説明

夜間前方情報提供装置

【課題】大型商用車に特化した夜間前方情報提供装置を提供する。
【解決手段】投影機は、キャビンの運転席後方の上部に設け、反射板は、フロントガラス内側上部に設ける。この際に、反射板は、未使用時に収容された状態のサンバイザによって覆われるキャビンの天井面に設け、反射板は、天井面に対して回動自在に取り付ける。あるいは、反射板は、未使用時に収容された状態のサンバイザにおける運転席側の面に設け、反射板は、サンバイザに対して回動自在に取り付ける。あるいは、反射板は、使用時に引き出された状態のサンバイザにおける運転席側の面に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夜間における車両の安全運転を支援する装置に利用する。特に、貨物や乗客を輸送するための大型車両(トラック、バス)に利用する。
【背景技術】
【0002】
夜間における車両の安全運転のために、歩行者等の視認性を高めるための夜間前方情報提供装置が乗用車において普及しつつある。乗用車においては、当該装置による画像表示位置を、運転者の視線の線上であり、水平面より下方に設けることが規定されている。実際には、フロントガラスの内側下部に直接、画像情報を投影させたり、あるいは、その位置に反射板を設置して画像情報を投影させるなどの方法が採られている。図13に乗用車における反射板および投影機の設置位置を示す。
【非特許文献1】TOYOTA MOTOR CORPORATION,[online],[平成18年4月20日検索],インターネット<URL:http://Toyota.jp/crownmajesta/safety/active/index.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
トラックやバスなどの大型商用車においても上述した夜間前方情報提供装置が普及することは、夜間における車両の安全運転の観点からみて望ましい。しかしながら、大型商用車と乗用車とでは、フロントガラスの形状や路面に対する運転者の視線の位置が異なるため、乗用車において実施されている方法をそのまま踏襲することはできない。
【0004】
例えば、フロントガラスの内側下部に画像を投影させた場合には、画像を視認するために、大型商用車の運転者は、乗用車の運転者と比べて、視線をより大きく下方に傾ける必要があり、画像を視認してから再び、前方に注意を戻すまでに要する時間が乗用車と比べて長くなる。
【0005】
また、図14は乗用車における反射板透過光の状態を示す図であり、図15は乗用車における投影機および反射板の設置状態をそのまま大型商用車に適用した例を示す図であるが、図15に示すように、乗用車と同様に、下方から反射板に向けて投影を行った場合には、反射板を透過した光が反射板よりもさらに上方にあるフロントガラス面に反射することによってゴースト画像が生じる場合があり、視界の妨げになる。なお、一般的に、図14に示すように、乗用車の場合には、反射板の傾斜をフロントガラス面の傾斜とほぼ等しくすることができ、反射板の透過光はそのままフロントガラスを透過してしまうため、ゴースト画像がフロントガラスに写り込む可能性はほとんど無く、ゴースト画像による影響を考慮する必要性は低い。また、大型商用車の場合には、キャビンの下部に投影機を設置する場合の設置場所の確保も難しい。
【0006】
したがって、大型商用車に適した画像表示位置を改めて探し出し、大型商用車用に特化された夜間前方情報提供装置を開発する必要がある。
【0007】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、大型商用車に特化した夜間前方情報提供装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、大型商用車において、夜間前方情報提供装置の画像を、フロントガラス面の下部、キャビンの側面、サンバイザの位置のそれぞれに表示し、画像を視認してから再び前方に注意を戻すまでに要する時間を計測した。その結果、大型商用車の場合には、サンバイザの位置に画像を表示した場合が、画像を視認するための視線移動量が最も少なく、画像を視認してから再び、前方に注意を戻すまでに要する時間が最も短いことがわかった。
【0009】
図12に前記実験結果を示す。図12の例では、運転者の視線が水平面上にあるとした場合の視線移動量は、フロントガラス面の下部では29.2°であったが、サンバイザの位置では、16.4°であり、サンバイザの位置の方がフロントガラス面の下部と比べて視線の移動量は少ないことがかわかる。
【0010】
よって、本発明は、車両の前方を撮影するカメラ装置と、このカメラ装置により撮影された画像を投影する投影機と、この投影機から投影された画像が写し出される反射板とを備えた夜間前方情報提供装置であって、本発明の特徴とするところは、前記投影機は、キャビンの運転席後方の上部に設けられ、前記反射板は、フロントガラス内側上部に設けられたところにある。
【0011】
例えば、前記車両は、使用時にはフロントガラス面とほぼ平行に引き出され、不使用時にはキャビンの天井面とほぼ平行に収容されるサンバイザを備え、前記反射板は、未使用時に収容された状態の前記サンバイザによって覆われるキャビンの天井面に設けられ、前記反射板は、前記天井面に対して回動自在に取り付けられる。
【0012】
これによれば、投影機の使用時には、ほぼサンバイザの位置に反射板を設置することができる。よって、反射板の画像を視認してから再び、前方に注意を戻すまでに要する時間を短くすることができる。さらに、後方から前方に向かって画像を投影するので、ゴースト画像が生じる位置をフロントガラス面から避けるように設定することも容易になる。また、一般的に、天井面には、従来から取り付けられている装備品などは無く、投影機を取り付ける余地は十分にあることも利点である。
【0013】
このとき、反射板は、未使用時には、サンバイザによって覆われているので、反射板を使用する際には、サンバイザを引き出してから使用することになる。よって、引き出されたサンバイザの上に反射板が重なるようにしてそこに画像が表示される。
【0014】
このような使用状態であっても、実用上の大きな支障は生じないが、一般的に、反射板の面積よりもサンバイザの面積の方が大きいので、サンバイザにより遮られる視界は、反射板により遮られる視界よりも大きい。よって、サンバイザにより遮られる視界を無くすことができたらその方が望ましい。
【0015】
その方策として、例えば、前記サンバイザは、前記反射板を挟んでフロントガラスにほぼ平行でありそれぞれ天井に固定された2本の支持軸を有し、前記サンバイザの不使用時には、2本の前記支持軸によって前記サンバイザを支持して天井に収容し、前記サンバイザの使用時には、フロントガラスに近い方の前記支持軸によって前記サンバイザを支持し、前記反射板の使用時には、フロントガラスから遠い方の前記支持軸によって前記サンバイザを支持する。これによれば、投影機の使用時には、サンバイザを運転者の後方に移動させることができるので、サンバイザによって遮られる視界を無くすことができる。
【0016】
あるいは、前記反射板は、未使用時に収容された状態の前記サンバイザにおける運転席側の面に設けられ、前記反射板は、前記サンバイザに対して回動自在に取り付けられることもできる。すなわち、本発明の夜間前方情報提供装置が使用されるのは夜間であるから、本発明の夜間前方情報提供装置とサンバイザとを両方同時に使用することは有り得ない。したがって、反射板を、未使用時に収容された状態のサンバイザにおける運転席側の面に設けておけば、反射板の使用時の位置は、ほぼサンバイザの位置になり、しかもサンバイザは天井に収容されたままの状態であるから、サンバイザによって視界が遮られることもない。
【0017】
あるいは、前記反射板は、使用時に引き出された状態の前記サンバイザにおける運転席側の面に設けられることもできる。これによれば、夜間前方情報提供装置を使用していないときには、サンバイザに設置された反射板を化粧鏡として利用することができる。その反対に、サンバイザに既設の化粧鏡を夜間前方情報提供装置の反射板として流用することもできる。
【0018】
本発明によれば、その他にも安全運転上で重要な効果を得ることができる。投影機と反射板との距離と、反射板と反射板の中に写し出される虚像位置との距離は互いに等しくなる。すなわち、投影機と反射板との距離が長ければ長いほど、反射板と虚像位置との距離もまた長くなる。本発明では、投影機がキャビンの運転席後方の上部に設置され、反射板がフロントガラスの内側上部に設置されているので投影機と反射板との間の距離が十分に長くとれるという利点がある。
【0019】
このことにより、運転者が前方を視認しているときの目の焦点距離と虚像位置を視認しているときの目の焦点距離との差を少なくすることができる。したがって、前方と虚像位置とを交互に視認する場合の目の焦点距離の移動を少なくすることができるため、運転者は、違和感無く容易に前方と虚像位置とを交互に視認することができる。これは安全運転上きわめて重要な効果である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、大型商用車に特化した夜間前方情報提供装置を実現することができ、大型商用車の夜間の安全運転に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明実施例の夜間前方情報提供装置を図1ないし図3を参照して説明する。図1はトラックにおける本実施例の夜間前方情報提供装置の全体構成図である。図2は本実施例の投影機および反射板の取り付け状況を示す図である。本実施例は、図1および図2に示すように、車両の前方を撮影するカメラ装置1と、このカメラ装置1により撮影された画像を投影する投影機2と、この投影機2から投影された画像が写し出される反射板3とを備えた夜間前方情報提供装置である。
【0022】
ここで、本実施例の特徴とするところは、投影機2は、キャビンの運転席後方の上部に設けられ、反射板3は、フロントガラス7の内側上部に設けられたところにある。
【0023】
このように投影機2を設置することは、ゴースト画像の影響を回避できる点、および、投影機2の取り付け場所の確保が容易である点において優れているが、その他にも安全運転上で重要な効果を得ることができる。図3は投影機2の設置位置と虚像位置との関係を示す図であるが、図3に示すように、投影機2と反射板3との距離aと反射板3と虚像位置との距離a’はa=a’の関係にある。すなわち、投影機2と反射板3との距離aが長ければ長いほど、反射板3と虚像位置との距離a’もまた長くなる。本実施例では、投影機2が運転席後方の上部に設置され、反射板3がフロントガラス7の内側上部に設置されているので距離aおよびa’が十分に長くとれるという利点がある。
【0024】
このことにより、運転者が前方を視認しているときの目の焦点距離と虚像位置を視認しているときの目の焦点距離との差を少なくすることができる。したがって、前方と虚像位置とを交互に視認する場合の目の焦点距離の移動を少なくすることができるため、運転者は、違和感無く容易に前方と虚像位置とを交互に視認することができる。これは安全運転上きわめて重要な効果である。
【0025】
(第一実施例)
第一実施例を図4ないし図6を参照して説明する。本実施例の車両には、使用時にはフロントガラス7の面とほぼ平行に引き出され、不使用時にはキャビンの天井8の面とほぼ平行に収容されるサンバイザ5を備えている。
【0026】
第一実施例では、反射板3は、未使用時に収容された状態のサンバイザ5によって覆われるキャビンの天井8の面に設けられ、反射板3は、天井8の一端に蝶番9によって回動自在に設けられる。また、図5はサンバイザ5の使用時の状態を示す図であり、図6は反射板3の使用時の状態を示す図であるが、サンバイザ5は、図4に示すように、反射板3を挟んでフロントガラス7にほぼ平行でありそれぞれ天井に固定された2本の支持軸6−1および6−2を有している。サンバイザ5の不使用時には、2本の支持軸6−1および6−2によってサンバイザ5を支持して天井8に収容する。また、図5に示すように、サンバイザ5の使用時には、フロントガラス7に近い方の支持軸6−1によってサンバイザ5を支持する。
【0027】
反射板3を使用する際には、図5に示した状態のサンバイザ5に重ねる形で反射板3を引き出して投影機2の投影画像を反射板3に投影させることもできるし、図6に示すように、反射板3の使用時には、フロントガラス7から遠い方の支持軸6−2によってサンバイザ5を支持することにより、サンバイザ5を運転者の視界から除去した状況下で反射板3を引き出して使用することもできる。
【0028】
一般的に、反射板3の面積よりもサンバイザ5の面積の方が大きいので、サンバイザ5により遮られる視界は、反射板3により遮られる視界よりも大きい。よって、図6に示すように、反射板3の使用時に、サンバイザ5により遮られる視界を無くすことができることは極めて有用である。
【0029】
(第二実施例)
第二実施例を図7ないし図9を参照して説明する。図7は第二実施例の反射板3の取り付け状況を示す図である。第二実施例では、反射板3は、未使用時に収容された状態のサンバイザ15における運転席側の面に設けられ、反射板3は、サンバイザ15の一端に蝶番9によって回動自在に設けられる。また、第二実施例では、サンバイザ15の支持軸6は1本でよい。
【0030】
サンバイザ15の使用時の状況を図8に示す。また、反射板3の使用時の状況を図9に示す。図8および図9に示すように、サンバイザ15を使用中には、反射板3はサンバイザ15の裏面にあるため、反射板3の使用は不可能であり、また、反射板3を使用中には、サンバイザ15は天井8に収容状態でなければならず、サンバイザ15の使用は不可能であるが、本実施例は、夜間前方情報提供装置の実施例であり、サンバイザ15と反射板3とを同時に使用する状況は起こり得ないので、第二実施例の反射板3の設置方法は空間の有効利用の観点から有用であり、さらに、反射板3の取り付けに際し、キャビンの天井8に反射板3を取り付けるための加工を行う必要がなく、単に、サンバイザ15のみに反射板3を取り付けるための加工を施せば済むので、車両の製造工程とは別にサンバイザ15を外注により製造したり、あるいは、既存の車両に反射板3を取り付けるための加工を必要としないなど、製造工程の効率化の観点から有用である。
【0031】
(第三実施例)
第三実施例を図10および図11を参照して説明する。図10は第三実施例の反射板13の使用状況を示す図であるが、図10に示すように、第三実施例では、反射板13は、使用時に引き出された状態のサンバイザ25における運転席側の面に設けられる。図11は第三実施例の反射板13における画像の表示例を示す図である。
【0032】
第三実施例によれば、夜間前方情報提供装置を使用していないときには、サンバイザ25に設置された反射板13を化粧鏡として利用することができる。その反対に、サンバイザ25に既設の化粧鏡を夜間前方情報提供装置の反射板13として流用することもできる。このことは、第二実施例と同様に、車両の製造工程の効率化の観点からも有用である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、大型商用車に特化した夜間前方情報提供装置を実現することができ、大型商用車の夜間の安全運転に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】トラックにおける本実施例の夜間前方情報提供装置の全体構成図。
【図2】本実施例の投影機および反射板の取り付け状況を示す図。
【図3】本実施例の投影機の設置位置と虚像位置との関係を示す図。
【図4】第一実施例の反射板の取り付け状況を示す図。
【図5】第一実施例のサンバイザの使用時の状況を示す図。
【図6】第一実施例の反射板の使用時の状況を示す図。
【図7】第二実施例の反射板の取り付け状況を示す図。
【図8】第二実施例のサンバイザの使用時の状況を示す図。
【図9】第二実施例の反射板の使用時の状況を示す図。
【図10】第三実施例の反射板の取り付け状況および使用時の状況を示す図。
【図11】第三実施例の反射板における画像表示例を示す図。
【図12】実験結果を示す図。
【図13】乗用車における反射板および投影機の設置位置を示す図。
【図14】乗用車における反射板透過光の状態を示す図。
【図15】乗用車における投影機および反射板の設置状態をそのまま大型商用車に適用した例を示す図。
【符号の説明】
【0035】
1 カメラ装置
2 投影機
3、13 反射板
4 赤外線投光器
5、15、25 サンバイザ
6、6−1、6−2 支持軸
7 フロントガラス
8 天井
9 蝶番

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方を撮影するカメラ装置と、このカメラ装置により撮影された画像を投影する投影機と、この投影機から投影された画像が写し出される反射板とを備えた夜間前方情報提供装置において、
前記投影機は、キャビンの運転席後方の上部に設けられ、
前記反射板は、フロントガラス内側上部に設けられた
ことを特徴とする夜間前方情報提供装置。
【請求項2】
前記車両は、使用時にはフロントガラス面とほぼ平行に引き出され、不使用時にはキャビンの天井面とほぼ平行に収容されるサンバイザを備え、
前記反射板は、未使用時に収容された状態の前記サンバイザによって覆われるキャビンの天井面に設けられ、
前記反射板は、前記天井面に対して回動自在に取り付けられた
請求項1記載の夜間前方情報提供装置。
【請求項3】
前記サンバイザは、前記反射板を挟んでフロントガラスにほぼ平行でありそれぞれ天井に固定された2本の支持軸を有し、
前記サンバイザの不使用時には、2本の前記支持軸によって前記サンバイザを支持して天井に収容し、
前記サンバイザの使用時には、フロントガラスに近い方の前記支持軸によって前記サンバイザを支持し、
前記反射板の使用時には、フロントガラスから遠い方の前記支持軸によって前記サンバイザを支持する
請求項2記載の夜間前方情報提供装置。
【請求項4】
前記車両は、使用時にはフロントガラス面とほぼ平行に引き出され、不使用時にはキャビンの天井面とほぼ平行に収容されるサンバイザを備え、
前記反射板は、未使用時に収容された状態の前記サンバイザにおける運転席側の面に設けられ、
前記反射板は、前記サンバイザに対して回動自在に取り付けられた
請求項1記載の夜間前方情報提供装置。
【請求項5】
前記車両は、使用時にはフロントガラス面とほぼ平行に引き出され、不使用時にはキャビンの天井面とほぼ平行に収容されるサンバイザを備え、
前記反射板は、使用時に引き出された状態の前記サンバイザにおける運転席側の面に設けられた
請求項1記載の夜間前方情報提供装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−290487(P2007−290487A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119466(P2006−119466)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】