説明

安定な非晶質セフジニル

本発明は、安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)、それの製造方法、および安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)を含む医薬組成物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)、それの製剤、それの製造方法ならびにその安定な非晶質化合物を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤である7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)(以下、「セフジニル」と称する)は、セファロスポリン類に属する半合成経口抗生物質である。セフジニルは、米国においてカプセルおよび経口懸濁液製剤でオムニセフ(登録商標)として販売されている。オムニセフ(登録商標)は、黄色ブドウ球菌、肺炎連鎖球菌、化膿連鎖球菌、インフルエンザ菌、カタラリス菌、大腸菌、クレブシエラ属およびミラビリス変形菌などの広いスペクトルの細菌に対して活性である。セフジニルの製造が最初に開示されたのは1985年12月17日発行の米国特許第4559334号であったが、セフジニルの市販型(結晶A)の製造が最初に開示されたのは1990年6月19日発行の米国特許第4935507号においてであり、それらはいずれも参照によって全体が本明細書に組み込まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
米国特許第4559334号でのセフジニルの製造では、結晶様の非晶質材料が記載されている。しかしながら、その非晶質材料は純粋ではなく、不安定であった。
【0004】
本発明は、安定な非晶質セフジニルならびにそれの製剤、それらの製造方法そして医薬組成物およびそれらの使用を提供する。セフジニルを含む医薬組成物は、肺炎連鎖球菌およびインフルエンザ菌などの細菌感染を治療する上で有用である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)、それの製造方法および安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)を含む医薬組成物に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)、それの製造方法および安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)を含む医薬組成物に関するものである。
【0007】
本発明は、水(それに限定されるものではない。)などの溶媒中で非晶質セフジニルを組み合わせることで、非晶質セフジニルからセフジニル(結晶A)を製造する方法に関するものでもある。
【0008】
本発明は、カチオン系ポリマーと組み合わせた安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)に関するものでもある。本発明は、非晶質中性ポリマーもしくはコポリマーと組み合わせた安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)に関するものでもある。本発明は、酸解離定数が2より大きい非晶質カチオン系ポリマーと組み合わせた安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)に関するものでもある。
【0009】
安定な非晶質セフジニルは、カチオン系ポリマーとともに製造することもできる。特に、安定な非晶質セフジニルを、酸解離定数が2より大きい非晶質カチオン系ポリマーと組み合わせることができる。好適なカチオン系ポリマーには、オイドラギット(Eudragit)Eシリーズのポリマーなどがあるが、それらに限定されるものではない。
【0010】
安定な非晶質セフジニルは、中性ポリマーもしくはコポリマーとともに製造することもできる。好適な中性ポリマーもしくはコポリマーには、PVP類、PVA類、PVP−コ−PVA(コポビドン)、HEC、HPMC、HPMCP(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート)などがあるが、これらに限定されるものではない。PVPと組み合わせた非晶質セフジニルを製造し、メタノール溶液を溶媒留去することで単離した。その非晶質材料は物理的に安定であった。
【0011】
安定な非晶質セフジニルは、アニオン系ポリマーとともに製造することもできる。好適なアニオン系ポリマーには、オイドラギットLシリーズのポリマーおよびカルバポール(carbapol)類などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
安定な非晶質セフジニルは、巨大分子とともに製造することもできる。好適な巨大分子には、デキストリン(ブドウ糖ポリマー)およびマルトデキストリンなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明は、非晶質ポリマーと組み合わせた安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)に関するものでもある。本発明は、ポリビニルピロリドンまたはHPMC類などの他の非晶質ポリマーと組み合わせた安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)に関するものでもある。
【0014】
本発明は、セフジニル水和物を有機溶媒中で組み合わせ、次に溶液の溶媒留去を行うことで製造される安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)に関するものでもある。
【0015】
2kWノーマルフォーカスX線管およびペルチェ冷却ゲルマニウム固体検出器(Scintag Inc., Sunnyvale, CA)を搭載したXDS−2000/X線回折計を用いて、粉末X線回折(PXRD)を行った。データは、DMSNTソフトウェア(バージョン1.37)を用いて処理した。X線源は、45kVおよび40mAで操作する銅フィラメントとした。コランダム標準を用いて、1日1回角度計のアラインメントを調べた。サンプルを、薄層でゼロバックグラウンドプレート上に載置し、2θ値2〜40°の範囲にわたって2θ値2°/分の速度で連続的に走査した。
【0016】
特徴的な粉末X線回折パターンピーク位置を、許容変動量±0.1°で角度位置(2θ)に関して報告する。この許容変動量は、米国薬局方1843〜1884頁(1995)に具体的に記載されている。変動量±0.1°は、2つの粉末X線回折パターンを比較する場合に用いるためのものである。実際には、あるパターンからの回折パターンピークが、測定ピーク位置±0.1°である角度位置(2θ)範囲を割り当てられており、それらのピーク位置範囲に重なりがある場合、その2つのピークは同じ角度位置(2θ)を有すると見なされる。例えば、あるパターンからの回折パターンピークがピーク位置5.2°を有すると測定された場合、比較のため、許容される変動量によって、そのピークには5.1〜5.3°の範囲の位置を割り当てることができる。他方の回折パターンからの比較ピークがピーク位置5.3°を有すると測定される場合、比較のため、許容される変動量によって、そのピークには5.2〜5.4°の範囲の位置を割り当てることができる。その2つのピーク位置範囲(すなわち、5.1〜5.3°および5.2〜5.4°)間には重なりがあることから、比較されるそれら2つのピークは、同じ角度位置(2θ)を有すると見なされる。
【0017】
ニコレット(Nicolet)NIC−PLAN顕微鏡を搭載したフーリエ変換赤外分光計(FTIR)(ニコレット・マグナ750FT−IR分光計(Nicolet Magna 750FT-IR Spectrometer)、ニコレット・インスツルーメント社(Nicolet Instrument Corporation, Madison, WI))を用いて、固体の透過赤外線スペクトラムを得た。その顕微鏡は、MCT−A液体窒素冷却検出器を有していた。サンプルを13mm×1mm BaF円板型サンプルホルダー上で回転させた。64走査を解像度4cm−1で収集した。
【0018】
熱重量分析(TGA)を、TAインスツルーメンツ(Instruments)TG2950(TA Instruments, New Castle, DE)で行った。60mL/分の乾燥窒素パージを行いながら、10℃/分でサンプルの走査を行った。
【0019】
簡潔にではあるが、セフジニルの製造方法について以下で詳述する。
【0020】
7−(4−ブロモアセトアセトアミド)−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸ベンズヒドリル(10g)の塩化メチレン(70mL)および酢酸(25mL)混合液溶液に、−3〜−5℃でイソアミルニトリル(3.5mL)を滴下する。混合物を−5℃で40分間攪拌し、次にアセチルアセトン(4g)を加え、5℃で30分間攪拌する。その反応混合物に、チオ尿素(3g)を加え、3時間攪拌してから、酢酸エチル(70mL)およびジイソプロピルエーテル(100mL)を滴下する。得られた沈澱を濾取し、真空乾燥して、7−[2−(−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸ベンズヒドリル・臭化水素酸塩(シン異性体)を得る。この生成物を、2,2,2−トリフルオロ酢酸およびアニソールの混合物に5〜7℃で少量ずつ加える。5℃で1時間攪拌後、反応混合物をジイソプロピルエーテル(150mL)に滴下する。得られた沈澱を濾取し、テトラヒドロフラン(10mL)および酢酸エチル(10mL)の混合物に溶かす。有機層を重炭酸ナトリウム水溶液で抽出する。pH値を5に維持しながら水系抽出液を酢酸エチルで洗浄し、10%塩酸でpH2.2に調節する。この溶液を0℃で1時間攪拌し、得られた結晶を濾取し、真空乾燥して、7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)を得る。
【0021】
別法として、7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸ベンズヒドリル(シン異性体)(5g)のアニソール(20mL)および酢酸(5mL)混合物中の溶液に、三フッ化ホウ素・エーテラート(5mL)を10℃で滴下する。10℃で20分間攪拌後、反応混合物をテトラヒドロフラン(100mL)、酢酸エチル(100mL)および水(100mL)の混合物に投入し、20%水酸化ナトリウム水溶液でpH6.0に調節する。得られた水層を分離し、pH値を6.0に維持しながら酢酸エチルで洗浄する。この溶液について、酸化アルミニウムでのクロマトグラフィーを行う。
【0022】
分画を3%酢酸ナトリウム水溶液で溶離し、回収し、10%塩酸でpH4.0に調節する。この溶液をさらに、ノニオン系吸収樹脂「ダイヤイオン(Diaion)HP−20」(商標名、三菱化学製造)でクロマトグラフィー精製する。分画を20%アセトン水溶液で溶離し、回収し、減圧下に濃縮し、10%塩酸でpH2.0に調節する。得られた沈澱を濾取し、真空乾燥して、7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)を得る。さらなる精製手順を行って、好適な生成物を得ることができる。
【0023】
セフジニルの結晶A
室温もしくは加温下でセフジニルを含む溶液を酸性とすることによって溶液から結晶を分離させることで、純粋なセフジニルを得ることができる。
【0024】
セフジニルを含む溶液の好適な例には、例えばセフジニルのアルカリ金属塩の水溶液などがある。必要に応じてセフジニルを含む溶液を活性炭、ノニオン系吸着樹脂、アルミナ、酸性酸化アルミニウムでカラムクロマトグラフィー処理した後に、その溶液を酸性とする。その酸性化工程は、好ましくは室温から40℃、より好ましくは15〜40℃の温度範囲で塩酸などの酸を加えることで行うことができる。加える酸の量は好ましくは、溶液のpH値を約1〜約4とするものである。
【0025】
純粋なセフジニルは、セフジニルをアルコール(好ましくはメタノール)に溶かし、好ましくは溶液とほぼ同温度に加熱した水を加えた後に加温下にて(好ましくは40℃以下)その溶液の緩やかな攪拌を続け、次にその溶液を冷却して室温とし、それを静置することで得ることもできる。
【0026】
セフジニルの結晶化の際、飽和を若干超える量を維持することが好ましい。上記の方法に従って得られたセフジニルを、従来の方法によって濾取および乾燥させることができる。
【0027】
7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)(29.55g)を水(300mL)に加え、飽和重炭酸ナトリウム水溶液で混合物をpH6.0に調節することができる。得られた溶液について、活性炭でのカラムクロマトグラフィーを行い、20%アセトン水溶液で溶離することができる。分画を合わせ、濃縮して容量500mLとする。
【0028】
得られた溶液のpHを、4N塩酸によって35℃で1.8に調節する。得られた沈澱を濾取し、水で洗浄し、乾燥させて、7−[2−(2アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)を得る。
【0029】
別法として、7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)(0.5g)のメタノール(10mL)溶液に、温水(35℃;1.5mL)を35℃で滴下し、得られた溶液を3分間ゆっくり攪拌してから、室温で静置させることができる。得られた結晶を濾取し、水で洗浄し、乾燥させて、7−[2(2−3−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)を結晶として得る。
【0030】
セフジニル水和物
セフジニル水和物を製造する一つの方法では、セフジニル約0.1gを1:1エタノール:酢酸エチル溶液2mLに懸濁させた。この懸濁液に、間欠的に超音波処理しながら濃HSO約2滴を加えて、透明溶液を得た。溶媒留去によって溶液を部分的に濃縮し、水60mL(または大過剰の水)で注意深く希釈した。この透明溶液を静置させた。1時間以内に結晶の成長が認められた。この溶液から単離された結晶を用いることができるか、またはその結晶を室温もしくは75℃で乾燥させることでき、乾燥結晶を非晶質セフジニルの製造に用いることができる。
【0031】
非晶質セフジニル
セフジニル水和物のメタノール性溶液を溶媒留去することで非晶質セフジニルを単離した。得られた非晶質材料は物理的に安定であった。
【0032】
丸底フラスコ中、メタノール(HPLC用)2mLおよびセフジニル・1水和物0.05gを合わせた。透明になるまで溶液を混合した(渦攪拌および超音波処理)。室内空気を用いて溶媒を留去し、フラスコの内容物を乾燥させた。得られた生成物は、フラスコの底に貯まった粒状粉末であった。
【0033】
セフジニル・1水和物についての粉末X線回折パターン(2°/分で2°〜40°)を図1に示した。
【0034】
上記で単離された粉末を顕微鏡検査およびPXRDによって調べた。直交ポーラーを取り付けた顕微鏡を用いる顕微鏡分析で、粒子がガラス状に見え、複屈折性を示さないことが明らかになった。
【0035】
粉末X線回折パターンに関して、サンプルを2°/分の速度で2°〜40°まで走査した。得られたX線パターンには、結晶ピークの特徴がなく、非晶質材料と一致するハローが示されていた(図2)。
【0036】
FT−IRスペクトラムは、解像度4cm−1での64回の走査の平均である。図3は、結晶および非晶質セフジニル粉末のスペクトラムを比較するものである。そのスペクトラムは、結晶材料と一致する位置にピークを示しており、それは得られた非晶質材料が結晶セフジニルと化学的に類似していることを示している。予想通り、非晶質材料におけるピークは相対的に鋭さの低いものであった。
【0037】
サンプルをTGA中に25℃で1時間保持することで、残留溶媒を除去することができる(図4)。その時間終了後、重量は恒量に達し、サンプルはその重量の5%を失った。このデータから、前記非晶質材料が5%残留溶媒を含有していたという結論を得た。
【0038】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)については、メタノールを留去することでサンプルを単離し、強度に関してHPLCによって分析した。5重量%の残留溶媒を考慮して、得られた非晶質材料は強度98%を有していた。
【0039】
熱刺激電流分光法によって測定したガラス転移温度(T)は67℃であった。この67℃という値は室温よりかなり高く、大まかに言えば、高いT値が室温安定性に関しては望ましい。
【0040】
オイドラギットEPOと組み合わせた非晶質セフジニル
カチオン系ポリマーとともに安定な非晶質セフジニルを製造することもできる。特に、安定な非晶質セフジニルを、酸解離定数が2より大きい非晶質カチオン系ポリマーと組み合わせることができる。好適なカチオン系ポリマーには、オイドラギットEシリーズのポリマーなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
オイドラギットEPOと組み合わせた安定な非晶質セフジニルを製造し、メタノール溶液の溶媒留去によって単離した。得られた非晶質材料は物理的に安定であった。
【0042】
丸底フラスコ中、セフジニル・1水和物0.05gとHPLC用メタノール2mLを合わせた。透明になるまで、丸底フラスコ中で溶液を混合した(渦攪拌および超音波処理)。1:1モル比のオイドラギットEPO/セフジニルを加えた。最初にオイドラギットEPO(0.036g)をメタノール0.5mLに溶かし、前記セフジニル溶液に加えた。オイドラギットEPOを加えたら直ちに、白色沈澱が生成した。メタノールを留去したところ、得られた生成物はフラスコ表面上の白色薄膜状物であった。その薄膜状物を分析した。
【0043】
オイドラギットEPOと組み合わせた非晶質セフジニルの特性決定
上記で単離された粉末を顕微鏡検査およびPXRDによって調べた。直交ポーラーを取り付けた顕微鏡を用いる顕微鏡分析で、粒子がガラス状に見え、複屈折性を示さないことが明らかになった。
【0044】
粉末X線回折パターンに関して、サンプルを2°/分の速度で2°〜40°まで走査した。得られたX線パターンには、結晶ピークの特徴がなく、非晶質材料と一致するハローが示されていた(図6)。
【0045】
FT−IRスペクトラムに関して、スペクトラムは解像度4cm−1での64回の走査の平均である。セフジニル−オイドラギットEPOスペクトラムは、非晶質セフジニルともオイドラギットEPOとも異なるように見えることから、このスペクトラムのピークについてデコンボリューションを行った(図7a)。得られたスペクトラムは、混合物スペクトラムに適合するには不十分な特徴を有していた。図7bに示したように、適合性を高めるには、1612cm−1に別のピークが必要であった。その別ピークの位置は、塩形成と一致している。従って、FT−IRデータの分析は、オイドラギットEPOとセフジニルとの間の錯体形成を支持するものである。そのような特異的相互作用は、非晶質相の安定化を高めるものと予想される。
【0046】
サンプルをTGA中に25℃で1時間保持することで、残留溶媒を除去することができる(図8)。その時間終了後、重量は恒量に達し、サンプルはその重量の10%を失った。このデータから、前記非晶質材料が10%残留溶媒を含有していたという結論を得た。
【0047】
HPLCについては、メタノールを留去することでサンプルを単離し、強度に関してHPLCによって分析した。10重量%の残留溶媒を考慮して、得られた非晶質材料は強度99%を有していた。
【0048】
熱刺激電流分光法によって測定したガラス転移温度(T)は102℃であった。興味深いことに、非晶質セフジニルおよびオイドラギット−EPOのTはそれぞれ67℃および84℃であるが、それら2成分を含む分散物の値はそれより高い(102℃)。個々の成分と比較してセフジニル−EPOサンプルに関して認められたTが高いことで、特異的相互作用がさらに裏付けられる。
【0049】
PVPと組み合わせた非晶質セフジニル
中性ポリマーもしくはコポリマーと組み合わせて安定な非晶質セフジニルを製造することもできる。好適な中性ポリマーもしくはコポリマーには、PVP類、PVA類、PVP−コ−PVA(コポビドン)、HEC、HPMC、HPMCP(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
PVPと組み合わせた非晶質セフジニルを製造し、メタノール溶液を溶媒留去することで単離した。得られた非晶質材料は物理的に安定であった。
【0051】
丸底フラスコ中、メタノール(HPLC用)2mLおよびセフジニル・1水和物0.05gを合わせた。透明になるまでその溶液を混合した(渦攪拌および超音波処理)。80:20(重量比)ポリビニルピロリドンK15(PVP)/セフジニルを加えた。最初にPVP 0.2gをメタノール0.2gに溶かし、前記セフジニル溶液に加えた。溶液は透明のままであった。室内空気を用いてメタノールを留去し、フラスコの内容物を乾燥させた。得られた生成物は、フラスコ表面上の透明薄膜状物であった。その薄膜状物をスパーテルで掻き取った。
【0052】
PVPと組み合わせた非晶質セフジニルの特性決定
上記で単離された粉末を顕微鏡検査およびPXRDによって調べた。直交ポーラーを取り付けた顕微鏡を用いる顕微鏡分析で、粒子がガラス状に見え、複屈折性を示さないことが明らかになった。
【0053】
FT−IRスペクトラムに関して、スペクトラムは解像度4cm−1での64回の走査の平均である。結晶セフジニルと非晶質セフジニル/PVPサンプルの比較を図10に示している。スペクトラムは同様であり、非晶質材料中にセフジニルが存在することが確認される。セフジニル/PVP粉末は、非晶質セフジニルおよびPVPの両方と一致する位置にピークを示した。PVPが多量に存在するため(80重量%)、非晶質セフジニル/PVPのスペクトラムは、PVPのスペクトラムの方との類似性が強い。
【0054】
サンプルをTGA中に25℃で1時間保持することで、残留溶媒を除去することができる(図11)。その時間終了後、重量は恒量に達し、サンプルはその重量の7%を失った。このデータから、前記非晶質材料が7%残留溶媒を含有していたという結論を得た。
【0055】
熱刺激電流分光法によって測定したガラス転移温度(T)は95℃であった。
【0056】
前記安定な非晶質セフジニルの製造方法は必須である。セフジニル水和物およびメタノールの組み合わせを用いることで、迅速な溶解が可能となり、化学分解が回避される。その溶媒は前記ポリマーにも適していることから、最初に透明溶液を用いることができるため、非晶質材料の単離の機会を最大とすることができる。
【0057】
本発明の治療方法および医薬組成物によれば、前記化合物は単独でまたは他の薬剤と組み合わせて投与することができる。前記化合物を用いる場合、特定の患者における具体的な治療有効用量は、治療対象の障害およびその障害の重度;使用される特定の化合物の活性;使用される具体的な組成物;患者の年齢、体重、全般的な健康状態、性別および食事;投与時刻;投与経路;使用される化合物の排泄速度;治療期間;および使用される化合物と併用もしくは同時使用される薬剤などの要素によって決まるものである。前記化合物は、担体、補助剤、希釈剤、媒体またはそれらの組み合わせを含む単位製剤で、経口投与、非経口投与、経鼻投与、直腸投与、膣投与または局所投与することができる。「非経口」という用語は、注入ならびに皮下、静脈、筋肉および胸骨内注射を含むものである。
【0058】
前記化合物の非経口投与水系もしくは油系懸濁液は、分散剤、湿展剤または懸濁剤を用いて製剤することができる。注射製剤は、希釈剤もしくは溶媒中の注射溶液もしくは懸濁液であることもできる。使用される許容される希釈剤もしくは溶媒の中には、水、生理食塩水、リンゲル液、緩衝液、モノグリセリド類、ジグリセリド類、オレイン酸などの脂肪酸およびモノグリセリド類もしくはジグリセリド類などの固定油がある。
【0059】
非経口投与化合物の効果は、それらの放出速度を遅らせることで延長させることができる。特定の化合物の放出速度を遅らせる一つの方法は、溶解度の低い結晶性または他の水不溶性形態の化合物の懸濁液を含む注射用デポー剤を投与するというものである。前記化合物の放出速度は、それの溶解速度によって決まり、その溶解速度はそれの物理状態によって決まる。特定の化合物の放出速度を遅らせる別の方法は、油系の溶液もしくは懸濁液として前記化合物を含む注射用デポー剤を投与するというものである。特定の化合物の放出速度を遅らせるさらに別の方法は、リポソームまたはポリラクチド−ポリグリコリド、ポリオルトエステル類もしくはポリ無水物などの生体分解性ポリマー内に捕捉された化合物のマイクロカプセルマトリクスを含む注射用デポー剤を投与するというものである。薬剤/ポリマーの比およびポリマーの組成に応じて、薬剤放出の速度を制御することができる。
【0060】
経皮貼付剤も、化合物の徐放を行うことができる。放出速度は、速度制御膜を用いるか、ポリマー基材もしくはゲル内に化合物を捕捉することで遅らせることができる。逆に、吸収促進剤を用いて吸収を増加させることができる。
【0061】
経口投与用の固体製剤には、カプセル、錠剤、丸薬、粉剤および粒剤などがある。これらの固体製剤では、活性化合物は、ショ糖、乳糖、デンプン、微結晶セルロース、マニトール、タルク、二酸化ケイ素、ポリビニルピロリドン、デンプングリコール酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウムなどの賦形剤を含んでいても良い。カプセル、錠剤および丸薬は緩衝剤を含むこともでき、錠剤および丸薬は腸溶コーティングその他の徐放コーティングを用いて製造することができる。粉剤および噴霧剤は、タルク、二酸化ケイ素、ショ糖、乳糖、デンプンおよびそれらの混合物などの賦形剤を含むこともできる。噴霧剤はさらに、クロロフルオロヒドロカーボンもしくはそれの代替物などの従来の推進剤を含むことができる。
【0062】
経口投与用の液体製剤には、水などの不活性希釈剤を含む乳濁液、マイクロエマルジョン、液剤、懸濁液、シロップおよびエリキシル剤などがある。これらの組成物は、湿展剤、乳化剤、懸濁剤、甘味料、香味剤および芳香剤などの補助剤を含むこともできる。液体製剤は、軟カプセル剤内に含有させることもできる。
【0063】
局所製剤には、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、粉剤、液剤、噴霧剤、吸入剤および経皮貼付剤などがある。必要に応じて無菌条件下で、前記化合物を担体および必要な保存剤もしくは緩衝剤と混合する。これらの製剤は、動物性および植物性脂肪、オイル類、ロウ類、パラフィン類、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール類、シリコーン類、ベントナイト類、タルクおよび酸化亜鉛またはそれらの混合物などの賦形剤を含むこともできる。直腸もしくは膣投与用の坐剤は、それぞれ常温で固体であるが直腸もしくは膣内で流体であるカカオバターもしくはポリエチレングリコールなどの好適な非刺激性賦形剤と前記化合物を混合することで製造することができる。点眼液、眼軟膏、粉剤および液剤などの眼科製剤も、本発明の範囲内であると考えられる。
【0064】
非晶質セフジニルを含む組成物は、本発明の範囲に含まれる。さらに、PVPおよびオイドラギットなど(これらに限定されるものではない。)のポリマーと前記非消失材料を含む製剤、ならびに安定な非晶質セフジニルおよびそれの製剤の製造方法も、本発明の範囲に含まれる。
【0065】
上記の記載は本発明の説明のみを目的としたものであって、開示された実施形態に本発明を限定するものではない。当業者には明らかな変形形態および変更は、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲および性質の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】セフジニル・1水和物に関するX線回折パターンである。
【図2】非晶質セフジニルのX線パターンである。
【図3】非晶質セフジニルのFTIRである。
【図4】25℃での等温保持時の非晶質セフジニルのTGAサーモグラムである。
【図5】オイドラギットEPOモノマーの分子構造である。
【図6】オイドラギットEPOと組み合わせた非晶質セフジニルのX線パターンである。
【図7a】純粋な成分からのデコンボリューションピークを用いたセフジニル/EPOスペクトラムの適合を示す図である。、
【図7b】1612cm−1の別のピークを用いるセフジニル/EPOスペクトラムの適合を示す図である。
【図8】25℃での等温保持時のオイドラギットEPO中の非晶質セフジニルのTGAサーモグラムである。
【図9】PVPの分子構造の図である。
【図10】非晶質セフジニル/PVP、非晶質セフジニルおよびPVPのFT−IRスペクトラムである。
【図11】25℃での等温保持時のPVP中の非晶質セフジニルのTGAサーモグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)。
【請求項2】
安定な非晶質7−[2−(2−アミノチアゾール−4−イル)−2−ヒドロキシイミノアセトアミド]−3−ビニル−3−セフェム−4−カルボン酸(シン異性体)を含む医薬組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の医薬組成物を用いる、哺乳動物での細菌感染の治療方法。
【請求項4】
前記安定な非晶質セフジニルがポリマーもしくはコポリマーと組み合わせられている請求項1に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項5】
前記安定な非晶質セフジニルが非晶質カチオン系ポリマーと組み合わせられている請求項1に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項6】
前記カチオン系ポリマーが2を超える酸解離定数を有する請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ポリマーオイドラギットを含む請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記安定な非晶質セフジニルが非晶質ポリマー、コポリマーもしくは巨大分子と組み合わせられている請求項1に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項9】
中性ポリマーもしくはコポリマーとの組成物中である、請求項1に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項10】
前記中性ポリマーもしくはコポリマーが、PVP類、PVA類、PVP−コ−PVA(コポビドン)、(ヒドロキシプロピルセルロース)、HPMCおよびHPMCPからなる群から選択される請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
アニオン系ポリマーとの組成物中である、請求項1に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項12】
前記アニオン系ポリマーが、オイドラギットLシリーズのポリマーおよびカルバポール類からなる群から選択される請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
巨大分子との組成物中である、請求項1に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項14】
前記巨大分子がデキストリンおよびマルトデキストリンから選択される請求項13に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項15】
メタノール性溶液にセフジニル水和物を組み合わせ、その溶液を溶媒留去する段階を有する、安定な非晶質セフジニルの製造方法。
【請求項16】
セフジニル・1水和物の溶解度が0.5mg/mLより大きい有機溶媒にセフジニル・1水和物を組み合わせ、その溶液を溶媒留去する段階を有する、安定な非晶質セフジニルの製造方法。
【請求項17】
溶媒に非晶質セフジニルを組み合わせる段階を有する、セフジニル結晶Aの製造方法。
【請求項18】
前記溶媒が水である請求項17に記載のセフジニル結晶Aの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−532579(P2007−532579A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−507571(P2007−507571)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/012439
【国際公開番号】WO2005/100368
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】