定着装置
【課題】IH方式の定着装置において、通紙領域外での過昇温の抑制効果を向上し、加熱時には磁界に及ぼす影響を抑える。
【解決手段】定着装置14は誘導加熱コイル52を備えており、その周囲でアーチコア54、サイドコア56及びセンタコア58により磁路を形成し、加熱ベルト48を誘導加熱する。センタコア58の外面には遮蔽部材60が設けられており、センタコア58を回転させて遮蔽部材60を退避位置と遮蔽位置とに移動させることで磁気経路を切り替える。またセンタコア58と加熱ベルト48との間、誘導加熱コイル52と加熱ベルト48との間には磁気調整部材90が固定して配置されており、磁気調整部材90は、遮蔽部材60が退避位置にある場合は磁界に影響を及ぼすことなく、一方で遮蔽部材60が遮蔽位置にある場合は磁気を全体で遮蔽することができる。
【解決手段】定着装置14は誘導加熱コイル52を備えており、その周囲でアーチコア54、サイドコア56及びセンタコア58により磁路を形成し、加熱ベルト48を誘導加熱する。センタコア58の外面には遮蔽部材60が設けられており、センタコア58を回転させて遮蔽部材60を退避位置と遮蔽位置とに移動させることで磁気経路を切り替える。またセンタコア58と加熱ベルト48との間、誘導加熱コイル52と加熱ベルト48との間には磁気調整部材90が固定して配置されており、磁気調整部材90は、遮蔽部材60が退避位置にある場合は磁界に影響を及ぼすことなく、一方で遮蔽部材60が遮蔽位置にある場合は磁気を全体で遮蔽することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー画像を担持した用紙を加熱したローラ対や加熱ベルトとローラとのニップ間に通しながら、未定着トナーを加熱溶融させて用紙に定着させる定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンタ等の画像形成装置においては近年、トナー画像を用紙に定着させる定着装置でのウォームアップ時間の短縮や省エネルギー等の要望から、熱容量を少なく設定できるベルト方式が注目されている(例えば、特許文献1参照。)。また近年、急速加熱や高効率加熱の可能性をもった電磁誘導加熱方式(IH)が注目されており、カラー画像を定着させる際の省エネルギー化の観点から、電磁誘導加熱をベルト方式と組み合わせたものが多数製品化されている。ベルト方式と電磁誘導加熱とを組み合わせる場合、コイルのレイアウト及び冷却の容易さ、さらにはベルトを直接加熱できるメリット等から、ベルトの外側に電磁誘導器具を配置するケースが多く採用されている(いわゆる外包IH)。
【0003】
上記の電磁誘導加熱方式においては、定着装置に通紙される用紙サイズの幅(通紙幅)に合わせて、非通紙域での過昇温を防止するために各種の技術が開発されており、特に外包IHにおけるサイズ切り替え手段として以下の先行技術がある(例えば、特許文献2,3参照)。
【0004】
第1の先行技術(特許文献2)は、磁性部材を複数に分割して通紙幅方向に並べておき、通紙する用紙サイズ(通紙幅)に合わせて、磁性部材の一部を励磁コイルに対して離接させるものである。この場合、非通紙域では磁性部材を励磁コイルから離隔させることで発熱効率が下がり、最小通紙幅の用紙に対応する領域よりも発熱量が小さくなると考えられる。
【0005】
また第2の先行技術(特許文献3)は、発熱ローラの内部で最小通紙幅の外側に別の導電性部材を配置し、この導電性部材の位置を磁界の範囲内又は範囲外に切り替えるものである。この先行技術では、先ず導電性部材を磁界の範囲外に位置させて発熱ローラを電磁誘導加熱しておき、発熱ローラが昇温によってキュリー温度近傍まで上昇すると、導電性部材を磁界の範囲内に移動させることで、最小通紙幅の外側で発熱ローラから磁束を漏れさせて過昇温を防止する。
【特許文献1】特開平6−318001号公報
【特許文献2】特開2003−107941号公報(図2、図3)
【特許文献3】特許第3527442号公報(図10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した先行技術のサイズ切り替え手段において、より生産性を向上させるためには、現状以上に過昇温の抑制効果が必要となる。例えば、第2の先行技術(特許文献3)において過昇温の抑制効果を現状以上に高めるのには、磁気を遮蔽する導電性部材の面積を現状より大きくすればよいと考えられる。
【0007】
しかしながら、導電性部材の面積をあまり大きくすると、これを磁界の範囲から完全に退避させることが難しくなり、たとえ大部分を磁界の範囲外へ退避させることができたとしても、残りの一部が磁界に影響を及ぼすおそれがある。したがって、たとえ過昇温の抑制効果を高めるためとはいえ、導電性部材の面積の拡大には限界がある。
【0008】
そこで本発明は、磁気を遮蔽する部材の面積を過度に大きくすることなく通紙領域外での過昇温の抑制効果を向上することができ、また、特に磁気を遮蔽する必要がない場合(昇温したい場合)は磁界への影響を及ぼしにくい技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、画像形成部でトナー画像が転写された用紙を加熱部材と加圧部材との間に挟み込んで搬送し、この搬送過程で、少なくとも加熱部材からの熱によりトナー画像を用紙に定着させる定着装置である。そして本発明の定着装置は、加熱部材の外面に沿って配置され、加熱部材を誘導加熱するための磁界を発生させるコイルと、少なくともコイルを挟んで加熱部材の反対側に配置され、コイルの周囲で磁路を形成することによりコイルが発生させた磁界を加熱部材へ向けて導く磁性体コアと、磁性体コアにより導かれて加熱部材に向かう磁界の経路を、加熱部材の誘導加熱が促進される第1の経路と、加熱部材の誘導加熱が抑制される第2の経路とのいずれかに切り替える経路切替手段と、第1の経路及び第2の経路の両方を含む磁界経路の切り替わり領域にわたって配置され、経路切替手段により第1の経路に切り替えられた場合は切り替わり領域内で磁性体コアから加熱部材に向かう磁束の通過を許容する一方、第2の経路に切り替えられた場合は磁束を通過させることなく遮蔽する磁気調整部材とを備えたものである。
【0010】
本発明の定着装置は、基本的に経路切替手段によって磁界の経路を第2の経路に切り替えることで加熱部材(電磁誘導による被加熱体)の過昇温を抑制している。このような経路切替手段は、あまりスペースをとることがないという点で構造上のメリットがあるが、経路を切り替えただけでは完全に磁束の流入を制止することができず、上記のように過昇温の抑制効果としては完全ではない。したがって、磁界の経路を第1の経路から第2の経路に切り替えただけでは不十分であり、そのままではより高い生産性を実現することができない。
【0011】
そこで本発明では、省スペースであるが磁気遮蔽効果の弱い経路切替手段に加えて、固定して配置された磁気調整部材を用いることとしている。すなわち磁気調整部材は、第1の経路に切り替えられた状態では切り替わり領域内の全域にわたり磁束の通過を許容し、加熱部材の昇温効果を最大に高める一方で、第2の経路に切り替えられた状態では、切り替わり領域内の全域にわたって磁束の通過をシャットアウトし、加熱部材の過昇温を防止する。
【0012】
これにより、第1の経路と第2の経路との切り替え時に、加熱部材の発熱コントラストを強めることができる。また磁気調整部材は、機械的に何らの動作を伴うことなく、固定位置にあるだけで磁束を通過させたり、逆に遮蔽したりする機能(磁気フィルタのような機能)を有するので、ある程度の面積を有してしても、昇温が必要な場合に磁界に影響を及ぼすことがない。また、磁気調整部材は固定して配置されているだけでよいので、特に可動部材を新たに設ける必要がなく、それだけ定着装置の省スペース化を図ることができる。
【0013】
上記の磁気調整部材は、以下の構成を有することが好ましい。すなわち磁気調整部材は、良導電性の線材料がリング状に形成された複数のリング状部を有しており、かつ、これら複数のリング状部が磁束の進行方向に対して交差する方向に隣接した状態で相互に連結されることにより、線材料の軸線方向でみた全体が一続きの無端形状に形成されている。さらに磁気調整部材は、経路切替手段により第1の経路に切り替えられた場合、複数のリング状部内をそれぞれ貫通する磁束により生じる誘導電流が互いに隣接するリング状部同士でみて逆向きになる構造を有している。この場合、経路切替手段は、第1の経路から第2の経路に切り替えた状態で、複数あるうちの一部のリング状部を貫通する磁束の量を減少させるものとする。
【0014】
例えば、磁気調整部材が少なくとも2つのリング状部を有する場合、これら2つのリング状部はいわゆる「8の字形」に連結された構造となる。すなわちこの場合、隣接する2つのリング状部に対して同じ方向に磁束が貫通した場合、一方のリング状部に発生する誘導電流の向きと他方のリング状部に発生する誘導電流の向きが逆となって、磁気調整部材の内部では全体として誘導電流が相殺された状態となる。この場合、磁気調整部材は磁界に対する影響力をほとんど発揮しなくなるので、磁束の通過を問題なく許容することができる。
【0015】
これに対し、第2の経路に切り替えられた場合はいずれか一方のリング状部を貫通する磁束の量が減少する(ほとんど0になる)ことで、他方のリング状部で誘導電流が発生し、これが貫通磁束に対して逆向きの磁束(反磁界)を発生させることになる。この場合、第2の経路を通過しようとする磁束が遮蔽されるため、結果的に磁気調整部材がその全体で磁束の遮蔽効果を発揮することができる。
【0016】
このため磁気調整部材は、切り替わり領域内で第1の経路上に1つのリング状部を配置するとともに、第2の経路上にその他の隣接するリング状部を配置していることが好ましい。
【0017】
上記の配置であれば、経路切替手段により第1の経路に切り替えられた状態で、第1の経路を通過する磁束により1つのリング状部に発生する第1の誘導電流と、第1の経路を逸れて第2の経路を通過しようとする磁束が他の隣接するリング状部を通過することで発生する第2の誘導電流とが互いに相殺する関係となる。これにより、磁気調整部材は第1の経路だけでなく、そこから逸れて第2の経路を通過しようとする磁束の通過をも許容するので、結果的に切り替わり領域内の全体で磁束の通過を許容することができる。
【0018】
一方、経路切替手段により第2の経路に切り替えられた場合、1つのリング状部には磁束がほとんど通過せず、他の隣接するリング状部にのみ磁束が通過して誘導電流を発生させる。このとき、他のリング状部で発生する磁束が第2の経路を通過しようとする磁束を相殺することにより、結果的に磁気調整部材は切り替わり領域内の全体で磁束を遮蔽することができる。
【0019】
あるいは本発明の定着装置において、磁性体コアは、コイルの巻線中心を挟んで両側にそれぞれ磁路を形成するべく対をなして配置された第1のコアと、これら対をなす第1のコアの間に配置され、コイルの巻線中心を通って加熱部材に至る磁路を形成する第2のコアとを有していてもよい。この場合、経路切替手段は、第1の経路に切り替えた場合、第2のコアから加熱部材までコイルの巻線中心に沿って磁束を通過させる一方、第2の経路に切り替えた場合はコイルの巻線中心から逸れた両側の位置でそれぞれ第1のコアから加熱部材へ磁束を通過させるものである。そして磁気調整部材は、切り替わり領域内でコイルの巻線中心を通る第1の経路上に1つのリング状部を配置するとともに、その両側の位置で第2の経路上に2つの隣接するリング状部をそれぞれ配置している態様であってもよい。
【0020】
上記の態様であれば、先ず磁気調整部材は、中央に1つのリング状部を有し、その両側に隣接する2つのリング状部を有した構造となる。このとき、中央のリング状部はコイルの巻線中心の延長線上に配置され、その両側にそれぞれ他のリング状部が配置された状態となる。
【0021】
そして、経路切替手段により第1の経路に切り替えられた状態では、第1の経路を通過する磁束により中央の1つのリング状部に発生する第1の誘導電流と、第1の経路を逸れてその両側に位置する第2の経路をそれぞれ通過しようとする磁束が他の隣接する2つのリング状部を通過することで発生する第2の誘導電流とが互いに相殺する関係となる。これにより、磁気調整部材は第1の経路だけでなく、そこから両側に逸れて第2の経路を通過しようとする磁束の通過をも許容するので、結果的に切り替わり領域内の全体で磁束の通過を許容することができる。
【0022】
一方、経路切替手段により第2の経路に切り替えられた場合、中央の1つのリング状部には磁束がほとんど通過せず、他の隣接する2つのリング状部にそれぞれ磁束が通過して誘導電流を発生させる。このとき、他の2つのリング状部で発生するそれぞれの磁束が第2の経路を通過しようとする磁束を相殺することにより、結果的に磁気調整部材は切り替わり領域内の全体で磁束を遮蔽することができる。また、中央に配置された1つのリング状部への磁束の通過を抑制するだけで、その両側に配置された2つのリング状部で磁束の遮蔽効果を発揮させることができるので、簡素な構造で効率的に遮蔽効果を得ることができる。
【0023】
また本発明の定着装置において、加熱部材は、搬送される用紙の幅方向でみて、その最大通紙領域にわたってコイルにより誘導加熱されるものであってもよい。この場合、磁気調整部材は、加熱部材の長手方向でみて、最大通紙領域に対応した最大幅の用紙よりも小さい幅を有する用紙の通紙領域の外側に配置されていることが好ましい。
【0024】
このような配置であれば、用紙のサイズに応じて非通紙領域となる加熱部材の端部を過昇温から良好に保護することができる。
【0025】
また磁気調整部材は、加熱部材の長手方向に対し、搬送される複数通りの用紙サイズに合わせて複数に分割して配置されていてもよい。
【0026】
この場合、用紙サイズが複数通りに異なる場合、各サイズに応じて磁束の遮蔽を行う磁気遮蔽部材を選択することで、加熱部材の長手方向に関して段階的に発熱を抑制できる範囲を設定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の定着装置は、過度に面積の大きな磁気遮蔽用の部材を用いることなく、加熱部材(被加熱体)の過昇温を抑制する効果を向上することができる。また、誘導加熱によって加熱部材の発熱を促進する際は、磁気調整部材がそのまま磁束を通過させるだけで磁界に対する影響をほとんど及ぼさないので、画像の定着に必要な発熱量を確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、第1実施形態の定着装置14を搭載したプリンタ1の構成を示す概略図である。プリンタ1は、例えば外部から入力された画像情報に基づいて印刷用紙等の印刷媒体の表面にトナー画像を転写して印刷を行う画像形成装置の一例である。ただし、定着装置14が搭載される画像形成装置は、プリンタ1の他に複写機やファクシミリ装置、それらの機能を併せ持つ複合機等であってもよい。
【0029】
図1に示されるプリンタ1は、例えばタンデム型のカラープリンタである。このプリンタ1は、内部で用紙にカラー画像を形成(プリント)する四角箱状の装置本体2を備え、この装置本体2の上面部には、カラー画像が印刷された用紙を排出するための用紙排出部(排出トレイ)3が設けられている。
【0030】
装置本体2内において、その下部には、用紙を収納する給紙カセット5が配設されている。また装置本体2内の中央部には、手差しの用紙を供給するスタックトレイ6が配設されている。そして装置本体2の上部には画像形成部7が設けられており、この画像形成部7は、装置外部から送信されてくる文字や絵柄などの画像データに基づいて用紙に画像を形成する。
【0031】
図1中でみて装置本体2の左部には、給紙カセット5から繰り出された用紙を画像形成部7に搬送する第1の搬送路9が配設されており、右部から左部にかけては、スタックトレイ6から繰り出された用紙を画像形成部7に搬送する第2の搬送路10が配設されている。また装置本体2内の左上部には、画像形成部7で画像が形成された用紙に対して定着処理を行う定着装置14と、定着処理の行われた用紙を用紙排出部3に搬送する第3の搬送路11とが設けられている。
【0032】
給紙カセット5は、装置本体2の外部(例えば図1中の手前側)に引き出すことにより用紙の補充を可能にする。この給紙カセット5は収納部16を備えており、この収納部16には、給紙方向のサイズが異なる少なくとも2種類の用紙を選択的に収納可能である。なお収納部16に収納されている用紙は、給紙ローラ17及び捌きローラ18により1枚ずつ第1の搬送路9側に繰り出される。
【0033】
スタックトレイ6は、装置本体2の外面にて開閉可能であり、その手差し部19には手差し用の用紙が1枚ずつ載置されるか、又は複数枚が積載される。なお、手差し部19に載置された用紙はピックアップローラ20及び捌きローラ21により1枚ずつ第2の搬送路10側に繰り出される。
【0034】
第1の搬送路9と第2の搬送路10とはレジストローラ22の手前で合流しおり、レジストローラ22に供給された用紙はここで一旦待機し、スキュー調整とタイミング調整を行った後、二次転写部23に向けて送出される。送出された用紙には、二次転写部23で中間転写ベルト40上のフルカラーのトナー画像が用紙に二次転写される。この後、定着装置14でトナー画像が定着された用紙は、必要に応じて第4の搬送路12で反転され、最初とは反対側の面にも二次転写部23でフルカラーのトナー画像が二次転写される。そして、反対面のトナー画像が定着装置14で定着された後、第3の搬送路11を通って排出ローラ24により用紙排出部3に排出される。
【0035】
画像形成部7は、ブラック(B)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)の各トナー画像を形成する4つの画像形成ユニット26〜29を備える他、これら画像形成ユニット26〜29で形成した各色別のトナー画像を合成して担持する中間転写部30を備えている。
【0036】
各画像形成ユニット26〜29は、感光体ドラム32と、感光体ドラム32の周面に対向して配設された帯電部33と、帯電部33の下流側であって感光体ドラム32の周面上の特定位置にレーザビームを照射するレーザ走査ユニット34と、レーザ走査ユニット34からのレーザビーム照射位置の下流側であって感光体ドラム32の周面に対向して配設された現像部35と、現像部35の下流側であって感光体ドラム32の周面に対向して配設されたクリーニング部36とを備えている。
【0037】
なお、各画像形成ユニット26〜29の感光体ドラム32は、図示しない駆動モータにより図中の反時計回り方向に回転する。また、各画像形成ユニット26〜29の現像部35には、各トナーボックス51にブラックトナー、イエロートナー、シアントナー及びマゼンタトナーがそれぞれ収納されている。
【0038】
中間転写部30は、画像形成ユニット26の近傍位置に配設された後ローラ(駆動ローラ)38と、画像形成ユニット29の近傍位置に配設された前ローラ(従動ローラ)39と、後ローラ38と前ローラ39とに跨って配設された中間転写ベルト40と、各画像形成ユニット26〜29の感光体ドラム32における現像部35の下流側の位置に中間転写ベルト40を介して圧接可能に配設された4つの転写ローラ41とを備えている。
【0039】
この中間転写部30では、各画像形成ユニット26〜29の転写ローラ41の位置で、中間転写ベルト40上に各色別のトナー画像がそれぞれ重ね合わせて転写されて、最後にはフルカラーのトナー画像となる。
【0040】
第1の搬送路9は、給紙カセット5から繰り出されてきた用紙を中間転写部30側に搬送するものであり、装置本体2内で所定の位置に配設された複数の搬送ローラ43と、中間転写部30の手前に配設され、画像形成部7における画像形成動作と給紙動作とのタイミングを取るためのレジストローラ22とを備えている。
【0041】
定着装置14は、画像形成部7でトナー画像が転写された用紙を加熱及び加圧することにより、未定着トナー画像を用紙に定着させる処理を行うものである。定着装置14は、例えば加熱式の加圧ローラ44と定着ローラ45からなるローラ対を備え、このうち加圧ローラ44が例えば金属製の芯材と弾性体の表層(例えばシリコンゴム)を有するものであり、定着ローラ45が金属製の芯材と弾性体の表層(例えば、シリコンスポンジ)及び離型層(例えば、PFA)を有するものである。また定着ローラ45に隣接してヒートローラ46が設けられており、このヒートローラ46と定着ローラ45には加熱ベルト48が掛け回されている。なお、定着装置14の詳細な構造についてはさらに後述する。
【0042】
用紙の搬送方向でみて、定着装置14の上流側及び下流側にはそれぞれ搬送路47が設けられており、中間転写部30を通って搬送されてきた用紙は上流側の搬送路47を通じて加圧ローラ44と定着ローラ45との間のニップに導入される。そして、加圧ローラ44及び定着ローラ45間を通過した用紙は下流側の搬送路47を通じて第3の搬送路11に案内される。
【0043】
第3の搬送路11は、定着装置14で定着処理の行われた用紙を用紙排出部3に搬送する。このため第3の搬送路11には、適宜位置に搬送ローラ49が配設されるとともに、その出口には上記の排出ローラ24が配設されている。
【0044】
〔第1実施形態〕
次に、第1実施形態の定着装置14の詳細について説明する。
【0045】
図2は、第1実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。なお図2では、プリンタ1に実装した状態から向きを約90°反時計回りに転回させて示している。したがって、図1中でみて下方から上方への用紙搬送方向は、図2でみると右方から左方となる。なお、装置本体2がより大型(複合機等)である場合、図2に示される向きで実装されることもある。
【0046】
定着装置14は、上記のように加圧ローラ44、定着ローラ45、ヒートローラ46及び加熱ベルト48を備えている。上記のように定着ローラ45の表層には、シリコンスポンジの弾性層が形成されていることから、加熱ベルト48と定着ローラ45との間にはフラットニップが形成されている。
【0047】
加熱ベルト48は、その基材が強磁性材料(例えばNi)であり、その表層に薄膜の弾性層(例えばシリコンゴム)が形成されており、その外面には離型層(例えばPFA)が形成されている。なお、加熱ベルト48に発熱機能を持たせない場合はPI等の樹脂ベルトであってもよい。またヒートローラ46は芯金が磁性金属(例えばFe、SUS)であり、その表面には離型層(例えばPFA)が形成されている。
【0048】
また加圧ローラ44についてより具体的には、金属製の芯材に例えばFe、Al等を用いており、この芯材上にSiゴム層を形成し、さらにその表層にフッ素樹脂層を成形したものである。なお加圧ローラ44の内側には、例えばハロゲンヒータ44aが設けられている構成であってもよい。
【0049】
この他に定着装置14は、ヒートローラ46及び加熱ベルト48の外側にIHコイルユニット50を備えている(図1には示されていない)。IHコイルユニット50は、誘導加熱コイル52をはじめ一対のアーチコア54、同じく一対のサイドコア56及びセンタコア58から構成されている。
【0050】
〔コイル〕
図2の例では、ヒートローラ46及び加熱ベルト48の円弧状の部分で誘導加熱を行うため、誘導加熱コイル52は円弧状の外面に沿う仮想的な円弧面上に配置されている。実際には、ヒートローラ46及び加熱ベルト48の外側に例えば樹脂製のボビン(図示していない)が配置されており、このボビン上に誘導加熱コイル52が巻線状に配置される構成である。なお図示しないボビンは、ヒートローラ46の外面に沿って半円筒形状に成形されている。またボビンの材質は、耐熱性樹脂(例えばPPS、PET、LCP)であることが好ましい。
【0051】
〔磁性体コア〕
図2でみてセンタコア58は中央に位置し、その両側で対をなすように上記のアーチコア54(第1のコア)及びサイドコア56(第1のコア)が配置されている。このうち両側のアーチコア54は、互いに対称をなす断面アーチ形に成形されたフェライト製コア(磁性体コア)であり、それぞれ全長は誘導加熱コイル52の巻線領域よりも長い。また両側のサイドコア56は、ブロック形状に成形されたフェライト製のコア(磁性体コア)である。両側のサイドコア56は各アーチコア54の一端(図2では下端)に連結して設けられており、これらサイドコア56は誘導加熱コイル52の巻線領域の外側を覆っている。
【0052】
このうちアーチコア54は、例えばヒートローラ46の長手方向に間隔をおいて複数箇所に配置されている。またサイドコア56は、ヒートローラ46の長手方向に間隔をあけずに連続して配置されており、その全長は誘導加熱コイル52の巻線領域の長さに対応している。これらコア54,56の配置は、例えば誘導加熱コイル52の磁束密度(磁界強度)分布に合わせて決定されており、アーチコア54がある程度の間隔をおいて配置されている分、その抜けた箇所でサイドコア56が磁界の集束効果を補い、長手方向での磁束密度分布(温度差)を均している。
【0053】
アーチコア54及びサイドコア56の外側には、例えば図示しない樹脂製のコアホルダが設けられており、このコアホルダによりアーチコア54及びサイドコア56が支持される構造である。コアホルダの材質もまた、耐熱性樹脂(例えばPPS、PET、LCP)であることが好ましい。
【0054】
また図2の例では、ヒートローラ46の内側にサーミスタ62が設置されている。サーミスタ62は、ヒートローラ46の特に誘導加熱による発熱量の大きい箇所の内側に配置することができる。この他に、ヒートローラ46の内側に図示しないサーモスタットを配置し、異常温度上昇時の安全性を向上することもできる。
【0055】
〔センタコア〕
センタコア58(第2のコア)は、例えば断面円筒形状をなすフェライト製コア(磁性体コア)である。センタコア58はヒートローラ46と略同様に、用紙の最大通紙幅に対応するだけの長さを有している。図2には示されていないが、センタコア58は図示しない駆動機構に連結されており、この駆動機構により長手方向の軸線回りに回転可能となっている。なお、駆動機構についてはさらに後述する。
【0056】
〔遮蔽部材〕
またセンタコア58には、その外面に沿って遮蔽部材60が取り付けられている。遮蔽部材60は薄板状をなし、全体的に円弧状に湾曲して形成されている。なお遮蔽部材60は例えば図示のようにセンタコア58の肉厚部分に埋め込んだ状態に設置されていてもよいし、センタコア58の外面に貼り付けた状態で設置されていていてもよい。遮蔽部材60の貼り付けは、例えばシリコン系接着剤を用いて行うことができる。いずれにしても遮蔽部材60はセンタコア58とともに回転することで、誘導加熱コイル52の発生させた磁界の経路(磁気経路)を切り替える経路切替手段を構成する。なお、センタコア58の回転に伴う磁気経路の切り替えについては後述する。
【0057】
遮蔽部材60の構成としては、非磁性かつ良導電部材が好ましく、例えば無酸素銅などが用いられる。遮蔽部材60はその面に垂直な磁界が貫通することによる誘導電流(渦電流)で逆磁界を発生させ、錯交磁束(垂直な貫通磁界)をキャンセルすることで遮蔽する。また、良導電性部材を用いることで誘導電流によるジュール発熱を抑制し、効率よく磁界を遮蔽することができる。導電性を向上するには、例えば(1)なるべく固有抵抗の小さい材料を選定すること、(2)部材の厚みを厚くすること、等の方法が有効である。具体的には、遮蔽部材60の板厚は0.5mm以上が好ましく、第1実施形態では例えば1mmのものを用いている。
【0058】
〔磁気調整部材〕
その他にIHコイルユニット50には、センタコア58と加熱ベルト48(ヒートローラ46)との間を中心として、その両側で誘導加熱コイル52と加熱ベルト48(ヒートローラ46)との間にまで拡がった領域内に磁気調整部材90が固定して配置されている。なお、センタコア58(遮蔽部材60)と磁気調整部材90との間には、センタコア58の回転を阻害しない程度の適度なクリアランスが確保されている。
【0059】
図3は、センタコア58、遮蔽部材60、誘導加熱コイル52及び磁気調整部材90の配置関係を示した分解斜視図である。上記のようにセンタコア58は、ヒートローラ46とともに最大通紙幅よりも長い全長を有しており、これに合わせて誘導加熱コイル52の巻線領域もまた、センタコア58の長手方向でみて、その全長をカバーできる範囲に拡がっている。
【0060】
一方、遮蔽部材60は、センタコア58の長手方向でみて、その両端部にそれぞれ配置されており、また磁気調整部材90は、センタコア58(又はヒートローラ46)の長手方向でみて、その両端部にそれぞれ配置されている(図3には一端部のみを示す)。なお遮蔽部材60及び磁気調整部材90はいずれも、例えばプリンタ1で使用する用紙サイズの最小通紙幅よりも外側に配置されている。
【0061】
〔磁気調整部材の構造例〕
図4は、磁気調整部材90の構造例を示す斜視図である。磁気調整部材90は、主に3つのリング状部90A,90B,90Cを有しており、これらリング状部90A,90B,90Cは、いずれも角リング形状をなしている。さらに3つのリング状部90A,90B,90Cは、それぞれが独立したリングではなく、これらが相互に連結されることで、磁気調整部材90の全体が一続きとなった無端状の構造を有している。以下、磁気調整部材90の構造について説明する。
【0062】
磁気調整部材90は、その長手方向でみて一端の位置に3つの短辺部90a,90e,90iを有するとともに、その他端の位置にも3つの短辺部90g,90c,90kを有している。また磁気調整部材90は、その幅方向(長手方向と直交する方向)でみて一側端の位置に1つの長辺部90dを有するとともに、他側端の位置にも1つの長辺部90jを有する。
【0063】
さらに磁気調整部材90は、その幅方向の中央寄り位置で中央のリング状部90Aとこれに隣接するリング状部90Bとの間に2つの長辺部90b,90fを有するとともに、中央のリング状部90Aとこれに隣接する別のリング状部90Cとの間にも2つの長辺部90l,90hを有している。
【0064】
〔中央のリング状部〕
中央のリング状部90Aには、長手方向で対になる2つの短辺部90a,90gが含まれるが、これら短辺部90a,90g同士はリング状部90A内で相互に接続されていない。すなわち、中央のリング状部90Aのうち、一方の短辺部90aの両端には、それぞれ長辺部90b,90lの一端が接続されて長手方向に延びているが、このうち一方の長辺部90bの他端には、隣接するリング状部90Bの短辺部90cが接続されており、また他方の長辺部90lの他端には、別の隣接するリング状部90Cの短辺部90kが接続されている。
【0065】
また中央のリング状部90Aのうち、他方の短辺部90cの両端には、それぞれ長辺部90f,90hの一端が接続されて長手方向に延びているが、このうち一方の長辺部90fの他端には、隣接するリング状部90Bの短辺部90eが接続されており、また他方の長辺部90hの他端には、別の隣接するリング状部90Cの短辺部90iが接続されている。したがって、リング状部90A内で対をなす短辺部90a,90gは、その中で同じく対をなす長辺部90b,90fや長辺部90l,90hを介して相互に接続されているものではない。
【0066】
〔両側のリング状部〕
また、中央のリング状部90Aに隣接してその両側に位置する2つのリング状部90B,90Cのうち、一方側のリング状部90Bについては、長手方向で対になる2つの短辺部90c,90e同士が外側寄りの長辺部90dを介して接続されているが、このうち一方の短辺部90eは中央寄りの1つの長辺部90fを介して中央のリング状部90Aの短辺部90gに接続されている。また、他方の短辺部90cは、中央寄りの別の長辺部90bを介して中央のリング状部90Aの短辺部90aに接続されている。
【0067】
同様に、他方側のリング状部90Cについては、長手方向で対になる2つの短辺部90i,90k同士が外側寄りの長辺部90jを介して接続されているが、このうち一方の短辺部90iは中央寄りの1つの長辺部90hを介して中央のリング状部90Aの短辺部90gに接続されている。また、他方の短辺部90kは、中央寄りの別の長辺部90lを介して中央のリング状部90Aの短辺部90aに接続されている。
【0068】
〔全体構造〕
以上の接続関係から、磁気調整部材90全体は、例えば中央のリング状部90Aの短辺部90aを基点として、その一端から長辺部90b、短辺部90c、長辺部90d、短辺部90e、長辺部90f、短辺部90g、長辺部90h、短辺部90i、長辺部90j、短辺部90k、長辺部90lが順に一続きで接続されることで、全体として無端状をなす構造を有している。なお、短辺部90a,90c,90e,90g,90i,90k及び長辺部90b,90d,90f,90j,90lは、いずれも非磁性金属の線材料(細幅の板材料でもよい)で構成されており、その外面に絶縁被覆が施されていることが好ましい。
【0069】
また中央のリング状部90Aに含まれる2つの短辺部90a,90gについては、センタコア58の外面形状に沿って円弧形状に湾曲して形成されており、また両側のリング状部90B,90Cに含まれる短辺部90c,90e,90i,90kについては、誘導加熱コイル52の内周面形状に沿って円弧形状に湾曲して形成されている。これにより、磁気調整部材90を取り付けた状態で、センタコア58や誘導加熱コイル52との干渉を良好に避けることができる。
【0070】
〔磁気調整部材の機能〕
図5は、磁気調整部材90の機能を説明するためのモデル図である。なお図5では、磁気調整部材90が単にワイヤモデルとして簡略化して示されているが、各リング状部90A,90B,90Cの接続関係は図4と同じである。また図5では便宜上、各短辺部90a,90g,90c,90e,90i,90kを直線状のものとして示している。
【0071】
〔磁束の通過時〕
図5中(A):磁気調整部材90をワイヤモデルとして考えると、その構造は1つの大きなリング(環状体)を2箇所で互い違いの方向にねじり、上記のように3つのリング状部90A,90B,90Cを形成したものとして考えることができる。
【0072】
このような磁気調整部材90において、中央のリング状部90Aの内部に磁束Φ1が進入すると、このリング状部90Aにはそれを打ち消そうとする電流i1(磁束Φ1と逆向きのキャンセル磁束を発生させる誘導電流)が生じる。同様に、その両側(左右)に隣接する2つのリング状部90B,90Cの内部にそれぞれ磁束Φ2,Φ2’が入ると、それぞれのリング状部90B,90Cにも電流i2,i2’(磁束Φ2,Φ2’と逆向きのキャンセル磁束を発生させる誘導電流)が生じる。
【0073】
このとき、両側のリング状部90B,90Cでそれぞれ生じる電流i2,i2’の方向は同じであるが、中央のリング状部90Aに生じる電流i1は逆方向であることから、以下の条件式(1)を満たす場合に磁気調整部材90の内部を流れる電流(総和)はゼロとなる。
|i1|=|i2|+|i2’|・・・(1)
なお、|i1|,|i2|,|i2’|はそれぞれ電流(起磁力)の絶対値を示す。
【0074】
したがって、上記の条件式(1)を満たす場合、全ての磁束Φ1,Φ2,Φ3'は特に打ち消されることなく、各リング状部90A,90B,90C内をそのまま通り抜けることができる。
【0075】
〔磁束の遮蔽時〕
図5中(B):次に上記の状態から、中央のリング状部90Aに入る磁束Φ1だけを取り除いた場合(Φ1=0)を考える。この場合、中央のリング状部90Aで電流は発生しなくなり(i1=0)、磁気調整部材90の内部を流れる電流は条件式(1)の右辺(|i2|+|i2’|)だけとなる。
【0076】
したがって、中央のリング状部90Aの磁束Φ1を取り除いた場合、両側のリング状部90B,90Cでは電流i2,i2’によって磁束Φ2,Φ2’が打ち消されることから、結果的に磁束Φ2,Φ2’がそれぞれリング状部90B,90Cによって遮られることになる。
【0077】
〔まとめ〕
以上より、磁気調整部材90について以下の結論が明らかとなっている。
(1)Φ1=Φ2+Φ2’の関係式が満たされる場合、磁気調整部材90の内部に生じる電流が0となり、磁気調整部材90は全ての磁束Φ1,Φ2,Φ2’の通過を許容する。この場合、磁気調整部材90は磁界に対して何ら影響を及ぼさない存在となる。
【0078】
(2)上記(1)の状態からΦ1=0とした場合、磁気調整部材90内部にはi2+i2’の電流が流れるため、磁気調整部材90は磁束Φ2,Φ2’を通過させることなく遮蔽する。この場合、磁気調整部材90はリング状部90B,90Cの範囲内で磁気遮蔽効果を発揮するものとなる。
【0079】
以上を踏まえ、第1実施形態の定着装置14では、磁気調整部材90の中央のリング状部90Aに入る磁束Φ1(Wb)と、その両側に隣接する2つのリング状部90B,90Cに入る磁束Φ2,Φ2’(Wb)について、以下の関係式(2)が満たされる構造及び配置を採用している。
Φ1=Φ2+Φ2’・・・(2)
【0080】
次に図6は、上記の磁気調整部材90の配置を第1例として示した図である。
【0081】
図6中(A):用紙サイズが最大である場合、定着装置14はセンタコア58の回転に伴い、遮蔽部材60を磁路の外側へ退避させる(退避位置)。このように遮蔽部材60を退避させることで、上記の条件式(2)を満たす磁束Φ1,Φ2,Φ2’を磁気調整部材90に通過させることができる。この場合、用紙の最大通紙幅W3の全域で上記のヒートローラ46が誘導加熱される。
【0082】
図6中(B):用紙サイズが最大通紙幅W3より小さい場合、定着装置14はセンタコア58の回転に伴い、遮蔽部材60を磁路内に進入させる(遮蔽位置)。このように遮蔽部材60を遮蔽位置に置くことで、センタコア58からヒートローラ46に向かう磁束を遮り、上記のように磁束Φ1=0の状態にすることができる。この場合、磁気調整部材90はその全体で磁束を遮蔽するので、ヒートローラ46の両端部における過昇温が防止される。
【0083】
なお図6中(A),(B)は、それぞれセンタコア58及び磁気調整部材90の側面図及びその底面図を表したものである。なお図中、センタコア58の外面には網点を施している。
【0084】
なお、センタコア58は用紙の最大通紙幅W3と略同等か、それよりも長い全長を有している。このとき、遮蔽部材60はセンタコア58の長手方向で2つに分割されており、これらが互いに対称の形状となっている。各遮蔽部材60は、例えば平面視又は底面視で三角形状をなしており、三角形の頂点に相当する部分がセンタコア58の中央寄りに位置付けられている。つまり、センタコア58の中央寄りの位置では、その周方向でみた遮蔽部材60の長さが最も短く、そこから遮蔽部材60は、センタコア58の両側端に向かって次第に周方向の長さが拡張されている。
【0085】
また遮蔽部材60は、通紙方向と直交する最小通紙幅W1の両外側に設けられており、最小通紙幅W1の範囲内には僅かしか遮蔽部材60が設けられていない。そして遮蔽部材60は、センタコア58の両端において、用紙の最大通紙幅W2よりも僅かに外側にまで達している。なお最小通紙幅W1や最大通紙幅W2は、プリンタ1で印刷できる最小サイズ又は最大サイズの用紙によって決定される。
【0086】
また第1実施形態では、センタコア58の回転方向でみて、その外周長に占める遮蔽部材60の長さの割合はセンタコア58の軸線方向(長手方向)に異なっている。このとき、センタコア58の外周長(L)に占める遮蔽部材60の長さ(Lc)の割合を被覆率(=Lc/L)とすると、被覆率はセンタコア58の内側では小さく、そこから軸線方向の外側(両端)に向かうほど大きくなっている。具体的には、被覆率は最小通紙領域(最小通紙幅W1の範囲)の近傍で最小となり、逆にセンタコア58の両端では最大となっている。
【0087】
上記のように用紙サイズ(通紙幅)への対応は、遮蔽部材60を退避位置と遮蔽位置に移動させ、それぞれの位置で磁気経路を切り替えることで発生磁束を部分的に抑制する(Φ1=0にする)ことで実現される。このとき、用紙サイズ(通紙幅)に応じてセンタコア58の回転角(回転変位量)を異ならせ、大きい用紙サイズになるほど磁気の遮蔽量を小さくし、逆に小さい用紙サイズになるほど遮蔽量を大きくすることで、ヒートローラ46や加熱ベルト48の両端部分が過昇温するのを防止することができる。なお、図6には反時計回り方向への回転だけを矢印で示しているが、センタコア58は時計回りの方向にも回転するものであってもよい。また、通紙方向は図6に示される方向と反対であってもよい。
【0088】
〔配置の第2例〕
図7は、磁気調整部材90の配置に関する第2例を示した図である。図7に示す例では、磁気調整部材90が長手方向(用紙の幅方向)に分割されている。このような構造であれば、各通紙幅W1,W2,W3に応じて磁束の遮蔽を行う磁気調整部材90の数と位置が異なる。
【0089】
例えば、最小通紙幅W1の場合、遮蔽部材60が両側それぞれ3つの磁気調整部材90について中央のリング状部90Aに入る磁束を遮蔽することで(Φ1=0)、両側で6つ全ての磁気調整部材90により磁束の遮蔽効果を発揮させる。
【0090】
中間通紙幅W2の場合、遮蔽部材60が両端からそれぞれ2つの磁気調整部材90について中央のリング状部90Aに入る磁束を遮蔽することで(Φ1=0)、両側で4つの磁気調整部材90により磁束の遮蔽効果を発揮させる。
【0091】
なお最大通紙幅W3の場合、遮蔽部材60は退避位置に移動して条件式(2)を満たす磁束磁束Φ1,Φ2,Φ2’を発生させる。
【0092】
〔駆動機構〕
次にセンタコア58を軸線回りに回転させる機構、つまり遮蔽部材60を遮蔽位置と退避位置とに移動させて磁気経路を切り替える機構について説明する。
【0093】
図8は、センタコア58の駆動機構64の構成を示す側面図である。この駆動機構64は、例えばステッピングモータ66の回転を減速機構68によって減速し、駆動軸70を駆動してセンタコア58を回転させるものである。減速機構68には、例えばウォームギアが用いられているが、その他のものであってもよい。また、センタコア58の回転角(基準位置からの回転変位量)を検出するため、駆動軸70の端部にスリット付ディスク72が設けられており、これにフォトインタラプタ74が組み合わされている。なお図8中、磁気調整部材90は誘導加熱コイル52の内側に隠れているため、図示されていない。
【0094】
上記の駆動軸70はセンタコア58の一端部に連結されており、センタコア58の内部を貫通することなくセンタコア58を支持している。センタコア58の回転角は、例えばステッピングモータ66に印加する駆動パルス数によって制御することができ、駆動機構64にはそのための制御回路(図示していない)が付属する。
【0095】
制御回路は、例えば制御用ICと入出力ドライバ、半導体メモリ等によって構成することができる。フォトインタラプタ74からの検出信号は入力ドライバを通じて制御用ICに入力され、これに基づいて制御用ICが現在のセンタコア58の回転角(位置)を検出する。
【0096】
一方、制御用ICには、図示しない画像形成制御部から現在の用紙サイズに関する情報が通知される。これを受けて制御用ICは、半導体メモリ(ROM)から用紙サイズに適した回転角の情報を読み出し、その目標とする回転角に到達する分の駆動パルスを一定周期で出力する。駆動パルスは出力ドライバを通じてステッピングモータ66に印加され、これを受けてステッピングモータ66が作動する。なお、ステッピングモータ66の制御に際して基準位置だけを検出する必要があれば、スリット付ディスク72をインデックス部材とし、上記の基準位置でインデックス部材がフォトインタラプタ74に検出される構造としてもよい。
【0097】
〔動作例〕
図9は、センタコア58の回転に伴う定着装置14の動作例を示す図である。以下、それぞれについて説明する。
【0098】
〔第1の経路〕
図9中(A):センタコア58の回転に伴い、遮蔽部材60を退避位置に移動させた場合の定着装置14の動作例を示す。この場合、誘導加熱コイル52の発生させる磁界において、その主な磁路はサイドコア56、アーチコア54及びセンタコア58を含む第1の経路(図中の太い実線)を通って加熱ベルト48及びヒートローラ46を通過するものとして形成される。このとき強磁性体である加熱ベルト48及びヒートローラ46に渦電流が発生し、それぞれの材料の持つ固有抵抗によりジュール熱が発生して加熱が行われる。なお、このとき磁気調整部材90の中央のリング状部90A内では、上記の磁束Φ1が通過する。
【0099】
また、サイドコア56、アーチコア54及びセンタコア58を通じて加熱ベルト48及びヒートローラ46を通過する磁路の内側では、例えばアーチコア54から漏れようとするショートカット磁束(図中の太い一点鎖線)が発生し、これら磁気調整部材90の両側のリング状部90B,90Cを通過する。このとき各リング状部90B,90C内には、上記の磁束Φ2,Φ2’が通過するものとする。したがって、主な第1の経路を通る磁束Φ1だけでなく、その他の漏れ磁束Φ2,Φ2も発熱に寄与させることができ、それだけ全幅加熱時の発熱効率を向上することができる。
【0100】
〔第2の経路〕
図9中(B):次に、遮蔽部材60を遮蔽位置に移動させた場合の定着装置14の動作例を示す。この場合、最小通紙領域の外側では磁気経路上に遮蔽部材60が位置するため、そこでの磁気経路はアーチコア54の端面から出てセンタコア58を通らずに加熱ベルト48及びヒートローラ46に至る第2の経路(図中の太い破線)に切り替えられる。これにより、最小通紙領域の外側で発熱量が抑えられ、加熱ベルト48やヒートローラ46の過昇温を防止することができる。
【0101】
〔磁気調整部材の機能〕
第2の経路に切り替えられた状態では、図示のように磁気調整部材90の中央のリング状部90A内を通過する磁束がゼロの状態(磁束Φ1=0)となっている。このとき、第2の経路にはアーチコア54から漏れようとする弱い磁束(アーチコア54の内側を小さく周回する破線)も発生しているが、磁気調整部材90は、上記のように第2の経路を通る全ての磁束Φ2,Φ2’に対して遮蔽効果を発揮することができる。このため第1実施形態の定着装置14は、遮蔽部材60の面積を過度に拡大しなくても、非通紙領域で充分な磁気の遮蔽効果を得ることができ、それによって加熱ベルト48やヒートローラ46の過昇温を現状よりも抑制することができる。
【0102】
〔総発熱量と遮蔽効果との関係〕
図10は、定着装置14による総発熱量と遮蔽効果との関係を示す図である。図10中、左側の縦軸は加熱ベルト48及びヒートローラ46全体の発熱量の合計である総発熱量(W)を示しており、これには図中に菱形(◆)で示した点が対応する。この総発熱量が大きいほど、IHコイルユニット50による発熱効率が高いことを意味している。
【0103】
また、図10中の右側の縦軸は非通紙領域に対する磁気の遮蔽効果(%)を示すものであり、これには図中に四角形(網点付の□)で示した点が対応している。遮蔽効果は、第1の経路(遮蔽部材60を退避位置に置いた状態)から第2の経路(遮蔽部材60を遮蔽位置に置いた状態)に移行した際に、「通紙幅方向の中央部の発熱量に対する端部の発熱量の割合」がどれだけ変化したかを表す数値である。したがって、遮蔽効果のパーセンテージが小さいほど、端部領域での発熱がより大きく抑制されたことを意味している。
【0104】
また図10中の横軸は、センタコア58に遮蔽部材60だけを用いて磁気調整部材90を未装着とした状態を「ノーマル」として左側に示している。また、上記の磁気調整部材90を追加した状態を中間に示し、理想的な条件で設計された磁気調整部材を用いた状態を右側に示している。
【0105】
〔ノーマル時〕
磁気調整部材90を未装着とした場合、総発熱量(◆点)は高い水準にあるが、遮蔽効果(□点)はパーセンテージが高い水準にあり、あまり端部領域の発熱を抑制できていないことがわかる。
【0106】
〔磁気調整部材追加時〕
これに対し、磁気調整部材90を装着した場合、総発熱量(◆点)は依然として高い水準にありながら、遮蔽効果(□点)はパーセンテージが低い水準にまで低下している。したがって、第1実施形態の磁気調整部材90を用いれば、IHコイルユニット50の端部領域での発熱を大幅に抑制できることが理解される。
【0107】
〔理想条件時〕
また、理想的な条件で設計された磁気調整部材を用いたシミュレート結果によれば、総発熱量(◆点)を依然として高い水準に維持しつつ、遮蔽効果(□点)のパーセンテージをかなり低い水準にまで低下させることができた。したがって、第1実施形態の磁気調整部材90の形状や大きさ、配置等を理想的な条件に設定することで、IHコイルユニット50による総発熱量を犠牲にすることなく、非加熱領域での過昇温を充分に抑制できることが明らかとなっている。
【0108】
上述した第1実施形態の定着装置14を基本として、さらに以下の第2〜第9実施形態の定着装置14を挙げることができる。以下、各実施形態について説明する。いずれも第1実施形態と共通する構成については図示も含めて共通の符号を付し、その重複した説明を省略するものとする。なお、符号が共通であっても、特に材料等が異なる場合はその旨の説明を追加する。
【0109】
〔第2実施形態〕
図11は、第2実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第2実施形態では、磁気調整部材90の配置や形態が第1実施形態と異なっている。
【0110】
具体的には、磁気調整部材90はセンタコア58と加熱ベルト48との間に中央のリング状部90Aを配置させているが、その両側のリング状部90B,90Cについては誘導加熱コイル52の外側、つまりアーチコア54と誘導加熱コイル52との間に配置させている。なお、長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0111】
第2実施形態においても、上記のように第1の経路に切り替えられた状態(遮蔽部材60を退避位置に置いた状態)で条件式(1)を満たしていれば、第1実施形態と同様に磁気調整部材90は磁束を良好に通過させることができる。また、第2の経路に切り替えた状態(遮蔽部材60を遮蔽位置に置いた状態)で中央のリング状部90Aを通る磁束Φ1を0にすることができれば、磁気調整部材90はその全体で磁束の遮蔽効果を発揮することができる。
【0112】
〔第3実施形態〕
図12は、第3実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第3実施形態では、上記の加熱ベルトを用いずに定着ローラ45と加圧ローラ44とでトナー画像を定着する。定着ローラ45の外周には、例えば上記の加熱ベルトと同様の磁性体が巻かれており、誘導加熱コイル52によって磁性体を誘導加熱する構成である。この場合、サーミスタ62は定着ローラ45の外側で、磁性体層に対向する位置に設けられる。
【0113】
このような第3実施形態の定着装置14においても、図示のように磁気調整部材90を適用することができる。同様に、長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0114】
〔第4実施形態〕
図13は、第4実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第4実施形態では、ヒートローラ46が非磁性金属(例えばSUS:ステンレス鋼)の材料で構成されており、センタコア58がヒートローラ46の内部に配置されている点が第1実施形態と異なっている。また、合わせてアーチコア54が中央で連結されており、その下部に中間コア55が設置されている。
【0115】
またヒートローラ46を非磁性金属とした場合、誘導加熱コイル52により発生した磁界はサイドコア56、アーチコア54及び中間コア55を通り、ヒートローラ46を貫通して内部のセンタコア58に至る。加熱ベルト48は貫通磁界により誘導加熱される。
【0116】
そして第4実施形態の場合、図13に示されているように遮蔽部材60を中間コア55から離隔させると第1の経路に切り替えた状態(退避位置)となり、この場合は遮蔽部材60による磁気の遮蔽効果が働かずに最大通紙領域で加熱ベルト48が誘導加熱される。一方、遮蔽部材60を中間コア55に対向する位置(遮蔽位置)に移動させると磁気経路が第2の経路に切り替えられ、通紙領域の外側で過昇温が抑制される。
【0117】
このような第3例の定着装置14においても、磁気調整部材90を例えば中間コア55と加熱ベルト48との間、そして誘導加熱コイル52と加熱ベルト48との間に配置することで、第1実施形態と同様の機能を発揮させることができる。同様に、長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0118】
〔第5実施形態〕
図14は、第5実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第5実施形態は、IHコイルユニット50をいわゆる内包IHタイプとしたものである。具体的には、ヒートローラ46が比較的大径(例えば40mm)の非磁性金属(例えばSUS)で構成されており、その内部に誘導加熱コイル52及びセンタコア58が収容されている。そして、ヒートローラ46の外側には第1〜第4実施形態のようなアーチコア54及びサイドコア56が設けられていない。なおヒートローラ46の表面には、離型層(PFA)が形成されている。また加圧ローラ44については第1〜第3例と同様である。
【0119】
第5実施形態のような内包IHでは、誘導加熱コイル52により発生した磁界はヒートローラ46の内部でセンタコア58によって導かれ、ヒートローラ46を誘導加熱する。そして第5実施形態の場合、図14に示されているように遮蔽部材60を誘導加熱コイル52から離隔させると第1の経路に切り替えた状態(退避位置)となり、この場合は磁気の遮蔽効果が働かずに最大通紙領域で加熱ベルト48が誘導加熱される。一方、遮蔽部材60を誘導加熱コイル52に近接する位置(遮蔽位置)に移動させると磁気経路が第2の経路に切り替えられ、通紙領域の外側で過昇温が抑制される。
【0120】
第5実施形態の定着装置14においても、例えば図示のようにヒートローラ46の内周面と誘導加熱コイル52との間に磁気調整部材90を固定して配置することができる。また同様に、長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0121】
〔第6実施形態〕
図15は、第6実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第6実施形態では、加熱ベルト48の円弧状の位置ではなく、ヒートローラ46と定着ローラ45との間の平面状の位置で誘導加熱する構成である。この場合も同様に、センタコア58を回転させて磁気経路を切り替えることができる。そして磁気調整部材90は、第1の経路に切り替えられると磁束を良好に通過させ、第2の経路に切り替えられると磁束の遮蔽効果を発揮することができる。
【0122】
また、磁気調整部材90は中央のリング状部90Aだけが湾曲した形状であり、両側のリング状部90B,90Cは湾曲していない平面状である。このような磁気調整部材90は、例えば誘導加熱コイル52と加熱ベルト48との間に固定して設置されている。また同様に、長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0123】
〔第7実施形態〕
次に図16は、第7実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第7実施形態は、センタコア58を用いずに遮蔽部材60だけを移動させて磁気経路の切り替えを行う構成である。このたアーチコア54は両側で相互に連結されており、遮蔽部材60はアーチコア54の内面に沿うようにして図中の矢印方向に移動する。なお、ここでも長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0124】
特に図示していないが、第7実施形態の定着装置14は第1実施形態と同様の駆動機構を備えており、この駆動機構によりヒートローラ46の回転中心と同じ中心点の周りに遮蔽部材60を移動させることができる。
【0125】
〔第1の経路〕
図16中の2点鎖線で示されているように、遮蔽部材60を誘導加熱コイル52の巻線中心Lからずれた位置で、アーチコア54と誘導加熱コイル52との間の退避位置に移動させると、第7実施形態では第1の経路に切り替えられた状態となる。この場合、磁束はアーチコア54の中央位置から巻線中心Lに沿って加熱ベルト48及びヒートローラ46に到達する。このとき磁気調整部材90は、第1実施形態と同様に磁束を良好に通過させる。
【0126】
また図16中に二点鎖線で示されるのように、第7実施形態では誘導加熱コイル52の外側だけでなく、その内側に磁気調整部材90を配置してもよい。
【0127】
〔第2の経路〕
一方、図16中の実線で示されているように、遮蔽部材60を誘導加熱コイル52の巻線中心Lの線上に位置付けると、第1の経路から第2の経路に切り替えられた状態となる。この場合、磁気調整部材90の中央のリング状部90Aに入る磁束Φ1が0になるので、磁気調整部材90はその全体で磁束を遮蔽することができる。
【0128】
〔第8実施形態〕
図17は、第8実施形態の定着装置14の構成例を示す部分的な縦断面図である。なお図17中、定着装置14はIHコイルユニット50の部分のみを拡大して示されている。以下、第1実施形態との違いを中心として説明する。
【0129】
第8実施形態では、センタコア58の外側に別の連結コア57が配置されており、この連結コア57は両側のアーチコア54を相互に連結している。また、両側のアーチコア54の一方(図中の右側)は、その一端がセンタコア58の側方で略直角に屈曲されており、この屈曲部が誘導加熱コイル52の内側を通って加熱ベルト48及びヒートローラ46の近傍にまで延びている。
【0130】
このため第8実施形態では、一方のアーチコア54に屈曲部を設けた分、センタコア58の回転中心がヒートローラ46の回転中心に対して一側方(図中の左側方)へオフセット(図中F)された位置にある。またセンタコア58には、その周方向でみた略半分に遮蔽部材60が設けられている。
【0131】
磁気調整部材90は、第7実施形態で示したように誘導加熱コイル52の外側だけでなく、内側にも配置されている。このときアーチコア54の屈曲部は、例えば磁気調整部材90の片側のリング状部90Cを貫通する位置に配置されているものとする。
【0132】
第8実施形態においても、第1実施形態と同様にセンタコア58を回転させることで第1の経路と第2の経路とを切り替えることができる。特に第8実施形態の構造によれば、アーチコア54に屈曲部を設けることによって、第2の経路に切り替えられた場合の磁気結合度を向上することができる。また、アーチコア54の内面には、例えば別の遮蔽部材60が接着されており、このような遮蔽部材61は、アーチコア54からの漏れ磁束を遮蔽することに寄与する。
【0133】
したがって第8実施形態では、第1の経路から第2の経路に切り替えた場合に磁束Φ2,Φ2’を確実に磁気調整部材90の両側のリング状部90B,90Cに向かわせることができるので、そこでの遮蔽効果を確実に発揮させることができる。また、ここでも長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0134】
なお、図17では一方のアーチコア54に屈曲部を設けた例を示しているが、両方のアーチコア54に屈曲部を設けてもよい。
【0135】
〔第9実施形態〕
図18は、第9実施形態の定着装置14の構成例を示す縦断面図である。以下、第1実施形態との違いを中心として説明する。
【0136】
第9実施形態では、遮蔽部材60をリング形状とした点が第1実施形態と大きく異なっている。また、磁気調整部材90は第8実施形態と同様に誘導加熱コイル52の外側と内側にそれぞれ設置している点が第1実施形態と異なる。そしてアーチコア54の内面には、別の遮蔽部材61が接着されており、この遮蔽部材61によってアーチコア54からの漏れ磁束を遮蔽している。なお遮蔽部材61は、両側のアーチコア54からセンタコア58の外側(図中の上方)にまで延長されており、この位置で相互に連結されている。
【0137】
〔リング状の遮蔽部材〕
図19は、リング状の遮蔽部材60の構造例を示す斜視図である(センタコア58は図示されていない)。リング状の遮蔽部材60は、全体としてリールのような形状をなしている。すなわち、この構造例では遮蔽部材60が長手方向でみて両端位置に一対のリング部60cを有しており、これらの間を3本の直線部60aで連結した構造である。直線部60aは、リング部60cの周方向に間隔をおいて配置されている。なおリング状の構造例においても、遮蔽部材60はセンタコア58の一端部(最小通紙領域の外側)と他端部にそれぞれ配置されている。
【0138】
このような構造の遮蔽部材60においては、リング形状の部分が周方向に3箇所にわたって形成されている。すなわち、周方向で隣り合う2本の直線部60aとこれらを連結するリング部60cによって1つのリング部分が形成されるため、遮蔽部材60が全体として3つのリング部分を有することになる。
【0139】
〔磁気経路切り替えの原理〕
図20は、リング状の遮蔽部材60による磁気経路切り替えの原理を説明するための概念図である。なお図20中、遮蔽部材60は単なるワイヤモデルとして簡略化されており、いずれも1つのリング部分のみを表しているものとする。
【0140】
図20中(A):リング形状の遮蔽部材60に対し、そのリング面(仮想的な平面)を垂直方向(一方向)に貫通磁界(錯交磁束)が発生すると、それによって遮蔽部材60の周方向に誘導電流が生じる。すると、電磁誘導によって貫通磁界と逆向きの磁界(反磁界)が発生するので、これらが互いに打ち消しあい、磁界をキャンセルする。第9実施形態では、この磁界のキャンセル効果を用いて第2の経路への切り替えを実現する。
【0141】
図20中(B):上段に示されているように、リング形状の遮蔽部材60に対し、そのリング面に双方向に貫通磁界が発生し、このとき錯交磁束の総和が概ね差し引き0(±0)の場合を想定する。この場合、遮蔽部材60にはほとんど誘導電流が発生しない。したがって、遮蔽部材60はほとんど磁界のキャンセル効果を発揮せず、双方向への磁界は遮蔽部材60を素通りする。これは、下段に示されるように遮蔽部材60の内側をUターンする方向に磁界が通過した場合も同様となる。なお第9実施形態では、磁界がどの方向にも貫通しない位置に遮蔽部材60を退避させることで磁界を通過させ、第1の経路への切り替えを実現している。
【0142】
図20中(C):リング形状の遮蔽部材60に対し、そのリング面と略平行に磁界(錯交磁束)が発生した場合である。この場合も同様に、遮蔽部材60には誘導電流がほとんど発生せず、したがって磁界のキャンセル効果も発生しない。なお、この手法は第9実施形態で採用していないが、主に先行技術で用いられている退避の手法である。ただし、誘導加熱コイル52の周囲でこのような磁界環境を得るには遮蔽部材60を大きく変位させる必要があり、それだけ可動スペースが大きくなる。
【0143】
以上のようにリング状の遮蔽部材60をセンタコア58とともに回転させることで、図20中(A)の状態と図20中(B)の状態を変化させることができる。これにより、第9実施形態では第1の経路と第2の経路とを切り替えることができる。
【0144】
〔第1の経路〕
具体的には、図18に示されるように、遮蔽部材60の1つの直線部60aを巻線中心L上で加熱ベルト48及びヒートローラ46に最も近接させた状態では、この直線部60aを挟んで両側に形成される2つのリング部分が磁界に対して図20中(B)の状態になる。この場合、磁束は遮蔽部材60に遮蔽されることなく、アーチコア54からセンタコア58を通ってそのまま加熱ベルト48及びヒートローラ46に到達するので、これにより第1の経路への切り替えが実現されていることがわかる。
【0145】
〔第2の経路〕
図18に示される状態から、センタコア58を一方向に60度回転させると、2つの直線部60aが巻線中心Lを挟んで両側で対をなし、これら直線部60aに囲まれたリング状部が巻線中心Lに対して略垂直に位置する。この場合リング部分は磁界に対して図20中(A)の状態になるので、磁束は遮蔽部材60に遮蔽されることになる。これにより、第9実施形態において第2の経路への切り替えが実現されることになる。なお、磁気調整部材90の機能については第1実施形態と同じである。
【0146】
〔リング状の構造例2〕
図21は、リング状の遮蔽部材60の構造例2を示す斜視図である(センタコア58は図示されていない)。構造例2の遮蔽部材60は、最初の構造例をさらに発展させた形態である。すなわち、構造例2では遮蔽部材60が長手方向でみて一端位置に穴あき形状の円盤60Aを有する他、長手方向に間隔をおいて同形状の円盤60Bを有している。この円盤60Bに続いて、遮蔽部材60は長手方向に間隔をおいて約3分の2円で穴あき形状の円盤60Cを有し、他端位置には約3分の1円で穴あき形状の円盤60Dを有している。
【0147】
これら4枚の円盤60A〜60Dのうち、3枚の円盤60A,60B,60Cは、互いに3本の直線部60aを介して連結されている。そして、残る他端位置の円盤60Dについては、隣接する円盤60Cと2本の直線部60aを介して連結されている。
【0148】
なお、この構造例2を適用する場合、磁気調整部材90の配置は長手方向で分割されたもの(図7)を適用するものとし、円盤60Aと円盤60Bとの間、円盤60Bと円盤60Cとの間、そして円盤60Cと円盤60Dとの間にそれぞれ磁気調整部材90を配置する。
【0149】
また図22は、構造例2の遮蔽部材60をセンタコア58に取り付けた状態を示す図である。図22中(A)はセンタコア58の平面図及び側面図に相当し、図22中(B),(C),(D)はそれぞれ図中のB−B断面、C−C断面、D−D断面に相当する。
【0150】
図22中(A):構造例2の遮蔽部材60もまた、センタコア58の長手方向でみた端部に設けられている。このとき、最小通紙領域から最も離れた円盤60Aは最大サイズP1(例えばA3,A4R)に対応する位置にあり、次の円盤60Bは中サイズP2(例えばB4R)に対応する位置にあり、その次の円盤60Cは中小サイズP3(例えばB4)に対応する位置にある。そして、最小通紙領域近傍の円盤60Dは最小サイズP4(例えばA5R)に対応した位置にある。
【0151】
図22中(B):円盤60A,60Bは、上記のように穴あき形状をなしていることが分かる。
図22中(C):円盤60Cは、上記のように約3分の2円の穴あき形状である。
図22中(D):円盤60Dは、上記のように約3分の1円の穴あき形状である。
【0152】
〔構造例2の動作例〕
次に、構造例2の遮蔽部材60を適用した場合の動作例について説明する。図23から図28は、構造例2の遮蔽部材60を用いた6通りの動作例を順番に示す斜視図である。各図中に太線で示される矢印は、発生する誘導電流又は通過する磁界を示している。以下、それぞれについて説明する。
【0153】
〔全面遮蔽(0°)〕
先ず図23は、遮蔽部材60により全面遮蔽(全面で磁束Φ1=0)を行った場合の動作例を示す斜視図である。各動作例においては、遮蔽部材60に対して上方から下方へ貫通する方向に磁界が発生することを想定している。また以下の説明では、図23に示す全面遮蔽の状態を0°とし、そこからの回転角で遮蔽部材60の変位量を表すものとする。
【0154】
円盤60Dが下方に位置する回転角(0°)に遮蔽部材60を移動させると、遮蔽部材60の長手方向の全面で磁気遮蔽効果(磁束Φ1=0)を発揮させることができる。すなわち、一端位置の円盤60Aと他端位置の円盤60D、そしてこれらを連結する直線部60aによって最大形状のリング部分が形成されるため、その全体で磁気遮蔽(磁束Φ1=0)を行うことができる。
【0155】
この場合、両端部でそれぞれ3つの磁気調整部材90がその全体で磁束を遮蔽するので、最小サイズP4に対応して加熱ベルト48やヒートローラ46の過熱を防止することができる。
【0156】
〔遮蔽なし(60°)〕
図24は、図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材60を60°回転させたときの動作例を示す斜視図である。この場合、直線部60aがコイル52の中心線上に位置するので(図20中(A)の状態)、第1の経路に切り替えられた状態(遮蔽部材60が退避位置)となり、磁気の遮蔽効果が発生しない。
【0157】
〔中小サイズ遮蔽(120°)〕
図25は、図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材60を120°回転させたときの動作例を示す斜視図である。この場合、円盤60Aと円盤60Cとの間に形成される1つのリング部分で遮蔽効果を発揮し、長手方向の一部分だけを第1の経路に切り替えることができる。この動作例では、例えば中小サイズP3に対応して加熱ベルト48やヒートローラ46の過熱を防止することができる。
【0158】
〔遮蔽なし(180°)〕
図26は、図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材60を180°回転させたときの動作例を示す斜視図である。この場合、図24と同様に直線部60aがコイル52の中心線上に位置するので(図20中(A)の状態)、第1の経路に切り替えられた状態(遮蔽部材60が退避位置)となり、磁気の遮蔽効果が発生しない。
【0159】
〔中サイズ遮蔽(240°)〕
図27は、図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材60を240°回転させたときの動作例を示す斜視図である。この場合、円盤60Aと円盤60Bとの間に形成される1つのリング部分で遮蔽効果を発揮し、長手方向の一部分だけを第1の経路に切り替えることができる。この動作例では、例えば中サイズP2に対応して加熱ベルト48やヒートローラ46の過熱を防止することができる。
【0160】
〔遮蔽なし(300°)〕
図28は、図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材60を300°回転させたときの動作例を示す斜視図である。この場合、図24,図26と同様に直線部60aがコイル52の中心線上に位置するので(図20中(A)の状態)、第1の経路に切り替えられた状態(遮蔽部材60が退避位置)となり、磁気の遮蔽効果が発生しない。なお、遮蔽なし(60°),(180°),(300°)の場合、最大サイズP1に対応して加熱ベルト48やヒートローラ46を誘導加熱することができる。
【0161】
本発明は上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施可能である。例えば、センタコア58の断面形状は円筒に限らず、円柱や多角形状であってもよい。また、遮蔽部材60の平面視での形状は三角形状に限らず、台形状であってもよい。
【0162】
また、各実施形態で挙げた磁気調整部材90のリングの形状や大きさ、分割する個数等はいずれも例に過ぎず、特に一実施形態に制約されるものではない。
【0163】
その他、アーチコア54やサイドコア56を含めた各部の具体的な形態は図示のものに限らず、適宜に変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】第1実施形態の定着装置を搭載したプリンタの構成を示す概略図である。
【図2】第1実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図3】センタコア、遮蔽部材、誘導加熱コイル及び磁気調整部材の配置関係を示した分解斜視図である。
【図4】磁気調整部材の構造例を示す斜視図である。
【図5】磁気調整部材の機能を説明するためのモデル図である。
【図6】磁気調整部材の配置を第1例として示した図である。
【図7】磁気調整部材の配置に関する第2例を示した図である。
【図8】センタコアの駆動機構の構成を示す側面図である。
【図9】センタコアの回転に伴う定着装置の動作例を示す図である。
【図10】定着装置による総発熱量と遮蔽効果との関係を示す図である。
【図11】第2実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図12】第3実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図13】第4実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図14】第5実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図15】第6実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図16】第7実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図17】第8実施形態の定着装置の構成例を示す部分的な縦断面図である。
【図18】第9実施形態の定着装置の構成例を示す縦断面図である。
【図19】リング状の遮蔽部材の構造例を示す斜視図である。
【図20】リング状の遮蔽部材による磁気経路切り替えの原理を説明するための概念図である。
【図21】リング状の遮蔽部材の構造例2を示す斜視図である
【図22】構造例2の遮蔽部材をセンタコアに取り付けた状態を示す図である。
【図23】遮蔽部材により全面遮蔽(全面で磁束Φ1=0)を行った場合の動作例を示す斜視図である。
【図24】図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材を60°回転させたときの動作例を示す斜視図である。
【図25】図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材を120°回転させたときの動作例を示す斜視図である。
【図26】図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材を180°回転させたときの動作例を示す斜視図である。
【図27】図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材を240°回転させたときの動作例を示す斜視図である。
【図28】図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材を300°回転させたときの動作例を示す斜視図である
【符号の説明】
【0165】
1 プリンタ(画像形成装置)
14 定着装置
50 IHコイルユニット
52 誘導加熱コイル
54 アーチコア
56 サイドコア
58 センタコア
60 遮蔽部材
62 サーミスタ
64 駆動機構
66 ステッピングモータ
68 減速機構
90 磁気調整部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー画像を担持した用紙を加熱したローラ対や加熱ベルトとローラとのニップ間に通しながら、未定着トナーを加熱溶融させて用紙に定着させる定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンタ等の画像形成装置においては近年、トナー画像を用紙に定着させる定着装置でのウォームアップ時間の短縮や省エネルギー等の要望から、熱容量を少なく設定できるベルト方式が注目されている(例えば、特許文献1参照。)。また近年、急速加熱や高効率加熱の可能性をもった電磁誘導加熱方式(IH)が注目されており、カラー画像を定着させる際の省エネルギー化の観点から、電磁誘導加熱をベルト方式と組み合わせたものが多数製品化されている。ベルト方式と電磁誘導加熱とを組み合わせる場合、コイルのレイアウト及び冷却の容易さ、さらにはベルトを直接加熱できるメリット等から、ベルトの外側に電磁誘導器具を配置するケースが多く採用されている(いわゆる外包IH)。
【0003】
上記の電磁誘導加熱方式においては、定着装置に通紙される用紙サイズの幅(通紙幅)に合わせて、非通紙域での過昇温を防止するために各種の技術が開発されており、特に外包IHにおけるサイズ切り替え手段として以下の先行技術がある(例えば、特許文献2,3参照)。
【0004】
第1の先行技術(特許文献2)は、磁性部材を複数に分割して通紙幅方向に並べておき、通紙する用紙サイズ(通紙幅)に合わせて、磁性部材の一部を励磁コイルに対して離接させるものである。この場合、非通紙域では磁性部材を励磁コイルから離隔させることで発熱効率が下がり、最小通紙幅の用紙に対応する領域よりも発熱量が小さくなると考えられる。
【0005】
また第2の先行技術(特許文献3)は、発熱ローラの内部で最小通紙幅の外側に別の導電性部材を配置し、この導電性部材の位置を磁界の範囲内又は範囲外に切り替えるものである。この先行技術では、先ず導電性部材を磁界の範囲外に位置させて発熱ローラを電磁誘導加熱しておき、発熱ローラが昇温によってキュリー温度近傍まで上昇すると、導電性部材を磁界の範囲内に移動させることで、最小通紙幅の外側で発熱ローラから磁束を漏れさせて過昇温を防止する。
【特許文献1】特開平6−318001号公報
【特許文献2】特開2003−107941号公報(図2、図3)
【特許文献3】特許第3527442号公報(図10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した先行技術のサイズ切り替え手段において、より生産性を向上させるためには、現状以上に過昇温の抑制効果が必要となる。例えば、第2の先行技術(特許文献3)において過昇温の抑制効果を現状以上に高めるのには、磁気を遮蔽する導電性部材の面積を現状より大きくすればよいと考えられる。
【0007】
しかしながら、導電性部材の面積をあまり大きくすると、これを磁界の範囲から完全に退避させることが難しくなり、たとえ大部分を磁界の範囲外へ退避させることができたとしても、残りの一部が磁界に影響を及ぼすおそれがある。したがって、たとえ過昇温の抑制効果を高めるためとはいえ、導電性部材の面積の拡大には限界がある。
【0008】
そこで本発明は、磁気を遮蔽する部材の面積を過度に大きくすることなく通紙領域外での過昇温の抑制効果を向上することができ、また、特に磁気を遮蔽する必要がない場合(昇温したい場合)は磁界への影響を及ぼしにくい技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、画像形成部でトナー画像が転写された用紙を加熱部材と加圧部材との間に挟み込んで搬送し、この搬送過程で、少なくとも加熱部材からの熱によりトナー画像を用紙に定着させる定着装置である。そして本発明の定着装置は、加熱部材の外面に沿って配置され、加熱部材を誘導加熱するための磁界を発生させるコイルと、少なくともコイルを挟んで加熱部材の反対側に配置され、コイルの周囲で磁路を形成することによりコイルが発生させた磁界を加熱部材へ向けて導く磁性体コアと、磁性体コアにより導かれて加熱部材に向かう磁界の経路を、加熱部材の誘導加熱が促進される第1の経路と、加熱部材の誘導加熱が抑制される第2の経路とのいずれかに切り替える経路切替手段と、第1の経路及び第2の経路の両方を含む磁界経路の切り替わり領域にわたって配置され、経路切替手段により第1の経路に切り替えられた場合は切り替わり領域内で磁性体コアから加熱部材に向かう磁束の通過を許容する一方、第2の経路に切り替えられた場合は磁束を通過させることなく遮蔽する磁気調整部材とを備えたものである。
【0010】
本発明の定着装置は、基本的に経路切替手段によって磁界の経路を第2の経路に切り替えることで加熱部材(電磁誘導による被加熱体)の過昇温を抑制している。このような経路切替手段は、あまりスペースをとることがないという点で構造上のメリットがあるが、経路を切り替えただけでは完全に磁束の流入を制止することができず、上記のように過昇温の抑制効果としては完全ではない。したがって、磁界の経路を第1の経路から第2の経路に切り替えただけでは不十分であり、そのままではより高い生産性を実現することができない。
【0011】
そこで本発明では、省スペースであるが磁気遮蔽効果の弱い経路切替手段に加えて、固定して配置された磁気調整部材を用いることとしている。すなわち磁気調整部材は、第1の経路に切り替えられた状態では切り替わり領域内の全域にわたり磁束の通過を許容し、加熱部材の昇温効果を最大に高める一方で、第2の経路に切り替えられた状態では、切り替わり領域内の全域にわたって磁束の通過をシャットアウトし、加熱部材の過昇温を防止する。
【0012】
これにより、第1の経路と第2の経路との切り替え時に、加熱部材の発熱コントラストを強めることができる。また磁気調整部材は、機械的に何らの動作を伴うことなく、固定位置にあるだけで磁束を通過させたり、逆に遮蔽したりする機能(磁気フィルタのような機能)を有するので、ある程度の面積を有してしても、昇温が必要な場合に磁界に影響を及ぼすことがない。また、磁気調整部材は固定して配置されているだけでよいので、特に可動部材を新たに設ける必要がなく、それだけ定着装置の省スペース化を図ることができる。
【0013】
上記の磁気調整部材は、以下の構成を有することが好ましい。すなわち磁気調整部材は、良導電性の線材料がリング状に形成された複数のリング状部を有しており、かつ、これら複数のリング状部が磁束の進行方向に対して交差する方向に隣接した状態で相互に連結されることにより、線材料の軸線方向でみた全体が一続きの無端形状に形成されている。さらに磁気調整部材は、経路切替手段により第1の経路に切り替えられた場合、複数のリング状部内をそれぞれ貫通する磁束により生じる誘導電流が互いに隣接するリング状部同士でみて逆向きになる構造を有している。この場合、経路切替手段は、第1の経路から第2の経路に切り替えた状態で、複数あるうちの一部のリング状部を貫通する磁束の量を減少させるものとする。
【0014】
例えば、磁気調整部材が少なくとも2つのリング状部を有する場合、これら2つのリング状部はいわゆる「8の字形」に連結された構造となる。すなわちこの場合、隣接する2つのリング状部に対して同じ方向に磁束が貫通した場合、一方のリング状部に発生する誘導電流の向きと他方のリング状部に発生する誘導電流の向きが逆となって、磁気調整部材の内部では全体として誘導電流が相殺された状態となる。この場合、磁気調整部材は磁界に対する影響力をほとんど発揮しなくなるので、磁束の通過を問題なく許容することができる。
【0015】
これに対し、第2の経路に切り替えられた場合はいずれか一方のリング状部を貫通する磁束の量が減少する(ほとんど0になる)ことで、他方のリング状部で誘導電流が発生し、これが貫通磁束に対して逆向きの磁束(反磁界)を発生させることになる。この場合、第2の経路を通過しようとする磁束が遮蔽されるため、結果的に磁気調整部材がその全体で磁束の遮蔽効果を発揮することができる。
【0016】
このため磁気調整部材は、切り替わり領域内で第1の経路上に1つのリング状部を配置するとともに、第2の経路上にその他の隣接するリング状部を配置していることが好ましい。
【0017】
上記の配置であれば、経路切替手段により第1の経路に切り替えられた状態で、第1の経路を通過する磁束により1つのリング状部に発生する第1の誘導電流と、第1の経路を逸れて第2の経路を通過しようとする磁束が他の隣接するリング状部を通過することで発生する第2の誘導電流とが互いに相殺する関係となる。これにより、磁気調整部材は第1の経路だけでなく、そこから逸れて第2の経路を通過しようとする磁束の通過をも許容するので、結果的に切り替わり領域内の全体で磁束の通過を許容することができる。
【0018】
一方、経路切替手段により第2の経路に切り替えられた場合、1つのリング状部には磁束がほとんど通過せず、他の隣接するリング状部にのみ磁束が通過して誘導電流を発生させる。このとき、他のリング状部で発生する磁束が第2の経路を通過しようとする磁束を相殺することにより、結果的に磁気調整部材は切り替わり領域内の全体で磁束を遮蔽することができる。
【0019】
あるいは本発明の定着装置において、磁性体コアは、コイルの巻線中心を挟んで両側にそれぞれ磁路を形成するべく対をなして配置された第1のコアと、これら対をなす第1のコアの間に配置され、コイルの巻線中心を通って加熱部材に至る磁路を形成する第2のコアとを有していてもよい。この場合、経路切替手段は、第1の経路に切り替えた場合、第2のコアから加熱部材までコイルの巻線中心に沿って磁束を通過させる一方、第2の経路に切り替えた場合はコイルの巻線中心から逸れた両側の位置でそれぞれ第1のコアから加熱部材へ磁束を通過させるものである。そして磁気調整部材は、切り替わり領域内でコイルの巻線中心を通る第1の経路上に1つのリング状部を配置するとともに、その両側の位置で第2の経路上に2つの隣接するリング状部をそれぞれ配置している態様であってもよい。
【0020】
上記の態様であれば、先ず磁気調整部材は、中央に1つのリング状部を有し、その両側に隣接する2つのリング状部を有した構造となる。このとき、中央のリング状部はコイルの巻線中心の延長線上に配置され、その両側にそれぞれ他のリング状部が配置された状態となる。
【0021】
そして、経路切替手段により第1の経路に切り替えられた状態では、第1の経路を通過する磁束により中央の1つのリング状部に発生する第1の誘導電流と、第1の経路を逸れてその両側に位置する第2の経路をそれぞれ通過しようとする磁束が他の隣接する2つのリング状部を通過することで発生する第2の誘導電流とが互いに相殺する関係となる。これにより、磁気調整部材は第1の経路だけでなく、そこから両側に逸れて第2の経路を通過しようとする磁束の通過をも許容するので、結果的に切り替わり領域内の全体で磁束の通過を許容することができる。
【0022】
一方、経路切替手段により第2の経路に切り替えられた場合、中央の1つのリング状部には磁束がほとんど通過せず、他の隣接する2つのリング状部にそれぞれ磁束が通過して誘導電流を発生させる。このとき、他の2つのリング状部で発生するそれぞれの磁束が第2の経路を通過しようとする磁束を相殺することにより、結果的に磁気調整部材は切り替わり領域内の全体で磁束を遮蔽することができる。また、中央に配置された1つのリング状部への磁束の通過を抑制するだけで、その両側に配置された2つのリング状部で磁束の遮蔽効果を発揮させることができるので、簡素な構造で効率的に遮蔽効果を得ることができる。
【0023】
また本発明の定着装置において、加熱部材は、搬送される用紙の幅方向でみて、その最大通紙領域にわたってコイルにより誘導加熱されるものであってもよい。この場合、磁気調整部材は、加熱部材の長手方向でみて、最大通紙領域に対応した最大幅の用紙よりも小さい幅を有する用紙の通紙領域の外側に配置されていることが好ましい。
【0024】
このような配置であれば、用紙のサイズに応じて非通紙領域となる加熱部材の端部を過昇温から良好に保護することができる。
【0025】
また磁気調整部材は、加熱部材の長手方向に対し、搬送される複数通りの用紙サイズに合わせて複数に分割して配置されていてもよい。
【0026】
この場合、用紙サイズが複数通りに異なる場合、各サイズに応じて磁束の遮蔽を行う磁気遮蔽部材を選択することで、加熱部材の長手方向に関して段階的に発熱を抑制できる範囲を設定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の定着装置は、過度に面積の大きな磁気遮蔽用の部材を用いることなく、加熱部材(被加熱体)の過昇温を抑制する効果を向上することができる。また、誘導加熱によって加熱部材の発熱を促進する際は、磁気調整部材がそのまま磁束を通過させるだけで磁界に対する影響をほとんど及ぼさないので、画像の定着に必要な発熱量を確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、第1実施形態の定着装置14を搭載したプリンタ1の構成を示す概略図である。プリンタ1は、例えば外部から入力された画像情報に基づいて印刷用紙等の印刷媒体の表面にトナー画像を転写して印刷を行う画像形成装置の一例である。ただし、定着装置14が搭載される画像形成装置は、プリンタ1の他に複写機やファクシミリ装置、それらの機能を併せ持つ複合機等であってもよい。
【0029】
図1に示されるプリンタ1は、例えばタンデム型のカラープリンタである。このプリンタ1は、内部で用紙にカラー画像を形成(プリント)する四角箱状の装置本体2を備え、この装置本体2の上面部には、カラー画像が印刷された用紙を排出するための用紙排出部(排出トレイ)3が設けられている。
【0030】
装置本体2内において、その下部には、用紙を収納する給紙カセット5が配設されている。また装置本体2内の中央部には、手差しの用紙を供給するスタックトレイ6が配設されている。そして装置本体2の上部には画像形成部7が設けられており、この画像形成部7は、装置外部から送信されてくる文字や絵柄などの画像データに基づいて用紙に画像を形成する。
【0031】
図1中でみて装置本体2の左部には、給紙カセット5から繰り出された用紙を画像形成部7に搬送する第1の搬送路9が配設されており、右部から左部にかけては、スタックトレイ6から繰り出された用紙を画像形成部7に搬送する第2の搬送路10が配設されている。また装置本体2内の左上部には、画像形成部7で画像が形成された用紙に対して定着処理を行う定着装置14と、定着処理の行われた用紙を用紙排出部3に搬送する第3の搬送路11とが設けられている。
【0032】
給紙カセット5は、装置本体2の外部(例えば図1中の手前側)に引き出すことにより用紙の補充を可能にする。この給紙カセット5は収納部16を備えており、この収納部16には、給紙方向のサイズが異なる少なくとも2種類の用紙を選択的に収納可能である。なお収納部16に収納されている用紙は、給紙ローラ17及び捌きローラ18により1枚ずつ第1の搬送路9側に繰り出される。
【0033】
スタックトレイ6は、装置本体2の外面にて開閉可能であり、その手差し部19には手差し用の用紙が1枚ずつ載置されるか、又は複数枚が積載される。なお、手差し部19に載置された用紙はピックアップローラ20及び捌きローラ21により1枚ずつ第2の搬送路10側に繰り出される。
【0034】
第1の搬送路9と第2の搬送路10とはレジストローラ22の手前で合流しおり、レジストローラ22に供給された用紙はここで一旦待機し、スキュー調整とタイミング調整を行った後、二次転写部23に向けて送出される。送出された用紙には、二次転写部23で中間転写ベルト40上のフルカラーのトナー画像が用紙に二次転写される。この後、定着装置14でトナー画像が定着された用紙は、必要に応じて第4の搬送路12で反転され、最初とは反対側の面にも二次転写部23でフルカラーのトナー画像が二次転写される。そして、反対面のトナー画像が定着装置14で定着された後、第3の搬送路11を通って排出ローラ24により用紙排出部3に排出される。
【0035】
画像形成部7は、ブラック(B)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)の各トナー画像を形成する4つの画像形成ユニット26〜29を備える他、これら画像形成ユニット26〜29で形成した各色別のトナー画像を合成して担持する中間転写部30を備えている。
【0036】
各画像形成ユニット26〜29は、感光体ドラム32と、感光体ドラム32の周面に対向して配設された帯電部33と、帯電部33の下流側であって感光体ドラム32の周面上の特定位置にレーザビームを照射するレーザ走査ユニット34と、レーザ走査ユニット34からのレーザビーム照射位置の下流側であって感光体ドラム32の周面に対向して配設された現像部35と、現像部35の下流側であって感光体ドラム32の周面に対向して配設されたクリーニング部36とを備えている。
【0037】
なお、各画像形成ユニット26〜29の感光体ドラム32は、図示しない駆動モータにより図中の反時計回り方向に回転する。また、各画像形成ユニット26〜29の現像部35には、各トナーボックス51にブラックトナー、イエロートナー、シアントナー及びマゼンタトナーがそれぞれ収納されている。
【0038】
中間転写部30は、画像形成ユニット26の近傍位置に配設された後ローラ(駆動ローラ)38と、画像形成ユニット29の近傍位置に配設された前ローラ(従動ローラ)39と、後ローラ38と前ローラ39とに跨って配設された中間転写ベルト40と、各画像形成ユニット26〜29の感光体ドラム32における現像部35の下流側の位置に中間転写ベルト40を介して圧接可能に配設された4つの転写ローラ41とを備えている。
【0039】
この中間転写部30では、各画像形成ユニット26〜29の転写ローラ41の位置で、中間転写ベルト40上に各色別のトナー画像がそれぞれ重ね合わせて転写されて、最後にはフルカラーのトナー画像となる。
【0040】
第1の搬送路9は、給紙カセット5から繰り出されてきた用紙を中間転写部30側に搬送するものであり、装置本体2内で所定の位置に配設された複数の搬送ローラ43と、中間転写部30の手前に配設され、画像形成部7における画像形成動作と給紙動作とのタイミングを取るためのレジストローラ22とを備えている。
【0041】
定着装置14は、画像形成部7でトナー画像が転写された用紙を加熱及び加圧することにより、未定着トナー画像を用紙に定着させる処理を行うものである。定着装置14は、例えば加熱式の加圧ローラ44と定着ローラ45からなるローラ対を備え、このうち加圧ローラ44が例えば金属製の芯材と弾性体の表層(例えばシリコンゴム)を有するものであり、定着ローラ45が金属製の芯材と弾性体の表層(例えば、シリコンスポンジ)及び離型層(例えば、PFA)を有するものである。また定着ローラ45に隣接してヒートローラ46が設けられており、このヒートローラ46と定着ローラ45には加熱ベルト48が掛け回されている。なお、定着装置14の詳細な構造についてはさらに後述する。
【0042】
用紙の搬送方向でみて、定着装置14の上流側及び下流側にはそれぞれ搬送路47が設けられており、中間転写部30を通って搬送されてきた用紙は上流側の搬送路47を通じて加圧ローラ44と定着ローラ45との間のニップに導入される。そして、加圧ローラ44及び定着ローラ45間を通過した用紙は下流側の搬送路47を通じて第3の搬送路11に案内される。
【0043】
第3の搬送路11は、定着装置14で定着処理の行われた用紙を用紙排出部3に搬送する。このため第3の搬送路11には、適宜位置に搬送ローラ49が配設されるとともに、その出口には上記の排出ローラ24が配設されている。
【0044】
〔第1実施形態〕
次に、第1実施形態の定着装置14の詳細について説明する。
【0045】
図2は、第1実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。なお図2では、プリンタ1に実装した状態から向きを約90°反時計回りに転回させて示している。したがって、図1中でみて下方から上方への用紙搬送方向は、図2でみると右方から左方となる。なお、装置本体2がより大型(複合機等)である場合、図2に示される向きで実装されることもある。
【0046】
定着装置14は、上記のように加圧ローラ44、定着ローラ45、ヒートローラ46及び加熱ベルト48を備えている。上記のように定着ローラ45の表層には、シリコンスポンジの弾性層が形成されていることから、加熱ベルト48と定着ローラ45との間にはフラットニップが形成されている。
【0047】
加熱ベルト48は、その基材が強磁性材料(例えばNi)であり、その表層に薄膜の弾性層(例えばシリコンゴム)が形成されており、その外面には離型層(例えばPFA)が形成されている。なお、加熱ベルト48に発熱機能を持たせない場合はPI等の樹脂ベルトであってもよい。またヒートローラ46は芯金が磁性金属(例えばFe、SUS)であり、その表面には離型層(例えばPFA)が形成されている。
【0048】
また加圧ローラ44についてより具体的には、金属製の芯材に例えばFe、Al等を用いており、この芯材上にSiゴム層を形成し、さらにその表層にフッ素樹脂層を成形したものである。なお加圧ローラ44の内側には、例えばハロゲンヒータ44aが設けられている構成であってもよい。
【0049】
この他に定着装置14は、ヒートローラ46及び加熱ベルト48の外側にIHコイルユニット50を備えている(図1には示されていない)。IHコイルユニット50は、誘導加熱コイル52をはじめ一対のアーチコア54、同じく一対のサイドコア56及びセンタコア58から構成されている。
【0050】
〔コイル〕
図2の例では、ヒートローラ46及び加熱ベルト48の円弧状の部分で誘導加熱を行うため、誘導加熱コイル52は円弧状の外面に沿う仮想的な円弧面上に配置されている。実際には、ヒートローラ46及び加熱ベルト48の外側に例えば樹脂製のボビン(図示していない)が配置されており、このボビン上に誘導加熱コイル52が巻線状に配置される構成である。なお図示しないボビンは、ヒートローラ46の外面に沿って半円筒形状に成形されている。またボビンの材質は、耐熱性樹脂(例えばPPS、PET、LCP)であることが好ましい。
【0051】
〔磁性体コア〕
図2でみてセンタコア58は中央に位置し、その両側で対をなすように上記のアーチコア54(第1のコア)及びサイドコア56(第1のコア)が配置されている。このうち両側のアーチコア54は、互いに対称をなす断面アーチ形に成形されたフェライト製コア(磁性体コア)であり、それぞれ全長は誘導加熱コイル52の巻線領域よりも長い。また両側のサイドコア56は、ブロック形状に成形されたフェライト製のコア(磁性体コア)である。両側のサイドコア56は各アーチコア54の一端(図2では下端)に連結して設けられており、これらサイドコア56は誘導加熱コイル52の巻線領域の外側を覆っている。
【0052】
このうちアーチコア54は、例えばヒートローラ46の長手方向に間隔をおいて複数箇所に配置されている。またサイドコア56は、ヒートローラ46の長手方向に間隔をあけずに連続して配置されており、その全長は誘導加熱コイル52の巻線領域の長さに対応している。これらコア54,56の配置は、例えば誘導加熱コイル52の磁束密度(磁界強度)分布に合わせて決定されており、アーチコア54がある程度の間隔をおいて配置されている分、その抜けた箇所でサイドコア56が磁界の集束効果を補い、長手方向での磁束密度分布(温度差)を均している。
【0053】
アーチコア54及びサイドコア56の外側には、例えば図示しない樹脂製のコアホルダが設けられており、このコアホルダによりアーチコア54及びサイドコア56が支持される構造である。コアホルダの材質もまた、耐熱性樹脂(例えばPPS、PET、LCP)であることが好ましい。
【0054】
また図2の例では、ヒートローラ46の内側にサーミスタ62が設置されている。サーミスタ62は、ヒートローラ46の特に誘導加熱による発熱量の大きい箇所の内側に配置することができる。この他に、ヒートローラ46の内側に図示しないサーモスタットを配置し、異常温度上昇時の安全性を向上することもできる。
【0055】
〔センタコア〕
センタコア58(第2のコア)は、例えば断面円筒形状をなすフェライト製コア(磁性体コア)である。センタコア58はヒートローラ46と略同様に、用紙の最大通紙幅に対応するだけの長さを有している。図2には示されていないが、センタコア58は図示しない駆動機構に連結されており、この駆動機構により長手方向の軸線回りに回転可能となっている。なお、駆動機構についてはさらに後述する。
【0056】
〔遮蔽部材〕
またセンタコア58には、その外面に沿って遮蔽部材60が取り付けられている。遮蔽部材60は薄板状をなし、全体的に円弧状に湾曲して形成されている。なお遮蔽部材60は例えば図示のようにセンタコア58の肉厚部分に埋め込んだ状態に設置されていてもよいし、センタコア58の外面に貼り付けた状態で設置されていていてもよい。遮蔽部材60の貼り付けは、例えばシリコン系接着剤を用いて行うことができる。いずれにしても遮蔽部材60はセンタコア58とともに回転することで、誘導加熱コイル52の発生させた磁界の経路(磁気経路)を切り替える経路切替手段を構成する。なお、センタコア58の回転に伴う磁気経路の切り替えについては後述する。
【0057】
遮蔽部材60の構成としては、非磁性かつ良導電部材が好ましく、例えば無酸素銅などが用いられる。遮蔽部材60はその面に垂直な磁界が貫通することによる誘導電流(渦電流)で逆磁界を発生させ、錯交磁束(垂直な貫通磁界)をキャンセルすることで遮蔽する。また、良導電性部材を用いることで誘導電流によるジュール発熱を抑制し、効率よく磁界を遮蔽することができる。導電性を向上するには、例えば(1)なるべく固有抵抗の小さい材料を選定すること、(2)部材の厚みを厚くすること、等の方法が有効である。具体的には、遮蔽部材60の板厚は0.5mm以上が好ましく、第1実施形態では例えば1mmのものを用いている。
【0058】
〔磁気調整部材〕
その他にIHコイルユニット50には、センタコア58と加熱ベルト48(ヒートローラ46)との間を中心として、その両側で誘導加熱コイル52と加熱ベルト48(ヒートローラ46)との間にまで拡がった領域内に磁気調整部材90が固定して配置されている。なお、センタコア58(遮蔽部材60)と磁気調整部材90との間には、センタコア58の回転を阻害しない程度の適度なクリアランスが確保されている。
【0059】
図3は、センタコア58、遮蔽部材60、誘導加熱コイル52及び磁気調整部材90の配置関係を示した分解斜視図である。上記のようにセンタコア58は、ヒートローラ46とともに最大通紙幅よりも長い全長を有しており、これに合わせて誘導加熱コイル52の巻線領域もまた、センタコア58の長手方向でみて、その全長をカバーできる範囲に拡がっている。
【0060】
一方、遮蔽部材60は、センタコア58の長手方向でみて、その両端部にそれぞれ配置されており、また磁気調整部材90は、センタコア58(又はヒートローラ46)の長手方向でみて、その両端部にそれぞれ配置されている(図3には一端部のみを示す)。なお遮蔽部材60及び磁気調整部材90はいずれも、例えばプリンタ1で使用する用紙サイズの最小通紙幅よりも外側に配置されている。
【0061】
〔磁気調整部材の構造例〕
図4は、磁気調整部材90の構造例を示す斜視図である。磁気調整部材90は、主に3つのリング状部90A,90B,90Cを有しており、これらリング状部90A,90B,90Cは、いずれも角リング形状をなしている。さらに3つのリング状部90A,90B,90Cは、それぞれが独立したリングではなく、これらが相互に連結されることで、磁気調整部材90の全体が一続きとなった無端状の構造を有している。以下、磁気調整部材90の構造について説明する。
【0062】
磁気調整部材90は、その長手方向でみて一端の位置に3つの短辺部90a,90e,90iを有するとともに、その他端の位置にも3つの短辺部90g,90c,90kを有している。また磁気調整部材90は、その幅方向(長手方向と直交する方向)でみて一側端の位置に1つの長辺部90dを有するとともに、他側端の位置にも1つの長辺部90jを有する。
【0063】
さらに磁気調整部材90は、その幅方向の中央寄り位置で中央のリング状部90Aとこれに隣接するリング状部90Bとの間に2つの長辺部90b,90fを有するとともに、中央のリング状部90Aとこれに隣接する別のリング状部90Cとの間にも2つの長辺部90l,90hを有している。
【0064】
〔中央のリング状部〕
中央のリング状部90Aには、長手方向で対になる2つの短辺部90a,90gが含まれるが、これら短辺部90a,90g同士はリング状部90A内で相互に接続されていない。すなわち、中央のリング状部90Aのうち、一方の短辺部90aの両端には、それぞれ長辺部90b,90lの一端が接続されて長手方向に延びているが、このうち一方の長辺部90bの他端には、隣接するリング状部90Bの短辺部90cが接続されており、また他方の長辺部90lの他端には、別の隣接するリング状部90Cの短辺部90kが接続されている。
【0065】
また中央のリング状部90Aのうち、他方の短辺部90cの両端には、それぞれ長辺部90f,90hの一端が接続されて長手方向に延びているが、このうち一方の長辺部90fの他端には、隣接するリング状部90Bの短辺部90eが接続されており、また他方の長辺部90hの他端には、別の隣接するリング状部90Cの短辺部90iが接続されている。したがって、リング状部90A内で対をなす短辺部90a,90gは、その中で同じく対をなす長辺部90b,90fや長辺部90l,90hを介して相互に接続されているものではない。
【0066】
〔両側のリング状部〕
また、中央のリング状部90Aに隣接してその両側に位置する2つのリング状部90B,90Cのうち、一方側のリング状部90Bについては、長手方向で対になる2つの短辺部90c,90e同士が外側寄りの長辺部90dを介して接続されているが、このうち一方の短辺部90eは中央寄りの1つの長辺部90fを介して中央のリング状部90Aの短辺部90gに接続されている。また、他方の短辺部90cは、中央寄りの別の長辺部90bを介して中央のリング状部90Aの短辺部90aに接続されている。
【0067】
同様に、他方側のリング状部90Cについては、長手方向で対になる2つの短辺部90i,90k同士が外側寄りの長辺部90jを介して接続されているが、このうち一方の短辺部90iは中央寄りの1つの長辺部90hを介して中央のリング状部90Aの短辺部90gに接続されている。また、他方の短辺部90kは、中央寄りの別の長辺部90lを介して中央のリング状部90Aの短辺部90aに接続されている。
【0068】
〔全体構造〕
以上の接続関係から、磁気調整部材90全体は、例えば中央のリング状部90Aの短辺部90aを基点として、その一端から長辺部90b、短辺部90c、長辺部90d、短辺部90e、長辺部90f、短辺部90g、長辺部90h、短辺部90i、長辺部90j、短辺部90k、長辺部90lが順に一続きで接続されることで、全体として無端状をなす構造を有している。なお、短辺部90a,90c,90e,90g,90i,90k及び長辺部90b,90d,90f,90j,90lは、いずれも非磁性金属の線材料(細幅の板材料でもよい)で構成されており、その外面に絶縁被覆が施されていることが好ましい。
【0069】
また中央のリング状部90Aに含まれる2つの短辺部90a,90gについては、センタコア58の外面形状に沿って円弧形状に湾曲して形成されており、また両側のリング状部90B,90Cに含まれる短辺部90c,90e,90i,90kについては、誘導加熱コイル52の内周面形状に沿って円弧形状に湾曲して形成されている。これにより、磁気調整部材90を取り付けた状態で、センタコア58や誘導加熱コイル52との干渉を良好に避けることができる。
【0070】
〔磁気調整部材の機能〕
図5は、磁気調整部材90の機能を説明するためのモデル図である。なお図5では、磁気調整部材90が単にワイヤモデルとして簡略化して示されているが、各リング状部90A,90B,90Cの接続関係は図4と同じである。また図5では便宜上、各短辺部90a,90g,90c,90e,90i,90kを直線状のものとして示している。
【0071】
〔磁束の通過時〕
図5中(A):磁気調整部材90をワイヤモデルとして考えると、その構造は1つの大きなリング(環状体)を2箇所で互い違いの方向にねじり、上記のように3つのリング状部90A,90B,90Cを形成したものとして考えることができる。
【0072】
このような磁気調整部材90において、中央のリング状部90Aの内部に磁束Φ1が進入すると、このリング状部90Aにはそれを打ち消そうとする電流i1(磁束Φ1と逆向きのキャンセル磁束を発生させる誘導電流)が生じる。同様に、その両側(左右)に隣接する2つのリング状部90B,90Cの内部にそれぞれ磁束Φ2,Φ2’が入ると、それぞれのリング状部90B,90Cにも電流i2,i2’(磁束Φ2,Φ2’と逆向きのキャンセル磁束を発生させる誘導電流)が生じる。
【0073】
このとき、両側のリング状部90B,90Cでそれぞれ生じる電流i2,i2’の方向は同じであるが、中央のリング状部90Aに生じる電流i1は逆方向であることから、以下の条件式(1)を満たす場合に磁気調整部材90の内部を流れる電流(総和)はゼロとなる。
|i1|=|i2|+|i2’|・・・(1)
なお、|i1|,|i2|,|i2’|はそれぞれ電流(起磁力)の絶対値を示す。
【0074】
したがって、上記の条件式(1)を満たす場合、全ての磁束Φ1,Φ2,Φ3'は特に打ち消されることなく、各リング状部90A,90B,90C内をそのまま通り抜けることができる。
【0075】
〔磁束の遮蔽時〕
図5中(B):次に上記の状態から、中央のリング状部90Aに入る磁束Φ1だけを取り除いた場合(Φ1=0)を考える。この場合、中央のリング状部90Aで電流は発生しなくなり(i1=0)、磁気調整部材90の内部を流れる電流は条件式(1)の右辺(|i2|+|i2’|)だけとなる。
【0076】
したがって、中央のリング状部90Aの磁束Φ1を取り除いた場合、両側のリング状部90B,90Cでは電流i2,i2’によって磁束Φ2,Φ2’が打ち消されることから、結果的に磁束Φ2,Φ2’がそれぞれリング状部90B,90Cによって遮られることになる。
【0077】
〔まとめ〕
以上より、磁気調整部材90について以下の結論が明らかとなっている。
(1)Φ1=Φ2+Φ2’の関係式が満たされる場合、磁気調整部材90の内部に生じる電流が0となり、磁気調整部材90は全ての磁束Φ1,Φ2,Φ2’の通過を許容する。この場合、磁気調整部材90は磁界に対して何ら影響を及ぼさない存在となる。
【0078】
(2)上記(1)の状態からΦ1=0とした場合、磁気調整部材90内部にはi2+i2’の電流が流れるため、磁気調整部材90は磁束Φ2,Φ2’を通過させることなく遮蔽する。この場合、磁気調整部材90はリング状部90B,90Cの範囲内で磁気遮蔽効果を発揮するものとなる。
【0079】
以上を踏まえ、第1実施形態の定着装置14では、磁気調整部材90の中央のリング状部90Aに入る磁束Φ1(Wb)と、その両側に隣接する2つのリング状部90B,90Cに入る磁束Φ2,Φ2’(Wb)について、以下の関係式(2)が満たされる構造及び配置を採用している。
Φ1=Φ2+Φ2’・・・(2)
【0080】
次に図6は、上記の磁気調整部材90の配置を第1例として示した図である。
【0081】
図6中(A):用紙サイズが最大である場合、定着装置14はセンタコア58の回転に伴い、遮蔽部材60を磁路の外側へ退避させる(退避位置)。このように遮蔽部材60を退避させることで、上記の条件式(2)を満たす磁束Φ1,Φ2,Φ2’を磁気調整部材90に通過させることができる。この場合、用紙の最大通紙幅W3の全域で上記のヒートローラ46が誘導加熱される。
【0082】
図6中(B):用紙サイズが最大通紙幅W3より小さい場合、定着装置14はセンタコア58の回転に伴い、遮蔽部材60を磁路内に進入させる(遮蔽位置)。このように遮蔽部材60を遮蔽位置に置くことで、センタコア58からヒートローラ46に向かう磁束を遮り、上記のように磁束Φ1=0の状態にすることができる。この場合、磁気調整部材90はその全体で磁束を遮蔽するので、ヒートローラ46の両端部における過昇温が防止される。
【0083】
なお図6中(A),(B)は、それぞれセンタコア58及び磁気調整部材90の側面図及びその底面図を表したものである。なお図中、センタコア58の外面には網点を施している。
【0084】
なお、センタコア58は用紙の最大通紙幅W3と略同等か、それよりも長い全長を有している。このとき、遮蔽部材60はセンタコア58の長手方向で2つに分割されており、これらが互いに対称の形状となっている。各遮蔽部材60は、例えば平面視又は底面視で三角形状をなしており、三角形の頂点に相当する部分がセンタコア58の中央寄りに位置付けられている。つまり、センタコア58の中央寄りの位置では、その周方向でみた遮蔽部材60の長さが最も短く、そこから遮蔽部材60は、センタコア58の両側端に向かって次第に周方向の長さが拡張されている。
【0085】
また遮蔽部材60は、通紙方向と直交する最小通紙幅W1の両外側に設けられており、最小通紙幅W1の範囲内には僅かしか遮蔽部材60が設けられていない。そして遮蔽部材60は、センタコア58の両端において、用紙の最大通紙幅W2よりも僅かに外側にまで達している。なお最小通紙幅W1や最大通紙幅W2は、プリンタ1で印刷できる最小サイズ又は最大サイズの用紙によって決定される。
【0086】
また第1実施形態では、センタコア58の回転方向でみて、その外周長に占める遮蔽部材60の長さの割合はセンタコア58の軸線方向(長手方向)に異なっている。このとき、センタコア58の外周長(L)に占める遮蔽部材60の長さ(Lc)の割合を被覆率(=Lc/L)とすると、被覆率はセンタコア58の内側では小さく、そこから軸線方向の外側(両端)に向かうほど大きくなっている。具体的には、被覆率は最小通紙領域(最小通紙幅W1の範囲)の近傍で最小となり、逆にセンタコア58の両端では最大となっている。
【0087】
上記のように用紙サイズ(通紙幅)への対応は、遮蔽部材60を退避位置と遮蔽位置に移動させ、それぞれの位置で磁気経路を切り替えることで発生磁束を部分的に抑制する(Φ1=0にする)ことで実現される。このとき、用紙サイズ(通紙幅)に応じてセンタコア58の回転角(回転変位量)を異ならせ、大きい用紙サイズになるほど磁気の遮蔽量を小さくし、逆に小さい用紙サイズになるほど遮蔽量を大きくすることで、ヒートローラ46や加熱ベルト48の両端部分が過昇温するのを防止することができる。なお、図6には反時計回り方向への回転だけを矢印で示しているが、センタコア58は時計回りの方向にも回転するものであってもよい。また、通紙方向は図6に示される方向と反対であってもよい。
【0088】
〔配置の第2例〕
図7は、磁気調整部材90の配置に関する第2例を示した図である。図7に示す例では、磁気調整部材90が長手方向(用紙の幅方向)に分割されている。このような構造であれば、各通紙幅W1,W2,W3に応じて磁束の遮蔽を行う磁気調整部材90の数と位置が異なる。
【0089】
例えば、最小通紙幅W1の場合、遮蔽部材60が両側それぞれ3つの磁気調整部材90について中央のリング状部90Aに入る磁束を遮蔽することで(Φ1=0)、両側で6つ全ての磁気調整部材90により磁束の遮蔽効果を発揮させる。
【0090】
中間通紙幅W2の場合、遮蔽部材60が両端からそれぞれ2つの磁気調整部材90について中央のリング状部90Aに入る磁束を遮蔽することで(Φ1=0)、両側で4つの磁気調整部材90により磁束の遮蔽効果を発揮させる。
【0091】
なお最大通紙幅W3の場合、遮蔽部材60は退避位置に移動して条件式(2)を満たす磁束磁束Φ1,Φ2,Φ2’を発生させる。
【0092】
〔駆動機構〕
次にセンタコア58を軸線回りに回転させる機構、つまり遮蔽部材60を遮蔽位置と退避位置とに移動させて磁気経路を切り替える機構について説明する。
【0093】
図8は、センタコア58の駆動機構64の構成を示す側面図である。この駆動機構64は、例えばステッピングモータ66の回転を減速機構68によって減速し、駆動軸70を駆動してセンタコア58を回転させるものである。減速機構68には、例えばウォームギアが用いられているが、その他のものであってもよい。また、センタコア58の回転角(基準位置からの回転変位量)を検出するため、駆動軸70の端部にスリット付ディスク72が設けられており、これにフォトインタラプタ74が組み合わされている。なお図8中、磁気調整部材90は誘導加熱コイル52の内側に隠れているため、図示されていない。
【0094】
上記の駆動軸70はセンタコア58の一端部に連結されており、センタコア58の内部を貫通することなくセンタコア58を支持している。センタコア58の回転角は、例えばステッピングモータ66に印加する駆動パルス数によって制御することができ、駆動機構64にはそのための制御回路(図示していない)が付属する。
【0095】
制御回路は、例えば制御用ICと入出力ドライバ、半導体メモリ等によって構成することができる。フォトインタラプタ74からの検出信号は入力ドライバを通じて制御用ICに入力され、これに基づいて制御用ICが現在のセンタコア58の回転角(位置)を検出する。
【0096】
一方、制御用ICには、図示しない画像形成制御部から現在の用紙サイズに関する情報が通知される。これを受けて制御用ICは、半導体メモリ(ROM)から用紙サイズに適した回転角の情報を読み出し、その目標とする回転角に到達する分の駆動パルスを一定周期で出力する。駆動パルスは出力ドライバを通じてステッピングモータ66に印加され、これを受けてステッピングモータ66が作動する。なお、ステッピングモータ66の制御に際して基準位置だけを検出する必要があれば、スリット付ディスク72をインデックス部材とし、上記の基準位置でインデックス部材がフォトインタラプタ74に検出される構造としてもよい。
【0097】
〔動作例〕
図9は、センタコア58の回転に伴う定着装置14の動作例を示す図である。以下、それぞれについて説明する。
【0098】
〔第1の経路〕
図9中(A):センタコア58の回転に伴い、遮蔽部材60を退避位置に移動させた場合の定着装置14の動作例を示す。この場合、誘導加熱コイル52の発生させる磁界において、その主な磁路はサイドコア56、アーチコア54及びセンタコア58を含む第1の経路(図中の太い実線)を通って加熱ベルト48及びヒートローラ46を通過するものとして形成される。このとき強磁性体である加熱ベルト48及びヒートローラ46に渦電流が発生し、それぞれの材料の持つ固有抵抗によりジュール熱が発生して加熱が行われる。なお、このとき磁気調整部材90の中央のリング状部90A内では、上記の磁束Φ1が通過する。
【0099】
また、サイドコア56、アーチコア54及びセンタコア58を通じて加熱ベルト48及びヒートローラ46を通過する磁路の内側では、例えばアーチコア54から漏れようとするショートカット磁束(図中の太い一点鎖線)が発生し、これら磁気調整部材90の両側のリング状部90B,90Cを通過する。このとき各リング状部90B,90C内には、上記の磁束Φ2,Φ2’が通過するものとする。したがって、主な第1の経路を通る磁束Φ1だけでなく、その他の漏れ磁束Φ2,Φ2も発熱に寄与させることができ、それだけ全幅加熱時の発熱効率を向上することができる。
【0100】
〔第2の経路〕
図9中(B):次に、遮蔽部材60を遮蔽位置に移動させた場合の定着装置14の動作例を示す。この場合、最小通紙領域の外側では磁気経路上に遮蔽部材60が位置するため、そこでの磁気経路はアーチコア54の端面から出てセンタコア58を通らずに加熱ベルト48及びヒートローラ46に至る第2の経路(図中の太い破線)に切り替えられる。これにより、最小通紙領域の外側で発熱量が抑えられ、加熱ベルト48やヒートローラ46の過昇温を防止することができる。
【0101】
〔磁気調整部材の機能〕
第2の経路に切り替えられた状態では、図示のように磁気調整部材90の中央のリング状部90A内を通過する磁束がゼロの状態(磁束Φ1=0)となっている。このとき、第2の経路にはアーチコア54から漏れようとする弱い磁束(アーチコア54の内側を小さく周回する破線)も発生しているが、磁気調整部材90は、上記のように第2の経路を通る全ての磁束Φ2,Φ2’に対して遮蔽効果を発揮することができる。このため第1実施形態の定着装置14は、遮蔽部材60の面積を過度に拡大しなくても、非通紙領域で充分な磁気の遮蔽効果を得ることができ、それによって加熱ベルト48やヒートローラ46の過昇温を現状よりも抑制することができる。
【0102】
〔総発熱量と遮蔽効果との関係〕
図10は、定着装置14による総発熱量と遮蔽効果との関係を示す図である。図10中、左側の縦軸は加熱ベルト48及びヒートローラ46全体の発熱量の合計である総発熱量(W)を示しており、これには図中に菱形(◆)で示した点が対応する。この総発熱量が大きいほど、IHコイルユニット50による発熱効率が高いことを意味している。
【0103】
また、図10中の右側の縦軸は非通紙領域に対する磁気の遮蔽効果(%)を示すものであり、これには図中に四角形(網点付の□)で示した点が対応している。遮蔽効果は、第1の経路(遮蔽部材60を退避位置に置いた状態)から第2の経路(遮蔽部材60を遮蔽位置に置いた状態)に移行した際に、「通紙幅方向の中央部の発熱量に対する端部の発熱量の割合」がどれだけ変化したかを表す数値である。したがって、遮蔽効果のパーセンテージが小さいほど、端部領域での発熱がより大きく抑制されたことを意味している。
【0104】
また図10中の横軸は、センタコア58に遮蔽部材60だけを用いて磁気調整部材90を未装着とした状態を「ノーマル」として左側に示している。また、上記の磁気調整部材90を追加した状態を中間に示し、理想的な条件で設計された磁気調整部材を用いた状態を右側に示している。
【0105】
〔ノーマル時〕
磁気調整部材90を未装着とした場合、総発熱量(◆点)は高い水準にあるが、遮蔽効果(□点)はパーセンテージが高い水準にあり、あまり端部領域の発熱を抑制できていないことがわかる。
【0106】
〔磁気調整部材追加時〕
これに対し、磁気調整部材90を装着した場合、総発熱量(◆点)は依然として高い水準にありながら、遮蔽効果(□点)はパーセンテージが低い水準にまで低下している。したがって、第1実施形態の磁気調整部材90を用いれば、IHコイルユニット50の端部領域での発熱を大幅に抑制できることが理解される。
【0107】
〔理想条件時〕
また、理想的な条件で設計された磁気調整部材を用いたシミュレート結果によれば、総発熱量(◆点)を依然として高い水準に維持しつつ、遮蔽効果(□点)のパーセンテージをかなり低い水準にまで低下させることができた。したがって、第1実施形態の磁気調整部材90の形状や大きさ、配置等を理想的な条件に設定することで、IHコイルユニット50による総発熱量を犠牲にすることなく、非加熱領域での過昇温を充分に抑制できることが明らかとなっている。
【0108】
上述した第1実施形態の定着装置14を基本として、さらに以下の第2〜第9実施形態の定着装置14を挙げることができる。以下、各実施形態について説明する。いずれも第1実施形態と共通する構成については図示も含めて共通の符号を付し、その重複した説明を省略するものとする。なお、符号が共通であっても、特に材料等が異なる場合はその旨の説明を追加する。
【0109】
〔第2実施形態〕
図11は、第2実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第2実施形態では、磁気調整部材90の配置や形態が第1実施形態と異なっている。
【0110】
具体的には、磁気調整部材90はセンタコア58と加熱ベルト48との間に中央のリング状部90Aを配置させているが、その両側のリング状部90B,90Cについては誘導加熱コイル52の外側、つまりアーチコア54と誘導加熱コイル52との間に配置させている。なお、長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0111】
第2実施形態においても、上記のように第1の経路に切り替えられた状態(遮蔽部材60を退避位置に置いた状態)で条件式(1)を満たしていれば、第1実施形態と同様に磁気調整部材90は磁束を良好に通過させることができる。また、第2の経路に切り替えた状態(遮蔽部材60を遮蔽位置に置いた状態)で中央のリング状部90Aを通る磁束Φ1を0にすることができれば、磁気調整部材90はその全体で磁束の遮蔽効果を発揮することができる。
【0112】
〔第3実施形態〕
図12は、第3実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第3実施形態では、上記の加熱ベルトを用いずに定着ローラ45と加圧ローラ44とでトナー画像を定着する。定着ローラ45の外周には、例えば上記の加熱ベルトと同様の磁性体が巻かれており、誘導加熱コイル52によって磁性体を誘導加熱する構成である。この場合、サーミスタ62は定着ローラ45の外側で、磁性体層に対向する位置に設けられる。
【0113】
このような第3実施形態の定着装置14においても、図示のように磁気調整部材90を適用することができる。同様に、長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0114】
〔第4実施形態〕
図13は、第4実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第4実施形態では、ヒートローラ46が非磁性金属(例えばSUS:ステンレス鋼)の材料で構成されており、センタコア58がヒートローラ46の内部に配置されている点が第1実施形態と異なっている。また、合わせてアーチコア54が中央で連結されており、その下部に中間コア55が設置されている。
【0115】
またヒートローラ46を非磁性金属とした場合、誘導加熱コイル52により発生した磁界はサイドコア56、アーチコア54及び中間コア55を通り、ヒートローラ46を貫通して内部のセンタコア58に至る。加熱ベルト48は貫通磁界により誘導加熱される。
【0116】
そして第4実施形態の場合、図13に示されているように遮蔽部材60を中間コア55から離隔させると第1の経路に切り替えた状態(退避位置)となり、この場合は遮蔽部材60による磁気の遮蔽効果が働かずに最大通紙領域で加熱ベルト48が誘導加熱される。一方、遮蔽部材60を中間コア55に対向する位置(遮蔽位置)に移動させると磁気経路が第2の経路に切り替えられ、通紙領域の外側で過昇温が抑制される。
【0117】
このような第3例の定着装置14においても、磁気調整部材90を例えば中間コア55と加熱ベルト48との間、そして誘導加熱コイル52と加熱ベルト48との間に配置することで、第1実施形態と同様の機能を発揮させることができる。同様に、長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0118】
〔第5実施形態〕
図14は、第5実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第5実施形態は、IHコイルユニット50をいわゆる内包IHタイプとしたものである。具体的には、ヒートローラ46が比較的大径(例えば40mm)の非磁性金属(例えばSUS)で構成されており、その内部に誘導加熱コイル52及びセンタコア58が収容されている。そして、ヒートローラ46の外側には第1〜第4実施形態のようなアーチコア54及びサイドコア56が設けられていない。なおヒートローラ46の表面には、離型層(PFA)が形成されている。また加圧ローラ44については第1〜第3例と同様である。
【0119】
第5実施形態のような内包IHでは、誘導加熱コイル52により発生した磁界はヒートローラ46の内部でセンタコア58によって導かれ、ヒートローラ46を誘導加熱する。そして第5実施形態の場合、図14に示されているように遮蔽部材60を誘導加熱コイル52から離隔させると第1の経路に切り替えた状態(退避位置)となり、この場合は磁気の遮蔽効果が働かずに最大通紙領域で加熱ベルト48が誘導加熱される。一方、遮蔽部材60を誘導加熱コイル52に近接する位置(遮蔽位置)に移動させると磁気経路が第2の経路に切り替えられ、通紙領域の外側で過昇温が抑制される。
【0120】
第5実施形態の定着装置14においても、例えば図示のようにヒートローラ46の内周面と誘導加熱コイル52との間に磁気調整部材90を固定して配置することができる。また同様に、長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0121】
〔第6実施形態〕
図15は、第6実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第6実施形態では、加熱ベルト48の円弧状の位置ではなく、ヒートローラ46と定着ローラ45との間の平面状の位置で誘導加熱する構成である。この場合も同様に、センタコア58を回転させて磁気経路を切り替えることができる。そして磁気調整部材90は、第1の経路に切り替えられると磁束を良好に通過させ、第2の経路に切り替えられると磁束の遮蔽効果を発揮することができる。
【0122】
また、磁気調整部材90は中央のリング状部90Aだけが湾曲した形状であり、両側のリング状部90B,90Cは湾曲していない平面状である。このような磁気調整部材90は、例えば誘導加熱コイル52と加熱ベルト48との間に固定して設置されている。また同様に、長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0123】
〔第7実施形態〕
次に図16は、第7実施形態の定着装置14の構造例を示す縦断面図である。この第7実施形態は、センタコア58を用いずに遮蔽部材60だけを移動させて磁気経路の切り替えを行う構成である。このたアーチコア54は両側で相互に連結されており、遮蔽部材60はアーチコア54の内面に沿うようにして図中の矢印方向に移動する。なお、ここでも長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0124】
特に図示していないが、第7実施形態の定着装置14は第1実施形態と同様の駆動機構を備えており、この駆動機構によりヒートローラ46の回転中心と同じ中心点の周りに遮蔽部材60を移動させることができる。
【0125】
〔第1の経路〕
図16中の2点鎖線で示されているように、遮蔽部材60を誘導加熱コイル52の巻線中心Lからずれた位置で、アーチコア54と誘導加熱コイル52との間の退避位置に移動させると、第7実施形態では第1の経路に切り替えられた状態となる。この場合、磁束はアーチコア54の中央位置から巻線中心Lに沿って加熱ベルト48及びヒートローラ46に到達する。このとき磁気調整部材90は、第1実施形態と同様に磁束を良好に通過させる。
【0126】
また図16中に二点鎖線で示されるのように、第7実施形態では誘導加熱コイル52の外側だけでなく、その内側に磁気調整部材90を配置してもよい。
【0127】
〔第2の経路〕
一方、図16中の実線で示されているように、遮蔽部材60を誘導加熱コイル52の巻線中心Lの線上に位置付けると、第1の経路から第2の経路に切り替えられた状態となる。この場合、磁気調整部材90の中央のリング状部90Aに入る磁束Φ1が0になるので、磁気調整部材90はその全体で磁束を遮蔽することができる。
【0128】
〔第8実施形態〕
図17は、第8実施形態の定着装置14の構成例を示す部分的な縦断面図である。なお図17中、定着装置14はIHコイルユニット50の部分のみを拡大して示されている。以下、第1実施形態との違いを中心として説明する。
【0129】
第8実施形態では、センタコア58の外側に別の連結コア57が配置されており、この連結コア57は両側のアーチコア54を相互に連結している。また、両側のアーチコア54の一方(図中の右側)は、その一端がセンタコア58の側方で略直角に屈曲されており、この屈曲部が誘導加熱コイル52の内側を通って加熱ベルト48及びヒートローラ46の近傍にまで延びている。
【0130】
このため第8実施形態では、一方のアーチコア54に屈曲部を設けた分、センタコア58の回転中心がヒートローラ46の回転中心に対して一側方(図中の左側方)へオフセット(図中F)された位置にある。またセンタコア58には、その周方向でみた略半分に遮蔽部材60が設けられている。
【0131】
磁気調整部材90は、第7実施形態で示したように誘導加熱コイル52の外側だけでなく、内側にも配置されている。このときアーチコア54の屈曲部は、例えば磁気調整部材90の片側のリング状部90Cを貫通する位置に配置されているものとする。
【0132】
第8実施形態においても、第1実施形態と同様にセンタコア58を回転させることで第1の経路と第2の経路とを切り替えることができる。特に第8実施形態の構造によれば、アーチコア54に屈曲部を設けることによって、第2の経路に切り替えられた場合の磁気結合度を向上することができる。また、アーチコア54の内面には、例えば別の遮蔽部材60が接着されており、このような遮蔽部材61は、アーチコア54からの漏れ磁束を遮蔽することに寄与する。
【0133】
したがって第8実施形態では、第1の経路から第2の経路に切り替えた場合に磁束Φ2,Φ2’を確実に磁気調整部材90の両側のリング状部90B,90Cに向かわせることができるので、そこでの遮蔽効果を確実に発揮させることができる。また、ここでも長手方向でみた磁気調整部材90の配置は、上述した第1例(図6)や第2例(図7)のどちらを適用してもよい。
【0134】
なお、図17では一方のアーチコア54に屈曲部を設けた例を示しているが、両方のアーチコア54に屈曲部を設けてもよい。
【0135】
〔第9実施形態〕
図18は、第9実施形態の定着装置14の構成例を示す縦断面図である。以下、第1実施形態との違いを中心として説明する。
【0136】
第9実施形態では、遮蔽部材60をリング形状とした点が第1実施形態と大きく異なっている。また、磁気調整部材90は第8実施形態と同様に誘導加熱コイル52の外側と内側にそれぞれ設置している点が第1実施形態と異なる。そしてアーチコア54の内面には、別の遮蔽部材61が接着されており、この遮蔽部材61によってアーチコア54からの漏れ磁束を遮蔽している。なお遮蔽部材61は、両側のアーチコア54からセンタコア58の外側(図中の上方)にまで延長されており、この位置で相互に連結されている。
【0137】
〔リング状の遮蔽部材〕
図19は、リング状の遮蔽部材60の構造例を示す斜視図である(センタコア58は図示されていない)。リング状の遮蔽部材60は、全体としてリールのような形状をなしている。すなわち、この構造例では遮蔽部材60が長手方向でみて両端位置に一対のリング部60cを有しており、これらの間を3本の直線部60aで連結した構造である。直線部60aは、リング部60cの周方向に間隔をおいて配置されている。なおリング状の構造例においても、遮蔽部材60はセンタコア58の一端部(最小通紙領域の外側)と他端部にそれぞれ配置されている。
【0138】
このような構造の遮蔽部材60においては、リング形状の部分が周方向に3箇所にわたって形成されている。すなわち、周方向で隣り合う2本の直線部60aとこれらを連結するリング部60cによって1つのリング部分が形成されるため、遮蔽部材60が全体として3つのリング部分を有することになる。
【0139】
〔磁気経路切り替えの原理〕
図20は、リング状の遮蔽部材60による磁気経路切り替えの原理を説明するための概念図である。なお図20中、遮蔽部材60は単なるワイヤモデルとして簡略化されており、いずれも1つのリング部分のみを表しているものとする。
【0140】
図20中(A):リング形状の遮蔽部材60に対し、そのリング面(仮想的な平面)を垂直方向(一方向)に貫通磁界(錯交磁束)が発生すると、それによって遮蔽部材60の周方向に誘導電流が生じる。すると、電磁誘導によって貫通磁界と逆向きの磁界(反磁界)が発生するので、これらが互いに打ち消しあい、磁界をキャンセルする。第9実施形態では、この磁界のキャンセル効果を用いて第2の経路への切り替えを実現する。
【0141】
図20中(B):上段に示されているように、リング形状の遮蔽部材60に対し、そのリング面に双方向に貫通磁界が発生し、このとき錯交磁束の総和が概ね差し引き0(±0)の場合を想定する。この場合、遮蔽部材60にはほとんど誘導電流が発生しない。したがって、遮蔽部材60はほとんど磁界のキャンセル効果を発揮せず、双方向への磁界は遮蔽部材60を素通りする。これは、下段に示されるように遮蔽部材60の内側をUターンする方向に磁界が通過した場合も同様となる。なお第9実施形態では、磁界がどの方向にも貫通しない位置に遮蔽部材60を退避させることで磁界を通過させ、第1の経路への切り替えを実現している。
【0142】
図20中(C):リング形状の遮蔽部材60に対し、そのリング面と略平行に磁界(錯交磁束)が発生した場合である。この場合も同様に、遮蔽部材60には誘導電流がほとんど発生せず、したがって磁界のキャンセル効果も発生しない。なお、この手法は第9実施形態で採用していないが、主に先行技術で用いられている退避の手法である。ただし、誘導加熱コイル52の周囲でこのような磁界環境を得るには遮蔽部材60を大きく変位させる必要があり、それだけ可動スペースが大きくなる。
【0143】
以上のようにリング状の遮蔽部材60をセンタコア58とともに回転させることで、図20中(A)の状態と図20中(B)の状態を変化させることができる。これにより、第9実施形態では第1の経路と第2の経路とを切り替えることができる。
【0144】
〔第1の経路〕
具体的には、図18に示されるように、遮蔽部材60の1つの直線部60aを巻線中心L上で加熱ベルト48及びヒートローラ46に最も近接させた状態では、この直線部60aを挟んで両側に形成される2つのリング部分が磁界に対して図20中(B)の状態になる。この場合、磁束は遮蔽部材60に遮蔽されることなく、アーチコア54からセンタコア58を通ってそのまま加熱ベルト48及びヒートローラ46に到達するので、これにより第1の経路への切り替えが実現されていることがわかる。
【0145】
〔第2の経路〕
図18に示される状態から、センタコア58を一方向に60度回転させると、2つの直線部60aが巻線中心Lを挟んで両側で対をなし、これら直線部60aに囲まれたリング状部が巻線中心Lに対して略垂直に位置する。この場合リング部分は磁界に対して図20中(A)の状態になるので、磁束は遮蔽部材60に遮蔽されることになる。これにより、第9実施形態において第2の経路への切り替えが実現されることになる。なお、磁気調整部材90の機能については第1実施形態と同じである。
【0146】
〔リング状の構造例2〕
図21は、リング状の遮蔽部材60の構造例2を示す斜視図である(センタコア58は図示されていない)。構造例2の遮蔽部材60は、最初の構造例をさらに発展させた形態である。すなわち、構造例2では遮蔽部材60が長手方向でみて一端位置に穴あき形状の円盤60Aを有する他、長手方向に間隔をおいて同形状の円盤60Bを有している。この円盤60Bに続いて、遮蔽部材60は長手方向に間隔をおいて約3分の2円で穴あき形状の円盤60Cを有し、他端位置には約3分の1円で穴あき形状の円盤60Dを有している。
【0147】
これら4枚の円盤60A〜60Dのうち、3枚の円盤60A,60B,60Cは、互いに3本の直線部60aを介して連結されている。そして、残る他端位置の円盤60Dについては、隣接する円盤60Cと2本の直線部60aを介して連結されている。
【0148】
なお、この構造例2を適用する場合、磁気調整部材90の配置は長手方向で分割されたもの(図7)を適用するものとし、円盤60Aと円盤60Bとの間、円盤60Bと円盤60Cとの間、そして円盤60Cと円盤60Dとの間にそれぞれ磁気調整部材90を配置する。
【0149】
また図22は、構造例2の遮蔽部材60をセンタコア58に取り付けた状態を示す図である。図22中(A)はセンタコア58の平面図及び側面図に相当し、図22中(B),(C),(D)はそれぞれ図中のB−B断面、C−C断面、D−D断面に相当する。
【0150】
図22中(A):構造例2の遮蔽部材60もまた、センタコア58の長手方向でみた端部に設けられている。このとき、最小通紙領域から最も離れた円盤60Aは最大サイズP1(例えばA3,A4R)に対応する位置にあり、次の円盤60Bは中サイズP2(例えばB4R)に対応する位置にあり、その次の円盤60Cは中小サイズP3(例えばB4)に対応する位置にある。そして、最小通紙領域近傍の円盤60Dは最小サイズP4(例えばA5R)に対応した位置にある。
【0151】
図22中(B):円盤60A,60Bは、上記のように穴あき形状をなしていることが分かる。
図22中(C):円盤60Cは、上記のように約3分の2円の穴あき形状である。
図22中(D):円盤60Dは、上記のように約3分の1円の穴あき形状である。
【0152】
〔構造例2の動作例〕
次に、構造例2の遮蔽部材60を適用した場合の動作例について説明する。図23から図28は、構造例2の遮蔽部材60を用いた6通りの動作例を順番に示す斜視図である。各図中に太線で示される矢印は、発生する誘導電流又は通過する磁界を示している。以下、それぞれについて説明する。
【0153】
〔全面遮蔽(0°)〕
先ず図23は、遮蔽部材60により全面遮蔽(全面で磁束Φ1=0)を行った場合の動作例を示す斜視図である。各動作例においては、遮蔽部材60に対して上方から下方へ貫通する方向に磁界が発生することを想定している。また以下の説明では、図23に示す全面遮蔽の状態を0°とし、そこからの回転角で遮蔽部材60の変位量を表すものとする。
【0154】
円盤60Dが下方に位置する回転角(0°)に遮蔽部材60を移動させると、遮蔽部材60の長手方向の全面で磁気遮蔽効果(磁束Φ1=0)を発揮させることができる。すなわち、一端位置の円盤60Aと他端位置の円盤60D、そしてこれらを連結する直線部60aによって最大形状のリング部分が形成されるため、その全体で磁気遮蔽(磁束Φ1=0)を行うことができる。
【0155】
この場合、両端部でそれぞれ3つの磁気調整部材90がその全体で磁束を遮蔽するので、最小サイズP4に対応して加熱ベルト48やヒートローラ46の過熱を防止することができる。
【0156】
〔遮蔽なし(60°)〕
図24は、図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材60を60°回転させたときの動作例を示す斜視図である。この場合、直線部60aがコイル52の中心線上に位置するので(図20中(A)の状態)、第1の経路に切り替えられた状態(遮蔽部材60が退避位置)となり、磁気の遮蔽効果が発生しない。
【0157】
〔中小サイズ遮蔽(120°)〕
図25は、図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材60を120°回転させたときの動作例を示す斜視図である。この場合、円盤60Aと円盤60Cとの間に形成される1つのリング部分で遮蔽効果を発揮し、長手方向の一部分だけを第1の経路に切り替えることができる。この動作例では、例えば中小サイズP3に対応して加熱ベルト48やヒートローラ46の過熱を防止することができる。
【0158】
〔遮蔽なし(180°)〕
図26は、図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材60を180°回転させたときの動作例を示す斜視図である。この場合、図24と同様に直線部60aがコイル52の中心線上に位置するので(図20中(A)の状態)、第1の経路に切り替えられた状態(遮蔽部材60が退避位置)となり、磁気の遮蔽効果が発生しない。
【0159】
〔中サイズ遮蔽(240°)〕
図27は、図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材60を240°回転させたときの動作例を示す斜視図である。この場合、円盤60Aと円盤60Bとの間に形成される1つのリング部分で遮蔽効果を発揮し、長手方向の一部分だけを第1の経路に切り替えることができる。この動作例では、例えば中サイズP2に対応して加熱ベルト48やヒートローラ46の過熱を防止することができる。
【0160】
〔遮蔽なし(300°)〕
図28は、図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材60を300°回転させたときの動作例を示す斜視図である。この場合、図24,図26と同様に直線部60aがコイル52の中心線上に位置するので(図20中(A)の状態)、第1の経路に切り替えられた状態(遮蔽部材60が退避位置)となり、磁気の遮蔽効果が発生しない。なお、遮蔽なし(60°),(180°),(300°)の場合、最大サイズP1に対応して加熱ベルト48やヒートローラ46を誘導加熱することができる。
【0161】
本発明は上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施可能である。例えば、センタコア58の断面形状は円筒に限らず、円柱や多角形状であってもよい。また、遮蔽部材60の平面視での形状は三角形状に限らず、台形状であってもよい。
【0162】
また、各実施形態で挙げた磁気調整部材90のリングの形状や大きさ、分割する個数等はいずれも例に過ぎず、特に一実施形態に制約されるものではない。
【0163】
その他、アーチコア54やサイドコア56を含めた各部の具体的な形態は図示のものに限らず、適宜に変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】第1実施形態の定着装置を搭載したプリンタの構成を示す概略図である。
【図2】第1実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図3】センタコア、遮蔽部材、誘導加熱コイル及び磁気調整部材の配置関係を示した分解斜視図である。
【図4】磁気調整部材の構造例を示す斜視図である。
【図5】磁気調整部材の機能を説明するためのモデル図である。
【図6】磁気調整部材の配置を第1例として示した図である。
【図7】磁気調整部材の配置に関する第2例を示した図である。
【図8】センタコアの駆動機構の構成を示す側面図である。
【図9】センタコアの回転に伴う定着装置の動作例を示す図である。
【図10】定着装置による総発熱量と遮蔽効果との関係を示す図である。
【図11】第2実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図12】第3実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図13】第4実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図14】第5実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図15】第6実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図16】第7実施形態の定着装置の構造例を示す縦断面図である。
【図17】第8実施形態の定着装置の構成例を示す部分的な縦断面図である。
【図18】第9実施形態の定着装置の構成例を示す縦断面図である。
【図19】リング状の遮蔽部材の構造例を示す斜視図である。
【図20】リング状の遮蔽部材による磁気経路切り替えの原理を説明するための概念図である。
【図21】リング状の遮蔽部材の構造例2を示す斜視図である
【図22】構造例2の遮蔽部材をセンタコアに取り付けた状態を示す図である。
【図23】遮蔽部材により全面遮蔽(全面で磁束Φ1=0)を行った場合の動作例を示す斜視図である。
【図24】図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材を60°回転させたときの動作例を示す斜視図である。
【図25】図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材を120°回転させたときの動作例を示す斜視図である。
【図26】図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材を180°回転させたときの動作例を示す斜視図である。
【図27】図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材を240°回転させたときの動作例を示す斜視図である。
【図28】図23の状態から時計回り方向に遮蔽部材を300°回転させたときの動作例を示す斜視図である
【符号の説明】
【0165】
1 プリンタ(画像形成装置)
14 定着装置
50 IHコイルユニット
52 誘導加熱コイル
54 アーチコア
56 サイドコア
58 センタコア
60 遮蔽部材
62 サーミスタ
64 駆動機構
66 ステッピングモータ
68 減速機構
90 磁気調整部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成部でトナー画像が転写された用紙を加熱部材と加圧部材との間に挟み込んで搬送し、この搬送過程で、少なくとも前記加熱部材からの熱によりトナー画像を用紙に定着させる定着装置であって、
前記加熱部材の外面に沿って配置され、前記加熱部材を誘導加熱するための磁界を発生させるコイルと、
少なくとも前記コイルを挟んで前記加熱部材の反対側に配置され、前記コイルの周囲で磁路を形成することにより前記コイルが発生させた磁界を前記加熱部材へ向けて導く磁性体コアと、
前記磁性体コアにより導かれて前記加熱部材に向かう磁界の経路を、前記加熱部材の誘導加熱が促進される第1の経路と、前記加熱部材の誘導加熱が抑制される第2の経路とのいずれかに切り替える経路切替手段と、
前記第1の経路及び前記第2の経路の両方を含む磁界経路の切り替わり領域にわたって配置され、前記経路切替手段により前記第1の経路に切り替えられた場合は前記切り替わり領域内で前記磁性体コアから前記加熱部材に向かう磁束の通過を許容する一方、前記第2の経路に切り替えられた場合は磁束を通過させることなく遮蔽する磁気調整部材と
を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の定着装置において、
前記磁気調整部材は、
良導電性の線材料がリング状に形成された複数のリング状部を有し、かつ、これら複数のリング状部が磁束の進行方向に対して交差する方向に隣接した状態で相互に連結されることにより、前記線材料の軸線方向でみた全体が一続きの無端形状に形成されるとともに、
前記経路切替手段により前記第1の経路に切り替えられた場合、複数の前記リング状部内をそれぞれ貫通する磁束により生じる誘導電流が互いに隣接する前記リング状部同士でみて逆向きになる構造を有しており、
前記経路切替手段は、
前記第1の経路から前記第2の経路に切り替えた状態で、複数あるうちの一部の前記リング状部を貫通する磁束の量を減少させることを特徴とする定着装置。
【請求項3】
請求項2に記載の定着装置において、
前記磁気調整部材は、
前記切り替わり領域内で前記第1の経路上に1つの前記リング状部を配置するとともに、前記第2の経路上にその他の隣接する前記リング状部を配置していることを特徴とする定着装置。
【請求項4】
請求項2に記載の定着装置において、
前記磁性体コアは、
前記コイルの巻線中心を挟んで両側にそれぞれ磁路を形成するべく対をなして配置された第1のコアと、
これら対をなす前記第1のコアの間に配置され、前記コイルの巻線中心を通って前記加熱部材に至る磁路を形成する第2のコアとを有し、
前記経路切替手段は、
前記第1の経路に切り替えた場合、前記第2のコアから前記加熱部材まで前記コイルの巻線中心に沿って磁束を通過させる一方、前記第2の経路に切り替えた場合は前記コイルの巻線中心から逸れた両側の位置でそれぞれ前記第1のコアから前記加熱部材へ磁束を通過させるものであり、
前記磁気調整部材は、
前記切り替わり領域内で前記コイルの巻線中心を通る前記第1の経路上に1つの前記リング状部を配置するとともに、その両側の位置で前記第2の経路上に2つの隣接する前記リング状部をそれぞれ配置していることを特徴とする定着装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の定着装置において、
前記加熱部材は、
搬送される用紙の幅方向でみて、その最大通紙領域にわたって前記コイルにより誘導加熱されるものであり、
前記磁気調整部材は、
前記加熱部材の長手方向でみて、前記最大通紙領域に対応した最大幅の用紙よりも小さい幅を有する用紙の通紙領域の外側に配置されていることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
請求項5に記載の定着装置において、
前記磁気調整部材は、
前記加熱部材の長手方向に対し、搬送される複数通りの用紙サイズに合わせて複数に分割して配置されていることを特徴とする定着装置。
【請求項1】
画像形成部でトナー画像が転写された用紙を加熱部材と加圧部材との間に挟み込んで搬送し、この搬送過程で、少なくとも前記加熱部材からの熱によりトナー画像を用紙に定着させる定着装置であって、
前記加熱部材の外面に沿って配置され、前記加熱部材を誘導加熱するための磁界を発生させるコイルと、
少なくとも前記コイルを挟んで前記加熱部材の反対側に配置され、前記コイルの周囲で磁路を形成することにより前記コイルが発生させた磁界を前記加熱部材へ向けて導く磁性体コアと、
前記磁性体コアにより導かれて前記加熱部材に向かう磁界の経路を、前記加熱部材の誘導加熱が促進される第1の経路と、前記加熱部材の誘導加熱が抑制される第2の経路とのいずれかに切り替える経路切替手段と、
前記第1の経路及び前記第2の経路の両方を含む磁界経路の切り替わり領域にわたって配置され、前記経路切替手段により前記第1の経路に切り替えられた場合は前記切り替わり領域内で前記磁性体コアから前記加熱部材に向かう磁束の通過を許容する一方、前記第2の経路に切り替えられた場合は磁束を通過させることなく遮蔽する磁気調整部材と
を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の定着装置において、
前記磁気調整部材は、
良導電性の線材料がリング状に形成された複数のリング状部を有し、かつ、これら複数のリング状部が磁束の進行方向に対して交差する方向に隣接した状態で相互に連結されることにより、前記線材料の軸線方向でみた全体が一続きの無端形状に形成されるとともに、
前記経路切替手段により前記第1の経路に切り替えられた場合、複数の前記リング状部内をそれぞれ貫通する磁束により生じる誘導電流が互いに隣接する前記リング状部同士でみて逆向きになる構造を有しており、
前記経路切替手段は、
前記第1の経路から前記第2の経路に切り替えた状態で、複数あるうちの一部の前記リング状部を貫通する磁束の量を減少させることを特徴とする定着装置。
【請求項3】
請求項2に記載の定着装置において、
前記磁気調整部材は、
前記切り替わり領域内で前記第1の経路上に1つの前記リング状部を配置するとともに、前記第2の経路上にその他の隣接する前記リング状部を配置していることを特徴とする定着装置。
【請求項4】
請求項2に記載の定着装置において、
前記磁性体コアは、
前記コイルの巻線中心を挟んで両側にそれぞれ磁路を形成するべく対をなして配置された第1のコアと、
これら対をなす前記第1のコアの間に配置され、前記コイルの巻線中心を通って前記加熱部材に至る磁路を形成する第2のコアとを有し、
前記経路切替手段は、
前記第1の経路に切り替えた場合、前記第2のコアから前記加熱部材まで前記コイルの巻線中心に沿って磁束を通過させる一方、前記第2の経路に切り替えた場合は前記コイルの巻線中心から逸れた両側の位置でそれぞれ前記第1のコアから前記加熱部材へ磁束を通過させるものであり、
前記磁気調整部材は、
前記切り替わり領域内で前記コイルの巻線中心を通る前記第1の経路上に1つの前記リング状部を配置するとともに、その両側の位置で前記第2の経路上に2つの隣接する前記リング状部をそれぞれ配置していることを特徴とする定着装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の定着装置において、
前記加熱部材は、
搬送される用紙の幅方向でみて、その最大通紙領域にわたって前記コイルにより誘導加熱されるものであり、
前記磁気調整部材は、
前記加熱部材の長手方向でみて、前記最大通紙領域に対応した最大幅の用紙よりも小さい幅を有する用紙の通紙領域の外側に配置されていることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
請求項5に記載の定着装置において、
前記磁気調整部材は、
前記加熱部材の長手方向に対し、搬送される複数通りの用紙サイズに合わせて複数に分割して配置されていることを特徴とする定着装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2010−107560(P2010−107560A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276677(P2008−276677)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】
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