説明

太陽電池を備えた有機EL装置

【課題】窓ガラスとして利用可能な、スタンドアロンで発充電できる有機EL装置を提供する。
【解決手段】有機EL装置1は、ガラス基板2、透明有機EL層3、透明太陽電池層4、蓄電装置5、ダイオード52、スイッチ54を含む。ガラス基板2の一面に透明有機EL層3が、他面に透明太陽電池層4が配置されている。そして、透明有機EL層3および透明太陽電池層4はそれぞれ蓄電装置5に接続されている。ダイオード52は、蓄電装置5と太陽電池層4との接続線51上に、太陽電池層4から蓄電装置5へのみ電流が流れるように配置される。スイッチ54は、蓄電装置5と有機EL素子層3との接続線上53に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池を備えた有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窓ガラスに有機EL素子を配置した窓ガラス照明装置が提案されている。窓ガラス照明装置は、昼間は窓ガラスとして、夜間は照明として利用される。しかし、窓ガラス照明装置を実用化するにあたっては、電力供給の手段に問題がある。例えば、商用電源から電気コードを介してこの窓ガラス照明装置に電力を供給する場合、窓ガラスを開け閉めするときに電機コードが邪魔になる。また、窓ガラス照明装置に組み込んだ蓄電装置から電力を供給する場合、蓄電装置の電力が切れたとき充電する必要がある。
【0003】
こうした問題点を解消する方法として、有機EL発光層に太陽電池と蓄電装置とを設けた、独立電源を有する照明装置が考えられる。
【0004】
特許文献1は、有機EL発光層と円偏光板と透明太陽電池とがこの順番で積層された構成を有する有機EL表示装置を開示している。この有機EL表示装置では、有機EL発光層と透明太陽電池とは制御装置を介して蓄電装置に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−107726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の有機EL表示装置は、装置全体としては可視光透過性を有さないので、窓ガラスとして使用できない。
【0007】
本発明の目的は、窓ガラスとして利用可能な、スタンドアロンで発充電できる有機EL装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る有機EL装置は、
可視光透過性の基板と、
前記基板の一面に配置された可視光透過性の有機EL素子層と、
前記基板あるいは前記有機EL素子層の一方の面に配置された可視光透過性の太陽電池層と、
前記有機EL素子層と前記太陽電池層とに電気的に接続され、前記太陽電池層が出力する電圧を蓄積し、蓄積した電力を前記有機EL素子層に供給する蓄電装置と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機EL装置の厚さはそのガラス基板とほぼ同程度の厚さであり、かつ、全体として可視光透過性を有しているので、通常の窓ガラスと同様に使用できる。また、その上で、太陽光をエネルギー源に発充電が可能であり、この電力を有機EL素子の発光に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る有機EL装置の使用例を示す断面図である。
【図3】本発明の変形例に係る有機EL装置の自動スイッチ切り替え回路を示す電気回路図である。
【図4】本発明の変形例に係る有機EL装置のディスプレイとしての使用例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態に係る有機EL装置について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1に示すように、第1の実施形態に係る有機EL装置1は、ガラス基板2と、その一面に形成された有機EL素子層3と、他面に形成された太陽電池層4と、これら2層に電気的に接続された蓄電装置5とから構成される。
【0013】
ガラス基板2は、窓ガラスと共通に構成され、通常の窓ガラスとして機能すると共に、有機EL装置1では、有機EL素子層3と太陽電池層4との支持体として機能する。ガラス基板2の一面は、有機EL素子層3を形成可能な程度の平滑さを有する。有機EL装置1を窓ガラスとして使用する場合、窓枠への取り付けやすさを考えると、ガラス基板2は長方形が望ましいが、円形などでも構わない。
【0014】
有機EL素子層3は、透明陽極層31、透明発光体層32、導電体層33、および透明陰極層34から構成され、ガラス基板2の前記一面上にこの順番に積層される。透明陽極層31と透明陰極層34は、それぞれ接続線53を介して蓄電装置5に接続される。
【0015】
透明陽極層31は、可視光を透過し紫外線を吸収するワイドギャップ半導体、例えば、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO)、SnO、ドーパントをドープしたポリピロールなどから構成される。透明陽極層31の厚さは、材料によっても異なるが、一般に5〜500nmである。
【0016】
透明発光体層32は有機発光材料と蛍光色素とを含む。有機発光材料には、トリス(8‐キノリノラト)アルミニウムなどのアルミニウムキノリノール錯体などを使用することができる。蛍光色素にはクマリン、DCM誘導体、キナクリドン、ペリレン、ルブレンなどを使用することができる。蛍光色素の種類を選択することで、所望の発光色を得ることができる。また、透明発光体層32の透明陽極層側に正孔注入層を、その透明陰極側に電子注入層をそれぞれ設けてもよい。
【0017】
導電体層33は、例えば、Mg・Ag,Mg・Inなどのアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を基本とする合金、Al・Ca,Al・Liなどの金属間化合物から構成される。導電体層33は、可視光を透過可能な厚さ、一般的に3〜10nmの厚さを有する。
【0018】
透明陰極層34は、ワイドギャップ半導体であるITO、IZO、もしくは可視光を透過可能な程度に薄い金などから構成される。透明陰極層34の厚さは、ITOもしくはIZOから構成する場合は50〜500nm、金から構成する場合は8〜10nmである。
【0019】
上記の構成の有機EL素子層3において、透明陽極層31および透明陰極層34に電圧を印加すると、それぞれに正孔と電子が注入される。注入された正孔と電子は透明発光体層32で結合する。結合によるエネルギーで透明発光体層32の発光材料が励起される。その励起状態から再び基底状態に戻る際に光が発生する。そこで、有機EL装置1は、照明装置として使用できる。また上記のように、有機EL素子層3は可視光透過性の要素によって構成されているので、全体としても可視光透過性である。
【0020】
次に、太陽電池層4は、第1透明電極層41、透明光電変換層42、および第2透明電極層43から構成され、ガラス基板2の他面に、この順番に積層される。第1透明電極層41と第2透明電極層43は、それぞれ接続線51を介して蓄電装置5に接続される。
【0021】
第1透明電極層41は、ITOなどの透明導電材料、第2透明電極層43は、SnOなどの透明導電材料を使用することができる。透明光電変換層42は、第1透明電極層41側に形成されたp型の銅アルミ酸化物半導体層と、第2透明電極層43側に形成された形成されたn型の酸化亜鉛半導体層との積層体から構成される。透明光電変換層42は、可視光線帯を外れる特定の波長帯の光、特に、波長300〜420nmの紫外光が照射されると、光エネルギーを吸収し、励起した電子と正孔とのペアが形成される。励起された電子はp型の銅アルミ酸化物半導体層に、正孔はn型の酸化亜鉛半導体層に流れ込み、これによって、p型層に正の、n型層に負の電圧が発生する。このようにして発生した電荷は第1・第2透明電極層41,43を介して蓄電装置5へと輸送される。太陽電池層4は可視光透過性の要素によって構成されているので、全体としても可視光透過性を有する。
【0022】
蓄電装置5は、太陽電池層4および有機EL素子層3に電気的に接続されており、太陽電池層4が発生した電荷を蓄え、有機EL素子層3に電力を供給する。
【0023】
また、蓄電装置5と太陽電池層4とは、接続線51と逆流防止用のダイオード52とを介して接続されている。
【0024】
また、蓄電装置5と有機EL素子層3との接続線53にはスイッチ54が配置される。スイッチ54がオンすると、接続線53を介して蓄電装置5から有機EL素子層3に電力が供給され、有機EL素子層3が発光する。一方、スイッチ54がオフする、蓄電装置5から有機EL素子層3への電力供給が断たれ、有機EL素子層3は無発光状態になる。
【0025】
また、蓄電装置5は、ガラス基板2と厚さがほぼ等しく、それぞれの面が面一となるようにガラス基板2の辺に沿って配置される。蓄電装置5の面積と、ガラス基板2の面積とはトレードオフの関係にあり、蓄電装置5の有機EL装置1に対する占有面積を大きくすると窓ガラスとしての採光量が減少し、占有面積を小さくすると照明装置へ供給する電力が減少する。そのため、蓄電装置5の有機EL装置1に対する占有面積は、採光量と供給電力が調和するように選択される。好ましくは、蓄電装置5は、窓枠に収めることが可能である。
【0026】
また、有機EL装置1は、全体として、ガラス規格に合致する外径寸法を有する。このため、例えば、図2に示すように、有機EL装置1全体を、有機EL素子層3が室内側、太陽電池層4が室外側となるように窓枠にセットして、使用することが可能である。
【0027】
このような構成において、外光が供給される間は、太陽電池層4が電力を発生し、この電力が蓄電装置5に蓄積される。また、スイッチ54がオンされている間は、有機EL素子層3に蓄電装置5から電力が供給され、有機EL素子層3が発光することにより、室内に照明が提供される。従って、例えば、昼間はスイッチ54をオフして、太陽電池層4による蓄電装置5への充電を主に行い、夜間等にスイッチ54をオンして、蓄電装置5に蓄積された電力を照明に使用することができる。
【0028】
以上示したように、本有機EL装置は蓄電装置を除いては全体として可視光透過性であり、通常のガラスと同様に使用することができる。また、窓ガラスとして設置した場合は、それ自身で発充電をおこなうスタンドアロンの照明器具となる。
【0029】
(実施形態の変形例)
以上、この発明の第1の実施の形態について説明したが、この発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変形および応用が可能である。
例えば、上記の実施形態では、発電と充電のタイミングはスイッチによって手動で調節されるが、これを自動的に調節できるようにしてもよい。このような自動的調節は、例えば、図3で示す電子回路によって実行される。この実施形態では、有機EL装置1に電位差検出回路6を設け、スイッチ54にはトランジスタスイッチを用いる。電位差検出回路6は、太陽電池層4の正極と負極とが入力として接続し、その出力はスイッチ54に接続している。電位差検出回路6は、正極と負極との入力の電圧差が所定の値以上の場合、低電圧の信号を出力する。一方、この電圧差が所定の値より下の場合、高電圧の信号を出力する。スイッチ54は、低電圧の入力ではオフになり、高電圧の入力ではオンになる。好ましくは、所定の値は、有機EL素子層3が設置された土地の晴天時の最低日照量下での太陽電池層4の出力電圧量程度に設定される。この実施携帯の場合、発電と充電のタイミングは自動的に制御され、日照量が十分なときは、有機EL装置1は充電を行い、日照量が不十分なときは、有機EL装置1は発光する。このようにして、有機EL装置1を設置した部屋の中は、常に明るく保たれる。
【0030】
また、上記の実施形態では、太陽光量に依存して太陽電池層4の出力電圧は変動する。そのため、太陽光量が十分でない場合、蓄電装置5を充電するために必要な電圧が得られない。そこで、この問題を解決するため図3で示すように、太陽電池層4と蓄電装置6とを接続する接続線51上に昇圧レギュレータ7を配置してもよい。昇圧レギュレータ7は、太陽電池層4からの電流の電圧を所定の電圧まで昇圧する。所定の電圧は、蓄電装置5の電圧よりも大きい。そのため、太陽光量が十分でない場合でも、太陽電池層4からの電流は昇圧され、蓄電装置5に蓄えられる。
【0031】
また、上記の実施形態では、ガラス基板の一面に単一の有機EL素子層3を設けているが、複数の有機EL素子層3を設け、直列に接続してもよい。これは、高電圧を得ることができる点が有利である。また、複数の有機EL素子層をパターニングして画素とすることで、図4に示すように、ディスプレイとして用いることもできる。このときパターニングは、エッチング法やマスキング法でおこなうことができる。エッチング法では、ガラス基板2の広域に透明陽極層31を形成した後、エッチングによって複数の画素をなすように透明陽極層31のパターンを形成し、このパターンの上に順次透明発光体層32、導電体層33、透明陰極層34を形成して、所望の複数の有機EL素子層3のパターンを得る。マスキング法では、有機EL素子層3を形成する前に、複数の画素のパターンが形成されるようにガラス基板2をマスキングしておき、その後、有機EL素子層3を形成して、マスキングをはがし、所望の複数の有機EL素子層3のパターンを得る。また、上記パターンが各画素を格子状に均等配列するドットマトリクスである場合、ガラス基板2に薄膜トランジスタ(TFT)素子層を形成した後、この上に複数の有機EL素子層3を形成して、接続線51の代わりにTFT素子層を介して複数の有機EL素子層3を印加することが好ましい。
【0032】
また、上記の実施形態では、有機EL素子層3および太陽電池層4を設ける基板としてガラス基板2を用いているが、ガラス基板2の代わりに、透明なフレキシブル基板を用いてもよい。可撓性の基板を用いることで、強度と引き換えに形態や配置の自由度が増す。
【0033】
また、上記の実施形態では、有機EL装置1は外部電源に接続されず発充電を行うが、蓄電装置5に商用電源への接続線を設けてもよい。さらに、この接続線は着脱可能なものが好ましい。このような商用電源への接続線を使用することで、雨天などの太陽光照射量の少ない天候の連続が連続した場合も、それによって生じた太陽光発電量の不足を商用電源によって補填できる。
【0034】
また、上記の実施形態では、有機EL装置1は外部装置とは完全に独立する構成だが、蓄電装置5に外部装置へ給電するための接続線あるいはコネクタを設けてもよい。これによって、さらに、給電する外部装置は外部蓄電装置であることが好ましい。
【0035】
その他、本発明は上述した例に限定されることなく、種々の変形および応用が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 有機EL装置
2 ガラス基板
3 有機EL素子層
31 透明陽極層
32 透明発光体層
33 導電体層
34 透明陰極層
4 太陽電池層
41 第1透明電極層
42 透明光電変換層
43 第2透明電極層
5 蓄電装置
51 接続線
52 ダイオード
53 接続線
54 スイッチ
6 電位差検出回路
7 昇圧レギュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光透過性の基板と、
前記基板の一面に配置された可視光透過性の有機EL素子層と、
前記基板あるいは前記有機EL素子層の一方の面に配置された可視光透過性の太陽電池層と、
前記有機EL素子層と前記太陽電池層とに電気的に接続され、前記太陽電池層が出力する電圧を蓄積し、蓄積した電力を前記有機EL素子層に供給する蓄電装置と、
を有する有機EL装置。
【請求項2】
前記太陽電池層に電気的に接続された電位差検出回路と、
前記有機EL素子層と前記蓄電装置との電気的接続を仲介するスイッチとを有し、
前記電位差検出回路は、前記太陽電池層が出力する電圧が所定の値であるか否かを判別し、所定の値以上の場合、前記スイッチを切断し、所定の値より低い場合、前記スイッチを接続する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記基板と前記蓄電装置とは、実質的に等しい厚さを有し、それぞれの面が面一となり、
前記蓄電装置は、前記基板の辺に沿って配置される、
ことを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記基板がガラスからなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記基板がフレキシブル基板であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−119455(P2011−119455A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275521(P2009−275521)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【Fターム(参考)】