説明

太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法

【課題】半導体インゴットをスライスする際に油性スラリーおよび水溶性スラリーのいずれを使用したかに関わらず、太陽電池のテクスチャ構造形成においてほぼ同一のアルカリエッチング条件を適用することを可能とする。
【解決手段】加工用スラリーを用いて半導体インゴットをスライス加工して半導体ウェーハを切り出し(ステップS1)、半導体ウェーハの表面に付着した加工用スラリーを洗浄除去して(ステップS2)得た太陽電池基板用半導体ウェーハの表面を、酸化作用のみを有する酸化性薬液を用いて洗浄する(ステップS3)。この酸化性薬液を用いた洗浄は、半導体インゴットをスライスする際に、油性スラリーおよび水溶性スラリーのいずれを使用したかに関わらず、所定の条件により行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体インゴットからスライス加工して切り出された太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用半導体ウェーハの製造工程では、半導体インゴットをスライス加工してウェーハ状に切り出した後、このウェーハ上に、光閉じ込めのためのピラミッド状の表面テクスチャ構造を形成することが行われている。テクスチャ構造は、半導体インゴットから切り出されたウェーハを洗浄した後、このウェーハを水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ性水溶液、もしくは水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ性水溶液にイソプロピルアルコール(IPA)等を添加した溶液に浸漬してアルカリエッチング(異方性エッチング)をすることにより形成する。
【0003】
さらに、製造する太陽電池の品質を向上するために、半導体インゴットのスライスからテクスチャ構造の形成までに、種々の製造プロセスが提案されている。たとえば、特許文献1には、半導体インゴットからスライスして切り出された半導体ウェーハをエッチングしてウェーハ表面のダメージ層を除去し、酸化性水溶液とアルカリ性水溶液との混合液に浸漬してウェーハ表面に化学酸化膜を形成した後、異方性エッチングを行う方法が開示されている。また、特許文献2には、表面にダメージ層を有する半導体ウェーハに、酸溶液への浸漬処理、水処理、アルカリ溶液への浸漬処理および水洗処理を順次行い、ウェーハ表面にテクスチャ構造を形成することが記載されている。
【0004】
一方、半導体インゴットからウェーハを切り出す切断方法としては、油性(鉱物油系)スラリーを用いた切断と、水溶性(グリコール系)スラリーを用いた切断との2種類の方法が用いられている。これら2つの方法の間では、使用するスラリーの種別およびスライス後の洗浄条件の違い(油分洗浄の有無)により、太陽電池基板用半導体ウェーハの表面に残存する有機物の付着量に差異が生じる。
【0005】
しかしながら、太陽電池基板用半導体ウェーハの表面に有機物が付着していると、その後に行われる太陽電池製造プロセスのアルカリエッチング処理を阻害する要因となり、有機物が付着していない(または付着の少ない)太陽電池用半導体ウェーハとの間で、エッチング量に差異が生じる。その結果、テクスチャ構造形成等のプロセス品質にも影響を与え、最終的にこの太陽電池基板用半導体ウェーハから製造される太陽電池の変換効率を低下させる。
【0006】
このため、上記の油性および水溶性のスラリーを用いた切断方法に応じて、上記テクスチャ構造形成(アルカリエッチング)以降の太陽電池セル製造プロセスを調整する必要が生じ、製造ライン管理の煩雑性を招くとともに、製造される太陽電池セルの品質の安定性を阻害する要因となっていた。さらに、上述の引用文献1および2や他の公知文献を参照しても、上述のようなインゴットからの半導体ウェーハの切り出し方法の差異による影響を除去する方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−344675号公報
【特許文献2】特開2005−340643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、これらの点に着目してなされた本発明の目的は、半導体インゴットをスライスする際に用いる加工用スラリーが、油性スラリーか水溶性スラリーかを問わず、その後に行われる太陽電池製造プロセスのアルカリエッチング処理において、ほぼ同一のアルカリエッチング条件を適用することを可能とした、太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法の発明は、加工用スラリーを用いて半導体インゴットをスライス加工して半導体ウェーハを切り出すスライス工程と、切り出した半導体ウェーハの表面に付着した加工用スラリーを除去する第1洗浄工程と、酸化作用のみを有する酸化性薬液を用いて、第1洗浄工程で得た半導体ウェーハの表面に付着した有機不純物を分解除去する第2洗浄工程とを含むことを特徴とするものである。
【0010】
加工用スラリーを洗浄除去された太陽電池基板用半導体ウェーハの表面を、酸化性薬液を用いて洗浄することによって、太陽電池基板用半導体ウェーハ表面に付着した有機物を分解除去することができる。これによって、以降の太陽電池セル製造プロセスで、油性スラリーを用いてスライス加工した太陽電池基板用半導体ウェーハ(以下、油性スライスウェーハとも呼ぶ)であっても、水溶性スラリーを用いてスライス加工した太陽電池基板用半導体ウェーハ(以下、水溶性スライスウェーハとも呼ぶ)と同等の製造条件を適用することが可能になる。また、洗浄の段階でエッチングを伴わないことは、後のアルカリエッチング処理において良好なテクスチャ構造を形成するために有利である。
【0011】
さらに、加工用スラリーは、油性スラリーまたは水溶性スラリーであり、酸化性薬液を用いる洗浄は、スライス加工に油性スラリーおよび水溶性スラリーのいずれを使用したかに関わらず、所定の洗浄条件により行うことが好ましい。
【0012】
油性スラリーを用いたか水溶性スラリーを用いたかに関わらず、所定の洗浄条件により酸化性薬液を用いた洗浄を行うので、太陽電池基板用半導体ウェーハ毎にスライス加工の方法に応じて洗浄方法を変える必要が無く、製造工程の管理が容易である。
【0013】
また、前記所定の洗浄条件は、前記酸化性薬液の濃度および温度並びに洗浄時間の条件を含むことが好ましい。
【0014】
さらに、酸化性薬液は、オゾン水、過酸化水素水または硝酸水溶液であることが好ましい。これらの薬液は、優れた酸化性を有しており、半導体ウェーハ表面に付着した有機物の分解除去に優れている。
【0015】
さらに、加工用スラリーの洗浄除去は、スライス加工により切り出された半導体ウェーハを、界面活性剤を用いて洗浄することにより行うことが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化作用のみを有する酸化性薬液を用いて、第1洗浄工程で得た半導体ウェーハの表面に付着した有機不純物を分解除去するようにしたので、半導体インゴットをスライスする際に用いる加工用スラリーが、油性スラリーか水溶性スラリーかを問わず、その後に行われる太陽電池製造プロセスのアルカリエッチング処理において、ほぼ同一のアルカリエッチング条件を適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施例に係る太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法の試験フローを示す図である。
【図2】図1の加工用スラリーの洗浄・除去の詳細を示すフロー図であり、(a)は油性スラリーを用いた場合の洗浄・除去フローを示し、(b)は水溶性スラリーを用いた場合の洗浄・除去フローを示す。
【図3】図1の酸化性薬液による洗浄の詳細を示すフロー図である。
【図4】図4は、図1の試験フローに従って測定された太陽電池基板用半導体ウェーハのエッチング量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施例に係る太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法の試験フローを示す図である。まず、油性スラリーと水溶性スラリーとをそれぞれ用いて、半導体インゴットをスライスしてそれぞれ必要枚数の半導体ウェーハ(寸法:156×156mm)を切り出した(ステップS1)。次に、切り出したウェーハに対して、付着した加工用スラリーの洗浄除去を行った(ステップS2)。図2(a)は、油性スラリーを洗浄除去するフローである。まず、半導体ウェーハを灯油洗浄し(ステップS21)、次に、50°Cの界面活性剤(ノニオン系界面活性剤0.5%溶液)を用いた洗浄を30分間行った(ステップS22)。界面活性剤による洗浄は、粗洗浄と仕上洗浄の2段階で行った。さらに、50°Cのアルカリ性の界面活性剤(ノニオン系界面活性剤0.5%/NaOH2%)を用いた洗浄を15分間行った(ステップS23)。一方、図2(b)は、水溶性スラリーを洗浄除去するフローである。この場合は、図2(a)の場合と比べ、灯油洗浄(ステップS21)する工程は必要無く、界面活性剤洗浄(ステップS22)とアルカリ洗浄(ステップS23)のみを実施した。
【0020】
次に、ステップS1,S2により用意した複数の太陽電池基板用半導体ウェーハを、オゾン水(O)、硝酸水溶液(HNO)または過酸化水素水(H)の酸化性薬液による洗浄(ステップS3)を行うものと、処理を行わず無処理(ステップS3’)とするものに分けて、酸化性薬液による洗浄の対象としたウェーハに対して洗浄処理を行った(ステップS3)。ここで、ステップS3およびS3’は、ステップS1およびS2と連続的に行う必要は無く、ステップS1およびS2により、あらかじめ、油性スライスウェーハおよび水溶性スライスウェーハをそれぞれ必要な枚数用意しておけば良い。ここで、図3は、酸化性薬液による洗浄処理の詳細を示している。すなわち、太陽電池基板用半導体ウェーハに対して、先ず純水を用いた水リンス洗浄を5分間行い(ステップS31)、次に、酸化性薬液を用いた処理を10分間行い(ステップS32)、さらに、純水を用いた水リンス洗浄を5分間行い(ステップS33)、その後、太陽電池基板用半導体ウェーハを乾燥させた(ステップS34)。
【0021】
ここで、試験に使用した酸化性薬液の濃度は、オゾン水は10ppm、硝酸水は0.1質量%、過酸化水素水は3%である。
【0022】
なお、酸化性薬液による処理の条件としては、オゾン水(O)を使用する場合は、常温で濃度0.1−20ppm、処理時間1−20分の範囲が好ましく、さらに好適には、濃度10−12ppm、処理時間10分である。また、過酸化水素水(H)を使用する場合は、常温で濃度0.1−10質量%、処理時間1−20分の範囲が好ましく、さらに好適には、濃度4−6質量%、処理時間10分である。さらに、硝酸水溶液(HNO)を使用する場合は、常温で濃度0.01−10質量%、処理時間1−20分の範囲が好ましく、さらに好適には、濃度0.1−1質量%、処理時間10分である。これらの、好ましい濃度および処理時間の範囲の下限値は、これを下回ると洗浄によりアルカリエッチング処理時のエッチング量が増加する効果が得られなくなる値であり、上限値は、これを上回ると上記の効果が飽和する値である。
【0023】
酸化性薬液による洗浄(ステップS3)後、太陽電池基板用半導体ウェーハを、80°Cの1.5%水酸化カリウム(KOH)水溶液に10分間浸漬し、アルカリエッチング処理を行った(ステップS4)。その後、重量法によりエッチング量を測定した。
【0024】
なお、上記試験フローにおいて、ステップ1はスライス工程に、ステップ2は第1洗浄工程に、ステップ3は第2洗浄工程に対応する。
【0025】
図1の試験フローに従って測定された太陽電池基板用半導体ウェーハのエッチング量の測定結果を表1に示す。この試験では、油性スライスウェーハと水溶性スライスウェーハとの双方について、ステップS3またはS3’として、無処理、オゾン水による洗浄、硝酸水溶液による洗浄、および、過酸化水素水による洗浄を行い、エッチング量を測定した。それぞれの場合について、3枚のウェーハを用いて測定を行い、平均値を求めた。
【表1】

【0026】
図4は表1の太陽電池基盤用半導体ウェーハのエッチング量の平均値をグラフに示したものである。加工用スラリーの洗浄・除去(ステップS2)の後に、酸化性薬液による洗浄(ステップS3)を行わない、すなわち無処理(ステップS3’)の半導体ウェーハについてみると、油性スライスウェーハと水溶性スライスウェーハとでは、エッチング量に大きな差異が見られた。これは、油性スラリーを用いてスライス加工した場合、太陽電池基板用半導体ウェーハに付着した有機物によりアルカリエッチングが妨げられたことによると考えられる。
【0027】
水溶性スライスウェーハについては、オゾン水(O)、硝酸水溶液(HNO)および過酸化水素水(H)による洗浄処理(ステップS3)を行った場合は、無処理の場合とエッチング量にほとんど差異がみられない。一方、油性スライスウェーハについては、オゾン水(O)、硝酸水溶液(HNO)および過酸化水素水(H)による洗浄処理(ステップS3)を行った場合の方が、無処理の場合よりも大幅にエッチング量が増えている。このことから、酸化性薬液による洗浄処理を行うことにより、太陽電池基板用半導体ウェーハの表面に付着した有機物が分解、除去されて、太陽電池基板用半導体ウェーハ表面のエッチングが良好に行われたことがわかる。
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、加工用スラリーを洗浄除去された太陽電池基板用半導体ウェーハの表面を、酸化作用のみを有する酸化性薬液である、オゾン水(O)、硝酸水(HNO)および過酸化水素水(H)を用いて洗浄するようにしたので、半導体インゴットをスライス加工する際に油性スラリーおよび水溶性スラリーのいずれを使用したかに関わらず、太陽電池のテクスチャ構造形成のため、ほぼ同一のアルカリエッチング条件を適用することが可能となる。これによって、太陽電池セル製造ラインの管理が簡易となり、また、製造される太陽電池セルの品質を安定させることができる。
【0029】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変更または変形が可能である。たとえば、酸化性薬液としては、オゾン水、硝酸水、過酸化水素水に限られず、過塩素酸や硫酸等も使用することができる。また、加工用スラリーを洗浄除去する方法としては、界面活性剤を使用する方法に限られず、高圧の純水を半導体ウェーハに向けて噴射する方法や超音波を印加する方法、あるいは、これらと界面活性剤を使用する方法との組み合わせ等種々の方法を使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、半導体インゴットをスライスする際に用いる加工用スラリーが、油性スラリーか水溶性スラリーかを問わず、その後に行われる太陽電池製造プロセスのアルカリエッチング処理において、ほぼ同一のアルカリエッチング条件を適用することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用スラリーを用いて半導体インゴットをスライス加工して半導体ウェーハを切り出すスライス工程と、
該半導体ウェーハの表面に付着した前記加工用スラリーを除去する第1洗浄工程と、
酸化作用のみを有する酸化性薬液を用いて、前記第1洗浄工程で得た前記半導体ウェーハの表面に付着した有機不純物を分解除去する第2洗浄工程と
を含むことを特徴とする太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項2】
前記加工用スラリーは、油性スラリーまたは水溶性スラリーであり、前記酸化性薬液を用いる洗浄は、前記スライス加工に油性スラリーおよび水溶性スラリーのいずれを使用したかに関わらず、所定の洗浄条件により行うことを特徴とする請求項1に記載の太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項3】
前記所定の洗浄条件は、前記酸化性薬液の濃度および温度並びに洗浄時間の条件を含むことを特徴とする請求項2に記載の太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項4】
前記酸化性薬液は、オゾン水、過酸化水素水または硝酸水溶液であることを特徴とする請求項1−3のいずれか一項に記載の太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法。
【請求項5】
前記加工用スラリーの洗浄除去は、前記スライス加工により切り出された前記半導体ウェーハを、界面活性剤を用いて洗浄することにより行うことを特徴とする請求項1−4のいずれか一項に記載の太陽電池基板用半導体ウェーハの洗浄方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−9722(P2012−9722A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145810(P2010−145810)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】