説明

孔付き繊維強化複合体の製造方法、及びその複合体からなる航空機構造用部材

【課題】 高い寸法精度及び真円度及び低い表面粗度の接合用孔を有する繊維強化複合体を低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】 強化繊維にマトリックス樹脂を含浸したプリプレグからなる硬化プリプレグ成形体1’にドリル加工して接合用孔15を有する繊維強化複合体1を製造する方法であって、前記ドリル加工に、2つ以上の錐状の先端切刃81と、前記先端切刃81から連続的にシャンク82まで延在する2つ以上の外周切刃83と、前記先端切刃81からシャンク82まで延在する切屑排出溝84とを有するバニシングドリル8を用いる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い寸法精度及び真円度及び低い表面粗度を有する接合用孔を有する繊維強化複合体を低コストで製造する方法、及びその複合体からなる航空機構造用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機等の構造部材として、軽量で強度の高い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等からなる繊維強化複合体が広く使用されている。繊維強化複合体部品同士又は繊維強化複合体部品と金属部品とを接合するために、各部品を穿孔し、リベット止めしている。繊維強化複合体を穿孔するに、従来先端切刃からシャンクまで切屑排出用のねじれ溝が設けられたツイストドリルが用いられている。しかし、繊維強化複合体は強化繊維を含むので切削が困難であり、ツイストドリルで穿孔すると、切削面にバリが生じたり、繊維がケバ状に残ったり、加工時の振動により切削面から層間剥離が生じたりし、強度低下や疲労破壊を生じる。そのため直径の異なる複数のツイストドリルを、直径の小さいものから順に用いて拡径していき、しかもリーマを用いて仕上げているが、これでは作業工数が多い。
【0003】
そこで特開昭63-306812号(特許文献1)は、複合材部品及び金属部品を重ねた状態で、複合材部品の層間剥離の発生を伴わずに穿孔するドリルとして、先端切刃が、先端中心から後ろに行くほど間隔が広がるように大きな角度で傾斜した一次切刃と、一次切刃に連続して形成され、一次切刃より小さな角度で傾斜した二次切刃とからなるツイストドリルを提案している。
【0004】
特開平2-237709号(特許文献2)は、バリの発生や繊維のむしれ等を伴わずにCFRPを穿孔するツイストドリルとして、先端切刃がローソクポイント型の内周部とフィッシュテール型の外周部とからなり、内周部と外周部がV字状に連続しているツイストドリルを提案している。
【0005】
特開2001-293604号(特許文献3)は、所望の穴径の円を回動軌跡とする切刃を有する切削工具により複合材を穿孔する方法を提案している。この方法によれば、切削工具の数を低減でき、切削工程を簡素化でき、切粉の発生量を低減でき、バリや層間剥離の発生も防止できる。
【0006】
しかし、特許文献1又は2に記載のツイストドリルを用いたり、特許文献3に記載の方法を用いたりしてCFRPを穿孔しても、得られる孔の寸法精度及び真円度が十分に高くならず、表面粗度も十分に低くならない。孔の寸法精度や真円度が悪いと、リベット結合部のガタつきが生じ易かったり、リベット結合部に大きな負荷が加わるとリベット孔からの亀裂が生じ易かったりする。そのため繊維強化複合体部品同士、又は繊維強化複合体部品と金属部品とのリベット結合部の強度や耐久性が低い。孔の寸法精度及び真円度を高めるためにリーマ加工等を行うと、加工コストの増大は免れない。
【0007】
ドリル加工とリーマ加工の両方を行うことができる工具として、ドリル加工用の切刃とリーマ加工用の切刃とを有するバニシングドリルが知られている。しかしバニシングドリルは一般的に金属部品を穿孔するために用いられており、繊維強化複合体の穿孔に用いられた例はない。
【0008】
【特許文献1】特開昭63-306812号公報
【特許文献2】特開平2-237709号公報
【特許文献3】特開2001-293604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、高い寸法精度及び真円度及び低い表面粗度の接合用孔を有する繊維強化複合体を低コストで製造する方法、及びその複合体からなる航空機構造用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、粗孔を形成する先端切刃と粗孔の内面をリーマ加工する外周切刃とを有するバニシングドリルを用いることにより、繊維強化複合体に高い寸法精度及び真円度及び低い表面粗度を有する接合用孔を低コストで形成できることを発見し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸したプリプレグからなる硬化プリプレグ成形体にして接合用孔を有する繊維強化複合体を製造する本発明の方法は、前記ドリル加工に、2つ以上の錐状の先端切刃と、前記先端切刃から連続的にシャンクまで延在する2つ以上の外周切刃と、前記先端切刃からシャンクまで延在する切屑排出溝とを有するバニシングドリルを用いることを特徴とする。前記バニシングドリルを用いた一回の穿孔加工により、ドリル加工とリーマ加工を同時に行うことができる。
【0012】
成形型のキャビティに前記プリプレグを配置した状態で、前記キャビティの縁に沿って前記プリプレグの余肉を切除した後、前記マトリックス樹脂を硬化させて前記硬化プリプレグ成形体を作製するのが好ましい。
【0013】
前記硬化プリプレグ成形体は矩形状平板部と、その端部から突出した少なくとも1つのフランジ部とを有し、前記成形型のキャビティは前記矩形状平板部を支持する水平部と、前記フランジ部を支持する少なくとも1つの垂直部とを有するのが好ましい。
【0014】
少なくとも一方にキャビティが設けられた上型及び下型からなる成形型を使用し、前記上型及び下型の水平部は整合する孔を有し、前記孔に挿入したバニシングドリルにより前記キャビティ内の硬化プリプレグ成形体の矩形状平板部に前記接合用孔を形成するのが好ましい。前記上型のキャビティの水平部に設けられた孔中に、筒状のガイドプラグを固定し、前記ガイドプラグに前記バニシングドリルを挿入して前記硬化プリプレグ成形体に前記接合用孔を形成するのが好ましい。
【0015】
前記上型及び/又は下型の垂直部は孔を有し、前記孔に前記バニシングドリルを挿入することにより前記キャビティ内の硬化プリプレグ成形体のフランジ部に前記接合用孔を設けるのが好ましい。板状の穿孔用治具を前記硬化プリプレグ成形体のフランジ部に当接し、前記穿孔用治具に設けられた孔中に、筒状のガイドプラグを固定し、前記ガイドプラグに前記バニシングドリルを挿入して前記硬化プリプレグ成形体に前記接合用孔を形成するのが好ましい。
【0016】
本発明の方法により製造された孔付き繊維強化複合体は航空機構造用部材として好適である。
【発明の効果】
【0017】
ドリル加工用切刃とリーマ加工用切刃を有するバニシングドリルを用いれば、一回の加工で繊維強化複合体に高い寸法精度及び真円度及び低い表面粗度を有する接合用孔を形成することができる。かかる高精度の接合用孔を有する繊維強化複合体同士、又は繊維強化複合体と金属部品との接合を高精度で行うことができるので、接合部の強度及び耐久性に優れた構造体が得られる。得られた孔付き繊維強化複合体は航空機構造用部材に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[1] 孔付き繊維強化複合体の製造方法
図1は、本発明の方法により製造する孔付き繊維強化複合体の一例を示す。このパネル状の孔付き繊維強化複合体1は、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸したプリプレグを硬化させてなり、矩形状の平板部10と、その横手方向両側縁部から片側に突出したフランジ部11,11と、平板部10の長手方向両側縁部から両側に突出したフランジ部12,12と、平板部10に設けられた軽量化のための円孔13,13と、平板部10の四隅に設けられた円弧状の切り欠き部14とを有する。パネル状孔付き繊維強化複合体1の平板部10、フランジ部11,11及びフランジ部12の一方には、リベット等のファスナにより他の部材と接合するための孔15が設けられている。以下図1に示すパネル状孔付き繊維強化複合体1を成形する方法を例にとり、本発明の方法を説明する。
【0019】
(1) 成形型
(a) 形状
図2〜4は、図1に示すパネル状孔付き繊維強化複合体1を成形する型の一例を示す。この成形型は、孔付き繊維強化複合体1の平板部10及びフランジ部11,11,12,12を形成するキャビティ20,30を有する上型及び下型2,3と、上型及び下型2,3と密着する側型4,4,5,5とを有する。
【0020】
上型2のキャビティ20は、孔付き繊維強化複合体1の平板部10を形成する水平部20aと、孔付き繊維強化複合体1のフランジ部12,12を形成する垂直部20b,20bとを有する。水平部20aの四隅には扇状凸部23a,23a,23a,23aが円弧部を内側にして設けられており、各扇状凸部23aの平坦な側面は垂直部20b,20bより僅かに外側に張り出している。各垂直部20bは上型2の厚さ方向途中まで延びているので、隣接する扇状凸部23aの根元部(上部)は上型2の上面に沿った水平凸部23cにより連結している。キャビティ20の外周に沿って樹脂漏れ防止用シール66を収容する溝21aが形成されているので、キャビティ20の外周縁と溝21aとの間がフランジ部22aとなる。
【0021】
水平部20aの中央に、孔付き繊維強化複合体1の円孔13,13を設けるための一対の円状凸部23b,23bが設けられている。各円状凸部23bの中心部には、後述するピン65を挿入する孔25が設けられている。各円状凸部23bとその外周に設けられた同じ高さの環状フランジ部22bとの間に、樹脂漏れ防止用シール66を収容する環状溝21bが設けられている。
【0022】
上型2には、繊維強化複合体1に接合用孔15を設けるためにバニシングドリルを挿入する孔24が設けられている。図3(a) に示すように、孔24は、上側からネジ山を有する大径部24aと、ネジ山を有さない小径孔部24bとを有する。上型2用の樹脂漏れ防止プラグ62は孔24と相補的な形状を有し、大径孔部24aに螺合するネジ山付きの頭部62aを有する。小径孔部24bに挿入される先端切刃62bにはOリング(例えばシリコーンゴム、含フッ素ゴム等からなる)62cが装着されているので、樹脂漏れを防ぐことができる。プラグ62を孔24に螺入すると、小径孔部24bの先端面はキャビティ20の水平部20aと同一平面となる。
【0023】
図4(a)に示すように、成形した孔付き繊維強化複合体1を上型2から取り外すために、上型2のフランジ部22aの内側面(キャビティ20の端面20c)にマイナスドライバ等の平坦な工具を差し入れる浅い溝26が適宜設けられている。
【0024】
下型3は上型2に対応する形状を有する。下型3のキャビティ30は、孔付き繊維強化複合体1の平板部10を形成する水平部30aと、孔付き繊維強化複合体1の横手方向フランジ部11,11を形成する垂直部30b,30bと、孔付き繊維強化複合体1の長手方向フランジ部12,12を形成する垂直部30c,30cとを有する。水平部30aの四隅には、上型2の扇状凸部23a,23a,23a,23aと同じ形状の扇状凸部33a,33a,33a,33aが設けられており、各扇状凸部33aの平坦な側面は垂直部30b,30b,30c,30cより僅かに外側に張り出している。各垂直部30b,30cは下型2の厚さ方向途中まで延びているので、隣接する扇状凸部33aの根元部(下部)は下型3の下面に沿った水平凸部33cにより連結している。キャビティ30の外周に沿って樹脂漏れ防止用シール66を収容する溝31aが形成されているので、キャビティ30の外周縁と溝31aとの間がフランジ部32aとなる。
【0025】
水平部30aの中央に、孔付き繊維強化複合体1の円孔13,13を設けるための一対の円状凸部33b,33bが設けられている。各円状凸部33bとその外周に設けられた同じ高さの環状フランジ部32bとの間に、樹脂漏れ防止用シール66を収容する環状溝31bが設けられている。各円状凸部33bの中心部には、ピン65を挿入する孔37が設けられている。ピン65は孔37より大きい直径の頭部65aを有するので、各ピン65を孔37に挿入すると、頭部65aは孔37に入らずに上型2の孔25に入る。その結果、下型3に対する上型2の位置が決まる。
【0026】
下型3は、水平部30aに上型2の孔24と垂直方向に整合した孔34を有し、一方の垂直部30b及び両方の垂直部30c,30cに孔34'を有する。孔34,34'は同じ直径を有し、繊維強化複合体1に接合用孔15を形成するためのバニシングドリルが入る。図3(b)に示すように、孔34は上側から小径部34a及び大径部34bを有する。下型3用の樹脂漏れ防止プラグ63は、小径孔部34aに密着する小径部63aと、大径孔部34bに入る大径部63bとからなる。図示していないが、必要に応じて成型中のプラグ63の脱落を防止するために大径部63bを大径孔部34bに螺合しても良い。孔34,34'に装着されたプラグ63の先端面はキャビティ30の水平部30a又は垂直部30b,30cと同一平面にある。下型3の下面には、マトリックス樹脂の硬化後にプラグ63を孔34'から抜くための溝38がキャビティ30の垂直部30b,30cに沿って設けられている。
【0027】
図4(b)に示すように、下型3のフランジ部32aの内側面(キャビティ30の端面30d)にも、成形した孔付き繊維強化複合体1を下型3から取り外す平坦な工具を差し入れる浅い溝36が設けられている。
【0028】
硬化した孔付き繊維強化複合体1は型開き後に約0.1 mmだけ厚くなる傾向があるので、上型2及び下型3キャビティ20,30により形成されるキャビティを予め約0.1 mmだけ薄くしておくのが好ましい。
【0029】
(b) 材料
上型2及び下型3を構成する材料としては、例えば鋳鉄、鋼鉄(例えばJIS SS400等)、炭素鋼(例えばJIS S45C-H等)等が挙げられる。鋳鉄としては、株式会社榎本鋳工所から「ノビナイト」の商品名で市販されている低線膨張係数を有するものが好ましい。側型4,5を構成する材料としては、例えばアルミニウム等が挙げられる。
【0030】
プラグ62,63,ピン65の材料としては、合金鋼(例えばJIS SCM435H等)が挙げられる。シール66の材料としては、硬化温度に耐える耐熱性を有するゴムであり、例えばポリテトラフロロエチレン(PTFE)等の含フッ素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。PTFE製シールの市販品として、GORE-TEX No.3300(ジャパンゴアテックス株式会社製)が挙げられる。
【0031】
(2) 製造工程
(a) プリプレグ積層工程
予め上型2の孔24、及び下型3の孔34,34'に、樹脂漏れ防止プラグ62、63を挿入する。四隅を扇形に切り欠いた複数の矩形状布状プリプレグを、上型2及び下型3上に積層する。図5(a)及び図5(b)に示すように、上型2及び下型3上のプリプレグ積層体1a,1bはそれぞれ余肉を有する。
【0032】
布状プリプレグは強化繊維からなる布に、マトリックス樹脂を含浸させてなる。強化繊維としては特に制限されず、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維等から用途に応じて適宜選択される。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂等から用途に応じて適宜選択される。パネル状孔付き繊維強化複合体1を航空機構造用部材として使用する場合、強化繊維としては炭素繊維が好ましく、マトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂が好ましい。
【0033】
(b) 余肉切除工程
図5(c)及び図5(d)に示すように、カッター等のトリミング工具72により、上型2のキャビティ20の端面20cに沿ってプリプレグ積層体1aの余肉12aを切除(トリミング)し、下型3のキャビティ30の端面30dに沿ってプリプレグ積層体1bの余肉11b,12bを切除する。図5(e)に示すように、トリミング後、下型3では、キャビティ30にプリプレグ積層体1bが収容された状態となる。上型2の溝21a,21b、及び下型3の溝31a,31bにシール66を装着する。上型2の溝26、及び下型3の溝36にシリコーンシートを詰める。下型3の孔37にピン65を挿入し、それらの頭部65aを上型2の孔25に挿入し、図5(f)に示すように、プリプレグ積層体1a,1bが接するように下型3に上型2を載置する。図5(f)及び図5(g)に示すように、上型2に載置したプリプレグ積層体1aを下型3に載置したプリプレグ積層体1bの上に垂らした状態で、下型3のキャビティ30の端面30dに沿って、プリプレグ積層体1aの横手方向余肉11aを切除する。トリミングは通常室温で行う。トリミングの容易な未硬化のプリプレグ積層体1a,1bから余肉を切除するので、良好な切断面を有する繊維強化複合体を簡便に製造できる。
【0034】
(c) フランジ部用プリプレグの積層工程
図5(h)及び図5(i)に示すように、フランジ部12,12を強化するために、帯状プリプレグ1cを、強化繊維及びマトリックス樹脂からなる充填材1dを介して、プリプレグ積層体1a,1bのフランジ部12a,12bに積層する。このようにしてプリプレグ積層体1a,1b、帯状プリプレグ1c及び充填材1dを一体化したプリプレグ成形体1''が得られる。
【0035】
(d) 硬化工程
図6に示すように、組合せた上型2及び下型3の側面に、側型4,4,5,5を付着し、プリプレグ成形体1''のフランジ部を支持する。図7に示すように、型全体を基盤90上に載置し、バッグフィルム91で被覆する。バッグフィルム91内を真空ポンプに接続した管92より減圧する。真空状態を保持できるように、バッグフィルム91を基盤90の上面に接着テープ93により密着する。
【0036】
バッグフィルム91内を真空状態に保持したまま加熱し(図8参照)、マトリックス樹脂を硬化させる。加熱はオーブン等の中で行うことができるが、オートクレーブ中で加圧しながら行うのが好ましい。加熱温度は、熱硬化性樹脂の種類によって若干異なるが120〜180℃が好ましい。オートクレーブを使用する場合、3〜6MPa程度に加圧するのが好ましい。
【0037】
(e) 穿孔工程
硬化プリプレグ成形体1'の平板部10'、フランジ部11',11'及びフランジ部12'にバニシングドリルにより接合用孔15を形成する。
【0038】
(i) バニシングドリル
図9(a)及び図9(b)は、硬化プリプレグ成形体1'の穿孔に使用するバニシングドリルの一例を示す。バニシングドリル8は、錐状先端切刃81,81と、各先端切刃81,81と連続してシャンク82まで延在する外周切刃83,83と、先端切刃81,81からシャンク82まで延在するV字状断面の切屑排出溝84,84とを有する。外周切刃83を有するランド85は、周方向両端部に孔15の内面と接触するマージン85a,85bを有する。マージン85a,85bの幅d1,d2は、孔15の直径及び硬化プリプレグ成形体1'の厚さに応じて適宜設定する。
【0039】
バニシングドリル8は、錐状先端切刃81,81と外周切刃83,83とを具備するものであれば、図示の構造に限定されない。例えば、ランド85に切削液流入用溝を設けてもよい。先端切刃81,81の傾斜角θは、外周切刃83,83側を小さくしても良い。また外周切刃83,83は螺旋状でも良い。バニシングドリル8は、少なくとも切刃域8aが超硬合金製であるが好ましい。
【0040】
このようなバニシングドリルは、例えば特許第2981055号、特許第2572128号、特開平6-31516号、特開平6-39617号、特開平7-108409号、特開2002-301616号、特開2006-95662号、実用新案登録第2601362号、実公平7-31926号、実公平6-45287号、実公平6-32254号、実公平6-32253号、実公平5-36566号、実公平3-25856号、実開平7-044681号、実開平2-97510号等に開示されている。バニシングドリルは、例えばバニシングツール株式会社等により市販されている。
【0041】
(ii) 穿孔
側型4,4,5,5を取り外した後、図10に示すように、ショルダーボルト64を、板状の穿孔用治具6,6,7,7の孔61,71を介して、孔35に螺入することにより、板状穿孔用治具6,6,7,7を下型3に取り付ける。穿孔用治具6,7には、型中の硬化プリプレグ成形体1'に孔15を設けるために、ガイドプラグ67を介してバニシングドリル8を挿入する孔60,70が各々設けられている。穿孔用治具6,7はアルミニウム等により形成できる。ショルダーボルト64は合金鋼(例えばJIS SCM435H等)により形成できる。
【0042】
型2,3の孔24,34,34'から樹脂漏れ防止プラグ62,63を抜く。図10に示すように、上型2及び穿孔用治具6,7の孔24、60,70に、孔67aを有する筒状のガイドプラグ67を挿入する。図11に示すように、ガイドプラグ67は、孔24の大径部24aに密着する大径部67b、及び孔24の小径孔部24bに密着する小径部67cを有する。治具6,7の孔60,70も、ネジ山を有さない以外、孔24と同形状を有するので、ガイドプラグ67が係合する。
【0043】
図12に示すように、ガイドプラグ67の孔67aにバニシングドリル8を挿入して硬化プリプレグ成形体1'を穿孔する。孔15の寸法精度を高めるために、ガイドプラグ67の孔67aの直径をバニシングドリル8の直径D超〜D+50μm以下とするのが好ましい。ガイドプラグ67を孔24,60,70中に固定し、硬化プリプレグ成形体1'を垂直に穿孔する。このように型2,3内に硬化プリプレグ成形体1'が保持された状態で、孔60,70を有する穿孔用治具6,7を利用して穿孔するので、接合用孔15を精確かつ効率よく形成することができる。
【0044】
バニシングドリル8の回転速度及び送り速度は、硬化プリプレグ成形体1'の厚さ、孔15の直径、必要な寸法精度等の条件に応じて、適宜設定する。例えば炭素繊維及びエポキシ樹脂からなり、厚さが1.5 mm程度の硬化プリプレグ成形体1'を穿孔する場合、バニシングドリル8の回転速度を2,000〜3,000 rpmとするのが好ましい。必要に応じて切削液を使用してもよい。
【0045】
バニシングドリル8の先端切刃81,81は硬化プリプレグ成形体1'に粗孔を形成し、外周切刃83,83は粗孔をリーマ加工するので、バニシングドリル8による一回の加工だけで、高い寸法精度及び真円度及び低い表面粗度を有する孔15を低コストで形成することができる。
【0046】
(f) 脱型工程
得られた孔付き繊維強化複合体1から、型2,3及び穿孔用治具6,7を取り外す。図13に示すように、上型2の孔25にはネジ山が設けられている。ネジ山付き孔25にボルト73を螺入し、その先端でピン65の頭部65aを押すことにより、上型2と下型3を容易に分離することができる。上型2のフランジ部22aに設けた溝26に、マイナスドライバ等の平坦な工具74を差し入れ、上型2から孔付き繊維強化複合体1を分離する。図14に示すように、下型3のフランジ部32aに設けた溝36にも平坦な工具74を差し入れ、下型3から孔付き繊維強化複合体1を持ち上げ、分離する。
【0047】
[2] 航空機構造用部材
以上のような製造方法により得られる孔付き繊維強化複合体は、軽量で強度が高いので、航空機構造用部材として好適である。図15は、本発明の方法により製造した孔付き繊維強化複合体を用いて航空機胴体用構造体を構成した例を示す。孔付き繊維強化複合体1はリベット94により接合されている。図15に示す構造体は、例えば航空機胴体の床用の構造体として使用することができる。この例では、孔付き繊維強化複合体1同士を接合しているが、アルミニウム合金製部材等の他の部材と接合しても良い。図15に示す例では同じ形状の孔付き繊維強化複合体1を接合しているが、異なる形状の孔付き繊維強化複合体1を組合せても良い。
【実施例】
【0048】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1
図5(a)〜図8に示す手順により、炭素繊維及びエポキシ樹脂からなる硬化プリプレグ成形体1'を作製した。図10〜12に示す手順により、硬化プリプレグ成形体1'の平板部10'(厚さ:1.56 mm)に、図9に示すバニシングドリル8(直径D:4.1 mm)を2,000 rpmの回転速度で貫通させ、5個の孔15を形成した。各孔15に垂直な一平面が孔15の内面と交差する線上の複数の点の座標を三次元座標測定機により測定した。図16(a)〜(e)は、各孔15の実測座標値を結ぶ環状線(実測線)L2、及び実測線L2で囲まれた領域と同じ面積を有する真円L1を示す。なお各図において、実測線L2の真円L1からの偏差は明瞭化のために同倍率で拡大してある。いずれの実測線L2も真円L1からの偏差が十分に小さかった。これから、バニシングドリル8を使用すると一発加工でも高い寸法精度及び真円度を有する孔15が得られることが分かる。
【0050】
比較例1
ツイストドリル(ドリル径:4.1 mm)を用いた以外実施例1と同様にして、硬化プリプレグ成形体1'の平板部10'に、5個の孔15を形成した。各孔15の内面の三次元座標値を実施例1と同様に測定した。図17(a)〜(e)は、各孔15の実測座標値を結ぶ環状線(実測線)L3、及び実測線L3で囲まれた領域と同じ面積を有する真円L1を示す。各図における実測線L3の真円L1からの偏差は実施例1と同倍率に拡大してある。図17(a)〜(e)から明らかなように、実施例1に比べて測定線L3は真円L1からの偏差が著しく大きく、孔15の寸法精度及び真円度が低かった。実施例1と同等の真円度を得るにはリーマ加工等の追加作業が必要であり、加工コストの増大を免れない。
【0051】
以上の通り本発明を図面及び実施例を参照して詳細に説明したが、本発明はそれらに限定されず、本発明の趣旨を変更しない限り種々の変更を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の方法により製造する孔付き繊維強化複合体の一例を示す斜視図である。
【図2(a)】図1の孔付き繊維強化複合体を成形する型の一例を示す分解斜視図である。
【図2(b)】図2(a) の上型を示す平面図、長手方向側面図、横手方向側面図及び底面図である。
【図2(c)】図2(a) の下型を示す平面図、長手方向側面図、横手方向側面図及び底面図である。
【図3(a)】上型に設けたピン機構を示す部分断面図である。
【図3(b)】下型に設けたピン機構を示す部分断面図である。
【図4(a)】図2(a) のA部分を示す拡大斜視図である。
【図4(b)】図2(a) のB部分を示す拡大斜視図である。
【図5(a)】上型にプリプレグ積層体を載置した状態を示す側面図である。
【図5(b)】下型にプリプレグ積層体を載置した状態を示す側面図である。
【図5(c)】上型に載置したプリプレグ積層体の横手方向余肉を切除する様子を示す側面図である。
【図5(d)】下型に載置したプリプレグ積層体の横手方向余肉を切除する様子を示す側面図である。
【図5(e)】下型のキャビティに、余肉を切除したプリプレグ積層体が収容された状態を示す平面図及び側面図である。
【図5(f)】上型に載置したプリプレグ積層体(下型に載置したプリプレグ積層体上に垂れ下がっている)の横手方向余肉を切除する様子を示す側面図である。
【図5(g)】図5(f) のC-C部分断面図である。
【図5(h)】上型及び下型に挟持されたプリプレグ積層体のフランジ部に帯状プリプレグを積層した状態を示す側面図である。
【図5(i)】図5(h) のD部分を示す拡大断面図である。
【図6】図5(i)の一体化した上型及び下型の側面に、側型を取り付けた状態を示す側面図である。
【図7】プリプレグ成形体及び成形型をバッグフィルムで被覆し、脱気する様子を示す断面図である。
【図8】プリプレグ成形体及び成形型を真空下に保持した状態を示す断面図である。
【図9(a)】硬化プリプレグ成形体を穿孔するために用いるバニシングドリルの一例を示す側面図である。
【図9(b)】図9(a)のバニシングドリルを示す正面図である。
【図10】硬化プリプレグ成形体を穿孔するために用いる治具の一例を示す分解斜視図である。
【図11】上型の孔にガイドプラグを挿入した状態を示す部分断面図である。
【図12】硬化プリプレグ成形体を穿孔する様子を示す部分断面図である。
【図13】上型と下型を分離するために、上型の孔にボルトを螺入する様子を示す部分断面図である。
【図14】下型から孔付き繊維強化複合体を分離するために、下型のフランジ部に設けた溝に、平坦な工具を差し入れる様子を示す部分斜視図である。
【図15】孔付き繊維強化複合体を組み立ててなる航空機胴体用構造体の一部の例を示す斜視図である。
【図16(a)】実施例1で形成した1つの孔の内面の実測形状の真円からの偏差を示す図である。
【図16(b)】実施例1で形成した別の孔の内面の実測形状の真円からの偏差を示す図である。
【図16(c)】実施例1で形成したさらに別の孔の内面の実測形状の真円からの偏差を示す図である。
【図16(d)】実施例1で形成したさらに別の孔の内面の実測形状の真円からの偏差を示す図である。
【図16(e)】実施例1で形成したさらに別の孔の内面の実測形状の真円からの偏差を示す図である。
【図17(a)】比較例で形成した1つの孔の内面の実測形状の真円からの偏差を示す図である。
【図17(b)】比較例1で形成した別の孔の内面の実測形状の真円からの偏差を示す図である。
【図17(c)】比較例で形成したさらに別の孔の内面の実測形状の真円からの偏差を示す図である。
【図17(d)】比較例1で形成したさらに別の孔の内面の実測形状の真円からの偏差を示す図である。
【図17(e)】比較例1で形成したさらに別の孔の内面の実測形状の真円からの偏差を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1・・・孔付き繊維強化複合体
10・・・平板部
11,12・・・フランジ部
13・・・円孔
14・・・切り欠き部
15・・・接合用孔
1a,1b・・・プリプレグ積層体
11a, 12a,12b・・・余肉
1c・・・帯状プリプレグ
1d・・・充填材
1'・・・硬化プリプレグ成形体
10'・・・平板部
11',12'・・・フランジ部
1''・・・プリプレグ成形体
2・・・上型
20・・・キャビティ
20a・・・水平部
20b・・・垂直部
20c・・・端面
21a,21b・・・溝
22a・・・フランジ部
22b・・・環状フランジ部
23a・・・扇状凸部
23b・・・円状凸部
23c・・・水平凸部
24・・・孔
24a・・・大径部
24b・・・小径部
25・・・孔
26・・・溝
3・・・下型
30・・・キャビティ
30a・・・水平部
30b,30c・・・垂直部
30d・・・端面
31a,31b・・・溝
32a・・・フランジ部
32b・・・環状フランジ部
33a・・・扇状凸部
33b・・・円状凸部
33c・・・水平凸部
34・・・孔
34a・・・小径部
34b・・・大径部
34',35,37・・・孔
36・・・溝
38・・・溝
4・・・側型
5・・・側型
6・・・穿孔用治具
60,61・・・孔
62・・・樹脂漏れ防止用プラグ
62a・・・頭部
62b・・・先端切刃
62c・・・Oリング
63・・・樹脂漏れ防止用プラグ
64・・・ショルダーボルト
65・・・ピン
65a・・・頭部
66・・・樹脂漏れ防止用シール
67・・・ガイドプラグ
67a・・・孔
67b・・・大径部
67c・・・小径部
7,7'・・・穿孔用治具
70,71・・・孔
72・・・トリミング工具
73・・・ボルト
74・・・平坦な工具
8・・・バニシングドリル
81・・・先端切刃
82・・・シャンク
83・・・外周切刃
84・・・切屑排出溝
85・・・ランド
85a,85b・・・マージン
90・・・基盤
91・・・バッグフィルム
92・・・吸引管
93・・・接着テープ
94・・・リベット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維にマトリックス樹脂を含浸したプリプレグからなる硬化プリプレグ成形体にドリル加工して接合用孔を有する繊維強化複合体を製造する方法であって、前記ドリル加工に、2つ以上の錐状の先端切刃と、前記先端切刃から連続的にシャンクまで延在する2つ以上の外周切刃と、前記先端切刃からシャンクまで延在する切屑排出溝とを有するバニシングドリルを用いることを特徴とする孔付き繊維強化複合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の孔付き繊維強化複合体の製造方法において、成形型のキャビティに前記プリプレグを配置した状態で、前記キャビティの縁に沿って前記プリプレグの余肉を切除した後、前記マトリックス樹脂を硬化させることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の孔付き繊維強化複合体の製造方法において、前記硬化プリプレグ成形体は矩形状平板部と、その端部から突出した少なくとも1つのフランジ部とを有し、前記成形型のキャビティは前記矩形状平板部を支持する水平部と、前記フランジ部を支持する少なくとも1つの垂直部とを有することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の孔付き繊維強化複合体の製造方法において、少なくとも一方にキャビティが設けられた上型及び下型からなる成形型を使用し、前記上型及び下型の水平部は整合する孔を有し、前記孔に前記バニシングドリルを挿入することにより前記キャビティ内の硬化プリプレグ成形体の矩形状平板部に前記接合用孔を形成することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の孔付き繊維強化複合体の製造方法において、前記上型のキャビティの水平部に設けられた孔中に、筒状のガイドプラグを固定し、前記ガイドプラグに前記バニシングドリルを挿入して前記硬化プリプレグ成形体に前記接合用孔を形成することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の孔付き繊維強化複合体の製造方法において、前記上型及び/又は下型の垂直部の孔に前記バニシングドリルを挿入することにより前記キャビティ内の硬化プリプレグ成形体のフランジ部を穿孔することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の孔付き繊維強化複合体の製造方法において、板状の穿孔用治具を前記硬化プリプレグ成形体のフランジ部に当接し、前記穿孔用治具に設けられた孔中に、筒状のガイドプラグを固定し、前記ガイドプラグに前記バニシングドリルを挿入して前記硬化プリプレグ成形体を穿孔することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法により製造された孔付き繊維強化複合体からなることを特徴とする航空機構造用部材。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図5(d)】
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【図5(e)】
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【図5(f)】
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【図5(g)】
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【図5(h)】
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【図5(i)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9(a)】
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【図9(b)】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16(a)】
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【図16(b)】
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【図16(c)】
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【図16(d)】
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【図16(e)】
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【図17(a)】
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【図17(b)】
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【図17(c)】
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【図17(d)】
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【図17(e)】
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【公開番号】特開2008−149449(P2008−149449A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298608(P2007−298608)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】