説明

実体顕微鏡

【課題】本発明は、微弱な蛍光をコントラストよく観察することができる実体顕微鏡を提供する。
【解決手段】ズームレンズ群5、6を有する2つの観察光路1、2のうち一方の観察光路1にダイクロイックミラー11による光路分割により形成される照明光学系32を有する照明光路12を設け、この照明光路12の光源14からの励起光により標本4を励起し、この励起された標木4の蛍光像のうち、吸収フィルタ16を通る所定波長域のもの観察するもので、ズームレンズ群5の倍率変化操作と照明光学系32の焦点距離の可変操作を連動して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光を発する標本の観察に用いられる実体顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、標本の蛍光観察は、細胞や組織内の特定部位を蛍光物質で染色し、この蛍光物質の染色により蛍光を発する部位を顕微鏡を用いて観察するようにしている。この場合、標本より発せられる蛍光は、極めて微弱で細胞レベルでの観察であるため、観察対象の明るさなどの関係から、実体顕微鏡での観察は不可能とされていた。
【0003】
わずかに、このような実体顕微鏡を用いて蛍光観察を行う例として、特許文献1に開示されるように、手術の際の患部を特定するためにレーザを照射し、腫瘍細胞などが発する自家蛍光を観察するものがある。
【0004】
一方、このような実体顕微鏡には、特許文献2に開示されるように、2つの観察光軸にそれぞれ明るさ絞りを持っていて、これら明るさ絞りは、観察光学系の瞳位置に配置されるとともに、左右連動して開閉され、観察像の焦点深度の調節および明るさ調節を可能にしたものもある。そして、このような2つの観察光軸を有して蛍光観察を行う実体顕微鏡観察では、標本としてショウジョウバエのような厚みのあるものが、そのまま用いられることがあり、このような厚みを有する標本の場合、焦点深度の深い像が要求されることがある。
【特許文献1】特開平6-63164号公報
【特許文献2】特公平4-3294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に開示されるものは、強力なレーザ光をダイクロイックミラーで患部に照射し、腫瘍の比較的大まかな位置を特定するためのもので、光学部材や目的以外の物質の自家蛍光を除去することができないため、微小かつ微弱な蛍光をコントラストよく観察することができない。また、照明光学系は、利用効率などを考慮することなく高出力のレーザを使用して観察部位の明るさを確保するようにしているので、価格的にも高価なものになってしまう。
【0006】
ところで、最近になってオワンクラゲから発見された、光る蛋白質であるGFP(Green Fluorescent Protein)が注目されている。かかるGFPは、通常の蛍光物質と同様に励起光を照射すると、グリーンの蛍光を発し、この蛍光は、非常に明るく、蛍光特有の退色を伴わないもので、生きた生物内でGFPを発現させて観察することの可能性が検討されている。
【0007】
一方、特許文献2に開示されるものは、光路の明るさを絞り込むことで、焦点深度の深い像を得られることになるが、明るさ絞りを絞り込むと、これと同時に、像の明るさも減少してしまう。このため、同軸落射蛍光観察により焦点深度の深い写真撮影を行おうとして、明るさ絞りを絞ると、照明光も同時に絞ってしまうため、蛍光像が非常に暗くなって露光時間が長くなってしまい、フィルムの相反則不軌の影響やバックグラウンドのノイズの影響を受けやすくなって、よい写真が撮れなくなり、場合によっては、明るさ不足で写真撮影などの記録が不可能になるという不具合が生じる。
【0008】
そこで、鏡筒などに絞りを配置して照明光を絞り込むことを避けるようにした実体顕微鏡が考えられているが、ズームレンズなどを持った観察光路の瞳位置は、ズームレンズ群の中にあるのが一般的であり、他の位置に絞りを配置すると、本来の瞳位置付近に配置されていないため一定以上絞り込むと、ケラレを生じ、視野周辺が暗くなったり、観察および写真撮影などの記録に不都合が生じる。また、撮影光路でレンズにより像をリレーし、瞳位置を作り、絞りを置くことも考えられるが、リレーが不必要な場合でも必ずリレーのためのレンズが必要になるばかりか、新たな絞りが必要になるので、部品点数が増え、構成も複雑になり、高価になってしまう。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなさ判たもので、微弱な蛍光をコントラストよく観察することができる実体顕微鏡を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、観察光路の明るさを確保したまま、焦点深度の深い観察像の観察記録を行うことができる実体顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、標本の蛍光観察像が導かれる第1及び第2の観察光路と、前記第1及び第2の観察光路に設けられたズームレンズ群と、前記第1の観察光路を分割する光路分割手段と、この光路分割手段による光路分割により形成され前記光路分割手段を介して前記標本を励起する光源を有する照明光路と、前記照明光路に設けられた照明光学系と、前記第1及び第2の観察光路に配置され、前記光源より励起された標本の所定波長域の蛍光観察像を透過する第1及び第2のフィルタ手段と、を備え、前記ズームレンズ群の倍率変化操作と前記照明光学系の焦点距離の可変操作を連動して行うことを特徴としている。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載において、前記ズームレンズ群は、顕微鏡本体内に保持されてズームレンズ群の移動機構に連結された軸部と、前記軸部に固定された第1のギヤと、前記第1のギヤ固定されたノブと、を更に有し、前記照明光学系は、前記照明光学系の光軸方向に移動可能に設けられたレンズ及びその第1のレンズ枠と、第1のレンズ枠に設けられたガイドピンと、第1のレンズ枠を内部嵌合部に移動可能に設けた第2のレンズ枠と、前記第2のレンズ枠に設けた長溝ガイド穴と、前記第2のレンズ枠の外周部に嵌合して回転可能なカムと、カムに固定された第2のギヤと、を更に有し、前記第1のギヤと第2のギヤが連結されることを特徴としている。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載において、前記第1のギヤと第2のギヤの間に第3のギヤを更に有することを特徴としている。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項2記載において、前記照明光学系は、前記顕微鏡本体に固定された前記レンズ及びその第2のレンズ枠を更に有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
木発明によれば、光源により励起された標本の蛍光の所定波長域以外の、例えば、蛍光を励起する照明光による光学部材などの自家蛍光を除去でき、微小かつ微弱な蛍光もコントラストよく観察することができる。
【0016】
また、蛍光を励起する照明光による光学部材などの自家蛍光の影響をまったく受けない他の観察光路に撮影光路が設けられるので、この撮影光路を用いて写真撮影などを行うことで、良質の写真記録を実現できる。
【0017】
さらに、照明光路を有する観察光路の絞り手段を開放したままで、他方の観察光路の絞り手段を必要なだけ絞り込むことができるので、標本への照明の明るさに何等影響を与えることなく、焦点深度の深い良質な観察像が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に従い説明する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明が適用される実体顕微鏡の概略構成を示すもので、ここでは、実体顕微鏡の2つの観察光路1、2に配置された光学系のみを示している。
【0020】
図において、3は観察光路1、2に共通の対物レンズで、この対物レンズ3より取り込んだ標本4の観察像を、それぞれ観察光路1、2に導くようにしている。これら2つの観察光路1、2は、図示しないノブによりズーミングを行うズームレンズ群5、6、結像レンズ7、8および接眼レンズ9、10を各別に有するもので、接眼レンズ9、10により標本4面を実体観察可能にしている。この場合、ズームレンズ群5、6中の観察光路瞳位置またはその近傍に明るさ絞り51、61を配置している。
【0021】
これら明るさ絞り51、61は、図2に示すように操作桿511(611)先端に設けられた絞り環512(612)に明るさ絞り本体513(613)を有したもので、操作桿511(611)の図示矢印方向の操作により絞り環512(612)を所定角度回動させることにより、明るさ絞り本体513(613)に所定の開口状態を得られるようにしている。
【0022】
観察光路1のズームレンズ群5と結像レンズ7の間にダイクロイックミラー11を配置している。このダイクロイックミラー11は、一定の波長以下の光を反射し、それ以上の波長の光を透過するもので、このダイクロイックミラー11により観察光路1より分割された光路を照明光路12に形成している。
【0023】
この照明光路12は、特定波長のみを選択可能なバンドパスフィルタで構成される励起フィルタ13、例えば、水銀ランプからなる光源14、この光源14より発せられた光を励起フィルタ13に導くための照明光学系15を有している。
【0024】
そして、観察光路1のダイクロイックミラー11と結像レンズ7との間および観察光路2のズームレンズ6と結像レンズ8との間には、それぞれ一定波長以上の光のみを透過するロングパスフィルタで構成される吸収フィルタ16、17を配置している。
【0025】
この場合、標本4は、GFPを発現させるもので、490nm付近の波長域の照明光により励起され、510nm付近に強度のピークを有する蛍光を発するものとする。これにより照明光路12の励起フィルタ13は、図3(a)に示すようにGFPの発現した標本4を励起するために必要な490nm付近の波長域のみを選択的に透過するような特性のバンドパスフィルタにより構成し、吸収フィルタ16、17は、図3(b)に示すように標本4のGFPが発する510nm付近に強度のピークを有する蛍光を透過する505nm以上の波長光を透過するような特性のロングパスフィルタにより構成し、ダイクロイックミラー11は、図3(c)に示すように標本4の励起に必要な490nm付近の波長域の照明光を反射するとともに、標本4のGFPが発する、励起光より波長の長い510nm付近の蛍光を透過するような特性を有している。
【0026】
次に、以上のように構成した実施の形態の動作を説明する。
【0027】
いま、光源14より照明光が発せられると、照明光学系15を介して励起フィルタ13に導かれる。すると、励起フィルタ13により標本4を励起するために必要な490nm付近の波長域のみの照明光が透過され、ダイクロイックミラー11に導かれる。ダイクロイックミラー11では、490nm付近の波長域の照明光は反射され、ズームレンズ群5(明るさ絞り51)、対物レンズ3を介して標本4面に照射される。これにより、標本4のGFPが490nm付近の波長域の照明光により励起され、励起光より波長の長い510nm付近に強度のピークを有する蛍光が発せられる。
【0028】
そして、標本4より発せられた蛍光は、対物レンズ3により集光され、標本4の観察像として、それぞれ観察光路1、2に導かれる。これにより、観察光路1に導かれた蛍光は、ズームレンズ群5(明るさ絞り51)を通ってダイクロイックミラー11に導かれ、ここを透過され、さらに、吸収フィルタ16により510nm付近に強度のピークを有する蛍光は透過されるとともに、結像レンズ7で結像され、接眼レンズ9により観察される。一方、観察光路2に導かれた蛍光も、ズームレンズ群6(明るさ絞り61)を通って吸収フィルタ17に導かれ、ここで510nm付近に強度のピークを有する蛍光は透過されるとともに、結像レンズ8で結像され、接眼レンズ10により観察される。
【0029】
ここで、明るさ絞り51、61は、通常、開放状態で使用されるが、焦点深度の深い画像を観察したい場合は、観察光路2上の明るさ絞り61を必要な量絞り込むことによって、接眼レンズ10を介して得ちれる像は、焦点深度の深い観察像として観察される。この場合、観察光路1の明るさ絞り51は、開放のままにしておくことにより、光源12から標本4への照明光の明るさは、何等影響を受けることがない。
【0030】
従って、このようにすれば、実体顕微鏡の特徴である2つの観察光路1、2のうち一方の観察光路1にダイクロイックミラー11による光路分割により形成される照明光路12を設け、この照明光路12の光源14からの励起光により標本4を励起し、この励起された標本4の蛍光像のうち、吸収フィルタ16を通る所定波長域のものを観察するようにしたので、励起光の散乱や光学部材などから発生する自家蛍光の影響を除去できるようにでき、微小かつ微弱な蛍光をコントラストよく観察することができる。
【0031】
なお、上述した第1の実施の形態では、吸収フィルタ16、17に505nm以上の光を透過するロングパスフィルタを用いたが、505nm付近のみを透過するようなバンドパスフィルタに置き換えれば、GFPの発する蛍光以外をほとんど除去できるため、さらに蛍光を際立てることができる。また、上述では、GFPを対象にフィルタの波長域を限定して説明したが、他の蛍光試薬などで染色された標本および自家蛍光を発する標本であっても、適当なフィルタを選択することで、同様な作用効果を期待することができる。さらに、ズームレンズ5、6とともに設けられた明るさ絞り51、61は、省略することができる。
【0032】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施の形態の概略構成を示すもので、図1と同一部分には、同符号を付している。
【0033】
この場合、観察光路2の吸収フィルタ17と結像レンズ8との間に、この観察光路2に対して挿脱可能にビームスプリッタ18を挿入し、このビームスプリッタ18により分割された光路を撮影光路19に形成している。この撮影光路19には、リレーレンズ20、撮影光路19を偏向させるための全反射ミラー21、撮像面22に像を形成させるための結像レンズ23を配置している。
【0034】
このようにしても、標本4より発せられた蛍光は、対物レンズ3により集光され、標本4の観察像として、それぞれ観察光路1、2に導かれるが、このうち、観察光路2に導かれた蛍光は、ズームレンズ群6(明るさ絞り61)を通って吸収フィルタ17に導かれ、ここで510nm付近に強度のピークを有する蛍光が透過され、ビームスプリッタ18に導かれる。そして、このビームスプリッタ18により観察光路2と撮影光路19とに一定の比率で分割され、このうちの撮影光路19に導かれた光は、リレーレンズ20、全反射ミラー21を介して結像レンズ23により撮像面22に結像される。
【0035】
これにより、撮像面22にフィルムやCCDなどの撮像素子を配置すれば、標本4の蛍光像が撮影記録される。この場合、明るさ絞り51、61は、通常、開放状態で使用されるが、写真撮影などの記録時に、焦点深度の深い像を必要とする場合は、観察光路2上の明るさ絞り61を必要な量だけ絞り込むことによって、ビームスプリッタ18により観察光路2より分割された撮影光路19での撮影像は、焦点深度の深い像として記録される。この場合、観察光路1の明るさ絞り51は、開放のままにしているので、光源12から標本4への照明光の明るさは、何等影響を受けることがない。
【0036】
つまり、写真撮影などの記録時に焦点深度の深い像を得るためには、観察光路2上の明るさ絞り61のみを開閉し、照明光路に使用している明るさ絞り51を開放のままで使用できるため、標本4に導かれる照明光が損失することがなくなり、これにより、明るさを確保するのに、十分な照明光を標本4に照射し.観察像の蛍光強度を確保したまま、焦点深度を深くすることが可能となり、露出時間の延長を最小限に抑えることができ、フィルムの特性やバックグランドの影響を受けずらく、良好な写真撮影を行うことができる。
【0037】
一方、蛍光像の撮影記録が必要でなければ、ビームスプリッタ18を観察光路2から取り除けば、第1の実施の形態で述べたと同様にして接眼レンズ10での100%光量による観察が可能となる。
【0038】
また、観察光路1については、励起フィルタ13を通してダイクロイックミラー11で反射された照明光により、ズームレンズ5と対物レンズ3の光路上に微弱な自家蛍光が発する。そして、このような自家蛍光を発すると、このうちの吸収フィルタ16を透過する波長の光が接眼レンズ9まで導かれ、標本4の蛍光像のコントラストを低下させることがある。このコントラストの低下の度合は一様でないが、写真などの記録に対しては、致命的になる場合がある。ところが、撮影光路19を有する観察光路2については、上述の自家蛍光による影響を全く受けないため、コントラストの低下を招くことがない。つまり、実体顕微鏡の特徴である2つの観察光路1、2のうち、励起照明に利用する光路1を避け、もう一方の観察光路2に撮影光路19を設けることにより、自家蛍光の影響を全く受けないようになり、コントラストの高い蛍光像を記録することができる。
【0039】
なお、上述した第2の実施の形態では、ビームスプリッタ18は、撮影光路19に対して一定の比率で分割するようにしたが、この比率は任意に設定することができ、さらに、場合によっては、撮影光路19側に100%反射させるような全反射プリズムを用いることもできる。
【0040】
(第3の実施の形態)
図5は、木発明の第3の実施の形態の概略構成を示すもので、図1と同一部分には、同符号を付している。
【0041】
この場合、観察光路1のダイクロイックミラー11および吸収フィルタ16、照明光路12の励起フィルタ13、観察光路2の吸収フィルタ17をそれぞれスライド部材31に一体に設けている。このスライド部材31は、観察光路1、2の光軸と直交する方向、つまり光軸に対して垂直方向(前後方向)に移動可能になっていて、ダイクロイックミラー11および吸収フィルタ16を観察光路1に、励起フィルタ13を照明光路12に、吸収フィルタ17を観察光路2にそれぞれ同時に挿脱できるようになっている。
【0042】
このようにすれば、標本4を蛍光以外の観察法、例えば全体像を見たいような場合は、図示しないファイバ照明や蛍光灯などの外部照明により照明を行うとともに、スライド部材31を光路より取り外すことにより、ダイクロイックミラー11および吸収フィルタ16、照明光路12の励起フィルタ13、観察光路2の吸収フィルタ17を取り外すことができ、フィルタのない全体像観察を行うことができる。
【0043】
これにより、第1の実施の形態で述べた効果に加えて、吸収フィルタ16、17、ダイクロイックミラー11が、それぞれの観察光路1、2に配置されたままでは、色の付いた観察になるばかりか、透過率も下がって観察像が暗くなることがあったが、スライド部材31を光路より取り外す一つの操作のみで、簡単に明視野観察に切換えることができる。
【0044】
また、スライド部材31の切換え方向を、光軸に対して垂直方向(前後方向)にしているので、光軸に対して横方向移動で、光軸を避けるため移動量を大きくしなければならないものと比べ、スライド部材31の移動量を最小限に抑えることができ、スペース的な制約を排除できる。これにより、スライド部材31の切換えを挿脱の2段だけでなく、3段以上にすることも簡単である。
【0045】
さらに、標本4がGFP以外の蛍光色素で染色されている場合や2種類の蛍光色素で染色されている場合には、スライド部材31の複数段の切換え位置のそれぞれに各蛍光色素に適応した、異なる特性のダイクロイックミラー、励起フィルタ、吸収フィルタを配置しておくことで、スライド部材31を切換えるのみで、各蛍光色素をそれぞれコントラストよく観察可能になる。この場合、ダイクロイックミラー、励起フィルタ、吸収フィルタが同時に切替わるので、素早く容易な切換えが可能になる。
【0046】
(第4の実施の形態)
図6は、本発明の第4の実施の形態の概略構成を示すもので、図1と同一部分には、同符号を付している。
【0047】
この場合、照明光路12の光源14と励起フィルタ13との間に配置した照明光学系15に代えて、対物レンズ3およびズームレンズ群5で構成される光学系の瞳位置に光源14を倍率可変に投影可能な照明光学系32を配置している。
【0048】
ところで、近年の顕微鏡では、観察視野の標本面を均一に照明するため、ケーラー照明光学系を採用している。そして、標本4を観察する際に、ズームレンズ群5、6のレンズを移動させて倍率を変えるようにしているが、この時、ズームレンズ群5、6の瞳は、光軸方向の位置と、その大きさが変化し、例えば、倍率が大きく高倍になるにしたがい小さくなる。一方、対物レンズ3より標本4に照射される照明光の明るさは、対物レンズ3の瞳に対し、どの程度の大きさで光源像を投影するかで決定される。そこで、標本4に対し、明るさの明るい照明をするためには、無駄なく、ズームレンズ群5および対物レンズ3の瞳内を充足させることが必要となり、仮に、光源14の大きさが瞳の大きさより大きく投影され、はみ出してしまえば光量が無駄になるだけである。このため、照明光路12のレンズ系が固定である場合は、光源14の投影像の位置と大きさを、ズーム倍率変化に伴う瞳の光軸方向の位置と大きさの変化のいずれかの位置に予め設定しておく必要があり、この関係で、全ズーム倍率で最適な充足を行うことは不可能である。
【0049】
そこで、この第4の実施の形態では、照明光路12中に照明光学系32を配置し、ズームレンズ群5の倍率変化に伴う瞳位置と大きさ変化に合わせて、照明光学系32内のレンズの焦点距離を可変可能とすることで、光源14の投影像の光軸方向の位置と大きさを変えて、瞳と同じ大きさに投影するようにしている。この際、ズームレンズ群5および対物レンズ3の瞳に入射する光束のNAは、各倍率での観察視野全体を照明可能な値にしている。
【0050】
これにより、一般に、実体顕微鏡では、光学顕微鏡に比べ、対物レンズのNAが小さく暗いため、特に、蛍光観察の場合は、明るい照明を必要とするが、このような場合にも、ズームレンズ群5のズーム倍率に合わせて、どの倍率でも常に瞳を充足させた明るく、ムラのない最適な照明を実現することができる。
【0051】
(第5の実施の形態)
図7(a)(b)は、第4の実施の形態で述べた照明光学系32の具体的構成を示すもので、図6と同一部分には、同符号を付している。
【0052】
この場合、照明光学系32は、構成要素のレンズ32a、32b、32cを有し、これらレンズ32a、32b、32cをそれぞれレンズ枠33a、33b、34に固定している。このうち、レンズ枠34は、顕微鏡本体30に固定され、レンズ枠33a、33bは、レンズ枠34に固定した枠35の内部嵌合部を光軸36方向に移動可能にしている。また、レンズ枠33a、33bには、それぞれガイドピン37a、37bを設けており、このガイドピン37a、37bを枠35に形成した長溝ガイド穴38に沿って案内されるとともに、枠35の外周部に嵌合して回転可能なカム39にも案内されるようになっている。カム39には、図示しない2本のカム溝が形成してあり、それぞれガイドピン37a、37bを案内している。
【0053】
カム39には、ギヤ40がビス41により固定され、一体に回転するようになっている。ギヤ40には、他のギヤ42が噛み合っており、この他のギヤ42は、図示しない固定法で顕微鏡本体30に固定された軸43を中心に回転するようになっている。また、この他のギヤ42には、顕微鏡本体30に回転可能に保持されたギヤ44が噛み合っている。このギヤ44の先端には、ノブ45が固定され、このノブ45による回転操作を可能にしている。また、ギヤ44の軸部46には、上述したズームレンズ群5、6の図示しない移動機構が連結され、このノブ45によりギヤ44を介して軸部46を回転することで、これに連動してズームレンズ群5、6がズーム変倍するようになっている。
【0054】
このような構成において、ノブ45を回転操作すると、ギヤ44が回転し、この回転が軸部46を介してズームレンズ群5、6の図示しない移動機構に伝えられ、ズーム変倍が行われる。同時に、このギヤ44の回転は、ギヤ42の回転を介してギヤ40に伝えられる。そして、このギヤ40が回転されると、カム39が回転され、このカム39の2本のカム溝と枠35の長溝ガイド穴38によりガイドピン37a、37bが案内され、レンズ枠33a、33bを光軸36方向に移動される。この場合、カム39の2本のカム溝は、第4の実施の形態で述べたズーム倍率の変化による瞳の位置と大きさの変化に合わせて、光源14の投影倍率と位置が最適になるように設定されており、レンズ32a、32bは、図7(a)に示すズーム低倍状態から、同図(b)に示すズーム高倍状態まで、移動されることになる。
【0055】
このようにすれば、第4の実施の形態で述べた効果がズーム変倍を行うと同時に連動して得られることになり、また、観察者は、照明を気にすることなく変倍を行っても、常に最適な蛍光照明を行うことができる。
【0056】
(第6の実施の形態)
図8は、本発明の第6の実施の形態の概略構成を示すもので、図1と同一部分には、同符号を付している。
【0057】
この場合、光源14を分離して、この光源14を光源本休141とコレクタレンズ142により構成し、このような光源14を光ファイバ71を介して顕微鏡に接続している.
このようにすれば、光源本体141からの光は、コレクタレンズ142により集光され、光ファイバ71を介して照明光路12の照明光学系15に入射されるようになるが、こうすると、光源本体141より発する熱が顕微鏡本体側に伝わらないようにできるので、顕微鏡本体側での熱的変形や検鏡者への熱的影響を排除でき、また、光ファイバ71を使用することで、標本4への熱的影響も排除できる。
【0058】
(第7の実施の形態)
図9は、本発明の第7の実施の形態の概略構成を示すもので、図1と同一部分には、同符号を付している。
【0059】
この場合、観察光路1、2に、それぞれダイクロイックミラー11、11’を配置するとともに、光源14、14’、励起フィルタ13、13’、照明光学系15、15’を有する照明光路12、12’を設けるようにしている。
【0060】
このようにすれば、光源14、14’により明るさが2倍になるので、さらに明るく照明された標本4の観察像を得ることができる。
【0061】
(第8の実施の形態)
図10(a)(b)は、本発明の第8の実施の形態の概略構成を示すもので、図2と同一部分には、同符号を付している。つまり、この第8の実施の形態は、第1の実施の形態で述べた明るさ絞り51、61の異なる例を示している。
【0062】
この場合、明るさ絞り51、61は、操作桿511(611)先端に設けられた絞り環512(612)に明るさ絞り本体513(613)を有している。そして、これら操作桿511(611)は、それぞれ連動ピン514(614)を有し、これら連動ピン514(614)を共通の連動操作板500に所定の間隔を介して形成された直線溝500a、500bに沿って移動自在に装着していて、この状態から、連動操作板500を明るさ絞り51、61の配列方向にスライド移動することで、操作桿511(611)を連動させ、絞り環512(612)を所定角度回動させることにより、明るさ絞り本体513(613)に同じ開口状態を得られるようにしている。
【0063】
このように構成した明るさ絞り51、61では、第2の実施の形態で述べた図4において、ビームスプリッタ18を光路から取り外し、両眼による観察を行う場合に、連動操作板500が取り付けられる。そして、この連動操作板500をスライド操作し、連動ピン514(614)を介して操作桿511(611)を同方向に同じ量だけ操作することで、絞り環512(612)を所定角度回動させ、明るさ絞り本体513(613)に同じ開口状態が設定されるようになり、観察光路1、2において、同様な焦点深度および明るさを得ることができる。
【0064】
一方、写真撮影を行う場合は、第2の実施の形態で述べた図4に示すようにビームスプリッタ18を光路中に戻すとともに、明るさ絞り51、61の連動操作板500を取り外すことで、第2の実施の形態で述べたと同様な作用を奏することができる。
【0065】
このようにすれば、両眼での観察時には、左右の明るさ絞り51、61を連動開閉することで、左右同時に絞り効果が得られるので、精度の高い観察を容易に得られるとともに、操作性が向上し、また、写真撮影などの記録時は、第2の実施の形態で述べたと同様な効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施の形態の概略構成を示す図。
【図2】第1の実施の形態に用いられる明るさ絞りの概略構成を示す図。
【図3】第1の実施の形態に用いられるフィルタおよびダイクロイックミラーの特性を示す図。
【図4】本発明の第2の実施の形態の概略構成を示す図。
【図5】本発明の第3の実施の形態の概略構成を示す図。
【図6】本発明の第4の実施の形態の概略構成を示す図。
【図7】本発明の第5の実施の形態に用いられる照明光学系の具体的構成を示す図。
【図8】本発明の第6の実施の形態の概略構成を示す図。
【図9】本発明の第7の実施の形態の概略構成を示す図。
【図10】本発明の第8の実施の形態に用いられる明るさ絞りの概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0067】
1、2…観察光路、3…対物レンズ、4…標本、
5、6…ズームレンズ群、51、61…明るさ絞り、
500…連動操作板、511、611…操作桿、
512、612…絞り環、513、613…明るさ絞り本体、
514、614…連動ピン、7、8…結像レンズ、
9、10…接眼レンズ、11…ダイクロイックミラー、
12…照明光路、13…励起フィルタ、14…光源、
15…照明光学系、16、17…吸収フィルタ、
18…ビームスプリッタ、19…撮影光路、
20…リレーレンズ、21…全反射ミラー、
22…撮像面、23…結像レンズ、31…スライド部材、
32…照明光学系、32a、32b、32c…レンズ、
33a、33b、34…レンズ枠、35…枠、36…光軸、
37a、37b…ガイドピン、38…長溝ガイド穴、
39…カム、40…ギヤ、41…ビス、42…ギヤ、43…軸、
44…ギヤ、45…ノブ、46…軸部、71…光ファイバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本の蛍光観察像が導かれる第1及び第2の観察光路と、
前記第1及び第2の観察光路に設けられたズームレンズ群と、
前記第1の観察光路を分割する光路分割手段と、
この光路分割手段による光路分割により形成され前記光路分割手段を介して前記標本を励起する光源を有する照明光路と、
前記照明光路に設けられた照明光学系と、
前記第1及び第2の観察光路に配置され、前記光源より励起された標本の所定波長域の蛍光観察像を透過する第1及び第2のフィルタ手段と、を備え、
前記ズームレンズ群の倍率変化操作と前記照明光学系の焦点距離の可変操作を連動して行うことを特徴とする実体顕微鏡。
【請求項2】
前記ズームレンズ群は、顕微鏡本体内に保持されてズームレンズ群の移動機構に連結された軸部と、前記軸部に固定された第1のギヤと、前記第1のギヤに固定されたノブと、を更に有し、
前記照明光学系は、前記照明光学系の光軸方向に移動可能に設けられたレンズ及びその第1のレンズ枠と、第1のレンズ枠に設けられたガイドピンと、第1のレンズ枠を内部嵌合部に移動可能に設けた第2のレンズ枠と、前記第2のレンズ枠に設けた長溝ガイド穴と、前記第2のレンズ枠の外周部に嵌合して回転可能なカムと、カムに固定された第2のギヤと、を更に有し、
前記第1のギヤと第2のギヤが連結されることを特徴とする請求項1記載の実体顕微鏡。
【請求項3】
前記第1のギヤと第2のギヤの間に第3のギヤを更に有することを特徴とする請求項2記載の実体顕微鏡。
【請求項4】
前記照明光学系は、前記顕微鏡本体に固定された前記レンズ及びその第2のレンズ枠を更に有することを特徴とする請求項2記載の実体顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−102535(P2008−102535A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288865(P2007−288865)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【分割の表示】特願平10−28454の分割
【原出願日】平成10年2月10日(1998.2.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】