説明

大気中汚染物質捕集装置及び方法

【課題】捕集箇所を選ばず、パーティクルをフィルター上に捕集かつパーティクルの層別が可能で、同時にイオン性物質の液体捕集をも行うことができ、さらに安価である大気中の汚染物質捕集方法又は捕集装置を提供すること。
【解決手段】大気中の汚染物質をフィルター捕集および液体捕集するためのサンプリング装置であって、
メンブレンフィルター(11,13)をセットしたフィルターホルダー(12,14)と、インピンジャー(19,23)と、ポンプ(26)とを備え、
前記フィルターホルダーと前記インピンジャーと前記ポンプとがこの順に接続されていることを特徴とする大気中汚染物質捕集装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の汚染物質の捕集装置及び方法に関し、詳しくは、大気中のガス状或いは微粒子状の汚染物質についてフィルター捕集および液体捕集を同時に行うための捕集装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハー、IC、LSI等の半導体製品、コンピューター周辺装置の記憶装置であるFDD、光磁気ディスクドライブ、HDD、MR(磁気抵抗効果式)ヘッド等、メモリ媒体であるFD、HD等の電子部品、精密機械製品、光学製品、液晶等は極微小、極微量の汚染物で腐食、動作不良等の障害が起こるため、一般的にクリーンルーム内で製造・保管されている。
【0003】
汚染物のうち、イオン性物質、パーティクルの管理は特に必須となっており、製造・保管環境中に存在する汚染源を見出し、効率的汚染防止対策を講じるためには、イオン性物質のイオン種の特定、濃度測定が必須である。また、パーティクルに関しても、パーティクル数の管理だけでなく、パーティクルの形状、組成分析が必須になっている。
【0004】
また、上記製品分野以外に新素材、ファインケミカル、医薬品、包装材料、食品等においても、年々問題とされる異物のレベルは上昇し、ミクロンオーダーの異物が問題視されることがあるため、クリーンルーム、クリーンブース、パーティション等を設置した環境での製造・保管が当たり前になってきている。
【0005】
上記イオン性物質としては、カチオンとしてナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン等が、アニオンとして塩素イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン等が測定対象イオンとなっている。
【0006】
環境中のイオン性物質の捕集には、インピンジャーとミニポンプが用いられることが多く、ミニポンプは安価(5万円〜10万円程度)で小さいため、捕集箇所を選ばないという利点がある。
【0007】
上記パーティクルとは通常0.1〜100μm程度の大きさの粒子の呼称であり、気中のパーティクル数を測定するには、光散乱式パーティクルカウンター、凝縮核式パーティクルカウンター、ファラデーカップ・エアロゾル・エレクトロメータ等が用いられるが、これらの測定機では単位体積当たりのパーティクル数濃度、粒径分布の情報しか得られず、計測の際の不確かさを含む可能性があることが知られている。
【0008】
実在するパーティクルの数、形状、種類を特定するには、粘着シート、シリコンウェハーやフィルターへのトラップを行った後、顕微鏡観察や各種分析が行われる。粘着シート上へのパーティクル捕集は、数μm以上のパーティクルを対象とした静的な捕集であり、落下塵を捕集しているため、浮遊するパーティクルの捕集、観察、各種分析には向かない。またシリコンウェハー上への捕集は、エレクトロニクス分野の製品製造をしており、ウェハー検査機を所有している場合には好ましく用いられるが、パーティクル捕集、観察、分析時の取り扱い易さではフィルター捕集が優れている。
【0009】
フィルター捕集に用いる集塵装置としては、比較的環境レベルが低い場合にはローボリュームサンプラー、環境レベルが高い場合にはハイボリュームサンプラーあるいはサイク
ロン式集塵機(例えば特許文献1参照)が用いられることが多いが、ローボリュームサンプラーでもハイボリュームサンプラーでも40万円から60万円程度の価格である。
【0010】
現在、堀場製作所は、フィルター上に捕集したパーティクルをプラズマ発光分析で元素分析するパーティクルアナライザーDP−1000という装置を販売しており、非常に清浄度の高いクラス10(空気清浄度、米国連邦規格FED−STD−209D;0.5μm以上の微粒子が10個/ft3以下)以下のクリーンルームなどで捕集を行う場合には、サイクロン式集塵装置PY−3000を用いることを推奨している。このサイクロン式集塵装置PY−3000は、クリーンルーム内の空気を1200L/min.と大量に吸引するため、局所的な気中パーティクルの捕集に適さないと想定される上、装置自体が310(W)×475(D)×1040(H)mmと大きく、重量が約42kgあるため、吸引用の2mホースが接続されていても、気中パーティクルを捕集できる場所には制限があると考えられる。
【0011】
パーティクルは、捕集する場所の床からの高さや、装置や人からの距離、作業状態などによって変化するため、発生源の特定には局所的かつ一時的なパーティクル捕集を行えることが好ましいが、サイクロン式の場合、捕集箇所の変更にフレキシブルに対応することは不可能であり、サイクロン式集塵機を複数台所有し、製造ライン等が稼動しているときに複数箇所で同時にパーティクルを捕集することも難しいと考えられる。さらに、装置内を汚染するとクリーニングに非常に手間がかかり、フィルターは直径25mmを1枚しかセットできないため、パーティクル径による層別は不可能であり、価格も500万円程度とかなり高価である。
【特許文献1】特開2003−307470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を考慮してなされたもので、捕集箇所を選ばず、パーティクルをフィルター上に捕集かつパーティクルの層別が可能で、同時にイオン性物質の液体捕集をも行うことができ、さらに安価である大気中の汚染物質捕集方法又は捕集装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するものとして、まず請求項1に係る発明は、
大気中の汚染物質をフィルター捕集および液体捕集するためのサンプリング装置であって、
メンブレンフィルターをセットしたフィルターホルダーと、インピンジャーと、ポンプとを備え、
前記フィルターホルダーと前記インピンジャーと前記ポンプとがこの順に接続されていることを特徴とする大気中汚染物質捕集装置である。
【0014】
また請求項2に係る発明は、
前記ポンプは、定流量機能を有し、1分間当りの吸引量が0.5L〜5Lであることを特徴とする請求項1記載の大気中汚染物質捕集装置であり。
【0015】
また請求項3に係る発明は、
孔径の異なるメンブレンフィルターをセットしたフィルターホルダーが2個以上接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載の大気中汚染物質捕集装置である。
【0016】
また請求項4に係る発明は、
前記メンブレンフィルターの直径が25mm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の大気中汚染物質捕集装置である。
【0017】
また請求項5に係る発明は、
大気中の汚染物質をフィルター捕集および液体捕集するためのサンプリング方法であって、
メンブレンフィルターをセットしたフィルターホルダーとインピンジャーとポンプとをこの順に接続することを特徴とする大気中汚染物質捕集方法である。
【0018】
また請求項6に係る発明は、
前記ポンプは、定流量機能を有し、1分間当りの吸引量が0.5L〜5Lであることを特徴とする請求項5記載の大気中汚染物質捕集方法である。
【0019】
また請求項7に係る発明は、
孔径の異なるメンブレンフィルターをセットしたフィルターホルダーを2個以上接続することを特徴とする請求項5又は6記載の大気中汚染物質捕集方法である。
【0020】
また請求項8に係る発明は、
前記メンブレンフィルターの直径が25mm以下であることを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の大気中汚染物質捕集方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、捕集箇所を選ばず、パーティクルをフィルター上に捕集かつパーティクルの層別が可能で、同時にイオン性物質の液体捕集をも行うことができ、さらに安価である大気中の汚染物質捕集方法又は捕集装置を提供できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の最良の一実施形態を説明する。
【0023】
図1に示す本発明の大気中汚染物質捕集装置の一例は、メンブレンフィルター11が1枚セットされたフィルターホルダー12と、メンブレンフィルター13が1枚セットされたフィルターホルダー14と、フィルターホルダー12と14とを接続するコネクター15と、フィルターホルダー14とインピンジャー19の長いインピンジャー管17とを接続するプラスチック製チューブ16と、長いインピンジャー管17と短いインピンジャー管18とを有するインピンジャー19と、インピンジャー19の短いインピンジャー管18とインピンジャー23の長いインピンジャー管21とを接続するプラスチック製チューブ20と、長いインピンジャー管21と短いインピンジャー管22とを有するインピンジャー23と、インピンジャー23の短いインピンジャー管22と吸引ポンプ26の吸入口25とを接続するプラスチック製チューブ24と、吸入口25と排気口27とを有する吸引ポンプ26とを備えている。
【0024】
パーティクルを層別する目的でフィルターホルダーを2個以上接続する場合、吸引上流側のメンブレンフィルター(図1ではメンブレンフィルター11)の孔径は、下流側のメンブレンフィルター(図1ではメンブレンフィルター13)よりも必ず大きくなくてはならない。
【0025】
また、クラス10以下等のクリーン環境でパーティクルを捕集する際には、吸引ポンプ26の排気で捕集環境を汚染することのないように、排気口27にカセット式のHEPAフィルターを接続し、フィルターを通した排気をクリーンルームのグレーチングから放出することが好ましく行われる。
【0026】
前記大気中汚染物質捕集装置に用いるフィルターホルダーとしては、ステンレス等の金属製やプラスチック製のもの等が使用可能であるが、特にはポリプロピレン(以下PPとも云う)製等のプラスチック製ホルダーが、低価格、扱い易さ、汚染された場合の廃棄のし易さから好ましく用いられ、例えば、ADVANTEC製プラスチックホルダーPPシリーズ等が用いられる。
【0027】
フィルターホルダーの一例を、図2の全体図及び図3の分解図に基づいて説明する。図中に示されるように、フィルターホルダーは、吸引上流側から順に、ロッキングナット31と、ナット用O−リング32と、インレット33(先端エアー吸引口部)と、トップカバー34(トッププレート)と、サボートスクリーン35と、フィルター押さえO−リング36と、サポートスクリーン37と、ベースプレート用O−リング38と、ベースプレート39と、アウトレット40(後端エアー吸引口部)と、チューブコネクター41とを備え、トップカバー34とサボートスクリーン35との間に、メンブレンフィルターがセットされるものである。
【0028】
図中に示されるように、フィルターホルダーはオープンフェース型でなく、トップカバー(あるいはトッププレート)を有するものが好ましい。このようなフィルターホルダーは本来、液体ろ過用であり、通常、液体をろ過する際にはトップカバー34に設けられたインレット33にチューブ等を接続して、ろ過したい液体を流すが、本発明においては、トッププレートに設けられたインレット(以下、吸引口とする)部分からエアーを吸引して、気中パーティクルを吸引することを特徴としている。
【0029】
また、アスベスト捕集等に用いられるオープンフェース型は、フィルター表面が露出しているため、実際の気中パーティクル捕集時までに汚染される懸念があり、本発明の気中パーティクル捕集装置には適さない。
【0030】
前記大気中汚染物質捕集装置に用いるメンブレンフィルターとしては、パーティクルの顕微鏡観察に適した貫通孔を有するポリカーボネート製が好ましく用いられる。メンブレンフィルターの直径は一般的に13mm未満、13mm、25mm、47mmなどであるが、本発明に用いるフィルター直径は25mm以下が好ましい。その理由として、イオン性物質を捕集するときの吸引ポンプ吸引量は0.5〜5L/min.程度であるため、直径47mmのフィルターでは吸引力不足が懸念されることが挙げられる。また、ポリカーボネート製フィルターの孔径は一般的に0.1、0.2、0.4、0.8、8.0μmであるが、目的に応じ、0.2μmと0.8μm、0.8μmと8.0μmのように組み合わせて、パーティクルを層別することが好ましく行われる。
【0031】
市販されている気中パーティクルカウンターは粒径0.1μm程度から100μm程度を測定するものが多いので、気中パーティクルカウンターとフィルター上に捕集されるパーティクルの相関を取りたいときには、パーティクルカウンターのチャンネルとメンブレンフィルターの孔径を合わせ、各装置の流量を合わせることが好ましく行われる。使用するメンブレンフィルターの孔径と吸引量の決定に際しては、メンブレンフィルターの圧力損失を考慮することが好ましい。
【0032】
フィルター捕集したパーティクルの有機分析を第一の目的とする時には、ポリカーボネート製メンブレンフィルターではラマン分光分析時のレーザー等でフィルターを損傷する場合がある。そのような場合には、パーティクルの観察は難しくなるが、他の材質のフィルターを用いることも好ましく行われる。
【0033】
前記吸引ポンプ26の吸引量は0.5〜5L/min.程度が好ましい。吸引量が少な
い場合には、フィルター上にパーティクルが捕集できない場合があり、吸引量が多い場合にはメンブレンフィルターを破損する場合があるので、事前に確認をすることが好ましく行われる。市販されている気中パーティクルカウンターは最小測定粒径0.1μm、吸引量0.3〜30L/min.程度のものが多いため、前述したように、気中パーティクルカウンターの吸引量とフィルター捕集の吸引量を合わせることも好ましく行われる。
【0034】
吸引ポンプ26としては、ミニポンプと呼ばれるダイヤフラム式の定流量機能を内蔵する吸引ポンプが好ましい。このような吸引ポンプは、オイルや水を使用しないため、捕集箇所が限定されることなく、クリーンルーム内で捕集する場合にも捕集箇所を汚染する可能性が低い。また、ミニポンプの重量は1kg以下であり、フィルターホルダー等は軽量であるため、本発明の捕集装置は持ち運び、設置が非常に簡単である利点がある。
【0035】
チューブは、リークのない口径の合ったプラスチック製チューブが用いられ、タイゴンチューブ、シリコンチューブ、テフロン(登録商標)チューブ、PPチューブ等が用いられる。特に清浄度の高いクリーンルーム内で捕集を行う場合、パーティクルやイオン性物質の溶出が少ないテフロン(登録商標)チューブを用いることが好ましく行われる。
【0036】
インピンジャーとしては、石英ガラス製、ケイ酸ガラス製、プラスチック製のもの等が使用可能であるが、イオン性物質の溶出が少ないことから、特に好ましく用いられるのは、パーフルオロアルコキシアルカン(四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(以下PFA)製で容量100ml程度のインピンジャーである。
【0037】
一般的に、大気捕集におけるインピンジャー法とは、インピンジャー内に純水を入れ、吸引ポンプを用いて一定時間雰囲気を吸引し、純水に雰囲気中の不純物をバブリング水捕集する方法である。
【0038】
本発明においても、インピンジャーには水を入れ、イオン性物質を捕集するが、その際、純水以上の水を用いることが好ましい。特に清浄度の高いクリーンルーム内で捕集を行う場合、容器からの溶出イオンを避けるため、超純水を用いることが好ましく、超純水の比抵抗は18.0MΩ・cm以上、測定対象イオンの濃度は1ppb以下で、粒径0.3μm以上のパーティクル数が2個/ml以下であることが好ましい。さらに好ましくは比抵抗18.2MΩ以上、0.05μmのパーティクル数が1個/ml以下の超純水である。
【0039】
また、図1に示すように、2個以上のインピンジャーを接続し、捕集効率を上げることも好ましく行われる。
【0040】
以下に、大気中汚染物質捕集装置の洗浄、組み立てから大気中汚染物質の捕集、捕集済みメンブレンフィルター、インピンジャー内捕集水の回収までの手順を詳細に述べる。
【0041】
第一に、本発明の大気中汚染物質捕集装置をクリーンルーム内で使用する場合には、大気中汚染物質捕集装置に付着しているパーティクルを環境から捕集したパーティクルと区別するため、メンブレンフィルター、フィルターホルダー、チューブ、インピンジャーの洗浄、吸引ポンプの清拭を行うことが好ましい。特に、メンブレンフィルターには合い紙の繊維が付着していることがあり、パーティクル観察、分析時に捕集したパーティクルと誤判断しないためにも、洗浄が必要である。
【0042】
その場合、クラス1000(空気清浄度、米国連邦規格FED−STD−209D;0.5μm以上の微粒子が1000個/ft3以下)以下のクリーンルーム内で、比抵抗18.2MΩ以上、0.05μmのパーティクル数が1個/ml以下の超純水を用いて、メ
ンブレンフィルター、フィルターホルダー、チューブを洗浄することが好ましい。
【0043】
まず、メンブレンフィルターは、超純水を入れたガラス製容器内で、中の超純水を入れ替えては3回以上洗浄するか、超純水洗浄済みのガラス製ろ過装置にセットするなどして、超純水で3回以上洗浄する。洗浄済みのメンブレンフィルターは超純水洗浄済みのシャーレ等容器に入れて、クリーンルーム内で落下塵がないように自然乾燥させる。
【0044】
フィルターホルダーは解体し、各部品を超純水洗浄した後、クリーンルーム内で落下塵がないように自然乾燥させるか、クリーンエアを供給できるエアガンで乾燥させる。
【0045】
解体した乾燥済みのフィルターホルダーに、乾燥済みのメンブレンフィルターを、組み立て向きに注意してセットし、各組立部品を順に組み合わせてフィルターホルダーを組み立てた後、該フィルターホルダーを、パーティクルの少ないクリーンバッグに入れて密封する。クリーンエア吸引口(インレット33)、排気口用チューブは超純水で5分間以上、流水洗浄し、クリーンルーム内で落下塵がないように自然乾燥させるか、クリーンエアを供給できるエアガンで乾燥させる。これらもパーティクルの少ないクリーンバッグに入れて密封する。
【0046】
インピンジャーは、容器に超純水を入れ、蓋をしめた状態で100回以上振とうし、中の超純水を捨てた後、新たに超純水を蓋すれすれまで満たしておく。
【0047】
吸引ポンプはクリーンルーム用のダストの少ないクロスを前述の超純水に浸し、清拭した後、パーティクルの少ないクリーンバッグに入れて密封する。
【0048】
上記、洗浄手順はあくまで目安であり、実際の捕集を実施する前に、一連の洗浄手順を経たメンブレンフィルターを観察した際に、コンタミネーションがないこと、超純水中のイオン濃度を確認することが好ましく行われる。
【0049】
第二に、大気中汚染物質捕集箇所で装置を組み立てる。クリーンルーム内で捕集する場合には、パスボックス等を使用して各部品を持ち込み、捕集箇所で各クリーンバッグを開封して、装置を組み立てることが好ましい。
【0050】
まず、吸引ポンプ(図1では吸引ポンプ26)に吸入口用チューブ(図1では吸入口25用チューブ24)を取り付ける。クラス10以下のような非常に清浄度の高い環境で捕集を行う場合には、吸引ポンプ26の排気口27にカセット式フィルターを取り付け、グレーチングを通して排気することが好ましく行われる。
【0051】
次に、インピンジャーの中の超純水を一定量にし、上蓋を2つの長さの違う管が入った蓋に変更する。サンプリングチューブが入った二個以上のインピンジャー(図1ではインピンジャー19、23)を連結する場合にはインピンジャー間をチューブ(図1ではチューブ20)で連結してから、最終段捕集用のインピンジャー(図1ではインピンジャー23)を吸入口用チューブ(図1では吸入口25用チューブ24)に接続する。
【0052】
さらに、二個以上のフィルターホルダー(図1ではフィルターホルダー12、14)を連結する場合には連結ジグ(図1ではコネクター15)で接続し、孔径の小さいメンブレンフィルター(図1ではメンブレンフィルター13)がセットされたフィルターホルダー(図1ではフィルターホルダー14)を1段目のインピンジャー(図1ではインピンジャー19)にチューブ(図1ではチューブ16)で接続する。フィルターホルダー間は連結ジグだけでなく、チューブを挟んでも構わない。
【0053】
第三に、汚染物質を捕集する場所を決め、吸引上流側の先端にあるフィルターホルダー(図1ではフィルターホルダー12)のトップカバー34中央の吸入口(インレット33)部分が汚染物質を捕集したい方向へ向けられるように、フィルターホルダー、インピンジャー、チューブを、必要に応じてテープで捕集箇所の造作材や支持フレームなどに固定する。クリーンルーム内で捕集を行う場合には、クリーンテープを用いることが好ましい。
【0054】
次に、吸引ポンプの電源を入れる。吸引量が設定量通りになっているか確認する。同時にパーティクルカウンター測定を行う場合には、それを実施する。
【0055】
パーティクルは、捕集する場所の床からの高さや、装置や人からの距離、作業状態などによって変化するため、発生源の特定には局所的かつ一時的なパーティクル捕集を行うことが好ましい。
【0056】
本発明の大気中汚染物質捕集装置、及びその捕集装置を用いた捕集方法は、吸引ポンプさえ設置できれば、どこでも捕集可能である。例えば、高さを変えて捕集することも簡単にできるし、内外で大気中汚染物質環境が異なるクリーンブース、クリーンユニット、クリーンベンチ等の評価も簡便である。機械のユニット毎に、発塵やイオン性物質の種類が異なると想定される場合には、ユニット毎に複数台の捕集装置を用意して、同時捕集すればいいし、機械が稼動している間だけ大気中汚染物質を短時間でも長時間でも捕集可能である。イオン性物質の捕集条件としては、1分間当り2Lで60分間、計120L程度が一般的であろう。
【0057】
次に、設定した捕集時間が経過したら、吸引ポンプの電源をOFFにするか、積算吸引量等を入力し、それを満たしたら自動で電源OFFになる吸引ポンプもある。捕集済みメンブレンフィルターはフィルターホルダーから出さずにクリーンバッグに入れ、観察・分析時まで密封しておく。インピンジャーは上蓋を密閉できる蓋に替え、測定時まで密封しておく。
【0058】
参考までに、PP製フィルターホルダー2個とPFA製インピンジャー2個と5L/min.まで吸引可能なミニポンプの合計金額は約15万円であり、この他に吸引口用チューブ、メンブレンフィルター、クリーンルーム内捕集の場合には排気口用チューブ、カセット式フィルター等が必要になるが、合計しても非常に安価である。
【0059】
本発明の捕集装置を用い、気中パーティクルを捕集したメンブレンフィルターは、走査型電子顕微鏡(SEM)による形状観察およびパーティクル数カウントが好ましく行われる。SEMに併設されることが多いエネルギー分散型X線解析(EDX)による元素分析やオージェ電子分光分析(AES)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)、蛍光X線分析、荷電粒子冷機X線検出法、ラザフォード後方散乱分析、も好ましく行われる。また、有機分析ではフーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)やラマン分光分析による分析も好ましく行われる。
【0060】
本発明の捕集装置を用い、イオン性物質を捕集した水は、イオンクロマトグラフ(IC)によるイオン濃度測定を行う。IC以外にも液体クロマトグラフ(LC)、キャピラリー電気泳動、原子吸光光度分析(AAS)や結合誘導プラズマー−質量分析計(ICP−MS)等の各種分析を行うことが可能である。
【実施例】
【0061】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限られるものではない。
【0062】
<実施例1>
食品包装用フィルムを製造加工する工場内において、カーテンで仕切られたクリーンユニット外の一般環境(床からの高さ45cm)(捕集箇所1)と、HEPAフィルター設置クリーンユニット内に設置されたT台押し出し加工機のそば(床からの高さ45cm)(捕集箇所2)の2箇所に、吸引上流側のフィルターホルダーには直径25mm、孔径8μmのポリカーボネート製メンブレンフィルターを、下流側のフィルターホルダーには直径25mm、孔径0.8μmのポリカーボネート製メンブレンフィルターをセットし、コネクタで連結したものと、50mlの超純水を入れた100ml容量のPFA製インピンジャー1個と、ミニポンプとをそれぞれシリコンチューブで接続した捕集装置を設置した。トップカバー34の吸引口(インレット33)は直径4.5mmである。装置を構成する各部品の事前は洗浄行わなかった。大気中汚染物質は2L/min.で1時間捕集した。
【0063】
捕集開始時から終了まで、光散乱型気中パーティクルカウンターで1時間に1回測定した平均値は、捕集箇所1で0.5μmが420000個/ft3、捕集箇所2で0.5μmが220000個/ft3であり、捕集している間、押し出し加工機は稼動していた。
【0064】
捕集したメンブレンフィルターをSEM観察したところ、孔径0.8μmのフィルターでもフィルター孔に損傷はなく、クリーンユニット外の捕集箇所1では孔径8μm、0.8μmのそれぞれのメンブレンフィルターともに観察されるパーティクルが多く、クリーンユニット内の捕集箇所2ではパーティクルが少ない傾向が確認された。8μm孔径メンブレンフィルターをSEM観察倍率500倍で5箇所観察した結果から、環境中の10μm以上のパーティクル数を計算した結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

表1の結果より、パーティクルカウンターでの測定結果でもパーティクル数が多い捕集箇所1は捕集箇所2に比較し、SEM観察でも多くのパーティクルが観察され、その差異は明らかだった。
【0066】
SEMに併設されているEDXで、フィルター上に捕集されたパーティクルのうち、孔径8μmメンブレンフィルター上の10μm以上のパーティクルと、孔径0.8μメンブレンフィルター上の1μm以上のパーティクル各3個について、元素分析を行った結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

表2の結果より、パーティクルの種類は、捕集箇所1では酸化鉄、Na、Al、Si等他の元素を多数含む無機物あるいは無機物と有機物が複合したパーティクルが多いが、捕集箇所2ではほとんどが有機物で、形状から樹脂と推定され、その種類が異なることがわかった。
【0068】
捕集したインピンジャー内の水について、イオンクロマトグラフ測定を行った結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

表3の結果より、捕集箇所1と2とではケミカルフィルター等の対策を施していないため、捕集箇所1と2との両方でNH4イオンやSO4イオンの濃度が高く、イオン濃度にはほとんど違いがないことがわかった。
<実施例2>
クラス100のダウンフロー式クリーンルーム内のカラーフィルター製造ライン内にお
いて、捕集箇所1(床からの高さ45cm)、捕集箇所2(床からの高さ135cm)の2箇所で図1に示す大気中汚染物質捕集装置を設置した。なお、捕集箇所2の近傍にはスポット用NH4用ケミカルフィルターが設置されている。
【0070】
大気中汚染物質装置を構成する各部品は事前にクラス100のクリーンルーム内で超純水洗浄を行い、クリーンバッグに入れて、インパルスシールしたものを、捕集直前に開封し、装置を組み立てた。
【0071】
吸引上流側のフィルターホルダー12には直径25mm、孔径0.8μmのポリカーボネート製メンブレンフィルター11を、下流側のフィルターホルダー14には直径25mm、孔径0.2μmのポリカーボネート製メンブレンフィルター13をセットしてコネクタ15で連結したものと、50mlの超純水を入れた100ml容量のPFA製インピンジャー19と、同じく50mlの超純水を入れた100ml容量のPFA製インピンジャー23と、吸引ポンプ26とを、それぞれシリコンチューブ16、シリコンチューブ20、シリコンチューブ24で接続した。トップカバー34の吸引口(インレット33)は直径4.5mmである。大気中汚染物質は2L/min.で1時間捕集した。
【0072】
捕集開始から終了まで、光散乱型気中パーティクルカウンターで1時間に1回測定したところ、平均で、捕集箇所1は0.3μmが3000個/ft3、捕集箇所2は0.3μmが90個/ft3だった。捕集している間、装置は稼動と停止を繰り返した。
【0073】
捕集箇所1、2ともにフィルター上に捕集されたパーティクルは少なく、個数の比較はしなかったが、孔径0.2μmのフィルターでも、フィルター孔に損傷はなかった。SEMに併設されているEDXで、孔径0.8μmフィルター上に捕集された1μm以上のパーティクルのうち各3個について、元素分析を行った結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

表4の結果より、パーティクルの種類は、捕集箇所1ではMg,Fe等からなる無機系が多く、捕集箇所2では有機物で、その形状から樹脂と推定され、捕集箇所により、パーティクルの形状、組成が異なることが確認できた。
【0075】
捕集したインピンジャー内の水について、イオンクロマトグラフ測定を行った結果を表5に示す。
【0076】
【表5】

表5の結果より、近傍にNH4用ケミカルフィルターが設置されている捕集箇所2では、NH4用ケミカルフィルターが設置されていない捕集箇所1よりかなりNH4濃度が低いことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】大気中汚染物質捕集装置の一例を示す図。
【図2】フィルターホルダーの一例を示す図。
【図3】フィルターホルダーの一例の分解図。
【符号の説明】
【0078】
11…メンブレンフィルター
12…フィルターホルダー
13…メンブレンフィルター
14…フィルターホルダー
15…コネクター
16…チューブ
17…インピンジャー管(長い)
18…インピンジャー管(短い)
19…インピンジャー
20…チューブ
21…インピンジャー管(長い)
22…インピンジャー管(短い)
23…インピンジャー
24…チューブ
25…吸入口
26…吸引ポンプ
27…排気口
31…ロッキングナット
32…ナット用O−リング
33…インレット(吸引口)
34…トップカバー(トッププレート)
35…サポートスクリーン
36…フィルター押さえO−リング
37…サポートスクリーン
38…ベースプレート用O−リング
39…ベースプレート
40…アウトレット
41…チューブコネクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中の汚染物質をフィルター捕集および液体捕集するためのサンプリング装置であって、
メンブレンフィルターをセットしたフィルターホルダーと、インピンジャーと、ポンプとを備え、
前記フィルターホルダーと前記インピンジャーと前記ポンプとがこの順に接続されていることを特徴とする大気中汚染物質捕集装置。
【請求項2】
前記ポンプは、定流量機能を有し、1分間当りの吸引量が0.5L〜5Lであることを特徴とする請求項1記載の大気中汚染物質捕集装置。
【請求項3】
孔径の異なるメンブレンフィルターをセットしたフィルターホルダーが2個以上接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載の大気中汚染物質捕集装置。
【請求項4】
前記メンブレンフィルターの直径が25mm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の大気中汚染物質捕集装置。
【請求項5】
大気中の汚染物質をフィルター捕集および液体捕集するためのサンプリング方法であって、
メンブレンフィルターをセットしたフィルターホルダーとインピンジャーとポンプとをこの順に接続することを特徴とする大気中汚染物質捕集方法。
【請求項6】
前記ポンプは、定流量機能を有し、1分間当りの吸引量が0.5L〜5Lであることを特徴とする請求項5記載の大気中汚染物質捕集方法。
【請求項7】
孔径の異なるメンブレンフィルターをセットしたフィルターホルダーを2個以上接続することを特徴とする請求項5又は6記載の大気中汚染物質捕集方法。
【請求項8】
前記メンブレンフィルターの直径が25mm以下であることを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載の大気中汚染物質捕集方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−79980(P2009−79980A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248912(P2007−248912)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】