からパルスで放出され、従って、o−TOF MSよりもまばらなMR−TOF MSの密度の低いパルス間のイオンの無駄がなくなる。
【0016】
本発明のMR−TOF MSは、以下のような理由で、従来技術よりも優れたイオン光学的特徴の有利な組み合わせを提供する。
・「折り返し」機構の特性である全質量範囲を有する。
・ミラーがグリッドレスなのでメッシュ上のイオン損失がない。
・低い周波数のパルスイオン放出でイオントラップ内にイオンを蓄積することによって連続イオンビームを効率的に消費する。
・分析装置がシフト方向の周期的レンズによる空間的集束と折り返しイオン経路の平面を横切るミラーによる空間的集束とを有するので、そのようなトラップによって生成される幅広いイオンビームを受け入れる。
・エネルギーと新規のイオンパケットの空間的広がりに対する高次飛行時間集束を提供することによって分解能を改善する。
・適切に閉じ込められたイオンビームの多重反射における折り返し経路を使用することによって、飛行時間の拡張によるイオンパケットの長いターンアラウンドタイムを許容し、その結果、様々なイオントラップからのイオン蓄積とパルス化を有する方式を許容する。
・飛行時間が長くなると別の利点が生じ、即ち検出器とデータ収集システムがより低速で安価になり、この両方は現在、TOF質量分析計の極めてコストの高い部品である。
【0017】
本発明は、MR−TOF MS機能に全くの新規性を導入し、即ち、好ましくは整数の折り返しごとにイオンシフトに対応する周期でドリフト空間内に最適に位置決めされた複数のレンズを導入する。この周期的なレンズは、ビームの集束を可能にし、従って拡張された折り返しイオン経路に沿ったイオンの安定閉じ込めを保証する。1組のレンズはMR−TOFに新規な品質をもたらし、極めて多数回の反射の後でもビームの空間的及び角度的な広がりが制限されたままである(実際には、シフト方向の反射を使用する場合にも達成される)。更に、イオン光学シミュレーションを使用して、発明者は、新規なMR−TOF内のイオンの動きが、幾何学的配置の誤差、ポンプとゲージの漂遊電界及び磁界、並びにイオンビーム自体の空間電荷のような様々な外部歪みに効率的に耐えることを発見した。MR−TOFは、ポテンシャル溝内のトラップと類似のそのような歪みにもかかわらず、イオンを主軌道の近くに戻す。周期的レンズの機能によって、イオンビームの確実な完全伝達と共に、拡張飛行経路を有するMR−TOF MSのコンパクトなパッケージングが可能になる。
【0018】
レンズの同調によって、焦点距離Fが半反射又は全イオン折り返しの4分の1(P/4)の整数倍(F=N*P/4)と一致するときに達成されるシフト方向の周期的で繰り返し可能な集束が可能になる。最も密な集束はF=P/4のときに生じる。そのような密な集束は、折り返し1回当たりのシフトを最小にして機器をコンパクトにするのに有利である。そのような密な集束レンズの条件下でも、折り返し1回当たりのイオン経路が比較的長いので、レンズは弱いままであり、従って、折り返しイオン経路の平面における空間的広がりに矯正不可能な飛行時間収差はさずかしか導入されないことが重要である。実質的にイオン経路の平面を横切って延長された平面レンズは、異なる方向に集束するので、イオンミラーと周期的レンズによる空間的集束の同調が完全に独立であるという利点を有する。更にまた、そのようなレンズは、側方の極板の非対称電圧を使用することによって操縦を実現することができる。
【0019】
本発明は、更に、シフト方向の反射を使用することによって飛行経路長を更に長くすることができる。そのような反射は、例えばミラー間のドリフト空間内でシフト経路の側に配置された偏向電極によって達成することができる。偏向電極は、イオンゲーティングを可能にするように常時に又はパルスモードで動作することができる。1回の反射は質量範囲に影響しないが、シフト方向の多重反射により飛行経路を更に延長するには質量範囲が犠牲になる。また、偏向電極を使用して分析装置をバイパスしてイオンをレシーバ内に向けることができる。
【0020】
本発明のミラーの新規な集束特性は、ミラー間の固有距離の選択と電極電位の調整によって提供される。そのような調整の結果として、イオンエネルギーの三次飛行時間集束と、折り返しイオン経路の平面を横切る空間イオンの広がりに対する二次飛行時間集束と、前記平面を横切る空間的集束が得られる。発明者は、高次飛行時間収差の除去が、組立欠陥並びにドリフト長と電極電位のある程度のばらつきに対して安定していることが分かった。従って、1個の電極電位だけを調整し、実際には1つのパラメータ即ちイオンエネルギーに関するイオン飛行時間の線形従属性を変化させながら、新規のMR−TOF MSの同調によって高い解像力を得ることができる。
【0021】
前述の集束特性は、例えば実質的にシフト方向に延長された厚い正方形フレームからなる平面4電極ミラーで実現される。また、スロット付きの薄い極板、バー、シリンダ又は湾曲電極を使用することによって、所望の電界構造を作成することができる。プリント回路基板を使用して二次元ミラーのエッジを効率的に終端して、MR−TOF MSの全物理長を短くすることができる。電極を更に多くすると、ミラーパラメータが更に改善される可能性が高いが、システムが複雑になる。
【0022】
好ましいモードにおいて、イオン源とイオン検出器は、ミラー間のドリフト空間内に配置される。そのような構成では、折り返しイオン経路はミラーエッジから遠いままであり、ミラーを静止モードで操作してMR−TOF MSのより高い安定性と質量精度を達成することができる。しかしながら、本発明は、MR−TOF MSを外部イオン源又はイオンレシーバと結合しビームがミラーエッジのフリンジ電界内を通るのを防ぐために、外部ソースからのパルスイオン入射又はイオンミラー内のイオン放出と適合している。
【0023】
本発明は、MALDIやSIMSのようなパルスイオン源、衝突冷却を備えたMALDIのような準連続イオン源、並びにESI、EI、CI、PI、ICP等の本質的に連続なイオン源、又はタンデム型質量分析計のフラグメント化セルを含む様々なイオン源に応用可能である。連続又は準連続イオン源は全て、イオンガイドで動作することが好ましい。
【0024】
前述のように広いアクセプタンスを有するので、本発明のMR−TOF MSをイオン蓄積装置と共に使用し、密度の低い加速パルス間のイオン損失を防ぐことができる。そのようなイオン蓄積は、イオン源自体内又はMR−TOF MSの加速器内に組み込まれるイオンガイド、RFチャネル、リング電極トラップ、ワイヤガイド、IT又はLITを含む様々な種類のガス充填高周波(RF)蓄積装置内で行うことができる。本発明は、以下のいずれかを使用する。
・イオン蓄積装置からの軸方向又は直交方向の直接加速。
・二重加速機構。連続パルス加速によって蓄積装置から低速イオンパルスが軸方向又は直交方向に放出され、そのような加速器は、直流(DC)加速器として又はRF伝送モードとDCパルスモードを切り換えるRFイオンガイドとして作成することができる。
・二重蓄積機構。低速イオンパルスが、第1の蓄積トラップから放出され、通常はさらに低いガス圧で動作する第2のトラップに入れられる。また、第2の蓄積装置からのイオン放出は、軸方向と直交方向のどちらに行われてもよく、軸方向又は直交方向の追加の加速器を介して行われてもよい。
【0025】
イオンパケットのパラメータの幾つかの妥協点は、新規のMR−TOF MSの飛行経路の実質的な拡張と広いアクセプタンスのために受け入れ可能である。
【0026】
本発明の好ましい実施形態は、後者、即ち二重イオン蓄積装置のより複雑であるが有利な方式を使用する。イオンガイドは、両方の蓄積装置に好ましい選択である。追加の組のパルス電極を使用することが好ましく、その電界は、第2のイオンガイドのイオン蓄積領域内によく浸透し、短いターンアラウンドタイムで軸方向の高速イオン放出を可能にし、同時に全く均一な加速電界と適度のイオン発散を提供する。本発明は、直交加速方式と比べて、連続イオンビームをほとんど完全に利用することができる。ターンアラウンドタイムの多少の増大は、飛行経路の拡張によって補われる。
【0027】
本発明は、イオンガイドと開放リング電極を備えた三次元イオントラップとからなる複合イオントラップ等の幾つかの新規のイオン蓄積装置を提案する。細分化された類似物のシミュレーションによって、MR−TOF分析用のイオンを作成するためのそのようなトラップの実現可能性が証明された。別の新規の装置は、補助電極を備えた線形イオントラップを含む。イオントラッピングと軸方向放出は両方とも、別の組の電極の電圧をパルス化しその電極のRF信号をなくすことによって達成することができる。
【0028】
本発明は、より強力なイオンパルスを提供すると予想され、その結果、イオン検出器のダイナミックレンジと寿命が重要な問題になる。当技術分野において、イオン蓄積、質量分離、又は検出の段階でのイオン抑制を含む多数の解決策が知られている。既知の戦略には、望ましくないビーム成分のイオン強度又は質量フィルタリングの自動的調整がある。ダイナミックレンジは、データ収集のために二次電子増倍管(SEM)とアナログディジタル変換器(ADC)を使用することによって強化される。本発明の特質は、長いパルス持続時間にあり、帯域幅を低くでき、前述の問題の解決が多少容易になる。
【0029】
この機構は、連続又は準連続イオンビームの完全利用、並びにR〜100,000の範囲の改善された分解能を提供する予想される。MR−TOF MSは、独立機器として、又はLC−MS又はMS−MSタンデムの一部分として使用され、まず親イオンの任意の既知の質量分離器と任意の既知の種類のフラグメンテーションセルと組み合わされた第2のフラグメントイオン分析装置として期待される。
【0030】
また、本発明のMR−TOF MSは、タンデム型質量分析計の構成において第1の分離質量分析計として使用することができる。MR−TOFを使用する利点は、著者の1人による同時係属特許において明らかになる。同時係属発明は、フラグメント分析用の高速のTOF2と組み合わせたイオン分離用の低速のTOF1を使用することを提案する。この構成により、イオン源からの1つのパルスで複数の前駆体の並行分析が可能である。本発明は、特に、MR−TOF MS内の長い分離を可能にし、さらにイオンビームの低いエネルギーと中程度のエネルギーでの分離、ビームの密な集束、及びイオンビーム位置の正確な制御を可能にし、これらは、ビームをフラグメンテーションセル内に導くときに有効である。
【0031】
また、質量分光分析の両方の段において、MR−TOFの強化された伝送と強化された分解能を使用することができる。この場合、第2のショルダーにおける延長された飛行時間は、時限イオンセレクタによる単一の前駆体の選択を必要とし、これにより並行MS−MS分析の可能性が失われるが、その代わりにMS−MS分析の高い特定性、分解能及び質量精度が提供される。多段MSn分析は、単一のMR−TOF分析装置を備えた機器で行うことができる。例えば、衝突セルがイオンの流れの方向を戻し、時限イオンセレクタがMR−TOFとフラグメンテーションセル間で使用される場合は、同じ分析装置を親イオン分離と娘イオン分離の両方と孫イオン分析に使用することができる。イオンは、MR TOF分析装置と衝突セルの間を往復される。
【0032】
並行MS−MS分析と高分解能MS−MS分析の両方の形態は、好ましくは両方のMR−TOFの飛行経路と加速電圧を調整することによって単一の汎用機器で達成することができる。第1の分析装置内の電圧を下げ(イオンビームをパルス偏向し、より少ない数の反射を使用することによって)、第2の分析装置内の飛行経路を短くすることにより、そのような汎用性が提供される。
【0033】
本発明のMR−TOF MSの利用は、極めて幅広い種々な装置及び方法にわたる。例として、MR−TOF MSは、様々なタイプのクロマトグラフィにおける任意の事前試料分離或いは任意のタイプの外部質量分析計又はイオン移動度分光計における質量分光分離と組み合わせることができる。同様に、様々な実施形態における様々なガス充填蓄積装置とガス充填フラグメンテーションセルを、ガスイオン反応器に変換することができる。そのような反応器は、例えばICP法でイオン−分子反応器を使用して同位体感度を高めるために有効であり、電荷削減又は選択的フラグメント化のために多価イオンと逆極性のイオンとの間のイオン−イオン反応器を使用することができ、従って、そのような反応器は、多価イオンの電子捕捉解離に使用することができる。
【0034】
本発明をより完全に理解するために、次に添付図面を参照する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明は、一般に質量分光分析の分野に関し、より詳細には多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を含む装置に関する。より具体的には、本発明は、ドリフト空間内の周期的な1組のレンズと組み合わせたミラー電極の新規な配列及び制御を使用することによって、平面のグリッドレスのMR−TOF MSの分解能と感度を改善する。本発明のMR−TOF MSは、空間的及び時間的集束が改善されるので、拡張された折り返しイオン経路に沿ったイオンビームのアクセプタンスが広くなり閉じ込めが確実になる。その結果、本発明のMR−TOF MSをイオン蓄積装置を介して連続イオン源に効率的に結合することができ、それにより、イオンサンプリングのデューティサイクルが節約される。本発明のMR−TOF MSは、タンデム型質量分析計において、二次元並行MS−MS分析と縦続の第1の低速セパレータとして、或いは両方の分析段でMR−TOF MSを使用するタンデムとして使用するように提案される。
【0036】
図1は、WollnikらのGB特許第2080021号(このGB特許の図3と図4)による従来技術の多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を示す。飛行時間型質量分析計において、ソース12から様々な質量とエネルギーのイオンが放射される。コレクタ20までのイオンの飛行経路は、ミラーR1,R2,...Rnによってイオンを多重反射するように調整することによって折り返される。ミラーは、イオン飛行時間がイオンエネルギーに依存しないようなものである。この特許は、軸方向に対称的な複数のイオンミラーの2つの幾何学的配置を示す。両方の配置において、イオンミラーは、2つの平行な平面IとIIに配置され、イオン経路の表面に沿って位置合わせされている。1つの配置において、面は平面であり、もう1つの配置では円筒である。イオンがイオンミラーの光学軸に対して斜めに移動し、それにより追加の飛行時間収差が生じ、従って高分解能の達成がかなり複雑になることに注意されたい。
【0037】
図2は、ロシア特許第SU1725289号に記載されているNazarenkoらによる試作品の「折り返し経路」MR−TOF MSを示す。この特許のMR−TOF MSは、2つのグリッドレス静電ミラーを有し、ミラーはそれぞれ、一方のミラーの3個の電極3、4及び5と、他方のミラーの6、7及び8からなる。各電極は、「中央」平面XZに対して対称的な1対の平行極板「a」と「b」からなる。ソース1とレシーバ2が、前記イオンミラーの間のドリフト空間内にある。ミラーは、複数回のイオン反射を提供する。反射回数は、イオン源を検出器に対してX軸方向に移動させることにより調整される。この特許は、Y方向の空間イオン集束とイオンエネルギーに対する二次飛行時間集束を達成する、イオン折り返しごとに達成されるタイプのイオン集束について説明する。
【0038】
試作品がシフト方向にイオン集束を実現せず、従って反射サイクル数が実質的に制限されることに注意されたい。また、Y方向の空間イオンの広がりに対する飛行時間集束を提供しない。従って、試作品のMR−TOF MSは、分析装置の幅広いアクセプタンスと、従って実際のイオン源を処理する機能を提供できない。最終的に、この試作品は、イオン源のタイプとMR−TOF MSを様々なイオン源に結合する効率的な方法とを考慮していない。
【0039】
図3は、M.ParkのUS6107625による従来技術の「同軸反射」MR−TOF MSを示す。この発明は、互いに軸方向に位置決めされた2つの静電反射板34と38を含み、その結果、イオン源32によって生成されたイオンを反射板の間で左右に反射させることができる。第1の反射装置34は、直交加速器の機能とイオンミラーの機能を兼ね備えている。複数回のイオン反射の後で、どちらかのミラーを素早くオフにして、イオンが反射板を通過してイオン検出器36に達することを可能にする。この特許は、連続イオン源をMR−TOF MSに結合する方法を教示している。記載された装置は、実際に、小さいサイズの機器において高い分解能を達成する。しかしながら、使用されている「同軸反射」方式によって、質量範囲が大幅に縮小し、連続イオンビームからのイオンサンプリングのデューティサイクルが低下する。メッシュは実質的なイオン損失を引き起こす。デューティサイクルは、イオン源への蓄積線形イオントラップ(LIT)の導入後に著者による後の研究で改善される。
【0040】
図4は、本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の概略を新規な周期的レンズの詳細と共に示す。MR−TOF MS11は、内蔵加速器13を備えたパルスイオン源12と、イオンレシーバ16と、互いに平行でかつここではY軸で示した「シフト」方向に実質的に延長された2本1組のグリッドレスイオンミラー15と、前記ミラー間の無電界空間14と、前記ドリフト空間内に位置決めされた1組の複合レンズ17とを含む。
【0041】
前述の要素は、イオン源12とイオンレシーバ16の間に折り返しイオン経路19を提供するように調整され、前記イオン経路は、イオンミラー15の間の多重反射とシフトY方向へのイオンドリフトとの組み合わせからなる。このシフトは、入ってくるイオンパケットのX軸に対する機械的又は電子的なわずかな傾きによって調整される。レンズ17は、整数回のイオン反射ごとのイオンシフトに対応する周期でY軸に沿って位置決めされる。好ましい実施形態は、シフトY方向にレンズ17によって新規のイオン光学特性即ち周期的集束を提供し、平面グリッドレスイオンミラーによって提供される直交Z方向の周期的空間的集束を補うことによって、MR−TOF MSのアクセプタンスを大幅に強化する。本発明の特別に設計されたイオンミラーによる改善されたそのようなイオン光学特性並びに飛行時間集束について以下で詳細に説明する。
【0042】
周期的レンズの組み込みは、MR−TOF MSにおいて完全に新規な特徴であり、これにより、主ジグソー折り返しイオン経路に沿ったイオンの安定保持が提供される。レンズの同調により、焦点距離Fが完全イオン折り返しの半反射又は4分の1(P/4)の整数倍即ちF=N*P/4のときに達成されるシフト方向への周期的な繰り返し可能な集束が可能になる。最も密な集束は、F=P/4のときに起こる。そのような密な集束は、1折り返し当たりのシフトを最小にして機器を小型にするのに有利である。そのような密な集束の条件下でも1回の折り返し当たりのイオン経路長が比較的長いためレンズは弱いままであり、従ってレンズは、折り返しイオン経路の平面におけるイオンの空間的な広がりに対して矯正不可能な飛行時間収差を少ししか導入しないことが重要である。即ち、レンズは、実質的にイオン経路の平面を横切って延長され、折り返しイオン経路の平面を横切りかつその平面においてそれぞれイオンミラーとレンズによる完全に独立した空間的集束の同調の利点を提供するレンズであることが好ましい。また、そのようなレンズは、側方の極板に非対称的な電圧を使用することによって操縦を実現することができる。
【0043】
1組の周期的レンズはMR TOFに新規の品質をもたらし、従ってイオンビームは、極めて多数の反射の後でも閉じ込められたままである(実際には、シフト方向の反射を使用する場合に達成される)。更に、イオン光学シミュレーションを使用することにより、発明者は、新規のMR−TOF内のイオンの動きが、幾何学的配置、表面の漂遊電界及び磁界、ポンプ及びゲージの不正確さ、並びにイオンビームの空間電荷のような外部歪みに効率的に耐えることを発見した。MR−TOFは、そのような歪みに関わらずイオンを主軌道の近くに戻す。この効果は、ポテンシャル井戸内のトラッピングと等価である。周期的レンズの機能により、イオンビームの確実な完全伝達と共に、拡張飛行経路を有するMR−TOF MSのコンパクトな実装が可能になる。
【0044】
図4は、また、同じ好ましい実施形態の側面ビュー21と、好ましいMR−TOF MSの分析装置内の軸方向の電位分布22を示す。ミラー15は、XY平面に対して対称的であり、互いに同一であることが好ましいが必ずしもそうでなくてもよく、即ちYZ平面に対して対称的である。ミラー15は、1つのレンズ電極15L、2個の電極15E、及び1つのキャップ電極15Cを含む少なくとも4個の電極と、更にドリフト空間14の特別に形成された縁とで構成されることが好ましい。前述のように、ミラーは、実質的にシフト方向に延長され、折り返しイオン経路19の領域のまわりに二次元静電界を形成する。
【0045】
本発明におけるミラーの新規の集束特性は、ミラー間の固有距離と電極電位の調整を選択することによって提供される。発明者は、これらのパラメータを、導関数の組み込み計算とまた組み込み自動最適化ブロックによるイオン光学シミュレーションによって求めた。そのような独自のプログラムを処理することによって、発明者は、最適化アルゴリズムの幾つかの一般的傾向とイオンミラーのイオン光学特性に対する幾つかの重要な要件を公式化した。例えば、2つの同一ミラーを備えた対称的MR−TOF MSの場合、各ミラーは、次のような5つのパラメータを独立に同調させるために少なくとも4個の電極を備えていなければならない。
a)3つのパラメータ(最適には、2つの電極電位とミラー間のドリフト長)は、エネルギーに関する周期的な(各反射後の)三次飛行時間集束を提供するように選択され、従って、同調により、イオンエネルギーに関するイオン飛行時間の1次導関数、二次導関数、及び三次導関数をなくすことができる。
b)1つのパラメータ(最適には、ドリフト空間に最も近い「組み込みレンズ」電極の電位)は、折り返しイオン経路の平面を横切るいわゆる「パラレルツーポイント(parallel-to-point)」の空間的集束を実現する。この用語は、ドリフト空間の中間で始まる平行なイオンパケットが、折り返しの半分後に点に集束され、完全に折り返した後で平行なイオンパケットに戻ることを意味する。この集束は、パケットのイオンも同調点の近くでイオン経路の平面と交差するように調整されると有利である。
c)残り1つのパラメータは、折り返しイオン経路の平面からずれた初期イオンに関する前述のイオンパケットの飛行時間の二次導関数をなくすように調整される。
【0046】
両方の条件(b)と(c)が満たされた場合は、ミラー配置の対称性によって、それぞれの完全折り返しの後、即ち偶数回の反射の後で、初期座標上の二次までの全飛行時間収差と折り返しイオン経路の平面を横切る角度的広がり(angular spread)とが自動的に除去される。
【0047】
発明者は、高次飛行時間収差の除去が、組み立て不良及びドリフト長と電極電位のある程度のばらつきに対して安定していることが分かった。従って、1つの電極電位だけを調整し、実際には1つのパラメータ、即ちイオンエネルギーに関するイオン飛行時間の一次従属性を変化させながら新規のMR−TOF MSを同調させることによって高い解像力を得ることができた。
【0048】
図5は、前述の高次空間及び飛行時間集束を実現する本発明のMR−TOF分析装置の幾何学的配置と電圧の特定の例を示す。ビュー23は、寸法が長さLの典型的な電極に規格化された特定の4電極ミラーの寸法を示す。ミラーの電極は、レンズ電極が15L、2つの中間電極が15E、キャップ電極が15Cで示されている。同様に、ビュー24は、ドリフト空間とミラー全体の寸法を示し、ビュー25は、同じ特定のMR−TOF MSの電極の電位を示す。この電位は、イオンビームの公称エネルギーEに規格化される。分析装置は、図4のビュー22に示したものと類似の軸方向のポテンシャル分布を形成する。
【0049】
イオンミラーの細長い二次元構造は、様々な形状の電極を使用して構成することができた。図5のビュー26は、長方形フレーム、細長いスロットを備えた薄板、角棒、並びに平行ロッドや湾曲電極、円錐、双曲線等によって形成された図示していないタイプを含むいくつかの可能なタイプの電極の幾何学的形状を示す。発明者は、また、二次元未満の形状の電極を使用して所望の電界構造を合成できると予想する。
【0050】
二次元電界構造を保つには、境界問題の特別の処理が必要である。電界構造の歪みを回避するために、ミラーは、折り返しイオン経路の全シフトよりも長く作成されるか、若しくは例えばミラー電界の等電位曲線の形状を繰り返す電極形状を有する微細構造のプリント回路基板(PCB)30のような特殊な装置を使用する。本発明のイオン光学シミュレーションで、レンズのエッジの幅だけを調整することによって、フリンジ電界浸透を大幅に減少させることができることが分かった。例えばレンズ電極15Lのリブとして追加のエッジ電極を導入することによって同等の結果を得ることができる。
【0051】
図6は、本発明の好ましい実施形態のMR−TOF分析装置内でのシフト方向へのイオン反射によるイオン経路拡張の図と原理を示す。以前の番号を使用して示した標準的な構成要素の他に、実施形態31は、操縦装置32及び33と、任意のインラインイオンレシーバ34を含む。入射イオンパケット35は、追加の検出器34上に偏向されてもよく、或いは折り返し経路36に沿ってMR−TOF MS内に向けられてもよい。シフト軸Yの他端において、第2の操縦装置33が、軌道38に沿ってイオンレシーバ16上にイオンを放出してもよく、或いはイオンパケットを折り返しイオン経路37に沿って再びMR−TOF MS内に向けてもよい。
【0052】
動作において、特定の状況において、入口操縦装置32がオフにされ出口操縦装置33が常にオンにされているとき、MR−TOF MSは、非繰り返し折り返しイオン経路を維持し、従って質量分光分析の全質量範囲を維持し、飛行経路を2倍する。入口操縦装置を使用して分析装置を常にバイパスすることができる。これらの機能は、MR−TOF MSがタンデム型MSのイオンセパレータとして使用されバイパス機能がタンデム形態とMSだけの形態の間の切り替えを可能にする同時係属特許において有用であると思われる。
【0053】
この操縦装置を使用して、繰り返し周期的折り返しイオン経路にイオンパケットを通すことができ、飛行経路の延長は、質量範囲の比例縮小と、特定の用途の要件に基づいて行われる妥協とを伴う。この場合、操縦装置32は、分析質量スペクトルの所望の部分を選択するイオンゲートとしても使用されることがある。
【0054】
ドリフト方向の反射を使用している間に分析装置全体の幾何学的制約とミラーエッジのフリンジ電界が重要になることがある。この問題の回避方法は、イオンビームをイオンミラーに通し、より具体的にはイオンビームをミラーキャップ電極15Cのスリットに通すことである。次に、ミラー15は、点線で示したように例えば別の電極を追加することによって拡張することができ、またパルスモードで断続させなければならない。
【0055】
また、図6に操縦装置の特定の例41を示す。操縦装置41は、1組の平行な極板42〜46を含み、極板42は接地されている。装置は、平面偏向板と平面レンズの特徴を兼ね備える。装置は、極板44と45の電圧を同調させることによって2つの機能を切り替えることもでき或いは2つの機能を同時に兼ね備えることもできる。装置は、周期的構造のレンズへの組み込みを可能にする。この場合、ドリフト方向へのイオンの集束及び/又は反射の両方のためにそれぞれ個別のセルを使用することができる。偏向板は、イオンのゲーティング、狭い質量範囲の選択、複数の前駆体又は複数の質量ウィンドウの同時分析を可能にするように、常時に又はパルスモードで動作することができる。また、偏向器が、変化を受けないミラー電界(図示せず)の境界内にウェルを留める閉ループイオン軌道を作成できるので、レンズと偏向器のフレキシブルな切り換えは有用であり、同時にフリンジ電界の問題を克服できる。
【0056】
イオン偏向を導入すると飛行時間分解能が低下し、従って、これは、一般に、MR−TOF MSの分解能の改善ためではなくイオン操作と飛行時間の延長に使用される。
【0057】
例えば、典型的なエネルギー広がりが5%でビームの位相空間がビーム経路と垂直な両方向に10πmmミリラドの場合、L=25mmの本発明のMR TOF MSのイオン光学シミュレーションにより、レンズの最大焦点距離が全ビーム折り返し(2回反射)の長さと等しいモードにおいて、偏向器を使用せずに100,000の質量解像力(FWHM)が達成可能であることが予測される。レンズと偏向器の追加使用により生じる最も密な集束の場合、この解像力は、30,000まで低下すると予測される。しかしながら、飛行時間が延長されているので、この値は、同じ解像力を有する従来のTOF MSよりも厳密でない値のイオンターンアラウンドタイムで達成できることに注意されたい。
【0058】
これで、本発明のMR−TOF MSの説明を完了し、新規のMR−TOF分析装置が、イオンビームの空間的及び時間的な広がりに対するより高い許容範囲を有することに特に注意されたい。新規の分析装置は、幾何学的なイオン損失を生じることなく飛行時間の延長を可能にする安定したイオンビーム閉じ込めを実現する。飛行時間の拡張により、TOF分解能が向上し、パルスイオン源に現われるイオンターンアラウンドタイムの影響が減少する。また最終的に、本発明のMR−TOF MSは、初期イオンビームの空間的広がりに対して高次飛行時間集束を提供し、即ち飛行時間分解能を低下させることなくより幅の広いビームを受け入れることができる。一方、飛行時間の拡張により、連続イオンビームからのイオンサンプリングの効率が低下する。本発明は、二次イオン質量分析計イオン源(SIMS)又はマトリクス支援型レーザイオン化(MALDI)などのパルス化イオン源に使用することができるが、励起イオンの長期安定性が障害になることがある。そのようなイオンの安定性は、パルス化されたガス供給源からのガス制動によって改善することができる。そのようなイオンがパルス化され加速された場合でも、イオンパルスの持続時間は、イオン源をパルス化されるように考慮するために長くなる。この矛盾は、本発明の別の重要な特徴、即ちエレクトロスプレー(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、電子衝撃(EI)、化学イオン化(CI)、光イオン化(PI)、誘導結合プラズマ(ICP)、ガス充填MALDIのような連続又は準連続イオン源、並びにタンデム型質量分析計のイオンガス反応セル又は衝突セルへのイオン蓄積及びパルス放出の組み込みによって解決される。
【0059】
本発明は、MR−TOF MSの拡張飛行時間に対応する、連続イオンビームの蓄積と低い周波数におけるパルス化イオン放出のためのイオン蓄積段を追加することによって、MR−TOF MS内へのイオンサンプリングの効率を大幅に改善する。そのようなイオン蓄積は、イオン源自体又はMR−TOF MSの加速器に組み込まれたイオンガイド、RFチャネル、IT又はLIT、ワイヤ又はリング電極トラップを含む様々な種類のガス充填高周波(RF)蓄積装置において行われる。当該技術の蓄積装置は、イオン制動のためにガス分子との数百回のイオン衝突に十分なガス圧でガス充填される。そのような装置は、イオンの半径方向の閉じ込めのための高周波(RF)電界と、軸方向のイオンの動きを制御する軸方向の静止又は動的な波状電界を使用する。蓄積段は、任意のMR−TOF MSのまばらなパルス間のイオン損失を回避する。
【0060】
図7Aを参照し、ブロック図レベルの詳細を使用すると、本発明51の好ましい実施形態のMR−TOF MS内のパルスイオン源は、連続的に相互接続された連続イオン源61、蓄積イオンガイド71、第2の蓄積装置81、加速器91を含む。パルスイオン源51は、MR−TOF31に接続される。ブロック図は最も一般的な事例を示し、要素71、81及び91は任意であり、即ち、幾つかの特定の実施形態の範囲内では省略されても組み合わされてもよい。
【0061】
動作において、連続イオン源61、好ましくはガスイオン源は、イオンガイド71内を送られることが好ましい連続イオンビームを生成する。イオンガイド71は、連続イオンビームを蓄積し、MR−TOF分析装置31に対応する周期で周期的にイオンパケットを放出することが好ましい。そのような放出されたイオンパケットは、直接又は任意選択の第2の蓄積装置81を介して加速器91に渡される。加速器は、高速イオンパケットを連続又はパルスでMR−TOF分析装置に軸方向又は直交方向に注入する。イオンガイド71と第2の蓄積装置81は、三次元イオントラップ、四重極、多重極又はワイヤイオンガイド、RFチャネル、リング電極トラップ、イオンファンネル又は線形イオントラップによって示したような任意のRF閉じ込め及びガス充填装置でよい。
【0062】
追加の蓄積装置81の主な機能は、第1の蓄積イオンガイド71に蓄積された残りのイオンと異なる条件でイオン雲を作成することである。そのような条件は、イオンビームのガス圧、空間電荷又は質量組成によって、或いは放出電極の構成によって異なることがある。以下の説明に示すように、二重蓄積方式は、よりフレキシブルであり、イオンビームの完全利用と多くの自動調整を可能にする。最も重要なことは、イオンビームをより小さい位相空間で生成し、分析装置によるビームアクセプタンスを改善することである。追加の蓄積装置を使用する利点は、二重蓄積方式を使用する本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の以下の詳細な説明で明らかになるであろう。
【0063】
図7Bは、ガス連続イオン源の特定の例61B、即ちスプレープローブ62、サンプリングノズル63、サンプリングスキマー64、ポンプ65及び75から成るESIイオン源を示す。ESIイオン源の構成要素と動作原理は、当該技術分野で周知である。検体混合物の溶液をプローブ62から大気圧を有する領域にスプレーする。充満したエーロゾルが蒸発し、それにより検体のガスイオンが形成され、その検体のガスイオンが、サンプリングノズル63によってサンプリングされる。ポンプ65が、余分なガスを数mbarのガス圧まで排気する。更に、イオンがガス流と静電界に支援されたサンプリングスキマー64によってサンプリングされ、連続イオンビーム66が生成され、同時にガスがポンプ75によって排気される。
【0064】
図7Cは、試料板67、レーザ68、冷却ガス供給源69、及びポンプ75から成るガス冷却機能を備えた準連続MALDIイオン源の特定の例61Cを示す。ガス冷却機能を備えたMALDIイオン源61Bは、パルスレーザ68によって試料板67上の試料を照明しながら検体のイオンを生成する。供給源69は、試料板のまわりに冷却ガスを、約0.01mbar(WO9938185)又は約1mbar(WO0178106)の中くらいのガス圧で提供する。試料板から放出されたイオンは、ガス衝突で冷却され安定化される。イオン安定性は、長い分析時間を使用するのでMR−TOF MS内での使用には特に重要である。イオン運動エネルギー特性と鋭いタイミング特性は、ガス衝突で抑制される。得られるイオンビーム66は、パルスイオンビームではなく準連続イオンビームと見なされる。
【0065】
図7Dは、中間蓄積イオンガイド71の図を示す。イオンガイド71には、前述のイオン源61Bと61Cが両方とも接続されている。蓄積イオンガイドの特定の例71は、高周波(RF)電圧が供給される四重極ロッド72、1組の補助電極73、出射孔74、及びポンプ75から成る。同じポンプ75が、前に図7Bと図7Cに示されていることに注意されたい。動作において、連続又は準連続イオンビーム66が、イオンガイド71内に導かれる。イオンは、アパーチャ64を介してサンプリングされ、ポンプ75が、余分なガスを排出する。アパーチャ64とポンプ75は、アパーチャ64のガス圧がほぼ等しいので、両方にイオン源がある場合と類似している。イオンは、RFロッド72の間に蓄積され、同時にガス衝突で抑制され、アパーチャ64と74によって減速される。イオンは、RF四重極の軸の近くにDCポテンシャル井戸の底に閉じ込められる。周期的イオンパケット76は、蓄積イオンガイドから加速器91内に直接又は後述する任意選択の第2のイオン蓄積装置81を介してパルス式に排出される。
【0066】
本発明は、通常と異なるイオン蓄積の機構を使用することができ、補助電極73が、イオンガイド71内の軸方向のDC分布を作り出す。電極73は、静電界がロッド間に効率的に浸透するようにRFロッド72を取り囲む。軸方向のDC分布は、空間的に分散されたイオン蓄積、制御されたイオンサンプリング、及びイオン放出プロセスの適度な持続時間を実現するように時間的に調整され変更される。補助電極73の電圧による操作にはRFロッド72のRF電位による操作が必要ないことに注意されたい。実際に、ロッド72に印加するRF電圧を定常状態に維持し、これによりパルス化したイオンパケットを集束させることが有利である。イオンが軸方向に放出されるので、RF電界が無視できる場合、RF電界は軸方向のイオン速度にほとんど影響を及ぼさない。様々な組の電極に別々のRF信号とパルス信号を印加することにより、電子回路電源の作成が便利りなり容易になることは明らかである。
【0067】
蓄積イオンガイド71は、好ましくは直交に加速器91に直接結合されてもよい。イオンガイドは、ガスが充填されるので、電極73と74の電位のわずかな変調によってソフトなイオン放出を提供することが好ましい。そのような遅く(数電子ボルトから数十電子ボルト)かなり長い(数マイクロ秒)イオンパケットは、同期された直交加速と適合する。この方式は、従来技術(例えば、US6020586)において全く一般的なので示されていない。パケット76は、ガス充填イオンガイドを高真空で分析装置に適応させる追加の差動ポンピング段を通る。この追加の段は、ほぼ平行なイオンビームを形成するレンズから成る。イオンパケットは、イオンを分析装置に同期的に注入する直交加速器91に入る。低速イオンビームの方向に延長されたスリットを有する平らな電極からなるグリッドレス加速器を使用することが好ましい。MR−TOFのシフト方向に向けられたスリットの明らかに魅力的な方式は、実際には直交配列よりも劣り、イオン源とスリットは、折り返しイオン経路の平面に対して直角に向けられ延長されている。イオンミラーによるイオン集束は、イオンミラーを同調させることにより適切な補償で使用される場合に一次集束を有する周期的レンズよりも空間的広がりに対して高い次数(二次)の飛行時間集束を有することは明らかである。
【0068】
直交加速器は、本発明のMR−TOF分析装置のドリフト空間内に配置されてもよく、本発明の平面MR−TOF分析装置のミラー(又は、1個のイオンミラーのパルス部分)の1つと組み合わされパルス式に操作されてもよい。従来技術と同様に、蓄積イオンガイドには、イオン質量範囲を犠牲にして直交加速のデューティサイクルを少なくするという長所がある。
【0069】
図8は、第2の蓄積装置81のブロック図を示す。第2の蓄積装置81は、汎用イオントラップ82、軸方向出射孔88又は直交出射孔86、及びポンプ85とから成る。蓄積装置81は、イオンガイド71、好ましくは蓄積イオンガイドに接続されている。動作において、イオンが、イオンガイド71から汎用トラップ82内に連続又はパルスで放出される。汎用イオントラップは、三次元イオントラップ、四重極内に形成された線形イオントラップ、補助DC電極を備えることが好ましい多重極又はワイヤイオンガイド、RFチャネル、リング電極トラップ、イオンファンネル、或いはこれらの装置の組み合わせでよい。トラップは、ガスがポンプ85によって排出されている状態で約0.1mTorrの低いガス圧に維持されることが好ましい。RF電界及びDC電界とガス制動との複合作用により、イオンは、トラップの出口近くに閉じ込められる。イオンは、蓄積装置82からMR−TOF分析装置に、MR−TOF分析装置のポンプシステムのガス負荷を減少させる働きをする対応するアパーチャ86又は88を介して軸方向87又は直交方向89に周期的に直接排出される。
【0070】
図9は、軸方向放出器と任意選択の加速器とを備えた二重イオン蓄積のブロック図を示す。任意選択の加速器91は、ポンプ95によって排出されるハウジング97内に配置された1組の電極92から成る。図9の特定の例において、加速器は、ポンプをMR−TOFとハウジングと共有するが、MR−TOF内の真空を高めるために差動式にポンピングされてもよい。パルスイオンビーム89は、第2の蓄積装置81から来て1組の電極92内で加速される。当技術分野において既知の多数のタイプの加速器がある。例として、そのような電極は、ワイヤから作成されてもよく、スリット又はメッシュを有するリング又はプレートから作成されてもよい。これらは、また、イオンビームを閉じ込めるためにRF信号によって供給される電極を含むことがある。イオンは、軸方向94又はイオン注入の方向に対して直交方向93に加速される。加速器は、連続又はイオン注入と同期したパルスモードで動作する。全ての場合において、加速器は、物体平面(object plane)と呼ばれる中間時間集束平面でイオンパッケージが局所的圧縮96を受けるように調整され制御されることがある。
【0071】
図10は、パルス化された軸方向イオン放出を有する第2の蓄積装置81の特定の機構101を示す。特定の第2の蓄積装置81は、短いロッド拡張部103を備えた1組の多重極ロッド102と出射孔104とから成る。蓄積装置81は、更に、DC加速電極105とアパーチャ106とから成る軸方向DC加速器91と通信する。
【0072】
動作において、イオンが、イオン源で形成され、中間イオンガイド71を介して連続イオン源又は低速イオンパケットとして来ることが好ましい。第2の蓄積装置81は、蓄積時間1ミリ秒の間にイオン衝突制動にも十分な比較的低いガス圧、例えば0.1〜1mTorrに保持される。ロッド拡張部103は、ロッド102と同じRF信号が供給されるが、少し低いDC(ロッド102よりも10〜50V低い)に保持される。イオンは、出射孔104上の電位を変化させることによって第2の蓄積装置81に周期的に蓄積されパルス放出される。イオン蓄積段で、アパーチャ104は、逆電位に維持され、それにより出射孔103の近くに局所的なDCウェルが形成され、同時にロッド拡張部のRF電界によって半径方向にイオンが閉じ込められる。DCウェルの鋭さは、イオン雲が約0.5〜1mmのサイズになるように調整される。イオン放出段で、アパーチャ104は、(正イオン用に)強い負の電位に引かれ、イオンが軸に沿って第2の蓄積装置81から取り出される。RF電界がオンのままであることに注意されたい。イオンが軸の近くに閉じ込められるので、そのイオンは、軸方向の放出中にRF電界の影響をほとんど受けない。DC加速電極105は、エネルギー収集装置と、イオンパケット107の同時空間的集束用のレンズとして働くことがある。出射孔106は、MR TOF MSポンピングシステムのガス負荷を減少させるために使用されることがある。我々の推定では、イオン雲が約0.5Vを超える空間電荷電位を生成している間は、イオンパケット107のパラメータは、MR−TOF MSにあまり適していない。エネルギーの広がりが0.2電子ボルト、イオン雲の直径が0.5mm、加速度電位が5kV、抽出電界が500V/mmのとき、イオンビームパラメータは、発散が1度未満、エネルギーの広がりが5%未満、1kDaイオンのターンアラウンドタイムが8ナノ秒未満である。
【0073】
図11は、非蓄積イオンガイドから直交イオン加速を提供する機構111を示す。この機構は、イオントラップ108、非蓄積イオンガイド109、及びDC加速器91から成る。機構111は、様々なタイプのイオントラップとイオンガイドによって実現することができる。図11の特定のイオントラップ108は、DC電極113と出射孔114によって取り囲まれたRF多重極セット112で構成されている。特定の非蓄積イオンガイド109は、電極の1つにスリット117を備えるかRF多重極の電極間に開口部を備えた多重極セット115から成る。多重極115は、必要に応じて、補助DC電極116によって取り囲まれる。イオントラップとイオンガイドの両方の段は、ポンプ85と95によってポンピングされる。
【0074】
動作において、イオンは、イオン源で形成され、中間イオンガイド71を介して連続又は低速イオンパケットとして来る。イオントラップ108は、蓄積時間1ミリ秒の間にイオン衝突制動にも十分な比較的低いガス圧、例えば0.1〜1mTorrに保持される。イオンは、DC電極113と出射孔114の電位を変調することによって周期的に蓄積され低速イオンパケット(1〜10マイクロ秒)としてイオントラップ108からパルス式に放出される。イオンガイド109の多重極115は、軸方向に広がるイオンパケットの半径方向のイオン閉じ込めを継続するためにRF信号が供給される。イオン注入パルスに対する所定の遅延で、第2の抽出パルスが多重極ロッド115に印加され、任意のパルスが補助電極116に印加されてもよい。多重極115の電位は、所定の位相のRF信号(例えば、ゼロボルトで)でゼロにされ、次に(短い10〜300ナノ秒の「スイッチ」遅延後に)所定のパルス電位に切り換えられて、多重極ロッド間又はロッドの1つのロッドのスロット117内のイオンバンチング(ion bunching)とイオン抽出が実現される。次に、イオンが、DC段91で加速され、MR−TOF MS31に入る。イオントラップ108からイオンを放出する第1のパルスとイオンガイド109の第2の抽出パルスとの間の遅延は、直交方向に取り出されるイオンの質量範囲を最大にするように調整される。
【0075】
ガスがロッド112と115の長さ全体に広がった状態で蓄積部103と加速器104を1つのユニットに閉じ込めてもよいが、アパーチャ114と電極113を完全になくし、必要に応じて電極112と115を1組の電極に組み込でもよいことに注意されたい。
【0076】
図12は、更に別の蓄積装置の特定の機構を示し、これは、「イオンガイドと三次元イオントラップとの複合物」と呼ぶことができる。図12を参照すると、特定の蓄積装置121は、2対の電極122と123で構成された四重極イオンガイドと、リング電極127とキャップ電極126と129とを有する3−D Paulトラップとから成る。リング電極127には、大きなサイズのアパーチャ125を有する開口部がある。キャップ電極129は、直交イオン放出のためのアパーチャ130を有する。
【0077】
動作において、連続的な高周波(RF)電界が、イオンガイドと三次元トラップの全体に及ぶ。最も単純な形態において、1対の電極122が、RF電圧が供給されるリング電極127に接続されて1つの極を構成し、1対の電極123が、キャップ電極126と129に接続されて別の極を構成する。上の2つの極の間にRF電圧を対称的に供給すると同じRF電界を達成することができる。好ましい形態において、RF電界の類似の構造が維持される。しかしながら、異なる振幅のRF電圧と別に制御されたDC電位を有する間に対応する電極に同じ周波数と位相の信号を供給することができる。イオンは、対の電極122と123の間のイオンガイドを介して(連続的又はパルスで)供給され、開口部125を介して三次元トラップに入る。
【0078】
RF電位とDC電位の分布は、線形四重極122〜123と四重極トラップ126〜129の間にイオン質量電荷比m/zに反比例する数ボルトの範囲の振幅を有する質量依存軸方向障壁を形成する。一般的なケースにおいて、この障壁は、ガイドと三次元トラップとの間でイオンを共有させる。電極122〜123のDCオフセットを上昇させ、ガス衝突の支援により、イオンの大部分を三次元トラップの中央に集中させることができる。好ましい形態において、前記DCオフセットは、m/z*以上のイオンで障壁が消えるように徐々に大きくされる。m/z*のイオンは、トラップ内で最小振幅の長期振動で障壁を通り過ぎる。DCをゆっくりと大きくすると、トラップ内に全てのイオンをゆっくりと移動させることができる。これと同時に、イオン源から来るイオンを中間蓄積イオンガイド71内に蓄積して、デューティサイクルを改善することができる。三次元トラップ内でイオンが制動された後(1〜5ミリ秒)、RF電界をオフにし、短く最適化された遅延(10〜300ナノ秒)の後で、キャップ電極129のアパーチャ130からイオンパケットを放出するように三次元トラップ電極126、127及び129の少なくともの幾つかに高電圧パルスを供給する。1つの好ましい形態において、RF電圧は固有位相の方形波信号と置き換えられ、イオン放出パルスは、イオン放出段階の間電位分布が一定になるように、固有位相の方形波信号と同期される。
【0079】
図13は、前述の複合トラップ121の細分化した類似物131を示す。1対の四重極ロッド122は、チャネル135と共に極板132と置き換えられている。リング電極127は、円形の穴138を有する極板137と置き換えられている。1対の電極123は、極板132を対称的に取り囲む極板133及び134と置き換えられている。キャップ電極126は、キャップ極板136と置き換えられ、アパーチャ130を有するキャップ電極129は、アパーチャ140を有するキャップ板139と置き換えられている。キャップ極板136と139は、極板133と134に平行に配置されるか又はその拡張部として配置されている。極板は、図13の左側部分に示したサンドイッチ構造で配列されている。同じ電極を図13の右側部分に別々にして示す。
【0080】
動作において、細分化したトラップ131は、軸の近くに同じ電界構造を提供する。これは、チャネル135の軸近くの四重電極二次元電界と、円形穴138の中心近くの三次元四重電極電界である。トラップ電界は、極板に印加されるRF電圧又は方形波信号によって形成される。RF電界は、細分化したイオンガイドと細分化した三次元イオントラップの間でイオン共有を実現する。RF信号が、周期的にRF信号(好ましくは0V)のある一定の位相でオフにされ、所定の遅延(10〜300ナノ秒)後に高電圧パルスが電極に印加されて、ほぼ均質な電界内でイオン放出が提供される。イオンパケットは、アパーチャ140から取り出され、MRTOFのポンピングシステムのガス負荷を減少させる働きをする。RF信号が中央極板135と137だけに印加され、DCランプが極板133と134(又は132を含む)に印加され、高電圧パルスが極板136と140に印加されることが好ましい。この構成により、RF信号、DC信号及び高電圧パルスの分離が可能になる。
【0081】
イオン蓄積装置91の他の実施形態には、同軸アパーチャによって構成された線形イオントラップ(例えば、A.Luca,S.Schlemmer,I.Cermak,D.Gerlich,Rev.Sci.Instrum.,72(2001),2900−2908を参照)、直交放出部を備えた細分化トラップ(US6670606B1と類似)、細分化リングイオントラップ(Q.Ji,M.Davenport,C.Enke,J.Holland,J.American Soc.Mass Spectrom,7,1996,1009−1017)、ワイヤトラップ、RF信号を有する電極によって取り囲まれたメッシュによって形成されたトラップ、螺旋状ワイヤトラップ等がある。
【0082】
図14は、本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の詳細図を示す。本発明の好ましい実施形態141は、多重反射分析装置31とパルスイオン源51とからなる。前述のように、パルスイオン源51は、実質的に接続された連続イオン源61、中間蓄積イオンガイド71、第2の蓄積イオンガイド81、及び加速器とから成る。それぞれの主構成要素は、前述の要素を含む。連続イオン源61の特定の示した例は、スプレープローブ62、サンプリングノズル63、サンプリングスキマー64、及びポンプ65から成るESIイオン源である。中間蓄積イオンガイド71は、補助電極パルス電極73、出射孔74、及びポンプ75によって取り囲まれた1組の四重極RFロッド72から成る。第2の蓄積イオンガイド81は、ガス閉じ込めキャップ82、1組84の補助パルス化電極によって取り囲まれた1組83の四重極RFロッド、出射孔88、 ポンプ85から成る。加速器91は、1組の電極92、MR−TOF MS分析装置と共用のハウジング97、及びポンプ95から成る。MR−TOF分析装置31は、無電界領域14、2個の平面グリッドレスイオンミラー15、インラインイオン検出器34、1組の周期的レンズ17、1組32の入口操縦板、及び1組33の出口操縦板とから成る。
【0083】
動作において、ESIイオン源61は、連続イオンビーム66を生成し、この連続イオンビーム66は、蓄積イオンガイド71に中くらいのガス圧(0.01〜0.1mbar)で蓄積される。中間蓄積イオンガイド71は、低速イオンパケットを、さらに低いガス圧(好ましくは10-4〜10-3mbar)で動作する第2の蓄積イオンガイド81内に周期的に放出する。ガス閉じ込めキャップ82によって、第2のイオンガイド81の上流領域のガス圧を高くすることができ、それによりガイドの出口近くのより小さいガス圧でのイオン制動とイオントラップが改善される。これは、ポンプ95のガス負荷を減少させるのに役立ち、従ってMR−TOF分析装置31と加速器91のチャンバ97内のガス圧を低く維持するのに役立ち、MR−TOFは、通常、飛行回路が拡張されているので、従来のTOF MSよりも低いガス圧(10-7mbar未満)を必要とする。
【0084】
低速イオンパケットは、第1のイオンガイド71に蓄積された全てのイオンの一定部分を含む。ガイドの例として、約1ミリ秒ごとに蓄積イオンの約10%がアパーチャ74を介してサンプリングされる。入るイオンと出るイオンのそのようなバランスによって、10ミリ秒ごとにイオン含有量の回復が可能になる。第1のイオンガイド71に蓄積されたイオンの量は、ビーム内のESIの強度に依存する。典型的なイオン流量3.108/毎秒において、第1のイオンガイド71は約3.106のイオンを含み、著しい空間電荷電界を生成することが分かっている。第2の蓄積装置内にイオンの10%だけがサンプリングされる場合、第2の蓄積装置内のイオンの量は約3.105である。1mm3に蓄積されているそのようなイオン雲は、約30meV電位の空間電荷を生成し、この空間電荷は、熱エネルギー(25meVのガス運動エネルギー)とイオン初期パラメータにある程度の影響を及ぼす。二重蓄積方式には幾つかの長所がある。第1に、第2の蓄積四重極内へのパルス注入によって、低いガス圧で完全なイオン制動が保証される。第2に、第1の四重極内のRF信号の振幅を調整して低質量フィルタとして動作させることができる。溶媒イオンと化学的バックグラウンドイオンのほとんどを除去することによって、空間電荷が更に減少する。第3に、長期イオン運動の選択的励起を使用することによって、空間電荷を作成し検出器を飽和させる最も強いイオン種の選択的除去を達成することができる。更に、イオン注入の持続時間を調整することによって、イオンビームの強度を制御することができる。これは、データ収集のダイナミックレンジの改善と検出器の飽和の回避に役立つ。
【0085】
第1のイオンガイド71は、出射孔74上及び必要に応じて追加電極73上のパルス電位の支援によって生成される極めて緩やかなパルス化軸方向電界によって低速のイオンパケットを放出する。1組73の追加電極の使用によって、パケット内の放出イオンのエネルギーと量の正確な制御が可能になる。放出されるイオンパケットは、パルス化トラップ機構を使用して第2の蓄積イオンガイド81内にほぼ完全にトラップされる。より詳細において、出射孔88の電位によって反発DC障壁が形成され、電極83のRF電界によってイオンが半径方向に閉じ込められる。しかしながら、イオンパケットは、遠端部88から反射され、その時までにイオンが第2のガイド81の入口(74)に戻り、第1のイオンガイド71からのイオン放出の終了後に生じた電極74の反発電位を受ける。イオンガイド83の最初のガス圧が高いのでイオン運動制動が加速される。ガス圧の局所的増大は、ガス閉じ込めキャップ82とアパーチャ74から出るガスジェットによって形成される。
【0086】
トラップされたイオンは、追加電極84の支援によって形成されたDCポテンシャル井戸内に閉じ込められる。そのような電極は、追加電極の電位の有効で対称的な浸透を行うように第2のイオンガイド81のRFロッド83を取り囲む。イオンガイド81の軸上の静電界を注目すると、1組の追加電極84は、半径方向に中くらいの八極子DC電界を生成しながらDC電界の軸方向分布を形成する。長期蓄積中のイオン不安定性を回避するためにそのような八極子DC電界を十分に小さく維持することが重要である。数値例として、1.5kVと周波数3MhzのRF電位が、中心の間の10mmに位置決めされた5mmの四重極ロッドに印加される。それぞれの追加電極は、ロッド用の5mmと7mmの中央孔を有する極板として形成される。そのような極板の電位の約20%は、四重極組立体の中心に浸透する。3つの極板は、互いに3mm離され、出射孔から5mm離されて配置される。中央極板に10V電圧降下を印加することによって、深さ約2VのDCウェルを形成する。100meVのエネルギーを有するイオンは、長さ約1mmで直径が数分の1mmの雲に閉じ込められる。この機構は、イオン安定性に対する影響がほとんどなく、少なくとも10の質量電荷比の範囲内でイオンを蓄積することを可能にする。
【0087】
イオンガイド81内の衝突制動と閉じ込めの後、イオンパケットは、DC加速器92内と次にMR−TOF分析装置31内に軸方向(X方向)に放出される。第2の蓄積装置が空になった後、パルス電位は、次のイオン蓄積サイクルの準備をするためにトラップ状態に戻る。パルス化放出は、RF電位を変化させないまま、組84の追加電極と出射孔88に印加される高電圧電気パルスの支援によって行われる。第2の蓄積四重極81内の低いガス圧は、高電圧パルスを印加している間のガス放電を回避するのに役立つ。イオンが全て小さい体積内に蓄積されるので、そのようなパルスは他のイオンを漏らさず、パルス振幅は、イオンのターンアラウンドタイムを大幅に短縮するのに十分に、かなり高くてもよい。従って、実際に、二重蓄積機構のさらに他の2つの重要な理由は、イオンパケットを小さい雲に圧縮する能力と高電圧加速パルスを印加する能力である。そのようなイオンパケットパラメータは、第1のイオンガイド71から直接高速で放出する場合には達成できないことがある。
【0088】
かなり大きい放出パルスを印加すると、イオンのターンアラウンドタイムが実質的に低下し、イオンガイドをMR−TOF MSのパルスイオン源として直接使用することができる。前述の幾何学例に行われたイオン光学シミュレーションにおいて、追加電極に高電圧パルスを印加することによって、ターンアラウンドタイムを数ナノ秒に短縮できることが分かった。例えば、(3つのうちの)中間の追加電極に5kVのパルスを印加し、出射孔に−1kVのパルスを印加することによって、軸方向の電界が約200V/mmになる。初期エネルギーの広がりが200meVで蓄積イオン雲のサイズが1mmであると仮定すると、1000amuイオンのターンアラウンドタイムはわずか10ナノ秒であり、放出されるイオンパケットのエネルギーの広がりは200eV未満である。DC加速器92内でDC約4kVの後段加速を適用することによって、イオンビームは、5%未満のエネルギーの広がりを有し、十分に集束され、10π*mm*ミリラド以下の空間電荷を有し、これは、本発明のMR−TOF分析装置の広いアクセプタンスと高次飛行時間集束と適合する。
【0089】
本発明者によるイオン光学シミュレーションで、MR−TOF MSの分解能は、主にターンアラウンドタイムによって制限されると考えられる。数値例として、エネルギー4keVと速度3×104m/sに加速された1000amuのイオンは、10ナノ秒のターンアラウンドタイムを有し、同時に50回の反射(一方向にシフトしながら25回の反射と帰りに25回の反射)を有する幅0.25mの分析装置で1ミリ秒の飛行時間を有する。そのような分析装置は、30mの有効飛行経路を有する折り返し経路を提供する。実際に10ナノ秒のターンアラウンドタイムが唯一の制限因子の場合は、分解能はR=50,000に達する。飛行時間のさらなる拡張は、分解能を更に改善すると予想される。さらに長い蓄積は、ターンアラウンドタイムを多少劣化させる。しかしながら、空間電荷電界とターンアラウンドタイムの増大は、飛行時間の増大よりも遅いと予想される。
【0090】
蓄積時間を長くすると、検出器のダイナミックレンジが圧迫される。MR−TOF内の飛行時間が長くなりイオン利用効率が高くなると、イオンは最大1ミリ秒蓄積されてから持続時間10〜20ナノ秒の短いパケットで検出器に到達する。検出器の飽和を防ぎ、従って分析パラメータ(質量精度、イオン分解能、ダイナミックレンジ等)の損失を防ぐために、時間−ディジタル変換器(TDC)と組み合わされたマイクロチャンネル極板検出器(MCP)ではなく、アナログ−ディジタル変換器(ADC)と組み合わされた二次電子増倍管(SEM)を使用することによって検出器のダイナミックレンジを広くすることができる。実施形態の1つとして、複合検出器を使用することができ、その場合、単一のマイクロチャンネル又はマイクロ球極板はシンチレータと光電子増倍管の後にある。また、以下の手段のいずれか又は任意の組み合わせを使用することを提案する。
a)様々な増幅段で電子をサンプリングする2つのコレクタを備えたSEMを使用する。
b)高速操縦装置と組み合わされた二重SEMを備えた機構を使用する。
c)1対の取得チャネルに接続された二重増幅器を使用する。
d)イオンパルスの強度がショット間で変化するように中間又は第2の蓄積トラップ内の2つの異なる蓄積時間を交替する。
【0091】
MR−TOFは、従来のTOF(1〜3ナノ秒)よりも長いイオンパルス(10〜20ナノ秒)を有すると予想されることに注意されたい。帯域幅要件が低いため、前述の手段の実現が容易になる。
【0092】
MR−TOF内のイオン利用効率が高くなるほど検出器の老朽化が早くなる。また、検出器の寿命を長くしそのダイナミックレンジを大きくするために、より短い蓄積時間で質量スペクトルのプレ走査を使用することを提案する。このプレ走査から、極めて強いピークのリストを推定して機器コントローラのメモリに記憶することができる。このリストを使用してパルスイオンセレクタを制御することができる。パルスイオンセレクタは、検出器に組み込まれてもよく、偏向器又はレンズ或いは前述の実施形態のいずれかのMR−TOFのドリフト空間内に組み込まれてもよい。このセレクタは、パケットがセレクタ内を飛行している間に強力なパケットの大部分を偏向させるか散乱させることによって強力なイオンピークに対応する質量電荷比を備えたイオンを抑制するために使用される。また、そのようなピークを実質的に低い利得を有するもう1つの検出器に方向転換することができる。セレクタの好ましい実施形態には、ブラッドベリー=ニールセンイオンゲート、平行極板偏向器、イオン検出器内の制御グリッド(例えば、二次電子の通過を止めるためにパルス化されたダイノード又はマイクロチャネル極板間のグリッド)がある。実際のイオン強度の計算においてイオン強度の抑制が考慮される場合がある。次に、1ショット当たりのイオン数は、任意のイオン蓄積段、MR−TOF又は検出器において抑制されることがある。
【0093】
検出器に圧力をかけ老朽化する他に、1パルス当たりの過剰な量のイオン(2*105以上)は、蓄積装置内に空間電荷を作り出す役割をもつ。様々な戦略には、予備又は二次イオン蓄積装置の段におけるイオンビーム強度又は1パルス当たりのイオン数の制御された抑制がある。そのような制御された抑制には、例えばRFトラップ装置内で長期的運動を刺激し、それらのイオンの選択的損失を引き起こすことによる、対象となる質量範囲の選択、低質量イオンの除去、最も強力なイオン構成要素の質量選択的除去がある。
【0094】
イオントラップ源と組み合わせたMR−TOF MSの前述の方式によって連続イオンビームをイオンパケットに100%変換することができる。更に、イオンパケットの達成可能なパラメータは、新規なMR−TOF MSのイオンの完全な透過を可能にし、ターンアラウンドタイムが主な制限因子である場合は、長さ1mの機器内で50,000の分解能を達成することができる。そのようなパラメータは、既存のo−TOF MSの分解能と感度を超え、また既存のMR−TOF MSのものよりも優れている。
【0095】
多重反射分析装置内と1組の周期的レンズ内の安定したイオン閉じ込めによって、MR−TOFの感度と分解能が改善され、長いイオン分離が可能になる。新規の分析装置のそのような特性は、著者の1人の同時係属出願WO2004008481号に記載され、参照により本明細書に組み込まれた平行MS−MS分析装置を備えたタンデム型質量分析計で極めて有用である。そこで、1組の周期的レンズをTOF−TOFタンデムの第1の多重反射分析装置を導入し、それにより平行MS−MS分析の感度と分解能の両方を改善する。
【0096】
図15を参照すると、タンデム型質量分析計151の好ましい実施形態は、パルスイオン源51、多重反射質量分析計31、フラグメンテーションセル152、及び直交飛行時間型質量分析計161から成る。前述のパルス化イオン源51は、連続イオン源、二重蓄積イオンガイド、及び加速器から成る。第2の蓄積イオンガイドは、この図では、軸方向のイオン放出のためにセットアップされた補助DC電極84を備えたRF線形イオントラップ83として示されている。前述のMR−TOF MS31は、無電界領域14、オフライン検出器34、好ましくは4つ以上の電極を含みかつ高次時間飛行及び空間的集束を提供するように構成され制御された2つの平面グリッドレスミラー15、折り返しイオン経路に沿った安定したイオン閉じ込めのための1組の周期的レンズ17、好ましくは周期的レンズ17に組み込まれエッジイオン反射によって飛行経路の拡張を実現する1対のエッジ偏向器32及び33から成る。
【0097】
フラグメンテーションセル152は、同時係属特許出願に詳細に示されている高速フラグメンテーションセルである。フラグメンテーションセルは、半径方向のイオン閉じ込めのための短い(5〜30mm)RF四重極158、並びに時間依存軸方向電界を形成する補助DC電極159と出射孔160を含むことが好ましい。四重極は、ポート157を介して比較的高いガス圧(0.1〜1Torr)でガスが充填された内側セル156によって取り囲まれている。MR−TOFのガス負荷を小さくするために、セル156のまわりの空間は、ターボポンプ155によってポンピングされる。イオン伝送を強化するために、内側セルの両端に集束レンズ154が設けられている。
【0098】
直交TOF161は、当技術分野で周知の従来装置である。これは、パルス化電極162とインライン検出器164を備えた直交加速段163、ポンプ165、電気的に浮かされた無電解領域166、イオンミラー167、及びTOFイオン検出器168から成る。直交加速は、入るイオンビームに沿って向けられたスリットを有する平らな電極で行われることが好ましい。直交TOFは、約10マイクロ秒時間の高速フラグメント分析を実現するために、イオン経路が短く(0.3〜0.5m)加速電圧が高い(5kV超)点がほとんどの従来の機器と異なる。動作において、パルスイオン源51は、親イオンのバーストを周期的(例えば、10ミリ秒に1回)に生成し、イオンを蓄積し第2の蓄積装置82からイオンを放出することによってイオン源61からの連続イオンフラックスをイオンパルスに変換する。様々なm/z比率を有する親イオンの混合物は、様々な分析種の混合物を表す。イオンは、30mを超える複数の拡張折り返しイオン経路を有する第1の分析装置31内で時間的に分離される。分析装置は、約50〜100eVの少ないイオンエネルギーで動作して分離時間を約10ミリ秒に延長する。本発明のMR−TOFは、低いエネルギーと延長された飛行時間においてイオン分離に極めて適している。分析装置は、イオンエネルギーに対する高次飛行時間集束を提供することによって高い相対的エネルギー広がり(20%以内)を許容する。また、これにより、低いイオンエネルギーでの例外的伝達が可能になる。イオンは、イオンミラーによってX方向に跳ね返されて、Z方向に周期的に集束される。これと同時に、イオンは、1組の周期的レンズ17内で周期的に集束するのでジグソー折り返し軌道に沿って維持され、X方向に周期的に集束される。イオン飛行経路は、エッジ偏向器33内の反射によって拡張される。最初に注入されたイオンは経路35をたどる。エッジ偏向器32内で操縦された後、イオンは軌道36をたどり、ミラー間で複数の跳ね返りを受ける。軌道36は、右から第2のエッジ偏向器33に近づく。エッジ偏向器33は、イオンを操縦して軌道37をたどるようにする。そのような操縦は、Y軸に沿ったイオンドリフトの方向を戻す。軌道37は、再び複数のレンズを通り、左からエッジ偏向器32に近づく。静止エッジ偏向器32は、ビームをフラグメンテーションセル152内に向ける。イオンエッジ反射が一定電圧を使用して行われることに注意されたい。飛行経路は、分析装置の全質量範囲を保ちながら2倍になる。
【0099】
偏向器は、以下の幾つかの目的のためにパルスモードで使用されることがある。
1.質量範囲を犠牲にして飛行経路を更に拡張する。偏向器32を2倍の偏向電圧にパルス調整することによって、軌道が取り囲まれる。軌道37に沿って入ってきたイオンは、軌道36内に戻され、偏向器32が小さい偏向に戻され、偏向器32がオフにされている場合にイオンが軌道39又は軌道38に沿って解放されるまで複数のエッジ偏向を受ける。
2.単一エッジ偏向後にイオンをオフライン検出器34に戻す。偏向器32は、軌道35の最も重いイオンが偏向器を通ってMR−TOFに入った後でかつ軌道37の最も軽いイオンが偏向器32に近づく前にオフにされる。
3.ビームをオフライン検出器34内に向けることによって分析装置をバイパスする。
4.低質量イオンや極めて強力なイオンなどの望ましくない種の粗い質量分離又は抑制を行う。
【0100】
親イオンは、イオン分解のために十分に高い運動エネルギー(約50〜100eV)でフラグメンテーションセル152に導入される。同時係属発明に記載されているように、フラグメンテーションセルは、好ましくは0.1Torrを超える高いガス圧でガスが充填され、セルは短く維持される(約1cm)。セル内のガス圧が高くなると(通常より0.005〜0.01Torr高く)、静電レンズ又はRF集束装置のイオン集束の追加手段による差動ポンピングの追加のエンベロープが必要になる。セル内のイオンの移動は、軸方向のDC電界又は移動波状軸方向電界によって加速される。その結果、イオンは、10マイクロ秒未満だけイオンパケットを広げながら約20マイクロ秒でセルを通過する。同じ電界は、イオンの周期的蓄積とパルス放出を可能にするか、少なくともイオン速度の実質的な同期変調を可能にする。
【0101】
次に、フラグメントイオンは、質量分析のために、セルから第2のTOF分析装置161内に放出される。第2の分析装置の効率を高めるために、イオンは、フラグメンテーションセル152の出口で約10マイクロ秒ごとに周期的に集束され、それらのパルスは、o−TOF161内の直交加速163のパルスと同期される。第2の分析装置161は、短い飛行時間(10〜30マイクロ秒)を有するように調整され、この短い飛行経路は、中くらいの飛行経路(1m未満)と高いイオンエネルギー(5kV以上)で達成されると予想される。2つの分析装置の全く異なる時間スケール(少なくとも2桁)によって全ての親イオンの並行MS−MS分析が可能である。様々な親イオン種のフラグメントが様々な時間に形成され、それらを混ぜることなく個別のフラグメント質量スペクトルを記録するために、いわゆる時間入れ子式データ収集システムが使用される。
【0102】
全般に、フラグメンテーションセルが、当該技術又は本発明に示されている任意のRF蓄積装置を含むことができることに注意されたい。セルの蓄積及び周期的パルス放出を使用することによって、約10マイクロ秒の短い分離時間を有する限り、任意の他のタイプのTOF MSも同じように利用することができる。例えば、特に加速電圧を高め(例えば5kV)、シフトイオン反射を使用して飛行経路を短く調整する場合は、第2のTOF分析装置として別のMR−TOF MSを使用するこができる。
【0103】
示したMS−MS機器は、特にオンライン分離技術との組み合わせで有用なMS−MS分析(最大で数百MS−MSスペクトル/毎秒)の極めて高いスループットを有することが予想される。そのようなタンデム型機器は、薬学研究における組み合わせライブラリやプロテオーム研究におけるペプチド混合物等の極めて複雑な混合物の分析に利用されると予想される。この機器は、両方の質量分析段の限定された質量解像力(分解能)を有する。TOF2データシステムと時間分解能が1ナノ秒でTOF1の分離時間が10ミリ秒であると仮定すると、2つの質量解像力の積R1*R2は2.5*106未満であり、例えば、さらに、並行MS−MS分析の能力を考慮するR1=300〜500とR2=3000〜5000の強力な分析的組み合わせを行う。親イオンの同位体のグループを分離するにはR1>300で十分であり、適度な質量イオンの電荷状態を決定するにはR2>3000で十分である(m/z<2000a.m.u(原子質量単位))。
【0104】
両方の段の分解能は、TOF1により大きい分離時間を使用することによって改善することができる。TOF1にイオンビームを安定的に維持すると、TOF1の損失なしにより長い分離が可能になる。FTMS内で10〜11Torr以上の真空が達成されており、飛行時間を数分に拡張することができる。しかしながら、10ミリ秒を大きく下回るTOF1分離時間のさらなる拡張の可能性は、パルスイオントラップ内の空間電荷効果によってある程度制限される。空間電荷制限と有限の蓄積時間によって、両方の段で分解能を高めることはできない。例えば、R1=100,000、R2=100,000及び積R1*R2=1010の組み合わせは40秒の蓄積時間を必要とし、これは、そのような期間にESIイオン源によって生成される約1010のイオンを蓄積するために必要である。直径1mmのイオン雲は、トラップできない約10kVの空間電荷電位を有することになる。パルス化トラップ内へのイオン注入時間を制限し制御するか、前の質量分離を使用するか、或いは多数のイオン種から選択的にろ過することにより、トラップ内のイオン数を106未満に制限することによって折り合いをつける多数の方法がある。そのようなイオン作成段は、中間イオンガイド71内又は第2の蓄積装置81内で行うことができる。
【0105】
より高い分解能の両方のMS段は、ビーム全体の減衰(注入時間の制限による)、所望の種の分離、又はたくさんの種のろ過によるイオン損失を避けられないので、並行分析には適合しないと思われる。しかしながら、両方の段における極めて高い分解能を使用して低分解能の迅速なスクリーニングを後のデータマイニングと組み合わせることはより有望と思われる。第1のステップで、対象とする親イオンの質量を決定することができ、第2の分析ステップは、それらのイオン種の高精度で確実な分析に使用される。
【0106】
図16は、高分解能タンデム型飛行時間質量分析計171の好ましい実施形態を示す。タンデム171は、第1のMR−TOFにおいて時限イオン選択を使用しまたフラグメント分析のために第2の多重反射分析装置31Bを使用すること以外、前述のタンデムTOF−TOF151と類似している。第2のMR−TOF分析装置31Bは、第1のMR−TOFとある程度類似している。これは、無電界領域14B、2つの平面グリッドレスミラー15B、1組の周期的レンズ17B、検出器34B、及び1対のエッジ偏向器32Bと33Bから成る。また、第2の分析装置31Bは、飛行経路調整用に、第2の周期的レンズセット17Bに組み込まれた追加のレンズ偏向器173を含む。
【0107】
タンデムMS171の他の要素は、前述の要素と類似している。パルスイオン源51は、連続イオン源、二重蓄積イオンガイド、及び加速器から成る。前述の第1のMR−TOF MS31Aは、無電界領域14A、2つの平面グリッドレスミラー15A、1組の周期的レンズ17A、1対のエッジ偏向器32Aと33A、オフライン検出器34A、及び時限イオンセレクタ172(第2のMR−TOF 31Bには使用されていない)から成る。前述の高速フラグメンテーションセル152は、ポート157を介してガスが比較的高いガス圧(0.1〜1Torr)で充填された短い(5〜30mm)RF四重極158を含む。この四重極は、両端に集束レンズ154を有する状態で内側セル156によって取り囲まれている。セルは、例えば、軸方向DC電界を変調することによってセル内を通過するイオンを減速し加速する手段159と160を有することが好ましい。
【0108】
動作において、イオンは、パルスイオン源51に蓄積され、飛行時間分離のために第1のMR−TOF分析装置31A内に放出される。分離されたイオン又はそのようなイオンの一部は、時限イオンゲート172によってフラグメンテーションセル152に入れられ、そこでイオンはフラグメント化される。フラグメントイオンは、周期的に、質量分析のためにセル152から第2のMR−TOF分析装置31Bにパルス式に送られる。以下では、2つのタンデム動作モード、即ち並行MS−MS分析の高スループットモードと、順次MS−MS分析の高分解能モードについて説明する。
【0109】
最初の高スループットモードにおいて、第1の分析装置は、約−50Vに調整された浮遊可能な無電解領域14Aの電位によって制御された低いイオンエネルギーで動作する。分離には約10ミリ秒時間かかり、全ての親イオンがフラグメンテーションセル152に入る。時限イオンゲート172は、親イオンを入れている間オフのままであるが、溶媒イオンと化学バックグラウンドイオンの大部分を含む低質量範囲の抑制に使用されることがある。第2の分析装置は、約−5kVに保持される無電解領域14Bの電位によって制御される高イオンエネルギーに調整され、即ちイオン速度は、第1の分析装置よりも1桁大きい。第2の分析装置内の飛行経路は、イオンドリフト方向を戻す追加の偏向器173を使用することによって実質的に短縮される。イオンは、イオンミラー15Bで2回だけ反射され、検出器34Bに導かれる。フラグメントイオンの代表的な飛行経路は、約0.5mになり、即ち、第1のMR−TOF31Aよりもほぼ2桁短くなる。時間スケールは、およそ3桁異なり、これにより、時間入れ子データ収集による複数の親イオンの前述の並行MS−MS分析が可能になる。この分析によって、一連の所望のフラグメントを有する親イオンの迅速な割り当てが可能になる(例えば、いわゆるイミニウムイオン(immonium ion)の存在によって、アミノ酸で構成されたペプチドが決定される)。親イオン質量に関する情報は、より高い分解能とより高い特定性を有する第2の分析モードにおける詳細なMS−MS分析の促進に使用することができる。
【0110】
第2の高分解能測定モードにおいて、両方のMR−TOF分析装置は、高いエネルギーと分解能で動作する。エネルギーは、無電解領域14Aと14Bの両方に負の高電位(例えば、−5kV)を印加することによって調整される。代表的な30mの飛行経路において、飛行時間は約1ミリ秒であると思われる。その結果、パルスイオン源の周波数を1kHzに調整する必要がある。第2の蓄積装置の抽出パルスは、高分解能MR−TOF MS内で使用されているものと類似のより強い電界を提供するように調整される。より高い電圧(例えば−5kV)パルスが射出孔92に印加され、対応する正の高電圧パルス(+5kV)が補助電極84に印加される。より強い電界に比例して、サイズ0.5mmのイオン雲の場合、ターンアラウンドタイム(5〜10ナノ秒)が減少し、イオンエネルギーの広がり(100〜200eV)が拡大すると推定される。第1のMR−TOF分析装置の予想分解能は、約50,000〜100,000であると予想される。
【0111】
そのような分解能で単一のイオン種を選択するためには、ブラッドベリー=ニールセンゲート、即ち、1つの平面内に配置された交互の2列のワイヤで構成された装置で達成可能な0.3mmの空間分解能の時限イオンセレクタを必要とする。2つの列の間に短い10〜30ナノ秒のパルスを印加することによって、短いパルスのイオンがゲート内に入り、同時に、他のイオン種は操縦され、次に止まったときに失われる。例として、第1のレンズの近くの中間飛行時間集束平面内に時限イオンゲートが配置される。ワイヤに印加される1000Vのパルスによって、10kVイオンが3度(1/20)ずれ、これは、CIDセルの1mmの入口アパーチャ153を外すのに十分である。親イオン選択の分解能は、更に、第1のMR−TOF内の飛行経路と飛行時間の同時拡張により複数のエッジ反射を使用することによって改善することができる。いずれにしてもゲートが1m/zの親イオンを入れるので、関連した質量範囲の縮小は重要ではなくなる。また、この場合、ターンアラウンドタイムが長くなることを犠牲にして親イオンのエネルギーの広がりを50eV以下に小さくすることが望ましく、この長いターンアラウンドタイムは、第1の分析装置内で飛行経路を長くし、加速エネルギーを低くし、飛行時間を長くすることによって補うことができる。
【0112】
質量選択された親イオンは、約50〜100eVまで減速され、フラグメンテーションセル152の入口アパーチャに集中する。そのようなエネルギーの注入によって、選択された親イオンのフラグメント化が起こる。フラグメントは、RFトラップ157内のRF閉じ込めと、補助電極と出射孔のDC電位によって形成される軸方向DCウェルを配列することによってフラグメンテーションセル152内に蓄積される。これらの電極に電気パルスを印加することによって、フラグメントイオンは、質量分析のために第2のMR−TOF内にパルス式に放出される。イオンパルスと第2の分析装置のパラメータは、第1のMR−TOFのものと類似している。CIDセルは、前述のパルスイオン源の様々な要素と機構を含むことができる。従って、フラグメントの質量分析は、50,000〜100,000の高い解像力(分解能)が期待される。説明したタンデムは、分析時間の完全な使用を可能にする。第2のMR−TOF31Bにおいてフラグメントセル152が空になりフラグメントイオンが質量分離されている間、第1の分析装置31Aは、親イオンの選択とフラグメンテーションセル内への注入を同時に行うために使用されてもよい。
【0113】
図17は、パルスイオン源51、単一のMR−TOF分析装置31、及び任意選択のフラグメンテーションセル182から成る効率的なタンデム型機器181を示す。パルスイオン源51の蓄積装置73又は83を含むタンデム181のガス充填蓄積装置或いは任意選択のフラグメンテーションセル182を使用して、イオンをフラグメント化し、それを後の質量分析又は分離のために同じMR−TOFに逆注入することができる。その結果、機器は、単にイオン選択、フラグメント化及び逆注入のステップを繰り返すだけで高分解能の逐次MS−MS分析又は複数段MSn逐次分析が可能になる。
【0114】
また、MR−TOFを複数回使用するには、MR−TOF内の偏向形態をわずかに調整しなければならない。セル182をイオンフラグメント化のために使用するタンデム181の例を検討する。親イオン分離段では、偏向器32と33は両方とも一定の操縦電位のままである。イオンは、一連の軌道35、36、37及び39をたどる。時限イオンゲート172は、対象イオンを軌道39に沿ってセルに入れる。イオンは、約50〜100eVまで減速され、フラグメント化を受ける。フラグメントは、電極187上のRF電界と、入口アパーチャ184、補助電極188及び後側電極189によって構成されたDCトラップ電位によって蓄積される。十分な所定の遅延後に、イオンは衝突制動され、セルからMR−TOFの方にパルス式に放出される。これらのイオンは、戻り軌道39と次に軌道37をたどる。しかしながら、セルからイオン放出する頃に、偏向器33は、異なる偏向モードに切り替えられる。イオンは、半分の角度で操縦され、ミラーから軌道190に沿って跳ね返り、その動きを軌道37と次に軌道39に戻す。次に、偏向器32がオフにされて全てのイオンがオフライン検出器34に送られるか、時限イオンセレクタ172が、対象となる娘イオンを選択しそれをMSn分析のさらに他の段階のためにフラグメンテーションセル内に送るために使用される。同様に、蓄積イオンガイド73又は83がイオンフラグメント化に使用される場合、蓄積装置内へのイオンの戻りは、イオンを半分の角度で偏向する偏向器33によって調整されることがある。ミラーで垂直に反射された後、イオンは、同じ軌道36に戻る。これにより、所望のサイクル数の間、イオンがフラグメンテーションセルとMR−TOF分析装置の間を通ることができる。この場合も、複数エッジ偏向を使用して単一試料の選択を強化することができる。また、二重蓄積機構は、事前に蓄積したイオンのパルス放出と複数段MS−MS分析のイオンフラグメント化に第2の区分室を使用しながら、入ってくるイオンを第1の区分室に連続的に蓄積することによってイオンデューティサイクルの節約を可能にすることができる。
【0115】
示した好ましい実施形態は、説明の例であり、限定されることを意図していない。更に、本発明の趣旨と原理の範囲内にある多数の変更を行うことができることが当業者には明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】WollnikらによるGB特許第2080021号(英国特許の図3と図4)の従来技術の多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)を示す図である。
【図2】NazarenkoらによるSU1725289の試作品の「折り返し経路」MR−TOF MSを示す図である。
【図3】M.ParkによるUS6107625の従来技術の「同軸反射」MR−TOF MSを示す図である。
【図4】本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態を新規の周期的レンズの詳細を示す図である。
【図5】本発明の好ましい実施形態のイオンミラーのMR TOF分析装置の幾何学的配置及び電位を示す図である。
【図6】シフト方向のエッジイオン反射によるイオン経路拡張の概略と原理を示す図である。
【図7】中間イオン蓄積装置を使用して連続イオン源から本発明のMR−TOF MS内にイオンをサンプリングする概略を示す図である。
【図7A】MR−TOF MS内のパルスイオン源のブロック図である。
【図7B】連続イオン源の例としてエレクトロスプレーイオン源の詳細を示す図である。
【図7C】準連続イオン源の例として衝突制動を有するMALDIイオン源の詳細を示す図である。
【図7D】中間蓄積イオンガイドの詳細を示す図である。
【図8】第2のイオン蓄積装置とイオン加速器の概略を示す図である。
【図9】軸方向放出と任意の加速器を有する二重イオン蓄積のブロック図である。
【図10】パルス軸方向イオン放出を実現する第2の蓄積装置の特定の機構を示す図である。
【図11】非蓄積イオンガイドからの直交加速を有する機構を示す図である。
【図12】四重極イオンガイドと三次元四重極イオントラップの複合体を構成する第2の蓄積装置の特定の機構を示す図である。
【図13】複合トラップの細分化した類似物の図である。
【図14】本発明のMR−TOF MSの好ましい実施形態の詳細を示す図である。
【図15】並行MS−MS分析を備え親イオンの低速分離の第1のMS段としてMR−TOF MSを含むタンデム型質量分析計の好ましい実施形態の図である。
【図16】MS−MS分析の高スループットモードと高分解能測定モードの汎用切り換えを提供する両方のMS段にMR−TOF MSを備えたタンデム型質量分析計の好ましい実施形態の図である。
【図17】単一MR−TOF MS分析装置とイオンの流れを戻すフラグメンテーションセルを使用する多段MSn分析用の質量分析計の好ましい実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0117】
11 MR−TOF MS
12 パルスイオン源
13 内蔵加速器
14 無電界空間
15 グリッドレスイオンミラー
16 イオンレシーバ
17 複合レンズ
19 折り返しイオン経路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)であって、
パルスイオン源と、
イオンレシーバと、
実質的にシフト方向に延びた2個の平行グリッドレスイオンミラーからなる組と、
前記ミラー間のドリフト空間とを含み、
上の各要素が、イオンミラー間の多重反射とシフト方向の変位からなる、イオン源とレシーバ間の折り返しイオン経路を提供するように配置されており、
前記MR−TOF MSは、飛行時間が実質的にイオンエネルギーに依存しないようにイオンを質量電荷比に従って時間的に分離し、
分解能と感度を改善するために、複数のレンズからなる組が、前記ドリフト空間内に前記シフト方向に沿って、整数回のイオン反射ごとのイオンシフトに対応するシフト方向の周期で位置決めされた多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項2】
前記イオンミラーの各々は、折り返しイオン経路の平面を横切る初期空間的広がりに対しイオン飛行時間の独立性を提供するために少なくとも4個の電極を含む、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項3】
前記パルスイオン源が、SIMS、MALDI、IR MALDIから選択されるイオン源を含み、イオン源は好ましくはa)パルスガス供給源、b)パルス電圧による加速器、c)静電圧による加速器のいずれかの装置を備える、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項4】
前記パルスイオン源が、イオン蓄積装置とイオン加速器とを含み、イオンは、ESI、APCI、APPI、EI、CI、PI、ICP、ガス充填若しくは雰囲気MALDI、ガスイオン反応セル、DC若しくは電界非対称イオン移動度分光計、又はタンデム型質量分析計のフラグメンテーションセルから選択される本質的に連続したイオン源によって生成される、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項5】
前記イオン蓄積装置は、複数の細長いロッドを有するイオンガイド、三次元四重極イオントラップ、半径方向又は軸方向のイオン放出を有する線形イオントラップ、イオン通過用の開口を有する1又は複数の電極を有するRFチャネル、リング電極トラップ、イオンガイドと三次元イオントラップの複合物、又は平坦な板からなる上の装置のセグメント化された類似物から選択される任意の装置又は装置の組み合わせを含む、高周波(RF)が少なくとも1個の電極に印加されたガス充填電極セットを含む、請求項4に記載のMR−TOF MS。
【請求項6】
前記イオン蓄積装置は、2組の電極を含み、第1組の少なくとも1個の電極に高周波電圧が印加され、第2組の少なくとも1個の電極にパルス電圧が印加された、請求項5に記載のMR−TOF MS。
【請求項7】
前記イオン加速器はパルス直交加速器を含み、該加速器は好ましくは、MR−TOF MSのシフト軸に沿って延在し方向付けされたスリットを有する平坦な電極から構成された、請求項4に記載のMR−TOF MS。
【請求項8】
前記加速器が、パルスイオンミラー又はイオンミラーパルス化部分に組み込まれるか或いはイオンミラーの近くに位置決めされ、整合する電極形状と電位を有する、請求項4に記載のMR−TOF MS。
【請求項9】
前記連続イオン源が、請求項4のイオン蓄積装置の前にありかつ好ましくは請求項4のイオン蓄積装置より高いガス圧を有する追加の中間蓄積イオンガイドを含み、前記追加蓄積イオンガイドが、請求項5又は6に挙げた任意の装置を含む、少なくとも1個の電極に高周波電圧が印加されたガス充填電極セットである、請求項4に記載のMR−TOF MS。
【請求項10】
簡便な同調のため、周期的レンズは、実質的に折り返しイオン経路の平面を横切って延びている、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項11】
前記延びているイオンミラーは、導電性方形フレーム、長いスロットを有する板、バー、ロッド等からなる平行な組立体として作成され、その縁は、必要に応じてプリント回路基板によって終端された、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項12】
前記ミラーの各々は、互いに逆極性の電圧又はドリフト空間の電位を有する少なくとも2個の電極を含む、請求項2に記載のMR−TOF MS。
【請求項13】
少なくとも1個のイオンミラーの少なくとも1個の電極の少なくとも一部分が、MR−TOF MSとの間のイオンゲーティングのためのパルス電圧源に接続された、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項14】
ドリフト空間が、DC又はパルス電圧源に接続されたイオン偏向手段を含む、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項15】
前記偏向手段が、平面状の又は湾曲した少なくとも1組の操縦板を含む、請求項14に記載のMR−TOF MS。
【請求項16】
操縦板が、請求項10の平面レンズの電極と同じ寸法を有し、少なくとも1つの操縦板が、集束と操縦を組み合わせるか又はそれらを切り換えるように調整された、請求項15に記載のMR−TOF MS。
【請求項17】
少なくとも1つの偏向器が、シフト軸の遠い側にイオン源に対向して配置され、前記偏光器は、イオンシフト方向を戻すために静的モードでイオンを操縦する、請求項14に記載のMR−TOF MS。
【請求項18】
少なくとも1つの偏向器が、シフト軸のイオン源側に配置され、前記偏向器は、イオンを軸外検出器内に方向付けるように或いはイオンをMR−TOF分析装置内に方向付けるように動作するか、或いはパルスモードにおいてMR−TOF MS内でイオン閉じ込め時間の間だけイオンシフト方向を戻すように動作する、請求項14に記載のMR−TOF MS。
【請求項19】
イオンレシーバが、次のa)〜e)の任意の組み合わせ、即ちa)少なくとも1つのダイノードを有する二次電子増倍管、b)シンチレータと光電子増倍管、c)マイクロチャネル又はマイクロ球面板、d)複数の検出チャネル、及びe)好ましくはアナログディジタル変換器(ADC)を備えたデータ収集システムにそれぞれ接続された複数のアノードの任意の組み合わせを含む拡張ダイナミックレンジを有するイオン検出器である、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項20】
データ収集のダイナミックレンジが、様々な強度のパルスイオン源による走査を交互にすることによって拡張され、好ましくは任意のイオン蓄積装置内へのイオン注入の持続時間を調整することによって変更される、請求項19に記載のMR−TOF。
【請求項21】
検出器の寿命を延ばすために、少なくとも1つのイオン蓄積装置を配置し制御して、低質量イオン成分をフィルタで除去するか或いは最も強力なイオン成分を選択的に除去又は抑制する、請求項19に記載のMR−TOF。
【請求項22】
検出器の寿命を延ばすために、前記MR−TOF分析装置は追加の時限イオンセレクタを更に含み、前記セレクタは、低い強度のパルスイオン源における予備走査で決定された最も強力なイオン成分を抑制するように制御され、前記セレクタは、ブラッドベリー=ニールセンイオンゲート、平行板偏向器、イオン検出器内の制御グリッドから選択される装置を含む、請求項19に記載のMR−TOF。
【請求項23】
イオンレシーバは、フラグメンテーションセル、イオン分子反応若しくはイオン−イオン反応か電子捕捉解離かイオン捕捉解離のためのセル、表面への柔軟なイオン蒸着用のセル、及び表面イオン解離用のセルから選択されるガス充填セルであり、これらのガスセルは好ましくは、イオン衝突制動及び閉じ込めのためにRF電圧に接続された電極の組を有する、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項24】
親イオンを分離するための請求項1から23のMR−TOF MS、フラグメンテーションセル、及びフラグメントイオンの質量分析用の追加の質量分析計を含み、前記各要素が順次相互接続された、タンデム多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS−MS)。
【請求項25】
フラグメンテーションセルは、ガス充填され、好ましくは追加の差動ポンピングステージとイオン集束手段とを含む、請求項24に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項26】
セル長Lとセル内ガス圧Pの積は、P*L>0.2Torr*cmより高く維持され、好ましくはP>0.5Torr且つL<1cmである、請求項25に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項27】
フラグメンテーションセルが、高周波(RF)電圧が少なくとも1個の電極に印加されたガス充填電極セットを含み、前記ガス充填電極セットは、イオンを半径方向に閉じ込めるために請求項5に列挙したものから選択される任意のRF装置を構成する、請求項24に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項28】
セルは更に、DC電圧又は徐々に変化する電圧に接続され軸方向のDC電界又は軸方向に移動する波状電界を形成してセル内のイオン運動の速度を制御するための電極の組を含み、前記DC電圧が、請求項27のRF電圧と同じ組或いは別の組の電極に印加された、請求項27に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項29】
前記追加の質量分析計が、飛行時間型質量分析計(TOF MS)である、請求項24に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項30】
追加のTOF MSが、直交イオン加速器、好ましくはグリッドレスの直交イオン加速器を含む、請求項29に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項31】
第2のTOF MSが、より短いイオン経路と、好ましくはより高い加速電圧とを有し、その結果、前記第2のTOF MS内の飛行時間はMR−TOF MS内の飛行時間の少なくとも100分の1になり、第2のTOF MSは好ましくは、異なる親イオンに対応するスペクトルを混合することなくフラグメントスペクトルを「並行」収集するデータシステムを含む、請求項29に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項32】
前記第2のTOF MSも請求項1から23の多重反射分光計(MR−TOF MS)であり、好ましくは前記第2のMR−TOF MSは第1のMR−TOF MSと類似している、請求項29に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項33】
第2のMR−TOF MSが、偏向器、好ましくはドリフト空間内のレンズの幾つかに組み込まれた偏向器を含み、前記偏向器は、第2のMR−TOF内の飛行経路を調整できるように配置された、請求項32に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項34】
第1のMR−TOFとフラグメンテーションセルの間に時限イオンセレクタを更に含む、請求項32に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項35】
請求項1から23のMR−TOF MSと、前記MR−TOFに接続されたフラグメンテーションセルとを含み、前記フラグメンテーションセルは、タンデムMS−MS分析のためにイオンを同じMR−TOFに戻す手段を含むタンデム多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS−MS)。
【請求項36】
操縦板の組を更に含み、操縦板は好ましくは周期的レンズの幾つかと組み合わされ、前記操縦板は前記MR−TOF MS内の飛行経路を調整できるように配置され、前記調整は好ましくは、フラグメンテーションセルを出入りするイオンによって異なる、請求項35に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項37】
イオンの流れを戻す前記手段は、軸方向のDC電界又は移動する波状電界を提供するための電極と電圧源を含む、請求項35に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項38】
多重反射飛行時間型質量分析計を使用する試料分析方法であって、イオンパルスを形成し、二次元静電界内でイオンを反射し第3の「シフト」方向にイオンを変位させることによって形成された多重折り返しイオン経路に沿ってイオンを通過させ、質量電荷比に従って時間分離されたイオンをイオンレシーバ上に受け取る順次的段階を含み、前記静電界が、ドリフト空間によって分離された2つの平面状平行グリッドレスイオンミラー内に形成され、前記イオンミラーが、折り返しイオン経路の平面を横切る飛行時間集束と空間的集束を同時に達成するように同調され、分解能、感度及び使い易さを改善するために、複合周期的レンズの組によってイオンパケットがシフト方向に周期的に集束される方法。
【請求項39】
前記イオンパルスが、SIMS、MALDI、IR MALDIから選択されるイオン化方法によって作成され、この方法は好ましくはパルスガス冷却を含む前記パルス化された加速は、イオンパルスと冷却パルスとよりも遅れる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記イオンパルスは次の一連の段階、即ち、衝突冷却を伴うESI、APCI、EI、CI、PI、ICP、SIMS、MALDI等の連続的イオン化方法によって連続イオンビームを作成する段階と、RF電界とDC電界の組合せによるイオン閉じ込めとその後に起こるイオンパケットのパルス放出及び加速と共に用いることによってこの連続イオンビームをガス充填体積内に蓄積する段階とにより作成する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記イオン閉じ込めは更に、イオン蓄積と蓄積イオン雲の部分的放出とを行う予備段階を含み、この段階は、別の区分室内で、イオンパケットの加速前の蓄積段階よりも高いガス圧で実行される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
イオン蓄積段階の少なくとも1つの段階が、RF電圧が少なくとも1個の電極に印加される細長い電極セット内で行われる、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
イオンを予備イオン蓄積装置からパルス作成用の蓄積装置に導入している間にイオンビームが占める体積が、パルス放出の直前にイオンビームが占める体積の少なくとも5倍を超える、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
パルス作成用の蓄積装置は、MR−TOFに向けてのイオン加速方向と実質的に平行又は垂直な軸に沿って方向付けられると共に、放射状のRF電界と軸方向のトラップウェルとを含み、トラップウェルは、RF電界と一定電圧の組み合わせによって前記蓄積装置の少なくとも幾つかの電極上に形成された、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
パルス作成用の蓄積装置の少なくとも幾つかの電極に印加される少なくとも幾つかのRF電圧とDC電圧が、イオンのパルス放出中又はパルス放出前に急に変更され、好ましくはRF電圧はゼロ位相でオフにされ、パルスは所定の時間遅延後にオンに切り換えられる、請求項40に記載の方法。
【請求項46】
前記パルス放出が、実質的にRF電界を変化させることなくガス充填体積内の前記DC電界をパルス変化させることによって達成される、請求項40に記載の方法。
【請求項47】
前記パルス放出が、2つの別個の周波数同期段階と時間遅延段階、即ちガス充填体積からの放出と、その後のパルス化された加速、好ましくは直交方向のパルス化された加速からなる、請求項40に記載の方法。
【請求項48】
1パルス当たりイオンの数が、イオン蓄積段階、MR−TOF MS内の時間分離段階、又はイオン検出段階において調整され、前記調整は好ましくは、イオン蓄積装置への空間電荷効果を低減させるように或いは検出器のダイナミックレンジと寿命を改善するように行われる、請求項38に記載の方法。
【請求項49】
前記調整は、対象とする質量範囲のフィルタリング、低質量抑制、強力なイオン成分の選択的抑制、或いは1イオンパルス当たりのイオン数の非選択的調整を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
第2の蓄積装置内の複数のイオンは、検出段階とデータ収集段階のダイナミックレンジを大きくするために走査毎に変更される、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
1サイクル当たりの平均イオン数よりも実質的に低いイオン数を使用して予備スペクトルが少なくとも1回取得される、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
一定のしきい値を超える強度のイオンに対して質量電荷比のセットが決定され、前記1組の質量電荷比は、前記質量電界比のセットから選択された質量電荷比を有するイオンの少なくとも一部分の速度、方向又は空間分布に影響を与えるためにMR−TOF内のパルスイオンセレクタを作動させるために使用される、請求項48に記載の方法。
【請求項53】
パルスイオンセレクタは、ブラッドベリー=ニールセンイオンゲート、平行板偏向器、イオン検出器内の制御グリッドのいずれかである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記イオンミラーは、イオン経路面を横切るイオン幅に実質的に依存せずに飛行時間集束を提供するように配置され同調された、請求項38に記載の方法。
【請求項55】
前記時間集束は、交さ項を含む初期イオンパケットの空間的、角度的及びエネルギー的な広がりに対して二次まで達成され、そのような集束の温度的及び時間的ドラフトは好ましくは、イオンミラー電極、好ましくは端電極のイオンミラー電極の単一の電位を調整することによって補正される、請求項38に記載の方法。
【請求項56】
前記イオンミラーによる前記イオン空間及び飛行時間集束は、4〜7個の電極を備えたミラーを使用して達成されると共に、折り返しイオン経路の平面を横切る空間的集束は、ドリフト空間に対して逆極性の電位を有するレンズを平面イオンミラーに組み込むことによって達成される、請求項38に記載の方法。
【請求項57】
前記イオンミラーは、湾曲した二次元形状の電極を備えた4個未満の電極によって構成された、請求項38に記載の方法。
【請求項58】
少なくとも1個のイオンミラーの少なくとも1個の電極は、MR−TOF MSとの間のイオンゲーティングのため、初期加速のため、サイクル数の選択のため、或いは所望の質量範囲以外のイオンの廃棄のためにパルス化される、請求項38に記載の方法。
【請求項59】
前記MR−TOF MSの周期的レンズの組は、焦点距離Fが4分の1ターンの整数倍(F=N*P/4、N=1、2、3...)にほぼ等しくなるように調整される、請求項38に記載の方法。
【請求項60】
簡便な同調のために、周期的レンズは実質的にシフト軸を横切って延びている、請求項38に記載の方法。
【請求項61】
イオンは、一定及び/又はパルス式動作反射によりシフト方向に沿って反射して繰り返しセグメントを有する折り返し経路或いは繰り返しセグメントのない折り返し経路を形成し、MR TOF MSに対してイオンをゲーティングすると共にMR TOF MSをバイパスし、繰り返しサイクル数を制御する、請求項38に記載の方法。
【請求項62】
イオンミラー、レンズ及び偏向板に生じる色収差の相互補正を提供するために偏向板がドリフト空間内に配置される、請求項38に記載の方法。
【請求項63】
請求項38から62の方法と同様に親イオンを形成し分離し、質量電荷比に従って時間分離された親イオンをフラグメンテーションセル内に受け取り、フラグメンテーションセル内の親イオンの少なくとも幾つかをフラグメント化し、生成物の少なくとも一部を質量分析する順次的段階を含むタンデム型質量分光分析(TOF MS−MS)方法。
【請求項64】
セル長Lとセル内のガス圧Pの積が、P*L>0.2Torr*cmより高く維持され、好ましくはP>0.5Torr且つL<1cmであり、差動式にポンピングが行われ、中間ポンピング領域内の静電又は高周波イオン集束を伴う、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
イオンフラグメント化段階は更に、不均一な高周波(RF)電界による放射方向のイオン閉じ込めと、軸方向のDC電界又は軸方向に移動する波状電界のいずれかによって軸方向のイオン速度を制御する段階とを含む、請求項63に記載の方法。
【請求項66】
フラグメントイオンの前記質量分析が、別の飛行時間型質量分析計(TOF MS)における飛行時間分離の段階を含む、請求項63に記載の方法。
【請求項67】
第2のTOF MS内のフラグメンテーション時間と飛行時間が、第1のMR−TOF MS内の親イオン分離段階よりも少なくとも100小さく、データ収集が、複数の前駆体イオンの重複しないフラグメントスペクトルの「並行」分析に適している、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記フラグメントイオン飛行時間分離段階が、請求項38から62の方法におけるシフト方向の周期的集束と組み合わされた多重反射分光計内の多重イオン反射を含む、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
第2のMR−TOF内の飛行経路を調整する段階を含み、この段階は好ましくはシフト方向にイオンを反射することによって行われる、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
タンデム型MS分析の汎用性のために方法67と方法68の切り替えを更に含み、この切り替えは好ましくは、少なくとも1つの飛行時間分析装置内の加速電圧とイオン飛行経路によって支援される、請求項63に記載の方法。
【請求項71】
生成イオンを質量分析する段階は同じ多重反射分光計で実行され、イオンの流れはパルスイオン源の蓄積装置内又はフラグメンテーションセル内で戻される、請求項63に記載の方法。
【請求項72】
フラグメンテーションセル又は蓄積装置からフラグメントイオンを周期的に蓄積する段階とパルス放出する段階とを更に含み、これら段階は好ましくは、高周波電界及び時間変調軸方向DC電界の閉じ込めによって支援される、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
フラグメントイオンの飛行経路及び飛行時間は親イオンの飛行経路及び飛行時間よりもかなり短く、請求項67と同様に並行MS−MSスペクトルが取得される、請求項71に記載の方法。
【請求項74】
親イオンの飛行時間とフラグメント分離が比較可能であり、時限イオン選択が、フラグメンテーションセル内にイオンを受け取る前に実行される、請求項71に記載の方法。
【請求項75】
質量分離段階とフラグメント化段階は、所謂MSn分析、好ましくは構造研究又は不純物の決定のためのMSn分析を達成するために複数回繰り返される、請求項71に記載の方法。
【請求項76】
前述の方法のいずれかと、液体クロマトグラフィ、電気泳動、キャピラリー電気泳動、透析、親和力分離から選択される試料事前分離段階とを含む試料分析方法。
【請求項77】
上記方法のいずれかと、質量分析計内の質量分離或いはDC又は電界非対称イオン移動度分光計内の移動度分離の追加の段階とを含む試料分析方法。
【請求項78】
前記方法のいずれかと、ガス充填イオン蓄積区分室又はフラグメンテーションセル内におけるガスイオン反応の段階とを含み、前記ガス反応が、イオン分子反応、逆極性のイオンを含むイオン−イオン反応、イオン電子反応、又はイオンへの光子の照射を含む、試料分析方法。
【請求項1】
多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS)であって、
パルスイオン源と、
イオンレシーバと、
実質的にシフト方向に延びた2個の平行グリッドレスイオンミラーからなる組と、
前記ミラー間のドリフト空間とを含み、
上の各要素が、イオンミラー間の多重反射とシフト方向の変位からなる、イオン源とレシーバ間の折り返しイオン経路を提供するように配置されており、
前記MR−TOF MSは、飛行時間が実質的にイオンエネルギーに依存しないようにイオンを質量電荷比に従って時間的に分離し、
分解能と感度を改善するために、複数のレンズからなる組が、前記ドリフト空間内に前記シフト方向に沿って、整数回のイオン反射ごとのイオンシフトに対応するシフト方向の周期で位置決めされた多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項2】
前記イオンミラーの各々は、折り返しイオン経路の平面を横切る初期空間的広がりに対しイオン飛行時間の独立性を提供するために少なくとも4個の電極を含む、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項3】
前記パルスイオン源が、SIMS、MALDI、IR MALDIから選択されるイオン源を含み、イオン源は好ましくはa)パルスガス供給源、b)パルス電圧による加速器、c)静電圧による加速器のいずれかの装置を備える、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項4】
前記パルスイオン源が、イオン蓄積装置とイオン加速器とを含み、イオンは、ESI、APCI、APPI、EI、CI、PI、ICP、ガス充填若しくは雰囲気MALDI、ガスイオン反応セル、DC若しくは電界非対称イオン移動度分光計、又はタンデム型質量分析計のフラグメンテーションセルから選択される本質的に連続したイオン源によって生成される、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項5】
前記イオン蓄積装置は、複数の細長いロッドを有するイオンガイド、三次元四重極イオントラップ、半径方向又は軸方向のイオン放出を有する線形イオントラップ、イオン通過用の開口を有する1又は複数の電極を有するRFチャネル、リング電極トラップ、イオンガイドと三次元イオントラップの複合物、又は平坦な板からなる上の装置のセグメント化された類似物から選択される任意の装置又は装置の組み合わせを含む、高周波(RF)が少なくとも1個の電極に印加されたガス充填電極セットを含む、請求項4に記載のMR−TOF MS。
【請求項6】
前記イオン蓄積装置は、2組の電極を含み、第1組の少なくとも1個の電極に高周波電圧が印加され、第2組の少なくとも1個の電極にパルス電圧が印加された、請求項5に記載のMR−TOF MS。
【請求項7】
前記イオン加速器はパルス直交加速器を含み、該加速器は好ましくは、MR−TOF MSのシフト軸に沿って延在し方向付けされたスリットを有する平坦な電極から構成された、請求項4に記載のMR−TOF MS。
【請求項8】
前記加速器が、パルスイオンミラー又はイオンミラーパルス化部分に組み込まれるか或いはイオンミラーの近くに位置決めされ、整合する電極形状と電位を有する、請求項4に記載のMR−TOF MS。
【請求項9】
前記連続イオン源が、請求項4のイオン蓄積装置の前にありかつ好ましくは請求項4のイオン蓄積装置より高いガス圧を有する追加の中間蓄積イオンガイドを含み、前記追加蓄積イオンガイドが、請求項5又は6に挙げた任意の装置を含む、少なくとも1個の電極に高周波電圧が印加されたガス充填電極セットである、請求項4に記載のMR−TOF MS。
【請求項10】
簡便な同調のため、周期的レンズは、実質的に折り返しイオン経路の平面を横切って延びている、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項11】
前記延びているイオンミラーは、導電性方形フレーム、長いスロットを有する板、バー、ロッド等からなる平行な組立体として作成され、その縁は、必要に応じてプリント回路基板によって終端された、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項12】
前記ミラーの各々は、互いに逆極性の電圧又はドリフト空間の電位を有する少なくとも2個の電極を含む、請求項2に記載のMR−TOF MS。
【請求項13】
少なくとも1個のイオンミラーの少なくとも1個の電極の少なくとも一部分が、MR−TOF MSとの間のイオンゲーティングのためのパルス電圧源に接続された、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項14】
ドリフト空間が、DC又はパルス電圧源に接続されたイオン偏向手段を含む、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項15】
前記偏向手段が、平面状の又は湾曲した少なくとも1組の操縦板を含む、請求項14に記載のMR−TOF MS。
【請求項16】
操縦板が、請求項10の平面レンズの電極と同じ寸法を有し、少なくとも1つの操縦板が、集束と操縦を組み合わせるか又はそれらを切り換えるように調整された、請求項15に記載のMR−TOF MS。
【請求項17】
少なくとも1つの偏向器が、シフト軸の遠い側にイオン源に対向して配置され、前記偏光器は、イオンシフト方向を戻すために静的モードでイオンを操縦する、請求項14に記載のMR−TOF MS。
【請求項18】
少なくとも1つの偏向器が、シフト軸のイオン源側に配置され、前記偏向器は、イオンを軸外検出器内に方向付けるように或いはイオンをMR−TOF分析装置内に方向付けるように動作するか、或いはパルスモードにおいてMR−TOF MS内でイオン閉じ込め時間の間だけイオンシフト方向を戻すように動作する、請求項14に記載のMR−TOF MS。
【請求項19】
イオンレシーバが、次のa)〜e)の任意の組み合わせ、即ちa)少なくとも1つのダイノードを有する二次電子増倍管、b)シンチレータと光電子増倍管、c)マイクロチャネル又はマイクロ球面板、d)複数の検出チャネル、及びe)好ましくはアナログディジタル変換器(ADC)を備えたデータ収集システムにそれぞれ接続された複数のアノードの任意の組み合わせを含む拡張ダイナミックレンジを有するイオン検出器である、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項20】
データ収集のダイナミックレンジが、様々な強度のパルスイオン源による走査を交互にすることによって拡張され、好ましくは任意のイオン蓄積装置内へのイオン注入の持続時間を調整することによって変更される、請求項19に記載のMR−TOF。
【請求項21】
検出器の寿命を延ばすために、少なくとも1つのイオン蓄積装置を配置し制御して、低質量イオン成分をフィルタで除去するか或いは最も強力なイオン成分を選択的に除去又は抑制する、請求項19に記載のMR−TOF。
【請求項22】
検出器の寿命を延ばすために、前記MR−TOF分析装置は追加の時限イオンセレクタを更に含み、前記セレクタは、低い強度のパルスイオン源における予備走査で決定された最も強力なイオン成分を抑制するように制御され、前記セレクタは、ブラッドベリー=ニールセンイオンゲート、平行板偏向器、イオン検出器内の制御グリッドから選択される装置を含む、請求項19に記載のMR−TOF。
【請求項23】
イオンレシーバは、フラグメンテーションセル、イオン分子反応若しくはイオン−イオン反応か電子捕捉解離かイオン捕捉解離のためのセル、表面への柔軟なイオン蒸着用のセル、及び表面イオン解離用のセルから選択されるガス充填セルであり、これらのガスセルは好ましくは、イオン衝突制動及び閉じ込めのためにRF電圧に接続された電極の組を有する、請求項1に記載のMR−TOF MS。
【請求項24】
親イオンを分離するための請求項1から23のMR−TOF MS、フラグメンテーションセル、及びフラグメントイオンの質量分析用の追加の質量分析計を含み、前記各要素が順次相互接続された、タンデム多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS−MS)。
【請求項25】
フラグメンテーションセルは、ガス充填され、好ましくは追加の差動ポンピングステージとイオン集束手段とを含む、請求項24に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項26】
セル長Lとセル内ガス圧Pの積は、P*L>0.2Torr*cmより高く維持され、好ましくはP>0.5Torr且つL<1cmである、請求項25に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項27】
フラグメンテーションセルが、高周波(RF)電圧が少なくとも1個の電極に印加されたガス充填電極セットを含み、前記ガス充填電極セットは、イオンを半径方向に閉じ込めるために請求項5に列挙したものから選択される任意のRF装置を構成する、請求項24に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項28】
セルは更に、DC電圧又は徐々に変化する電圧に接続され軸方向のDC電界又は軸方向に移動する波状電界を形成してセル内のイオン運動の速度を制御するための電極の組を含み、前記DC電圧が、請求項27のRF電圧と同じ組或いは別の組の電極に印加された、請求項27に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項29】
前記追加の質量分析計が、飛行時間型質量分析計(TOF MS)である、請求項24に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項30】
追加のTOF MSが、直交イオン加速器、好ましくはグリッドレスの直交イオン加速器を含む、請求項29に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項31】
第2のTOF MSが、より短いイオン経路と、好ましくはより高い加速電圧とを有し、その結果、前記第2のTOF MS内の飛行時間はMR−TOF MS内の飛行時間の少なくとも100分の1になり、第2のTOF MSは好ましくは、異なる親イオンに対応するスペクトルを混合することなくフラグメントスペクトルを「並行」収集するデータシステムを含む、請求項29に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項32】
前記第2のTOF MSも請求項1から23の多重反射分光計(MR−TOF MS)であり、好ましくは前記第2のMR−TOF MSは第1のMR−TOF MSと類似している、請求項29に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項33】
第2のMR−TOF MSが、偏向器、好ましくはドリフト空間内のレンズの幾つかに組み込まれた偏向器を含み、前記偏向器は、第2のMR−TOF内の飛行経路を調整できるように配置された、請求項32に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項34】
第1のMR−TOFとフラグメンテーションセルの間に時限イオンセレクタを更に含む、請求項32に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項35】
請求項1から23のMR−TOF MSと、前記MR−TOFに接続されたフラグメンテーションセルとを含み、前記フラグメンテーションセルは、タンデムMS−MS分析のためにイオンを同じMR−TOFに戻す手段を含むタンデム多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF MS−MS)。
【請求項36】
操縦板の組を更に含み、操縦板は好ましくは周期的レンズの幾つかと組み合わされ、前記操縦板は前記MR−TOF MS内の飛行経路を調整できるように配置され、前記調整は好ましくは、フラグメンテーションセルを出入りするイオンによって異なる、請求項35に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項37】
イオンの流れを戻す前記手段は、軸方向のDC電界又は移動する波状電界を提供するための電極と電圧源を含む、請求項35に記載のMR−TOF MS−MS。
【請求項38】
多重反射飛行時間型質量分析計を使用する試料分析方法であって、イオンパルスを形成し、二次元静電界内でイオンを反射し第3の「シフト」方向にイオンを変位させることによって形成された多重折り返しイオン経路に沿ってイオンを通過させ、質量電荷比に従って時間分離されたイオンをイオンレシーバ上に受け取る順次的段階を含み、前記静電界が、ドリフト空間によって分離された2つの平面状平行グリッドレスイオンミラー内に形成され、前記イオンミラーが、折り返しイオン経路の平面を横切る飛行時間集束と空間的集束を同時に達成するように同調され、分解能、感度及び使い易さを改善するために、複合周期的レンズの組によってイオンパケットがシフト方向に周期的に集束される方法。
【請求項39】
前記イオンパルスが、SIMS、MALDI、IR MALDIから選択されるイオン化方法によって作成され、この方法は好ましくはパルスガス冷却を含む前記パルス化された加速は、イオンパルスと冷却パルスとよりも遅れる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記イオンパルスは次の一連の段階、即ち、衝突冷却を伴うESI、APCI、EI、CI、PI、ICP、SIMS、MALDI等の連続的イオン化方法によって連続イオンビームを作成する段階と、RF電界とDC電界の組合せによるイオン閉じ込めとその後に起こるイオンパケットのパルス放出及び加速と共に用いることによってこの連続イオンビームをガス充填体積内に蓄積する段階とにより作成する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記イオン閉じ込めは更に、イオン蓄積と蓄積イオン雲の部分的放出とを行う予備段階を含み、この段階は、別の区分室内で、イオンパケットの加速前の蓄積段階よりも高いガス圧で実行される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
イオン蓄積段階の少なくとも1つの段階が、RF電圧が少なくとも1個の電極に印加される細長い電極セット内で行われる、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
イオンを予備イオン蓄積装置からパルス作成用の蓄積装置に導入している間にイオンビームが占める体積が、パルス放出の直前にイオンビームが占める体積の少なくとも5倍を超える、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
パルス作成用の蓄積装置は、MR−TOFに向けてのイオン加速方向と実質的に平行又は垂直な軸に沿って方向付けられると共に、放射状のRF電界と軸方向のトラップウェルとを含み、トラップウェルは、RF電界と一定電圧の組み合わせによって前記蓄積装置の少なくとも幾つかの電極上に形成された、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
パルス作成用の蓄積装置の少なくとも幾つかの電極に印加される少なくとも幾つかのRF電圧とDC電圧が、イオンのパルス放出中又はパルス放出前に急に変更され、好ましくはRF電圧はゼロ位相でオフにされ、パルスは所定の時間遅延後にオンに切り換えられる、請求項40に記載の方法。
【請求項46】
前記パルス放出が、実質的にRF電界を変化させることなくガス充填体積内の前記DC電界をパルス変化させることによって達成される、請求項40に記載の方法。
【請求項47】
前記パルス放出が、2つの別個の周波数同期段階と時間遅延段階、即ちガス充填体積からの放出と、その後のパルス化された加速、好ましくは直交方向のパルス化された加速からなる、請求項40に記載の方法。
【請求項48】
1パルス当たりイオンの数が、イオン蓄積段階、MR−TOF MS内の時間分離段階、又はイオン検出段階において調整され、前記調整は好ましくは、イオン蓄積装置への空間電荷効果を低減させるように或いは検出器のダイナミックレンジと寿命を改善するように行われる、請求項38に記載の方法。
【請求項49】
前記調整は、対象とする質量範囲のフィルタリング、低質量抑制、強力なイオン成分の選択的抑制、或いは1イオンパルス当たりのイオン数の非選択的調整を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
第2の蓄積装置内の複数のイオンは、検出段階とデータ収集段階のダイナミックレンジを大きくするために走査毎に変更される、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
1サイクル当たりの平均イオン数よりも実質的に低いイオン数を使用して予備スペクトルが少なくとも1回取得される、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
一定のしきい値を超える強度のイオンに対して質量電荷比のセットが決定され、前記1組の質量電荷比は、前記質量電界比のセットから選択された質量電荷比を有するイオンの少なくとも一部分の速度、方向又は空間分布に影響を与えるためにMR−TOF内のパルスイオンセレクタを作動させるために使用される、請求項48に記載の方法。
【請求項53】
パルスイオンセレクタは、ブラッドベリー=ニールセンイオンゲート、平行板偏向器、イオン検出器内の制御グリッドのいずれかである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記イオンミラーは、イオン経路面を横切るイオン幅に実質的に依存せずに飛行時間集束を提供するように配置され同調された、請求項38に記載の方法。
【請求項55】
前記時間集束は、交さ項を含む初期イオンパケットの空間的、角度的及びエネルギー的な広がりに対して二次まで達成され、そのような集束の温度的及び時間的ドラフトは好ましくは、イオンミラー電極、好ましくは端電極のイオンミラー電極の単一の電位を調整することによって補正される、請求項38に記載の方法。
【請求項56】
前記イオンミラーによる前記イオン空間及び飛行時間集束は、4〜7個の電極を備えたミラーを使用して達成されると共に、折り返しイオン経路の平面を横切る空間的集束は、ドリフト空間に対して逆極性の電位を有するレンズを平面イオンミラーに組み込むことによって達成される、請求項38に記載の方法。
【請求項57】
前記イオンミラーは、湾曲した二次元形状の電極を備えた4個未満の電極によって構成された、請求項38に記載の方法。
【請求項58】
少なくとも1個のイオンミラーの少なくとも1個の電極は、MR−TOF MSとの間のイオンゲーティングのため、初期加速のため、サイクル数の選択のため、或いは所望の質量範囲以外のイオンの廃棄のためにパルス化される、請求項38に記載の方法。
【請求項59】
前記MR−TOF MSの周期的レンズの組は、焦点距離Fが4分の1ターンの整数倍(F=N*P/4、N=1、2、3...)にほぼ等しくなるように調整される、請求項38に記載の方法。
【請求項60】
簡便な同調のために、周期的レンズは実質的にシフト軸を横切って延びている、請求項38に記載の方法。
【請求項61】
イオンは、一定及び/又はパルス式動作反射によりシフト方向に沿って反射して繰り返しセグメントを有する折り返し経路或いは繰り返しセグメントのない折り返し経路を形成し、MR TOF MSに対してイオンをゲーティングすると共にMR TOF MSをバイパスし、繰り返しサイクル数を制御する、請求項38に記載の方法。
【請求項62】
イオンミラー、レンズ及び偏向板に生じる色収差の相互補正を提供するために偏向板がドリフト空間内に配置される、請求項38に記載の方法。
【請求項63】
請求項38から62の方法と同様に親イオンを形成し分離し、質量電荷比に従って時間分離された親イオンをフラグメンテーションセル内に受け取り、フラグメンテーションセル内の親イオンの少なくとも幾つかをフラグメント化し、生成物の少なくとも一部を質量分析する順次的段階を含むタンデム型質量分光分析(TOF MS−MS)方法。
【請求項64】
セル長Lとセル内のガス圧Pの積が、P*L>0.2Torr*cmより高く維持され、好ましくはP>0.5Torr且つL<1cmであり、差動式にポンピングが行われ、中間ポンピング領域内の静電又は高周波イオン集束を伴う、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
イオンフラグメント化段階は更に、不均一な高周波(RF)電界による放射方向のイオン閉じ込めと、軸方向のDC電界又は軸方向に移動する波状電界のいずれかによって軸方向のイオン速度を制御する段階とを含む、請求項63に記載の方法。
【請求項66】
フラグメントイオンの前記質量分析が、別の飛行時間型質量分析計(TOF MS)における飛行時間分離の段階を含む、請求項63に記載の方法。
【請求項67】
第2のTOF MS内のフラグメンテーション時間と飛行時間が、第1のMR−TOF MS内の親イオン分離段階よりも少なくとも100小さく、データ収集が、複数の前駆体イオンの重複しないフラグメントスペクトルの「並行」分析に適している、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記フラグメントイオン飛行時間分離段階が、請求項38から62の方法におけるシフト方向の周期的集束と組み合わされた多重反射分光計内の多重イオン反射を含む、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
第2のMR−TOF内の飛行経路を調整する段階を含み、この段階は好ましくはシフト方向にイオンを反射することによって行われる、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
タンデム型MS分析の汎用性のために方法67と方法68の切り替えを更に含み、この切り替えは好ましくは、少なくとも1つの飛行時間分析装置内の加速電圧とイオン飛行経路によって支援される、請求項63に記載の方法。
【請求項71】
生成イオンを質量分析する段階は同じ多重反射分光計で実行され、イオンの流れはパルスイオン源の蓄積装置内又はフラグメンテーションセル内で戻される、請求項63に記載の方法。
【請求項72】
フラグメンテーションセル又は蓄積装置からフラグメントイオンを周期的に蓄積する段階とパルス放出する段階とを更に含み、これら段階は好ましくは、高周波電界及び時間変調軸方向DC電界の閉じ込めによって支援される、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
フラグメントイオンの飛行経路及び飛行時間は親イオンの飛行経路及び飛行時間よりもかなり短く、請求項67と同様に並行MS−MSスペクトルが取得される、請求項71に記載の方法。
【請求項74】
親イオンの飛行時間とフラグメント分離が比較可能であり、時限イオン選択が、フラグメンテーションセル内にイオンを受け取る前に実行される、請求項71に記載の方法。
【請求項75】
質量分離段階とフラグメント化段階は、所謂MSn分析、好ましくは構造研究又は不純物の決定のためのMSn分析を達成するために複数回繰り返される、請求項71に記載の方法。
【請求項76】
前述の方法のいずれかと、液体クロマトグラフィ、電気泳動、キャピラリー電気泳動、透析、親和力分離から選択される試料事前分離段階とを含む試料分析方法。
【請求項77】
上記方法のいずれかと、質量分析計内の質量分離或いはDC又は電界非対称イオン移動度分光計内の移動度分離の追加の段階とを含む試料分析方法。
【請求項78】
前記方法のいずれかと、ガス充填イオン蓄積区分室又はフラグメンテーションセル内におけるガスイオン反応の段階とを含み、前記ガス反応が、イオン分子反応、逆極性のイオンを含むイオン−イオン反応、イオン電子反応、又はイオンへの光子の照射を含む、試料分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2007−526596(P2007−526596A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517431(P2006−517431)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/019593
【国際公開番号】WO2005/001878
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(592071853)レコ コーポレイション (19)
【氏名又は名称原語表記】LECO CORPORATION
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/019593
【国際公開番号】WO2005/001878
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(592071853)レコ コーポレイション (19)
【氏名又は名称原語表記】LECO CORPORATION
【Fターム(参考)】
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