説明

容器入り多気泡食材およびその製造方法

【課題】本発明は、種々の食品の製造過程で添加することにより、当該食品の食感に変化を付与することができる多気泡食材を長期間保存した後においても気泡が消失することなく、十分に維持されている容器入り多気泡食材およびその製造方法を提供することを目的とする
【解決手段】起泡性卵白、糖、酸味料からなり、
(1)起泡性卵白の量が、生卵白換算で多気泡食材の20〜30質量%であること、
(2)多気泡食材のAWが0.82〜0.88であること、
(3)多気泡食材のpHが4.0以下であること、
(4)容器入り多気泡食材が加圧下での低温殺菌が施されていること、
以上の条件を満たすことを特徴とする容器入り多気泡食材およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の食品の製造過程で添加することにより、当該食品の食感に変化を付与することができる多気泡食材に関し、更に詳細には、当該食材を長期間保存した後においても気泡が消失することなく、十分に維持されている容器入り多気泡食材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱殺菌され常温における保存性が良好で、かつ含気組織を保有した容器詰め多孔質デザート食品の製造方法が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1には、砂糖、卵白、及びゲル化剤を混合し泡立てて気泡を含む第1の混合物を調製する工程と、砂糖、ゲル化剤及び水を混合し加熱溶解して第2の混合物を調製する工程と、第1の混合物、第2の混合物、及び香料などの他の原料成分を混合し第3の混合物を調製する工程と、第3の混合物を耐熱性の容器に充填し、密封し、加圧加熱殺菌する工程よりなる容器詰め多孔質デザート食品の製造方法が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、卵白原料及びλ―カラギーナンを混合、泡立てた後、他の原料を加えて得られた卵白起泡物が耐熱性容器に密封されたものを、加熱殺菌処理してなる容器入りスポンジ状食品が記載されている。
【0004】
更に、特許文献3には、通常チルド又は常温の状態で摂食される菓子に起泡を生じさせた卵白を含有させた冷菓が記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、洋菓子において、糖液を煮詰める場合の結晶化を防ぐ方法として、微量の有機酸(クエン酸、酒石酸、クレーム・タータ)やグルコース、または代用に水アメを加えることが記載されている。
【0006】
しかし、前記した特許文献は、いずれもグアーガム、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ゼラチン、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、寒天等のゲル化剤を用いる必要があり、これにより、気泡の維持はできるものの、粘性が高まり起泡し難くなるとともに食感が重くなるという問題があった。また、これらは、いずれも食品、いわゆる喫食状態のものを対象としている。
また、非特許文献1には、単に、糖液を煮詰める場合の注意事項が記載されているにすぎない。
【0007】
【特許文献1】特公昭61−50573号公報
【特許文献2】特許第2680920公報
【特許文献3】特開2000−354456公報
【非特許文献1】Traite de patisserie 洋菓子=基礎と応用 安井寿一著 柴田書店
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、種々の食品の製造過程で添加することにより、当該食品の食感に変化を付与することができる多気泡食材を長期間保存した後においても気泡が消失することなく、十分に維持されている容器入り多気泡食材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、起泡性卵白、糖、酸味料からなり、
(1)起泡性卵白の量が、生卵白換算で多気泡食材の20〜30質量%であること、
(2)多気泡食材のAWが0.82〜0.88であること、
(3)多気泡食材のpHが4.0以下であること、
(4)容器入り多気泡食材が加圧下での低温殺菌が施されていること、
以上の条件を満たすことを特徴とする容器入り多気泡食材である。
また、本発明は、さらに、水飴が添加されていることを特徴とする上記記載の容器入り多気泡食材である。
また、本発明は、糖と水飴の比率が、質量で糖:1に対し水飴:1以下であることを特徴とする上記記載の容器入り多気泡食材である。
また、本発明は、低温殺菌の温度が、65〜95℃であることを特徴とする上記記載の容器入り多気泡食材である。
また、本発明は、起泡性卵白、糖、酸味料をホイップ状になるまで撹拌混合した後、これに糖と水を飴状になるまで煮詰めたものを添加混合して、AWが0.82〜0.88でpHが4.0以下の多気泡食材を得、これを容器に充填密封した後、加圧下で低温殺菌することを特徴とする容器入り多気泡食材の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、本多気泡食材を長期間保存した後においても気泡が消失することなく、十分に維持されている容器入り多気泡食材およびその製造方法を提供することができる。また、本多気泡食材が油脂原料と接触しても気泡が消失することなく、安定している。
更には、本多気泡食材は各種食品の食材として使用することにより、それぞれの食品にいろいろな特徴を付与することができる。例えば、オムレツの場合は、ふんわりとしたボリューム感を付与することができ、スナック菓子の場合は、サクッサクッとした軽い食感になり、氷菓の場合は、スプーンがスムーズに入る等の特徴を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の容器入り多気泡食材は、起泡性卵白、糖、酸味料からなる。そして、(1)起泡性卵白の量が、生卵白換算で多気泡食材の20〜30質量%であること、(2)多気泡食材のAWが0.82〜0.88であること、(3)多気泡食材のpHが4.0以下であること、(4)容器入り多気泡食材が加圧下での低温殺菌が施されていること、を満たすものである。
【0012】
本発明における起泡性卵白は、良好な起泡および泡沫を安定化させることを目的とする。
その使用量は、生卵白の換算で本多気泡食材の20〜30質量%、好ましくは25〜30質量%である。この量が20質量%よりも少なくなると相対的に糖(又は、糖と水飴の併用物)含量が多くなり物性が固くなるという問題が生じる。反対に、その量が30質量%よりも多くなると泡沫が崩壊し、離水するという問題が生じる。
使用し得る起泡性卵白としては、生卵白、卵白粉末、凍結卵白等があり、いずれも使用できるが、風味、取扱いという点から凍結卵白を使用するのが最も好ましい。起泡性卵白に換えて、大豆蛋白や乳蛋白、小麦蛋白等の起泡性蛋白を使用してもよい。
【0013】
本発明における糖は、・増粘・保水による泡沫を安定化すること、Awを調製すること、甘味を調製することを目的とする。その使用量は、57〜65質量%である。好ましくは、57〜61質量%である。この量が57質量%よりも少ないと泡沫が崩壊し、離水するという問題が生じる。この量が65質量%よりも多いと物性が固くなるという問題が生じる。
使用し得る糖としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、スクロース等があるが、スクロース:1に対して、トレハロース:0.3〜1の質量比率で混合して使用するのが、褐変、再結晶化、甘味質という点から好ましい。
【0014】
本発明における酸味料は、多気泡食材のpH調製を目的とする。使用し得る酸味料としては、クエン酸、フィチン酸、グルコン酸等があるが、クエン酸が泡沫の安定性という点で好ましい。使用量は、多気泡食材のpHを4.0以下に調製するための量であれば特に限定されないが、pHが低すぎると酸味が増すため、風味面での問題が生じる。従って、pHの好ましい範囲は、pH3.7〜4.0である。クエン酸を例にすれば、多気泡食材に対して0.5〜0.7質量%である。
【0015】
上記以外に使用し得るものとしては、オレンジ等の果汁やバニラ等の香料やクチナシ等の色素や洋酒等を適宜使用することができる。
【0016】
上記各原料を使用した本発明の多気泡食材の製造方法は以下のとおりである。
まず、起泡性卵白に、糖及び水飴の一部、酸味料、その他の原料を添加し、撹拌してホイップする。
糖及び水飴の添加量は特に限定されないが、後述する糖及び水飴を混合して煮詰めるのに使用する量を考慮して決定すればよいが、起泡性卵白に対して糖及び水飴をトータル190〜325質量%添加する。
撹拌手段は特に限定されるものではなく、角が立つ程度の物性のホイップ状にすることができればよい。角が立つ程度の物性のホイップ状にするのは、均一な気泡を得るという理由のためである。
【0017】
残りの糖及び水飴を水に添加した後、撹拌しながら飴状になるまで煮詰める。加熱条件は特に限定されないが、沸騰点が110〜120℃と例示することができる。煮詰めるに当たっては、焦げが発生しないように撹拌しながら煮詰めることが重要である。焦げが発生すると、得られた飴状物が焦げくさくなり、最終的に得られる多気泡食材にも焦げ臭が残る結果となる。
【0018】
上記によって得られたホイップ状物に、2によって得られた飴状物を添加し、攪拌する。これによって、気泡をより安定化することができる。この場合の飴状物の添加量の目安は、本多気泡食材の45〜65質量%である。飴状物の添加量が少なくなるにつれ、常温保管時の気泡の安定性が悪くなる。逆に、飴状物の添加量が多くなるにつれ、1のホイップ状物に占める糖含量(水飴を含む)が少なくなるため、1のホイップ状物での気泡の安定性が悪くなるという問題が生じる。
【0019】
ホイップ条件は特に限定されないが、20〜30℃の環境下で行うのが気泡の安定性という点から好ましく、ホイップ物が均一になり、つやが出るという状態になるまでホイップ処理する。得られたホイップ物の比重は概ね0.30〜0.43になる。
【0020】
得られたホイップ物を容器に充填するが、使用する容器はホイップ物の気泡を維持させるためには、成形容器であることが好ましく、ホイップ物の気泡を維持できる成形容器であれば、その材質は特に限定されない。
【0021】
ホイップ物を容器に充填・密封した後、保存性のために殺菌する。ホイップ物はAw、pH調製が施されているので、65℃以上の低温殺菌でよい。この低温殺菌に当たっては、加圧下で行うことが重要である。これにより、加熱によりホイップ品内の気泡が膨張し、容器が破裂することを防止することができる。反対に、加圧することなく、常法によって低温殺菌すると、容器内の圧力が上昇して気泡が崩壊したり、容器が破袋する等が発生して、本発明の容器入り多気泡食材が得られなくなってしまう。
【実施例1】
【0022】
凍結起泡性卵白22.6重量部、クエン酸0.5重量部、グラニュー糖3.2重量部、トレハロース3.2重量部、水飴9.7重量部を起泡用ミキサー(ナショナルハンドミキサーMK−H1)で2〜3分撹拌し、ホイップ仕掛品を得た。
一方、グラニュー糖16.2重量部、トレハロース16.2重量部、水飴16.2重量部、水12.1重量部を湯煎し、完全に溶解した後、直火で110℃に達温するまで濃縮し、煮詰品を得た。歩留まりは92%、所要時間は20分であった。
次に、上記ホイップ仕掛品と煮詰品を、前記装置を用いて均一になるまで撹拌し、ホイップ品を得た。これをカップ(容量:144ml、高さ:42mm、開口径:75mm、材質:PP/EVOH/PP)に満注充填した後、カップ開口部にシート状の蓋材を被せ熱シールし、95℃、18分、ゲージ圧0.9kg/cmの条件で加圧加熱殺菌し、常温保存できる容器入り多気泡食材を得た。得られた容器入り多気泡食材は、常温で長時間保存しても気泡が消失することはなかった。
【0023】
(使用例1)
実施例1で得られた多気泡食材60重量部、クルミ(細かく刻んで170℃で5分間焼成したもの)20重量部、アーモンドプードル35重量部を混合撹拌した後、絞り袋に入れ、焼成板上に適量づつ絞り出し、170℃で13分間焼成した。よって得られたアーモンド・クルミマカロンは、サクサクとした軽い食感を有していた。
【0024】
(使用例2)
柔らかくしたバター50重量部に、実施例1で得られた多気泡食材60重量部を添加混合し、さらにレーズン25重量部、薄力粉40重量部を添加混合した後、絞り袋に入れ、焼成板上に適量づつ絞り出し、170℃で13分間焼成した。よって得られたバタークッキーは、サクサクとした軽い食感を有していた。また、柔らかくしたバターに実施例1で得られた多気泡食材を添加混合しても、気泡は残っていた。
【0025】
(使用例3)
室温で柔らかくしたクリームチーズ120重量部をより練り、これにクラニュー糖40重量部を添加混合し、さらに生クリーム100重量部と実施例1で得られた多気泡食材60重量部を添加してよく混合する。これに、予め湯煎で溶解しておいたゼラチン4重量部を添加混合した後、適宜容器に入れて冷蔵庫で冷却する。得られたレアチーズケーキは、フワフワとした多気泡食材の食感を生かしたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の容器入り多気泡食材は長期間保存しても気泡が消失することなく、十分に維持されているので、いつでも必要なときに、各種食品の食材として使用することにより、例えば、オムレツの場合は、ふんわりとしたボリューム感を付与することができ、スナック菓子の場合は、サクッサクッとした軽い食感になり、氷菓の場合は、スプーンがスムーズに入る等の特徴を付与することができる等、それぞれの食品にいろいろな特徴を付与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
起泡性卵白、糖、酸味料からなり、
(1)起泡性卵白の量が、生卵白換算で多気泡食材の20〜30質量%であること、
(2)多気泡食材のAWが0.82〜0.88であること、
(3)多気泡食材のpHが4.0以下であること、
(4)容器入り多気泡食材が加圧下での低温殺菌が施されていること、
以上の条件を満たすことを特徴とする容器入り多気泡食材。
【請求項2】
さらに、水飴が添加されていることを特徴とする請求項1記載の容器入り多気泡食材。
【請求項3】
糖と水飴の比率が、質量で糖:1に対し水飴:1以下であることを特徴とする請求項2記載の容器入り多気泡食材。
【請求項4】
低温殺菌の温度が、65〜95℃であることを特徴とする請求項1記載の容器入り多気泡食材。
【請求項5】
起泡性卵白、糖、酸味料をホイップ状になるまで撹拌混合した後、これに糖と水を飴状になるまで煮詰めたものを添加混合して、AWが0.82〜0.88でpHが4.0以下の多気泡食材を得、これを容器に充填密封した後、加圧下で低温殺菌することを特徴とする容器入り多気泡食材の製造方法。

【公開番号】特開2006−109794(P2006−109794A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302641(P2004−302641)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】